IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人金沢大学の特許一覧

特開2022-115260有機アニオントランスポーターの機能を測定するための検査薬
<>
  • 特開-有機アニオントランスポーターの機能を測定するための検査薬 図1
  • 特開-有機アニオントランスポーターの機能を測定するための検査薬 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022115260
(43)【公開日】2022-08-09
(54)【発明の名称】有機アニオントランスポーターの機能を測定するための検査薬
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/60 20060101AFI20220802BHJP
【FI】
G01N33/60 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021011777
(22)【出願日】2021-01-28
(71)【出願人】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 正和
(72)【発明者】
【氏名】川井 恵一
(72)【発明者】
【氏名】水谷 明日香
(72)【発明者】
【氏名】村中 由佳
【テーマコード(参考)】
2G045
【Fターム(参考)】
2G045CA26
2G045CB03
2G045CB26
2G045DA80
2G045FB08
(57)【要約】      (修正有)
【課題】簡便にOATPの取り込み能を評価できる検査薬を提供する。
【解決手段】放射性核種で標識されたアセトアミノフェン化合物を含有する有機アニオントランスポーターの機能を測定するための検査薬。放射性核種が123-ヨード(123I)、124-ヨード(124I)、125-ヨード(125I)、131-ヨード(131I)、18-フッ素(18F)、76-臭素(76Br)、77-臭素(77Br)又は211-アスタチン(211At)である検査薬。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
次式(I):
【化1】
(式中、Xは放射性核種を表し、Rは水素原子又は炭素数1~5のアルキル基を表す。)
で示される化合物を含有する有機アニオントランスポーターの機能を測定するための検査薬。
【請求項2】
前記式(I)において、Xで表される放射性核種が123-ヨード(123I)、124-ヨード(124I)、125-ヨード(125I)、131-ヨード(131I)、18-フッ素(18F)、76-臭素(76Br)、77-臭素(77Br)又は211-アスタチン(211At)である請求項1記載の検査薬。
【請求項3】
経口投与され、前記放射性核種の膀胱での集積量を測定することによって有機アニオントランスポーターの機能を測定するための請求項1又は2記載の検査薬。
【請求項4】
経口投与された対象者由来の尿試料の放射能を液体シンチレーションカウンター又はγカウンターで測定することによって有機アニオントランスポーターの機能を測定するための請求項1又は2記載の検査薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機アニオントランスポーターの機能を測定するための検査薬に関する。
【背景技術】
【0002】
治療薬を経口投与した場合、小腸腸管から血液内に吸収される。その取り込みを担うトランスポーターが有機アニオントランスポーター(OATP)、有機カチオントランスポーター(OCT)などで、このOATPトランスポーターは特に、複数の臨床的な薬物の取り込みに関係している。例えば、コレステロール低下のため処方されるスタチン系薬物は、OATP1B1の輸送基質となる。このOATPの取り込み能はヒトにおいて多様性があるので、化学療法等を行う場合も、創薬の場合も、事前に評価をしておくことが好ましい。
【0003】
しかしながら、経口薬の消化管吸収量の確認作業は、質量分析器等を用いた血液分析により行われており、患者への負荷が大きく、経口薬の消化管吸収に関与する個々の薬物トランスポーター機能は測定できない。
【0004】
一方、125I-2-ヨードアセトアミノフェン(125I-IAP)等の放射性核種で標識されたアセトアミノフェンは、特許文献1に薬物代謝機能を測定するための検査薬として有用であることが開示されているが、トランスポーターとの関連性についてはこれまで報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-69311号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、簡便にOATPの取り込み能を評価できる検査薬を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、放射性核種で標識されたアセトアミノフェン又はその類縁体を用いることにより、簡便にOATPの取り込み能を評価できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)次式(I):
【化1】
(式中、Xは放射性核種を表し、Rは水素原子又は炭素数1~5のアルキル基を表す。)
で示される化合物を含有する有機アニオントランスポーターの機能を測定するための検査薬。
(2)前記式(I)において、Xで表される放射性核種が123-ヨード(123I)、124-ヨード(124I)、125-ヨード(125I)、131-ヨード(131I)、18-フッ素(18F)、76-臭素(76Br)、77-臭素(77Br)又は211-アスタチン(211At)である前記(1)に記載の検査薬。
(3)経口投与され、前記放射性核種の膀胱での集積量を測定することによって有機アニオントランスポーターの機能を測定するための前記(1)又は(2)に記載の検査薬。
(4)経口投与された対象者由来の尿試料の放射能を液体シンチレーションカウンター又はγカウンターで測定することによって有機アニオントランスポーターの機能を測定するための前記(1)又は(2)に記載の検査薬。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、簡便にOATPの取り込み能を評価できる。本発明の検査薬を用いて、経口薬の投与前に患者個々のトランスポーター機能を測定した上で経口薬の薬剤投与量を各患者で調整できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は正常マウスにおける経口投与時と静脈投与時の血液の重量集積率を示す図である。
図2図2は正常マウス群とOATP阻害群の経口投与時の血液と、高集積を示した主要臓器である膀胱、肝臓及び胆嚢の重量集積率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に用いる前記式(I)で示される化合物は、解熱鎮痛剤アセトアミノフェン(4-(アセチルアミノ)フェノール)の2位を放射性核種で標識したものである。
【0012】
前記式(I)において、Xで表される放射性核種としては、例えばトリチウム(H)、11-炭素(11C)、18-フッ素(18F)、76-臭素(76Br)、77-臭素(77Br)、123-ヨード(123I)、124-ヨード(124I)、125-ヨード(125I)、131-ヨード(131I)及び211-アスタチン(211At)、好ましくは18-フッ素(18F)、76-臭素(76Br)、77-臭素(77Br)、123-ヨード(123I)、124-ヨード(124I)、125-ヨード(125I)、131-ヨード(131I)及び211-アスタチン(211At)等が挙げられる。
【0013】
前記式(I)において、Rで表される炭素数1~5のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基が挙げられる。
【0014】
本発明に用いる前記式(I)で示される化合物は、次式(II):
【化2】
(式中、Rは前記と同義である。)
で示される化合物に放射性核種を導入することにより製造することができる。
【0015】
前記式(II)で示される化合物への放射性核種の導入法としては一般的な方法を用いることができ、例えば、放射性核種が123-ヨード(123I)、124-ヨード(124I)、125-ヨード(125I)又は131-ヨード(131I)である場合は、クロラミンT法を用いることができる。
【0016】
本発明の検査薬の投与経路としては、経口投与が挙げられる。
【0017】
本発明の検査薬の投与形態としては、投与経路に適した剤形であれば、液剤、錠剤、カプセル剤等から適宜選択すればよく、本発明の作用及び効果を損なわない限り、薬学的に許容される担体、又は剤形によって当該技術分野において一般的に使用される添加剤を更に含んでもよい。添加剤として、例えば、着色剤、保存剤、風味剤、香り改善剤、呈味改善剤、甘味剤、又は安定剤、その他薬学的に許容される添加剤を含有することができる。
【0018】
本発明の検査薬の投与量は、投与方法、投与する化合物ならびに患者の年齢、性別及び体重によって、適宜決定すればよい。
【0019】
本発明の検査薬を画像診断薬として、イメージングのために用いる場合は、体内の透過性を必要とするので、放射性核種として123I等の放射線エネルギーの高いものを用いることが好ましいが、本発明の検査薬を経口投与した対象者由来の尿試料を用いて検査する場合は、125I及び123Iのいずれを用いてもよい。
【0020】
画像診断薬として、イメージングのために用いる場合は、経口投与後の対象者の123I等の放射性核種の膀胱での集積量を測定することによって有機アニオントランスポーター(OATP)の機能を測定することができる。
【0021】
対象者由来の尿試料を用いて検査する場合は、例えば、125/123I-IAPを経口投与した後に、10~30分後の間に尿試料を採取して、γカウンターで測定することで、放射能を取得する。健常者とOATP低下患者において、その放射能を比較すると、OATP低下患者の尿試料の放射能は健常者と比較して低下する。その結果、小腸を中心とする消化管のOATP発現量を推測することができる。
【実施例0022】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
【0023】
(実施例1)
I.125I-2-ヨードアセトアミノフェンの合成
【0024】
【化3】
【0025】
クロラミンT法でアセトアミノフェンの125I標識を行った。125I-NaI(1.5MBq)をリン酸緩衝化食塩水(pH7.4)で10μLに希釈し、10mMアセトアミノフェンのエタノール溶液100μL及び4mMクロラミンT水溶液(塩酸でpH5.6に調整したmilliQに溶解)25μLを加えて十分に撹拌し、25℃で30分間反応させた後、ピロ亜硫酸ナトリウムの1/10飽和溶液25μLを加え、反応を停止した。反応液を窒素気流下で濃縮し、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて分離精製した。検出機器には、UV-VIS検出器(SPD-10A,Shimadzu)、RI検出器;ラジオアナライザー(RLC-701,Aloka)を使用し、下記の分析条件で行った。条件を最適化した結果、標識率は80%以上、放射化学的純度は99%以上で125I-2-ヨードアセトアミノフェン(125I-IAP)が得られた。
【0026】
(HPLC分析条件)
カラム 5C18-MS-II(Nacalai tesque)
移動相 20%メタノール:80%50mM KH2PO4(pH4.7), 0-10分
50%メタノール:50%50mM KH2PO4(pH4.7), 10-18分
流速 1.0mL/分
UV 225nm
RI 27keV±5%
【0027】
II.125I-IAPの正常マウス体内分布実験
A)実験方法と材料
125I-IAPを約40kBq/200μLとなるように生理食塩水で希釈し、経口ゾンデ(Fuchigami)を用いて予め6時間絶食しておいたddYマウス(雄、8週齢、日本SLC)に1匹当たり約37kBq/200μLを経口投与法として胃内投与した。投与5分、10分、30分、60分後(n=4)に、イソフルラン(Wako)麻酔下で心臓採血を行い、頸椎脱臼によりマウスを屠殺した。その後、速やかに各臓器(血液、心臓、肺、肝臓、脾臓、膵臓、胆嚢、胃、小腸、大腸、腎臓、膀胱、脳、甲状腺)を摘出し、それぞれの重量と放射能を電子天秤(Shimadzu)及びオートウェルガンマカウンタで測定した。
【0028】
また、125I-IAPを約20kBq/200μLとなるように生理食塩水で希釈し、マウスの尾静脈から静脈投与した。投与5分、15分、30分、60分後に、心臓採血を行い、重量と放射能を測定した。
【0029】
B)結果と考察
経口投与時と静脈投与時の血液の重量集積率を図1に示した。経口投与時の血液の時間放射能曲線は、静脈投与時の結果と同様に、最大放射能を示した後に放射能の低下が確認できた。したがって、125I-IAPは経口投与後、小腸から血液内に吸収されたと考えられた。
【0030】
III.125I-IAPのOATP阻害マウス体内分布実験
A)実験方法と材料
予め6時間絶食しておいたマウスにOATP特異的阻害薬bromosulfalein(Sigma-Aldrich)を経口ゾンデにより経口投与法として胃内投与した。125I-IAPを約20kBq/100μLとなるように生理食塩水で希釈し、bromosulfalein投与(1mM/100μL)5分後に、125I-IAPを経口ゾンデによりマウスに1匹当たり20kBq/100μLを経口投与した。125I-IAP投与5分、10分、30分、60分後(n=4)に、イソフルラン麻酔下で心臓採血を行い、頸椎脱臼によりマウスを屠殺した。その後、速やかに各臓器を摘出し、それぞれの重量と放射能を電子天秤及びオートウェルガンマカウンタで測定した。
【0031】
B)結果と考察
正常マウス群とOATP阻害群の経口投与時の血液と、高集積を示した主要臓器である膀胱、肝臓及び胆嚢の重量集積率を図2に示した。OATP阻害群では血液集積率が、正常群に比べて125I-IAP投与後5分で有意に低下したため、OATP阻害薬の影響により、125I-IAPの消化管吸収機能が一時的に阻害され、小腸から血液内への取り込みが減少したと考えられた。したがって、125I-IAPはOATPを介して血液内に吸収されていることが確認された。また、膀胱では、OATP阻害群が正常群に比べて125I-IAPの集積率の遅延が見られた。特に、125I-IAP投与後10分と30分において有意な集積率低下が確認された。一方、肝臓と胆嚢ではともにOATP阻害群は正常群と比べて、集積率の低下傾向が確認されたが、有意差は見られなかった。膀胱、肝臓、胆嚢以外の臓器において、正常群とOATP阻害群で集積率がほとんど変わらなかった。したがって、膀胱の集積率を測定することで、小腸を中心とする消化管のOATP機能を推測できる可能性が示された。
【0032】
IV.結語
125I-IAPは小腸刷子縁膜上のOATPを介して血液内に吸収されることが確認された。更に、小腸に発現するOATPの機能を阻害することで、125I-IAPの膀胱集積が有意に低下した。
【0033】
以上の実施例では、123Iよりも放射線半減期が長い125Iを放射性核種として用いたが、画像診断薬として、イメージングのためには放射線エネルギーの高い123Iが用いられている。
【0034】
したがって、123I-IAPイメージングにおける膀胱の集積を測定することで、OATP発現量を反映した消化管吸収機能を推測できる可能性が示された。
図1
図2