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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022115624
(43)【公開日】2022-08-09
(54)【発明の名称】岸壁構造及びその構築方法
(51)【国際特許分類】
   E02B 3/06 20060101AFI20220802BHJP
【FI】
E02B3/06 301
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021012287
(22)【出願日】2021-01-28
(71)【出願人】
【識別番号】000230010
【氏名又は名称】ジオスター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【弁理士】
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100167634
【弁理士】
【氏名又は名称】扇田 尚紀
(74)【代理人】
【識別番号】100187849
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 隆史
(74)【代理人】
【識別番号】100212059
【弁理士】
【氏名又は名称】三根 卓也
(72)【発明者】
【氏名】池田 真
(72)【発明者】
【氏名】松野 真樹
【テーマコード(参考)】
2D118
【Fターム(参考)】
2D118BA03
2D118BA05
2D118CA02
2D118CA03
2D118FA06
2D118FB21
2D118GA09
(57)【要約】
【課題】プレキャスト部材を用いて岸壁構造を構築するに際し、予め接合構造を具備したプレキャスト部材を用意し、鋼製杭とプレキャスト部材を一体化させる作業の省力化を図ることで、工事の効率化や工期の短縮化を図る。
【解決手段】鋼製杭、壁体、及び現場打ちコンクリートを備えた岸壁構造であって、鋼製杭は、その上部が水面から上方に突出し、その下部が水底に連続して打ち込まれ、隣接する当該鋼製杭同士が互いに連結されて躯体を構成し、壁体において、海側プレキャスト部材と陸側プレキャスト部材は、対向するそれぞれの上端部同士を連結部材によって間隙部をなして連結され、壁体は、間隙部に鋼製杭の上端部を収納し、且つ、海側プレキャスト部材の下部が水底に連続して打ち込まれて鋼製杭の水域側を覆う海側壁部を構成するように配置され、間隙部、及び、鋼製杭と海側プレキャスト部材との間の空隙は現場打ちコンクリートで充填されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の鋼製杭、水域側に位置する海側プレキャスト部材と陸側に位置する陸側プレキャスト部材からなる壁体、及び現場打ちコンクリートを備えた岸壁構造であって、
複数の前記鋼製杭は、その上部が水面から上方に突出し、その下部が水底に連続して打ち込まれ、隣接する当該鋼製杭同士が互いに連結されて躯体を構成し、
前記壁体において、前記海側プレキャスト部材と前記陸側プレキャスト部材は、対向するそれぞれの上端部同士を連結部材によって間隙部をなして連結され、
前記壁体は、前記間隙部に前記鋼製杭の上端部を収納し、且つ、前記海側プレキャスト部材の下部が水底に連続して打ち込まれて前記鋼製杭の水域側を覆う海側壁部を構成するように配置され、
前記間隙部、及び、前記鋼製杭と前記海側プレキャスト部材との間の空隙は現場打ちコンクリートで充填されていることを特徴とする、岸壁構造。
【請求項2】
前記鋼製杭及び前記海側プレキャスト部材には、それぞれの互いに対向する面において上下方向に延伸する形鋼部材が接合され、
前記鋼製杭に接合された前記形鋼部材と、前記海側プレキャスト部材に接合された形鋼部材は互いに噛み合うように構成されることを特徴とする、請求項1に記載の岸壁構造。
【請求項3】
前記陸側プレキャスト部材には、前記間隙部に向かって突出するジベル鉄筋が取り付けられていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の岸壁構造。
【請求項4】
前記壁体及び前記間隙部に充填された現場打ちコンクリートの上方において、上部方向に伸びる現場打ちコンクリート岸壁が設けられ、
前記現場打ちコンクリートと前記現場打ちコンクリート岸壁との間に跨って複数の接続用鉄筋が埋設されていることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の岸壁構造。
【請求項5】
請求項2に記載の岸壁構造の構築方法であって、
予め前記形鋼部材を接合した前記鋼製杭を連続して水底に打ち込んで躯体を構成させ、
その後、予め前記形鋼部材を接合した前記海側プレキャスト部材と前記陸側プレキャスト部材を連結して構成される前記壁体を、前記鋼製杭に接合された形鋼部材と前記海側プレキャスト部材に接合された形鋼部材が噛み合うように、且つ、前記躯体の上部が前記間隙部に収納されるように、当該壁体を水底に打ち込み水域側に面する海側壁部を構成させ、
その後、前記間隙部、及び、前記鋼製杭と前記海側プレキャスト部材との間の空隙に現場打ちコンクリートを充填させることを特徴とする、岸壁構造の構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海岸や河岸等の岸辺の保護や景観向上等のために用いられるプレキャスト部材を用いて構築される岸壁構造及びその構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
沿岸部における鋼製杭を使用した護岸(岸壁構造)においては、塩害に対する耐久性が求められるため、海岸の浸食や海水の内陸部への浸水を防ぐ手段としてコンクリートによる被覆を行うことが一般的である。一般的な護岸(岸壁構造)は、海岸線等に鋼製杭を打設した後、鋼製杭の海側及び陸側に型枠やセパレータを設置し、コンクリートを打設して構築される。
【0003】
例えば特許文献1には、鋼矢板とプレキャストコンクリートパネルを組み合わせて構成される護岸構造体が開示されている。この特許文献1に記載の護岸構造体によれば、鋼矢板の深さ(高さ)によらずプレキャストコンクリートパネルの設置高さを揃えることができ、鋼矢板とプレキャストコンクリートパネルとの隙間に打設されるコンクリートの漏れ出しを防止することが可能となる。
【0004】
また、例えば特許文献2には、既設鋼矢板を利用し、親杭やプレキャストパネルを海底面に打ち込み、既設矢板とパネルの間にコンクリートを充填することで護岸構造物を改修する技術が開示されている。この特許文献2に記載の技術よれば、陸上施工を基本とし、工期や工費を抑え、護岸法線の前出しによる航路幅の縮小を防止して護岸構造物の改修を行うことが可能となる。
【0005】
また、例えば特許文献3には、パネルとU形鋼矢板を、継手部材(雌型、雄型)によって組み合わせ、パネル相互を隣接させて設置した構成の護岸構造物が開示されている。この特許文献3に記載の護岸構造物によれば、U形鋼矢板の打設精度に誤差があったとしても、継手部材を緩嵌挿させることでパネル相互を隣接させて設置することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017-89144号公報
【特許文献2】特開2005-139680号公報
【特許文献3】実開平4-73020号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
周囲を海洋に囲まれた日本の海岸線の延長距離は膨大であり、また、工事は天候にも左右されるため、岸壁構造の施工には大きなコストと工期が必要であり、工事の効率化が求められている。併せて、岸壁構造の耐久性向上のため、鋼製杭やコンクリートパネル等の施工精度を向上させることも求められる。また、工事の効率化、工期の短縮化などのためには、予め工場などで製作された部材(いわゆるプレキャスト部材)を用いることが効果的である。
【0008】
このような点に関し、上記特許文献1に記載の技術では、鋼製杭(鋼矢板)を打ち込む際に水面側から作業を行う必要がある。即ち、護岸壁の前背面に作業員が入る必要があり、海水の仮締切工や地盤掘削工等を行うための作業スペースの確保が求められるためコスト増や工期の長期化が懸念される。また、特許文献1に記載の護岸構造体においては、現場で打ち込んだ鋼矢板に対し溶接などによって鋼材を取り付け、その鋼材にコンクリートパネルを引っ掛けて設置を行っており、鋼材の取り付けを現場作業で行うため作業の煩雑化が懸念される。
【0009】
また、上記特許文献2に記載の技術は、劣化の少ない既設鋼矢板を利用することが前提となっており、新たな岸壁構造を構築する技術については十分に言及されていない。即ち、新たな岸壁構造を構築する際の工事の効率化や工期の短縮化について十分な開示がされていない。
【0010】
また、上記特許文献3に記載の技術では、U形鋼矢板を打設し、パネルを組み合わせることで護岸構造物を構築しているが、水域側におけるU形鋼矢板の打設やパネルの設置には水域側からの作業が求められ、作業効率や精度に問題がある。また、横断面U形鋼矢板の打設やパネルの設置において、隣接する鋼矢板やパネル同士の高さを精度よく合わせる技術については何ら言及されておらず、護岸構造物の構築精度には更なる向上の余地がある。
【0011】
上記事情に鑑み、本発明の目的は、プレキャスト部材を用いて岸壁構造を構築するに際し、予め接合構造を具備したプレキャスト部材を用意し、鋼製杭とプレキャスト部材を一体化させる作業の省力化を図ることで、工事の効率化や工期の短縮化を実現可能な岸壁構造及びその構築方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記の目的を達成するため、本発明によれば、複数の鋼製杭、水域側に位置する海側プレキャスト部材と陸側に位置する陸側プレキャスト部材からなる壁体、及び現場打ちコンクリートを備えた岸壁構造であって、複数の前記鋼製杭は、その上部が水面から上方に突出し、その下部が水底に連続して打ち込まれ、隣接する当該鋼製杭同士が互いに連結されて躯体を構成し、前記壁体において、前記海側プレキャスト部材と前記陸側プレキャスト部材は、対向するそれぞれの上端部同士を連結部材によって間隙部をなして連結され、前記壁体は、前記間隙部に前記鋼製杭の上端部を収納し、且つ、前記海側プレキャスト部材の下部が水底に連続して打ち込まれて前記鋼製杭の水域側を覆う海側壁部を構成するように配置され、前記間隙部、及び、前記鋼製杭と前記海側プレキャスト部材との間の空隙は現場打ちコンクリートで充填されていることを特徴とする、岸壁構造が提供される。
【0013】
前記鋼製杭及び前記海側プレキャスト部材には、それぞれの互いに対向する面において上下方向に延伸する形鋼部材が接合され、前記鋼製杭に接合された前記形鋼部材と、前記海側プレキャスト部材に接合された形鋼部材は互いに噛み合うように構成されても良い。
【0014】
前記陸側プレキャスト部材には、前記間隙部に向かって突出するジベル鉄筋が取り付けられても良い。
【0015】
前記壁体及び前記間隙部に充填された現場打ちコンクリートの上方において、上部方向に伸びる現場打ちコンクリート岸壁が設けられ、前記現場打ちコンクリートと前記現場打ちコンクリート岸壁との間に跨って複数の接続用鉄筋が埋設されても良い。
【0016】
また、別の観点からの本発明によれば、上記記載の岸壁構造の構築方法であって、予め前記形鋼部材を接合した前記鋼製杭を連続して水底に打ち込んで躯体を構成させ、その後、予め前記形鋼部材を接合した前記海側プレキャスト部材と前記陸側プレキャスト部材を連結して構成される前記壁体を、前記鋼製杭に接合された形鋼部材と前記海側プレキャスト部材に接合された形鋼部材が噛み合うように、且つ、前記躯体の上部が前記間隙部に収納されるように、当該壁体を水底に打ち込み水域側に面する海側壁部を構成させ、その後、前記間隙部、及び、前記鋼製杭と前記海側プレキャスト部材との間の空隙に現場打ちコンクリートを充填させることを特徴とする、岸壁構造の構築方法が提供される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、プレキャスト部材を用いて岸壁構造を構築するに際し、予め接合構造を具備したプレキャスト部材を用意し、鋼製杭とプレキャスト部材を一体化させる作業の省力化を図ることで、工事の効率化や工期の短縮化を実現可能な岸壁構造及びその構築方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施の形態に係る岸壁構造の概略斜視図である。
図2】壁体を水域側(X軸正方向側)から見た図である。
図3】壁体を陸側(X軸負方向側)から見た図である。
図4】壁体を含む岸壁構造の概略断面図である。
図5】壁体の概略平面図である。
図6】接続用鋼材の概略説明図である。
図7】形鋼部材の概略説明図である。
図8】ジベル鉄筋の概略説明図である。
図9】本発明の変形例に係る岸壁構造の概略説明図である。
図10】本発明の変形例に係る岸壁構造の概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する場合がある。また、以下では、説明のため、地盤や地表面などは図示せず、地中に打ち込まれた状態の鋼管杭等のみを図示し説明する場合がある。
【0020】
(岸壁構造の全体の構成)
図1は、本発明の実施の形態に係る岸壁構造1の概略斜視図である。図1における右側(X軸正方向側)が水域側(海側、川側)であり、左側(X軸負方向側)が陸側である。また、図1では説明のため、一部の部材において、その内部構造等を可視可能に図示している。
【0021】
図1に示すように、岸壁構造1は、海岸や河岸等の岸辺において、水底に連続して打ち込まれる複数の鋼製杭10を有している。鋼製杭10の下部は図示しない水底(例えば海底)に打ち込まれており、その上部は図示しない水面(例えば海面)から上方に突出している。複数の鋼製杭10は隣接する鋼製杭10同士が互いに連結して躯体10aを構成している。なお、ここでの「岸辺」とは、海岸や河岸に限らず、種々の水域と陸地との境界を含むものである。
【0022】
また、鋼製杭10の上部には複数のプレキャスト部材からなる壁体15が設けられている。壁体15は、水域側に位置する複数の海側プレキャスト部材20と、陸側に位置する複数の陸側プレキャスト部材25と、が連結された構成を有している。海側プレキャスト部材20と陸側プレキャスト部材25は、その上端部において連結部材(後述する接続用鋼材40)を介して互いに平行に間隙(以下、間隙部30)をなして連結されている。この海側プレキャスト部材20と陸側プレキャスト部材25との間の間隙部30には、鋼製杭10の上部が収納される。複数の海側プレキャスト部材20は、その下部が水底に連続して打ち込まれ、隣接する海側プレキャスト部材20が連続的に打ち込まれることで海側壁部27が構成されている。なお、壁体15、海側プレキャスト部材20、陸側プレキャスト部材25や間隙部30等のより詳細な構成については図面を参照して後述する。
【0023】
間隙部30には、現場での施工により現場打ちコンクリートUが充填される。併せて、図1のように、壁体15の上部から陸側上部方向に伸びる現場打ちコンクリート岸壁35が形成されても良い。この現場打ちコンクリート岸壁35の設置要否や形状、構成は任意であり、地盤(地形)36に合わせて好適に形成することが好ましい。また、図示のように、現場打ちコンクリート間のずれ止め等のため、間隙部30に充填される現場打ちコンクリートUと、現場打ちコンクリート岸壁35との間に跨るように複数の接続用鉄筋38が埋設されても良い。接続用鉄筋38の数や配置構成は任意であり、例えば、図示のように、打設される現場打ちコンクリート(現場打ちコンクリートU及び現場打ちコンクリート岸壁35)の形状に沿ったものとしても良い。
【0024】
(壁体、間隙部の構成)
図2、3は壁体15の詳細な構成を示す説明図であり、図2は水域側(X軸正方向側)から見た図、図3は陸側(X軸負方向側)から見た図である。なお、図2、3では、説明のため、壁体15の一部を拡大して図示し、その一部内部構造を可視的に図示している。また、図4は壁体15を含む岸壁構造1の概略側面断面図である。図5は壁体15の概略平面断面図であり、(a)~(d)はそれぞれ図4中のA-A断面、B-B断面、C-C断面、D-D断面を示している。
【0025】
図2、3に示すように、壁体15は複数の海側プレキャスト部材20と、複数の陸側プレキャスト部材25と、が連結部材としての接続用鋼材40、40を介して連結して構成される。接続用鋼材40の数や形状・構成は任意であるが、例えば、図3図5(a)のように、海側プレキャスト部材20と陸側プレキャスト部材25の上端部において互いに向かい合う方向に対し延伸するように取り付けられる溝形鋼(チャンネル)であっても良い。また、向かい合う接続用鋼材40、40同士の連結方法は特に限定されるものではなく、例えば、溝形鋼の背面同士をボルト止めによって連結しても良い。
【0026】
海側プレキャスト部材20と陸側プレキャスト部材25の間には所定の間隔が設けられ、その状態で接続用鋼材40による連結が行われることで間隙部30が形成される。間隙部30においては、水底に打ち込まれた複数の鋼製杭10の上部が、接続用鋼材40に接触しない状態で収納される。鋼製杭10の種類は特に限定されるものではなく、一例としては、図2~5に示すような鋼矢板杭が挙げられる。
【0027】
また、陸側プレキャスト部材25には、図3に示すように、間隙部30に向かって突出するジベル鉄筋43が取り付けられている。ジベル鉄筋43の数や配置構成は任意であり、例えば、図示のように壁体幅方向に複数本配置されても良く、陸側プレキャスト部材25に対し嵌合ネジによって取り付けられた構成でも良い。このジベル鉄筋43は、間隙部30に充填された現場打ちコンクリートUと陸側プレキャスト部材25との間のずれ止め(せん断抵抗の向上)のために設けられる。
【0028】
また、図5(b)に示すように、間隙部30の平面視において鋼製杭10(躯体10a)の存在する領域では、当該鋼製杭10を挟んで海側の空間30aと、陸側の空間30bとに分けられる。ここで、鋼製杭10及び海側プレキャスト部材20には、両者が互いに向かい合う面にそれぞれ上下方向(Z軸方向)に延伸する形鋼部材50a、50bが接合されている。即ち、図5(b)のように、空間30aにおいては形鋼部材50a、50bが噛み合った状態で現場打ちコンクリートUが充填されることで、鋼製杭10と海側プレキャスト部材20とが一体化されている。
【0029】
また、図4図5(c)、(d)に示すように、壁体15の下方(Z軸負方向側)においては、陸側プレキャスト部材25は打ち込まれておらず、鋼製杭10と海側プレキャスト部材20のみが打ち込まれた部分(領域)が存在する。この領域では、空間30aに相当する空隙が形成され、上述した空間30bには地盤が存在している。即ち、図5(c)、(d)のように、空間30aのみにおいて形鋼部材50a、50bが噛み合った状態で現場打ちコンクリートUが充填されることで、鋼製杭10と海側プレキャスト部材20とが一体化されている。
【0030】
(接続用鋼材の構成)
図6は接続用鋼材40の概略説明図であり、接続用鋼材40の近傍を拡大して図示した概略側面断面図である。図6に示すように、海側プレキャスト部材20及び陸側プレキャスト部材25のそれぞれの向き合う面に、一対の接続用鋼材40、40同士が互いに干渉して連結可能に取り付けられている。海側プレキャスト部材20及び陸側プレキャスト部材25における接続用鋼材40の取り付け方法は任意であり、例えば図示のように、各プレキャスト部材の製造時に接続用鋼材40を内に埋め込み、部材幅方向(図中Y方向)に伸びるアンカー用鉄筋54により取り付けても良い。なお、各プレキャスト部材内には、強度向上のための水平方向に伸びる主鉄筋55や、上下方向に伸びる配力筋56が配筋されても良い。
【0031】
接続用鋼材40による海側プレキャスト部材20と陸側プレキャスト部材25との連結は、例えば、図6に示すボルト59によって行われても良い。その際、ボルト59に対応するボルト穴を長穴とすることで海側プレキャスト部材20と陸側プレキャスト部材25との間隔(即ち、間隙部30のX軸方向距離)を調整可能としても良い。
【0032】
また、接続用鋼材40による海側プレキャスト部材20と陸側プレキャスト部材25との連結は、実際の現場工事の前に行われる必要がある。具体的には、各プレキャスト部材(海側プレキャスト部材20と陸側プレキャスト部材25)の製造時に工場において連結しても良く、あるいは、実際の施工現場において工事前に連結しても良い。
【0033】
このように接続用鋼材40を用いて連結された海側プレキャスト部材20及び陸側プレキャスト部材25を有する壁体15を現場で施工する場合には、既に打ち込まれた状態の鋼製杭10の上端と接続用鋼材40が接触しても良く、あるいは接触しない構成でも良い。鋼製杭10の上端と接続用鋼材40が接触しない場合には、図6のように、鋼製杭10の上端と接続用鋼材40との間に好適な寸法のスペーサー部材60を設置しても良い。スペーサー部材60は例えば所定寸法の角型鋼管等でも良い。
【0034】
(形鋼部材の構成)
図7は形鋼部材50a、50bの概略説明図であり、形鋼部材50a、50bの近傍を拡大して図示した概略平面断面図である。図2図5(b)、図7に示すように、鋼製杭10及び海側プレキャスト部材20には、両者が互いに向かい合う面において、それぞれ上下方向(Z軸方向)に延伸する形鋼部材50a、50bが接合されている。これら形鋼部材50a、50bは現場工事前に、各部材(鋼製杭10、海側プレキャスト部材20)に予め接合されている。例えば、図7のようにボルト・ナットの組み合わせにより接合されても良い。
【0035】
岸壁構造1の構築時には、鋼製杭10が先に水底に打ち込まれ、その後に海側プレキャスト部材20を含む壁体15が打ち込まれる。その際に、図7のように、互いに対向する形鋼部材50aと形鋼部材50bが噛み合うように壁体15の打ち込みは行われる。その際、図示のように、形鋼部材50aと形鋼部材50bが効果的に噛み合うよう、種々の位置にスペーサー部材65、66を挿入しても良い。スペーサー部材65、66は例えば所定寸法の鉄筋や角型鋼管等でも良い。
【0036】
なお、図7では、形鋼部材50a、50bが溝形鋼(いわゆるチャンネル)である場合について図示したが、形鋼部材50a、50bはこれに限られるものではない。形鋼部材50a、50bは対向して互いに噛み合うような形状の部材であれば良く、例えば、H形鋼やI形鋼といった種々の部材が考え得る。
【0037】
(ジベル鉄筋の構成)
図8は、ジベル鉄筋43の概略説明図であり、ジベル鉄筋43の近傍を拡大して図示した概略側面断面図である。上述したように、陸側プレキャスト部材25には間隙部30に向かって(X軸正方向)突出するジベル鉄筋43が取り付けられている。具体的構成の一例としては、図8のように、陸側プレキャスト部材25に雌ネジ部69が形成され、ネジ切り加工された鉄筋であるジベル鉄筋43を雌ネジ部69に挿入することで取り付けられても良い。なお、ジベル鉄筋43は陸側プレキャスト部材25の製造時に予め取り付けることが好ましい。
【0038】
ジベル鉄筋43の取り付け数、取り付け位置といった配置構成は任意であるが、陸側プレキャスト部材25と現場打ちコンクリートUとの界面に発生するせん断力を効果的に負担することが可能な配置構成が望ましい。即ち、陸側プレキャスト部材25と現場打ちコンクリートUとの界面においてジベル鉄筋43に発生するせん断応力度が、当該ジベル鉄筋43のせん断耐力以下になるように必要断面積を決定すれば良い。ジベル鉄筋43として、一般的な細径(D19以下)鉄筋を用いても良く、上記のように決定された必要断面積に基づきその本数を決定しても良い。なお、せん断応力を分散させるために、ジベル鉄筋43は、陸側プレキャスト部材25の取り付け可能な場所にできるだけ分散させて配置して取り付けることが好ましい。
【0039】
(岸壁構造1の構築方法)
本実施の形態に係る岸壁構造1の構築方法は以下の通りである。事前準備として、プレキャスト部材である海側プレキャスト部材20、陸側プレキャスト部材25が予め製造される。この時、海側プレキャスト部材20には形鋼部材50bが予め接合され、陸側プレキャスト部材25にはジベル鉄筋43が予め取り付けられる。また、海側プレキャスト部材20及び陸側プレキャスト部材25の双方に予め連結部材としての接続用鋼材40、40が取り付けられる。そして、接続用鋼材40、40による海側プレキャスト部材20と陸側プレキャスト部材25との連結が現場工事前までに予め行われる(図6参照)。即ち、現場工事の前段階において、工場で予め壁体15を構成しても良く、現場において予め壁体15を構成しても良い。また、鋼製杭10には形鋼部材50aが予め接合される(図7参照)。
【0040】
以上のような事前準備の後、先ず、岸壁構造1の構築が必要な岸辺において、水底(例えば海底)に複数の鋼製杭10を連続して打ち込む。このとき、複数の隣接する鋼製杭10同士を連結させながら打ち込むことで岸辺に躯体10aが構成される(図1~3参照)。躯体10aは、例えば海岸線等の沿岸に沿って構成されても良い。
【0041】
そして、海側プレキャスト部材20と陸側プレキャスト部材25が接続用鋼材40を介して連結されてなる壁体15を、躯体10aの上部が間隙部30に収納されるように打ち込む。壁体15は躯体10aに沿って複数が隣接して連続して打ち込まれる。この時、鋼製杭10に接合された形鋼部材50aと、海側プレキャスト部材20に接合された形鋼部材50bが互いに噛み合うように、壁体15の打ち込みが行われる(図7参照)。また、その際には、鋼製杭10(躯体10a)の上端と、接続用鋼材40とが接触させても良く、あるいは接触させない場合にはスペーサー部材60を設けた構成にしても良い(図6参照)。
【0042】
このような壁体15の打ち込みにより、海側プレキャスト部材20は一部が水面から上方に出た状態で水底(海底)に打ち込まれ海側壁部27が構成される。一方で、陸側プレキャスト部材25は、岸辺の陸側地盤(例えば図1の地盤36)に打ち込まれる。
【0043】
鋼製杭10(躯体10a)の打ち込み、及び、壁体15の打ち込みが完了した後、海側プレキャスト部材20と陸側プレキャスト部材25との間の間隙部30に対し現場打ちコンクリートUが充填される。
【0044】
ここで、岸辺の地形に応じて、現場打ちコンクリートUの上部方向に、当該現場打ちコンクリートUと連続して延長するように構成される現場打ちコンクリート岸壁35が構築されても良い。現場打ちコンクリート岸壁35を構築する場合には、間隙部30に現場打ちコンクリートUを充填する際に、現場打ちコンクリートUと現場打ちコンクリート岸壁35に跨る接続用鉄筋38を取り付けておくことが好ましい(図1参照)。なお、現場打ちコンクリート岸壁35の形状や構成は任意であり、岸辺の地形に応じて適宜設計される。
【0045】
このようにして、図1に示すような本実施の形態に係る岸壁構造1が構築される。上述した、鋼製杭10の打ち込み、壁体15の打ち込み、現場打ちコンクリートUの充填、現場打ちコンクリート岸壁35の構築のいずれも地盤陸側からの作業が可能であり、原則として水域側(海側)の作業は不要である。
【0046】
(作用効果)
以上説明したように構成される本実施の形態に係る岸壁構造1によれば、予め工場などで製作されたプレキャスト部材(海側プレキャスト部材20、陸側プレキャスト部材25)を用い、現場での作業を省力化している。また、鋼製杭10に対する形鋼部材50aの接合、海側プレキャスト部材20に対する形鋼部材50bや接続用鋼材40の取り付け、陸側プレキャスト部材25に対する接続用鋼材40の取り付けなどは、現場工事の前に事前準備として行われる。これにより、現場での作業が簡略化され、工事の効率化、工期の短縮化などが図られる。
【0047】
また、躯体10aを構成するための鋼製杭10の水底への打ち込みは現場の状況や水域側の状態等により高精度では行われない場合がある。具体的には、複数の鋼製杭10が互いに連結して躯体10aを構成する際に、各鋼製杭10の上端高さが異なった状態で打ち込まれることが懸念される。このような場合であっても、本実施の形態に係る構成では、鋼製杭10(躯体10a)の上部が間隙部30に収納されるように壁体15を各鋼製杭10(躯体10a)の上方から打ち込む構成を採っている。例えば、複数の隣接する壁体15の高さ位置が一致するように壁体15の打ち込みを行うことで、打ち込まれた複数の鋼製杭10の高さが一致しないような場合であっても、全体の高さ位置を一致させて岸壁構造1を構築することができる。これにより、岸辺の保護や景観向上に有用な岸壁構造1が効率的に実現される。
【0048】
以上、本発明の実施の形態の一例を説明したが、本発明は図示の形態に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変形例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0049】
(本発明の変形例)
図9図10は本発明の変形例に係る岸壁構造1a、1bの概略説明図であり、上記実施の形態と地形が異なる際の構成を示す概略側面断面図である。なお、変形例において、上記実施の形態に係る岸壁構造1と同じ機能構成を有する構成要素については同一の符号を付してその説明は省略する場合がある。
【0050】
図9に示す岸壁構造1aにおいては、地盤36の形状が平坦となっている。この場合、現場打ちコンクリート岸壁35aの形状も平坦することが必要となる。また、現場打ちコンクリートUと現場打ちコンクリート岸壁35aとの間に跨って設けられる接続用鉄筋38の形状も地盤36の形状に合わせたものとしても良い。
【0051】
また、図10に示す岸壁構造1bにおいては、地盤36の高さが水底(海底)面に対し極めて高いような地形となっている。このような場合、図示のように、現場打ちコンクリート岸壁35bの構成を鉛直方向に伸びるようなコンクリート部材としても良い。この構成における接続用鉄筋38は、上方に伸びる略直線形状の鉄筋としても良い。
【0052】
上記実施の形態では、鋼製杭10として鋼矢板を用いる場合を挙げて図示・説明したが、本発明はこれに限られるものではない。例えば、鋼製杭10として鋼管杭や各種形鋼等、連結可能な杭部材を用いても良い。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、海岸や河岸等の岸辺の保護や景観向上等のために用いられるプレキャスト部材を用いて構築される岸壁構造及びその構築方法に適用できる。
【符号の説明】
【0054】
1、1a、1b…岸壁構造
10…鋼製杭
10a…躯体
15…壁体
20…海側プレキャスト部材
25…陸側プレキャスト部材
27…海側壁部
30…間隙部
35、35a、35b…現場打ちコンクリート岸壁
36…地盤
38…接続用鉄筋
40…接続用鋼材
43…ジベル鉄筋
50a、50b…形鋼部材
59…ボルト
60、65、66…スペーサー部材
69…雌ネジ部
U…現場打ちコンクリート
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10