IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

2022-116172遺伝子操作された免疫グロブリン重鎖-軽鎖対およびその使用
<図1>
  • -遺伝子操作された免疫グロブリン重鎖-軽鎖対およびその使用 図1
  • -遺伝子操作された免疫グロブリン重鎖-軽鎖対およびその使用 図2
  • -遺伝子操作された免疫グロブリン重鎖-軽鎖対およびその使用 図3
  • -遺伝子操作された免疫グロブリン重鎖-軽鎖対およびその使用 図4
  • -遺伝子操作された免疫グロブリン重鎖-軽鎖対およびその使用 図5
  • -遺伝子操作された免疫グロブリン重鎖-軽鎖対およびその使用 図6A
  • -遺伝子操作された免疫グロブリン重鎖-軽鎖対およびその使用 図6B
  • -遺伝子操作された免疫グロブリン重鎖-軽鎖対およびその使用 図6C
  • -遺伝子操作された免疫グロブリン重鎖-軽鎖対およびその使用 図6D
  • -遺伝子操作された免疫グロブリン重鎖-軽鎖対およびその使用 図6E
  • -遺伝子操作された免疫グロブリン重鎖-軽鎖対およびその使用 図7
  • -遺伝子操作された免疫グロブリン重鎖-軽鎖対およびその使用 図8
  • -遺伝子操作された免疫グロブリン重鎖-軽鎖対およびその使用 図9
  • -遺伝子操作された免疫グロブリン重鎖-軽鎖対およびその使用 図10
  • -遺伝子操作された免疫グロブリン重鎖-軽鎖対およびその使用 図11
  • -遺伝子操作された免疫グロブリン重鎖-軽鎖対およびその使用 図12
  • -遺伝子操作された免疫グロブリン重鎖-軽鎖対およびその使用 図13
  • -遺伝子操作された免疫グロブリン重鎖-軽鎖対およびその使用 図14
  • -遺伝子操作された免疫グロブリン重鎖-軽鎖対およびその使用 図15
  • -遺伝子操作された免疫グロブリン重鎖-軽鎖対およびその使用 図16
  • -遺伝子操作された免疫グロブリン重鎖-軽鎖対およびその使用 図17
  • -遺伝子操作された免疫グロブリン重鎖-軽鎖対およびその使用 図18
  • -遺伝子操作された免疫グロブリン重鎖-軽鎖対およびその使用 図19
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022116172
(43)【公開日】2022-08-09
(54)【発明の名称】遺伝子操作された免疫グロブリン重鎖-軽鎖対およびその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20220802BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20220802BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20220802BHJP
   C07K 16/00 20060101ALI20220802BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20220802BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220802BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20220802BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20220802BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220802BHJP
   C12P 21/08 20060101ALN20220802BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
C12N15/62 Z
C12N15/63 Z
C07K16/00
C07K16/46
C12N5/10
A61K39/395 T
A61P9/00
A61P35/00
A61K39/395 N
C12P21/08
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022085228
(22)【出願日】2022-05-25
(62)【分割の表示】P 2020190644の分割
【原出願日】2013-11-28
(31)【優先権主張番号】61/730,906
(32)【優先日】2012-11-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】61/761,641
(32)【優先日】2013-02-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】61/818,874
(32)【優先日】2013-05-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】61/869,200
(32)【優先日】2013-08-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】510214045
【氏名又は名称】ザイムワークス,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100106297
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 克博
(74)【代理人】
【識別番号】100130845
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 伸一
(72)【発明者】
【氏名】コーパー アダム ルイ
(72)【発明者】
【氏名】ウロセブ、 ドウニャ
(72)【発明者】
【氏名】トム-ユー ステイシー エー.エル.
(72)【発明者】
【氏名】ブレイル ダスティン ウェイランド ブルー
(72)【発明者】
【氏名】スプレター フォン クレウデンステイン トーマス
(72)【発明者】
【氏名】ディクシット スージット
(72)【発明者】
【氏名】ラリオ パウラ アイリーン
(72)【発明者】
【氏名】サンチェス マリオ
(57)【要約】      (修正有)
【課題】二重特異性抗体の提供。
【解決手段】単離された抗原結合ポリペプチド構築物であって、少なくとも第1のヘテロ二量体および第2のヘテロ二量体を含むヘテロ二量体対。当該ヘテロ二量体のうちの少なくとも1つは、CHおよび/もしくはCLドメインにおいて1つ以上のアミノ酸修飾を、VHおよび/もしくはVLドメインにおいて1つ以上のアミノ酸修飾を、またはこれらの組み合わせを含み得る。修飾されたアミノ酸(複数を含む)は、ヘテロ二量体対の2つの重鎖および2つの軽鎖が細胞において同時発現されるときに、第1のヘテロ二量体の重鎖が、軽鎖のうちの一方と、他方よりも優先的に対合するように、軽鎖と重鎖との間の接続部分の一部であり得、典型的には、それぞれの重鎖と所望の軽鎖との間に優先的対合を生成するように、修飾される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単離された抗原結合ポリペプチド構築物であって、少なくとも第1のヘテロ二量体および第2のヘテロ二量体を含み、
第1のヘテロ二量体が、第1の免疫グロブリン重鎖ポリペプチド配列(H1)および第1の免疫グロブリン軽鎖ポリペプチド配列(L1)を含み、第2のヘテロ二量体が、第2の免疫グロブリン重鎖ポリペプチド配列(H2)および第2の免疫グロブリン軽鎖ポリペプチド配列(L2)を含み、該第1のヘテロ二量体のH1またはL1配列のうちの少なくとも1つが、該第2のヘテロ二量体の対応するH2またはL2配列とは異なり、
H1およびH2がそれぞれ、少なくとも、重鎖可変ドメイン(Vドメイン)および重鎖定常ドメイン(CH1ドメイン)を含み、
L1およびL2がそれぞれ、少なくとも、軽鎖可変ドメイン(Vドメイン)および軽鎖定常ドメイン(Cドメイン)を含み、
H1、H2、L1、およびL2のうちの少なくとも1つが、少なくとも1つの定常ドメインおよび/または少なくとも1つの可変ドメインについて少なくとも1つのアミノ酸修飾を含み、H1が、L2と比較してL1と優先的に対合し、H2が、L1と比較してL2と優先的に対合する、構築物。
【請求項2】
構築物がヘテロ二量体Fcをさらに含み、該Fcが少なくとも2つのCH3配列を含み、該Fcが、1つ以上のリンカーを伴ってまたは伴わずに、第1のヘテロ二量体および第2のヘテロ二量体と結合し、二量体化されたCH3配列が、示差走査熱量測定(DSC)により測定される約68℃以上の融解温度(Tm)を有し、構築物が二重特異性である、請求項1に記載の構築物。
【請求項3】
H1、H2、L1、およびL2が細胞または哺乳動物細胞において同時発現されるときに、またはH1、H2、L1、およびL2が無細胞発現系において同時発現されるときに、またはH1、H2、L1、およびL2が同時生成されるときに、またはH1、H2、L1、およびL2がレドックス生成系により同時生成されるときに、H1がL2と比較してL1と優先的に対合し、H2がL1と比較してL2と優先的に対合する、請求項1~2のいずれか一項に記載の構築物。
【請求項4】
H1、H2、L1、およびL2のうちの少なくとも1つが、H1がL2と比較してL1と優先的に対合し、かつ/またはH2がL1と比較してL2と優先的に対合するように、Vおよび/またはVドメインの少なくとも1つのアミノ酸修飾ならびにCH1および/またはCドメインの少なくとも1つのアミノ酸修飾を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の構築物。
【請求項5】
H1がCH1ドメインにおいて少なくとも1つのアミノ酸修飾を含む場合、L1およびL2のうちの少なくとも1つが、Cドメインにおいて少なくとも1つのアミノ酸修飾を含み、かつ/またはH1がVドメインにおいて少なくとも1つのアミノ酸修飾を含む場合、L1およびL2のうちの少なくとも1つが、Vドメインにおいて少なくとも1つのアミノ酸修飾を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の構築物。
【請求項6】
H1、L1、H2、および/またはL2が、少なくとも1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、または10のアミノ酸突然変異を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の構築物。
【請求項7】
H1、H2、L1、およびL2のうちの少なくとも1つが、少なくとも1つの定常ドメインおよび/または少なくとも1つの可変ドメインについて少なくとも2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、または10のアミノ酸修飾を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の構築物。
【請求項8】
L1およびL2の両方が、H1およびH2のうちの少なくとも1つと同時発現されるときに、H1-L1およびH2-L2のヘテロ二量体対のうちの少なくとも1つの相対的な対合が、それぞれの対応するH1-L2またはH2-L1のヘテロ二量体対のものと比べ、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、または99%超であり、修飾されたH1-L1またはH2-L2のヘテロ二量体対の相対的な対合が、少なくとも1つのアミノ酸修飾を伴わない対応するH1-L1またはH2-L2のヘテロ二量体対において観察されるそれぞれの相対的な対合よりも大きい、請求項1~7のいずれか一項に記載の構築物。
【請求項9】
第1および第2のヘテロ二量体のうちの少なくとも1つの、DSCにより測定される融解温度(Tm)により測定される熱安定性が、少なくとも1つのアミノ酸修飾を伴わない対応するヘテロ二量体のTmの約0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10℃以内であるか、または
少なくとも1つのアミノ酸修飾を含む各ヘテロ二量体の、DSCにより測定される融解温度(Tm)により測定される熱安定性が、少なくとも1つのアミノ酸修飾を伴わない対応するヘテロ二量体のTmの約0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10℃以内である、請求項1~8のいずれか一項に記載の構築物。
【請求項10】
各ヘテロ二量体の、それが結合する抗原に対する親和性が、表面プラズモン共鳴(SPR)またはFACSにより測定されるそれぞれの非修飾ヘテロ二量体の、同一の抗原に対する親和性の約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、25、30、35、40、45、または50倍以内である、請求項1~9のいずれか一項に記載の構築物。
【請求項11】
H1がL2と比較してL1と対合するときに、H1およびL1のうちの少なくとも1つが、アミノ酸のより大きな立体的相補性をもたらす少なくとも1つのアミノ酸修飾を含む少なくとも1つのドメインを含むか、または
H2がL1と比較してL2と対合するときに、H2およびL2のうちの少なくとも1つが、アミノ酸のより大きな立体的相補性をもたらす少なくとも1つのアミノ酸修飾を含む少なくとも1つのドメインを含むか、または
H1がL2と比較してL1と対合するときに、H1およびL1のうちの少なくとも1つが、荷電アミノ酸の間でより大きな静電気的相補性をもたらす少なくとも1つのアミノ酸修飾を含む少なくとも1つのドメインを含むか、または
H2がL1と比較してL2と対合するときに、H2およびL2のうちの少なくとも1つが、荷電アミノ酸の間でより大きな静電気的相補性をもたらす少なくとも1つのアミノ酸修飾を含む少なくとも1つのドメインを含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の構築物。
【請求項12】
少なくとも1つのアミノ酸修飾が、表29、表30、または表31に示されるもののうちの1つ以上から選択される、請求項1~11のいずれか一項に記載の構築物。
【請求項13】
構築物が、少なくとも2つのCH3配列を含むFcをさらに含み、該Fcが、1つ以上のリンカーを伴ってまたは伴わずに、第1のヘテロ二量体および第2のヘテロ二量体と結合する、請求項1~12のいずれか一項に記載の構築物。
【請求項14】
Fcが、ヒトFc、ヒトIgG1 Fc、ヒトIgA Fc、ヒトIgG Fc、ヒトIgD Fc、ヒトIgE Fc、ヒトIgM Fc、ヒトIgG2 Fc、ヒトIgG3 Fc、またはヒトIgG4 Fcである、請求項13に記載の構築物。
【請求項15】
Fcが、ヘテロ二量体Fcである、請求項13~14のいずれか一項に記載の構築物。
【請求項16】
Fcが、CH3配列のうちの少なくとも1つにおいて1つ以上の修飾を含む、請求項13~15のいずれか一項に記載の構築物。
【請求項17】
二量体化されたCH3配列が、約68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、77.5、78、79、80、81、82、83、84、または85℃、またはそれより高い、DSCにより測定される融解温度(Tm)を有する、請求項13~16のいずれか一項に記載の構築物。
【請求項18】
Fcが、生成されるときに約75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、または99%を超える純度で形成されるヘテロ二量体であるか、あるいはFcが、発現されるときにまたは単一細胞により発現されるときに約75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、または99%を超える純度で形成されるヘテロ二量体である、請求項13~17のいずれか一項に記載の構築物。
【請求項19】
Fcが、
野生型ホモ二量体Fcに匹敵する安定性を有するヘテロ二量体Fcの形成を促進する、CH3配列のうちの少なくとも1つにおける1つ以上の修飾
を含む、請求項13~18のいずれか一項に記載の構築物。
【請求項20】
Fcが、少なくとも1つのCH2配列をさらに含む、請求項13~19のいずれか一項に記載の構築物。
【請求項21】
FcのCH2配列(複数を含む)が、1つ以上の修飾を含む、請求項20に記載の構築物。
【請求項22】
Fcが、Fcガンマ受容体の選択的結合を促進する1つ以上の修飾を含む、請求項13~21のいずれか一項に記載の構築物。
【請求項23】
Fcが1つ以上のリンカーによりヘテロ二量体と結合するか、またはFcが1つ以上のリンカーによりH1およびH2と結合する、請求項13~22のいずれか一項に記載の構築物。
【請求項24】
1つ以上のリンカーが1つ以上のポリペプチドリンカーである、請求項23に記載の構築物。
【請求項25】
1つ以上のリンカーが1つ以上の抗体ヒンジ領域を含む、請求項23に記載の構築物。
【請求項26】
1つ以上のリンカーが1つ以上のIgG1ヒンジ領域を含む、請求項23に記載の構築物。
【請求項27】
1つ以上のリンカーが1つ以上の修飾を含む、請求項23~26のいずれか一項に記載の構築物。
【請求項28】
1つ以上の修飾が、Fcガンマ受容体の選択的結合を促進する、請求項27に記載の構築物。
【請求項29】
少なくとも1つのアミノ酸修飾が、少なくとも1つのアミノ酸突然変異であるか、または少なくとも1つのアミノ酸修飾が、少なくとも1つのアミノ酸置換である、請求項1~28のいずれか一項に記載の構築物。
【請求項30】
H1、H2、L1、およびL2の各々の配列が、ヒト配列に由来する、請求項1~29のいずれか一項に記載の構築物。
【請求項31】
多重特異性または二重特異性である、請求項1~30のいずれか一項に記載の構築物。
【請求項32】
多価または二価である、請求項1~31のいずれか一項に記載の構築物。
【請求項33】
請求項1~32のいずれか一項に記載の構築物をコードする少なくとも1つの配列を含む、単離されたポリペプチドまたは単離されたポリヌクレオチドのセット。
【請求項34】
ポリヌクレオチドまたはポリヌクレオチドのセットが、cDNAである、請求項33に記載の単離されたポリヌクレオチド。
【請求項35】
請求項33または34に記載のポリヌクレオチドまたはポリヌクレオチドのセットのうちの1つ以上を含む、ベクターまたはベクターのセット。
【請求項36】
プラスミド、マルチシストロンベクター、ウイルスベクター、非エピソーム哺乳動物ベクター、発現ベクター、および組換え発現ベクターからなる群から選択される、請求項35に記載のベクターまたはベクターのセット。
【請求項37】
請求項33または34に記載のポリヌクレオチドもしくはポリヌクレオチドのセット、または請求項35または36に記載のベクターもしくはベクターのセットを含む、単離された細胞。
【請求項38】
細胞が、ハイブリドーマ、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、またはHEK293細胞である、請求項37に記載の単離された細胞。
【請求項39】
請求項1~32のいずれか一項に記載の構築物および薬学的に許容される担体を含む、薬学的組成物。
【請求項40】
緩衝液、抗酸化剤、低分子量分子、薬物、タンパク質、アミノ酸、炭水化物、脂質、キレート剤、安定剤、および賦形剤からなる群から選択される1つ以上の物質をさらに含む、請求項39に記載の薬学的組成物。
【請求項41】
対象における疾患または障害または癌または血管系疾患の治療のための、あるいは医薬の製造における、請求項1~32のいずれか一項に記載の構築物または請求項39もしくは40のいずれか一項に記載の薬学的組成物の使用。
【請求項42】
疾患または障害または癌または血管系疾患に罹患している対象の治療方法であって、該対象に、請求項1~32のいずれか一項に記載の構築物または請求項39もしくは40のいずれか一項に記載の組成物を投与する段階を含む、方法。
【請求項43】
細胞内または細胞へのシグナルを、阻害する、減少させる、または遮断する方法であって、該細胞を、請求項1~32のいずれか一項に記載の構築物または請求項39~40のいずれか一項に記載の組成物と接触させる段階を含む、方法。
【請求項44】
請求項1~32のいずれか一項に記載の構築物を宿主細胞培養物から得る方法であって、
(a)構築物をコードする1つ以上の核酸配列を含む少なくとも1つの宿主細胞を含む宿主細胞培養物を得る段階と、
(b)該宿主細胞培養物から構築物を回収する段階と
を含む、方法。
【請求項45】
請求項1~32のいずれか一項に記載の構築物を得る方法であって、
(a)H1、L1、H2、およびL2を得る段階と、
(b)H1を、L2と比較してL1と優先的に対合させ、H2を、L1と比較してL2と優先的に対合させる段階と、
(c)構築物を得る段階と
を含む、方法。
【請求項46】
請求項1~32のいずれか一項に記載の構築物を調製する方法であって、
a.少なくとも1つの構築物をコードするポリヌクレオチドまたはポリヌクレオチドのセットを得る段階と、
b.少なくとも1つの宿主細胞への導入のために、ポリヌクレオチドまたはポリヌクレオチドのセットの各々の最適比を決定する段階であって、該最適比が、H1、L1、H2、およびL2の発現時に形成された誤対合されたH1-L2およびH2-L1のヘテロ二量体対と比較して、H1、L1、H2、およびL2の発現時に形成されたH1-L1およびH2-L2のヘテロ二量体対の量を評価することにより決定される、段階と、
c.好ましい最適比を選択する段階であって、該好ましい最適比のポリヌクレオチドまたはポリヌクレオチドのセットの、少なくとも1つの宿主細胞へのトランスフェクションが構築物の発現をもたらす、段階と、
d.最適比のポリヌクレオチドまたはポリヌクレオチドのセットを少なくとも1つの宿主細胞にトランスフェクトする段階と、
e.構築物を発現させるために、該少なくとも1つの宿主細胞を培養する段階と
を含む、方法。
【請求項47】
最適比を選択する段階が、一過性トランスフェクション系におけるトランスフェクションにより評価される、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
好ましい最適比のポリヌクレオチドまたはポリヌクレオチドのセットの、少なくとも1つの宿主細胞へのトランスフェクションが、構築物の最適な発現をもたらす、請求項46~47のいずれか一項に記載の方法。
【請求項49】
構築物が、少なくとも2つのCH3配列を含むFcを含み、該Fcが、1つ以上のリンカーを伴ってまたは伴わずに、第1のヘテロ二量体および第2のヘテロ二量体と結合する、請求項46~48のいずれか一項に記載の方法。
【請求項50】
Fcが、任意で1つ以上のアミノ酸修飾を含むヘテロ二量体である、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
第1の免疫グロブリン重鎖ポリペプチド配列(H1)および第1の免疫グロブリン軽鎖ポリペプチド配列(L1)を含む第1のヘテロ二量体ならびに第2の免疫グロブリン重鎖ポリペプチド配列(H2)および第2の免疫グロブリン軽鎖ポリペプチド配列(L2)を含む第2のヘテロ二量体における相補的突然変異を表すデータを含むデータセットであって、H1およびH2がそれぞれ、少なくとも、重鎖可変ドメイン(Vドメイン)および重鎖定常ドメイン(CH1ドメイン)を含み、L1およびL2がそれぞれ、少なくとも、軽鎖可変ドメイン(Vドメイン)および軽鎖定常ドメイン(Cドメイン)を含み、相補的突然変異の該データセットが、表29、30、または31に列挙されるこれらの突然変異あるいはこれらの突然変異のサブセットを表すデータを含む、データセットと、
H1が、L2と比較してL1と優先的に対合するであろう可能性、および/またはH2が、L1と比較してL2と優先的に対合するであろう可能性を決定するためのコンピュータ実行コードと
を保存する、コンピュータ可読記憶媒体。
【請求項52】
優先的対合を決定するためのコンピュータ実装方法であって、
第1の免疫グロブリン重鎖ポリペプチド配列(H1)および第1の免疫グロブリン軽鎖ポリペプチド配列(L1)を含む第1のヘテロ二量体ならびに第2の免疫グロブリン重鎖ポリペプチド配列(H2)および第2の免疫グロブリン軽鎖ポリペプチド配列(L2)を含む第2のヘテロ二量体における相補的突然変異を表すデータを含むデータセットを得る段階であって、H1およびH2がそれぞれ、少なくとも、重鎖可変ドメイン(Vドメイン)および重鎖定常ドメイン(CH1ドメイン)を含み、L1およびL2がそれぞれ、少なくとも、軽鎖可変ドメイン(Vドメイン)および軽鎖定常ドメイン(Cドメイン)を含み、相補的突然変異の該データセットが、表29、30、または31に列挙されるこれらの突然変異あるいはこれらの突然変異のサブセットを表すデータを含む、段階と、
コンピュータプロセッサにより、H1が、L2と比較してL1と優先的に対合するであろう可能性、および/またはH2が、L1と比較してL2と優先的に対合するであろう可能性を決定する段階と
を含む、方法。
【請求項53】
請求項1~32のいずれか一項に記載の構築物を生成する段階をさらに含む、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
二重特異性抗原結合ポリペプチド構築物を生成する方法であって、該二重特異性構築物が、第1の単一特異性抗原結合ポリペプチドからの第1の免疫グロブリン重鎖ポリペプチド配列(H1)および第1の免疫グロブリン軽鎖ポリペプチド配列(L1)を含む第1のヘテロ二量体ならびに第2の単一特異性抗原結合ポリペプチドからの第2の免疫グロブリン重鎖ポリペプチド配列(H2)および第2の免疫グロブリン軽鎖ポリペプチド配列(L2)を含む第2のヘテロ二量体を含み、H1およびH2がそれぞれ、少なくとも、重鎖可変ドメイン(Vドメイン)および重鎖定常ドメイン(CH1ドメイン)を含み、L1およびL2がそれぞれ、少なくとも、軽鎖可変ドメイン(Vドメイン)および軽鎖定常ドメイン(Cドメイン)を含み、
a.H1、H2、L1、および/またはL2への修飾のサブセットの導入時に、試験系において、H1が、L2と比較してL1と優先的に対合し、H2が、L1と比較してL2と優先的に対合するように、H1、H2、L1、およびL2内のアミノ酸修飾のセットを表すデータを含むデータセットを得る段階と、
b.該データセットからの1つ以上の修飾のサブセットを第1のヘテロ二量体および/または第2のヘテロ二量体に導入する段階と、
c.二重特異性構築物を含む発現産物を生成するために、少なくとも1つの宿主細胞において第1のヘテロ二量体および第2のヘテロ二量体を同時発現する段階と
を含む、方法。
【請求項55】
他のポリペプチド産物と比較して、発現産物における二重特異性構築物の量を決定する段階をさらに含む、請求項54に記載の方法。
【請求項56】
二重特異性構築物が、他のポリペプチド産物と比較して、70%超の純度で生成される、請求項54~55のいずれか一項に記載の方法。
【請求項57】
データセットが、請求項51に記載のデータセットである、請求項54~56のいずれか一項に記載の方法。
【請求項58】
他のポリペプチド産物と比較して、二重特異性構築物の純度を増加させるために、H1、H2、L1、またはL2のうちの少なくとも1つに、さらなるアミノ酸修飾を加える段階をさらに含む、請求項54~57のいずれか一項に記載の方法。
【請求項59】
構築物が、少なくとも2つのCH3配列を含むFcを含み、該Fcが、1つ以上のリンカーを伴ってまたは伴わずに、第1のヘテロ二量体および第2のヘテロ二量体と結合する、請求項54~58のいずれか一項に記載の方法。
【請求項60】
Fcが、任意で1つ以上のアミノ酸修飾を含むヘテロ二量体である、請求項59に記載の方法。
【請求項61】
抗原結合ポリペプチドが、抗体、Fab、またはscFvである、請求項54~60のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2012年11月28日に出願された、米国仮特許出願第61/730,906号、2013年2月6日に出願された、米国仮特許出願第61/761,641号、2013年5月2日に出願された、米国仮特許出願第61/818,874号、2013年8月23日に出願された、米国仮特許出願第61/869,200号の利益を主張するものであり、それらのそれぞれの全開示は、すべての目的のために参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
配列表
本出願は、EFS-Web経由で提出されている配列表を含有し、これは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。2013年XXXに作成されたASCIIコピーは、XXX_sequencelisting.txtと名付けられており、サイズは、XXXバイトである。
【背景技術】
【0003】
背景
二重特異性抗体は、2つの異なるエピトープと結合することができる。エピトープは、同じ抗原上であり得るか、または各エピトープが異なる抗原上にあり得る。二重特異性抗体のこの特徴は、それらを、疾患の治療において1つを超える分子を標的とするまたは採用するための治療的有用性がある様々な治療的適応のための魅力的ツールにする。二重特異性抗体を形成するためのアプローチのうちの1つは、2つの固有の抗体重鎖および2つの固有の抗体軽鎖の同時に起こる発現を含み得る。抗体重鎖が比較的無差別な(promiscuous)方法で抗体軽鎖と結合するように進化しているため、野生型と同様の形式における二重特異性抗体の正しい形成は、依然として課題である。この無差別な対合の結果として、2つの抗体重鎖および2つの抗体軽鎖の同時発現は、重鎖-軽鎖の対合のスクランブリングを自然にもたらす。この誤対合は、二重特異性治療薬の創出の主な課題であり、均質対合が良好な製造可能性および生物学的効率における必須条件である。
【0004】
特定の抗体軽鎖または断片が特定の抗体重鎖または断片と対合する二重特異性抗体を調製するいくつかのアプローチが、記載されている。この問題に対処する様々なアプローチの総説は、Klein et al.,(2012)mAbs 4:6,1-11(非特許文献1)に見出され得る。国際特許出願PCT/EP2011/056388(WO2011/131746)(特許文献1)は、還元条件下でのインキュベーションにより2つの単一特異性IgG4またはIgG4様抗体間の、方向性を持った「Fabアーム」または「半分子」の交換を進めるために、非対称突然変異が2つの単一特異的な出発タンパク質のCH3領域に導入されるヘテロ二量体タンパク質を産生するためのインビトロの方法が記載されている。
【0005】
Schaeferら(Roche Diagnostics GmbH)は、人工的なリンカー(PNAS(2011)108(27):11187-11192(非特許文献2))を用いずに、ヒト二価二重特異性IgG抗体に、2つの既存の抗体に由来する2つの重鎖および2つの軽鎖を組み立てるための方法を記載している。本方法は、二重特異性抗体の1/2の抗原結合断片(Fab)内で重鎖ドメインおよび軽鎖ドメインを交換することを含む。
【0006】
Stropら(Rinat-Pfizer Inc.)は、対象となる2つの抗体を別々に発現させ、精製し、特定の還元条件下でそれらを一緒に混合することによる安定な二重特異性抗体を生成する方法を記載している(J.Mol.Biol.(2012)420:204-19(非特許文献3))。
【0007】
Zhuら(Genentech)は、定常ドメインを完全に欠いている変異ドメイン抗体断片からなるダイアボディ構築物のVL/VH接続部分において突然変異を遺伝子操作し、ヘテロ二量体ダイアボディを生成した(Protein Science(1997)6:781-788(非特許文献4))。同様に、Igawaら(Chugai)もまた、一本鎖ダイアボディのVL/VH接続部分において突然変異を遺伝子操作して、選択的発現を促進し、ダイアボディの構造異性化を阻害した(Protein Engineering,Design&Selection(2010)23:667-677(非特許文献5)
)。
【0008】
米国特許公開第2009/0182127号(特許文献2)(Novo Nordisk,Inc.)は、1つの対の軽鎖の、もう一方の対の重鎖と相互作用する能力を減じる、Fc接続部分および軽鎖-重鎖対のCH1:CL接続部分でのアミノ酸残基修飾による二重特異性抗体の生成を記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際特許出願PCT/EP2011/056388(WO2011/131746)
【特許文献2】米国特許公開第2009/0182127号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Klein et al.,(2012)mAbs 4:6,1-11
【非特許文献2】PNAS(2011)108(27):11187-11192
【非特許文献3】J.Mol.Biol.(2012)420:204-19
【非特許文献4】Protein Science(1997)6:781-788
【非特許文献5】Protein Engineering,Design&Selection(2010)23:667-677
【発明の概要】
【0011】
概要
少なくとも第1のヘテロ二量体および第2のヘテロ二量体を含む、単離された抗原結合ポリペプチド構築物であって、第1のヘテロ二量体は、第1の免疫グロブリン重鎖ポリペプチド配列(H1)および第1の免疫グロブリン軽鎖ポリペプチド配列(L1)を含み、第2のヘテロ二量体は、第2の免疫グロブリン重鎖ポリペプチド配列(H2)および第2の免疫グロブリン軽鎖ポリペプチド配列(L2)を含み、第1のヘテロ二量体のH1またはL1配列のうちの少なくとも1つは、第2のヘテロ二量体の対応するH2またはL2配列とは異なり、H1およびH2はそれぞれ、少なくとも、重鎖可変ドメイン(Vドメイン)および重鎖定常ドメイン(CH1ドメイン)を含み、L1およびL2はそれぞれ、少なくとも、軽鎖可変ドメイン(Vドメイン)および軽鎖定常ドメイン(Cドメイン)を含み、H1、H2、L1、およびL2のうちの少なくとも1つは、少なくとも1つの定常ドメインおよび/または少なくとも1つの可変ドメインについて少なくとも1つのアミノ酸修飾を含み、H1は、L2と比較してL1と優先的に対合し、H2は、L1と比較してL2と優先的に対合する構築物が、本明細書に記載される。
【0012】
いくつかの態様において、本構築物は、ヘテロ二量体Fcをさらに含み、Fcは、少なくとも2つのCH3配列を含み、Fcは、1つ以上のリンカーを伴ってまたは伴わずに、第1のヘテロ二量体および第2のヘテロ二量体と結合し、二量体化されたCH3配列は、示差走査熱量測定(DSC)により測定される約68℃以上の融解温度(Tm)を有し、構築物は二重特異性である。
【0013】
いくつかの態様において、少なくとも1つのアミノ酸修飾は、表または実施例に示される少なくとも1つのアミノ酸修飾から選択される。
【0014】
いくつかの態様において、H1、H2、L1、およびL2が細胞または哺乳動物細胞において同時発現されるときに、またはH1、H2、L1、およびL2が無細胞発現系において同時発現されるときに、またはH1、H2、L1、およびL2が同時生成されるときに、またはH1、H2、L1、およびL2がレドックス生成系により同時生成されるときに、H1は、L2と比較してL1と優先的に対合し、H2は、L1と比較してL2と優先的に対合する。
【0015】
いくつかの態様において、H1、H2、L1、およびL2のうちの少なくとも1つは、H1がL2と比較してL1と優先的に対合し、かつ/またはH2がL1と比較してL2と優先的に対合するように、Vおよび/またはVドメインの少なくとも1つのアミノ酸修飾ならびにCH1および/またはCドメインの少なくとも1つのアミノ酸修飾を含む。
【0016】
いくつかの態様において、H1がCH1ドメインにおいて少なくとも1つのアミノ酸修飾を含む場合、L1およびL2のうちの少なくとも1つが、Cドメインにおいて少なくとも1つのアミノ酸修飾を含み、かつ/またはH1がVドメインにおいて少なくとも1つのアミノ酸修飾を含む場合、L1およびL2のうちの少なくとも1つは、Vドメインにおいて少なくとも1つのアミノ酸修飾を含む。
【0017】
いくつかの態様において、H1、L1、H2、および/またはL2は、少なくとも1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、または10のアミノ酸突然変異を含む。いくつかの態様において、H1、H2、L1、およびL2のうちの少なくとも1つは、少なくとも1つの定常ドメインおよび/または少なくとも1つの可変ドメインについて少なくとも2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、または10のアミノ酸修飾を含む。
【0018】
いくつかの態様において、L1およびL2の両方が、H1およびH2のうちの少なくとも1つと同時発現されるときに、H1-L1およびH2-L2のヘテロ二量体対のうちの少なくとも1つの相対的な対合は、それぞれの対応するH1-L2またはH2-L1のヘテロ二量体対のものと比べ、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、または99%超であり、修飾されたH1-L1またはH2-L2のヘテロ二量体対の相対的な対合は、少なくとも1つのアミノ酸修飾を伴わない対応するH1-L1またはH2-L2のヘテロ二量体対において観察されるそれぞれの相対的な対合よりも大きい。
【0019】
いくつかの態様において、第1および第2のヘテロ二量体のうちの少なくとも1つの、DSCにより測定される融解温度(Tm)により測定される熱安定性は、少なくとも1つのアミノ酸修飾を伴わない対応するヘテロ二量体のTmの約0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10℃以内である。いくつかの態様において、少なくとも1つのアミノ酸修飾を含む各ヘテロ二量体の、DSCにより測定される融解温度(Tm)により測定される熱安定性は、少なくとも1つのアミノ酸修飾を伴わない対応するヘテロ二量体のTmの約0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10℃以内である。
【0020】
いくつかの態様において、各ヘテロ二量体の、それが結合する抗原に対する親和性は、表面プラズモン共鳴(SPR)またはFACSにより測定されるそれぞれの非修飾ヘテロ二量体の、同一の抗原に対する親和性の約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、25、30、35、40、45、または50倍以内である。
【0021】
いくつかの態様において、H1がL2と比較してL1と対合するとき、H1およびL1のうちの少なくとも1つは、アミノ酸のより大きな立体的相補性をもたらす少なくとも1つのアミノ酸修飾を含む少なくとも1つのドメインを含む。いくつかの態様において、H2がL1と比較してL2と対合するとき、H2およびL2のうちの少なくとも1つは、アミノ酸のより大きな立体的相補性をもたらす少なくとも1つのアミノ酸修飾を含む少なくとも1つのドメインを含む。いくつかの態様において、H1がL2と比較してL1と対合するとき、H1およびL1のうちの少なくとも1つは、荷電アミノ酸の間でより大きな静電気的相補性をもたらす少なくとも1つのアミノ酸修飾を含む少なくとも1つのドメインを含む。いくつかの態様において、H2がL1と比較してL2と対合するとき、H2およびL2のうちの少なくとも1つは、荷電アミノ酸の間でより大きな静電気的相補性をもたらす少なくとも1つのアミノ酸修飾を含む少なくとも1つのドメインを含む。
【0022】
いくつかの態様において、少なくとも1つのアミノ酸修飾は、表または実施例のうちの少なくとも1つに示される突然変異セットである。いくつかの態様において、少なくとも1つの修飾は、H1-Q39E、L1-Q38K、H2-Q39K、およびL2-Q38Eではない。いくつかの態様において、少なくとも1つの修飾は、H1-Q39E、L1-Q38E、H2-Q39K、およびL2-Q38Kではない。
【0023】
いくつかの態様において、本構築物は、少なくとも2つのCH3配列を含むFcをさらに含み、Fcは、1つ以上のリンカーを伴ってまたは伴わずに、第1のヘテロ二量体および第2のヘテロ二量体と結合する。
【0024】
いくつかの態様において、Fcは、ヒトFc、ヒトIgG1 Fc、ヒトIgA Fc、ヒトIgG Fc、ヒトIgD Fc、ヒトIgE Fc、ヒトIgM Fc、ヒトIgG2 Fc、ヒトIgG3 Fc、またはヒトIgG4 Fcである。いくつかの態様において、Fcは、ヘテロ二量体Fcである。いくつかの態様において、Fcは、CH3配列のうちの少なくとも1つにおいて1つ以上の修飾を含む。いくつかの態様において、二量体化されたCH3配列が、約68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、77.5、78、79、80、81、82、83、84、または85℃、またはそれより高い、DSCにより測定される融解温度(Tm)を有する。いくつかの態様において、Fcは、生成されるときに、約75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、または99%を超える純度で形成されるヘテロ二量体であるか、あるいはFcは、発現されるときに、または単一細胞により発現されるときに、約75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、または99%を超える純度で形成されるヘテロ二量体である。いくつかの態様において、Fcは、野生型ホモ二量体Fcに匹敵する安定性を有するヘテロ二量体Fcの形成を促進する、CH3配列のうちの少なくとも1つにおける1つ以上の修飾を含む。いくつかの態様において、Fcは、少なくとも1つのCH2配列をさらに含む。いくつかの態様において、FcのCH2配列(複数を含む)は、1つ以上の修飾を含む。いくつかの態様において、Fcは、Fcガンマ受容体の選択的結合を促進する1つ以上の修飾を含む。
【0025】
いくつかの態様において、Fcは1つ以上のリンカーによりヘテロ二量体と結合するか、またはFcは1つ以上のリンカーによりH1およびH2と結合する。いくつかの態様において、1つ以上のリンカーは、1つ以上のポリペプチドリンカーである。いくつかの態様において、1つ以上のリンカーは、1つ以上の抗体ヒンジ領域を含む。いくつかの態様において、1つ以上のリンカーは、1つ以上のIgG1ヒンジ領域を含む。いくつかの態様において、1つ以上のリンカーは、1つ以上の修飾を含む。いくつかの態様において、1つ以上のリンカーへの1つ以上の修飾は、Fcガンマ受容体の選択的結合を促進する。
【0026】
いくつかの態様において、少なくとも1つのアミノ酸修飾は、少なくとも1つのアミノ酸突然変異であるか、または少なくとも1つのアミノ酸修飾は、少なくとも1つのアミノ酸置換である。
【0027】
いくつかの態様において、H1、H2、L1、およびL2の各々の配列は、ヒト配列に由来する。
【0028】
いくつかの態様において、本構築物は、多重特異性または二重特異性である。いくつかの態様において、本構築物は、多価または二価である。
【0029】
本明細書に記載される構築物をコードする少なくとも1つの配列を含む、単離されたポリヌクレオチドまたは単離されたポリヌクレオチドのセットもまた、本明細書に記載される。いくつかの態様において、ポリヌクレオチドまたはポリヌクレオチドのセットは、cDNAである。
【0030】
本明細書に記載されるポリヌクレオチドまたはポリヌクレオチドのセットのうちの1つ以上を含む、ベクターまたはベクターのセットもまた、本明細書に記載される。いくつかの態様において、ベクターまたはベクターのセットは、プラスミド、マルチシストロンベクター、ウイルスベクター、非エピソーム哺乳動物ベクター、発現ベクター、および組換え発現ベクターからなる群から選択される。
【0031】
本明細書に記載されるポリヌクレオチドもしくはポリヌクレオチドのセットまたは本明細書に記載されるベクターもしくはベクターのセットを含む、単離された細胞もまた、本明細書に記載される。いくつかの態様において、本細胞は、ハイブリドーマ、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、またはHEK293細胞である。
【0032】
本明細書に記載される構築物および薬学的に許容される担体を含む薬学的組成物もまた、本明細書に記載される。いくつかの態様において、本組成物は、緩衝液、抗酸化剤、低分子量分子、薬物、タンパク質、アミノ酸、炭水化物、脂質、キレート剤、安定剤、および賦形剤からなる群から選択される1つ以上の物質をさらに含む。
【0033】
対象における疾患または障害または癌または血管系疾患の治療のための、あるいは医薬の製造における、本明細書に記載される構築物または本明細書に記載される薬学的組成物の使用もまた、本明細書に記載される。
【0034】
疾患または障害または癌または血管系疾患に罹患している対象の治療方法であって、対象に、本明細書に記載される構築物または本明細書に記載される組成物を投与する段階を含む方法もまた、本明細書に記載される。
【0035】
細胞内または細胞へのシグナルを阻害する、減少させる、または遮断する方法であって、細胞を、本明細書に記載される構築物または本明細書に記載される組成物と接触させる段階を含む方法もまた、本明細書に記載される。
【0036】
宿主細胞培養物から本明細書に記載される構築物を得る方法であって、(a)構築物をコードする1つ以上の核酸配列を含む少なくとも1つの宿主細胞を含む宿主細胞培養物を得る段階と、(b)宿主細胞培養物から構築物を回収する段階と、を含む方法もまた、本明細書に記載される。
【0037】
本明細書に記載される構築物を得る方法であって、(a)H1、L1、H2、およびL2を得る段階と、(b)H1を、L2と比較してL1と優先的に対合させ、H2を、L1と比較してL2と優先的に対合させる段階と、(c)構築物を得る段階と、を含む方法もまた、本明細書に記載される。
【0038】
本明細書に記載される構築物を調製する方法であって、少なくとも1つの構築物をコードするポリヌクレオチドまたはポリヌクレオチドのセットを得る段階と、少なくとも1つの宿主細胞への導入のために、ポリヌクレオチドまたはポリヌクレオチドのセットの各々の最適比を決定する段階であり、この最適比は、H1、L1、H2、およびL2の発現時に形成された誤対合されたH1-L2およびH2-L1のヘテロ二量体対と比較して、H1、L1、H2、およびL2の発現時に形成されたH1-L1およびH2-L2のヘテロ二量体対の量を評価することにより決定される、段階と、好ましい最適比を選択する段階であり、好ましい最適比のポリヌクレオチドまたはポリヌクレオチドのセットの、少なくとも1つの宿主細胞へのトランスフェクションが構築物の発現をもたらす、段階と、最適比のポリヌクレオチドまたはポリヌクレオチドのセットを少なくとも1つの宿主細胞にトランスフェクトする段階と、構築物を発現させために、少なくとも1つの宿主細胞を培養する段階とを含む方法もまた、本明細書に記載される。
【0039】
いくつかの態様において、最適比の選択は、一過性トランスフェクション系におけるトランスフェクションにより評価される。いくつかの態様において、好ましい最適比のポリヌクレオチドまたはポリヌクレオチドのセットの、少なくとも1つの宿主細胞へのトランスフェクションは、構築物の最適な発現をもたらす。いくつかの態様において、本構築物は、少なくとも2つのCH3配列を含むFcを含み、Fcは、1つ以上のリンカーを伴ってまたは伴わずに、第1のヘテロ二量体および第2のヘテロ二量体と結合する。いくつかの態様において、Fcは、任意で1つ以上のアミノ酸修飾を含むヘテロ二量体である。
【0040】
コンピュータ可読記憶媒体であって、第1の免疫グロブリン重鎖ポリペプチド配列(H1)および第1の免疫グロブリン軽鎖ポリペプチド配列(L1)を含む第1のヘテロ二量体ならびに第2の免疫グロブリン重鎖ポリペプチド配列(H2)および第2の免疫グロブリン軽鎖ポリペプチド配列(L2)を含む第2のヘテロ二量体における相補的突然変異を表すデータを含むデータセットであり、H1およびH2がそれぞれ、少なくとも、重鎖可変ドメイン(Vドメイン)および重鎖定常ドメイン(CH1ドメイン)を含み、L1およびL2がそれぞれ、少なくとも、軽鎖可変ドメイン(Vドメイン)および軽鎖定常ドメイン(Cドメイン)を含み、相補的突然変異のデータセットが表または実施例に列挙されるこれらの突然変異またはこれらの突然変異のサブセットを表すデータを含む、データセットと、H1が、L2と比較してL1と優先的に対合するであろう可能性、および/またはH2が、L1と比較してL2と優先的に対合するであろう可能性を決定するためのコンピュータ実行コードと、を保存する、コンピュータ可読記憶媒体もまた、本明細書に記載される。
【0041】
優先的対合を決定するためのコンピュータ実装方法であって、第1の免疫グロブリン重鎖ポリペプチド配列(H1)および第1の免疫グロブリン軽鎖ポリペプチド配列(L1)を含む第1のヘテロ二量体ならびに第2の免疫グロブリン重鎖ポリペプチド配列(H2)および第2の免疫グロブリン軽鎖ポリペプチド配列(L2)を含む第2のヘテロ二量体における相補的突然変異を表すデータを含むデータセットを得る段階であり、H1およびH2がそれぞれ、少なくとも、重鎖可変ドメイン(Vドメイン)および重鎖定常ドメイン(CH1ドメイン)を含み、L1およびL2がそれぞれ、少なくとも、軽鎖可変ドメイン(Vドメイン)および軽鎖定常ドメイン(Cドメイン)を含み、相補的突然変異のデータセットが、表または実施例に列挙されるこれらの突然変異またはこれらの突然変異のサブセットを表すデータを含む、段階と、コンピュータプロセッサにより、H1が、L2と比較してL1と優先的に対合するであろう可能性、および/またはH2が、L1と比較してL2と優先的に対合するであろう可能性を決定する段階と、を含む方法もまた、本明細書に記載される。いくつかの態様において、本方法は、本明細書に記載される構築物を生成することをさらに含む。
【0042】
二重特異性抗原結合ポリペプチド構築物を生成する方法であって、当該二重特異性構築物は、第1の単一特異性抗原結合ポリペプチドからの第1の免疫グロブリン重鎖ポリペプチド配列(H1)および第1の免疫グロブリン軽鎖ポリペプチド配列(L1)を含む第1のヘテロ二量体、ならびに第2の単一特異性抗原結合ポリペプチドからの第2の免疫グロブリン重鎖ポリペプチド配列(H2)および第2の免疫グロブリン軽鎖ポリペプチド配列(L2)を含む第2のヘテロ二量体を含み、H1およびH2がそれぞれ、少なくとも、重鎖可変ドメイン(Vドメイン)および重鎖定常ドメイン(CH1ドメイン)を含み、L1およびL2がそれぞれ、少なくとも、軽鎖可変ドメイン(Vドメイン)および軽鎖定常ドメイン(Cドメイン)を含み、本方法は、H1、H2、L1、および/またはL2への修飾のサブセットの導入時に、試験系において、H1が、L2と比較してL1と優先的に対合し、H2が、L1と比較してL2と優先的に対合するように、H1、H2、L1、およびL2内のアミノ酸修飾のセットを表すデータを含む、データセットを得る段階と、データセットからの1つ以上の修飾のサブセットを第1のヘテロ二量体および/または第2のヘテロ二量体に導入する段階と、二重特異性構築物を含む発現産物を生成するために、少なくとも1つの宿主細胞において第1のヘテロ二量体および第2のヘテロ二量体を同時発現する段階と、を含む方法もまた、本明細書に記載される。
【0043】
いくつかの態様において、本方法は、他のポリペプチド産物と比較して、発現産物における二重特異性構築物の量を決定する段階をさらに含む。いくつかの態様において、二重特異性構築物は、他のポリペプチド産物と比較して、70%超の純度で生成される。いくつかの態様において、データセットは、本明細書に記載されるデータセットである。いくつかの態様において、本方法は、他のポリペプチド産物と比較して、二重特異性構築物の純度を増加させるために、H1、H2、L1、またはL2のうちの少なくとも1つに、さらなるアミノ酸修飾を加える段階をさらに含む。いくつかの態様において、本構築物は、少なくとも2つのCH3配列を含むFcを含み、Fcは、1つ以上のリンカーを伴ってまたは伴わずに、第1のヘテロ二量体および第2のヘテロ二量体と結合する。いくつかの態様において、Fcは、任意で1つ以上のアミノ酸修飾を含むヘテロ二量体である。いくつかの態様において、抗原結合ポリペプチドは、抗体、Fab、またはscFvである。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1】アミノ酸修飾がVまたはVドメインに作成されるLCCA設計セットにおいて、本明細書に記載される抗原結合構築物の、ヘテロ二量体の優先的対合を示す表を提供する。
図2】アミノ酸修飾がCH1またはCドメインに作成されるLCCA設計セットにおいて、ヘテロ二量体の優先的対合を示す表を提供する。
図3】本明細書に記載される抗原結合構築物から選択された、優先的に対合または誤対合されたヘテロ二量体についての熱安定性および親和性を示す表を提供する。
図4】選択されたヘテロ二量体についての熱変性曲線を提供する。
図5】選択されたヘテロ二量体についてのサイズ排除クロマトグラフィーのプロファイルを提供する。
図6A図6は、可変、定常、およびJ領域セグメントについて、標準的なヒト生殖細胞系配列に対してアラインされたD3H44重鎖および軽鎖アミノ酸配列を示す。(図における注釈:配列同一性、#接続部分のホットスポット(特異性をもたらす部分)、+設計において試験された突然変異の残基)。図6Aは、ヒトVH生殖細胞系サブグループを示す(ある代表的な配列がそれぞれのファミリーについて表示される)。VH3およびIGHJ302に対するD3H44のアラインメントに基づいた配列同一性。
図6B】ヒトカッパVL生殖細胞系サブグループを示す(ある代表的な配列がそれぞれのファミリーについて表示される)。VKIおよびIGKJ101に対するD3H44のアラインメントに基づいた配列同一性。
図6C】ヒトラムダVL生殖細胞系サブグループを示す(ある代表的な配列がそれぞれのファミリーについて表示される)。VL1およびIGLJ101に対するD3H44のアラインメントに基づいた配列同一性。
図6D】ヒトCH1対立遺伝子配列を示す。
図6E】ヒトカッパおよびラムダ対立遺伝子配列を示す。
図7】二重特異性抗体を設計するための戦略を概説するフローチャートを示す。
図8】二重特異性Mab(モノクローナル抗体)を形成するための遺伝子操作の必要条件、および重鎖軽鎖対を定量化するために必要とされるアッセイ必要条件の高レベルの図式的概観を示す。高い純度(すなわち、誤対合されたH-Lの会合がほとんどないか、または全くない)を有する二重特異性Mabを遺伝子操作する設定目標は、それらの固有の同種の軽鎖に対する2つの固有の重鎖の優先的対合を合理的に遺伝子操作することにより(特異的なアミノ酸突然変異の導入により)達成され得る。このプロセスを図式的に示し、ここで、H1は、L2ではなくL1と優先的に対合するように遺伝子操作されている。同様に、H2は、L1ではなくL2と優先的に対合するように遺伝子操作されている。二重特異性Mabの設計の実験的スクリーニングは、H1-L1:H1-L2およびH2-L2:H2-L1を同時に定量化することができるアッセイを必要とする。これらのアッセイ必要条件は、各二重特異性Fabアームを独立して遺伝子操作することができると仮定することにより簡易化され得る。この場合、アッセイは、唯一、H1-L1:H1-L2またはH2-L2:H2-L1を定量化すること必要とするが、同時に両方を定量化すること必要としない。
図9】いかに重鎖および軽鎖がタグ付けされ、優先的対合が決定されるかを示す概略図を提供する。この概略図において、丸は、3つの構築物がトランスフェクトされる細胞を表す。発現産物は細胞から分泌され、上清(SPNT)を、検出装置、この場合SPRチップ上に流す。重鎖との対合に関して競合する2つの軽鎖に融合される2つの異なるタグの検出レベルに基づいて、重鎖の、2つの軽鎖への優先的対合の定量的推計が推計され得る。
図10】2つの完全長重鎖の各々が、独立して2つの異なる軽鎖と同時発現されるときに予測された重鎖関連物を示す。優先的対合は、MCAを用いて評価される。
図11】H1がL2を上回ってL1と優先的に対合し、H2がL1を上回ってL2と優先的に対合するように設計されている、H1、L1、H2、L2鎖の例示的なセットを示す。可変領域の重鎖と軽鎖の接続部分の3D結晶構造の画像表示を示す。接続部分に導入された突然変異は、優先的に形成する絶対的な対に関して、可変領域接続部分の2つのセットにおいてそれぞれ、静電気的および立体的相補性を達成する。一方で、不適切な対においては好ましくない立体的および静電気的ミスマッチがあり、これはミスマッチ対における対合傾向の低下、ならびに安定性の低下をもたらし得る。
図12図11に示されるH1、L1、H2、L2の鎖の例示的なセットに基づいて、H1、L1、およびL2が同時発現されるとき(左パネル)に、ならびにH2、L1、およびL2が同時発現されるとき(右パネル)に生じるLC/MSスペクトルを示す。
図13図11に示される設計に基づいて、H1-L1およびH2-L2の対の生物物理学的特性の評価を示す。図13Aは、プロテインAでの精製の前およびその後のH1-L1およびH2-L2の対の非還元SDS-PAGE分析を示し、産物の収量はゲルの下部に示した。図13Bは、H1-L1およびH2-L2の対合した産物のDSCサーモグラムを示し、図13Cは、H2-L2対についてのUPLC-SEC(H2-L2)のプロファイルを示す。
図14】細胞において、2つの異なる軽鎖が2つの異なる重鎖と同時発現されるときに期待される、重鎖関連の産物を示す。優先的対合は、SMCA(モノクローナル抗体競合アッセイ)を用いて評価される。
図15図11に示される設計に基づいた二重特異性抗原結合構築物(H1-L1_H2-L2)についてのLC/MSスペクトルを示す。
図16図16A、左パネルは、図11に示される設計セットに由来する二重特異性抗原結合構築物の純度の評価を示す。図は、ヘテロ二量体Fcを有するHer2結合Mabからなる対照変異体とともに、SMCA変異体の、クマシー染色した非還元SDS-PAGEを示す。プロテインA(ProtA)での精製後のSMCA変異体の純度は高く、対照と定性的に同等である。SMCA変異体の推定されたProtA後の収量は、20mg/Lであり、40mg/mlの対照収量に匹敵する。右パネル(図16B)は、前述の二重特異性構築物のSECプロファイルを示す。観察された主なピーク(>90%のピーク領域全体)は、約150KDaの分子量で流出し、Mabモノマーからなる。観察された微小ピークは、約75KDaで流出し、これは半抗体からなる。著しく高い分子量のピーク(凝集体種を示す可能性がある)は観察されない。
図17図17Aは、図11に示される設計セットに基づいた二重特異性構築物によるTFまたはHer2抗原に対する単一特異性結合を示すSPRデータを示す(注記:このSMCA設計は、図11に示されるものと同じH1-L1およびH2-L2のMCA設計を使用する)。図17Bは、二重特異性抗原結合構築物によるTFおよびHer2抗原の同時に起こる二重特異性結合を示すSPRデータを示す。
図18】重要な接続部分の残基の特定に関する、かつ優先的な重鎖-軽鎖の対合を有する設計のコンピュータによるモデリングに関するフローチャートを示す。
図19】本発明で提供される、絶対的突然変異対のライブラリーを用いた、二重特異性抗体を調製する方法を示す概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0045】
詳細な説明
第1のヘテロ二量体および第2のヘテロ二量体を含み得る抗原結合ポリペプチド構築物(ヘテロ二量体対とも称される)であって、各ヘテロ二量体が免疫グロブリン重鎖またはその断片および免疫グロブリン軽鎖を含む構築物が本明細書に提供される。ヘテロ二量体のうちの少なくとも1つは、免疫グロブリン重鎖定常ドメイン1(CH1)中に1つ以上のアミノ酸修飾および免疫グロブリン軽鎖定常ドメイン(CL)中に1つ以上のアミノ酸修飾、免疫グロブリン重鎖可変ドメイン(VH)中に1つ以上のアミノ酸修飾および免疫グロブリン軽鎖可変ドメイン(VL)中に1つ以上のアミノ酸修飾、または重鎖および軽鎖の定常および可変ドメインの両方に前述のアミノ酸修飾の組み合わせを含み得る。修飾されるアミノ酸は、典型的には、軽鎖と重鎖の間の接続部分の一部であり、第1のヘテロ二量体の重鎖が、軽鎖のうちの一方と、他方よりも優先的に対合するように、各重鎖と所望の軽鎖の間に優先的対合を形成するように修飾される。同様に、第2のヘテロ二量体の重鎖は、第1の軽鎖ではなく、第2の軽鎖と優先的に対合し得る。
【0046】
上述のように、本明細書に記載されるアミノ酸修飾の特定の組み合わせは、重鎖の、特定の軽鎖との優先的対合を促進し、そのため、二重特異性モノクローナル抗体(Mab)発現がごくわずかなまたは制限された誤対合で生じることを可能にし、望ましくないまたは誤対合された産物から所望のヘテロ二量体を精製する必要性を最小限に抑える。ヘテロ二量体は、アミノ酸修飾を含まないヘテロ二量体に匹敵する熱安定性を示し得、アミノ酸修飾を含まないヘテロ二量体に匹敵する抗原に対する結合親和性も示し得る。
【0047】
第1および第2のヘテロ二量体の設計は、2つの異なる治療標的を標的とするか、または同じ抗原内で2つの異なるエピトープ(重複または非重複)を標的とする二重特異性抗体を形成するために使用することができる。
【0048】
本発明は、本発明によるヘテロ二量体対を調製する方法をさらに提供する。
【0049】
定義
特に定義されない限り、本明細書に使用されるすべての技術用語および科学用語は、特許請求の範囲に記載の対象が属する技術分野の当業者により一般的に理解されるのと同様の意味を有する。本明細書の用語について複数の定義が存在する場合には、本項の定義が優先される。URLまたは他のそのような識別名またはアドレスで引用がなされている場合には、そのような識別子は変化し得て、インターネット上の特定の情報は変更され得るが、同様の情報がインターネットの検索により見出され得ることが理解される。それに加えて、参考文献は、そのような情報の利用可能性および公的な普及を証明する。
【0050】
前述の一般的な説明および以下の発明を実施するための形態は、単に例示および説明であって、いかなる特許請求の範囲に記載の対象も制限するものではないことを理解されたい。本明細書では、単数形の使用は、特に具体的に明記しない限り、複数形を含む。
【0051】
本発明の説明において、任意の濃度範囲、パーセンテージ範囲、比率範囲、または整数範囲は、特に示されない限り、列挙される範囲内の任意の整数の値と、適当な場合には、その分数(例えば、整数の1/10および1/100等)とを含むと理解される。本明細書で使用される「約」は、特に示されない限り、示された範囲、値、配列、または構造の±10%を意味する。本明細書で使用される「1つ(a)」および「1つ(an)」という用語は、特に示されない限りまたはその文脈で指示されない限り、列挙された構成要素の「1つ以上」を指すことが理解されるべきである。選択肢(例えば、「または」)の使用は、選択肢の1つ、両方、またはそれらの任意の組み合わせのいずれかを意味する、と理解されるべきである。本明細書で使用される「含む」および「備える」という用語は、同義に使用される。加えて、本明細書に記載される構造および置換分の様々な組み合わせに由来する個々の一本鎖ポリペプチドまたは免疫グロブリン構築物は、本出願により、各一本鎖ポリペプチドまたはヘテロ二量体が個別に説明されたかのように同じ程度まで開示される。それ故に、個々の一本鎖ポリペプチドまたはヘテロ二量体を形成するための特定の構成要素の選択は、本発明の範囲内にある。
【0052】
本明細書で使用される項の表題は、構成上の目的にすぎず、記載される主題を限定するものと解釈すべきではない。特許、特許出願、記事、書籍、および論文を含むが、これらに限定されない、本明細書で引用されるすべての文書、または文書の一部は、いかなる目的に対しても、参照によりその全体が明確に本明細書に組み込まれる。
【0053】
本明細書に記載される方法および組成物は、本明細書に記載される特定の方法論、プロトコル、細胞株、構築物、および試薬に限定されず、したがって、変化し得ることが理解されるべきである。本明細書で使用される専門用語は、特定の実施形態を説明することのみを目的としており、本発明に記載される方法および組成物の範囲を限定するとは意図されず、それは添付の特許請求の範囲によってのみ限定されることもまた理解されるべきである。
【0054】
本明細書で言及されるすべての刊行物および特許は、例えば、刊行物に記載される構築物および方法論といった、説明および開示の目的において参照によりその全体が本明細書に組み込まれ、これらは、本明細書に記載される方法、組成物、および化合物に関連して使用され得る。本明細書で考察される刊行物は、本出願の出願日前のその開示のために単に提供される。本明細書におけるいかなるものも、本明細書に記載される発明者らが、先行の発明または任意の他の理由により、そのような開示に先行する権限がないことの承認であるとは解釈されるべきではない。
【0055】
本出願において、アミノ酸名および原子名(例えば、N、O、C等)は、IUPAC命名法(IUPAC Nomenclature and Symbolism for Amino Acids and Peptides (residue names,atom names etc.)、Eur.J.Biochem.,138,9-37(1984)とともに、Eur.J.Biochem.,152,1(1985)の修正版に基づいてタンパク質データバンク(PDB)(www.pdb.org)により定義される通りに使用される。「アミノ酸残基」という用語は、主に、20個の天然に存在するアミノ酸、すなわち、アラニン(AlaまたはA)、システイン(CysまたはC)、アスパラギン酸(AspまたはD)、グルタミン酸(GluまたはE)、フェニルアラニン(PheまたはF)、グリシン(GlyまたはG)、ヒスチジン(HisまたはH)、イソロイシン(IleまたはI)、リジン(LysまたはK)、ロイシン(LeuまたはL)、メチオニン(MetまたはM)、アスパラギン(AsnまたはN)、プロリン(ProまたはP)、グルタミン(GlnまたはQ)、アルギニン(ArgまたはR)、セリン(SerまたはS)、トレオニン(ThrまたはT)、バリン(ValまたはV)、トリプトファン(TrpまたはW)、およびチロシン(TyrまたはY)残基からなる群に含まれるアミノ酸残基を示すと解釈される。
【0056】
「ポリペプチド」、「ペプチド」、および「タンパク質」という用語は、アミノ酸残基のポリマーを指すために、本明細書において交換可能に使用される。つまり、ポリペプチドに対する記述は、ペプチドの記載およびタンパク質の記載に等しく適用され、その逆もまた同様である。これらの用語は、天然に生じるアミノ酸ポリマーだけでなく、1個以上のアミノ酸残基が天然にコードされていないアミノ酸であるアミノ酸ポリマーにも適用される。本明細書で使用される場合、これらの用語は、アミノ酸残基がペプチド共有結合によって連結されている、完全長タンパク質を含む任意の長さのアミノ酸鎖(全長のタンパク質が挙げられる)を包含する。
【0057】
「ヌクレオチド配列」または「核酸配列」という用語は、2つ以上のヌクレオチド分子の連続した伸長を示すことが意図される。ヌクレオチド配列は、ゲノム、cDNA、RNA、半合成、合成起源、またはそれらのいずれかの組み合わせのものであり得る。
【0058】
「細胞」、「宿主細胞」、「細胞株」、および「細胞培養物」は、本明細書において交換可能に使用され、このようなすべての用語には、細胞の増殖および培養に起因する子孫が含まれることを理解するべきである。「形質転換」および「トランスフェクション」は、細胞に核酸配列を導入する工程を指すように交換的に使用される。
【0059】
「アミノ酸」という用語は、天然に生じるアミノ酸、および天然に生じないアミノ酸、ならびに、天然に生じるアミノ酸と同様の方法で機能するアミノ酸類似体およびアミノ酸模倣物を指す。天然にコードされたアミノ酸は、20個の一般的なアミノ酸(アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、およびバリン)、ならびにピロリジンおよびセレノシステインである。アミノ酸類似体は、天然に生じるアミノ酸と同じ基本的な化学構造を有する化合物、すなわち、ホモセリン、ノルロイシン、メチオニンスルホキシド、メチオニンメチルスルホニウム等の炭素が水素、カルボキシル基、アミノ基、およびR基と結合している化合物を指す。このような類似体は、修飾されたR基を有しているか(ノルロイシン等)、または修飾されたペプチドの骨格を有しているが、天然に生じるアミノ酸と同じ基本的な化学構造を保持している。アミノ酸についての参照は、例えば、天然に生じるタンパク新生L-アミノ酸;D-アミノ酸、化学的に修飾されたアミノ酸(アミノ酸の変異体および誘導体等);アラニン、オルニチン等の天然に生じる非タンパク新生アミノ酸;およびアミノ酸の特徴であると当該技術分野で知られている性質を有する化学的に合成された化合物を含む。天然に生じないアミノ酸の例としては、□-メチルアミノ酸(例えばメチルアラニン)、D-アミノ酸、ヒスチジン様アミノ酸(例えば、2-アミノ-ヒスチジン、ヒドロキシ-ヒスチジン、ホモヒスチジン)、余分なメチレンを側鎖に有するアミノ酸(「ホモ」アミノ酸)、ならびに側鎖におけるカルボン酸の官能基がスルホン酸基と置換されたアミノ酸(例えばシステイン酸)が挙げられるが、これらに限定されない。合成の、ネイティブでないアミノ酸、置換されたアミノ酸、または1個以上のD-アミノ酸を含む、非天然アミノ酸を本発明のタンパク質に組み込むことは、多くの異なる方法において有利であり得る。D-アミノ酸を含有するペプチド等は、L-アミノ酸を含有する対応物と比較して、インビトロまたはインビボにおける増加した安定性を示す。したがって、D-アミノ酸を組み込むというペプチドの構築等は、細胞内でのより高い安定性が望まれるか、必要とされる場合、特に有用であり得る。より具体的には、このような性質が望ましいときに、D-ペプチド等は、内因性のペプチダーゼおよびプロテアーゼに対して耐性を示し、それにより分子のバイオアベイラビリティを改善し、インビボにおける寿命を延長する。さらに、D-ペプチド等は、Tヘルパー細胞への、主要組織適合遺伝子複合体のクラスII拘束性の提示のために、効率良く処理されることができず、それ故に、全生物において体液性免疫反応を誘導する可能性が低い。
【0060】
アミノ酸は、IUPAC-IUB生物化学命名委員会(Biochemical Nomenclature Commission)が推薦する一般的に知られている3文字表記または1文字表記のいずれかにより、本明細書では称される。同様に、ヌクレオチドは、一般的に受け入れられている1文字コードにより称され得る。
【0061】
「保存的に修飾された変異体」は、アミノ酸および核酸配列の両方に適用される。特定の核酸配列に関して、「保存的に修飾された変異体」は、同一または本質的に同一のアミノ酸配列をコードする核酸か、または核酸がアミノ酸配列をコードしない場合は本質的に同一の配列を指す。遺伝コードの縮重のため、多くの機能的に同一の核酸が、任意の所与のタンパク質をコードしている。例えば、GCA、GCC、GCG、およびGCUのコドンはすべて、アミノ酸アラニンをコードしている。それ故に、コドンによりアラニンが特定されるすべての位置では、コードされるポリペプチドを変化させることなく、記載された対応するコドンの何れかへコドンを変化させることができる。このような核酸の変異は「サイレント変異」であり、保存的に修飾された変異の一種である。ポリペプチドをコードする本明細書のすべての核酸配列はまた、この核酸のすべての可能性のあるサイレント変異を表している。当業者は、機能的に同一の分子が得られるように、核酸における各コドンが修飾され得ることを理解するだろう(メチオニンに対する通常唯一のコドンであるAUG、およびトリプトファンに対する通常唯一のコドンであるTGGは除く)。したがって、ポリペプチドをコードする核酸の各サイレント変異は、記載された各配列に潜在的に含まれる。
【0062】
アミノ酸配列に関しては、コードされた配列中の単一のアミノ酸または数%のアミノ酸を変更、付加、または欠失する、核酸、ペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質の配列に対する個々の置換、欠失、または付加は、そのような変更によってアミノ酸の欠乏、アミノ酸の付加、または化学的に類似のアミノ酸によるアミノ酸の置換をもたらす「保存的に修飾された変異体」であることを当業者は理解するだろう。機能的に同一のアミノ酸を提供する保存的な置換表は当業者に既知である。このような保存的に修飾された変異体は、本発明の、多型の変異体、種間のホモログ(interspecies homologs)および対立遺伝子に加えられるものであり、それらを排除するものではない。
【0063】
機能的に同一のアミノ酸を提供する保存的な置換表は当業者に既知である。以下の8群のそれぞれは、互いに保存的な置換となるアミノ酸を含んでいる:
1)アラニン(A)、グリシン(G);
2)アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E);
3)アスパラギン(N)、グルタミン(Q);
4)アルギニン(R)、リジン(K);
5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V);
6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W);
7)セリン(S)、トレオニン(T);および
8)システイン(C)、メチオニン(M)
(例えば、Creighton,Proteins:Structures and Molecular Properties(W H Freeman & Co.;2nd edition(December 1993)を参照のこと。
【0064】
2つ以上の核酸またはポリペプチド配列の文脈において、「同一の」またはパーセント「同一性」という用語は、2つ以上の配列またはサブ配列が同じであることを指す。配列を比較ウィンドウまたは指定された領域にわたって最大限に対応するように対比および整列させ、以下の配列比較アルゴリズム(または当業者に利用可能な他のアルゴリズム)のうちの1つを使用して測定されるか、または手動で整列させて目視によって検査して測定した場合に、アミノ酸残基またはヌクレオチドの割合が同じである場合、配列は「実質的に同一」である(すなわち、指定の領域にわたって約50%の同一性、約55%の同一性、60%の同一性、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%または約99%の同一性)。この定義はまた、試験配列の相補体にも言及する。同一性は、少なくとも約50アミノ酸またはヌクレオチド長の領域にわたって、あるいは75~100アミノ酸またはヌクレオチド長の領域にわたって、あるいは、特定されない場合は、ポリヌクレオチドまたはポリペプチドの配列全体にわたって存在し得る。本発明のポリヌクレオチド配列またはその断片を有する標識されたプローブを用いて、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下でライブラリーをスクリーニングする段階と、このポリヌクレオチド配列を含有する全長のcDNAおよびゲノムクローンを単離する段階と、を含むプロセスにより、ヒト以外の種からのホモログを含む、本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを得ることができる。このようなハイブリダイゼーション技術は、当業者によく知られている。
【0065】
ポリペプチドの誘導体または変異体は、誘導体または変異体のアミノ酸配列が、元のペプチドからの100アミノ酸配列を用いて少なくとも50%の同一性を有する場合、ペプチドと「相同性」を共有するか、または「相同である」と言われる。ある実施形態において、誘導体または変異体は、誘導体と同じ数のアミノ酸残基を有するペプチドまたはペプチドの断片と少なくとも75%同一である。ある実施形態において、誘導体または変異体は、誘導体と同じ数のアミノ酸残基を有するペプチドまたはペプチドの断片と少なくとも85%同一である。ある実施形態において、誘導体のアミノ酸配列は、誘導体と同じ数のアミノ酸残基を有するペプチドまたはペプチドの断片と少なくとも90%同一である。いくつかの実施形態において、誘導体のアミノ酸配列は、誘導体と同じ数のアミノ酸残基を有するペプチドまたはペプチドの断片と少なくとも95%同一である。ある実施形態において、誘導体または変異体は、誘導体と同じ数のアミノ酸残基を有するペプチドまたはペプチドの断片と少なくとも99%同一である。
【0066】
本明細書で使用される「単離された」ポリペプチドまたは構築物は、その天然細胞培養環境の成分から特定および分離および/または回収された構築物またはポリペプチドを意味する。その天然環境の汚染成分とは、典型的には、ヘテロマルチマーの診断および治療への使用に干渉する物質であり、酵素、ホルモン、および他のタンパク質様または非タンパク質様溶質が含まれ得る。
【0067】
ある実施形態において、本明細書で使用される、本明細書に記載される「単離された」抗原結合構築物は、ヘテロ二量体対または「単離された」ヘテロ二量体対を含み、その天然細胞培養環境の成分から特定および分離および/または回収されたヘテロ二量体またはヘテロ二量体対を含む。その天然環境の汚染成分とは、ヘテロ二量体または抗原結合構築物の診断および治療への使用に干渉する物質であり、酵素、ホルモン、および他のタンパク質様または非タンパク質様溶質が含まれ得る。
【0068】
ヘテロ二量体および抗原結合構築物およびヘテロ二量体対は、概して、実質的に均質になるまで精製される。「実質的に均質な」、「実質的に均質な形態」、および「実質的均質性」という語句は、産物が望ましくないポリペプチドの組み合わせ(例えば、ホモ二量体)に由来する副産物を実質的に欠いていることを示すために使用される。純度によって表される場合に、実質的均質性は、副産物の量が重量パーセンテージで10%を超えず、好ましくは5%未満であり、さらに好ましくは1%未満であり、最も好ましくは0.5%未満であることを意味する。
【0069】
「~に選択的に(または特異的に)ハイブリダイズする」という語句は、特定のヌクレオチド配列が複合混合物(全細胞、ライブラリーDNA、またはRNAが挙げられるが、これらに限定されない)に存在するときに、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で、その配列に対してのみ分子が結合すること、二重鎖を形成すること、またはハイブリダイズすることを指す。
【0070】
抗体技術の当業者により理解される用語にはそれぞれ、特に本明細書に明確に異なって規定されない限り、当該技術分野で得られる意味が与えられる。抗体は、可変領域、ヒンジ領域、および定常ドメインを有することが知られている。免疫グロブリン構造および機能は、例えば、Harlow et al,Eds.,Antibodies:A Laboratory Manual,Chapter 14(Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,1988)において概説されている。
【0071】
本明細書で使用される「抗体」および「免疫グロブリン」または「抗原結合ポリペプチド」は、交換可能に使用される。「抗原結合ポリペプチド」は、分析物(抗原)と特異的に結合する、免疫グロブリン遺伝子(複数を含む)、または1つ以上のその断片により実質的にコードされるポリペプチドを指す。認識された免疫グロブリン遺伝子には、カッパ、ラムダ、アルファ、ガンマ、デルタ、エプシロン、およびミュー定常領域遺伝子、ならびに無数の免疫グロブリン可変領域遺伝子が含まれる。軽鎖は、カッパまたはラムダのいずれかに分類される。重鎖は、ガンマ、ミュー、アルファ、デルタ、またはエプシロンとして分類され、順に、それぞれ、免疫グロブリンアイソタイプ、IgG、IgM、IgA、IgD、およびIgEを規定する。さらに、抗体は、多くのサブクラスのうちの1つに属し得、例えば、IgGは、IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4のサブクラスに属し得る。
【0072】
例示的な免疫グロブリン(抗体)構造単位は、2対のポリペプチド鎖からなり、各対は、1つの「軽」鎖(約25kD)および1つの「重」鎖(約50~70kD)を有する。「軽鎖」という用語には、完全長の軽鎖および結合特異性を与えるために十分な可変領域配列を有するその断片が含まれる。完全長の軽鎖は、可変領域ドメイン、VL、および定常領域ドメイン、CLを含む。軽鎖の可変領域ドメインは、ポリペプチドのアミノ末端にある。軽鎖は、カッパ鎖およびラムダ鎖を含む。「重鎖」という用語には、完全長の重鎖および結合特異性を与えるために十分な可変領域配列を有するその断片が含まれる。完全長の重鎖には、可変領域ドメインVH、ならびに3つの定常領域ドメインCH1、CH2、およびCH3が含まれる。VHドメインはポリペプチドのアミノ末端にあり、CHドメインはカルボキシル末端にあり、CH3がポリペプチドのカルボキシ末端に最も近い。重鎖は、IgG(IgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4サブタイプが含まれる)、IgA(IgA1およびIgA2サブタイプが含まれる)、IgM、ならびにIgEを含む、任意のアイソタイプであり得る。「可変領域」または「可変ドメイン」という用語は、概して、抗原認識に関与する抗体の軽鎖および/または重鎖の一部を指し、典型的には、重鎖(VH)において約120~130のアミノ末端アミノ酸および軽鎖(VL)において約100~110のアミノ末端アミノ酸を含む。「相補性決定領域」または「CDR」は、抗原結合特異性および親和性に寄与するアミノ酸配列である。「フレームワーク」領域(FR)は、CDRの適切な立体配座を維持して、抗原結合領域と抗原との間の結合を促進するのに役立っている。構造的には、フレームワーク領域は、抗体中、CDRの間に位置し得る。可変領域は、典型的には、3つの超可変領域CDRにより連結されている比較的保存されたフレームワーク領域(FR)、という同じ一般構造を示す。各対の2つの鎖のCDRは、典型的には、フレームワーク領域により整列され、特異的エピトープと結合することが可能になる。N末端からC末端まで、軽鎖および重鎖の可変領域の両方は、典型的には、ドメインFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、およびFR4を含む。各ドメインに対するアミノ酸の割当ては、特に指定のない限り、典型的には、Kabat Sequences of Proteins of Immunological Interest(National Institutes of Health,Bethesda,Md.(1987および1991))の定義に従っている。ある実施形態において、免疫グロブリン構築物は、治療ポリペプチドに接続したIgG、IgM、IgA、IgD、またはIgEからの少なくとも1つの免疫グロブリンドメインを含む。いくつかの実施形態において、本明細書に提供される免疫グロブリン構築物中に含まれる免疫グロブリンドメインは、ダイアボディまたはナノボディ等の免疫グロブリン系構築物に由来する。ある実施形態において、本明細書に記載される免疫グロブリン構築物は、ラクダ抗体等の重鎖抗体からの少なくとも1つの免疫グロブリンドメインを含む。ある実施形態において、本明細書に提供される免疫グロブリン構築物は、ウシ抗体、ヒト抗体、ラクダ抗体、マウス抗体、または任意のキメラ抗体等の哺乳動物抗体由来の少なくとも1つの免疫グロブリンドメインを含む。
【0073】
「二重特異性」、「デュアル特異性」、または「二機能性」抗原結合タンパク質または抗体は、2つの異なる抗原結合部位を有するハイブリッド抗原結合タンパク質または抗体である。二重特異性抗原結合タンパク質および抗体は、多重特異性抗原結合タンパク質抗体の一種である。二重特異性抗体結合タンパク質または抗体の2つの結合部位は、同じまたは異なる分子標的上に存在し得る2つの異なるエピトープと結合する。「多重特異性抗原結合タンパク質」または「多重特異性抗体」は、1つを超える抗原またはエピトープを標的とするものである。「二価抗原結合タンパク質」または「二価抗体」は、2つの抗原結合部位を含む。場合によっては、2つの結合部位は、同じ抗原特異性を有する。二価抗原結合タンパク質および二価抗体は、二重特異性であり得る。以下を参照のこと。「多重特異性」または「多重機能性」抗体以外の二価抗体は、ある特定の実施形態において、典型的には、その結合部位のそれぞれが同一であることが理解される。
【0074】
「優先的対合」という用語は、第1のポリペプチドと第2のポリペプチド、例えば、本明細書に記載される抗原結合構築物およびヘテロ二量体対における免疫グロブリン重鎖と免疫グロブリン軽鎖の対合パターンを説明するために本明細書で使用される。したがって、「優先的対合」とは、第1のポリペプチドと第2のポリペプチドとの間に対合が生じる時に、1つ以上のさらなる異なるポリペプチドが存在していても、第1のポリペプチドの、第2のポリペプチドとの好ましい対合を指す。典型的には、優先的対合は、第1および第2のポリペプチドのうちの1つまたはその両方の修飾(例えば、アミノ酸修飾)の結果として生じる。典型的には、優先的対合は、対合が生じた後に存在する最も豊富な二量体である、対合した第1および第2のポリペプチドをもたらす。免疫グロブリン重鎖(H1)は、2つの異なる免疫グロブリン軽鎖(L1およびL2)と同時発現させる場合、両方の軽鎖と等しく統計的に対合し、およそ50:50の、L1と対合したH1およびL2と対合したH1の混合物をもたらすことが当該技術分野で知られている。この文脈において、例えば、H1をL1およびL2の両方と同時発現させる場合に、H1-L1重鎖-軽鎖ヘテロ二量体の量がH1-L2ヘテロ二量体の量よりも多かった場合、「優先的対合」がH1とL1との間で起こっていると考えられる。それ故に、この場合は、H1は、L2と比較してL1と優先的に対合している。
【0075】
抗体重鎖は抗体軽鎖と対合し、互いに「接続部分」で相接するかまたは接触する。「接続部分」は、第1のポリペプチドにおける1つ以上の「接触」アミノ酸残基を含み、第2のポリペプチドの1つ以上の「接触」アミノ酸残基と相互作用する。ある文脈において、接続部分という用語は、Fcが、IgG1、最も好ましくはヒトIgG1抗体等のIgG抗体に好ましくは由来する、Fcの二量体化したCH3ドメインの接続部分を説明するために使用され得る。
【0076】
抗体軽鎖と会合する抗体重鎖は、典型的には、「接続部分」で互いに相接するかまたは接触する。免疫グロブリン軽鎖は、「接続部分」を介して免疫グロブリン重鎖と操作可能に会合する。「接続部分」は、免疫グロブリン重鎖におけるこれらの1つ以上の「接触」アミノ酸残基を含み、免疫グロブリン軽鎖の接続部分における1つ以上の「接触」アミノ酸残基と相互作用する。本明細書で使用される接続部分は、免疫グロブリン重鎖のVHおよびCH1ドメインならびに免疫グロブリン軽鎖のVLおよびCLドメインを含むことができる。「接続部分」は、IgG抗体、最も好ましくはヒトIgG1抗体由来であり得る。
【0077】
本明細書で使用される「アミノ酸修飾」という用語には、アミノ酸突然変異、挿入、欠失、置換、化学的修飾、物理的修飾、および再配置が含まれるが、これらに限定されない。
【0078】
抗原結合構築物およびヘテロ二量体対
本明細書に記載される抗原結合構築物は、第1のヘテロ二量体および第2のヘテロ二量体を含むことができ、各ヘテロ二量体は、免疫グロブリン重鎖を免疫グロブリン軽鎖と対合することにより得られる。免疫グロブリン重鎖および軽鎖の定常および可変ドメインの構造および組織は、当該技術分野でよく知られている。免疫グロブリン重鎖は、典型的には、1つの可変(VH)ドメイン、ならびに3つの定常ドメイン、CH1、CH2、およびCH3を含む。免疫グロブリン軽鎖は、典型的には、1つの可変(VL)ドメインおよび1つの定常(CL)ドメインを含む。これらの典型的な形式への様々な修飾が行われ得る。
【0079】
本明細書に記載される抗原結合構築物およびヘテロ二量体対は、第1のヘテロ二量体および第2のヘテロ二量体を含むことができ、各ヘテロ二量体は、少なくとも、VHおよびCH1ドメインを有する免疫グロブリン/抗体重鎖またはその断片、ならびにVLドメインおよびCLドメインを有する免疫グロブリン/抗体軽鎖を含む。一実施形態において、ヘテロ二量体対および抗原結合構築物のヘテロ二量体の両方は、完全長免疫グロブリン重鎖を含む。別の実施形態において、ヘテロ二量体対または抗原結合構築物のヘテロ二量体の両方は、少なくとも、VHおよびCH1ドメインを含む免疫グロブリン重鎖の断片を含む。一実施形態において、ヘテロ二量体対のヘテロ二量体の両方は、少なくとも、VHおよびCH1ドメインを含む免疫グロブリン重鎖のアミノ末端断片を含む。別の実施形態において、ヘテロ二量体対のヘテロ二量体の両方は、少なくとも、VHおよびCH1ドメインを含む免疫グロブリン重鎖のカルボキシ末端断片を含む。
【0080】
ヘテロ二量体対の各ヘテロ二量体は、抗原またはエピトープと特異的に結合することができる。一実施形態において、各ヘテロ二量体の免疫グロブリン重鎖および免疫グロブリン軽鎖は、既知の治療抗体に由来するか、または遺伝子操作される。治療抗体は、疾患または障害に罹患しているかまたはかかりやすい哺乳動物における、疾患または障害を治療するのに有効であるものである。各ヘテロ二量体が由来し得る適切な治療抗体としては、アバゴボマブ、アダリムマブ、アレムツズマブ、アウログラブ、バピネオズマブ、バシリキシマブ、ベリムマブ、ベバシズマブ、ブリアキヌマブ、カナキヌマブ、カツマキソマブ、セルトリズマブペゴール、セツキシマブ、ダクリズマブ、デノスマブ、エファリズマブ、ガリキシマブ、ゲムツズマブ オゾガミシン、ゴリムマブ、イブリツモマブチウキセタン、インフリキシマブ、イピリムマブ、ルミリキシマブ、メポリズマブ、モタビズマブ、ムロモナブ、ミコグラブ、ナタリズマブ、ニモツズマブ、オクレリズマブ、オファツムマブ、オマリズマブ、パリビズマブ、パニツムマブ、ペルツズマブ、ラニビズマブ、レスリズマブ、リツキシマブ、テプリズマブ、トシリズマブ/アトリズマブ、トシツモマブ、トラスツズマブ、Proxinium(商標)、Rencarex(商標)、ウステキヌマブ、およびザルツムマブが挙げられるが、これらに限定されない。
【0081】
一実施形態において、各ヘテロ二量体の免疫グロブリン重鎖および免疫グロブリン軽鎖は、以下の表のタンパク質、ならびに以下の表のタンパク質に属するサブユニット、ドメイン、モチーフ、およびエピトープ:レニン;ヒト成長ホルモンおよびウシ成長ホルモン等の成長ホルモン;増殖ホルモン放出因子;副甲状腺ホルモン;甲状腺刺激ホルモン;リポタンパク質;アルファ-1抗トリプシン;インスリンA鎖;インスリンB鎖;プロインスリン;卵胞刺激ホルモン;カルシトニン;黄体形成ホルモン;グルカゴン;第VII因子、第VIIIC因子、第IX因子、組織因子(TF)、およびvon Willebrands因子等の凝固因子;プロテインC等の抗凝固因子;心房性ナトリウム利尿因子;肺表面活性剤;ウロキナーゼまたはヒト尿もしくは組織型プラスミノーゲン活性化因子(t-PA)等のプラスミノーゲン活性化因子;ボンベシン;トロンビン;造血増殖因子;腫瘍壊死因子-アルファおよびベータ;エンケファリナーゼ;RANTES(活性化に際して調節され、通常はT細胞により発現され、分泌される);ヒトマクロファージ炎症タンパク質(MIP-1-アルファ);ヒト血清アルブミン等の血清アルブミン;Muellerian阻害物質;リラクシンA鎖;リラクシンB鎖;プロリラクシン;マウスゴナドトロピン結合ペプチド;ベータ-ラクタマーゼ等の微生物タンパク質;DNase;IgE;CTLA-4等の細胞傷害性Tリンパ球結合抗原(CTLA);インヒビン;アクチビン;血管内皮増殖因子(VEGF);例えば、EGFR、VEGFR等のホルモンもしくは増殖因子に対する受容体;アルファインターフェロン(アルファ-IFN)、ベータインターフェロン(ベータ-IFN)およびガンマインターフェロン(ガンマ-IFN)等のインターフェロン;プロテインAまたはD;リウマチ因子;骨由来神経栄養因子(BDNF)、ニューロトロフィン-3、4、5もしくは6(NT-3、NT-4、NT-5、もしくはNT-6)等の神経栄養因子、または神経成長因子;血小板由来増殖因子(PDGF);AFGFおよびPFGF等の線維芽細胞増殖因子;上皮増殖因子(EGF);TGF-1、TGF-2、TGF-3、TGF-4、もしくはTGF-5を含むTGFアルファおよびTGFベータ等のトランスフォーミング増殖因子(TGF);インスリン様増殖因子IおよびII(IGF-IおよびIGF-II);des(1-3)-IGF-I(脳IGF-I)、インスリン様増殖因子結合タンパク質;CD2、CD3、CD4、CD8、CD11a、CD14、CD18、CD19、CD20、CD22、CD23、CD25、CD33、CD34、CD40、CD40L、CD52、CD63、CD64、CD80およびCD147等のCDタンパク質;エリスロポエチン;骨誘導因子;抗毒素;骨形態形成因子(BMP);インターフェロンアルファ、ベータ、およびガンマ等のインターフェロン;M-CSF、GM-CSF、およびG-CSF等のコロニー刺激因子(CSF);インターロイキン(IL)、例えば、IL-1~IL-13;TNFアルファ、スーパーオキシドジスムターゼ;T細胞受容体;表面膜タンパク質;崩壊加速因子;例えば、AIDSエンベロープの一部、例えば、gp120等のウイルス抗原;輸送タンパク質;ホーミング受容体;アドレッシン;調節タンパク質;LFA-1、Mac1、p150.95、VLA-4、ICAM-1、ICAM-3、およびVCAM、a4/p7インテグリン、および(Xv/p3インテグリンもしくはそのサブユニット、CD49a、CD49b、CD49c、CD49d、CD49e、CD49f、アルファ7、アルファ8、アルファ9、アルファD、CD11a、CD11b、CD51、CD11c、CD41、アルファIIb、アルファIELb等のインテグリンアルファサブユニット等の細胞接着分子;CD29、CD18、CD61、CD104、ベータ5、ベータ6、ベータ7、およびベータ8等のインテグリンベータサブユニット;限定されるものではないが、アルファVベータ3、アルファVベータ5、およびアルファ4ベータ7が含まれるが、これらに限定されないインテグリンサブユニットの組み合わせ;アポトーシス経路のメンバー;IgE;血液群抗原;flk2/flt3受容体;肥満(OB)受容体;mpl受容体;CTLA-4;プロテインC;EphA2、EphA4、EphB2等のEph受容体;HLA-DR等のヒト白血球抗原(HLA);補体受容体CR1、C1Rq等の補体タンパク質ならびにC3およびC5等の他の補体因子;GpIbアルファ、GPIIb/IIIa、およびCD200等の糖タンパク質受容体;ならびに上記のポリペプチドのいずれかの断片が含まれるがこれらに限定されない分子と結合する抗体に由来するか、または遺伝子操作される。
【0082】
一実施形態において、各ヘテロ二量体の免疫グロブリン重鎖および軽鎖は、ALK受容体(プレイオトロフィン受容体)、プレイオトロフィン、KS1/4汎-癌腫抗原;卵巣癌抗原(CA125);前立腺酸ホスファターゼ;前立腺特異的抗原(PSA);メラノーマ結合抗原p97;メラノーマ抗原gp75;高分子量メラノーマ抗原(HMW-MAA);前立腺特異的膜抗原;癌胎児抗原(CEA);多様型上皮ムチン抗原;ヒト乳脂肪球抗原;CEA、TAG-72、CO17-1A、GICA 19-9、CTA-1、およびLEA等の結腸直腸腫瘍結合抗原;Burkittリンパ腫抗原-38.13;CD19;ヒトBリンパ球抗原-CD20;CD33;ガングリオシドGD2、ガングリオシドGD3、ガングリオシドGM2、およびガングリオシドGM3等のメラノーマ特異的抗原;腫瘍特異的移植方細胞表面抗原(TSTA);T抗原、DNA腫瘍ウイルス、およびRNA腫瘍ウイルスのエンベロープ抗原等のウイルス誘導性腫瘍抗原;結腸のCEA等の癌胎児抗原-アルファ-フェトタンパク質、514癌胎児トロホブラスト糖タンパク質および膀胱腫瘍癌胎児抗原;ヒト肺癌抗原L6およびL20等の分化抗原;線維肉腫の抗原;ヒト白血病T細胞抗原-Gp37;新生糖タンパク質;スフィンゴ脂質;EGFR(上皮増殖因子受容体)等の乳癌抗原;NY-BR-16;NY-BR-16およびHER2抗原(p185HER2);多様型上皮ムチン(PEM);悪性腫瘍ヒトリンパ球抗原-APO-1;胎児の赤血球に認められるI抗原等の分化抗原;成人の赤血球に認められる一次内胚葉I抗原;移植前の胚;胃腸腺癌に認められるI(Ma);乳房上皮に認められるM18、M39;骨髄細胞に認められるSSEA-1;VEP8;VEP9;Myl;Va4-D5;結腸直腸癌に認められるD156-22;TRA-1-85(血液群H);精巣および卵巣癌に認められるSCP-1;結腸腺癌に認められるC14;肺腺癌に認められるF3;胃癌に認められるAH6;Yハプテン;胎児癌細胞に認められるLey;TL5(血液群A);A431細胞に認められるEGF受容体;膵臓癌に認められるE1シリーズ(血液群B);胎児癌細胞に認められるFC10.2;胃腸腺癌抗原;腺癌に認められるCO-514(血液群Lea);腺癌に認められるNS-10;CO-43(血液群Leb);A431細胞のEGF受容体に認められるG49;結腸腺癌に認められるMH2(血液群ALeb/Ley);結腸癌に認められる19.9;胃癌ムチン;骨髄細胞に認められるT5A7;メラノーマに認められるR24;胎児癌細胞に認められる4.2、GD3、D1.1、OFA-1、GM2、OFA-2、GD2、およびM1:22:25:8ならびに4~8細胞段階の胚に認められるSSEA-3およびSSEA-4;皮膚T細胞リンパ腫抗原;MART-1抗原;シアリルTn(STn)抗原;結腸癌抗原NY-CO-45;肺癌抗原NY-LU-12変異体A;腺癌抗原ART1;腫瘍随伴関連脳-精巣-癌抗原(癌神経抗原MA2;腫瘍随伴性神経抗原);神経癌腹部抗原2(NOVA2);肝細胞癌抗原遺伝子520;腫瘍関連抗原CO-029;腫瘍関連抗原MAGE-C1(癌/精巣抗原CT7)、MAGE-B1(MAGE-XP抗原)、MAGE-B2(DAM6)、MAGE-2、MAGE-4a、MAGE-4b、およびMAGE-X2;癌-精巣抗原(NY-EOS-1)ならびに上記のポリペプチドのいずれかの断片等が含まれるがこれらに限定されない癌抗原と特異的に結合する抗体に由来するか、または遺伝子操作される。
【0083】
ヒト抗体は、IgG、IgA、IgE、IgM、およびIgDを含むアイソタイプにグループ分けされ得る。一実施形態において、Fcは、IgGアイソタイプに由来する。別の実施形態において、Fcは、IgAアイソタイプに由来する。別の実施形態において、Fcは、IgEアイソタイプに由来する。別の実施形態において、Fcは、IgMアイソタイプに由来する。別の実施形態において、Fcは、IgDアイソタイプに由来する。
【0084】
ヒトIgG抗体はまた、サブクラスIgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4にも分類され得る。それ故に、いくつかの実施形態において、Fcは、抗体のIgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4のサブクラスに由来し得ることが企図される。
【0085】
ヘテロ二量体対の各ヘテロ二量体は、エピトープまたは抗原と特異的に結合し得る。一実施形態において、ヘテロ二量体対の各ヘテロ二量体は、同じエピトープと結合する。別の実施形態において、ヘテロ二量体対の第1のヘテロ二量体は、ある抗原上のエピトープと特異的に結合し、ヘテロ二量体対の第2のヘテロ二量体は、同じ抗原上の異なるエピトープと特異的に結合する。別の実施形態において、ヘテロ二量体対の第1のヘテロ二量体は、第1の抗原上のエピトープと特異的に結合し、ヘテロ二量体対の第2のヘテロ二量体は、第1の抗原とは異なる第2の抗原上のエピトープと特異的に結合する。例えば、一実施形態において、第1のヘテロ二量体は、組織因子と特異的に結合するが、第2のヘテロ二量体は、抗原Her2(ErbB2)と特異的に結合する。別の実施形態において、第1のヘテロ二量体は、上述の分子または癌抗原と特異的に結合する。別の実施形態において、第2のヘテロ二量体は、上述の分子または癌抗原と特異的に結合する。さらに別の実施形態において、第1のヘテロ二量体は、抗原CD3と特異的に結合するが、第2のヘテロ二量体は、抗原CD19と特異的に結合する。
【0086】
上述のように、いくつかの実施形態において、各ヘテロ二量体の免疫グロブリン重鎖および免疫グロブリン軽鎖は、既知の治療抗体、または様々な標的分子または癌抗原と結合する抗体に由来するか、または遺伝子操作され得る。多くのそのような分子のアミノ酸およびヌクレオチド配列は、容易に入手可能である(例えば、GenBank:AJ308087.1(ヒト化抗ヒト組織因子抗体D3H44軽鎖可変領域およびCLドメイン);GenBank:AJ308086.1(ヒト化抗ヒト組織因子抗体D3H44重鎖可変領域およびCH1ドメイン);GenBank:HC359025.1(ペルツズマブFab軽鎖遺伝子モジュール);GenBank:HC359024.1(ペルツズマブFab重鎖遺伝子モジュール);GenBank:GM685465.1(抗体トラスツズマブ(=Herceptin)-野生型;軽鎖);GenBank:GM685463.1(抗体トラスツズマブ(=Herceptin)-野生型;重鎖);GenBank:GM685466.1(抗体トラスツズマブ(=Herceptin)-GC-最適化軽鎖);およびGenBank:GM685464.1(抗体トラスツズマブ(=Herceptin)-GC-最適化軽鎖重鎖を参照のこと。本明細書に記載されるGenBank番号の各々の配列は、2012年11月28日現在でNCBIウェブサイトから入手可能であり、各々は、すべての目的のために参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0087】
いくつかの態様において、単離された抗原結合構築物は、本明細書に開示される表またはアクセッション番号に記載されるアミノ酸配列またはその断片と少なくとも80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、または100%同一であるアミノ酸配列を含む。いくつかの態様において、単離された抗原結合構築物は、本明細書に開示される表またはアクセッション番号に記載されるヌクレオチド配列またはその断片と少なくとも80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、または100%同一であるポリヌクレオチドによりコードされるアミノ酸配列を含む。
【0088】
免疫グロブリン重鎖および軽鎖に対するアミノ酸修飾
ヘテロ二量体対のヘテロ二量体のうちの少なくとも1つは、第1のヘテロ二量体の重鎖が、軽鎖のうちの一方と、他方よりも優先的に対合するように、それらの免疫グロブリン重鎖および/または免疫グロブリン軽鎖に対して1つ以上のアミノ酸修飾を含むことができる。同様に、第2のヘテロ二量体の重鎖は、第1の軽鎖ではなく、第2の軽鎖と優先的に対合し得る。この1つの重鎖と2つの軽鎖のうちの1つとの優先的対合は、免疫グロブリン重鎖を両方の免疫グロブリン軽鎖と同時発現させる場合に、免疫グロブリン重鎖が、2つの免疫グロブリン軽鎖のうちの一方と、他方を上回って優先的に対合する、1つの免疫グロブリン重鎖および2つの免疫グロブリン軽鎖を含む設計セットに基づき得る。それ故に、LCCA設計セットは、1つの免疫グロブリン重鎖、第1の免疫グロブリン軽鎖、および第2の免疫グロブリン軽鎖を含み得る。
【0089】
一実施形態において、1つ以上のアミノ酸修飾は、1つ以上のアミノ酸置換を含む。
【0090】
一実施形態において、LCCA設計セットに示される優先的対合は、軽鎖と重鎖との間の接続部分の一部である1つ以上のアミノ酸を修飾することにより構築される。一実施形態において、LCCA設計セットに示される優先的対合は、免疫グロブリン重鎖のCH1ドメイン、第1の免疫グロブリン軽鎖のCLドメイン、および第2の免疫グロブリン軽鎖のCLドメインのうちの少なくとも1つにおいて1つ以上のアミノ酸を修飾することにより構築される。
【0091】
一実施形態において、アミノ酸修飾(複数を含む)は、残基のKabat番号付けにより示されるように、可変(VH、VL)および定常(CH1、CL)ドメインの保存されたフレームワーク残基に限定される。例えば、Almagro[Frontiers In Bioscience(2008)13:1619-1633]は、Kabat、Chotia、およびIMGT番号付けスキームに基づいてフレームワーク残基の定義を提供する。
【0092】
一実施形態において、ヘテロ二量体のうちの少なくとも1つは、互いに相補的である免疫グロブリン重鎖および免疫グロブリン軽鎖に導入される1つ以上の突然変異を含む。重鎖および軽鎖の接続部分での相補性は、立体的および疎水性接触、静電気的/荷電相互作用、または様々な相互作用の組み合わせに基づいて達成され得る。タンパク質表面間の相補性は、鍵と鍵穴適合(lock and key fit)、ノブ・イントゥ・ホール(knob into hole)、突出部と空洞(protrusion and cavity)、ドナーとアクセプター(donor and acceptor)等に関して文献に幅広く記載され、すべては、2つの相互作用する表面間の、構造的および化学的に対をなす性質を暗示している。一実施形態において、ヘテロ二量体のうちの少なくとも1つは、1つ以上の突然変異を含み、この免疫グロブリン重鎖および免疫グロブリン軽鎖に導入される突然変異は、接続部分で軽鎖および重鎖にわたって新しい水素結合を導入する。一実施形態において、ヘテロ二量体のうちの少なくとも1つは、1つ以上の突然変異を含み、この免疫グロブリン重鎖および免疫グロブリン軽鎖に導入される突然変異は、接続部分で軽鎖および重鎖にわたって新しい塩橋を導入する。
【0093】
好適なLCCA設計セットの非限定的な例を表1に示し、表1はヘテロ二量体のうちの1つの免疫グロブリン重鎖CH1ドメイン(H1)および2つの免疫グロブリン軽鎖CLドメイン(L1およびL2)におけるアミノ酸修飾を示し、H1、L1、およびL2を同時発現させる場合に、H1はL1と優先的に対合する。これらのLCCA設計セットに示されるアミノ酸修飾は、抗組織因子抗体D3H44免疫グロブリン重鎖および軽鎖のアミノ酸配列に基づいている。
【0094】
(表1)H1がL1と優先的に対合する、1つの免疫グロブリン重鎖(H1)ならびに2つの免疫グロブリン軽鎖L1およびL2に対する定常ドメイン修飾を有する選択されたLCCA設計セット
Kabat番号付け、WTは、アミノ酸突然変異を伴わない野生型免疫グロブリン鎖を指す
【0095】
好適なLCCA設計セットのさらなる非限定的な例を表2に示し、表2はヘテロ二量体のうちの1つの免疫グロブリン重鎖CH1ドメイン(H2)および2つの免疫グロブリン軽鎖CLドメイン(L1およびL2)におけるアミノ酸修飾を示し、H2、L1、およびL2を同時発現させる場合に、H2はL2と優先的に対合する。
【0096】
(表2)H2がL2と優先的に対合する、1つの免疫グロブリン重鎖(H2)および2つの免疫グロブリン軽鎖L1およびL2に対する定常ドメイン修飾を有する選択されたLCCA設計セット
Kabat番号付け、#WTは、アミノ酸突然変異を伴わない野生型免疫グロブリン鎖を指す
【0097】
好適なLCCA設計セットのさらなる非限定的な例は、実施例、表、および図に記載されている。
【0098】
一実施形態において、LCCA設計セットは、CH1ドメインにおいて少なくとも1つのアミノ酸修飾を有する免疫グロブリン重鎖、CLドメインにおいて少なくとも1つのアミノ酸修飾を有する第1の免疫グロブリン軽鎖、およびCLドメインにおいていかなるアミノ酸修飾も有さない第2の免疫グロブリン軽鎖を含む。別の実施形態において、LCCA設計セットは、CH1ドメインにおいて少なくとも1つのアミノ酸修飾を有する免疫グロブリン重鎖、CLドメインにおいて少なくとも1つのアミノ酸修飾を有する第1の免疫グロブリン軽鎖、およびCLドメインにおいて少なくとも1つのアミノ酸修飾を有する第2の免疫グロブリン軽鎖を含む。別の実施形態において、LCCA設計セットは、CH1ドメインにおいて少なくとも1つのアミノ酸修飾を有する免疫グロブリン重鎖、CLドメインにおいて少なくとも2つのアミノ酸修飾を有する第1の免疫グロブリン軽鎖、およびCLドメインにおいて少なくとも2つのアミノ酸修飾を有する第2の免疫グロブリン軽鎖を含む。別の実施形態において、LCCA設計セットは、CH1ドメインにおいて少なくとも1つのアミノ酸修飾を有する免疫グロブリン重鎖、CLドメインにおいて少なくとも2つのアミノ酸修飾を有する第1の免疫グロブリン軽鎖、およびCLドメインにおいて少なくとも1つのアミノ酸修飾を有する第2の免疫グロブリン軽鎖を含む。
【0099】
一実施形態において、LCCA設計セットは、CH1ドメインにおいてアミノ酸修飾を有さない免疫グロブリン重鎖、CLドメインにおいてアミノ酸修飾を有さない第1の免疫グロブリン軽鎖、およびCLドメインにおいて少なくとも1つのアミノ酸修飾を有する第2の免疫グロブリン軽鎖を含む。一実施形態において、LCCA設計セットは、CH1ドメインにおいてアミノ酸修飾を有さない免疫グロブリン重鎖、CLドメインにおいてアミノ酸修飾を有さない第1の免疫グロブリン軽鎖、およびCLドメインにおいて少なくとも2つのアミノ酸修飾を有する第2の免疫グロブリン軽鎖を含む。
【0100】
一実施形態において、LCCA設計セットは、CH1ドメインにおいて少なくとも2つのアミノ酸修飾を有する免疫グロブリン重鎖、CLドメインにおいてアミノ酸修飾を有さない第1の免疫グロブリン軽鎖、およびCLドメインにおいて少なくとも1つのアミノ酸修飾を有する第2の免疫グロブリン軽鎖を含む。一実施形態において、LCCA設計セットは、CH1ドメインにおいて少なくとも2つのアミノ酸修飾を有する免疫グロブリン重鎖、CLドメインにおいて少なくとも2つのアミノ酸修飾を有する第1の免疫グロブリン軽鎖、およびCLドメインにおいて少なくとも1つのアミノ酸修飾を有する第2の免疫グロブリン軽鎖を含む。一実施形態において、LCCA設計セットは、CH1ドメインにおいて少なくとも2つのアミノ酸修飾を有する免疫グロブリン重鎖、CLドメインにおいて少なくとも1つのアミノ酸修飾を有する第1の免疫グロブリン軽鎖、およびCLドメインにおいて少なくとも2つのアミノ酸修飾を有する第2の免疫グロブリン軽鎖を含む。一実施形態において、LCCA設計セットは、CH1ドメインにおいて少なくとも2つのアミノ酸修飾を有する免疫グロブリン重鎖、CLドメインにおいて少なくとも2つのアミノ酸修飾を有する第1の免疫グロブリン軽鎖、およびCLドメインにおいて少なくとも2つのアミノ酸修飾を有する第2の免疫グロブリン軽鎖を含む。一実施形態において、LCCA設計セットは、CH1ドメインにおいて少なくとも2つのアミノ酸修飾を有する免疫グロブリン重鎖、CLドメインにおいて少なくとも3つのアミノ酸修飾を有する第1の免疫グロブリン軽鎖、およびCLドメインにおいて少なくとも2つのアミノ酸修飾を有する第2の免疫グロブリン軽鎖を含む。
【0101】
一実施形態において、LCCA設計セットは、CH1ドメインにおいて少なくとも3つのアミノ酸修飾を有する免疫グロブリン重鎖、CLドメインにおいてアミノ酸修飾を有さない第1の免疫グロブリン軽鎖、およびCLドメインにおいて少なくとも1つのアミノ酸修飾を有する第2の免疫グロブリン軽鎖を含む。一実施形態において、LCCA設計セットは、CH1ドメインにおいて少なくとも3つのアミノ酸修飾を有する免疫グロブリン重鎖、CLドメインにおいて少なくとも1つのアミノ酸修飾を有する第1の免疫グロブリン軽鎖、およびCLドメインにおいて少なくとも1つのアミノ酸修飾を有する第2の免疫グロブリン軽鎖を含む。一実施形態において、LCCA設計セットは、CH1ドメインにおいて少なくとも3つのアミノ酸修飾を有する免疫グロブリン重鎖、CLドメインにおいて少なくとも3つのアミノ酸修飾を有する第1の免疫グロブリン軽鎖、およびCLドメインにおいて少なくとも2つのアミノ酸修飾を有する第2の免疫グロブリン軽鎖を含む。一実施形態において、LCCA設計セットは、CH1ドメインにおいて少なくとも3つのアミノ酸修飾を有する免疫グロブリン重鎖、CLドメインにおいて少なくとも4つのアミノ酸修飾を有する第1の免疫グロブリン軽鎖、およびCLドメインにおいて少なくとも3つのアミノ酸修飾を有する第2の免疫グロブリン軽鎖を含む。
【0102】
一実施形態において、LCCA設計セットに示される優先的対合は、免疫グロブリン重鎖のVHドメイン、第1の免疫グロブリン軽鎖のVLドメイン、および第2の免疫グロブリン軽鎖のVLドメインのうちの少なくとも1つにおいて1つ以上のアミノ酸を修飾することにより構築される。好適なLCCA設計セットの非限定的な例を表3に示し、表3はヘテロ二量体のうちの1つの免疫グロブリン重鎖VHドメイン(H1)および2つの免疫グロブリン軽鎖VLドメイン(L1およびL2)におけるアミノ酸修飾を示し、H1、L1、およびL2を同時発現させる場合に、H1はL1と優先的に対合する。
【0103】
(表3)H1がL1と優先的に対合する、1つの免疫グロブリン重鎖ならびに2つの免疫グロブリン軽鎖に対する可変ドメイン修飾を有する選択されたLCCA設計セット
Kabat番号付け、#WTは、アミノ酸突然変異を伴わない野生型免疫グロブリン鎖を指す
【0104】
好適なLCCA設計セットのさらなる非限定的な例を表4に示し、表4はヘテロ二量体のうちの1つの免疫グロブリン重鎖VHドメイン(H2)および2つの免疫グロブリン軽鎖VLドメイン(L1およびL2)におけるアミノ酸修飾を示し、H2、L1、およびL2を同時発現させる場合に、H2はL2と優先的に対合する。
【0105】
(表4)H2がL2と優先的に対合する、1つの免疫グロブリン重鎖ならびに2つの免疫グロブリン軽鎖に対する可変ドメイン修飾を有する選択されたLCCA設計セット
Kabat番号付け、#WTは、アミノ酸突然変異を伴わない野生型免疫グロブリン鎖を指す
【0106】
一実施形態において、LCCA設計セットは、VHドメインにおいてアミノ酸修飾を有さない免疫グロブリン重鎖、VLドメインにおいてアミノ酸修飾を有さない第1の免疫グロブリン軽鎖、およびVLドメインにおいて少なくとも1つのアミノ酸修飾を有する第2の免疫グロブリン軽鎖を含む。一実施形態において、LCCA設計セットは、VHドメインにおいてアミノ酸修飾を有さない免疫グロブリン重鎖、VLドメインにおいてアミノ酸修飾を有さない第1の免疫グロブリン軽鎖、およびVLドメインにおいて少なくとも2つのアミノ酸修飾を有する第2の免疫グロブリン軽鎖を含む。
【0107】
一実施形態において、LCCA設計セットは、VHドメインにおいて少なくとも1つのアミノ酸修飾を有する免疫グロブリン重鎖、VLドメインにおいてアミノ酸修飾を有さない第1の免疫グロブリン軽鎖、およびVLドメインにおいて少なくとも1つのアミノ酸修飾を有する第2の免疫グロブリン軽鎖を含む。一実施形態において、LCCA設計セットは、VHドメインにおいて少なくとも1つのアミノ酸修飾を有する免疫グロブリン重鎖、VLドメインにおいて少なくとも1つのアミノ酸修飾を有する第1の免疫グロブリン軽鎖、およびVLドメインにおいて少なくとも1つのアミノ酸修飾を有する第2の免疫グロブリン軽鎖を含む。一実施形態において、LCCA設計セットは、VHドメインにおいて少なくとも1つのアミノ酸修飾を有する免疫グロブリン重鎖、VLドメインにおいて少なくとも2つのアミノ酸修飾を有する第1の免疫グロブリン軽鎖、およびVLドメインにおいて少なくとも2つのアミノ酸修飾を有する第2の免疫グロブリン軽鎖を含む。
【0108】
一実施形態において、LCCA設計セットは、VHドメインにおいて少なくとも2つのアミノ酸修飾を有する免疫グロブリン重鎖、VLドメインにおいてアミノ酸修飾を有さない第1の免疫グロブリン軽鎖、およびVLドメインにおいて少なくとも1つのアミノ酸修飾を有する第2の免疫グロブリン軽鎖を含む。一実施形態において、LCCA設計セットは、VHドメインにおいて少なくとも2つのアミノ酸修飾を有する免疫グロブリン重鎖、VLドメインにおいて少なくとも2つのアミノ酸修飾を有する第1の免疫グロブリン軽鎖、およびVLドメインにおいて少なくとも1つのアミノ酸修飾を有する第2の免疫グロブリン軽鎖を含む。一実施形態において、LCCA設計セットは、VHドメインにおいて少なくとも2つのアミノ酸修飾を有する免疫グロブリン重鎖、VLドメインにおいて少なくとも1つのアミノ酸修飾を有する第1の免疫グロブリン軽鎖、およびVLドメインにおいて少なくとも1つのアミノ酸修飾を有する第2の免疫グロブリン軽鎖を含む。
【0109】
一実施形態において、表1~4に示されるLCCA設計セットを合わせて、2つの異なる免疫グロブリン重鎖(H1およびH2)および2つの異なる免疫グロブリン軽鎖(L1およびL2)を含む組み合わせを提供し、H1、H2、L1、およびL2を同時発現させるときに、H1はL1と優先的に対合し、H2はL2と優先的に対合する。一実施形態において、重鎖のCH1ドメインおよび/または軽鎖のCLドメインに対する修飾を含む表1からのLCCA設計セットを、重鎖のCH1ドメインおよび/または軽鎖のCLドメインに対する修飾も含む表2からのLCCA設計セットと合わせる。
【0110】
LCCA設計セットの組み合わせに由来する設計セットの非限定的な例を表5に示す
【0111】
(表5)定常ドメイン修飾を含む設計セット
Kabat番号付け、#WTは、アミノ酸突然変異を伴わない野生型免疫グロブリン鎖を指す
【0112】
一実施形態において、重鎖のVドメインおよび/または軽鎖のVドメインに対する修飾を含む表3からのLCCA設計セットを、重鎖のVドメインおよび/または軽鎖のVドメインに対する修飾も含む表4からのLCCA設計セットと合わせる。LCCA設計セットのそのような組み合わせに由来する設計セットの非限定的な例を表6に示す。
【0113】
(表6)可変ドメイン修飾を含む設計セット
Kabat番号付け、#WTは、アミノ酸突然変異を伴わない野生型免疫グロブリン鎖を指す
【0114】
他の抗体に対する本明細書に特定された特定のアミノ酸修飾の移動可能性:
上記で特定された免疫グロブリン重鎖および軽鎖に対する特定のアミノ酸修飾は、D3H44抗組織因子細胞外ドメイン抗体免疫グロブリン重鎖および軽鎖に関して記載されているが、これらのアミノ酸修飾は、他の免疫グロブリン重鎖および軽鎖に移動可能であり、以下のことを考慮して、1つの免疫グロブリン重鎖と2つの免疫グロブリン軽鎖のうちの1つとの優先的対合の同様のパターンをもたらすことが企図され、本明細書に示される(実施例、図、および表を参照のこと)。
【0115】
免疫グロブリン重鎖と軽鎖間の接続部分におけるVH:VLおよびCH1:CLの接続部分残基は、比較的によく保存されている(Padlan et al.,1986,Mol.Immunol.23(9):951-960)。進化的制約の結果であるこの配列保存は、機能的に活性な抗体結合ドメインが軽鎖と重鎖の組み合わせの対合時に形成されるであろう可能性を増大させる。この配列保存の結果として、優先的対合をもたらす、D3H44について上述される特定の実施例における配列修飾を、他の重鎖および軽鎖対のヘテロ二量体に移動させることができ、優先的対合に関してほぼ同等の結果が得られる。なぜなら、この領域は抗体にわたって高い配列保存を示すからである。さらに、配列の相違が生じるとき、これらは、通常、CH1:CLの接続部分より遠位にある。これは、特に、CH1およびCLドメインに関する場合である。しかしながら、CDR(相補性決定領域)ループ残基(および長さ)に対して、具体的には、CDR-H3に対して抗原結合部位でいくつかの配列変化がある。それ故に、一実施形態において、本発明によるヘテロ二量体対は、抗原結合部位のアミノ酸配列がD3H44抗体のものとは著しく異なる場合に、少なくとも1つのヘテロ二量体が、CDRループに対して遠位にあるVHおよび/またはVLドメインにおいて1つ以上のアミノ酸修飾を含むヘテロ二量体を含む。別の実施形態において、本発明によるヘテロ二量体対は、抗原結合部位のアミノ酸配列がD3H44抗体のものと実質的に同一である場合に、少なくとも1つのヘテロ二量体が、CDRループに対して近位または遠位にあるVHおよび/またはVLドメインにおいて1つ以上のアミノ酸修飾を含むヘテロ二量体を含む。
【0116】
一実施形態において、本明細書に記載されるアミノ酸修飾は、ヒトまたはヒト化IgG1/κに基づいて抗体の免疫グロブリン重鎖および軽鎖に移動可能である。そのようなIgG1/κ鎖の非限定的な例には、オファツムマブ(ヒトに対して)またはトラスツズマブ、ペルツズマブまたはベバシズマブ(ヒト化に対して)が含まれる。
【0117】
別の実施形態において、本明細書に記載されるアミノ酸修飾は、一般に使用されるVHおよびVLのサブグループを使用する抗体の免疫グロブリン重鎖および軽鎖に移動可能である。そのような抗体の非限定的な例には、ペルズマブ(Peruzumab)が含まれる。
【0118】
一実施形態において、本明細書に記載されるアミノ酸修飾は、生殖細胞系列に近いフレームワークを有する抗体の免疫グロブリン重鎖および軽鎖に移動可能である。そのような抗体の例には、オビヌツズマブが含まれる。
【0119】
一実施形態において、本明細書に記載されるアミノ酸修飾は、重鎖および軽鎖対に対して観察された平均に近いVH:VLのドメイン間の角度を有する免疫グロブリン重鎖および軽鎖に移動可能である。このタイプの抗体の例としては、ペルツズマブが挙げられるが、これに限定されない。別の実施形態において、本明細書に記載されるアミノ酸修飾は、標準的なCLおよびCH1ドメインを有する抗体の免疫グロブリン重鎖および軽鎖に移動可能である。そのような抗体の好適な例としては、トラスツズマブが挙げられるが、これに限定されない。
【0120】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載されるアミノ酸修飾のある特定のサブセットは、上に提供される抗原結合構築物における可変ドメインにおいて使用される。
【0121】
実施例、図、および表は、アミノ酸修飾(例えば、可変領域および定常領域を含む1つ以上のFab断片内の)が他の免疫グロブリン重鎖および軽鎖に移動可能であり、1つの免疫グロブリン重鎖の、2つの免疫グロブリン軽鎖のうちの1つとの優先的対合の同様のパターンをもたらすことを示す。
【0122】
優先的対合
上述のように、本発明による抗原結合構築物/ヘテロ二量体対のうちの少なくとも1つのヘテロ二量体は、あるヘテロ二量体の重鎖、例えばH1が、軽鎖のうちの1つ、例えばL1と、他方の軽鎖L2よりも優先的に対合し、もう一方のヘテロ二量体の重鎖H2が、軽鎖L1ではなく、軽鎖L2と優先的に対合するように、それらの免疫グロブリン重鎖および/または免疫グロブリン軽鎖に対する1つ以上のアミノ酸修飾を含み得る。換言すれば、所望の優先的対合は、H1とL1の間、およびH2とL2の間にあると考えられる。例えば、H1をL1およびL2と合わせるときに、H1-L1ヘテロ二量体の収率が、誤対合されたH1-L2ヘテロ二量体の収率よりも大きい場合、1つ以上のアミノ酸修飾を伴わない対応するH1/L1対~H2/L2対のそれぞれの対合と比べて、H1とL1の間の優先的対合が生じていると考えられる。同様に、H2をL1およびL2と合わせるときに、H2-L2ヘテロ二量体の収率が、誤対合されたH2-L1ヘテロ二量体の収率よりも大きい場合、1つ以上のアミノ酸修飾を伴わない対応するH1-L1対~H2-L2対のそれぞれの対合と比べて、H2とL2の間の優先的対合が生じていると考えられる。この文脈において、H1およびL1(H1-L1)、またはH2およびL2(H2-L2)を含むヘテロ二量体は、本明細書では、優先的に対合された、適切に対合された、絶対的に対合された、または所望のヘテロ二量体と称され、一方、H1およびL2(H1-L2)、またはH2およびL1(H2-L1)を含むヘテロ二量体は、本明細書では、誤対合されたヘテロ二量体と称される。H1-L1およびH2-L2の選択的対合を達成することを意図する2つの重鎖および2つの軽鎖に対応する突然変異セットは、設定セットと称される。
【0123】
それ故に、一実施形態において、ヘテロ二量体のうちの1つの免疫グロブリン重鎖が2つの免疫グロブリン軽鎖と同時発現されるとき、所望のヘテロ二量体の相対収率は、55%超である。別の実施形態において、ヘテロ二量体のうちの1つの免疫グロブリン重鎖が2つの免疫グロブリン軽鎖と同時発現されるとき、所望のヘテロ二量体の相対収率は、60%超である。別の実施形態において、ヘテロ二量体のうちの1つの免疫グロブリン重鎖が2つの免疫グロブリン軽鎖と同時発現されるとき、所望のヘテロ二量体の相対収率は、70%超である。別の実施形態において、ヘテロ二量体のうちの1つの免疫グロブリン重鎖が2つの免疫グロブリン軽鎖と同時発現されるとき、所望のヘテロ二量体の相対収率は、80%超である。別の実施形態において、ヘテロ二量体のうちの1つの免疫グロブリン重鎖が2つの免疫グロブリン軽鎖と同時発現されるとき、所望のヘテロ二量体の相対収率は、90%超である。別の実施形態において、ヘテロ二量体のうちの1つの免疫グロブリン重鎖が2つの免疫グロブリン軽鎖と同時発現されるとき、所望のヘテロ二量体の相対収率は、95%超である。
【0124】
上の実施例において、H1がL1およびL2と同時発現されるときに、所望のH1-L1ヘテロ二量体の量が誤対合されたH1-L2ヘテロ二量体の量よりも多い場合、H1-L1間の優先的対合が生じていると考えられる。同様に、H2がL1およびL2と同時発現されるときに、所望のH2-L2ヘテロ二量体の量が誤対合されたH2-L2ヘテロ二量体の量よりも多い場合、H2-L2間の優先的対合が生じていると考えられる。それ故に、一実施形態において、ヘテロ二量体のうちの1つの免疫グロブリン重鎖が2つの免疫グロブリン軽鎖と同時発現されるとき、所望のヘテロ二量体と誤対合されたヘテロ二量体との比は、1.25:1超である。一実施形態において、ヘテロ二量体のうちの1つの免疫グロブリン重鎖が2つの免疫グロブリン軽鎖と同時発現されるとき、所望のヘテロ二量体と誤対合されたヘテロ二量体との比は、1.5:1超である。別の実施形態において、ヘテロ二量体のうちの1つの免疫グロブリン重鎖が2つの免疫グロブリン軽鎖と同時発現されるとき、所望のヘテロ二量体と誤対合されたヘテロ二量体との比は、2:1超である。別の実施形態において、ヘテロ二量体のうちの1つの免疫グロブリン重鎖が2つの免疫グロブリン軽鎖と同時発現されるとき、所望のヘテロ二量体と誤対合されたヘテロ二量体との比は、3:1超である。別の実施形態において、ヘテロ二量体のうちの1つの免疫グロブリン重鎖が2つの免疫グロブリン軽鎖と同時発現されるとき、所望のヘテロ二量体と誤対合されたヘテロ二量体との比は、5:1超である。別の実施形態において、ヘテロ二量体のうちの1つの免疫グロブリン重鎖が2つの免疫グロブリン軽鎖と同時発現されるとき、所望のヘテロ二量体と誤対合されたヘテロ二量体との比は、10:1超である。別の実施形態において、ヘテロ二量体のうちの1つの免疫グロブリン重鎖が2つの免疫グロブリン軽鎖と同時発現されるとき、所望のヘテロ二量体と誤対合されたヘテロ二量体との比は、25:1超である。別の実施形態において、ヘテロ二量体のうちの1つの免疫グロブリン重鎖が2つの免疫グロブリン軽鎖と同時発現されるとき、所望のヘテロ二量体と誤対合されたヘテロ二量体との比は、50:1超である。
【0125】
ヘテロ二量体の熱安定性
一実施形態において、本発明によるヘテロ二量体対の各ヘテロ二量体は、同一の免疫グロブリン重鎖および軽鎖を含むが本明細書に記載されるCH1、CL、VH、またはVLドメインに対してアミノ酸修飾を伴わないヘテロ二量体のものに匹敵する熱安定性を有する。一実施形態において、熱安定性は、融解温度、またはTmの測定により決定される。それ故に、一実施形態において、本発明によるヘテロ二量体の熱安定性は、同一の免疫グロブリン重鎖および軽鎖を含むが本明細書に記載されるCH1、CL、VH、またはVLドメインに対してアミノ酸修飾を伴わないヘテロ二量体のものの約10℃以内である。それ故に、一実施形態において、本発明によるヘテロ二量体の熱安定性は、同一の免疫グロブリン重鎖および軽鎖を含むが本明細書に記載されるCH1、CL、VH、またはVLドメインに対してアミノ酸修飾を伴わないヘテロ二量体のものの約5℃以内である。別の実施形態において、本発明によるヘテロ二量体の熱安定性は、同一の免疫グロブリン重鎖および軽鎖を含むが本明細書に記載されるCH1、CL、VH、またはVLドメインに対してアミノ酸修飾を伴わないヘテロ二量体のものの約3℃以内である。別の実施形態において、本発明によるヘテロ二量体の熱安定性は、同一の免疫グロブリン重鎖および軽鎖を含むが本明細書に記載されるCH1、CL、VH、またはVLドメインに対してアミノ酸修飾を伴わないヘテロ二量体のものの約2℃以内である。別の実施形態において、本発明によるヘテロ二量体の熱安定性は、同一の免疫グロブリン重鎖および軽鎖を含むが本明細書に記載されるCH1、CL、VH、またはVLドメインに対してアミノ酸修飾を伴わないヘテロ二量体のものの約1.5℃以内である。別の実施形態において、本発明によるヘテロ二量体の熱安定性は、同一の免疫グロブリン重鎖および軽鎖を含むが本明細書に記載されるCH1、CL、VH、またはVLドメインに対してアミノ酸修飾を伴わないヘテロ二量体のものの約1℃以内である。別の実施形態において、本発明によるヘテロ二量体の熱安定性は、同一の免疫グロブリン重鎖および軽鎖を含むが本明細書に記載されるCH1、CL、VH、またはVLドメインに対してアミノ酸修飾を伴わないヘテロ二量体のものの約0.5℃以内である。別の実施形態において、本発明によるヘテロ二量体の熱安定性は、同一の免疫グロブリン重鎖および軽鎖を含むが本明細書に記載されるCH1、CL、VH、またはVLドメインに対してアミノ酸修飾を伴わないヘテロ二量体のものの約0.25℃以内である。
【0126】
抗原に対するヘテロ二量体の親和性
一実施形態において、ヘテロ二量体対の各ヘテロ二量体は、同一の免疫グロブリン重鎖および軽鎖を含むが本明細書に記載されるCH1、CL、VH、またはVLドメインに対してアミノ酸修飾を伴わないヘテロ二量体のものと同一またはそれに匹敵する、それぞれの抗原に対する親和性を有する。一実施形態において、ヘテロ二量体対のヘテロ二量体は、同一の免疫グロブリン重鎖および軽鎖を含むが本明細書に記載されるCH1、CL、VH、またはVLドメインに対してアミノ酸修飾を伴わないヘテロ二量体のものの約50倍以内、または一桁以内である、それぞれの抗原に対する親和性を有する。一実施形態において、ヘテロ二量体対のヘテロ二量体は、同一の免疫グロブリン重鎖および軽鎖を含むが本明細書に記載されるCH1、CL、VH、またはVLドメインに対してアミノ酸修飾を伴わないヘテロ二量体のものの約25倍以内、または一桁以内である、それぞれの抗原に対する親和性を有する。一実施形態において、ヘテロ二量体対のヘテロ二量体は、同一の免疫グロブリン重鎖および軽鎖を含むが本明細書に記載されるCH1、CL、VH、またはVLドメインに対してアミノ酸修飾を伴わないヘテロ二量体のものの約10倍以内、または一桁以内である、それぞれの抗原に対する親和性を有する。別の実施形態において、ヘテロ二量体対のヘテロ二量体は、同一の免疫グロブリン重鎖および軽鎖を含むが本明細書に記載されるCH1、CL、VH、またはVLドメインに対してアミノ酸修飾を伴わないヘテロ二量体のものの約5倍以内である、それぞれの抗原に対する親和性を有する。別の実施形態において、ヘテロ二量体対のヘテロ二量体は、同一の免疫グロブリン重鎖および軽鎖を含むが本明細書に記載されるCH1、CL、VH、またはVLドメインに対してアミノ酸修飾を伴わないヘテロ二量体のものの約2.5倍以内である、それぞれの抗原に対する親和性を有する。別の実施形態において、ヘテロ二量体対のヘテロ二量体は、同一の免疫グロブリン重鎖および軽鎖を含むが本明細書に記載されるCH1、CL、VH、またはVLドメインに対してアミノ酸修飾を伴わないヘテロ二量体のものの約2倍以内である、それぞれの抗原に対する親和性を有する。別の実施形態において、ヘテロ二量体対のヘテロ二量体は、同一の免疫グロブリン重鎖および軽鎖を含むが本明細書に記載されるCH1、CL、VH、またはVLドメインに対してアミノ酸修飾を伴わないヘテロ二量体のものの約1.5倍以内である、それぞれの抗原に対する親和性を有する。別の実施形態において、ヘテロ二量体対のヘテロ二量体は、同一の免疫グロブリン重鎖および軽鎖を含むが本明細書に記載されるCH1、CL、VH、またはVLドメインに対してアミノ酸修飾を伴わないヘテロ二量体のものとほぼ同一である、それぞれの抗原に対する親和性を有する。
【0127】
さらなる任意の修飾
一実施形態において、本発明によるヘテロ二量体対の免疫グロブリン重鎖および軽鎖は、共有結合が重鎖と軽鎖の間の優先的対合に干渉しないか、またはその抗原と結合するヘテロ二量体の能力に影響するか、またはその安定性に影響するように、さらに修飾され得る(すなわち、様々なタイプの分子の共有結合により)。そのような修飾は、例えば、グリコシル化、アセチル化、PEG化、リン酸化反応、アミド化、既知の保護(protecting/blocking)基による誘導体化、タンパク質分解切断、細胞内リガンドもしくは他のタンパク質への結合等が含まれるが、これらに限定されない。多くの化学的修飾のいずれかは、特異的化学分解、アセチル化、ホルミル化、ツニカマイシンの代謝合成等を含むが、これらに限定されない、既知の技術により行われ得る。
【0128】
別の実施形態において、本発明によるヘテロ二量体対の免疫グロブリン重鎖および軽鎖は、所定の生物学的反応を修飾する治療剤または薬物部分に(直接または間接的に)連結され得る。治療剤または薬物部分は、古典的な化学治療剤に限定されると解釈すべきではない。例えば、薬物部分は、所望の生物学的活性を有するタンパク質またはポリペプチドであり得る。そのようなタンパク質は、例えば、アブリン、リシンA、Onconase(または別の細胞毒性RNase)、緑膿菌外毒素、コレラ毒素、またはジフテリア毒素等の毒素;腫瘍壊死因子、アルファ-インターフェロン、ベータ-インターフェロン、神経成長因子、血小板由来成長因子、組織プラスミノーゲン活性化因子等のタンパク質、アポトーシス剤、例えば、TNF-アルファ、TNF-ベータ、AIM I(国際公開WO97/33899を参照のこと)、AIM II(国際公開WO97/34911を参照のこと)、Fasリガンド(Takahashi et al.,1994,J.Immunol.,6:1567)、およびVEGI(国際公開WO99/23105を参照のこと);血栓剤もしくは抗血管新生剤、例えば、アンギオスタチンもしくはエンドスタチン;または、例えば、リンホカイン(例えば、インターロイキン-1(「IL-1」)、インターロイキン-2(「IL-2」)、インターロイキン-6(「IL-6」)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(「GM-CSF」)、および顆粒球コロニー刺激因子(「G-CSF」))、または成長因子(例えば、成長ホルモン(「GH」))等の生物学的反応調節薬を含み得る。
【0129】
さらに、代替的な実施形態において、抗体は、放射性物質、または放射性金属イオンとコンジュゲートするために有用な大環状キレート剤等の治療部分とコンジュゲートさせ得る(放射性物質の例については上記を参照のこと)。ある実施形態において、大環状キレート剤は、リンカー分子を介して抗体に結合され得る1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-N,N′,N′′,N′′-四酢酸(DOTA)である。そのようなリンカー分子は、当該技術分野で一般に知られており、Denardo et al.1998,Clin Cancer Res.4:2483、Peterson et al.,1999,Bioconjug.Chem.10:553、およびZimmerman et al.,1999,Nucl.Med.Biol.26:943に記載されている。
【0130】
いくつかの実施形態において、ヘテロ二量体の免疫グロブリン重鎖および軽鎖は、精製および/または試験等を促進するためにタグを含む融合タンパク質として表される。本明細書に述べられるように、「タグ」は、タンパク質の特定または精製に貢献する、C末端、N末端、または内部のいずれかにタンパク質に提供される任意のさらなる一連のアミノ酸である。好適なタグとしては、アルブミン結合ドメイン(ABD)、Hisタグ、FLAGタグ、グルタチオン-s-トランスフェラーゼ、ヘマグルチニン(HA)、およびマルトース結合タンパク質等の、精製および/または試験に有用である当業者に知られているタグが含まれるが、これらに限定されない。そのようなタグ付けされたタンパク質はまた、精製前、その間、またはその後、タグの除去を簡略化するために、トロンビン、エンテロキナーゼ、または因子X切断部位等の切断部位を含むように遺伝子操作され得る。
【0131】
いくつかの実施形態において、Fabドメインの下方にあり、鎖間ジスルフィド結合を形成する、軽鎖(214位、Kabat番号付け)および重鎖(233位、Kabat番号付け)におけるシステイン残基のうちの1つ以上は、セリンまたはアラニンまたは非システインまたは異なるアミノ酸に修飾され得る。
【0132】
さらなるアミノ酸修飾は、ヘテロ二量体対の優先的対合、および/または熱安定性のレベルを増加させるために、免疫グロブリン重鎖に行われ得ることが企図される。例えば、さらなるアミノ酸修飾は、ホモ二量体対よりもヘテロ二量体対間に優先的対合をもたらすために、免疫グロブリン重鎖Fcドメインに行われ得る。そのようなアミノ酸修飾は、当該技術分野で知られており、例えば、米国特許公開第2012/0149876号に記載されているものを含む。代替として、ヘテロ二量体対間の優先的対合をもたらすための代替的戦略、例えば、「ノブ・イントゥ・ホール(knobs into holes)」等のホモ二量体対、イオン相互作用による荷電残基、および鎖交換遺伝子操作ドメイン(SEED)技術もまた、使用され得る。後者の戦略は、当該技術分野で記載されており、Kleinらの上記に概説されている。Fcドメインのさらなる考察が、以下に続く。
【0133】
Fcドメイン
本明細書に記載される構築物は、Fcをさらに含み得る。いくつかの態様において、Fcは、少なくとも1つまたは2つのCH3ドメイン配列を含む。いくつかの態様において、Fcは、1つ以上のリンカーを伴ってまたは伴わずに、第1のヘテロ二量体および/または第2のヘテロ二量体と結合する。いくつかの態様において、Fcは、ヒトFcである。いくつかの態様において、Fcは、ヒトIgGまたはIgG1 Fcである。いくつかの態様において、Fcは、ヘテロ二量体Fcである。いくつかの態様において、Fcは、少なくとも1つまたは2つのCH2ドメイン配列を含む。
【0134】
いくつかの態様において、Fcは、CH3ドメイン配列のうちの少なくとも1つにおいて1つ以上の修飾を含む。いくつかの態様において、Fcは、CH2ドメイン配列のうちの少なくとも1つにおいて1つ以上の修飾を含む。いくつかの態様において、Fcは、単一のポリペプチドである。いくつかの態様において、Fcは、複数のペプチド、例えば、2つのポリペプチドである。
【0135】
いくつかの態様において、Fcは、CH3配列のうちの少なくとも1つにおいて1つ以上の修飾を含む。いくつかの態様において、Fcは、CH2配列のうちの少なくとも1つにおいて1つ以上の修飾を含む。いくつかの態様において、Fcは、単一のポリペプチドである。いくつかの態様において、Fcは、複数のペプチド、例えば、2つのポリペプチドである。
【0136】
いくつかの態様において、Fcは、2011年11月4日に出願された特許出願PCT/CA2011/001238、2012年11月2日に出願された特許出願PCT/CA2012/050780に記載されるFcであり、これらのそれぞれは、すべての目的のために、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0137】
いくつかの態様において、本明細書に記載される構築物は、非対称的に修飾される修飾されたCH3ドメインを含むヘテロ二量体Fcを含む。ヘテロ二量体Fcは、2つの重鎖定常ドメインポリペプチド:第1の重鎖ポリペプチドおよび第2の重鎖ポリペプチドを含み得、これらは、Fcが1つの第1の重鎖ポリペプチドおよび1つの第2の重鎖ポリペプチドを含むならば、交換可能に使用され得る。概して、第1の重鎖ポリペプチドは第1のCH3配列を含み、第2の重鎖ポリペプチドは第2のCH3配列を含む。
【0138】
非対称様式で導入される1つ以上のアミノ酸修飾を含む2つのCH3配列は、概して、2つのCH3配列が二量体化するときに、ホモ二量体よりもむしろ、ヘテロ二量体Fcをもたらす。本明細書で使用される「非対称性アミノ酸修飾」は、第1のCH3配列上の特定の位置でのアミノ酸が、同じ位置での第2のCH3配列上のアミノ酸とは異なり、第1および第2のCH3配列が、ホモ二量体ではなくヘテロ二量体を形成するために優先的に対合する、任意の修飾を指す。このヘテロ二量体化は、各配列上の同じそれぞれのアミノ酸位置での2つのアミノ酸のうちの1つのみの修飾、または第1および第2の各々のCH3配列上の同じそれぞれの位置での各配列上の両方のアミノ酸の修飾の結果であり得る。ヘテロ二量体Fcの第1および第2のCH3配列は、1つ以上の非対称性アミノ酸修飾を含み得る。
【0139】
表Xは、完全長ヒトIgG1重鎖のアミノ酸231~447に対応する、ヒトIgG1 Fc配列のアミノ酸配列を提供する。CH3配列は、完全長ヒトIgG1重鎖のアミノ酸341~447を含む。
【0140】
典型的には、Fcは、二量体化することができる2つの連続した重鎖配列(AおよびB)を含み得る。いくつかの態様において、Fcのうちの1つまたは両方の配列は、EU番号付けを用いた、L351、F405、Y407、T366、K392、T394、T350、S400、および/またはN390の位置で1つ以上の突然変異または修飾を含む。いくつかの態様において、Fcは、表Xに示される突然変異配列を含む。いくつかの態様において、Fcは、変異体1A-Bの突然変異を含む。いくつかの態様において、Fcは、変異体2A-Bの突然変異を含む。いくつかの態様において、Fcは、変異体3A-Bの突然変異を含む。いくつかの態様において、Fcは、変異体4A-Bの突然変異を含む。いくつかの態様において、Fcは、変異体5A-Bの突然変異を含む。
【0141】
(表X)
【0142】
第1および第2のCH3は、完全長ヒトIgG1重鎖のアミノ酸231~447に関して本明細書に記載されるアミノ酸突然変異を含み得る。一実施形態において、ヘテロ二量体Fcは、F405およびY407の位置でアミノ酸修飾を有する第1のCH3配列、およびT394の位置でアミノ酸修飾を有する第2のCH3配列を有する、修飾されたCH3ドメインを含む。一実施形態において、ヘテロ二量体Fcは、L351Y、F405A、およびY407Vから選択される1つ以上のアミノ酸修飾を有する第1のCH3配列、ならびにT366L、T366I、K392L、K392M、およびT394Wから選択される1つ以上のアミノ酸修飾を有する、第2のCH3配列を有する修飾されたCH3ドメインを含む。
【0143】
一実施形態において、ヘテロ二量体Fcは、L351、F405、およびY407の位置でアミノ酸修飾を有する第1のCH3配列と、T366、K392、およびT394の位置でアミノ酸修飾を有する第2のCH3配列とを有する、修飾されたCH3ドメインを含み、第1または第2のCH3配列のうちの1つは、Q347の位置でアミノ酸修飾をさらに含み、他のCH3配列は、K360の位置でアミノ酸修飾をさらに含む。別の実施形態において、ヘテロ二量体Fcは、L351、F405、およびY407の位置でアミノ酸修飾を有する第1のCH3配列と、T366、K392、およびT394の位置でアミノ酸修飾を有する第2のCH3配列とを有する、修飾されたCH3ドメインを含み、第1または第2のCH3配列のうちの1つは、Q347の位置でアミノ酸修飾を有するアミノ酸修飾をさらに含み、他のCH3配列は、K360の位置でアミノ酸修飾をさらに含み、当該CH3配列のうちの1つまたは両方は、アミノ酸修飾T350Vをさらに含む。
【0144】
一実施形態において、ヘテロ二量体Fcは、L351、F405、およびY407の位置でアミノ酸修飾を有する第1のCH3配列と、T366、K392、およびT394の位置でアミノ酸修飾を有する第2のCH3配列とを有する、修飾されたCH3ドメインを含み、当該第1または第2のCH3配列のうちの1つは、D399RまたはD399Kのアミノ酸修飾をさらに含み、他のCH3配列は、T411E、T411D、K409E、K409D、K392E、およびK392Dのうちの1つ以上を含む。別の実施形態において、ヘテロ二量体Fcは、L351、F405、およびY407の位置でアミノ酸修飾を有する第1のCH3配列と、T366、K392、およびT394の位置でアミノ酸修飾を有する第2のCH3配列とを有する、修飾されたCH3ドメインを含み、当該第1または第2のCH3配列のうちの1つは、D399RまたはD399Kのアミノ酸修飾をさらに含み、他のCH3配列は、T411E、T411D、K409E、K409D、K392E、およびK392Dのうちの1つ以上を含み、当該CH3配列のうちの1つまたは両方は、T350Vアミノ酸修飾をさらに含む。
【0145】
一実施形態において、ヘテロ二量体Fcは、L351、F405、およびY407の位置でアミノ酸修飾を有する第1のCH3配列と、T366、K392、およびT394の位置でアミノ酸修飾を有する第2のCH3配列とを有する、修飾されたCH3ドメインを含み、当該CH3配列のうちの1つまたは両方は、T350Vのアミノ酸修飾をさらに含む。
【0146】
一実施形態において、ヘテロ二量体Fcは、以下のアミノ酸修飾を含む修飾されたCH3ドメインを含み、「A」は、第1のCH3配列に対するアミノ酸修飾を表し、「B」は、第2のCH3配列に対するアミノ酸修飾を表す:A:L351Y_F405A_Y407V、B:T366L_K392M_T394W、A:L351Y_F405A_Y407V、B:T366L_K392L_T394W、A:T350V_L351Y_F405A_Y407V、B:T350V_T366L_K392L_T394W、A:T350V_L351Y_F405A_Y407V、B:T350V_T366L_K392M_T394W、A:T350V_L351Y_S400E_F405A_Y407V、および/またはB:T350V_T366L_N390R_K392M_T394W。
【0147】
1つ以上の非対称性アミノ酸修飾は、ヘテロ二量体CH3ドメインが野生型ホモ二量体CH3ドメインに匹敵する安定性を有する、ヘテロ二量体Fcの形成を促進し得る。一実施形態において、1つ以上の非対称性アミノ酸修飾は、ヘテロ二量体Fcドメインが野生型ホモ二量体Fcドメインに匹敵する安定性を有する、ヘテロ二量体Fcドメインの形成を促進する。一実施形態において、1つ以上の非対称性アミノ酸修飾は、ヘテロ二量体Fcドメインが示差走査熱量測定研究における融解温度(Tm)を介して観察された安定性を有する、ヘテロ二量体Fcドメインの形成を促進し、この融解温度は、対応する対称性の野生型ホモ二量体Fcドメインに関して観察されたものの4℃以内である。いくつかの態様において、Fcは、野生型ホモ二量体Fcに匹敵する安定性を有するヘテロ二量体Fcの形成を促進する、CH3配列のうちの少なくとも1つにおける1つ以上の修飾を含む。
【0148】
一実施形態において、CH3ドメインの安定性は、例えば、示差走査熱量測定(DSC)によりCH3ドメインの融解温度を測定することにより評価され得る。それ故に、さらなる実施形態において、CH3ドメインは、約68℃以上の融解温度を有する。別の実施形態において、CH3ドメインは、約70℃以上の融解温度を有する。別の実施形態において、CH3ドメインは、約72℃以上の融解温度を有する。別の実施形態において、CH3ドメインは、約73℃以上の融解温度を有する。別の実施形態において、CH3ドメインは、約75℃以上の融解温度を有する。別の実施形態において、CH3ドメインは、約78℃以上の融解温度を有する。いくつかの態様において、二量体化されたCH3配列は、約68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、77.5、78、79、80、81、82、83、84、または85℃、またはそれより高い融解温度(Tm)を有する。
【0149】
いくつかの実施形態において、修飾されたCH3配列を含むヘテロ二量体Fcは、発現産物においてホモ二量体Fcと比較して少なくとも約75%の純度で形成され得る。別の実施形態において、ヘテロ二量体Fcは、約80%超の純度で形成される。別の実施形態において、ヘテロ二量体Fcは、約85%超の純度で形成される。別の実施形態において、ヘテロ二量体Fcは、約90%超の純度で形成される。別の実施形態において、ヘテロ二量体Fcは、約95%超の純度で形成される。別の実施形態において、ヘテロ二量体Fcは、約97%超の純度で形成される。いくつかの態様において、Fcは、発現されるとき、約75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、または99%超の純度で形成されるヘテロ二量体である。いくつかの態様において、Fcは、単一細胞により発現されるとき、約75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、または99%超の純度で形成されるヘテロ二量体である。
【0150】
ヘテロ二量体Fcの形成を促進するために単量体Fcポリペプチドを修飾するためのさらなる方法は、国際特許公開WO96/027011(ノブ・イントゥ・ホール(knobs into holes))、Gunasekaranら(Gunasekaran K.et al.(2010)J Biol Chem.285,19637-46,electrostatic design to achieve selective heterodimerization)、Davisら(Davis,JH.et al.(2010)Prot Eng Des Sel;23(4):195-202、鎖交換遺伝子操作ドメイン(SEED)技術)、およびLabrijnら[Efficient generation of stable bispecific IgG1 by controlled Fab-arm exchange.Labrijn AF,Meesters JI,de Goeij BE,van den Bremer ET,Neijssen J,van Kampen MD,Strumane K,Verploegen S,Kundu A,Gramer MJ,van Berkel PH,van de Winkel JG,Schuurman J,Parren PW.Proc Natl Acad Sci U S A.2013 Mar 26;110(13):5145-50に記載されている。
【0151】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載される単離された構築物は、抗原と結合する抗原結合構築物、ならびに同一のFcポリペプチドを含まない抗原結合構築物と比較して、安定性および製造の容易さ等の優れた生物物理学的特性を有する二量体Fcポリペプチド構築物を含む。Fcの重鎖配列における多くの突然変異は、異なるFcガンマ受容体に対する抗体Fcの親和性を選択的に変化させることのために、当該技術分野で知られている。いくつかの態様において、Fcは、Fcガンマ受容体の選択的結合を促進する1つ以上の修飾を含む。
【0152】
CH2ドメインは、表Xに示されるアミノ酸231~340である。例示的な突然変異は、以下に列挙される。
【0153】
S298A/E333A/K334A、S298A/E333A/K334A/K326A(Lu Y,Vernes JM,Chiang N,et al.J Immunol Methods.2011 Feb 28;365(1-2):132-41)
【0154】
F243L/R292P/Y300L/V305I/P396L、F243L/R292P/Y300L/L235V/P396L(Stavenhagen JB、Gorlatov S、Tuaillon N、et al.Cancer Res.2007 Sep 15;67(18):8882-90、Nordstrom JL,Gorlatov S,Zhang W,et al.Breast Cancer Res.2011 Nov 30;13(6):R123)
【0155】
F243L(Stewart R,Thom G,Levens M,et al.Protein Eng Des Sel.2011 Sep;24(9):671-8.)、S298A/E333A/K334A(Shields RL,Namenuk AK,Hong K,et al.J Biol Chem.2001 Mar 2;276(9):6591-604)
【0156】
S239D/I332E/A330L、S239D/I332E(Lazar GA,Dang W,Karki S,et al.Proc Natl Acad Sci U S A.2006 Mar 14;103(11):4005-10)
【0157】
S239D/S267E、S267E/L328F(Chu SY,Vostiar I,Karki S,et al.Mol Immunol.2008 Sep;45(15):3926-33)
【0158】
S239D/D265S/S298A/I332E、S239E/S298A/K326A/A327H、G237F/S298A/A330L/I332E、S239D/I332E/S298A、S239D/K326E/A330L/I332E/S298A、G236A/S239D/D270L/I332E、S239E/S267E/H268D、L234F/S267E/N325L、G237F/V266L/S267D、ならびに国際公開WO2011/120134および同WO2011/120135(参照により本明細書に組み込まれる)に記載される他の突然変異。Therapeutic Antibody Engineering(William R.Strohl and Lila M.Strohlによる、Woodhead Publishing series in Biomedicine No 11,ISBN 1 907568 37 9,Oct 2012)は、283頁に突然変異を記載する。
【0159】
いくつかの実施形態において、CH2ドメインは、1つ以上の非対称性アミノ酸修飾を含む。いくつかの実施形態において、CH2ドメインは、FcγRの選択的結合を促進するために1つ以上の非対称性アミノ酸修飾を含む。いくつかの実施形態において、CH2ドメインは、本明細書に記載される単離された構築物の分離および精製を可能にする。
【0160】
FcRn結合およびPKパラメーター
当該技術分野で知られているように、FcRnへの結合は、エンドサイトーシスされた抗体をエンドソームから血流へと戻して再利用する(Raghavan et al.,1996,Annu Rev Cell Dev Biol 12:181-220、Ghetie et al.,2000,Annu Rev Immunol 18:739-766)。このプロセスは、完全長分子のサイズが大きいことによる腎臓濾過の除外と合わさって、1~3週間の範囲の好都合な抗体血清半減期をもたらす。FcのFcRnへの結合はまた、抗体輸送において重要な役割を果たす。このようにして、一実施形態において、本発明の構築物は、FcRnと結合することができる。
【0161】
エフェクター機能を改善するためのさらなる修飾
いくつかの実施形態において、本明細書に記載される構築物は、そのエフェクター機能を改善するように修飾され得る。そのような修飾は当該技術分野で知られており、アフコシル化、または活性化受容体、主にADCCのFCGR3aに対する、およびCDCのC1qに対する、抗体のFc部分の親和性の遺伝子操作を含む。以下の表Yは、エフェクター機能の遺伝子操作に関する文献において報告される様々な設計を要約する。
【0162】
(表Y)
【0163】
このようにして、1つの実施形態において、本明細書に記載される構築物は、改善されたエフェクター機能を与える上記表に示される1つ以上のアミノ酸修飾を含む、二量体Fcを含むことができる。別の実施形態において、本構築物は、エフェクター機能を改善するためにアフコシル化され得る。
【0164】
リンカー
本明細書に記載される構築物は、本明細書に記載されるFcに操作可能に結合された、本明細書に記載される1つ以上のヘテロ二量体を含むことができる。いくつかの態様において、Fcは、1つ以上のリンカーを伴ってまたは伴わずに、1つ以上のヘテロ二量体と結合する。いくつかの態様において、Fcは、1つ以上のヘテロ二量体と直接結合する。いくつかの態様において、Fcは、1つ以上のリンカーにより1つ以上のヘテロ二量体と結合する。いくつかの態様において、Fcは、リンカーによりそれぞれのヘテロ二量体の重鎖と結合する。
【0165】
いくつかの態様において、1つ以上のリンカーは、1つ以上のポリペプチドリンカーである。いくつかの態様において、1つ以上のリンカーは、1つ以上の抗体ヒンジ領域を含む。いくつかの態様において、1つ以上のリンカーは、1つ以上のIgG1ヒンジ領域を含む。
【0166】
ヘテロ二量体対を調製する方法
上述のように、本発明によるヘテロ二量体対は、第1のヘテロ二量体および第2のヘテロ二量体を含むことができ、それぞれのヘテロ二量体は、少なくとも、VHおよびCH1ドメインを有する免疫グロブリン重鎖、ならびにVLドメインおよびCLドメインを有する免疫グロブリン軽鎖を含む。ヘテロ二量体の免疫グロブリン重鎖および免疫グロブリン軽鎖は、当該技術分野で知られている組換えDNA技術を用いて容易に調製することができる。例えば、Sambrook and Russell,Molecular Cloning:A Laboratory Manual(Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.,3rd ed.,2001)、Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual(Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.,2nd ed.,1989)、Short Protocols in Molecular Biology(Ausubel et al.,John Wiley and Sons,New York,4th ed.,1999)、およびGlick and Pasternak,Molecular Biotechnology:Principles and Applications of Recombinant DNA(ASM Press,Washington,D.C.,2nd ed.,1998)において記載されるような標準技術は、組換え核酸法、核酸合成、細胞培養、導入遺伝子の組み込み、および組換えタンパク質発現のために使用することができる。代替として、本発明によるヘテロ二量体およびヘテロ二量体対は、化学的に合成され得る。
【0167】
ヘテロ二量体が由来する抗体の免疫グロブリン重鎖および軽鎖の核酸およびアミノ酸配列は、当該技術分野で知られているか、または核酸および/またはタンパク質シークエンシング方法を用いて容易に決定することができる。本明細書に記載されるタグを免疫グロブリン重鎖および/または軽鎖に遺伝的に融合させる方法は、当該技術分野で知られており、いくつかが、以下および実施例に記載されている。
【0168】
例えば、宿主細胞において免疫グロブリン重鎖および軽鎖を発現および同時発現する方法が、当該技術分野でよく知られている。加えて、組換えDNA技術を用いて重鎖および/または軽鎖にタグ付けする方法もまた、当該技術分野でよく知られている。重鎖および軽鎖の発現に適している発現ベクターおよび宿主細胞もまた、以下に記載されるように、当該技術分野でよく知られている。
【0169】
4つの鎖すべてを発現する単一のクローナルなまたは一過性細胞株のみの使用に依存しない二重特異性抗体生成方法が、当該技術分野で知られている(Gramer,et al.(2013) mAbs 5,962、Strop et al.(2012)J Mol Biol 420,204.)。これらの方法は、二重特異性抗体の形成に関与している軽鎖および重鎖の2つの対の、酸化還元条件下(レドックス生成)での生成後のアーム交換に依存する。このアプローチにおいて、H1:L1およびH2:L2の対は、2つの異なる細胞株において発現されて、2つのFabアームを独立して生成することができる。続いて、2つのFabアームを選択酸化還元条件下で混合し、2つの固有の重鎖H1およびH2の再会合を達成し、L1:H1:H2:L2鎖を含む二重特異性抗体を形成する。酸化還元生成方法またはその方法の修正バージョンを用いて二重特異性抗体の生成において、本明細書に記載される設計のライブラリー/データセットの使用が想定され得る。
【0170】
ある実施形態において、無細胞タンパク質系を使用して、生細胞を用いずに、ポリペプチド(例えば、重鎖および軽鎖ポリペプチド)を同時発現させる。代わりに、DNAをRNAに転写し、RNAをタンパク質に翻訳するのに必要とされるすべての成分(例えば、リボソーム、tRNA、酵素、補助因子、アミノ酸)は、インビトロでの使用のために溶液中に提供される。ある実施形態において、インビトロ発現は、(1)重鎖および軽鎖ポリペプチドをコードする遺伝子鋳型(mRNAまたはDNA)、ならびに(2)必須の転写および翻訳の分子機構を含む反応溶液を必要とする。ある実施形態において、細胞抽出物は、実質的には、反応溶液の構成成分、例えば、mRNA転写のためのRNAポリメラーゼ、ポリペプチド翻訳のためのリボソーム、tRNA、アミノ酸、酵素補助因子、エネルギー源、および適切なタンパク質折り畳みに必須である細胞成分を供給する。無細胞タンパク質発現系は、細菌性細胞、酵母細胞、昆虫細胞、植物細胞、哺乳動物細胞、ヒト細胞、またはこれらの組み合わせに由来する溶解物を用いて調製され得る。そのような細胞溶解物は、翻訳に必要な酵素および構成要素の正しい組成物および比率を提供し得る。いくつかの実施形態において、細胞膜を除去して、細胞の細胞質および細胞小器官成分のみを残す。
【0171】
いくつかの無細胞タンパク質発現系は、Carlson et al.(2012)Biotechnol.Adv.30:1185-1194に概説されるように、当該技術分野で知られている。例えば、無細胞タンパク質系は、原核生物または真核生物細胞に基づいて入手可能である。原核生物の無細胞発現系の例には、大腸菌由来のものが含まれる。真核生物の無細胞発現系の例には、例えば、ウサギ網状赤血球、小麦胚芽、および昆虫細胞からの抽出物に基づいて入手可能である。そのような原核生物および真核生物の無細胞タンパク質発現系は、Roche、Invitrogen、Qiagen、およびNovagen等の会社から市販されている。当業者は、互いに対合することができるポリペプチド(例えば、重鎖および軽鎖ポリペプチド)を生成し得る好適な無細胞発現系を容易に選択することができるであろう。さらに、無細胞タンパク質発現系はまた、シャペロン(例えば、BiP)およびイソメラーゼ(例えば、ジスルフィドイソメラーゼ)を補充して、IgGの折り畳みの有効性を改善させることもできる。
【0172】
いくつかの実施形態において、無細胞発現系を使用して、DNA鋳型(転写および翻訳)またはmRNA鋳型(翻訳のみ)から重鎖および軽鎖ポリペプチドを同時発現する。
【0173】
ベクターおよび宿主細胞
重鎖および軽鎖の組換え発現は、重鎖または軽鎖をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターの構築物(例えば、抗体または融合タンパク質)を必要とする。一旦重鎖または軽鎖をコードするポリヌクレオチドが得られると、重鎖または軽鎖の生成のためのベクターは、当該技術分野でよく知られている組換えDNA技術により生成され得る。それ故に、ヌクレオチド配列をコードする重鎖または軽鎖を含むポリヌクレオチドを発現させることによりタンパク質を調製するための方法が、本明細書に記載される。当業者によく知られている方法は、重鎖または軽鎖をコードする配列ならびに適切な転写および翻訳制御シグナルを含む発現ベクターを構築するために使用することができる。これらの方法には、例えば、インビトロ組換えDNA技術、合成技術、およびインビボ遺伝子組み換えが含まれる。本発明は、このようにして、プロモーターに作動可能に連結された、重鎖または軽鎖をコードするヌクレオチド配列を含む複製可能なベクターを提供する。
【0174】
発現ベクターは、従来技術により宿主細胞に移され、トランスフェクト細胞を従来技術により培養して、本発明の方法で用いる修飾された重鎖または軽鎖を生成する。特定の実施形態において、本方法で用いる重鎖および軽鎖は、以下に詳述するように、免疫グロブリン分子全体の発現のために、宿主細胞中で同時発現される。
【0175】
様々な宿主発現ベクター系を用いて、修飾された重鎖および軽鎖を発現し得る。そのような宿主発現ベクター系は、これにより対象となるコード配列が生成され、続いて精製され得る手段に相当するのみでなく、適切なヌクレオチドコード配列で形質転換またはトランスフェクトされたとき、修飾された重鎖および軽鎖をインサイチューで発現し得る細胞にも相当する。これらには、例えば、修飾された重鎖および軽鎖コード配列を含む組換えバクテリオファージDNA、プラスミドDNAまたはコスミドDNA発現ベクターで形質転換された、細菌(例えば、大腸菌(E.coli)および枯草菌(B.subtilis))等の微生物;修飾された重鎖および軽鎖コード配列を含む組換え酵母発現ベクターで形質転換された、酵母(例えば、Saccharomyces Pichia);修飾された重鎖および軽鎖コード配列を含む組換えウイルス発現ベクター(例えば、バキュロウイルス)に感染した昆虫細胞系;修飾された重鎖および軽鎖コード配列を含む組換えウイルス発現ベクター(例えば、カリフラワーモザイクウイルス、CaMV;タバコモザイクウイルス、TMV)に感染したか、または組換えプラスミド発現ベクター(例えば、Tiプラスミド)で形質転換された、植物細胞系;あるいは、哺乳動物細胞のゲノム(例えば、メタロチオネインプロモーター)または哺乳動物ウイルス(例えば、アデノウイルス後期プロモーター;ワクシニアウイルス7.5Kプロモーター)に由来するプロモーターを含む組換え発現構築物を保有する、哺乳動物細胞系(例えば、COS、CHO、BHK、HEK-293、NSO、および3T3細胞)が含まれるが、これらに限定されない。ある実施形態において、大腸菌等の細菌性細胞、または真核生物細胞は、組換え抗体または融合タンパク質分子である修飾された重鎖および軽鎖の発現のために使用される。例えば、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)等の哺乳動物細胞は、ヒトサイトメガロウイルス由来の主要中間初期遺伝子プロモーター要素等のベクターと併せて、抗体の有効な発現系である(Foecking et al.,1986,Gene 45:101、およびCockett et al.,1990,Bio/Technology 8:2)。特定の実施形態において、各ヘテロ二量体の免疫グロブリン重鎖および軽鎖をコードするヌクレオチド配列の発現は、構成的プロモーター、誘導性プロモーター、または組織特異的プロモーターにより調節される。
【0176】
哺乳動物の宿主細胞において、多くのウイルスベースの発現系が使用され得る。アデノウイルスを発現ベクターとして使用する場合、対象となる修飾された重鎖および軽鎖コード配列を、アデノウイルス転写/翻訳制御複合体、例えば、後期プロモーターおよび三部分(tripartite)リーダー配列にライゲートし得る。次いで、このキメラ遺伝子を、アデノウイルスゲノムにインビトロまたはインビボ組換えにより挿入し得る。ウイルスゲノムの非必須領域(例えば、領域E1またはE3)への挿入は、感染した宿主において生存可能であり、修飾された重鎖および軽鎖を発現することができる組換えウイルスをもたらす(例えば、Logan & Shenk,1984,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81:355-359を参照)。特定の開始シグナルはまた、挿入された抗体コード配列の効率のよい翻訳のために必要であり得る。これらのシグナルは、ATG開始コドンおよび隣接配列を含む。さらに、開始コドンは、挿入部全体の翻訳を確実におこなうために、所望のコード配列のリーディングフレームと一致すべきである。これらの外因性翻訳制御シグナルおよび開始コドンは、天然および合成の両方の、様々な起源であり得る。発現の効率性は、適切な転写エンハンサー要素、転写ターミネーター等を含めることにより向上され得る(例えば、Bittner et al.,1987,Methods in Enzymol.153:516-544を参照)。
【0177】
ヘテロ二量体の免疫グロブリン重鎖および軽鎖の発現は、当該技術分野で知られている任意のプロモーターまたはエンハンサー要素により制御され得る。修飾された重鎖および軽鎖をコードする遺伝子の発現を制御するために使用され得るプロモーター(例えば、抗体もしくは融合タンパク質)としては、SV40早期プロモーター領域(Bernoist and Chambon,1981,Nature 290:304-310)、ラウス肉腫ウイルスの3'長末端反復に含まれるプロモーター(Yamamoto,et al.,1980,Cell 22:787-797)、ヘルペスチミジンキナーゼプロモーター(Wagner et al.,1981,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.78.1441-1445)、メタロチオネイン遺伝子の調節配列(Brinster et al.,1982,Nature 296:39-42)、テトラサイクリン(Tet)プロモーター(Gossen et al.,1995,Proc.Nat.Acad.Sci.USA 89:5547-5551);β-ラクタマーゼプロモーター等の原核生物発現プロモーター(Villa-Kamaroff et al,1978,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.75:3727-3731)、またはtacプロモーター(DeBoer et al.,1983,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.80:21-25;Scientific American,1980,242:74-94中の「Useful proteins from recombinant bacteria」も参照);ノパリンシンテターゼプロモーター領域を含む植物発現ベクター(Herrera-Estrella et al.,Nature 303:209-213)、またはカリフラワーモザイクウイルス35S RNAプロモーター(Gardner et al.,1981,Nucl.Acids Res.9:2871)、および光合成酵素リブロースビホスフェートカルボキシラーゼのプロモーター(Herrera-Estrella et al.,1984,Nature 310:115-120);Gal4プロモーター等の酵母菌または真菌由来のプロモーター要素、ADC(アルコール脱水素酵素)プロモーター、PGK(ホスホグリセロールキナーゼ)プロモーター、アルカリ性ホスファターゼプロモーター、ならびに組織特異性を示し、トランスジェニック動物において使用されている以下の動物転写制御領域:膵臓腺房細胞において活性なエラスターゼI遺伝子制御領域(Swift et al.,1984,Cell 38:639-646、Ornitz et al.,1986,Cold Spring Harbor Symp.Quant.Biol.50:399-409、MacDonald,1987,Hepatology 7:425-515);膵臓ベータ細胞において活性なインスリン遺伝子制御領域(Hanahan,1985,Nature 315:115-122)、リンパ系細胞において活性な免疫グロブリン遺伝子制御領域(Grosschedl et al.,1984,Cell 38:647-658、Adames et al.,1985,Nature 318:533-538、Alexander et al.,1987,Mol.Cell.Biol.7:1436-1444)、精巣、乳房、リンパ、およびマスト細胞において活性なマウス乳腺癌ウイルス制御領域(Leder et al.,1986,Cell 45:485-495)、肝臓において活性なアルブミン遺伝子制御領域(Pinkert et al.,1987,Genes and Devel.1:268-276)、肝臓において活性なアルファ-フェトプロテイン遺伝子制御領域(Krumlauf et al.,1985,Mol.Cell.Biol.5:1639-1648、Hammer et al.,1987,Science 235:53-58;肝臓において活性なアルファ1-アンチトリプシン遺伝子制御領域(Kelsey et al.,1987,Genes and Devel.1:161-171)、骨髄様細胞において活性なベータ-グロブリン遺伝子制御領域(Mogram et al.,1985,Nature 315:338-340、Kollias et al.,1986,Cell 46:89-94;脳の稀突起膠細胞において活性なミエリン塩基性タンパク質遺伝子制御領域(Readhead et al.,1987,Cell 48:703-712);骨格筋において活性なミオシン軽鎖-2遺伝子制御領域(Sani,1985,Nature 314:283-286);神経細胞において活性なニューロン特異的エノラーゼ(NSE)(Morelli et al.,1999,Gen.Virol.80:571-83);神経細胞において活性な脳由来神経栄養性因子(BDNF)遺伝子制御領域(Tabuchi et al.,1998,Biochem.Biophysic.Res.Com.253:818-823);星状細胞において活性な神経膠原繊維酸性タンパク質(GFAP)プロモーター(Gomes et al.,1999,Braz J Med Biol Res 32(5):619-631、Morelli et al.,1999,Gen.Virol.80:571-83)、および視床下部において活性なゴナドトロピン放出ホルモン遺伝子制御領域(Mason et al.,1986,Science 234:1372-1378)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0178】
加えて、宿主細胞株が選択され得、これは、挿入された配列の発現を調節するか、または所望される特定の様式での遺伝子産物を修飾および処理する。ある特定のプロモーターからの発現は、ある特定のインデューサーの存在下で上昇され得、このようにして、遺伝子操作された融合タンパク質の発現が制御され得る。さらに、異なる宿主細胞は、翻訳および翻訳後プロセシングならびに修飾(例えば、タンパク質のグリコシル化、リン酸化)のための特性および特定の機序を有する。適切な細胞株または宿主系は、発現される外来タンパク質の所望の修飾およびプロセシングを確実にするように選択され得る。例えば、細菌系における発現は、グリコシル化されていない産物を生成し、酵母における発現は、グリコシル化された産物を生成する。遺伝子産物の一次転写の適切なプロセシング(例えば、グリコシル化、およびリン酸化)のための細胞機構を有する真核生物宿主細胞が使用され得る。そのような哺乳動物宿主細胞には、CHO、VERY、BHK、Hela、COS、MDCK、HEK-293、3T3、WI38、NSO、具体的には、例えば、SK-N-AS、SK-N-FI、SK-N-DZヒト神経芽細胞腫(Sugimoto et al.,1984,J.Natl.Cancer Inst.73:51-57)、SK-N-SHヒト神経芽細胞腫(Biochim.Biophys.Acta,1982,704:450-460)、Daoyヒト小脳髄芽細胞腫(He et al.,1992,Cancer Res.52:1144-1148)DBTRG-05MG神経膠芽腫細胞(Kruse et al.,1992,In Vitro Cell.Dev.Biol.28A:609-614)、IMR-32ヒト神経芽細胞腫(Cancer Res.,1970,30:2110-2118)、1321 N1ヒト星状細胞腫(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1977,74:4816)、MOG-G-CCMヒト星状細胞腫(Br.J.Cancer,1984,49:269)、U87MGヒト神経膠芽腫-星状細胞腫(Acta Pathol.Microbiol.Scand.,1968,74:465-486)、A172ヒト神経膠芽腫(Olopade et al.,1992,Cancer Res.52:2523-2529)、C6ラットグリオーマ細胞(Benda et al.,1968,Science 161:370-371)、Neuro-2aマウス神経芽細胞腫(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1970,65:129-136)、NB41A3マウス神経芽細胞腫(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1962,48:1184-1190)、SCPヒツジ脈絡叢(Bolin et al.,1994,J.Virol.Methods 48:211-221)、G355-5、PG-4ネコ正常星状細胞(Haapala et al.,1985,J.Virol.53:827-833)、Mpfフェレット脳(Trowbridge et al.,1982,In Vitro 18:952-960)のような神経細胞株、ならびに、例えば、CTX TNA2ラット正常皮質脳(Radany et al.,1992,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:6467-6471)(例えば、CRL7030およびHs578Bst等)のような正常細胞株が挙げられるが、これらに限定されない。さらに、異なるベクター/宿主発現系は、プロセシング反応を異なる程度まで生じ得る。
【0179】
長期にわたる高収率の組換えタンパク質生成のために、安定な発現が好ましい場合がある。例えば、本発明の修飾された重鎖および軽鎖を安定的に発現する細胞株(例えば、抗体または融合タンパク質)が遺伝子操作され得る。ウイルスの複製起点を含む発現ベクターを使用する代わりに、宿主細胞は、適切な発現制御要素(例えば、プロモーター、エンハンサー、配列、転写ターミネーター、ポリアデニル化部位等)および選択可能なマーカーにより制御されたDNAで形質転換され得る。外来DNAの導入に続いて、遺伝子操作された細胞を富化培地中で1~2日間増殖させ、次いで、選択培地に置き換える。組換えプラスミド中の選択可能なマーカーは、選択に対する耐性を与えること、および細胞がプラスミドをその細胞の染色体に安定に組込み、その後にクローン化して細胞株へ広げ得る細胞増殖巣を形成するまで増殖することを可能にする。
【0180】
多くの選択系が使用され得、これらには、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(Wigler et al.,1977,Cell 11:223)、ヒポキサンチン-グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(Szybalska & Szybalski,1962,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 48:2026)、およびアデニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(Lowy et al.,1980,Cell 22:817)の遺伝子が挙げられるが、これらに限定されず、これらはそれぞれ、tk-、hgprt-、またはaprt-細胞において使用され得る。また、代謝拮抗物質耐性が、メトトレキサートに対する耐性を与えるdhfr遺伝子(Wigler et al.,1980,Natl.Acad.Sci.USA 77:3567、O′Hare et al.,1981,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 78:1527);ミコフェノール酸に対する耐性を与えるgpt遺伝子(Mulligan & Berg,1981,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 78:2072);アミノグリコシドG-418に対する耐性を与えるneo遺伝子(Colberre-Garapin et al.,1981,J.Mol.Biol.150:1);およびハイグロマイシンに対する耐性を与えるhygro遺伝子(Santerre et al.,1984,Gene 30:147)についての選択の基礎として使用され得る。
【0181】
重鎖および軽鎖の同時発現
本発明によるヘテロ二量体対の免疫グロブリン重鎖および軽鎖は、上述のように、哺乳動物細胞において同時発現され得る。一実施形態において、1つの重鎖は、重鎖が2つの軽鎖のうちの1つと優先的に対合する場合、上述のように、LCCA設計セットにおいて2つの異なる軽鎖と同時発現される。別の実施形態において、2つの重鎖は、各重鎖が2つの軽鎖のうちの1つと優先的に対合する場合、2つの異なる軽鎖と同時発現される。
【0182】
ヘテロ二量体対の試験
上述のように、本発明によるヘテロ二量体対の少なくとも1つのヘテロ二量体は、ヘテロ二量体対の2つの重鎖および2つの軽鎖が哺乳動物細胞において同時発現されるとき、第1のヘテロ二量体の重鎖が、軽鎖のうちの一方と、他方よりも優先的に対合するように、それらの免疫グロブリン重鎖および/または免疫グロブリン軽鎖への1つ以上のアミノ酸修飾を含み得る。同様に、第2のヘテロ二量体の重鎖は、第1ではなく、第2の軽鎖と優先的に対合する。優先的対合の程度は、例えば、下述の方法を用いることにより評価され得る。ヘテロ二量体対の各ヘテロ二量体のそれぞれの抗原に対する親和性は、下述のように試験され得る。ヘテロ二量体対の各ヘテロ二量体の熱安定性もまた、下述のように試験され得る。
【0183】
優先的対合を試験する方法
LCCA
一実施形態において、免疫グロブリン重鎖と軽鎖の間の優先的対合は、軽鎖競合アッセイ(LCCA)を行うことにより決定される。2013年10月3日に出願された共同特許出願PCT/US2013/063306は、LCCAの様々な実施形態を記載し、すべての目的において参照することによりその全体が本明細書に組み込まれる。本方法は、同時発現させたタンパク質の混合物内で重鎖と特定の軽鎖との対合の定量的分析を可能にし、重鎖および軽鎖が同時発現されるときに、1つの特定の免疫グロブリン重鎖が2つの免疫グロブリン軽鎖のうちのいずれか1つと選択的に会合するかどうかを判定するために使用され得る。本方法は、以下のように簡潔に記載される:少なくとも1つの重鎖および2つの異なる軽鎖は、重鎖が対合を制約する反応物質であるような比で細胞において同時発現され、本方法は、任意で、分泌タンパク質を細胞から分離することと、重鎖に結合する免疫グロブリン軽鎖ポリペプチドを分泌タンパク質の残りから分離し、単離された重鎖と対合した画分を生成することと、単離された重鎖画分においてそれぞれの異なる軽鎖の量を検出することと、単離された重鎖画分においてそれぞれの異なる軽鎖の相対量を分析して、少なくとも1つの重鎖の、軽鎖のうちの1つと選択的に対合する能力を判定することと、を含む。
【0184】
本方法は、適正なスループットを提供し、強固(すなわち、ユーザまたは流量等の、操作時の微小変化に対して非感受性である)かつ正確である。本方法は、タンパク質配列におけるわずかな変動の影響を測定することができる感受性アッセイを提供する。大きな表面積にわたる無差別なタンパク質-タンパク質、ドメイン-ドメイン、鎖-鎖の相互作用は、通常、選択性を導入するために、複数の突然変異(スワップ)を必要とする。タンパク質産物は、単離されたり、精製されたりする必要がなく、このことは、より効率的なスクリーニングを可能にする。本方法の実施形態に関するさらなる詳細は、実施例において記載されている。
【0185】
優先的対合を判定するための代替方法
優先的対合を検出するための代替方法は、LC-MS(液体クロマトグラフィー質量分析)を用いて、それぞれの異なる種を特定するためにそれらの分子量の差を用いて、それぞれの軽鎖を含む相対的なヘテロ二量体集団を定量化することを含む。また、抗原活性アッセイを用いて、それぞれの軽鎖を含む相対的なヘテロ二量体集団を定量化し、それにより、(対照と比較して)測定された結合の程度を用いて、それぞれの相対的なヘテロ二量体集団を推定し得る。
【0186】
SMCA等のさらなる方法が、実施例、図、および表において記載されている。
【0187】
熱安定性
ヘテロ二量体の熱安定性は、当該技術分野で知られている方法に従って決定され得る。それぞれのヘテロ二量体の融解温度は、その熱安定性を示す。ヘテロ二量体の融点は、示差走査熱量測定等の技術を用いて測定され得る(Chen et al(2003)Pharm Res 20:1952-60、Ghirlando et al(1999)Immunol Lett 68:47-52)。代替として、ヘテロ二量体の熱安定性は、円偏光二色性を用いて測定され得る(Murray et al.(2002)J.Chromatogr Sci 40:343-9)。
【0188】
抗原に対する親和性
ヘテロ二量体の、それらのそれぞれの抗原に対する結合親和性および相互作用のオフ速度は、当該技術分野でよく知られている方法に従って競合結合アッセイにより決定することができる。競合結合アッセイの一例は、増加する量の非標識抗原の存在下での、対象となる分子(例えば、本発明のヘテロ二量体)との標識抗原、例えば、3Hまたは125Iのインキュベーション、および標識リガンドに結合する分子の検出を含むラジオイムノアッセイである。抗原に対する本発明のヘテロ二量体の親和性および結合オフ速度は、Scatchard分析による飽和データから決定することができる。
【0189】
本発明によるヘテロ二量体の動的パラメーターはまた、当該技術分野で知られている表面プラズモン共鳴(SPR)ベースのアッセイ(例えば、BIAcore動的分析)であり得る。SPRベースの技術の総説については、Mullet et al.,2000,Methods 22:77-91、Dong et al.,2002,Review in Mol.Biotech.,82:303-23、Fivash et al.,1998,Current Opinion in Biotechnology 9:97-101、Rich et al.,2000,Current Opinion in Biotechnology 11:54-61を参照のこと。さらに、米国特許第6,373,577号、同第6,289,286号、同第5,322,798号、同第5,341,215号、同第6,268,125号に記載されているタンパク質-タンパク質の相互作用を測定するためのSPR装置およびSPRベースの方法のうちのいずれかは、本発明の方法において企図される。当該技術分野で知られているように、FACSもまた、測定された親和性に使用することができる。
【0190】
薬学的組成物
本発明はまた、本明細書に記載されるヘテロ二量体またはヘテロ二量体対を含む薬学的組成物も提供する。そのような組成物は、治療有効量のヘテロ二量体またはヘテロ二量体対、および薬学的に許容される担体を含む。特定の実施形態において、「薬学的に許容される」という用語は、動物、およびより具体的にはヒトにおける使用について、連邦もしくは州政府によって承認されているか、または米国薬局方もしくは他の広く認識される薬局方に記載されていることを意味する。「担体」という用語は、治療剤とともに投与される、希釈剤、アジュバント、賦形剤、またはビヒクルを指す。そのような薬学的担体は、ピーナツ油、大豆油、鉱油、ゴマ油等といった、石油、動物、植物、または合成起源のものを含む、水および油等の滅菌の液体であり得る。水は、薬学的組成物が静脈内投与されるときに、好ましい担体である。生理食塩溶液ならびに水性デキストロースおよびグリセロール溶液はまた、特に注射可能な溶液のために、液体担体として用いることもできる。好適な薬学的賦形剤には、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、モルト、米、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、タルク、塩化ナトリウム、脱脂粉乳、グリセロール、プロピレン、グリコール、水、エタノール等が含まれる。組成物は、所望に応じて、少量の湿潤剤もしくは乳化剤、またはpH緩衝剤も含有することができる。これらの組成物は、溶液、懸濁液、エマルジョン、錠剤、丸剤、カプセル、粉末、持続放出製剤等の形態をとり得る。組成物は、トリグリセリド等の従来的な結合剤および担体とともに、坐剤として製剤化され得る。経口製剤は、医薬品グレードのマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウム等を含み得る。好適な薬学的担体の例は、"Remington's Pharmaceutical Sciences"by E.W.Martinに記載されている。そのような組成物は、患者への適切な投与のための形態をもたらすように、好適な量の担体とともに、好ましくは精製された形態で治療有効量の化合物を含有するであろう。製剤は、投与方法に適したものでなければならない。
【0191】
ある特定の実施形態において、ヘテロ二量体またはヘテロ二量体対を含む組成物は、ヒトへの静脈内投与に適合される薬学的組成物として、日常的な手順に従って製剤化される。典型的には、静脈内投与のための組成物は、滅菌等張水性緩衝液中の溶液である。必要な場合、組成物はまた、可溶化剤、および注射部位の痛みを和らげるためのリグノカイン等の局所麻酔薬も含み得る。一般に、成分は、別々に、または単位剤形で一緒に混合して、のいずれかで、例えば、活性剤の量を示すアンプルまたは小袋のような密封容器中の凍結乾燥粉末または無水濃縮物として供給される。組成物を注入により投与すべき場合、これを、滅菌した医薬品グレードの水または食塩水の入った注入ボトルにより分注され得る。組成物を注射により投与する場合、成分を投与前に混合することができるように注射用の滅菌水または食塩水のアンプルが提供され得る。
【0192】
ある特定の実施形態において、本明細書に記載される組成物は、中性または塩形態として製剤化される。薬学的に許容される塩には、塩酸、リン酸、酢酸、シュウ酸、酒石酸等に由来するもののようなアニオンにより形成されるもの、およびナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、水酸化第二鉄イソプロピルアミン、トリエチルアミン、2-エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカイン等に由来するもののようなカチオンにより形成されるものが含まれる。
【0193】
治療用タンパク質の異常な発現および/または活性と関連する疾患または障害の治療、阻害、および予防に有効であろう本明細書に記載される組成物の量は、標準的な臨床技法によって決定することができる。加えて、インビトロアッセイを任意で用いて、最適な投薬量範囲の特定に役立ててもよい。製剤中に用いられる適切な用量は、投与の経路、および疾患または障害の重症度により異なり、施術者の判断および各患者の状況に応じて決定されるべきである。有効用量は、インビトロまたは動物モデルの試験システムから導出された用量応答曲線から推定される。
【0194】
ヘテロ二量体対の使用
上述のように、本発明によるヘテロ二量体対は、第1のヘテロ二量体および第2のヘテロ二量体を含むことができ、各ヘテロ二量体の免疫グロブリン重鎖および免疫グロブリン軽鎖は、既知の治療抗体または分子と結合する既知の抗体に由来するか、または遺伝子操作される。このようにして、これらの抗体に由来するか、または遺伝子操作されるヘテロ二量体は、既知の治療抗体または既知の抗体を使用し得る同じ疾患、障害、または感染の治療または予防のために使用され得ることが企図される。
【0195】
このようにして、一実施形態において、癌および関連障害の治療および/または予防のために使用することができる治療抗体に由来する重鎖および軽鎖を有するヘテロ二量体を含む本発明によるヘテロ二量体対はまた、癌および関連障害の治療および/または予防のためにも使用することができる。
【0196】
別の実施形態において、対象における炎症性障害の症状を予防、治療、または管理するために使用することができる治療抗体に由来する重鎖および軽鎖を有するヘテロ二量体を含む本発明によるヘテロ二量体対はまた、対象における炎症性障害の症状を予防、治療、または管理するためにも使用することができる。
【0197】
別の実施形態において、対象における自己免疫疾患または炎症性疾患の治療または予防のために使用することができる治療抗体に由来する重鎖および軽鎖を有するヘテロ二量体を含む本発明によるヘテロ二量体対はまた、対象における自己免疫疾患または炎症性疾患の治療または予防のためにも使用することができる。
【0198】
別の実施形態において、対象における感染性疾患の治療または予防のために使用することができる治療抗体に由来する重鎖および軽鎖を有するヘテロ二量体を含む本発明によるヘテロ二量体対はまた、対象における感染性疾患の治療または予防のためにも使用することができる。
【0199】
別の実施形態において、対象における血管疾患の治療のために使用することができる治療抗体に由来する重鎖および軽鎖を有するヘテロ二量体を含む本発明によるヘテロ二量体対はまた、対象における血管疾患の治療のためにも使用することができる。
【0200】
別の実施形態において、本発明によるヘテロ二量体対はまた、癌、自己免疫疾患、炎症性障害、または感染性疾患の治療または予防のために当該技術分野で知られている他の治療剤と組み合わせて有利に使用され得る。特定の実施形態において、本発明によるヘテロ二量体対は、例えば、分子と相互作用し、免疫応答を増加させるエフェクター細胞の数または活性を増加させる働きをする、モノクローナルもしくはキメラ抗体、リンホカイン、または造血成長因子(例えば、IL-2、IL-3、およびIL-7等)と組み合わせて使用され得る。本発明によるヘテロ二量体対はまた、例えば、抗癌剤、抗炎症剤、または抗ウイルス剤等の疾患、障害、または感染を治療するために使用される1つ以上の薬物と組み合わせて有利に使用され得る。
【0201】
キット
本発明は、1つ以上のヘテロ二量体対を含むキットをさらに提供する。本キットの個々の成分は、別個の容器に包装され得、医薬品または生物学的製品の製造、使用、または販売を規制する政府機関により定められた形式の通知が、そのような容器に付属され得、この通知は、製造、使用、または販売の政府機関による承認を反映する。本キットは、任意で、ヘテロ二量体対についての使用方法または投与レジメンを概説する取扱説明書または指示書を含んでもよい。
【0202】
本キットの1つ以上の成分が、溶液、例えば、水溶液、または滅菌水溶液として提供されるとき、この容器はそれ自体が、吸入器、シリンジ、ピペット、点眼器、またはその他類似の装置であり得、これらから溶液が対象に投与され得るか、または本キットの他の成分に適用されて、混合され得る。
【0203】
本キットの成分はまた、乾燥または凍結乾燥された形態でも提供され得、本キットは、凍結乾燥された成分の再構成のための好適な溶媒をさらに含み得る。容器の数または種類に関わらず、本発明のキットはまた、患者への組成物の投与を補助する器具を含んでもよい。そのような器具は、吸入器、シリンジ、ピペット、鉗子、計量スプーン、点眼器、または同様の医学的に承認された送達媒体であり得る。
【0204】
コンピュータ実装
一実施形態において、コンピュータは、チップセットに連結された少なくとも1つのプロセッサを備える。また、チップセットには、メモリ、記憶装置、キーボード、グラフィックスアダプタ、ポインティングデバイス、およびネットワークアダプタが連結されている。ディスプレーは、グラフィックスアダプタに連結されている。一実施形態において、チップセットの機能性は、メモリコントローラハブおよびI/Oコントローラハブにより提供される。別の実施形態において、メモリは、チップセットの代わりにプロセッサに直接連結されている。
【0205】
記憶装置は、データを保持することができる任意のデバイス、例えば、ハードドライブ、コンパクトディスク読み取り専用メモリ(CD-ROM)、DVD、またはソリッドステート記憶装置である。メモリは、プロセッサにより使用される命令およびデータを保持する。ポインティングデバイスは、マウス、トラックボール、または他のタイプのポインティングデバイスであり得、データをコンピュータシステムに入力するためにキーボードと組み合わせて使用される。グラフィックスアダプタは、画像および他の情報をディスプレー上に表示する。ネットワークアダプタは、コンピュータシステムをローカルまたはワイドエリアネットワークに連結する。
【0206】
当該技術分野で知られているように、コンピュータは、前述のものとは異なるおよび/または他のコンポーネントを有することができる。加えて、コンピュータは、特定のコンポーネントを欠くこともあり得る。さらに、記憶装置は、コンピュータからローカルおよび/または遠隔的であることもできる(例えば、記憶エリアネットワーク(SAN)内に具現化される等)。
【0207】
当該技術分野で知られているように、コンピュータは、本明細書に記載される機能性を提供するためにコンピュータプログラムモジュールを実行するように適合されている。本明細書で使用される、「モジュール」という用語は、指定された機能性を提供するために使用されるコンピュータプラグラム論理を指す。したがって、モジュールは、ハードウェア、ファームウェア、および/またはソフトウェアに実装され得る。一実施形態において、プログラムモジュールは、記憶装置上に記録され、メモリにロードされ、プロセッサにより実行される。
【0208】
本明細書に記載される実施例および実施形態は、例示的な目的のためであり、それらを考慮して、様々な修正または変更が、当業者に示唆され、本出願の主旨および範囲ならびに添付の特許請求の範囲内に含まれることが理解される。
【実施例0209】
以下は、本発明を実施するための特定の実施形態の例である。本実施例は、例示目的で提供され、本発明の範囲を決して限定するようには意図されない。使用される数(例えば、量、温度等)に関する正確性を確実にするための努力がなされてきたが、ある程度の実験的誤差および偏差は、当然ながら許容されるべきである。
【0210】
本発明の実践は、特に指示がない限り、当該技術分野の範囲内の、タンパク質化学、生化学、組換えDNA技術、および薬理学の従来の方法を採用する。そのような技術は、文献において十分に説明される。例えば、T.E.Creighton,Proteins:Structures and Molecular Properties(W.H.Freeman and Company,1993)、A.L.Lehninger,Biochemistry(Worth Publishers,Inc.,current addition)、Sambrook,et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual(2nd Edition,1989)、Methods In Enzymology(S.Colowick and N.Kaplan eds.,Academic Press,Inc.)、Remington's Pharmaceutical Sciences,18th Edition(Easton,Pennsylvania:Mack Publishing Company,1990)、Carey and Sundberg Advanced Organic Chemistry 3rd Ed.(Plenum Press)Vols A and B(1992)を参照のこと。
【0211】
実施例1:D3H44 IgG重鎖およびD3H44 IgG軽鎖をコードする構築物の調製
本明細書に記載される同時発現セットで用いる抗組織因子抗体D3H44の野生型重鎖および軽鎖は、以下の通りに調製された。D3H44 Fab軽鎖配列(AJ308087.1)および重鎖配列(AJ308086.1)は、GenBankから得られ(表A、A1、およびA2)、哺乳動物発現のために、遺伝子を合成し、コドン最適化した。5'-EcoRI切断部位-HLA-Aシグナルペプチド-HAまたはFLAGタグ-軽鎖Igクローン-「TGAストップ」-BamH1切断部位-3'からなる軽鎖ベクターの挿入断片は、pTT5ベクターに連結された(Durocher Y et al.,Nucl.Acids Res.2002;30,No.2 e9)。得られたベクター+挿入断片はまた、コードDNAの正しいリーディングフレームおよび配列を確認するために配列決定された。同様に、5'-EcoRI切断部位-HLA-Aシグナルペプチド-重鎖クローン(T238で終結する、表A1を参照)-ABD-Hisタグ-TGAストップ-BamH1切断部位-3'からなる重鎖ベクターの挿入断片は、pTT5ベクター(ABD;アルブミン結合ドメイン)に連結された。得られたベクター+挿入断片はまた、コードDNAの正しいリーディングフレームおよび配列を確認するために配列決定された。様々なD3H44構築物を、遺伝子合成または部位特異的突然変異誘発のいずれかにより生成した(Braman J,Papworth C & Greener A.,Methods Mol.Biol.(1996) 57:31-44)。
【0212】
重鎖および軽鎖はそれぞれ、競合アッセイ-SPRスクリーニングにより優先的対合の評価を促進するために、CおよびN末端でタグ付けした。ABD-His重鎖タグは、HC-LC複合体を抗HisタグSPRチップ表面上に捕捉させ、一方、FLAGおよびHA軽鎖タグは、相対的なLC1およびLC2集団を定量化した。
【0213】
実施例2:D3H44 IgG軽鎖および/または重鎖において可変ドメイン修飾を含む同時発現セットにおけるヘテロ二量体の優先的対合の評価
修飾されたVおよび/またはVドメインを有するD3H44重鎖および軽鎖を含む同時発現セットにおいて優先的に対合するヘテロ二量体の能力を決定し、結果を図1に示す。図1に提供される結果は、予備的なものであり、結果のより完全なセットは、以下に提供する。図1~3に示されるアミノ酸修飾は、D3H44重鎖およびD3H44軽鎖のアミノ酸配列に関して特定された。表A、A1、およびA2を参照。
【0214】
1つのD3H44重鎖構築物は、2つの固有のD3H44軽鎖構築物と同時発現させ、相対的軽鎖対合の特異性(例えば、H1-L1:H1-L2)は、競合アッセイ-SPRスクリーニング(図1中「競合アッセイのスクリーニング結果」と表題のついた列)から決定された。L1:L2のDNA比は、トランスフェクション時に、40:60、50:50、および60:40に変化させ、選択されたヘテロ二量体ヒットは、軽鎖競合アッセイの検証により確認された(図1中「競合アッセイの検証結果」と表題のついた列)。重鎖は、競合アッセイスクリーニングおよび検証の両方において定量限界(すなわち、HC<L1+L2)を維持した。アッセイの設計を表す概略図を図8に示す。
【0215】
本方法は、次のように実行した。軽鎖競合アッセイ(LCCA)は、1つの重鎖の、少なくとも2つの固有の軽鎖に対する相対的対合を定量化する。アッセイおよび前のステップを以下のように要約し得る:1.制限された量である重鎖、および軽鎖の、同時に起こる発現(例えば、HC:LC1:LC2=1:1:1)、2.Hisタグのプルダウンを介して重鎖をSPRチップに結合させることにより達成される、HC-LC複合体の単離、および3.相対的HC-LC集団の定量化(すなわち、H1-L1:H1-L2)。SPR形式において、固有の軽鎖をタグ付けした集団に特異的な抗体を定量化のために使用した。注記:このアッセイは、H-Lジスルフィドを用いてまたは用いずに実行され得る。本方法を示す概略図を図9に示す。
【0216】
トランスフェクション方法
実施例1に記載されたように調製された1つの重鎖および2つの軽鎖構築物を含む同時発現セットを、以下のようにCHO-3E7細胞にトランスフェクトした。CHO-3E7細胞は、1.7~2×10細胞/mlの密度で、4mMのグルタミンおよび0.1% Pluronic F-68(Invitrogenカタログ番号24040-032)を補充したFreeStyle(商標)F17培地(Invitrogenカタログ番号A-1383501)中で、37℃で培養した。2mlの全体積に対し、1:2.5のDNA:PEI比でPEI-pro(Polyplusカタログ番号115-010)を用いて合計2ugのDNAをトランスフェクトした。DNA-PEI混合物を添加してから24時間後に、細胞を32℃に移した。上清を、7日目に、非還元SDS-PAGE分析により発現について試験し、続いて、クマシーブルー染色により、バンドを可視化した。HC:LCの比は表7に示される通りである。
【0217】
(表7)
^Stuffer DNA:DNA挿入しないTT5ベクター
【0218】
競合アッセイSPR方法
同時発現セットにおけるD3H44重鎖への優先的なD3H44軽鎖対合の程度は、各軽鎖のN末端に位置する固有のエピトープタグのSPRベースの読み出しを用いて評価した。
【0219】
表面プラズモン共鳴(SPR)用供給物。GLMセンサーチップ、Biorad ProteOnアミンカップリングキット(1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)、N-ヒドロキシスルホスクシンイミド(sNHS)、およびエタノールアミン)、および10mMの酢酸ナトリウム緩衝液は、Bio-Rad Laboratories(Canada)Ltd.(Mississauga,ON)から購入した。組換えHer-2タンパク質は、eBioscience(San Diego,CA)から購入した。4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)緩衝液、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、およびNaClは、Sigma-Aldrich(Oakville,ON)からから購入した。10% Tween20溶液は、Teknova(Hollister,CA)から購入した。
【0220】
SPRバイオセンサーアッセイ。すべての表面プラズモン共鳴アッセイを、25℃の温度で、PBST泳動緩衝液(PBS Teknova Inc、0.05% Tween20を含む)を用いるBioRad ProteOn XPR36装置(Bio-Rad Laboratories(Canada)Ltd.(Mississauga,ON))を用いて実行した。抗ペンタHis捕捉表面を、分析物(水平)方向に100μL/分で140秒間注入された標準BioRad sNHS/EDC溶液の1:5希釈液により活性化されたGLMセンサーチップを用いて生成した。活性化の直後、10mMのNaOAc pH4.5中の抗ペンタHis抗体(Qiagen Inc.)の25μg/mLの溶液を、およそ3000共鳴単位(RU)が固定されるまで、25μL/分の流量で分析物(垂直)方向に注入した。分析物方向に100μL/分で1Mのエタノールアミンの140秒間の注入により、残りの活性基を反応停止処理し、これはまた、モックでの活性化されたインタースポットがブランク参照のために作製されることを確保するものである。
【0221】
抗FLAG(Sigma Inc.)および抗HA(Roche Inc.)のモノクローナル抗体と結合するためにヘテロ二量体のスクリーニングは、リガンド方向に抗ペンタHis表面上にヘテロ二量体の間接的捕捉、続いて、分析物方向に抗FLAGおよび抗HAの注入の2つのステップにおいて行われた。まず、リガンド方向に100uL/分で30秒間の緩衝液の1回の注入を用いて、ベースラインを安定させた。各ヘテロ二量体の捕捉のために、細胞培養培地中の未精製のヘテロ二量体を、PBST中で4%まで希釈した。1~5つのヘテロ二量体または対照(すなわち、100% HA-軽鎖または100% FLAG-軽鎖のいずれかを含む対照)を、個々のリガンドチャネル中に25μL/分の流量で240秒間同時に注入した。これにより、抗ペンタHis表面上におよそ300~400RUの飽和ヘテロ二量体が捕捉された。第1のリガンドチャネルは、必要に応じて、ブランク対照として使用するためにブランクのままにした。このヘテロ二量体捕捉ステップの直後に、緩衝液を2回、分析物方向に注入してベースラインを安定させ、5nM 抗FLAGおよび5nM 抗HAをそれぞれ、50μL/分で120秒間二重に注入し、180秒の解離相をおいて、結果として、捕捉されたヘテロ二量体の各々に対して緩衝液参照により一連の結合センサーグラムが得られた。可能であれば、ヘテロ二量体が結合する抗原はまた、活性対照として最後に残りの分析物チャネル上に注入され得る。ヘテロ二量体を、0.85%リン酸の18秒間隔のパルスで100μL/分で18秒間再生成し、次の注入サイクル用に抗ペンタHis表面を調製した。緩衝液ブランクの注入およびインタースポットを用いて、センサーグラムをアラインし、二重参照して、結果として得られたセンサーグラムを、ProteOn Managerソフトウェアv3.0を使用して分析した。
【0222】
L1とL2の総パーセンテージは、理論的には、合計100%になるべきである。実際には、いくつかの変異体において、L1とL2の総量が、合計して100%より著しく低くなることが観察された。軽鎖の総パーセンテージのこの相違は、SPRチップ上での初期ヘテロ二量体捕捉中に、一部分において、可変の非特異的結合が発生したことによるものであると考えられる。
【0223】
実施例3:D3H44 IgG軽鎖および/または重鎖中の定常(CまたはCH1)ドメイン修飾を含む同時発現セットにおけるヘテロ二量体の優先的対合の評価
修飾されたCおよび/またはCH1ドメインを有するD3H44重鎖および軽鎖を含む同時発現セットにおける優先的に対合するヘテロ二量体の能力は、実施例2において可変ドメイン修飾を有するヘテロ二量体について記載されたように決定され、その結果を図2に示す。1つのD3H44重鎖構築物は、2つの固有のD3H44軽鎖構築物と同時発現され、相対的な軽鎖の対合特異性(例えば、H1-L1:H1-L2)を、競合アッセイ-SPRスクリーニングから決定した(図2中「競合アッセイのスクリーニング結果」と表題のついた列)。L1:L2のDNA比は、トランスフェクション時に、40:60、50:50、および60:40に変化させ、選択されたヘテロ二量体ヒットは、修飾された競合アッセイの検証により確認された(図2中「競合アッセイの検証結果」と表題のついた列)。実施例2に記載されたように、重鎖は、競合アッセイスクリーニングおよび検証の両方において定量限界(すなわち、HC<L1+L2)を維持した。実施例2に記載されたように、優先的対合の評価を行った。
【0224】
実施例4:生物物理学的特徴付けのためのスケールアップ
対合および誤対合の両方の選択されたヘテロ二量体は、熱安定性および抗原結合に関して試験するために、スケールアップされ(典型的には、50mlまで)、以下のように精製された。図3に示されるように、ヘテロ二量体HD100-HD115を、発現および精製した。各ヘテロ二量体の重鎖および軽鎖を、上述の培養条件下で、CHO-3E7細胞の50mlの培養物中で発現させた。細胞を遠心分離し、ヘテロ二量体を、下述のようにニッケルをチャージしたFractogelカラム上に上清を負荷することにより精製した。
【0225】
ニッケル(His)をチャージしたFractogelカラム上での精製
ニッケルによるカラムのチャージ:5カラム体積(CV)の0.5M NaCl(pH調節なし)、続いて、4CV 200mMのNiCl(ニッケル)、および2CVの0.5M NaCl pH5.0による順次洗浄。試料の負荷および溶出:10CV PBSによりカラムを平衡化する。試料を負荷し、10CVの洗浄緩衝液#1(50mM リン酸ナトリウム pH7.0、300mM NaCl)、続いて、10CVの洗浄緩衝液#2(50mM リン酸ナトリウム pH7.0、300mM NaCl、25mM イミダゾール)で洗浄し、カラムに生じた不純物を除去する。ヘテロ二量体を、洗浄緩衝液#1+300mM イミダゾールに溶出した。各画分のタンパク質含有量を、Bradfordタンパク質アッセイにより試験した。タンパク質を含む画分をプールした。次いで、実施例5に記載されるように、精製したヘテロ二量体を、抗原結合および熱安定性についてアッセイした。
【0226】
実施例5:ヘテロ二量体の熱安定性および抗原親和性測定
選択されたヘテロ二量体対の熱安定性および抗原親和性を測定し、これらの特性を野生型の未修飾の重鎖-軽鎖対のものと比較した。同時発現から正しく対合および誤対合されたヘテロ二量体を、個々にスケールアップし、精製し(すなわち、Hisタグ親和性精製)、下述のように、熱安定性および抗原結合について評価した。結果を図3に示す。
【0227】
熱安定性の測定
選択されたヘテロ二量体対の熱安定性を、以下のように、示差走査熱量測定(DSC)を用いて測定した。
【0228】
実施例3に記載されたように各ヘテロ二量体を精製し、PBS中、0.2mg/mLまで希釈し、VP-キャピラリーDSC(GE Healthcare)を用いて、DSC分析のために、合計400μLを使用した。各DSC起動の開始時に、緩衝液ブランクの注入を5回行いベースラインを安定させ、参照用の各ヘテロ二量体注入前には、緩衝液注入を設定した。各試料を、60℃/時の速度で20~100℃、低フィードバックの、8秒間のフィルター、5分間のpreTstat、および70psiの窒素圧で走査した。結果として得られたサーモグラムを参照し、Origin7ソフトウェアを使用して分析した。
【0229】
試験したヘテロ二量体についての熱変性曲線を図4に示す。結果は、正しく対合されたヘテロ二量体(設計観点から)は、通常、対象とする誤対合されたヘテロ二量体(例えば、HD107対HD108)よりも著しく安定していることを示す。加えて、正しく対合されたヘテロ二量体の多くは、野生型Fab(例えば、HD114)に近い熱安定性を示す。
【0230】
抗原親和性の測定
抗原(組織因子細胞外ドメイン)に対するヘテロ二量体対の親和性を、表面プラズモン共鳴(SPR)アッセイを用いて測定した。すべての表面プラズモン共鳴アッセイを、25℃の温度で、PBST泳動緩衝液(PBS Teknova Inc、0.05% Tween20を含む)を用いるBioRad ProteOn XPR36装置(Bio-Rad Laboratories(Canada)Ltd.(Mississauga,ON))を用いて実行した。精製した組織因子(TF)表面を、リガンド(垂直)方向に100μL/分で140秒間注入された標準BioRad sNHS/EDC溶液の1:10希釈液により活性化されたGLMセンサーチップを用いて生成した。活性化の直後、10mMのNaOAc pH4.5中のTFの25μg/mLの溶液を、およそ1000共鳴単位(RU)が固定される(または60nM FABを流出するとき、100RUの最大応答として十分である)まで、25μL/分の流量でリガンド方向に注入した。残りの活性基を、分析物方向に100μL/分で1M エタノールアミンの140秒の注入により反応停止処理した。各注入系列については、水平方向に緩衝液ブランクを2回注入することが、精製したヘテロ二量体に先行した。緩衝液ブランク対照を用いた各ヘテロ二量体(60nM、20nM、6.7nM、2.2nM)の3倍希釈系列を、50μL/分で120秒間同時に注入し、20分間の解離をおいて、結果として、ヘテロ二量体の各々に対して緩衝液参照を伴う一連の結合センサーグラムが得られた。SPR表面上のヘテロ二量体:TF複合体を、0.85%リン酸の18秒間隔のパルスで100μL/分で18秒間再生成し、次の注入サイクル用にTF表面を調製した。緩衝液ブランクの注入およびインタースポットを用いて、センサーグラムをアラインし、二重参照して、結果として得られたセンサーグラムを、ProteOn Managerソフトウェアv3.0内で1:1の結合モデルを使用して分析した。
【0231】
結果は、正しく対合されたヘテロ二量体(設計観点から)が、抗原に対する様々な範囲の親和性を示し、抗原(例えば、HD107およびHD114)に対して野生型様結合親和性を示すいくつかの設計があることを示す。
【0232】
実施例6:タグ付けされた野生型D3H44ヘテロ二量体のサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)プロファイルおよび個々の優先的に対合されたヘテロ二量体の代表的な試料
重鎖上にC末端ABD2-Hisタグおよび軽鎖上にN末端FLAGタグを有する野生型D3H44ヘテロ二量体(1つの重鎖および1つの軽鎖)を、当該技術分野で知られている方法および実施例1および4に記載されたものと同様の方法に従って、発現および精製した。同時発現セットから優先的にまたは正しく対合されたヘテロ二量体(図3に示されるヘテロ二量体HD100、HD105、およびHD107)を、実施例4およびSECに記載されたように、個々にスケールアップし、Hisタグ親和性精製により精製した。
【0233】
SECは、以下のように実行した。ヘテロ二量体試料を、Pharmacia(GE Healthcare) AKTA Purifierシステム上に取り付けたSuperdex 200 HR 10/30 Pharmacia(GE Healthcare)カラムを用いて分離した。PBS中のヘテロ二量体試料(0.3~0.5ml)を、PBSを充填した0.5mlループに、手動で負荷した。試料をカラム上に自動注入し、0.5ml/分で、1CV 溶出体積で分離した。タンパク質溶出をOD280でモニタリングし、1ml画分で収集した。
【0234】
図5に示されるように、正しく対合されたヘテロ二量体は、アミノ酸修飾を伴わない野生型ヘテロ二量体において観察されるものに近いSECプロファイルを示した(主要ピーク[]:ヘテロ二量体)。野生型ヘテロ二量体の軽鎖がN末端HAタグを有するとき、同等の結果を得た。
【0235】
実施例7:ヘテロ二量体の安定性に関するさらなるデータ
表8に示される設計は、改善されたHC-LCの選択性を有する設計推進の組み合わせに関して強調したものである。
【0236】
(表8)
【0237】
残基番号付けは、Kabatの命名(Kabat E.A.et al.,(1983)Sequence of Proteins of Immunological Interest National Institutes of Health,Bethesda)に従う。
【0238】
表9に示されるように、設計の大部分は、野生型様熱安定性(Tm)およびTF結合親和性を保有した。
【0239】
(表9)
【0240】
設計12は、野生型H2-L2の対合を含む(表8を参照)。結果として、H2-L2 Fabは、野生型結合親和性を保持する。野生型抗TF D3H44 FabのTm=約76℃(データは示さず)。
【0241】
実施例8:さらなるヘテロ二量体および同様の試験
表10に記載されるように、さらなるヘテロ二量体対を調製し、試験した。これらのヘテロ二量体は、Fabホットスポット範囲を増大させるように設計された。
【0242】
(表10)
【0243】
表10の残基番号付けは、D3H44 Fab(PDB ID=1JPT[Faelber K et al.,J.Mol.Biol.(2001)313:83-97]、www.rcsb.org/pdb/explore/explore.do?structureId=1JPT)の結晶構造における残基のために使用される表現法に従う。
【0244】
実施例5に記載されたように、これらのヘテロ二量体についての安定性、標的と結合する能力、および選択的対合する能力を決定し、表11に示す。
【0245】
(表11)
【0246】
野生型抗TF D3H44 FabのKD=0.052nM、野生型抗TF FabのTm=約76℃
【0247】
実施例9:さらなるヘテロ二量体
以下のヘテロ二量体対もまた調製され、選択的に対合するそれらの能力について試験された。
【0248】
(表12)
【0249】
表12の残基番号付けは、D3H44 Fab(PDB ID=1JPT[Faelber K et al.,J.Mol.Biol.(2001)313:83-97]、www.rcsb.org/pdb/explore/explore.do?structureId=1JPT)の結晶構造における残基のために使用される表現法に従う。
【0250】
(表13)
【0251】
表13の残基番号付けは、D3H44 Fab(PDB ID=1JPT[Faelber K et al.,J.Mol.Biol.(2001)313:83-97]、www.rcsb.org/pdb/explore/explore.do?structureId=1JPT)の結晶構造における残基のために使用される表現法に従う。
【0252】
実施例10:D3H44重鎖および軽鎖のFab形式において定常ドメインおよび/または可変ドメイン修飾を含む同時発現セットにおけるヘテロ二量体の優先的対合の評価
図1および2に示されるものに加えて同時発現セットを設計した。実施例1に記載されたように、同時発現セットの設計に従ってアミノ酸修飾を含むFab形式においてD3H44 IgG重鎖および軽鎖をコードする構築物を調製した。実施例2および3に記載されたように、D3H44重鎖および軽鎖Fab対の優先的に対合する能力を評価した。実施例5に記載されたように、設計の安定性および結合親和性を決定した。表14および15に示される結果は、累積的なものであり、新しい設計に加えて図1および2に示される設計における結果を示す。これらの表に示されるアミノ酸修飾は、D3H44重鎖およびD3H44軽鎖のアミノ酸配列に関して特定される。表A、A1、およびA2を参照。
【0253】
本出願において「設計」または「設計セット」は、H1、L1、H2、およびL2鎖上の一連の突然変異に関することに留意すべきである。「LCCA設計」は、H1、L1、およびL2における一連の突然変異を指す。
【0254】
H1、L1、およびL2突然変異の各固有のセット(LCCA形式)には、固有の番号、またはいわゆる「固有の識別名」が割り当てられた。データがH1 L1 H2 L2の形式(Fab対形式またはSMCA)で示されるとき、そのような設計セットは、したがって、構成要素である2つのLCCAに対する固有の識別名からなる「固有の識別名セット」で示される(例えば、1-2)。D3H44 LCCAデータセットに特徴付けられた設計を、まず割り当てた。このセット中に存在するが、異なる均質なまたは混合したシステムデータ、または/および異なる形式(MCA)で存在する設計は、加えて、で表す。固有の識別名を割り当てるこの実行において、多くの表の自動処理により、いくつかの冗長性が生じる。D3H44以外のシステムにおいて異なるWTアミノ酸が同じ位置を占める場合:309=319=47、316=101、317=183、318=182、310=48、311=102、323=180、324=179。LC/MSのためにさらなる突然変異が組み込まれた場合:442=326、および443=23。
【0255】
LCCA実験の大部分が定常ドメイン(H/C233S-L/C214S)に位置する鎖間Fabジスルフィド結合(複数を含む)を欠いている構築物で行われたことに留意されたい。
【0256】
表14には、55%:45%(H1-L1:H1-L2およびH2-L2:H2-L1)またはそれ以上の正しい対合特異性を示す設計が提供される。優先的対合に関して特定の設計の成功を強調するために、2つの相補的なLCCAセット(H1、L1、L2、およびH2、L2、L1)が対のFab形式において示される。
【0257】
タグ(L:HAおよびFLAGならびにH:ABD2)の存在は、D3H44 WTに対して約50%:50%の予測された中立的な対合に影響を及ぼさない(これは、実際の設計における対合の結果によりさらに支持され、そのため、タグ情報は、この表に含まれない)。
【0258】
表には、関連Fab種の測定された量(H1-L1、H1-L2、およびH2-L2、H2-L1のもの)が、比の形式(H1-L1:H1-L2およびH2-L2:H2-L1)で含まれた。大抵の場合、いくつかのLCCAの実験の繰り返しが行われた(スクリーニングおよび検証)。中央値H1-L1:H1-L2およびH2-L2:H2-L1に対する正規化された比の形式(すなわち、H1-L1およびH1-L2の合計が100%)における合計欄もまた、提供される。
【0259】
データは、熱安定性データ(Tm)および抗原親和性(表のバケット内で、「TF」の表記は、組織因子親和性について使用される)のカテゴリー:
Tm1(x=>71℃)、Tm2(71℃>x=>66℃)、Tm3(66℃>x)に従ってクラスター化された。Tm3のカテゴリーはまた、ND(実験は実施されず)の事例も含む。
【0260】
参考までに、D3H44 WT Fab(ジスルフィド結合せず)のTmは、約76℃である。
【0261】
TF1(x=<WTの中央値の5倍のKD)と、TF2(5<x=<WTの中央値の20倍のKD)と、x>WTの中央値の20倍のKDである事例、そしてNB事例(結合せず:KDが500nM超の場合、これはWTの中央値の約10000倍のKDである)を含むその他のカテゴリーとは、別々に表示された。この最後のカテゴリーはまた、NDの事例(実験は実施されず)も含む。
【0262】
参考までに、D3H44のWT Fabの中央値KDは、0.06nM(0.1の範囲)である。
【0263】
注記:抗原親和性および熱安定性を指す表の欄において、実施された実験数が1を超えた場合(n>1)、範囲(最小-最大の読み出し)が示される。
【0264】
それぞれのバケット内で、設計は、H1-L1:H1-L2の対合特異性、続いて、H2-L2:H2-L1のものが高い順に順序付けされている。
【0265】
表内の読み出しバケットカテゴリーの一例:
・Tm1のみ(H1-L1およびH2-L2の両方のTmがTm1カテゴリーに属する)
・Tm1/Tm2(H1-L1またはH2-L2のTmがTm1に属し、その他がTm2カテゴリーに属する)
・同じ論理は「TF」カテゴリーにも適用される。
【0266】
さらなるLCCAの結果のセット(表15)はまた、Fab対形式で表され、さらなる設計サイクル後に得られたものは、別々の表に含まれる。このデータセットは、対合特異性が減少していく順に配置され、熱安定性に関して若干制限されたデータを含む。
【0267】
表14および15の結果は、コンピュータによる設計アプローチが、設計の多様なセットおよびそれらの変動にわたって、H1-L2を上回るH1-L1の優先的対合およびH2-L1を上回るH2-L2の優先的対合の達成をもたらしたことを示す。これらの設計は、概して、2つの主なカテゴリー:静電気的(水素結合または電荷-電荷相互作用を使用する、特異性をもたらす部分に基づいた)および立体的相補性に分類された。そのような対合の特異性は、両方のLCCA設計において中程度から約100%の適切な対合の範囲に及んだ。表からの証拠として、これらの設計の中には、熱安定性(Tm)または抗原結合親和性に影響を与えなかったものもあり、これらの2つの特性に様々な程度の影響を示したものもあった。さらに、成功した設計が、定常および可変ドメインの両方、ならびにドメイン設計の組み合わせ形式において存在した。
【0268】
実施例11:混合Abまたは純粋なAbの重鎖および軽鎖Fab形式において定常ドメインおよび/または可変ドメイン修飾を含む同時発現セットにおけるヘテロ二量体の優先的対合の評価
前述の実施例に記載されるある種の設計は、同時発現セットの設計がこれらのタイプの系における優先的対合をもたらすかどうかを評価するために、ヘテロ二量体対が異なるAb(D3H44と比較して)または2つの異なる抗体に由来した場合の系において試験された。多くの異なる系が試験された。一例において、あるヘテロ二量体対は、Fab形式においてD3H44の重鎖および軽鎖に由来し、第2のヘテロ二量体対は、Fab形式においてペルツズマブの重鎖および軽鎖に由来した。別の例において、あるヘテロ二量体対は、Fab形式においてD3H44の重鎖および軽鎖に由来し、第2のヘテロ二量体対は、Fab形式においてトラスツズマブの重鎖および軽鎖に由来した。
【0269】
同時発現セットの設計に従ってアミノ酸修飾を含むFab形式においてD3H44のIgG、ペルツズマブ、およびトラスツズマブの重鎖および軽鎖をコードする構築物を、実施例1に記載されたように調製した。ペルツズマブの重鎖の塩基DNA配列、ペルツズマブの軽鎖の塩基DNA配列、トラスツズマブの重鎖の塩基DNA配列、およびトラスツズマブの軽鎖の塩基DNA配列を表A、A1、およびA2に示す。アミノ酸修飾は、部位特異的突然変異誘発によりこれらの配列に導入されたか、または実施例1に記載されたように、塩基配列に由来するアミノ酸修飾を含む、DNA配列が合成された。
【0270】
混合された系を試験したとき、採用された絶対的ではない鎖が異なるFabに属したという事実を除いては、実施例2および3に記載されたように、ヘテロ二量体設計の優先的に対合する能力が評価された。
【0271】
結果を表16に示す。表16に示されるアミノ酸修飾は、D3H44の重鎖およびD3H44の軽鎖、ペルツズマブの重鎖およびペルツズマブの軽鎖、トラスツズマブの重鎖およびトラスツズマブの軽鎖のアミノ酸配列に関して特定される。表A、A1、およびA2を参照。
【0272】
D3H44系において成功した優先的対合を示した代表的かつ多様な設計のサブセットが、異なる系(トラスツズマブ(TRAS)およびペルツズマブ(PERT)、ならびに混合系(D3H44/TRAS、D3H44/PERT、およびTRAS/PERT)(D3H44のLCCAと同様に、構築物がFabジスルフィドを欠いている)において試験された。
【0273】
データは、LCCA(表16)およびFab対形式(表17)の両方において示される。LCCAデータは、最小の「競合単位」(すなわち、H1-L1:H1-L2)を反映し、LCCA設計がFabにわたってうまく移動することができるかどうかを解釈するために最適な形式である。第2のFab対(すなわち、H2-L2:H2-L1)を含むFab対形式における分析は、これらの異なるFab系における設計全体(すなわち、H1-L1およびH2-L2)への移動度およびその有効性をさらに示した。H1-L1:H1-L2の比とは別に、不適切な対合と比較して適切な対合の相対的傾向をスカラーとして示す。なお、スカラー=ln(H1-L1:H1-L2)である。
【0274】
混合系のいくつかにおいて、特有の交差系の対合優先性(例えば、H_D3H44が、L_D3H44よりもL_PERTと優先的に対合する)が観察された(表17)。同じ例において、H_D3H44とL_PERTとの優先的対合はまた、H_D3H44-L_PERT種がH_D3H44-L_D3H44よりも安定していたことを示した熱安定性の測定(Tm)により支持された。したがって、測定された実際の種を報告するとともに、それぞれのWT LCCA系(REF)の挙動に対する正規化データは、Δスカラー(VAR-REF_WT)の形態で示される。なお、Δスカラー=ln(H1-L1:H1-L2/H2-L2:H2-L1)である。この計量は、LCCA設計の実際の効率の指標である。表内に含まれるデータは、55%:45%またはそれ以上の対合特異性(すなわち、Δスカラー(VAR-REF_WT)>0.2)と等価であった設計を含む。
【0275】
D3H44系とは異なって、ある種の比は、WT PERTのみおよびWT TRAS(より少ない程度まで)系において軽鎖タグにより影響を受ける場合があるように思われる(表18)。これは、タグが対合の障害になっているというよりむしろ、HAタグ切断によるランダム事象によるものであるように思われる(系がMab形式において試験されるときにはLC/MSの証拠が利用できる)。したがって、関連する表における結果を示すときには、タグを考慮した。
【0276】
LCCAおよびFab対形式の両方における結果の要約を、表19および20に報告する。結果は、設計が、異なる試験したFab系にわたって移動可能であることを示す。これらの結果は、設計の一部が他よりも良好であることを必ずしも反映せず、また、より総合的な推定される移動可能性も反映しない。表19に示される、2つ以上のシステムにおける成功したLCCA設計(例えば、中央値Δスカラー(VAR-REF_WT)>0.2)は、これらの異なる系において、試験したLCCA設計の約30%を構成する。これは、特定の系および設計による移動可能性を示す。このようにして、固有の一連の設計を有することにより、多くの系に関して二重特異性対の作製を可能にし、関心対象の任意の抗体(または抗体対)との関連において評価され得る設計セットのライブラリーの有用性を強調する。この実施例は、突然変異/設計セットを用いて、混合Abまたは純粋なAbの重鎖および軽鎖Fab形式において定常ドメインおよび/または可変ドメイン修飾を含む同時発現セットにおいてヘテロ二量体の優先的対合を達成することができることを示す。
【0277】
実施例12:D3H44の重鎖および軽鎖の完全長重鎖(Mab)形式において、定常ドメインおよび/または可変ドメイン修飾を含む同時発現セットにおけるヘテロ二量体の優先的対合の評価
ヘテロ二量体の同時発現セットの設計は、重鎖が完全長重鎖でありFab部分ではない形式(Mab形式)において、それらもまた、優先的に対合することができるかどうかを判定するために評価された。
【0278】
構築物の調製:
同時発現セットの設計に従ってアミノ酸修飾を含むD3H44のIgGの重鎖および軽鎖をコードする構築物を、以下のように調製した。実施例1に記載されたように、D3H44のFab軽鎖構築物を調製した。完全長D3H44重鎖が、D3H44のFab重鎖のC末端上にヒンジ-CH2-CH3ドメインをコードするIgG101のDNA配列を加えることにより作製されたことを除き、実施例1に記載されたようにD3H44の重鎖配列を調製した。ただし、C末端リジンのクリッピングによるLC-MSシグナルの不均質を防ぐために、標準的なC末端重鎖リジン残基を除去した(Lawrence W.Dick Jr.et al.,Biotechnol.Bioeng.(2008)100:1132-43)。
【0279】
Mabアッセイ形式
D3H44の重鎖および軽鎖の優先的に対合する能力を、以下のように評価した:ある完全長D3H44の重鎖構築物が、2つの固有のD3H44の軽鎖構築物と同時発現されて、3つの可能な抗体種:H1-L1:H1-L1、H1-L2:H1-L2、およびH1-L1:H1-L2を得た(図10を参照)。好ましいH1-L1:H1-L1種対その他について、量の観点での相対的な軽鎖の対合特異性を、プロテインA(pA)での精製後にLC-MSを用いて決定した。可能であれば鎖はタグ付けされないままであり、3つの可能なMab種が、互いに少なくとも50Da異なる3つの鎖の同時発現から生じるものとした。質量差がこの可能性を妨げる場合には、種間の十分な質量の差別化を提供するために、軽鎖のうちの少なくとも1つは、N末端HAまたはFLAGタグ融合で構成された。実施例2に記載されたように、重鎖は、定量限界(すなわち、HC<L1+L2)を維持した。
【0280】
Mabアッセイ形式におけるトランスフェクション方法
実施例12に記載されたように調製された、1つの重鎖および2つの軽鎖構築物を含む同時発現セットを、以下のようにCHO-3E7細胞にトランスフェクトした。CHO-3E7細胞は、1.7~2×10細胞/mlの密度で、4mMのグルタミンおよび0.1% Pluronic F-68(Invitrogenカタログ番号24040-032)を補充したFreeStyle(商標)F17培地(Invitrogenカタログ番号A-1383501)中で、37℃で培養した。50mlの全体積に対し、1:2.5のDNA:PEI比でPEI-pro(Polyplusカタログ番号115-010)を用いて合計50ugのDNAをトランスフェクトした。DNA-PEI混合物を添加してから24時間後に、細胞を32℃に移した。上清を、7日目に、非還元SDS-PAGE分析により発現について試験し、続いて、クマシーブルー染色により、バンドを可視化した。使用されたHC:L1:L2の比は、1:1:1であった。
【0281】
Mabアッセイ形式における質量分析
同時発現セットにおけるD3H44の重鎖への優先的なD3H44の軽鎖の対合の程度を、プロテインAでの精製および脱グリコシル化後、質量分析を用いて評価した。精製した試料を以下のようにPNGaseFで脱グリコシル化した:50mMのTris-HCl pH8.0中、0.2U PNGaseF/μgの抗体を、37℃で一晩インキュベートし、最終タンパク質濃度は、0.45mg/mLであった。タンパク質試料は、高流量エレクトロスプレーインターフェイスを介してLTQ-Orbitrap XLハイブリッド質量分析計(ThermoFisher Scientific)に連結したAgilent 1100 HPLC系を用いるLC-MSにより分析した。試料(2.5μg)を、2.1×10mmのPoros R2カラム(Applied Biosystems)上に注入し、勾配条件:0~3分:20% 溶媒B、3~6分:20~90% 溶媒Bを用いて溶出した。溶媒Aは、0.1% ギ酸水溶液であり、溶媒Bは、65% ACN、25% THF、9.9% ddHO、0.1% ギ酸であった。流量は、1mL/分であった。エレクトロスプレーインターフェイスに100μL/分で誘導するために、この流れはカラム後に分離された。カラムおよび溶媒を、80℃まで加熱して、タンパク質のピーク形状を改善した。LTQ-Orbitrap XLを、ThermoFisher ScientificのLTQ Positive Ion ESIキャリブレーション溶液(カフェイン、MRFA and Ultramark 1621)を用いて較正し、10mg/mLのCsI溶液を用いて最適化した。コーン電圧(源のフラグメンテーション設定)は40Vであり、FT解像度は7,500であり、走査範囲は、m/z 400~4,000であった。
【0282】
タンパク質スペクトルは、MassLynx装置の制御およびデータ分析アルゴリズムであるMaxEntモジュール(Waters)を用いてデコンボリューションした。簡潔に言えば、タンパク質LC-MSの生データを、第1に、Xcalibur(Thermo Scientific)のスペクトル表示モジュールであるQualBrowerにおいて開き、Watersにより提供されたファイル変換プログラムであるDatabridgeを用いてMassLynxと互換性があるように変換した。変換されたタンパク質スペクトルをMassLynxのスペクトルモジュールにおいて表示し、MaxEntを用いてデコンボリューションした。それぞれの試料における異なる抗体種の存在度は、結果として得られた分子量プロファイルから直接判定した。
【0283】
結果を表21に示す。表21に示されるアミノ酸修飾は、D3H44の重鎖およびD3H44の軽鎖のアミノ酸配列に関して特定される。表A、A1、およびA2を参照。
【0284】
多様な設計セットの代表でもあるD3H44系において成功した優先的対合を示した設計のサブセットは、形式の移動可能性、すなわち、Fab構造を有するLCCAからの移動可能性について、Mab構造に基づくMab競合アッセイ(MCA)の評価のために選択された。
【0285】
表21に示されるように、Mab競合アッセイに用いられるD3H44 WTは、50%のH1-L1_H1-L2およびそれぞれ25%のH1-L1_H1-L1およびH1-L2_H1-L2である予測された理論的な種の分布からの逸脱を示し、ここで軽鎖は、タグ(HAまたはFLAG)の存在または非存在により区別される。この逸脱は、タグに依存した対合というよりむしろタグに依存した発現レベルの結果である可能性が高い(例えば、異なるWT H1:L1:L2比で実施された実験、ならびに設計挙動に基づいた間接的観察に基づいた)。実験の繰り返しおよび/またはタグ識別により異なる変異体にわたる、すべての測定された種についての中央値も含まれた。
【0286】
所与の設計を含む2つの成功したMabアッセイ変異体(図11)のLC/MSスペクトルの一例は、図12に見出される。これらの変異体の場合、測定された種の大部分は、望ましいH1-L1_H1-L1種に相当した。発現プロファイル、UPLC-SEC(H2-L2_H2-L2種(H2-L2として示される図において)に対してのみ示される)、および図13に報告されるDSCサーモグラムは、ある特定のヒットにおいて実行される変異体の特徴付けの典型である。この特定の場合において、これらは、Fabの安定性に比較的わずかな影響を有する十分に発現された均質な種を示した。
【0287】
表21中の結果は、LCCA設計の中から、Mab形式への移動可能性が、顕著な成功を伴って達成されたことを示す。試験された12個のLCCA設計のうちの11個は、正しく対合した種の理論値25%と等しいかまたはそれ以上を示した。このデータは、設計ライブラリーの初期スクリーニングとして使用されるLCCA形式が、Mab形式における設計の成功の評価および/または予測に適していることを示す。
【0288】
実施例13:二重特異性抗体形式において定常ドメインおよび/または可変ドメインの修飾を含む同時発現セットにおけるヘテロ二量体の優先的対合の評価
ヘテロ二量体の同時発現セット設計は、二重特異性Mab抗体形式においても優先的対合を可能にさせるかどうかを判定するために評価された。この実施例において、それぞれのヘテロ二量体の完全長重鎖のFc領域を、非対称に修飾して、ホモ二量体化と比較して固有の重鎖のヘテロ二量体化を促進した。
【0289】
構築物の調製:
ヘテロ二量体の同時発現セット設計は、以下の二重特異性抗体の状況:a)D3H44/ペルツズマブ、b)D3H44/トラスツズマブ、c)D3H44/ラムシルマブ、およびd)トラスツズマブ/ラムシルマブで試験した。相補的なFcヘテロ二量体化突然変異が同時発現設計セットのそれぞれ2つの重鎖に導入されたことを除き、定常および/または可変ドメインにおいてアミノ酸修飾を含むD3H44、ペルツズマブ、およびトラスツズマブの重鎖および軽鎖は、実施例12に記載されたように調製された。ラムシルマブの重鎖および軽鎖は、ラムシルマブの重鎖および軽鎖の塩基DNA配列に基づいて調製された。表Aを参照のこと。重鎖のCH3配列には、アミノ酸修飾:
a)D3H44/ペルツズマブ:鎖A:T371V_T389L_K420L_T422W、鎖B:T371V_L372Y_F436A_Y438V
b)D3H44/トラスツズマブ:鎖A:T371V_T389L_K420L_T422W、鎖B:T371V_L372Y_F436A_Y438V
c)D3H44/ラムシルマブ:鎖A:T371V_T389L_K420L_T422W、鎖B:T371V_L372Y_F436A_Y438V
d)トラスツズマブ/ラムシルマブ:鎖A:T371V_T389L_K420L_T422W、鎖B:T371V_L372Y_F436A_Y438V
が含まれた。
【0290】
アッセイ形式(SMCA)
優先的に対合するためのヘテロ二量体の同時発現セット設計の二重特異性抗体を形成する能力は、下述のように評価された。このアッセイは、4つの鎖(Ab1から2つおよびAb2から2つ)を同時発現させることと、正しく形成された二重特異性抗体の存在を、質量分析(LC-MS)を用いて検出することに基づいている。本アッセイは、次のように実行した。図14は、4つの出発ポリペプチド鎖と、ヘテロ二量体対の重鎖と軽鎖との間の優先的対合の不在下で、これらの出発ポリペプチド鎖の同時発現から得られる潜在的な産物とを示す概略図を提供する。2つの完全長重鎖構築物は、2つの固有の軽鎖構築物と同時発現され、10の可能な抗体種:H1-L1:H1-L1、H1-L2:H1-L2、H1-L1:H1-L2、H2-L1:H2-L1、H2-L2:H2-L2、H2-L1:H2-L2、H1-L1:H2-L1、H1-L2:H2-L2、H1-L2:H2-L1、およびH1-L1:H2-L2を得た。後者の種は、正しく対合されたヘテロ二量体である(以下の図を参照)。好ましい種H1-L1:H2-L2対その他について、量の観点での相対的な対合特異性を、pAでの精製後、LC-MSを用いて決定した。可能であれば、鎖はタグ付けされないままであり、すべてのMabおよび半Ab種が互いに少なくとも50Da異なるものとする。質量差がこの可能性を妨げる場合には、種間の十分な質量の差別化を提供するために、軽鎖のうちの少なくとも1つは、N末端HAタグ融合で構成された。SMCAとして二重特異性抗体の発現およびスクリーニングステップを含むこのアッセイを参照する。
【0291】
トランスフェクション方法
実施例1に記載されたように調製された2つの重鎖および2つの軽鎖構築物を含む同時発現セットを、以下のようにCHO-3E7細胞にトランスフェクトした。CHO-3E7細胞は、1.7~2×10細胞/mlの密度で、4mMのグルタミンおよび0.1% Pluronic F-68(Invitrogenカタログ番号24040-032)を補充したFreeStyle(商標)F17培地(Invitrogenカタログ番号A-1383501)中で、37℃で培養した。20mlの全体積に対し、1:2.5のDNA:PEI比でPEI-pro(Polyplusカタログ番号115-010)を用いて合計20ugのDNAをトランスフェクトした。DNA-PEI混合物を添加してから24時間後に、細胞を32℃に移した。上清を、7日目に、非還元SDS-PAGE分析により発現について試験し、続いて、クマシーブルー染色により、バンドを可視化した。使用されたH1:H2:L1:L2比は、最初に、中立性(15:15:35:35)を維持して、発現効率を評価した。次いで、一連のH1:H2:L1:L2のDNA比を、CHO発現において試験して、すべての鎖が野生型であるとき、どの条件(複数を含む)が異なる種の理論的な分布を反映する混合物を生成するかを評価した。これらの比は、2つの異なる抗体の重鎖と軽鎖との間の、発現レベルおよび/または固有の対合の偏りについての自然におこる差を補正する。
【0292】
SPRバイオセンサーアッセイ
EDC:1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩、sNHS:N-ヒドロキシスルホスクシンイミド、SPR:表面プラズモン共鳴、EDTA:エチレンジアミン四酢酸、HEPES: 4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸、TF:組織因子。
【0293】
SPR用供給物。GLCセンサーチップ、Biorad ProteOnアミンカップリングキット(EDC、sNHS、およびエタノールアミン)、および10mMの酢酸ナトリウム緩衝液は、Bio-Rad Laboratories(Canada)Ltd.(Mississauga,ON)から購入した。組換えHer-2タンパク質は、eBioscience(San Diego,CA)から購入した。0.05% Tween20(PBST)を含むPBS泳動緩衝液は、Teknoca Inc.(Hollister,CA)から購入した。ヤギポリクローナル抗ヒトFc抗体は、Jackson Immuno Research Laboratories Inc.(West Grove,PA)から購入した。
【0294】
すべての表面プラズモン共鳴アッセイを、25℃の温度で、PBST泳動緩衝液を用いるBioRad ProteOn XPR36装置(Bio-Rad Laboratories(Canada)Ltd.(Mississauga,ON))を用いて実行した。抗ヒトFc捕捉表面を、分析物(水平)方向に100μL/分で140秒間注入された標準BioRad sNHS/EDC溶液の1:5希釈液により活性化されたGLCセンサーチップを用いて生成した。活性化の直後、10mM NaOAc pH4.5中の10ug/mLの溶液の抗ヒトFc抗体を、およそ3000共鳴単位(RU)が固定化されるまで、25μL/分の流量で分析物(垂直)方向に注入した。分析物方向に100μL/分での1Mのエタノールアミンの140秒間の注入により、残りの活性基を反応停止処理し、これはまた、モックで活性化されたインタースポットがブランク参照のために作製されることを確保するものである。Her2またはTF抗原標的と結合するための抗体変異体のスクリーニングは、リガンド方向に抗ヒトFc抗体表面上に抗体の間接的捕捉、続いて、分析物方向に二重参照用の5つの濃度の精製された抗原および1つのブランク緩衝液の同時注入、という2つのステップにおいて行われた。まず、リガンド方向に100uL/分で30秒間の緩衝液の1回の注入を用いて、ベースラインを安定させた。それぞれの抗体変異体の捕捉のために、細胞培養培地中の未精製の変異体を、PBST中で4%まで希釈した。1~5つの変異体または対照を、個々のリガンドチャネル中に25μL/分の流量で240秒間同時に注入した。これにより、抗ヒトFc表面上におよそ400~600RUの捕捉を得た。第1のリガンドチャネルは、必要に応じて、ブランク対照として使用するために空のままにした。この捕捉ステップの直後に、緩衝液を2回、分析物方向に注入してベースラインを安定させ、ブランク緩衝液とともに、60nM、20nM、6.7nM、2.2nM、および0.74nM 抗原(TFまたはHer2)を、300秒の解離相をおいて、50μL/分で120秒間同時に注入した。捕捉された抗体表面を、0.85%リン酸の18秒間隔のパルスで100μL/分で18秒間再生成し、次の注入サイクル用に調製した。緩衝液ブランクの注入およびインタースポットを用いて、センサーグラムをアラインし、二重参照して、結果として得られたセンサーグラムを、ProteOn Managerソフトウェアv3.1内で分析した。二重参照したセンサーグラムを、1:1の結合モデルにフィットさせた。それぞれの抗原のRmax値を、それぞれの変異体に対する抗体捕捉レベルに正規化し、100%対照と比較した。
【0295】
二重特異性抗体の安定性は、実施例5に記載されたように試験された。二重特異性抗体のLCMS分析は、実施例12に記載される手順を用いて実行された。
【0296】
多くの選択されたD3H44 LCCA設計が、SMCA形式において試験された。さらに、いくつかの設計は、SMCA形式のみにおいて直接評価された。設計の大部分は、D3H44/ペルツズマブ系において試験された。この系において選択された設計のサブセット(様々な設計を含む)は、3つのさらなる二重特異性Mab系:D3H44/トラスツズマブ、D3H44/ラムシルマブ(RAMU)、およびトラスツズマブ/ラムシルマブ系においてさらに試験された。
【0297】
LCCA実験(実施例11)における、D3H44/ペルツズマブおよびD3H44/トラスツズマブについて観察された特有の軽鎖/重鎖の交差系の優先性は、完全抗体形式においても再現可能であった。さらに、異なる交差系対合傾向を有していても、同様の挙動がその他の2つの系(表22)についても観察された。
【0298】
所望の二重特異性種H1-L1_H2-L2は、概して、誤対合したタイプ:H1-L2_H2-L1とは、LC/MSに基づいて実験的に区別することができない。したがって、二重特異性含量が表に報告されるときに、このタイプの誤対合した種を含まないことは完全には除外され得ない。しかしながら、H1-L2_H1-L2およびH2-L1_H2-L1等の種、ならびにH1-L2およびH2-L1の半抗体について観察された非常に低い含量は、二重特異性種の任意の混入物質が生じた場合でも、ごくわずかであったことを示す。LC/MSにより測定された特定の試料に存在するすべての他の種を表内に含む。ほとんどの場合、MSピークは、サイドピークと同時に起こったが、二重特異性種に対してのみ注釈を付けた。MSピーク強度を正規化するときには、これらの付加物を考慮に入れた。表内のサイドピーク(複数を含む)について表された数は、主な二重特異性ピークについてのものとの強度の比較により得られた。いくつかの予備的な分析は、リーダーペプチドの切断における付加物の形成または不均質性を含む軽鎖タグの存在と相関する場合、サイドピークを示し、それは主なピーク種を代表する可能性が高いことを示した。
【0299】
最終的に、誤対合した種に加えて、すべての対合種を合計して、対合:誤対合の列に報告された比を得た。これをさらに使用して、Δスカラー(VAR-REF_WT)を計算し、続いて、実施例11に記載される数学的アプローチを行って、特定の設計の強度を示した。系内で、スカラー計量の値の高い順に設計を順位付けした。
【0300】
実施例12に記載される、軽鎖および重鎖の対合についての交差系の自然におこる優先傾向により、所望の二重特異性種(H1-L1_H2-L2)の最高含量を得るには、H1:L1:H2:L2のDNA比を変化させること(例えば、H2(PERT)を上回るH1(D3H44)の過剰発現)を必要とした。最適比はまた、結果として特定の設計に応じてある程度変化し得る。DNA比は、主に、二重特異性種:対合した半抗体種(通常、1つのタイプ:H1-L1またはH2-L2)の実際の比に影響を及ぼす。一例が表23に含まれ、この比を伴うDNAの量の設定は変化したが、対合種:誤対合種の全体的な比は、比較的一定であった。
【0301】
D3H44/ペルツズマブ系の場合、制限されたDNAセットの量の設定が、設計の大部分に対して行われた。対合:誤対合した種の最高の含量をもたらした比に関するデータを表22および24に示す。他の3つの系については、表内に報告されたように、1つの比でのみトランスフェクションを行った。報告された比で実験を繰り返した場合は、平均値を表内に含んだ。タグの影響がWTにおいて観察されなかったため、タグ識別に関する情報は含めなかった(表26)。提供されたWT参照は、報告された設計データの中で最も一般的なDNA比を代表するように選択された。
【0302】
LC/MS分析は、pH4およびpH7で保存された試料において行われた。pH7で保存された試料での実験は、D3H44/トラスツズマブ、D3H44/ラムシルマブ(RAMU)、およびトラスツズマブ/ラムシルマブ系の場合に試験された。したがって、データは、2つの表に表される(表22(pH4)および表24(pH7))。十分な相関が、2つの実験間での対合種:誤対合種の比に関して観察され、これは、LC/MS実験において、すなわち、存在する種のタイプの特徴付けにおいて、pHが実質的な役割を果たす可能性が低いことを示した。
【0303】
図15は、MCA形式において図11および図12に示される設計に基づいてTFおよびHer2を標的とした二重特異性構築物のLC/MSの分析結果を示す。ほぼ92%の、絶対的な重鎖および軽鎖の正しい対合を有する好ましい二重特異性抗体が観察された。図16は、SDS PAGEにおける、上清およびプロテインAでの精製後のタンパク質産物の発現プロファイル、ならびにプロテインAで精製した化合物のSECプロファイルを示す。図17は、初めに、2つの標的(独立して、TFおよびHer2)に対し、次いで、サンドイッチ(架橋)モードにおける、二重特異性分子の二重特異的に標的結合する特徴を示す。
【0304】
場合によっては、限定された変異体セットにおいて特徴付けられたH/S115およびH/S156での突然変異は、実際の設計の一部ではなかったが、LC/MS実験を目的として必要な質量差を得るための実用的な理由のためにむしろ加えられた。これらのアミノ酸は、実際の突然変異の設計セットから十分に離れて定常ドメインの表面上に位置し、抗体の挙動に影響を及ぼすものとは思われない。
【0305】
熱安定性および抗原親和性を、D3H4/ペルツズマブ系における多くの設計について評価し、表25中に表す。Tm値(斜字体で示される)には、手動で注釈を付けた。ホモ二量体Mab対照(WT)は、(pH7での)トランスフェクションの繰り返しで発現された産物に対して以下の熱融解(T)の安定範囲を示した:PERT(72.03-77.72)およびD3H44(77.97-78.88)。ペルツズマブに観察されたより広い範囲は、その固有の特性による可能性が高い。親和性測定は、pAでの精製後にのみ行われた。ホモ二量体Mabについて観察されたKD範囲は、TF:0.04~0.076nM、HER2:1.84~6.3nMである。ほとんどの場合、2つのFabについて上述の異なる範囲による2つの融解転移を予測し得る。Tmについて1つの値のみが報告されるという場合には、2つの理由:ペルツズマブの安定性の変動、または/およびペルツズマブのFabでのものと一致し得る、D3H44 Fabでの設計の不安定さ、のうちの1つにより生じる可能性が高い。結果は、SMCA変異体の選択が、抗原結合だけでなく熱安定性にも最小限に影響を及ぼすものから、温度を変化させるために行うものまでの範囲に及ぶことを示す。
【0306】
いくつかの設計は、両方の可能なFc突然変異の配置で試験された。これらは、同じ固有の識別名を有することにより識別可能であり、D3H44(または表25では、#を前に記載した固有の識別名セット)で示される。表22から明らかなように、わずかな例外もあるが、Fc突然変異の配置は、対合種:誤対合種の結果に影響を及ぼさないように思われる。
【0307】
SMCAの結果は、多様なセットを表す相当数の設計が、Mab形式において自然におこる交差対合の傾向を克服し得ることを示す。これらのうち、試験された設計のうちほぼ1/4が、高い対合:誤対合比(>=80:20)のカテゴリーに分類される(数字は、より徹底的に試験された系のD3H44/ペルツズマブで提供される)。異なる系にわたる設計の有効性の比較は、移動可能性の程度を変化させることを示す。さらに、表27に列挙された設計の約60%は、4つの試験されたSMCA系のうちの少なくとも1つにおいて、D3H44 LCCAからSMCA形式へと移され、高度の優先的対合(>75%:25%)をもたらした。
【0308】
D3H44/ペルツズマブ以外の系において試験された設計については、設計の配置は、結合ドメイン、例えば、D3H44結合ドメインにおけるH1-L1設計、TRASにおけるH2-L2設計、ならびにTRASにおけるH1-L1設計およびD3H44におけるH2-L2設計についても調査された。結果は、事例の大部分において、設計の有効性がそのような反転配置により影響を及ぼされ得ることを示す。
【0309】
上で論じられた結果は、設計の移動可能性が、推進可能性のある設計構成要素で結合された抗原結合ドメインの組み合わせによって影響を及ぼされ得ることを示す(例えば、H1L1L2の推進はH2L2L1よりも良好であり得る)。結果は、多くのベースコア設計が様々な範囲のMab対にわたって機能し、75%超の選択的対合を有する二重特異性Abを形成することを示す。
【0310】
実施例14:Fab接続部分の分子モデリングおよびコンピュータで誘導された遺伝子操作
他の抗体またはその断片との関連においてスクリーニングし、対象となる抗体における所望の特異性を示す突然変異を特定し得る重鎖および軽鎖の突然変異の設計のライブラリーを生成するために、構造およびコンピュータによる分子モデリングにより誘導されたアプローチを採用した。優先的HC-LC対合を遺伝子操作するための設計戦略は、まず、作業に使用する代表的なAb(すなわち、D3H44)を特定することを含んだ。このAbの重要な基準を表28に示す。
【0311】
(表28)
【0312】
表28に示されるように、この抗体により示される重要な基準は、それがヒト/ヒト化Abであり、一般に使用されるVHおよびVLのサブグループ、および最小限のフレームワーク領域の突然変異を有したことであった。加えて、構造的に考察されたことは、VH:VLのドメイン間の角度がAbについて観察された平均値に近くなくてはならないことであった。Fabの選択後、重要な残基を特定し、理解する目的のために、Fab接続部分のコンピュータ内での分析が行われた。2つからなるアプローチが行われた。まず、Fabの可変部および定常部の接続部分にわたる配列保存のグローバルな分析が、公的に入手可能なAbの配列および構造アラインメントにより行われた。様々な抗体サブグループからの定常および可変ドメイン配列のアラインメントを図6に示す。同時に、D3H44の接続部分の結晶構造が、図18に列挙される多くの分子モデリングツール(例えば、ResidueContacts(商標))を用いて分析された。これらの分析は、優先的HC-LC対合を遺伝子操作するためのホットスポット位置の一覧の特定をもたらした。この分析から決定されたホットスポット位置を、表29に示す。
【0313】
(表29)ヒトVHおよびVLカッパ鎖由来の典型的なFabにおける重(H)鎖および軽(L)鎖の接続部分でのホットスポットアミノ酸位置。これらの位置およびアミノ酸は、主にVLラムダ鎖においても保存される。これらは、CDR3ループに位置するわずかなものを除いて、主にフレームワーク残基である。Kabat番号付けを用いて親D3H44配列におけるアミノ酸を、表A1~A2に提供する。
【0314】
次に、ホットスポット位置ならびに3Dの結晶構造における対象となるホットスポットに隣接する位置での潜在的な突然変異および設計が、コンピュータ内での突然変異生成およびZymepack(商標)を用いたパッキング/モデリングによりシミュレートされ、特定され、立体的および静電気的相補性を含む多くの因子に基づいてスコア付けされた。図11は、可変ドメインにおける重鎖および軽鎖接続部分での限定された数のホットスポット位置を示す。突然変異がいかにしてこれらの接続部分位置で導入され、不適切な鎖対の形成を嫌う一方で、絶対的鎖の選択的対合を促進し得るかを示す。立体的相補性は、モデル化され、ファンデルワールスのパッキング、キャビテーション効果、および疎水性基の密接な接触等のエネルギー因子に基づいて計算された。同様に、静電気的相互作用エネルギーは、モデル化され、電荷、水素結合、および脱溶媒和効果の間のクーロン相互作用に基づいて評価された。H1:L1(またはH2:L2)等の好ましい重鎖および軽鎖対モデルならびに対象となる突然変異を導入することにより得られたH1:L2(およびH2:L1)等の不適切な対の両方をシミュレートして、相対的な立体的および静電気的スコアを計算した。これは、特定の突然変異セットが好ましいエネルギー、すなわち、不適切な(絶対的ではない)対と比較して、好ましい(絶対的な)重鎖-軽鎖対に対してより大きな立体的または静電気的相補性をもたらすかどうかを決定することを可能にした。計算された立体的および静電気的エネルギーは、軽鎖および重鎖の対合と関連する自由エネルギーの構成要素である。それ故に、より大きな立体的および静電気的相補性は、絶対的ではない対の対合と比較して、絶対的対の対合と関連するより大きな自由エネルギーの変化を示す。より大きな立体的および静電気的相補性は、絶対的ではない対と比較して、絶対的な重鎖および軽鎖の優先的(選択的)対合をもたらし、同時発現の際に、2つの産物(絶対的ではない対合に対して絶対的に対合した重鎖および軽鎖)のパーセンテージに関して検出され得る。絶対的対におけるより大きな立体的または静電気的相補性はまた、典型的には、絶対的ではない対と比較してより良好な/大きな熱安定性の観点からも観察され得る。候補設計は、最終選考に残り、順位付けされた。設計は、初めに、LCCA系を用いてインビトロで試験された。不良なHC-LCの対合特異性、低い熱安定性、または抗原結合親和性の低下等の最適ではない生物物理学的特徴を示す控えめに行われた設計は、さらなる一連のコンピュータ内の設計およびインビトロのスクリーニングによりさらに改善された。次いで、最良の設計は、二重特異性Mab形式において試験され、インビトロのスクリーニングは、主にSMCA形式により試験された。
【0315】
実施例15:二重特異性抗体の突然変異設計セットのライブラリーを用いた、Mab1およびMab2が与える二重特異性抗体の生成
一実施形態において、それぞれ抗原結合断片Fab1およびFab2を含む2つの標準的な抗体Mab1およびMab2から与えられた二重特異性抗体を選択的に形成することを目的とする、二重特異性抗体の突然変異設計セットが本明細書に示される。設計セットは、それぞれ、Fab1、Fab2、およびFcに対応する同種の突然変異からなる。突然変異は、Fab1の軽鎖および重鎖の接続部分で導入されて、Fab2の競合する軽鎖および重鎖の存在下で2つの絶対的な対の間で選択的対合を達成する。選択的対合は、接続部分の特定のホットスポットフレームワーク残基間で、立体的、疎水性、または静電気的相補性に基づいて、2つの絶対的な軽鎖および重鎖において好ましい相補的突然変異を導入することにより達成され、一方、これらの突然変異残基は、絶対的ではない鎖対に関して好ましくない接続部分の相互作用を含む。それぞれの設計セットにおいて、選択的対合用の突然変異がまた、Fab2の軽鎖および重鎖の接続部分で導入されて、Fab1の競合する軽鎖および重鎖の存在下でこれらの2つの絶対的鎖間で選択的対合を達成することもできる。突然変異は、Fab1からの軽鎖とFab2の重鎖との誤対合を軽減させることを目的とし、逆もまた同様である。突然変異は、重鎖の選択的対合を達成するために、Fc接続部分で導入されて、2つの異なる重鎖を含む非対称抗体分子を形成する。
【0316】
抗体の軽鎖および重鎖の接続部分のある特定の残基位置での遺伝子操作は、しばしば、その抗体の、抗原結合親和性、安定性、溶解性の低下、凝集傾向等の有害作用をもたらす場合がある。多くの関連した特性は、例えば、konおよびkoff速度に、融解温度(Tm)に、酸、塩基、酸化、凍結/解凍、振とう、圧力のようなストレス条件に対する安定性に、影響を及ぼし得る。これは、しばしば、関心対象である抗体の相補性決定領域(CDR)によって影響を受ける。抗体のCDRが概して同一でない場合、突然変異設計セットの影響は、すべての抗体にわたって同一ではない場合がある。別の実施形態において、二重特異性抗体の突然変異設計セットのライブラリーを構成する多くの異なる二重特異性の突然変異設計セットは、接続部分の異なるホットスポット位置で突然変異を含むものとして定義される。そのような二重特異性抗体の突然変異設計セットのライブラリーを表30に示す。不適切に対合された抗体様構造を含む他の混入物質と比較して顕著な純度を有する二重特異性抗体を、任意の2つの利用可能な抗体Mab1およびMab2から作製するための方法が、本明細書に示される。Mab1およびMab2の軽鎖および重鎖は、突然変異設計セットのそれぞれの同種の突然変異を導入した後に同時発現され、タンパク質産物において、発現された抗体産物は分析的にスクリーニングされて、発現された他のMab様種と比較して、好ましい二重特異性抗体の純度が評価される。いくつかの実施形態において、分析的にスクリーニングする手順は、LC-MS技術に基づき得る。いくつかの実施形態において、分析的にスクリーニングする手順は、キャピラリー等電点電気泳動(cIEF)技術等の電荷に基づいた分離に基づき得る。スクリーニング技術の一例は、SMCA手順に基づいて実施例13に示される。いくつかの実施形態において、二重特異性抗体の顕著な純度は、発現されたタンパク質産物における得られたすべてのMab様種の70%超であると定義される。いくつかの実施形態において、二重特異性抗体の顕著な純度は、発現されたタンパク質産物における得られたすべてのMab様種の90%超であると定義される。Mab1およびMab2が与えた二重特異性Mab設定セットの調製および選択のための手順を、図19において図式的に示す。
【0317】
本明細書に記述されるすべての出版物、特許、および特許出願は、それぞれ個別の出版物、特許、または特許出願が具体的かつ個別に参照により本明細書に組み込まれることが示されるのと同程度に、参照により本明細書に組み込まれる。
【0318】
本発明は、特に、好ましい実施形態および様々な代替の実施形態に関して示し、説明したが、形態および詳細の様々な変更が、本発明の主旨および範囲から逸脱することなくなされ得ることが当業者に理解されるだろう。
【0319】
本出願の本文内に引用された全ての参考文献、出願特許および特許出願は、全ての目的のために、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0320】
(表A)配列
注記:ヌクレオチド配列は、シグナルペプチド配列から開始し、終止コドンTGAで終了する。これらは、必要に応じて、取り除くことができる。
【0321】
(表A1-A2)D3H44、トラスツズマブ、ペルツズマブ、およびラムシルマブの重鎖および軽鎖アミノ酸配列
可変領域: HFR1; 1 - 30, CDR-H1; 31 - 35, HFR2; 36 - 49, CDR-H2; 50 - 65, HFR3; 66 - 94, CDR-H3; 95 - 102, HFR4; 103 - 113 (参考文献:Molecular Immunology. Volume 45, Issue 14, August 2008, Pages 3832-3839)
可変領域: LFR1; 1 - 23, CDR-L1; 24 - 34, LFR2; 35 - 49, CDR-L2; 50 - 56, LFR3; 57 - 88, CDR-L3; 89 - 97, LFR4; 98 - 110 (参考文献:Molecular Immunology. Volume 45, Issue 14, August 2008, Pages 3832-3839)
【0322】
(表14)
【0323】
(表15)
【0324】
(表16)
【0325】
(表17)
【0326】
(表18)
【0327】
(表19)
【0328】
(表20)
【0329】
(表21)
【0330】
(表22)
【0331】
(表23)
【0332】
(表24)
【0333】
(表25)
【0334】
(表26)
【0335】
(表27)
【0336】
(表30)
【0337】
(表31)
【0338】
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
【配列表】
2022116172000001.app
【手続補正書】
【提出日】2022-06-24
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単離された抗原結合ポリペプチド構築物であって、少なくとも第1のヘテロ二量体および第2のヘテロ二量体を含み、
第1のヘテロ二量体が、第1の免疫グロブリン重鎖ポリペプチド配列(H1)および第1の免疫グロブリン軽鎖ポリペプチド配列(L1)を含み、第2のヘテロ二量体が、第2の免疫グロブリン重鎖ポリペプチド配列(H2)および第2の免疫グロブリン軽鎖ポリペプチド配列(L2)を含み、該第1のヘテロ二量体のH1またはL1配列のうちの少なくとも1つが、該第2のヘテロ二量体の対応するH2またはL2配列とは異なり、
H1およびH2がそれぞれ、少なくとも、重鎖可変ドメイン(VHドメイン)および重鎖定常ドメイン(CH1ドメイン)を含み、
L1およびL2がそれぞれ、少なくとも、軽鎖可変ドメイン(VLドメイン)および軽鎖定常ドメイン(CLドメイン)を含み、
H1、H2、L1、およびL2のうちの少なくとも1つが、少なくとも1つの定常ドメインおよび/または少なくとも1つの可変ドメインについて少なくとも1つのアミノ酸修飾を含み、H1が、L2と比較してL1と優先的に対合し、H2が、L1と比較してL2と優先的に対合する、構築物。
【外国語明細書】