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特開2022-115541船舶の喫水面の検出方法、及び喫水面制御システム
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  • 特開-船舶の喫水面の検出方法、及び喫水面制御システム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022115541
(43)【公開日】2022-08-09
(54)【発明の名称】船舶の喫水面の検出方法、及び喫水面制御システム
(51)【国際特許分類】
   B63B 39/12 20060101AFI20220802BHJP
   G01C 13/00 20060101ALI20220802BHJP
   G01K 1/14 20210101ALI20220802BHJP
   G01J 5/00 20220101ALI20220802BHJP
   G01J 5/48 20220101ALI20220802BHJP
【FI】
B63B39/12
G01C13/00 D
G01K1/14 Z
G01J5/00 101Z
G01J5/48 A
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021012174
(22)【出願日】2021-01-28
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-10-13
(71)【出願人】
【識別番号】509231330
【氏名又は名称】株式会社ステップ・ケイ・スリー
(71)【出願人】
【識別番号】598088701
【氏名又は名称】セムコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119297
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 正男
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 正
【テーマコード(参考)】
2G066
【Fターム(参考)】
2G066AC09
2G066CA02
2G066CA11
(57)【要約】      (修正有)
【課題】船舶の停止状態のみでなく航走中における喫水面の検出、及び船舶の喫水面の制御システムを提供する。
【解決手段】船舶が停止又は航走している際の喫水面WLを検出する喫水面の検出方法であって、想定される喫水面から上下方向に所定の範囲で、船体の外板内面に温度を測定する温度測定範囲を設け、かかる部位の温度を測定し、前記測定した温度が変化する位置を喫水面と判定する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶が停止又は航走している際の喫水面を検出する喫水面の検出方法であって、
想定される喫水面から上下方向に所定の範囲で、船体の外板内面に温度を測定する温度測定範囲を設け、前記温度測定範囲の温度を測定し、
前記測定した温度が変化する位置を喫水面と判定することを特徴とする船舶の喫水面の検出方法。
【請求項2】
前記温度測定範囲の周辺に所定の離隔で貼付されたヒータにより、前記外板内面を所定の温度で加熱し、加熱状態において前記温度測定範囲の温度を測定することを特徴とする請求項1に記載の船舶の喫水面の検出方法。
【請求項3】
前記温度測定範囲に測温体を貼付し、前記温度測定範囲の温度を測定することを特徴とする請求項1又は2に記載の船舶の喫水面の検出方法。
【請求項4】
サーモグラフィーカメラで前記温度測定範囲の熱分布画像を撮像し、撮像した熱分布画像を分析し、喫水面を判定することを特徴とする請求項1又は2に記載の船舶の喫水面の検出方法。
【請求項5】
長手方向に沿って設けられた船舶の姿勢を調整する複数のバラストタンクのバラスト水量を調整し、船舶が停止又は航走している際の喫水面を制御する船舶の喫水面制御システムであって、
船体の外板内面に、想定される喫水面から上下方向に所定の幅で設定された複数の温度測定範囲と、
前記温度測定範囲の温度を測定し、温度変化及び/又は分布から喫水面を検出する温度測定部と、
前記温度測定部から得られる複数の喫水面データに基づいて、前記バラストタンクに注排水するバラスト水量を制御する喫水面制御部とを備えたことを特徴とする船舶の喫水面制御システム。
【請求項6】
前記温度測定範囲の周辺に所定の離隔で貼付されたヒータと、前記ヒータの加熱温度を制御するヒータ制御部とを備えたことを特徴とする請求項5に記載の船舶の喫水面制御システム。
【請求項7】
前記温度測定部は、前記温度測定範囲の温度を測定する測温体を備えることを特徴とする請求項5又は6に記載の船舶の喫水面制御システム。
【請求項8】
前記温度測定部は、前記温度測定範囲の温度を測定するサーモグラフィーカメラを備えることを特徴とする請求項5又は6に記載の船舶の喫水面制御システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶の喫水面を安全かつ精度よく検出するための喫水面の検出方法、及びその方法を用いた船舶の喫水面制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化の主要因とされる二酸化炭素の排出削減に対する要求の高まりから、船舶に対する燃費改善への要求が強くなっている。また原油価格の高騰による燃料コストアップの面においても、その推進効率を向上させる必要があり、様々な工夫が提案されている。例えば、従来以上に燃料消費量の少ない、言い換えると、航走時における船体抵抗の少ない船型の開発等である。
【0003】
船体抵抗を少なくするには、船型の開発に加え船舶の計画喫水状態の姿勢および計画速度での航走が肝要である。しかし、船舶の喫水面は載荷状態や計画速度と異なる速度での航走で変化する。このため、計画喫水面での航走には、停止又は航走中の喫水面を検出し、かかる喫水面と計画喫水面との相違を検出し、その相違を解消する制御を行う必要がある。
【0004】
ここで、喫水面とは船舶が水に浮いているときの船底から水面までの垂直距離をいい、その船舶が最大に貨物等を積載することができる積載量を決定する満載喫水面、何も積載していない状態の喫水面を最軽喫水面としている。また、船舶は、積み荷やバラスト水の積み方によって、船首から船尾にかけて傾斜する。船首の喫水面(船首喫水)と船尾の喫水面(船尾喫水)との差をトリムといい、船首と船尾の喫水面が読みとれるよう船首と船尾のそれぞれの位置に喫水位置がわかるドラフトマーク(喫水を見るための目盛)が記されている。
【0005】
下記特許文献1には、喫水計測具10を使用した喫水計測方法が開示されている。特許文献1に記載の技術は、図8に示すように、計測員Aが小型船20に乗って、計測対象の船舶30に近接して、船舶30の水面W近傍の船舶30側の外板30aに設けられたマークM と水面Wとの間の距離Hを計測する、というものである。特許文献1に記載の技術は、計測場所に波があるために完全には一定にならず、変動しているので、10回から30回程度読み取った平均値を計測値とし、この計測値と基準部材11dを合わせた喫水マークM とから計測喫水を算出するというものである。
【0006】
かかる喫水計測では、計測員A が水面W 上に乗り出して、目視で目盛11eを読み取る作業を多数回繰り返し、しかも、一隻の船舶30体の船首、船体中央、船尾と、その両舷など、計6~10程度を計測する必要がある。このため、作業効率が著しく悪い上に、苦労して計測した割には、計測精度が劣る、という問題がある。また、船舶が港湾等に停止しているときにしか計測できず、航走中においては喫水面の計測はできない、という問題がある。
【0007】
下記特許文献2に記載の技術は、計測者が船外に乗出すことなく安全に喫水確認を行うことができ、船舶船尾域の複雑なフレアー形状の外板が海面に接しない箇所についても正確な喫水数値の計測を可能とする船尾喫水計測用冶具が開示されている。
【0008】
特許文献2に記載の技術は、船舶船尾舷側から吊り降ろされる支柱管の下方に配置される文字表示部と、当該文字表示部の表面に配置され、中に下方から侵入する海水の海面位置で浮遊するフロートが配置される透明パイプと、前記支柱管に沿って上下にスライドし、当該文字表示部の表示文字及び前記フロートの双方を同時に反射する反射部とを有する船尾喫水計測用冶具を使用して喫水面を計測する、というものである。
【0009】
特許文献2に記載の技術によれば、船舶の喫水計測のために縄梯子等を使用したり、計測員が船外へ身を乗り出しての確認作業を行う必要がなく、安全に喫水確認を行うことができる。また、船舶船尾域の複雑なフレアー形状の外板が海面に接しない箇所についても正確な喫水数値の計測が可能である。
【0010】
しかし、船舶船尾の喫水面の確認としてしか使用することができない。また、特許文献1に記載の技術と同様に、船舶が港湾等に停止しているときに用いるものであり、船舶が航走している状態、特に悪天候時には使用することが難しい、という問題がある。
【0011】
船舶の喫水面の計測・制御は、船舶の燃費効率に影響するのみでなく、航走の安定性にも関係する。船舶の積載荷重は、港湾等における荷物の積み下ろしだけでなく燃料の消費により刻々と変化する。一般的に燃料タンクは、浮心から前あるいは後に離れた位置に配置されているので、燃料タンク内の燃料量は船舶の姿勢( トリム) に影響を及ぼし、航走に伴い燃料は消費されるので、船舶のトリムは航走中に変化する。
【0012】
このため喫水面の検出は、船舶の停止状態だけでなく、航走中における喫水面の検出と、船首から船尾にかけての喫水ラインの検出が求められる。航走中に喫水面、喫水ラインの検出ができれば、バラスト水の注排水により喫水面を制御することができ、船舶は燃費効率が良い、安定した航走を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2014-196056号公報
【特許文献2】特開2019-194057(特許第6534760号公報)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
そこで本発明の課題は、船舶の停止状態における喫水面の検出のみでなく、航走中における喫水面の検出と、船首から船尾にかけての喫水ラインの検出が可能である喫水面の検出方法、及びその方法を用いた喫水面の制御システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため本発明は、船舶が停止又は航走している際の喫水面を検出する喫水面の検出方法であって、
想定される喫水面から上下方向に所定の範囲で、船体の外板内面に温度を測定する温度測定範囲を設け、前記温度測定範囲の温度を測定し、前記測定した温度が変化する位置を喫水面と判定することを特徴とする船舶の喫水面の検出方法、である。
【0016】
想定される喫水面は、満載喫水面から最軽喫水面の範囲にあるが、その上下方向(船舶の浮沈方向)に所定の範囲(その上下方向の長さは船舶の大きさで異なるため、船舶に応じた必要な長さとし、その幅は測温体の幅程度とする範囲)を温度測定範囲として設定し、係る温度測定範囲の温度を測定し、温度が変化する位置を喫水面として判定する。
【0017】
船舶の外板は、喫水面より下部が海中に沈み、喫水面より上部は浮いた状態にある。このため、喫水面より下の船体の外板の温度は、海水の温度と同じであり、船体外板の内面の温度も、喫水面よりも下の部分の温度は、ほぼ海水の温度となる。これは喫水面より下部の船舶の外板は、海という無限大の恒温槽に浸漬している状態にあり、船室側(外板の内面側)であっても、喫水面より下部の部分は海水の温度とほぼ同じになる。一方、喫水面より上部分の温度は船室の温度となる。
【0018】
ここで、海水の温度は船舶が航走する海域で大きく異なる。また、船内の温度も航走海域、航走時の季節、エンジン出力変動等により変化する。これらの影響で海水の温度と船内の温度との間に差が出難い場合がある。喫水面の上下部分で温度差が僅かであると、温度変化の境目が明瞭に表れない。かかる場合には、温度測定範囲の両側に所定の離隔でヒータを貼付し、船舶の外板内面に設けられた温度測定範囲の周辺又は両側を加熱する。
【0019】
ヒータの加熱設定温度は、50℃から60°に設定する。これによりヒータで加熱された喫水面より上の部分の温度は、ヒータの加熱設定温度に近い温度となるが、喫水面よりも下の部分は、上述したように海水中にあり膨大な熱容量を有するため、その温度はほとんど変化しない。即ち、温度測定範囲の両側を所定の温度で加熱することで喫水面(温度の変化する位置)を顕在化することができる
【0020】
温度測定範囲の温度測定は、例えばシース熱電対、白金測温抵抗体素子、サーミスター測温抵抗体素子等の測温体をそこに貼付することで測定する。あるいはシース熱電対等に代えて、サーモグラフィーカメラで温度測定範囲の熱分布の画像を撮像し、撮像した熱分布画像を分析することで測定できる。温度分布の境目から喫水面を検出することができる。
【0021】
本発明は、長手方向に沿って設けられた船舶の姿勢を調整する複数のバラストタンクのバラスト水量を調整し、船舶が停止又は航走している際の喫水面を制御する船舶の喫水面制御システムであって、船体の外板内面に、想定される喫水面から上下方向に所定の幅で設定された複数の温度測定範囲と、前記温度測定範囲の温度を測定し、温度変化及び/又は分布から喫水面を検出する温度測定部と、前記温度測定部から得られる複数の喫水面データに基づいて、前記バラストタンクに注排水するバラスト水量を制御する喫水面制御部とを備えたことを特徴とする船舶の喫水面制御システム、である。
【0022】
航走速度や種々の載荷状態で、船舶のトリムや喫水面が変化するが、喫水面から上下方向に所定の幅の温度測定範囲を複数設け、かかる温度測定範囲の温度を測定し、測定した温度の変化する位置が喫水面と判定する。判定した喫水面と所望の喫水面とを比較し、所望の喫水面、及び所望のトリムとなるようにバラストタンクへの注排水量を制御する。これにより、船舶の姿勢が調整され燃料効率が良い安定した航走が可能となる。
【0023】
前記温度測定範囲の両側に所定の離隔で貼付されたヒータと、前記ヒータの温度を制御するヒータ制御部とを備えることは好適である。これは海水温度と船内温度との差が僅かな場合、温度差の生じる境目が明瞭に表れないが、温度測定範囲の両側に所定の離隔でヒータを貼付し、外板内面をヒータで加熱すると、ヒータで加熱された喫水面より上の部分の温度はヒータの加熱設定温度に近い温度となるが、喫水面よりも下の部分はほとんど変化しない。これにより、温度測定部の温度が変化する位置(境目あるいは温度分布の領域境界)が明瞭となり、喫水面を検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、実施例の図面を参照して、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。図1は、右舷側端部に長手方向に沿って3個のバラストタンク、左舷側端部に同様に長手方向に沿って3個のバラストタンクを備えた船体1の斜視図である。
【0025】
バラストタンク20が、船体1の中心線に対して略線対称、それぞれ3個設けられている。図1には図示されていないが、バラストタンク内部には、バラスト水の量を検出する検出器が備えられ、右舷のバラストタンク20は右舷注排水装置210、左舷のバラストタンク20は左舷注排水装置211に接続している(図2参照)。
【0026】
各バラストタンクの周辺や、船体の外板に設けられているドラフトマークの位置に相当する外板内面には、温度測定範囲101が設けられている。温度測定範囲101は、船舶1の外板の内側(船内の内壁)に想定される喫水面の上下方向(船舶の浮沈方向)に設ける。その上下方向の長さは船舶の大きさで異なるため、船舶に応じた必要な長さの温度測定範囲101を設けるが、本実施例では喫水面よりも上方向に1m、下方向に1m程度とした。また、喫水面を判定する分解能はそこに貼付する測温体(温度測定器)の設置間隔により決まる。例えば温度測定器としてシース熱電対、白金測温抵抗体素子、サーミスター測温抵抗体素子等の測温体を用いるが、その測温体を1cm間隔で設置すれば1cmの分解能となり、10cm間隔で設置すれば10cmの分解能となる。その船舶に必要な分解能に応じた数の測温体(温度測定器)を温度測定範囲101に貼付する。温度測定範囲の温度が変化する位置(境目あるいは温度分布の領域境界)を喫水面と判定する。
【0027】
図2は船舶1のバラストタンク20の配置、これに接続する注排水管、注排水装置、そして喫水面制御部200の配置を模式的に示した図である。右舷注排水装置210には、右舷バラストポンプ250と、長手方向に延設された注水管、バラストタンク20とを接続する注排水分岐管、右舷注排水バルブ255が接続している。同様に左舷注排水装置211には、左舷バラストポンプ251と、長手方向に延設された注水管、バラストタンク20とを接続する注排水分岐管、左舷注排水バルブ256が接続している。
【0028】
喫水面制御部200は、温度測定部100からの喫水面データに基づき、所望の喫水面、トリムを維持するために、バラストポン部250、251、注排水バルブ255、256を制御し、各バラストタンク20のバラスト水量を調整する。
【0029】
図3は船舶1の断面図であって、船舶の外板2の内側(船内)に設けた温度測定範囲101の温度を熱電対を測定器として測温する場合の温度測定器111の配置を示した図である。図3に示すように、想定される喫水面の上下方向に設けられた温度測定範囲101に熱電対が添付されている。熱電対は信号線(図示していない)により温度測定部100のデータ中継処理部102に接続しており、常時、温度測定範囲101の測温データを送信する。
【0030】
温度測定範囲101に貼付された温度測定器111以外に、船底には温度測定器112、船内中央には温度測定器113が配置されている。船底の温度は、ほぼ海水の温度と同じであり、温度測定器112の測温データは、海水の温度として温度測定部100のデータ中継処理部102に送信される。船内の温度は、温度測定器113により測温され、船内の温度として温度測定部100に送信される。
【0031】
図4は船舶1の断面図であって、船舶の外板2の内側(船内)に設けた温度測定範囲101の温度をサーモグラフィーカメラで測定する場合の温度測定器の配置を示した図である。図3に示す温度測定範囲101に熱電対を貼付し温度を測定する場合、その分解能は温度測定範囲に貼付する熱電対数と、配置間隔により決まる。
【0032】
しかし、サーモグラフィーカメラであれば温度測定範囲101にそれを貼付する必要はなく、その分解能は設置する個体数に依存しない。一方、サーモグラフィーカメラの場合には、温度測定範囲101から所定の離隔を持って設置する必要あり、その空間が必要となる。また、サーモグラフィーカメラからの温度分布画像を処理する画像処理が必要になる。これらの特性を踏まえ、温度測定器を設置する環境との関係で温度測定器を選択する。
【0033】
図5は温度測定範囲101の両側にヒータ300を設置した船舶の外板2の内側(船内側)部分を示した図である。なお、この実施例では両側にヒータ300を設置しているが、片側でもよく、またその周辺に設けることでも良い。温度測定範囲101の両側に所定の離隔で設置されたヒータ300は、その温度を制御するヒータ制御部106と電源線・制御線(図示していない)で接続している。温度測定範囲101の周辺にヒータを設置するのは、温度が変化する境を明瞭化(温度差を大きく)するためである。
【0034】
船舶は赤道付近の海域から極点海域など、様々な海域を航走し、また積載物や天候等によりエンジンの出力が変わる。こうしたことが要因となり、海水の温度と船内の温度との差が僅かにしかならない場合がある。かかる場合には、温度測定範囲において温度差の生じる境目が明瞭に表れない。
【0035】
しかし、温度測定範囲101の両側に所定の離隔でヒータを貼付し、外板2の内面をヒータで加熱すると、喫水面より上の部分の外板の温度は、ヒータの加熱設定温度に近い温度となる。一方、喫水面よりも下の部分は水中にあることから、その温度はほとんど変化しない。これにより温度変化の境目が明瞭となり喫水面を容易に検出することができる。
【0036】
図6は喫水面制御システム10のブロック図である。喫水面制御システム10は、温度測定範囲101の温度を測定等する温度測定部100と、温度測定部100からの測温データを分析処理し、所望の船体姿勢に必要となるバラストタンク20のバラスト水を調整する喫水面制御部200と、温度測定範囲101の両サイドに貼付されるヒータ300とを備える。
【0037】
温度測定部100は、温度測定範囲101の温度を測定する温度測定器111、船底の温度を測定する温度測定器112、船内の温度を測定する温度測定器113、これらの温度測定器からの測温データを中継処理するデータ中継処理部102、データ中継処理部102からのデータを予め定めたデータと比較処理等を行う測温データ処理部105、そしてヒータ300の制御を行うヒータ制御部106を備える。
【0038】
喫水面制御部200は、温度測定部100から送信されてくる測温データを分析処理し、喫水面を算出する喫水面データ処理部201、喫水面データ処理部201が検出した喫水面と所望の船体姿勢のデータ等から、船体姿勢制御データを算出する船体姿勢制御部202、船体姿勢制御部202のデータに基づいてバラストタンク20のバラスト水の調整を行うバラストタンク制御部203を備える。なお、バラストタンク制御部203からの制御データにより注排水制御部50が、各バラストタンク20のバラスト水の注排水を行う。
【0039】
ヒータ300は、ヒータ制御部106からのデータに基づき、設定された温度で温度測定範囲101の周辺を加熱する。温度測定器320はヒータ回りの温度を測定し、ヒータ制御部106にヒータ回りの温度をフィードバックする。
【0040】
図7は喫水面検出のフローチャートである。先ず、温度測定器112と温度測定器113とにより、船内の温度と船底の温度を測定する(S1,S2)。次に、温度測定範囲101の温度を温度測定器111により測定するとともに、船内温度と船底温度の差分を検出し、温度測定範囲101の温度分布に10℃以上の差があるか否かを判定する(S4)。
【0041】
温度測定範囲101の温度分布に10℃以上の差が表れていない場合は、ヒータ制御部106によりヒータ300をONにし(S8)、ヒータ回りの温度を測定し(S9)、温度測定範囲101の温度分布に10℃以上の差が表れている否かを判定し(S10)、10℃以上の温度差が表れていればヒータ300をOFFとし、表れていなければヒータ300の加熱を継続する。
【0042】
温度測定範囲101の温度分布に10℃以上の差が表れていれば、温度分布の変化点(位置)を船底からの距離に換算し、喫水面データを生成する(S6)。喫水面データは喫水面制御部200に送信され船体姿勢の制御データとして使われる(S7)。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1】バラストタンクを備えた船体1の斜視図である。
図2】船舶1のバラストタンクの配置、これに接続する注排水管、注排水装置、そして喫水面制御装置の配置を模式的に示した図である。
図3】船舶の断面図であって、船舶の外板の内側(船室内)の設けた温度測定範囲の温度を測定する熱電対の配置である。
図4】船舶の断面図であって、船舶の外板の内側(船室内)の設けた温度測定範囲の温度を測定するサーモグラフィーカメラ等の配置である。
図5】温度測定範囲の両側にヒータを貼付した船舶の外板の内側(船内側)の部分を示した図である。
図6】喫水面制御システム10のブロック図である。
図7】喫水面検出のフローチャートである。
図8】従来技術における喫水面の検出方法の一例を示した図である。
【符号の説明】
【0044】
1 船体
2 船体の外板
10 喫水面制御システム
20 バラストタンク
100 温度測定部
101 温度測定範囲
102 データ中継処理部
105 測温データ処理部
106 ヒータ制御部
111 112 113 温度測定器
200 喫水面制御部
201 喫水面データ処理部
202 船体姿勢制御部
203 バラストタンク制御部
250 注排水制御装置
300 ヒータ
320 温度測定器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【手続補正書】
【提出日】2021-06-26
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶が停止又は航走している際の喫水面を検出する喫水面の検出方法であって、
想定される喫水面から上下方向に所定の範囲で、船体の外板内面側に温度を測定する温度測定範囲を設け、前記温度測定範囲の温度を測定し、測定した温度の変化する位置及び/又は温度分布から喫水面を検出することを特徴とする船舶の喫水面の検出方法。
【請求項2】
前記温度測定範囲の周辺に所定の離隔で貼付されたヒータにより、前記外板内面を所定の温度で加熱し、加熱状態において前記温度測定範囲の温度を測定することを特徴とする請求項1に記載の船舶の喫水面の検出方法。
【請求項3】
前記温度測定範囲に測温体を貼付し、前記温度測定範囲の温度を測定することを特徴とする請求項1又は2に記載の船舶の喫水面の検出方法。
【請求項4】
サーモグラフィーカメラで前記温度測定範囲の熱分布画像を撮像し、撮像した熱分布画像を分析し、喫水面を判定することを特徴とする請求項1又は2に記載の船舶の喫水面の検出方法。
【請求項5】
長手方向に沿って設けられた船舶の姿勢を調整する複数のバラストタンクのバラスト水量を調整し、船舶が停止又は航走している際の喫水面を制御する船舶の喫水面制御システムであって、
船体の外板内面側に、想定される喫水面から上下方向に所定の幅で設定された複数の温度測定範囲と、
前記温度測定範囲の温度を測定し、温度の変化する位置及び/又は温度分布から喫水面を検出する温度測定部と、
前記温度測定部から得られる複数の喫水面データに基づいて、前記バラストタンクに注排水するバラスト水量を制御する喫水面制御部とを備えたことを特徴とする船舶の喫水面制御システム。
【請求項6】
前記温度測定範囲の周辺に所定の離隔で貼付されたヒータと、前記ヒータの加熱温度を制御するヒータ制御部とを備えたことを特徴とする請求項5に記載の船舶の喫水面制御システム。
【請求項7】
前記温度測定部は、前記温度測定範囲の温度を測定する測温体を備えることを特徴とする請求項5又は6に記載の船舶の喫水面制御システム。
【請求項8】
前記温度測定部は、前記温度測定範囲の温度を測定するサーモグラフィーカメラを備えることを特徴とする請求項5又は6に記載の船舶の喫水面制御システム。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0015
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0015】
上記課題を解決するため本発明は、船舶が停止又は航走している際の喫水面を検出する喫水面の検出方法であって、
想定される喫水面から上下方向に所定の範囲で、船体の外板内面側に温度を測定する温度測定範囲を設け、前記温度測定範囲の温度を測定し、測定した温度の変化する位置及び/又は温度分布から喫水面を検出することを特徴とする船舶の喫水面の検出方法、である。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0021
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0021】
本発明は、長手方向に沿って設けられた船舶の姿勢を調整する複数のバラストタンクのバラスト水量を調整し、船舶が停止又は航走している際の喫水面を制御する船舶の喫水面制御システムであって、
船体の外板内面側に、想定される喫水面から上下方向に所定の幅で設定された複数の温度測定範囲と、
前記温度測定範囲の温度を測定し、温度の変化する位置及び/又は温度分布から喫水面を検出する温度測定部と、
前記温度測定部から得られる複数の喫水面データに基づいて、前記バラストタンクに注排水するバラスト水量を制御する喫水面制御部とを備えたことを特徴とする船舶の喫水面制御システム、である。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0038
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0038】
喫水面制御部200は、温度測定部100から送信されてくる測温データを分析処理し、喫水面を算出する喫水面データ処理部201、喫水面データ処理部201が検出した喫水面と所望の船体姿勢のデータ等から、船体姿勢制御データを算出する船体姿勢制御部202、船体姿勢制御部202のデータに基づいてバラストタンク20のバラスト水の調整を行うバラストタンク制御部203を備える。なお、バラストタンク制御部203からの制御データにより注排水制御装置250、251が、各バラストタンク20のバラスト水の注排水を行う。