(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022115478
(43)【公開日】2022-08-09
(54)【発明の名称】エンジン作業機
(51)【国際特許分類】
F02P 5/15 20060101AFI20220802BHJP
F02D 43/00 20060101ALI20220802BHJP
【FI】
F02P5/15 K
F02P5/15 F
F02D43/00 301H
F02D43/00 301B
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021012090
(22)【出願日】2021-01-28
(71)【出願人】
【識別番号】509264132
【氏名又は名称】株式会社やまびこ
(71)【出願人】
【識別番号】000215187
【氏名又は名称】追浜工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100133411
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 龍郎
(74)【代理人】
【識別番号】100067677
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 彰司
(72)【発明者】
【氏名】山崎 隆広
(72)【発明者】
【氏名】小林 佑太
(72)【発明者】
【氏名】露木 雄一
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 耕輔
【テーマコード(参考)】
3G022
3G384
【Fターム(参考)】
3G022EA07
3G022FA04
3G022GA05
3G384BA13
3G384BA24
3G384CA13
3G384DA04
3G384EA01
3G384EB01
3G384ED13
3G384ED14
3G384FA56Z
(57)【要約】
【課題】 エンジンを円滑に減速させることができるエンジン作業機を提供する。
【解決手段】 シリンダ内を往復移動可能なピストンと、前記ピストンによって画定される燃焼室と、を有する内燃エンジンと、前記燃焼室の混合気を着火させる点火プラグと、前記内燃エンジンの回転数を検出する検出部と、検出回転数によって前記点火プラグの点火時期を制御する制御部であって、目標回転数と検出回転数との偏差から点火時期を決定するフィードバック制御が実行可能であり、検出回転数が所定の減速条件を満たしたときに、前記フィードバック制御を実行する、制御部と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ内を往復移動可能なピストンと、前記ピストンによって画定される燃焼室と、を有する内燃エンジンと、
前記燃焼室の混合気を着火させる点火プラグと、
前記内燃エンジンの回転数を検出する検出部と、
検出回転数によって前記点火プラグの点火時期を制御する制御部であって、検出回転数が所定の減速条件を満たしたときに、前記フィードバック制御を減速時に実行する、制御部を備えるエンジン作業機。
【請求項2】
所定の減速条件は、検出回転数が、所定の回転数より小さくなったこと、又は、前記内燃エンジンの回転数が、所定の回転数範囲内になったことが含まれる、請求項1に記載のエンジン作業機。
【請求項3】
前記制御部は、検出回転数が所定のクラッチイン回転数よりも高い回転数であるときに、前記フィードバック制御を実行する、請求項1又は2に記載のエンジン作業機。
【請求項4】
前記フィードバック制御は、目標回転数に向けて実行される、請求項1から3のいずれかに記載のエンジン作業機。
【請求項5】
前記目標回転数は、目標アイドル回転数である、請求項4に記載のエンジン作業機。
【請求項6】
前記目標回転数は、目標減速回転数である、請求項4に記載のエンジン作業機。
【請求項7】
前記フィードバック制御は、PI制御を含む、請求項1から6のいずれかに記載のエンジン作業機。
【請求項8】
前記制御部は、前記フィードバック制御実行中に、検出回転数が、所定の閾値よりも小さくなったときには、前記フィードバック制御を解除する、請求項1から7のいずれかに記載のエンジン作業機。
【請求項9】
前記制御部は、前記フィードバック制御実行中に、検出回転数が、所定の閾値よりも小さくなってから、所定時間が経過したとき又は所定のエンジン回転量に到達したときの少なくとも一つの条件が満たされたときには、前記フィードバック制御を解除する、請求項1から7のいずれかに記載のエンジン作業機。
【請求項10】
前記制御部は、前記フィードバック制御を解除した後に、検出回転数が、アイドル上限速度よりも大きくなったときには、前記燃焼室に供給する燃料を増加させる、請求項8又は9に記載のエンジン作業機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
エンジンの回転数を制御するエンジン作業機に関する。
【背景技術】
【0002】
減速時にアイドル回転数に移行させるためにクラッチイン回転数よりも下側の領域で減速を検知して遅側に調整するエンジン制御が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
減速時にアイドル回転数に移行させるためにクラッチイン回転数以上の回転数で減速を検知して遅角側に調整するエンジン制御が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第9109569号公報
【特許文献2】米国特許第9188066号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述した従来のエンジン制御は、減速を検知したときには、遅角側にするものであった。しかしながら、減速時には、エンジンの回転数が変動しやすく、エンジンの回転数の変動に応じて十分に円滑に減速させることが困難であった。
【0006】
本発明は、上述の点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、円滑に減速させることができるエンジン作業機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によるエンジン作業機の特徴は、
シリンダ内を往復移動可能なピストンと、前記ピストンによって画定される燃焼室と、を有する内燃エンジンと、
前記燃焼室の混合気を着火させる点火プラグと、
前記内燃エンジンの回転数を検出する検出部と、
検出回転数によって前記点火プラグの点火時期を制御する制御部であって、目標回転数と検出回転数との偏差から点火時期を決定するフィードバック制御が実行可能であり、検出回転数が所定の減速条件を満たしたときに、前記フィードバック制御を実行する、制御部と、を備えることである。
【発明の効果】
【0008】
エンジンを円滑に減速させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施の形態の一例による内燃エンジン10の構成を示すブロック図である。
【
図2】本実施の形態の一例によるエンジン制御処理を示すフローチャートである。
【
図3】本実施の形態の一例によるエンジン制御処理を示すフローチャートである。
【
図4】本実施の形態の一例による燃料が薄い場合(リーンカムダウン)のエンジンの状態を示すタイムチャートである。
【
図5】本実施の形態の一例による燃料が濃い場合(リッチカムダウン)のエンジンの状態を示すタイムチャートである。
【
図6】本実施の形態の一例による目標減速回転数に向けた点火タイミングのPI制御をした場合のエンジンの状態を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<<第1の実施の態様>>
第1の実施の態様によれば、
シリンダ内を往復移動可能なピストンと、前記ピストンによって画定される燃焼室と、を有する内燃エンジンと、
前記燃焼室の混合気を着火させる点火プラグと、
前記内燃エンジンの回転数を検出する検出部と、
検出回転数によって前記点火プラグの点火時期を制御する制御部であって、目標回転数と検出回転数との偏差から点火時期を決定するフィードバック制御が実行可能であり、検出回転数が所定の減速条件を満たしたときに、前記フィードバック制御を実行する、制御部と、を備えるエンジン作業機が提供される。
【0011】
制御部は、検出回転数によって点火プラグの点火時期を制御する。点火時期は、フィードバック制御によって決定される。フィードバック制御は、目標回転数と検出回転数との偏差に基づいて点火時期を決定する。制御部は、検出回転数が所定の減速条件を満たしたときに、フィードバック制御を実行する。
【0012】
なお、点火時期は、マップ制御によって決定されてもよい。マップ制御は、内燃エンジンの回転数と点火時期との関係が予め記憶された制御マップを用いる。検出回転数から制御マップを参照して点火時期を決定する。
【0013】
減速時にフィードバック制御を実行するので、エンジンの回転数が変動しやすい減速時においても、エンジンの回転数の変動に応じて的確に点火時期を決定することができ、十分に円滑に減速させることができる。この場合に特に、燃焼室への燃料や空気の供給遅れ(応答性)を解消し、最適なエンジンの挙動を手助けする。
【0014】
なお、検出回転数が所定の減速条件を満たしたときには、フィードバック制御が実行されるが、このフィードバック制御は、マップ制御から切り替わった場合や、複数種類のフィードバック制御のうち(第1種のフィードバック制御及び第2種のフィードバック制御など)、第1種のフィードバック制御から第2種のフィードバック制御に切り替わる場合などを含む。
【0015】
<<第2の実施の態様>>
第2の実施の態様は、第1の実施の態様において、
前記所定の減速条件は、検出回転数が、所定の回転数(例えば、後述するアシスト上限回転数など)より小さくなったこと、又は、所定の回転数範囲内(例えば、後述する減速アシスト範囲など)になったことが含まれる。
【0016】
所定の回転数より小さくなったことを判断する場合には、制御を迅速に切り替えることができる。また、所定の回転数範囲内になったことを判断する場合には、回転変動や信号へのノイズなどの影響を受けにくくして的確に判断することができる。また、作業者が意図的にアイドル運転にしようと操作したことを検知するように、所定の回転数を決めてもよく、たとえば、負荷変動による減速に対しては、所定の減速条件を満たさないようにして、フィードバック制御に入らないようにする。
【0017】
<<第3の実施の態様>>
第3の実施の態様は、第1又は第2の実施の態様において、
前記制御部200は、検出回転数が所定のクラッチイン回転数よりも高い回転数であるときに前記フィードバック制御を実行する。
【0018】
クラッチインしてから検出するよりも早期に減速を検知して、フィードバック制御が行える。
【0019】
<<第4の実施の態様>>
第4の実施の態様は、第1ないし第3の実施の態様において、
前記フィードバック制御は、目標回転数に向けて実行される。
【0020】
目標回転数を狙い、検出回転数に応じた適切な点火時期を決定できる。
【0021】
<<第5の実施の態様>>
第5の実施の態様は、第4の実施の態様において、
前記目標回転数は、目標アイドル回転数である。
【0022】
<<第6の実施の態様>>
第6の実施の態様は、第4の実施の態様において、
前記目標回転数は、目標減速回転数である。
【0023】
<<第7の実施の態様>>
第7の実施の態様は、第1ないし第6の実施の態様において、
前記フィードバック制御は、PI制御を含む。
【0024】
検出回転数に応じた適切な点火時期を決定できる。
【0025】
<<第8の実施の態様>>
第8の実施の態様は、第1ないし第7の実施の態様において、
前記制御部は、前記フィードバック制御実行中に、検出回転数が、所定の閾値よりも小さくなったときには、前記フィードバック制御を解除する。
【0026】
前記フィードバック制御によって、回転数を的確に低下させてから、フィードバック制御を終了することができる。
【0027】
<<第9の実施の態様>>
第9の実施の態様は、第1ないし第7の実施の態様において、
前記制御部は、前記フィードバック制御実行中に、検出回転数が、所定の閾値よりも小さくなってから、所定時間が経過したとき又は所定のエンジン回転量に到達したときの少なくとも一つの条件が満たされたときには、前記フィードバック制御を解除する。
【0028】
所定の閾値よりも小さくした後、アイドル動作時の運転よりも十分に安定させてから解除させることができる。
【0029】
<<第10の実施の態様>>
第10の実施の態様は、第8又は第9の実施の態様において、
前記制御部は、前記フィードバック制御を解除した後に、検出回転数が、アイドル上限速度よりも大きくなったときには、前記燃焼室に供給する燃料を増加させる。
【0030】
燃焼室に最適な量の燃料を供給して、エンジンの回転数を小さくしてアイドル上限速度未満にすることができる。
【0031】
<<<内燃エンジン10>>>
図1は、本実施の形態の一例による内燃エンジン10の構成を示すブロック図である。本実施形態の一例の内燃エンジン10は、2サイクルガソリンエンジンである。
【0032】
本実施形態の一例の内燃エンジン10は、主に、気化器110、点火プラグ120、燃焼室130、シリンダ140、クランク軸142、ピストン144、制御装置200を有する。
【0033】
<<気化器110>>
気化器110は、内燃エンジン10に流入させる混合気の量を調節するスロットルバルブ113と、燃料の量を調節する燃料バルブ112を有する。スロットルバルブ113は、作業者により操作される。燃料バルブ112は、ソレノイド(図示せず)によって駆動される。スロットルバルブ113と燃料バルブ112は、従来既知のものである。なお、本実施の形態の一例による燃料バルブ112は、ソレノイドに電流が流れていないときに(通常状態)閉じており、ノーマルクローズである。ピストン144の動作により、スロットルバルブ113や燃料バルブ112を通過した混合気は、燃焼室130に吸入される。
【0034】
点火プラグ120は、シリンダ140の上部に配置されている。内燃エンジン10は、点火プラグ120を作動させる点火装置(図示せず)を有している。点火装置によって点火プラグ120の火花放電により、燃焼室130に吸入された混合気を燃焼させる。燃焼による混合気の体積の増大によりピストン144を下方に移動させ、ピストン144の運動をクランク軸142に伝達させてクランク軸142の回転運動に変換する。
【0035】
<<シリンダ140、クランク軸142、ピストン144>>
ピストン144は、シリンダ140内に配置され、クランク軸142に連結されている。内燃エンジン10の圧縮ストロークにおいて、ピストン144は、上死点まで上昇する。上死点に到達するよりも前の所定の点火タイミングで、混合気を燃焼させて、ピストン144に下向きの推進力を与える。
【0036】
<<<制御装置200>>>
本実施形態の一例の制御装置200は、CPU(中央処理装置)210、ROM(リードオンリーメモリ)220、RAM(ランダムアクセスメモリ)230、入出力バス240のほか、回転数カウンタ250、点火プラグ駆動回路260、燃料バルブ駆動回路270を有する。
【0037】
上述した入出力バス240には、ROM220、RAM230、点火プラグ駆動回路260が接続されている。点火プラグ駆動回路260は、点火プラグ120を駆動するための回路である。入出力バス240は、CPU210にデータ信号又はアドレス信号が入出力される。
【0038】
CPU210から発せられる点火制御指令が点火プラグ120に供給されると点火プラグ120が点火されて、燃焼室130に吸入された混合気を燃焼させる
【0039】
CPU210から発せられるバルブ制御信号が燃料バルブ駆動回路270に供給されると、燃料バルブ駆動回路270は、燃料バルブ112のソレノイドに駆動信号を供給する。燃料バルブ112は、バルブ制御信号に応じて開く。
【0040】
クランク軸基準位置検出装置280が、クランク軸142の近傍に設けられている。クランク軸基準位置検出装置280は、入出力バス240に接続されている。クランク軸基準位置検出装置280は、クランク軸142が所定の基準位置に達したとき、例えば、ピストン144が上死点に位置したときに、1つの基準パルス信号を発する。基準パルス信号は、回転数カウンタ250に供給される。回転数カウンタ250は、内燃エンジン10のクランク軸142の回転数を示す回転数信号を出力する。
【0041】
ROM220は、
図2及び
図3を用いて説明するフローチャートに従ったエンジン制御処理ルーチンを実行するためのプログラムを記憶している。
【0042】
<<<エンジン制御処理>>>
以下では、内燃エンジン10は、初期化などの起動処理は完了し、定常に動作しているものとする。
図2及び
図3は、本実施の形態の一例によるエンジン制御処理を示すフローチャートである。また、
図4及び
図5は、本実施の形態の一例によるエンジンの状態を示すタイムチャートである。
【0043】
図4は、燃料が薄い場合(リーンカムダウン)のタイムチャートである。マップ制御によって減速させ、さらに点火タイミングのPI制御によって目標アイドル回転数に向けて調整して、マップ制御に戻した後に、回転数がアイドル上限回転数よりも大きくなる場合の回転数(
図4(a))の変化と、点火タイミングの変化(
図4(b))と、燃料の増加の変化(
図4(c))を示す。
【0044】
図5は、燃料が濃い場合(リッチカムダウン)のタイムチャートである。マップ制御によって減速させ、さらに点火タイミングのPI制御によって目標アイドル回転数に向けて調整して、マップ制御に戻した後に、回転数がアイドル下限回転数よりも小さくなる場合の回転数(
図5(a))の変化と、点火タイミングの変化(
図5(b))と、燃料の増加の変化(
図5(c))を示す。
【0045】
なお、
図4及び
図5において、共通する部分には、同一の符号を付した。
【0046】
本実施形態の一例のCPU210は、最初に、回転数カウンタ250から回転数信号を検出し、内燃エンジン10が減速しているか否かを判断する(ステップS211)。
【0047】
例えば、所定の時間内におけるクランク軸142の回転数の減少変化量の絶対値が、所定値よりも大きくなった場合は、内燃エンジン10が減速していると判断する。なお、判断処理は、1回だけでなく、連続した複数回に亘って行ってもよい。ノイズや振動などの影響を防止して適切に減速していることを判断することができる。この回転数の減少は、
図4(a)及び
図5(a)のタイムチャートの領域R1の部分に対応する。
【0048】
CPU210は、内燃エンジン10が減速していないと判断したときには(NO)、ステップS211に処理を戻す。
【0049】
CPU210は、内燃エンジン10が減速していると判断したときには(YES)、回転数カウンタ250からの回転数信号を検出して、内燃エンジン10が加速されたか否かを判断する(ステップS213)。
【0050】
内燃エンジン10の減速は、負荷の増大による場合があり得る。負荷の増大による内燃エンジン10の減速は、一時的な減速であり、その後、負荷が減少したときには、内燃エンジン10は加速する(
図4(a)の領域R2参照)。
【0051】
前述したステップS213の判断処理では、内燃エンジン10が、減速後に加速したか否かを、判断する。
【0052】
CPU210は、ステップS213の判断処理で、内燃エンジン10が加速されたと判断したとき(YES)には、ステップS211に処理を戻す。
【0053】
一方、CPU210は、ステップS213の判断処理で、内燃エンジン10が加速されなかったと判断したとき(NO)、すなわち、操作者の操作による減速だった場合には、減速制御開始条件を満たしたか否かを判断する(ステップS215)。
【0054】
減速制御開始条件は、クランク軸142の回転数が、減速制御のためのアシスト上限回転数(
図4(a)参照)よりも小さくなったこと、又は減速制御のための減速アシスト範囲(
図4(a)参照)に含まれることである(
図4(a)及び
図5(a)の領域R3参照)。なお、アシスト上限回転数は、クラッチイン回転数よりも高い回転数である。このようにすることで、操作者の操作による減速を判別して最適な点火制御を早い段階で開始することができる。
【0055】
内燃エンジン10の減速は、主に、操作者の操作による場合と、負荷の増大による場合とがあり得る。アシスト上限回転数よりも小さくなったことによって、操作者の操作による減速であると判定する。操作者の操作による減速は、停止操作であり、内燃エンジン10は単調に減速していく。
【0056】
減速制御開始条件として、アシスト上限回転数よりも小さくなったことを判断する場合には、制御を迅速に切り替えることができる。一方、減速制御開始条件として、減速アシスト範囲内になったことを判断する場合には、クランク軸142の回転変動や回転数信号へのノイズなどの影響を受けることなく、減速制御開始条件を満たすか否かを的確に判断できる。
【0057】
CPU210は、ステップS215の判断処理で、減速制御開始条件を満たしていないと判断したとき(NO)、ステップS213に処理を戻す。
【0058】
一方、CPU210は、ステップS215の判断処理で、減速制御開始条件を満たすと判断したとき(YES)、PI制御に切り替える(ステップS217)。ステップS217の処理によって、通常点火マップ(図示せず)を基準にした
図4(a)に示す目標アイドル回転数に向けた点火タイミングのPI制御を開始する。
【0059】
また、減速制御開始条件を満たすと判断したとき(YES)に、ステップS217の処理によって、
図6に示すように、目標減速度(所定時間に対する回転数変化)(目標減速回転数)に向けた点火タイミングのPI制御を実行してもよい。
【0060】
PI制御(Proportional-Integral Controller)は、フィードバック制御の一種である。PI制御は、比例制御(P制御)と積分動作(I動作)によって、出力値と目標値との偏差や、偏差が生じている時間に基づいて入力値を制御する。PI制御によって、点火タイミングを決定する。
【0061】
なお、PI制御でなく、PID制御(Proportional-Integral-Differential Controller)にしてもよい。出力値と目標値との偏差や、偏差が生じている時間や、偏差の時間変化率に基づいて入力値を制御する。
【0062】
さらに、回転数の変動などに応じてPI制御又はPID制御を選択して制御するようにしてもよい。また、PI制御やPID制御以外の他のフィードバック制御によって、点火タイミングを決定してもよい。
【0063】
PI制御などのフィードバック制御をすることにより、実際の回転数と目標とする回転数との偏差によって、点火タイミングを決定するので、比較的に回転数が安定しない減速時における点火タイミングを、マップ制御よりも適切に決定することができる。また、フィードバック制御をすることで、リーンカムダウンする場合においても、リッチカムダウンする場合においても、最適な点火タイミングを決定して点火することができる。
【0064】
なお、マップ制御は、内燃エンジン10の回転数と点火タイミングとの対応関係を予め記憶させた参照テーブル(図示せず)を用いて点火タイミングを決定する制御である。回転数カウンタ250で検出した回転数から参照テーブルを検索し、検出した回転数に対応する点火タイミングを決定する。
【0065】
ステップS217の処理で、PI制御に切り替わると、まず、初期値として、マップ制御の参照テーブルから、その時点の回転数に対応する点火タイミングを求めて点火プラグ120を点火する。次の回転以降は、得られた点火タイミングを用いて、目標回転数となるようにPI制御によって、そのときの点火タイミングを決定する。
【0066】
図4(a)及び
図4(b)に示すタイムチャートでは、時刻T1よりも前の時点では、マップ制御によって、通常点火カーブ1(
図4(b))となるように点火タイミングが決定されている。
【0067】
ステップS217の処理でマップ制御からPI制御に切り替えると(
図4(a)の時刻T1)、目標アイドル回転数となるように、PI制御によって点火タイミングが決定される。その場合に、PI制御中では、過度な点火タイミングの遅れ、過度な点火タイミングの進みとならないように、
図4(b)に示すように、上限タイミングθmax及び下限タイミングθminが設定される。
【0068】
次に、CPU210は、内燃エンジン10が加速したか否かを判断する(ステップS219)。すなわち、PI制御によって減速しているときにも(
図4(a)及び
図5(a)の領域R3)、内燃エンジン10が加速された(
図4(a)の領域R4)か否かを判断する。ここでの加速の判断も、負荷の増大による減速を除くためのものである。
【0069】
CPU210は、内燃エンジン10が加速したと判断したときには(YES)、PI制御を解除して(ステップS225)、ステップS211に処理を戻す。これにより、マップ制御が再び開始される。
【0070】
CPU210は、ステップS219の判断処理で、内燃エンジン10が加速していないと判断したときには(NO)、減速制御開始条件を満たすか否かを判断する(S221)。CPU210は、減速制御開始条件を満たさない場合、すなわち、アシスト上限回転数以上であると判断したときには(NO)、PI制御を解除して(ステップS225)、ステップS211に処理を戻す。これにより、マップ制御が再び開始される。
【0071】
CPU210は、ステップS221の判断処理で、減速制御開始条件を満たす場合、すなわち、アシスト上限回転数未満であると判断したときには(YES)、減速制御終了条件を満たしたか否かを判断する(ステップS223)。
【0072】
減速制御終了条件は、クランク軸142の回転数が、減速制御のためのアシスト下限回転数(
図4(a)参照)よりも小さくなったこと、又は減速制御のための減速アシスト範囲(
図4(a)参照)から外れたことである。すなわち、クランク軸142の回転数が、PI制御の対象外となったか否かを判断する。また、この場合に、減速制御終了条件としてアシスト下限回転数よりも小さくなってから所定時間が経過するという条件を追加してもよい。そうすれば、目標アイドル回転数にさらに近づくことになりアイドル運転がさらに安定したものとなる。
【0073】
CPU210は、減速制御終了条件を満たしたと判断したときには(YES)、マップ制御用の通常点火カーブ2(
図4(b)参照)を設定する(ステップS227)(
図4(a)の時刻T2)。マップ制御用の通常点火カーブ2は、マップ制御で点火タイミングを決定するための目標値を定めたデータである。点火タイミングが、
図4(b)に示す通常点火カーブ2となるように、マップ制御によって点火タイミングを決定する。
【0074】
次に、CPU210は、エンジン制御をPI制御からマップ制御に切り替える(ステップS229)。これによりPI制御が解除される。
【0075】
次に、CPU210は、マップ制御に戻されたときから、アイドル回転数監視時間を経過したか否かを判断する(ステップS311)。
【0076】
CPU210は、アイドル回転数監視時間を経過していないと判断したときには(NO)、内燃エンジン10の回転数が、アイドル上限回転数以上になったか否かを判断する(ステップS313)。本実施の形態では、アシスト下限回転数とアイドル上限回転数とは同じ回転数である。なお、アシスト下限回転数とアイドル上限回転数とを異なる回転数にしてもよい。
【0077】
CPU210は、ステップS313の判断処理で、マップ制御に戻された後に、内燃エンジン10の回転数が、アイドル上限回転数以上になったと判断したときには(YES)、燃焼室130に供給する燃料の量を増やす(ステップS315)(
図4(c)の時刻T3参照)。リーンカムダウンの場合に、アイドル回転数監視時間内に、アイドル上限回転数以上になったときには、燃料の量を増やす。これによって、燃焼室130内に最適な量の燃料を供給して、内燃エンジン10の回転数を小さくしてアイドル上限回転数未満にする(
図4(a)の領域R6)。
【0078】
CPU210は、ステップS313の判断処理で、内燃エンジン10の回転数が、アイドル上限回転数未満であると判断したときには(NO)、内燃エンジン10の回転数が、アイドル下限回転数以下になったか否かを判断する(ステップS317)。
【0079】
CPU210は、ステップS317の判断処理で、内燃エンジン10の回転数が、アイドル下限回転数以下になったと判断したときには(YES)、進角マップ点火カーブを選択してマップ制御する(ステップS319)(
図5(a)の時刻T4及び
図5(b)参照)。リッチカムダウンの場合には、アイドル回転数監視時間内に、アイドル下限回転数以下になったときには、進角マップ点火カーブによるマップ制御によって、内燃エンジン10の回転数を大きくする(
図5(a)の領域R7)。
【0080】
CPU210は、内燃エンジン10の回転数が、アイドル上限回転数以上となったか否かを判断する(ステップS321)。内燃エンジン10の回転数が、アイドル上限回転数未満である場合には、ステップS321に処理を戻す。このようにすることで、アイドル回転数監視時間を超えても、アイドル上限回転数以上となるまでは(
図5の時刻T5)、進角マップ点火カーブによるマップ制御によって点火タイミングが決定される。
【0081】
CPU210は、ステップS317の判断処理で、内燃エンジン10の回転数が、アイドル下限回転数より大きいと判断したときには(NO)、ステップS311に処理を戻す。
【0082】
CPU210は、ステップS311の判断処理で、アイドル回転数監視時間を経過したと判断したとき(YES)、ステップS315の処理を実行したとき、ステップS321の判断処理で、内燃エンジン10の回転数が、アイドル上限回転数より大きいと判断したとき(YES)には、内燃エンジン10の回転数が、アイドル回転数になったとして、通常マップ制御を開始し(ステップS323)、本サブルーチンを終了する。
【0083】
<<<<本実施の形態の範囲>>>>
上述したように、本発明は、本実施の形態によって記載したが、この開示の一部をなす記載及び図面は、本発明を限定するものであると理解すべきでない。本発明は、ここでは記載していない様々な実施の形態等を含む。
【符号の説明】
【0084】
10 内燃エンジン
120 点火プラグ
200 制御装置
【手続補正書】
【提出日】2022-01-28
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項1
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項1】
シリンダ内を往復移動可能なピストンと、前記ピストンによって画定される燃焼室と、を有する内燃エンジンと、
前記燃焼室の混合気を着火させる点火プラグと、
前記内燃エンジンの回転数を検出する検出部と、
検出回転数によって前記点火プラグの点火時期を制御する制御部であって、目標回転数と検出回転数との偏差から点火時期を決定するフィードバック制御が実行可能であり、検出回転数が所定の減速条件を満たしたときに、前記フィードバック制御を実行する制御部と、を備えるエンジン作業機。