(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022115414
(43)【公開日】2022-08-09
(54)【発明の名称】MEMSデバイス及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B81B 3/00 20060101AFI20220802BHJP
B81C 1/00 20060101ALI20220802BHJP
H01F 13/00 20060101ALI20220802BHJP
【FI】
B81B3/00
B81C1/00
H01F13/00 630
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021011996
(22)【出願日】2021-01-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115738
【弁理士】
【氏名又は名称】鷲頭 光宏
(74)【代理人】
【識別番号】100121681
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 和文
(72)【発明者】
【氏名】藤原 良元
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健一
【テーマコード(参考)】
3C081
【Fターム(参考)】
3C081AA17
3C081BA03
3C081BA21
3C081BA22
3C081BA29
3C081BA30
3C081BA44
3C081BA48
3C081CA05
3C081CA28
3C081CA32
3C081CA40
3C081DA02
3C081DA03
3C081DA06
3C081DA10
3C081EA01
3C081EA02
3C081EA12
3C081EA41
(57)【要約】
【課題】磁化方向の異なる複数の磁化領域を有する硬磁性体を含むMEMSデバイスにおいて、熱減磁の問題を解消する。
【解決手段】本発明によるMEMSデバイス1の製造方法は、収容体10の内部に硬磁性体22を収容した後、磁場42を印加した状態で収容体10を介して硬磁性体22にレーザー光43を照射することにより、硬磁性体22を局所的に着磁する。このように、収容体10の内部に硬磁性体22を収容した後にレーザー着磁を行っていることから、着磁した硬磁性体22の熱減磁を防止することが可能となる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一部が赤外線又は可視光線を透過する材料からなる収容体と、
前記収容体の内部に収容された硬磁性体と、を備え、
前記硬磁性体は、磁化方向が互いに異なる複数の磁化領域を有することを特徴とするMEMSデバイス。
【請求項2】
前記複数の磁化領域を有する硬磁性体は、前記収容体に弾性支持されていることを特徴とする請求項1に記載のMEMSデバイス。
【請求項3】
前記複数の磁化領域を有する硬磁性体は、前記収容体に弾性支持された第1の硬磁性体からなる磁化領域と、前記第1の硬磁性体とは独立して前記収容体に弾性支持された第2の硬磁性体からなる磁化領域とを含むことを特徴とする請求項2に記載のMEMSデバイス。
【請求項4】
前記収容体の前記少なくとも一部は、可視光線を遮断し、赤外線を透過する材料からなることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のMEMSデバイス。
【請求項5】
前記収容体の前記少なくとも一部は、シリコン又はヒ化ガリウムからなることを特徴とする請求項4に記載のMEMSデバイス。
【請求項6】
収容体の内部に硬磁性体を収容した後、磁場を印加した状態で前記収容体を介して前記硬磁性体に光を照射することにより、前記硬磁性体を局所的に着磁することを特徴とするMEMSデバイスの製造方法。
【請求項7】
一様な磁場によって前記硬磁性体を一方向に着磁した後、着磁方向とは異なる方向の磁場を印加した状態で前記光を照射することにより、前記硬磁性体に磁化方向の異なる複数の磁化領域を形成することを特徴とする請求項6に記載のMEMSデバイスの製造方法。
【請求項8】
所定方向の磁場を印加した状態で前記光を照射した後、前記所定方向とは異なる方向の磁場を印加した状態で前記光を照射することにより、前記硬磁性体に磁化方向の異なる複数の磁化領域を形成することを特徴とする請求項6又は7に記載のMEMSデバイスの製造方法。
【請求項9】
前記光を部分的に遮断する領域を有するマスクを介して前記光を照射することにより、前記硬磁性体の複数箇所を同時に着磁することを特徴とする請求項6乃至8のいずれか一項に記載のMEMSデバイスの製造方法。
【請求項10】
前記収容体の少なくとも一部は、可視光線を遮断し、赤外線を透過する材料からなり、
前記収容体の前記少なくとも一部を介して、赤外線波長を有する前記光を照射することを特徴とする請求項6乃至9のいずれか一項に記載のMEMSデバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はMEMSデバイス及びその製造方法に関し、特に、磁化方向の異なる複数の磁化領域を有する硬磁性体を含むMEMSデバイス及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1及び2には、レーザー光を用いて硬磁性体を多極着磁する方法が開示されている。この方法を用いて局所的な着磁を行えば、アクチュエータやエネルギハーベスタなどの磁気デバイスを含むMEMSデバイスの磁気回路を高度にすることが可能となる。ここで、多くのMEMSデバイスは埃や水蒸気の影響を受けやすいため、これらを遮断するための気密封止が重要とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭63-99509号公報
【特許文献2】特開昭60-218809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、気密封止を行う際にはMEMSデバイスが高温に晒されることが多く、レーザー光を用いて多極着磁した後に気密封止を行うと、熱減磁が生じるという問題があった。
【0005】
したがって、本発明は、磁化方向の異なる複数の磁化領域を有するMEMSデバイスにおいて、熱減磁の問題を解消することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によるMEMSデバイスは、少なくとも一部が赤外線又は可視光線を透過する材料からなる収容体と、収容体の内部に収容された硬磁性体とを備え、硬磁性体は磁化方向が互いに異なる複数の磁化領域を有することを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、収容体の少なくとも一部が赤外線又は可視光線を透過する材料からなることから、気密封止した後にレーザー等の光を用いた着磁を行うことができる。これにより、複数の磁化領域の熱減磁を防止することが可能となる。
【0008】
本発明において、複数の磁化領域を有する硬磁性体は収容体に弾性支持されていても構わない。これによれば、アクチュエータやエネルギハーベスタなど可動部を有する磁気デバイスを構成することが可能となる。この場合、複数の磁化領域を有する硬磁性体は、収容体に弾性支持された第1の硬磁性体からなる磁化領域と、第1の硬磁性体とは独立して収容体に弾性支持された第2の硬磁性体からなる磁化領域とを含んでいても構わない。
【0009】
本発明において、収容体の少なくとも一部は、可視光線を遮断し、赤外線を透過する材料からなるものであっても構わない。これによれば、実使用時にMEMSデバイス内に可視光線が入射しないことから、可視光線の入射による劣化や誤動作を防止することが可能となる。この場合、収容体の少なくとも一部は、シリコン又はヒ化ガリウムからなるものであっても構わない。これによれば、収容体の加工が容易となるだけでなく、収容体の全体をシリコン又はヒ化ガリウムによって構成することにより、熱膨張係数の差に起因する応力の発生を防止することが可能となる。
【0010】
本発明によるMEMSデバイスの製造方法は、収容体の内部に硬磁性体を収容した後、磁場を印加した状態で収容体を介して硬磁性体に光を照射することにより、硬磁性体を局所的に着磁することを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、収容体の内部に硬磁性体を収容した後にレーザー等の光を用いた着磁を行っていることから、着磁した硬磁性体の熱減磁を防止することが可能となる。
【0012】
本発明において、一様な強磁場によって硬磁性体を一方向に着磁した後、着磁方向とは異なる方向の磁場を印加した状態で光を照射することにより、硬磁性体に磁化方向の異なる複数の磁化領域を形成しても構わない。これによれば、着磁の回数を減らすことが可能となる。
【0013】
本発明において、所定方向の磁場を印加した状態で光を照射した後、所定方向とは異なる方向の磁場を印加した状態で光を照射することにより、硬磁性体に磁化方向の異なる複数の磁化領域を形成しても構わない。これによれば、強磁場による着磁を省略することが可能となる。或いは、硬磁性体に互いに磁化方向の異なる3以上の磁化領域を形成することにより、ハルバッハ配列などのより複雑な着磁パターンを実現することも可能となる。
【0014】
本発明において、光を部分的に遮断する領域を有するマスクを介して光を照射することにより、硬磁性体の複数箇所を同時に着磁しても構わない。これによれば、短時間でレーザー等の光を用いた着磁を完了することが可能となる。
【0015】
本発明において、収容体の少なくとも一部は、可視光線を遮断し、赤外線を透過する材料からなり、収容体の少なくとも一部を介して、赤外線波長を有する光を照射しても構わない。これによれば、実使用時にMEMSデバイス内に可視光線が入射しないことから、可視光線の入射による劣化や誤動作を防止することが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
このように、本発明によれば、磁気デバイスを含むMEMSデバイスにおいて、気密封止に起因する熱減磁を防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本発明の第1の実施形態によるMEMSデバイス1の構造を説明するための模式的な断面図である。
【
図2】
図2は、MEMSデバイス1の第1の製造方法を説明するための模式図である。
【
図3】
図3は、MEMSデバイス1の第1の製造方法を説明するための模式図である。
【
図4】
図4は、MEMSデバイス1の第1の製造方法を説明するための模式図である。
【
図5】
図5は、MEMSデバイス1の第2の製造方法を説明するための模式図である。
【
図6】
図6は、MEMSデバイス1の第2の製造方法を説明するための模式図である。
【
図7】
図7は、MEMSデバイス1の第2の製造方法を説明するための模式図である。
【
図8】
図8は、MEMSデバイス1の第2の製造方法を説明するための模式図である。
【
図9】
図9は、MEMSデバイス1の第2の製造方法を説明するための模式図である。
【
図10】
図10は、MEMSデバイス1の第2の製造方法を説明するための模式図である。
【
図11】
図11は、磁化領域22A~22Dをハルバッハ配列した例を示す模式図である。
【
図12】
図12は、マスク47を介してレーザー光48を照射する方法を説明するための模式図である。
【
図13】
図13は、本発明の第2の実施形態によるMEMSデバイス2の構造を説明するための模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
【0019】
図1は、本発明の第1の実施形態によるMEMSデバイス1の構造を説明するための模式的な断面図である。
【0020】
図1に示すMEMSデバイス1は、収容体10と、収容体10の内部に収容された磁気デバイス20とを備えている。収容体10は、磁気デバイス20を支持するとともに気密封止するものであり、回路基板部11と蓋部12によって構成されている。このうち、蓋部12は赤外線又は可視光線を透過する材料からなる。赤外線又は可視光線を透過する材料としては、シリコン、ヒ化ガリウム、ガラス、樹脂などが挙げられる。このうち、シリコンは、波長が約1100nm以上の赤外線を透過し、それ未満の波長の光は遮断する。ヒ化ガリウムは、波長が900nm以上の赤外線を透過し、それ未満の波長の光は遮断する。ガラス及び樹脂の光透過性は、組成によって変化する。回路基板部11については赤外線又は可視光線を透過する材料である必要はないが、蓋部12と同じ材料を用いれば、温度変化によって接合部13に加わる応力を低減することが可能となる。接合部13は、接着剤や金属などを接着層として挟む間接接合によるものであっても構わないし、直接基板同士を接合する直接接合によるものであっても構わない。
【0021】
磁気デバイス20は、基板21の表面に硬磁性体22が形成された構成を有しており、バネ23によって収容体10に弾性支持されている。
図1に示す模式図では、バネ23が蓋部12に支持されているが、回路基板部11に支持されるものであっても構わないし、バネ23が立体的に加工された基板21の一部であっても構わない。つまり、基板21自体を収容体10に固定し、立体的に加工された基板21の一部をバネ23とし、バネ23によって硬磁性体22を支持する構造であっても構わない。このように、硬磁性体22は、収容体10に直接的に弾性支持されていても構わないし、収容体10に間接的に弾性支持されていても構わない。特に限定されるものではないが、本実施形態においては基板21が蓋部12と同じ材料によって構成されている。一例として、蓋部12と基板21がいずれもシリコンからなる。
【0022】
硬磁性体22は、磁化方向が互いに異なる複数の磁化領域22A,22Bを有している。磁化領域22A,22Bに表示された矢印は磁界の向きを示し、矢印の先がN極、矢印の根元がS極である。
図1に示す例では、磁化領域22A,22Bがx方向に交互に配列されており、いずれもy方向に着磁されている。硬磁性体22の厚さは0.1μm~1mm程度であり、真空蒸着法などを用いて基板21上に形成した膜であっても構わないし、めっき法などを用いて基板21上に成膜した厚膜であっても構わない。特に限定されるものではないが、硬磁性体22としては昇温による保磁力低下が大きいR-Fe-B系硬磁性体を用いることが好ましい。これによれば、比較的低温でレーザー着磁が可能となる。個々の磁化領域22A,22Bのサイズは微少であり、x方向における幅は1mm以下である。このように、磁化領域22A,22Bが微少サイズを有していることから、あらかじめ着磁されたバルク状の硬磁性体を基板21に接着することによって硬磁性体22を構成することは現実的ではない。
【0023】
図1に示すように、回路基板部11には硬磁性体22と向かい合うように複数の配線パターン31が形成されている。配線パターン31は、回路基板部11を貫通するビア導体32を介して外部端子33に接続されている。そして、配線パターン31に所定方向の電流を流すと、硬磁性体22と配線パターン31の間に電磁力が働き、硬磁性体22と配線パターン31のx方向における相対的な位置関係が変化する。この場合、本実施形態によるMEMSデバイス1はアクチュエータとして機能する。或いは、外力が作用することによって、硬磁性体22と配線パターン31のx方向における相対的な位置が変化すると、配線パターン31には誘導電流が発生する。したがって、本実施形態によるMEMSデバイス1は、エネルギハーベスタとしても機能する。また、同様の構成や配線パターンの代わりに硬磁性体の移動を検知するシステムを組み込む構成とすることで、加速度計や磁場センサや変位センサとしても機能する。
【0024】
次に、本実施形態によるMEMSデバイス1の製造方法について説明する。
【0025】
図2~
図4は、MEMSデバイス1の第1の製造方法を説明するための模式図である。
【0026】
第1の製造方法においては、まず
図2に示すように、磁気デバイス20を収容体10に気密封止した後、強磁場発生機のコイル40に電流を流すことによって硬磁性体22を一方向に着磁する。気密封止する際には、磁気デバイス20が高熱に晒されるが、気密封止した後に着磁していることから熱減磁の問題は生じない。
【0027】
次に、
図3に示すように、磁石41を用いて所定の方向に磁場42を印加した状態で、蓋部12及び基板21を介して硬磁性体22の所定の位置22Hにレーザー光43を照射する。レーザー光43は、蓋部12及び基板21を透過する波長を選択する必要があり、例えば蓋部12及び基板21がシリコンからなる場合、波長が約1100nm以上の赤外線レーザーが用いられる。
【0028】
これにより、レーザー光43が照射された位置22Hにおいては硬磁性体22が局所的に加熱され、熱減磁する。そして、十分に昇温すると、
図4に示すように、レーザー光43が照射された位置が磁場42と同じ方向に着磁され、磁化領域22Bが形成される。レーザー光43と磁場42を適切に調整することで、降温後も磁化領域22Bの着磁は維持される。このようなレーザー光43の照射を必要な位置に繰り返し行うことにより、
図1に示すように、磁化方向の異なる複数の磁化領域22A,22Bを形成することができる。
【0029】
このように、本実施形態においては、蓋部12及び基板21の材料として赤外線又は可視光線を透過する材料を用い、磁気デバイス20を収容体10に気密封止した後、蓋部12及び基板21を介してレーザー着磁していることから、磁化方向が互いに異なる複数の磁化領域22A,22Bを形成することが可能となる。尚、
図2~
図4に示す例では、蓋部12側からレーザー光43を照射しているが、配線パターン31を避けてレーザー光43を照射可能であれば、回路基板部11側からレーザー光43を照射しても構わない。この場合、回路基板部11の材料として、赤外線又は可視光線を透過する材料を用いればよく、蓋部12や基板21が赤外線又は可視光線を透過する材料からなる必要はない。また、回路基板部11又は蓋部12の全体が赤外線又は可視光線を透過する材料からなる必要はなく、レーザー光43を透過させる必要のある部分だけが赤外線又は可視光線を透過する材料からなるものであっても構わない。
【0030】
特に、回路基板部11又は蓋部12の材料として、シリコン又はヒ化ガリウムなど、可視光線を遮断し、赤外線を透過する材料を用いれば、実使用時においてMEMSデバイス1内に可視光線が入射しないことから、可視光線の入射による劣化や誤動作を防止することができる。しかも、シリコン又はヒ化ガリウムは、半導体プロセスにおいて広く用いられる材料であり、加工性に優れるとともに加工技術も発達していることから、回路基板部11又は蓋部12の材料としてこれらの材料を用いることにより、製造コストを削減することができる。
【0031】
また、
図2~
図4に示す方法では、レーザー着磁を行う前に強磁場によって硬磁性体22の全体を一方向に着磁していることから、レーザー光43の照射回数を少なくすることが可能となる。
【0032】
なお、本製造方法における加熱はレーザーを用いたものに限定するものではなく、収容体を透過する波長さえ備えていれば、どのような光であっても構わない。半導体プロセスにおいて広く用いられる露光機などを活用すれば、追加設備なしで本手法を適用できる。
【0033】
また、本製造方法では磁気デバイス20は気密封止されているが、気密封止に限らず組立後のレーザー着磁が必要な場合にも本手法は適用できる。
【0034】
図5~
図10は、MEMSデバイス1の第2の製造方法を説明するための模式図である。
【0035】
第2の製造方法においては、まず
図5に示すように、磁気デバイス20を収容体10に気密封止した後、
図6に示すように、磁石41を用いて所定の方向に磁場42を印加した状態で、蓋部12及び基板21を介して硬磁性体22の所定の位置22Hにレーザー光43を照射する。これにより、
図7に示すように、レーザー光43が照射された位置が局所的に着磁され、磁化領域22Bが形成される。このようなレーザー光43の照射を必要な位置に繰り返し行うことにより、
図8に示すように、複数の磁化領域22Bが形成される。
【0036】
次に、
図9に示すように、磁石41とは極性が異なる磁石44を用いて逆方向に磁場45を印加した状態で、蓋部12及び基板21を介して硬磁性体22の所定の位置22Hにレーザー光46を照射する。これにより、
図10に示すように、レーザー光46が照射された位置が局所的に着磁され、磁化領域22Aが形成される。このようなレーザー光46の照射を必要な位置に繰り返し行うことにより、
図1に示すように、磁化方向の異なる複数の磁化領域22A,22Bを形成することができる。
【0037】
このように、
図5~
図10に示す方法では、強磁場による着磁を省略していることから、強磁場発生機を用いる必要がなくなる。さらに、x方向の磁場を印加した状態でレーザー着磁することにより、
図11に示すように、x方向に着磁した磁化領域22C,22Dを形成することも可能である。ここで、x方向に着磁した磁化領域22C,22Dを磁化領域22A,22B間に形成すれば、ハルバッハ配列を実現することも可能である。さらに、
図12に示すように、レーザー光46を部分的に遮断する領域を有するマスク47を介して硬磁性体22に大口径のレーザー光48を照射することにより、硬磁性体22の複数箇所を同時に着磁することも可能である。これによれば、短時間でレーザー着磁を完了することが可能となる。
【0038】
図13は、本発明の第2の実施形態によるMEMSデバイス2の構造を説明するための模式的な断面図である。
【0039】
図13に示すMEMSデバイス2は、収容体50と、収容体50の内部に収容された磁気デバイス60とを備えている。収容体50は、回路基板部51と、蓋部52と、回路基板部51と蓋部52の間に空間を形成するスペーサ53によって構成されている。このうち、蓋部52は、シリコンなど赤外線又は可視光線を透過する材料からなる。回路基板部51及び蓋部52は、不透明な樹脂など、赤外線及び可視光線を透過しない材料からなるものであっても構わない。
【0040】
磁気デバイス60は、2つのキャビティを有する基板61と、バネ66によって基板61のキャビティ内にそれぞれ独立して弾性支持された可動部62,63を有している。可動部62,63の表面にはそれぞれ硬磁性体64,65が形成されている。硬磁性体64,65はそれぞれ単一の硬磁性体であり、互いに異なる方向に着磁されている。磁気デバイス60の基板61は、ボンディングワイヤ71を介して、回路基板部51に設けられた外部端子72に接続されている。
【0041】
このような構成を有するMEMSデバイス2に対しては、上述したMEMSデバイス1と同様、気密封止した後、蓋部52を介したレーザー着磁、或いは、強磁場による一方向着磁とレーザー着磁の組み合わせによって、硬磁性体64,65を互いに異なる方向に着磁することができる。本実施形態が例示するように、本発明において、磁化方向が互いに異なる複数の磁化領域が単一の硬磁性体内に形成されている必要はなく、磁化方向が互いに異なる複数の硬磁性体がそれぞれ異なる硬磁性体内に別個に設けられていても構わない。このようなMEMSデバイス2は、例えば多自由度アクチュエータ、複数の方向からの加振で発電可能なハーベスタ、慣性センサなどとして機能する。また、可動部を独立させてアレイ状に並べることでデジタルマイクロミラーデバイスや触覚デバイスとして機能させることもでき、さらに、硬磁性体の移動を検知できるシステムを組み合わせることで、磁場センサや変位センサとしても機能させることもできる。
【0042】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【実施例0043】
図2に示したMEMSデバイス1の前駆体を実際に作製し、
図3に示すようにレーザー光43を照射することによって着磁を行った。基板21としては、厚み3μmの酸化膜を表面に有する厚さ200μmの両面研磨シリコン基板を用い、その表面にスパッタリング法によって厚さ6μmのNd-Fe-B硬磁性体を成膜することにより硬磁性体22を形成した。回路基板部11及び蓋部12の材料はいずれもシリコンとし、直接接合によって両者を接合した。硬磁性体22は接合後にデバイス全体に最大7Tのパルス磁場を印加することで、一様に着磁し、その後、レーザー光43で加熱した。レーザー光43の波長は1100nmとし、スポット径50μm、出力2.7W、走査速度500mm/sで照射した。磁場42は、0.5Tの静磁場とした。
【0044】
レーザー着磁後、MEMSデバイス1から基板21と硬磁性体22を取り出し、ホール素子を用いて硬磁性体22の表面から100μmの位置を走査し、基板面外方向の磁場分布を測定することにより着磁状態を評価した。その結果、
図14に示すように、硬磁性体22に交番磁場が形成されていることが確認され、レーザー着磁が実現していることを確認した。