(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022115409
(43)【公開日】2022-08-09
(54)【発明の名称】難加工材の丸棒の鍛伸鍛造方法
(51)【国際特許分類】
B21J 5/00 20060101AFI20220802BHJP
B21J 13/02 20060101ALI20220802BHJP
B21J 17/00 20060101ALI20220802BHJP
【FI】
B21J5/00 K
B21J13/02 M
B21J17/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021011990
(22)【出願日】2021-01-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001184
【氏名又は名称】特許業務法人むつきパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 樹一
(72)【発明者】
【氏名】西尾 勇次
【テーマコード(参考)】
4E087
【Fターム(参考)】
4E087AA05
4E087AA10
4E087BA12
4E087CA02
4E087CB01
4E087CB02
4E087DB15
4E087DB23
4E087EF02
4E087FB06
(57)【要約】
【課題】 脆く割れやすい鋳造合金のような合金塊を炉内で加熱しながら製造効率よく丸棒に熱間自由鍛造する鍛伸鍛造方法の提供。
【解決手段】 合金塊を炉内で加熱しながら丸棒に鍛伸する鍛造方法である。炉内において、中心軸を有する棒状の合金塊を片持ちし下金型の上に配置させ、合金塊を中心軸の周囲で回転させながら上金型を押し付けて鍛伸する鍛伸工程を含み、下金型及び上金型はそれぞれ上部樋状溝及び下部樋状溝を有し互いの軸線を平行に且つ開口を対向させて配置され、鍛伸工程は、軸線に対する垂直断面を円弧の一部とする下部樋状溝を有する下金型を用い、下部樋状溝の内面で合金塊に径方向の圧縮を与えつつ円弧の径よりも小さい径に鍛伸していくことを特徴とする。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
合金塊を炉内で加熱しながら丸棒に鍛伸する鍛造方法であって、
前記炉内において、中心軸を有する棒状の前記合金塊を片持ちし下金型の上に配置させ、前記合金塊を前記中心軸の周囲で回転させながら上金型を押し付けて鍛伸する鍛伸工程を含み、
前記下金型及び前記上金型はそれぞれ上部樋状溝及び下部樋状溝を有し互いの軸線を平行に且つ開口を対向して配置され、
前記鍛伸工程は、軸線に対する垂直断面を円弧の一部とする前記下部樋状溝を有する前記下金型を用い、前記下部樋状溝の内面で前記合金塊に径方向の圧縮を与えつつ前記円弧の径よりも小さい径に鍛伸していくことを特徴とする丸棒の鍛伸鍛造方法。
【請求項2】
鍛伸されて縮径された前記合金塊の径に対応して、前記円弧の径をより小とする前記下部樋状溝に変えて前記鍛伸工程を行うことを特徴とする請求項1記載の丸棒の鍛伸鍛造方法。
【請求項3】
前記下金型は前記円弧の径の異なる複数の前記下部樋状溝を具備し、前記中心軸に対して相対的に移動自在に配置されることを特徴とする請求項2記載の丸棒の鍛伸鍛造方法。
【請求項4】
前記下金型及び前記上金型は予加熱した上で鍛伸工程を行うことを特徴とする請求項1乃至3のうちの1つに記載の丸棒の鍛伸鍛造方法。
【請求項5】
前記上部樋状溝は軸線に対する垂直断面を前記円弧の径と同じ径を有する円弧の一部とすることを特徴とする請求項1乃至4のうちの1つに記載の丸棒の鍛伸鍛造方法。
【請求項6】
前記下部樋状溝及び前記上部樋状溝の最大深さを前記円弧の半径の1/2以下とすることを特徴とする請求項5記載の丸棒の鍛伸鍛造方法。
【請求項7】
前記丸棒の目標径の前記円弧を有する前記下部樋状溝及び前記上部樋状溝を用いた仕上げ鍛造工程を更に含むことを特徴とする請求項1乃至6のうちの1つに記載の丸棒の鍛伸鍛造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脆く割れやすい難加工材からなる合金塊を加熱しながら熱間自由鍛造し所定径の丸棒に鍛伸させる鍛造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種合金製品の製造工程において、鋳造後、鍛造を行ってその内部の巣や欠陥などを取り除く鍛造工程が与えられる。一方で、鋳造ままで使用される鋳造合金をはじめとする脆く割れやすい難加工材では、変形抵抗が大きく、簡単には鍛造ができない。そこで、炉内で加熱しながら割れを防止しつつ鍛造する方法が採用され得る。
【0003】
例えば、特許文献1では、熱間加工の際の変形抵抗が大きい難加工材であって、加工可能な温度範囲が限定されるNi基耐熱合金からなる丸棒から所定形状の金属製品を加工する製造工程において、高温雰囲気下の保温用チャンバ内に収納された熱間鍛造装置にて合金塊の熱間自由鍛造を行う製造方法が開示されている。かかる製造方法によれば、合金塊の接する雰囲気や金敷(下金型)は、加熱手段及び温度制御手段により高温状態に維持されているため、被鍛造材の失熱を抑制し割れを抑制できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
難加工材からなる合金塊をロールやチューブなどの丸棒に加工する場合も、炉内で該合金塊を金型とともに加熱しながら熱間自由鍛造することが考慮できる。例えば、引用文献1の製造方法と同様に、片持ち支持させた合金塊を平らな下金型の上で軸線の周りに回転させながら、平らな上金型を押し付けて丸棒に鍛伸させていく。一方、変形抵抗が比較的大きいため、長手の丸棒に鍛伸中に曲がりが生じ易い。そこで、小まめに軸線の周りに回転させ1回の打撃量を小さくして曲がりを抑制するが、製造効率を低下させてしまう。
【0006】
本発明は、以上のような状況に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、脆く割れやすい鋳造合金のような合金塊を炉内で加熱しながら製造効率よく丸棒に熱間自由鍛造する鍛伸鍛造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による丸棒の鍛伸鍛造方法は、合金塊を炉内で加熱しながら丸棒に鍛伸する鍛造方法であって、前記炉内において、中心軸を有する棒状の前記合金塊を片持ちし下金型の上に配置させ、前記合金塊を前記中心軸の周囲で回転させながら上金型を押し付けて鍛伸する鍛伸工程を含み、前記下金型及び前記上金型はそれぞれ上部樋状溝及び下部樋状溝を有し互いの軸線を平行に且つ開口を対向させて配置され、前記鍛伸工程は、軸線に対する垂直断面を円弧の一部とする前記下部樋状溝を有する前記下金型を用い、前記下部樋状溝の内面で前記合金塊に径方向の圧縮を与えつつ前記円弧の径よりも小さい径に鍛伸していくことを特徴とする。
【0008】
かかる特徴によれば、脆く割れやすい鋳造合金のような合金塊であっても製造効率よく丸棒に熱間自由鍛造できるのである。
【0009】
上記した発明において、鍛伸されて縮径された前記合金塊の径に対応して、前記円弧の径をより小とする前記下部樋状溝に変えて前記鍛伸工程を行うことを特徴としてもよい。また、上記した発明において前記下金型は前記円弧の径の異なる複数の前記下部樋状溝を具備し、前記中心軸に対して相対的に移動自在に配置されることを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、精度の高い丸棒を製造効率よく熱間自由鍛造できるのである。
【0010】
上記した発明において、前記下金型及び前記上金型は予加熱した上で鍛伸工程を行うことを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、炉内の温度低下と合金塊の温度低下を抑制し、製造効率よく丸棒に熱間自由鍛造できるのである。
【0011】
上記した発明において、前記上部樋状溝は軸線に対する垂直断面を前記円弧の径と同じ径を有する円弧の一部とすることを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、精度の高い丸棒を製造効率よく熱間自由鍛造できるのである。
【0012】
上記した発明において、前記下部樋状溝及び前記上部樋状溝の最大深さを前記円弧の半径の1/2以下とすることを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、製造効率よく丸棒に熱間自由鍛造できるのである。
【0013】
上記した発明において、前記丸棒の目標径の前記円弧を有する前記下部樋状溝及び前記上部樋状溝を用いた仕上げ鍛造工程を更に含むことを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、精度の高い丸棒を製造効率よく熱間自由鍛造できるのである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の鍛造方法に用いられる恒温鍛造装置の側面図である。
【
図3】鍛造中の上下金型及び合金塊の正面断面図である。
【
図4】合金塊の断面の歪み分布のシミュレーション結果の図である。
【
図5】樋状溝の形状を示す下金型の要部の断面図である。
【
図6】複数の樋状溝を備える下金型の正面図である。
【
図7】仕上げ鍛伸工程中の上下金型及び合金塊の正面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明による1つの実施例としての難加工材を鍛伸する鍛造方法について
図1乃至
図7を用いて説明する。
【0016】
図1に示すように、難加工材である合金塊10の鍛伸には恒温鍛造装置1を用いる。恒温鍛造装置1は、合金塊10を鍛伸するための下金型2及び上金型3を備え、これらの周囲を取り囲むように加熱炉4が備えられる。加熱炉4の内部では、前後方向(紙面左右方向)に延びるように左右壁面にヒーターが設置され、鍛造作業中の下金型2、上金型3及び合金塊10の温度を所望の鍛造温度に維持することができる。恒温鍛造装置1のその他詳細については公知であるので説明を省略する。
【0017】
前後方向に延びる棒状の合金塊10は、その中心軸Cを略水平にするように合金塊10に接続された治具棒5によって片持ち支持されて、加熱炉4の内部に後方から差し入れられる。合金塊10は、加熱炉4によって下金型2及び上金型3とともに加熱され、所定の温度を維持されつつ鍛伸される。鍛伸においては、下金型2の上に配置した合金塊10を中心軸Cの周囲で回転させながら上金型3で下金型2に押し付けて丸棒に鍛伸してゆく。なお、片持ち支持とすることで合金塊10はその自重により曲がりを生じやすくする場合もあるが、特に、加熱炉4の外部への熱伝達のルートを増やさないようにして加熱炉4内の温度を安定して維持できるようにしている。
【0018】
ところで、脆くて鍛造による割れを生じやすい難加工材は、鍛造温度を他の材料の鍛造よりも狭い範囲に制御することで割れの発生を抑制し得る。そのため恒温鍛造装置1を用いることで鍛造作業中の温度を一定の範囲に保ち、割れの発生を抑制するのである。しかし、丸棒の鍛伸において、平金敷を用いると恒温鍛造装置1を用いた場合でも割れを生じることが多かった。
【0019】
そこで、
図2に示すように、下金型2には、上面に前後方向(紙面に直交する方向)に直線状に延びる樋状溝である下部樋状溝21が形成されている。下部樋状溝21は、その軸線Aの垂直断面(紙面と平行な面)を半径r1の円弧の一部とする形状を有する。下部樋状溝21の開口に沿ったエッジ部22はR形状を与えられている。
【0020】
更に、
図3を併せて参照すると、上金型3にも同様に上部樋状溝31が備えられ、下部樋状溝21と互いの開口を対向させてその軸線A’を下部樋状溝21の軸線Aと平行にするよう配置される。
【0021】
下金型2上に配置された合金塊10は、その中心軸Cを下部樋状溝21の軸線Aと平行にするように配置され、下部樋状溝21の内面21aで下側から支持される。つまり、合金塊10は、その径(半径r2)を鍛造作業開始時において下部樋状溝21の内面21aによる円弧の径(半径r1)と同等以下としており、鍛造作業によって径方向に圧縮されて、かかる円弧の径よりも小さい径とするように鍛伸されてゆく。
【0022】
このとき、上金型3を上から押し付けられた合金塊10は下金型2へ向けて押圧され、弾性変形や塑性変形によってその表面を下部樋状溝21の内面21aに広い範囲で接触させる。ここで上記した円弧の径(半径r1)に対して合金塊10の径(半径r2)をより近いものとすることで、下部樋状溝21の内面への接触面積を広くし、中心軸Cに垂直な断面内での歪み分布のばらつきを少なくできる。このように、下部樋状溝21を備える下金型2を用いることで、少なくとも平金敷を用いる場合と比べ、上記した歪みの分布のばらつきを抑えることができて、合金塊10に発生する割れを抑制できる。その結果として、製造効率よく合金塊10を鍛伸できるのである。
【0023】
図4には、上金型3で合金塊10を下金型2に向けて押圧したときの合金塊10に生じる歪みの断面分布のシミュレーション結果を示した。平金敷やこれに準ずる程度の大きな曲率半径を有する面で合金塊10を上下から押圧した場合(
図4(a))に比べて合金塊の半径に近い曲率半径の面で合金塊10を上下から押圧した場合(
図4(b))の方が歪みの分布のばらつきを小さくしていることが判る。つまり、上記したように、下部樋状溝21の断面形状の円弧の径を合金塊10の径により近いものにすることで歪みの分布のばらつきを少なくし得ることが判る。
【0024】
上記したシミュレーションに示したように、上部樋状溝31についても、同様に軸線A’に垂直な断面を円弧の一部とすることで合金塊10の接触面積を広くでき、割れの発生の抑制に寄与することができる。また、上部樋状溝31の断面形状の円弧の半径r3を下部樋状溝の半径r1と等しくすることも、中心軸Cの周囲で回転する合金塊10に上下で均等な変形を与え、曲がりの発生を抑制し得て好ましい。
【0025】
また、
図5に示すように、下部樋状溝21は、その最大深さdを円弧の半径rの1/2以下とすることも好ましい。上部樋状溝31についても同様である。これによれば、下部樋状溝21及び上部樋状溝31の径に対して十分小さい径まで合金塊10を鍛伸し得る。
【0026】
他方、上記したように合金塊10の径は、下部樋状溝21及び上部樋状溝31の径に近いほど鍛造時の歪みの分布を均一にし得る。そこで、合金塊10の鍛造開始時の初期形状について、中心軸Cに垂直な断面の径を下部樋状溝21の径と同程度とすることも好ましい。
【0027】
そのため、鍛造作業の進行によって縮径された合金塊10の径に対応して下金型2を交換して下部樋状溝21の断面形状の円弧の径をより小とするものへと変えることも好ましい。例えば、鍛伸前の寸法をφ70とする合金塊の場合、半径r2は35mmなので樋状溝の半径r1を35mm、深さdを17.5mmとした下金型2を用いて鍛造作業を開始する。そして、合金塊10の縮径に合わせて半径rを22.5mm、深さdを11.25mmとする樋状溝を有する下金型2へ変更し、最後に半径rを12.5mm、深さdを6.25mmとする樋状溝を有する下金型2へと変更するのである。このように、樋状溝の断面形状の円弧を半径の異なるものとした下金型2を複数用意しておき、かかる金型を相互に交換するようにしてもよい。この場合、金型は予加熱して使用温度とされた上で加熱炉4内に設置され、炉内の温度低下を抑制される。
【0028】
このような場合においても、上部樋状溝31の断面形状の円弧の半径r3を下部樋状溝の半径r1と等しくすることが好ましい。これにより、使用する樋状溝を変えずに作業できる合金塊10の径の範囲を広くでき、換言すれば樋状溝を変更する頻度を少なくでき、製造効率の向上に寄与する。
【0029】
また、
図6に示すように、1つの下金型2’の表面に断面形状の円弧の半径の異なる複数の下部樋状溝を具備することも好ましい。これら複数の下部樋状溝を並べて設け、合金塊10の中心軸Cとの相対的な位置を移動させることで、各寸法の樋状溝を使い分けるようにすることもできる。ここでは、下金型2’の上面に軸線A-aを有して半径r1aの円弧の一部を断面形状とする下部樋状溝21aと、軸線A-bを有して半径r1bの円弧の一部を断面形状とする下部樋状溝21bとが備えられる。これによれば、金型の交換頻度を減ずることで製造効率よく合金塊を熱間自由鍛造できる。上金型3においても同様の形状の上部樋状溝を同時に使い分けることができるようにすることが好ましい。
【0030】
なお、
図7に示すように、仕上げの鍛造工程として、上記とは異なり、丸棒の目標径の円弧の一部を断面形状に有する下部樋状溝21及び上部樋状溝31を用いてもよい。つまり、合金塊10は、一旦、下部樋状溝21のエッジ部22に当接し、鍛造に伴う縮径によって目標径の円弧の全体に当接するようになる。上部樋状溝31においても同様である。つまり、この仕上げ鍛造工程では、上記した鍛伸とは異なり、樋状溝の形状を合金塊に転写するように鍛造する。
【0031】
以上、本発明の代表的な実施例及びこれに基づく改変例を説明したが、本発明は必ずしもこれらに限定されるものではなく、当業者であれば、本発明の主旨又は添付した特許請求の範囲を逸脱することなく、種々の代替実施例及び改変例を見出すことができるであろう。
【符号の説明】
【0032】
2 下金型
3 上金型
10 合金塊
21 下部樋状溝
31 上部樋状溝
A 軸線
C 中心軸