(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022115764
(43)【公開日】2022-08-09
(54)【発明の名称】紫外線吸収剤水性組成物
(51)【国際特許分類】
C09K 3/00 20060101AFI20220802BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20220802BHJP
C09D 7/65 20180101ALI20220802BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20220802BHJP
【FI】
C09K3/00 104C
C09D201/00
C09D7/65
C09D7/63
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021017880
(22)【出願日】2021-02-06
(31)【優先権主張番号】P 2021012523
(32)【優先日】2021-01-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】591064508
【氏名又は名称】御国色素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121898
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 ひろみ
(72)【発明者】
【氏名】井手 康弘
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038CG002
4J038JB35
4J038KA06
4J038KA09
4J038MA08
4J038MA14
4J038NA01
4J038NA19
4J038PA18
(57)【要約】 (修正有)
【課題】透明性に優れ、かつ紫外線を十分に遮蔽する紫外線吸収剤水性組成物の提供。
【解決手段】紫外線吸収剤及び分散剤が水性媒体中に存在している水性組成物であって、紫外線吸収剤が、以下の化合物を含む。
式中、R
1及びR
1'は、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、C1~12ペルフルオロアルキル基、R
3SO-基又はR
3O
2-基。R
2及びR
2'は、C1~12アルキル基、CO
2H基により置換されたC1~12アルキル基、フェニル基、フェニルアルキル基、シクロアルキル基である。R
3はアルキル基、ヒドロキシアルキル基である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも紫外線吸収剤及び分散剤が水性媒体中に存在している水性組成物であって、紫外線吸収剤が、以下の一般式(I)で表される化合物であることを特徴とする紫外線吸収剤水性組成物。
一般式(I)
【化1】
式中、
R
1及びR
1'は、互いに同一又は異なってもよく、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、1個ないし12個の炭素原子を有するペルフルオロアルキル基、R
3SO-基又はR
3O
2-基である。
R
2及びR
2'は、互いに同一又は異なってもよく、炭素原子数1~12のアルキル基、CO
2H基により置換された炭素原子数1~12のアルキル基、フェニル基、アルキル基部分に1~4個の炭素原子を含むフェニルアルキル基、または炭素原子数5~8のシクロアルキル基である。
R
3は炭素原子数1ないし20のアルキル基、炭素原子数2ないし20のヒドロキシアルキル基、炭素原子数2ないし9のアルコキシカルボニル基により置換されたアルキル基、炭素原子数3ないし18のアルケニル基、炭素原子数5ないし12のシクロアルキル基、炭素原子数7ないし15のフェニルアルキル基、炭素原子数6ないし10のアリール基又は炭素原子数1ないし4のアルキル基1個又は2個により置換された前記アリール基、或いは1,1,2,2-テトラヒドロペルフルオロアルキル基(この基のペルフルオロアルキル部分は、6個ないし16個の炭素原子からなる)である。
【請求項2】
紫外線吸収剤が、平均分散粒子径10~35nmで分散していることを特徴とする請求項1記載の紫外線吸収剤水性組成物。
【請求項3】
分散剤が、コントロール重合のアクリル系共重合物から選択される一以上の化合物であることを特徴とする請求項1又は2記載の紫外線吸収剤水性組成物。
【請求項4】
さらに界面活性剤を含有することを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の紫外線吸収剤水性組成物。
【請求項5】
一般式(I)の化合物において、
R1が塩素、R2がtert-オクチルであることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の紫外線吸収剤水性組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の紫外線吸収剤水性組成物を、更に樹脂成分と混合し、コーティング液化することを特徴とするコーティング用組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線吸収剤組成物、その製造方法及びコーティング用組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤は、優れた紫外線吸収性能及び光安定性等の性質が知られ、広く用いられてきた。特に、2,2´-メチレンビス[6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-tert-オクチルフェノール](別名ビスオクトリゾール)は、長波長まで吸収できる紫外線吸収剤として知られているが、有機系化合物であり、揮発性有機溶媒等に溶解して分子状態で使用されるのが一般的である。
しかし、揮発性有機系溶媒の環境、人体への影響が懸念されることから、水系溶媒の使用が望まれるが、ビスオクトリゾールは水には不溶である。そこで当該化合物を水中に分散する手法が報告されている(特許文献1,2,3,4,5)。
水中に分散することにより、水系溶媒が使用可能になり有機系溶媒を用いなくて済むだけでなく、分散状態であり溶解していないことから、紫外線吸収剤自体の耐光性が向上し、また分散状態のものは溶解状態のものより長波長まで吸収が増大することから紫外線吸収剤の使用量をより少なくできるため、水系塗料、ゾルゲルコーティング液、インラインコーティング液等へ適用製品対象が広がることが期待できる。さらに、水分散液とすることで、塗料形態にもフィルム形態などにも加工でき、特に、透明な分散液とすることで、繊維材料、インク、化粧品等、耐光性が必要かつ透明性が重視される製品への幅広い適用が期待できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-95559号公報
【特許文献2】特許5270134号公報
【特許文献3】WO2015/152057
【特許文献4】特許5396265号公報
【特許文献5】特許5700552号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、本発明者の検討により、これら従来より知られている文献で開示されている分散液では、紫外線を十分にカットしつつ可視光透過率を向上させることが難しいことがかった。具体的には、上記の各文献のうち特許文献1~3では、紫外領域(200nm~380nm)の透過率が0.0%となる場合の可視光(600nm)の透過率が25%を越えるもの(紫外線吸収剤濃度を0.00982%としたときの数値)は得られなかったこのため、ガラスコーティングのように上記報告よりも高い透明性を必要とする用途への適応は難しかった。
【0005】
また、特許文献4、5では、長時間の製造工程を経ることによって高い透過率を保持しており、製造工程が長いことより生産効率が高いとは言えなかった。
従って、高い透過率を保持しつつ製造工程の短い生産効率の高い分散組成物が求められた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記の課題を解決するために検討を重ねた。その結果、特定の紫外線吸収剤を用い分散することによりこれまでよりも短い時間で透過率を向上できることがわかった。すなわち、特定のビスオクトリゾール類縁化合物を水中に分散させた分散液である。
【0007】
すなわち、本発明は、
(1) 少なくとも紫外線吸収剤及び分散剤が水性媒体中に存在している水性組成物であって、紫外線吸収剤が、以下の一般式(I)で表される化合物であることを特徴とする紫外線吸収剤水性組成物、
一般式(I)
【化2】
式中、
R
1及びR
1'は、互いに同一又は異なってもよく、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、1個ないし12個の炭素原子を有するペルフルオロアルキル基、R
3SO-基又はR
3O
2-基である。
R
2及びR
2'は、互いに同一又は異なってもよく、炭素原子数1~12のアルキル基、CO
2H基により置換された炭素原子数1~12のアルキル基、フェニル基、アルキル基部分に1~4個の炭素原子を含むフェニルアルキル基、または炭素原子数5~8のシクロアルキル基である。
R
3は炭素原子数1ないし20のアルキル基、炭素原子数2ないし20のヒドロキシアルキル基、炭素原子数2ないし9のアルコキシカルボニル基により置換されたアルキル基、炭素原子数3ないし18のアルケニル基、炭素原子数5ないし12のシクロアルキル基、炭素原子数7ないし15のフェニルアルキル基、炭素原子数6ないし10のアリール基又は炭素原子数1ないし4のアルキル基1個又は2個により置換された前記アリール基、或いは1,1,2,2-テトラヒドロペルフルオロアルキル基(この基のペルフルオロアルキル部分は、6個ないし16個の炭素原子からなる)である。
(2) 紫外線吸収剤が、平均分散粒子径10~35nmで分散していることを特徴とする上記(1)記載の紫外線吸収剤水性組成物、
【0008】
(3) 分散剤が、コントロール重合のアクリル系共重合物から選択される一以上の化合物であることを特徴とする上記(1)1又は(2)記載の紫外線吸収剤水性組成物、
(4) さらに界面活性剤を含有することを特徴とする上記(1)~(3)のいずれかに記載の紫外線吸収剤水性組成物、
(5) 一般式(I)の化合物において、
R1が塩素、R2がtert-オクチルであることを特徴とする上記(1)~(4)のいずれかに記載の紫外線吸収剤水性組成物、
(6) 上記(1)~(5)のいずれかに記載の紫外線吸収剤水性組成物を、更に樹脂成分と混合し、コーティング液化することを特徴とするコーティング用組成物の製造方法、
にある。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、紫外線を十分にカットしつつ可視光透過率を向上させることのできる紫外線吸収剤組成物及びこれを用いたコーティング組成物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、実施例1、実施例2で得られた本発明の紫外線吸収剤分散体と比較例1、比較例4、比較例5、比較例8、比較例9で得られた紫外線吸収剤分散体の波長に対する透過率のグラフを示す図である。
【
図2】
図2は、実施例1、実施例2で得られた本発明の紫外線吸収剤分散体と比較例1、比較例4、比較例5、比較例8、比較例9で得られた紫外線吸収剤分散体の波長に対する吸光度のグラフを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
〔紫外線吸収化合物〕
1.紫外線吸収化合物の構造
本発明では、以下の一般式(1)で表される紫外線吸収化合物を用いる。
【0012】
【0013】
式中、
R1及びR1'は、互いに同一又は異なってもよく、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、1個ないし12個の炭素原子を有するペルフルオロアルキル基、R3SO-基又はR3O2-基である。
【0014】
R2及びR2'は、互いに同一又は異なってもよく、炭素原子数1~12のアルキル基、CO2H基により置換された炭素原子数1~12のアルキル基、フェニル基、アルキル基部分に1~4個の炭素原子を含むフェニルアルキル基、または炭素原子数5~8のシクロアルキル基である。好ましくは炭素原子数1~12のアルキル基である。
【0015】
R3は炭素原子数1ないし20のアルキル基、炭素原子数2ないし20のヒドロキシアルキル基、炭素原子数2ないし9のアルコキシカルボニル基により置換されたアルキル基、炭素原子数3ないし18のアルケニル基、炭素原子数5ないし12のシクロアルキル基、炭素原子数7ないし15のフェニルアルキル基、炭素原子数6ないし10のアリール基又は炭素原子数1ないし4のアルキル基1個又は2個により置換された前記アリール基、或いは1,1,2,2-テトラヒドロペルフルオロアルキル基(この基のペルフルオロアルキル部分は、6個ないし16個の炭素原子からなる)である。
R1及びR1'は、好ましくは、炭素原子数1~4のアルキル基又はハロゲン基である。
さらに好ましくは、ハロゲン基である。
最も好ましくは塩素原子である。
【0016】
R2及びR2' は、好ましくは、炭素原子数1~12のアルキル基である。
最も好ましくは、R2及びR2' のいずれもが以下の基である。
【0017】
【0018】
これらの化合物自体は公知であり、市販品を用いることができるほか、従来より公知の各種のベンゾトリアゾール化合物の製造方法により製造して用いることができる。一般的には原料のフェノール類のベンゾトリアゾール化合物を製造した後、さらに当該ベンゾトリアゾールをアルデヒド類で二量化等の方法が挙げられる。例えば日本特許3223377、ドイツ特許1,670,951等に記載の方法等でも製造できる。
【0019】
2.紫外線吸収化合物のガラス転移点
本発明で用いられる紫外線吸収化合物は、好ましくはガラス転移点は35℃以上であり、より好ましくは60℃以上、最も好ましくは67℃である。低すぎると分散時の分散熱によりガラス転移点を越えてしまい結晶性を維持できなくなり分散が進行しにくくなる。このため粒径が大きくなってしまい透明度が下がってしまう。
【0020】
3.紫外線吸収化合物の融点
本発明で用いられる紫外線吸収化合物は、好ましくは融点が150℃以上であり、より好ましくは190℃以上、最も好ましくは205℃以上である。融点が低すぎるとガラス転移点も低くなる傾向があり上記の問題が発生する。
【0021】
融点およびガラス転移点はDSCで測定した値である。より詳細にはJIS規格K-7121-1987「プラスチックの転移温度測定方法」記載の方法による。
【0022】
紫外線吸収剤の分子量
本発明で用いられる紫外線吸収化合物は、好ましくは分子量が400~2500であり、より好ましくは650~750であり、最も好ましくは727.76である。分子量が400より低いと融点、ガラス転移点が低くなる傾向があり、2500より大きいと結晶化しにくくなる傾向があり分散できなくなるという問題が発生する。
【0023】
〔界面活性剤〕
本発明では、好ましくは界面活性剤を含有させる。
界面活性剤としては、例えばイオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤および陽イオン性界面活性剤が挙げられる。イオン性界面活性剤としては、例えば脂肪酸塩類、アルキル硫酸エステル塩類、アルキルベンゼンスルホンサン塩類、アルキルナフタレンスルホン酸塩類、アルキルスルホコハク酸塩類、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩類、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルアリール硫酸エステル塩類、アルカンスルホン酸塩類、ナフタリンスルホン酸ホルマリン縮合物類、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル塩類、N-メチル-オレオイルタウリン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩類が挙げられる。非イオン界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル類、ポリオキシエチレン誘導体類、エチレンオキシド-プロピレンオキシドブロック共重合体類、ソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル類、グリセリン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンアルキルアミン類、アセチレングリコール類、アセチレングリコール類のエチレングリコール付加物が挙げられる。陽イオン性界面活性剤及び両性界面活性剤としては、例えばアルキルアミン塩類、第4級アンモニウム塩類、アルキルベタイン類、アミンオキシド類が挙げられる。これらイオン性界面活性剤は、後述する分散剤、濡れ剤、洗浄剤、表面張力調整剤として使用してもよい。
【0024】
特に好ましい界面活性剤は、ポリオキシアルキレン誘導体で、HLBが9~16、好ましくは11~15、最も好ましくは13.2であり、ベンジル基を1~3個有しており、フェニルエーテル環の何れの部分に結合していてもよく、親水基はエチレンオキサイドやプロピレンオキサイドを含んでいてもよく、エチレンオキサイドやプロピレンオキサイドの末端に、-SO3NH4、-PO3H2やその他のイオン性基を含んでいてもよい。
【0025】
市販品としては、花王製のエマルゲンA-60、エマルゲンA-90、エマルゲンB-66、東邦ケミカル製のTS1500、TS2000、TS2600、クラリアント製のEmulsogen TS160、Dispersing agent LFH、LFES、日本乳化剤製のニューコール704、706、707、708、709、710、711、712、714、714(80)、719、610、610(80)、2604、2607、2609、2614、707-F、710-F、714-F、2608-F、2600-FB,2616-F、3612-FA、707-SF、707-SFC、707-SN、714-SF、714-SN、723-SF、740-SF、780-SF、2607-SF、2614-SF、竹本油脂製のニューカルゲンC-150、C-173、C-200、C-314、CP-50、CP-80、CP-120、CP-15-200、パイオニンD-6112、D-6512、D-6414、DTD-51、ミヨシ油脂製のトリミンCB#32、第一工業製薬製のハイテノールNF-13、プライサーフAL、ノイゲンEA-87、EA-137、EA-157、EA-167、EA-177を用いることができる。最も好ましくはエマルゲンB66である。
【0026】
〔高分子分散剤〕
さらに、上記界面活性剤以外に、高分子分散剤を併用してもよい。好ましい高分子分散剤としてはコントロール重合のアクリル系共重合物が挙げられる。
市販品では、ビックケミー製のdisperbyk-190、2010、2012、2013、2015、2055、2060、2061、2096を用いることができる。好ましくはDisperbyk-190、2015、最も好ましくはdisperbyk-2015が、併用する界面活性剤との相溶性が高く、界面活性剤単独の場合に比べ分散性が向上するため好ましい。
【0027】
〔分散媒〕
本発明では、少なくとも上記の各成分が、水中に分散されている。水以外の分散媒を含有した場合、紫外線吸収剤が溶解していまい、波長が短波長にシフトするという問題を生ずることがあるので、水以外の分散媒はできるだけ含有しないことが好ましい。分散液中の1重量%以下に抑えるのが望ましく、好ましくは分散媒は水100%とする。
【0028】
〔各成分の含有量〕
紫外線吸収剤の含有量は、分散液中で5~20質量%が好ましい。5%以下ではシェアがかかりにくく分散が進行しにくくなり、20質量%を越えると粘度が高くなり分散が進行しにくくなる。好ましくは8~12質量%、最も好ましくは10質量%である。
界面活性剤の含有量は、紫外線吸収剤100質量部に対して1~100質量部が好ましい。この活性剤の含有量が1質量部未満であると50nm以下の破砕が進行しにくくなり、また分散時間が長くかかってしまう等の問題があり、100質量部を越えると粘度が高くなり分散が進行しにくくなる。好ましくは50~90質量部、最も好ましくは70質量部である。
【0029】
界面活性剤に高分子分散剤を併用する場合は上記界面活性剤の含有量の範囲内で、紫外線吸収剤100質量部に対して1~100質量部を併用することが好ましい。1質量部未満では併用の効果が小さく、100質量部を越えると粘度が高くなり分散が進行しにくくなる。好ましくは5~20質量部、最も好ましくは10質量部である。
【0030】
〔紫外線吸収剤分散体の製造〕
本発明の紫外線吸収剤分散体は、例えばメディア型分散機や衝突型分散機等の装置を用いて製造することができる。 メディア型分散機は、ベッセル内で、メディアとしてガラス、アルミナ、ジルコニア、スチール、タングステン等の小径のメディアを高速で運動させ、その間を通過するスラリーをメディア間のせん断力で磨砕することにより分散を行う分散機である。メディア型分散機の具体例としては、例えばボールミル、サンドミル、パールミル、スパイクミル、アジテーターミル、コボーミル、ウルトラビスコミルが挙げられる。
【0031】
衝突型分散機は、ひとつの壁面に流体を高速で衝突させるか、流体同士を高速で衝突させることにより、流体中の顔料等を粉砕することにより分散を行う分散機である。衝突型分散機の例としては、例えば高速のジェット気流によって原料粒子を加速して粉砕するジェットミル、湿式微粒化装置である「スターバースト」(登録商標、株式会社スギノマシン製)などが挙げられる。 その他の公知の分散装置、例えばロールミル、超音波分散機を用いて製造してもよい。 以上のような各種の分散機の装置のうち、目的とする粒子径を得るために十分な剪断力を得られる器機及びメディアであればよく、一般的には各種のメディア型分散機が好適である。これら器機及びメディアを適宜選択し、前述した各成分を投入し、紫外線吸収化合物が前述した所望の粒子径を有する微粒子になるまで処理すればよい。
【0032】
〔紫外線吸収剤分散体の物性〕
1.透明性
本発明の紫外線吸収剤分散体は、十分な紫外線吸収性能を維持しつつ、透明性にも優れた組成物とすることができる。これは、以下の2つの指標により確認できる。
まず、紫外線吸収剤分散体の紫外線吸収剤濃度が0.0982%になるように水で希釈し、透過スペクトルを、紫外可視分光光度計(株式会社島津製作所製、UV-1850)を用いて室温で測定し、600nmの透過率を確認する。
【0033】
本発明の組成物は、この場合の600nmの透過率を75%以上にすることができる。
さらに、85%以上とすることもでき、さらに93%以上とすることもできる。
なお、この場合に75%より低くなるような分散体では濁りが多くなり透明度が下がってしまうが、後述する比較例でも示すように、従来技術では75%以上とすることが困難である。
【0034】
次に、本発明の紫外線吸収剤分散体の紫外線吸収剤濃度を0.002%になるように水で希釈し、吸収スペクトルを、紫外可視分光光度計(株式会社島津製作所製、UV-1850)を用いて室温で測定する。
この場合には、380nm(A380)の吸光度が0.50~0.70とすることができる。
また、吸収スペクトルの380nmの吸光度(A380)と600nmの吸光度(A600)の比を算出した結果であるA380/A600は、200以上とすることができ、さらに250以上とすることができ、600以上、650とすることもできる。
A380/A600の値が大きいということは、可視光領域を十分に透過しつつ紫外線領域を十分に吸収できることを意味し、A380/A600が200より低くなると、紫外線領域を十分にカットしつつ高い透明度を保つことが難しい。
本発明の紫外線吸収剤分散体の波長と透過率の関係を
図1に、波長と吸光度の関係を
図2に示す。これらの図からもわかるように、本発明の紫外線吸収剤分散体では、瑕疵領域で透過率が高く、透明性に優れ、かつ紫外線領域を十分遮蔽しつつ高い透明性を保っていることがわかる。
【0035】
2.分散粒径
本発明の分散体は、紫外線吸収化合物の粒子径を、一定の範囲に調整することが好ましい。
具体的には、本発明の紫外線吸収剤分散体の紫外線吸収剤濃度を、ローディングインデックスが0.1~100の範囲になるように水で希釈し、粒度分布測定器(日機装株式会社製、マイクロトラックUPA EX-150)を用いて室温で測定して粒子径を測定した場合、粒子径10~35nm、好ましくは10~30nm、最も好ましくは13~20nmとする。この範囲で、上述した紫外線吸収性能と透明度のバランスが最も優れている。
35nmより大きくなると、透明度が下がってしまう傾向にある。反面、粒子径が10nmより小さいと、液の経時安定性が低下し、紫外線吸収性能が低下する傾向にある。
【0036】
3.粘度
本発明の紫外線吸収剤分散体の粘度は、粘度計(東機産業株式会社製、品番「VISCOMETER TV-22」)を用いて25℃で測定した場合の粘度が、2.0~4.5mPa・s、特に好ましくは2.0~3.0mPa・sとするのが好ましい。
この範囲で、樹脂成分など他の材料と混合し易く、取り扱いし易く、特に好ましい。
前述した各成分を前述した割合で配合することにより、好ましい粘度範囲に容易に調整することができる。
【0037】
4.pH
本発明の紫外線吸収剤分散体のpHは、目的、配合する樹脂など他の成分のpHとの関係で適宜選択することができる。pHの調整は界面活性剤の官能基の選択によって適宜行うことができる。
【0038】
以上説明した紫外線吸収剤水性組成物を、更に樹脂成分と混合し、コーティング液化することを特徴とするコーティング用組成物とすることができる。
ここで、本発明のコーティング用組成物は、基材上に被膜を形成することのできる組成物である。例えばWO2015/152057に記載されているような各種の用途に使用することもできる。
【0039】
本発明のコーティング組成物によれば、形成される被膜に含有される紫外線吸収剤の性能が高いことから、形成された被膜自体において、被膜で被覆された基材において、被覆された基材(被覆物品)を通過して日光または紫外線に暴露される物質において、日光または紫外線から受けるダメージを減らすことができる。
【0040】
本発明のコーティング用組成物で被覆する基材としては、何ら限定されないが、例えばガラス、樹脂ガラス、金属、プラスチック、繊維、布、紙、木材、コンクリート等が挙げられる。これらの基材は、例えば窓ガラス用部材、内外装材、建築用構造物等の建材、食品、医薬品、化粧品、化学薬品等を入れるための容器、看板、標識、太陽電池セル等を構成する部材であってよい。 また、印刷物を基材として本発明のコーティング用組成物を使用することによりインクの退色を防止することができる。本発明のコーティング用組成物はインクであってよく、この場合、例えばインクの退色を防止することができる。本発明のコーティング用組成物は接着剤であってよく、この場合、例えば接着剤の日光または紫外線による劣化を防止することができる。さらに、繊維等の基材に本発明のコーティング用組成物をコーティングし、例えば紫外線遮蔽効果を有する衣類、帽子、傘等を製造することもできる。
【0041】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。
実施例1
一般式(I)におけるR1及びR1'のいずれもが塩素原子であり、R2及びR2' のいずれもが1,1,3,3-テトラメチルブチル基である化合物1(2,2´-メチレンビス[6-(5-クロロ-2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-tert-オクチルフェノール])10.0重量部、界面活性剤としてポリオキシエチレントリベンジルフェニルエーテル(花王(株)製「エマルゲンB-66」、HLB13.2)7重量部、水83重量部を、ペイントコンディショナーにて、φ0.1mmのジルコニアビーズを用いて10時間かけて混合粉砕し、紫外線吸収剤分散体1を得た。
得られた分散体中の紫外線吸収剤の微粒子の平均粒子径は、粒度分布測定器(日機装株式会社製、マイクロトラック)を用いて室温で測定した結果、28nmであった(メジアン径、D50)。
得られた紫外線吸収剤分散体1の紫外線吸収剤濃度を0.0982%になるように水で希釈し、透過スペクトルを、紫外可視分光光度計(株式会社島津製作所製、UV-1850)を用いて室温で測定した結果、600nmでの透過率が86.9%であった。
【0042】
実施例2
界面活性剤としてポリオキシエチレントリベンジルフェニルエーテル(花王(株)製「エマルゲンB-6」、HLB13.2)7重量部、分散剤として酸価を有する高分子分散剤(ビックケミー製disperbyk-2015、酸価10mgKOH/g、有効成分40.0重量%)2.5重量部、水80.5重量部に変えたこと以外は実施例1と同様にして、紫外線吸収剤を分散させた。
得られた分散物中の紫外線吸収剤の平均粒子径および透過率は、実施例1と同様にして測定して、平均粒子径15nm、透過率93.2%であった。
【0043】
比較例1
紫外線吸収剤として一般式(I)におけるR1及びR1'のいずれもが水素原子であり、R2及びR2' のいずれもが1,1,3,3-テトラメチルブチル基である化合物2(2,2´-メチレンビス[6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-tert-オクチルフェノール](BASF製「TINUVIN360」))に変えたこと以外は実施例1と同様にして、紫外線吸収剤を分散させた。
得られた分散物中の紫外線吸収剤の平均粒子径および透過率は、実施例1と同様にして測定して、平均粒子径32nm、透過率78.0%であった。
【0044】
比較例2
界面活性剤としてポリオキシエチレントリベンジルフェニルエーテル(花王(株)製「エマルゲンB-66」、HLB13.2)1.0重量部、分散剤として酸価を有する高分子分散剤(ビックケミー製「disperbyk-2015」、酸価10mgKOH/g、有効成分40.0重量%)17.5重量部、水71.5重量部に変えたこと以外は比較例1と同様にして、紫外線吸収剤を分散させた。
得られた分散物中の紫外線吸収剤の平均粒子径および透過率は、実施例1と同様にして測定して、平均粒子径30nm、透過率81.9%であった。
【0045】
比較例3
分散剤として酸価を有する高分子量分散剤(ビックケミー製disperbyk-2015、酸価10mgKOH/g、有効成分40.0重量%)17.5重量部、水72.5重量部に変えたこと以外は比較例1と同様にして、紫外線吸収剤を分散させた。得られた分散物中の紫外線吸収剤の平均粒子径および透過率は、実施例1と同様にして測定して、平均粒子径43nm、透過率68.5%であった。
【0046】
比較例4 紫外線吸収剤として下記の化学式(II)で示される化合物3(2-(5-クロロ-2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-6-tert-ブチル-4-メチルフェノール(BASF製「TINUVIN326」))に変えたこと以外は実施例1と同様にして、紫外線吸収剤を分散させた。
【0047】
【0048】
得られた分散物中の紫外線吸収剤の平均粒子径および透過率は、実施例1と同様にして測定して、平均粒子径130nm、透過率1.3%であった。
【0049】
比較例5
紫外線吸収剤として比較例4同様に化合物3(2-(5-クロロ-2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-6-tert-ブチル-4-メチルフェノール(BASF製「TINUVIN326」))に変えたこと以外は実施例2と同様にして、紫外線吸収剤を分散させた。
得られた分散物中の紫外線吸収剤の平均粒子径および透過率は、実施例1と同様にして測定して、平均粒子径119nm、透過率1.9%であった。
【0050】
比較例6
紫外線吸収剤として比較例4同様に化合物3(2-(5-クロロ-2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-6-tert-ブチル-4-メチルフェノール(BASF製「TINUVIN326」))に変えたこと以外は比較例2と同様にして、紫外線吸収剤を分散させた。
得られた分散物中の紫外線吸収剤の平均粒子径および透過率は、実施例1と同様にして測定して、平均粒子径155nm、透過率2.1%であった。
【0051】
比較例7
紫外線吸収剤として比較例4同様に化合物3(2-(5-クロロ-2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-6-tert-ブチル-4-メチルフェノール(BASF製「TINUVIN326」))に変えたこと以外は比較例3と同様にして、紫外線吸収剤を分散させた。 得られた分散物中の紫外線吸収剤の平均粒子径および透過率は、実施例1と同様にして測定して、平均粒子径158nm、透過率4.1%であった。
【0052】
比較例8
紫外線吸収剤として下記の化学式(III)で表される化合物4(2,2'-(1,4-フェニレン)ビス-4H-3,1-ベンゾオキサジン-4-オン(ケミプロ化成株式会社製、「KEMISORB500」))に変えたこと以外は実施例1と同様にして、紫外線吸収剤を分散させた。
【0053】
【0054】
得られた分散物中の紫外線吸収剤の平均粒子径および透過率は、実施例1と同様にして測定して、平均粒子径90nm、透過率1.0%であった。
【0055】
比較例9
紫外線吸収剤として比較例8同様に化合物4(2,2'-(1,4-フェニレン)ビス-4H-3,1-ベンゾオキサジン-4-オン(ケミプロ化成株式会社製、「KEMISORB500」))に変えたこと以外は実施例2と同様にして、紫外線吸収剤を分散させた。
得られた分散物中の紫外線吸収剤の平均粒子径および透過率は、実施例1と同様にして測定して、平均粒子径81nm、透過率1.7%であった。
【0056】
比較例10
紫外線吸収剤として比較例8同様に化合物4(2,2'-(1,4-フェニレン)ビス-4H-3,1-ベンゾオキサジン-4-オン(ケミプロ化成株式会社製、「KEMISORB500」))に変えたこと以外は比較例2と同様にして、紫外線吸収剤を分散させた。
得られた分散物中の紫外線吸収剤の平均粒子径および透過率は、実施例1と同様にして測定して、平均粒子径79nm、透過率9.1%であった。
【0057】
比較例11
紫外線吸収剤として比較例8同様に化合物4(2,2'-(1,4-フェニレン)ビス-4H-3,1-ベンゾオキサジン-4-オン(ケミプロ化成株式会社製、「KEMISORB500」))に変えたこと以外は比較例3と同様にして、紫外線吸収剤を分散させた。
得られた分散物中の紫外線吸収剤の平均粒子径および透過率は、実施例1と同様にして測定して、平均粒子径58nm、透過率25.4%であった。
【0058】
以上の各実施例及び比較例で得られた各分散体の、含有する紫外線吸収剤、活性剤及び分散剤、並びに透過率、吸光度、吸光度比、D10、D50、D90及び粘度を、表1に示す。
【0059】
【0060】
化合物1…2,2’-メチレンビス[6-(5-クロロ-2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-tert-オクチルフェノール]
化合物2…2,2’-メチレンビス[6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-tert-オクチルフェノール]
化合物3…2-(5-クロロ-2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-6-tert-ブチル-4-メチルフェノール
化合物4…2,2’-(1,4-フェンレン)-ビス[4H-3,1-ベンゾオキサジン-4-オン]
【0061】
実施例と比較例の透過率を比較すると、本発明により紫外線吸収剤として化合物1を用いた分散体は、それ以外の紫外線吸収剤を用いた分散体の透過率に比較して高く、透明性が優れていることがわかる。
実施例と比較例の吸光度比を比較すると、本発明により紫外線吸収剤として化合物1を用いた分散体の吸光度比が、それ以外の紫外線吸収剤を用いた分散体の吸光度比に比較して大きく、紫外線領域を十分遮蔽しつつ高い透明性を保っていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明により、透明性に優れ、かつ紫外線を十分に遮蔽する紫外線吸収剤水性組成物、及びそれを用いたコーティング組成物を得ることができる。