(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022115424
(43)【公開日】2022-08-09
(54)【発明の名称】シザーズギア
(51)【国際特許分類】
F16H 55/18 20060101AFI20220802BHJP
F16F 9/18 20060101ALI20220802BHJP
【FI】
F16H55/18
F16F9/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021012008
(22)【出願日】2021-01-28
(71)【出願人】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】特許業務法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小澤 恒
【テーマコード(参考)】
3J030
3J069
【Fターム(参考)】
3J030AA02
3J030AA07
3J030AB04
3J030AB07
3J030BA05
3J030BB03
3J030CA10
3J069AA50
3J069EE18
(57)【要約】
【課題】スプリングのバネ定数の設定によりメインギアとサブギアの相対運動が防止できない運転条件においても、歯の衝突を緩和してラトル音を軽減することができるシザーズギアを提供すること。
【解決手段】シザーズギアは、第1ギアと第2ギアの間に略環状のスプリングが設けられ、前記スプリングの一端が前記第2ギアに固定されたシザーズギアであって、前記スプリングの他端に取り付けられ、前記第1ギアに固定されるダンパーを有する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1ギアと第2ギアの間に略環状のスプリングが設けられ、前記スプリングの一端が前記第2ギアに固定されたシザーズギアであって、
前記スプリングの他端に取り付けられ、前記第1ギアに固定されるダンパーを有する、
シザーズギア。
【請求項2】
前記ダンパーは、
前記スプリングの他端に固定されるピストンと、
前記ピストンの先端部が移動可能に収容されるとともに、粘性流体が充填されるケースと、を有し、
前記ピストンの先端部は、
前記スプリングの拡大時に第1方向へ移動し、
前記スプリングの復元時に前記第1方向とは逆の第2方向へ移動する、
請求項1に記載のシザーズギア。
【請求項3】
前記ピストンの先端部の外周面と前記ケースの内周面との間には、前記粘性流体が移動可能な流路が形成されている、
請求項1または2に記載のシザーズギア。
【請求項4】
前記第1ギアは、メインギアであり、
前記第2ギアは、サブギアである、
請求項1から3のいずれか1項に記載のシザーズギア。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、シザーズギアに関する。
【背景技術】
【0002】
動力伝達機構として用いられるギア(歯車)対において、互いに噛み合う歯と歯の間には、バックラッシュと呼ばれる円方向のクリアランスが存在する。駆動トルクが変動する場合、ギア回転が加減速し、ギア対の相対周速度が変化することにより、歯面の解離や衝突が発生する。この現象は、ギアラトルと呼ばれ、これによって発生する騒音は、ラトル音と呼ばれる。
【0003】
ラトル音を低減するために、例えば、メインギアとサブギアとの間においてそれらの回転方向に沿ったスプリングを設置し、その一端をメインギアのストッパピンに拘束し、他端をサブギアのストッパピンに拘束したシザーズギアを用いることが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
シザーズギアでは、メインギアとサブギアの回転方向の相対変位により発生するスプリングの復元力によって相手ギアの歯を挟み込むことにより、ギアラトルの発生を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
シザーズギアでは、スプリングのバネ定数を増加させると、相手ギアとの解離や衝突を抑制する効果が向上する。その一方で、歯面接触の抵抗が増加することにより、駆動損失が増加したり、スプリングとストッパピンの間の接触応力が増加することにより、耐久信頼性が低下したりする。
【0007】
このような観点から、バネ定数は、駆動損失、接触応力、騒音低減効果を考慮して適切に設定される。しかし、駆動トルクや回転速度が一定ではない装置で用いられるシザーズギアでは、運転状態によってはギアラトルを抑制できない場合がある。
【0008】
シザーズギア、シザーズギアに噛み合う相手ギア、相手ギアに噛み合う第3ギアそれぞれの回転挙動と、ギアラトルによるギアシャフトの振動発生との因果関係を調査した。
【0009】
その結果、バネ定数が相手ギアとの解離を抑制するのに十分な設定になっていない条件では、負の駆動トルクが作用した場合、まず、シザーズギアのサブギアが相手ギアを回転させて、相手ギアの歯面が第3ギアから解離して裏側の歯面が第3ギアの歯に衝突する。そして、シザーズギアのメインギアとサブギアが回転方向に相対運動を続ける。その後、正の駆動トルクに反転すると、相手ギアの表側の歯面が第3ギアおよびシザーズギアの表側の歯面に再衝突する。このとき、スプリングの復元力が加わることで、衝突エネルギが増幅され、振幅の大きい振動が発生する。
【0010】
本開示の一態様の目的は、スプリングのバネ定数の設定によりメインギアとサブギアの相対運動を防止できない運転条件においても、歯の衝突を緩和してラトル音を軽減することができるシザーズギアを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示の一態様に係るシザーズギアは、第1ギアと第2ギアの間に略環状のスプリングが設けられ、前記スプリングの一端が前記第2ギアに固定されたシザーズギアであって、前記スプリングの他端に取り付けられ、前記第1ギアに固定されるダンパーを有する。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、スプリングのバネ定数の設定によりメインギアとサブギアの相対運動が防止できない運転条件においても、歯の衝突を緩和してラトル音を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本開示の実施の形態に係るシザーズギアの分解斜視図
【
図2】本開示の実施の形態に係るメインギア、スプリング、およびダンパーを示す平面図
【
図3】本開示の実施の形態に係るダンパーを模式的に示す斜視図
【
図4】本開示の実施の形態に係るダンパーを模式的に示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、各図において共通する構成要素については同一の符号を付している。
【0015】
本実施の形態に係るシザーズギア100の構成について、
図1~
図4を用いて説明する。
図1は、シザーズギア100の分解斜視図である。
図2は、シザーズギア100に含まれるメインギア2、スプリング3、およびダンパー10を示す平面図である。
図3は、ダンパー10を模式的に示す斜視図である。
図4は、ダンパー10を模式的に示す断面図である。
【0016】
シザーズギア100は、例えば、車両に搭載され、エンジンまたはトランスミッション等の動力伝達機構として用いられる。
【0017】
図1に示すように、シザーズギア100は、ギアシャフト1、メインギア2、スプリング3、サブギア4、フランジ5、固定用ボルト6を有する。さらに、シザーズギア100は、
図2~
図4に示すダンパー10(
図1では図示略)を有する。
【0018】
図1に示すように、ギアシャフト1とフランジ5との間には、メインギア2(第1ギアの一例)、スプリング3、サブギア4(第2ギアの一例)が設けられる。固定用ボルト6は、フランジ5の貫通孔(符号略)、および、メインギア2、スプリング3、サブギア4それぞれの開口部分(符号略)に挿通され、ギアシャフト1に設けられたボルト孔(符号略)に挿入され、固定される。
【0019】
図1、
図2に示すように、スプリング3は、アルファベットの「C」の形状(略環状)をしており、端部3a、3bを有する。スプリング3は、
図2に示すように、メインギア2に設けられた環状の溝部2aに配置される。
【0020】
図1に示したスプリング3の端部3bは、
図2に示すように、サブギア4に設けられたストッパピン4a(
図1では図示略)に固定(拘束)される。なお、
図2では、サブギア4の図示を省略している。
【0021】
一方、
図1に示したスプリング3の端部3aには、
図2に示すように、ダンパー10が取り付けられる。ダンパー10は、メインギア2の溝部2aに設けられたダンパー固定部(
図1では図示略)に固定される。ダンパー固定部は、例えば、ダンパー10を嵌め込むことが可能な形状である。また、ダンパー固定部の位置は、例えば、従来のシザーズギアにおいて、メインギアに設けられるストッパピンの位置である。
【0022】
図2~
図4に示すように、ダンパー10は、ピストン11、ケース12、キャップ13を有する。
【0023】
図4に示すように、ピストン11は、外部に露出する円柱部11aと、ケース12内に収容される円柱部11b(ピストンの先端部の一例)と、を有する。
図4に示すように、円柱部11aの径は、円柱部11bの径よりも小さい。
【0024】
図4において、矢印A、Bは、ピストン11が移動する方向を示している。
【0025】
図3に示すように、ピストン11の円柱部11a内には、スプリング3の端部3aを固定可能なスプリング固定部11cが設けられている。スプリング固定部11cは、例えば、端部3aを嵌め込むことが可能な形状である。なお、
図3では、スプリング固定部11cを図示するために、ピストン11(円柱部11a)の図示を部分的な断面としている。
【0026】
ピストン11の材料としては、例えば、鉄またはステンレス等が挙げられる。
【0027】
ケース12は、中空を有する円筒状の部材である。ケース12の両端部(
図3、
図4における左右方向の端部)には、径の異なる円形の開口部(符号略)が設けられている。以下、径の小さい方の開口部を「第1開口部」といい、径の大きい方の開口部を「第2開口部」という。
【0028】
第1開口部の径は、ピストン11の円柱部11aの径より大きく、ピストン11の円柱部11bの径より小さい。第2開口部の径は、ピストン11の円柱部11bの径より大きい。
【0029】
図4に示すように、第1開口部には、ピストン11の円柱部11aが挿通され、第1開口部と円柱部11aとの間は、シール部材14により封止される。シール部材14としては、耐油性のあるゴム材料(例えば、ニトリルゴム等)を用いることができるが、これに限定されない。
【0030】
図4に示すように、ケース12の内部には、粘性流体15が充填される。粘性流体15としては、例えば、シリコンオイル等が挙げられるが、これに限定されない。
【0031】
粘性流体15の粘度は、スプリング3の復元時におけるサブギア4の衝突速度を緩和可能な粘性減衰力を作用させることができる粘度である。この粘度は、予め実施されたシミュレーション等の結果に基づいて定められる。
【0032】
図4に示すように、ケース12内に粘性流体15が充填された状態において、第2開口部は、キャップ13により封止される。キャップ13は、例えば、溶接、圧入、またはネジ締結等によりケース12に取り付けられる。
【0033】
ケース12およびキャップ13の材料としては、例えば、鉄またはステンレス等が挙げられる。
【0034】
図4に示すように、ケース12の内周面とピストン11の円柱部11bの外周面との間には、流路16が設けられている。これにより、例えば、ピストン11が矢印Aの方向に移動する場合、キャップ13側(第2開口部側)の粘性流体15は、流路16を通り、シール部材14側(第1開口部側)へ移動する。また、例えば、ピストン11が矢印Bの方向に移動する場合、シール部材14側(第1開口部側)の粘性流体15は、流路16を通り、キャップ13側(第2開口部側)へ移動する。
【0035】
以上のように構成されたダンパー10は、駆動トルクが変動した場合、以下のように作用する。
【0036】
例えば、負の駆動トルクが生じた場合、メインギア2とサブギア3の間に相対角変位が生じ、スプリング3が拡大する。このとき、ピストン11は、矢印Bの方向(
図4参照。第1方向の一例)へ移動する。また、そのピストン11の移動に伴い、第1開口部側の粘性流体15は、流路16を矢印Aの方向(
図4参照)へ移動する。このときのピストン11の移動速度に比例する粘性減衰効果により、歯の衝突が緩和される。
【0037】
例えば、正の駆動トルクに反転した場合、負の駆動トルクが生じた場合とは逆向きの相対角変位が生じ、スプリング3が復元する。このとき、ピストン11は、矢印Aの方向(
図4参照。第2方向の一例)へ移動する。また、そのピストン11の移動に伴い、第2開口部側の粘性流体15は、流路16を矢印Bの方向(
図4参照)へ移動する。このときのピストン11の移動速度に比例する粘性減衰効果により、歯の衝突が緩和される。
【0038】
すなわち、ダンパー10は、駆動トルクの変動によりメインギア2とサブギア4の間に相対周速度が生じる場合、粘性流体15による減衰効果により、裏側歯面の衝突を緩衝できる。また、歯の表面の再接触時には、スプリング3の復元力が加わった強い衝突を緩和できる。
【0039】
したがって、ダンパー10を有するシザーズギア100は、スプリング3のバネ定数の設定によりメインギア2とサブギア4の相対運動が防止できない運転条件においても、歯の衝突を緩和してラトル音を軽減できる。
【0040】
なお、本開示は、上記実施の形態の説明に限定されず、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の変形が可能である。
【0041】
例えば、実施の形態では、ダンパー10がスプリング3の端部3aに取り付けられる場合を例に挙げて説明したが、これに限定されない。例えば、ダンパー10は、スプリング3の端部3bに取り付けられてもよい。この場合、ダンパー10は、サブギア4に設けられたダンパー固定部に固定されてもよい。また、この場合、サブギア4が「第1ギア」の一例に相当し、メインギア2が「第2ギア」の一例に相当する。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本開示のシザーズギアは、動力伝達機構として用いられるギア(歯車)に有用である。
【符号の説明】
【0043】
1 ギアシャフト
2 メインギア
2a 溝部
3 スプリング
3a、3b 端部
4 サブギア
4a ストッパピン
5 フランジ
6 固定用ボルト
10 ダンパー
11 ピストン
11a、11b 円柱部
11c スプリング固定部
12 ケース
13 キャップ
14 シール部材
15 粘性流体
16 流路