(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022115831
(43)【公開日】2022-08-09
(54)【発明の名称】半導体製造装置用部材
(51)【国際特許分類】
G02B 5/26 20060101AFI20220802BHJP
C04B 35/50 20060101ALI20220802BHJP
【FI】
G02B5/26
C04B35/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022010121
(22)【出願日】2022-01-26
(31)【優先権主張番号】P 2021012362
(32)【優先日】2021-01-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003029
【氏名又は名称】特許業務法人ブナ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】富田 大樹
【テーマコード(参考)】
2H148
【Fターム(参考)】
2H148FA05
2H148FA07
2H148FA09
2H148FA15
(57)【要約】
【課題】十分に黒色化され、クラックおよび色むらが抑制され表面が剥離しにくい半導体製造装置用部材を提供すること。
【解決手段】本開示に係る半導体製造装置用部材は、表面に黒色領域を有する基材であり、黒色領域は、酸素の組成が化学量論組成よりも小さい希土類酸化物を主成分とし、波長域360nm~740nmにおける10nm間隔毎の波長と、黒色領域の反射率R(λ)(但し、λは、波長域内の波長(nm))との関係を、対数近似して得られる曲線の相関係数が、0.94以上である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に黒色領域を有する基材であり、
前記黒色領域は、酸素の組成が化学量論組成よりも小さい希土類酸化物を主成分とし、
波長域360nm~740nmにおける10nm間隔毎の波長と、前記黒色領域の反射率R(λ)(但し、λは、前記波長域内の波長(nm))との関係を、対数近似して得られる曲線の相関係数が、0.94以上である、
半導体製造装置用部材。
【請求項2】
R(λ+10)-R(λ)が-0.1%以上である、請求項1に記載の半導体製造装置用部材。
【請求項3】
表面に黒色領域を有する基材であり、前記黒色領域は、酸素の組成が化学量論組成よりも小さい希土類酸化物を主成分とし、波長域360nm~740nmにおける10nm間隔毎の前記黒色領域の反射率をR(λ)(但し、λは、前記波長域内の波長(nm))とした場合、R(740)>R(550)>R(360)の関係を満たすとともに、R(λ+10)-R(λ)が-0.1%以上である、
半導体製造装置用部材。
【請求項4】
前記反射率R(λ)は、波長360nmから波長740nmに向かって漸増している、請求項1~3のいずれかに記載の半導体製造装置用部材。
【請求項5】
前記基材は、希土類酸化物を主成分とするセラミックスからなる、請求項1~4のいずれかに記載の半導体製造装置用部材。
【請求項6】
前記黒色領域の算術平均粗さRaが0.2μm以上0.5μm以下である、請求項1~5のいずれかに記載の半導体製造装置用部材。
【請求項7】
前記黒色領域の最大高さRyが1μm以上3μm以下である、請求項1~6のいずれかに記載の半導体製造装置用部材。
【請求項8】
前記黒色領域を構成する結晶の平均粒径は、前記基材を構成する結晶の平均粒径よりも大きい、請求項1~7のいずれかに記載の半導体製造装置用部材。
【請求項9】
前記黒色領域を構成する結晶の平均粒径は、前記基材を構成する結晶の平均粒径の5倍以上である、請求項1~8のいずれかに記載の半導体製造装置用部材。
【請求項10】
前記黒色領域の色差(ΔE*ab)は3以下である、請求項1~9のいずれかに記載の半導体製造装置用部材。
【請求項11】
請求項1~10のいずれかに記載の半導体製造装置用部材の製造方法であって、
前記基材の表面に、減圧雰囲気または還元雰囲気にて電子線またはレーザ光線を照射して前記黒色領域を形成する、
半導体製造装置用部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、半導体製造装置用部材に関する。
【背景技術】
【0002】
白色のイットリアに、電子線(EB)照射またはレーザ照射によって酸素欠損(Y2O3-x)を生じさせると、表面が黒色化することが知られている(例えば、特許文献1)。イットリアはプラズマや腐食性ガスに対する耐性に優れるので、黒色領域を有するイットリア部材は、半導体製造装置などで、半導体ウェハの位置検出、識別や、反射率低減のために使用できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
イットリアなどの希土類酸化物にEB照射やレーザ照射が不足すると黒色化が不十分となる。一方、過剰に照射すると結晶性が低下してクラックが発生しやすくなり、黒色化した表面が剥がれやすくなる。さらに、EB照射やレーザ照射の照射条件によっては表面に色むらが生じる。
【0005】
本開示の課題は、十分に黒色化され、クラックおよび色むらが抑制され表面が剥離しにくい半導体製造装置用部材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る半導体製造装置用部材は、表面に黒色領域を有する基材であり、黒色領域は、酸素の組成が化学量論組成よりも小さい希土類酸化物を主成分とし、波長域360nm~740nmにおける10nm間隔毎の波長と、黒色領域の反射率R(λ)(但し、λは、波長域内の波長(nm))との関係を、対数近似して得られる曲線の相関係数が、0.94以上である。
【発明の効果】
【0007】
本開示に係る半導体製造装置用部材は、上記のように、表面に黒色領域を有する基材であり、黒色領域は、酸素の組成が化学量論組成よりも小さい希土類酸化物を主成分とし、波長域360nm~740nmにおける10nm間隔毎の波長と、黒色領域の反射率R(λ)(但し、λは、波長域内の波長(nm))との関係を、対数近似して得られる曲線の相関係数が、0.94以上である。したがって、本開示に係る半導体製造装置用部材は、色むらが抑制された黒色の表面を有し、クラックも抑制され表面が剥離しにくい。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】イットリアを主成分とする基材に電子線を照射した後の状態を示す写真である。
【
図2】
図1に示す基材において、波長360nm以上740nm以下の可視光線に対する反射率の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示の一実施形態に係る半導体製造装置用部材は、表面に黒色領域を有する基材である。この基材は、例えば、イットリア(酸化イットリウム(Y2O3))、エルビア(酸化エルビウム(Er2O3)、セリア(酸化セリウム(CeO2)、イットリウムを含む複合酸化物(イットリウム・アルミニウム・ガーネット(Y3Al5O12)、イットリウムアルミニウムモノクリニック(Y4Al2O9)、イットリウムアルミニウムペロブスカイト(YAlO3)など)、エルビウムを含む複合酸化物(エルビウムアルミニウムガーネット(Er3Al5O12)、エルビウムアルミニウムモノクリニック(Er4Al2O9)、エルビウムアルミニウムペロブスカイト(ErAlO3)など)、セリウムを含む複合酸化物(セリウムアルミニウムガーネット(Ce3Al5O12)、セリウムアルミニウムモノクリニック(Ce4Al2O9)、セリウムアルミニウムペロブスカイト(CeAlO3)など)などの希土類酸化物を主成分とするセラミックスまたは単結晶である。セラミックスの主成分とは、セラミックスを構成する成分の合計100質量%中、80質量%以上の成分を意味する。単結晶の主成分とは、単結晶を構成する成分の合計100質量%中、80質量%以上の成分を意味する。特に、主成分は、それぞれを構成する成分の合計90質量%以上であるとよい。さらに、主成分は、99.9質量%以上であるとよい。
【0010】
基材を構成するセラミックスや単結晶は、希土類酸化物以外に、例えば、珪素、鉄およびAE(AEは、周期表2族の元素)が含まれていてもよい。プラズマや腐食性ガスに対する耐性をより向上するという観点からは、基材を構成するセラミックスや単結晶に含まれれる珪素はSiO2換算で300質量ppm以下、鉄はFe2O3換算で50質量ppm以下、AEがAEO換算で350質量ppm以下であってもよい。セラミックスや単結晶を構成している成分は、CuKα線を用いたX線回折装置によって同定することができる。各成分の含有量は、例えばICP(Inductively Coupled Plasma)発光分光分析装置または蛍光X線分析装置により求めることができる。
【0011】
黒色領域は、酸素欠損が生じており、酸素の組成が化学量論組成よりも小さい希土類酸化物を主成分とする領域である。黒色領域を形成する希土類酸化物は、例えば、組成式がY2O3-X、Er2O3-X、CeO2-X、Y3Al5O12―x、Y4Al2O9―x、YAlO3―x、Er3Al5O12―x、Er4Al2O9―x、ErAlO3―x、Ce3Al5O12―x、Ce4Al2O9―x、CeAlO3―xとして示され、xの範囲は、0<x≦1.5である。酸素欠損の有無は、電子エネルギー損失分光法(Electron Energy-Loss Spectroscopy:EELS)によって確認することができ、xの値は、X線光電子分光法で求めることができる。
【0012】
一実施形態に係る半導体製造装置用部材において、黒色領域は、波長域360nm~740nmにおける10nm間隔毎の波長と、黒色領域の反射率R(λ)(但し、λは、前波長域内の波長(nm))との関係を対数近似して得られる曲線の相関係数が、0.94以上である。
【0013】
波長域360nm~740nmは可視光領域である。この反射率R(λ)は、例えば、分光測色計(コニカミノルタ(株)製、CM-2600dまたはその後継機種)を用い、測定条件は、光源をCIE標準光源D65、視野角を2°に設定することで求められる。相関係数を算出する場合、独立変数となる波長のサンプル数は39であり、自由度は38である。波長域360nm~740nmにおける10nm間隔毎の波長と、反射率R(λ)との関係を対数近似する場合、自然対数を用いる。
【0014】
対数近似して得られる曲線の相関係数が、0.94以上であるということは、有意水準0.1%で検定して有意であるとともに、正の相関が極めて高く、反射率R(λ)が波長の増加とともにほぼ右上がりに増加し、波長740nm付近でその増加は緩やかになるということを意味している。このような特徴を有することによって、一実施形態に係る半導体製造装置用部材の黒色領域は、色むらが抑制された黒色を呈する。その結果、半導体製造装置用部材は、クラックも抑制され表面が剥離しにくい。特に、上記相関係数は、0.976以上であるとよい。
【0015】
自然対数で対数近似した場合、その回帰式の傾きは、例えば、9以下であるとよい。傾きが9以下であれば、波長が増加しても、反射率R(λ)の増加はさらに緩やかになるので、色むらを抑制することができる。
【0016】
黒色領域は、R(740)>R(550)>R(360)の関係を満たすとともに、R(λ+10)-R(λ)が-0.1%以上である。この場合、波長370nmの反射率R(370)と波長360nmの反射率R(360)との差(R(370)-R(360))が-0.1%以上、波長380nmの反射率R(380)と波長370nmの反射率R(370)との差(R(380)-R(370))が-0.1%以上というように、10nm間隔で測定した反射率R(λ)において、10nm長い方の反射率R(λ)が、10nm短い方の反射率R(λ)に比べて0.1%より小さくない。
【0017】
例えば、R(740)>R(550)>R(360)の関係を満たし、R(λ+10)-R(λ)が0%以上であると、反射率R(λ)は「常に」右上がりとなる。R(λ+10)-R(λ)が-0.1%以上であると、反射率R(λ)は「ほぼ」右上がりとなる。反射率R(λ)が「ほぼ」右上がりであれば、色むらが生じにくく、半導体ウェハなどの被検出体の検出、識別がしやすくなる。特に、目視による検出、識別(視認)がしやすくなる。
【0018】
R(360)は、例えば15%以下、好ましくは12%以下であるのがよい。R(550)は、例えば、18%以下、好ましくは15%以下であるのがよい。R(740)は、例えば22%以下、好ましくは18%以下であるのがよい。
【0019】
R(λ+10)-R(λ)は-0.1%以上であれば限定されないものの、R(λ+10)-R(λ)は-0.05%以上であるとよい。さらに、反射率R(λ)は、波長360nmから波長740nmに向かって漸増しているとよい。
【0020】
反射率R(λ)は振幅しながら、右上がりに増加する場合よりも、漸増、すなわち、比較的単調に増加している方が、色むらが生じにくい。R(λ+10)-R(λ)は0.33%以下であってもよい。色むらは、以下の数式(A)で示される色差(ΔE*ab)によって表すことができる。
ΔE*ab=((ΔL*)2+(Δa*)2+(Δb*)2))1/2・・・(A)
(ΔL*:基準測定点に対する比較測定点の明度指数L*の差、
Δa*:基準測定点に対する比較測定点のクロマティクネス指数a*の差、
Δb*:基準測定点に対する比較測定点のクロマティクネス指数b*の差)
【0021】
本実施形態における色むらがない状態とは、色差ΔE*abが7以下である状態を意味し、この値を超えると人の目にも色むらとして認識しやすくなる。黒色領域の色差(ΔE*ab)は3以下であるとよい。黒色領域の色差(ΔE*ab)がこの範囲であると、色むらが小さくなるので、商品価値が向上する。特に、黒色領域の色差(ΔE*ab)は1.7以下であるとよい。
【0022】
例えば、プラズマ処理装置で用いられるチャンバの内底面に、チャンバの基準位置を示すためのチャンバマークが設けられている場合、このチャンバマークを基準に、複数の半導体ウエハWを載置、回転可能なテーブル上に配置された個々の半導体ウェハWの位置を検出することができる。具体的には、半導体ウェハWを囲繞するように、テーブル2の表面に設けられた凹部の近傍に、半導体ウェハWの位置を検出するためのサセプタマークが設けられており、チャンバマークを絶対基準とし、チャンバマークに対するサセプタマークの相対位置を検出することにより、半導体ウェハWの位置を検出することができる。上記半導体製造装置用部材はこのようなサセプタマークとして用いるとよい。
【0023】
通常、電子線やレーザ光線の照射量を増すと、黒色領域の明度が低下する一方で、照射によって生じる応力が大きくなり剥がれが生じやすくなる。人の目や各種受光センサーは、受光感度に波長依存性がある。「ほぼ右上がり」から外れるような、反射率R(λ)の山および谷を示す振幅(反射率の波長依存性の大きい波長領域)が可視光領域に存在すると、わずかな照射条件のばらつきによって、色(明度や彩度)が変化しやすい。その結果、人の目に色むらとして認識されやすくなる。
【0024】
このような反射率R(λ)の振幅は、黒色領域に形成された酸素空孔および他の結晶欠陥の禁制帯中の準位と密度によって変化する。酸素空孔の準位は、例えば酸素空孔の帯電状態によって変化する。酸素空孔の準位は、黒色領域形成時の照射条件やその後の処理(例えば、熱処理)条件によって変化する。例えば、電子線などの照射により形成した黒色領域をさらに熱処理して、黒色領域内の酸素空孔の準位を変化させたり、結晶欠陥の分布、密度を調整したりして、色むらを改善してもよい。
【0025】
一実施形態に係る半導体製造装置用部材の製造方法は限定されず、例えば、下記のような方法で製造される。
【0026】
まず、希土類酸化物を主成分とする基材を準備する。このような基材は、公知の方法で製造される。基材の形状および大きさは限定されず、最終的に得られる半導体製造装置用部材の形状および大きさに応じて適宜設定される。半導体製造装置用部材は、平面視した場合に、例えば、円形状、楕円形状または多角形状(三角形状、四角形状、五角形状、六角形状など)を有する板状であってもよい。半導体製造装置用部材の形状はバルク状であってもよいし、他の部材上に膜状に形成されていてもよい。
【0027】
次いで、減圧雰囲気下または還元雰囲気下で、基材の表面に電子線またはレーザ光線を照射する。レーザ光線を使用する場合は、黒色化したい部分にピンポイントで照射するか、黒色化したい領域にレーザ光線を走査すればよい。一方、電子線を使用する場合は、黒色化したい領域に開口部を有するマスクを被覆して、電子線を照射すればよい。電子線は面で照射されるため、マスクを使用することで所望の領域を部分的に黒色化することができる。
【0028】
電子線照射の場合に使用するマスクは、酸化物で形成されたマスクが挙げられる。マスクを形成する酸化物は限定されず、例えば、アルミナなどの絶縁性を有する酸化物セラミックスが挙げられる。マスクの厚みは限定されず、例えば1mm以上5mm以下である。
【0029】
このようにして得られた一実施形態に係る半導体製造装置用部材の黒色領域は、0.2μm以上0.5μm以下の算術平均粗さRaを有していてもよく、あるいは、1μm以上3μm以下の最大高さRyを有していてもよい。通常、表面粗さが大きくなると反射率が低くなる傾向があるが、パーティクルの発生および付着が生じやすくなる。電子線またはレーザ光線を照射すると、焼結の促進による粒成長や、一旦溶融した後の再凝固により、照射前よりも気孔の少ない緻密な表面が形成される。その結果、このような比較的大きな表面粗さであっても、反射率が低く、パーティクルの発生および付着が生じにくい。
【0030】
その結果、このような半導体製造装置用部材は、パーティクルを嫌う耐プラズマ性が求められる用途などで好適に使用される。算術平均粗さRa、最大高さRyは、JIS B 0601(1994)に準拠して接触式または非接触式の表面粗さ測定装置で測定することができる。
【0031】
例えば、(株)小坂研究所製の表面粗さ・輪郭形状測定機(SEF680)を用い、測定条件としては、例えば、触針の半径を5μm、触針の材質をダイヤモンド、測定長さを2.5mm以上、カットオフ値を0.8mmとし、触針の走査速度を0.5mm/秒に設定すればよい。そして、測定対象面において、少なくとも5ヵ所以上算術平均粗さRaおよび最大高さRyを測定し、その平均値を求めればよい。この平均値が、算術平均粗さRaおよび最大高さRyの上記各範囲の対象となる。
【0032】
黒色領域を構成する結晶の平均粒径は、基材を構成する結晶の平均粒径よりも大きいとよい。結晶の平均粒径が大きければ、単位面積当たりの粒界相が占める面積が少ないので、プラズマに晒された場合、粒界相からの脱粒が抑制される。一方、基材は相対的に粒径の小さい結晶が多くなるので、機械的強度、剛性などの機械的特性が維持される。
【0033】
基材を構成する結晶の平均粒径は、黒色領域を除く基材が測定の対象となる。例えば、黒色領域を構成する結晶の平均粒径は、15μm以上30μm以下であり、基材を構成する結晶の平均粒径は、2μm以上4μm以下である。特に、黒色領域を構成する結晶の平均粒径は、基材を構成する結晶の平均粒径の5倍以上であるとよく、さらに6.7倍以上であるとよい。
【0034】
結晶の平均粒径は、以下のようにして求めることができる。まず、半導体製造装置用部材の破断面を、平均粒径D50が3μmのダイヤモンド砥粒を用いて銅盤にて研磨する。その後、平均粒径D50が0.5μmのダイヤモンド砥粒を用いて錫盤にて研磨する。これらの研磨によって得られる研磨面を、温度を1600℃として結晶粒子と粒界層とが識別可能になるまでエッチングして観察面を得る。走査型電子顕微鏡によって、観察面を2000倍に拡大した60μm×45μmの範囲で、同じ長さの直線、例えば、100μmの直線を6本引く。この6本の直線上に存在する結晶の個数をこれらの個々の直線で除すことで結晶の平均粒径を求めることができる。
【実施例0035】
以下、本開示の実施例を具体的に説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0036】
以下、電子線照射を用い、基材の表面に黒色領域を形成する場合を例に具体的に説明する。
【0037】
まず、イットリアを主成分とする白色のセラミックスからなる円盤状の基材を準備し、
図1に示す1および2の数字を付した領域(以下、数字1、2・・・を付した領域をそれぞれ領域1、2・・・と記載する)よりも上側の領域をアルミナ製のマスクで被覆した。
【0038】
そして、電子線照射装置のチャンバの中に、所定の断面積を有するカソード電極と部分的にマスクで被覆された基材とを所定の間隔を空けて配置した。カソード電極と基材との間には、アルゴンガスをプラズマ化するための円環形状を有するアノード電極が設けられている。
【0039】
チャンバの外には、電子線が照射される方向に平行な磁力線を作るためのソレノイドが設けられている。チャンバを密閉した後、チャンバ内がほぼ真空状態となるまで減圧して、チャンバ内にアルゴンガスを供給した。次いで、ソレノイドを励磁して磁力線を発生させ、アルゴンガスの圧力を所定の圧力で保持した。この状態で、カソード電極に25kVの電圧を、ソレノイドに1kV以上の電圧をそれぞれ印加し、領域1、2、3に電子線をそれぞれ4回照射し、黒色領域を得た(照射時間は20分)。
【0040】
次いで、
図1に示す領域4よりも下側の領域をアルミナ製のマスクで被覆し、上述したように、チャンバ内に基材を配置した。そして、上述した手順と同じ手順でカソード電極およびソレノイドに電圧を印加した。照射条件は、カソード電極に30kVの電圧を、ソレノイドに1kV以上の電圧をそれぞれ印加し、領域4に電子線を4回照射し、黒色領域を得た(照射時間は20分)。
【0041】
さらに、
図1に示す領域5以外をアルミナ製のマスクで被覆し、上述したように、チャンバ内に基材を配置した。そして、上述した手順と同じ手順でカソード電極およびソレノイドに電圧を印加した。照射条件は、カソード電極に20kVの電圧を、ソレノイドに1kV以上の電圧をそれぞれ印加し、領域5に電子線を4回照射した(照射時間は20分)。その後、カソード電極に25kVの電圧を、ソレノイドに1kV以上の電圧をそれぞれ印加し、領域5に電子線を4回照射し、黒色領域を得た(照射時間は20分)。
【0042】
電子線照射後の
図1に示す基材の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、黒色領域の厚みは約0.8μmであった。
【0043】
図1に示す領域1~5の波長域360nm以上740nm以下における10nm間隔毎の波長に対する反射率R(λ)を測定した。独立変数となる波長のサンプル数は39であり、自由度は38とした。
【0044】
反射率R(λ)は、分光測色計(コニカミノルタ(株)製、CM-2600d)を用い、測定条件は、光源をCIE標準光源D65、視野角を2°に設定した。測定結果を
図2に示す。
図2に示すように、領域1~5のいずれも、反射率R(740)は、反射率R(360)よりも大きいことがわかる。
【0045】
各領域毎の波長域360nm以上740nm以下における10nm間隔毎の波長と、反射率R(λ)との関係を対数近似して得られる曲線の傾き、相関係数、有意水準0.1%による検定結果およびR(λ+10)-R(λ)の最小値を表1に示す。
【0046】
さらに、領域1~5のそれぞれについて、明度指数L*、クロマティクネス指数a*およびクロマティクネス指数b*を測定した。領域2および33に対しては、領域1に対する色差(ΔE*ab)を算出した。測定は、JIS Z 8722:2009に準拠して行った。具体的には、分光測色計(コニカミノルタ(株)製、CM-2600d)を用い、測定条件としては、光源をCIE標準光源D65、視野角を2°に設定して行った。明度指数L*は、0に近いほど黒色を示し、100に近いほど白色を示す。
【0047】
クロマティクネス指数a*およびクロマティクネス指数b*は彩度を示し、0は無彩色を示す。結果を表1に示す。表1に記載の白色部は、電子線照射前の基材の任意の2カ所について、測定した結果である。
【0048】
【0049】
表1に示す結果から明らかなように、領域1~4の反射率R(λ)の変動は小さいため、相関係数は、いずれも0.94以上と高い。その結果、反射率R(λ)の変動が大きい領域5よりも色むらが抑制されている。領域1~4のR(λ+10)-R(λ)もー0.1%以上である。そのため、R(λ+10)-R(λ)が小さい領域5よりも良好である。
【0050】
さらに、表1に示すように、領域2および3の領域は、領域1に対する、色差(ΔE*ab)が3以下と小さい。そのため、色むらが抑制され、商品価値が向上していることがわかる。
【0051】
別途、Er2O3、CeO2、Er3Al5O12(EAG)およびCe3Al5O12(CAG)をそれぞれ主成分とする白色のセラミックスからなる円盤状の基材を準備し、上述した方法と同じ方法で、領域1~5に電子線を照射し、黒色領域を得た。
【0052】
波長域360nm~740nmにおける10nm間隔毎の波長と、領域1~4に対応する黒色領域の反射率R(λ)との関係を、対数近似して得られる曲線の相関係数Rは、いずれも0.94以上であり、R(740)>R(550)>R(360)の関係を満たしていた。領域1~4に対応する黒色領域のR(λ+10)-R(λ)は0.1%以上であった。
【0053】
一実施形態に係る半導体製造装置用部材は、可視光領域で反射率R(λ)がほぼ右上がりであり、視認性に優れ剥離しにくい黒色領域を有しており、例えば、プラズマ処理装置用の黒色部品やマーカー(例えば、サセプタマーク)などとして使用される。