(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022115447
(43)【公開日】2022-08-09
(54)【発明の名称】水棲動物の養殖装置、および養殖方法
(51)【国際特許分類】
A01K 63/04 20060101AFI20220802BHJP
【FI】
A01K63/04 C
A01K63/04 A
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021012048
(22)【出願日】2021-01-28
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-12-01
(71)【出願人】
【識別番号】514229203
【氏名又は名称】株式会社マイスティア
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【弁理士】
【氏名又は名称】南瀬 透
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100182567
【弁理士】
【氏名又は名称】遠坂 啓太
(74)【代理人】
【識別番号】100219483
【弁理士】
【氏名又は名称】宇野 智也
(72)【発明者】
【氏名】小沢 直史
(72)【発明者】
【氏名】中津 真一
(72)【発明者】
【氏名】北原 崇
【テーマコード(参考)】
2B104
【Fターム(参考)】
2B104CA01
2B104EB05
2B104EB07
2B104EB19
2B104EB20
2B104EB27
2B104ED02
2B104ED19
2B104ED21
2B104ED24
(57)【要約】
【課題】砂層を用いる水棲動物の養殖にあたって、固形の有機物等を効率よく除去し、有機物等のヘドロ化を低減し、溶存酸素濃度を調整しやすい養殖装置を提供する。
【解決手段】養殖水(11)を収容する養殖槽(10)と、養殖槽(10)の底に配置された砂層(12)と、砂層(12)の砂地面に沿って、および/または、砂層(12)の砂地面に向けて、気泡を送出する気泡供給手段(22)と、養殖水(11)の表層で、気泡供給手段(22)により供給された気泡に同伴されて浮上した有機物を除去する水棲動物の養殖装置(100)。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
養殖水を収容する養殖槽と、
前記養殖槽の底に配置された砂層と、
前記砂層の砂地面に沿って、および/または、前記砂層の砂地面に向けて、酸素を含む気泡を送出する気泡供給手段と、
前記養殖水の表層で、前記気泡供給手段により供給された気泡に同伴されて浮上した有機物を除去する水棲動物の養殖装置。
【請求項2】
前記養殖水の表層に、前記浮上した有機物を除去する異物除去手段を、有する請求項1に記載の養殖装置。
【請求項3】
前記気泡供給手段が、
気泡上昇速度が異なる第一の気泡~第三の気泡からなる群から選択される2種以上の気泡を供給することができるものであり、
第一の気泡は、気泡上昇速度が50mm/秒以下であり、
第二の気泡は、気泡上昇速度が5~500mm/秒であり、かつ、前記第一の気泡よりも気泡上昇速度が大きく、
第三の気泡は、気泡上昇速度が50mm/秒以上であり、かつ、前記第二の気泡よりも気泡上昇速度が大きいものである請求項1または2に記載の養殖装置。
【請求項4】
前記気泡供給手段が供給する気泡を、時間帯および/または養殖水の酸素濃度に応じて切り替える切替手段を有する、請求項1~3のいずれかに記載の養殖装置。
【請求項5】
前記気泡供給手段が複数配置されたものであり、
前記養殖槽を平面視したときの供給方向が異なる向きとなるように配置されたものである請求項1~4のいずれかに記載の養殖装置。
【請求項6】
前記水棲動物が、クルマエビである、請求項1~5のいずれかに記載の養殖装置。
【請求項7】
養殖水を収容する養殖槽と、前記養殖槽の底に配置された砂層と、前記砂層の砂地面に沿って、および/または、前記砂層の砂地面に向けて、気泡を送出する気泡供給手段と、を有する養殖装置を用いる水棲動物の養殖方法であり、
前記気泡供給手段により気泡を供給する気泡供給工程と、
前記気泡に同伴されて浮上した有機物を除去する除去工程を有する、水棲動物の養殖方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水棲動物の養殖装置、および養殖方法に関する。特に、エビなどのように砂層を用いる養殖に適した養殖装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
食材の大量生産や安定供給、高品質化などのために様々な魚介類が養殖されている。魚介類の生態によって養殖の条件は異なり、一般的にはそれぞれの魚介類が天然で生息している条件に合わせた養殖がおこなわれている。例えば、クルマエビは、夜行性であり、時間帯によっては砂層で休息しているため、養殖するにあたっても、養殖する場に砂層などを設ける必要がある。砂層を用いて養殖を行うものには、以下の文献などが開示されている。
【0003】
特許文献1は、養殖槽と、前記養殖槽の底部に一定の間隔で配設される給水配管と、を有し、前記給水配管が、側面に一定のピッチで噴出口を備えることを特徴とする水棲動物の養殖装置を開示している。
【0004】
特許文献2は、底部に砂床が設けられ、周壁に沿って海水を浄化する環状の浄化槽が配置された平面円形状の円形水槽と、該底部の中央部に設けられた排水管の上方周縁の海水を一方向に循環させる第1循環機構と、該円形水槽の周壁近傍の海水を同方向に循環させる第2循環機構とを有する水棲動物の養殖装置において、該排水管と該底部に開口する海水供給管とをそれぞれ該浄化槽に連結することを特徴とする水棲動物の養殖装置を開示している。
【0005】
特許文献3は、水槽底部に砂層を設けると共に、砂層内に多数の吹出し口を有しかつ新鮮海水を連続的に供給する海水吹出管を配設したことを特徴とする車えび養殖水槽を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017-085903号公報
【特許文献2】特開2002-360110号公報
【特許文献3】特開昭61-293325号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
砂層を用いる養殖対象の一つにクルマエビがあげられる。クルマエビは、夜行性であり日中は砂中に潜り込み休息している。また、夜間に砂上や水中に出て摂餌の活動をする。このため、クルマエビの養殖には砂が必要である。クルマエビの養殖技術は、半築堤もしくは全築堤の大面積のイケスとも呼ばれる養殖槽に海水を取り込んでいる。また、珪藻類の光合成や、水車による曝気での溶存酸素濃度を調整している。このような従来の伝統的なクルマエビ養殖は以下のような課題がある。
【0008】
(1)溶存酸素量の維持。溶存酸素量を維持するために水車による大量の曝気が必要である。特にクルマエビが活動する夜間に多くなる酸素消費による酸欠を防ぐ必要がある。しかし、従来技術では大型の水車による曝気に膨大な電力コストがかかり、かつ従来技術では底層まで万遍なく溶存酸素量を維持することができない。
(2)固形の有機物やヘドロの堆積。クルマエビの生育環境である砂層に糞・脱皮殻・残餌や珪藻などの固形の有機物が堆積する。堆積した有機物はバクテリアにより分解されヘドロ化していく。このとき酸素も消費されるため、酸素が供給されないエリアが存在すると、酸素が不足し、嫌気性環境が生じることで毒性の高いアンモニアの硝化が進まない。また硫化水素などの有害物質を発生する。特に、砂層に混合された固形の有機物等は除去が難しくなる。
(3)砂層からの除去が困難。砂層に堆積した固形の有機物やヘドロの除去のために、網を引いたり、潜水して人手でヘドロを取り除いたりするために、多大な人的労力が必要である。また、砂層と混在しており、視界も悪いことから熟練者の経験や勘に頼らざるを得ない部分があり効率的に管理しにくい。
【0009】
これらの砂層へのヘドロ蓄積による有害物質発生を防止するために、特許文献1~3のように、砂層から有機物を除去する養殖方法がいくつか提案されている。これらは、有機物を水流で上方に流し出す構造により砂層での有機物の停滞を防止できる。水中に放出された有機物の排出は、フィルタを介して養殖槽の底面にある排水口から行われる。このため、フィルタへの有機物の堆積を防ぐことができない。
【0010】
かかる状況下、本発明は、砂層を用いる水棲動物の養殖にあたって、固形の有機物等を効率よく除去し、有機物等のヘドロ化を低減し、溶存酸素濃度を調整しやすい養殖装置や養殖方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
【0012】
<1> 養殖水を収容する養殖槽と、前記養殖槽の底に配置された砂層と、前記砂層の砂地面に沿って、および/または、前記砂層の砂地面に向けて、酸素を含む気泡を送出する気泡供給手段と、前記養殖水の表層で、前記気泡供給手段により供給された気泡に同伴されて浮上した有機物を除去する水棲動物の養殖装置。
<2> 前記養殖水の表層に、前記浮上した有機物を除去する異物除去手段を、有する前記<1>に記載の養殖装置。
<3> 前記気泡供給手段が、気泡上昇速度が異なる第一の気泡~第三の気泡からなる群から選択される2種以上の気泡を供給することができるものであり、
第一の気泡は、気泡上昇速度が50mm/秒以下であり、
第二の気泡は、気泡上昇速度が5~500mm/秒であり、かつ、前記第一の気泡よりも気泡上昇速度が大きく、
第三の気泡は、気泡上昇速度が50mm/秒以上であり、かつ、前記第二の気泡よりも気泡上昇速度が大きいものである前記<1>または<2>に記載の養殖装置。
<4> 前記気泡供給手段が供給する気泡を、時間帯および/または養殖水の酸素濃度に応じて切り替える切替手段を有する、前記<1>~<3>のいずれかに記載の養殖装置。
<5> 前記気泡供給手段が複数配置されたものであり、前記養殖槽を平面視したときの供給方向が異なる向きとなるように配置されたものである前記<1>~<4>のいずれかに記載の養殖装置。
<6> 前記水棲動物が、クルマエビである、前記<1>~<5>のいずれかに記載の養殖装置。
<7> 養殖水を収容する養殖槽と、前記養殖槽の底に配置された砂層と、前記砂層の砂地面に沿って、および/または、前記砂層の砂地面に向けて、気泡を送出する気泡供給手段と、を有する養殖装置を用いる水棲動物の養殖方法であり、前記気泡供給手段により気泡を供給する気泡供給工程と、前記気泡に同伴されて浮上した有機物を除去する除去工程を有する、水棲動物の養殖方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の養殖装置や養殖方法によれば、砂層を用いる水棲動物の養殖にあたって、固形の有機物等を効率よく除去し、有機物等のヘドロ化を低減し、溶存酸素濃度を容易に調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の第一の実施形態に係る養殖装置を正面視した概要図である。
【
図2】本発明の第一の実施形態に係る養殖装置を平面視した概要図である。
【
図3】本発明の養殖装置に用いる異物除去手段を斜視した概要図である。
【
図4】本発明の養殖装置に用いる異物除去手段を正面視した概要図である。
【
図5】本発明の養殖装置に用いる異物除去手段を平面視した概要図である。
【
図6】本発明の第二の実施形態に係る養殖装置を正面視した概要図である。
【
図7】本発明の第三の実施形態に係る養殖装置を正面視した概要図である。
【
図8】本発明の養殖方法の一例を示すフロー図である。
【
図9】本発明の養殖方法の他の一例を示すフロー図である。
【
図10】本発明の養殖方法の制御を説明するための図である。
【
図11】本発明において供給する気泡の概要を示すための像である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を変更しない限り、以下の内容に限定されない。なお、本明細書において「~」という表現を用いる場合、その前後の数値を含む表現として用いる。
【0016】
[本発明の養殖装置]
本発明の養殖装置は、養殖水を収容する養殖槽と、前記養殖槽の底に配置された砂層と、前記砂層の砂地面に沿って、および/または、前記砂層の砂地面に向けて、気泡を送出する気泡供給手段と、前記養殖水の表層で、前記気泡供給手段により供給された気泡に同伴されて浮上した有機物を除去する。
【0017】
[本発明の養殖方法]
本発明の養殖方法は、養殖水を収容する養殖槽と、前記養殖槽の底に配置された砂層と、前記砂層の砂地面に沿って、および/または、前記砂層の砂地面に向けて、気泡を送出する気泡供給手段と、を有する養殖装置を用いる水棲動物の養殖方法であり、前記気泡供給手段により気泡を供給する気泡供給工程と、前記気泡に同伴されて浮上した有機物を除去する除去工程を有する。
【0018】
本発明の養殖装置や養殖方法によれば、砂層を用いる水棲動物の養殖にあたって、固形の有機物等を効率よく除去し、有機物等のヘドロ化を低減し、適切な溶存酸素濃度を維持することができる。なお、本願において本発明の養殖装置により本発明の養殖方法を行うこともでき、本願においてそれぞれに対応する構成は相互に利用することができる。
【0019】
本発明は、甲殻類等の水棲動物の生息環境である砂層や養殖海水を含めた養殖槽全体を、人手や電気代などのランニングコストを抑えて常時清潔に保ち、水棲動物養殖の品質と生産性を上げることができる養殖装置を提供する。
【0020】
[第一の実施形態]
図1は、本発明の第一の実施形態に係る養殖装置を正面視した概要図である。また、
図2は、本発明の第一の実施形態に係る養殖装置を平面視した概要図である。養殖装置100は、養殖水11を収容するための養殖槽10と、砂層12と、気泡供給手段22とを有する。また、異物除去手段30や、給水手段50等を有する。
【0021】
[養殖槽10]
養殖槽10は、養殖水11を収容する。養殖槽10の大きさは、養殖する水棲動物の大きさや養殖密度などを考慮して設定される。本発明によれば、養殖槽内の全体を効率よく養殖に利用することができるため、例えばエビなどの一般的には大型のイケスで養殖されるものでも、多角形柱状等の場合は一辺が5~20m程度、円柱状等の場合は直径5~20m程度の比較的小規模な養殖槽を用いることができる。これらより大型のものとしてもよい。
【0022】
養殖槽10の形状は、養殖することができれば多角形柱状や円柱状、錘台状など特に限定されない。養殖槽10内の一部に滞留が生じにくいように平面視したときに円となるような外形が円柱状のものや、底面に砂層などが収集されやすいような円錐台状のものなどを用いることができる。
図1に示す養殖装置100の養殖槽10は、円柱状のものを用いている。
【0023】
養殖槽10は、十分な強度を有する世に、コンクリートや、繊維強化プラスチック(FRP)、ポリプロピレン樹脂などで形成することができる。
【0024】
[養殖水11]
養殖水11は、養殖対象の水棲動物に応じたものが用いられる。例えば、海水や淡水、これらの中間程度の汽水などを用いることができる。これらは、人工的に調整したものを用いてもよいし、河川や海から取水したものを用いてもよい。
【0025】
[水棲動物]
養殖装置100は、水棲動物を養殖するためのものである。養殖対象の水棲動物は、砂層12を必要とする食用される魚介類を対象とすることができる。例えば、甲殻類や貝類とすることができる。甲殻類としてはエビや、シャコなど潜砂性を有する生態である。また、貝類としてはアサリやトリガイなどがあげられる。中でも、砂に潜って休息する生態を有し、食用に広く養殖されているクルマエビなどのエビが好ましい。
【0026】
[砂層12]
砂層12は、養殖槽10の底部側に配置される砂の層である。砂層12に用いられる砂は、水棲動物の生態に適したものを適宜用いることができる。海砂を用いるのが一般的であるが、水棲動物が潜りやすく、固形の有機物等が移動しやすいように、例えばアンスラサイトのように密度が小さく、粗い砂などを用いることが好ましい。砂層12の厚さは水棲動物の種類により適宜調整される、例えばクルマエビの場合約5~20cm程度とすることができる。
【0027】
[気泡供給手段22]
気泡供給手段22は、砂層12の砂地面に沿って気泡を送出する。または、砂層12の砂地面に向けて気泡を送出する。気泡供給手段22は、砂地面に沿う方向と、砂地面に向ける方向の両方の向きに気泡を送出するものとしてもよい。このとき、複数の気泡供給手段22を配置して、砂地面に沿う方向と、砂地面に向ける方向の両方の向きに送出してもよいし、単独の気泡供給手段22が複数の向きに気泡を送出するものとすることで両方の向きに送出してもよい。
【0028】
気泡供給手段22は、循環ポンプ23により、給水管21から養殖水11を吸入し、送水管20と気泡供給手段22を介して、気泡を含んだ水として気泡を養殖槽10内に供給する。気泡供給手段22は気泡径を可変に制御できるものを用いることができる。なお、気泡を含んだ水を、気泡水と呼ぶ場合がある。
【0029】
本発明の養殖装置等は、砂層12周辺の固形の有機物を排出するために空気の力を利用する。このために、砂層の表層部もしくは下部に設けた気泡供給手段から気泡を含む気泡水を送出する。気泡による泡沫分離効果により、固形の有機物を砂層から上方に放出し、さらにその有機物を水中に留めることなく水面にまで押し上げる。
【0030】
気泡供給手段22が供給する気泡は、酸素を含む気泡である。このような気泡を供給するにあたり、用いる気体は、例えば、空気や、高純度の酸素、また、適宜、酸素と、空気や他の気体を混合して酸素濃度を調整した混合気体などを用いることができる。気体の酸素濃度は、20~100%とすることができる。
【0031】
気泡供給手段22は、気泡上昇速度が異なる2種以上の気泡を供給することができるものとすることが好ましい。この気泡は、以下の第一の気泡~第三の気泡からなる群から選択される2種以上の気泡を供給するものが好ましい。気泡上昇速度は、25℃の海水におけるものとする。なお、Stokes式に基づくと、25℃の海水を想定したとき、水深1mの水底に発生した気泡が水面に到達するまでの時間は、気泡径が50μmの場合は約10分(上昇速度:約1.5mm/秒)、気泡径が100μmの場合は約2.7分(上昇速度:約6.1mm/秒)、気泡径が1mmの場合は約1.6秒(上昇速度:約611mm/秒)である。
【0032】
第一の気泡は、気泡上昇速度が50mm/秒以下である。気泡上昇速度の下限は特に設定しなくてもよく、ウルトラファインバブルとも呼ばれるようなナノバブルは、実質0mm/秒や理論上負の値程度となる場合もある。このような第一の気泡は、溶存酸素濃度の向上に有用であり、酸素消費が活発な時間帯などに積極的に供給する。
【0033】
第二の気泡は、気泡上昇速度が5~500mm/秒であり、かつ、前記第一の気泡よりも気泡上昇速度が大きいものである。第二の気泡は、溶存酸素濃度の向上に加えて、気体の容量に対する表面積が比較的大きいため、有機物の吸着や上昇に適した気泡である。このため、有機物が排出される時間帯などに積極的に供給する。
【0034】
第三の気泡は、気泡上昇速度が50mm/秒以上であり、かつ、前記第二の気泡よりも気泡上昇速度が大きいものである。第三の気泡は、特に上限を設けなくてもよいが、例えば、5m/秒以下や、2m/秒以下、1m/秒以下などを上限としてもよい。第三の気泡は、有機物の吸着や上昇にも適した気泡であり、さらに、養殖水11の底側から水面側への上昇水流や、水面で外周向きの対流の生成にも適している。この上昇する水流と水面での外周向きの対流にのって、有機物を吸着した気泡を水面に移動させ、養殖槽10の外周に移動させる。このため、有機物を排出する時間帯の後で浮上させた有機物を異物除去手段30から養殖槽10の外に排出させるときに積極的に供給する。
【0035】
これらの第一の気泡~第三の気泡は、時間帯や、センサーなどで測定した溶存酸素濃度や、カメラなどで捉えた水棲動物の活動状態などに応じて、切り替えることができるように制御することができる。制御にあたっては、同一の気泡供給手段22の運転条件の切り替えで対応してもよいし、それぞれの気泡に適した気泡供給手段22を複数配置して供給してもよい。
【0036】
なお、生物が活発に索餌・摂餌活動をする、または、脱皮活動を行う時間帯に微細気泡径を極小サイズにして酸素溶解効果を高めて溶存酸素量を適正な値に維持するにあたって、生物が摂餌活動および脱皮活動を行うのに必要な酸素消費量を維持できる値以上であればよいと考えられる。参考として、従来、クルマエビの場合は必要な酸素消費量は安静時で77~135mL/kg/時、活動中はその約3倍といわれている(参考文献:全国沿岸漁業振興開発協会(1993)水生生物の環境条件、沿岸漁場整備開発事業施設設計指針)。
【0037】
本発明に係る養殖装置の実証実験で、DO(Dissolved Oxygen、溶存酸素)は比較的低い値で推移する場合がある。また、従来の養殖に対し車海老の活動は少なくなる場合がある。これは、養殖密度が高く、酸素消費が多いことで、活動と酸素濃度低下のバランスを保つために余計な活動をしていないか、餌を探し回る必要がないので余計な活動を行わないためと考えられる。また、これらの傾向がみられる中でも、成長は速く頻繁に脱皮する。すなわち、餌を探すためなどに活動する必要性が少ない分、栄養を成長に使えているものと考えられる。よって、溶存酸素濃度を過剰に高く維持せずとも、消費電力などを抑えて、活動可能な酸素量を維持すれば、成長を早めることができると考えられる。
【0038】
気泡は、例えば、循環ポンプ23と気泡発生ノズルにより発生させることができる。気泡の大きさは、これらの気泡発生ノズルの供給量などを制御することなどで調整される。このため、予め25℃の海水における気泡の上昇速度をあらかじめ把握し、その設定条件を、養殖時の気泡の上昇速度とみなしてよい。
【0039】
気泡上昇速度は、気泡供給手段22から養殖水11の水面までの距離をDとし、気泡供給手段22から気泡が生成され養殖水11の水面まで到達する映像を取得しある時点T0に発生した気泡が養殖水11の水面に到達する時間T1を計測し、D/(T1-T0)で計算することにより導出することができる。気泡供給手段22から生成された気泡が映像として認識できないほど小さい場合は気泡上昇速度が50mm/秒以下の気泡と特定できる。気泡供給手段22から生成された気泡が映像として認識できる大きさの場合は、T0の時点で発生した気泡を無作為に100点など捕捉してこれらの上昇速度を計測しその平均値を取得することにより、そのノズルから供給されている気泡の大きさを導出することができる。
【0040】
気泡供給手段22は、養殖中、常時動作させておく必要はない。水棲動物の活動が活発になり溶存酸素の低下が懸念される時間帯や、糞・残餌・脱皮殻が発生する時間帯に集中的に動作するものとしてもよい。または、これらの指標となる溶存酸素濃度のセンサーなどを取り付けて、その測定値に連動して運転の有無を制御する制御手段を有するものとしてもよい。
【0041】
砂層12に放出された気泡水は、砂層12の表層部を拡散し、砂層12付近の有機物を吸着し養殖水11に押し上げ、さらに養殖水11の水面まで到達する。養殖水11の水面に到達した有機物を吸着した気泡は泡状のまま水面を漂い外部に排除される。外部に排除するにあたっては、養殖槽10の容器からオーバーフローさせてもよいし、養殖槽内に除去するための構成を設けてもよい。
【0042】
[有機物(異物)]
水棲動物を養殖に伴い、糞や、脱皮殻、残餌、珪藻などの固形状の有機物などが生じる。これらは、微生物の栄養源となったり、意図しない微生物の代謝が生じたり、分解されずに堆積したりして、水質汚染の原因となる場合がある。また、砂層と混合されやすい場合もあり、砂層の隙間などに入り込むと溶存酸素が供給されにくくなり、嫌気的に処理されて水棲動物にとって有害な成分が発生したり、ヘドロ化しさらに悪化する恐れがある。本発明においては、これらの固形状の有機物などを気泡に同伴させて除去する。なお、これらの固形状の有機物は完全に固体であるものに限られず、粘性を有するようなものも含み、異物と呼ぶ場合もある。
【0043】
[異物除去手段30]
異物除去手段30は、養殖槽10の養殖水11の表層付近に取水口が配置されるように配置される。養殖装置100において、有機物等を同伴した気泡が、養殖水10の水面の表層に集まり、水流や対流により取水口に入り、配管31を介して養殖槽10の外部に排出できる。
【0044】
[異物除去手段30の取水口構造]
図3は、本発明の養殖装置に用いる異物除去手段を斜視した概要図である。
図3は、取水口付近の構造を示すものである。
図3(a)は、取水口の上部に櫛歯301を設けたものである。また、
図3(b)は、取水口の上部に網302を設けたものである。これらの構造を設けることで、養殖水11に含まれる排除対象でない水棲動物などが流失することを防止する。気泡に同伴された異物は、この櫛歯301や網302の隙間から配管31を通じて養殖槽10から排出される。
【0045】
図4は、本発明の養殖装置に用いる異物除去手段を正面視した概要図である。
図4(a)は、養殖水11の水面111に、異物除去手段30の取水口を配置した状態である。
図4(b)は、フロート303が取水口付近に配置され、配管がフレキシブル配管311とした構造である。これにより、水位が変わっても、異物除去手段30の取水口が養殖水11の水面111付近となる。配管310や、フレキシブル配管311は、養殖槽の壁101の外部に排出口となるように配管されている。また、フレキシブル配管311を用いることで、水流や風向きなどにより異物除去手段30を気泡に付着した泡状の不要有機物が集まる領域に移動させやすくなり、より異物除去効果が高まる。
【0046】
図5は、本発明の養殖装置に用いる異物除去手段を平面視した概要図である。
図5に示す異物除去手段30は、壁101と、壁101の近傍に配置された仕切り33との間に配置されている。仕切り33は水面付近に配置されて、中層から底層にかけては開放されて養殖水11が循環できるものとすることができる。仕切り33は、養殖水11の循環に水流が生じるようにして、壁101と仕切り33とで水流の進行方向に対して凹状として水流を受けるようなものとすることができる。これにより水面に浮上した有機物等を同伴する泡が、水流により移動して、水流に対する凹状の部分に捕捉されるように集まり、異物除去手段30の取水口から効率的に排出される。
【0047】
このように、有機物を同伴した気泡の排出を促すために養殖水槽内に旋回流を作り、異物除去手段を養殖水槽の周壁部に設けてもよい。また、風向きなどにより泡状の有機物が移動する先に異物除去手段を点在させるものとしてもよい。また、外部から給水により水槽内の水位を上昇させてもよい。
【0048】
[排水口40]
排水口40は、養殖槽10の底に配置された排水するための開口部である。排水口40は、養殖後に水を抜くときなどに用いられる。排水フィルタ41は砂層12の砂や水棲動物が流出しないように排水口40の取水口付近に設置されている。
【0049】
[給水手段50]
給水手段50は、養殖槽10内に養殖水を供給する手段である。養殖槽10内の養殖水11が良好な状態のときは、給水手段50は停止して、養殖槽10内の養殖水11を循環させて利用することができる。養殖水11が悪化した状態のときは、外部から給水手段50を介して給水することで養殖槽10内の水を改善することができる。また、給水量により、水面に浮上した有機物等を同伴する泡が異物除去手段30の取水口から排出されるように水位を調整することもできる。
【0050】
[浄水処理]
本発明の養殖装置には、UV殺菌装置などの浄水手段を用いて、ウイルスや珪藻類などを除去した後にバチルスなどの微生物を添加した養殖水を用いることも可能である。これにより病害を防止することができ、水質を維持しやすくなり、透明度が上昇して槽内の状態を把握しやすくなる。
【0051】
[第二の実施形態]
図6は、本発明の第二の実施形態に係る養殖装置を平面視した概要図である。養殖装置1001は、第一の実施形態に係る養殖装置100の変形例である。養殖装置1001は、気泡供給装置22が複数配置されたものである。また、これらの複数の気泡供給装置22は、養殖槽を平面視したときの供給方向が異なる向きとなるように配置されている。複数の気泡供給装置22から複数の異なる向きに気泡や気泡水を供給するものとすることで、気泡が供給される場所が広範なものとなり、水流もより大きくなる。気泡供給装置22は、2つ以上や3つ以上とできる。過剰に配置すると、設備の準備に係る手間や、運転に伴い消費する電力等が過剰になるため、20以下や、15以下、10以下としてもよい。
【0052】
例えば、平面視したときに、気泡水供給手段22は養殖槽10の中心部に向かう角度を0°としたときに、養殖槽10の中心部に向かう角度に対して、5~60°の向きに配置できる。この角度は、10~50°や、30~45°としてもよい。
【0053】
図6の養殖装置1001は、気泡供給装置22を4台配置しており、養殖槽10の壁付近に、円の内接正方形の頂点付近に配置している。気泡供給装置22は、互いに反時計回り状に配置されている隣の気泡供給装置22に向けて気泡水を送出する配置である。この配置により、養殖槽10の中心部に向かう角度に対して45°の向きで気泡水を送出している。
【0054】
[第三の実施形態]
図7は、本発明の第三の実施形態に係る養殖装置を正面視した概要図である。養殖装置1002は、第一の実施形態に係る養殖装置100の変形例である。養殖装置1002は、養殖槽10の底部にフィルタ13を配置している。フィルタ13は、砂層12の砂が漏出しにくいメッシュのフィルタで、フィルタ13上に砂層12を設けることで、フィルタ13の下部は砂がない状態の二重底様の構造となっている。
【0055】
フィルタ13の下層には、砂層12に向かう方向となる向きに気泡水を供給する気泡供給装置221が複数配置されている。このような構造とすることで、砂層12に混合された固形の有機物が目詰まりすることなどを防止して、気泡に同伴させて除去することができる。これは、特に砂層12付近での目詰まりなどを防止して嫌気的な処理が生じることを防止して、ヘドロ化などの防止に有効である。
【0056】
[養殖方法]
図8は、本発明の養殖方法の一例を示すフロー図である。養殖装置を用いる水棲動物の養殖方法は、養殖中に、まず、気泡供給手段により気泡を供給する気泡供給工程であるステップS1を行う。また、気泡に同伴されて浮上した有機物を除去する除去工程であるステップS2を行う。これらは、連続的に行われ、養殖を完了するまで行われる。養殖を完了したか判断するステップS3を行い、養殖が完了した場合、気泡の供給などを終了する。養殖を完了するまでは、ステップS1、ステップS2を繰り返し行う。なお、気泡を供給するステップS1は、常時行うものでは無くてもよく、時間帯や、水槽内の状況により調整してもよい。
【0057】
図9は、本発明の養殖方法の他の一例を示すフロー図である。このフローは、まず、養殖中に養殖水の溶存酸素を向上させるために、第一の気泡を供給するステップS11を行う。所定の時間が経過したかをステップS21で判断する。所定の時間が経過した場合、第三の気泡を供給するステップS31を行う。また、ステップS21での判断が、所定の時間経過前であっても、ステップS22にて、水棲動物の活動がおさまり酸素消費が低下したかを判断する。酸素消費が低下した場合、第三の気泡を供給するステップS31を行う。所定の時間経過前であり、酸素消費が活発な場合は、所定の時間が経過するまで、第一の気泡を供給する。なお、時間帯による管理で十分な場合は、ステップS22は省略するものとしてもよい。または、ステップS21を省略し、ステップS22により切り替えを行ってもよい。
【0058】
前述のように時間帯などに応じて、有機物を積極的に除去するときは、第三の気泡を供給するステップS31を行う。次に、第三の気泡に同伴されて異物を除去するステップS41を行う。所定の時間が経過したかをステップS51で判断し、所定の時間が経過するまで、第三の気泡を供給する。ステップS51が所定の時間行われたら、養殖が完了したかを判断するステップS61を行い、完了していない場合、ステップS11を行う工程に戻る。養殖装置での養殖が完了したら、終了する。
【0059】
図10は、本発明の養殖方法の制御を説明するための図である。ここでは、第一の気泡、第二の気泡、第三の気泡を、それぞれ供給することを想定した設定を説明する。クルマエビなどの夜行性の水棲動物を飼育する場合、夜間に摂餌等を開始し、摂餌完了後に消化に伴う排泄や脱皮等して、日中は休息していると考えられる。
【0060】
この生態に合わせて、夕方の18:00~深夜の24:00(0:00)までは、活発な酸素消費が想定されるため気泡径が小さい第一の気泡を供給する。次に、摂餌等が落ち着き、排泄や脱皮等が想定される0:00~6:00は有機物等を吸着し上昇させ気泡径がやや大きい第二の気泡を供給する。次に、クルマエビが休息し酸素消費は少ないと考えられる6:00~18:00の日中は、気泡径が大きい第三の気泡を供給して有機物等を除去する。クルマエビの養殖は、稚エビの状態からおよそ数か月行われて出荷サイズとなるため、この間、運転時間や頻度などの条件を適宜見直しながらこれを繰り返して養殖する。
【0061】
このために、気泡供給手段が供給する気泡を、時間帯および/または養殖水の酸素濃度に応じて切り替える切替手段を有するものとすることができる。
【0062】
図11は、本発明において供給する気泡の概要を示すための像である。この気泡を供給する養殖槽にクルマエビの糞や脱皮した皮などが含まれた状態である。
【0063】
図11の左側は、第一の気泡に相当するような極小サイズの気泡を供給した状態である。このような気泡では、気泡がほぼ上昇しない。
図11の中央は、第二の気泡に相当するような微小サイズの気泡を供給した状態である。このような気泡では、気泡がゆっくりと上昇し、気泡の表面積が大きいため有機物等を積極的に吸着するように同伴する。
図11の右側は、第三の気泡に相当するような小サイズの気泡を供給した状態である。このような気泡では、有機物の上昇速度も向上し、且つ水面の水の対流が強く生成される。
【0064】
従来技術である全築堤での有機物等の除去するための、ポンプによる換水に大きな電気代を要する。しかし、汚染物除去の効果は十分ではない。また、養殖完了後に、次の種苗投入前までに飼育海水を完全排出して重機を用いた砂層を掘り返しての浄化作業も必要となる。さらに砂は定期的に大量に入れ替えを行わないと養殖に適した底質を維持できないため、そのコストも経営を圧迫する要因になっている。
【0065】
また、従来の養殖技術は、養殖しているクルマエビの生息場所を把握しにくく、給餌の無駄も発生し、養殖の歩留りは下がりやすい。また、過剰な給仕を行うと、イケス底質環境が徐々に悪化しクルマエビが生息できる領域はさらに侵され、適切な密度を維持できずに共食いなどが発生する場合もある。
【0066】
また、従来技術は、養殖可能な時期が地域によって異なり、限られた期間となっている。これは、大型イケスのため、多量の海水が必要となり、クルマエビが成長可能な適切な温度維持の手段は海水の入れ替えのみで周辺海水温度に依存せざるをえないものとなるためである。近年、地球温暖化の影響で海水温度も上昇傾向にあり、クルマエビが成長できる適切な水温の維持はより困難となっている。
【0067】
また、従来技術はイケス内の在庫量把握が困難である。大型イケスで且つ珪藻が湧く環境のため、イケス内に生息しているクルマエビの尾数は把握できない。また、イケス海水の溶存酸素量を維持するため大型の複数台の水車による曝気が必要で高額の電気代がかかる。これは、珪藻の光合成による酸素供給や、珪藻による環境調整も必要と考えられていたことも影響する。しかし、珪藻が増殖すると、夜間は珪藻も光合成が生じず夜行性のクルマエビと同時間帯に酸素消費する。また、視認性が低下する原因にもなると考えられる。
【0068】
このように従来技術は、イケス内底質を好適な環境に維持するためには多大な人的労力・コストを要する。好気性環境維持の観点からは、ヘドロ化させないために砂層まで酸素供給が必要となり、広大なイケスのため設備負荷が大きくかつ電気代がかかる。また、汚染物質の除去の観点からは、汚染物質は砂層にあるため船上から網引きや潜水して人手での除去が必要となっている。
【0069】
また、従来技術には、以下のような課題も存在していた。給餌の無駄が発生。養殖環境が悪化した領域にはクルマエビは生息できなくなるが、水面上からは環境が悪化した領域を把握できないため、その領域にも給餌を行うと摂餌されないで残餌として堆積し、餌代の無駄が生じると共に、堆積した残餌がさらにヘドロ化するという悪循環を生じる。
【0070】
養殖歩留りが上がらない。有機物のよるヘドロ発生など養殖環境が悪化することでクルマエビが生息できるエリアが狭くなり、給餌量が相対的に不十分になることでクルマエビの成長も低下し、共食いなどにより歩留りが低下する。
【0071】
本発明に係る養殖装置や養殖方法は、これらの従来技術の課題の解消もできるものとすることができ、生産性を向上させて養殖品質の向上や、歩留まり向上に寄与することができる。
【0072】
本発明によれば、養殖環境全体を清潔な状態に保つことができる。また、水棲動物の生息可能な領域を広範に維持できる。
【0073】
また、本発明によれば、供給される気泡は水中の溶存酸素を上昇させる効果もある。砂層周辺から気泡を放出することで砂層を常に好気性環境に保つことができる。そして、もし、砂層に有機物がトラップされた場合でも酸素欠乏による嫌気性環境化でヘドロ化し有害物質を発生することを防止できる。これにより養殖槽全体で、養殖密度を均一化できる。また、給餌量に対する摂餌率も上がり、成長も均一化でき、低い斃死率と高い養殖密度での生産に寄与できる。
【0074】
また、本発明によれば、溶存酸素量維持のために珪藻を湧かせる必要がない。よって、外来の珪藻を導入する必要がないため、UV殺菌装置などによって、ウイルスや菌等を除去した浄化した海水で飼育することができる。これにより、水棲動物への病原体感染による歩留り悪化を防止することもできる。このように、生産性向上やランニングコスト削減に寄与することができる。
【0075】
また、本発明によれば、砂層で有機物が堆積して嫌気化する部分が少ないため、ヘドロ化する部分が少ない。よって、クルマエビが生息できない領域に給餌することもなくなり、給餌のムダを削減できる。また、ヘドロ化しにくいため、ヘドロ除去に人手の労力をかける必要がない。
【0076】
また、本発明において、気泡供給手段は常時稼働させておく必要はない。水棲動物の活動が活発になり溶存酸素低下が懸念される時間帯や糞・残餌・脱皮殻が発生する時間帯に集中的に稼働することで、その効果を実現できる。
【0077】
このため、常時稼働させる必要がある動力はなく、AC電源で駆動するポンプにより定期的に換水し蓄積した栄養塩などを排出すればよい。また、通常の養殖中は、数百ワット程度の動力で使用できる気泡供給手段を、必要なときに駆動すればよい。これらは、蓄電池にソーラーパネルや深夜電力による蓄電した電力を用いた運用が可能で電気代は大幅に低減できる。
【0078】
また、本発明によれば、砂層がヘドロ化等していないため、養殖間の砂層の復旧作業の負担が少なくなるため、切替期間を短縮化して、次の養殖を開始でき年間の養殖回数を増やして生産量を高めることができる。
【0079】
また、本発明によれば、養殖槽全体を効率よく利用できるため、養殖槽の小型化にも適している。養殖槽を小型化することで、照明や遮光部を設ける設備を設置したり、室内に配置したりすることもでき、調光の制御も容易となる。これにより、水棲動物の生態に合わせて、活発に活動すると考えらえる明るさに調整することができる。また、日中遮光することで、特に夏場に大量の藻類が発生を抑制できる。また、日中遮光することで、直射日光による水温上昇を抑制できる。
【0080】
また、本発明によれば、珪藻などによる酸素供給の必要性が低い。よって、養殖槽内にUV殺菌した海水を供給することで、珪藻の発生も抑制することができる。これにより、夜行性のクルマエビが活動する夜間の溶存酸素の急激な低下を防止することができる。
【0081】
また、小型化し珪藻を発生させないことで水槽内の視認性が向上する。これによりカメラにより水棲動物の活動状態を捉えることも容易となり、イケス内のクルマエビ生息数を目視で把握することもできる。このように、本発明の養殖装置等は、消費電力や労力等は大幅に削減できる。また、従来把握しにくかった在庫も見える化でき、歩留り・密度も向上できることから、収益向上も期待できる。
【0082】
[試験例]
以下、試験例を説明する。なお、本発明はその要旨を変更しない限り以下の試験例に限定されるものではない。
【0083】
[養殖装置]
・水槽:平面視したとき、短辺1m×長辺2m×水深1m程度の直方体状の水槽を用いて、養殖を行った。水槽の底全体に、砂を配置し砂層を設けた。
・気泡供給手段:気泡ノズルの気泡取り込み量を調整して、平均上昇速度が、約5~10mm/秒程度の気泡径100μm程度周辺の気泡を供給した。
気泡供給手段は、砂層上に排出口を置き、排出方向を、砂層に向けて、水平方向に対して約5度傾斜させた斜め下向きとした。
このような気泡供給により、徐々に気泡は水面に向けて上昇し、その際、有機物を同伴する。なお、水面付近で網を用いて浮上した有機物を除去した。
・養殖対象:クルマエビを養殖した。養殖密度は、一般的な養殖密度よりも高密度となる40尾/m2の日数を投入して養殖を行った。
【0084】
1週間に1度水を1/3入れ替えながら2か月養殖した結果、斃死はほとんどなく、死亡が確認された数は1尾であった。また、養殖期間中、クルマエビは脱皮頻度が頻繁で大きく成長していることが確認された。また、この養殖中、クルマエビの活動は少なかった。これは、餌を奪い合う必要がなく、生育環境を十分に活用できるため、各個体の実質的な占有領域も広く、ストレスが少ない環境だったためと考えられる。また、養殖中に養殖水中では、毒性の高いアンモニア濃度は上昇しなかった。他方、硝酸濃度が一定程度上昇したため、酸素濃度が一定程度維持されて硝化が進んでいたものと考えられる。また、硝酸は、水の入れ替えで十分に毒性がない程度のもので管理できた。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明は、クルマエビ等の養殖に利用することができ、産業上有用である。
【符号の説明】
【0086】
10 養殖槽
100、1001、1002 養殖装置
101 壁
11 養殖水
111 水面
12 砂層
13 フィルタ
20 送水管
21 給水管
22、221 気泡供給手段
23 循環ポンプ
30 異物除去手段
301 櫛歯
302 網
303 フロート
31、310 配管
311 フレキシブル配管
40 排水口
41 排水フィルタ
50 給水手段
【手続補正書】
【提出日】2021-06-16
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
養殖水を収容する養殖槽と、
前記養殖槽の底に配置された砂層と、
前記砂層の砂地面に沿って、および/または、前記砂層の砂地面に向けて、酸素を含み、気泡上昇速度が6.1mm/秒以上である気泡を送出する気泡供給手段と、を有し、
前記養殖水の表層で、前記気泡供給手段により供給された気泡に同伴されて浮上した有機物を除去する水棲動物の養殖装置。
【請求項2】
前記養殖水の表層に、前記浮上した有機物を除去する異物除去手段を、有する請求項1に記載の養殖装置。
【請求項3】
前記気泡供給手段が、
気泡上昇速度が異なる第一の気泡~第三の気泡からなる群から選択される2種以上の気泡を切り替えて供給することができるものであり、
第一の気泡は、気泡上昇速度が6.1mm/秒以下であり、
第二の気泡は、気泡上昇速度が6.1~500mm/秒であり、かつ、前記第一の気泡よりも気泡上昇速度が大きく、
第三の気泡は、気泡上昇速度が50mm/秒以上であり、かつ、前記第二の気泡よりも気泡上昇速度が大きいものである請求項1または2に記載の養殖装置。
【請求項4】
前記気泡供給手段が供給する気泡を、時間帯および/または養殖水の酸素濃度に応じて、溶存酸素濃度を向上させるときは気泡上昇速度が小さいものとし、有機物を除去するときは気泡上昇速度が大きいものとするように切り替える切替手段を有する、請求項1~3のいずれかに記載の養殖装置。
【請求項5】
前記気泡供給手段が複数配置されたものであり、
前記養殖槽を平面視したときの供給方向が異なる向きとなるように配置されたものである請求項1~4のいずれかに記載の養殖装置。
【請求項6】
前記水棲動物が、クルマエビである、請求項1~5のいずれかに記載の養殖装置。
【請求項7】
養殖水を収容する養殖槽と、前記養殖槽の底に配置された砂層と、前記砂層の砂地面に沿って、および/または、前記砂層の砂地面に向けて、酸素を含み、気泡上昇速度が6.1mm/以上である気泡を送出する気泡供給手段と、を有する養殖装置を用いる水棲動物の養殖方法であり、
前記気泡供給手段により気泡を供給する気泡供給工程と、
前記気泡に同伴されて浮上した有機物を除去する除去工程を有する、水棲動物の養殖方法。
【手続補正書】
【提出日】2021-10-01
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
養殖水を収容する養殖槽と、
前記養殖槽の底に配置された砂層と、
前記砂層の砂地面に沿って、および/または、前記砂層の砂地面に向けて、酸素を含み、気泡上昇速度が5mm/秒以上である気泡を送出する気泡供給手段と、を有し、
前記養殖水の表層で、前記気泡供給手段により供給された気泡に同伴されて浮上した有機物を除去する水棲動物の養殖装置。
【請求項2】
養殖水を収容する養殖槽と、
前記養殖槽の底に配置された砂層と、
前記砂層の砂地面に沿って、および/または、前記砂層の砂地面に向けて、酸素を含む気泡を送出する気泡供給手段と、を有し、
前記養殖水の表層で、前記気泡供給手段により供給された気泡に同伴されて浮上した有機物を除去する水棲動物の養殖装置であり、
前記気泡供給手段が、
気泡上昇速度が異なる第一の気泡~第三の気泡からなる群から選択される2種以上の気泡を切り替えて供給することができるものであり、
第一の気泡は、気泡上昇速度が5mm/秒以下であり、
第二の気泡は、気泡上昇速度が5~500mm/秒であり、かつ、前記第一の気泡よりも気泡上昇速度が大きく、
第三の気泡は、気泡上昇速度が50mm/秒以上であり、かつ、前記第二の気泡よりも気泡上昇速度が大きいものであり、
少なくとも、前記第二の気泡または前記第三の気泡を供給するものである養殖装置。
【請求項3】
前記気泡供給手段が供給する気泡を、時間帯および/または養殖水の酸素濃度に応じて、溶存酸素濃度を向上させるときは気泡上昇速度が小さいものとし、有機物を除去するときは気泡上昇速度が大きいものとするように切り替える切替手段を有する、請求項2に記載の養殖装置。
【請求項4】
前記養殖水の表層に、前記浮上した有機物を除去する異物除去手段を、有する請求項1~3のいずれかに記載の養殖装置。
【請求項5】
前記気泡供給手段が複数配置されたものであり、
前記養殖槽を平面視したときの供給方向が異なる向きとなるように配置されたものである請求項1~4のいずれかに記載の養殖装置。
【請求項6】
前記水棲動物が、クルマエビである、請求項1~5のいずれかに記載の養殖装置。
【請求項7】
養殖水を収容する養殖槽と、前記養殖槽の底に配置された砂層と、前記砂層の砂地面に沿って、および/または、前記砂層の砂地面に向けて、酸素を含み、気泡上昇速度が5mm/以上である気泡を送出する気泡供給手段と、を有する養殖装置を用いる水棲動物の養殖方法であり、
前記気泡供給手段により気泡を供給する気泡供給工程と、
前記気泡に同伴されて浮上した有機物を除去する除去工程を有する、水棲動物の養殖方法。