(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022116081
(43)【公開日】2022-08-09
(54)【発明の名称】神経移植片の定量的構造アッセイ
(51)【国際特許分類】
G01N 33/48 20060101AFI20220802BHJP
G01N 33/483 20060101ALI20220802BHJP
G06V 20/69 20220101ALI20220802BHJP
G06T 7/00 20170101ALI20220802BHJP
【FI】
G01N33/48 M
G01N33/483 C
G06V20/69
G06T7/00 630
【審査請求】有
【請求項の数】24
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022080626
(22)【出願日】2022-05-17
(62)【分割の表示】P 2020148055の分割
【原出願日】2016-05-20
(31)【優先権主張番号】14/724,359
(32)【優先日】2015-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】517415528
【氏名又は名称】アクソジェン コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】ダイスター、カート
(57)【要約】
【課題】
神経移植片の構造特性を評価することにより、神経移植片の品質を判断するための技術を提供する。
【解決手段】神経移植片中のラミニン含有組織を識別する画像を獲得し、画像処理アプリケーションの変換機能を画像に用いて、変換画像を形成し、画像処理アプリケーションの分析機能を用いて、変換画像を分析して、1つ以上の認識基準に従って1つ以上の構造を識別し、1つ以上の構造の測定から誘導される神経移植片の1つ以上の構造特性を判断することを含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
神経移植片において、ラミニン含有組織を識別する画像を獲得し、
前記画像に画像処理アプリケーションの変換機能を用いて、変換画像を作製し、
前記画像処理アプリケーションの分析機能を用いて、前記変換画像を分析して、1つ以上の認識基準に従って1つ以上の構造を識別し、
前記1つ以上の構造の測定から導出される前記神経移植片の1つ以上の構造特性を判断する、
ことを含む
前記神経移植片の品質を評価する方法。
【請求項2】
前記変換画像を作製する前に、着目領域およびサンプリングウィンドウのうち1つ以上を選択して、選択した画像領域を描出することをさらに含み、前記選択した画像領域でのみ前記変換画像の分析を実行する、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記着目領域が、神経束を含む、
請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記1つ以上の構造が、神経内膜管を含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記変換画像の作製する工程が、前記画像を二値化することを含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記二値化する工程が、二値化メソッド、二値化色、色空間および暗色の背景のうち1つ以上を適用することを含む、
請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記1つ以上の認識基準が、前記1つ以上の構造のサイズ範囲を含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記サイズ範囲が、直径約4.84ミクロンから直径約16ミクロンまでである、
請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記1つ以上の認識基準が、前記1つ以上の構造の真円度範囲を含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記真円度範囲が、約0.5から約1.0である、
請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記1つ以上の構造特性が、面積当たりの神経内膜管の数を含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記1つ以上の構造特性が、面積当たりの神経内膜管内腔の割合を含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記1つ以上の構造特性が、面積当たりの神経内膜管内腔の全周長を含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記1つ以上の構造特性を、定性的評価スコアと比較することをさらに含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記1つ以上の構造特性を、前記神経移植片の許容される構造特性を示す1つ以上の参照範囲と比較することをさらに含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記1つ以上の構造特性を、前記神経移植片のバイオアッセイ結果と比較することをさらに含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項17】
ラミニンの存在を示す染料で処理された神経移植片の断面を示す組織の画像を獲得し、
画像処理アプリケーションを用いて、前記画像の1つ以上の神経束を選択し、
前記画像処理アプリケーションを用いて、前記画像の1つ以上の視覚的外観を区別する二値化画像を作製し、
1つ以上の認識基準に従って1つ以上の神経内膜管を特定する前記画像処理アプリケーションの粒子分析機能を用いて、前記二値化画像上で、前記1つ以上の線維束の境界に含まれる前記1つ以上の神経内膜管を特定し、
前記1つ以上の神経内膜管の測定から導出される前記神経移植片の1つ以上の構造特性を判断する
ことを含む、
前記神経移植片の構造品質を評価する方法。
【請求項18】
前記1つ以上の認識基準が、前記1つ以上の神経内膜管のサイズ範囲を含み、前記サイズ範囲が、直径約4.84ミクロンから直径約16ミクロンまでである、
請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記1つ以上の認識基準が、前記1つ以上の神経内膜管の真円度範囲を含み、前記真円度範囲が、約0.5から約1.0である、
請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記1つ以上の構造特性が、面積当たりの神経内膜管の数、面積当たりの神経内膜管内腔の割合、および面積当たりの神経内膜管内腔の全周長のうち1つ以上を含む、
請求項17に記載の方法。
【請求項21】
定性的評価スコア、前記神経移植片の許容される構造特性を示す1つ以上の参照範囲、および前記神経移植片のバイオアッセイ結果のうち1つ以上と前記1つ以上の認識基準を比較することをさらに含む、
請求項17に記載の方法。
【請求項22】
前記染料が、免疫ペルオキシダーゼ染料である、
請求項17に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
ヒトが外傷を負うと、抹消神経が損傷したり切断することが多い。微小ギャップに対しては直接的な神経修復がなされ、大きめのギャップに対しては神経移植片を用いた修復がなされる場合がある。傷の部位に近い軸索セグメントは、新しい軸索芽を再生することができるが、非機能性の遠位の軸索セグメントおよびミエリン鞘には、神経再生を縮小する増殖抑制効果があると考えられている。非機能性の神経素子の排除によって、遠位の神経セグメントにおける軸索突起成長が改善される、ということが実証されている。
【0002】
神経移植片の有効性を改善する1つの技術は、移植片を修復部位に外科的に配置する前に、非機能性神経素子の神経移植片を排除することである。神経移植、例えば、神経束と同様の構造および構成を有する無細胞移植片は、新たな軸索セグメントが増殖し得る足場を与えることによって、軸索再生を支援し得る。処理済み神経移植片とも呼ばれることのある無細胞神経移植片は、支持構造により、増殖する軸索セグメントを支え、管理し、一方で、軸索やミエリンのデブリのない経路を与える。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、神経移植片の定量的構造特性を評価することにより、神経移植片の品質を判断するための材料および方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
特定の実施形態において、本方法は、神経移植片中のラミニン含有組織を識別する画像を獲得し、画像処理アプリケーションの変換機能を画像に用いて、変換画像を形成し、画像処理アプリケーションの分析機能を用いて、変換画像を分析して、1つ以上の認識基準に従って1つ以上の構造を識別し、1つ以上の構造の測定から誘導される神経移植片の1つ以上の構造特性を判断することを含む。
【0005】
ある実施形態において、構造特性は、神経移植片束に存在する神経内膜管の測定から誘導される。特定の実施形態において、構造特性には、面積当たりの神経内膜管の数、面積当たりの神経内膜管内腔の割合、面積当たりの神経内膜管内腔の全周またはこれらの組み合わせが含まれる。
【0006】
ある実施形態において、本技術にはまた、定性的評価スコアに対する構造特性、神経移植片の許容される構造特性を示す1つ以上の参照範囲、神経移植片のバイオアッセイ結果またはこれらの組み合わせを比較することが含まれる。
【0007】
発明の概要は、簡素化した形態で選択した概念を示すものであり、詳細な説明は後述する。発明の対象の主要な特徴または不可欠な特徴を特定したり、発明の対象の範囲を限定しようとするものでない。
【0008】
本出願には、少なくとも1つのカラー図面が含まれる。カラー画像のコピーは、所望により必要な手数料により、特許庁により提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】神経内膜管およびその他隣接する構造を強調するために、抗ラミニン染色された末梢神経繊維の断面を有するスライドの画像を示す図である。
【
図2】本技術のある実施形態に用いられる例示の手順フローを示す。
【
図3A】ラミニン染色神経内膜管の断面の画像に対する二値化処理の効果を示す図である。
【
図3B】ラミニン染色神経内膜管の断面の二値化画像の粒子分析の効果の一例を示す図である。
【
図4】記載した様々な技術を行った神経移植片の画像を比較する例示の実施形態を示す。
【
図5A】様々な構造特性を、過去の定性的組織学的スコアと比べた散布図を示す。
【
図5B】様々な構造特性を、過去の定性的組織学的スコアと比べた散布図を示す。
【
図5C】様々な構造特性を、過去の定性的組織学的スコアと比べた散布図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
神経移植片が、軸索成長を促進するのに有効な程度は、神経移植片の構造特性に関連していると考えられている。しかしながら、神経移植片の構造特性を評価するのに効率的な再現性のあるメカニズムはない。本発明は、神経移植片の定量的な構造特性を評価することにより、神経移植片の品質を判断するための技術を提供するものである。
【0011】
ある実施形態において、構造特性は、神経移植片の束に存在する神経内膜管の測定から誘導される。
【0012】
神経ケーブルの最外層は、神経上膜であり、これは、末梢神経修復の際に最もよく相互作用する層である。大きめの神経ケーブルにおいては、ケーブルは、多数の筋束へとさらに分かれ、これは、他の結合組織層、神経周膜により定義される。「神経内膜管」は、末梢神経ケーブルにおいて、最小、最薄および最内の結合組織層であり、神経内膜、神経内膜チャネル、神経内膜鞘またはヘンレ鞘とも呼ばれる。これらは、鞘で覆われた軸索のシュワン細胞に覆われて隠れている。神経内膜管の方向は、概して、線維が神経ケーブルから離れる(または、異なる神経ケーブル間で通信が切れる場合には、入る)ところを除いて、神経ケーブルの方向に沿って長手方向である。神経内膜管は、主に、コラーゲンIVの層からなり、内側表面にラミニンの層を備えた薄い基底膜である。
【0013】
図1は、神経内膜管を強調した抗ラミニン免疫染色による末梢神経繊維の断面を有するスライドの画像を示す。
【0014】
神経移植片の有効性または生理活性の重要な態様は、移植片の構造一体性および構造特性である。移植片に存在する生理活性の足場(ラミニンコート神経内膜管配列)の量および可触性が大きければ大きいほど、移植片の生理活性が大きくなる。その理由は、生理活性の足場が多いと、軸索およびシュワン細胞が延在する成長構造をより多く与えるからである。
【0015】
免疫組織化学的染色(例えば、抗ラミニン染色)により、神経内膜におけるラミニンの存在を確認することができる。本発明による技術の実施形態において、処理済みの神経移植片からの組織は、抗ラミニン抗体を用いて染色される。抗体は、例えば、ポリクローナル抗体である。組織の分析画像は、画像処理を行って、二次元組織片に存在する、神経内膜管などのラミニン染色構造の構造特性を判断する。
【0016】
ある実施形態における画像処理には、関連構造が存在する画像領域をさらに絞り込むために、部分構造または着目領域(例えば、線維束)の選択も含まれる。選択は、人間のオペレータが手動で行い、例えば、選択ツールを用いて、構造または領域の外縁を縁取ることができる。選択はまた、画像処理アプリケーションにより自動化し、場合によっては、人間が検証することもできる。ある実施形態においては、「サンプリングウィンドウ」を用いて、画像のサブセットを定義することができる。また、ある実施形態においては、全体画像を利用してもよい。
【0017】
ある実施形態において、画像処理には、画像を操作して、分析のために着目構造をより見やすくすることが含まれる。ある実施形態において用いられる画像処理の種類には、様々なパラメータに従って画像を二値化することが含まれる。
【0018】
ある実施形態において、構造特性を判断するのに用いられる構造(例えば、神経内膜管)の識別は、構造のサイズや真円度といった1つ以上の認識基準に従うものである。
【0019】
様々な実施形態において、構造特性には、(1)ある領域における神経内膜管の数、(2)ある領域における神経内膜内腔の割合および/または(3)ある領域における神経内膜管内腔の全周長の測定が含まれる。構造特性が良ければ、より高い判断値が得られる。これらの方法は、ラミニンの存在および神経移植片の神経内膜における構造の定量的な証拠を与えるものである。構造特性は、選択着目領域および/または部分構造から構成される領域について、サンプリングウィンドウについて、または固定領域について計算される。
【0020】
ある実施形態において、構造品質の定量的評価は、定性的評価に相関している。定量的測定基準は、同じ移植片から過去に得られた定性的スコア等のその他の測定基準に相関し得る。処理済み神経同種移植の構造一体性を定性的に評価する1つの方法には、組織の抗ラミニン染色および未処理の末梢神経組織を含む陽性対照と比較した、外観の定性的ランクスケールで(例えば、0.5刻みの1~5のスケール)のスコアリングが含まれる。しかしながら、この方法は、オペレータ依存であり、再現性のある方法を用いて、生理活性の足場の量や有用性を正確に評価することはできない。
【0021】
ある実施形態において、ある試料について判断された構造特性を、許容できる神経移植片品質を示す構造特性についての参照範囲と比較することができる。範囲外の構造特性値を有する神経移植片は、許容できない品質とみなされる。
【0022】
ある実施形態において、判断された構造特性は、神経移植片のバイオアッセイからの結果と比較または関連付けてよい。バイオアッセイは、例えば、培養移植片における神経突起成長の範囲を測定することにより、移植片の生理活性を判断するものである。場合によっては、バイオアッセイの結果は、許容される品質の移植片についての参照範囲を導出する構造特性からの結果と相関している。
【0023】
図2は、本技術のある実施形態において用いられる例示の手順フローを示す。
【0024】
いくつかの手順は、デジタル画像の特性を操作するためのコンピュータプログラムである、画像処理アプリケーションの機能または特徴を用いて行われる。実施例で用いられる画像処理アプリケーションの例はFiji(ImageJとしても知られている)である。さらに、
図2に記載したいくつかの手順は、ある実施形態においては任意である。
【0025】
神経移植片におけるラミニン含有組織を識別する画像が得られる(200)。概して、これらの神経移植片断面(または「細片」)は、神経移植片試料の組織標本作製、例えば、細切、染色および試料のスライドへの取付けにより得られ、これについて、スライド解析ハードウェアおよびソフトウェアを用いて画像形成する。かかる画像は、例えば、移植片の外科的移植のために移植片を用意する製造、処理または品質管理段階からの副生成物または成果である。場合によっては、画像は、生成/処理、保存の一段階において導出されることもあり、異なる時点で、記載の技術を用いて評価してもよい。
【0026】
ある実施形態において、神経移植片は、欠陥全体の再生を支持するために、抹消神経断絶の外科的修復を担う処理済み神経同種移植片(ヒト)である。処理済みの神経同種移植片の一例を挙げると、AxoGenのAvance(登録商標)神経移植片である。神経同種移植片は、外科医にとって、例えば、外傷により損傷したり、手術の最中に除去された抹消神経を修復するための入手容易な神経移植片となるものである。処理済みのヒト神経同種移植を脱細胞処理すると、軸索再生を導く自然構成経路を有する外科的インプラントとなる。かかる神経移植片は、様々な長さおよび直径で入手可能であり、二次手術部位に関連する合併症がなく、自家移植神経片と同様に機能する。神経同種移植の脱細胞処理により、大半の軸索およびミエリンのデブリが除去されて、神経が、再増殖するのに妨げのない経路を持つようになる。処理によってまた、受容体における有害免疫応答を生じさせる恐れのある材料や分子も除去される。
【0027】
ある実施形態において、神経移植片の細片に、免疫組織化学的染色を行って、画像中の関連構造を識別する。例えば、神経移植片の細片の抗ラミニン染色の結果、神経内膜管およびその他ラミニン含有構造を示す高コントラストの画像が得られる。場合によっては、例えば、染色は、ポリマーベースの2次系(Dako Envision and Rabbit HRP)およびDAB(3,3'-ジアミノベンジジン)を発現剤として、ポリクローナルラビット抗ラミニン(Dako Z0097)を用いて、免疫ペルオキシダーゼ染料で実施できる。しかしながら、その他の種類の染料(例えば、モノクローナル抗体染色)または画像中で十分に神経内膜管またはその他主要な構造成分を識別するその他構造分割技術を用いることができる。
【0028】
図1を再び参照すると、神経移植片の断面の抗ラミニン染色が図示されている。
図1において、ラミニン含有構造は、褐色で示されている。構造特性を判断するのに重要なラミニン含有構造としては、神経内膜管および神経周膜(束を定義する)が挙げられる。
【0029】
場合によっては、染色の品質は、移植片の構造特性の分析のための基礎として適切であるかどうかについて検査される。かかる検査は、人間のオペレータまたは品質管理担当者によって実施される。抗ラミニン染色品質特性には次のものが含まれる。細片には、アーチファクトおよび/またはリフティングなどの技術的な問題が主にない。染料色が、褐色である(青、黒またはその他の色ではない)。染色が、ラミニンを含むことが予想される細胞外マトリックス構造に局在している(主に、神経内膜管および神経鞘層だが、脂肪滴を囲む基底板もある)。染色がなされない、または神経内膜管の内部(内腔)および神経上膜に最小限の染色である。
【0030】
ある実施形態において、本技術には、構造のさらなる変換および評価の前に、画像内で、特定の部分構造、着目領域またはサンプリングウィンドウを選択することができる(205)。例えば、場合によっては、特定の構造(例えば、神経束)を選択して、構造特性を有することが予測される領域に対してデータを標準化する。このようにして、部分構造または着目領域を選択するとまた、「線維束当たり」といった用語で、または線維束領域の比率として、構造特性を表すことができる。場合によっては、構造の選択によって、構造特性または測定外となる領域(例えば、脂肪滴は、通常、線維束外である)を排除することができる。
【0031】
着目領域または部分構造(例えば、線維束)の選択は、手動または自動で行うことができる。例えば、線維束の手動選択では、人間のオペレータが、画像処理アプリケーションの着目領域選択ツールを用いて、束の輪郭をトレースする(例えば、Fiji/ImageJで着目領域を選択するには、「フリーハンド選択ツール」を用いて、着目領域を描出し、マネージャツールを用いて着目領域リストに加える)。線維束の自動選択の場合は、自動特徴識別機能を用いて、例えば、神経周膜を示す褐色や厚みといった特定の抗ラミニン染色特性を有する構造を識別することができる。自動選択タスクはまた、人間のオペレータにより、品質管理工程で検査され、「コンピュータ支援選択」とも呼ばれる。
【0032】
場合によっては、サンプリングウィンドウを用いて、画像のサブセットを選択することができる。例えば、画像の所定の正方形領域(例えば、画像の中心の100,000ピクセル範囲)を用いる。固定したサイズのサンプリングウィンドウを用いると、手動または自動構造選択工程の必要性が排除されるので、固定した領域に関して、構造特性を判断することができる。
【0033】
画像、サンプリングウィンドウまたは全画像において、着目領域のどの選択を用いても、画像処理アプリケーションの変換機能を用いて変換画像を作製する(210)ことは、関連構造を識別する補助となる。ある実施形態において、変換には、画像が2値に変換される「二値化」が含まれ、二値化条件に近似する画像のピクセルが選択される。
【0034】
図3Aは、ラミニン染色神経内膜管の断面の画像に対する二値化の影響を示す。
図3Aにおいて、画像のラミニン染色領域300が示されている。画像300の二値化により、二値(例えば、黒と白)画像が生成される。
【0035】
図3Aの画像300の二値化は、Fiji/ImageJ等の画像処理アプリケーションで行われる。二値化メソッド、二値化色、色空間および背景等の様々な設定を行って二値化をする。画像310の得られる二値化操作は、「デフォルト」二値化メソッド、「黒と白」の二値化色、「HSB」色空間を用いて、背景色を白から黒に修正する。
【0036】
二値化は、多くの場合、デフォルト設定から調整する必要はない。しかし、質の高い二値化のためには、追加調整(例えば、人間のオペレータによる、「輝度」制御の手動調整)を行うときもある。質の高い二値化のある特徴を挙げると、主に、褐色に着色した領域(例えば、神経内膜管)は二値化され、軽く染色された、またはヘマトキシン対比染色された領域はいくつかのピクセルが二値化されるだけである。
【0037】
ある実施形態において、画像を、8ビット画像等、異なる表現に変換してもよい。場合によっては、画像の変換には、画像を、TIFFフォーマット等、異なるファイルフォーマットに変換することが含まれる。もちろん、かかる変換は、実施形態で選択された画像処理アプリケーションに依存するもので、限定でなく例示のためである。
【0038】
画像処理アプリケーションを用いて、変換画像を分析し、1つ以上の認識基準に従って、1つ以上の構造を識別する(220)。構造特性を判断する着目する構造(および構造の測定)には、神経内膜管、神経内膜管の内腔(すなわち、神経内膜の外側管状構造により形成された囲まれた空間内部の空間領域)、神経内膜管または内腔周囲、および神経内膜管内腔の領域が含まれる。
【0039】
ある実施形態において、変換画像の分析には、例えば、画像処理アプリケーションの「粒子分析」機能を用いる(粒子分析はFiji/ImageJで用いられる用語であるが、当業者であれば、異なる画像処理アプリケーションでも異なる名前で同様の機能を有することが分かるはずである)。粒子分析機能を用いて、特定の特性を有する構造を識別し、同一の構造の測定結果を導き出す。
【0040】
認識基準は、識別のための着目対象として構造を認識するために、構造の条件または特性が満足すべき要件である。例えば、構造を識別するために「粒子分析」機能を用いるときは、認識基準は、粒子として認識すべきある特性を構造が持っている必要がある。認識基準は、識別機能に制限を設定する、または分析に合わない構造を排除するために、画像処理アプリケーションの特性を用いることにより導入される。
【0041】
神経内膜管は、本来、略円形である(すなわち、被鞘シュワン細胞に合う)が、ソース材料の生物学的性質のため、そして観察が組織標本作製および細切の後になされるため、神経内膜管は、スライドで観察すると、完全な円形ではない。線維管は、平坦で細長い断面のように見える。
【0042】
ある実施形態において、判断基準には、構造の「真円度」の要件が含まれる。真円度とは、構造の形状と円の形状の類似性の尺度である(数学的には、真円度は、4*π*(面積/外周^2))。原則的に、構造の真円度は、0~1である。好ましい実施形態において、真円度範囲の認識条件は、0.5~1.0である。
【0043】
「サイズ」についての認識基準を用いて、識別される構造より大きいまたは小さいために着目しない構造を除く。神経内膜管が識別される構造である実施形態において、サイズ基準を設定すると、ラミニンも有する神経内膜組織でないものを排除することができる。例えば、脂肪滴の基底板および線維束の神経周膜自体は、場合によっては、そのサイズのために、分析から除かれる。好ましい実施形態において、構造のサイズ基準は、直径約4.8ミクロンから約16ミクロンである。以下の実施例1では、構造を識別するのに有用な異なる認識基準を試験する手順の概要を記してある。
【0044】
図3Bは、Fijiにおける、ラミニン染色神経内膜管断面の二値化画像に対する粒子分析の影響についての実施例を示す。
図3Bにおいて、二値化画像350が示されている。画像350の粒子分析によって、関連構造が識別された画像360(画像において、関連構造はシアン色で、背景は黒である)が生成される。
【0045】
図2に戻り、1つ以上の構造の測定から導出される神経移植片の1つ以上の構造特性を判断する(230)。着目する構造が識別されたら、識別された構造の測定を行い(例えば、上記したとおり、面積、周長、数、等)、計算をこの測定から行って、神経移植片の構造特性を判断することができる。
【0046】
概して、関連のある構造特性は、移植片の生理活性の足場の量および可触性を示すものである。構造特性は、変換画像から識別された構造の測定および計算から導出される。例えば、構造測定には、(1)面積当たりの神経内膜管の数、(2)面積当たりの神経内膜内腔の割合、および/または(3)面積当たりの神経内膜管内腔の全周長が含まれる。
【0047】
ある構造特性は、面積を参照して判断される。面積は一定数の絶対または相対的単位を含む。かかる面積は、例えば、相対的単位(例えば、ピクセル単位の長さも用いる場合には明瞭にするために、ピクセル面積、すなわちピクセル2、実際のサイズは、画像スキャナ、画像フォーマットまたはディスプレイ技術の特性に応じて異なる)あるいはミクロン2のような絶対的単位で測定される。例えば、一定の単位のサンプリングウィンドウ(例えば、10,000ピクセル2)は、画像と、サンプリングウィンドウを参照して判断された構造特性と、から抽出される。他の態様において、あるサイズまたは目視上の特徴を有する予め選択したひとまとまりの線維束のように、大きめの領域内の1つ以上の着目領域の面積を示すことができる。ステップ205で線維束を予め選択した場合(手動またはコンピュータ支援により)、構造特性を計算するのに用いる面積は、例えば、試料中の各線維束当り、または線維束の総面積当りである。
【0048】
構造特性の一例として、管の数を数え、面積で割ることにより、面積当たりの神経内膜管の数を計算する。上記したとおり、この特性は、例えば、線維束および/または合計線維束面積当たりの、一定数の絶対的または相対的なサイズの単位の面積により、計算することができる。
【0049】
構造特性の他の例として、各識別構造(すなわち、神経内膜管内腔)の面積を獲得し、内腔面積を合計し、面積で割ることにより、面積当たりの神経内膜内腔の割合を計算することができる。上記したとおり、この特性は、例えば、試料の線維束および/または合計線維束面積当たりの、一定数の絶対的または相対的なサイズの単位の面積により、計算することができる。
【0050】
構造特性の他の例として、各識別構造(すなわち、神経内膜管内腔)の周長を獲得し、周長を合計し、面積で割ることにより、面積当たりの神経内膜内腔の全周長を計算することができる。識別構造(例えば、粒子)が神経内膜管の内腔であるため、周長の測定は、神経内膜管のラミニン含有内側表面の周長の測定に対応する。上記したとおり、この特性は、例えば、試料の束および/または合計束面積当たりの、固定数の絶対的または相対的なサイズの単位の面積により、計算することができる。
【0051】
ある実施形態において、構造特性は、線維束のサイズにより重みづけされる。重みづけ、取扱いに関しては、異なるサイズの多数の束からの検査統計量の判断、とは、大きめのサイズの全細片について、検査統計量の判断のために、大きめの束の重要性を増やすことを指す(すなわち、細片の検査統計量は、秤量した相対的線維束面積を乗算した検査統計量の平均対未秤量についてのみの検査統計量の平均である)。このやり方での、束当たり結果平均の秤量は、束当たり結果平均を、総束当り面積平均に変換するのと等価である。
【0052】
図4は、記載した様々な技術を行った神経移植片の画像を比較する例示の実施形態を示す。本例の神経移植片は、AxoGen,Inc.のAvance(登録商標)神経移植片である。
図4において、画像の一段目は「許容できる構造」を示し、二段目は、「許容できない構造」を示す。許容できる構造と記された段は、人間のオペレータによる定性的評価を元々パスした神経移植片の元の染色、二値化および分析された画像を示す。許容できない構造と記された段は、定性的評価をパスしなかった神経移植片の元の染色、二値化および分析された画像を示す。変換および粒子分析ステップから得られた元の染色画像がそれぞれ示されている。分析後、構造特性の判断によれば、許容される移植片は、30.4%の線維束を含む神経内膜管内腔を有し、許容できない移植片は、僅か6.7%の線維束の面積しか含まない神経内膜管内腔を有していたことが示された。
【実施例0053】
実験および実施例
以下は、本明細書に開示された技術を例示する実施例である。本技術の利点は、これらの実施例の結果から示されるであろう。実施例にはまた、特定の方法パラメータの特性を詳述するための実験条件も示される。実施例および実験は、限定するものとは解釈されない。
【0054】
実施例1
本発明の一実施形態は、特定の範囲およびパラメータから実験的に導出されたものと考えられる。方法フローに記載したとおり、神経移植片の断面を含む試料の画像を得た。実験条件には、いくつかのパラメータについて他の選択肢が含まれ、同じ試料画像から求めた定性的組織学的スコアに近似するものと近いか比べた。
【0055】
AxoGen,Inc.のAvance(登録商標)神経移植片を含む11の神経移植片のラミニン組織画像を評価した。ロットは、33個の大直径(3~5mm)および33個の小直径(1~3mm)の試料を含んでいた。画像は、AperioのImageScopeで解析されたスライドから得られた。この場合、画像は、抗ラミニン染色の品質についてオペレータにより検査された。
【0056】
本実施形態において、線維束は、画像処理アプリケーションを用いて選択された。ここで、画像処理アプリケーションはFiji(ImageJとしても知られている)である。線維束は、パラメータとして評価される2つの方法を用いて選択された。すなわち、Fijiのフリーハンド選択ツールを用いた手動選択と、Fijiマクロを用いた後、人間のオペレータによる品質検査および補正を行う、コンピュータ支援選択であった。2つの技術の結果を以下にまとめてある。
【0057】
本実施形態において、画像処理アプリケーション(ここでは、Fiji)を用いた画像の変換には、画像の二値化設定を行うことが含まれる。二値化は、画像の特定の特性を増大または減少させて、画像処理アプリケーションが、画像に示された組織(例えば、神経内膜管)を良好に分析できるようにするものである。初期二値化設定には、画像処理アプリケーションの「デフォルト」方法を用い、二値化色(threshold color)を「黒白」に設定し、色空間を「HSB(色相)」に設定し、背景を暗色(dark)に設定をすることが含まれる。変換画像の輝度もまた調整できる。ここで、画像の変換にはまた、画像を8ビット表現に変換することも含まれる。
【0058】
組織(例えば、線維束の神経内膜管)は、本実施例では、画像処理アプリケーション(ここでは、Fiji)の「粒子分析」機能を用いて識別した。対象(object)は、免疫組織化学的染色により強調表示されており、場合によっては、画像変換設定により、画像処理アプリケーションで染色が識別されやすくなっていることから、粒子分析機能は、画像における個別の対象を認識する機能により組織を識別するものである。さらに、部分組織、着目領域またはサンプリングウィンドウを選択して、分析をこれらの領域内のみで分析を行ってもよい。
【0059】
本実施形態において、粒子分析機能の設定は、サイズと真円度の認識基準および「穴を含める」および「境界を除外」の設定を含む。測定設定には、「面積(area)」、「周長(perimeter)」および「輝度の総和(integrated density)」が含まれていた。
【0060】
実施例1は、構造を判断するのに、サイズと真円度の2つの認識基準を用いるものである。合計で32の異なる組み合わせのサイズと真円度を下の表1に示す。サイズは、構造のピクセル単位の面積を示す。この場合、画像ピクセルは、Aperioスライドスキャナ設定によれば、0.495ミクロンに等しい。
【0061】
【0062】
実施例1において、3つの構造特性を、認識した神経内膜管から判断した。すなわち、100,000ピクセルの面積における神経内膜管の数、一領域内における神経内膜管内腔の割合、および100,000ピクセルの領域における神経内膜管内腔の全周長である。
【0063】
本実施例において、実験パラメータとして重みづけを行った。上記したとおり、重みづけは、線維束当たりの検査統計量を、合計線維束面積当たりの検査統計量に変換する。
【0064】
実施例1の目的は、本技術の異なるパラメータを評価するものであったため、異なるパラメータの影響について述べる。「近似度」の値を、過去の定性的組織学的スコア(例えば、R2値)と比べることにより、別のパラメータ選択の結果を評価した。本実施形態において、定性的組織学的スコアは、神経移植片組織の試験試料におけるラミニンの外観を、未処理の神経移植片組織を含む陽性対照と比較する、0.5刻みの1~5のスケールでの人間の評価者による格付けである。スコアが高いほど、近似している、すなわち、より生理活性の足場の外観を示している。
【0065】
「R2」(またはR^2)は、決定係数、すなわち、実験のデータセット」対理論/モデル化データセットの近似度である。数学的には、R2=1-[sum((yi-fi)^2)/sum((yi-avgy)^2)]であり、式中、「y」は実験データ、「f」はモデル化データ、「i」はデータセットのカウンタ(すなわち、「i」は1~データポイントの数)、「avgy」はフルデータセットについての「y」の平均である。
【0066】
線維束/選択範囲について重みづけの影響はほとんどなかった。しかしながら、記載したとおり、合計線維束/選択範囲で結果を重みづけすると、過去の組織学的スコアに対して僅かに良好な相関性があった。
【0067】
補助範囲選択は、R2値が類似していることから明らかなように、完全に手動の方法と等価であった。この補助範囲選択方法は、選択毎に分析者が再検討し、必要であれば修正する。補助方法は、最小線維束のいくつかは含まない傾向があったが、完全手動方法に大部分は等しいものである。このことは、両方法により選択された範囲が非常に類似していることから予測される。(細片毎の全範囲と比べて、R2=0.995)。
【0068】
神経内膜管の数で集めたデータは、下限の20ピクセルを用いると、過去の組織学的スコアに関連しない特徴の選択となる(すなわち、相関性を減じる)ことを示す。このように、「サイズ」認識基準の好ましい下限は75ピクセル(直径~5ミクロン)である。
【0069】
面積(および周長)の割合(%)で集めたデータは、上限1,300以上の粒子を用いると、過去の組織学的スコアに関連しない特徴の選択となる(すなわち、相関性を減じる)ことを示す。このように、「サイズ」認識基準の好ましい上限は1,300ピクセル(例えば、820または1050ピクセル、直径~16または~18ミクロン)である。
【0070】
真円度は、管の数および面積の割合(%)について略同様であるが、0.3~1.0および0.4~1.0真円度範囲は不安定であった。このように、好ましい真円度範囲は0.5~1.0である。
【0071】
本実施形態における全ての3つ構造特性(管の数、面積の割合(%)および管の周長)は、広くは同様の結果を与え、粒子分析方法によっては違いがあった。
【0072】
実施例2
本発明の実施形態を発展させて、特定の記載した技術の、同じ試料画像から求めた定性的過去の組織学的スコアとの近似度を実験により評価した。まとめると、実施例2では、サイズおよび真円度認識条件について特定の範囲を用いて、選択を補助し、近似度について過去の定性的スコアに対して、3つの構造特性と比較した。
【0073】
方法フローで上記したとおりに、神経移植片の断面を含む試料画像を得た。実施例2において、32ロットのAxoGen,Inc.のAvance(登録商標)神経移植片を評価した。過去の定性的組織構造の許容基準に合格しなかった4つのロットが含まれていた。結果分析により、過去のスコアデータと3つの定量化可能な構造特性の間の相関性を調べた。ある試料(例えば、単一移植片(または「切細片」)からの)過去のスコアを、3つの各構造特性と比較することによりデータを評価した。さらに、ロットの過去のスコア平均(別個の移植片からの各試料6つについてスコアを平均)を、同じロットの3つの構造特性と比較することによりデータを評価した。まとめると、個々の試料について、神経内膜管の外周を比較したところ最も良く近似し(R2=0.622)、ロット平均について、神経内膜内腔面積の割合は最も良く近似した(R2=0.581)。
【0074】
本技術の本実施形態において、以下のパラメータおよび条件を用いた。切片の全線維束の面積を、初期コンピュータ選択によりFijiで輪郭を描いた後、必要であれば、手動で検査および補正を行った(すなわち、コンピュータ支援)。
【0075】
Fijiを用いた画像の変換には、画像に対して、二値化設定を適用することが含まれていた。初期二値化設定には、画像処理アプリケーションの「デフォルト」法を用い、二値化の色を「黒白」に設定し、色空間を「HSB(色相)」に設定し、背景を暗色に設定することが含まれる。変換画像の輝度もまた調整できる。画像の変換にはまた、画像を8ビット表現に変換することも含まれる。
【0076】
線維束の神経内膜管を、Fijiの「粒子分析」機能を用いて識別した。粒子分析を行う認定基準には、サイズ範囲および真円度範囲が含まれていた。サイズ基準は、一領域において75~820ピクセルで構造を識別するよう設定した。真円度基準は、0.5~1.0の真円度範囲を有する構造を識別するよう設定した。本実施形態において、粒子分析機能の設定には、「穴を含める」と「境界を除外」という設定を含んでいた。測定設定には、「面積」、「周長」および「輝度の総和」が含まれる。
【0077】
3つの構造特性を、次の認識された神経内膜管から判断した。100,000ピクセルの領域における神経内膜管の数、一領域における神経内膜管内腔の割合(%)、および100,000ピクセル範囲における神経内膜管内腔の全周長。
【0078】
なお、100,000ピクセルの範囲は、24,502.5平方ミクロン(~0.025平方ミリメートル)に等しい。検査統計量の単位は、直線のピクセル(すなわち、ピクセルの長さ)であり、Aperio ImageScopeだと、1ピクセルは0.495ミクロンである。
【0079】
線維束のサイズに基づく重みづけを、構造特性の計算に適用した。
【0080】
上記のとおり、ある試料または試料セットの過去のスコアを、試料/セットの3つの構造特性のそれぞれと比較することにより、実験データを評価した。実験とモデル化データセット間の数学的な「近似度」(R
2)を評価の一部として計算した。結果を
図5A~5Cに示し後述する。
【0081】
図5Aは、神経内膜管数の構造特性を、試験する全細片(個々の試料)および全ロットのそれぞれについての過去の組織学的スコアと比較する散布図を示す。細片データセットのR
2値は0.551であり、ロットデータセットのR
2値は0.5118である。
【0082】
図5Bは、パーセント神経内膜管内腔の構造特性を、試験する全細片(個々の試料)および全ロットのそれぞれについての過去の組織学的スコアと比較する散布図を示す。細片データセットのR
2値は0.6121であり、ロットデータセットのR
2値は0.5814である。
【0083】
図5Cは、神経内膜管周長の構造特性を、試験する全細片(個々の試料)および全ロットのそれぞれについての過去の組織学的スコアと比較する散布図を示す。細片データセットのR
2値は0.622であり、ロットデータセットのR
2値は0.5522である。
【0084】
表2は、試料の構造特性に比較した過去の組織学的スコアのピアソン相関係数を示す。注:相関係数(「R」)は、プロットに示す判断の係数(「R2」)ではない。
【0085】
【0086】
本実施形態から導出された実験結果についてまとめると、神経内膜管周長の構造特性は、移植片構造品質の過去の定性的分析にやや良好に近似している。この結果について2つの理由が考えらえる。1つ目は、組織学的処理中に円形構造が破壊しても、周長の構造特性が変わらないことである。2つ目は、内腔の周長が、ラミニンでコートされた神経内膜管の内側表面の直接的な測定であり、可触性ラミニンの品質が、移植片中の神経突起再生を支援する主要生理活性物質と推定されるからである。
【0087】
なお、本明細書に記載した実施例および実施形態は、例証のためのみであって、様々な修正または変更が当業者には示唆され、本出願の主旨および範囲に含まれるものとする。
【0088】
主題は、構造的な特徴および/または作用に特有の言葉で記載されているが、請求項に定義された主題は、上述した特定の特徴または作用を必ずしも限定するものではない。むしろ、上述した特定の特徴および作用は、請求項を実施する例として開示され、請求項の範囲内に含まれるものとする。
(付記)
好ましい実施形態として、上記実施形態から把握できる技術的思想について、以下に記載する。
[項目1]
神経移植片において、ラミニン含有組織を識別する画像を獲得し、
前記画像に画像処理アプリケーションの変換機能を用いて、変換画像を作製し、
前記画像処理アプリケーションの分析機能を用いて、前記変換画像を分析して、1つ以上の認識基準に従って1つ以上の構造を識別し、前記1つ以上の認識基準によって1つ以上の合わない構造を分析から排除し、
分析から排除されなかった神経内膜管及び/又は神経周膜を含む1つ以上の構造の測定から導出される前記神経移植片の1つ以上の構造特性を判断し、
判断された前記1つ以上の構造特性に基づいて前記神経移植片の品質を評価する
ことを含む
神経移植片の品質を評価する方法。
[項目2]
判断された前記1つ以上の構造特性に基づいて前記神経移植片の品質を評価することは、
前記1つ以上の構造特性を、
定性的評価スコア、
前記神経移植片の許容できる構造特性を示す1つ以上の参照範囲、及び
前記神経移植片のバイオアッセイ結果、
のうちの1つ以上と比較することと、
評価するために1つ以上の前記比較の結果を考慮することと、
を含む
項目1に記載の方法。
[項目3]
判断された前記1つ以上の構造特性が2つ以上の構造特性を含み、前記2つ以上の構造特性のうち少なくとも1つの構造特性が重み付けされ、
前記神経移植片の品質の評価は、重み付けされた前記少なくとも1つの構造特性を含む前記2つ以上の構造特性に基づく
項目1又は2に記載の方法。
[項目4]
前記変換画像を作製する前に、獲得した前記画像内で1つ以上の部分構造を選択することを更に含む
項目1から3のいずれか1項に記載の方法。
[項目5]
前記1つ以上の構造特性のうちの1つ以上を、前記1つ以上の部分構造当たり、前記1つ以上の部分構造領域の比率、又はこれらの両方で表現することを更に含む
項目4に記載の方法。
[項目6]
前記変換画像を作製する前に、着目領域およびサンプリングウィンドウのうち1つ以上を選択して、選択した画像領域を描出することをさらに含み、前記選択した画像領域でのみ前記変換画像の分析を実行する、
項目1から5のいずれか1項に記載の方法。
[項目7]
前記変換画像の作製する工程が、前記画像を二値化することを含む、
項目1から6のいずれか1項に記載の方法。
[項目8]
ラミニン含有組織は、1つ以上の構造分割技術によって識別される
項目1から7のいずれか1項に記載の方法。
[項目9]
前記1つ以上の構造分割技術は、少なくとも1つの免疫組織化学的染色を含む
項目8に記載の方法
[項目10]
前記1つ以上の構造特性は、分析から排除されなかった前記1つ以上の構造の面積、周長、及び数の1つ以上を含む
項目1から9のいずれか1項に記載の方法。
[項目11]
前記1つ以上の構造特性のうちの1つ以上を、前記1つ以上の線維束当たり、前記1つ以上の線維束領域の比率、又はこれらの両方で表現することを更に含む
項目1から10のいずれか1項に記載の方法。
[項目12]
前記1つ以上の認識基準が、サイズ範囲、直径範囲、及び真円度範囲を含む、
項目1から11のいずれか1項に記載の方法。
前記変換画像を作製する前に、着目領域およびサンプリングウィンドウのうち1つ以上を選択して、選択した画像領域を描出することをさらに含み、前記選択した画像領域でのみ前記変換画像の分析を実行する、
請求項1に記載の方法。