IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本電気硝子株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022116123
(43)【公開日】2022-08-09
(54)【発明の名称】ガラス
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/091 20060101AFI20220802BHJP
   C03B 17/06 20060101ALI20220802BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20220802BHJP
   H05B 33/02 20060101ALI20220802BHJP
【FI】
C03C3/091
C03B17/06
H05B33/14 A
H05B33/02
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022083590
(22)【出願日】2022-05-23
(62)【分割の表示】P 2018559062の分割
【原出願日】2017-12-18
(31)【優先権主張番号】P 2016254842
(32)【優先日】2016-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017042908
(32)【優先日】2017-03-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 敦己
(57)【要約】      (修正有)
【課題】生産性(特に耐失透性)に優れると共に、比ヤング率が高く、しかもp-Si・TFTの製造工程で熱収縮が小さいガラスを創案する。
【解決手段】本発明の無アルカリガラスは、ガラス組成として、質量%で、SiO:55~70%、Al:15~25%、B:0~1%、LiO+NaO+KO:0~0.5%、MgO:2~6%、CaO:2~8%、SrO:0~4%、BaO:6~12%を含有し、且つ歪点が720℃より高いことを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス組成として、質量%で、SiO 55~70%、Al 15~25%、B 0~1%、LiO+NaO+KO 0~0.5%、MgO 2~6%、CaO 2~8%、SrO 0~4%、BaO 6~12%を含有し、且つ歪点が720℃より高いことを特徴とするガラス。
【請求項2】
質量%比SiO/Alが3.6以下であることを特徴とする請求項1に記載のガラス。
【請求項3】
ガラス組成として、質量%で、SiO 57~65%、Al 18~22%、B 0~1%未満、LiO+NaO+KO 0~0.1%未満、MgO 2~4%、CaO 3~7%、SrO 0~3%、BaO 7~11%を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載のガラス。
【請求項4】
質量%比MgO/CaOが0.5~0.9であることを特徴とする請求項1~3の何れかに記載のガラス。
【請求項5】
MgO+CaO+SrO+BaOの含有量が17.0~19.1質量%であることを特徴とする請求項1~4の何れかに記載のガラス。
【請求項6】
質量%比(MgO+CaO+SrO+BaO)/Alが0.94~1.13であることを特徴とする請求項1~5の何れかに記載のガラス。
【請求項7】
モル%比SiO/Alが5.4~5.9であることを特徴とする請求項1~6の何れかに記載のガラス。
【請求項8】
更にSnOを0.001~1質量%含むことを特徴とする請求項1~7の何れかに記載のガラス。
【請求項9】
比ヤング率が29.5GPa/g・cm-3より大きいことを特徴とする請求項1~8の何れかに記載のガラス。
【請求項10】
高温粘度102.5dPa・sにおける温度が1695℃以下であることを特徴とする請求項1~9の何れかに記載のガラス。
【請求項11】
液相温度が1300℃より低いことを特徴とする請求項1~10の何れかに記載のガラス。
【請求項12】
液相温度における粘度が104.8dPa・s以上であることを特徴とする請求項1~11の何れかに記載のガラス。
【請求項13】
平板形状であり、板厚方向の中央部にオーバーフロー合流面を有することを特徴とする請求項1~12の何れかに記載のガラス。
【請求項14】
有機ELデバイスに用いることを特徴とする請求項1~13の何れかに記載のガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスに関し、特に、有機ELディスプレイの基板に好適なガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
有機ELディスプレイ等の電子デバイスは、薄型で動画表示に優れ、消費電力も少ないことから、携帯電話のディスプレイ等の用途に使用されている。
【0003】
有機ELディスプレイの基板として、ガラス板が広く使用されている。この用途のガラス板には、主に以下の特性が要求される。
(1)熱処理工程で成膜された半導体物質中にアルカリイオンが拡散する事態を防止するため、アルカリ金属酸化物の含有量が少ないこと、
(2)ガラス板を低廉化するため、生産性に優れること、特に耐失透性や溶融性に優れること、
(3)p-Si・TFTの製造工程において、熱収縮を低減するため、歪点が高いこと、
(4)搬送工程での自重撓みを軽減するため、比ヤング率が高いこと。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2009-525942号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記(3)について詳述すると、p-Si・TFTの製造工程には400~600℃の熱処理工程が存在し、この熱処理工程でガラス板に熱収縮と呼ばれる微小な寸法変化が生じる。熱収縮が大きいと、TFTの画素ピッチにズレが生じ、表示不良の原因となる。有機ELディスプレイの場合、数ppm程度の寸法収縮でも表示不良となる虞があり、低熱収縮のガラス板が要求されている。なお、ガラス板が受ける熱処理温度が高い程、熱収縮が大きくなる。
【0006】
ガラス板の熱収縮を低減する方法として、ガラス板を成形した後、徐冷点付近でアニール処理を行う方法がある。しかし、アニール処理は長時間を要するため、ガラス板の製造コストが高騰してしまう。
【0007】
他の方法として、ガラス板の歪点を高くする方法がある。歪点が高い程、p-Si・TFTの製造工程で熱収縮が生じ難くなる。例えば、特許文献1には、高歪点のガラス板が開示されている。しかし、歪点が高いと、生産性が低下し易くなる。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、その技術的課題は、生産性(特に耐失透性)に優れると共に、比ヤング率が高く、しかもp-Si・TFTの製造工程で熱収縮が小さいガラスを創案することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、種々の実験を繰り返した結果、低アルカリガラスのガラス組成と歪点を厳密に規制することにより、上記技術的課題を解決し得ることを見出し、本発明として提案するものである。すなわち、本発明のガラスは、ガラス組成として、質量%で、SiO 55~70%、Al 15~25%、B 0~1%、LiO+NaO+KO 0~0.5%、MgO 2~6%、CaO 2~8%、SrO 0~4%、BaO 6~12%を含有し、且つ歪点が720℃より高いことを特徴とする。ここで、「LiO+NaO+KO」とは、LiO、NaO及びKOの合量を指す。「歪点」は、ASTM C336の方法に基づいて測定した値を指す。
【0010】
第二に、本発明のガラスは、質量%比SiO/Alが3.6以下であることが好ましい。ここで、「SiO/Al」は、SiOの含有量をAlの含有量で割った値を指す。
【0011】
第三に、本発明のガラスは、ガラス組成として、質量%で、SiO 57~65%、Al 18~22%、B 0~1%未満、LiO+NaO+KO 0~0.1%未満、MgO 2~4%、CaO 3~7%、SrO 0~3%、BaO 7~11%を含有することが好ましい。
【0012】
第四に、本発明のガラスは、質量%比MgO/CaOが0.5~0.9であることが好ましい。ここで、「MgO/CaO」は、MgOの含有量をCaOの含有量で割った値を指す。
【0013】
第五に、本発明のガラスは、MgO+CaO+SrO+BaO(RO)の含有量が17.0~19.1質量%であることが好ましい。ここで、「MgO+CaO+SrO+BaO」は、MgO、CaO、SrO、BaOの合計含有量、つまりアルカリ土類金属酸化物の合量を指す。
【0014】
第六に、本発明のガラスは、質量%比(MgO+CaO+SrO+BaO)/Alが0.94~1.13であることが好ましい。ここで、「(MgO+CaO+SrO+BaO)/Al」は、MgO、CaO、SrO、BaOの合計含有量をAlの含有量で割った値を指す。
【0015】
第七に、本発明のガラスは、モル%比SiO/Alが5.4~5.9であることが好ましい。
【0016】
第八に、本発明のガラスは、更にSnOを0.001~1質量%含むことが好ましい。
【0017】
第九に、本発明のガラスは、比ヤング率、つまりヤング率を密度で割った値が29.5GPa/g・cm-3より大きいことが好ましい。
【0018】
第十に、本発明のガラスは、高温粘度102.5dPa・sにおける温度が1695℃以下であることが好ましい。ここで、「高温粘度102.5ポアズにおける温度」は、白金球引き上げ法で測定可能である。
【0019】
第十一に、本発明のガラスは、液相温度が1300℃より低いことが好ましい。ここで、「液相温度」は、標準篩30メッシュ(500μm)を通過し、50メッシュ(300μm)に残るガラス粉末を白金ボートに入れた後、温度勾配炉中に24時間保持して、結晶の析出する温度を測定することにより算出可能である。
【0020】
第十二に、本発明のガラスは、液相温度における粘度が104.8dPa・s以上であることが好ましい。ここで、「液相温度における粘度」は、白金球引き上げ法で測定可能である。
【0021】
第十三に、本発明のガラスは、平板形状であり、板厚方向の中央部にオーバーフロー合流面を有することが好ましい。つまり本発明のガラスは、オーバーフローダウンドロー法で成形されてなることが好ましい。
【0022】
第十四に、本発明のガラスは、有機ELデバイスに用いることが好ましい。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明のガラスは、ガラス組成として、質量%で、SiO 55~70%、Al 15~25%、B 0~1%、LiO+NaO+KO 0~0.5%、MgO 2~6%、CaO 2~8%、SrO 0~4%、BaO 6~12%を含有することを特徴とする。上記のように各成分の含有量を限定した理由を以下に示す。なお、各成分の含有量の説明において、特段の断りがない限り、%表示は質量%を表す。
【0024】
SiOは、ガラス骨格を形成すると共に、歪点を高める成分である。SiOの含有量は55~70%であり、好ましくは58~65%、特に59~62%である。SiOの含有量が少ないと、歪点や耐酸性が低下し易くなり、また密度が高くなり易い。一方、SiOの含有量が多いと、高温粘度が高くなって、溶融性が低下し易くなることに加えて、ガラス成分のバランスが崩れて、クリストバライト等の失透結晶が析出し、液相温度が高くなり易い。更にHFによるエッチングレートが低下し易くなる。
【0025】
Alは、歪点を高める成分であり、更にヤング率を高める成分である。Alの含有量は15~25%であり、好ましくは17~23%、18~22%、18.2~21%、特に18.6~21%である。Alの含有量が少ないと、歪点や比ヤング率が低下し易くなる。一方、Alの含有量が多いと、ムライトや長石系の失透結晶が析出して、液相温度が高くなり易い。
【0026】
SiO/Alは、高歪点、耐失透性及び溶融性を高いレベルで両立するために重要な成分比率である。両成分は、上記の通り歪点を高める効果を有するが、SiOの量が相対的に多くなると、クリストバライト等の失透結晶が析出し易くなり、溶融性が低下し易くなる。一方、Alの量が相対的に多くなると、ムライトやアノーサイト等のアルカリ土類アルミノシリケート系の失透結晶が析出し易くなる。よって、質量%比SiO/Alは、好ましくは2.5~4、2.6~3.6、2.8~3.3、特に3.1~3.3である。またモル%比SiO/Alは、好ましくは4.9~6.5、5.2~6.0、特に5.4~5.9である。
【0027】
は、溶融性と耐失透性を高める成分である。Bの含有量は0~1%であり、好ましくは0.1~1%未満、0.3~0.75%、特に0.5~0.7%である。Bの含有量が少ないと、溶融性が低下し易くなり、また液相温度が高くなり易い。更に耐バッファードフッ酸性(耐BHF性)が低下し易くなる。一方、Bの含有量が多いと、歪点、耐酸性、比ヤング率が低下し易くなる。またBの導入原料から水分がガラス中に混入し易くなり、β-OH値が大きくなり易い。なお、歪点を可及的に高めたい場合、Bの含有量は0~1%未満、0~0.1%未満、特に0~0.07%未満が好ましい。
【0028】
LiO、NaO及びKOは、溶融性を高めると共に、溶融ガラスの電気抵抗率を低下させる成分であるが、LiO、NaO及びKOを多量に含有させると、アルカリイオンの拡散によって半導体物質の汚染を引き起こす虞が生じる。よって、LiO+NaO+KOの含有量は0~0.5%であり、好ましくは0.01~0.3%、0.02~0.2%、特に0.03~0.1%未満である。またNaOの含有量は、好ましくは0~0.3%、0.01~0.3%、0.02~0.2%、特に0.03~0.1%未満である。
【0029】
MgOは、溶融性やヤング率を高める成分である。MgOの含有量は2~6%であり、好ましくは2~5%、2.5~4.5%、特に3~4%である。MgOの含有量が少ないと、剛性を確保し難くなると共に、溶融性が低下し易くなる。一方、MgOの含有量が多いと、ムライトやMg、Ba由来の失透結晶及びクリストバライトの失透結晶が析出し易くなると共に、歪点が著しく低下する虞がある。
【0030】
CaOは、歪点を低下させずに、高温粘性を下げて、溶融性を顕著に高める成分である。またCaOは、アルカリ土類金属酸化物の中では、導入原料が比較的安価であるため、原料コストを低廉化する成分である。更にヤング率を高める成分である。そして、CaOは、上記Mgを含む失透結晶の析出を抑制する効果を有する。CaOの含有量は2~8%であり、好ましくは3~7%、3.5~6%、特に3.5~5.5%である。CaOの含有量が少ないと、上記効果を享受し難くなる。一方、CaOの含有量が多いと、アノーサイトの失透結晶が析出し易くなると共に、密度が上昇し易くなる。
【0031】
質量%比MgO/CaOは、高耐失透性と高比ヤング率を両立するために重要な成分比率である。質量%比MgO/CaOが小さいと、比ヤング率が低下し易くなる。一方、質量%比MgO/CaOが大きいと、Mgを含む失透結晶によって液相温度が上昇し易くなる。よって、質量%比MgO/CaOは、好ましくは0.4~1.5、0.5~1.0、0.5~0.9、特に0.6~0.8である。
【0032】
SrOは、分相を抑制し、また耐失透性を高める成分である。更に歪点を低下させずに、高温粘性を下げて、溶融性を高める成分である。一方、SrOの含有量が多いと、本発明のようなCaOを多く含むガラス系では、長石系の失透結晶が析出し易くなり、かえって耐失透性が低下し易くなる。更に密度が高くなったり、ヤング率が低下したりする傾向にある。よって、SrOの含有量は0~4%であり、好ましくは0~3%、0~2%、0~1.5%、0~1%、特に0~1%未満である。一方で、BaOとの置換により、ヤング率の低下を抑制し、更に密度の上昇も抑制することができる。そのような効果を得たい場合、SrOの含有量は、好ましくは1~4%、2~4%、特に3~4%である。
【0033】
BaOは、アルカリ土類金属酸化物の中では、ムライト系やアノーサイト系の失透結晶の析出を抑制する効果が高い成分である。BaOの含有量は6~12%であり、好ましくは7~11%、8~10.7%、特に9~10.5%である。BaOの含有量が少ないと、ムライト系やアノーサイト系の失透結晶が析出し易くなる。一方、BaOの含有量が多いと、密度が増加したり、ヤング率が低下し易くなると共に、高温粘度が高くなり過ぎて、溶融性が低下し易くなる。
【0034】
アルカリ土類金属酸化物は、高歪点、耐失透性、溶融性を高めるために非常に重要な成分である。アルカリ土類金属酸化物が少ないと、歪点が上昇するが、Al系の失透結晶の析出を抑制し難くなり、また高温粘性が高くなって、溶融性が低下し易くなる。一方、アルカリ土類金属酸化物が多いと、溶融性が改善されるが、歪点が低下し易くなり、また高温粘性の低下による液相粘度の低下を招く虞がある。よって、MgO+CaO+SrO+BaOの含有量は、好ましくは16~20%、17~20%、17.0~19.5%、特に18~19.3%である。
【0035】
質量%比(MgO+CaO+SrO+BaO)/Alは、各種失透結晶の析出を抑制して、液相粘度を低下させるために重要な成分比率である。質量%比(MgO+CaO+SrO+BaO)/Alが小さくなると、ムライトの液相温度が高くなり易い。一方、質量%比(MgO+CaO+SrO+BaO)/Alが大きくなると、アルカリ土類金属酸化物が多くなり、長石系やアルカリ土類金属を含む失透結晶が析出し易くなる。よって、質量%比(MgO+CaO+SrO+BaO)/Alは、好ましくは0.80~1.20、0.84~1.15、0.94~1.13、特に0.94~1.05である。
【0036】
上記成分以外にも、例えば、以下の成分を添加してもよい。
【0037】
ZnOは、溶融性を高める成分であるが、ZnOを多量に含有させると、ガラスが失透し易くなり、また歪点が低下し易くなる。よって、ZnOの含有量は、好ましくは0~5%、0~3%、0~0.5%、特に0~0.2%である。
【0038】
は、歪点を高める成分であるが、Pを多量に含有させると、ガラスが分相し易くなる。よって、Pの含有量は、好ましくは0~1.5%、0~1.2%、特に0~0.1%未満である。
【0039】
TiOは、高温粘性を下げて、溶融性を高める成分であると共に、ソラリゼーションを抑制する成分であるが、TiOを多量に含有させると、ガラスが着色して、透過率が低下し易くなる。よって、TiOの含有量は、好ましくは0~5%、0~3%、0~1%、0~0.1%、特に0~0.02%である。
【0040】
ZrO、Y、Nb、Laには、歪点、ヤング率等を高める働きがある。しかし、これらの成分の含有量が多いと、密度が増加し易くなる。よって、ZrO、Y、Nb、Laの含有量は、それぞれ0~5%、0~3%、0~1%、0~0.1%未満、特に0~0.05%未満が好ましい。更にYとLaの合量は0.1%未満が好ましい。
【0041】
SnOは、高温域で良好な清澄作用を有する成分であると共に、歪点を高める成分であり、また高温粘性を低下させる成分である。SnOの含有量は、好ましくは0~1%、0.001~1%、0.01~0.5%、特に0.05~0.3%である。SnOの含有量が多いと、SnOの失透結晶が析出し易くなる。なお、SnOの含有量が少ないと、上記効果を享受し難くなる。
【0042】
ガラス特性が損なわれない限り、清澄剤として、F、Cl、SO、C、或いはAl、Si等の金属粉末を5%まで添加することができる。また、清澄剤として、CeO等も1%まで添加することができる。
【0043】
AsとSbは、清澄剤として有効であり、本発明のガラスは、これらの成分の導入を完全に排除するものではないが、環境的観点から、これらの成分を極力使用しないことが好ましい。更に、ガラス中にAsを多量に含有させると、耐ソラリゼーション性が低下する傾向にあるため、その含有量は0.1%以下が好ましく、実質的に含有させないことが望ましい。ここで、「実質的にAsを含有しない」とは、ガラス組成中のAsの含有量が0.05%未満の場合を指す。また、Sbの含有量は0.2%以下、特に0.1%以下が好ましく、実質的に含有させないことが望ましい。ここで、「実質的にSbを含有しない」とは、ガラス組成中のSbの含有量が0.05%未満の場合を指す。
【0044】
Feは、溶融ガラスの電気抵抗率を低下させる成分である。Feの含有量は、好ましくは0.001~0.1%、0.005~0.05%、特に0.008~0.015%である。Feの含有量が少ないと、上記の効果を享受し難くなる。一方、Feの含有量が多いと、紫外域での透過率が低下し易くなり、ディスプレイの工程で紫外域のレーザーを使用する際の照射効率が低下し易くなる。なお、電気溶融を行う場合、Feを積極的に導入する方が好ましく、その場合、Feの含有量は0.005~0.03%、0.008~0.025%、特に0.01~0.02%が好ましい。また、紫外域での透過率を高めたい場合、Feの含有量は、好ましくは0.020%以下、0.015%以下、0.011%以下、特に0.010%以下である。
【0045】
Clは、低アルカリガラスの溶融を促進する効果があり、Clを添加すれば、溶融温度を低温化できると共に、清澄剤の作用を促進することができる。また溶融ガラスのβ-OH値を低下させる効果を有する。しかし、Clの含有量が多過ぎると、歪点が低下し易くなる。よって、Clの含有量は、好ましくは0.5%以下、特に0.001~0.2%である。なお、Clの導入原料として、塩化ストロンチウム等のアルカリ土類金属酸化物の塩化物、或いは塩化アルミニウム等の原料を使用することができる。
【0046】
本発明のガラスは、以下のガラス特性を有することが好ましい。
【0047】
本発明のガラスにおいて、歪点は720℃超であり、好ましくは730℃以上、740℃以上、特に750~850℃である。歪点が低いと、p-Si・TFTの製造工程において、ガラス板が熱収縮し易くなる。
【0048】
密度は、好ましくは2.68g/cm以下、2.66g/cm以下、2.65g/cm以下、特に2.64g/cm以下である。密度が高いと、比ヤング率が高くなり、ガラスが自重で撓み易くなる。
【0049】
30~380℃の温度範囲における平均熱膨張係数は、好ましくは34×10-7~43×10-7/℃、特に38×10-7~41×10-7/℃である。30~380℃の温度範囲における平均熱膨張係数が上記範囲外になると、周辺部材の熱膨張係数と整合せず、周辺部材の剥離やガラス板の反りが発生し易くなる。ここで、「30~380℃の温度範囲における平均熱膨張係数」は、ディラトメーターで測定した値を指す。
【0050】
HFによるエッチングレートは、好ましくは0.8μm/分以上、0.9μm/分以上、特に1μm/分以上である。HFによるエッチングレートが低いと、スリミング工程でガラス板を薄板化し難くなる。ここで、「HFのエッチングレート」は、鏡面研磨したガラス表面の一部をポリイミドテープでマスクした後、20℃の5質量%HF水溶液で30分間の条件でエッチングをした時のエッチング深さから算出した値を指す。
【0051】
液相温度は、好ましくは1300℃未満、1280℃以下、1260℃以下、特に1240℃以下である。液相温度が高いと、オーバーフローダウンドロー法等での成形時に失透結晶が発生して、ガラス板の生産性が低下し易くなる。
【0052】
液相温度における粘度は、好ましくは104.2dPa・s以上、104.4dPa・s以上、104.6dPa・s以上、104.8dPa・s以上、特に105.0dPa・s以上である。液相温度における粘度が低いと、オーバーフローダウンドロー法等での成形時に失透結晶が発生して、ガラス板の生産性が低下し易くなる。
【0053】
高温粘度102.5dPa・sにおける温度は、好ましくは1695℃以下、1660℃以下、1640℃以下、1630℃以下、特に1500~1620℃である。高温粘度102.5dPa・sにおける温度が高くなると、ガラス溶解が困難になり、ガラス板の製造コストが高騰する。
【0054】
比ヤング率は、好ましくは29.5GPa/g・cm-3超、30GPa/g・cm-3以上、30.5GPa/g・cm-3以上、31GPa/g・cm-3以上、31.5GPa/g・cm-3以上、特に32GPa/g・cm-3以上である。比ヤング率が高いと、ガラス板が自重で撓み易くなる。
【0055】
本発明のガラスにおいて、β-OH値を低下させると、歪点を高めることができる。β-OH値は、好ましくは0.30/mm以下、0.25/mm以下、0.20/mm以下、0.15/mm以下、特に0.10/mm以下である。β-OH値が大き過ぎると、歪点が低下し易くなる。なお、β-OH値が小さ過ぎると、溶融性が低下し易くなる。よって、β-OH値は、好ましくは0.01/mm以上、特に0.05/mm以上である。
【0056】
β-OH値を低下させる方法として、以下の方法が挙げられる。(1)含水量の低い原料を選択する。(2)ガラス中の水分量を減少させる成分(Cl、SO等)を添加する。(3)炉内雰囲気中の水分量を低下させる。(4)溶融ガラス中でNバブリングを行う。(5)小型溶融炉を採用する。(6)溶融ガラスの流量を速くする。(7)電気溶融法を採用する。
【0057】
ここで、「β-OH値」は、FT-IRを用いてガラスの透過率を測定し、下記の式を用いて求めた値を指す。
β-OH値 = (1/X)log(T/T
X:ガラス肉厚(mm)
:参照波長3846cm-1における透過率(%)
:水酸基吸収波長3600cm-1付近における最小透過率(%)
【0058】
本発明のガラスは、平板形状であり、板厚方向の中央部にオーバーフロー合流面を有することが好ましい。つまりオーバーフローダウンドロー法で成形されてなることが好ましい。オーバーフローダウンドロー法とは、楔形の耐火物の両側から溶融ガラスを溢れさせて、溢れた溶融ガラスを楔形の下端で合流させながら、下方に延伸成形して平板形状に成形する方法である。オーバーフローダウンドロー法では、ガラス板の表面となるべき面は耐火物に接触せず、自由表面の状態で成形される。このため、未研磨で表面品位が良好なガラス板を安価に製造することができ、大面積化や薄肉化も容易である。
【0059】
オーバーフローダウンドロー法以外にも、例えば、スロットダウン法、リドロー法、フロート法、ロールアウト法でガラス板を成形することも可能である。
【0060】
本発明のガラスにおいて、肉厚(平板形状の場合、板厚)は、特に限定されないが、好ましくは1.0mm以下、0.7mm以下、0.5mm以下、特に0.4mm以下である。板厚が小さい程、有機ELデバイスを軽量化し易くなる。なお、肉厚は、ガラス製造時の流量や板引き速度等で調整可能である。
【0061】
本発明のガラスを工業的に製造する方法としては、ガラス組成として、質量%で、SiO 55~70%、Al 15~25%、B 0~1%、LiO+NaO+KO 0~0.5%、MgO 2~6%、CaO 2~8%、SrO 0~4%、BaO 6~12%を含有し、且つ歪点が720℃より高いガラス板の製造方法であって、調合されたガラスバッチを溶融炉に投入し、加熱電極による通電加熱を行うことにより、溶融ガラスを得る溶融工程と、得られた溶融ガラスをオーバーフローダウンドロー法により板厚0.1~0.7mmの平板形状のガラスに成形する成形工程と、を有することが好ましい。
【0062】
ガラス板の製造工程は、一般的に、溶融工程、清澄工程、供給工程、攪拌工程、成形工程を含む。溶融工程は、ガラス原料を調合したガラスバッチを溶融し、溶融ガラスを得る工程である。清澄工程は、溶融工程で得られた溶融ガラスを清澄剤等の働きによって清澄する工程である。供給工程は、各工程間に溶融ガラスを移送する工程である。攪拌工程は、溶融ガラスを攪拌し、均質化する工程である。成形工程は、溶融ガラスを平板形状のガラスに成形する工程である。なお、必要に応じて、上記以外の工程、例えば溶融ガラスを成形に適した状態に調節する状態調節工程を攪拌工程後に取り入れてもよい。
【0063】
従来の低アルカリガラスを工業的に製造する場合、一般的に、バーナーの燃焼炎による加熱により溶融されていた。バーナーは、通常、溶融窯の上方に配置されており、燃料として化石燃料、具体的には重油等の液体燃料やLPG等の気体燃料等が使用されている。燃焼炎は、化石燃料と酸素ガスと混合することにより得ることができる。しかし、この方法では、溶融時に溶融ガラス中に多くの水分が混入するため、β-OH値が上昇し易くなる。よって、本発明のガラスを製造するに当たり、加熱電極による通電加熱を行うことが好ましく、バーナーの燃焼炎による加熱を行わずに、加熱電極による通電加熱で溶融することが好ましい。これにより、溶融時に溶融ガラス中に水分が混入し難くなるため、β-OH値を0.30/mm以下、0.25/mm以下、0.20/mm以下、0.15/mm以下、特に0.10/mm以下に規制し易くなる。更に、加熱電極による通電加熱を行うと、溶融ガラスを得るための質量当たりのエネルギー量が低下すると共に、溶融揮発物が少なくなるため、環境負荷を低減することができる。
【0064】
加熱電極による通電加熱は、溶融窯内の溶融ガラスに接触するように、溶融窯の底部又は側部に設けられた加熱電極に交流電圧を印加することにより行うことが好ましい。加熱電極に使用する材料は、耐熱性と溶融ガラスに対する耐食性を備えるものが好ましく、例えば、酸化錫、モリブデン、白金、ロジウム等が使用可能であり、特に炉内設置の自由度の観点から、モリブデンが好ましい。
【0065】
本発明のガラスは、アルカリ金属酸化物の含有量が少量であるため、電気抵抗率が高い。よって、加熱電極による通電加熱を低アルカリガラスに適用する場合、溶融ガラスだけでなく、溶融窯を構成する耐火物にも電流が流れて、溶融窯を構成する耐火物が早期に損傷する虞がある。これを防ぐため、炉内耐火物として、電気抵抗率が高いジルコニア系耐火物、特にジルコニア電鋳レンガを使用することが好ましく、また溶融ガラス(ガラス組成)中に電気抵抗率を低下させる成分(LiO、NaO、KO、Fe等)を少量導入することが好ましく、特にLiO、NaO、KO等を少量導入することが好ましい。またFeの含有量は0.005~0.03質量%、0.008~0.025質量%、特に0.01~0.02質量%が好ましい。更に、ジルコニア系耐火物中のZrOの含有量は、好ましくは85質量%以上、特に90質量%以上である。
【実施例0066】
以下、本発明を実施例に基づいて説明する。
【0067】
表1~3は、本発明の実施例(試料No.1~50)を示している。なお、表中で「N.A.」は、未測定であることを意味する。
【0068】
【表1】
【0069】
【表2】
【0070】
【表3】
【0071】
まず表中のガラス組成になるように、ガラス原料を調合したガラスバッチを白金坩堝に入れ、1600~1650℃で24時間溶融した。ガラスバッチの溶解にあたっては、白金スターラーを用いて攪拌し、均質化を行った。次いで、溶融ガラスをカーボン板上に流し出し、板状に成形した後、徐冷点付近の温度で30分間徐冷した。得られた各試料について、30~380℃の温度範囲における平均熱膨張係数α、密度(Density)、β-OH値、HFのエッチングレート(HF etching rate)、歪点Ps、徐冷点Ta、軟化点Ts、高温粘度104.5dPa・sにおける温度、高温粘度104.0dPa・sにおける温度、高温粘度103.0dPa・sにおける温度、高温粘度102.5dPa・sにおける温度、液相温度TL、及び液相粘度logηatTL、ヤング率(Young’s modulus)及び比ヤング率(Specific modulus)を評価した。
【0072】
30~380℃の温度範囲における平均熱膨張係数αは、ディラトメーターで測定した値である。
【0073】
密度は、周知のアルキメデス法によって測定した値である。
【0074】
β-OH値は、上記の方法によって測定した値である。
【0075】
HFのエッチングレートは、鏡面研磨したガラス表面の一部をポリイミドテープでマスクした後、20℃の10質量%HF水溶液で30分間の条件でエッチングをした時のエッチング深さから算出した値である。
【0076】
歪点Ps、徐冷点Ta、軟化点Tsは、ASTM C336及びC338の方法に基づいて測定した値である。
【0077】
高温粘度104.5dPa・s、104.0dPa・s、103.0dPa・s及び102.5dPa・sにおける温度は、白金球引き上げ法で測定した値である。
【0078】
液相温度TLは、標準篩30メッシュ(篩目開き500μm)を通過し、50メッシュ(篩目開き300μm)に残るガラス粉末を白金ボートに入れて、温度勾配炉中に24時間保持して、結晶(初相)の析出する温度を測定した値である。
【0079】
液相粘度log10ηTLは、液相温度TLにおけるガラスの粘度を白金球引き上げ法で測定した値である。
【0080】
ヤング率は、周知の共振法を用いて測定した値である。比ヤング率は、ヤング率を密度で割った値である。
【0081】
表1~3から明らかなように、試料No.1~50は、アルカリ金属酸化物の含有量が少なく、歪点が738℃以上、高温粘度102.5dPa・sにおける温度が1693℃以下、液相温度が1281℃以下、液相温度における粘度が104.50dPa・s以上、比ヤング率が30.4GPa/g・cm‐3以上であった。したがって、試料No.1~50は、有機ELディスプレイの基板として好適に使用可能であると考えられる。
【手続補正書】
【提出日】2022-05-23
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス組成として、質量%で、SiO 57~70%、Al 15~25%、B 0.1~1%、LiO+NaO+KO 0~0.5%、MgO 2~6%、CaO2~8%、SrO 0.32.43%、BaO 6~12%、MgO+CaO+SrO+BaO 18~20%を含有し、モル%比SiO /Al が4.9~5.9であり、且つ歪点が720℃より高いことを特徴とするガラス。
【請求項2】
質量%比SiO/Alが3.6以下であることを特徴とする請求項1に記載のガラス。
【請求項3】
ガラス組成として、質量%で、SiO 57~65%、Al 18~22%、B 0~1%未満、LiO+NaO+ KO 0~0.1%未満、MgO 2~4%、CaO 3~7%、SrO 0~3%、BaO 7~11%を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載のガラス。
【請求項4】
質量%比MgO/CaOが0.5~0.9であることを特徴とする請求項1~3の何れかに記載のガラス。
【請求項5】
MgO+CaO+SrO+BaOの含有量が18~19.1質量%であることを特徴とする請求項1~4の何れかに記載のガラス。
【請求項6】
質量%比(MgO+CaO+SrO+BaO)/Alが0.94~1.13であることを特徴とする請求項1~5の何れかに記載のガラス。
【請求項7】
モル%比SiO/Alが5.4~5.9であることを特徴とする請求項1~6の何れかに記載のガラス。
【請求項8】
更にSnOを0.001~1質量%含むことを特徴とする請求項1~7の何れかに記載のガラス。
【請求項9】
比ヤング率が29.5GPa/g・cm-3より大きいことを特徴とする請求項1~8の何れかに記載のガラス。
【請求項10】
高温粘度102.5d Pa・sにおける温度が1695℃ 以下であることを特徴とする請求項1~9の何れかに記載のガラス。
【請求項11】
液相温度が1300℃ より低いことを特徴とする請求項1~10の何れかに記載のガラス。
【請求項12】
液相温度における粘度が104.8dPa・s以上であることを特徴とする請求項1~11の何れかに記載のガラス。
【請求項13】
平板形状であり、板厚方向の中央部にオーバーフロー合流面を有することを特徴とする請求項1~12の何れかに記載のガラス。
【請求項14】
有機ELデバイスに用いることを特徴とする請求項1~13の何れかに記載のガラス。