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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022116103
(43)【公開日】2022-08-09
(54)【発明の名称】立体異性体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 227/34 20060101AFI20220802BHJP
   C07C 229/08 20060101ALI20220802BHJP
   C07C 229/36 20060101ALI20220802BHJP
   C07C 229/24 20060101ALI20220802BHJP
   C07C 229/22 20060101ALI20220802BHJP
   C07C 323/58 20060101ALI20220802BHJP
   C07C 279/14 20060101ALI20220802BHJP
   C07C 237/04 20060101ALI20220802BHJP
   C07D 213/65 20060101ALI20220802BHJP
【FI】
C07C227/34
C07C229/08
C07C229/36
C07C229/24
C07C229/22
C07C323/58
C07C279/14
C07C237/04 Z
C07D213/65
【審査請求】有
【請求項の数】23
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022082326
(22)【出願日】2022-05-19
(62)【分割の表示】P 2017180647の分割
【原出願日】2017-09-20
(71)【出願人】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原田 真志
(72)【発明者】
【氏名】唐川 幸聖
(57)【要約】      (修正有)
【課題】系の規模にかかわらず、種々のアミノ化合物からその立体異性体を効率的かつ簡便に製造することができる方法を開発すること。
【解決手段】下記(1)及び(2)を含む、立体異性体の製造方法:
(1)水素原子含有アミノ基を有する不斉炭素原子を含む物質を、下記式(I):

〔X及びYは、独立してN又はC;R~Rの少なくとも1つは、前記物質及びその立体異性体から式(I)の化合物を分離する能力を有する基;XがNである場合、Rは存在せず、YがNである場合、Rは存在しない〕の化合物と反応させて、前記物質の立体異性体を生成する;及び(2)前記立体異性体を式(I)の化合物から分離する
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)および(2)を含む、立体異性体の製造方法:
(1)水素原子含有アミノ基を有する不斉炭素原子を含む物質を、下記式(I):
【化1】
〔式中、
XおよびYは、それぞれ独立して、窒素原子、または炭素原子であり、
、R、R、およびRの少なくとも1つは、前記物質およびその立体異性体から式(I)の化合物を分離する能力を有する基であり、
、R、R、およびRの残りは、それぞれ、水素原子、または置換基であり、
Xが窒素原子である場合、Rは存在せず、
Yが窒素原子である場合、Rは存在せず、
XおよびYの双方が炭素原子である場合、RおよびRの少なくとも1つは、置換基として-NOである。〕の化合物と反応させて、前記物質の立体異性体を生成すること;および
(2)前記立体異性体を式(I)の化合物から分離すること。
【請求項2】
XおよびYの一方が窒素原子であり、他方が炭素原子である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
式(I)の化合物が、0以上のLogD値を有する、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記物質およびその立体異性体から式(I)の化合物を分離する能力を有する基が、炭素原子数4以上の疎水性基である、請求項3記載の方法。
【請求項5】
炭素原子数4以上の疎水性基が、-A-(B)-Dで表される基(ここで、Aは、置換されていてもよい2価の炭化水素基であり、Bは、-O-、-O-C(=O)-、-O-C(=S)-、-O-S(=O)-O-、-N-S(=O)-N-、-O-S(=O)-N-、-N-S(=O)-O-、-N-C(=O)-、-N-C(=S)-、-S-S-、-C=N-O-、-C=N-NH-、-O-P(=O)(-OH)-O-、-O-P(=O)(-OH)-N-、-N-P(=O)(-OH)-O-、-N-P(=O)(-OH)-N-、または2価のトリアゾールであり、Dは、置換されていてもよい1価の炭化水素基であり、nは、0または1であり、A、BおよびDにおける炭素原子の総数が4以上である。)である、請求項4記載の方法。
【請求項6】
Aがメチレンであり、Bが-O-、-O-C(=O)-または-O-C(=S)-であり、Dが置換されていてもよい炭素原子数3~12の1価の炭化水素基である、請求項5記載の方法。
【請求項7】
置換基が下記からなる群より選ばれる基である、請求項1~6のいずれか一項記載の方法:
(a1)ハロゲン原子;
(a2)置換されていてもよい1価の炭化水素基;
(a3)置換されていてもよい1価の複素環基;
(a4)カルボキシル、グアニジノ、シアノ、アジド、ニトロ、硫酸基、スルホン酸基、カルバモイル、カルバモイルアミノ、ニトリル、リン酸基からなる群より選ばれる基;
(a5)R-Z-、およびR-C(=Z)-(ここで、Zは、酸素原子(O)または硫黄原子(S)である。Rは、水素原子、置換されていてもよい1価の炭化水素基、または置換されていてもよい1価の複素環基である。)からなる群より選ばれる基;
(a6)R-Z-C(=Z)-、およびR-C(=Z)-Z-(ここで、Z、およびZは、それぞれ独立して、酸素原子(O)または硫黄原子(S)である。Rは、水素原子、置換されていてもよい1価の炭化水素基、または置換されていてもよい1価の複素環基である。)からなる群より選ばれる基;
(a7)NR-(ここで、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、置換されていてもよい1価の炭化水素基、または置換されていてもよい1価の複素環基である。);
(a8)NR-C(=Z)-、およびR-C(=Z)-NR-からなる群より選ばれる基(ここで、Zは、酸素原子(O)または硫黄原子(S)である。RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、置換されていてもよい1価の炭化水素基、または置換されていてもよい1価の複素環基である。);
(a9)NR-C(=Z)-Z-(ここで、Z、およびZは、それぞれ独立して、酸素原子(O)または硫黄原子(S)である。RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、置換されていてもよい1価の炭化水素基、または置換されていてもよい1価の複素環基である。);ならびに
(a10)V-W-(ここで、Vは、(a1)~(a9)からなる群より選ばれる基であり、Wは、置換されていてもよい2価の炭化水素基、または置換されていてもよい2価の複素環基である。)。
【請求項8】
前記式(I)の化合物が、下記式(II):
【化2】
〔式中、
、R、およびRの少なくとも1つは、前記物質およびその立体異性体から式(II)の化合物を分離する能力を有する基であり、
、R、およびRの残りは、それぞれ独立して、水素原子、または置換基である。〕の化合物である、請求項1~7のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
前記式(II)の化合物が、下記式(III):
【化3】
〔式中、
は、-(E)-F(ここで、Eは、-C(=O)-、または-C(=S)-であり、Fは、置換されていてもよい炭素原子数8~12の1価の炭化水素基であり、mは、0または1である。)である。〕の化合物である、請求項8記載の方法。
【請求項10】
反応が塩基の存在下で行われる、請求項1~9のいずれか一項記載の方法。
【請求項11】
反応が15~50℃の条件下で行われる、請求項1~10のいずれか一項記載の方法。
【請求項12】
分離が晶析以外の方法で行われる、請求項1~11のいずれか一項記載の方法。
【請求項13】
分離が、分子間相互作用を利用する分離方法により行われる、請求項12記載の方法。
【請求項14】
分子間相互作用が疎水性相互作用である、請求項13記載の方法。
【請求項15】
前記物質が、アミノ酸、アミノ酸エステル、アミノ酸チオエステル、アミノ酸アミド、アミノニトリル、またはペプチドである、請求項1~14のいずれか一項記載の方法。
【請求項16】
アミノ酸が、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トリプトファン、チロシン、バリン、シスチン、ヒドロキシプロリン、ホモシステイン、ホモシスチン、ホモアルギニン、シトルリン、オルニチン、1-メチルヒスチジン、3-メチルヒスチジン、メチルセレニルシステイン、セレノシステイン、セレノシスチン、およびセレノメチオニンからなる群より選ばれるアミノ酸である、請求項14記載の方法。
【請求項17】
前記物質がL体のアミノ酸であり、立体異性体がD体のアミノ酸である、請求項15または16記載の方法。
【請求項18】
前記物質が、同位体で標識されている、請求項1~17のいずれか一項記載の方法。
【請求項19】
同位体が、13C、H、17O、18O、15N、および34Sからなる群より選ばれる安定同位体である、請求項18記載の方法。
【請求項20】
下記式(I):
【化4】
〔式中、
XおよびYは、それぞれ独立して、窒素原子、または炭素原子であり、
、R、R、およびRの少なくとも1つは、前記物質およびその立体異性体から式(I)の化合物を分離する能力を有する基であり、
、R、R、およびRの残りは、それぞれ、水素原子、または置換基であり、
Xが窒素原子である場合、Rは存在せず、
Yが窒素原子である場合、Rは存在せず、
XおよびYの双方が炭素原子である場合、RおよびRの少なくとも1つは、置換基として-NOである。〕の化合物を含む、水素原子含有アミノ基を有する不斉炭素原子を含む物質のその立体異性体への変換試薬。
【請求項21】
塩基をさらに含む、請求項20記載の試薬。
【請求項22】
水溶液をさらに含む、請求項20または21記載の試薬。
【請求項23】
下記式(III):
【化5】
〔式中、
は、-(E)-F(ここで、Eは、-C(=O)-、または-C(=S)-であり、Fは、置換されていてもよい炭素原子数8~12の1価の炭化水素基であり、mは、0または1である。)である。〕の化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立体異性体の製造方法などに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、L-アミノ酸の立体異性体(D体)の入手の困難性に鑑み、アミノ酸からその立体異性体を製造するため、アミノ酸のラセミ化法の開発が行われている。
【0003】
アミノ酸のラセミ化法としては、強アルカリ性または強酸性水溶液中において加熱する方法(特許文献1)、脂肪族アルデヒドまたは芳香族アルデヒドの存在下において加熱する方法(非特許文献1)、サリチルアルデヒドおよび銅(II)イオンの存在下において加熱する方法(特許文献2および非特許文献2)、脂肪族酸またはアルデヒド存在下において加熱する方法(特許文献3および4、ならびに非特許文献3)、ピリドキサール化合物および塩基性物質の存在下において撹拌により反応させる方法(特許文献5および6)。ポリマーに固定化したアルデヒド化合物と撹拌により反応させる方法(非特許文献4および5)、酵素を使用する方法(特許文献7)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭61-251647号公報
【特許文献2】米国特許出願公開第2016/0221929号明細書
【特許文献3】特開昭57-123150号公報
【特許文献4】特開昭54-109912号公報
【特許文献5】特開昭64-63558号公報
【特許文献6】特開昭64-40453号公報
【特許文献7】国際公開第2011/001889号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】S. Yamada, et al., J. Org. Chem., 48(6), 843 (1983)
【非特許文献2】M. Ando and S. Emoto, Bull. Chem. Soc. Japan, 51(8) 2366 (1978)
【非特許文献3】T. Erbe, H. Bruckner, European Food Research and Technology, 211, 6 (2000)
【非特許文献4】K. Toi, Y. Izumi, et al. Bull. Chem. Soc. Japan, 35(8), 1422 (1962)
【非特許文献5】L. Mion, et al. Tetrahedron Lett., 32(50) 7401 (1991)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような先行技術の方法で得られる立体異性体は、晶析で分離される場合が多い。一般に、晶析では不純物を含む母液から目的物の結晶を取り出す操作を行うが、小規模の系(例、数mg~数百mg程度)では、母液の量が少なくなり、結晶と母液とを分離することが困難となる。したがって、小規模の系では、立体異性体を実質的に分離(単離)できず、また、たとえ分離できたとしても収量のロスが多くなるという課題がある。
【0007】
また、過酷条件(例、加熱条件(高温)、または強酸性もしくは強アルカリ性条件(例、pH13.5を超える水酸化ナトリウム溶液)下での反応を必要とする方法では、分解し易いアミノ酸(例、アスパラギンおよびグルタミン)からその立体異性体を製造することが困難な場合がある。固定化触媒を使う方法には、固定化触媒合成の煩雑さ、ポリマー特有の低い反応性、反応の再現性の低さ等の課題がある。酵素を使用する方法は、酵素の基質特異性に起因して、特定のアミノ酸にしか適用できず、また、ラセミ化速度も十分ではないという課題がある。
【0008】
したがって、本発明の目的は、系の規模にかかわらず、種々のアミノ化合物からその立体異性体を製造し、かつアミノ化合物からその立体異性体を分離することができる効率的かつ簡便な方法を開発することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため鋭意検討した結果、本発明者らは、水素原子含有アミノ基を有する不斉炭素原子を含む物質(アミノ化合物)およびその立体異性体から触媒を分離することを容易にするように特定の触媒を誘導体化することを着想した。そして、本発明者らは、実際に、かかる分離を容易にする分離基が導入された所定の化合物を触媒として用いる方法により、小規模の系において種々のアミノ化合物(例、アミノ酸)からその立体異性体を効率的かつ簡便に製造することに成功した。本発明者らの開発した方法によれば、系の規模にかかわらず、種々のアミノ化合物からその立体異性体を効率的かつ簡便に製造することができる。
【0010】
また、晶析には、上記課題以外にも、目的物の結晶の析出(すなわち、アミノ化合物の立体異性体の分離)に多くの時間を要するという欠点もある。一方、本発明の方法によれば、アミノ化合物の立体異性体を速やかに分離できるという効果も期待することができる。
【0011】
さらに、本発明の方法は、従来の技術に比し、温和な条件下で行うことができるため、分解し易いアミノ化合物からその立体異性体を容易に製造することができる。また、本発明の方法において触媒として用いられる化合物は基質一般性が高いことから、本発明の方法は、種々のアミノ化合物に適用することができる。
【0012】
以上の知見に基づき、本発明者らは、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
〔1〕下記(1)および(2)を含む、立体異性体の製造方法:
(1)水素原子含有アミノ基を有する不斉炭素原子を含む物質を、下記式(I):
【化1】
〔式中、
XおよびYは、それぞれ独立して、窒素原子、または炭素原子であり、
、R、R、およびRの少なくとも1つは、前記物質およびその立体異性体から式(I)の化合物を分離する能力を有する基であり、
、R、R、およびRの残りは、それぞれ、水素原子、または置換基であり、
Xが窒素原子である場合、Rは存在せず、
Yが窒素原子である場合、Rは存在せず、
XおよびYの双方が炭素原子である場合、RおよびRの少なくとも1つは、置換基として-NOである。〕の化合物と反応させて、前記物質の立体異性体を生成すること;および
(2)前記立体異性体を式(I)の化合物から分離すること。
〔2〕XおよびYの一方が窒素原子であり、他方が炭素原子である、〔1〕の方法。
〔3〕式(I)の化合物が、0以上のLogD値を有する、〔1〕または〔2〕の方法。
〔4〕前記物質およびその立体異性体から式(I)の化合物を分離する能力を有する基が、炭素原子数4以上の疎水性基である、〔3〕の方法。
〔5〕炭素原子数4以上の疎水性基が、-A-(B)-Dで表される基(ここで、Aは、置換されていてもよい2価の炭化水素基であり、Bは、-O-、-O-C(=O)-、-O-C(=S)-、-O-S(=O)-O-、-N-S(=O)-N-、-O-S(=O)-N-、-N-S(=O)-O-、-N-C(=O)-、-N-C(=S)-、-S-S-、-C=N-O-、-C=N-NH-、-O-P(=O)(-OH)-O-、-O-P(=O)(-OH)-N-、-N-P(=O)(-OH)-O-、-N-P(=O)(-OH)-N-、または2価のトリアゾールであり、Dは、置換されていてもよい1価の炭化水素基であり、nは、0または1であり、A、BおよびDにおける炭素原子の総数が4以上である。)である、〔4〕の方法。
〔6〕Aがメチレンであり、Bが-O-、-O-C(=O)-または-O-C(=S)-であり、Dが置換されていてもよい炭素原子数3~12の1価の炭化水素基である、〔5〕の方法。
〔7〕置換基が下記からなる群より選ばれる基である、〔1〕~〔6〕のいずれかの方法:
(a1)ハロゲン原子;
(a2)置換されていてもよい1価の炭化水素基;
(a3)置換されていてもよい1価の複素環基;
(a4)カルボキシル、グアニジノ、シアノ、アジド、ニトロ、硫酸基、スルホン酸基、カルバモイル、カルバモイルアミノ、ニトリル、リン酸基からなる群より選ばれる基;
(a5)R-Z-、およびR-C(=Z)-(ここで、Zは、酸素原子(O)または硫黄原子(S)である。Rは、水素原子、置換されていてもよい1価の炭化水素基、または置換されていてもよい1価の複素環基である。)からなる群より選ばれる基;
(a6)R-Z-C(=Z)-、およびR-C(=Z)-Z-(ここで、Z、およびZは、それぞれ独立して、酸素原子(O)または硫黄原子(S)である。Rは、水素原子、置換されていてもよい1価の炭化水素基、または置換されていてもよい1価の複素環基である。)からなる群より選ばれる基;
(a7)NR-(ここで、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、置換されていてもよい1価の炭化水素基、または置換されていてもよい1価の複素環基である。);
(a8)NR-C(=Z)-、およびR-C(=Z)-NR-からなる群より選ばれる基(ここで、Zは、酸素原子(O)または硫黄原子(S)である。RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、置換されていてもよい1価の炭化水素基、または置換されていてもよい1価の複素環基である。);
(a9)NR-C(=Z)-Z-(ここで、Z、およびZは、それぞれ独立して、酸素原子(O)または硫黄原子(S)である。RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、置換されていてもよい1価の炭化水素基、または置換されていてもよい1価の複素環基である。);ならびに
(a10)V-W-(ここで、Vは、(a1)~(a9)からなる群より選ばれる基であり、Wは、置換されていてもよい2価の炭化水素基、または置換されていてもよい2価の複素環基である。)。
〔8〕前記式(I)の化合物が、下記式(II):
【化2】
〔式中、
、R、およびRの少なくとも1つは、前記物質およびその立体異性体から式(II)の化合物を分離する能力を有する基であり、
、R、およびRの残りは、それぞれ独立して、水素原子、または置換基である。〕の化合物である、〔1〕~〔7〕のいずれかの方法。
〔9〕前記式(II)の化合物が、下記式(III):
【化3】
〔式中、
は、-(E)-F(ここで、Eは、-C(=O)-、または-C(=S)-であり、Fは、置換されていてもよい炭素原子数8~12の1価の炭化水素基であり、mは、0または1である。)である。〕の化合物である、〔8〕の方法。
〔10〕反応が塩基の存在下で行われる、〔1〕~〔9〕のいずれかの方法。
〔11〕反応が15~50℃の条件下で行われる、〔1〕~〔10〕のいずれかの方法。
〔12〕分離が晶析以外の方法で行われる、〔1〕~〔11〕のいずれかの方法。
〔13〕分離が、分子間相互作用を利用する分離方法により行われる、〔12〕の方法。
〔14〕分子間相互作用が疎水性相互作用である、〔13〕の方法。
〔15〕前記物質が、アミノ酸、アミノ酸エステル、アミノ酸チオエステル、アミノ酸アミド、アミノニトリル、またはペプチドである、〔1〕~〔14〕のいずれかの方法。
〔16〕アミノ酸が、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トリプトファン、チロシン、バリン、シスチン、ヒドロキシプロリン、ホモシステイン、ホモシスチン、ホモアルギニン、シトルリン、オルニチン、1-メチルヒスチジン、3-メチルヒスチジン、メチルセレニルシステイン、セレノシステイン、セレノシスチン、およびセレノメチオニンからなる群より選ばれるアミノ酸である、〔14〕の方法。
〔17〕前記物質がL体のアミノ酸であり、立体異性体がD体のアミノ酸である、〔15〕または〔16〕の方法。
〔18〕前記物質が、同位体で標識されている、〔1〕~〔17〕のいずれかの方法。
〔19〕同位体が、13C、H、17O、18O、15N、および34Sからなる群より選ばれる安定同位体である、〔18〕の方法。
〔20〕下記式(I):
【化4】
〔式中、
XおよびYは、それぞれ独立して、窒素原子、または炭素原子であり、
、R、R、およびRの少なくとも1つは、前記物質およびその立体異性体から式(I)の化合物を分離する能力を有する基であり、
、R、R、およびRの残りは、それぞれ、水素原子、または置換基であり、
Xが窒素原子である場合、Rは存在せず、
Yが窒素原子である場合、Rは存在せず、
XおよびYの双方が炭素原子である場合、RおよびRの少なくとも1つは、置換基として-NOである。〕の化合物を含む、水素原子含有アミノ基を有する不斉炭素原子を含む物質のその立体異性体への変換試薬。
〔21〕塩基をさらに含む、〔20〕の試薬。
〔22〕水溶液をさらに含む、〔20〕または〔21〕の試薬。
〔23〕下記式(III):
【化5】
〔式中、
は、-(E)-F(ここで、Eは、-C(=O)-、または-C(=S)-であり、Fは、置換されていてもよい炭素原子数8~12の1価の炭化水素基であり、mは、0または1である。)である。〕の化合物。
【発明の効果】
【0013】
本発明の方法は、系の規模にかかわらず、種々のアミノ化合物からその立体異性体を効率的かつ簡便に製造することができる。本発明の方法はまた、アミノ化合物の立体異性体を速やかに分離することができる。本発明の方法はさらに、穏和な条件下で行うことができるため、分解し易いアミノ化合物からその立体異性体を容易に製造することができる。本発明の方法はまた、種々のアミノ化合物に適用することができる。
本発明の試薬は、本発明の方法の簡便な実施に有用である。
本発明の化合物は、アミノ化合物およびその立体異性体から化合物を良好に分離することを可能にし、アミノ化合物からその立体異性体への変換において高い変換効率を示すことができ、しかも水溶性反応系への十分な溶解性を維持することもできる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.一般的な用語の定義
1-1.序論
本明細書において、以下の一般的な用語は、特にそれに反する記載がない限り、以下の意味で使用される。
【0015】
「置換されていてもよい基」(基は、任意の基である)とは、無置換の基、または置換基を有する基をいう。置換されていてもよい基としては、例えば、置換されていてもよい1価の炭化水素基(例、1価の鎖状炭化水素基(例、アルキル、アルケニル、アルキニル)、1価の脂環式炭化水素基、1価の芳香族炭化水素基)、置換されていてもよい1価の複素環基、置換されていてもよい2価の炭化水素基、置換されていてもよい2価の複素環基、置換されていてもよいアラルキル、置換されていてもよいヘテロアラルキルが挙げられる。
【0016】
1-2.1価の炭化水素基に関連する用語
「1価の炭化水素基」としては、例えば、1価の鎖状炭化水素基、1価の脂環式炭化水素基、および1価の芳香族炭化水素基が挙げられる。1価の炭化水素基の炭素原子数は、好ましくは1~12であり、より好ましくは1~6であり、さらにより好ましくは1~4である。
【0017】
1価の鎖状炭化水素基とは、鎖状構造のみで構成された炭化水素基を意味する。鎖状構造は、直鎖状であっても分岐状であってもよい。1価の鎖状炭化水素基の炭素原子数は、好ましくは1~12であり、より好ましくは1~6であり、さらにより好ましくは1~4である。1価の鎖状炭化水素基としては、例えば、アルキル、アルケニル、アルキニルが挙げられる。アルキル、アルケニル、およびアルキニルは、直鎖状、または分岐状のいずれであってもよい。
アルキルの炭素原子数は、好ましくは1~12であり、より好ましくは1~6であり、さらにより好ましくは1~4である。このようなアルキルとしては、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、s-ブチル、イソブチル、t-ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ドデシルが挙げられる。
アルケニルの炭素原子数は、好ましくは2~12であり、より好ましくは2~6であり、さらにより好ましくは2~4である。このようなアルケニルとしては、例えば、ビニル、プロペニル、n-ブテニルが挙げられる。
アルキニルの炭素原子数は、好ましくは2~12であり、より好ましくは2~6であり、さらにより好ましくは2~4である。このようなアルキニルとしては、例えば、エチニル、プロピニル、n-ブチニルが挙げられる。
1価の鎖状炭化水素基としては、アルキルが好ましい。
【0018】
1価の脂環式炭化水素基とは、環構造として脂環式炭化水素のみを含み、芳香族環を含まない炭化水素基を意味する。脂環式炭化水素は、単環または多環のいずれであってもよい。ただし、1価の脂環式炭化水素基は、脂環式炭化水素のみで構成されている必要はなく、その一部に鎖状構造を含んでいてもよい。1価の脂環式炭化水素基の炭素原子数は、好ましくは3~12であり、より好ましくは3~6であり、さらにより好ましくは5または6である。1価の脂環式炭化水素基としては、例えば、シクロアルキル、シクロアルケニル、シクロアルキニルが挙げられる。1価の脂環式炭化水素基は、単環または多環のいずれであってもよい。
シクロアルキルの炭素原子数は、好ましくは3~12であり、より好ましくは3~6であり、さらにより好ましくは5または6である。このようなシクロアルキルとしては、例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシルが挙げられる。
シクロアルケニルの炭素原子数は、好ましくは3~12であり、より好ましくは3~6であり、さらにより好ましくは5または6である。このようなシクロアルケニルとしては、例えば、シクロプロペニル、シクロブテニル、シクロペンテニル、シクロヘキセニルが挙げられる。
シクロアルキニルの炭素原子数は、好ましくは3~12であり、より好ましくは3~6であり、さらにより好ましくは5または6である。このようなシクロアルキニルとしては、例えば、シクロプロピニル、シクロブチニル、シクロペンチニル、シクロヘキシニルが挙げられる。
1価の脂環式炭化水素基としては、シクロアルキルが好ましい。
【0019】
1価の芳香族炭化水素基とは、芳香族環構造を含む炭化水素基を意味する。ただし、1価の芳香族炭化水素基は、芳香族環のみで構成されている必要はなく、その一部に鎖状構造や脂環式炭化水素を含んでいてもよい。また、芳香族環は、単環または多環のいずれであってもよい。1価の芳香族炭化水素基としては、アリールが好ましい。1価の芳香族炭化水素基の炭素原子数は、好ましくは6~12であり、より好ましくは6~10であり、さらにより好ましくは6である。このような1価の芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル、ナフチルが挙げられる。
1価の芳香族炭化水素基としては、フェニルが好ましい。
【0020】
これらの中でも、1価の炭化水素基としては、アルキル、シクロアルキル、アリールが好ましく、アルキルがより好ましい。
【0021】
1-3.1価の複素環基に関連する用語
「1価の複素環基」とは、複素環式化合物の複素環から水素原子1個を除いた基を意味する。1価の複素環基は、1価の芳香族複素環基、または1価の非芳香族複素環基である。複素環基を構成するヘテロ原子として、酸素原子、硫黄原子、窒素原子、リン原子、ホウ素原子およびケイ素原子からなる群から選択される1種以上(例、1種、2種、3種)を含むことが好ましく、酸素原子、硫黄原子および窒素原子からなる群から選択される1種以上(例、1種、2種、3種)を含むことがより好ましく、窒素原子を1個以上(例、1個、2個)含むことがさらにより好ましい。
【0022】
1価の芳香族複素環基の炭素原子数は、好ましくは3~15であり、より好ましくは3~9であり、さらにより好ましくは3~6である。このような1価の芳香族複素環基としては、例えば、ピレニル、ピロリル、フラニル、チオフェニル、ピリジニル、ピリダジニル、ピリミジニル、ピラジニル、トリアジニル、ピロリニル、ピペリジニル、トリアゾニル、プリニル、カルバゾニル、フルオレニル、キノリニル、イソキノリニル、イミダゾリル、およびインドリルが挙げられる。
【0023】
1価の非芳香族複素環基の炭素原子数は、好ましくは3~15であり、より好ましくは3~9であり、さらにより好ましくは3~6である。このような1価の非芳香族複素環基としては、例えば、オキシラニル、アジリジニル、アゼチジニル、オキセタニル、チエタニル、ピロリジニル、ジヒドロフラニル、テトラヒドロフラニル、ジオキソラニル、テトラヒドロチオフェニル、イミダゾリジニル、オキサゾリジニル、ピペリジニル、ジヒドロピラニル、テトラヒドロピラニル、テトラヒドロチオピラニル、モルホリニル、チオモルホリニル、ピペラジニル、ジヒドロオキサジニル、テトラヒドロオキサジニル、ジヒドロピリミジニル、およびテトラヒドロピリミジニルが挙げられる。
【0024】
1-4.2価の炭化水素基に関連する用語
「2価の炭化水素基」としては、例えば、2価の鎖状炭化水素基、2価の脂環式炭化水素基、および2価の芳香族炭化水素基が挙げられる。2価の炭化水素基の炭素原子数は、好ましくは1~12であり、より好ましくは1~6であり、さらにより好ましくは1~4である。
【0025】
2価の鎖状炭化水素基とは、鎖状構造のみで構成された2価の炭化水素基を意味する。鎖状構造は、直鎖状であっても分岐状であってもよい。2価の鎖状炭化水素基の炭素原子数は、好ましくは1~12であり、より好ましくは1~6であり、さらにより好ましくは1~4である。2価の鎖状炭化水素基としては、例えば、アルキレン、アルケニレン、アルキニレンが挙げられる。アルキレン、アルケニレン、およびアルキニレンは、直鎖状、または分岐状のいずれであってもよい。
アルキレンの炭素原子数は、好ましくは1~12であり、より好ましくは1~6であり、さらにより好ましくは1~4である。このようなアルキレンとしては、例えば、メチレン、エチレン、プロピレン、ブチレン、ペンチレン、へキシレンが挙げられる。
アルケニレンの炭素原子数は、好ましくは2~12であり、より好ましくは2~6であり、さらにより好ましくは2~4である。このようなアルケニレンとしては、例えば、エチレニレン、プロペニレン、ブテニレン、ペンテニレン、へキセニレンが挙げられる。
アルキニレンの炭素原子数は、好ましくは2~12であり、より好ましくは2~6であり、さらにより好ましくは2~4である。このようなアルキニレンとしては、例えば、エチニレン、プロピニレン、ブチニレン、ペンチニレン、へキシニレンが挙げられる。
2価の鎖状炭化水素基としては、アルキレンが好ましい。
【0026】
2価の脂環式炭化水素基とは、環構造として脂環式炭化水素のみを含み、芳香族環を含まない2価の炭化水素基を意味する。脂環式炭化水素は、単環または多環のいずれであってもよい。ただし、2価の脂環式炭化水素基は、脂環式炭化水素のみで構成されている必要はなく、その一部に鎖状構造を含んでいてもよい。2価の脂環式炭化水素基の炭素原子数は、好ましくは3~12であり、より好ましくは3~6であり、さらにより好ましくは5または6である。2価の脂環式炭化水素基としては、例えば、シクロアルキレン、シクロアルケニレン、シクロアルキニレンが挙げられる。2価の脂環式炭化水素基は、単環または多環のいずれであってもよい。
シクロアルキレンの炭素原子数は、好ましくは3~12であり、より好ましくは3~6であり、さらにより好ましくは5または6である。このようなシクロアルキレンとしては、例えば、シクロプロピレン、シクロブチレン、シクロペンチレン、シクロへキシレンが挙げられる。
シクロアルケニレンの炭素原子数は、好ましくは3~12であり、より好ましくは3~6であり、さらにより好ましくは5または6である。このようなシクロアルケニレンとしては、例えば、シクロプロペニレン、シクロブテニレン、シクロペンテニレン、シクロへキセニレンが挙げられる。
シクロアルキニレンの炭素原子数は、好ましくは3~12であり、より好ましくは3~6であり、さらにより好ましくは5または6である。このようなシクロアルキニレンとしては、例えば、シクロプロピニレン、シクロブチニレン、シクロペンチニレン、シクロへキシニレンが挙げられる。
2価の脂環式炭化水素基としては、シクロアルキレンが好ましい。
【0027】
2価の芳香族炭化水素基とは、芳香族環構造を含む2価の炭化水素基を意味する。ただし、2価の芳香族炭化水素基は、芳香族環のみで構成されている必要はなく、その一部に鎖状構造や脂環式炭化水素を含んでいてもよい。また、芳香族環は、単環または多環のいずれであってもよい。2価の芳香族炭化水素基としては、アリーレンが好ましい。2価の芳香族炭化水素基の炭素原子数は、好ましくは6~12であり、より好ましくは6~10であり、さらにより好ましくは6である。このような2価の芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニレン、ナフチレンが挙げられる。
2価の芳香族炭化水素基としては、フェニレンが好ましい。
【0028】
これらの中でも、2価の炭化水素基としては、アルキレン、シクロアルキレン、アリーレンが好ましく、アルキレン、アリーレンがより好ましく、アルキレンがさらにより好ましい。
【0029】
1-5.2価の複素環基に関連する用語
「2価の複素環基」とは、複素環式化合物の複素環から水素原子2個を除いた基を意味する。2価の複素環基は、2価の芳香族複素環基、または2価の非芳香族複素環基である。複素環基を構成するヘテロ原子として、酸素原子、硫黄原子、窒素原子、リン原子、ホウ素原子およびケイ素原子からなる群から選択される1種以上(例、1種、2種、3種)を含むことが好ましく、酸素原子、硫黄原子および窒素原子からなる群から選択される1種以上(例、1種、2種、3種)を含むことがより好ましく、窒素原子を1個以上(例、1個、2個)含むことがさらにより好ましい。
【0030】
2価の芳香族複素環基の炭素原子数は、好ましくは3~15であり、より好ましくは3~9であり、さらにより好ましくは3~6である。このような2価の芳香族複素環基としては、例えば、ピレンジイル、ピロールジイル、フランジイル、チオフェンジイル、ピリジンジイル、ピリダジンジイル、ピリミジンジイル、ピラジンジイル、トリアジンジイル、ピロリンジイル、ピペリジンジイル、トリアゾールジイル、プリンジイル、アントラキノンジイル、カルバゾールジイル、フルオレンジイル、キノリンジイル、およびイソキノリンジイルが挙げられる。
【0031】
2価の非芳香族複素環基の炭素原子数は、好ましくは3~15であり、より好ましくは3~9であり、さらにより好ましくは3~6である。このような2価の非芳香族複素環基としては、例えば、オキシランジイル、アジリジンジイル、アゼチジンジイル、オキセタンジイル、チエタンジイル、ピロリジンジイル、ジヒドロフランジイル、テトラヒドロフランジイル、ジオキソランジイル、テトラヒドロチオフェンジイル、イミダゾリジンジイル、オキサゾリジンジイル、ピペリジンジイル、ジヒドロピランジイル、テトラヒドロピランジイル、テトラヒドロチオピランジイル、モルホリンジイル、チオモルホリンジイル、ピペラジンジイル、ジヒドロオキサジンジイル、テトラヒドロオキサジンジイル、ジヒドロピリミジンジイル、およびテトラヒドロピリミジンジイルが挙げられる。
【0032】
1-6.炭素原子数3以上の1価の炭化水素基に関連する用語
「炭素原子数3以上の1価の炭化水素基」としては、例えば、炭素原子数3以上の1価の鎖状炭化水素基、1価の脂環式炭化水素基、および1価の芳香族炭化水素基が挙げられる。炭素原子数3以上の1価の炭化水素基の炭素原子数は、好ましくは6以上であり、より好ましくは8以上である。炭素原子数3以上の1価の炭化水素基の炭素原子数はまた、好ましくは15以下であり、より好ましくは12以下である。より具体的には、炭素原子数3以上の1価の炭化水素基の炭素原子数は、好ましくは6~15であり、より好ましくは8~12である。
【0033】
炭素原子数3以上の1価の鎖状炭化水素基とは、鎖状構造のみで構成された炭化水素基を意味する。鎖状構造は、直鎖状であっても分岐状であってもよい。炭素原子数3以上の1価の鎖状炭化水素基の炭素原子数は、好ましくは6以上であり、より好ましくは8以上である。炭素原子数3以上の1価の鎖状炭化水素基の炭素原子数はまた、好ましくは15以下であり、より好ましくは12以下である。より具体的には、炭素原子数3以上の1価の鎖状炭化水素基の炭素原子数は、好ましくは6~15であり、より好ましくは8~12である。炭素原子数3以上の1価の鎖状炭化水素基としては、例えば、炭素原子数3以上のアルキル、炭素原子数3以上のアルケニル、炭素原子数3以上のアルキニルが挙げられる。炭素原子数3以上のアルキル、炭素原子数3以上のアルケニル、および炭素原子数3以上のアルキニルは、直鎖状、または分岐状のいずれであってもよい。
炭素原子数3以上のアルキルの炭素原子数は、好ましくは6~15であり、より好ましくは8~12である。このようなアルキルとしては、例えば、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシルが挙げられる。
炭素原子数3以上のアルケニルの炭素原子数は、好ましくは6~15であり、より好ましくは8~12である。このようなアルケニルとしては、例えば、オクテニル、ノネニル、デセニル、ウンデセニル、ドデセニルが挙げられる。
炭素原子数3以上のアルキニルの炭素原子数は、好ましくは6~15であり、より好ましくは8~12である。このようなアルキニルとしては、例えば、オクチニル、ノニニル、デシニル、ウンデシニル、ドデシニルが挙げられる。
炭素原子数3以上の1価の鎖状炭化水素基としては、炭素原子数3以上のアルキルが好ましい。
【0034】
炭素原子数3以上の1価の炭化水素基との関連において、1価の脂環式炭化水素基とは、環構造として脂環式炭化水素のみを含み、芳香族環を含まない炭化水素基を意味する。脂環式炭化水素は、単環または多環のいずれであってもよい。ただし、このような1価の脂環式炭化水素基は、脂環式炭化水素のみで構成されている必要はなく、その一部に鎖状構造を含んでいてもよい。このような1価の脂環式炭化水素基の炭素原子数は、好ましくは6~15であり、より好ましくは8~12である。このような1価の脂環式炭化水素基としては、例えば、シクロアルキル、シクロアルケニル、シクロアルキニルが挙げられる。このような1価の脂環式炭化水素基は、単環または多環のいずれであってもよい。
炭素原子数3以上の1価の炭化水素基との関連において、シクロアルキルの炭素原子数は、好ましくは6~15であり、より好ましくは8~12である。このようなシクロアルキルとしては、例えば、シクロオクチル、シクロノニル、シクロデシル、シクロウンデシル、シクロドデシルが挙げられる。
炭素原子数3以上の1価の炭化水素基との関連において、シクロアルケニルの炭素原子数は、好ましくは6~15であり、より好ましくは8~12である。このようなシクロアルケニルとしては、例えば、シクロオクテニル、シクロノネニル、シクロデセニル、シクロウンデセニル、シクロドデセニルが挙げられる。
炭素原子数3以上の1価の炭化水素基との関連において、シクロアルキニルの炭素原子数は、好ましくは6~15であり、より好ましくは8~12である。このようなシクロアルキニルとしては、例えば、シクロオクチニル、シクロノニニル、シクロデシニル、シクロウンデシニル、シクロドデシニルが挙げられる。
炭素原子数3以上の1価の炭化水素基との関連において、1価の脂環式炭化水素基としては、シクロアルキルが好ましい。
【0035】
炭素原子数3以上の1価の炭化水素基との関連において、1価の芳香族炭化水素基とは、芳香族環構造を含む炭化水素基を意味する。ただし、1価の芳香族炭化水素基は、芳香族環のみで構成されている必要はなく、その一部に鎖状構造や脂環式炭化水素を含んでいてもよい。また、芳香族環は、単環または多環のいずれであってもよい。1価の芳香族炭化水素基としては、アリールが好ましい。このような1価の芳香族炭化水素基の炭素原子数は、好ましくは6~14である。このような1価の芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル、ナフチル、アントラセニルが挙げられる。
炭素原子数3以上の1価の炭化水素基との関連において、1価の芳香族炭化水素基としては、フェニル、ナフチル、アントラセニルが好ましい。
【0036】
これらの中でも、炭素原子数3以上の1価の炭化水素基としては、炭素原子数3以上のアルキル、シクロアルキル、アリールが好ましく、炭素原子数3以上のアルキルがより好ましい。
【0037】
1-7.炭素原子数8~12の1価の炭化水素基に関連する用語
「炭素原子数8~12の1価の炭化水素基」は、上述した「炭素原子数3以上の1価の炭化水素基」のうち、より好ましい炭素原子数として言及されたものに該当する。したがって、「炭素原子数8~12の1価の炭化水素基」としては、例えば、炭素原子数8~12の1価の鎖状炭化水素基、炭素原子数8~12の1価の脂環式炭化水素基、および炭素原子数8~12の1価の芳香族炭化水素基が挙げられる。炭素原子数8~12の1価の鎖状炭化水素基としては、例えば、炭素原子数8~12のアルキル、炭素原子数8~12のアルケニル、および炭素原子数8~12のアルキニルが挙げられるが、炭素原子数8~12のアルキルが好ましい。炭素原子数8~12の1価の脂環式炭化水素基としては、例えば、炭素原子数8~12のシクロアルキル、炭素原子数8~12のシクロアルケニル、および炭素原子数8~12のシクロアルキニルが挙げられるが、炭素原子数8~12のシクロアルキルが好ましい。炭素原子数8~12の1価の炭化水素基は、好ましくは、炭素原子数8~12の1価の鎖状炭化水素基であり、より好ましくは、炭素原子数8~12のアルキルである。
【0038】
1-8.その他の基
「アラルキル」とは、1価の芳香族炭化水素基を有するアルキルをいう。アルキルが有する1価の芳香族炭化水素基は、「1価の炭化水素基」の例として上述した1価の芳香族炭化水素基と同様である。1価の芳香族炭化水素基を有するアルキルにおけるアルキルは、「1価の炭化水素基」の例として上述したアルキルと同様である。アラルキルとしては、炭素原子数7~15のアラルキルが好ましい。このようなアラルキルとしては、例えば、ベンゾイル、フェネチル、ナフチルメチル、ナフチルエチルが挙げられる。
【0039】
「ヘテロアラルキル」とは、1価の芳香族複素環基を有するアルキルをいう。アルキルが有する1価の芳香族複素環基は、「1価の炭化水素基」の例として上述した1価の芳香族複素環基と同様である。1価の芳香族複素環基を有するアルキルにおけるアルキルは、「1価の炭化水素基」の例として上述したアルキルと同様である。ヘテロアラルキルとしては、炭素原子数7~15のヘテロアラルキルが好ましい。このようなヘテロアラルキルとしては、例えば、ヘテロアリールメチル、ヘテロアリールエチルが挙げられる。
【0040】
1-9.「置換されていてもよい基」が置換基を有する基である場合の置換基
置換されていてもよい基が置換基を有する基である場合、置換基の数は、例えば1~5個、好ましくは1~3個、より好ましくは1もしくは2個、さらにより好ましくは1個である。このような場合、置換基としては、例えば、以下が挙げられる:
(i)ハロゲン原子(例、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子);
(ii)1価の炭化水素基;
(iii)1価の複素環基;
(iv)アミノ、ヒドロキシル、スルファニル、カルボキシル、グアニジノ、シアノ、アジド、ニトロ、硫酸基、スルホン酸基、カルバモイル、カルバモイルアミノ、リン酸基からなる群より選ばれる基。
【0041】
好ましくは、置換基は、以下である;
(i)ハロゲン原子;
(ii)1価の炭化水素基;
(iii)上記(iv)の基。
【0042】
より好ましくは、置換基は、以下である;
(i)ハロゲン原子;
(ii)アルキル;
(iii)上記(iv)の基。
【0043】
さらにより好ましくは、置換基は、以下である;
(i)ハロゲン原子;
(ii)アルキル。
【0044】
特に好ましくは、置換基は、以下である;
(i)ハロゲン原子。
【0045】
「置換されていてもよい基」が置換基を有する基である場合の置換基は、式〔例、式(I)、(I’)、(I’’)、(I’’’)、(II)〕の化合物において、R、R、R、および/またはRで直接的に表される置換基とは異なる。したがって、R、R、R、および/またはRで表される置換基については、別途後述する。
【0046】
1-10.置換されていてもよい非芳香族環
「置換されていてもよい非芳香族環」とは、無置換の非芳香族環、または置換基を有する非芳香族環をいう。置換されていてもよい非芳香族環について置換基の数および種類の定義、例および好ましい例は、置換されていてもよい基について上述したものと同様である。
【0047】
「置換されていてもよい非芳香族環」における「非芳香族環」としては、例えば、脂環式炭化水素、非芳香族複素環が挙げられる。
【0048】
脂環式炭化水素は、単環または多環のいずれであってもよい。ただし、脂環式炭化水素は、脂環式炭化水素のみで構成されている必要はなく、その一部に鎖状構造を含んでいてもよい。脂環式炭化水素の炭素原子数は、好ましくは3~12であり、より好ましくは3~6であり、さらにより好ましくは5または6である。1価の脂環式炭化水素基としては、シクロアルカン、シクロアルケン、シクロアルキンが挙げられるが、シクロアルキルが好ましい。
【0049】
非芳香族複素環は、ヘテロ原子およびヘテロ原子を含む環である。非芳香族複素環を構成するヘテロ原子として、酸素原子、硫黄原子、窒素原子、リン原子、ホウ素原子およびケイ素原子からなる群から選択される1種以上(例、1種、2種、3種)を含むことが好ましく、酸素原子、硫黄原子および窒素原子からなる群から選択される1種以上(例、1種、2種、3種)を含むことがより好ましく、窒素原子を1個以上(例、1個、2個)含むことがさらにより好ましい。非芳香族複素環の炭素原子数は、好ましくは3~15であり、より好ましくは3~9であり、さらにより好ましくは3~6である。このような非芳香族複素環としては、例えば、アジリジン、アゼチジン、オキセタン、チエタン、ピロリジン、ジヒドロフラン、テトラヒドロフラン、ジオキソラン、テトラヒドロチオフェン、イミダゾリジン、オキサゾリジン、ピペリジン、ジヒドロピラン、テトラヒドロピラン、テトラヒドロチオピラン、モルホリン、チオモルホリン、ピペラジン、ジヒドロオキサジン、テトラヒドロオキサジン、ジヒドロピリミジン、およびテトラヒドロピリミジンが挙げられる。
【0050】
2.立体異性体の製造方法
2-1.序論
本発明は、立体異性体の製造方法を提供する。
【0051】
本発明の方法は、下記(1)および(2)を含む:
(1)水素原子含有アミノ基を有する不斉炭素原子を含む物質を、上記式(I)の化合物と反応させて、前記物質の立体異性体を生成すること;および
(2)前記立体異性体を式(I)の化合物から分離すること。
【0052】
2-2.反応工程(1)
2-2-1.反応の概要の説明
本工程では、式(1)の化合物を触媒として用いることにより、「水素原子含有アミノ基を有する不斉炭素原子を含む物質」(反応の出発物質)における当該不斉炭素原子のキラリティが変換され(ラセミ化)、これにより上記物質の立体異性体(生成物)が得られる。反応の出発物質および生成物は、水素原子含有アミノ基を有する不斉炭素原子に関して立体異性体の関係にある。したがって、上記物質の立体異性体には、エナンチオマーのみならず、ジアステレオマー(出発物質が上記不斉炭素原子以外に複数の不斉原子を含む場合)もまた含まれる。
【0053】
2-2-2.式(I)の化合物(触媒)
本発明において触媒として用いられる式(I)の化合物は、以下のとおりである:
【化6】
〔式中、
XおよびYは、それぞれ独立して、窒素原子、または炭素原子であり、
、R、R、およびRの少なくとも1つは、水素原子含有アミノ基を有する不斉炭素原子を含む物質の立体異性体から式(I)の化合物を分離する能力を有する基であり、
、R、R、およびRの残りは、それぞれ、水素原子、または置換基であり、
Xが窒素原子である場合、Rは存在せず、
Yが窒素原子である場合、Rは存在せず、
XおよびYの双方が炭素原子である場合、RおよびRの少なくとも1つは、置換基として-NOである。〕の化合物。
【0054】
式(I)の化合物がXおよびYの上記条件を満たす場合、式(I)の化合物との反応により生成する反応中間体が安定化するため、反応エネルギーを低下させることができる(例、参考例1を参照)。したがって、式(I)の化合物は、上記物質のキラリティの変換(ラセミ化)を加速することができる。
【0055】
Xが窒素原子である化合物(アルデヒド基が結合している環構成原子に対してパラ位の環構成原子が窒素原子であるピリジン環の場合)のみが実施例および参考例で実証されているものの、ピリジン環の共鳴式(下記参照)を考慮すると、Yが窒素原子である化合物(アルデヒド基が結合している環構成原子に対してオルト位の環構成原子が窒素原子であるピリジン環の場合)、ならびにXおよびYの双方が窒素原子である化合物(ピリミジン環の場合)についても、Xが窒素原子である化合物と同様の効果を期待することができる。また、共鳴式および反応性の観点からニトロベンゼン環をピリジン環のモデルとみなすことができることは、当該分野における技術常識である(下記参照)。したがって、Xおよび/またはYは、窒素原子(N)の代わりに、置換基としてニトロ基を有する炭素原子であってもよい。Xおよび/またはYが、窒素原子、または置換基としてニトロ基を有する炭素原子のいずれであっても、水素原子含有アミノ基を有する不斉炭素原子を含む物質のキラリティの変換(ラセミ化)の加速を期待することができる。
【化7】
【0056】
一実施形態では、式(I)の化合物において、Xは、窒素原子である。この場合、Yは、窒素原子または炭素原子であってもよい。Yが炭素原子である場合、Yの炭素原子は、置換基としてニトロ基を有していてもよいが、有していなくてもよい。
【0057】
別の実施形態では、式(I)の化合物において、Yは、窒素原子である。この場合、Xは、窒素原子または炭素原子であってもよい。Xが炭素原子である場合、Xの炭素原子は、置換基としてニトロ基を有していてもよいが、有していなくてもよい。
【0058】
さらに別の実施形態では、式(I)の化合物において、XおよびYの双方は、炭素原子である。この場合、XおよびYの炭素原子の少なくとも一方は、置換基としてニトロ基を有する。
【0059】
より具体的には、XおよびYの上記条件を満たす式(I)の化合物は、Xおよび/またはYが窒素原子または炭素原子であるかの観点から整理すると、以下(A)~(C)のとおり分類することができる。
【0060】
(A)Xが窒素原子である場合
【化8】
〔式中、
Yは、窒素原子、または炭素原子であり、
、R、およびRの少なくとも1つは、水素原子含有アミノ基を有する不斉炭素原子を含む物質の立体異性体から式(I’)の化合物を分離する能力を有する基であり、
、R、およびRの残りは、それぞれ、水素原子、または置換基であり、
Yが窒素原子である場合、Rは存在しない。〕の化合物。
【0061】
上記式(I’)の化合物において、Yは、好ましくは炭素原子である。
【0062】
(B)Yが窒素原子である場合
【化9】
〔式中、
Xは、窒素原子、または炭素原子であり、
、R、およびRの少なくとも1つは、水素原子含有アミノ基を有する不斉炭素原子を含む物質の立体異性体から式(I’’)の化合物を分離する能力を有する基であり、
、R、およびRの残りは、それぞれ、水素原子、または置換基であり、
Xが窒素原子である場合、Rは存在しない。〕の化合物。
【0063】
上記式(I’’)の化合物において、Xは、好ましくは炭素原子である。
【0064】
(C)XおよびYの双方が炭素原子である場合
【化10】
〔式中、
、R、R、およびRの少なくとも1つは、水素原子含有アミノ基を有する不斉炭素原子を含む物質の立体異性体から式(I’’’)の化合物を分離する能力を有する基であり、
、R、R、およびRの残りは、それぞれ、水素原子、または置換基であり、
およびRの少なくとも1つは、置換基として-NOである。〕の化合物。
【0065】
上記式(I’’’)の化合物において、RおよびRの一方または双方が、置換基として-NOであってもよい。
【0066】
式(I)の化合物において、好ましくは、XおよびYの一方が窒素原子であり、他方が炭素原子であってもよい。したがって、式(I)の化合物としては、式(I’)または式(I’’)の化合物が好ましい。
【0067】
好ましい実施形態では、式(I)の化合物は、下記式(II)の化合物であってもよい:
【化11】
〔式中、
、R、およびRの少なくとも1つは、水素原子含有アミノ基を有する不斉炭素原子を含む物質およびその立体異性体から式(II)の化合物を分離する能力を有する基であり、
、R、およびRの残りは、それぞれ独立して、水素原子、または置換基である。〕の化合物。
【0068】
水素原子含有アミノ基を有する不斉炭素原子を含む物質およびその立体異性体から式〔例、式(I)、(I’)、(I’’)、(I’’’)、(II)〕の化合物を分離する能力を有する基とは、所望の分離方法による、上記物質およびその立体異性体からの上記式の化合物の分離に貢献できる基をいう。したがって、所望の分離方法に応じて、上記物質およびその立体異性体から上記式の化合物を分離する能力を有する基の種類は異なり得る。以下、上記物質およびその立体異性体から上記式の化合物を分離する能力を有する基を、単に「分離基」と称することがある。
【0069】
本発明の方法によれば、水素原子含有アミノ基を有する不斉炭素原子を含む物質のキラリティの変換は、常温等の温和な条件で進行させることができる。また、本発明の方法によれば、上記物質が安定である場合には、キラリティの変換の反応を加温により加速させることも可能である。したがって、反応系に含まれる上記物質およびその立体異性体の比率を一定に維持するためには、上記物質およびその立体異性体から触媒を速やかに分離することにより反応を停止させる必要がある。上記物質およびその立体異性体を触媒から分離するためには、一般に、晶析が用いられている。しかし、晶析は、小規模の系では、上述したように、目的物を実質体に分離(単離)できないという欠点がある。晶析はまた、小規模以外の規模の系でも、結晶の析出に多くの時間を要するという欠点がある。上記物質およびその立体異性体から触媒を分離することを容易にするように特定の触媒を上記のような分離基で誘導体化するという技術的思想に基づき完成された本発明の方法によれば、系の規模にかかわらず、種々のアミノ酸からその立体異性体を効率的かつ簡便に製造することができ、しかも、アミノ酸の立体異性体を触媒から速やかに分離することにより、反応を停止させることもできる。
【0070】
一実施形態では、分離基は、疎水度が高い基である。式の化合物の疎水度が、水素原子含有アミノ基を有する不斉炭素原子を含む物質およびその立体異性体の疎水度よりも十分に高い場合、疎水性相互作用を利用する分離方法により、上記物質およびその立体異性体から式の化合物を良好に分離することができる。したがって、式の化合物の疎水度が、上記物質およびその立体異性体の疎水度よりも十分に高くなるように、分離基が選択される。疎水度の指標としては、例えばLogD値を利用することができる。LogD値は、例えば、シミュレーションプログラム(例、BIOVIA社Discovery Studio バージョン2017R2)により算出することができる。式の化合物のLogD値は、上記物質およびその立体異性体のLogD値よりも1.0高いことが好ましい。このような場合、式の化合物の疎水度は、上記物質およびその立体異性体の疎水度よりも十分に高いとみなすことができる。さらなる分離能の確保のため、式の化合物のLogD値は、上記物質およびその立体異性体のLogD値よりも、好ましくは1.2、より好ましくは1.5、さらにより好ましくは1.8高くてもよい。
【0071】
また、水素原子含有アミノ基を有する不斉炭素原子を含む物質およびその立体異性体の種類によらない汎用性の確保等の観点から、分離基を設計することもできる。例えば、一般に知られているアミノ酸(例、タンパク質の構成成分である天然のα-アミノ酸)よりも高い疎水度(例、約0以上のLogD値(0、1、2、3、4、5など)。参考例3を参照)を付与できる分離基を有する式の化合物は、キラリティの変換のための高い汎用性を備える。したがって、このような高い疎水度を付与できる分離基を用いることが好ましい。
【0072】
上述したような高い疎水度の付与を考慮すると、式の化合物における他の置換基(例、メチル基)の有無によっても異なるが、分離基は、炭素原子数4以上の疎水性基であることが好ましい。疎水性基とは、水溶液中においてイオン化可能な部分(例、アミノ基、カルボキシル基)および水素結合可能な部分(例、ヒドロキシル基)を含まない基をいう。分離基は、炭素原子数4以上の疎水性基である場合、(i)水素原子含有アミノ基を有する不斉炭素原子を含む物質およびその立体異性体から式の化合物を良好に分離することができ(例、実施例1を参照)、しかも(ii)上記物質からその立体異性体への変換において高い変換効率を示すことができる(例、参考例2を参照)。
【0073】
好ましくは、炭素原子数4以上の疎水性基は、-A-(B)-Dで表される基(ここで、Aは、置換されていてもよい2価の炭化水素基であり、Bは、-O-、-O-C(=O)-、-O-C(=S)-、-O-S(=O)-O-、-N-S(=O)-N-、-O-S(=O)-N-、-N-S(=O)-O-、-N-C(=O)-、-N-C(=S)-、-S-S-、-C=N-O-、-C=N-NH-、-O-P(=O)(-OH)-O-、-O-P(=O)(-OH)-N-、-N-P(=O)(-OH)-O-、-N-P(=O)(-OH)-N-、または2価のトリアゾールであり、Dは、置換されていてもよい1価の炭化水素基であり、nは、0または1であり、A、BおよびDにおける炭素原子の総数が4以上である。)である。2価のトリアゾールとしては、2価の1,2,3-トリアゾールが好ましい。2価の1,2,3-トリアゾールとしては、例えば、以下が挙げられる:
【化12】
【0074】
nが0であるとき、Bは存在しない。この場合、-A-(B)-D(n=0)は、-A-Dを意味する。
【0075】
nが0であるとき、AおよびDは、異なるカテゴリーに属する炭化水素基であってもよい。例えば、Aが2価の鎖状炭化水素基(例、アルキレン)であり、Bが2価の脂環式炭化水素基、または2価の芳香族炭化水素であってもよい。また、Aが2価の脂環式炭化水素基、または2価の芳香族炭化水素であり、Bが2価の鎖状炭化水素基(例、アルキレン)であってもよい。
【0076】
nが1であるとき、Bは存在する。この場合、-A-(B)-D(n=1)は、-A-B-Dを意味する。
【0077】
nが1であるとき、AおよびDは、同一または異なるカテゴリーに属する炭化水素基であってもよい。例えば、AおよびDが2価の鎖状炭化水素基(例、アルキレン)であってもよい。また、Aが2価の鎖状炭化水素基(例、アルキレン)であり、Bが2価の脂環式炭化水素基、または2価の芳香族炭化水素であってもよい。さらに、Aが2価の脂環式炭化水素基、または2価の芳香族炭化水素であり、Bが2価の鎖状炭化水素基(例、アルキレン)であってもよい。
【0078】
Dは、好ましくは、置換されていてもよい炭素原子数3以上の1価の炭化水素基であってもよい。炭素原子数3以上の1価の炭化水素基の定義、例および好ましい例は、上述したとおりである。
【0079】
A、BおよびDにおける炭素原子の総数は、4以上である。A、BおよびDにおける炭素原子の総数は、好ましくは6以上、7以上、8以上、または9以上であってもよい。A、BおよびDにおける炭素原子の総数はまた、式の化合物の水溶性の維持等の観点から、好ましくは15以下、14以下、13以下、または12以下であってもよい。
【0080】
より好ましくは、炭素原子数4以上の疎水性基は、-A-B-Dで表される基(ここで、Aは、アルキレンであり、Bは、-O-、-O-C(=O)-、または-O-C(=S)-であり、Dは、置換されていてもよい炭素原子数3以上の1価の炭化水素基である。)である。
【0081】
さらにより好ましくは、炭素原子数4以上の疎水性基は、-A-B-Dで表される基(ここで、Aは、メチレンであり、Bは、-O-、-O-C(=O)-、または-O-C(=S)-であり、Dは、置換されていてもよい炭素原子数3~12の1価の炭化水素基である。)である。
【0082】
別の実施形態では、分離基は、親和性部分を有する基である。この場合、親和性相互作用を利用する分離方法により、水素原子含有アミノ基を有する不斉炭素原子を含む物質およびその立体異性体から式の化合物を分離することができる。親和性部分は、親和性相互作用を利用する分離方法で用いられる親和性物質との組合せ(親和性対)に応じて適宜選択することができる。このような親和性対としては、ビオチンとアビジンの組合せ、抗原(例、ジゴキシゲニン、FLAGタグペプチド、フルオレセイン骨格を有する化合物)と抗体の組合せ、相補的核酸の組合せ、ペプチド等を使用したアフィニティタグ精製(例、6個程度の連続するヒスチジン残基と固定化金属(例、Ni)によるHisタグ精製)が挙げられる。親和性部分としては、これらの親和性対のいずれも利用することができる。
【0083】
さらに別の実施形態では、分離基は、共有結合を形成可能な部分を有する基である。この場合、共有結合を利用する分離方法により、水素原子含有アミノ基を有する不斉炭素原子を含む物質およびその立体異性体から式の化合物を分離することができる。共有結合を形成可能な部分は、共有結合を利用する分離方法で用いられる共有結合可能な組合せ(共有結合形成対)に応じて適宜選択することができる。このような共有結合形成対としては、クリック反応により容易に共有結合を形成できるアジドとアルキン(エチニル部分)との組合せ、アルデヒドとヒドロキシルアミンとの組み合わせ(オキシム化)、アルデヒドとヒドラジンとの組み合わせ(ヒドラゾン化)が挙げられる。共有結合を形成可能な部分としては、これらの共有結合形成対のいずれも利用することができる。
【0084】
さらに好ましい実施形態では、式(II)の化合物は、下記式(III)の化合物であってもよい:
【化13】
〔式中、
は、-(E)-F(ここで、Eは、-C(=O)-、または-C(=S)-であり、Fは、置換されていてもよい炭素原子数8~12の1価の炭化水素基であり、mは、0または1である。)である。〕の化合物。
【0085】
式(III)の化合物は、ビタミンB6の誘導体である。ビタミンB6の誘導体については、種々の合成法が知られている。Fが置換されていてもよい炭素原子数8~12の1価の炭化水素基である式(III)の化合物は新規であるが、このような既知の方法を参照することにより、式(III)の化合物を容易に合成することができる。
【0086】
mが0であるとき、Eは存在しない。この場合、-(E)-F(m=0)は、-Fを意味する。
【0087】
mが1であるとき、Eは存在する。この場合、-(E)-F(m=1)は、-E-Fを意味する。
【0088】
Fは、置換されていてもよい炭素原子数8~12の1価の炭化水素基である。Fがこのような基であることにより、式(III)の化合物は、(i)水素原子含有アミノ基を有する不斉炭素原子を含む物質およびその立体異性体から式(III)の化合物を良好に分離することができ(例、実施例1を参照)、(ii)上記物質からその立体異性体への変換において高い変換効率を示すことができ(例、参考例2を参照)、しかも(iii)水溶性反応系への十分な溶解性を維持することもできる(例、実施例1、参考例3を参照)。
【0089】
式〔例、式(I)、(I’)、(I’’)、(I’’’)、(II)〕の化合物において、R、R、R、および/またはRで表される置換基としては、例えば、以下の原子または基が挙げられる:
(a1)ハロゲン原子(例、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子);
(a2)置換されていてもよい1価の炭化水素基;
(a3)置換されていてもよい1価の複素環基;
(a4)カルボキシル、グアニジノ、シアノ、アジド、ニトロ、硫酸基、スルホン酸基、カルバモイル、カルバモイルアミノ、リン酸基からなる群より選ばれる基;
(a5)R-Z-、およびR-C(=Z)-(ここで、Zは、酸素原子(O)または硫黄原子(S)である。Rは、水素原子、置換されていてもよい1価の炭化水素基、または置換されていてもよい1価の複素環基である。)からなる群より選ばれる基;
(a6)R-Z-C(=Z)-、およびR-C(=Z)-Z-(ここで、Z、およびZは、それぞれ独立して、酸素原子(O)または硫黄原子(S)である。Rは、水素原子、置換されていてもよい1価の炭化水素基、または置換されていてもよい1価の複素環基である。)からなる群より選ばれる基;
(a7)NR-(ここで、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、置換されていてもよい1価の炭化水素基、または置換されていてもよい1価の複素環基である。);
(a8)NR-C(=Z)-、およびR-C(=Z)-NR-からなる群より選ばれる基(ここで、Zは、酸素原子(O)または硫黄原子(S)である。RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、置換されていてもよい1価の炭化水素基、または置換されていてもよい1価の複素環基である。);
(a9)NR-C(=Z)-Z-(ここで、Z、およびZは、それぞれ独立して、酸素原子(O)または硫黄原子(S)である。RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、置換されていてもよい1価の炭化水素基、または置換されていてもよい1価の複素環基である。);ならびに
(a10)V-W-(ここで、Vは、(a1)~(a9)からなる群より選ばれる基であり、Wは、置換されていてもよい2価の炭化水素基、または置換されていてもよい2価の複素環基である。)。
【0090】
Z、ならびにZおよびZは、酸素原子(O)または硫黄原子(S)のいずれであってもよいが、好ましくは酸素原子(O)である。
【0091】
は、水素原子、置換されていてもよい1価の炭化水素基、または置換されていてもよい1価の複素環基のいずれであってもよいが、好ましくは、水素原子、または置換されていてもよい1価の炭化水素基である。
【0092】
およびRは、それぞれ独立して、水素原子、置換されていてもよい1価の炭化水素基、または置換されていてもよい1価の複素環基のいずれであってもよいが、好ましくは、水素原子、または置換されていてもよい1価の炭化水素基である。
【0093】
好ましくは、(a10)V-W-は、Wが置換されていてもよい2価の鎖状炭化水素基である構造単位であってもよい。より好ましくは、このような構造単位は、置換されていてもよいアラルキル、または置換されていてもよいヘテロアラルキルである。
【0094】
式(I)および(II)の化合物の作製は、当該分野において公知の方法により行うことができる。例えば、式(I)および(II)の化合物は、医薬としての式(I)および(II)の化合物を記載している特願昭42-76016号公報(公告番号:昭46-5149)、およびスカベンジャー剤としての式(I)および(II)の化合物を記載しているIrene Zagol-Ikapitte et al.,Chem.Res.Toxicol.,2010,23(1),pp240-250を参照のこと。式(I)および(II)の化合物の作製はまた、後述する式(III)の化合物の作製と同様にして行うことができる。
【0095】
式(III)の化合物の作製は、例えば、以下の反応(1)~(4)のとおり行うことができる。
【化14】
【0096】
反応(1)は、有機溶媒(例、アセトン)中において2,2-ジメトキシプロパンおよびp-トルエンスルホン酸を用いて、適切な反応温度(例、室温)で所望の時間(例、5~48時間)反応させることにより行うことができる。反応(2)は、有機溶媒(例、DMF)中においてハロゲン化されたRおよび水素化ナトリウムを用いて、適切な反応温度(例、40~80℃)で所望の時間(例、5~48時間)反応させることにより行うことができる。反応(3)は、塩酸および有機溶媒(例、メタノール)を用いて、適切な反応温度(例、室温)で所望の時間(例、5~48時間)反応させることにより行うことができる。反応(4)は、有機溶媒(例、ジクロロメタン)中において二酸化マンガンを用いて、適切な反応温度(例、室温)で所望の時間(例、5~48時間)反応させることにより行うことができる。このような反応(1)~(4)により、式(III)の化合物を作製することができる。
【0097】
2-2-3.水素原子含有アミノ基を有する不斉炭素原子を含む物質
水素原子含有アミノ基とは、1個または2個の水素原子を有するアミノ基をいう。水素原子含有アミノ基における水素原子は、通常の水素原子(H)、または重水素原子(H)もしくは三重水素原子(H)であってもよい。したがって、水素原子含有アミノ基を有する不斉炭素原子を含む物質は、1個または2個の水素原子を有するアミノ基を有する不斉炭素原子をキラル部位として含む。本発明の方法では、水素原子含有アミノ基を有する不斉炭素原子(すなわち、当該アミノ基に対してα位に存在する不斉炭素原子)のキラリティが変換される。
【0098】
不斉炭素原子を含む物質は、水素原子含有アミノ基として、少なくとも1個の水素原子を有するアミノ基(すなわち、1個の水素原子を有するアミノ基(-NHR)、または2個の水素原子を有するアミノ基(-NH))を有する。これは、反応の際、1個の水素原子がアミノ基から引き抜かれる必要があるためである(例、参考例1における反応機構を参照)。不斉炭素原子を含む物質が、1個の水素原子を有するアミノ基(-NHR)を有する場合、当該アミノ基は、置換されていてもよい1価の炭化水素基、または置換されていてもよい1価の複素環基をRとして有する。このようなアミノ基は、置換されていてもよい1価の炭化水素基、または置換されていてもよい1価の複素環基が不斉炭素原子を有する基と一緒になって、不斉炭素原子を有する環を形成していてもよい(例、プロリンを参照)。
【0099】
水素原子含有アミノ基を有する不斉炭素原子を含む物質としては、穏やかな条件下での反応、および/または反応速度の向上等の観点から、2個の水素原子を有するアミノ基(すなわち、-NH)を有する不斉炭素原子を含む物質が好ましい。
【0100】
水素原子含有アミノ基を有する不斉炭素原子は、(a)1個の水素原子含有アミノ基に加え、(b)1個の水素原子(反応の際、引き抜かれるべき原子)、および(c)不斉炭素原子を形成できる原子または基を2個有する。不斉炭素原子を形成できる原子または基(2個)の組合せは、(i)異なる2個のハロゲン原子、もしくは(ii)不斉炭素原子を形成できる異なる2個の基(不斉炭素原子が有する水素原子含有アミノ基と同じ基を除く)、または(iii)ハロゲン原子および不斉炭素原子を形成できる基(不斉炭素原子が有する水素原子含有アミノ基と同じ基を除く)である。不斉炭素原子を形成できる異なる2個の基、および不斉炭素原子を形成できる基は、不斉原子を有していてもよいが、有していなくてもよい。
【0101】
ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
【0102】
不斉炭素原子を形成できる基としては、例えば、以下が挙げられる:
(c1)置換されていてもよい1価の炭化水素基;
(c2)置換されていてもよい1価の複素環基;
(c3)カルボキシル、グアニジノ、シアノ、アジド、ニトロ、硫酸基、スルホン酸基、カルバモイル、カルバモイルアミノ、ニトリル、リン酸基からなる群より選ばれる基;
(c4)R’-Z’-、およびR’-C(=Z’)-(ここで、Z’は、酸素原子(O)、硫黄原子(S)、またはセレン原子(Se)である。R’は、水素原子、置換されていてもよい1価の炭化水素基、または置換されていてもよい1価の複素環基である。)からなる群より選ばれる基;
(c5)R’-Z’-C(=Z’)-、およびR’-C(=Z’)-Z’-(ここで、Z’、およびZ’は、それぞれ独立して、酸素原子(O)または硫黄原子(S)である。R’は、水素原子、置換されていてもよい1価の炭化水素基、または置換されていてもよい1価の複素環基である。)からなる群より選ばれる基;
(c6)NR’R’-(ここで、R’およびR’は、それぞれ独立して、水素原子、置換されていてもよい1価の炭化水素基、または置換されていてもよい1価の複素環基である。ただし、上記水素原子含有アミノ基、好ましくは-NHを除く。);
(c7)NR’R’-C(=Z’)-、およびR’-C(=Z’)-NR’-からなる群より選ばれる基(ここで、Z’は、酸素原子(O)または硫黄原子(S)である。R’およびR’は、それぞれ独立して、水素原子、置換されていてもよい1価の炭化水素基、または置換されていてもよい1価の複素環基である。);
(c8)NR’R’-C(=Z’)-Z’-(ここで、Z’、およびZ’は、それぞれ独立して、酸素原子(O)または硫黄原子(S)である。R’およびR’は、それぞれ独立して、水素原子、置換されていてもよい1価の炭化水素基、または置換されていてもよい1価の複素環基である。);ならびに
(c9)V’-W’-(ここで、V’は、(c1)~(c8)、およびアミノ基からなる群より選ばれる基であり、W’は、置換されていてもよい2価の炭化水素基、または置換されていてもよい2価の複素環基である。)。
【0103】
Z’、ならびにZ’およびZ’は、酸素原子(O)または硫黄原子(S)のいずれであってもよいが、好ましくは酸素原子(O)である。
【0104】
R’は、水素原子、置換されていてもよい1価の炭化水素基、または置換されていてもよい1価の複素環基のいずれであってもよいが、好ましくは、水素原子、または置換されていてもよい1価の炭化水素基である。
【0105】
R’およびR’は、それぞれ独立して、水素原子、置換されていてもよい1価の炭化水素基、または置換されていてもよい1価の複素環基のいずれであってもよいが、好ましくは、水素原子、または置換されていてもよい1価の炭化水素基である。
【0106】
好ましくは、(c9)V’-W’-は、W’が置換されていてもよい2価の鎖状炭化水素基である構造単位であってもよい。より好ましくは、このような構造単位は、置換されていてもよいアラルキル、または置換されていてもよいヘテロアラルキルである。
【0107】
好ましくは、水素原子含有アミノ基を有する不斉炭素原子を含む物質は、アミノ酸、アミノ酸エステル、アミノ酸チオエステル、アミノ酸アミド、アミノニトリル、またはペプチドである。
【0108】
アミノ酸は、(i)1個または2個の水素原子を有するアミノ基、(ii)カルボキシル基、(iii)水素原子、ならびに(iv)上記アミノ基、カルボキシル基、および水素原子以外の上述した原子または基を有する不斉炭素原子を含むアミノ酸であってもよい。(iv)の原子としては、例えば、ハロゲン原子(例、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)が挙げられる。(iv)の基としては、例えば、上述した(c1)~(c9)の基が挙げられる。アミノ酸はまた、(v)1個または2個の水素原子を有するアミノ基、および(vi)カルボキシル基を有し、かつ(vii)上記アミノ基およびカルボキシル基以外の部分が「置換されていてもよい非芳香族環」を構成している、不斉炭素原子が環構成原子であるアミノ酸であってもよい。不斉炭素原子を含む環は、上述したとおりである。これらのアミノ酸がα-アミノ酸であることもまた好ましい。α-アミノ酸としては、例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、トレオニン、システイン、リジン、アルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン、メチオニン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、ヒスチジン、プロリン、ヒドロキシプロリン、α-アミノ酪酸、シスチン、ホモシステイン、ホモシスチン、ホモアルギニン、シトルリン、オルニチン、1-メチルヒスチジン、3-メチルヒスチジン、メチルセレニルシステイン、セレノシステイン、セレノシスチン、セレノメチオニンが挙げられる。実施例により実証されているアミノ酸と(iii)、(iv)、(vii)との関係は、以下のとおりである。
【0109】
【表1】
【0110】
アミノ酸エステルは、上述したようなアミノ酸のカルボキシル基(-COOH)がエステル(-COORα)に修飾されている物質である。アミノ酸エステルとしては、上述したようなα-アミノ酸のエステルが好ましい。エステルにおけるRαとしては、例えば、置換されていてもよい1価の炭化水素基が挙げられる。好ましくは、Rαは、カルボキシル基の汎用保護基であってもよい。このような汎用保護基としては、例えば、メチル、メトキシメチル、メチルチオメチル、ベンジルオキシメチル、tert-ブチル、ベンジル、トリメチルシリル、およびtert-ブチルジメチルシリルが挙げられる。
【0111】
アミノ酸チオエステルは、上述したようなアミノ酸のカルボキシル基(-COOH)がチオエステル(-COSRα)に修飾されている物質である。アミノ酸チオエステルとしては、上述したようなα-アミノ酸のチオエステルが好ましい。チオエステルにおけるRαとしては、例えば、置換されていてもよい1価の炭化水素基が挙げられる。好ましくは、Rαは、上述したようなカルボキシル基の汎用保護基であってもよい。
【0112】
アミノ酸アミドは、上述したようなアミノ酸のカルボキシル基(-COOH)がアミド(-CONRβγ)に修飾されている物質である。アミノ酸アミドとしては、上述したようなα-アミノ酸のアミドが好ましい。アミドにおけるRβおよびRγとしては、例えば、水素原子、置換されていてもよい1価の炭化水素基、または置換されていてもよい1価の複素環基が挙げられる。
【0113】
アミノニトリルは、上述したようなアミノ酸のカルボキシル基(-COOH)がニトリル(-CN)に修飾されている物質である。アミノニトリルとしては、上述したようなα-アミノ酸のカルボキシル基がニトリルに修飾されている物質が好ましい。
【0114】
ペプチドは、上述したアミノ酸がアミド結合により連結された構造を有する化合物である。ペプチドとしては、例えば、2~10個のアミノ酸がアミド結合により連絡された構造を有するオリゴペプチド(例、ジペプチド、トリペプチド、テトラペプチド、ペンタペプチド、ヘキサペプチド、ヘプタペプチド、オクタペプチド)、および11個以上のアミノ酸がアミド結合により連結された構造を有するポリペプチド(タンパク質)が挙げられる。ペプチドにおけるN末端アミノ酸単位は、水素原子含有アミノ基を有する不斉炭素原子を含むが、N末端アミノ酸単位以外のアミノ酸単位は、アミド結合の形成に起因して、水素原子含有アミノ基を有する不斉炭素原子を有し得ない〔アミノ酸単位の側鎖においてアミノ基を有する不斉炭素原子を有する場合、またはアミノ酸単位の側鎖中のアミノ基(例、リジン残基におけるε位のアミノ基)がペプチドの主鎖を構成するアミド結合に関与する場合を除く〕。したがって、「水素原子含有アミノ基を有する不斉炭素原子を含む物質」としてペプチドを用いる場合、ペプチドのN末端アミノ酸のキラリティが変換され得る。ペプチドには、N末端アミノ酸単位の不斉炭素原子が有するアミノ基以外の部分が修飾されているペプチド誘導体も含まれる〔例、C末端アミノ酸のカルボキシル基が、置換されていてもよい1価の炭化水素基(例、上述したような汎用保護基)で修飾された誘導体〕。好ましくは、ペプチドは、アミノ酸のなかでも上記α-アミノ酸がアミド結合により連結された化合物である。
【0115】
水素原子含有アミノ基を有する不斉炭素原子を含む物質は、1種または2種以上(例、2種、3種、4種)の主要核種の同位体(例、安定(非放射性)同位体、または放射性同位体)、好ましくは1種の主要核種の同位体を含む物質であってもよい。このような同位体としては、例えば、主要核種の炭素原子(12C)の同位体(例、11C、13C、14C)、主要核種の水素原子(H)の同位体(例、H、H)、主要核種の酸素原子(16O)の同位体(例、14O、15O、17O、18O)、主要核種の窒素原子(14N)の同位体(例、13N、15N)、主要核種の硫黄原子(32S)の同位体(例、33S、34S、35S、36S)が挙げられる。好ましくは、同位体は、安定同位体である。より好ましくは、同位体は、13C、H、17O、18O、15N、および34Sからなる群より選ばれる安定同位体である。安定同位体標識D-アミノ酸もしくはそれを含むペプチド、またはそれらの誘導体の多くが市販されておらず入手困難であるという当該分野の事情を考慮すると、本発明の方法において安定同位体標識L-アミノ酸もしくはそれを含むペプチド、またはそれらの誘導体を反応の出発物質として用いることにより、上述したような入手困難な物質を生成することもまた好ましい。
【0116】
一実施形態では、水素原子含有アミノ基を有する不斉炭素原子を含む物質として、当該不斉炭素原子のキラリティが単一である物質を用いることができる。例えば、上記物質がアミノ酸である場合、L-アミノ酸またはD-アミノ酸の一方を出発物質として用いることにより、L-アミノ酸およびD-アミノ酸の混合物を生成することができる。
【0117】
別の実施形態では、水素原子含有アミノ基を有する不斉炭素原子を含む物質として、当該不斉炭素原子のキラリティが単一でない物質を用いることができる。例えば、上記物質がアミノ酸である場合、比率が異なるL-アミノ酸およびD-アミノ酸の混合物を出発混合物として用いることにより、出発混合物よりも比率が近いL-アミノ酸およびD-アミノ酸の混合物を生成することができる。
【0118】
本発明の方法において、立体異性体(生成物)は、水素原子含有アミノ基を有する不斉炭素原子を含む物質(反応の出発原料)との混合物の形態において得ることができる。立体異性体は、所望の方法により、このような出発原料から分離された形態(精製物)として提供することもできる。例えば、生成物の出発原料からの分離は、キラル分取カラムにより行うことができる(Separation and Purification Technology,2007.54(3):p.340-348)。分離はまた、(i)混合物をキラル誘導体化試薬でジアステレオマー化し、(ii)ジアステレオマー化した生成物をカラムで出発原料から分離し、(iii)ジアステレオマー化した生成物から誘導体化試薬を切断して生成物を生成し、(iv)生成物を単離または精製することにより、行うことができる。
【0119】
2-2-4.反応条件
反応は、適宜行うことができる。例えば、上記式の化合物は、0.1mM~0.2M等のモル濃度で用いることができる。水素原子含有アミノ基を有する不斉炭素原子を含む物質は、当該物質の立体異性体について所望される生産量によっても異なるが、1mM~2M等のモル濃度で用いることができる。使用される上記物質と上記式の化合物とのモル比(上記物質/上記式の化合物)は、例えば1/10~100(好ましくは1~50、より好ましくは2~20)であってもよい。
【0120】
反応は、温和な条件下で行うことができる。例えば、反応温度は、反応が進行する限り特に限定されないが、非加熱条件の温度で行うことができる。非加熱条件の温度としては、例えば5~50℃を挙げることができる。反応は、好ましくは10~40℃、より好ましくは室温(15~30℃)で行われてもよい(実施例中の反応は、このような温度範囲にある室温で行われている)。
【0121】
反応で用いられる溶媒としては、任意の適切な溶媒を用いることができるが、水溶系溶媒が好ましい。水溶系溶媒としては、例えば、水、および水と他の成分(例、親水性有機溶媒)を含む混合液が挙げられる。親水性有機溶媒としては、例えば、アルコール溶媒(例、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール)、ケトン溶媒(例、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルブチルケトン)、エーテル溶媒(例、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル、ジオキサン)、エステル溶媒(例、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸ブチル、酪酸ブチル)、カルボン酸溶媒(例、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、乳酸)が挙げられる。水溶系溶媒はまた、プロトン性溶媒、または非プロトン性極性溶媒であってもよい。プロトン性溶媒とは、プロトン供与基(例、ヒドロキシル基、水素原子含有アミノ基)を含む有機溶媒をいう。プロトン性溶媒の代表例は、水、アルコール、カルボン酸溶媒、およびアミン溶媒である。反応で用いられる溶媒は、交換可能な重水素を有する溶媒(例、DO)、もしくは交換可能な三重水素を有する溶媒(例、HTO)であってもよく、または交換可能な重水素もしくは三重水素を有する成分を含む溶媒であってもよい。このような溶媒を用いると、アミノ化合物またはその立体異性体中の交換可能な水素原子が、このような溶媒中の水素原子と交換されることにより、アミノ化合物またはその立体異性体中の水素原子を重水素または三重水素に交換することができる。また反対に、同位体標識されていないプロトン性溶媒(例、HO)を用いた場合、重水素または三重水素で標識されたアミノ化合物を、脱重水素化もしくは脱三重水素化することもできる。
【0122】
好ましくは、反応効率の向上等の観点から、反応は、塩基の存在下で行われてもよい。塩基としては、例えば、有機塩基、および無機塩基が挙げられる。有機塩基としては、例えば、トリエチルアミン、トリメチルアミン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、ジアザビシクロウンデセン、ジアザビシクロノネン、ピリジン、2,6-ルチジンが挙げられる。無機塩基としては、例えば、アンモニウム、金属塩が挙げられる。このような金属塩としては、例えば、水酸化物塩(例、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム)、有機イオンと水酸化物塩の組み合わせ(例:水酸化テトラ-n-ブチルアンモニウム)が挙げられる。好ましくは、反応後の立体異性体の単離の観点から、減圧条件で除去可能な揮発性有機塩基(例、上述した有機塩基)を使用してもよい。反応に用いられる塩基の量は、特に限定されないが、例えば、使用される塩基と上記式の化合物とのモル比(使用される塩基/上記式の化合物)は、例えば10000~1/10、好ましくは1000~1、より好ましくは100~10である。あるいは、塩基の存在下における反応は、反応で用いられる溶媒のpHにより規定することもできる。例えば、塩基の存在下における溶媒のpHは、例えば8.5~13.5、好ましくは9.5~12.5、より好ましくは10~11.5である。
【0123】
反応は、種々の規模において行うことができるが、後述する分離方法の種類に応じて、規模を選択することができる。例えば、分離方法が晶析である場合、上述したように小規模の系では目的物を実質的に分離(単離)できないことを考慮すると、反応は、中規模から大規模で行われることが好ましい。一方、分離方法が晶析以外の分離方法で行われる場合、分離方法の具体的な種類、および本発明の方法を用いる意図等の因子にもよるが、反応は、任意の規模で行うことができる。しかし、本発明の方法が小規模においても好適に行うことができることを考慮すると、反応は、低容量で行われてもよい。このような低容量は、例えば1μL~10mL、好ましくは10μL~1mLの容量であってもよい。
【0124】
2-3.分離工程(2)
本発明の方法によれば、水素原子含有アミノ基を有する不斉炭素原子を含む物質のキラリティの変換は、常温等の温和な条件で進行する。したがって、反応系に含まれる上記物質およびその立体異性体の比率の維持のためには、上記物質およびその立体異性体から上記式の化合物を速やかに分離する必要がある。したがって、本分離工程により、上記物質およびその立体異性体の比率の維持、ひいては立体異性体混合物の品質の安定化を実現することができる。
【0125】
分離は、反応系の規模、および分離基の種類等の因子を考慮して適宜行うことができる。例えば、反応系が小規模の系である場合、上述したように晶析では目的物を実質的に分離(単離)できないことを考慮すると、分離は、晶析以外の方法(例、分離基の種類に応じた分離方法)で行うことが好ましい。一方、反応系が中規模から大規模の系である場合、分離方法は、任意の分離方法で行われてもよいが、分離基を利用する観点から、分離基の種類に応じた分離方法で行われることが好ましい。
【0126】
分離基の種類に応じた分離方法としては、例えば、分子間相互作用(例、疎水性相互作用を利用する分離方法、親水性相互作用を利用する分離方法、親和性相互作用を利用する分離方法)、共有結合を利用する分離方法が挙げられる。
【0127】
疎水性相互作用を利用する分離方法としては、例えば、クロマトグラフィー(例、カラムクロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー)、溶媒抽出法が挙げられる。クロマトグラフィーとしては、例えば、疎水性の高い物質を先に溶出する親水性クロマトグラフィー(順相クロマトグラフィー)、および疎水性の高い物質を後に溶出する(または保持する)疎水性クロマトグラフィー(逆相クロマトグラフィー)、イオン性のものを保持するイオン交換クロマトグラフィーが挙げられる。クロマトグラフィーにおける担体および溶媒は、クロマトグラフィーの様式(順相または逆相)、および水素原子含有アミノ基を有する不斉炭素原子を含む物質の種類等の因子に応じて、適宜選択することができる。溶媒抽出法は、例えば、上記式の化合物を選択的に抽出できる疎水性溶媒を用いて行うことができる。このような疎水性溶媒としては、例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、酢酸エチル、ジエチルエーテル、ノルマルヘキサン、エタノール、イソプロパノールが挙げられる。また、水素原子含有アミノ基を有する不斉炭素原子を含む物質およびその立体異性体を抽出できる親水性溶媒としては、例えば水、親水性有機溶媒(例、メタノール、テトラヒドロフラン、N,N-ジメチルホルムアミド、アセトニトリル)、およびこれらの混合液が挙げられる。親水性溶媒としては、使用する疎水性溶媒と混和しないものを選択する必要があるが、当業者であれば、このような親水性溶媒を適宜選択することができる。
【0128】
親水性相互作用を利用する分離方法としては、例えば、クロマトグラフィー(例、カラムクロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー)、溶媒抽出法が挙げられる。クロマトグラフィーとしては、例えば、親水性の低い物質を先に溶出する親水性クロマトグラフィー(順相クロマトグラフィー)、および親水性の低い物質を後に溶出する(または保持する)疎水性クロマトグラフィー(逆相クロマトグラフィー)、イオン性のものを保持するイオン交換クロマトグラフィーが挙げられる。クロマトグラフィーにおける担体および溶媒は、クロマトグラフィーの様式(順相または逆相)、および水素原子含有アミノ基を有する不斉炭素原子を含む物質の種類等の因子に応じて、適宜選択することができる。溶媒抽出法は、親水性溶媒を用いて行うことができる。例えば、上記式の化合物を選択的に抽出できる親水性溶媒としては、例えば水、親水性有機溶媒(例、メタノール、テトラヒドロフラン、N,N-ジメチルホルムアミド、アセトニトリル)、およびこれらの混合液が挙げられる。また、水素原子含有アミノ基を有する不斉炭素原子を含む物質およびその立体異性体を抽出できる疎水性溶媒としては、例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、酢酸エチル、ジエチルエーテル、ノルマルヘキサン、エタノール、イソプロパノールが挙げられる。疎水性溶媒としては、使用する親水性溶媒と混和しないものを選択する必要があるが、当業者であれば、このような疎水性溶媒を適宜選択することができる。
【0129】
親和性相互作用を利用する分離方法としては、例えば、親和性物質を用いる固相法が挙げられる。親和性相互作用を利用する分離方法で利用される親和性物質は、上記式の化合物が有する分離基における親和性部分の種類に応じて適宜選択することができる。親和性物質を用いる固相法では、例えば、反応工程で得られた反応液を、親和性物質を固定した固相(例、カラム、プレート等の支持体、磁性粒子等の粒子)に接触させることにより、水素原子含有アミノ基を有する不斉炭素原子を含む物質およびその立体異性体から上記式の化合物を分離することができる。
【0130】
共有結合を利用する分離方法としては、例えば、共有結合を形成可能な物質を用いる固相法が挙げられる。共有結合を利用する分離方法で利用される共有結合を形成可能な物質は、上記式の化合物が有する分離基における共有結合を形成可能な部分の種類に応じて適宜選択することができる。共有結合を形成可能な物質を用いる固相法では、例えば、反応工程で得られた反応液を、共有結合を形成可能な物質を固定した固相(例、カラム、プレート等の支持体、磁性粒子等の粒子)に接触させることにより、水素原子含有アミノ基を有する不斉炭素原子を含む物質およびその立体異性体から上記式の化合物を分離することができる。
【0131】
3.変換試薬
本発明はまた、水素原子含有アミノ基を有する不斉炭素原子を含む物質のその立体異性体への変換試薬を提供する。
【0132】
本発明の変換試薬は、式(I)の化合物を含む。式(I)の化合物は、好ましくは式(II)の化合物であり、より好ましくは式(III)の化合物である。これらの化合物の詳細(例、これらの化合物中の基)は、上述したものと同様である。
【0133】
本発明の変換試薬は、粉末(例、凍結乾燥粉末)、または液体の形態として提供することができる。
【0134】
本発明の変換試薬は、組成物の形態で提供されてもよい。例えば、本発明の変換試薬は、上記式の化合物を含む水溶液またはその凍結物として提供されてもよい。水溶液は、上述したとおりである。本発明の変換試薬は、上記式の化合物を、例えば0.1mM~10M、好ましくは0.5mM~5M、より好ましくは1mM~1Mの濃度で含むことができる。
【0135】
本発明の変換試薬はまた、上記式の化合物、および塩基を含む組成物として提供されてもよい。塩基は、上述したとおりである。本発明の変換試薬は、塩基を、例えば1mM~100M、好ましくは5mM~50M、より好ましくは10mM~10Mの濃度で含むことができる。上記式の化合物の種類および濃度、ならびに上記式の化合物に対する塩基のモル比は、上述したとおりである。
【0136】
本発明の変換試薬はさらに、上記式の化合物、塩基、および水溶液を含む組成物(例、保存水溶液)として提供されてもよい。上記式の化合物および塩基の種類および濃度、ならびに上記式の化合物に対する塩基のモル比は、上述したとおりである。水溶液のpHは、上述したとおりである。
【実施例0137】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0138】
(合成例)
以下の合成例1~3により、キラリティ変換触媒(以下実施例中、単に「触媒」と呼ぶこともある。)として用いることができる5-octoxymethyl-3-hydroxy-2-methyl-4-pyridinecarboxaldehyde(「octylpyridoxal」とも呼ぶ。)を調製した。
【0139】
合成例1:2,2,8-trimethyl-4H-1,3-dioxino[4,5-c]pyridine-5-methanol(化合物2)の調製
【0140】
【化15】
【0141】
200mLフラスコにpyridoxine hydrochloride(化合物1)3.0gをとり、アセトン50mL中で懸濁させた。2,2-Dimethoxypropane 11mL(8.0eq)、p-toluenesulfonic acid monohydrate 10g(5.1eq)を加え、室温下一晩撹拌した。茶色の反応液を飽和NaHCO水溶液にて中和し、アセトンを減圧留去後、水を加えてジクロロメタン50mLで3回抽出を行った。NaSOで乾燥後、ジクロロメタンを減圧留去した。ジクロロメタン、ヘキサンから目的物を再結晶することにより、2.4g(98%収率)の白色結晶である化合物2を得た。
【0142】
H NMR(400MHz,CDCl)δ(ppm)7.82(s,1H),4.94(s,2H),4.55(s,2H),2.37(s,3H),1.55(s,6H);
13C NMR(101MHz,CDCl)δ(ppm)147.86,146.08,138.71,129.27,125.89,99.80,60.29,58.58,24.77,18.32.
【0143】
合成例2:4-(hydroxymethyl)-2-methyl-5-[(octyloxy)methyl]pyridin-3-ol(化合物4)の調製
【0144】
【化16】
【0145】
100mLフラスコに化合物2を1.0g、水素化ナトリウム(55%)を417mg(1.5eq)を加え、乾燥DMF15mLに溶解させた。1-Bromooctaneを1.25mL(1.5eq)加え、一晩60℃で撹拌した。水を加え、ジクロロメタン20mLで3回抽出し、減圧留去した。また、濃縮液をヘキサン/酢酸エチル(4/1)混合液30mLに溶解し、飽和塩化ナトリウム水溶液10mLで3回洗った。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧留去し、化合物3の粗成生物を得た。ここに濃塩酸を5mL、メタノールを2mLを加えて一晩撹拌し、懸濁液を飽和NaHCO水溶液で中和してジクロロメタン15mLで3回抽出した。粗成生物をヘキサン/酢酸エチルから再結晶し、純粋な淡褐色固体の化合物4を996mg(2Steps,74%収率)得た。
【0146】
H NMR(400MHz,CDCl)δ(ppm)8.73(br,2H),7.72(s,1H),5.06(s,2H),4.33(s,2H),3.37(t,J=6.6Hz,2H),2.41(s,3H),1.60-1.47(m,2H),1.39-1.17(m,10H),0.97-0.73(m,3H);
13C NMR(101MHz,CDCl)δ(ppm)152.32,147.68,138.37,131.57,128.70,70.60,68.54,60.33,31.82,29.65,29.40,29.22,26.18,22.64,18.12,14.08.
【0147】
合成例3:5-octoxymethyl-3-hydroxy-2-methyl-4-pyridinecarboxaldehyde(octylpyridoxal、化合物5)の調製
【0148】
【化17】
100mLフラスコ中で化合物4を996mg、40mLジクロロメタンに溶解し、10gの粉末二酸化マンガンを加え、アルゴン雰囲気下一晩撹拌した。得られた溶液をセライトにて濾過し、ジクロロメタンを減圧留去して目的物である黄色油状の化合物5を605mg(61%収率)得た。
【0149】
H NMR(400MHz,CDCl)δ(ppm)11.47(s,1H),10.43(s,1H),8.05(s,1H),4.71(s,2H),3.50(t,J=6.6Hz,2H),2.54(s,3H),1.68-1.44(m,2H),1.40-1.05(m,10H),1.12-0.66(m,3H);
13C NMR(101MHz,CDCl)δ(ppm)197.36,153.97,152.48,139.47,130.11,120.47,70.90,67.59,31.76,29.60,29.30,29.16,26.12,22.60,18.79,14.04.
【0150】
(触媒の保存溶液の調製例)
触媒の取り扱いをより簡便化するため、トリエチルアミン(TEA)を水中に塩基として含む水溶液にoctylpyridoxal(化合物5)をあらかじめ溶解させた保存溶液を調製した。コニカルチューブに化合物5を秤量し、純水にて2.8mg/mL(10mmol/L)の濃度となるように水を加えた。さらにトリエチルアミンを210mmol/Lの濃度となるように加え(pH 約11)、1mLずつマイクロチューブに分注した。この溶液は-80℃で凍結保存した。
【0151】
実施例1:アミノ酸のキラリティの変換反応および反応生成物の触媒からの分離
Octylpyridoxal保存溶液を使用して、表2に示されるようにアミノ酸のキラリティを変換した。
【表2】
【0152】
方法(A):触媒によるキラリティ変換反応(非加熱条件)
非加熱条件下の低容量の反応系において、アミノ酸のキラリティを変換した。具体的には、アミノ酸を反応用バイアルに秤量し、保存溶液を加え、室温下で反応を行った。Lysに関しては、2塩酸塩となっていたため、トリエチルアミンを50μL追加して反応を行った。反応後、以下に示した方法で触媒を分離した。分離後の溶液を15mLコニカルチューブにアミノ酸溶液として採取した。必要に応じて、採取したアミノ酸溶液から、遠心濃縮器にて水および塩基を除去してアミノ酸乾燥物を調製し、アミノ酸乾燥物の重量を回収重量として測定した。
【0153】
方法(B):触媒によるキラリティ変換反応(加熱条件)
アミノ酸をマイクロウェーブ(MW)反応用バイアル(0.2-0.5mL用)に秤量し、保存溶液300μLを加え、MW反応装置にて200℃で15分間加熱した。反応後の操作は方法(A)と同じである。
【0154】
(触媒の分離)
固相抽出(SPE)カラムにアセトニトリルを通液した後、純水で通液することによりコンディショニングを行った。反応生成物(アミノ酸のD体およびL体の混合物)を含む反応溶液をカラムに直接ロードし、純水を流し、触媒のみをカラムに保持させることによって触媒を分離(除去)した。
安定同位体標識体アミノ酸の触媒からの分離のため、GLサイエンス製1g/6mLのInertSep(登録商標)C18カラム(疎水性相互作用クロマトグラフィー用カラム)を使用した。
【0155】
(触媒の分離の確認)
反応生成物(アミノ酸のD体およびL体の混合物)からの触媒の分離を、以下の条件および構成の装置を利用して確認した。キラリティの変換後に単離された試料を、10mg/mL溶液として調製した。
・デガッサー:Agilent Technologies製 1200 Series G1379B Degasser
・ポンプ:Agilent Technologies製 1200 Series G1312A Bin Pump
・オートサンプラー:Agilent Technologies製 1200 Series G1367B HiP-ALS
・カラム恒温槽:Agilent Technologies製 1200 Series G1316A TCC
・質量分析計:AB SCIEX製 3200 QTRAP(登録商標)
・制御ソフトウェア:AB SCIEX製 Analyst(登録商標)1.6.2
【0156】
(分析条件)
・質量分析計設定
CUR:15 TEM:600
CAD:3 GS1:30
IS :5000 GS2:70
・移動相A液:ギ酸0.1%水溶液
・移動相B液:アセトニトリル
・カラム:GL Science製 Inertsil(登録商標)C8-3,3μm(2.1x50mm)
・カラム恒温槽温度:40℃
・オートサンプラー温度:4℃
・測定トランジション(表3)
【表3】
【0157】
・Injection Volume:5μL
・グラジエント条件(表4)
【表4】
【0158】
その結果、本グラジエント条件下で本来は保持時間5.74分に溶出するはずである触媒のピークは、検出されなかった。
【0159】
以上より、反応生成物(アミノ酸のD体およびL体の混合物)からの触媒の分離が確認された。
【0160】
アミノ酸のキラリティの変換効率の確認(1)
(誘導体化による光学分割)
アミノ酸溶液は、0.1mmol/L程度になるよう、水または0.01%塩酸にアミノ酸乾燥物(方法(A)を参照)を溶解し、サンプル溶液として用いた。アセトニトリル/ホウ酸緩衝溶液(1/1,v/v)60μLに対し、アミノ酸希釈液10μLを加え、そこに光学分割によるD体およびL体の分析を可能にする誘導体化試薬((R)-PNP-PDEA、国際公開第2017/057433号)のアセトニトリル溶液(10mg/mL)を10μL加えて撹拌し、室温で10分間以上反応させて、D体およびL体を光学分割可能な誘導体を作製した。反応後にギ酸0.1%溶液420μLを加えて反応を停止させた。以上の方法により調製した溶液を以下のLC-MSによる測定に付し、D体およびL体のピーク面積値を比較し、キラリティの変換効率を算出した。
【0161】
・HPLC:島津製作所製 Nexera X2 CBM-20A
・質量分析計:AB SCIEX製 Triple Quad(商標)6500
・移動相A液:ギ酸0.1%水溶液
・移動相B液:アセトニトリル/水/ギ酸(90/10/0.1)
・カラム:Waters製 Acquity UPLC(登録商標)BEH-Phenyl,1.7μm(2.1x50mm)
・Injection Volume:1μL
・質量分析計設定
CUR:40 TEM:600
CAD:8 GS1:70
IS :4500 GS2:70
・測定トランジション(表5)
【0162】
【表5】
【0163】
・グラジエント条件(表6)
【表6】
【0164】
生成したD体アミノ酸の割合(%D)は、以下の式で計算した。
%D=(D体ピークエリア値)/{(D体ピークエリア値)+(L体ピークエリア値)}×100
【0165】
結果を表7に示す。
【0166】
【表7】
【0167】
その結果、反応後における顕著なD体の増加が確認された(表7)。
【0168】
以上より、本発明で用いられた触媒は、キラリティの変換効率に優れることが示された。また、ラセミ化反応効率が悪いプロリンに関しても、加熱を施すことによりラセミ化を行うことが可能であることが示された。
【0169】
アミノ酸のキラリティの変換効率の確認(2)
ThrおよびHis、ならびに以降の実施例2および参考例1に関しては、(1)と同様の「誘導体化」に加え、以下の条件でキラリティの変換効率を測定した(単離後の乾燥重量の測定は行わなかった)。
【0170】
・デガッサー:島津製作所製DGU-14A
・ポンプ:島津製作所製LC-10AD VP
・オートサンプラー:島津製作所製SIL-HTC
・カラム恒温槽:島津製作所製CTO-10AD VP
・質量分析計:島津製作所製LCMS-2010A
・制御ソフトウェア:島津製作所製LabSolutions LCMS Ver.3.70 .390
【0171】
(分析条件)
・装置設定
ネブライザガス流量:1.5L/min
CDL温度:200℃
ヒートブロック温度:200℃
検出器電圧:1.5kV
モード:SIM ポジティブモード
Injection Volume:1μL
・カラム恒温槽温度:40℃
・オートサンプラー温度:4℃
・移動相A液:ギ酸0.1%水溶液
・移動相B液:アセトニトリル
・カラム:Waters製 Acquity UPLC(登録商標)BEH-Phenyl,1.7μm(2.1x50mm)
(Lot. No. 0118391041570)
・測定SIM(m/z): 414.1(Thr)/225.65(His)
・Injection Volume:1μL
・グラジエント条件(表8)
【0172】
【表8】
【0173】
結果を表9に示す。
【表9】
【0174】
その結果、Thr、HisともにD体を生じることができた。(反応前の光学純度測定は行っていないが、どちらの反応もAldrich製純粋L体試薬を原料として使用した。)
【0175】
以上より、上記実験と同様に、本発明で用いられた触媒は、キラリティの変換が可能であることが示された。本発明で用いられた触媒はまた、ヒスチジンに関しても、加熱を施すことによりキラリティの変換を高効率で行うことが可能であることが示された。
【0176】
参考例1:非加熱条件下の低容量の反応系における種々の芳香族アルデヒド化合物によるアミノ酸のキラリティの変換効率の検討
非加熱条件下の低容量の反応系でアミノ酸のキラリティの変換効率を検討した。
具体的には、アルデヒド基を有する種々の芳香族化合物(触媒)をアミノ酸に対して1当量用いて、アミノ酸のキラリティの変換効率を検討した。使用した化合物を以下に示す。
【化18】
【0177】
アミノ酸のモデル基質としてL-Pheを使用し、それぞれアミノ酸に対して1当量のアルデヒドおよび塩基として4当量のトリエチルアミンを使用し、室温で24時間反応を行った。反応後のD-Pheの割合を、LC-MSのピークエリア比で比較した。溶媒には、THF/水=1/1(v/v)混合溶媒を1mL使用した。
反応の詳細は、下記表10のとおりである。
【0178】
【表10】
【0179】
結果を表11に示す。
【表11】
【0180】
その結果、非加熱条件下の低容量の反応系において、アルデヒド基を有する芳香族環化合物が電子欠乏性である場合、アミノ酸のキラリティの変換効率が向上する傾向が認められた(Entry1とEntry2を参照)。また、芳香族環化合物におけるアルデヒド基に対するオルト位のヒドロキシル基は、アミノ酸のキラリティの変換効率を著しく向上させた(Entry1とEntry3を参照)。さらに、アルデヒド基およびヒドロキシル基をオルト位に有する芳香族環化合物がピリジン化合物である場合、アミノ酸のキラリティの変換効率が特に高かった(Entry3とEntry4を参照)。
【0181】
したがって、実施例1において想定される反応機構は、以下のとおりである。
【化19】
〔反応中間体は、芳香族環によるキノイド構造の形成(共鳴式を参照)、芳香族環上のヒドロキシル基によるイミンの窒素原子との水素結合の形成(点線を参照)により、安定化していると推測される。Rは、α-アミノ酸の側鎖である。〕
【0182】
以上より、アルデヒド基およびヒドロキシル基をオルト位に有するピリジン化合物が、非加熱条件下の低容量の反応系において、アミノ酸のキラリティの変換効率に特に優れることが確認された。
【0183】
参考例2:触媒に対する炭化水素基の導入によるアミノ酸のキラリティの変換効率に対する影響の検討
触媒に対する炭化水素基の導入によるアミノ酸のキラリティの変換効率に対する影響を検討した。より具体的には、炭化水素基が導入された触媒であるoctylpyridoxal(化合物5)、およびPyridoxal(コントロール)を用いて、アミノ酸のキラリティの変換効率を比較した。
【化20】
【0184】
反応条件の詳細は下記表12のとおりである(その他の条件は、参考例1と同様である)。
【0185】
【表12】
【0186】
結果を表13に示す。
【0187】
【表13】
【0188】
その結果、Pyridoxalの炭化水素基導入誘導体であるOctylpyridoxalは、Pyridoxalに比し、アミノ酸のキラリティの変換効率に優れていた。
【0189】
以上より、アルデヒド基およびヒドロキシル基をオルト位に有するピリジン化合物の炭化水素基導入誘導体は、アミノ酸のキラリティの変換効率に優れることが確認された。
【0190】
参考例3:触媒候補物の疎水度の評価
疎水性相互作用を利用してアミノ酸を触媒から分離する場合、触媒とアミノ酸との疎水度が異なる値を採る必要がある。そこで、触媒候補物およびアミノ酸の疎水度を評価した。疎水度の指標として、LogD値を、BIOVIA社Discovery Studio バージョン2017R2により計算した。
触媒候補物として、(a)Pyridoxal、および(b)Pyridoxalのヒドロキシメチルにおけるヒドロキシ基(OH)中の水素原子が炭化水素原子数1~13個の直鎖アルキル基(C1~C13)で置換された誘導体を利用することにより、Pyridoxalの誘導体化に必要とされる炭素原子数を評価した。
結果を表14に示す。
【0191】
【表14】
【0192】
その結果、アミノ酸のLogD値が約-1.5以下の値を示すことを考慮すると、疎水性相互作用を利用したアミノ酸からの触媒の十分な分離のためには、触媒のLogD値が約0以上であることが好ましいと考えられた。そこで、このようなLogD値を示す触媒候補物を探索したところ、-CH-OH部分におけるヒドロキシル基の水素原子が炭素原子数2以上(好ましくは3以上)のアルキル基で置換された炭素原子数3以上(好ましくは4以上)のアルキルオキシメチル部分を有するPyridoxal誘導体が0以上のLogD値を示すことが見出された(表14)。
【0193】
以上より、疎水性相互作用を利用したアミノ酸からの触媒の十分な分離のためには、3以上(好ましくは4以上)の炭素原子を含む疎水性基を有するPyridoxal誘導体が好ましいことが確認された。
また、Pyridoxalはメチルを置換基として有するピリジン化合物であることを考慮すると、置換基としてメチルを有しないピリジン化合物である場合には、4以上の炭素原子を含む疎水性基が、疎水性相互作用を利用したアミノ酸からの触媒の十分な分離のために好ましいと考えられた。
したがって、疎水性相互作用を利用する分離方法により、水素原子含有アミノ基を有する不斉炭素原子を含む物質およびその立体異性体から上記式の化合物を良好に分離するためには、置換基(例、メチル)の有無にかかわらず、一般的に、上記物質およびその立体異性体から上記式の化合物を分離する能力を有する基として、4以上の炭素原子を含む疎水性基を用いるのが好ましいと考えられる。
【0194】
また、触媒の水溶性反応系への十分な溶解性の確保の観点からは、Pyridoxal誘導体において、ヒドロキシメチレン基におけるヒドロキシ部分の水素原子が、LogD値が5以下の値を示す炭素原子数12以下の基により置換されることが好ましいと考えられた(表14)。
【産業上の利用可能性】
【0195】
本発明の方法は、例えば、標準物質(例、クロマトグラフィー法における標準物質、質量分析用途に用いる同位体標識立体異性体内標準物質)として使用することができる、アミノ化合物の立体異性体の調製に有用である。
本発明の変換試薬は、例えば、本発明の方法の簡便な実施に有用である。
本発明の化合物は、例えば、本発明の方法に好適に用いることができる。
【手続補正書】
【提出日】2022-07-12
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)および(2)を含む、立体異性体の製造方法:
(1)水素原子含有アミノ基を有する不斉炭素原子を含む物質を、下記式(II):
【化1】
〔式中、
は、-A-B-Dで表される基(ここで、Aは、メチレンであり、Bは、-O-であり、Dは、炭素原子数3~12の1価の炭化水素基である。)であり、
は、水素原子であり、
は、メチルである。〕の化合物と反応させて、前記物質の立体異性体を生成すること;および
(2)前記立体異性体を式(II)の化合物から疎水性相互作用を利用して分離すること。
【請求項2】
前記式(II)の化合物が、下記式(III):
【化2】
〔式中、
は、炭素原子数8~12の1価の炭化水素基である。〕の化合物である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
炭素原子数8~12の1価の炭化水素基が、炭素原子数8~12のアルキルである、請求項2記載の方法。
【請求項4】
炭素原子数8~12のアルキルが、炭素原子数8のアルキルである、請求項3記載の方法。
【請求項5】
反応が塩基の存在下で行われる、請求項1~のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
塩基が揮発性塩基である、請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記塩基と前記化合物のモル比(前記塩基/前記化合物)が100~10である、請求項5または6記載の方法。
【請求項8】
反応が15~50℃の条件下で行われる、請求項1~のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
前記物質が、アミノ酸、アミノ酸エステル、アミノ酸チオエステル、アミノ酸アミド、アミノニトリル、またはペプチドである、請求項1~のいずれか一項記載の方法。
【請求項10】
アミノ酸が、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トリプトファン、チロシン、バリン、シスチン、ヒドロキシプロリン、ホモシステイン、ホモシスチン、ホモアルギニン、シトルリン、オルニチン、1-メチルヒスチジン、3-メチルヒスチジン、メチルセレニルシステイン、セレノシステイン、セレノシスチン、およびセレノメチオニンからなる群より選ばれるアミノ酸である、請求項記載の方法。
【請求項11】
前記物質がL体のアミノ酸であり、立体異性体がD体のアミノ酸である、請求項または10記載の方法。
【請求項12】
前記物質が、同位体で標識されている、請求項1~11のいずれか一項記載の方法。
【請求項13】
同位体が、13C、H、17O、18O、15N、および34Sからなる群より選ばれる安定同位体である、請求項12記載の方法。
【請求項14】
前記分離が固相抽出により行われる、請求項1~13のいずれか一項記載の方法。
【請求項15】
下記式(II):
【化3】
〔式中、
は、-A-B-Dで表される基(ここで、Aは、メチレンであり、Bは、-O-であり、Dは、炭素原子数3~12の1価の炭化水素基である。)であり、
は、水素原子であり、
は、メチルである。〕
の化合物を含む、水素原子含有アミノ基を有する不斉炭素原子を含む物質のその立体異性体への変換試薬。
【請求項16】
前記式(II)の化合物が、下記式(III):
【化4】
〔式中、
は、炭素原子数8~12の1価の炭化水素基である。〕の化合物である、請求項15記載の試薬。
【請求項17】
炭素原子数8~12の1価の炭化水素基が、炭素原子数8~12のアルキルである、請求項16記載の試薬。
【請求項18】
炭素原子数8~12のアルキルが、炭素原子数8のアルキルである、請求項17記載の試薬。
【請求項19】
塩基をさらに含む、請求項15~18のいずれか一項記載の試薬。
【請求項20】
水溶液をさらに含む、請求項15~19のいずれか一項記載の試薬。
【請求項21】
下記式(III):
【化5】
〔式中、
、炭素原子数8~12の1価の炭化水素基である。〕の化合物。
【請求項22】
炭素原子数8~12の1価の炭化水素基が、炭素原子数8~12のアルキルである、請求項21記載の化合物。
【請求項23】
炭素原子数8~12のアルキルが、炭素原子数8のアルキルである、請求項22記載の化合物。