IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ダイヤトレンド株式会社の特許一覧

特開2022-115662放射線検出装置、及び、その装置を搭載した放射線検出システム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022115662
(43)【公開日】2022-08-09
(54)【発明の名称】放射線検出装置、及び、その装置を搭載した放射線検出システム
(51)【国際特許分類】
   A61B 6/00 20060101AFI20220802BHJP
   G01T 7/00 20060101ALI20220802BHJP
   G01T 1/17 20060101ALI20220802BHJP
   G21K 1/02 20060101ALI20220802BHJP
   A61B 6/06 20060101ALI20220802BHJP
   G01N 23/04 20180101ALI20220802BHJP
【FI】
A61B6/00 300X
G01T7/00 A
G01T1/17 H
G01T1/17 A
G21K1/02 R
A61B6/00 300S
A61B6/06 300
A61B6/00 333
G01N23/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】22
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021012348
(22)【出願日】2021-01-28
(71)【出願人】
【識別番号】300059692
【氏名又は名称】ダイヤトレンド株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119585
【弁理士】
【氏名又は名称】東田 潔
(72)【発明者】
【氏名】山河 勉
(72)【発明者】
【氏名】宮下 清哉
(72)【発明者】
【氏名】大杉 淳
(72)【発明者】
【氏名】坂本 恭平
(72)【発明者】
【氏名】早川 龍太郎
【テーマコード(参考)】
2G001
2G188
4C093
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001BA11
2G001CA01
2G001DA01
2G001DA06
2G001DA09
2G001EA03
2G001HA13
2G001JA06
2G001SA02
2G188AA02
2G188AA25
2G188BB02
2G188BB04
2G188CC16
2G188CC23
2G188DD05
2G188DD16
2G188DD23
2G188DD24
2G188EE01
2G188EE12
2G188EE25
2G188EE29
2G188EE32
2G188EE36
2G188FF11
2G188FF14
4C093AA01
4C093CA32
4C093EA07
4C093EB12
4C093EB13
4C093EB17
4C093EB19
4C093EB22
4C093EB24
4C093EC22
4C093ED01
4C093FA43
4C093FA54
4C093FA55
(57)【要約】      (修正有)
【課題】被ばく線量のより一層の低減化、より広い撮影領域の確保、及び、製造コストも抑えることができる放射線検出システムを提供する。
【解決手段】この放射線検出装置は、放射線を検知する画素を互いに直交する第1の方向X及び第2の方向Zの2次元に配列させた画素配列を有するモジュールを複数、第1の方向に隣接して配置させたモジュール縦列体を有する。このモジュール縦列体は第1の方向Xに沿った長辺31L及び第2の方向Zに沿った短辺31Sを有し且つ長辺31Lが短辺31Sよりも長く、且つ、平面視で細長い矩形状に形成された細長検出器31を備える。この細長検出器31が複数、スキャン方向SDに移動可能に支持される。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線を検知する画素を互いに直交する第1の方向及び第2の方向の2次元に配列させた画素配列を有するモジュールを複数、前記第1の方向に隣接して配置させたモジュール縦列体を有し、当該モジュール縦列体は前記第1の方向に沿った長辺及び第2の方向に沿った短辺を有し且つ前記長辺が前記短辺よりも長く、且つ、平面視で細長い矩形状に形成された細長検出器と、
前記放射線で対象物をスキャン可能のように複数の前記細長検出器を支持する検出器支持手段と、を
備えたことを特徴とする放射線検出装置。
【請求項2】
前記検出器支持手段は、前記複数の細長検出器のそれぞれの前記モジュール縦列体を前記第2の方向、又は、当該第2の方向に所定角度を以って斜めに向いた方向にスライド可能に支持する構成を有し、
前記放射線検出装置は、
前記放射線が照射される撮像時に、スキャン命令に応じて、前記複数の細長検出器を互いに同期して、前記第2の方向又は前記斜めに向いた方向に移動させるスキャン手段と、
を備えたことを特徴する請求項1に記載の放射線検出装置。
【請求項3】
前記複数の細長検出器それぞれの前記モジュール縦列体は前記モジュールを複数、前記第1の方向において相互に所定幅の空隙を介して隣接して配置されたことを特徴とする請求項1又は2に記載の放射線検出装置。
【請求項4】
前記検出器支持手段は、前記複数の細長検出器を、前記第2の方向において離散的に備え且つそれぞれスライド可能に支持するように構成されている請求項1、2、又は3に記載の放射線検出装置。
【請求項5】
前記検出器支持手段は、
前記第2の方向において互いに距離を空けて離散的に前記複数の細長検出器を支持するように配置したことを特徴する請求項1~4の何れか一項に記載の放射線検出装置。
【請求項6】
前記検出器支持手段は、
前記複数の細長検出器を支持するベース体を備え、
前記スキャン手段は、
前記ベース体を前記スキャン命令に応答して前記スキャン方向に相当する前記第2の方向に移動可能な駆動機構を備えた
ことを特徴とする請求項2~5の何れか一項に記載の放射線検出装置。
【請求項7】
前記スキャン手段は、
前記駆動機構の駆動を制御して、少なくとも、前記複数の細長検出器それぞれが前記第2の方向において受け持つスキャン分担範囲をカバーする距離だけ前記ベース体を前記第2の方向に移動させる移動制御手段を備えることを特徴とする請求項6に記載の放射線検出装置。
【請求項8】
前記複数の細長検出器それぞれが受け持つ前記スキャン分担範囲は、前記第2の方向にて互いに同じであることを特徴とする請求項7に記載の放射線検出装置。
【請求項9】
前記複数の細長検出器それぞれが受け持つ前記スキャン分担範囲は、前記第2の方向にて互いに異なるか、または、互いに異なる当該スキャン分担範囲を含むように含んで構成されていることを特徴とする請求項7に記載の放射線検出装置。
【請求項10】
前記移動制御手段は、
前記複数の細長検出器それぞれを、少なくとも、当該検出器それぞれの前記スキャン分担範囲に相当する、前記第2の方向の前記距離を等速で移動させるように構成されている請求項7に記載の放射線検出装置。
【請求項11】
前記複数の細長検出器それぞれの前記移動の速度制御プロファイルとして、当該それぞれの検出器の移動開始位置から前記等速移動に移行するまでの加速範囲、当該等速移動を行う等速移動範囲、及び当該等速移動範囲から移動停止位置までの減速範囲を有し、
前記移動制御手段は、前記速度制御プロファイルに沿って前記駆動機構を前記第2の方向に移動させるように構成されている請求項10に記載の放射線検出装置。
【請求項12】
前記速度制御プロファイルは、
前記複数の細長検出器のうち、前記スキャン方向における2番目及びそれ以降の細長検出器の前記減速範囲と、3番目及びそれ以降の細長検出器の前記加速範囲とを当該速度制御プロファイル上でそれぞれオーバーラップするように設定されていることを特徴とする請求項11に記載の放射線検出装置。
【請求項13】
前記複数の細長検出器のうち、前記スキャン方向に相当する前記スキャン方向における1番目の当該細長検出器の前記加速範囲及び最終番目の当該細長検出器の前記減速範囲を除く、当該複数の細長検出器が前記第2の方向に移動して画成する、前記第1及び第2の方向を直交軸とする2次元範囲を前記放射線のスキャンによる撮影領域として設定するように構成された請求項10~12の何れか一項に記載の放射線検出装置。
【請求項14】
前記放射線はX線であることを特徴とする請求項1~13の何れか一項に記載の放射線検出装置。
【請求項15】
前記複数の細長検出器は2本の細長検出器であることを特徴とする請求項1~14の何れか一項に記載の放射線検出装置。
【請求項16】
前記複数の細長検出器は3本又はそれ以上の細長検出器であることを特徴とする請求項1~14の何れか一項に記載の放射線検出装置。
【請求項17】
前記複数の細長検出器は2本の細長検出器であり、
前記ベース体は、
前記2本の細長検出器を互いに独立して移動可能に支持する2つのベース体を備え、且つ、当該2本の細長検出器を、前記スキャン方向に相当する前記第2の方向において互いに隣接する移動開始位置に配置され、且つ、当該移動開始位置から当該第2の方向において互いに反対方向に移動可能に支持し、
前記移動制御手段は、
前記スキャン命令に応じて前記ベース体を駆動して、前記第2の方向において互いに反対方向に相互に離反する移動を伴うように前記2本の細長検出器を移動させて、当該2本の細長検出器それぞれに自前の前記スキャン分担範囲をカバーさせるように構成したことを特徴とする請求項10に記載の放射線検出装置。
【請求項18】
前記複数の細長検出器それぞれは、前記放射線は連続放射線であって、当該放射線のエネルギスペクトラムに設定した1つのエネルギ範囲で又は2つ以上のエネルギ範囲のそれぞれ毎に、当該放射線の光子の数を計測し、当該光子の数を当該放射線の量として検出する処理回路を備えた光子計数型の検出器であることを特徴とする請求項1~17の何れか一項に記載の放射線検出装置。
【請求項19】
請求項1~18の何れか一項に記載の放射線検出装置と、
請求項1~18の何れか一項に記載の放射線を照射する放射線発生装置と、
前記放射線発生装置が発生した放射線を、前記複数の細長検出器の放射線入射窓にのみ放射線が照射されるように当該放射線の照射野を絞るスリットを有したコリメータと、
前記複数の放射線検出器の前記第2の方向への移動に同期して前記コリメータを当該第2の方向に移動させて、常に当該複数の細長検出器の放射線入射窓にのみ放射線が照射させるコリメータ移動手段と、を
備えたことを特徴とする放射線検出システム。
【請求項20】
前記放射線検出装置の前記放射線の入射側に配置され、前記放射線の散乱線を遮断または低減させるグリッドを前記放射線検出器の一部として又は当該放射線検出とは別体で備えたことを特徴とする請求項19に記載の放射線検出システム。
【請求項21】
前記放射線検出装置は、
前記細長検出器が水平な面又はオブリークな面に沿って移動されるように構成されたスキャン型の放射線検出装置であって、
患者がベッドに寝た状態で診断される放射線診断装置に組み込まれることを特徴とする請求項19~20の何れか一項に記載の放射線検出システム。
【請求項22】
前記放射線検出装置は、
前記細長検出器が垂直な面に沿って移動されるように構成されたスキャン型の放射線検出装置であって、
患者が立位の状態で診断される放射線診断装置に組み込まれることを特徴とする請求項19~21の何れか一項に記載の放射線検出システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線などの放射線を電気信号として検出する放射線検出装置、及び、その装置を搭載した放射線検出システムに係り、とくに、放射線を検出する複数の画素を有したモジュールを複数、1つの方向に隣接して配置した、平面視で細長い形状を有する放射線検出器をスキャンさせながら当該放射線を検出する放射線検出装置、及び、その装置を搭載した放射線検出システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、X線やガンマ線を検出する放射線検出器には様々な種類のものが知られている。
【0003】
この検出器を形状から分類すると、放射線の検出素子を2次元に配置するか、1次元に配置するかによって2次元検出器やライン検出器がある。検出素子を1次元に配置すると言っても、実際には、検出画素を1個ずつ1次元に配置するわけではなく、検出画素を縦横の2次元に配置し、一方の軸に沿って配置する画素の数を他方の軸に沿って配置する画素(少なくとも1画素)の数よりも小さくする。このため、検出器を平面視したときに細長い矩形状になり、ライン状又はリニアな形状になるので、そのような細長い検出器を総称的にライン検出器、リニア検出器などと呼ばれている。
【0004】
このライン検出器の一例として、特許文献1に記載の構造が知られている。この特許文献1に記載の検出装置は、コンピュータ断層法を実施する装置(CT装置)の一例であり、放射線源から放射状の照射される放射線パスに向いて開口した、複数のライン検出器を装備した放射線検出器を備えている。
【0005】
その一方で、近年、医用モダリティや非破壊X線検査システムに使用されるライン検出器において、放射線(X線など)を直接、電気信号に変換する、所謂、直接変換型の検出器や、放射線を一度、光信号に変換し、その光信号を電気信号に変換する、所謂、間接変換型の検出器の進歩改善が進んでいる。
【0006】
この直接変換型及び間接変換型の何れにおいても、X線又は光を感知する回路として、検出画素をシリコンなどの半導体層に作り込む構造を採用する場合、その半導体層は、結晶インゴットを成長・成形・加工する必要がある。このため、大きな検出領域、即ち、複数の検出画素を2次元にマッピングした、所謂、2次元検出器を一面形成することは歩留まりやコスト面で困難である。
【0007】
このため、通常の製品レベルの製造では、半導体チップ上に例えば40×40個の検出画素(X線や光を感知する単位画素)を2次元に配置した矩形状のアレイ構造(例えば8mm×8mmのサイズ)のモジュールを作成する。このモジュールを複数個用意し、それらを縦横2次元に相互に稠密に隣接させて、一方向に相互に稠密に隣接させて1次元検出器とも言えるライン検出器を構成する。
【0008】
このように複数のモジュールを稠密に隣接させる場合、組立て精度の向上や配線スペース等を確保するための、モジュール間に一定幅のギャップ(隙間、空隙)を設ける必要がある。このギャップの幅は通常、1検出画素の0.5倍~2倍程度する設定することが多い。
【0009】
勿論、このギャップを設けることは、ギャップの部分には検出画素が無いことで、再構成画像のアーチファクトや歪の原因にもなる。このため、モジュール型の2次元検出器やライン検出器によって収集されたX線透過データ(フレームデータ)を再構成する場合、かかるギャップの部分に検出画素が存在しないこと因る収集データの欠けを補う補正を行う必要がある。
【0010】
このように構成されるライン検出器を用いて一定面積のX線透過データを収集する場合、例えば特許文献2に示すように、ライン検出器を一定方向に移動させながら、X線発生器から照射され、対象物を透過してきたX線をライン検出器で検出する。
【0011】
詳しくは、この特許文献2によれば、
i)ライン検出器全体をそのままスキャン方向(例えば、直交座標における横方向に設定)に直交する縦方向に対して、所定角度を以って斜めに配置する、所謂、「検出器斜め配置」の例、及び、
ii)ライン検出器自体は縦方向に配置するが、各検出モジュールをその縦方向を成す直交軸から所定角度を以って斜めに隣接配置する、所謂、「モジュール斜め配置」の例が示されている。
【0012】
一方で、近年、このライン検出器は、X線のエネルギ弁別が可能な光子計数型の検出器で構成することが着目されている。この光子計数型の検出器を採用した又は採用可能な検出構造として、特許文献3及び4に記載のものが知られている。
【0013】
この特許文献3によれば、ライン検出器及び2次元検出器の双方において、
iii)パノラマ撮影時における上記ii)の構成、及び
iv)モジュールそれ自体をひし形に形成し、その2次元配列の検出画素の座標系を上記直交軸に対して所定角度を以って斜めにした変形例が示されている。
【0014】
さらに特許文献4は、
v)上記i)に係るライン検出器の配置例を示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】米国特許7127029B2
【特許文献2】特許第4251386号
【特許文献3】特許第6033086号
【特許文献4】WO 2017/170408 A1
【0016】
しかしながら、上記特許文献2~4の何れの、所謂、斜めスキャンを以ってしても、撮影領域の十分な確保及び後処理としての再構成処理に要する演算量の低減化の点で、現実的な製品レベルを考慮すると依然として課題があると言わざるを得ない。
【0017】
具体的には、上記「検出器斜め配置」の検出器をスキャンさせる撮影装置の場合、被ばく線量の低減の観点を考慮すると、放射線源側に配置するスリットの開口は、常に、斜め矩形状(ひし形)の放射線入射窓の全域に向けた大きさ及び姿勢を制御する採る必要がある。この点、オブジェクト空間を介して互いに対峙する撮影系として、被ばく線量の低減化の点で不利であった。
【0018】
一方、「モジュール斜め配置」の場合、この斜めモジュールの各画素から出力される検出信号のうち、検出器の撮影領域として寄与する撮影領域は、モジュール全体の領域の角部に内接する矩形状の部分である。このため、検出信号の取得に有効な画素領域が減ることになり、撮影領域が減少するという問題があった。
【0019】
さらにまた、「検出器斜め配置」及び「モジュール斜め配置」の双方共に、必要サイズの撮影領域全体をカバーしようとして、検出器をスキャンさせる、所謂、スキャン型撮影が必要である。この撮影において、特許文献3,4に記載のように、単に、1本のライン検出器をスキャンさせるだけでは、スキャン時間、つまり撮影時間が長くなり、スループットが低下する。また、X線管側に設置するX線照射領域を限定するスリット幅の開口率の関係で被ばく線量も大きくなる。
【0020】
また動くものを含む対象には時相の違いが顕著になって使用に堪えうる装置にならないという実情がある。この一例として、医用分野において肺野などを撮影領域とする場合、面積自体が広いことに加え、拍動する心臓を含むため、上記問題が顕在化する。この場合、ECGなどを使って心臓の拍動の同一時相で撮影することも想定されるが、撮影時間がより長くなり、患者スループットが低下するとともに、医師の操作負担が増すなどの不都合が容易に想定される。
【0021】
さらに、一定の面積のX線検出を担う2次元の検出装置を構成すれば、スキャンは不要になる。しかしながら、例えば胸部のような広い撮影領域を放射線撮影しようとすると、検出モジュールを、撮影領域をカバーするように面全体に配置すればよいが、ライン検出器の構成上、配線を横に出す必要性があることから、それらを併設して2次元に並べることは実用性がなくなるほど、検出器、しいては装置の製造コストが高くなる。とくに、直接変換型の半導体検出器の場合、画質面では優位であるものの、チャージシェアリングなどの性能面の課題、ポーラリゼーションなどの性能不安定性の問題もある。また面検出器の場合患者からの散乱線が顕著であり、散乱線を軽減するためのグリッドの装着や散乱線の除去ソフトなどの適用が必要である程度の散乱線除去効果はあるものの、散乱線除去精度の視点で限界がある。これら現状から、製造コストも割高で、医療や非破壊検査の現場に広く普及し難い側面があった。このため、現場からは、価格及び検出性能の両面でバランスの採れた装置の提供が待たれている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
本発明は、上述した従来の1本のライン検出器を用いたスキャン型の放射線検出器が抱える不都合に鑑みてなされたもので、とくに、被ばく線量のより一層の低減化、より広い撮影領域の確保、及び、製造コストも抑えることができる、より検査現場に導入し易い放射線検出装置及びその装置を搭載した放射線検出システムを提供する、ことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
そこで、上記目的を達成するため、本発明に係る放射線検出装置の主要な特徴は以下のようである。
【0024】
この放射線検出装置は、
放射線を検知する画素を互いに直交する第1の方向及び第2の方向の2次元に配列させた画素配列を有するモジュールを複数、前記第1の方向に隣接して配置させたモジュール縦列体を有し、当該モジュール縦列体は前記第1の方向に沿った長辺及び第2の方向に沿った短辺を有し且つ前記長辺が前記短辺よりも長く、且つ、平面視で細長い矩形状(elongated (strip-shaped) and rectangular)に形成された細長検出器と、
前記放射線で対象物をスキャン可能なように複数の前記細長検出器を支持する検出器支持手段と、を
備えたことを特徴とする。
【0025】
例えば、前記検出器支持手段は、前記複数の細長検出器のそれぞれの前記モジュール縦列体を前記第2の方向、又は、当該第2の方向に所定角度を以って斜めに向いた方向にスライド可能に支持する構成を有し、前記放射線検出装置は、
前記放射線が照射される撮像時に、スキャン命令に応じて、前記複数の細長検出器を互いに同期して、前記第2の方向又は前記斜めに向いた方向に移動させるスキャン手段と、を備えたことが望ましい。
【0026】
また例えば、前記複数の細長検出器それぞれの前記モジュール縦列体は前記モジュールを複数、前記第1の方向において相互に所定幅の空隙を介して隣接して配置される。
【0027】
さらに、例えば、前記検出器支持手段は、前記複数の細長検出器を、前記第2の方向において離散的に備え且つそれぞれスライド可能に支持するように構成されていることが望ましい。
【0028】
さらに、前記検出器支持手段は、前記複数の細長検出器を支持するベース体を備え、
前記スキャン手段は、前記ベース体を前記スキャン命令に応答して前記スキャン方向に相当する前記第2の方向に移動可能な駆動機構を備えた
ことが望ましい。
【0029】
前記スキャン手段は、前記駆動機構の駆動を制御して、少なくとも、前記複数の細長検出器それぞれが前記第2の方向において受け持つスキャン分担範囲をカバーする距離だけ前記ベース体を前記第2の方向に移動させる移動制御手段を備えることができる。
【0030】
この場合、前記複数の細長検出器それぞれが受け持つ前記スキャン分担範囲は、前記第2の方向にて互いに同じであっても異なっていてもよい。
【0031】
ここで、放射線はX線やガンマ線を含み、医療用及び非破壊検査のほか、宇宙から飛来する各種の放射線も含む。画素とは、細長検出器に入射する放射線を受ける物理的な検出画素の最小単位である。さらに、細長検出器の「細長」とは、背景技術の項で説明したように、平面視(即ち、放射線が入射する面(放射線入射窓を含む)を放射線側から見た視線方向に沿って見た視野を指す)で、モジュール縦列体の上面の形状が細長いということである。このため、細長い矩形(つまりモジュール縦列体)は、複数のモジュールが隣接して縦列配置(但し、モジュール相互間の隙間を含む)された方向(第1の方向)に伸びる長辺と、その長辺に直交する方向(第2の方向)に伸びる短辺(長さが長辺よりも短い)とを有する。この短辺に沿った方向、即ち、第2の方向は放射線撮影のためのスキャン方向に合致している。なお、細長検出器(モジュール縦列体)は、その長辺の方向が第1の方向に合致した姿勢を維持したまま、前記スキャン方向から所定角度だけ斜めの方向に移動される。
【0032】
このとき、モジュール相互間に設けられる空隙(隙間、ギャップ)は、平面視において、第1の方向(長辺の方向)には所定の幅を有して、第2の方向(短辺の方向、スキャン方向)に沿って平行な長方形を成す。
【0033】
なお、本開示において、「細長い」という用語は、前述したラインと同じ短冊形状を意味し、また、ストリップ状、ライン状、リニアなどとも呼んでよい形状を指す。
【発明の効果】
【0034】
この放射線検出装置において、複数の細長検出器によって一定面積の撮影領域がそれぞれ分担してスキャンされる。つまり、複数の細長検出器が併行して、スキャン方向である第2の方向又はその斜めの方向(実質的に第2の方向、即ち、スキャン方向であると見做せる)に移動される。これにより、複数の細長検出器それぞれは併行して、対象物を透過してきた放射線を検出する。このため、従来のように1本の細長検出器をスキャンさせて撮影領域をカバーさせる構成に比べて、スキャン時間が大幅に短縮される。
【0035】
例えば、複数の細長検出器をスキャン方向である第2の方向に相互に離間させ且つスキャン分担範囲が等分になるように配置されている場合、全体のスキャン時間は概略「1/検出器数」に短縮される。
【0036】
したがって、画質条件が同じである場合、散乱線の混入が少なくなると共に、撮影条件の短縮が図れる。同時に、被ばく線量の低減も期待できる。これらの視点は特に、医療分野の診断装置では極めて重要である。さらに、複数の細長検出器は、全体の撮影領域のうちのそれぞれが割り当てられたスキャン方向の分担範囲のみのデータ収集に従事すればよい。つまり、複数の細長検出器が分担して1つの撮影領域をスキャンすればよい。これによって、被ばく線量及びスキャン時間のバランスを図りながら、より広い撮影領域を確保し易くなる。
【0037】
さらに、検出モジュールを一面に並べた2次元検出器を採用する場合に比べて、一般に高価な後述の光子計数型や高感度の積分型の検出モジュールの使用数が少なくて済み、また、検出回路チャンネル数も少なくて済む。したがって、検出モジュールの部品コスト増に伴う製造コストの増加をでき、より検査現場に導入させ易い。
【0038】
なお、本開示では、元々は、第2の方向=スキャン方向として設定しているので、このスキャン方向、即ち、モジュール縦列体の短手方向に沿った第2の方向に対して所定角度だけ斜めに向いた方向も実質的にスキャン方向と見做すことができる。
【0039】
なお、本開示に係る放射線検出装置は、複数の細長検出器を、それぞれ、放射線の光子の数を計測し、当該フォトンの数を当該放射線の量として検出する光子計数型の処理回路を備えた検出器に構成することが好適である。つまり、かかるスキャン型検出及び光子計数処理によって、撮影領域全体を検出画素で埋める回路構成や放射線から電気信号に直接変換する直接変換型の検出器回路構成に比べて、回路構成の抑制、発熱量の抑制、及び部品コストに拠る製造コストの低減化のほか、光子計数による検出感度の向上など検出性能の面での優位性は勿論、その検出データに基づく処理によってエネルギ識別による高精度な物質同定をも可能にするなどの利点を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
添付図面において、
図1】本発明の一つの実施形態に係る、X線検出装置を備えたX線検査システムであって、細長検出器の第1の配置例を当該X線検出装置に備えた構成を説明する概略斜視図。
図2】X線検出装置を説明する一部破断した平面図。
図3】X線検出装置をその平面で見たときの、2本の細長検出器(X線検出器)の斜め移動を説明する図。
図4】細長検出器の別の配置例である第2の配置例を説明する平面図。
図5】細長検出器の別の配置例である第3の配置例を説明する平面図。
図6】細長検出器の別の配置例である第4の配置例を説明する平面図。
図7】細長検出器の別の配置例である第5の配置例を説明する平面図。
図8】細長検出器の別の配置例である第6の配置例を説明する平面図。
図9】細長検出器の別の配置例である第7の配置例を説明する平面図。
図10】細長検出器の別の配置例である第8の配置例を説明する平面図。
図11】細長検出器の一例を説明する斜視図。
図12】細長検出器に搭載したX線検出のモジュールを説明する側面図。
図13】モジュールの平面図。
図14】モジュールのシンチレータブロックを中心とした概略構成を説明する斜視図。
図15】シンチレータの発光動作を説明する図。
図16】シンチレータの下面側に配置されたSiPMの配置を例示的に説明する図。
図17】SiPMの各画素分のマイクロセルの配置と配線を概略的に説明する図。
図18】SiPMの出力信号をエネルギ弁別して光子計数する処理回路を例示するブロック図。
図19】X線検査システムのフロントエンドプロセッサを中心に実行されるスキャン動作を例示する概略フローチャート。
図20】上記スキャン動作を2本の細長検出器で実施したときのスキャン分担範囲とそのスキャン制御のための速度制御プロファイルを説明する図。
図21】上記スキャン分担範囲を撮影領域及び画像領域の位置関係で説明する説明図。
図22】スキャン動作で収集された光子量に応じたデータの処理を説明する図。
図23】データ処理の一工程である、細長検出器の斜め移動に伴う収集フレームデータを再構成空間に貼り付ける状態を模式的に説明する図。
図24】細長検出器の別の配置例である、3面バッタブルを説明した第9の配置例を説明する平面図。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本発明に係る放射線検出装置、及び、その放射線検出装置を搭載した放射線検査システムの実施形態を説明する。
なお、この放射線検出装置は、入射する放射線を一度、光に変換してその線量を放射線光子数として電気的に計測する、所謂、間接変換型の検出装置である。この放射線検出装置で検出対象とする光は、光量が例えば数十pW~サブfW程度と低いので、光子計数(フォトンカウンティング)によって検出することが好適な、所謂、微弱光に分類される光である。本実施形態では、この微弱光は、放射線(X線など)を光信号に変換した光として得られるとともに、その放射線は、例えば医療用或いは非破壊検査で使用される電磁波の一種である。
【0042】
このため、以下の実施形態では、放射線としてのX線を扱うので、その放射線検出装置はX線検出装置として実施され、放射線検査装置は医療用、非破壊検査などに好適なX線検査システムとして実施される。
[第1の実施形態]
<基本的な構成>
本開示に係るX線検出装置、及び、そのX線検出装置を搭載したX線検査システムの基本的な構成を図1図3に示す。
【0043】
図1に示すように、X線検査システム11は、X線発生装置21及びX線検出装置22をそれぞれ対峙して備えると共に、それらの駆動を制御する駆動・制御系のシステムを備える。この駆動・制御系のシステムとしては、X線発生装置21を駆動させる駆動装置23、及び、X線発生装置21に搭載したコリメータ21Aの移動を制御する駆動装置24を含む。さらに、この駆動・制御系のシステムには、X線検出装置22に内蔵させた駆動機構25が含まれる一方、それらの駆動装置23,24,25の駆動を制御するとともにX線検出装置22からのデータ収集を制御するフロントエンドプロセッサ26、及び、その収集したデータを処理するユーザPC(コンピュータ)27も含まれる。
【0044】
X線検出装置22は、後で詳述するが、図1及び図2に示すように、X線を入射させる最小単位である画素(物理的な検出画素)を二次元に配置した画素アレイPXayを有し、平面視で矩形状を成す、通常、モジュール132と呼ばれる、半導体チップ上に光学系及び電気系の回路を形成した単位素子を複数、搭載している。具体的には、このモジュール132を複数個、同一マザー基板上に一つの方向に沿って、所定幅のギャップSPを以って互いに隣接して縦列配置してモジュール縦列体132Mを構成している(図3参照)。
【0045】
このように、ギャップSPを伴いながら、平面視で細長い形状(短冊状、ライン状、又はリニアな形状)のX線検出器31(以下、このX線検出器を細長検出器又は単に検出器と呼ぶ)を構成している。なお、平面視とは、このX線検出器、即ち細長検出器31にX線を入射させるX線入射窓31Wを上方から見た状態を言う。細長検出器は勿論、その配置方向に拠って縦長検出器とも横長検出器とも言える。
【0046】
モジュール縦列体132Mは、その平面視で細長い矩形状であるので、その長辺31L(第1の方向)とそれに直交する短辺31S(第2の方向)とを有する。このため、図示の如く、高さ方向、長手方向、及び短手方向、及び高さ方向を直交軸X,Y,Zとする直交座標系を仮想的に設定できる。
【0047】
なお、ギャップSPは、モジュール縦列体132Mの長辺31Lに沿った第1の方向(Y軸方向)において、例えば検出画素の0.5画素分~2画素分の長さに設定した一定幅を有する。このため、通常、長辺31Lに沿った方向のサイズよりも短辺31Sに沿った方向のサイズの方が長くなる、平面視で矩形状のギャップになる。このギャップSPの部分には検出画素が存在せず、X線に対して不感領域となり、この不感領域が、隣接するモジュール132間に位置する。
【0048】
本実施形態では、細長検出器31(形状的には、モジュール縦列体132Mと言い換えてもよい)は、その長辺31Lが第1の方向Y(Y軸方向)に沿って位置された姿勢を維持しつつ、それに直交する第2の方向Z(Z軸方向)に移動しながらX線スキャンを行う。つまり、短辺31Sが沿う第2の方向Zがスキャン方向SDに設定されている。
【0049】
ただし、本実施形態では、実際にはX線検出器31を、第2の方向、即ち、スキャン方向SDに対して所定角度θ(通常、数度~20度程度が画像処理の点から好適)だけ斜めに向いた方向MD(斜め方向)に移動させながら、その移動中に一定のフレームレートでX線スキャンを行うようになっている。
【0050】
なお、細長検出器31を移動させる方向は、スキャン方向SD(第2の方向Z)それ自体に一致していてもよいし、その斜め方向MDに一致させてもよい。図1~3には、後者を例示している。
【0051】
この細長検出器31をスキャン方向SD(斜め方向MDも含む)にスキャンさせることで一定の2次元エリアである撮影領域22WのX線検出を行う、所謂、スキャン型の構成を成している。
【0052】
検査対象OBとの位置関係において、スキャン方向SDをどの方向に設定するか、即ち、X線発生装置21とX線検出装置22とがオブジェクト空間を介して対峙させるときにスキャン方向SDをどの方向に設定するかということは、特に、医用検査システムにおいて重要である。この点、例えば人の胸部を診断する場合には、胸部の左右方向がスキャン方向SDになるように決めるか、胸部の上下方向がスキャン方向SDになるように決めるという態様が考慮される。その場合、人は寝台に寝た状態で撮影するか、立位で撮影するかという態様も考慮される。
【0053】
加えて、1つのX線検出装置22に搭載する細長検出器31(X線検出器)の数もスキャン時間などを考慮して予め決められている。図1~3の例では、一定の撮影領域22Wをスキャン方向SD(第2の方向Z)において、お互いに等距離ずつ又は不等距離ずつ分担してスキャン担当すべく、複数本の細長検出器31がディスクリートに搭載される。つまり、スキャン方向SDに2本、3本、4本、…と互いに等距離又は不等距離だけ間を空けて並置した構成を採る。図1~3に示す例の場合、細長検出器31は2本(31,31)であり、等距離のスキャン分担範囲R1,R2(R1=R2)を分担するようにディスクリートに配置されている。スキャン分担範囲R1,R2は、それぞれの細長検出器31が受け持つスキャンの受持ち区間とも言える。
【0054】
複数の細長検出器31のそれぞれは、X線発生装置21からのX線照射状態において、互いに同期して斜め方向MDへ移動しながら、図3に示す如く、自分が分担するスキャン分担範囲R1(R2)をスキャンする。勿論、それらの細長検出器31をスキャン方向SDに移動させるスキャンであってもよい。
【0055】
等距離の場合には、複数の細長検出器31のスキャン開始タイミングとスキャン終了タイミングは同じであることがスキャン制御の簡単化の観点から望ましい。また、不等距離の場合には、それらの開始及び終了のタイミングは異なってもよいし、スキャン速度調整によっては同じにしてもよい。複数の細長検出器31のスキャンのさせ方には様々な態様があり、それは以下の様々な実施形態や変形例によって説明される。
【0056】
複数の細長検出器31を設けて上述した如く、互いに等距離のスキャン分担範囲R1,R2(R1=R2)を持たせる場合、細長検出器を1つ設けて全スキャン範囲(R1+R2)をスキャンさせる構成に比べて、スキャン時間を概略、「1/検出器の数」に減少させることができる。
【0057】
<X線検出器の配置例>
次に、X線検出装置22に搭載可能な1本又は複数本のX線検出器の様々な配置例を中心に装置構成を説明する。
【0058】
<第1の配置例>
図1図3を再度参照して、第1の配置例に係る、X線検出装置22における細長検出器31を詳述する。
【0059】
図1に示すX線検出装置22は、例えばX線検査システムとして医用モダリティに搭載される。勿論、医用用途に限られず、非破壊X線検査の装置にも好適に搭載される。
【0060】
医用モダリティとしては、X線透過撮影をスキャン型で行うX線撮影装置が好適な例である。その装置の形状としては、立位の患者の前後にX線検出器及びX線発生装置が位置させるシステムや、患者が横たわる寝台を上下に挟み込むようにX線発生装置とX線検出装置をC型のアームの両先端にそれぞれ支持させるシステムが挙げられる。
【0061】
このX線検出装置22の外観形状は一例として、図1~3に示す如く、一定の厚さ及び上下面サイズを有する略ボックス状に形成されたケーシング41を有する。このケーシング41は、X線検査システム11の、例えば着脱自在なカセッテとして検出器装填部11Dに装填される。この検出器装填部11Dに対峙するように、X線管21X(点状のX線焦点F)、これを駆動する高電圧発生器を備えた駆動装置23、及びコリメータ33を備えたX線発生装置21が配置される。
【0062】
このため、図3に示す如く、かかる対峙方向を高さ方向としてX軸方向に割り当てたときに、細長検出器31、即ち、モジュール縦列体132Mの長辺31Lに沿った長手方向(縦方向:第1の方向)をY軸とし、且つ、その短辺31Sに沿った短手方向(幅方向:第2の方向)をZ軸とした直交座標系XYZが設定される。本実施形態では、前述したように、そのZ軸方向(短手方向、幅方向)をスキャン方向SDとし、このスキャン方向SDに対して所定角度θだけ斜めの斜め方向MDに2本の細長検出器31(31、31)それぞれを同期して移動させることが特徴の一つである。
【0063】
勿論、後述するが、Z軸方向=スキャン方向SD=検出器移動方向、即ち、所定角度θ=0に設定して互いに同期してスキャンさせることもできる。
【0064】
かかる2本の細長検出器31(31、31)の移動のため、図3に示すように、斜め方向MDを向いたガイドレール42及び駆動機構43を備える。2本の細長検出器31(31、31)はそれぞれマザー基板44に載置され、このマザー基板44がケースを介して又はそのまま、コ字状の1つの支持フレーム45(支持体)の上に載置されている。この支持フレーム45の両アーム部分に、2本の細長検出器31(31、31)がそれぞれ固設されている。
【0065】
駆動機構43は、例えば電気モータを駆動源とするリニアアクチュエータにより構成され、その駆動と共に支持フレーム45を移動させる。支持フレーム45の裏面はガイドレール42に係止されている。ガイドレール42は、スキャン方向SD(第2の方向)に対して所定角度θを以って斜めに、即ち、斜め方向MDに配置されている。このため、駆動機構43が駆動すると、支持フレーム45がガイドレール42によってリニアに案内されつつ移動する。したがって、2本の細長検出器31(31、31)が斜め方向MDに移動される。
【0066】
勿論、2本の細長検出器31が真横に、すなわち、その短辺31Sに沿った短手方向Z(第2の方向)に移動させる場合、ガイドレール42その短手方向Zに平行に設ければよい。
【0067】
ガイドレール42は、斜め方向MD又は短手方向Z(=スキャン方向)に沿って平行に2本以上設けてもよい。また、駆動機構43及びガイドレール42の別例として、ガイドレールの案内機能も兼ねて一軸アクチュエータと呼ばれる「駆動源+案内レール」を一体化したデバイスを支持フレーム45の裏面側に配設してもよい。
【0068】
何れの構成であっても、駆動機構43の駆動源は、フロントエンドプロセッサ26の制御下に置かれ、移動センサ(図示せず)を用いたフィードバック制御又はそれを用いないオープン制御によって、蟹の横歩きの如く、但し所定のスピードで、細長検出器31の横方向(スキャン方向SD又は斜め方向MD)への直線的に移動・制御される。
【0069】
上述したコリメータ33には、細長い矩形状の2つのスリット33A,33Bが形成されている。コリメータ33は、X線発生装置21の内部において、細長検出器31の移動に同期して同様に、斜め方向MD又はスキャン方向SDへ移動するように制御される。この制御は、フロントエンドプロセッサ26の制御下に置かれる、コリメータ駆動部24により実行される。この駆動部24は、例えば電動のパルスモータを備えて構成される。
【0070】
この2つのスリット33A,33Bそれぞれの面積は、高さ方向XにおけるX線焦点Fと同スリットとの間の距離及びX線焦点Fと細長検出器31(より詳しくは、そのX線入射窓31W)との間の距離の比に応じた分より、スキャン走行の精度等によるX線照射視野の欠落が生じないように所定のマージンを設定した分だけ少し広く設定される。
【0071】
さらに、コリメータ33の直線的な移動速度は、上記比の分だけ異なるが、その下方に位置する2本の細長検出器31(31,31)のスキャン速度に同期して、斜め方向MD又はスキャン方向SDに移動される。このため、X線によるスキャン動作中、コリメートされた2つのX線ファンビームXBは常に2つの細長検出器31のX線入射窓31Wをそれぞれ捕捉しながら斜め方向MD又はスキャン方向SDに直線的に移動するように構成されている。
【0072】
このため、X線発生装置21から出射されたX線束は、2つのファンビーム状のX線:XBに形成され、検査対象OBを透過してX線検出装置22の2つの細長検出器31(31,31)それぞれのX線入射窓31Wに入射して、後述する検出画素により検出される。
【0073】
また、本実施形態及び本配置例において、2本の細長検出器31(31,31)で検出されたデータに基づいて画像が再構成される。この再構成の演算では、再構成空間にデータがマップされるが、その再構成空間におけるモジュール間のギャップSP、即ち、不感領域に相当する複数の画素それぞれには、検出器自体の機械的な斜め移動によって、その移動に関わる周辺画素それぞれから数分の一ずつ提供される部分画素が提供される。このため、その数分の一ずつの画素値と面積比とを用いたサブピクセル法により、不感領域の画素が補完される。この補完法は、単に周辺画素から外挿(推定)する手法に比べて、部分画素の提供を受ける分、その補間精度が高い。
【0074】
以上のように、本第1の配置例によれば、図2に判り易く示すように、2本の細長検出器31(31,31)は、その長辺31Lに沿った長手方向Yに向いた姿勢を維持しながら、且つ、スキャン方向SDにおいて相互に等距離離してディスクリート配置される。これにより、それぞれの細長検出器31がスキャン方向SDにおいて同じ距離のスキャン分担範囲R1=R2のX線スキャンを担っている。2つの同じスキャン距離のスキャン分担範囲R1,R2の合計によって所望の一定面積の撮影領域22Wが決まる。なお、このX線検出装置22はスキャン型であるので、各細長検出器31が初期位置P1st(P2st)から定速移動に至るまでの加速期間及び定速移動から停止位置P1FIN(P2FIN)までの減速区間を考慮してスキャン分担範囲R1,R2にオーバーラップ区間OVを持たせている(図2参照)。
【0075】
ここで、各細長検出器31を斜め方向MDに動かしてスキャンする場合の所定角度θの設定法について説明する。
【0076】
所定角度θは、図3に示すように、各細長検出器31の各モジュール132に配置される画素アレイPXayのうちの、短手方向Z(第2の方向)に沿って並ぶ複数の検出画素Pinが呈する距離:A1と、長手方向Y(第1の方向)における空隙SPの幅:A2との比に基づいて設定されている。具体的には、この所定角度:θは、距離:A1、幅:A2、及び、空隙SPに画素が配置されると仮定したときの長手方向Yに並ぶ当該画素の数n(nは0を除く正の実数)とに基づき、
θ≧tan-1n・(A2/A1)
により設定されている。特に、画素数nは、正の整数であってもよい。
【0077】
さらに、検出画素Pinが長手方向Y(第1の方向)の長さをbとしたとき、幅:A2はb=(1/2)b~2bの値を採ることが望ましい。
【0078】
なお、検出画素Pin及び画素アレイPXayの詳細な構成例は詳述する。

<第2の配置例>
第2の配置例を図4に示す。この配置例に係るX線検出装置22Aの場合、2本の細長検出器31をそれぞれスキャン方向SD、即ち、短辺31Sに沿った短手方向Zに等間隔にディスクリート配置している。
【0079】
この場合、2本の細長検出器31は斜め方向MDには移動しないので、後で詳述するように、画像再構成において、モジュール間のギャップSPによる不感領域分の画素については外挿処理により画素値を補間する。

<第3の配置例>
第3の配置例を図5に示す。この配置例に係るX線検出装置22Bでは、3本の細長検出器31(31、31、31)をそれぞれスキャン方向SDに対して所定角度θを持つ斜め方向MDに移動するように構成されている。第1の配置例と同様に、3本の細長検出器31(31、31、31)は、スキャン方向SDにおいて互いに等距離離して配置され、それぞれのスキャン分担範囲R1,R2,R3も等しく設定されている。このため、3本の細長検出器31(31、31、31)はスキャン方向SDに対して斜め方向MDに移動し、3つの細長検出器31で3等分ずつの分担スキャンを実施する。このスキャン時に、互いに隣接するモジュール132間にギャップSPによる不感領域であっても、3本の細長検出器31が斜めに移動して機械的な斜めスキャンを実行するため、画像再構成時には、不感領域に由来する再構成画素にも周辺の関係する画素から数分の一ずつの画素値が与えられる。これにより、各再構成画素においては、それら数分の一ずつの画素値を例えば面積比で合成するサブピクセル法によって画素値が補間される。

<第4の配置例>
第4の配置例を図6に示す。この配置例に係るX線検出装置22Cは、上述した第3の配置例を、前述した第2の配置例にしたがって、3本の細長検出器31(31、31、31)をそれぞれスキャン方向SD、即ち、短辺31Sに沿った短手方向Zに等間隔にディスクリート配置している。
【0080】
この場合、3本の細長検出器31は斜め方向MDには移動しないので、画像再構成において、モジュール132間のギャップSPによる不感領域分の画素については外挿処理により画素値を補間することになる。

<第5の配置例>
第5の配置例を図7に示す。この配置例に係るX線検出装置22Dは、図7に示すように、スキャン方向SDが重力方向又はオブリークな方向になるように装置に組み込む状態を示している。これは例えば、患者が立位で胸部のX線写真を撮る場合を想定している。例えば、2本の細長検出器31(31、31)は、胸部に対して上下方向に相当する短手方向Zに対し、所定角度θだけ斜めの方向MDに移動しながら、分担スキャンを実施できる。
【0081】
この場合も、勿論、3本以上の細長検出器31(31、31、31)をスキャン方向SDにおいてディスクリートに形成してもよい。また、各検出器の移動方向をスキャン方向SDそれ自体に一致するように構成してもよい。

<第6の配置例>
第6の配置例を図8に示す。この配置例に係るX線検出装置22Eは、1本の細長検出器31を採用し、この細長検出器31がスキャン方向SDに対して所定角度θだけ斜めの方向MDに移動させる構成を採る。駆動機構43の駆動による加速(スロースタート)期間、定速期間、及び減速(スローストップ)期間を辿る移動制御により(後述する図19を参照)、この1本の細長検出器31がスタート位置PSTから終点位置PFINまでガイドレール42に沿って斜め方向MDに移動する。これにより、全体の撮影領域22Wをカバーしている。
【0082】
勿論、この第6の配置例において、所定角度θの斜め方向を設定せずに、Y軸方向(第1の方向Y)に沿って直立させた1本の細長検出器31を、そのZ軸方向(第2の方向Z)、即ち、スキャン方向SDに向かって移動させるようにしてもよい。つまり、移動方向=スキャン方向SDという構成を採用してもよい。

<第7の配置例>
第7の配置例を図9に示す。この配置例に係るX線検出装置22Fは、図2図3において説明した2本の細長検出器31それぞれが分担するスキャン分担範囲R1,R2を、スキャン方向SDにおいてR1≠R2に設定した構成を採用している。この例の場合、R1>R2に設定されている。2本の細長検出器31(31、31)のスキャン時間は互いに異なる(移動速度が同じ場合)、両検出器31(31、31)の検出データそれぞれを同一の再構成空間において適宜マッピングすることで画像再構成が可能になる。
【0083】
このように複数の細長検出器31それぞれに不等距離ずつのスキャン範囲を担当させる場合、なるべく同一対象物或いは同一部位を一つの検出器でカバーしてしまいたいときに有効である。

<第8の配置例>
第8の配置例を図10に示す。この配置例に係るX線検出装置22Gは、複数の細長検出器の移動開始位置及びその移動方向の別の設定を説明している。
【0084】
図10の場合、複数の細長検出器それぞれに均等又は不均等に割り付けたそれぞれのスキャン範囲の一方の端から他方の端に移動するものではなく、撮影領域22Wのスキャン方向SDのほぼ中央部に互いに隣接するように初期位置設定した2本の細長検出器31(31、31)がスキャン開始後、相互に離反する方向に移動することでそれらのスキャン分担範囲R1,R2が撮影領域22Wをカバーするように構成されている。
【0085】
更に言えば、2本の細長検出器31(31、31)は例えば図10の-Z軸方向に一旦、図示の往路の伴走期間RBだけ移動する。伴走方向の先頭の細長検出器31は、その伴走期間RBの一部である助走区間(加速区間)RJとして使用し、その助走区間RJが終わればそのまま定速走行に移行して、-Z軸方向に所定角度θで斜めの斜め方向MDに移動する。
【0086】
これに対し、もう一方の細長検出器31は、往路の伴走期間RBの終点まで、-Z軸方向に所定角度θで斜めの斜め方向MDに移動するが、その伴走期間RBの終点Pでその移動方向を、+Z軸方向に所定角度θで斜め方向MDに反転させる(図10の右側方向)。このため、もう一方の細長検出器31はその移動反転の後、上記助走区間RJを助走した後、定速走行に移って、斜めの斜め方向MDに移動する。
【0087】
これらの移動は、図示しないが、それぞれの検出器に別個に取り付けた駆動機構によって制御される。ガイドレールは図示しないが、それぞれの検出器に共通していてもよいし、相互に独立していてもよい。
【0088】
これによって、一方の細長検出器31の助走期間RJであるため、検出データが安定し難い初期領域R1は、もう一方の細長検出器31の定速走行によってスキャンされる。このため、スキャン方向SDの全域が両検出器31の定速走行区間によってカバーされる。このため、加減速走行であるが故に検出データが不安定になる区間は少なくなり、減速区間の検出データのみ適宜に処理すれば済むことになる。
【0089】
なお、上述したX線検出装置22、22A~22Gにおいて、細長検出器を第1~第8の配置例のうちの何れかによって配置してもよい。

<細長検出器の詳細構成>
次いで、図11図17を参照して、上述の各細長検出器(X線検出器)31の構成及び動作を説明する。ここで、上述してきた構成要素と同一又は同等の機能を持つ構成要素には同一符号を割り当てて、その説明を省略又は簡単化する。
【0090】
この細長検出器31の外観を図11に例示する。この細長検出器31は、その全体として細長い直方体状のケース131を備え、そのケース131が駆動機構43によってスキャン方向SD又はそのスキャン方向SDに所定角度θを持った斜めの方向MDに移動する支持フレーム45の上に固定・載置されている。
【0091】
<X線検出モジュールの配置構成の概要>
次に、それぞれの細長検出器31が備える複数のX線検出モジュール132(以下、単に、検出モジュール又はモジュールとも呼ぶ)それぞれの構成を詳述する。
【0092】
図11に、ケース131の上面(天井部分)を一部破断して矢印XB(入射X線)の方向から平面視したときに見える、細長検出器31の平面図を示し、図12に、検出モジュール132の縦方向(Y軸方向)の一側面を見た側面図を示す。
【0093】
図12に示すように、各検出モジュール132は、ケース131に収容されるマザー基板44(図5参照)と、そのマザー基板44の上に載置された、例えば1つの半導体チップ142とを備える。さらに、この各検出モジュール132は、半導体チップ142の横方向(Z軸方向)の片側の一定範囲に寄せ且つ当該半導体チップ142に載置したシンチレータブロック143と、その半導体チップ142の横方向のもう一方の片側の一定範囲を占有し、かつ、シンチレータブロック143から離間して当該半導体チップ142に実装されたASIC(特定用途向け集積回路)ブロック144とを備える。
【0094】
なお、ケース131を使用せずに、マザー基板44を直接、支持フレーム45に実装するようにしてもよい。
【0095】
本構成において、検出モジュール132は、1つの半導体チップ142の面上にシンチレータブロック143とASICブロック144とが隣り合って、且つ、相互に離間して並置されていることが大きな特徴の一つである。シンチレータブロック143は後述するように、入射するX線ビームXBの光子(フォトン)を光パルスとして検出する素子である。
【0096】
さらに、シンチレータブロック143の下側において、半導体チップ142の面上にシリコンフォトマルチプライヤー(SiPM)の層が形成される。このSiPMは後述するように、入射するX線ビームXBの光子それぞれに応じた光パルスを電気パルス信号に変換する素子である。このため、SiPMから出力された電気パルスが半導体チップ142の面上に形成された配線パターンを介して隣接するASICブロック144に伝送される。このレイアウト構造も大きな特徴の一つである。ASICブロック144は、その電気パルスを複数レベルの閾値で弁別処理することで、X線光子それぞれが持つエネルギを、複数のエネルギBin(範囲)に振り分け可能な光子計数型の弁別処理を行い、その弁別結果に応じたデジタル信号を出力する。
【0097】
特に、X線ビームXBは、シンチレータブロック143の高さ方向(X軸方向)の上面に形成される検出画素に照射されて、その下面の各検出画素に対応した出射面から蛍光として発せられる。つまり、高さ方向に沿って照射されたX線:XBが蛍光へ変換されることに伴って検出される電気パルス信号は、横方向(Z軸方向)に伝送されてASICブロック144に達する。このため、図12に模式的に示す如く、Y軸方向から見た場合、L字状の信号伝達経路Lが構成される。
【0098】
このL字状の信号伝達経路Lの採用によって、図13に示す如く、各検出モジュール132の平面視のときの4側面のうち、縦方向(Y軸方向)の上下側面US,LS及び横方向(Z軸方向)の左側面LFSは空いている。したがって、この空いている側面US、LS、LFSに対向して別の検出モジュール132を配置することができる。つまり、複数の検出モジュール132を1次元又は2次元に隣接配置して、X線の検出面積広げることができる。本実施形態では、1つの検出モジュール132の上下側面US,LSそれぞれに1つ又は複数の他の検出モジュール132を配置することを「2面バッタブル(buttable)の構造を採る」と呼んでいる。
【0099】
なお、1つの検出モジュール132の上下側面US,LS及び左側面LFSそれぞれに1つ又は複数の他の検出モジュールを配置することを「3面バッタブルの構造を採る」と呼んでいる。ただし、3面バッタブルの構造を採る場合、上下側面US,LSに隣接させる他の検出モジュールは1つ又は複数個であるが、左側面LFSに隣接させる検出モジュールは1個に限定されるとともに、縦方向(Y軸方向)の建付けを逆にすることが望ましい。
【0100】
本実施形態に係る細長検出器31は、この「2面バッタブルの構造」を採用している。つまり、複数の検出モジュール132が、前述したように、縦方向(Y軸方向)に微小な一定幅のギャップ(隙間)SPを以って縦列に(図3及び図11を参照)、マザー基板44上に実装される。このギャップSPは例えば、1個又は複数の検出画素分に等しい幅に設定される。例えば、検出画素Pinが250×250μmであれば、その整数倍の250μm,500μm、などである。勿論、必ずしも整数倍でなくても、例えば0.5倍、1.5倍のギャップSPを設定してもよい。
【0101】
これにより、前述したように、複数個の検出モジュール132からなる縦方向に延びる細長いモジュール縦列体132Mが形成される。ケース131は、モジュール縦列体132Mを搭載したマザー基板44を内包するように形成される。
【0102】
なお、ケース131の上面の、上記モジュール縦列体132Mに対向した面には、X線を透過する材料で形成されるか、又は、開放された矩形状のX線入射窓31Wが形成されている。特に、このX線入射窓31Wは、後述するように、縦列配置されるシンチレータブロック143のみに対向していることが望ましく、後述するASICブロック144の部分は鉛板Ppbで覆われていることが望ましい(図11参照)。
【0103】
また、後述の図20に模式的に示すように、このX線検出装置22の前面、即ち、X線入射側には、対象物OBからのX線の散乱線を低減するグリッドGRを、当該装置22と一体に又は別体で設けてもよい。このグリッドGRは、X線吸収の大きい複数の吸収はくを例えばスキャン方向SDに沿って、各細長検出器31のスキャン分担範囲R1(R2)毎にX線焦点Fに向かって斜めに集束する集束型グリッドを成すように形成されている。これにより、散乱線を効果的に除去してX線像のコントラスト向上に寄与させている。特に光子計数型検出器の場合、エネルギ情報の識別により物質弁別が可能なため、散乱線が混入して検出されることは、物質弁別の精度の劣化を招くため、グリッドによる散乱線の除去は重要である。

<X線検出モジュールの詳細構造>
[シンチレータブロック]
次いで、各検出モジュール132の詳細な構造を説明する。図14及び図15に示すように、シンチレータブロック143は、複数の柱状のシンチレータ143A(柱状体)をその長さ方向の上下端を揃えて且つ平面方向において互いに所定の隙間を隔てて稠密に1つのブロックを成すように束ねられている。各シンチレータ143Aは、X線の入射に応答して蛍光を発する無機結晶からなる発光物質であり、当該発光物質としては、GAGG、GFAG、BGO、LYSO、LuAG、CsI、又は、SrI(Eu)などが挙げられ、勿論、その他の蛍光物質であってもよい。各シンチレータ143Aは、一例として、長さが数ミリで、上面及び下面のサイズが例えば250μm×250μmの矩形状である。
【0104】
このため、複数のシンチレータ143Aを束ねることで、それらの長さ方向、即ち、検出モジュール132の高さ方向Xにおいて、その複数のシンチレータ143Aそれぞれの上下面によりブロック上面143U及びブロック下面143L(図12参照)が構成される。このブロック上面143Uにおいて、各シンチレータ143Aの上面が本検出モジュール132、即ち、検出器31の検出画素Pinを成す。各検出画素Pinのサイズは、各シンチレータ143Aの上面のサイズと同じであり、例えば250μm×250μmである。この稠密な束ね構造によって、ブロック上面143Uは、検出画素Pinが2次元状に配置されたX線入射面として機能する。検出画素Pinの数は配置するシンチレータ143Aの数によって決まる。各シンチレータ143Aの上下面のサイズを変更することで、検出画素のサイズを適宜変更することができる。
【0105】
同様に、ブロック下面143L(図15(A)参照)において、各シンチレータ143Aの下面(底面)は、上述の例で言えば、検出画素サイズ:250μm×250μmと同じサイズを持つX線の出射面Boutとして機能する。この出射面Boutの複数の2次元配置により、シンチレータブロック143のブロック下面143Lは蛍光出射面として機能する。この蛍光出射面は、半導体チップ142に光感知層(後述する)の表面に直接に又は間接的(例えば光学インターフェースを介して)に対向して配置される。
【0106】
さらに、複数のシンチレータ143Aそれぞれの、隣接するシンチレータとの周囲の面は、その高さ方向Xの少なくとも一部が遮光材で覆われている。これは、各検出画素Pinに入射したX線の光子が隣接するシンチレータ143Aに漏れないようにする又はその漏れをノイズ低減等の観点から問題のない程度に低減させるためである。理想的には、各シンチレータ43Aの下面(出射面Bout)を除く側面及び、場合によっては上面(検出画素Pinを成す面)を遮光材で覆ってもよい。この場合、上面を覆う遮光材はX線を透過する部材であることが必要である。
【0107】
なお、シンチレータブロック143の上述した稠密な束ね構造とは、製造後に束ねられている構造を意味し、各シンチレータ143Aを切り出した後に束ねることもできるし、シンチレータ材の塊をレーザーカッターで溝を掘るなどして、上述の束ねたと同様の構造を持つように加工することもできる。
【0108】
このように、複数のシンチレータ143Aそれぞれの周囲を遮光材で覆って稠密な束ね構造とするので、2次元配列の検出画素Pinを含む画素区画のそれぞれのサイズは、例えば250μm×250μm(例えば、200μm×200μmのサイズのシンチレータの周囲を25μmの厚さの遮光材が囲んで、検出画素Pin=250μm×250μm)など、遮光材の厚みの分、大きくなる(実際には、例えば。したがって、実際に有効な検出機能持つ検出画素Pinは、その平面視で、相互にディスクリートに2次元配列された構造になっている。
【0109】
各シンチレータ143AにX線の光子(フォトン)が入射すると、その光子がシンチレータ143Aの内部を伝搬するときに、確率現象として、蛍光を励起させるシンチレーションを生じる。このように生じた蛍光は、シンチレータ143Aの内部を反射しながら又は直線的に伝搬して、各出射面Boutから蛍光として出射される。この蛍光の量は微弱光として定義される範疇のものである。
【0110】
[半導体チップ]
図13は、図12に示す矢印VIII-VIII線に沿った半導体チップ142の高さX方向におけるチップ上面USを模式的に示す。このチップ上面USは、前述したシンチレータブロック143のブロック下面143Lに図示しない光学インターフェース(例えば、透光性を有する樹脂から成る接着層)を介して対向している。
【0111】
半導体チップ142は、例えばシリコンウェーハの面に、洗浄、パターン焼付、エッチング、洗浄、電極形成、ウェーハ検査、ダイシング等の工程を経て、光電変換のための回路パターン及びその回路を後段のASICブロック144に配線する配線パターンが形成されている。この半導体チップ142はマザー基板44にマウントされ(図12,14,15(A)参照)、このマザー基板44と半導体チップ142及びASICブロック144との電気的接続(本実施形態ではボンディング接続)は、そのマウント後に行われる。
【0112】
このシリコン製半導体チップ142において、縦方向Y及び横方向Zの大きさYL,ZLは、一例として、YL<ZLに設定し、図13の例に係る平面視で言えば、横長の長方形状に形成されている。このため、チップ上面USの領域もこれと同じで、横長の長方形状になっている。
【0113】
このチップ上面USの領域は、図13の例で言えば、左側から順に、一方の細長い電源用パッド領域Rpad1、左側に寄せられて形成されセル領域として機能するシリコンフォトマルチプライヤー(SiPM)の領域RSiPM、冷却目的や電磁的相互干渉防止などのため設けた隙間領域Rspace、ASICブロック144をマウントするASIC領域RASIC、及び他方の細長い入出力用パッド領域Rpad2により占有されている。
【0114】
・光電変換回路(シリコンフォトマルチプライヤー(SiPM))
このうち、図16(A)に示すように、SiPM領域RSiPMはその全体が光感知層として形成され、前述した複数のシンチレータ143Aのブロック下面143Lを成す、前記複数の出射面Bout(つまり、検出画素Pinの出力面)に対向している。このSiPM領域RSiPMには、上述したフォトリソグラフィによるパターン作成を介して、光電変換回路として機能するシリコンフォトマルチプライヤー(SiPM)151として作り込まれている。
【0115】
具体的には、図16(A)(B)に示すように、このSiPM:151は、そのSiPM領域RSiPMにおいて2次元的に画成され且つ前述した複数の蛍光の出射面Bout(つまり、検出画素Pinの出力面)のそれぞれに対向した、複数の受光画素Poptが形成されている。この複数の受光画素Poptのそれぞれには、それぞれが光検知素子を有する微小領域として複数のマイクロセルMSが光電変換素子アレイとして形成されている。
【0116】
また、図17から判るように、SiPM領域RSiPMには、各マイクロセルMSに電源及びアースを接続する配線パターンWPpgと、その各マイクロセルMSから引き出される出力用の配線パターンWPoutの一部とが形成される。この出力用の配線パターンWPoutの残りの部分は、その隣の隙間領域Rspaceを通ってASIC領域RASIcの所定のバンプボンディング位置にまで一気に達している。つまり、この出力用の配線パターンWPoutは、1つの半導体チップ(シリコンチップ)142のチップ上面USに沿って、後述するように横方向Zに配線されていることが特徴の一つになっている。
【0117】
各マイクロセルMSには、図16(C)(D)に示すように、例えばガイガーモードで駆動するように、光電変換素子であるアバランシェフォトダイオード(APD)及びクエンチ抵抗(R)が作りこまれ、このクエンチ抵抗(R)とセル回路固有の静電容量成分(C)とにより電気パルス発生時の時定数が決まるようになっている。
【0118】
図16は、セル領域として機能するSiPM領域RSiPMを中心に示し(同図(A))、さらに、この領域RSiPMを2次元的に画成する複数の検出画素Pin(各シンチレータ143Aの横方向断面積に相当するサイズを持つ)と(同図(A)~(C))、各検出画素Pinの内側にそれぞれ1つ形成される受光画素Poptと(同図(C))、この受光画素Poptそれぞれに形成される光電変換素子アレイを成す複数のマイクロセルMS(同図(D)とを模式的に示す。
【0119】
また、本実施形態では、各検出画素Pin及び各受光画素Poptは共に、平面視で正方形を成し、かつ両者の中心位置Oは平面視で一致させている。つまり、シンチレータ143Aが供する各検出画素Pinからの集光効率及び互いに隣接する受光画素Popt間の光分離を考慮すると、そのようにセンタリングすることが望ましい。
【0120】
さらに、上述した一例から判るように、チップ上面USの各検出画素Pinに対向する領域には、マイクロセルMSから成る光電変換素子アレイ、即ち、受光画素Popt自体が占める光感知領域Ractが形成されている。この光感知領域Ractの面積は、各検出画素Pinのそれよりも小さいため、上記対向領域には、アバランシェフォトダイオード(APD)が配置されない領域が残されている。この残された領域を光不感領域Rdeadと呼ぶことにすると、光不感領域Rdeadは受光画素Poptの周囲4辺に跨って存在する。
【0121】
このように、本実施形態の画素構成によれば、サイズ関係について、「受光画素Popt<検出画素Pin」に設定し、光不感領域Rdeadを残すことが特徴である。
【0122】
具体的には、検出画素Pinの縦方向Y及び横方向ZのサイズをそれぞれW,Wとすると(W=W)、受光画素PoptのそれらWL1,WH1は、W(=W)よりも縦横それぞれ5~45%の間の選択値だけ小さく、且つ、WL1<WH1に設定されている。つまり、一例として、縦方向YにおいてW=WL1+2W(W:光不感領域Rdeadの幅)とし、横方向ZにおいてW=WH1+2W(W:光不感領域Rdeadの幅)とすると、縦方向Yの光不感領域Rdeadの幅Wとして、その全体の幅Wの25%を確保し、且つ、横方向Zの光不感領域Rdeadの幅Wとして、その全体の幅WHの5%分だけ残すように設定される。
【0123】
勿論、光不感領域Rdeadの幅W,Wは、5~45%の間で、要求される光検出特性に応じて適宜に変更してもよい。例えば、上述の条件において、幅Wの占める割合は10%であり、幅Wが占める割合は20%であってもよい。
【0124】
この受光画素Poptを上記5~45%の任意の選択値だけ小さく理由は、図15、下段(B)の模式図で定性的に説明される。数値それ自体は設計条件によって変わる。
【0125】
図15、下段(B)は、縦方向Y及び横方向Zにおいて相互に隣接する複数の受光画素Poptそれぞれの光感知領域Ract(つまり、複数のマイクロセルMS)、及び、SiPM:51の下面143Lにて縦方向Y及び横方向Zにおいて相互に隣接する複数の蛍光の出射面Bout(つまり、検出画素Pinの出力面)を、縦方向Yから模式的にみた状態を示している。この図には、さらに横軸方向Zにおいて各出射面Poutから出射される蛍光Lscinの分布を示す。この出射される蛍光Lscinは、各シンチレータ143A(柱状体)の内部から直接又は壁面で反射しながら間接的に出射面Boutから光学インターフェース152を介して対向する各光感知領域Ractに入射する。このため、蛍光Lscinの分布は、統計的に、各光感知領域Ractの横方向Zの中心部で一番高い光量を示す山なりの曲線を示す。このため、蛍光Lscinの分布曲線は、互いに隣接する光感知領域Ractの間で重なり合う部分OVCが存在する。
【0126】
この蛍光Lscinの重なり合う曲線部分OVCの成分は、互いに、隣接する光感知領域Ractへの光のクロストーク成分になる。このため、この重なり合う曲線部分OVCでの光量を十分に下げると、隣接する光感知領域Ractへクロストーク成分も減らせることになるので、各受光画素Poptに占める光感知領域Ractに占める面積の割合を小さくしている。特に、縦方向Y及び横方向Zにおいて検出画素Pin同士の境界位置にて、上記重なり合う曲線部分OVCの光量レベルが十分小さくなるように受光画素Poptと光感知領域Ractの面積割合を決めることで(受光画素Popt>光感知領域Ract)、かかるクロストークを十分に抑制できる。また、製造時に受光画素Poptと光感知領域Ractの縦方向Y及び横方向の位置ずれがあったとしても、それを吸収し且つ上記大小関係を維持することもできる。
【0127】
一方で、図17に説明したように、受光画素Poptには複数の小さなマイクロセルMSが2次元アレイ状に形成される。このマイクロセルMSそれぞれの面積は小さいほど光感知感度が良いが、画素全体としては、マイクロセルMSの数を極力多くして受光量を増やしたい。マイクロセルMSそれぞれの出力配線を引き出すための面積も必要になる。これらの要求をバランスさせるため、本実施形態においては、図17に示したように、横方向Z(行方向)に並ぶマイクロセルMSの数を縦方向Y(列方向)に並ぶそれよりも多くしている。つまり、長方形状の光感知領域Ractを形成している。これにより、各受光画素Poptにおいて縦方向Yの両サイドに形成する光不感領域Rdeadを出力配線パターンWPoutの領域として確保するとともに、マイクロセルMSの数を増やし、受光感度を維持しつつ、受光量を多くでき、耐ノイズ性を向上させている。
【0128】
[配線領域]
このため、光不感領域Rdeadとしては、図17の場合、受光画素Poptが占める光感知領域の縦方向Yの上下それぞれに幅Wの光不感領域部分が、また横方向Zの左右それぞれに幅Wの光不感領域部分が形成され、この光不感領域部分が形成される。この幅W,Wの上下左右の光不感領域部分によって光不感領域Rdead(マイクロセルを置かずに配線領域として機能させる)が形成される。シンチレータブロック143を平面視した場合、そのブロック下面143Lにおいては、受光画素Poptの光感知領域は、横方向Zに延ばされ、横長の長方形を成している。この長方形に形成する分、その内側に配置するマイクロセルMSの数は、同一間隔での配置の場合、より多くの量の光を感知することができる。どの程度の横方向延長をするかどうは、検知したい光量と光分離(ノイズ)の程度によって変わる。
【0129】
図17の画素構成において、図15に示すように、各検出画素Pinに対して光学インターフェース152を介して、それぞれの受光画素Poptが対向している。なお、光学インターフェース152は、実際には、例えば10μm程度の薄い厚さの光学的透過層として形成されることが望ましい。
【0130】
このため、シンチレータブロック143の各シンチレータ143AでX線光子に励起された蛍光(パルス状の微弱光)はそれら各シンチレータ143Aの下面(つまり、各検出画素Pin)からシンチレータブロック143の内部に四方八方に向かって出射される。各シンチレータ143Aの側面の多くの部分が薄い遮光材で覆われているので、蛍光の出射方向は下面からの出射に限定される。出射された蛍光パルスの一部は、各受光画素Poptの複数のマイクロセルMSそれぞれのアバランシェフォトダイオードAPDに入射する。入射した蛍光パルスは、そのアバランシェフォトダイオードAPDの光電変換機能とクエンチ抵抗Rとにより電気パルス信号に変換される。変換された電気パルス信号は、マイクロセルMSの静電容量成分Cを介して、各マイクロセルMSから出力される。複数のマイクロセルMSはセルの外側で配線パターンにより互いにワイヤードオア接続されているので(図17,18参照)、そのオア接続により、複数のマイクロセルMSからの電気パルス信号が1つの電気パルス信号として、少なくとも1つのマイクロセルMSが応答する毎に取り出される。
【0131】
この出力信号を処理する回路は、本実施形態では、後述する図18に示す如く、光子計数型の検出機能を持たせた処理回路148により構成されている。この処理回路148は、本実施形態では、ASICブロック144に実装されている。この処理回路148は、X線光子それぞれが異なるエネルギを持つことに着目し、予め定めた複数のエネルギ領域に基づくエネルギ弁別を行ってエネルギ領域毎にX線光子を計数し、その計数値に基づき、対象物Pに含まれる物質の少なくとも種類及び性状を同定可能な、所謂、物質同定をも行うことができるように構成されている。勿論、エネルギ領域毎の計数値に基づく、所謂、単純透過像を得ることもできる。
【0132】
この処理回路148のエネルギ弁別機能部分の構成は、例えば国際特許公開公報WO 2013/047788 A1などで知られている。
【0133】
[配線パターニング]
本実施形態では、その処理回路148における入力回路部分及び入力端子に至る、前述したSiPM領域RSiPMから隙間領域Rspaceを介してASIC領域RASICに至る配線接続、並びに、当該ASIC領域RASICとASICブロック44との電気的接続、さらには、ASIC領域RASICからマザー基板44への出力信号の引き出し構成の特徴を持つ。加えて、前述したマザー基板44とSiPM領域RSiPMに存在する複数のマイクロセルMSとの間の電源供給線及びアース線の採り方も特徴の一つである。
【0134】
図17に示すように、各受光画素Poptにおける複数のマイクロセルMSの出力ラインは縦方向Yで縦列するもの同士を一度、ワイヤードオア接続して上側の空き領域、即ち、光不感領域Rdeadの上側の領域に引き出し、その引き出した各縦列の引き出し線を再度、今度は横方向Zに引き回しながらワイヤードオア接続し、受光画素Popt毎の出力端Tpixelに纏めている。つまり、受光画素Popt毎に、その画素内のマイクロセルMSから出力された電気パルス信号は、この出力端Tpixelから取り出される。
【0135】
この出力端Tpixelに集められた1つ又は複数の電気パルス信号は、光不感領域Rdeadの上側の領域を横方向Zに走行する1本の出力配線パターン(ライン)WPoutを通してASIC領域RASICに画素毎に形成したパッドPD(図12参照)に至る。勿論、マイクロセルMS自身の回路要素を含め、この出力ラインから上記パッドまで一貫して、チップ上面USにフォトリソグラフィにより形成される。
【0136】
図17に示すように、上述した受光画素PoptをPopt1と表記すると、その横方向Zにて隣接した受光画素Popt2に対しても同様に、ワイヤードオア接続によりその隣接受光画素Popt2からの1本の出力配線パターンWPoutが横方向Zに沿って走行し、ASIC領域RASICに形成した対応するパッドPDoutに電気的に接続されている。以下、これに横方向Zにて隣接した受光画素Poptについても同様である。
【0137】
さらに、図17に示すように、2段目の横方向Zにて互いに隣接する複数の受光画素Poptについても1段目と同様に、縦方向Yにおける光不感領域Rdeadの上側の空き領域を使って横方向Zに、個々のパッドPDoutまで出力配線パターンWPoutを介して引き出されている。以下、図17には図示していないが、第3段目以降の横方向Zにて互いに隣接する複数の受光画素Poptについても同様である。
【0138】
なお、図17から判るように、上記出力配線パターンWPoutをパターニングする場合に、横方向Zに隣接した出力配線パターンWPoutと、その下側、すなわち縦方向Yに隣接した、横方向隣接の出力配線パターンWPoutとの間に、光不感領域Rdeadの一部の領域(W1の領域)をパターニングせずに残している。これにより、受光画素Poptの相互間の電磁波干渉を低減でき、互いの電磁的アイソレーションを取りやすくなる。
【0139】
勿論、これは配線幅、配線数、配線密度等を考慮して決められる。上記一部の領域(W1の領域)を残さずに配線パターンに使用してもよい。
【0140】
このように、各受光画素Poptから横方向Zの片側に出力配線パターンWPoutを引き出している理由は、その横方向Zの片側にASICブロック144をチップ上面USに並置しているからである。
【0141】
[ASIC領域とパッド配置]
ASIC領域RASICには、各受光画素Poptの数分のパッド(図示せず)が2次元配列されている。それら複数のパッドは様々な態様で配列すればよく、これもフォトリソグラフィにより形成される。
【0142】
上記パッドPDは、実装するASICブロック144の真下に位置し、ASICブロック144に設けるチャンネル分の入力端子Tin図18参照)に位置合わせされている。この複数チャンネルは、複数の受光画素Poptの画素毎のチャンネル148~148の数(プリアンプから弁別回路に至る回路部の数に相当している。
【0143】
これらのパッドは、バンプボンディング用であり、バンプボンディングによりASICブロック144の複数チャンネル148~148の入力端子Tinに電気的に接続される(図12の拡大部分参照)。
【0144】
[ASICブロック]
ASICブロック144は、図18に示す複数チャンネル148~148の分の処理部(即ち処理回路148)をIC化したデバイスであり、その外形は半導体チップ142の縦方向Yの長さと同じ長さに設定され、横方向Zには所定の幅(図12参照)。これは、半導体チップ142、即ち、検出モジュール132を縦方向Yに縦列状態で隣接配置するために、そのような寸法設定になっている。
【0145】
このASICブロック144の内部の集積化された処理回路148としては、各入力端子Tinに電気的に繋がるチャンネル148(~148)毎に、図18に示すように、波形整形回路161、X線エネルギースペクトルに複数n個のエネルギBIN(範囲)を設定するための複数「n+1」個(nは2以上の正の整数)の比較器162,1162,62,162、及び、これらの比較器162,162,162,162に個別接続され、各エネルギBINに入るエネルギを有するX線光子の数を計数するカウンタ163,163,163,163を備えている。
【0146】
各波形整形回路161は、各受光画素Poptの複数のマイクロセルMSから同時に又は一定のタイミング差を以って出力され、ワイヤードオア加算されて出力配線パターンWPout及びバンプボンディングBDを介して入力する1つ又は複数の電気パルス信号に一定時間毎に微積分処理を施す回路により構成される。これにより、この微積分処理により1つ又は複数のパルス信号が1つのパルス信号に合成され、この合成されたパルス信号が一定時間毎に出力される。本実施形態では、SiPM151は複数の小さいマイクロセルMSを備え、それらの
マイクロセルMSの光電変換素子は、適度なバイアス電圧の印加の下、ガイガーモードで動作するAPD(アバランシェフォトダイオード)を搭載し、アバランシェ効果による10程度の高いゲインで信号が発生し、クエンチ抵抗で放電することで、40~50nsのパルスとなる。ピクセルの出力は、シンチレータ材料がGFAGの場合、シンチレーションの遅延時間特性に従い、各マイクロセル合成出力として、立ち上がりから立下りまでの時が200ns前後という高速応答をさせることができる。
【0147】
比較器162,162,162,162には、X線エネルギBINの閾値に相当する基準電圧(閾値)TH,TH,TH,THが印加されている。この基準電圧TH,TH,TH,THは、例えばX線エネルギが18keV,25keV,38keV,及び50keV(管電圧に相当)に相当する電圧値である。これにより、X線エネルギースペクトルが18~25keV,25~38keV,及び38~50keVの3つのエネルギBINが演算上、設定される。なお、0~18keVのエネルギ範囲に入るX線光子はノイズであるとして光子計数から除外される。
【0148】
このため、比較器162,162,162,162は、それぞれ、その入力端に基準電圧TH,TH,TH,THを超えたとき波高値の電気パルス信号(光感知素子毎に合成された電気パルス信号)が到来したときに、その出力「1」を示す論理信号を出力する。このため、カウンタ163(163,163,163)はその出力に応答して計数値をインクリメントすることで、X線光子の数を計数する。
【0149】
さらに、ASICブロック144の内部の集積回路には、各カウンタ163,163,163,163の後段に接続された計数値記録回路164及び計数値読出回路165を備える。計数値記録回路164は、各カウンタ163,163,163,163から計数値を受け取り、それら計数値の相互差分によりエネルギBIN毎の光子計数値を演算し、一旦、内部メモリ記録する。この光子計数値は、計数値読出回路165により受光画素毎(即ち検出画素毎)に且つエネルギBIN毎に一定のタイミングで読み出されるとともに、所定ビット数のデジタル信号として複数の出力端Toutから時系列に順次出力される。
【0150】
このASICブロック144の複数の出力端Toutは、別のバンプボンディングを経由して、半導体チップ142のASIC領域RASICに戻され、入出力用パッド領域Rpad2に形成された入出力パッドPDiaに接続されている。この入出力パッドPDiaは半導体チップ142の配線パターンによってチップ上面USによって形成されている。
【0151】
この入出力パッドPDiaは、図12に模式的に示すように、ワイヤーボンディングWBによってマザー基板44の所定端子に電気的に接続されている。この所定端子を介して、X線検出装置22の光子計数値を示すデジタルデータがフロントエンドプロセッサ26を介してユーザPC:27に送られる。
【0152】
ユーザPC:27は、かかるデジタルデータに基づいて物質同定及び/又は画像生成を実行し、その結果をX線非破壊検査や医用X線検査に供する。
【0153】
<スキャン動作>
次に、図19に基づきX線検査システム11のスキャン動作及びその作用効果を説明する。
【0154】
図19に示すフローチャートは、フロントエンドプロセッサ26及びユーザPCが協働して行う各要素の駆動及び制御、並びに画像処理を説明している。
【0155】
同図に示すように、ユーザPCは、ユーザとの間でインターラクティブに撮影条件を設定し(ステップS11)、フロントエンドプロセッサ26にX線検出装置22への調整を指示する(ステップS12)。
【0156】
これを受けて、フロントエンドプロセッサ26は、駆動機構24、43に指令を与えて、コリメータ33及び2本の細長検出器31,31をそれらの初期位置へ位置付ける(ステップS13)。これにより、図20及び図21に示すように、2本の細長検出器31,31がそれらの所定の初期位置ST1,ST2へディスクリートに整列させられる。なお、初期位置ST1,ST2は、それら検出器31,31それぞれの左端位置が最左端位置になる状態で決めるものとする。
【0157】
このとき、コリメータ33も同様にスキャン方向SD(実際には、その斜め方向MD)の初期位置に位置付けられる。したがって、X線発生装置21から照射されたX線はコリメータ33の開口33A,33Bによりコリメートされ、2本のファンビームX線に成形され、初期位置ST1,ST2に在る検出器31,31のX線入射窓31W,31Wのみに、又は、それより前述の所定マージンを持たせたエリアにのみ照射される。
【0158】
次いで、フロントエンドプロセッサ26は、駆動機構24,43に所定の速度制御プロファイル(速度パターンとも言う)に沿ったスキャン命令を与えて、コリメータ33及び2本の細長検出器31,31を斜め方向MDに移動開)始させる(ステップS14)。つまり、コリメータ33(開口33A,33B)及び検出器31,31は互いに同期して斜め方向MDに移動される。このとき、ガイドレール42がスキャン方向SDに対して所定角度θだけ斜めになっているので、それらコリメータ33及び検出器31,31は互いに同期状態でスキャン方向SDに対して角度θだけ斜めの方向MDに引き上げられつつ、スキャン方向SDに沿って移動する。
【0159】
このスキャン動作は、駆動機構24,43の例えばサーボ制御による停止位置の指令又は停止センサが停止位置情報を出すまで、初期位置ST1,ST2から加速区間(助走区間)、定速区間、及び減速区間から成る台形状の速度制御プロファイルによって続けられる(ステップS14、S15:図20及び図21参照)。つまり、これらの図に示す例の場合、一方の検出器31は、その初期位置ST1から一定速度に達する位置A1までの間の加速区間とし、その位置A1から減速開始する位置B1までの区間を定速区間とし、減速開始位置B1から停止する位置SP1までの区間を減速区間としている。加速区間ST1~A1はスロースタートとも呼ばれ、逆に、減速区間B1~SP1をスローストップとも呼ばれている。同様に、他方の検出器31についても、加速区間ST2~A2、定速区間A2~B2、及び減速区間B2~SP2が設定されている。
【0160】
このため、一方の検出器31については、位置ST1~SP1までがスキャン担当範囲R1であり、他方の検出器31については、位置ST2~SP2までがスキャン担当範囲R2であり、両スキャン担当範囲R1,R2は途中でオーバーラップ区間OVを設けている。このオーバーラップ区間OVにおけるX線検出データに基づいて、両範囲R1、R2のX線検出データを繋ぎ、撮影領域22Wに対するX線検出データをデジタル化した、一定レート毎のフレームデータを作成することができる。
【0161】
上記スキャン動作が終了すると(ステップS16)、フロントエンドプロセッサ26は駆動機構24,43に停止命令及び初期位置へのリターン命令を出す(ステップS16, S17)。次いで、次のスキャン動作が指令されたかどうか判断しながら、終了まで同様のスキャン動作を繰り返す(ステップS18,S19)。
【0162】
<データ収集、フレームデータ生成、及び作用効果>
フロントエンドプロセッサ26は、予め定めた手順に沿って、上述したスキャン動作と併行したリアルタイム又は一定の遅延時間をおいて、又はポストプロセスとして、図19の右欄に示すデータ収集及びフレームデータ生成処理を行う。
【0163】
この収集及び生成の処理は、X線検出装置22に搭載した処理回路148の計数値読出回路165から出力される検出器31,31それぞれの、所定フレームレート(例えば16000fts)毎のフレームデータFRINIを読み込み、順次、その内部メモリ22M(図22参照)に一時保存する(ステップS31,S32)。
【0164】
この読込及び一時保存により、内部メモリ22Mには、検出器毎に、それぞれ縦列した複数のモジュール132それぞれの画素アレイPayからのデジタル量のX線フォトンの計数値(即ち、画素Pin毎のX線量を表す画素値)が保存される。このとき、モジュール132の相互間にはギャップである、所定幅の隙間SPがあるため、内部メモリ22Mにおける検出器フレームデータFRINIの対応位置には画素値は存在していない(図22参照)。
【0165】
そこで、フロントエンドプロセッサ26は、例えば公知の外挿処理によって、例えば隙間SPを分割する画素Pinesそれぞれの画素値をその周辺の画素の既知の画素値に基づき推定する(ステップS33:図22参照)。このため、隙間SPの長手方向Yの長さは、つまり、ギャップの幅は画素Pinのサイズ(例えば200、250,300μmなど)に合わせて設定してことで外挿演算がより簡単化される。このように隙間SPの画素の値が充足された検出器フレームデータFRDECは次の処理までメモリ22Mに保存される。
【0166】
なお、この外挿処理は省略してもよい。
【0167】
次いで、フロントエンドプロセッサ26は、内部メモリ22Mに保存されている外挿済みの検出器フレームデータFRDECを、同様に内部メモリ22Mに構築された再構成空間Srec(画素Prec)にマッピングするとともに、両検出器31,31からそれぞれ収集された所定フレームレート分のマッピング画素をシフト&アッド法で合成しながらサブピクセル法を実施して、撮影領域22Wの分のフレームデータを生成する(ステップS34:図22参照)。これにより生成されたフレームデータは、内部メモリ22Mに保存される(ステップS35)。この保存されたフレームデータは、データ収集が終われば、ユーザPC27に出力されて画像再構成、その画像に基づく物質の種類の同定などに供される(ステップS36,S37)。
【0168】
ここで、本願に係る検出器31の斜め方向の移動を伴う斜めスキャンとも言える、ステップS34で実施されるシフト&アッド法及びサブピクセル法に基づくフレームデータの生成を、図23を用いて詳述する。
【0169】
図23は、所定サイズの画素Precを持つ再構成空間Srecに、例えばフレームレート16000fpsで収集されるフレームデータのうち、時刻t=t1,t2,t3,t4で順次収集され且つ隙間SPに画素値が補填されたフレームデータを順次貼り付けた状態を示している。物理画素である画素Pin及び再構成画素Precのサイズは共に、例えば前述した250×250μmと同じであり、検出器31の短手方向Z(スキャン方向SD)の画素数は4つに簡略化して模式的に示している。また、所定角度θは、検出器31がスキャン方向SDに画素Pinの4つ分移動したときに、長手方向Yに画素Pinの1つ分移動する値に模式的に描いている。
【0170】
なお、画素Pin及び再構成画素Precのサイズは互いに違っていてもよい。
【0171】
また、検出器31は、所定角度θの斜め方向MDへ一定速度(定速区間)で移動している状態を想定しているので、スキャン方向SD及び斜め方向MDへの各時刻tのフレームデータの移動量は一定である。つまり、図20に示す速度制御プロファイルのうち、定速区間A1~B1,A2~B2の区間での速度に同期した移動量に応じてフレームデータのマッピング(貼付け)を示している。
【0172】
このように本実施形態によれば、このため、検出器31の隙間SPの部分の画素値が外挿により補填された、モジュール縦列体132Mの全検出データ分のフレームデータが再構成空間Srecにおいて所定角度θの斜めの方向に順次マッピングされる。このとき、画素値が補填されてはいるが直接の検出データではない隙間SPの部分も所定角度θを以って斜め移動(シフト)していく。
【0173】
そこで、フロントエンドプロセッサ26は、再構成空間Precの再構成画素Prec毎に、各フレームの画素Pinが寄与する画素値とその面積とに基づいて、所謂、サブピクセル法に基づいて再構成画素Precの画素値を演算する。例えば図23の中央付近の画素Prec-nに着目すると、その再構成画素Precは、画素部分Pa(隙間SPの部分の画素の一部であり、外挿された画素値を持つ)、画素部分Pb(時刻t=t4の画素の一部)、画素部分Pc(時刻t=t3の画素の一部)、及び画素部分Pd(時刻t=t2の画素の一部)から成る。このため、それらの画素部分の面積(ここでは画素全面積の1/4ずつの面積)に応じて加算されて再構成画素Prec-nの画素値が演算される。
【0174】
なお、前述した外挿処理を省略した場合、画素部分Paは存在しないことにして、画素部分Pb,Pc,Pdの画素値及び面積から画素Prec-nの画素値を決めてもよい。
【0175】
その他の再構成画素Precも同様である。特に、2つの検出器31が分担するスキャン範囲R1,R2のオーバーラップ区間OVにおいても画素値が同様に演算される。ただ、このオーバーラップ区間OVにおいて、両検出器31が共に検出する画素がある場合、その両画素値は平均されてサブピクセル法に供される。この平均化演算を減らすという観点から、図20における速度制御プロファイルにおいて、B1=A2、即ち、一方の検出器31の定速区間の終了点と他方の検出器31の定速区間の開始点とを一致させることが望ましい。
【0176】
さらに、フロントエンドプロセッサ26は、上述のようにフレームデータをマッピングしてサブピクセル法を実行する途中で、又は、その実行後に、一方の検出器31の加速区間ST1~A1、他方の検出器31の減速区間B2~AP2、一方の検出器311の長手方向Yの上下端における三角形を成す検出器斜め移動部分DP1,DP3、並びに、他方の検出器312の長手方向Yの上下端における検出器斜め移動部分DP3,DP4の画素データを破棄する。
【0177】
これにより、図21に示すように、両検出器31のスキャン動作に基づく矩形状の画像領域IMareaが撮影領域22Wの内側に提供される。この画像領域IMareaのフレームデータは、スキャン方向SDの両端の加速区間及び減速区間のデータ、及び、検出器31の斜め移動に伴う上下端のデータ不足に因り不安定な三角形部分のデータが排除された、安定で且つ信頼性の高いデータになる。このフレームデータがユーザPC27に送られる。

<第9の配置例>
ここで、図24を用いて、前述した細長検出器の3面バッタブルの配置例を第9の配置例として説明する。
【0178】
この配置例に係るX線検出装置22Hは、図24に示すように、この検出装置は2つの細長検出器31,31を搭載し、かつ、それら2つの細長検出器31,31の初期位置が撮影領域22Wのスキャン方向SDおける左端にて互いに背中合わせに隣接配置されている。つまり、一方の細長検出器31がスキャン方向SDの進行方向の先頭側に配置されるとともに、他方の細長検出器31がスキャン方向SDの進行方向の後ろ側に配置され、両検出器31、31の両矩形状のX線入射窓31W、31Wは長手方向Y(第1の方向)に沿って且つ互いに隣接するように配置されている。つまり、他方の細長検出器31のもう一方の検出器31に対する長手方向Yの向きを逆にしている。
【0179】
両方のX線入射窓31W、31Wの間の隙間は可能な限り0にすることが望ましいが、製造上、例えば一定の隙間SP(例えば1画素分前後に相当する隙間)だけ空けてもよい。
【0180】
さらに特徴的な配置構造として、両検出器31、31はそれらの長手方向Yにおいて所定距離Dだけ互いに相違させている。この所定距離Dは、D=0.5+N(Nは1以上の正の整数)の画素分に相当する長さである。このため、D=1.5画素、2.5画素、…となり、画素のサイズに対して処理し易い長さに設定されている。勿論、この所定距離Dは0.5画素分の長さであってもよいことはよい。
【0181】
このように2つの細長検出器31、31を3面バッタブルの配置にすることのよって、それらのX線入射窓31W、31Wは互いに少なとも一定の隙間SP3を空けて隣接させることができる。つまり、1本の細長検出器に比べて、スキャン方向SDのX線入射窓の長さ、つまりX線を受ける開口長さを広げることができ、より2次元面検出器の検出機能に近づけることができる。
【0182】
この2つの細長検出器31、31を、長手方向Yの所定距離Dの差を保持した状態でスキャン方向SDに対して所定角度θだけ斜めの方向MDに一緒に移動させることによって、より広いX線入射窓31W+31Wを以ってスキャンさせることができる。これにより、前述したように斜めに移動させることによって、超解像効果をより効果的に得られる。
【0183】
なお、スキャン方向SDの一定の隙間SP3に画素が存在しないことに対しても、前述した長手方向Yの隙間SPに対する補正と同様に補正処理される。

以上のように本実施形態に係るX線検査システム11及びこれに搭載するスキャン型のX線検出装置22を様々な検出器配置例と共に説明してきた。この実施形態に拠れば、特に、細長検出器を長手方向Yに沿ってディスクリートに複数配置する、本発明者等が「多列配置」と呼んでいる構成による作用効果と、1つ又は複数の細長検出器をスキャン方向SDから所定角度θだけ斜めに移動させる(引き上げる、引き下げる)、本発明者等が「機械式斜めスキャン」による作用効果とに大別できる。勿論、上述したように、多列配置と機械式斜めスキャンとを組み合わせて実施することで、それら両者の作用効果を得ることができる。
【0184】
<多列配置>
多列配置を採用した場合、まず、1つの撮影領域22Wを例えば2本の細長検出器311,312で分担してスキャンできる。これにより1本の検出器をスキャンさせる場合に比べて、スキャン時間、即ちデータ収集に要する撮影時間を1/複数分だけ短縮させることができる。
【0185】
また、図21において説明した、フレームデータ生成時に破棄する部分領域DP1~DP4の面積は、多列配置にすることによって、1本の細長検出器で従来の斜めスキャンを行い場合に比べて、少ない。このため、収集したデータを極力、無駄なく使用できる。
【0186】
<機械式斜めスキャン>
また、機械式斜めスキャンの場合、各細長検出器31がその相互に隣接するモジュール132の間に隙間SPがあって物理的な検出画素が無い場合であっても、その隙間SPに相当する画素値が外挿により補間された上で、再構成空間Precに斜めに貼り付けられていく(図23参照)。このため、隙間SPに検出画素が無いことによる影響はなく、再構成空間Precとの相対的に斜め方向へのマッピングによって、隙間SPが存在していても高解像度で、画素の変化が滑らかなデジタルっぽくない画素Precから成るフレームデータを再構成できる。また、斜めにスキャンすると統計ノイズが減るため、再構成画素サイズの割には統計ノイズが減る。つまり被ばく線量が減る。
【0187】
これらの優位性が互いに有機的に連携して作用することによって、ユーザPCで撮影可能な対象物内の物質の種類や性状を同定する、所謂、物質同定がより高精度で信頼性の高いものになる。
【0188】
このように、既知である一定間隔の隙間SPの存在が許容された状態でモジュール縦列体132M、即ち、細長検出器31を製造できる。つまり、複数のモジュール132を隙間なく隣接しなければならないという制約が緩和又は無くなるので、その分、組立作業が容易化され、組立コストの低減にもなる。
【0189】
さらに、画像領域IMareaの画像データを生成する過程において、再構成空間に検出器のフレームデータを貼付けるので、検出画素よりも小さい画素を持つ解像度の復元も可能になる。また、面検出器に比べて被写体(対象物)からの散乱線の混入を軽減できる。
【0190】
<多列配置、機械式スキャン>
また、この多列配置を前提として機械式斜めスキャンの場合、図21で説明したように、スキャン分担領域R1,R2の合計である撮影領域22Wの内、実際には、検出データがスキャン速度の変化(加速、減速)や画素値の不安定な部分領域を排除して画像領域IMareaのデータを得ている。このため、より安定し且つ分解能が高い領域のデータのみを得ることができ、再構成画像の高品質化も図ることができる。
【0191】
さらに、本実施形態では、多列配置および機械式スキャン共に、コリメータ33に形成する開口33A, 33B(又は、そのうちの一つ)の長さ及び幅を、より小さくすることができる。つまり、図21に示すように、最終的に欲しい収集領域は、図示した画像領域IMareaである。各検出器31はX線入射窓31Wを有しているため、その入射窓31Wの幅Wcは決まるが、長手方向Yの長さHcは画像領域IMareaの縦方向の長さを満足すればよい。このため、開口33A,33Bの縦横の幅は画像領域IMarea一部分である長さHc×幅Wcの矩形状に、又は、それよりも前述の所定のマージンを持った矩形状に、X線をコリメートできればよい。この長さHc×幅Wcというサイズにコリメートする場合、従来の検出器自体を斜めに配置する同等サイズの斜めスキャン(例えば前述したWO 2017/170408 A1に記載のスキャン構造)に比べて小さくでき、したがって、対象に対するX線被ばくの軽減にも貢献する。
【0192】
<光子計数型でスキャン型の検出器であることの作用効果>
上記実施形態に係る細長検出器31は、X線の量として、その光子数を計数する光子計数型の検出器であって、且つ、対象をスキャンしながら面検出器として動作させるスキャン型の検出器である。
【0193】
これにより、従来の積分型のX線検出器に比べて、検出器を離散的に配置することによる、患者からの散乱成分の混入の軽減は元より、シンチレータの光拡散に相当するボケが少ないので解像度が優れていること、電気ノイズの混入を低減できるのでコントラスト分解能が高いこと、また、そのことに加え、線量と出力がリニアになるので、ダイナミックがより広いことが挙げられる。さらに、検出器感度が高いこともある。さらに、X線のパルス信号処理までの過程を高速化できるので、高速応答も可能である。さらには、光子計数型であるので、透過X線のエネルギ情報を高精度で弁別・処理できるので、いわゆる物質同定などのエネルギ弁別に依存した処理に向いている。さらには、医用診断装置で昨今問題となっている患者のみならず、医師へのX線被ばく線量を大幅に軽減させることができる。これは、検出感度が高く、かつ電気ノイズの少ないことに拠る。
【0194】
一方、CdTeなどの半導体を用いた直接変換型のX線検出器に比べると、本願の細長検出器31は検出できるエネルギ範囲(keV)が広いこと、検出感度を高くできること、さらには画素間のクロストーク(チャージシェアリングに相当)が少ないため、エネルギ描出能が高く、結果として計数率特性(1% count loss/1mm2)が優れている。これによって、この検出器の応用範囲がより広い点が挙げられる。加えて、ポーラリゼーションなどの不安定要因がより少ないことから、医療用CTや食品異物検査などで要求される検出能力にも対応可能である。さらには、CdTe半導体の動作に必要な高いバイアス電圧の供給が不要であり、検出器の回路設計を容易化でき、医療安全規格への対応もより容易になる。勿論、製造コストもより低く抑えることが可能である。
【0195】
更に、スキャン型とすることで、対象物からの散乱線の混入が極めて少なくなり、画質(コントラスト分解能)が向上し、光子計数型の検出構成を採用した場合には物質同定の精度向上にも寄与する。とくに、スリット33との同期連動を併用しているので、X線の照射野は、移動する細長検出器31に必要なX線入射窓31Wの幅にコリメートされるとともに、長手方向Yの長さは本実施形態では図21に示す長さHc又はそれに一定のマージンを加えた長さにコリメートされる。これによって、X線被ばく線量がより一層低減さされる。この照射野の長手方向Yにおける長さHcへのコリメートは、本実施形態に係る機械式スキャンならではのものであり、従来のように検出器自体を斜めに傾けてスキャンするタイプに対して優位な点の一つである。
【0196】
なお、本発明は前述した実施形態の構成に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない限り、さらに様々な構成を組み合わせて実施してもよい。
【符号の説明】
【0197】
11 X線検査システム
21 X線発生装置
22,22A~22G X線検出装置
22W 撮影領域
23、24 駆動装置
25 駆動機構
26 フロントエンドプロセッサ
27 ユーザPC
31 細長検出器(X線検出器)
31W X線入射窓
31L 長辺(第1の方向を提供)
31S 短辺(第2の方向を提供)
33 コリメータ
33A,33B 第1、第2のスリット
42 ガイドレール
44 マザー基板
45 支持フレーム(支持体)
132M モジュール縦列体
PXay 画素アレイ
131 ケース
132 モジュール
SP 隙間(ギャップ)
Y 長手方向
Z 短手方向
θ 所定角度
MD 斜め方向
IMarea 画像領域
OB 検査対象
R1, R2 スキャン範囲(スキャン分担範囲)
XB X線ファンビーム(X線)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24