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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022115742
(43)【公開日】2022-08-09
(54)【発明の名称】固体レーザ
(51)【国際特許分類】
   H01S 3/16 20060101AFI20220802BHJP
【FI】
H01S3/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021012491
(22)【出願日】2021-01-28
(71)【出願人】
【識別番号】597124316
【氏名又は名称】学校法人東北工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 篤
【テーマコード(参考)】
5F172
【Fターム(参考)】
5F172AE01
5F172AE03
5F172AE08
5F172AE09
5F172AF01
5F172EE13
5F172NR22
5F172ZA01
(57)【要約】
【課題】波長変換を必要とせずに、可視光域のレーザ光を効率よく生成することができる固体レーザを提供する。
【解決手段】固体レーザ1は、ホルミウムイオンが添加された母材結晶10(レーザ媒質)と、ホルミウムイオンの電子のエネルギー準位を、基底準位であるからに励起させる波長を有する励起光を母材結晶10に入射する励起光源20とを備えており、ホルミウムイオンの電子のエネルギー準位がからに復帰することに応じて生成されたレーザ光を出射する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホルミウムイオンが添加されたレーザ媒質と、前記ホルミウムイオンの電子のエネルギー準位を、基底準位であるからに励起させる波長を有する励起光を前記レーザ媒質に入射する励起光源とを備えており、前記ホルミウムイオンの電子のエネルギー準位が前記から前記に復帰することに応じて生成されたレーザ光を出射するように構成されていることを特徴とする固体レーザ。
【請求項2】
請求項1記載の固体レーザにおいて、
前記レーザ光を増幅して出射する共振器をさらに備えることを特徴とする固体レーザ。
【請求項3】
請求項1又は2記載の固体レーザにおいて、
前記レーザ媒質に対する前記ホルミウムイオンの添加割合は、0.2~5[at%]であることを特徴とする固体レーザ。
【請求項4】
請求項1又は2記載の固体レーザにおいて、
前記レーザ媒質に対する前記ホルミウムイオンの添加割合は、0.5~1.5[at%]であることを特徴とする固体レーザ。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の固体レーザにおいて、
前記励起光は、630~660[nm]の範囲に中心波長を有する励起光であることを特徴とする固体レーザ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光域のレーザ光を出力し得る固体レーザに関する。
【背景技術】
【0002】
固体レーザは、半導体レーザに比して、高品質のレーザ光を生成し得る等の点で利点があり、従来より、様々な技術分野で利用されている。そして、従来、固体レーザとしては、例えば特許文献1等に見られるようにNd:YVO4、Nd:YAG等、ネオジムイオンを添加した母材結晶をレーザ媒質(レーザ結晶)として使用し、1μm帯(近赤外域)のレーザ光を発振させるものが一般的に知られている。
【0003】
また、例えば特許文献2等に見られるように、Yb:YAG、Yb:SYS等、イットリウムイオンを添加した母材結晶を使用し、1μm帯(近赤外域)のレーザ光を発振させる固体レーザ、あるいは、Tm:YLF等、ツリウムイオンを添加した母材結晶を使用し、2μm帯のレーザ光を発振させる固体レーザ、あるいは、Ho:YLF等、ホルミウムイオンを添加した母材結晶を使用し、2μm帯のレーザ光を発振させる固体レーザ等も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-016639号公報
【特許文献2】特開2007-242940号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1,2に見られる如き、従来の固体レーザは、可視光域よりも長い波長域のレーザ光を発振するものであるため、該固体レーザが出力するレーザ光から、可視光域のレーザ光を得るためには、非線形光学結晶等を用いて、レーザ光の波長変換を行う必要がある。このため、可視光域のレーザ光を効率よく生成することが困難であると共に、可視光域のレーザ光を生成するための装置の大型化や高コスト化を招きやすい。
【0006】
さらに、例えば、可視光域よりも波長が短い紫外域のレーザ光を生成する場合には、固体レーザから出力されるレーザ光を可視光域に波長変換することに加えて、該可視光域から紫外域へのさらなる波長変換が必要となる。ひいては、紫外域のレーザ光の生成効率のさらなる低下を招くと共に、紫外域のレーザ光の生成装置の大型化や高コスト化が助長されてしまう。
【0007】
なお、可視光域のレーザ光を発振させ得る固体レーザとしては、例えば、チタンイオンを添加したサファイアをレーザ結晶として使用するチタン:サファイアレーザが一般的に知られている。しかるに、チタン:サファイアレーザでは、励起光は、Nd:YAG等の固体レーザにより得られる1μm帯のレーザ光を第2高調波のレーザ光に波長変換することで得られる。このため、可視光域のレーザ光を高効率で生成することが困難であると共に、励起光源の大型化や高コスト化を招きやすい。
【0008】
本発明はかかる背景に鑑みてなされたものであり、波長変換を必要とせずに、可視光域のレーザ光を効率よく生成することができる固体レーザを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の発明者は、様々な実験の結果、ホルミウムイオンを添加した母材結晶等のレーザ媒質に対して、ホルミウムイオンの電子のエネルギー準位を基底準位である58から
55に励起させ得る波長を有する励起光(例えば、638nmの波長成分を有する励起光)を入射した場合、励起された電子のエネルギー準位が55から58に復帰し、その復帰に伴い、可視光域の波長(≒658nm)のレーザ光、すなわち、赤色域の波長のレーザ光がレーザ媒質から出射されるという現象を発見した。
【0010】
なお、ホルミウムイオンを添加した母材結晶は、前記特許文献2に見られるように、2μm帯のレーザ光を生成し得るレーザ結晶として従来より知られているが、可視光域のレーザ光を生成するためのレーザ結晶としての使用については未だ知られていない。
【0011】
そこで、本発明の固体レーザは、ホルミウムイオンが添加されたレーザ媒質と、前記ホルミウムイオンの電子のエネルギー準位を、基底準位である58から55に励起させる波長を有する励起光を前記レーザ媒質に入射する励起光源とを備えており、前記ホルミウムイオンの電子のエネルギー準位が前記55から前記58に復帰することに応じて生成されたレーザ光を出射するように構成されていることを特徴とする。
【0012】
かかる本発明の固体レーザによれば、ホルミウムイオンの電子のエネルギー準位を58から55に励起させ得る励起光の波長(例えば638nm)と、その励起からのエネルギー準位の復帰に応じて出射されるレーザ光の波長(≒658nm)との差が微小であるため、励起光からレーザ光への変換効率が極めて高い。
【0013】
また、ホルミウムイオンの電子を58から55に励起させる波長を有する励起光源として、公知の半導体レーザ等を使用し得る。そして、可視光域のレーザ光をレーザ媒質から直接的に出射させることができる。
【0014】
よって、本発明の固体レーザによれば、波長変換を必要とせずに、可視光域のレーザ光を効率よく生成することができる。
【0015】
本発明の固体レーザでは、前記レーザ光を増幅して出射する共振器をさらに備えることが好ましい。これによれば、可視光域の高品質のレーザ光を高出力で出射させることが可能となる。
【0016】
また、本発明の固体レーザでは、前記レーザ媒質に対する前記ホルミウムイオンの添加割合は、0.2~5[at%]であることが好ましい。さらには、前記レーザ媒質に対する前記ホルミウムイオンの添加割合は、0.5~1.5[at%]であることがより好ましい。
これによれば、レーザ媒質から可視光域のレーザ光を出力させることを適切に実現できる。
【0017】
また、本発明の固体レーザでは、前記励起光は、630~660[nm]の範囲に中心波長を有する励起光であることが好ましい。これによれば、様々な種類のレーザ媒質で、可視光域のレーザ光を出力させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施形態の固体レーザの構成を模式的に示す図。
図2図2はホルミウムイオンの電子のエネルギー準位の遷移を示す図。
図3図3A図3Dは、母材結晶(レーザ媒質)へのホルミウムイオンの添加割合と、出力されるレーザ光のパワーとの関係を例示するグラフ。
図4図4は、複数の種類の母材結晶(レーザ媒質)のそれぞれにおいて、ホルミウムイオンの電子の励起に必要な波長域を示す図。
図5】実施形態の固体レーザで生成されるレーザ光の波長変換を行うシステムの例を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の一実施形態を図1図5を参照して以下に説明する。図1を参照して、本実施形態の固体レーザ1は、レーザ結晶(レーザ媒質)としての母材結晶10と、母材結晶10に励起光を入射する励起光源20と、母材結晶10で生成されるレーザ光を増幅して出射する共振器30とを備える。
【0020】
母材結晶10は、ホルミウム(Ho)イオンが所要の添加割合で添加された結晶である。母材結晶10の素材としては、例えば、YPO、LaF、LaCl、KCaF、BYF、GdAlO、YVO、YLiF(YLF)、YAl12(YAG)、LuLiF(LLF)、GdVO等の結晶を使用し得る。なお、母材結晶10におけるホルミウムイオンの適切な添加割合については後述する。
【0021】
ここで、上記母材結晶10をレーザ結晶(レーザ媒質)として使用する本実施形態の固体レーザ1の動作原理について図2を参照して説明しておく。母材結晶10に添加されたホルミウムイオンは、その電子のエネルギー準位として、図2に示す如く、基底準位であると、その上位のエネルギー準位であるとを有する。そして、これらのエネルギー準位は、それぞれ、結晶場に起因して複数のシュタルク準位に分裂する。また、との間のエネルギー差を光の波長に換算すると、その波長は可視光域(詳しくは赤色域)の波長である。なお、図示は省略するが、及びの2つのエネルギー準位の間にはよりも低い他のエネルギー準位(具体的には、)も存在する。
【0022】
母材結晶10に添加されたホルミウムイオンの電子のエネルギー準位をから
に励起させ得る波長(赤色域の波長)を有する励起光を母材結晶10に入射すると、該電子のエネルギー準位がからに励起され、続いて、励起された電子のエネルギー準位がからに復帰し、それに伴い、可視光域(赤色域)の波長を有するレーザ光が母材結晶10から出射されるという現象が生じることが本願発明者の各種実験等により判明した。
【0023】
例えば、母材結晶10として、ホルミウムイオンを添加したYLiF(YLF)あるいはLuLiF(LLF)を使用した場合、638nmの波長の励起光を母材結晶10に入射すると、658nmの波長の可視光域(赤色域)のレーザ光が母材結晶10から出力されることが確認された。
【0024】
このように、ホルミウムイオンを添加した母材結晶10をレーザ結晶として使用することで、ホルミウムイオンの電子のエネルギー準位をからに励起させ得る波長を有する励起光から可視光域のレーザ光を直接的に生成することができる。
【0025】
この場合、生成されるレーザ光の波長は、励起光の波長よりも若干長い程度の波長なので、量子効率(励起光子からレーザ光子へのエネルギー変換効率)が極めて高い。例えば、ホルミウムイオンを添加したYLiF(YLF)あるいはLuLiF(LLF)から成る母材結晶10に638nmの波長の励起光を入射した場合に生成されるレーザ光の波長は658nmであるから、量子効率は、638/658=0.97となり、量子欠損(エネルギーの損失割合)は、僅か3%にすぎない。
【0026】
また、ホルミウムイオンの電子のエネルギー準位をからに励起させ得る励起光の波長は、赤色域の波長であるので、該励起光を、波長変換を必要とせずに、公知の半導体レーザ等により生成し得る。
【0027】
従って、ホルミウムイオンを添加した母材結晶10をレーザ結晶として使用することで、母材結晶10で生成されるレーザ光の波長変換や、母材結晶10に入射する励起光を生成するための波長変換を必要とすることなく、高効率で可視光域のレーザ光を生成し得る。以上が、本実施形態の固体レーザ1の動作に関する基本的な技術事項である。
【0028】
本実施形態の固体レーザ1の励起光源20は、赤色域の波長の励起光(レーザ光)を出力する半導体レーザ21と、半導体レーザ21から出力される励起光を集光する集光光学系22とを備える。集光光学系22は、公知の光学レンズ等により構成され得る。
【0029】
半導体レーザ21は、母材結晶10のホルミウムイオンの電子のエネルギー準位を
からに励起させ得る所定波長もしくはその近辺に中心波長を有する赤色域の励起光を出力する半導体レーザである。
【0030】
例えば、母材結晶10が、ホルミウムイオンを添加したYLiF(YLF)あるいはLuLiF(LLF)から成るレーザ結晶である場合、半導体レーザ21は、638nmの波長もしくはその近辺の波長に中心波長を有する励起光(レーザ光)を出力するように構成される。
【0031】
このように、赤色域の波長を有する励起光を出力し得る半導体レーザ21としては、例えば、GaAs系の半導体レーザ、AlGaInP系の半導体レーザを使用し得る。なお、励起光の中心波長の適切な範囲については後述する。
【0032】
共振器30は、母材結晶10から出射する所定波長のレーザ光を全反射する全反射鏡31と、該レーザ光の一部を透過し、残部を反射する出力鏡32を備え、これらの全反射鏡31及び出力鏡32の間に形成された内部空間であるキャビティ33に母材結晶10が配置されている。
【0033】
ここで、本実施形態の固体レーザ1は、例えば端面励起方式のレーザであり、励起光源20の集光光学系22から出力される励起光が、全反射鏡31を通って共振器30のキャビティ33内の母材結晶10に入射するように励起光源20、共振器30及び母材結晶10の配置が設定されている。この場合、全反射鏡31は、母材結晶10から出力されるレーザ光の波長に一致する波長の光を全反射し、励起光の中心波長及びその近辺の波長に一致する波長の光を高透過率で透過させ得るように構成されている。
【0034】
また、共振器30は、励起光の入射に応じて母材結晶10から出力されるレーザ光をキャビティ33内で全反射鏡31と出力鏡32との間で反射させつつ増幅し得るように、モード半径等が設定されている。例えば共振器30のモード半径は、励起光のビーム半径に一致するように設定されている。
【0035】
また、出力鏡32は、キャビティ33内で増幅されるレーザ光の一部をキャビティ33内から外部に透過(出射)させるために、該レーザ光を100%未満の所定の反射率、例えば80~99%の範囲内の所定の反射率で反射し得るように構成されている。ただし、出力鏡32でのレーザ光の反射率は、上記に例示した範囲に限らず、固体レーザ1の用途、仕様等に応じて様々な反射率に設定され得る。例えば、レーザ光を連続発振させるように固体レーザ1を構成する場合には、出力鏡32の反射率は、高めの反射率に設定され、高出力パルスのレーザ光を発振させるように固体レーザ1を構成する場合には、出力鏡32の反射率は、低めの反射率に設定され得る。
【0036】
なお、共振器30は、母材結晶10がら出力される波長のレーザ光を増幅させて出射し得るものであれば、公知の任意の構造のものを使用し得る。また、固体レーザ1は、端面励起方式のものに限らず、共振器30のキャビティ33内に配置される母材結晶10に、共振器30の側面側から励起光を入射する側面励起方式の構成であってもよい。
【0037】
本実施形態の固体レーザ1は、上記の如く構成されている。かかる固体レーザ1によれば、母材結晶10に添加されたホルミウムイオンの電子のエネルギー準位をから
に励起させ得る波長(赤色域の波長)を有する励起光を母材結晶10に入射することで、コヒーレント性等が良好な高品質の可視光域(赤色域)のレーザ光を、波長変換を必要とせずに、母材結晶10から高効率で直接的に出力させることができる。
【0038】
また、ホルミウムイオンの電子のエネルギー準位をからに励起させ得る波長を有する励起光は、半導体レーザ21等を使用して、波長変換を必要とせずに生成することができる。
このため、可視光域(赤色域)の高品質のレーザ光を効率よく出力し得る固体レーザ1を小型且つ簡易な構成で安価に提供することができる。
【0039】
次に、母材結晶10に対するホルミウムイオンの適切な添加割合について図3A図3Dを参照して説明する。本願発明者は、ホルミウムイオンの適切な添加割合を見出すために、ホルミウムイオンの添加割合に対して、母材結晶10から出力されるレーザ光のパワーがどのように変化するかを、例えば、公知のレート方程式モデルを用いて解析した。
【0040】
この解析における諸条件を以下に示す。
励起光の波長:638nm
励起光のパワー:1~5W
母材結晶10に入射する励起光のビーム半径:100μm
共振器30のモード半径:100μm
励起光のビームの光軸方向での母材結晶10の長さ:2mm
出力するレーザ光の波長:658nm
共振器30の出力鏡32の反射率:99%、97%、90%、80%
なお、共振器30の全反射鏡31は、レーザ光の波長(658nm)に対して全反射の反射特性を有すると共に、励起光の波長(638nm)に対して高透過の透過特性を有する。
【0041】
図3Aは、共振器30の出力鏡32の反射率が99%である場合において、励起光のパワーが1W、2W、3W、4W、5Wのそれぞれであるときのホルミウムイオンの添加割合[at%]に対するレーザ光の変化の特性を示すグラフである。
【0042】
また、図3Bは、共振器30の出力鏡32の反射率が97%である場合において、励起光のパワーが1W、2W、3W、4W、5Wのそれぞれであるときのホルミウムイオンの添加割合[at%]に対するレーザ光のパワーの変化の特性を示すグラフである。
【0043】
また、図3Cは、共振器30の出力鏡32の反射率が90%である場合において、励起光のパワーが1W、2W、3W、4W、5Wのそれぞれであるときのホルミウムイオンの添加割合[at%]に対するレーザ光のパワーの変化の特性を示すグラフである。
【0044】
また、図3Dは、共振器30の出力鏡32の反射率が80%である場合において、励起光のパワーが1W、2W、3W、4W、5Wのそれぞれであるときのホルミウムイオンの添加割合[at%]に対するレーザ光のパワーの変化の特性を示すグラフである。
【0045】
なお、図3A図3Dのグラフの縦軸のレーザ光パワーは、より詳しくは、出力鏡32から出力されるレーザ光のパワーである。
【0046】
図3A図3Dに見られるように、出力されるレーザ光のパワーは、ホルミウムイオンの添加割合(以降、単にHo添加割合という)がある値であるときにピーク値(極大値)を持つように、該Ho添加割合に対して変化する。この場合、レーザ光のパワーがピーク値となるHo添加割合は、ほぼ0.5~1.5[at%]の範囲内の添加割合である。従って、母材結晶10のHo添加割合は、好適には、0.5~1.5[at%]の範囲内の添加割合であることが好ましい。
【0047】
ただし、励起光の各パワーにおいて、レーザ光のパワーがピーク値となるHo添加割合の値よりも低いHo添加割合では、該Ho添加割合の減少に伴い、レーザ光のパワーの減少が比較的急激に進行するものの、レーザ光のパワーがピーク値となるHo添加割合の値よりも高いHo添加割合では、該Ho添加割合の増加に伴い、レーザ光のパワーの減少が比較的緩やかに進行する。また、母材結晶10のHo添加割合が、レーザ光のパワーがピーク値となるHo添加割合の値からある程度ずれていても、適切なパワーの励起光を母材結晶10に入射することで、可視光域(赤色域)のレーザ光を出力し得る。
【0048】
これらのことから、母材結晶10のHo添加割合は、0.2~5[at%]の範囲内の添加割合であれば、十分に可視光域(赤色域)のレーザ光を出力し得ると考えられる。
【0049】
次に、励起光の波長の適切な範囲について図4を参照して説明する。図4は、母材結晶10として使用し得る代表的な複数種類の母材結晶のそれぞれ毎に、ホルミウムイオンの電子のエネルギー準位をからに励起させ得る波長の範囲(との間のエネルギー差を波長に換算して得られる範囲)を横線分で示す図である。
【0050】
なお、図4での図示は省略しているが、前記した母材結晶10の種類のうち、LLF(LuLiF)、GdVOのそれぞれに対する励起光の波長範囲は、それぞれ、YLF、YVOのそれぞれの波長範囲とほぼ同じである。このように組成が似ている母材結晶体のそれぞれに対する励起光の波長範囲は、ほぼ同一の波長範囲になる。
【0051】
ここで、各種類の母材結晶において、励起光の吸収量がピークとなる波長は、からに励起させ得る波長範囲のうち、短波長側の波長であることが多い。このことと、図5に示す各種類の母材結晶毎の波長範囲とを考慮すると、様々な種類の母材結晶10に対して、ホルミウムイオンの電子のエネルギー準位をからに励起させる上では、励起光の中心波長の範囲は、例えば630~660nmの範囲が好ましいと考えられる。
【0052】
以上説明した固体レーザ1は、前記した如く可視光域(赤色域)の高品質のレーザ光を高効率で生成することができるため、様々な用途で利用することができる。例えば、固体レーザ1により生成される赤色域のレーザ光は、植生センシング、バイオセンシング、ライダー(LIDAR:Light Detection and Ranging)等の分野で利用できる。
【0053】
また、固体レーザ1により生成される赤色域のレーザ光(以降、基本波のレーザ光ということがある)を、図5に示す如く、非線形光学結晶41を用いて、第2高調波のレーザ光(基本波のレーザ光の1/2波長のレーザ光)に波長変換することで、一回の波長変換で紫外域のレーザ光を得ることができる。例えば、固体レーザ1により生成し得る波長658nmの基本波のレーザ光から、その第2高調波のレーザ光として、波長329nmの紫外域のレーザ光を得ることができる。そして、その紫外域のレーザ光(第2高調波のレーザ光)は、例えば、蛍光センシング、浮遊微粒子のセンシング、微細加工等の分野で利用できる。
【0054】
さらに、上記基本波及び第2高調波のレーザ光を、図5に示す如く、非線形光学結晶42を用いて、第3高調波のレーザ光(基本波のレーザ光の1/3波長のレーザ光)に波長変換することで、より短波長の紫外域のレーザ光を得ることができる。例えば、波長658nmの基本波のレーザ光から、その第3高調波のレーザ光として、波長219nmの紫外域のレーザ光を得ることができる。そして、その紫外域のレーザ光(第3高調波のレーザ光)は、例えば、レーシック等の医療分野、エキシマレーザーの代用、装置や空間の除菌等で利用することができる。
【0055】
なお、以上説明した固体レーザ1では、共振器30を備えたが、例えば、共振器30を備えない固体レーザを光増幅器として利用することもできる。また、本発明の固体レーザにおけるレーザ媒質(ホルミウムイオンを添加するレーザ媒質)は、前記した種類の母材結晶10に限られない。本発明の固体レーザにおけるレーザ媒質としては、ホルミウムイオンを添加でき、且つ、ホルミウムインの電子をからに励起し得る励起光を入射でき、且つ、からへの電子の復帰に応じて生成されるレーザ光を出射し得るものであれば任意の素材の結晶を使用し得る。さらには、ガラス、セラミックス、ファイバーを、ホルミウムイオンを添加するレーザ媒質として使用することもできる。
【符号の説明】
【0056】
1…固体レーザ、10…母材結晶(レーザ媒質)、20…励起光源、30…共振器。
図1
図2
図3
図4
図5