(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022116169
(43)【公開日】2022-08-09
(54)【発明の名称】抗マラリアワクチンとしてのバイオ融合タンパク質
(51)【国際特許分類】
C12N 15/62 20060101AFI20220802BHJP
C12N 15/31 20060101ALI20220802BHJP
C12N 15/30 20060101ALI20220802BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20220802BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20220802BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20220802BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20220802BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220802BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20220802BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20220802BHJP
C07K 14/445 20060101ALI20220802BHJP
C07K 14/21 20060101ALI20220802BHJP
C07K 14/33 20060101ALI20220802BHJP
C07K 14/285 20060101ALI20220802BHJP
C07K 14/22 20060101ALI20220802BHJP
C07K 14/34 20060101ALI20220802BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20220802BHJP
A61P 33/06 20060101ALI20220802BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20220802BHJP
A61K 39/015 20060101ALI20220802BHJP
A61K 47/64 20170101ALI20220802BHJP
A61K 47/65 20170101ALI20220802BHJP
【FI】
C12N15/62 Z ZNA
C12N15/31
C12N15/30
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/02 C
C07K19/00
C07K14/445
C07K14/21
C07K14/33
C07K14/285
C07K14/22
C07K14/34
A61P37/04
A61P33/06
A61K48/00
A61K39/015
A61K47/64
A61K47/65
【審査請求】有
【請求項の数】17
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022085159
(22)【出願日】2022-05-25
(62)【分割の表示】P 2019524114の分割
【原出願日】2017-07-21
(31)【優先権主張番号】16180544.5
(32)【優先日】2016-07-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】519022171
【氏名又は名称】ヴァック4オール・ピーティーイー・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】VAC4ALL PTE. LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】ドリュイル,ピエール
(57)【要約】 (修正有)
【課題】抗マラリアワクチンとしての融合タンパク質を提供する。
【解決手段】担体異種タンパク質配列のN末端、及び/又は、C末端に融合された少なくとも1つの抗原性アミノ酸配列を含む融合タンパク質であって、該抗原性配列がPlasmodiumタンパク質のエピトープ配列を含み、該担体異種タンパク質配列がヒトにおいて免疫原性の配列である、融合タンパク質を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
担体異種タンパク質配列のN末端及び/又はC末端に融合された少なくとも1つの抗原性アミノ酸配列を含む融合タンパク質であって、該抗原性配列がPlasmodiumタンパク質のエピトープ配列を含み、該担体異種タンパク質配列がヒトにおいて免疫原性の配列である、融合タンパク質。
【請求項2】
担体異種タンパク質配列が、ジフテリアトキソイドの交差反応物質(CRM)、ジフテリアトキソイド(D)、非毒性突然変異体リコンビナントPseudomonas aeruginosaエキソプロテインA(repA)、髄膜炎菌外膜タンパク質複合体(OMPC)、破傷風トキソイド(T)、H. influenzaプロテインD(hiD)及びそれらの免疫原性フラグメントからなる群より選択され、担体異種タンパク質配列が、好ましくは、CRM197又はその免疫原性フラグメントであり、このフラグメントが、好ましくは、フラグメントA、膜貫通ドメインT、CRM197のレセプター結合ドメインR、CRM197のアミノ酸配列1~190及びCRM197のアミノ酸配列1~389からなる群より選択される、請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項3】
抗原性配列が、赤血球期においてPlasmodiumによって発現される抗原性タンパク質又はそのエピトープフラグメントである、請求項1又は2のいずれかに記載の融合タンパク質。
【請求項4】
抗原性配列が、MSP3、LSA5(PEBS又は11-1のサブ領域とも称される)、Glurp R0及びR2、SERP、P27及びP27A、P45、P90及びP77、P14、P181、MSP1-Block 2、MSP2、GBP130、タンパク質332、タンパク質11-1、MSP4又はそれらの任意のエピトープフラグメントからなる群より選択され、抗原性配列が、好ましくは、MSP3又はそのエピトープフラグメントであり、このフラグメントが、好ましくは、MSP3-1、MSP3-2、MSP3-3、MSP3-4、MSP3-7及びMSP3-8の中から選択されるPlasmodium MSP3タンパク質、好ましくはMSP3-1のC末端領域のモチーフa、b、c、d、e及び/又はfを包含する、請求項3に記載の融合タンパク質。
【請求項5】
抗原性配列が、前赤血球期においてPlasmodiumによって発現される抗原性タンパク質又はそのエピトープフラグメントである、請求項1又は2のいずれかに記載の融合タンパク質。
【請求項6】
抗原性配列が、LSA3、LSA5(PEBS又は11-1のサブ領域と称される)、CS、Trap及びSalsa並びにそれらの任意のエピトープフラグメントからなる群より選択される、請求項5に記載の融合タンパク質。
【請求項7】
抗原性配列が、Pf25、Pf45/48、Rh5、AMA1、MSP1-19、MSP1-42、MSP2、MSP4-5、Var CSA及びそれらの任意のエピトープフラグメントからなる群より選択される、請求項1又は2のいずれかに記載の融合タンパク質。
【請求項8】
担体配列としてのCRM197又はその免疫原性フラグメントに融合されたMSP3、好ましくはMSP3-1、LSA3、LSA5又はそのエピトープフラグメントを抗原性配列として含む、請求項1~6のいずれかに記載の融合タンパク質。
【請求項9】
担体タンパク質配列のC末端及びN末端にそれぞれ位置するか、又は同じ末端に両方とも位置する2つの抗原性配列を含む、請求項1~8のいずれかに記載の融合タンパク質。
【請求項10】
少なくとも1つのアミノ酸配列が、ペプチドリンカーによって担体異種タンパク質配列のN末端及び/又はC末端に連結されており、該ペプチドリンカーが、好ましくは、1~35アミノ酸、好ましくは5~20アミノ酸の配列である、請求項1~8のいずれかに記載の融合タンパク質。
【請求項11】
ペプチドリンカーが、(Gly-Gly-Gly-Gly-Ser)n、(Gly)n又は(EAAAK)n(nは、1~4、好ましくは1~3である)である、請求項10に記載の融合タンパク質。
【請求項12】
請求項1~11のいずれかで定義される融合タンパク質をコードする、核酸構築物。
【請求項13】
発現カセットにおいて請求項12に記載の核酸構築物を含む、ベクター。
【請求項14】
請求項13に記載のベクターが挿入されている、宿主細胞。
【請求項15】
請求項1~11のいずれかで定義される融合タンパク質を調製するためのin vitro方法であって、請求項12で定義される核酸構築物の発現を誘導する条件下で請求項14に記載の宿主細胞の複製を可能にすること、及びこのようにして発現された該融合タンパク質を収集することを含む、in vitro方法。
【請求項16】
ワクチンであって、生理学的に許容し得るビヒクルと共に、請求項1~11のいずれかで定義される融合タンパク質、又は少なくとも2つの異なる抗原性アミノ酸配列をそれぞれ含む少なくとも2つの請求項1~11のいずれかで定義される融合タンパク質の組み合わせ、又は請求項12で定義される前記融合タンパク質をコードする核酸構築物を含む、ワクチン。
【請求項17】
マラリアに対するヒト被験体のワクチン接種において使用するための、請求項16に記載のワクチン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マラリアに対する保護、より具体的には融合タンパク質を含むマラリアワクチンに関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
ヒトにおけるマラリアの原因となる寄生虫(特に、Plasmodium falciparumを含む)は、ヒト宿主において異なる形態を示し、感染宿主の生物におけるそれらの局在に応じて異なる抗原を発現する。ヒトにおけるそれらの生活環におけるこれらの寄生虫の形態的及び抗原的な差異により、少なくとも4つの区別可能な発達段階が可能になる。ヒトにおける寄生虫の非常に初期の発達段階は、寄生虫の昆虫ベクターの咬傷によって宿主の血中に導入されるスポロゾイト形態に対応する。第2の段階は、肝臓への寄生虫の通過及び肝細胞の感染に対応し、この段階では、寄生虫は発達して肝臓シゾントを形成し、これらは成熟すると(例えば、P. falciparumの場合にはスポロゾイトの浸透後6日目に)、破裂によって肝臓メロゾイトを放出する。第3の段階は、無性形態(血液期シゾント)の寄生虫が赤血球に感染し、それらが成熟すると、遊離メロゾイトが放出されることを特徴とする;この赤血球期の発達は、疾患の病原相に対応する。第4の段階は、生殖能力を有する形態(又は生殖母体)の形成に対応し、これは、蚊における細胞外生殖形態又は配偶子になるであろう。
【0003】
臨床診療に導入された実用的又は有効なワクチンはない。
【0004】
これまで、マラリアサブユニットワクチンは、免疫原性の大規模な欠如を示している。観察される免疫応答は、低力価で短期間のものである。この欠如に対処するために、アジュバントの選択、複合ベクター、例えばウイルス様粒子(VLP)、アデノウイルスベクターにおける発現、及び複合プライムブーストプロトコールの設定を含む様々なアプローチが検証されている。ASO1などの高性能アジュバントと共に、Plasmodium falciparumマラリア原虫の前赤血球スポロゾイト周囲タンパク質(CSP)の反復及びT細胞エピトープ並びにB型肝炎ウイルスのウイルスエンベロープタンパク質(HBsAg)由来の遺伝子を使用して操作されたRTS,S/AS01ワクチン(Mosquirix(登録商標))でさえ、マラリア特異的免疫応答が非常に短期間であるという問題を抱えている(B型肝炎応答は長期にわたり高い)。
【0005】
担体タンパク質へのPlasmodium抗原の化学的コンジュゲーションも開示されている。例えば、解毒化形態のPseudomonas aeruginosaエキソプロテインA(repA)にコンジュゲートされたPlasmodiumタンパク質Pfs25Hを含むワクチンが評価中である。
【0006】
しかしながら、化学的コンジュゲーションは、いくつかの欠点を有する。それは、技術的な要求が厳しく、ほとんど再現性がなく、極めて高価である。
【0007】
再現容易かつ廉価でありながら、優れた免疫原性及びマラリアに対する保護を示すワクチン製品に対する大きな必要性が依然としてある。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、CRM197などの担体タンパク質と融合されたPlasmodiumポリペプチドからなる新規構築物によって、改善された免疫原性の利点を提供する。Plasmodium分子を担体タンパク質に化学的にカップリングするのではなく、本発明者らは、融合タンパク質として寄生虫タンパク質を担体タンパク質と一緒にコードして、例えばE.coliにおいてリコンビナントに生産可能な「バイオコンジュゲート融合産物」(本明細書では「バイオ融合分子」ともさらに表記される)を作製する新規アプローチを開発した。
【0009】
より具体的には、本発明は、担体異種タンパク質配列のN末端及び/又はC末端に融合された少なくとも1つの抗原性アミノ酸配列を含む融合タンパク質であって、該抗原性配列がPlasmodiumタンパク質のエピトープ配列を含み、該担体異種タンパク質配列がヒトにおいて免疫原性の配列である融合タンパク質を提供する。
【0010】
抗原性配列は、赤血球期においてPlasmodiumによって発現される抗原性タンパク質又はそのエピトープフラグメントであり得る。
【0011】
あるいは、抗原性配列は、前赤血球期においてPlasmodiumによって発現される抗原性タンパク質又はそのエピトープフラグメントであり得る。
【0012】
本発明のさらなる目的は、本明細書で定義される融合タンパク質をコードする核酸構築物である。
【0013】
発現カセットにおいて核酸構築物を含むベクター、及びベクターが挿入されている宿主細胞も提供される。
【0014】
融合タンパク質を調製するためのin vitro方法であって、核酸構築物の発現を誘導する条件下で宿主細胞の複製を可能にすること、及びこのようにして発現された該融合タンパク質を収集することを含むin vitro方法がさらに記載される。
【0015】
本発明によれば、ワクチンであって、生理学的に許容し得るビヒクルと共に、前記融合タンパク質、又は少なくとも2つの異なる抗原性アミノ酸配列をそれぞれ含む少なくとも2つの融合タンパク質の組み合わせ、又は前記融合タンパク質をコードする核酸構築物を含むワクチンが提供される。
【0016】
このようなワクチンは、マラリアに対するヒト被験体のワクチン接種において有用である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、PP21(「バイオ融合MSP3-1」とも称される)のコード配列の図示である。塩基対のスケールは、NcoI部位から開始して下に示されている。
【
図2】
図2は、pET26a-PP21プラスミドマップ(A)、SmaI(B)又はEcoRI(C)を用いた制限酵素消化によるミニプレパレーション分析を示す。
【
図3】IMACによって精製したリコンビナントタンパク質PP21。(A)変性条件下における電気泳動及びクマシーブルー染色による分析。(B)1:1000希釈のマウス抗MSP3免疫血清を用いたウエスタンブロッティングによって評価した抗原性。観察された上のバンドは、84kDaの全長PP21の理論分子量と一致する。抗MSP3免疫血清によってあまり認識されなかった37kDaの別のバンドは、PP21の分解フラグメントに対応し得る。
【
図4】1:1000希釈の抗MSP3-1 mAb RAM1を用いたウエスタンブロッティングによって評価した、異なる保存温度におけるPP21安定性のタイムスケール。
【
図5】ポジティブコントロールMSP3-LSPと比較した、PP21の抗原含有量の決定。ヒトリコンビナント抗体を含むヒト及び動物抗MSP3血清の大規模パネルとの反応性によって、前臨床PP21の抗原性を決定した。抗原含有量は、反応性エピトープの量のより正確な測定を提供する。抗原の系列希釈によってそれを実施し、Elisaアッセイにおいてコーティングに使用し、十分に定義されたポジティブコントロール(ここでは、MSP3のC末端領域によって免疫化したラットのプール)によって明らかにする。PP21の反応性は、MSP3合成及びリコンビナント構築物のものと同一であった
【
図6】現行MSP3-1-LSPと比較した、バイオ融合MSP3-1コンジュゲートによる2回の免疫化後のマウスにおいて誘導された特異的抗体応答の有意な改善。0日目、14日目及び28日目に、Montanide ISA720中バイオ融合MSP3-1 1μgのみ又はMSP3-1 LSP 10μgのいずれかを使用して、マウス 5匹(BALB/c)又は4匹(C57BL/6)の群を免疫化した。2回目の注射の1週間後(21日目)(A)及び3回目の免疫化の1週間後(35日目)に、血液サンプルを収集した。ELISAによって、特異的MSP3-1 LSP抗体力価を決定した。各マウス(1~5)の結果は、別個に示されている(ここでは、2回のみの免疫化後)。
【
図7】現行MSP3-1-LSPと比較した、バイオ融合MSP3-1による2回対3回の免疫化後のマウスにおいて誘導された抗体応答の比較。3回目の注射は抗体応答を増強し、C57Bl/6マウス及びBalb/cマウスにおけるバイオ融合MSP3-1のより優れた免疫原性を裏付けた。バイオ融合MSP3-1 1μgの3回の注射によって誘導されたMSP3-1-LSP特異的抗体の平均力価は、それぞれC57Bl/6及びBalb/cにおいて3×10
5及び2×10
5に到達したのに対して、MSP3-1-LSP 10μgの3回の注射は、それぞれC57Bl/6及びBalb/cマウスにおいて最大で平均力価 10
5及び2.5×10
4を誘導した。
【
図8-1】現行MSP3-1-LSPと比較した、バイオ融合MSP3-1によってマウスにおいて誘導されたMSP3-1特異的抗体の持続期間の大きな改善。A及びB:バイオ融合MSP3-CRMとMSP3-1-LSPとの比較:0日目、14日目及び28日目に、Montanide ISA720中バイオ融合MSP3-1 1μgのみ又はMSP3-1 LSP 10μgのいずれかを使用して、BALB/c(A-左上パネル)及びC57BL/6(B-右上パネル)マウスを免疫化した。経過観察全体の異なる日に、血液サンプルを収集した。ELISAによって、特異的MSP3-1 LSP抗体力価を決定した。示されている結果は、異なる日に各群のマウスにおいて得られた抗MSP3-1 LSP抗体力価の幾何平均に対応する。160日間の経過観察後、バイオ融合MSP3-1コンジュゲート免疫化マウスにおける平均抗体力価は、それぞれC57bl/6及びBalb/cにおいて1.5×10
5及び10
5であったが、これは、初回免疫化後160日目に測定した、MSP3-1-LSPによって誘導された抗体の平均力価よりも少なくとも10倍高い。C及びD:MSP3-CRMによって誘発された免疫応答の長期持続:0日目、14日目及び103日目に、Montanide ISA 720アジュバント(v/v)をアジュバント添加したバイオ融合MSP3-CRM 1μgの皮下注射によって、Balb/c及びC57Bl6マウスの群(マウス 4~5匹/群)を免疫化した。異なる日に、血液サンプルを収集した。ELISAによって、特異的MSP3抗体力価を決定した。結果は、2回の免疫化後に力価が顕著に増加し、49日目に最大に到達するのに対して、103日目に実施した3回目の抗原注射は、抗体応答の規模に関するいかなる検出可能な増加も誘導しなかったことを示している。これらの特異的抗体は、時間と共にごくわずかに減少したが、免疫化の540日後においてさえ、高い力価で依然として検出可能であった。E:2回のみの免疫化後にMSP3-CRMによって誘発された免疫応答の長期持続。2回のみの免疫化後に観察された十分な応答を考慮して、Montanide ISA 720アジュバント(v/v)をアジュバント添加したバイオ融合MSP3-CRM 2μgを使用して0日目及び14日目のみに皮下注射によって免疫化したさらなるBalb/cマウス 17匹において、この免疫化スキームを分析した。異なる日に、血液サンプルを収集した。ELISAによって、特異的MSP3-1-LSP抗体力価を決定した。結果は、2回の抗原注射後にMSP3抗体力価が増加し、全てのマウスにおいて42~72日目に最大に到達することを示しており、実験の380日間の経過観察全体で、免疫応答がごくわずかに減少したことを示している。
【
図8-2】現行MSP3-1-LSPと比較した、バイオ融合MSP3-1によってマウスにおいて誘導されたMSP3-1特異的抗体の持続期間の大きな改善。A及びB:バイオ融合MSP3-CRMとMSP3-1-LSPとの比較:0日目、14日目及び28日目に、Montanide ISA720中バイオ融合MSP3-1 1μgのみ又はMSP3-1 LSP 10μgのいずれかを使用して、BALB/c(A-左上パネル)及びC57BL/6(B-右上パネル)マウスを免疫化した。経過観察全体の異なる日に、血液サンプルを収集した。ELISAによって、特異的MSP3-1 LSP抗体力価を決定した。示されている結果は、異なる日に各群のマウスにおいて得られた抗MSP3-1 LSP抗体力価の幾何平均に対応する。160日間の経過観察後、バイオ融合MSP3-1コンジュゲート免疫化マウスにおける平均抗体力価は、それぞれC57bl/6及びBalb/cにおいて1.5×10
5及び10
5であったが、これは、初回免疫化後160日目に測定した、MSP3-1-LSPによって誘導された抗体の平均力価よりも少なくとも10倍高い。C及びD:MSP3-CRMによって誘発された免疫応答の長期持続:0日目、14日目及び103日目に、Montanide ISA 720アジュバント(v/v)をアジュバント添加したバイオ融合MSP3-CRM 1μgの皮下注射によって、Balb/c及びC57Bl6マウスの群(マウス 4~5匹/群)を免疫化した。異なる日に、血液サンプルを収集した。ELISAによって、特異的MSP3抗体力価を決定した。結果は、2回の免疫化後に力価が顕著に増加し、49日目に最大に到達するのに対して、103日目に実施した3回目の抗原注射は、抗体応答の規模に関するいかなる検出可能な増加も誘導しなかったことを示している。これらの特異的抗体は、時間と共にごくわずかに減少したが、免疫化の540日後においてさえ、高い力価で依然として検出可能であった。E:2回のみの免疫化後にMSP3-CRMによって誘発された免疫応答の長期持続。2回のみの免疫化後に観察された十分な応答を考慮して、Montanide ISA 720アジュバント(v/v)をアジュバント添加したバイオ融合MSP3-CRM 2μgを使用して0日目及び14日目のみに皮下注射によって免疫化したさらなるBalb/cマウス 17匹において、この免疫化スキームを分析した。異なる日に、血液サンプルを収集した。ELISAによって、特異的MSP3-1-LSP抗体力価を決定した。結果は、2回の抗原注射後にMSP3抗体力価が増加し、全てのマウスにおいて42~72日目に最大に到達することを示しており、実験の380日間の経過観察全体で、免疫応答がごくわずかに減少したことを示している。
【
図8-3】現行MSP3-1-LSPと比較した、バイオ融合MSP3-1によってマウスにおいて誘導されたMSP3-1特異的抗体の持続期間の大きな改善。A及びB:バイオ融合MSP3-CRMとMSP3-1-LSPとの比較:0日目、14日目及び28日目に、Montanide ISA720中バイオ融合MSP3-1 1μgのみ又はMSP3-1 LSP 10μgのいずれかを使用して、BALB/c(A-左上パネル)及びC57BL/6(B-右上パネル)マウスを免疫化した。経過観察全体の異なる日に、血液サンプルを収集した。ELISAによって、特異的MSP3-1 LSP抗体力価を決定した。示されている結果は、異なる日に各群のマウスにおいて得られた抗MSP3-1 LSP抗体力価の幾何平均に対応する。160日間の経過観察後、バイオ融合MSP3-1コンジュゲート免疫化マウスにおける平均抗体力価は、それぞれC57bl/6及びBalb/cにおいて1.5×10
5及び10
5であったが、これは、初回免疫化後160日目に測定した、MSP3-1-LSPによって誘導された抗体の平均力価よりも少なくとも10倍高い。C及びD:MSP3-CRMによって誘発された免疫応答の長期持続:0日目、14日目及び103日目に、Montanide ISA 720アジュバント(v/v)をアジュバント添加したバイオ融合MSP3-CRM 1μgの皮下注射によって、Balb/c及びC57Bl6マウスの群(マウス 4~5匹/群)を免疫化した。異なる日に、血液サンプルを収集した。ELISAによって、特異的MSP3抗体力価を決定した。結果は、2回の免疫化後に力価が顕著に増加し、49日目に最大に到達するのに対して、103日目に実施した3回目の抗原注射は、抗体応答の規模に関するいかなる検出可能な増加も誘導しなかったことを示している。これらの特異的抗体は、時間と共にごくわずかに減少したが、免疫化の540日後においてさえ、高い力価で依然として検出可能であった。E:2回のみの免疫化後にMSP3-CRMによって誘発された免疫応答の長期持続。2回のみの免疫化後に観察された十分な応答を考慮して、Montanide ISA 720アジュバント(v/v)をアジュバント添加したバイオ融合MSP3-CRM 2μgを使用して0日目及び14日目のみに皮下注射によって免疫化したさらなるBalb/cマウス 17匹において、この免疫化スキームを分析した。異なる日に、血液サンプルを収集した。ELISAによって、特異的MSP3-1-LSP抗体力価を決定した。結果は、2回の抗原注射後にMSP3抗体力価が増加し、全てのマウスにおいて42~72日目に最大に到達することを示しており、実験の380日間の経過観察全体で、免疫応答がごくわずかに減少したことを示している。
【
図9】MSP3-1-LSPと比較した、バイオ融合MSP3-1で免疫化したマウスにおいて誘導された抗体によるMSP3-1 ADCI(Ab依存性細胞阻害)ターゲットエピトープの認識の改善。MSP3-1-LSPでは、ペプチド「b」、「c」及び「d」は、抗MSP3-1抗体の保護効果と相関するADCIアッセイにおいて有効な抗体によってターゲティングされる区別可能なB細胞エピトープを規定する。バイオ融合MSP3-1がこれらのエピトープに対する抗体を誘導する能力を評価するために、本発明者らは、ELISAによって、血清中のペプチドa、b、c及びdに対する抗体の力価を決定した。したがって、新規製剤によって認識されるADCIターゲットの数はかなり広範であり、力価はより高い。0日目、14日目及び28日目に、Montanide ISA720中バイオ融合MSP3-1 1μgのみ又はMSP3-1 LSP 10μgのいずれかを使用して、BALB/c及びC57BL/6マウスを免疫化した。3回目の免疫化の1週間後(35日目)に、血液サンプルを収集した。マウス血清を1/400希釈し、ELISAによって、異なるMSP3-1ペプチド(a、b、c及びd)の特異的抗体の力価を決定した。示されている結果は、試験した各マウスの血清を用いて得られた光学濃度に対応する。
【
図10】バイオ融合MSP3-1 1μg、現行MSP3-1 LSP 10μg又はMSP3-1 C末端リコンビナントタンパク質 10μgのいずれかで免疫化したHIMMモデル(ヒト免疫原性マウスモデル)におけるヒト抗体応答。1μg/ml 抗原を用いてin vitroで刺激した又は刺激していないヒト脾臓細胞をNOD.Cg-Prkdc
scid-IL2rg
tm1WjI/SzJ(NSG)マウスに移植した(マウス 4匹/群)。各NSGマウスに、抗原プライミング又は非プライミング脾臓細胞 30×10
6個の腹腔内注射(ip)を投与した。7日目及び21日目に、バイオ融合MSP3-1 1μg又はMSP3-1-LSP 10μg又はMSP3-1 C末端リコンビナントタンパク質 10μgで再構成マウスを追加免疫化した。Montanide ISA 720(v/v)を全ての抗原にアジュバント添加し、腹腔内注射(ip)した。非プライミング脾臓細胞で再構成したマウスにアジュバントのみを投与した。各免疫化の1週間後に、血液サンプルを収集した。全IgG ELISA及び特異的IgG ELISAによって、特異的抗体を分析した。以下の式:(抗原特異的抗体力価/全ヒトIgG濃度)×10を使用して、調整特異的抗体力価を計算した(10mg/mlを平均ヒト全IgG濃度とみなす)。ELISA力価の幾何平均値(95%CI)が表されている。
【
図11】バイオ融合MSP3-1 1μg、現行MSP3-1 LSP 10μg又はMSP3-1 C末端リコンビナントタンパク質 10μgのいずれかで免疫化したHIMMモデル(HuリンパNSGマウス)におけるヒトIFN-γ細胞応答。上記と同じ免疫化条件。IFN-γELISPOTによって、細胞応答を評価した。28日目に、各群のマウスの脾臓細胞を回収し、プールし、抗原刺激ありで又は抗原刺激なしでin vitro培養した。示されている結果は、各群のマウスを用いて得られた特定のスポット形成細胞(SFC)に対応する。
【
図12】HIMMにおけるT細胞応答:バイオコンジュゲートPP21 1μg又はMSP3-LSP 10μgのいずれかによって免疫化したマウスに移植したヒトリンパ球におけるCD4-Th1応答の顕著な改善。
【
図13】バイオ融合MSP3-1で免疫化したHIMMモデルにおいて誘発されたヒト抗体による寄生虫ネイティブタンパク質の認識の改善。ヒト脾臓細胞をNSGマウスに移植し、(
図6に記載されているように)バイオ融合MSP3-1 1μg、現行MSP3-1 LSP 10μg又はMSP3-1 C末端リコンビナントタンパク質 10μgのいずれかで免疫化した。3D7 Plasmodium falciparum(Pf)感染赤血球に対する免疫蛍光抗体検査(IFAT)によって、28日目のマウス血清中のヒト抗体と寄生虫タンパク質との反応性(これは、マラリア発作中にADCI防御機構を活性化するための重要な特徴である)を評価した。示されている結果は、各群のマウスを用いて得られた力価の範囲に対応する。
【
図14】バイオ融合MSP3-1 1μgで免疫化したHIMMモデルにおいて誘発されたヒト抗体応答は、ワクチン調製に使用したアジュバントに依存しない。(A)(
図6に記載されているように)Montanide ISA 720をアジュバント添加したバイオ融合MSP3-1 1μgで刺激した又は刺激していない2人の異なるドナー由来のヒト脾臓細胞をNSGマウスに移植した(マウス 4匹/群/ドナー)。(B)(区別可能なドナー由来のヒトリンパ球である以外は
図6に記載されているように)Montanide ISA 720に代えてMF59をアジュバント添加したバイオ融合MSP3-1 1μgで刺激した(マウス 9匹)又は刺激していない(マウス 8匹)ヒト脾臓細胞をNSGマウスに移植した。両方の場合において、28日目に、ELISAによって、特異的MSP3-1 LSP抗体力価を決定した。示されている結果は、各群のマウスを用いて得られたELISA力価の平均±SDに対応する。
【
図15】Montanide ISA 720をアジュバント添加したバイオ融合MSP3-1で免疫化したHIMMモデルにおけるヒトリンパ球において誘発されたヒトIgG抗体の抗体サブクラス。(
図10に記載されているように)MSP3バイオ融合物 1μgで刺激した又は刺激していないヒト脾臓細胞をNSGマウスに移植した。28日目に収集したマウス血清を1/20希釈した。サブクラスIgG ELISAによって、特異的MSP3-1 LSP抗体力価を決定した。示されている結果は、免疫化及び非免疫化マウスを用いて得られた光学密度の平均±SDに対応する。
【
図16】MF59をアジュバント添加したバイオ融合MSP3-1で免疫化したHIMMモデルにおいて誘発されたヒトIgG抗体のサブクラス。(
図14に記載されているように)MF59をアジュバント添加したバイオ融合MSP3-1 1μgで刺激した又は刺激していないヒト脾臓細胞をNSGマウスに移植した。28日目に収集したマウス血清を1/20希釈した。応答マウスの血清においてサブクラスIgG ELISAによって、特異的MSP3-1 LSP抗体力価を決定した。示されている結果は、免疫化及び非免疫化マウスを用いて得られた光学密度の平均±SDに対応する。両アジュバントは、細胞親和性サブクラスIgG1の優位を確立させた。
【
図17】BalbcマウスにおけるPP21/PP21-montanide 0.2若しくは1μg(左上及び右上パネル)又はC57blマウスにおける同じ用量(左下及び右下パネル)の免疫原性。
図6~8のように決定した抗MSP3-1-LSP抗体力価の推移。
【
図18】他のMSP3ファミリーメンバータンパク質を用いてPP21によって誘発された抗MSP3-1抗体の交差反応性(ElisaによるOD値)。C57Bl/6(C)及びBalb/c(B)マウスに、PP21 4μgの2回の注射(J0、J14)を投与した。63日目に、サンプルを収集した。
【
図19】C57BL(C)及びBALB/cマウス(B)における、水酸化ミョウバンをアジュバント添加したPP21の免疫原性(用量 1μg/免疫化)。2回の免疫化又は3回の免疫化後に、C57BL(C)及びBalb/Cマウス(B)においてElisaによって決定した抗体力価が示されている。25:600よりも高い希釈度は試験しなかった。対照的に、ミョウバンOH(これは、ヒトでは強力なアジュバントであり、高いTh1応答をもたらす)は、通常、齧歯類では不十分なアジュバントであるが、PP21による強い応答を依然として誘導したことに留意すべきである。
【
図20】南米Saimiri sciureusサルにおけるバイオ融合コンジュゲートPP21の高い免疫原性。0日目、28日目及び112日目に、Primate Center of Belem, Brasilの動物舎において飼育下で生まれたSaimiri sciureus南米サルを、Montanide Isa 720をアジュバント添加したPP21 1μgの皮下投与によって免疫化した(Montanideのみを投与したコントロール(平線)と比較した点線)。MSP3-LSP抗原に対するElisaによって、並びにIFAT及びWBによって、抗体を決定した(示さず)。免疫化 1回当たり抗原 0.1μgのみを使用した場合であっても、免疫応答は約5倍低かった(すなわち、依然として非常に有意であった)(示さず)。
【
図21】Montanide ISA720中PP25 1μg又はMontanide ISA720中LSA3-729 10μgのいずれかを投与したBalb/CマウスにおいてLSA3-CRM(PP25)対LSA3-729によって誘発された抗体応答。0日目、7日目、28日目に免疫化し、45日目に血清収集した。
【
図22】DG729によってin vitroでチャレンジしたLSA3-CRM(PP25)対LSA3-729免疫化Balb/Cマウスにおいて誘発されたIFNγ(ELISPOT)。
【
図23】HIMMにおける抗LSA3-729ヒト抗体応答及び結果の改善の再現性:2人のヒトドナー≪A≫及び≪B≫由来のリンパ球を使用した、HIMMにおけるLSA3-CRM構築物PP25に対する抗LSA3-729ヒト抗体応答
【
図24】PP25によって誘発された免疫応答の持続期間の改善。
【
図25】HuH7.5におけるP. falciparum肝臓期発達のための新規宿主細胞を開発し、ヒト初代肝細胞(HPH)と比較した。図は、マウスポリクローナル抗PfHsp-70で免疫染色した、スポロゾイト感染の4日後、5日後及び7日後における肝臓シゾントの代表的なサンプルを示す。倍率 400倍、スケールバー 10μm。7日目に、HPHにおいて十分なLSを見出すことは困難であった。その後、機能的アッセイにおいてこのヘパトーマモデルを用いて、肝細胞へのスポロゾイトの侵入を阻害することができる抗体を測定した。
【
図26】抗PfLSA3抗体による、Hu7.5ヘパトーマ細胞(ILSDA)におけるスポロゾイト侵入の阻害。ネイティブなタンパク質に対する抗LSA3反応性(IFATアッセイによる)と、肝臓期発達阻害アッセイ(ILSDA)における機能的阻害効果との間の相関が示されている。より小さなグラフは、抗スポロゾイト周囲mAb 2A10を使用した同じアッセイを示す。
【
図27】HIMMモデルに移植したヒトリンパ球では、構築物PP23(MSP3-2-CRMP97-MSP3-3)によって、強いB細胞応答及びT細胞応答が誘発された。上パネル(A)は抗体応答を示し、中央パネル(B)はアイソタイプ分布(これは、ADCI機構において単球と協調して作用することができる主要な細胞親和性クラスであるIgG1クラスが優位である)を示す。下パネル(C)は、MSP3-2又はMSP3-3のいずれかによってin vitroで再刺激したIFN-γ分泌によって評価したT細胞応答を示す。
【
図28】BALb/cマウス(n=5)におけるバイオ融合LSA5-CRM/Montanide ISA 720 用量10μgと比較した1μgの免疫原性。実験条件は、
図8に記載されているものと同様である。0日目、14日目及び28日目に、バイオ融合LSA5-CRM/Montanide ISA 720による免疫化を実施した(矢印)。0日目、7日目、21日目、42日目に収集した血清を使用して、抗原としてのLSA5-LSPに対するELISA力価測定によって、血清抗体検出を実施した。
【発明を実施するための形態】
【0018】
発明の詳細な説明
定義
「ワクチン」は、疾患の予防及び/又は治療のために免疫を発生させるための組成物を意味すると理解すべきである。したがって、ワクチンは、抗原を含む医薬であり、ワクチン接種によって特定の防御及び保護物質を生成するために、ヒト又は動物において使用されることを目的とする。本明細書で使用される場合、「ワクチン」は、マラリアに対する部分的又は完全な保護を誘発することができる免疫原性組成物を意味する。ワクチンは、感染に対して予防的であり得、及び/又は感染個体において治療的であり得る。
【0019】
「免疫原性」という用語は、それが指す組成物又はタンパク質が、投与により免疫応答を誘導することができることを意味する。被験体における「免疫応答」は、抗原に対する体液性免疫応答、細胞性免疫応答、又は体液性及び細胞性免疫応答を含む、適応免疫応答及び/又は先天性免疫応答の発生を指す。「体液性免疫応答」は、抗体によって媒介されるものを指す。
【0020】
この文書で使用される場合、「保護」又は「予防」という用語は、Plasmodium寄生虫との接触後における疾患の症候の非存在又は軽減した症候の存在を指す。特に、「マラリアの予防」という用語は、マラリアの原因となるPlasmodiumとの接触後の処置被験体における症候の非存在又は軽減した症候の存在を指す。
【0021】
「患者」又は「被験体」は、典型的には、哺乳動物被験体、好ましくはヒト被験体である。被験体は、男性又は女性、子供又は成人であり得る。被験体は、マラリアを有すると以前に診断又は同定されているものであり得る。あるいは、被験体はまた、マラリアを有すると以前に診断されていないが、例えば感染により、又はマラリア流行地域内への旅行により、このような症状を発症するリスクがあるものであり得る。例えば、被験体は、マラリアの1つ以上の症候を示すものであり得る。
【0022】
例えば、被験体は、Plasmodium falciparum又はPlasmodium vivaxに感染し得る。
【0023】
元のポリペプチドと「相同な」又は「実質的に相同な」配列は、典型的には、元のポリペプチド又は元のポリペプチドの免疫原性若しくはエピトープフラグメントの配列と少なくとも約80パーセントの同一性を有するものであって、元のポリペプチドの目的のターゲットに対する所望の効果を実質的に保持する(すなわち、免疫原性応答を誘発するか、又は抗体によって認識される)ものである。一層好ましい実施態様では、相同配列は、元のポリペプチド又はその免疫原性若しくはエピトープフラグメントの配列と少なくとも約85パーセント、90パーセント、95パーセント、97パーセント又は99パーセントの同一性を有する。
【0024】
「免疫原性フラグメント」は、一般に、少なくとも5アミノ酸の長さを有する。一層好ましくは、免疫原性フラグメントの長さは、少なくとも7、9、11、13、15、17及び19アミノ酸である。「エピトープ」は、一般に、少なくとも5アミノ酸、好ましくは少なくとも7~14アミノ酸の長さを有する。「エピトープフラグメント」はこのようなエピトープを含むので、より長いものであり得る。
【0025】
本発明との関連では、「融合又はバイオ融合」という用語は、リコンビナントタンパク質において、担体タンパク質が抗原性Plasmodium配列に直接連結されているか、又はペプチドリンカーによって抗原性Plasmodium配列に連結されていることを意味する。ペプチドリンカーは、1~35アミノ酸、好ましくは5~20アミノ酸、さらに好ましくは5~10アミノ酸の配列であり得る。好ましい実施態様では、リンカーペプチドは、(Gly-Gly-Gly-Gly-Ser)n、(Gly)n又は(EAAAK)n(nは、1~4、好ましくは1~3である)である。いずれの実施態様でも、単一ポリペプチドが形成される。
【0026】
担体タンパク質
担体異種タンパク質配列は、有利には、ジフテリアトキソイドの交差反応物質(CRM)、ジフテリアトキソイド(D)、非毒性突然変異体リコンビナントPseudomonas aeruginosaエキソプロテインA(repA)、髄膜炎菌外膜タンパク質複合体(OMPC)、破傷風トキソイド(T)、H. influenzaプロテインD(hiD)及びそれらの免疫原性フラグメントからなる群より選択され得る。
【0027】
好ましい実施態様では、担体異種タンパク質配列は、CRM197又はその免疫原性フラグメントであり得、このフラグメントは、好ましくは、フラグメントA、膜貫通ドメインT、CRM197のレセプター結合ドメインR、CRM197のアミノ酸配列1~190及びCRM197のアミノ酸配列1~389からなる群より選択される。
【0028】
ジフテリン毒素のフラグメントAは、アミノ酸1~201に及ぶ。CRM197は、酵素的に不活性なフラグメントAを有し、グルタミン酸によるグリシン52の置換を示す。
【0029】
ジフテリン毒素のフラグメントBは、アミノ酸202~535に及ぶ。
【0030】
【0031】
実質的に相同な配列も使用され得る。
【0032】
抗原性Plasmodium配列
本発明の融合タンパク質構築物は、Plasmodiumタンパク質のエピトープ配列を含む少なくとも1つの抗原性配列を含む。
【0033】
前記抗原性配列は、任意のPlasmodium種由来の任意のPlasmodium抗原のものであり得る。
【0034】
ヒトに感染する寄生虫の「Plasmodium」属としては、限定されないが、P. falciparum、P. vivax、P. knowles、P. ovale及びP. malariaeが挙げられる。以下に列挙されている抗原は、主にP. falciparum由来の抗原である。しかしながら、他のPlasmodium種におけるオルソログも同様に包含される。特に、P. vivax抗原は、P. falciparum抗原と同じ低い免疫原性を示した。
【0035】
前記抗原は、赤血球期(「血液期」とも表記される)又は前赤血球期(スポロゾイト及び肝臓期)において発現され得る。
【0036】
使用され得る抗原性配列の例は、以下の表2に列挙されている。実質的に相同な配列も使用され得る。
【0037】
赤血球期において発現される抗原であって、Ab依存性細胞阻害(ADCI)防御機構のターゲットである抗原としては、MSP3(例えば、MSP3-1、MSP3-2、MSP3-3、MSP3-4、MSP3-7、MSP3-8)、11-1のPEBSサブ領域(LSA5とも称される)、Glurp R0及びR2、SERP、P27及びP27A、P45、P90及びP77、P14、P181(これはP77の組み合わせである)、MSP1-Block 2、MSP2(2つの3D7及びFC27アレル、二形性領域及び定常領域の両方)、GBP 130(特に、N部分及びC部分の両方)、タンパク質332、タンパク質11-1、MSP4又はそれらの任意のエピトープフラグメントが挙げられる。
【0038】
好ましくは、融合タンパク質における抗原性配列は、MSP3又はそのエピトープフラグメントである。
【0039】
別の好ましい実施態様では、融合タンパク質における抗原性配列は、LSA5又はそのエピトープフラグメントである。
【0040】
Plasmodium falciparumメロゾイト表面タンパク質3(MSP-3)は、公知の無性血液期マラリアワクチン候補抗原である(Sirima et al, N Engl J Med 2011, 365(11):1062-1064; Demanga et al, Infect Immun 2010, 78(1):486-494; Daher et al, Infect Immun 2010, 78(1):477-485; Rousillon et al, Roussilhon, et al, PLoS Medicine, November 2007, 4, Issue 11, e320)。
【0041】
特に、6つのMSP3タンパク質のいずれか、好ましくはMSP3-1が使用され得るが、ペプチドa、b、c、d、e、f(リコンビナントC末端)だけではなく、タンパク質の全長及びN末端も使用され得る。好ましい実施態様では、抗原性配列は、MSP3又はそのエピトープフラグメントであり、このフラグメントは、MSP3-1、MSP3-2、MSP3-3、MSP3-4、MSP3-7、MSP3-8の中から選択されるPlasmodium MSP3タンパク質のC末端領域のモチーフa、b、c、d、e及び/又はfを包含する。
【0042】
メロゾイト表面由来の他の抗原、特に、緩く付着又は切断されるのでメロゾイト表面から放出され得るものが包含される。
【0043】
前赤血球期において発現される抗原としては、LSA3、PEBS、CS、Trap及びSalsa並びにそれらの任意のエピトープフラグメントが挙げられる。P. falciparumでは、肝臓期抗原-3(LSA-3)は、前赤血球期において発現される抗原である(Toure-Balde et al: Infect Immun 2009, 77(3):1189-1196; Daubersies et al: Nat Med 2000, 6(11):1258-1263)。
【0044】
他の段階又は他の機構に関与する抗原も包含される。それらとしては、有性期に関与する抗原、例えばPf25若しくはPf45/48、及び赤血球におけるメロゾイト侵入阻害のGIA機構に関与する血液期の抗原、例えばRh5、AMA1、MSP1-19、MSP1-42、MSP2若しくはMSP4-5、又は細胞接着に関与する抗原、例えばVar CSAが挙げられる。
【表2】
【0045】
融合構築物
特定の実施態様では、融合タンパク質は、担体配列としてのCRM197又はその免疫原性フラグメントに融合されたMSP3(好ましくは、MSP3-1)、LSA3、LSA5(PEBSとも称される)又はそのエピトープフラグメントを抗原性配列として含むか、又はそれからなる。
【0046】
好ましい態様では、融合タンパク質は、担体タンパク質配列のC末端及びN末端にそれぞれ位置するか、又は同じ末端に両方とも位置する2つの抗原性配列を含み、2つの抗原性配列は、同じものであるか、又は互いに異なるものである。
【0047】
好ましい実施態様では、抗原性配列と担体配列との間の融合は、直接融合である。
【0048】
別の実施態様では、少なくとも1つのアミノ酸配列は、ペプチドリンカーによって担体異種タンパク質配列のN末端及び/又はC末端に連結され得、ペプチドリンカーは、好ましくは、1~35アミノ酸、好ましくは5~20アミノ酸の配列である。好ましい態様では、ペプチドリンカーは、(Gly-Gly-Gly-Gly-Ser)n、(Gly)n又は(EAAAK)n(nは、1~4、好ましくは1~3である)である。
【0049】
核酸、ベクター及び宿主細胞
本発明の融合タンパク質は、任意のリコンビナント技術によって作製され得る。したがって、本発明の別の態様は、前記融合タンパク質をコードする核酸を含有するベクター、好ましくは発現ベクターに関する。
【0050】
本発明において使用される発現ベクターは、in vitro及び/又はin vivoにおける(例えば、適切な宿主細胞、宿主生物及び/又は発現系における)発現を提供し得る。それらは、典型的には、上記で定義されるポリヌクレオチド配列と、宿主細胞又は生物におけるタンパク質産物の発現(例えば、転写及び翻訳)を可能にする調節配列(例えば、適切なプロモーター、エンハンサー、ターミネーターなど)とを含む。
【0051】
本発明のベクターは、ベクターの形態、例えばプラスミド、コスミド、YAC、ウイルスベクター又はトランスポゾンなどであり得る。
【0052】
好ましいが非限定的な態様では、本発明のベクターは、ii)1つ以上の調節エレメント、例えばプロモーター及び場合により適切なターミネーター;並びに場合によりさらにiii)遺伝子構築物の1つ以上のさらなるエレメント、例えば3’-若しくは5’-UTR配列、リーダー配列、選択マーカー、発現マーカー/レポーター遺伝子、及び/又はトランスフォーメーション若しくは統合(の効率)を促進し若しくは増加させ得るエレメントに作動可能に接続されたi)少なくとも1つの上記核酸を含む。
【0053】
好ましい宿主細胞は、E.coliである。しかしながら、細菌、酵母、糸状菌、昆虫、植物細胞及び哺乳動物細胞などの任意の原核生物又は真核生物発現系が使用され得る。
【0054】
好ましいベクター、プロモーター及び宿主細胞は、グリコシル化又は非グリコシル化リコンビナントタンパク質を発現させることができる全てのベクター、プロモーター及び宿主細胞、例えば原核生物発現用のpET26a(T7プロモーターを含む)若しくはpTrcHis2(trp lacプロモーターを含む)プラスミド、移入用のpUC19、pUC 57若しくはpCR4 TOPOプラスミド及びタンパク質発現用のE. coli BL21(DE3)若しくはE coli NiCo21宿主細胞、又はプラスミド増幅専用のE coli Top 10である。
【0055】
ワクチン製剤
融合タンパク質は、場合によりアジュバントと組み合わせて、生理学的に許容し得るビヒクルと併せて医薬組成物に製剤化される。
【0056】
したがって、ワクチンであって、生理学的に許容し得るビヒクルと共に、融合タンパク質、又は少なくとも2つの異なる抗原性アミノ酸配列をそれぞれ含む少なくとも2つの融合タンパク質の組み合わせを含むワクチンが提供される。
【0057】
別の実施態様では、前記融合タンパク質をコードする核酸構築物を含むワクチン組成物が提供される。
【0058】
いくつかの実施態様では、ワクチンは、1つ以上の薬学的に許容し得るビヒクル又は賦形剤を含み得る。賦形剤は、それ自体が抗体の産生を誘導しない任意の成分であって、組成物を投与される被験体にとって有害ではない任意の成分を含む。適切な賦形剤は、典型的には、大きな徐々に代謝される大型高分子、例えば糖、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリマーアミノ酸、アミノ酸コポリマー、スクロース、トレハロース、ラクトース及び脂質凝集物(例えば、油滴又はリポソーム)である。適切な薬学的ビヒクルは当業者に周知であり、限定されないが、希釈剤、例えば水、生理食塩水などが挙げられる。適切には、滅菌パイロジェンフリーリン酸緩衝生理食塩水が、薬学的ビヒクルである。加えて、添加剤、例えば湿潤剤又は乳化剤、pH緩衝物質などが存在し得る。
【0059】
医薬組成物、免疫原性組成物又はワクチンは、アジュバントをさらに含み得る。「アジュバント」は、組成物の有効性を増強するために使用され、限定されないが、水酸化アルミニウム(ミョウバン)、リン酸アルミニウム、水中油型又は油中水型エマルジョン、Toll様レセプターのアゴニスト、N-アセチル-ノルムラミル-L-アラニル-D-イソグルタミン(the-MDP)、N-アセチル-ムラミル-L-トレオニル-D-イソグルタミン(nor-MDP)、PEI;AS01又はAS02(GlaxoSmithKline)、GLA-SE(IDRI)及び類似製剤;並びに当技術分野で公知の同様のアジュバントが挙げられる。ISA 51及び720を含むMontanide(登録商標)アジュバント(これは、高精製マンニドモノオレートで乳化された精製スクアレン及びスクアランをベースとする)も同様に使用され得る。MF59(登録商標)はアジュバントの別の例であり、スクアレン、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート(Tween(登録商標)80)及びソルビタントリオレートの水中油型エマルジョンである。
【0060】
ワクチンは、それを投与すべき被験体に適切な投与量に製剤化される。投与される投与量は、個体の症状、性別、体重及び年齢;投与経路;並びに使用されるアジュバントによって変動し得る。ワクチンは、懸濁液又は液体溶液などの剤形で使用され得る。ワクチンは、上記薬学的に許容し得るビヒクルと共に製剤化され得る。適切な投与量としては、限定されないが、本明細書に記載される融合タンパク質 約0.1~約100マイクログラム、好ましくは約1~約50マイクログラム、さらに好ましくは1~20、1~15又はさらに1~10マイクログラムが挙げられる。
【0061】
ワクチン接種
免疫原性組成物又はワクチンは、多成分/多抗原免疫原性組成物又はワクチンであり得る。
【0062】
免疫原性組成物又はワクチンが、複数回投与レジーム、例えばプライムブーストレジームを目的とする場合、プライム組成物は、ブースト組成物と同じ又は異なる組成物を含み得る。しかしながら、本発明との関連では、プライムブーストレジームは全く必須ではない。
【0063】
免疫原性組成物又はワクチンは、任意の好都合な経路によって、好ましくは非経口、筋肉内、皮内、皮下、粘膜又は静脈内で投与され得る。
【0064】
DNAワクチン接種のために、エレクトロポレーション、ニードルフリーアプローチ、例えば粒子衝突及び高圧送達、皮膚パッチ、微粒子又はリポソーム中へのDNAワクチンの製剤化などの様々な技術が利用可能である。
【0065】
被験体において免疫応答を惹起するための方法であって、有効量の本発明のワクチンを投与する工程を含む方法が記載される。ワクチンは、予防的に(すなわち、感染を予防するために)、又は保護を提供するために投与され得、好ましくは、抗体及び/又はT細胞免疫の誘導を伴う。前記方法は、一次免疫応答、二次免疫応答、ブースター応答又は免疫応答の組み合わせを惹起し得る。
【0066】
ワクチンは、前赤血球期、例えば肝臓期及び/又は有性若しくは無性血液期を含む任意の段階において、マラリアから被験体を保護することを意味する。
【0067】
本発明によれば、Plasmodium抗原に対する免疫応答の規模及び/又は記憶が増加する。
【0068】
特に、本発明のMSP3融合構築物は、抗MSP3細胞親和性抗体、例えばIgG1及びIgG3抗体の産生をトリガーする。保護のレベルは、前記抗体の力価を測定することによって決定され得る。
【0069】
図面及び実施例は本発明を例証するものであり、その範囲を限定しない。
【実施例0070】
以前の研究では、頻繁なマラリア曝露は、成人の免疫の発達をもたらし、これが疾患を予防又は緩和することが示されている。この免疫は、マラリア免疫成人由来の免疫グロブリン(IgG)を投与することによって受動伝達され得る。
【0071】
抗体依存性細胞性阻害(ADCI)と称される寄生虫殺傷機構が同定された。ADCIによるゲノムワイドDNAライブラリーのスクリーニングにより、メロゾイト表面タンパク質3(MSP3)が同定され、その後、PEBSを含む他のいくつかの抗原が同定された。
【0072】
細胞親和性抗体は、保護代用物として同定された:ADCIを媒介する細胞親和性(白血球結合)抗MSP3抗体IgG1及びIgG3は、多くの異なる状況の疫学的研究においてマラリアのリスクの減少に一貫して関連することが見出された。これらの抗体はまた、感染動物におけるP.falciparumに対する保護を媒介する。
【0073】
これらの研究は、効率的な免疫応答が有する特徴を示しており、改善されたワクチン製剤の開発につながる。
【0074】
これに基づいて、今回、本発明者らは、融合タンパク質CRM97-MSP3が、MSP3-LSP(MSP3-1の186~271領域をカバーする長い合成ペプチド)と比較して、B細胞レベル及びT細胞レベルで免疫原性を20~100倍増加させることを示した。実施例1を参照のこと。10倍少ない免疫化用量を使用したところ、ヒト、マウス及びリスザル由来のリンパ球に対する免疫原性が大きく改善し、抗体の持続期間が大きく改善した。
【0075】
前赤血球期において、以前の研究では、LSA3によってチンパンジーにおいて、大規模なスポロゾイトチャレンジに対する保護効果を誘発することができるが、この効果は、LS発達を阻害する可能性があるIFN-γと、スポロゾイト侵入を防止する抗体とに依存することがさらに示されている。
【0076】
実施例2では、本発明者らは、バイオ融合CRM-LSA3構築物がT細胞応答及びB細胞応答を強く増加させることを示した。
【0077】
実施例1及び2において得られた結果は、CRMを有する構築物において、赤血球期由来の他の抗原、例えばMSP3-2及びMSP3-3を使用して再現可能であることを証明した(実施例3を参照のこと)。
【0078】
実施例4は、LSA5-CRM構築物を用いた結果を提供する。
【0079】
材料及び方法
発現構築物の生成及びEscherichia coliにおけるバイオ融合タンパク質の産生
そのN末端及びC末端の両方においてマラリアペプチド抗原に共有結合的に連結された解毒化ジフテリア毒素CRM197から構成されるキメラ免疫原をコードする遺伝子配列(
図1)を化学合成し(GenScript)、E. coliにおける産生のためにコドン最適化した。発現プラスミドpET-26a(Novagen)におけるクローニングのために、NcoI及びXhoIの制限部位を5’末端及び3’末端にそれぞれ付加した。配列決定によってシャトルプラスミドpUC57に挿入された配列をチェックし、迅速に凍結乾燥した(4μg)。
【0080】
PP21におけるMSP3-1ペプチド(plasmodB acc.Nbr PF3D7_1035400)は、MSP3-1におけるアミノ酸(AA)155~249に対応する。
【0081】
他のハイブリッド免疫原(表3)は、CRM197周囲に設計されている。PP22では、MSP3-2ペプチド(MSP3-2のAA 178~257、PlasmodB acc.Nbr PF3D7_1035500)でMSP3-1ペプチドを置き換えた。PP23では、MSP3-3ペプチド(MSP3-3のAA 246~307、PlasmodB acc.Nbr PF3D7_1035600)でC末端のMSP3-2ペプチドを置き換えた。PP25は、両方のCRM197末端に同じLSA3ペプチド(AA 176~325、PlasmodB acc.Nbr PF3D7_0220000)を含有する。
【表3】
【0082】
クローニング分子手順及びプラスミド増殖のために、E. coli transfer strain Top 10 (Invitrogen)[F-mcrA Δ(mrr-hsdRMS-mcrBC)Φ80lacZΔM15 ΔlacX74 recA1 araD139 Δ(ara leu)7697 galU galK rpsL(StrR)endA1 nupG]をを使用した。
【0083】
株BL21(DE3)[F-ompT hsdSB(rB-mB)gal dcm(DE3)](NEB)において、リコンビナントの発現を実施した。
【0084】
ハイブリッド配列を含有するシャトルプラスミドpUC57(Genscript)及び発現プラスミドpET26aをNcoI及びXhoIで消化した。電気泳動後、ゲル抽出(QIAGEN)によって、インサート及び線状化pET26aのバンドを回収した。インサート対プラスミド比 3で、ゲル精製インサートをpET26a内にライゲーションした。ライゲーション反応を使用して、化学的にコンピテントなE. coli Top 10をトランスフォーメーションし、ペトリ皿中、50μg/mL カナマイシンを含むLB寒天培地上にプレーティングした。
【0085】
シリカカラム(QIAGEN)のプラスミドミニプレパレーションのために、カナマイシンを含む液体培地中で、細菌コロニー 6個をピッキングした。インフォマティブな制限酵素による消化によって、pET26aへのインサートの正しい挿入をチェックした(
図2)。
【0086】
正しい制限プロファイルを有するプラスミドを選択して、BL21(DE3)細菌をトランスフォーメーションした。
【0087】
上記のように制限酵素消化によって分析したBL21(DE3)クローン 6個において、正しいプラスミドによるトランスフォーメーションを確認した。
【0088】
小容量細菌培養におけるリコンビナントタンパク質産生の最適化
三角フラスコ中、小規模培養スケール(1L)で、リコンビナントタンパク質産生の持続期間、インデューサー(IPTG)の濃度及び温度などのパラメータを分析した。定常状態一晩培養物 5mlを1L(1:200)で希釈し、600nmの光学密度 0,7~0,8まで30℃でさらに培養した。2つのIPTGインデューサー濃度 0.1及び1mMを用いて、3つの温度 22、30及び37℃で、リコンビナントタンパク質発現の誘導をアッセイした。22℃で一晩培養し、0.1mM IPTGによって誘導した後、最良のリコンビナント収量が得られた。
【0089】
固定化金属アフィニティークロマトグラフィー(IMAC)による精製後、細菌培養液 1リットル当たりリコンビナント産物 1~2mgの収量が得られた。
【0090】
PP21の生産及び精製
実験室スケール(1~2リットル)の生産を行って、マウス及び霊長類モデルにおいて前臨床免疫原性研究を行うために十分なPP21リコンビナントタンパク質を得た。
【0091】
細菌培養及びリコンビナントタンパク質生産のためのプロトコールは、小規模培養で以前に確立されている。
【0092】
Ni-NTA樹脂(QIAGEN)によるアフィニティーによって、C末端ヘキサヒスチジンタグ付リコンビナントタンパク質PP21を精製した。
【0093】
ネイティブ条件下又は変性条件下で、2つの精製手順を調査した。
【0094】
実際、ネイティブ条件下では、細菌溶解物不溶性画分においてリコンビナントタンパク質は見られなかったが、変性条件下における精製もアッセイして、Ni-NTA樹脂上の固定化Ni2+金属について、ヒスチジンタグのアベイラビリティに対するPP21の三次元構造の推定コンフォメーション効果の影響を評価した。
【0095】
ネイティブ条件下における精製
-遠心分離(4000g、30分間、4℃)によって、細菌細胞を回収した。
-細菌ペレットをバイオマス 1グラム当たり溶解バッファー(50mM NaH2PO4、300mM NaCl、10mM イミダゾール、pH8.0) 5mLに懸濁した。
-溶解物を1mg/mL リゾチームと共に氷上で30分間振盪した。
-冷却間隔を30秒間とし、150W、530秒間のバーストによって、細菌を溶解した。
-一式のプロテアーゼ阻害剤(Roche)を加えた5μg/mL DNAse I及び10μg/mL RNAse Aと共に、溶解物を氷上で30分間振盪した。
-10000g、4℃で30分間遠心分離することによって、溶解物を清澄化した。
-溶解物を0,22μm篩でろ過し、4℃のロッキングトレイ上、容量 20mLで、NiNTA樹脂 200μLと共に一晩インキュベーションした。
-溶解バッファー 容量40mLで樹脂を十分に5回洗浄した。分析のために、第1段階の上清(樹脂インキュベーション後の溶解物)のアリコートを保存した。遠心分離工程は、200gで5分間以下であった。
-250mM イミダゾールを5倍含有する溶解バッファー 500μL中で樹脂をインキュベーションすることによって、リコンビナントタンパク質を回収した。
-溶出画分をプールし、30kDa篩による限外ろ過によってPBS pH7.3に対して透析した。
【0096】
280nMで分光光度法によってタンパク質濃度を測定し、PP21について
図3に示されているように、電気泳動(SDS-PAGE10%)及びイムノブロッティングによってさらに特性評価した。
【0097】
変性条件下における精製
遠心分離(4000g、30分間、4℃)によって、細菌細胞を回収した。
細菌ペレットをバイオマス 1グラム当たり変性溶解バッファー(100mM NaH2PO4、10mM トリス-Cl、8M 尿素、NaOH pH8.0) 5mLに懸濁した。
溶解物を氷上で30分間振盪した。
冷却間隔を30秒間とし、150W、530秒間のバーストによって、細菌をさらに溶解した。
10000g、4℃で30分間遠心分離することによって、溶解物を清澄化した。
溶解物を0,22μm篩でろ過し、4℃のロッキングトレイ上、容量 20mLで、NiNTA樹脂 200μLと共に一晩インキュベーションした。
変性溶解バッファー 容量40mLで樹脂を十分に5回洗浄した。分析のために、第1段階の上清(樹脂インキュベーション後の溶解物)のアリコートを保存した。遠心分離工程は、200gで5分間以下であった。
250mM イミダゾールを5倍含有する溶解バッファー 500μL中で樹脂をインキュベーションすることによって、リコンビナントタンパク質を回収した。
溶出画分をプールし、30kDa篩による限外ろ過によってPBS pH7.3に対して透析した。
【0098】
2つの方法による精製収量は同様であったが、これは、ネイティブ形態のPP21において、アフィニティーヒスチジンタグが機能的であることを示唆している。
【0099】
三角フラスコ中、1リットルスケールの10回を超える生産/精製試験において、細菌培養液 1リットル当たりリコンビナントタンパク質PP21 0,7~1mgの精製収量が再現性よく得られた。
【0100】
図3は、IMACによって精製したリコンビナントタンパク質PP21を示す。
【0101】
PP21の温度安定性
ウエスタンブロッティングによって評価した貯蔵温度に応じたPP21の安定性は、
図4に示されている。温度 6℃の冷蔵庫における21日間の貯蔵期間後、分解の兆候は観察されなかった。室温では、PP21は、同じ期間で分解の兆候を示し始めたのに対して、37℃では8日後に完全に分解された。しかしながら、それはGMP製造製品ではなく、微量のプロテアーゼを含有し得るので、この不安定性は推定内因性分子の不安定性に帰することはできない。
【0102】
pET26aによってE. coliにおいて発現されたリコンビナントタンパク質のアミノ酸配列は、以下に示されている。括弧内の配列は発現プラスミドに由来するものであり、太字はCRM197ジフテリア毒素に由来するものである。
【0103】
固定化金属アフィニティークロマトグラフィー(IMAC)による精製に使用したC末端のヘキサヒスチジンタグは、下線が付されている。
【0104】
PP21 MSP3-1の配列(斜体下線)(PlasmodB ID:PF3D7_1035400)、残基155~249(95aa)
【化1】
PP22;MSP3-2の配列(斜体下線)(PlasmodB ID:PF3D7_1035500)、残基178~257(79aa)
【化2】
PP23;MSP3-2の配列(CRM197の前の斜体下線)(PlasmodB ID:PF3D7_1035500)、残基178~257(79aa)及びMSP3-3(CRM197の後の斜体)(PlasmodB acc.Nbr PF3D7_1035600)、残基246~307(61aa)
【化3】
PP25;LSA-3の配列(斜体下線)(PlasmodB ID:PF3D7_0220000)、残基176~325(150aa)
【化4】
LSA5-CRMタンパク質配列(配列番号:89)
【化5】
【0105】
ヒト免疫原性マウスモデル(HIMM):このモデルは、免疫不全NOD-SCID-IL-2rγヌル(NSG)マウスへのヒト脾臓リンパ球の移植(Hu-SPL-NSG)に基づくものであり、通常の実験用マウス、例えばBalb/C及びC57BLを使用して得られた情報を補完する。
【0106】
Balb/c又はC57Bl/6マウスの免疫化及び血液サンプリング
Balb/c又はC57Bl/6マウス 4~5匹の群は、リン酸緩衝生理食塩液pH7.2(PBS) 100μlで希釈してアジュバントMontanide ISA 720 100μlで乳化したMSP3-1-LSP 10μg又はPP21 1μgの2回又は3回の注射を受けた。皮下注射によって免疫化を実施し、15日間おいて1回又は2回反復した。2回目の注射の2週間後から開始して尾を出血させることによって、血液収集を実施し、初回抗原注射の160日後まで15日間隔で反復した。血清を分離し、使用まで-20℃で貯蔵した。並行して同時に処理した他の群は、PP21 1μg又は0.2μgのいずれかを投与した。
【0107】
マウス血清中の抗MSP3-LSP抗体力価の決定
酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)によって、マウス血清中のMSP3-LSP特異的抗体力価を決定した。PBSで希釈した2μg/ml MSP3-1-LSP又はMSP3-1-LSPペプチドa、b、c若しくはdの1つで平底マイクロタイトレーションプレート(Nunc-Thermo Scientific, USA)を4℃で一晩コーティングした。洗浄(PBS、pH7.2)及び飽和(PBS、3%脱脂乳)後、(PBS、3%脱脂乳、0.05%Tween20で希釈した)試験血清の系列希釈物を追加し、1時間インキュベーションした。ネガティブコントロールは、免疫前マウス血清からなる。続いて、西洋ワサビペルオキシダーゼコンジュゲートヤギ抗マウスIgG(H+L)(Invitrogen, USA)を1時間追加し、続いて、ペルオキシダーゼ基質テトラメチルベンジジン(Amresco, USA)を追加することによって、特異的抗体を明らかにした。特異的抗体力価は、最後の陽性希釈の逆数に対応する。
【0108】
ヒト脾臓提供及び倫理規定
ヒト脾臓は、レバノンのNational Organization for Organ & Tissues Donation & Transplantation (NOOTDT)との倫理的合意にしたがって、死亡した臓器移植ドナーから入手した。存命中に患者自身が、又はその死亡後に患者の両親が、移植又は科学研究のための臓器提供に関するインフォームドコンセントに署名した。
【0109】
ヒト脾臓細胞調製
以前に記載されているように(Brams P, 1998)、外科的切除後24時間以内に、ヒト脾臓を加工した。簡潔に言えば、脾臓組織を解剖し、細胞懸濁液を調製した。ゲイ溶液を使用して、赤血球を25℃で5~10分間溶解した。洗浄後、37%ウシ胎仔血清(FCS)(Sigma,USA)、10%ジメチルスルホキシド(DMSO)(Sigma,USA)及び53%RPMI1640(Sigma,USA)からなる培地に白血球を再懸濁し、次いで、使用まで液体窒素中で凍結保存した。各脾臓ドナーから単離した細胞の平均数は、100±40億個であった。
【0110】
NSGマウスにおけるヒト脾臓細胞の移植及び免疫化
NOD.Cg-Prkdcscid-IL2rγtm1WjI/SzJ(NSG)マウスは、The Jackson Laboratories (USA)から入手し、無菌マイクロアイソレーター中で飼育した。食物、水、ケージ及び寝具は全て、使用前にオートクレーブ処理した。6~8週齢のNSGマウスを実験に入れた。
【0111】
0日目に、10%ウシ胎仔血清、1%非必須アミノ酸(NEAA 100x)、2mM グルタミン、2mM ピルビン酸ナトリウム及び50μg/ml ゲンタマイシンを補充したRPMI1640培地(完全培地)中で、1μg/ml 抗原と共に又は抗原なしで、ヒト脾臓細胞を細胞 4×106個/mlで培養した。培養試薬は全て、Sigma, USAから購入した。1日目に、リコンビナントヒトIL-2(Gibco Invitrogen)を25IU/mlで追加した。3日目に、脾臓細胞を回収し、洗浄し、ハンクス平衡塩類溶液(HBSS)に再懸濁した。各NSGマウスは、抗原プライミング又は非プライミング脾臓細胞 30×106個の腹腔内注射(ip)を受けた。7日目及び21日目に、HBSS-Montanide ISA 720又はMF59アジュバント(v/v) 200μl中の抗原 10μgの腹腔内注射(ip)によって、再構成マウス(Hu-SPL-NSG)を追加免疫化した。非プライミング脾臓細胞で再構成したマウスは、アジュバントのみを投与した。各追加免疫化の1週間後に、血液サンプルを収集した。
【0112】
Hu-SPL-NSGマウス血清中のヒトMSP3-1-LSP特異的抗体の決定
ELISAによって、これらの決定を実施した。簡潔に言えば、マウス血清中の総ヒトIgGの検出のために、0.1M炭酸バッファー、pH9.5中の2.5μg/ml精製ヤギ抗ヒトIgG(H+L)(Invitrogen, USA)で平底マイクロタイトレーションプレート(Nunc-Thermo Scientific, USA)を4℃で一晩コーティングした。洗浄(PBS、pH7.2)及び飽和(PBS、3%脱脂乳)後、(PBS、3%脱脂乳、0.05%Tween20で希釈した)試験血清を追加し、1時間インキュベーションした。ネガティブコントロールは、同じ動物の免疫前マウス血清からなっていた。続いて、西洋ワサビペルオキシダーゼコンジュゲートヤギ抗ヒトIgG(H+L)(Invitrogen, USA)を1時間追加し、続いて、ペルオキシダーゼ基質テトラメチルベンジジン(Amresco, USA)を追加することによって、ヒトIgGを明らかにした。標準的なヒトIgG溶液(Zymed, USA)と比較して、Hu-SPL-NSGマウス血清中の総ヒトIgG濃度を計算した。PBS中2.5μg/ml MSP3-1-LSPでプレートをコーティングしたことを除いて、抗原特異的抗体の検出について同じ試験を実施した。この場合、ネガティブコントロールは、Plasmodiumに感染したことがない個体の血清からなっており、ポジティブコントロールは、過免疫アフリカ人成人由来の血清のプールからなっていた。両方の場合において、抗体力価を決定するために、各血清の系列希釈物を試験した。特異的抗体力価決定のために、カットオフ(ネガティブコントロールOD×2)を超える吸光度が得られた場合、試験を陽性とみなした。ヒトIgGサブクラスに特異的な二次マウスモノクローナル抗体(それぞれ最終希釈 1/4,000、1/10,000、1/10,000及び1/60,000でクローンNL16[IgG1;Skybio, UK]、HP6002[IgG2;Sigma-Aldrich, Germany]並びにZg4及びGB7B[それぞれIgG3及びIgG4;Skybio, UK)を使用した)、続いて、PBSで1/4000希釈した西洋ワサビペルオキシダーゼコンジュゲートヤギ抗マウスIgG(Invitrogen)を使用して、IgGサブクラスの検出を実施した。
【0113】
リアルタイム逆転写PCR(RTqPCR)による異なるサイトカイン、ケモカイン及び転写因子の遺伝子発現の定量
完全RPMI1640培地中、免疫化抗原での刺激あり又はなしで、免疫化及び非免疫化マウスの脾臓細胞を細胞 2×106個/mlで培養した。24時間の培養後、RNeasy Mini Kit (Quiagen, Germany)を使用して、全細胞RNAを抽出した。反応混合物 20μl中で、RevertAid M-MuLV enzyme (RevertAid kit First Strand Synthesis kit, Thermo Scientific Fermentas)を使用して、逆転写を行った。簡潔に言えば、オリゴdT18プライマー 1μlを全RNA 約400ngに追加し、混合し、65℃で5分間インキュベーションした。製造業者が推奨するように、チューブを氷上に数分間置き、短時間遠心分離してから、5×反応バッファー、Ribolock Rnase阻害剤(20u/μl)、dNTP(10mM)及び逆転写酵素(200u/μl)を追加した。反応混合物を42℃で60分間インキュベーションした。70℃で5分間加熱することによって、酵素を不活性化した。定量的PCRを使用して、Th1又はTreg細胞に特徴的であると考えられる異なるヒトサイトカイン、ケモカイン及び転写因子の相対的発現を測定した。製造業者が推奨するように、LightCycler 480 SYBR Green Master, La Rocheを使用して、PCR混合を実施した。PCR増幅をLightCycler 480 machine (La Roche)において95℃で5分間(1サイクル)実施し、続いて、95℃で10秒間及び55~57℃で10秒間のインキュベーションを45サイクル行った。各サンプルを3回反復でランした。内部標準として使用したハウスキーピング遺伝子は、ベータアクチン(βアクチン)及びヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ1(HPRT1)(geNorm analysis)であった。作成したPCR曲線に基づいて、サイクル閾値(Ct)を計算した。2ΔΔCt法によって、相対的発現量を計算した。
【0114】
免疫蛍光アッセイ。
主にP. falciparum(3D7)の成熟シゾントを含有する赤血球培養物由来の風乾したアセトン固定薄層塗抹標本を使用して、免疫蛍光アッセイを実施した。PBS-1%ウシ血清アルブミンで希釈したHu-SPL-NSG血清を加湿チャンバー中、37℃で1時間インキュベーションした。PBSで洗浄した後、エバンスブルー対比染色(1/200)と共にPBSで1/400希釈したAlexaFluorコンジュゲートヤギ抗マウスIgG(Molecular Probes及びInvitrogen)を使用することによって、抗体を検出した。
【0115】
結果
実施例1:PP21(CRMP97-MS3融合構築物)の免疫原性
以下の動物モデル:
・BALB-Cマウス
・C57BLマウス
・Saimiri sciureusサル
・ヒト免疫原性マウスモデル(HIMM)
において、PP21によって誘導された免疫応答を評価した(免疫不全NSGマウスに移植したヒト脾臓組織由来の細胞をin vivoで免疫化し、免疫化動物由来の血清及び細胞を免疫アッセイに使用する)。
【0116】
通常、実験用マウスはミョウバンに対して応答不良であり、HIMMへの注射経路ではミョウバンが使用不可能であるので、そして何よりも、本発明者らは、ヒトでは、MSP3 LSPとしての(髄膜炎菌又は肺炎球菌ワクチン中の)ミョウバンアジュバント添加したCRMが非常に良好な応答を提供することを知っており、アジュバントではなく構築物の比較を目的としていたので、Montanide ISA 720を使用して、臨床実験において使用されたベンチマーク抗原MSP3-LSP(MSP3-1の186~271領域をカバーする長い合成ペプチド)と比較して、全ての実験を実施した。
【0117】
それでもなお、実験用マウスにおいて、ミョウバンによる良好な免疫化も実施したところ、Balb/Cでは2回の免疫化後であっても>25600の力価が得られ、C57blでは3200~25600の力価が得られた(
図19)。
【0118】
マウスにおいて本発明のPP21バイオ融合MSP3-1構築物を使用した場合、MSP3-LSPと比較して、免疫原性の大きな改善が観察された。
使用した全てのモデルにおいて、PP21は、ベンチマーク抗原MSP3-LSPよりも高い血清学的応答のターゲット細胞親和性サブクラスを誘導する。
【0119】
1.低用量は非常に効率的である:他のCRMコンジュゲートワクチンのように、免疫原性の大きな増加が得られたが、これは、融合手順により、化学的コンジュゲーションと同じくらい効率的に生成物が生産されたことを示している。本発明者らは、極めて低い投与量をすぐに用いて、PP21 1μgのみと参照MSP3-LSP 10μgとを比較した(過去、実験用マウスでは、10μGは、臨床において用いられる15μGと有意差がないことが見出された)。異なる手段によって、これらの差異を決定した。
図6~9を参照のこと。結果は、4つ群のBalb/C及びC57blマウスにおいて、4つの区別可能なバッチのPP21で再現可能であった。さらに、マウス及びリスザルにおいて、1μgと比較して低い投与量、例えば0.2μgに着目したPP21用量設定を検討した。免疫原性が高いので、本発明者らはまた、3回の免疫化と比較した2回のみの免疫化を検討した。
【0120】
2.ADCIターゲットのより広範囲の認識:ワクチン構築物に含まれるペプチド「b」、「c」及び「d」は、ADCIにおいて有効な抗体によってターゲティングされる区別可能なB細胞エピトープを規定する。
図9に示されているように、PP21(右側パネル)をワクチン接種したマウスの血清では、現行MSP3-1-LSP(左側パネル)と比較して、それぞれ1及び10μgにおいてこれらのペプチドとの反応性が高かったが、これは、PP21では、ADCIターゲットの認識の規模及び範囲がより高度かつより広範であることを示唆している。この知見と一致して、PP21では、主にペプチ≪b≫及び≪c-d≫を介して交差反応性を示すMSP3ファミリーのメンバー 6個の認識パターンがより広範であった。これはまた、PP21によって誘発された抗体が、1個だけではなくメロゾイト表面上のタンパク質 6個への抗体架橋によるトリガーを介してADCIをトリガーすることを意味する。
【0121】
3.ヒトリンパ球における非常に高度なB細胞応答:より重要なことに、HIMMモデルにおいて評価したヒトB細胞応答は、同様の大きな改善を示し、免疫原性が40~100倍増加した(
図10)。並行実験では、96アミノ酸の現行MSP3-LSPと対比してPP21を使用したところ、抗体力価は、PP21 1μgでは、MSP3-LSP 10μgよりも20~100倍高かった。結果は、3つのHLAクラスに属する動物 5匹の3つの群において再現可能であった。
【0122】
4.アジュバントとしてMontanide ISA720又はMF59のいずれかを使用した場合にも、結果は再現可能である(
図14)。
【0123】
5.寄生虫成分MSP3-LSPでヒトリンパ球をin vitroでチャレンジしたところ、高いIFN-γ分泌が得られた(
図11)。この重要な結果は、CRM Thエピトープが、plasmodium特異的MSR3 T細胞エピトープを無効化しなかったので、寄生虫によるチャレンジの際にワクチン接種個体からT細胞ヘルプを期待することができ、必要な場合には迅速な既往抗体上昇の可能性が高くなることを示している。
【0124】
サイトカインプロファイルの詳細な分析は、応答細胞はTヘルパー1型タイプが優位であることを示している(
図12は、CXCL10及びTbetを用いて得られた結果の例を示す)。
【0125】
6.細胞親和性IgG1の優位:アイソタイプの研究により、強いTh1応答では予想どおり、ほぼ全てがIgG1から構成される細胞親和性アイソタイプ(これは、MSP3-LSP免疫化個体においても優位なアイソタイプである)が非常に優位であることが明らかになった。これは、アジュバントとしてMontanide又はMF59のいずれかを使用した場合に当てはまった(
図15及び16)。これらの結果は、ヒトモデルにおいて得られたが、それらは、志願者において誘発され得る将来の応答を非常によく表すものである。
【0126】
7.ネイティブな寄生虫タンパク質との反応性:IFAT(
図13)及びウエスタンブロットにおいて、PP21ワクチン接種によって誘発された抗体は、寄生虫ネイティブタンパク質と反応した。合成抗原だけではなく、何よりも寄生虫タンパク質との抗体の反応性が、マラリア発作中にADCI保護機構を活性化するために、及び天然寄生虫チャレンジによる抗体応答の適切な増強のために重要な特徴である。
【0127】
8.非常に低い免疫化用量は効率的である:MSP3-LSPについて、免疫化 1回当たり0.2μg及び1μgを10μgと比較して評価した(
図17)。PP21用量 1μgでは、2回目の免疫化後にプラトーに到達したのに対して、用量 0.2μgでは、ほぼ同じ高レベルの抗体に到達するために、3回目の免疫化が必要であり、動物 1匹は応答しなかった。それでもなお、1μgプロファイルは、2回の免疫化が十分であり得るので、検証に値し得ることを示している。
【0128】
9.南米Saimiri sciureusサルでは、同様の高い免疫原性が観察される(
図20):Montanide 720をアジュバント添加したPP21 1μg及び0.2μgを使用して、免疫化に対して通常は応答不良の南米霊長類を免疫化した。1μgでは、マウスにおいて見られた力価に近い高い応答が達成され(
図18を参照のこと)、0.2μgでは、力価は約5倍低かった(示さず)。本発明者らのブラジル人の同僚は、同じ実験における力価の比較をまだ実施していないが、このモデルにおいて用いた場合、MSP3 LSPは非常に低免疫原性であった。
【0129】
10.免疫応答の持続時間は、顕著に改善する(
図8上パネル及び下パネル):長期分析により、必須成分の顕著な改善が示された;抗体応答の持続期間:PP21又はLSPで免疫化したマウスを免疫後6カ月間経過観察した。6カ月の時点において、残存力価は、MSP3-LSPを使用して得られたピークよりも高いように、力価の低下は漸進的であるが遅い。力価は、現行MSP3-LSPでは約1/50000の範囲であったのと比較して、PP21では、6カ月間超にわたって依然として1/200000~1/300000の範囲内であった。
【0130】
実施例2:PP25(CRMP97-LSA3融合構築物)の免疫原性
LSA3は、多くの魅力的な特徴を有する前赤血球期抗原であり、保護志願者と非保護志願者のディファレンシャルな応答の対比によって発見され、系統間で保存されており、高等霊長類及びチンパンジーを含む広範囲の動物において非常に抗原性かつ免疫原性であり、後者の場合には、スポロゾイト期のヒト寄生虫Plasmodium falciparumによる大規模チャレンジに対して保護的な免疫応答を誘導する。保護は、抗原特異的インターフェロンガンマ応答に関連する。コンジュゲートもいかなる融合も伴わないLSA3(DG729)を使用したコントロール構築物とPP25の免疫原性を比較した。免疫化及び免疫分析の条件は、PP21に関する上記のものと同一である。
【0131】
低用量で抗原を使用した場合であっても、PP21におけるMSP3の場合と同様に、LSA3-CRM97バイオ融合物でも同様の抗体応答の大きな増加が観察された。担体を有しないLSA3(DG729)は既に、IFN-g応答の非常に優れたインデューサーあるので、IFN-γ応答の増加も見られたがあまり顕著ではなかった。
【0132】
balb/C及びC57blマウスにおいて記録された増加は、ヒト免疫原性モデルにおいても確認された。
【0133】
本発明者らはさらに、抗LSA3抗体力価と、スポロゾイト期のP. falciparum寄生虫の阻害との間の非常に強い相関を示した。
【0134】
【0135】
実施例3:PP23(MSP3-2-CRMP97-MSP3-3融合構築物)の免疫原性
MSP3-1とCRM及びLSA3との融合に依拠するPP21を用いて得られた結果は、CRMを有する構築物(PP23と称される)において、赤血球期由来の他の抗原、例えばMSP3-2及びMSP3-3を使用して再現可能であることが証明された。実際、HIMMモデルに移植したヒトリンパ球では、構築物PP23(MSP3-2-CRMP97-MSP3-3)によって、強いB細胞応答及びT細胞応答が誘発され(
図27)、力価は、Montanide中MSP3-2 CTのみで免疫化したマウスよりも平均10倍高い。抗体サブクラスは、ADCI機構において単球と協調して作用することができる主要な細胞親和性クラスであるIgG1クラスが優位であった。MSP3-2又はMSP3-3のいずれかによってin vitroで再刺激したPP23免疫化ヒトリンパ球によるIFN-γ分泌によって測定したところ同様に強いT細胞応答が誘導された。
【0136】
実施例4:LSA5-CRM
PEBS(前赤血球期及び血液期抗原)としても公知の肝臓期抗原-5(LSA-5)又はSR 11.1(11.1 P.falciparum遺伝子のサブ領域)は、単一分子中にMSP3及びLSA3の両方の特徴を併せ持つ。それは、メガ遺伝子Pf 11.1の残りとそれとを区別するユニークな配列を含有し、系統間で完全に保存されている。それは、前赤血球期及び無性血液期の両方に対する保護を誘導するので、放射線弱毒化スポロゾイトで免疫化した志願者由来の血清によってそれが認識されたことはユニークである。それは、前赤血球期及び血液期の両方において発現される。前赤血球期に対するLSA5の保護的役割は、収束in vitro侵入阻害研究、抗LSA5抗体の受動伝達によるin vivo保護によって、及びリコンビナントLSA5のワクチン接種によるチャレンジから保護された霊長類における概念実証研究によって裏付けられている。血液期に対して、天然に存在するヒト抗Pf LSA5抗体及び人工的に誘導された動物抗Pf LSA5抗体は両方とも、寄生虫殺傷ADCI媒介性効果を発揮する。流行地域の個体では、抗原性が高く、相関免疫(すなわち、曝露によって誘導される保護)を有する個体では、IgG3抗体が優位である。多数の疫学的研究により、臨床的マラリア発作に対する保護と、薬物処置脳マラリアの予後の改善との強い関連性が見出された。最後に、LSA5は高度に免疫原性であり、マウスにおいて顕著に高い力価を達成し、MSP3免疫化マウス由来の血清よりも高いADCI活性を達成する。
【0137】
E. coliにおいて、LSA5とCRM197とのバイオ融合物(その原理は先の3つの実施例と同様である)を発現させ、その抗原性を確認し、予備的免疫原性研究を行った。CRMとの融合物を使用した場合、LSA5免疫原性は非常に高かった(
図28);BALb/cマウス(n=5)において、バイオ融合LSA5-CRM/Montanide ISA720 用量10μgと1μgの免疫原性を、比較した。実験条件は、
図8に記載されているMSP3を用いたものと同様であった。0日目、14日目及び28日目に、バイオ融合LSA5-CRM/Montanide ISA 720による免疫化を実施した(矢印)。0日目、7日目、21日目、42日目に収集した血清を使用して、抗原としてのLSA5-LSPに対するELISA力価測定によって、血清抗体検出を実施した。