(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022115298
(43)【公開日】2022-08-09
(54)【発明の名称】アクチュエータデバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
B81C 1/00 20060101AFI20220802BHJP
G02B 26/10 20060101ALI20220802BHJP
G02B 26/08 20060101ALI20220802BHJP
B81B 3/00 20060101ALI20220802BHJP
B06B 1/04 20060101ALI20220802BHJP
【FI】
B81C1/00
G02B26/10 104Z
G02B26/08 E
B81B3/00
B06B1/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021011832
(22)【出願日】2021-01-28
(71)【出願人】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100177910
【弁理士】
【氏名又は名称】木津 正晴
(72)【発明者】
【氏名】飯間 敦矢
(72)【発明者】
【氏名】藁科 禎久
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 大幾
(72)【発明者】
【氏名】榊原 靖之
【テーマコード(参考)】
2H045
2H141
3C081
5D107
【Fターム(参考)】
2H045AB08
2H045AB13
2H045AB38
2H045AB73
2H141MA12
2H141MB24
2H141MC05
2H141MD13
2H141MD16
2H141MD20
2H141MD24
2H141MF02
2H141MG06
2H141MZ03
2H141MZ06
2H141MZ16
2H141MZ19
2H141MZ26
2H141MZ30
3C081AA01
3C081BA28
3C081BA30
3C081BA44
3C081BA47
3C081BA54
3C081BA55
3C081CA44
3C081DA04
3C081DA24
3C081EA08
3C081EA09
5D107CC09
5D107DE10
5D107FF10
(57)【要約】
【課題】安定的な品質を有するアクチュエータデバイスを得ることができるアクチュエータデバイスの製造方法を提供する。
【解決手段】アクチュエータデバイスの製造方法は、支持部と、可動部と、可動部が所定の軸線周りに揺動可能となるように可動部を支持部に連結する連結部と、可動部が軸線周りに揺動した際に応力が作用するように配置された金属部材と、を備えるアクチュエータデバイスを用意する用意工程と、可動部を所定時間だけ軸線周りに揺動させる揺動工程と、可動部の軸線周りの振動における粘性抵抗に関するパラメータを取得する取得工程と、取得工程で取得されたパラメータと揺動工程の開始時点のパラメータに対応する基準値との間の差が、粘性抵抗が低下する方向において所定値以上である場合、アクチュエータデバイスを合格と判定し、差が所定値よりも小さい場合、アクチュエータデバイスを不合格と判定する判定工程と、をこの順に含む。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持部と、可動部と、前記可動部が所定の軸線周りに揺動可能となるように前記可動部を前記支持部に連結する連結部と、前記可動部が前記軸線周りに揺動した際に応力が作用するように配置された金属部材と、を備えるアクチュエータデバイスを用意する用意工程と、
前記可動部を所定時間だけ前記軸線周りに揺動させる揺動工程と、
前記可動部の前記軸線周りの振動における粘性抵抗に関するパラメータを取得する取得工程と、
前記取得工程で取得された前記パラメータと前記揺動工程の開始時点の前記パラメータに対応する基準値との間の差が、前記粘性抵抗が低下する方向において所定値以上である場合、前記アクチュエータデバイスを合格と判定し、前記差が前記所定値よりも小さい場合、前記アクチュエータデバイスを不合格と判定する判定工程と、をこの順に含む、アクチュエータデバイスの製造方法。
【請求項2】
前記パラメータは、Q値、共振周波数、所定の振れ角を得るための駆動電流値、又は所定の駆動電流が印加された場合の振れ角に関する、請求項1に記載のアクチュエータデバイスの製造方法。
【請求項3】
前記揺動工程では、前記可動部及び前記連結部の各々の温度が前記支持部の温度よりも高い状態で前記可動部を揺動させる、請求項1又は2に記載のアクチュエータデバイスの製造方法。
【請求項4】
前記揺動工程では、一定の温度下において前記可動部を揺動させる、請求項1~3のいずれか一項に記載のアクチュエータデバイスの製造方法。
【請求項5】
前記揺動工程では、一定の圧力下において前記可動部を揺動させる、請求項1~4のいずれか一項に記載のアクチュエータデバイスの製造方法。
【請求項6】
前記用意工程では、前記アクチュエータデバイスを複数用意し、
前記複数のアクチュエータデバイスの各々について、前記揺動工程、前記取得工程及び前記判定工程を実施する、請求項1~5のいずれか一項に記載のアクチュエータデバイスの製造方法。
【請求項7】
前記用意工程で用意される前記アクチュエータデバイスは、前記可動部を揺動させるための駆動力を発生させるコイルを備えており、前記コイルは、前記金属部材を構成している、請求項1~6のいずれか一項に記載のアクチュエータデバイスの製造方法。
【請求項8】
前記コイルは、溝内に埋め込まれている、請求項7に記載のアクチュエータデバイスの製造方法。
【請求項9】
前記用意工程で用意される前記アクチュエータデバイスは、前記可動部を揺動させるための駆動力を発生させる駆動素子と、前記駆動素子に電気的に接続された配線と、を備えており、前記配線は、前記金属部材を構成している、請求項1~8のいずれか一項に記載のアクチュエータデバイスの製造方法。
【請求項10】
前記配線は、溝内に埋め込まれている、請求項9に記載のアクチュエータデバイスの製造方法。
【請求項11】
前記用意工程で用意される前記アクチュエータデバイスは、気密に封止されて前記支持部、前記可動部、前記連結部及び前記金属部材を収容するパッケージを更に備える、請求項1~10のいずれか一項に記載のアクチュエータデバイスの製造方法。
【請求項12】
前記用意工程で用意される前記アクチュエータデバイスにおいて、
前記可動部は、第1可動部と、第2可動部と、を有し、
前記連結部は、前記第1可動部が第1軸線周りに揺動可能となるように前記第1可動部を前記第2可動部に連結する第1連結部と、前記第2可動部が第2軸線周りに揺動可能となるように前記第2可動部を前記支持部に連結する第2連結部と、を有し、
前記揺動工程では、前記所定時間だけ、前記第1可動部を前記第1軸線周りに揺動させると共に前記第2可動部を前記第2軸線周りに揺動させる、請求項1~11のいずれか一項に記載のアクチュエータデバイスの製造方法。
【請求項13】
前記揺動工程では、前記可動部を共振動作させる、請求項1~12のいずれか一項に記載のアクチュエータデバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)デバイスとして構成されたアクチュエータデバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
そのようなアクチュエータデバイスとして、支持部と、支持部に揺動可能に連結された可動部と、可動部を揺動させるための駆動力を発生させるコイルと、を備えるものが知られている(例えば特許文献1参照)。特許文献1には、可動部上にミラーが設けられたMEMS走査ミラーが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したようなアクチュエータデバイスでは、出荷後に客先において使用された際に、使用時間の経過に伴って可動部の振動特性が変化してしまうことがある。そのような振動特性の変化は不具合の原因となり得るため、その抑制が求められる。
【0005】
そこで、本発明は、安定的な品質を有するアクチュエータデバイスを得ることができるアクチュエータデバイスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のアクチュエータデバイスの製造方法は、支持部と、可動部と、可動部が所定の軸線周りに揺動可能となるように可動部を支持部に連結する連結部と、可動部が軸線周りに揺動した際に応力が作用するように配置された金属部材と、を備えるアクチュエータデバイスを用意する用意工程と、可動部を所定時間だけ軸線周りに揺動させる揺動工程と、可動部の軸線周りの振動における粘性抵抗に関するパラメータを取得する取得工程と、取得工程で取得されたパラメータと揺動工程の開始時点のパラメータに対応する基準値との間の差が、粘性抵抗が低下する方向において所定値以上である場合、アクチュエータデバイスを合格と判定し、当該差が所定値よりも小さい場合、アクチュエータデバイスを不合格と判定する判定工程と、をこの順に含む。
【0007】
可動部が軸線周りに揺動した際に応力が作用するように配置された金属部材をアクチュエータデバイスが備える場合、可動部を軸線周りに揺動させると、応力が作用することで金属部材が繰り返し塑性変形することがある。金属部材が繰り返し塑性変形すると、加工硬化が進むことで塑性変形が生じ難くなり、その結果、可動部の軸線周りの振動における粘性抵抗が徐々に低下することがある。本発明者らは、この粘性抵抗の低下が上述した可動部の振動特性の変化の一因であることを見出した。そこで、このアクチュエータデバイスの製造方法では、可動部を所定時間だけ軸線周りに揺動させる揺動工程の後に、可動部の軸線周りの振動における粘性抵抗に関するパラメータの値を取得する取得工程を実施する。そして、取得工程で取得されたパラメータと揺動工程の開始時点の当該パラメータに対応する基準値との間の差が、粘性抵抗が低下する方向において所定値以上である場合にはアクチュエータデバイスを合格と判定し、当該差が所定値よりも小さい場合にはアクチュエータデバイスを不合格と判定する。例えば、合格と判定されたアクチュエータデバイスは出荷され、不合格と判定されたアクチュエータデバイスは出荷されない。出荷前に可動部を所定時間だけ揺動させて粘性抵抗を予め低下させておくことで、客先での可動部の振動特性の変化を抑制することができ、アクチュエータデバイスの品質を安定化することができる。また、アクチュエータデバイスの中には可動部を所定時間だけ揺動させても粘性抵抗が低下しないものが存在し得るが、取得されたパラメータと基準値との間の差が所定値以上であるアクチュエータデバイスを合格と判定することで、粘性抵抗が低下したアクチュエータデバイスのみを出荷することができ、その結果、アクチュエータデバイスの品質を一層安定化することができる。よって、このアクチュエータデバイスの製造方法によれば、安定的な品質を有するアクチュエータデバイスを得ることができる。
【0008】
パラメータは、Q値、共振周波数、所定の振れ角を得るための駆動電流値、又は所定の駆動電流が印加された場合の振れ角に関するものであってもよい。この場合、粘性抵抗の変化を好適に把握することができる。
【0009】
揺動工程では、可動部及び連結部の各々の温度が支持部の温度よりも高い状態で可動部を揺動させてもよい。この場合、粘性抵抗を効果的に低下させることができる。
【0010】
揺動工程では、一定の温度下において可動部を揺動させてもよい。この場合、例えば客先での使用環境と同一の温度下で揺動工程を実施することで、客先での可動部の振動特性の変化を確実に抑制することができる。
【0011】
揺動工程では、一定の圧力下において可動部を揺動させてもよい。この場合、雰囲気圧力の変化に起因する粘性抵抗の変化を抑制することができ、金属部材の加工硬化に起因する粘性抵抗の変化を好適に把握することができる。
【0012】
用意工程では、アクチュエータデバイスを複数用意し、複数のアクチュエータデバイスの各々について、揺動工程、取得工程及び判定工程を実施してもよい。この場合、安定的な品質を有するアクチュエータデバイスを効率良く製造することができる。
【0013】
用意工程で用意されるアクチュエータデバイスは、可動部を揺動させるための駆動力を発生させるコイルを備えており、コイルは、金属部材を構成していてもよい。この場合、コイルを備えるアクチュエータデバイスの品質を安定化することができる。
【0014】
コイルは、溝内に埋め込まれていてもよい。この場合、コイルの断面積が大きくなりコイルが繰り返しの塑性変形により加工硬化し易いが、このアクチュエータデバイスの製造方法によれば、そのような場合でも、客先での可動部の振動特性の変化を抑制することができる。
【0015】
用意工程で用意されるアクチュエータデバイスは、可動部を揺動させるための駆動力を発生させる駆動素子と、駆動素子に電気的に接続された配線と、を備えており、配線は、金属部材を構成していてもよい。この場合、駆動素子に電気的に接続された配線を備えるアクチュエータデバイスの品質を安定化することができる。
【0016】
配線は、溝内に埋め込まれていてもよい。この場合、配線の断面積が大きくなり配線が繰り返しの塑性変形により加工硬化し易いが、このアクチュエータデバイスの製造方法によれば、そのような場合でも、客先での可動部の振動特性の変化を抑制することができる。
【0017】
用意工程で用意されるアクチュエータデバイスは、気密に封止されて支持部、可動部、連結部及び金属部材を収容するパッケージを更に備えていてもよい。この場合、雰囲気圧力の変化に起因する粘性抵抗の変化を抑制することができ、金属部材の加工硬化に起因する粘性抵抗の変化を好適に把握することができる。
【0018】
用意工程で用意されるアクチュエータデバイスにおいて、可動部は、第1可動部と、第2可動部と、を有し、連結部は、第1可動部が第1軸線周りに揺動可能となるように第1可動部を第2可動部に連結する第1連結部と、第2可動部が第2軸線周りに揺動可能となるように第2可動部を支持部に連結する第2連結部と、を有し、揺動工程では、所定時間だけ、第1可動部を第1軸線周りに揺動させると共に第2可動部を第2軸線周りに揺動させてもよい。この場合、客先での使用環境と同一の動作状態で揺動工程を実施することができ、客先での可動部の振動特性の変化を確実に抑制することができる。また、複数の軸線周りに可動部を揺動させる場合、駆動電流が大きくなり環境温度が高くなり易いが、このアクチュエータデバイスの製造方法によれば、そのような場合でも、客先での可動部の振動特性の変化を抑制することができる。
【0019】
揺動工程では、可動部を共振動作させてもよい。この場合、金属部材に作用する応力が大きくなり金属部材が繰り返しの塑性変形により加工硬化し易いが、このアクチュエータデバイスの製造方法によれば、そのような場合でも、客先での可動部の振動特性の変化を抑制することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、安定的な品質を有するアクチュエータデバイスを得ることができるアクチュエータデバイスの製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】実施形態に係るアクチュエータデバイスの平面図である。
【
図3】アクチュエータデバイスの製造方法を説明するためのフローチャートである。
【
図5】揺動工程における温度分布の例を説明するための平面図である。
【
図6】動作時間と駆動電流値の変動率との関係の例を示すグラフである。
【
図7】アクチュエータデバイスの振動モデルを示す図である。
【
図8】半値幅法を用いたQ値の算出方法を説明するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の説明において、同一又は相当要素には同一符号を用い、重複する説明を省略する。
[アクチュエータデバイス]
【0023】
図1に示されるように、アクチュエータデバイス1は、支持部2と、第1可動部3と、第2可動部4と、一対の第1連結部5,6と、一対の第2連結部7,8と、磁界発生部Mと、を備えている。支持部2、第1可動部3、第2可動部4、一対の第1連結部5,6及び一対の第2連結部7,8は、例えばSOI(Silicon on Insulator)基板によって一体的に形成されている。すなわち、アクチュエータデバイス1は、MEMSデバイスとして構成されている。SOI基板は、一対のシリコン層と、一対のシリコン層の間に配置された絶縁層と、を有している。支持部2は、一対のシリコン層及び絶縁層によって構成されている。第1可動部3、第2可動部4、一対の第1連結部5,6及び一対の第2連結部7,8は、一対のシリコン層の一方によって構成されている。
【0024】
アクチュエータデバイス1では、互いに直交するX軸(第1軸線)及びY軸(第1軸線に垂直な第2軸線)の各々の周りに、ミラー面10を有する第1可動部3が揺動させられる。すなわち、アクチュエータデバイス1は、ミラーデバイスとして構成されている。アクチュエータデバイス1は、光通信用光スイッチ、光スキャナ等に用いられ得る。
【0025】
支持部2は、矩形状の外形を有する枠状に形成されており、第1可動部3及び第2可動部4等を支持している。第1可動部3は、支持部2の内側に配置されている。第1可動部3は、本体部3aと、環状部3bと、一対の連結部3cと、を有している。
【0026】
本体部3aは、円形状に形成されている。本体部3aの表面には、例えばアルミニウムからなる金属膜によって円形状のミラー面10が設けられている。環状部3bは、本体部3aを囲むように環状に形成されている。一対の連結部3cは、Y軸上における本体部3aの両側に配置され、本体部3aと環状部3bとを連結している。
【0027】
第2可動部4は、枠状に形成されており、第1可動部3を囲むように支持部2の内側に配置されている。磁界発生部Mは、例えばハルバッハ配列がとられた永久磁石等によって構成されており、後述するコイル14,15に作用する磁界を発生させる。磁界発生部Mは、支持部2、第1可動部3及び第2可動部4等に対してX軸及びY軸に垂直な方向における一方側(ミラー面10とは反対側)に配置されている。
【0028】
第1連結部5,6は、X軸上における第1可動部3の両側に配置されている。第1連結部5,6は、第1可動部3がX軸周りに(X軸を中心線として)揺動可能となるように、X軸上において第1可動部3(環状部3b)を第2可動部4に連結している。第1連結部5,6は、後述するように、第2可動部4及び第2連結部7,8を介して支持部2に連結されている。すなわち、第1連結部5,6は、第1可動部3がX軸周りに揺動可能となるように第1可動部3を支持部2に連結しているとみなすこともできる。各第1連結部5,6は、第1可動部3がX軸周りに揺動する際に捩れ変形するトーションバーである。各第1連結部5,6は、X軸上において直線状に延在している。
【0029】
第2連結部7,8は、Y軸上における第2可動部4の両側に配置されている。第2連結部7,8は、第2可動部4がY軸周りに(Y軸を中心線として)揺動可能となるように、Y軸上において第2可動部4を支持部2に連結している。各第2連結部7,8は、第2可動部4がY軸周りに揺動する際に捩れ変形するトーションバーである。各第2連結部7,8は、蛇行して延在している。
【0030】
図1及び
図2に示されるように、アクチュエータデバイス1は、一対のコイル(駆動素子)14,15と、第1配線21と、第2配線22と、第3配線23と、第4配線24と、外部端子25,26,27,28と、を更に備えている。各コイル14,15は、第1可動部3を囲むように第2可動部4に設けられている。各コイル14,15は、第1可動部3の周りに複数回巻回され、渦巻き状に形成されている。一対のコイル14,15は、第2可動部4の幅方向に互い違いに並ぶように配置されている。
【0031】
図1では、コイル14,15が配置されている配置領域Rがハッチングで示されている。
図2に示されるように、第2可動部4には、各コイル14,15に対応する形状を有する溝31が設けられている。溝31の内面上には絶縁層32が設けられ、絶縁層32上には絶縁層33が設けられている。各コイル14,15は、絶縁層32,33を介して溝31内に配置されている。すなわち、各コイル14,15は、溝31内に埋め込まれたダマシン配線として構成されている。各コイル14,15は、例えば銅又は金等の金属材料からなる。
【0032】
絶縁層34は、コイル14,15及び絶縁層33を覆うように設けられている。絶縁層34上には絶縁層35が設けられている。各絶縁層32~35は、例えば酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素等からなる。各絶縁層32~35は、支持部2、第1可動部3、第2可動部4、第1連結部5,6及び第2連結部7,8の表面を覆うように一体的に形成されている。
【0033】
外部端子25~28は、支持部2に設けられた電極パッドであり、アクチュエータデバイス1の外部に配置された制御装置等と電気的に接続されている。第1配線21は、コイル14の内側端部と外部端子25とに電気的に接続されている。第1配線21は、コイル14の内側端部から第2連結部7を介して外部端子25まで延在している。第2配線22は、コイル14の外側端部と外部端子26とに電気的に接続されている。第2配線22は、コイル14の外側端部から第2連結部8を介して外部端子26まで延在している。
【0034】
第3配線23は、コイル15の内側端部と外部端子27とに電気的に接続されている。第3配線23は、コイル15の内側端部から第2連結部7を介して外部端子27まで延在している。第4配線24は、コイル15の外側端部と外部端子28とに電気的に接続されている。第4配線24は、コイル15の外側端部から第2連結部8を介して外部端子28まで延在している。各配線21~24は、コイル14,15と同様に、絶縁層32,33を介して溝31内に配置されており、溝31内に埋め込まれたダマシン配線として構成されている。各配線21~24は、例えばアルミニウム等の金属材料からなる。アルミニウムは銅と比べて降伏応力が小さく、塑性変性し易い。
【0035】
以上のように構成されたアクチュエータデバイス1では、外部端子25,26及び配線21,22を介してコイル14にリニア動作用の駆動電流が印加されると、磁界発生部Mが発生する磁界との相互作用によってコイル14にローレンツ力(駆動力)が作用する。当該ローレンツ力と第2連結部7,8の弾性力とのつり合いを利用することで、Y軸周りに第2可動部4を揺動させる(リニア動作させる)ことができる。このとき、第1可動部3(ミラー面10)も第2可動部4と共にY軸周りに揺動する。
【0036】
一方、外部端子27,28及び配線23,24を介してコイル15に共振動作用の駆動電流が印加されると、磁界発生部Mが発生する磁界との相互作用によってコイル15にローレンツ力(駆動力)が作用する。当該ローレンツ力に加え、共振周波数での第1可動部3の共振を利用することで、X軸周りに第1可動部3(ミラー面10)を共振動作させることができる。具体的には、X軸周りにおける第1可動部3の共振周波数に等しい周波数の駆動電流がコイル15に入力されると、第2可動部4がX軸周りに当該周波数で僅かに振動する。この振動が第1連結部5,6を介して第1可動部3に伝わることにより、第1可動部3をX軸周りに当該周波数で揺動させることができる。
【0037】
アクチュエータデバイス1は、支持部2、第1可動部3、第2可動部4、一対の第1連結部5,6、一対の第2連結部7,8及び磁界発生部Mを収容するパッケージ40を更に備えている(
図4)。パッケージ40は気密に封止されている。パッケージ40は、アクチュエータデバイス1を収容する本体部41と、本体部41の開口41aを塞ぐように配置された透明な窓部材42と、を有している。アクチュエータデバイス1により反射される光は、窓部材42を透過してミラー面10に入射する。
【0038】
第1可動部3をX軸周りに揺動させると共に第2可動部4をY軸周りに揺動させると、第1連結部5,6及び第2連結部7,8が捩れ変形することで、第1連結部5,6と第2可動部4との間の連結部分P1、並びに第2連結部7,8と第2可動部4との間の連結部分P2に応力が繰り返し発生する。当該応力が連結部分P1,P2に配置されたコイル14,15及び配線21~24(金属部材)に作用することで、コイル14,15及び配線21~24が塑性変形し得る。特に、第1可動部3はX軸周りに共振動作されるため、連結部分P1には大きな応力が繰り返し発生し、連結部分P1に配置されたコイル14,15は塑性変形し易い。コイル14,15が繰り返し塑性変形すると、加工硬化が進み、第1可動部3のX軸周りに振動における粘性抵抗、及び第2可動部4のY軸周りの振動における粘性抵抗が徐々に低下し得る。そこで、本実施形態に係るアクチュエータデバイス1の製造方法では、出荷前に第1可動部3及び第2可動部4を所定時間だけ揺動させ、粘性抵抗を予め低下させる。
[アクチュエータデバイスの製造方法]
【0039】
図3~
図6を参照しつつ、アクチュエータデバイス1の製造方法(検査方法)を説明する。まず、複数のアクチュエータデバイス1を用意する用意工程が実施される(ステップS1)。用意工程では、例えば、MEMS技術(パターニング、エッチング等)を用いてSOI基板を加工することにより、アクチュエータデバイス1が用意される。用意工程で用意されるアクチュエータデバイス1は、パッケージ40により気密に封止された状態である。
【0040】
続いて、各アクチュエータデバイス1の特性を確認する事前検査工程が実施される(ステップS2)。事前検査工程では、例えば、X軸周りの振動についての第1可動部3の共振周波数、第1可動部3をX軸周りに目標振れ角(例えば20°)で揺動させるためにコイル15に印加する駆動電流値、第1可動部3をX軸周りに当該振れ角で揺動させた場合にコイル15に発生する逆起電力、第2可動部4をY軸周りに目標振れ角(例えば12°)で揺動させるためにコイル14に印加する駆動電流値が取得される。なお、目標振れ角とは、光学的振れ角を意味する。
【0041】
事前検査工程では、各アクチュエータデバイス1がコンピュータに接続され、各アクチュエータデバイス1の特性が確認される。例えば、特性検査装置にアクチュエータデバイス1が1つずつ順次セットされ、各アクチュエータデバイス1の特性が確認される。事前検査工程では、各アクチュエータデバイス1が動作するか否かについても併せて確認される。アクチュエータデバイス1の特性が予め分かっている場合等には、事前検査工程は省略されてもよい。以下の揺動工程、取得工程及び判定工程は、各アクチュエータデバイス1について実施される。
【0042】
続いて、第1可動部3及び第2可動部4を所定時間だけ揺動させる揺動工程(エイジング工程)が実施される(ステップS3)。揺動工程では、例えば、
図4に示されるように、複数(例えば24個)のアクチュエータデバイス1が基板50上に並べられる。揺動工程では、所定時間だけ、第1可動部3がX軸周りに揺動させられると共に、第2可動部4がY軸周りに揺動させられる。例えば、第1可動部3が目標振れ角の20°までX軸周りに揺動させられ、第2可動部4が目標振れ角の12°までY軸周りに揺動させられる。第1可動部3及び第2可動部4を目標振れ角まで揺動させるための駆動電流値は、事前検査工程で取得された値が用いられる。揺動工程では、逆起電力を用いたフィードバック制御により、第1可動部3のX軸周りの振れ角が目標振れ角となるように駆動電流値が制御される。第2可動部4のY軸周りの揺動は、フィードバック制御無しで制御される。
【0043】
第1可動部3及び第2可動部4の目標振れ角は、例えば最大推奨動作角度に対応する。振れ角が大きいほど、コイル14,15が塑性変形により加工硬化し易くなる。客先で使用され得る範囲内の上限値で動作させておくことで、客先での振動特性の変化を効果的に抑制することができる。所定時間は、例えば250時間である。第1可動部3及び第2可動部4を揺動させる時間の長さは、例えば実験又はシミュレーションにより決定される。
【0044】
揺動工程では、一定の温度下において第1可動部3及び第2可動部4が揺動させられる。例えば、恒温槽内に配置されることにより、アクチュエータデバイス1の環境温度は60℃で一定に維持される。この環境温度は、最大推奨動作温度の上限値に対応する。環境温度が高いほど、コイル14,15が塑性変形により加工硬化し易くなる。客先で使用され得る範囲内の上限値で動作させておくことで、客先での振動特性の変化を効果的に抑制することができる。
【0045】
また、揺動工程では、一定の圧力下において第1可動部3及び第2可動部4が揺動させられる。パッケージ40によって気密に封止されていることにより、第1可動部3及び第2可動部4の雰囲気圧力は一定に維持されている。例えば、パッケージ40内は減圧されて真空状態となっている。
【0046】
また、揺動工程では、第1可動部3、第2可動部4、一対の第1連結部5,6及び一対の第2連結部7,8の各々の温度が支持部2の温度よりも高い状態で、第1可動部3及び第2可動部4が揺動させられる。この例では、コイル14,15で発生する熱により、第1可動部3、第2可動部4、一対の第1連結部5,6及び一対の第2連結部7,8の温度が高められる。例えば、通電時にはコイル14,15の温度は200℃以上の高温となる。これにより、粘性抵抗の低下を促進させることができる。
【0047】
図5は、揺動工程における温度分布の例を説明するための図である。
図5に示されるアクチュエータデバイス1Aは、第1可動部3及び第2可動部4の形状が異なる点、並びにコイル15が第2可動部4ではなく第1可動部3に設けられている点を除いて、上述したアクチュエータデバイス1と同一の構成を有している。アクチュエータデバイス1Aでは、配線23,24が、一対の第1連結部5,6上に形成された部分を有している。アクチュエータデバイス1Aでは、第1可動部3の揺動時に連結部分P1の近傍に形成されたコイル14及び配線23,24に特に大きな応力がかかり、コイル14及び配線23,24の加工硬化が進み易い。
図5では、コイル14が配置された配置領域R1及びコイル15が配置された配置領域R2がハッチングで示されている。この例では、コイル15に14mAの駆動電流を印加すると共にコイル14に30mAの駆動電流を印加し、アクチュエータデバイス1Aを駆動した。環境温度を25℃とし、雰囲気圧力を常圧(1気圧)とした。
【0048】
図5に示されるように、点aは第1可動部3の環状部3bに設定され、点bは第2可動部4に設定され、点cはミラー面10(第1可動部3の本体部3a)に設定され、点dは支持部2に設定され、点eは第1連結部5に設定され、点fは第2連結部7に設定されている。アクチュエータデバイス1Aの駆動時において、点a~点fの温度は、それぞれ、89.6℃、104.4℃、94.6℃、41.5℃、75.2℃、146.1℃であった。このように、第1可動部3、第2可動部4、一対の第1連結部5,6及び一対の第2連結部7,8の各々の温度は、支持部2の温度(41.5℃)よりも高くなっていた。
【0049】
図6は、動作時間と駆動電流値の変動率との関係の例を示すグラフである。
図6の例では、アクチュエータデバイス1を用いた。上述した条件と同様に、X軸周りの第1可動部3の目標振れ角を20°とし、Y軸周りの第2可動部4の目標振れ角を12°とした。環境温度を60℃とし、動作時間を250時間とした。
図6の縦軸は、第1可動部3をX軸周りに目標振れ角まで揺動させるためにコイル15に印加される駆動電流値の変動率を表している。この駆動電流値は、第1可動部3のX軸周りの振動における粘性抵抗が減少するにつれて、減少する。駆動電流値の変動率とは、動作開始時点の駆動電流値に対する、現在の駆動電流値と動作開始時点の駆動電流値との間の差の比率である。
【0050】
図6から、動作開始直後は駆動電流値が大きく変動しているが、動作時間の経過に伴って駆動電流値の変動が小さくなったことが分かる。このことから、揺動工程を実施することにより、使用時間の経過に伴う駆動電流値の変動を抑制可能であることが分かる。
【0051】
揺動工程に続いて、第1可動部3のX軸周りの振動における粘性抵抗に関するパラメータを取得する取得工程が実施される(ステップS4)。この例では、取得されるパラメータは、第1可動部3をX軸周りに目標振れ角(20°)まで揺動させるためにコイル15に印加される駆動電流値である。環境温度は例えば25℃に設定される。
【0052】
続いて、取得工程で取得されたパラメータの値に基づいてアクチュエータデバイス1の合否を判定する判定工程が実施される(ステップS5)。判定工程では、取得工程で取得されたパラメータと揺動工程の開始時点の当該パラメータに対応する基準値との間の差(絶対値)が、粘性抵抗が低下する方向において所定値以上である場合、アクチュエータデバイス1を合格と判定し、当該差が所定値よりも小さい場合、アクチュエータデバイス1を不合格と判定する。例えば、合格と判定されたアクチュエータデバイス1は出荷され、不合格と判定されたアクチュエータデバイス1は出荷されずに排除される。
【0053】
この例では、揺動工程の開示時点の駆動電流値(事前検査工程で取得された駆動電流値)が基準値に設定されており、所定値は2%に設定されている。駆動電流値の変動率が2%以上である場合(駆動電流値が2%以上低下している場合)、粘性抵抗が低下したとしてアクチュエータデバイス1を合格と判定する一方、駆動電流値の変動率が2%よりも小さい場合、アクチュエータデバイス1を不合格と判定する。駆動電流値の変動率とは、揺動工程の開始時点の駆動電流値に対する、取得工程で取得された駆動電流値と揺動工程の開始時点の駆動電流値との間の差の比率である。なお、この例ではパラメータの変動率を所定値(閾値)と比較したが、取得工程で取得された駆動電流値と揺動工程の開始時点の駆動電流値との間の差が所定値と比較されてもよい。以上の工程により、粘性抵抗が予め低下させられたアクチュエータデバイス1を得ることができる。
[作用及び効果]
【0054】
アクチュエータデバイス1の製造方法では、第1可動部3を所定時間だけX軸周りに揺動させる揺動工程の後に、第1可動部3のX軸周りの振動における粘性抵抗に関するパラメータの値を取得する取得工程を実施する。そして、取得工程で取得されたパラメータと揺動工程の開始時点の当該パラメータに対応する基準値との間の差が、粘性抵抗が低下する方向において所定値以上である場合にはアクチュエータデバイス1を合格と判定し、当該差が所定値よりも小さい場合にはアクチュエータデバイス1を不合格と判定する。例えば、合格と判定されたアクチュエータデバイス1は出荷され、不合格と判定されたアクチュエータデバイス1は出荷されない。出荷前に第1可動部3及び第2可動部4を所定時間だけ揺動させて粘性抵抗を予め低下させておくことで、客先での第1可動部3及び第2可動部4の振動特性の変化を抑制することができ、アクチュエータデバイス1の品質を安定化することができる。また、アクチュエータデバイス1の中には第1可動部3及び第2可動部4を所定時間だけ揺動させても粘性抵抗が低下しないものが存在し得るが、取得されたパラメータと基準値との間の差が所定値以上であるアクチュエータデバイス1を合格と判定することで、粘性抵抗が低下したアクチュエータデバイス1のみを出荷することができ、その結果、アクチュエータデバイス1の品質を一層安定化することができる。よって、アクチュエータデバイス1の製造方法によれば、安定的な品質を有するアクチュエータデバイス1を得ることができる。
【0055】
アクチュエータデバイス1の中に第1可動部3及び第2可動部4を所定時間だけ揺動させても粘性抵抗が低下しないものが存在し得る点について更に説明する。第1可動部3及び第2可動部4の振動における粘性抵抗は、コイル14,15(金属部材)の加工硬化だけでなく、空気抵抗の変化にも起因して変化する。空気抵抗は、気圧や温度に応じて変化する。そのため、例えば、揺動工程中にパッケージ40内の真空度が下がり、雰囲気圧力が上昇した場合、空気抵抗による粘性抵抗の上昇がコイル14,15の加工硬化による粘性抵抗の低下を上回り、結果としてトータルの粘性抵抗が増加することがある。また、粘性抵抗は構造上の不具合によっても変化し得る。このような理由により、アクチュエータデバイス1の中には、第1可動部3及び第2可動部4を所定時間だけ揺動させても粘性抵抗が低下しないものが存在し得る。一方、上述したアクチュエータデバイス1の製造方法によれば、パッケージ40の封止状態が良好なアクチュエータデバイス1のみを合格と判定して出荷することができる。
【0056】
パラメータが所定の振れ角を得るための駆動電流値に関するものである。これにより、粘性抵抗の変化を好適に把握することができる。
【0057】
揺動工程では、第1可動部3、第2可動部4、一対の第1連結部5,6及び一対の第2連結部7,8の各々の温度が支持部2の温度よりも高い状態で、第1可動部3及び第2可動部4が揺動させられる。これにより、粘性抵抗を効果的に低下させることができる。
【0058】
揺動工程では、一定の温度下において第1可動部3及び第2可動部4が揺動させられる。これにより、例えば客先での使用環境と同一の温度下で揺動工程を実施することで、客先での第1可動部3及び第2可動部4の振動特性の変化を確実に抑制することができる。
【0059】
揺動工程では、一定の圧力下において第1可動部3及び第2可動部4が揺動させられる。これにより、雰囲気圧力の変化に起因する粘性抵抗の変化を抑制することができ、コイル14,15及び配線21~24(駆動によって繰り返し塑性変形する金属材料)の加工硬化起因する粘性抵抗の変化を好適に把握することができる。
【0060】
複数のアクチュエータデバイス1の各々について、揺動工程、取得工程及び判定工程が実施される。これにより、安定的な品質を有するアクチュエータデバイス1を効率良く製造することができる。
【0061】
第1可動部3及び第2可動部4を揺動させるための駆動力を発生させるコイル14,15により、第1可動部3がX軸周りに揺動すると共に第2可動部4がY軸周りに揺動した際に応力が作用する金属部材が構成されている。これにより、コイル14,15を備えるアクチュエータデバイス1の品質を安定化することができる。
【0062】
コイル14,15が溝31内に埋め込まれている。この場合、コイル14,15の断面積が大きくなりコイル14,15が繰り返しの塑性変形により加工硬化し易いが、アクチュエータデバイス1の製造方法によれば、そのような場合でも、客先での第1可動部3の振動特性の変化を抑制することができる。
【0063】
アクチュエータデバイス1が、気密に封止されて支持部2、第1可動部3、第2可動部4、一対の第1連結部5,6及び一対の第2連結部7,8を収容するパッケージ40を備えている。これにより、雰囲気圧力の変化に起因する粘性抵抗の変化を抑制することができ、コイル14,15の加工硬化に起因する粘性抵抗の変化を好適に把握することができる。
【0064】
揺動工程では、所定時間だけ、第1可動部3がX軸周りに揺動させられると共に第2可動部4がY軸周りに揺動させられる。これにより、客先での使用環境と同一の動作状態で揺動工程を実施することができ、客先での第1可動部3及び第2可動部4の振動特性の変化を確実に抑制することができる。また、複数の軸線周りに可動部を揺動させる場合、駆動電流値が大きくなり環境温度が高くなり易いが、アクチュエータデバイス1の製造方法によれば、そのような場合でも、客先での第1可動部3及び第2可動部4の振動特性の変化を抑制することができる。
【0065】
揺動工程では、第1可動部3が共振動作させられる。この場合、コイル14,15に作用する応力が大きくなりコイル14,15が繰り返しの塑性変形により加工硬化し易いが、アクチュエータデバイス1の製造方法によれば、そのような場合でも、客先での第1可動部3及び第2可動部4の振動特性の変化を抑制することができる。
【0066】
第1可動部3及び第2可動部4の振動における粘性抵抗は、コイル14,15の加工硬化だけでなく、連結部分P1,P2に配置された配線21~24の加工硬化によっても変化し得る。すなわち、上記実施形態では、配線21~24によっても、第1可動部3がX軸周りに揺動すると共に第2可動部4がY軸周りに揺動した際に応力が作用する金属部材が構成されている。アクチュエータデバイス1の製造方法によれば、コイル14,15に電気的に接続された配線21~24を備えるアクチュエータデバイス1の品質を安定化することができる。
【0067】
また、配線21~24は、溝31内に埋め込まれている。この場合、配線21~24の断面積が大きくなり配線21~24が繰り返しの塑性変形により加工硬化し易いが、アクチュエータデバイス1の製造方法によれば、そのような場合でも、客先での第1可動部3及び第2可動部4の振動特性の変化を抑制することができる。
[変形例]
【0068】
本発明は、上記実施形態に限られない。例えば、各構成の材料及び形状には、上述した材料及び形状に限らず、様々な材料及び形状を採用することができる。
【0069】
第1可動部3がX軸周りに揺動すると共に第2可動部4がY軸周りに揺動した際に応力が作用するように、ミラー面10が配置されていてもよい。この場合、第1可動部3及び第2可動部4の振動における粘性抵抗は、コイル14,15及び配線21~24の加工硬化だけでなく、ミラー面10の加工硬化によっても変化し得る。すなわち、ミラー面10によって、第1可動部3がX軸周りに揺動すると共に第2可動部4がY軸周りに揺動した際に応力が作用する金属部材が構成されていてもよい。当該金属部材は、コイル14,15、配線21~24及びミラー面10の少なくとも1つによって構成されてもよい。
【0070】
駆動素子は、コイル14,15に限られず、例えば圧電素子であってもよい。コイル14,15は、溝31内ではなく、第2可動部4の表面上に形成されてもよい。配線21~24の少なくとも一部は、支持部2、第2可動部4又は第2連結部7,8の表面上に形成された表面配線として構成されてもよい。コイル15は、第1可動部3に設けられてもよい。第1可動部3の動作は、リニア動作(非共振動作)であってもよい。第2可動部4及び第2連結部7,8は省略されてもよい。この場合、第1可動部3は、第1連結部5,6により支持部2に直接に連結されてもよい。この場合、第1可動部3の動作は、共振動作であってもよいし、リニア動作であってもよい。すなわち、上記実施形態ではアクチュエータデバイス1が共振軸(高速軸、X軸)とリニア軸(低速軸、Y軸)とを有していたが、アクチュエータデバイス1は共振軸又はリニア軸の一方のみを有していてもよい。第1可動部3が揺動する第1軸線と第2可動部4が揺動する第2軸線とは、垂直以外の角度で交差していてもよいし、互いに平行であってもよいし、或いは同一直線上に位置していてもよい。アクチュエータデバイス1は、支持部(基板)、連結部及び可動部が金属材料により形成されたメタルミラーであってもよい。
【0071】
パラメータは、所定の振れ角を得るための駆動電流値に限られず、Q値(Quality factor)、共振周波数、又は所定の駆動電流値が印加された場合の振れ角に関するものであってもよい。この場合でも、粘性抵抗の変化を好適に把握することができる。パラメータは、これらの値自体であってもよいし、これらの値に応じて変化する値であってもよい。一方、上述したアクチュエータデバイス1の場合、パラメータとして駆動電流値を用いることが好ましい。この点について
図7及び
図8を参照しつつ更に説明する。
【0072】
図7は、アクチュエータデバイス1の振動モデルを示す図である。
図7では、アクチュエータデバイス1が減衰振動系モデルを用いてモデル化されている。
図7において、mは質量、kはバネ定数、cは減衰係数を表す。このモデルの共振周波数ω
dは式(1)で表される。
【数1】
式(1)においてω
0は固有角振動数であり、式(2)のとおり、慣性モーメントJとばね定数kにより表される。固有角振動数ω
0は設計寸法と使用材料の機械的物性値で決定され、ほとんどエイジングの影響を受けない。
【数2】
【0073】
減衰比ζとQ値の関係は式(3)で表される。
【数3】
一例として、アクチュエータデバイス1では、Q値が約1万と極めて高い。そのため、減衰比ζが極めて小さくなり、Q値が多少変動しても共振周波数ω
dはほぼ変動しない。
【0074】
駆動電流値IとQ値との関係は式(4)で表される。
【数4】
式(4)においてθは振れ角であり、T
(I)は駆動電流値がIである場合のトルクであり、QはQ値である。よって、振れ角θとばね定数kを定数とすると、トルクT
(I)とQ値との関係は式(5)で表され、トルクT
(I)とQ値とは反比例の関係を有する。
【数5】
【0075】
また、減衰比ζと、粘性抵抗の大きさを表す物性値である減衰係数cとの関係は式(6)で表される。
【数6】
式(6)において、c
Cは臨界減衰係数であり、慣性モーメントJとばね定数kで決定される定数である。したがって、上記の関係より、エイジングによって減衰係数cが低下すると、減衰比ζが下がり、Q値は上昇する。一方、Q値と反比例の関係にあるトルクT
(I)及び駆動電流値Iは低下する。すなわち、粘性抵抗が低下すると、Q値は上昇し、所定の振れ角を得るための駆動電流値は低下し、所定の駆動電流が印加された場合の振れ角は上昇する。
【0076】
図8を参照しつつ、半値幅法を用いたQ値の算出方法を説明する。駆動電流値を一定値に設定した状態で周波数を変化させることで、
図8に示されるような振れ角の周波数応答特性が取得される。得られたデータから、振れ角が最大となる周波数f
0(共振周波数)と、振れ角が最大振れ角の-3dB(約0.7倍)になる周波数f
1,f
2を測定することで、Q=f
0/(f
2-f
1)によりQ値を算出することができる。半値幅法は、周波数応答特性が左右対称に近い形状である場合に適用可能である。上述したアクチュエータデバイス1では、周波数応答が、ピークが右側に倒れた非対称な形状となるため、半値幅法ではQ値を正確に算出することは難しい。そのため、上述したアクチュエータデバイス1の製造方法では、Q値と反比例するパラメータである駆動電流値(トルク)を用いて粘性抵抗の低下を評価している。
【0077】
また、上述したアクチュエータデバイス1の製造方法において、パラメータは、所定の駆動電流値が印加された場合の振れ角であってもよい。例えば、駆動電流値を一定値に設定した状態でアクチュエータデバイス1を連続動作させ、振れ角の変化を観察してもよい。ただし、パラメータを駆動電流値とし、振れ角を一定値に設定した状態でアクチュエータデバイス1を連続動作させた方が、振れ角の変化によりエイジング条件が変化しない点で好ましい。また、第1可動部3を共振動作ではなくリニア動作させる場合、Q値を容易に測定することができるため、パラメータとしてQ値が用いられてもよい。
【符号の説明】
【0078】
1,1A…アクチュエータデバイス、2…支持部、3…第1可動部、4…第2可動部、5,6…第1連結部、7,8…第2連結部、14,15…コイル(駆動素子)、21~24…配線、40…パッケージ。