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特開2022-116227医学に使用するためのヒト血小板溶解物由来細胞外小胞
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022116227
(43)【公開日】2022-08-09
(54)【発明の名称】医学に使用するためのヒト血小板溶解物由来細胞外小胞
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/12 20150101AFI20220802BHJP
   A61K 35/19 20150101ALI20220802BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20220802BHJP
   A61K 31/7105 20060101ALI20220802BHJP
   A61K 38/19 20060101ALI20220802BHJP
   A61K 38/18 20060101ALI20220802BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20220802BHJP
   A61K 47/30 20060101ALI20220802BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20220802BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20220802BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20220802BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20220802BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20220802BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20220802BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20220802BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20220802BHJP
【FI】
A61K35/12
A61K35/19 Z
A61K31/7088
A61K31/7105
A61K38/19
A61K38/18
A61K9/08
A61K47/30
A61K48/00
A61P9/00
A61P17/00
A61P25/00
A61P29/00
A61P31/04
A61P37/02
A61P37/06
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022087948
(22)【出願日】2022-05-30
(62)【分割の表示】P 2018562358の分割
【原出願日】2017-06-07
(31)【優先権主張番号】16173465.2
(32)【優先日】2016-06-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】518416908
【氏名又は名称】リザートファーマ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Lysatpharma GmbH
【住所又は居所原語表記】Hans-Knoell-Strasse 6,07745 Jena(DE)
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】特許業務法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】デ ミロシェジ,キーラ ナタリア マタハリ
(57)【要約】      (修正有)
【課題】多血小板血漿(PRP)及びヒト血小板溶解物(hPL)を供給源として使用する治療であって、簡便、安価で、信頼性があり、効率的な治療を実行可能にする医薬製剤を提供する。
【解決手段】本発明は、ヒト血小板溶解物又はヒト血小板溶解物由来細胞外小胞の富化画分及びそれらの医学における使用に関し、特に、炎症性疾患、神経変性疾患、免疫/自己免疫疾患、心血管疾患、皮膚疾患、整形外科疾患、組織再生医学、腫瘍性疾患、感染性疾患、移植拒絶反応、脳卒中、虚血症又は移植片対宿主病の予防及び/又は治療のための富化画分及び使用を提供する。本発明はさらに、ヒト血小板溶解物又はヒト血小板溶解物由来細胞外小胞の富化画分を医薬製剤又は診断製剤又は美容製剤に添加するステップを含んでいる、医薬製剤又は診断製剤又は美容製剤の製造方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
医学に使用するためのヒト血小板溶解物由来細胞外小胞の富化画分を含んでいる医薬製剤。
【請求項2】
炎症性疾患、神経変性疾患、免疫/自己免疫疾患、心血管疾患、皮膚疾患、感染性疾患、移植拒絶反応、脳卒中、虚血症又は移植片対宿主病の予防及び/又は治療のための、請求項1に記載の製剤。
【請求項3】
前記製剤が無細胞である、請求項1又は2に記載の製剤。
【請求項4】
前記ヒト血小板溶解物由来細胞外小胞の富化画分が、前記製剤における本質的な医薬活性成分である、請求項1~3のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項5】
前記富化画分における細胞外小胞が、10~1000nmのサイズ、特に50~200nmのサイズ、好ましくは70~140nmのサイズを有している、請求項1~4のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項6】
前記富化画分における細胞外小胞が、CD9、CD41a、CD41b、CD42b、CD61、CD62P、CD63及びシンテニンの群からなる細胞エクソソームマーカーの少なくとも1つについて陽性である、請求項1~5のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項7】
前記富化画分における細胞外小胞が、CD81、CD3、CD4、CD19、CD20、CD2、CD8、CD11a及びCD25の群からなる細胞エクソソームマーカーの少なくとも1つについて陰性である、請求項1~6のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項8】
前記富化画分における細胞外小胞が、サイトカインRANTES若しくはサイトカインNAP-2又はその両方について陽性である、抗微生物用途のための請求項1~7のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項9】
前記医薬製剤のタンパク質含有量が、0.5mg/mlより高い、請求項1~8のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項10】
前記ヒト血小板溶解物が、単一ドナー提供血小板又はプールされたドナー提供血小板に由来する、請求項1~9のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項11】
前記ヒト血小板溶解物が、バフィーコート抽出された血小板濃厚液又は血小板アフェレーシスに由来する、請求項1~10のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項12】
前記細胞外小胞が、mRNA、マイクロRNA(miRNA)、少量のDNA等の遺伝物質、脂質、及び、転写因子、サイトカイン、成長因子を含むタンパク質等の生物学的因子を含んでいる、請求項1~11のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項13】
前記製剤が、医薬的に許容可能な担体、好ましくは、医薬的に許容可能なポリマーを含んでいる、請求項1~12のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項14】
前記製剤が、静脈内投与若しくは点滴、腹腔内注射、皮下注射、骨内注射、脳室内注射、筋肉内注射、眼内注射又は局所投与に適している、請求項1~13のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項15】
a.単一ドナー提供血小板、又は、少なくとも15ドナー、好ましくは、少なくとも20ドナー若しくは少なくとも30ドナー若しくは少なくとも40ドナーのプールされたドナー提供血小板から、ヒト血小板溶解物を供給するステップと、
b.ヒト血小板溶解物に由来する細胞外小胞を富化するステップと、
c.免疫調節効果等の生体外効果を決定するステップと、
d.場合により、免疫調節効果、特に抗炎症効果及び/又は免疫抑制効果等の生体外効果を示す前記富化細胞外小胞を選択するステップと、
e.場合により、細胞エクソソームマーカーCD81に対して陰性であり、細胞エクソソームマーカーCD9に対して陽性である細胞外小胞を示す、ステップb)の富化された前記細胞外小胞を選択するステップと、
f.場合により、ステップa)のヒト血小板溶解物、又は、ステップb)、d)若しくはe)の富化された前記細胞外小胞を、少なくとも1つの適切な医薬賦形剤及び/又は医薬担体と混合するステップと
を含む方法によって得られた、請求項1~14のいずれか1項に記載のヒト血小板由来細胞外小胞の富化画分を含む医薬製剤。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
ヒト血小板溶解物(hPL)は、ヒト細胞培養におけるウシ胎児血清(FBS)の代替添加物として知られている。hPLは一般的に、実験目的及び臨床目的のヒト間葉系幹細胞培養において、基礎培地に添加するために使用されている。hPLは、異種由来成分を含まないため、慣習的に使用されているFBSと比較して有利であり、それゆえ、細胞療法において使用するための治療用製品を生成するのに適している。hPLは、(1回又は複数回の)凍結/解凍サイクルによるヒト血小板の溶解から得られる濁った淡黄色の液体として現れる。血小板の生理学的組織修復機能に起因して、血小板は、成長因子、ケモカイン及びインターロイキンを含むサイトカイン、他の代謝産物及び細胞外小胞(EV)のような数多くの生理活性分子を豊富に含む供給源である。蓄積及び溶解される間に、血小板は、大量の成長因子及び細胞外小胞(EV(例えば、エクソソーム、微小胞、アポトーシス小体))を放出し、それらのサイズは約40~1000nmの範囲である。これらの分泌された小胞は、ヒト血小板溶解物由来細胞外小胞(hPLEV)と称される。近年において、細胞培養システムにおける使用を目的としたいくつかのhPL関連GMP製品が市場に現れてきた。そのような製品として、例えば、Stem Cell Technologies社、Macopharma社、COMPASS Biomedical社及びPL Biosciences社の製品が挙げられる。最近では、Centre for Clinical Transfusion Medicine Tubingen社が、ドイツ薬事法(AMG)に従って、テュービンゲン地方官庁よりヒト血小板溶解物の製造許可を取得した。そのようなhPL製品には、それらをヒトに使用することについての規制要件に従った幹細胞の培養が必要となる。一方、hPLはヒト幹細胞、特に間葉系幹細胞の培養についての至適基準(gold standard)である。GMP無菌室条件下で得られるヒト血小板溶解物は、医薬品製造用の「ヒト起源の原材料」とみなされており、例えば、臨床試験において、又は、細胞療法のために製造許可された医薬品に使用されている。
【0002】
幹細胞の培養におけるhPLの価値は認められているものの、hPLにおける成長因子やEV等の単一因子の特性は、未だ詳細に解析されていない。hPLからのEVは臨床的に関心があるものとは考えられていないが、MSC等の異なる幹細胞に由来するEVは、臨床的及び治療的に関心を集めるようになってきている。
【0003】
EVは、細胞間及び器官間に、さらには生物間にさえも情報を伝達することが知られており、様々な体液内、例えば、血液、尿、脳脊髄液、母乳及び唾液内において検出されている。エクソソーム及び微小胞は、最も目立って説明されるEVの種類を含む。EVは、リン脂質膜に囲まれており、酵素、成長因子、受容体及びサイトカインを含むタンパク質や、脂質、コーディング及び非コーディングRNA、mRNA、マイクロRNA(miRNA)又はごく少量のDNA、及び、代謝物の、細胞型特異的な組み合わせを包含している。エクソソームは、70~170nm(+/-20nm、これには文献及び解析技術によって差がある)のサイズであるエンドソーム区画の由来物として定義される。平均サイズ100~1000nmの微小胞は、原形質膜の外側への出芽により形成されるより大きなEVの種類を表す。本出願では、用語EVは、上記の全ての小胞を含む。
【0004】
現在のところ、幹細胞由来のEVのみが治療目的に応じた治療上の可能性を有すると広く考慮及び議論されているように思われる。国際公開第2012/053976号は、発毛及び創傷治癒を促進するための、ヒト間葉系幹細胞によって分泌されるエクソソームの使用を開示している。これらの効果は、エクソソーム免疫調節輸送物(cargo)に関連して開示されている。国際公開第2012/053976号は、エクソソーム製剤の免疫調節効果について推測している。
【0005】
国際公開第2014013029号は、出生前及び出生後に受けた脳の損傷(すなわち、神経損傷)又は幹細胞移植後の免疫学的合併症(「移植片対宿主病」GvHD)等の炎症状態を予防又は治療するための、新生児又は成人の組織に由来する間葉系幹細胞(MSC)由来のエクソソーム製剤の使用に関する。
【0006】
Thomas Lener et al.によるJournal of Extracellular VesiclesのISEV(The International Society of Extracellular Vesicles)により発行された最新のポジションペーパー(Applying extracellular vesicles based therapeutics in clinical trials(臨床試験における細胞外小胞に基づく治療法の適用). 4: 30087)は、近年に議論されたEV供給源について、治療可能性と共に記載している。再生医学のために研究中の細胞供給源は、内皮細胞及び内皮コロニー形成細胞であり、それらには臍帯静脈由来のヒト内皮細胞及び後期内皮細胞が含まれる。加えて、骨髄性細胞及びリンパ性細胞に分化可能な造血前駆細胞は、血管新生促進機能を発揮し得る。神経幹細胞(NSC)は、脳卒中、多発性硬化症(MS)又は脊髄損傷等の様々な神経性障害及び神経炎症性障害における前臨床モデルにおいて使用されてきた。しかしながら、MSCと同様に、NSCもまた、損傷部位に移動するのではなく、傍分泌的かつ全身的に治療効果を発揮することが明らかになった。これに関連して、NSC由来のEVは、宿主の免疫系と相互作用し、それによって神経保護及び免疫調節を媒介すると考えられている。神経保護及び神経再生はまた、神経系の常在グリア細胞から放出されるEVによって媒介され得る。最後に、ごく最近の研究では、人工多能性幹細胞(iPSC)からのEVの単離、それらのRNA及びタンパク質を心臓細胞内へと移送する能力、並びに、それらの虚血性心筋における生体内(in vivo)での治癒能力が説明されている。さらに、iPSCは、大規模なEV産生のための体性幹細胞を一定の規模で調達するための供給源として、又はヒトNSC等の一次ドナー材料からはほとんど得られないEV供給源としての細胞を得るために使用され得る。これに関連して、iPSC由来MSCからのEVは、四肢虚血を軽減することが既に示されている。iPSCとEV技術とを組み合わることによって、将来的に新しい治療選択肢が提供される可能性があることが議論されている。
【0007】
上記の最近のポジションペーパー(Journal of Extracellular Vesicles 2015, 4: 30087)において提示されたことを概観するに、hPL由来のEVの治療可能性が考慮されていないことを強調しておく必要がある。
【0008】
MSC、NSC又はiPSC等のヒト幹細胞に由来するEVは、幹細胞培養が複雑かつ高価であり、供給源が医薬の大規模製造に限定されていることから、容易には入手できない。
【0009】
Torreggiani et al.の刊行物(2014, European Cells and Materials Vol.28, 137-151)は、hPL由来のエクソソームがヒト血小板溶解物活性における新規なエフェクターとして考えられる可能性があると論じている。Torreggiani et al.は、血小板由来のエクソソームを骨再生のために使用することについて論じている。彼らの研究では、PL由来エクソソームのMSC細胞培養担体に関連する役割が調査された。しかしながら、Torreggiani et al.に記載された調製法は、信頼のおけるEV抽出のための品質基準を満たしていないようである。
【0010】
加えて、MSC由来のEVを用いたほとんどの臨床試験では、MSCはhPLが添加された培地中で培養されており、その際、hPLEVの潜在的な相乗効果については扱われておらず、議論もされていない。先行技術では、間葉系幹細胞培養においてhPLが基礎培地の添加物として使用されていたとしても、MSC由来のEV研究において観察された効果は、MSC由来のEVに起因したものである。
【0011】
さらに、多血小板血漿(PRP)の使用に関する多数の科学論文、特許出願及び特許が存在している。そのようなものとしては、例えば、Eppley BL et al. (2006), Plast Reconstr Surg 118(6): 147e-159e、Mishra AK et al. (2012), Curr Pharm Biotechnol 13(7):1185-1195、及び、Carlson NE et al. (2002), J Am Dent Assoc 133(10):1388-1386が挙げられる。PRPは、濃縮された生きた血小板及び血漿から構成されており、これらは患者の全血に由来し、遠心分離されて赤血球及び他の望まれない成分が取り除かれたものである。PRPは、成長因子の濃度が全血よりも高く、歯科、整形外科手術、スポーツ医学を含む様々な専門分野における組織注入に使用されている。
【0012】
しかしながら、2016年現在に至るまで、基礎科学及び前臨床試験における結果は、大規模なランダム化比較試験では未だ確証されていない。2009年のレビューでは、科学文献が系統的にスクリーニングされたが、PRP治療の安全性及び有効性を適切に評価したランダム化比較試験はごくわずかしか見られなかった。PRPは、「関節、腱、靭帯及び筋肉損傷に対する、有望だが実証されていない治療選択肢」であると結論付けられた(Foster et al. (2009). Am J Sports Med 37 (11): 2259-72も参照のこと)。
【0013】
PLの使用に関しては、例えば国際公開第20130765507号において、創傷治癒の分野における特定の用途が記載されている。この国際公開第20130765507号は、血小板溶解物を含む医薬組成物、及び、創傷、肛門裂傷、膣萎縮又はしわを治療するための該医薬組成物の使用について記載している。Fontana et al. (2016) ASC Appl Mater Interfaces 8(1): 988-996には、創傷治癒用途における細胞増殖の増強のためのPL修飾ケイ素微粒子について記載されている。
【0014】
要約すると、PRP関連の先行技術では、創傷治癒用途を超えた臨床用途のためのhPL又はhPLEVの使用については記載されていないようである。
【0015】
そのため、当技術分野に関して、PRP及びPLを供給源として使用する治療であって、簡便、安価で、信頼性があり、効率的な治療を実行可能にする手段及び方法が、決定的に必要とされている。同様のことは、複雑かつ高価な幹細胞培養システムに基づかないEVベースの治療にも該当する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、上述の必要性を満たすこと、及び、医学(medicine)、特に治療医学、再生医学及び予防医学における新規なツールとしてのhPL由来のEVを提示することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、医学に使用するための、ヒト血小板溶解物又はヒト血小板溶解物由来細胞外小胞の富化画分(この画分は、以下においてhPLEVとも略される)を含んでいる医薬製剤に関し、特に、急性又は/及び慢性の炎症性疾患及び免疫疾患(自己免疫疾患及び移植拒絶反応に起因する疾患(例えば、GvHD)を含む)、神経疾患及び神経変性疾患(脳卒中、虚血症)、皮膚疾患、心血管疾患、整形外科疾患、感染性疾患、癌疾患、組織再生(固形臓器、中空構造、負傷)の予防及び/又は治療に使用するための、上記医薬製剤に関する。
【0018】
本発明はさらに、ヒト血小板溶解物又はヒト血小板溶解物由来細胞外小胞の富化画分の美容用途に関する。これらの用途には、以下が含まれる:肌関連抗炎症の美容治療、負傷又は火傷後の皮膚再生、肌の老化防止治療、並びに、毛髪脱落の予防及び治療。
【0019】
本発明はまた、ヒト血小板溶解物又はヒト血小板溶解物由来細胞外小胞の富化画分の診断用途に関する。
【0020】
本発明はさらに、ヒト血小板溶解物又はヒト血小板溶解物由来細胞外小胞の富化画分を医薬製剤又は診断製剤又は美容製剤に添加するステップを含んでいる、医薬製剤又は診断製剤又は美容製剤の製造方法に関する。
【0021】
幹細胞由来のEVをhPLEVに置き換えることには、生物学的重要性、コスト及び努力に関して数多くの利点があるが、そのような置き換えが従来技術において示唆されたことはなかった。hPLはヒトの血液/血漿に由来するため、MSC、ESC、NSC又は他の幹細胞タイプとは対照的に、供給源が再生可能かつ容易に入手可能である。したがって、hPLEVは、幹細胞培養物由来のEVよりも容易に入手可能であり、かつ安価である。対応する幹細胞培養由来のEVに対する本発明のさらなる利点としては、血小板が無菌室条件を必要としないこと、及び、時間及び費用のかかる細胞実体のフローサイトメトリーによる特性解析を必要としないことが挙げられる。加えて、病院及び診療所での用途のために製造され、数日後に期限切れになる過剰なヒト血小板濃厚液製品が、廃棄されることなく依然としてhPLの製造に使用可能となる。
【0022】
さらに、本発明は、期限切れとなり、凍結されて貯蔵された血小板から、特に採取後7日以内に産生されるhPLに関し、このhPLは、生きた血小板の遅延放出方法によらず、血小板の活性成分を直ちに提供する。したがって、本発明の重要な一態様は、使用する代わりにhPL又はhPLEVを医学治療又は美容治療に使用することに関し、このことは、生きた血小板の使用(例えば、多血小板血漿療法)に対して驚くべき利点を示すものであり、hPL療法又はhPLEV療法は、驚くべき利点を有する。
【0023】
注目すべきことに、本発明は、医学において、ヒト血小板溶解物又はヒト血小板溶解物由来細胞外小胞の富化画分を直接使用することを初めて記述するものであり、特に、急性又は/及び慢性の炎症性疾患及び免疫疾患(自己免疫疾患及び移植拒絶反応に起因する疾患(例えば、GvHD)を含む)、神経疾患及び神経変性疾患(脳卒中、虚血症)、皮膚疾患、心血管疾患、整形外科疾患、感染性疾患、癌疾患、組織再生(固形臓器、中空構造、負傷)、並びに、抗菌治療が有利な疾患の予防及び/又は治療に使用するために、上記画分を直接使用することを初めて記述するものである。
【0024】
本発明は、ヒト血小板溶解物又はヒト血小板溶解物由来細胞外小胞の富化画分を医薬品として直接使用すること、及び、美容用途に直接使用することについて、初めて教示する。これらの用途には、肌関連抗炎症の美容治療、抗菌治療、負傷又は火傷後の皮膚再生、肌の老化防止治療、並びに、毛髪脱落の予防及び治療が含まれる。
【0025】
本発明は、hPL又はhPLEVの医薬品としての新規な使用について初めて提示する。この医薬品は、低コストで製造可能であり、異種由来成分及び細胞を含まない高い医学的品質を有する製品である一方で、臨床細胞培養中間体を必要としない。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の理解を補助するため、いくつかの用語が以下に定義される。他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての技術的用語及び科学的用語は、当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書に記載のものと類似又は同等である任意の方法及び材料は、本特許請求の範囲を実施又は試験するにあたって使用できるが、本明細書には、例示的な方法及び材料が記載される。
【0027】
さらに、不定冠詞「a」又は「an」による要素への参照は、1つの要素のみが存在することを文脈が明確に要求していない限り、2つ以上の要素が存在する可能性を排除しない。したがって、不定冠詞「a」又は「an」は、通常、「少なくとも1つ」を意味する。用語「約」は、規定された濃度、長さ、分子量、pH、時間枠、温度、圧力又は体積等の1つ又は複数の値について統計的に有意な範囲であることを意味する。そのような値又は範囲は、所与の値又は範囲の典型的には20%以内、より典型的には10%以内、さらにより典型的には5%以内であり得る。「約」に包含される許容可能な変動は、研究中の特定のシステムに依存すると考えられる。
【0028】
用語「備える(comprising)」、「有する(having)」、「含む(including)」及び「含有する(containing)」は、他に述べられていない限り、非限定(open-ended)の用語(すなわち、「含むが、それらに限定されない」を意味する)として解釈されるべきである。
【0029】
本明細書における値の範囲の参照は、その範囲内に含まれるそれぞれ個別の値を個々に指す簡潔な方法としての役割を果たすことを単に意図したものであり、本明細書において別段の指示がない限り、範囲を定義する端点境界を含み、それぞれ個別の値は、それらが本明細書において個々に参照されているかのように、明細書に組み込まれる。
【0030】
本発明の文脈において、hPLとは、有益な治療効果又は美容効果を有する任意の種/プールのヒト血小板溶解物を意味する。血小板(platelet)は、血小板(thrombocyte)とも称され、血液中の不規則な円盤形状要素であって、血液凝固を補助するものである。通常の血液凝固の間に、血小板は凝集によって膠着する。血小板は、しばしば血球として分類されるが、核を有さない。血小板は、骨髄内に位置/配置された巨核球と称される大細胞に由来する。hPLを産生するためには、血小板が溶解されて、これにより血小板の内部内容物が、周囲の血漿中に放出される。血小板の溶解は、凍結解凍サイクルによって達成され得る。適切なプロトコルは、先行技術中に見出され得る。
【0031】
ヒト血小板溶解物中に高含有量で含有される生物学的成分の1つは、EVである。EVはほとんどの体液の中に存在するため、血漿由来のEVは、白血球、赤血球、樹状細胞(DC)、血小板、肥満細胞、上皮細胞、内皮細胞及びニューロン等の異なる細胞型に由来し得る。一方、hPLは、献血の際には既に血漿中に存在していた血漿由来のEVを含有し得る。他方、hPLは、血小板濃縮産物の貯蔵期間中に生きている血小板によって分泌される特定の血小板由来のEVを大量に含有し得る。20~24℃での1週間近くの保存期間中に、細胞はそれら特定のEVを周囲の血漿中に分泌し続ける。血小板濃厚液の使用期限に達した際であって、血液製剤が血小板溶解物の産生のような他の目的に使用可能である際には、この特異的なEV富化は溶解物中にまだ存在しているはずであり、これらの溶解物はさらに処理されて、hPLEV富化画分が得られ得る。加えて、血小板は溶解によって破裂(burst)し、血小板の可溶性内部成分を血漿中に放出する。
【0032】
EVのタンパク質プロファイルは、それらの細胞起源によって異なる。
【0033】
血小板の特性解析のための特異的CDマーカーは、活性化前に血小板表面に現れる表面マーカーCD9、CD41b、CD42a、CD42b及びCD61である。
【0034】
活性化中に血小板表面に現れる、PAC-1、CD62P、CD31、CD63及びシンテニン等のマーカーもある。
【0035】
血小板又は内皮細胞由来のエクソソームは、例えば、典型的な表面マーカーの発現によって同定され得る(例えば、CD31=血小板内皮細胞接着分子-1、又は、CD62P=P-セレクチン)。これらのマーカーは、分泌細胞実体上の表面マーカーに対応する。血漿EVは、異なる細胞亜集団に由来することがあり、そのため異なるマーカーサブセットをも含み得る。
【0036】
別の点としては、hPLが、血小板濃厚液の貯蔵期間中(20~24℃)において4~6日後に使用期限に達する前に、生きている血小板から放出されたEVを含有することが挙げられる。したがって、hPLは、ヒト血小板由来のEVの重要な画分を含有している。通常の血漿産物と比較して、期限切れの血小板濃厚液から産生された血小板溶解物は、血小板EVが大きく富化されている。その後の処理を伴う溶解の時点では、濃厚液における全ての可溶性の傍分泌因子は、細胞及び他の細胞成分を取り除きつつ保存される。
【0037】
EVは、様々な生体分子のための溶媒(vehicle)として機能する。そのような生体分子には、脂質、タンパク質(例えば、転写因子、サイトカイン、成長因子)、及び、mRNA、マイクロRNA(miRNA)又はごく少量のDNA等の核酸が含まれる。
【0038】
エクソソームの脂質成分には、スフィンゴミエリン、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ガングリオシド(GM3)、ホスファチジルイノシトール、プロスタグランジン及びリゾビスホスファチジン酸等の膜脂質が含まれる。
【0039】
さらに、脂質及びタンパク質に加えて、エクソソームはまた、核酸を含有し得る。そのような核酸には、mRNA、miRNA、並びに、タンパク質コード領域と重複するRNA転写物、反復配列、構造RNA、tRNA、rRNA、ヴォールトRNA、Y RNA及び低分子干渉RNA(siRNA)を含む他の様々な小型非コーディングRNA種、さらに、ミトコンドリアDNA、及び、レトロトランスポゾンの短いDNA配列が含まれる。
【0040】
本明細書で使用される用語「核酸」は、概して、それぞれ一本鎖及び/若しくは二本鎖形態の直鎖状若しくは環状のポリリボヌクレオチド(RNA)及びポリデオキシリボヌクレオチド(DNA)、又はそれらの混合物を含み、混合物にはハイブリッド分子が含まれる。RNAには、以下に限定されないが、メッセンジャーRNA(mRNA)、非コーディングRNA(nc-RNAを含むアンチセンスRNA)、サイレンサーRNA、マイクロRNA(miRNA)、低分子ヘアピン型RNA(shRNA)、低分子干渉RNA(siRNA)、反復関連低分子干渉RNA(rasiRNA)、piwi相互作用RNA(piRNA)、Y RNA、長鎖非コーディングRNA(長鎖ncRNA、IncRNA)、トランスファーRNA(tRNA)、リボソームRNA(rRNA)、核内低分子RNA(snRNA)、核小体低分子リボ核酸(snoRNA)、スプライスリーダーRNA(SL RNA)が含まれ得る。前述のRNAの全ては、原則的にEV成分として考えられ、本発明の方法の範囲内において利用され得る。
【0041】
EVはまた、タンパク質及びペプチドをも含む。用語「ポリペプチド」及び「タンパク質」は、本明細書では交換可能に使用される。用語「ポリペプチド」は、典型的には少なくとも20個、好ましくは少なくとも30個、例えば少なくとも50個のアミノ酸を含む又はそれらからなる、タンパク質又はペプチドを称する。用語「ペプチド」は、少なくとも2個のアミノ酸から約19個までのアミノ酸を含む又はそれらからなるオリゴマーを称する。
【0042】
最も頻繁に同定されるEVのタンパク質は、膜輸送体及び融合タンパク質(例えば、Rab5、アネキシン及びフロチリン等のGTPase)、熱ショックタンパク質(例えば、HSC70)、テトラスパニン(例えば、CD9、CD63及びCD81)、MVB生合成(例えば、Alix及びTSG101)によるタンパク質、脂質関連タンパク質及びホスホリパーゼ、細胞骨格タンパク質(アクチン、コフィリン-1、エズリン/ラディキシン/モエシン、プロフィリン-1及びチューブリン)、代謝酵素並びにリボソームタンパク質である。いくつかのタンパク質はエクソソームマーカーとして認識されており、なかでもテトラスパニン(例えばCD63、CD81)及びTSG101(ESCRT複合体のタンパク質)は、検出に最も一般的に使用されるマーカーである。
【0043】
後者はエクソソームのマーカーとして一般的に使用されるが、それらはエクソソームに限定されず、他の細胞外小胞に見出され得る。
【0044】
本発明の文脈において、hPLは、治療用途、診断用途又は美容用途の文脈において有用であり得る任意のヒト血小板溶解物を含む。好ましくは、GMP条件に従って製造されたhPLであり、好ましくは、ドイツ薬事法(AMG)に従って製造されたものである。該hPLの起源は、単一又はプールされたドナー提供血小板に由来し得る。特定の年齢の献血者を起源とするhPLを使用することが好ましいことがあり、例えば、10~60歳、18~50歳、18~40歳、18~30歳、又は18~20歳の献血者に由来するhPLを使用することが好ましいことがある。精密医学の文脈では、自身の全血を起源とするヒト血小板溶解物又はヒト血小板溶解物由来細胞外小胞の富化画分を用いて患者を治療することが有利であり得る。本発明の好ましい実施形態によれば、hPLは、健康な個体を起源とする。
【0045】
誤解を避けるために説明すると、hPLは、任意のEV富化、単離又は精製方法を行う前から、ヒト血小板由来細胞外小胞が血漿EVに比べて概ね富化されている。本発明の文脈において、用語「ヒト血小板溶解物由来細胞外小胞の富化画分」とは、hPLが少なくとも1段階のEV富化、単離又は精製方法によって処理されたことを意味する。この富化、単離又は精製工程の後、「ヒト血小板溶解物由来細胞外小胞の富化画分」は、非EV混入物をほとんど含まない。
【0046】
hPL又はhPLの富化画分は、溶解前に、先行技術(例えば、PRP療法に関する先行技術)より血小板活性化因子として知られる1つ又は複数の化合物と共にインキュベートされた血小板から取得可能である。そのような化合物は、血小板を活性化することによって、本発明の製剤の品質を高める。
【0047】
本発明の一実施形態によれば、hPLは、ヒト臍帯血に由来し得る。ヒト臍帯血血小板溶解製剤は、先行技術から既知である(例えば、米国特許第8501170号、Parazzi, V., C. Lavazza, et al. (2015)、又は、Forte, D., M. Ciciarello, et al. (2015))。
【0048】
本発明の目的について、全ての文法形式における用語「単離(isolation)」及び「単離する(isolation)」とは、EVの環境(例えば、血清又は血漿サンプル)からEVを分離又は回収する行為に関する。全ての文法形式における用語「精製する(purifying)」及び「精製(purification)」とは、所望のEVから(非EV)汚染物質を(実質的に)低減/除去する行為に関する。全ての文法形式における用語「富化する(enriching)」及び「富化(enrichment)」とは、それぞれの溶媒中のEVの割合を増加させることを意味する。
【0049】
本明細書に記載のhPL、又は、hPLEVの富化画分は、医学に使用することができる。本発明の一実施形態によれば、hPL、又は、hPLEVの富化画分は、炎症性疾患の予防及び/又は治療に使用される。炎症性異常には、多種多様なヒト疾患の根底にある大きな障害群が含まれる。免疫系は、多くの場合、異常な炎症を引き起こす多くの免疫系障害を伴うアレルギー反応及びいくつかのミオパシーの両方において示される炎症性障害に関与する。炎症過程における病因を伴う非免疫疾患には、癌、動脈硬化症及び虚血性心疾患が含まれる。炎症過程には、多種多様なタンパク質が関与する。そのようなタンパク質のうちいずれかが遺伝子突然変異によって改変されていることがあり、その結果として、通常のタンパク質機能又はタンパク質発現の機能障害又は調節不全が生じることがある。炎症に関連する障害の例には、尋常性ざ瘡、喘息、自己免疫疾患、セリアック病、慢性前立腺炎、糸球体腎炎、過敏症、炎症性腸疾患、骨盤内炎症性疾患、再灌流障害、慢性関節リウマチ、サルコイドーシス、移植拒絶反応、血管炎及び間質性膀胱炎が含まれる。多くの疾患は炎症に伴うと考えられているか、自己免疫疾患として分類されている。様々な種類の炎症性疾患には、痛風、狼瘡、喘息、胸膜炎、湿疹、関節炎、胃炎、脾臓炎、副鼻腔炎、肝炎、腎炎、乾癬、血管炎、喉頭炎、甲状腺炎、前立腺炎、咽頭炎、サルコイドーシス、アテローム性動脈硬化症、アレルギー反応、多発性硬化症、いくつかのミオパシー、慢性関節リウマチ、脂漏性皮膚炎、ウェゲナー肉芽腫症、過敏性腸症候群(IBS;クローン病)、潰瘍性大腸炎、憩室炎が含まれる。
【0050】
本発明の一実施形態によれば、hPL、又は、hPLEVの富化画分は、神経変性疾患の予防及び/又は治療に使用される。そのような神経変性疾患としては、以下に限定されないが、例えば、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症、皮質基底核変性症、前頭側頭型認知症、HIV関連認知障害、ハンチントン病、レビー小体型認知症、軽度認知障害、後部皮質萎縮症、一次進行型失語症、進行性核上性麻痺及び血管性痴呆が挙げられる。
【0051】
本発明の一実施形態によれば、hPL、又は、hPLEVの富化画分は、免疫/自己免疫疾患の予防及び/又は治療に使用される。そのような免疫/自己免疫疾患としては、以下に限定されないが、例えば、アジソン病、セリアック病-セリアックスプルー(グルテン過敏性腸症)、皮膚筋炎、バセドウ病、橋本甲状腺炎、多発性硬化症、重症筋無力症、悪性貧血、反応性関節炎、慢性関節リウマチ、シェーグレン症候群、全身性エリテマトーデス及び1型糖尿病が挙げられる。
【0052】
本発明の一実施形態によれば、hPL、又は、hPLEVの富化画分は、心血管疾患の予防及び/又は治療に使用される。そのような心血管疾患としては、以下に限定されないが、例えば、冠状動脈性心臓病、脳血管疾患、末梢動脈疾患、リウマチ性心疾患、先天性心疾患、深部静脈血栓症及び肺塞栓症が挙げられる。
【0053】
本発明の一実施形態によれば、hPL、又は、hPLEVの富化画分は、皮膚疾患の予防及び/又は治療に使用される。そのような皮膚疾患としては、以下に限定されないが、例えば、にきび、湿疹(アトピー性湿疹)、爪の真菌感染症、ヘルペス及び乾癬が挙げられる。
【0054】
本発明の一実施形態によれば、hPL、又は、hPLEVの富化画分は、整形外科疾患の予防及び/又は治療に使用される。そのような整形外科疾患としては、以下に限定されないが、例えば、慢性関節リウマチ、滑液包炎、肘の痛み及び問題、肘部管症候群、外側上顆炎(テニス肘)、内側上顆炎(ゴルフ肘又は野球肘)、線維筋痛症、足の痛み及び問題、骨折、股関節の骨折、腰痛、手の痛み及び問題、手根管症候群、膝の痛み及び問題、膝靭帯損傷、半月板損傷、後弯症、首の痛み及び問題、骨粗鬆症、骨ページェット病、側弯症、肩の痛み及び問題、軟部組織損傷が挙げられる。
【0055】
本発明の一実施形態によれば、hPLE又はhPLEVの富化画分は、組織再生医学の予防及び/又は治療に使用される。組織工学は、生体材料開発の分野から発展したものであり、足場、細胞及び生理活性分子を機能性組織へと組み合わせるという実践を示す。組織工学の目標は、損傷を受けた組織又は臓器全体を修復、維持又は改善する機能的構成物を組み立てることである。人工皮膚及び軟骨は、FDAによって承認されている人工組織の例であるが、それらは現在、ヒト患者での使用は制限されている。再生医学は、組織工学を含むだけでなく、自己治癒に関する研究をも組み込んだ幅広い分野である。自己治癒では、身体が自身のシステムを使用して細胞を作り直し、時には外来/同種異系の生物学的物質の補助を受けて、組織や臓器を再構築する。複雑かつ多くの場合慢性の疾患に対する治療の代替となる治療法に注目することが本分野に期待されることから、用語「組織工学」及び「再生医学」は、大部分が交換可能なものとなってきている。
【0056】
本発明のさらなる実施形態によれば、hPL、又は、hPLEVの富化画分は、腫瘍性疾患の予防及び/又は治療に使用される。そのような腫瘍性疾患としては、以下に限定されないが、例えば、膀胱癌、骨癌、乳癌、結腸/直腸癌、ホジキン病、白血病、肝臓癌、肺癌、皮膚のリンパ腫、多発性骨髄腫、上咽頭癌、非ホジキンリンパ腫、骨肉腫、卵巣癌膵臓癌、前立腺癌、肉腫-成人軟部組織癌、皮膚癌、小腸癌及び胃癌が挙げられる。
【0057】
本発明のさらなる実施形態によれば、hPL、又は、hPLEVの富化画分は、移植拒絶反応の予防及び/又は治療に使用される。本発明のさらなる実施形態によれば、hPL、又は、hPLEVの富化画分は、脳卒中、虚血症又は移植片対宿主病の予防及び/又は治療に使用される。
【0058】
好ましい実施形態によれば、疾患は、細胞療法によって現在治療されている疾患の群から選択され得る。そのような細胞療法としては、以下に限定されないが、例えば、同種異系細胞療法、ヒト胚性幹細胞療法、神経幹細胞療法、間葉系幹細胞療法及び造血幹細胞移植の適用が挙げられる。
【0059】
同種異系細胞療法は、クローン病及び様々な血管状態を含む状態を治療するため、そのような製品を開発することを試みている。ヒト胚性幹細胞の調査は、糖尿病及びパーキンソン病の可能な治療を含むいくつかの治療用途の基礎として使用されてきた。神経幹細胞療法では、神経幹細胞(NSC)は、例えばパーキンソン病及びハンチントン病等のいくつかの神経障害を治療するための、可能な治療用途についての進行中の調査対象である。間葉系幹細胞療法は、免疫調節療法、骨及び軟骨の再生、心筋再生、並びに、ハーラー症候群、骨格障害及び神経障害の治療を含む広範囲の治療に使用されている。
【0060】
本発明のさらなる実施形態によれば、hPL、又は、hPLEVの富化画分は、感染性疾患の予防又は治療に使用可能であり、特に、細菌、ウイルス、真菌又は寄生虫によって引き起こされる疾患の予防又は治療に使用可能である。好ましい一実施形態は、皮膚科における感染性疾患の治療であり、そのような感染性疾患としては、例えば、蜂巣炎、丹毒、化膿性汗腺炎、膿痂疹及び膿瘡、リンパ節炎、リンパ管炎、皮膚の壊死性感染症又はブドウ球菌熱傷性皮膚症候群が挙げられる。
【0061】
本発明の製剤のさらなる好ましい一用途は、血小板治療又は多血小板血漿治療が先行技術において正の効果を有すると記載されている適応症に関する用途である。先行技術からは、健康及び疾患の両方において、血小板の重要な免疫関連機能及び炎症関連機能に対する認識が高まっていることが知られている。いくつかの研究は、血小板が炎症過程に及ぼす影響が、アテローム性動脈硬化症から感染性疾患にまで及んでおり、これにより血小板が、免疫学的機能を有する最多の循環細胞型となることを論証している。血小板は、接触依存のメカニズムによって直接、かつ、分泌された免疫メディエーターのメカニズムによって間接的に、白血球及び血管内皮細胞と相互作用する。したがって、血小板に媒介される免疫効果は、血小板活性化及び血小板付着の部位において局所的に、又は、血小板活性化自体から離れた位置において全身的に生じる。
【0062】
血小板は、血栓症の細胞メディエーターとして最もよく知られている(Craig N. Morrell et al. 2014. "Emerging roles for platelets as immune and inflammatory cells(免疫細胞及び炎症性細胞としての血小板の新たな役割)" Blood: 123 (18)を参照)。この論文では、健康及び疾患の両方において、血小板の重要な免疫関連機能及び炎症関連機能に対する認識が高まっていることが記載されている。いくつかの研究は、血小板が炎症過程に及ぼす影響が、アテローム性動脈硬化症から感染性疾患にまで及んでおり、これにより血小板が、免疫学的機能を有する最多の循環細胞型となることを論証している。血小板は、接触依存のメカニズムによって直接、かつ、分泌された免疫メディエーターのメカニズムによって間接的に、白血球及び血管内皮細胞と相互作用する。したがって、血小板の免疫効果は、血小板活性化及び血小板付着の部位において局所的に、又は、血小板活性化自体から離れた位置において全身的に認められる。Craig N. Morrellらは、血小板の炎症細胞との相互作用が炎症誘発性転帰を媒介し得ると結論しているが、これらの相互作用は、感染を制限するのに有益であるように進化した可能性が高い。例えば、皮膚に傷がある場合には病原体への曝露があることになるが、血小板機能及び免疫補充機能を組み合わせることにより、血小板は、病原体の侵入を防ぐために、止血及び潜在的な感染因子に対する免疫反応の集中を助け得る。しかしながら、血小板の白血球又は内皮細胞との継続的又は慢性的な相互作用は、過度の免疫刺激及び炎症性傷害による有害な影響を及ぼし得る(Craig N. Morrell et al. (2014)を参照)。先行技術より、血小板は、軸索再生、創傷治癒及び疼痛軽減の文脈において正の効果を有することが知られている(Kuffler DP et al., Mol Neurobiol. 2015 Oct; 52(2):990-1014)。
【0063】
本発明によれば、血小板の免疫及び炎症における重要な役割が部分的に置換可能であり、生きている血小板の代わりにhPL又はhPLEVを使用することによって、再生特性が改善され得ることが見出された。
【0064】
したがって、好ましい適応症は、創傷治癒、組織再生、神経損傷、腱炎、変形性関節症、心筋損傷、骨の修復及び再生、並びに、形成外科及び口腔外科手術を含む。
【0065】
本発明のさらなる実施形態によれば、該製剤は、無細胞である。本発明の文脈における無細胞とは、該製剤が、生きている無傷の細胞及び細胞断片を実質的に含まないことを意味する。本発明のhPLEV画分は、好ましくは無細胞製剤である。無細胞製剤は、EVが富化されている一方で、他の成分が減少している。
【0066】
本発明のさらなる実施形態によれば、hPL又はhPLEVの富化画分は、製剤における本質的な医薬活性成分である。
【0067】
本質的な医薬活性成分であることは、hPL又はhPLEVの富化画分が、ヒトに投与された際に治療価値又は他の価値を有することを意味する。本質的な医薬活性成分であることはまた、該製剤が、ヒト血小板溶解物、hPL成分、又は、ヒト血小板由来細胞外小胞の富化画分を除き、他の医薬活性成分を実質的に含まないことをも意味する。
【0068】
本発明に係る製剤は、ヒト血小板溶解物又はヒト血小板溶解物由来細胞外小胞の富化画分の他に、1つ又は複数の添加剤を含み得る。そのような添加剤は、有効成分と併せて製剤化された天然物質又は合成物質であり得る。その目的としては、例えば、長期にわたり安定化させること、強力な活性成分を含有する固体製剤の嵩増しを行うこと(そのため、しばしば「増量剤」、「充填剤」又は「希釈剤」と称される)、又は、最終剤形中の活性成分に対し、薬物吸収促進、粘度低下又は溶解度増強等の治療増強能を付与することが挙げられる。添加剤はまた、製造過程において、粉末流動特性又はべたつき防止特性を促進すること等、関係する活性物質の取り扱いを補助するために有用であり得ると共に、想定される保存可能期間中の変性又は凝集を防止すること等、生体外における(in vitro)安定性を補助するためにも有用であり得る。適切な添加剤の選択はまた、投与経路及び剤形、並びに、活性成分及び他の因子にも依存する。
【0069】
本発明のさらなる実施形態によれば、ヒト血小板溶解物由来細胞外小胞(エクソソーム)の富化画分における細胞外小胞は、約70~200nm、好ましくは約70~140nm、又は、より好ましくは約70~120nmのサイズを有する。「約」とは、±20%の偏差を意味するものである。さらに好ましくは、エクソソームは、特徴的なEVマーカー又はエクソソームマーカーについて陽性であり、さらにより好ましくは、該医薬製剤のタンパク質含有量は0.5mg/mlよりも多く、好ましくは1mg/mlよりも多い。
【0070】
hPLEVマーカーは、熱ショックタンパク質(例えば、HSC70)、テトラスパニン(例えば、CD9、CD10、CD26、CD53、CD63、CD82)、MVB生合成によるタンパク質(例えば、例えば、Alix及びTSG101)、EpCAM又はRab5を含むが、実質的にCD81(通常、標準的なEV表面マーカーである)、CD2、CD8、CD11a及びCD25が欠落している(Koliha et al. 2016)。
【0071】
本発明のさらなる実施形態によれば、該細胞外小胞は、CD9、CD41a、CD41b、CD42b、CD61、CD62P及びCD63の群からなるEVマーカー又はエクソソームマーカーのうち少なくとも1つについて陽性である。好ましくは、該細胞外小胞は、上記EVマーカー又はエクソソームマーカーのうち2、3、4、5、6又は7個に対して陽性である。
【0072】
本発明に従って陽性であることは、Koliha, Nina et al. (2016)に記載される方法に従ってビーズベースのマルチプレックスプラットフォーム解析を実施する際における、上記の陽性表面マーカーの1つのバックグラウンド媒体蛍光強度が、NK細胞由来の細胞外小胞との比較例よりも高いことを意味する。
【0073】
あるいは、上述のマーカーの特異的タンパク質を検出するために、他の技術を適用することが可能である。そのような技術としては、例えば、ウエスタンブロット解析が上げられる。
【0074】
本発明のさらなる実施形態によれば、該細胞外小胞は、CD81、CD3、CD4、CD19、CD20、CD2、CD8、CD11a及びCD25の群からなる表面マーカーのうち少なくとも1つについて陰性である。好ましくは、該細胞外小胞は、上記細胞エクソソームマーカーのうち2、3、4、5、6、7、8又は9個に対して陰性である。
【0075】
hPLEV富化画分の品質を確証するには、含有されているEVの生物学的特性及び生物物理学的特性について、いくつかの標準的な特性解析基準が満たされるべきである。そのような特性解析のための技術水準は、国際細胞外小胞学会(ISEV)推奨の基準及び標準である。EV分野における最新の科学的知識に基づき、これらの基準は、任意の特定の生物学的輸送物又は生物学的機能をEVに帰属させるために使用されるべきである。
【0076】
基本となる品質基準/標準
1.BCAアッセイ、ブラッドフォードアッセイのような同様のアッセイ、又は、(「NanoDrop」のような)分光法に基づく機器を用いた、標準的なタンパク質定量方法によるタンパク質含有量[mg/ml]の決定。
【0077】
2.NanosightやZetaview等のナノ粒子トラッキング解析(NTA)プラットフォーム、又は、単一粒子レベルでのEV解析が可能な「Amnis」等のImage-Streamフローサイトメトリーを用いた、平均粒子サイズ[nm]及びサイズ分布[curve]の決定。
【0078】
3.EVタンパク質又はエクソソームタンパク質を含む典型的なEVマーカータンパク質の半定量的検出(SDS-PAGE、ウエスタンブロット、特異的抗体による検出、シグナルの検出)。概して、EV含有量は、細胞起源、産生細胞株の前処理及び調製方法に大きく依存している。しかしながら、エクソソーム等のEVは、それらの特性解析に使用可能な概ね想定されるマーカーの一般的なセットを提示する。最も一般的に使用されるマーカーは、テトラスパニン(CD9、CD63、CD81)、エンドソーム由来のタンパク質又は膜結合タンパク質(TSG101、アネキシン、Rab、シンテニン、フロチリン)、及び、シャペロンタンパク質(HSC70、HSP90)である。PL-EVの場合には、特性上それらはCD81を欠いている。
【0079】
4.細胞溶解物とPL-EV画分との半定量的比較による純度の決定。PL-EV画分は、小胞体由来のタンパク質(例えば、Grp94、カルネキシン)、ゴルジ装置(例えば、GM130)又はミトコンドリア(例えば、プロヒビチン、シトクロムC)のような細胞残基を含有しているべきではない。そのようなマーカーは、陰性マーカーとして使用可能である。加えて、核酸タンパク質(ヒストン、アルゴノート/RISC複合体)は、陰性対照の例として使用可能であった。
【0080】
3+4の場合:典型的なEVマーカー検出のための解析アプローチは、ウエスタンブロット(WB)、(高分解能)フローサイトメトリー、又は、質量分析技術を用いた包括的プロテオーム解析を含み得る。PL-EV富化画分のさらなる特性解析は、以下の方法に基づく。
【0081】
プロテオミクス
ウエスタンブロット(WB)、(高分解能)フローサイトメトリー、又は、質量分析技術を用いた包括的プロテオーム解析を含む、hPLEVのタンパク質プロファイリングのための解析アプローチは、免疫学的マーカー、シグナル伝達マーカー、サイトカイン及び他の関連する生理活性タンパク質の含有量等、他のEVマーカーの特性解析のための技術水準でもある。
【0082】
hPLEVからのRNAのマイクロアレイ分析
hPLEV RNAをプロファイリングするために、マイクロアレイ技術が適用可能である。マイクロアレイは、スライド又はチップベースの媒体を使用して既知の核酸断片の発現を解析するための十分に確立された技術である。マイクロアレイは、mRNA、miRNA及び長鎖非コーディングRNA(IncRNA)種をスクリーニングするために利用可能である。
【0083】
リピドミクス
小胞膜中の脂質及び脂質ラフト関連タンパク質は、細胞外小胞に安定性及び構造的完全性を提供する。それらの起源となる細胞と比較して、hPL-EVは、同様の脂質組成を表すはずである。
【0084】
PL-EVは、ホスファチジルセリン、ジ飽和ホスファチジルエタノールアミン、ジ飽和ホスファチジルコリン、スフィンゴミエリン、ガングリオシド及びコレステロールが豊富であり得る。脂質組成及び比率の同定のために、質量分析、フローサイトメトリー、又は他の従来のアッセイを使用することができる。
【0085】
サイトカインアレイ
EV富化画分のELISAアッセイに基づくサイトカイン分析
HPLEV含有画分は、サイトカインプロファイルについて半定量的に解析され得る。この解析は、例えば、市販の膜ベースのサイトカインアレイを用いて行われる。サイトカインには、ケモカイン、腫瘍壊死因子、インターロイキン、インターフェロン及びコロニー刺激因子が含まれる。この技術は、多くの異なる所定のタンパク質(例えば、200個のサイトカイン)を並行して検出するための非常に感度の高い方法を提供する。わずか数ピコグラムのタンパク質量が検出可能である。このアッセイは、固定された特異的一次抗体が結合している膜に基づく。周囲の液体に含有されたサイトカインは、インキュベート中にこれら一次抗体に結合する。続く反応では、ビオチン結合二次抗体が一次抗体に結合している、いわゆる「サンドイッチ複合体」が形成される。その結果、抗体-サイトカイン-複合体は、ビオチン標識される。HRP結合ストレプトアビジン又は他のマーカー分子はビオチンに結合可能であり、それによって、該複合体が化学発光、カロメトリ又はIR光によって検出可能になる。化学発光の場合には、検出シグナルは既知の標準からのシグナルと比較可能であり、該シグナルの濃度測定が、解析されたタンパク質を比較するために実行可能である。
【0086】
機能的生体外アッセイ
hPLEVの免疫細胞に対する影響を解析するための生体外アッセイ
富化EV画分の潜在的な免疫調節能力は、ヒト免疫系由来の細胞(例えば、PBMC)を用いた少なくとも1つの機能的生体外アッセイにおいて定義されるべきである。そのようなアッセイの原理は、hPLEVの存在下又は非存在下での免疫細胞に対する免疫調節作用の解析である。この問題について、フローサイトメトリー解析が使用される。免疫応答を誘導するために、細胞は、例えばPHA(フィトヘマグルチニン)、PMA(酢酸ミリスチン酸ホルボール)、イオノマイシン、モノクローナル抗体、(カンジダ又はバクテリアタンパク質のような)抗原、又は、市販の活性化キットからの他の可能な成分をも添加することによって、刺激される。また、混合リンパ球反応(MLR)のような方法も適用可能な場合がある。活性化は、(例えば、PHAを使用して)全てのPBMC上に非特異的に誘導されてもよく、特異的に(例えば、T細胞又は他の所定のPBMC亜集団上にのみ)誘導されてもよい。刺激によって免疫細胞は活性化され、このことは、とりわけ細胞の表面マーカーの発現プロファイルの変化によって検出され得る。刺激が十分に強ければ、増殖活性の増加が後でも検出可能となることがある(例えば、T細胞の場合)。hPLEV富化画分存在下では、EVを有さない細胞対照に対する差異(例えば、T細胞増殖の抑制及び活性化マーカーの発現など)が検出可能であるはずである。
【0087】
そのようなアッセイの例:「PBMC-CFSE-PHA-アッセイ」:
「PBMC-CFSE-PHA-アッセイ」は、hPLEV富化画分存在下におけるPHA誘導性細胞増殖の解析に使用され得る。CFSE(カルボキシフルオレセイン-スクシンイミジルエステル)は、解析のためにフローサイトメーターを用いた細胞追跡に使用可能な蛍光色素である。前駆体分子CFSE-SE(カルボキシフルオレセイン-ジアセテート-スクシンイミジルエステル)は、受動的に細胞内へと拡散し、細胞内酵素によって切断されて、蛍光によって検出され得る。毎度の細胞分裂に起因して、増殖するCFSE標識細胞は、それらの蛍光強度が50%減衰する。
【0088】
単離したCFSE染色PBMCは、懸濁細胞用の24ウェルプレートにおいて、RPMI培地+10%ヒトAB血清中、EVの存在下又は非存在下のいずれかにて5日間培養する。細胞刺激は、培養開始直後に、1ウェルあたり200~300ngのPHA(0日目)によって誘導させる。400μl容積中200,000個の細胞を1ウェル毎に培養する。5日後、細胞は、フローサイトメトリーで解析され得る。0日目と比較して、蛍光が減少していれば増殖速度が高いことを示し、蛍光が安定していればEV効果によって増殖が抑制されたことを示す。さらに、活性化マーカーの発現もまた、異なる時点において解析され得る。特異的なコンジュゲート抗体染色により、免疫細胞の細胞亜集団を区別して個別に解析することが可能となる。
【0089】
血管新生に対するhPLEVの影響を分析するための生体外アッセイ:
血管新生は、成長及び発達、並びに、虚血性血管疾患における創傷治癒及び組織再生の全てのステージにおける基本的な過程である。血管新生の処置では、既存の血管系から新たな毛細血管が生じ、その過程は、血管新生誘導因子と血管新生阻害因子との繊細なバランスによって制御される。内皮細胞は、損傷、炎症、低酸素等の血管新生刺激に反応して活性化される。
【0090】
管状形成アッセイ
血管新生の再編成段階をモデル化するために最も広く使用されている生体外アッセイの1つは、管形成アッセイである。このアッセイは、内皮細胞が毛細血管状構造(管)を形成する能力を測定する。管形成は、典型的には、培養皿の二次元顕微鏡画像におけるこれら毛細血管状構造の数、長さ又は面積を測定することによって定量化される。
【0091】
創傷治癒アッセイ
スクラッチアッセイは、生体外において細胞遊走を測定するために使用される。この基本工程には、均質な集団の細胞単層に「スクラッチ(引っかき傷)」を作り、スクラッチを閉じるための細胞遊走中に、開始時及び規則的な間隔で画像をキャプチャして、蛍光寿命イメージング顕微鏡法(life imaging microscopy)を用いて細胞の遊走速度を定量化するために画像を比較することが含まれる。
【0092】
これらのアッセイは、細胞間相互作用における、及び、生体内での創傷治癒中の細胞遊走を模倣し得る細胞遊走における血管新生についてのhPL-EVの効果を研究するために使用され得る。
【0093】
診療所におけるhPLEVの使用について基本となる安全基準/標準:
診療所にてhPLEVを適用するために、安全性、潜在的な毒性及び免疫原性を監視する必要がある。組織及び細胞、並びにATMP("Arzneimittel fur neuartige Therapien(先端医療医薬品)")に関する法令によれば、ヒト細胞ベースの医薬品を特性解析するための最小限の基準におけるプラットフォームは、臨床試験にて使用する前に考慮する必要がある。要約すると、製品が(a)自己起源であるか、同種異系起源であるか、又は、異種起源であるか、(b)生体外において広く操作されているか、又は、最小限に操作されているか、及び、(c)免疫学的に活性であるか、又は、免疫学的に中性であるか、について検討する必要がある。さらに、(d)細胞の増殖能力、(e)細胞又は組織状器質、及び、細胞と構造成分との間の動的相互作用、並びに、(f)意図される用途、を定義する必要がある。
【0094】
概して、本発明によるhPLは、血小板を含む考えられ得る任意のヒト血液試料に由来する。本発明のさらなる実施形態によれば、ヒト血小板溶解物は、例えば、いわゆる多血小板血漿(PRP)等の血小板濃厚液に由来する。PRPは、患者の全血に由来する血漿中における血小板の濃厚液であり、遠心分離されて赤血球及び他の望まれない成分が取り除かれたものである。PRPは、成長因子の濃度が全血よりも高く、歯科、整形外科手術、スポーツ医学を含む様々な専門分野における組織注入に使用されている。血小板濃厚液は、例えば、バフィーコート抽出血小板濃厚液又は血小板アフェレーシスを起源とし得る。
【0095】
本発明によれば、該細胞外小胞は、mRNA、マイクロRNA(miRNA)、少量のDNA等の遺伝物質、脂質、並びに、転写因子、サイトカイン及び成長因子を含むタンパク質等の生物学的因子を含む。
【0096】
本発明の医薬製剤は血小板に由来するため、該医薬製剤は、典型的には様々な成長因子を含んでおり、特に、以下の成長因子の1つ以上、好ましくは全てを含む:PDGF、VEGF、FGF、EGF、TGF(特に、TGF-β)及びCTGF。該組成物は、好ましくは、これらの成長因子のうち2、3、4、5又は6個を含む。血小板由来増殖因子(PDGF)は、細胞の増殖及び生成、血管の修復、並びに、コラーゲン産生を促進する。血管内皮増殖因子(VEGF)は、血管内皮細胞の増殖及び生成を促進する。線維芽細胞増殖因子(FGF)は、組織修復、細胞増殖、コラーゲン産生、及び、ヒアルロン酸産生を促進する。上皮成長因子(EGF)は、上皮細胞の成長、血管新生、及び、創傷治癒を促進する。トランスフォーミング増殖因子(TGF)、特にTGF-βは、上皮細胞の増殖及び新生、並びに、創傷治癒を促進する。結合組織成長因子(CTGF)は、創傷修復を促進する。したがって、本発明の医薬製剤は、新たな線維芽細胞の形成を促進する。これらの新たな線維芽細胞は、始めから弾力性があって健康的であり、新たなコラーゲンを産生すると共に、メタロプロテアーゼの産生がより少ない。線維芽細胞(構造的フレームワークの合成、維持及び提供における主要な細胞)の修復によって、より健康な修復された皮膚が得られる。PDGFはまた、線維芽細胞の運動性を増加させ、線維芽細胞を投与部位へと移動可能にすることも示されている。血小板のα顆粒に見られる天然の増殖因子(例えば、PDGF、VEGF、FGF、EGF及びTGF)は、コラーゲン及びヒアルロン酸の生産、組織修復、内皮細胞及び上皮細胞の増殖及び再生、並びに、新たな血管の形成(これにより、酸素を取り戻して、望ましくない分子を除去する)を促進する。これらの因子の全ては、しわや損傷を受けた細胞外基質(ECM)を元の健康な状態に再生するのに役立つ。これらの成長因子のそれぞれは、個別にかつ相加的に互いに協調して、皮膚の再生及び修復において役割を果たす。新たな断片化されていないコラーゲンの産生を刺激する治療は、加齢による外観及び健康を大幅に改善する。
【0097】
さらなる一実施形態によれば、本発明の製剤、例えば、本発明のhPLEV富化画分は、タンパク質、サイトカイン(例えば、IFN-γ、IL-8、IL-10、TGF-β1、及び、HLA-G、RANTES、Nap-2)等の生物学的因子、及び/又は、例えばマイクロRNA等の核酸を含む。
【0098】
本発明に係る製剤は、抗微生物特性を有するサイトカインを含有し得る。特に、本発明の製剤は、他の存在するサイトカインのレベルと比較して、サイトカインRANTES若しくはサイトカインNAP-2又は両方のサイトカインを大量に含み得る。
【0099】
サイトカインRANTES及びNAP-2は、例えば、Marianiらの論文(2015)(BMC Microbiology 15:149)において、それらの抗微生物特性について記載されている。本発明に係る製剤の抗微生物特性は、Marianiらの図2図7の基礎となる方法に従って測定可能であり、参照方法として役立つ。
【0100】
本発明の文脈において、製剤は、例えば、静脈内投与又は注射に適していると考えられ、又は、腹腔内注射、皮下注射、骨内注射、脳室内注射、筋肉内注射、眼内注射に適していると考えられ、又は、局所投与に適していると考えられる。
【0101】
本発明はまた、以下のステップを含む方法によって得られるヒト血小板由来細胞外小胞の富化画分を含む医薬製剤に関する。
a)単一ドナー提供血小板、又は、少なくとも15ドナー、好ましくは、少なくとも20ドナー若しくは少なくとも30ドナー若しくは少なくとも40ドナーのプールされたドナー提供血小板から、ヒト血小板溶解物を供給するステップ。
b)ヒト血小板溶解物に由来する細胞外小胞を富化するステップ。
c)場合により、上記富化された細胞外小胞の免疫調節効果等の生体外効果、特に、抗炎症効果及び/又は免疫抑制効果の生体外効果を、例えば、減少したIL-1β、TNF-α、T-細胞増殖によって決定するステップ。
d)場合により、免疫調節効果、特に抗炎症効果及び/又は免疫抑制効果等の生体外効果を示す前記富化細胞外小胞画分を選択するステップ。
e)場合により、EV/エクソソームマーカーCD81に対して陰性であり、EV/エクソソームマーカーCD9に対して陽性である細胞外小胞を示す、ステップb)の富化された前記細胞外小胞を選択する。
f)場合により、ステップb)、d)若しくはe)の富化された前記細胞外小胞を、少なくとも1つの適切な医薬賦形剤及び/又は医薬担体と混合するステップ。
【0102】
本発明の一実施形態によれば、ステップaのhPLは、溶解前に、先行技術(例えば、PRP療法に関する先行技術)より血小板活性化因子として知られる1つ又は複数の化合物と共にインキュベートされた血小板に由来し得る。そのような化合物は、血小板を活性化することによって、本発明の製剤の品質を高める。
【0103】
本発明の一実施形態によれば、ステップaのhPLは、ヒト臍帯血に由来し得る。ヒト臍帯血血小板溶解製剤は、先行技術から既知である(例えば、米国特許第8501170号、Parazzi, V., C. Lavazza, et al. (2015)、又は、Forte, D., M. Ciciarello, et al. (2015))。
【0104】
上記で定義された本発明の方法のステップa)では、単一ドナー提供血小板、又は、少なくとも15ドナー、好ましくは、少なくとも20ドナー若しくは少なくとも30ドナー若しくは少なくとも40ドナーのプールされたドナー提供血小板のいずれかに由来するヒト血小板溶解物が使用されるべきである。
【0105】
精密な医学的治療が望まれる場合には、患者自身の血液を起源とするヒト血小板溶解物を使用することが有利であり得る。一般的な治療が望まれる場合には、少なくとも40ドナーのプールを起源とするヒト血小板溶解物と比較してヒト血小板溶解物の生じ得る個々の偏差を回避するために、少なくとも15ドナー、好ましくは、少なくとも20ドナー又は少なくとも30ドナー又は少なくとも40ドナーのプールを使用することが有利である。
【0106】
上述の方法ステップa)からのhPLは、血小板アフェレーシス又はバフィーコート血小板から、より好ましくは血小板アフェレーシスから提供されることが好ましいことがある。
【0107】
hPLEVの富化画分によって媒介される免疫調節効果は、免疫抑制効果であることがあり、これは下記の生体外アッセイ及び対応する読み出しにより検出可能である。hPLEV画分は、免疫細胞の増殖を抑制する能力を有することが観察されており、したがって、免疫抑制薬である。そのような生体外アッセイでは、刺激されたPBMCの増殖に対する阻害効果が、CD3陽性細胞(T細胞)及びCD3陰性細胞(B細胞、NK細胞を含む)のような亜集団についても観察され得る。加えて、T細胞活性化マーカープロファイルの発現に対する阻害効果(hPLEV画分の存在下におけるCD69又はCD25の下方制御)も観察され得る。
【0108】
本発明の医薬製剤の製造方法は、EVを特異的に富化するステップを含んでいる。従来において説明されてきたように、EVは多くの体組織及び体液中に豊富であることが見出されており、分画超遠心分離を用いて精製に成功している(Raposo, G. et al. J. Exp. Med. 1996;183(3):1161-1172)。他の研究は、EVがスクロースの連続密度勾配中にて超遠心分離を用いて単離され得ることが示している(Escola JM et al., J Biol Chem. 1998 Aug 7; 273(32):20121-7)。また、エクソソームについても、レクチンを使用する、又は、エクソソーム世帯マーカー(exosomal household marker)に対する抗体、例えば、CD63、CD81、EpCAM、又はRab5に対する抗体を使用する免疫親和性捕捉方法によって単離されている(Barres C et al., Blood. 2010 Jan 21; 115(3):696-705、及び、Chen, Lab Chip. 2010 Feb 21; 10(4):505-11)。
【0109】
概して、精製及び/又は富化のための任意の適切な方法が使用され得る。そのような方法としては、例えば、PEG沈殿、モノリシック技術、磁性粒子、濾過、透析、超遠心分離、ExoQuick(商標)(Systems Biosciences社、米国カリフォルニア州)、クロマトグラフィー又は接線流濾過を含む方法が挙げられる。しかしながら、単離方法に依存して、異なるEVサブタイプが富化されることがあり、同じ細胞型に由来する場合であっても、それらの機能的性質が異なり得ることに留意しておくことが重要である。
【0110】
それにもかかわらず、ポリエチレングリコール沈殿を含む方法が好ましい。
【0111】
本発明に係る医薬製剤の製造においては、本発明に係る最も適切な画分を同定するため、微生物学的試験、毒性試験、タンパク質含有量、発熱物質試験及び粒径についてEV富化画分をさらに分析する方法が好ましい。
【0112】
hPLEVの富化画分が生体外活性試験において強力な免疫調節効果を示す場合に、該富化画分が本発明に係る方法において特に有用であることを見出すことができた。
【0113】
さらに、hPLEVの富化画分がドナーのエフェクター細胞のIL-1β、TNF-α及び/又はIFN-γサイトカイン応答の減少を示す場合に、該富化画分が本発明に係る方法において特に有用であることを見出すことができた。
【0114】
さらに好ましくは、本発明に係る方法では、上記エクソソームが、約70~200nmのサイズ、好ましくは約70~140nmのサイズ、より好ましくは約70~120nmのサイズを有する。「約」とは、±20%の偏差を意味するものとする。さらに好ましくは、該エクソソームは、EV/エクソソームマーカーについて陽性であり、さらにより好ましくは、医薬製剤のタンパク質含有量は0.5mg/mlより多く、さらに好ましくは1mg/mlより多い(最終的な再懸濁容量/溶出容量、及び、処理される初期PLボリュームに依存する)。
【0115】
hPLEV富化画分が活性試験において強力な生体外免疫調節効果を示した場合であって、前記EV画分の添加後に、ドナーのエフェクター細胞のIL-1β、TNF-α及び/又はIFN-γサイトカイン応答の減少が検出可能であった場合には、該hPLEV富化画分が本発明に係る方法において特に有用であることが見出された。ELISpotアッセイは、エクソソーム含有画分の存在下において、エフェクター細胞のIL-1β、TNF-α及び/又はIFN-γサイトカイン応答が、同種異系細胞に対して損なわれることを示した。他の方法もまた、潜在的な生体外免疫調節効果について分析するために使用可能であり、そのような方法としては、例えば、Luminex、ELISA及び/又はフローサイトメトリーが含まれる。
【0116】
したがって、本発明は、疾患の改善された予防及び治療のための新規な概念に基づき、特に、炎症性疾患、神経変性疾患、免疫/自己免疫疾患、心血管疾患、皮膚疾患、移植拒絶反応、GvHD、脳卒中及び虚血症のリスク、並びに、関連する合併症のリスクを患っている患者における、疾患の改善された予防及び治療のための新規な概念に基づいている。このような新規な概念は、例えば、手術前又は手術中における炎症反応を回避するため、及び、生命維持装置に接続された患者の炎症状態及び炎症反応を予防するためのものである。一実施形態では、該疾患は、出生前又は出生後における神経系の損傷から選択され得るものであり、そのような損傷としては、例えば、低酸素症、炎症及び/又は虚血症に関連する脳損傷等が挙げられる。別の実施形態では、該疾患は、移植片対宿主病、又は、臓器移植後の移植拒絶反応からそれぞれ選択され得る。
【0117】
本発明の特に好ましい実施形態では、ポリエチレングリコール沈殿プロトコルを使用して富化されたhPL由来のEV富化画分は、患者、特に新生児及び/又は移植中の患者及び/又は手術中の患者に対して、予防的及び/又は治療的に輸血される。
【0118】
本発明による医薬製剤は、好ましくは、生物学的因子を含むEVが富化されている。これらの生物学的因子としては、例えば、抗炎症性サイトカイン、IL-10、TGF-β1及びHLA-G等のタンパク質、及び/又は、miRNA等の核酸が挙げられる。これにより、a)集学的(複雑)なインターベンションが行われ、b)生物学的生理学的(「自己」)物質が使用されて、c)該製剤の望まれない副作用が低減されるといった、本発明に係るさらなる利点が得られる。
【0119】
本発明は、集学的インターベンションを構成する。したがって、特定の因子が使用される(そして、カスケードの一部(又は、基礎となる臨床表現型)のみがインターベンションを受ける)だけでなく、生物学的に複雑かつ内因性のメディエーター及びモジュレーターが使用される。これらの成分は全てのヒトに見られるため、著しい有害な副作用は想定されない。
【0120】
本発明の別の態様は、以下のステップを含む、本発明による医薬製剤の製造方法に関し、a)hPLを提供するステップと、b)前記hPLをhPLEVについて富化するステップであって、場合により、該hPLEVはポリエチレングリコール沈殿を含んでいる、ステップと、c)前記hPLEV富化画分の生体外免疫調節効果、特に、抗炎症効果及び/又は免疫抑制効果を決定するステップであって、例えば、IL-1β、TNF-α、T細胞増殖、及び/又は、ドナーのエフェクター細胞のIFN-γサイトカイン反応の減少による前記hPLEV富化画分の生体外免疫調節効果を決定するステップと、d)免疫調節効果、特に抗炎症効果及び/又は免疫抑制効果を示すそれらのhPLEV富化画分を選択するステップと、e)ステップd)の富化されたエクソソームを、少なくとも1つの適切な医薬賦形剤及び/又は医薬担体と混合するステップとを含んでいる。
【0121】
本発明のさらなる実施形態によれば、該投与は、例えば、静脈内投与若しくは点滴、腹腔内注射、皮下注射、骨内注射、脳室内注射、筋肉内注射、眼内注射又は局所投与に適している。局所投与は、例えば、本発明の製剤により事前に製造された、本発明の製剤により前処理された又は本発明の製剤を備えた、美容用の肌製品又は舗装(pavement)、創傷用パッド等によって適用され得る。
【0122】
本発明のさらなる態様は、ヒト血小板溶解物又はヒト血小板溶解物由来細胞外小胞の富化画分を医薬製剤又は診断製剤又は美容製剤に添加するステップを含んでいる、医薬製剤又は診断製剤又は美容製剤の製造方法である。
【0123】
本発明は、その範囲内において、活性成分として、治療上有効量のhPL又はhPLEV画分を、単独で、又は、医薬担体若しくは希釈剤と組み合わせて含有する製剤を含む。所望の剤形に従って、当業者は、適切な担体を選択し得る。剤形には、例えば、錠剤、顆粒剤、カプセル剤、液体剤形、ゲル剤、座剤、クリーム剤、軟膏剤、湿布剤又はパッチ剤が含まれる。好ましい一実施形態は、hPLEV画分と適切なポリマーマトリックスとの組み合わせであり、例えば、国際公開第2013076507号に記載されるようなものである。0.9%NaCl溶液中の静脈内適用が、さらに好ましい。
【0124】
本発明の製剤の美容用途は、適切な添加剤と共に処方され得る。概して、本発明に係るヒト血小板溶解物又はヒト血小板溶解物由来細胞外小胞の富化画分は、化粧品に適用される場合、PRPを代替し得る。PRP療法は、美容整形、歯科、スポーツ医学、疼痛管理等、種々異なる医学分野に適用されている。PRPは、例えば、顔及び肌の若返りのための非常に人気のある非外科的処置となってきている。PRP療法は、血液ドナー自身の血小板を使用することによって新たな細胞の成長を刺激して、顔色や肌のきめを改善すると共に、失われた顔のボリュームを回復させるのに役立つ治療法である。
【0125】
本発明の一実施形態によれば、PRP療法は、PRPの代わりにhPL又はhPLEV画分を含む美容製剤によって代用可能である。その後、自家移植hPL又は血液提供者自身からのhPLEV画分が皮膚に再注入され、コラーゲン及び新たな皮膚細胞が刺激される。hPL又はhPLEV画分は、患者自身の血小板の有益な機能を利用しているため、アレルギー又は治療の拒絶のリスクがない。hPL又はhPLEV画分はまた、薄毛及び脱毛、特に、男性型脱毛症の治療に有効に使用され得る。患者が早期に治療を開始することは、重要であり得る。
【0126】
本発明の好ましい実施形態は、皮膚再生におけるhPL又はhPLEV画分の適用であり、そのような皮膚再生としては、例えば、抗老化療法、日焼け、虫刺され後のアレルギー反応、自己免疫性皮膚反応又はアレルギー性皮膚反応、ニキビ炎症等が挙げられる。hPL又はhPLEV画分は、皮膚又は毛髪治療用の美容組成物の一部であり得る。本発明は、しわに関連する諸問題に直接対処すると共に皮膚及びその基礎となる足場を強化する再生療法を提供する。本発明に記載の製剤を用いた治療は、損傷した皮膚の変性サイクルを正常な皮膚に見られる健康な生理機能まで逆転させる。本発明の製剤は、結合組織内における細胞のバランスを取り戻し、分子シグナル伝達を平衡化し、細胞外マトリックスを修復することによって作用する。自然治癒及び組織再生プロセスは、コラーゲン合成の増加、コラーゲン細胞外マトリックスの再生及びマトリックス内の線維芽細胞の増殖を生じさせる。
【0127】
診断用途
hPLEVに基づく本発明によれば、診断用途及び疾患のリアルタイムモニタリングにおいて使用するための生体外診断試験が確立され得る。hPLEVは、非侵襲的血液検査を通じた疾患診断用のバイオマーカーとして使用され得る。個々のドナーにおけるhPLEV製剤の特定の含有量は、腫瘍性疾患又は炎症性疾患関連疾患についてのバイオマーカーとして使用され得る。
【0128】
本発明及びその利点についてより良い理解を得るために、以下の実施例は、単に例示の目的で記載される。該実施例は、本発明の範囲を限定することを何ら意図するものではない。
【実施例0129】
本発明の実施は、他に示さない限り、化学、分子生物学、微生物学、DNA組換え及び免疫学における従来の技術を採用するものであり、それらは当業者の能力の範囲内である。そのような技術は、文献中に説明されている。例えば、J. Sambrook, E. F. Fritsch, T. Maniatis, 1989, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Second Edition, Books 1-3, Cold Spring Harbor Laboratory Press、Ausubel, F. M. et al. (1995及び定期刊行物; Current Protocols in Molecular Biology, ch. 9, 13及び16, John Wiley & Sons, New York, N. Y.); B. Roe, J. Crabtree, and A. Kahn, 1996, DNA Isolation and Sequencing: Essential Techniques, John Wiley & Sons、J. M. Polak, James O'D. McGee, 1990,Oligonucleotide Synthesis: A Practical Approach, Irl Press、D. M. J. Lilley, J. E. Dahlberg, 1992, Methods of Enzymology: DNA Structure Part A: Synthesis and Physical Analysis of DNA Methods in Enzymology, Academic Press、Using Antibodies: A Laboratory Manual : Portable Protocol NO. I by Edward Harlow, David Lane, Ed Harlow (1999, Cold Spring Harbor Laboratory Press, ISBN 0-87969-544-7)、Antibodies : A Laboratory Manual by Ed Harlow (Editor), David Lane (Editor) (1988, Cold Spring Harbor Laboratory Press, ISBN 0-87969-314-2), 1855、並びに、Lab Ref: A Handbook of Recipes, Reagents, and Other Reference Tools for Use at the Bench, Edited Jane Roskams, Linda Rodgers, 2002, Cold Spring Harbor Laboratory, ISBN 0-87969-630-3を参照。これらの一般的な教科書のそれぞれは、参照により本明細書に組み込まれる。
【0130】
実施例1:多血小板血漿の調製方法例
1.1.血小板濃厚液(PRP-PC)
450mlの全血を、CPDA1抗凝固剤を含有する450mlトリプルバッグ(TERUMO PENPOL社製、インド、ティルヴァナンタプラム州プリヤラコナム)内に収集する。全血から、Heraeus 6000i(ドイツ)冷却遠心分離機により、加速曲線5及び減速曲線4を用いて21℃で11分間、1750rpmで軽回転遠心分離することによって多血小板血漿を分離し、血小板を加速曲線9及び減速曲線5を用いて21℃で5分間、3940rpmで重遠心分離することによって濃縮した後、上清血漿を除去する。血小板濃厚液バッグを、ラベル面を下にして室温で約1時間静止させる。乏血小板血漿を速やかに凍結して、新鮮凍結血漿(FFP)として-30℃以下にて1年間保存する。
【0131】
バフィーコート-血小板濃厚液(BC-PC)の調製方法
450mlの全血を、63mlのCPD抗凝固剤を添加剤溶液(SAGM)と共に含有する450mlクアドラプルバッグ(TERUMO PENPOL社製、インド、ティルヴァナンタプラム州プリヤラコナム)内に収集する。まず、全血を、加速曲線9及び減速曲線4を用いて21℃で5分間、3940rpmで「ハードスピン」遠心分離することによって多血小板血漿を分離する。該全血は、比重に応じて種々異なる成分へと分離される。
・最上層-乏血小板上清血漿(150~200ml)。
・中間層-約90%の血小板、70%の白血球、10%の赤血球を含有するバフィーコート。
・最下層-濃縮赤血球。
乏血小板上清は1つのサテライトバッグに、バフィーコートは別のサテライトバッグに導入する。残った細胞からのチューブを洗浄してBC内に適切な量の血漿を得ることを目的として、約20~30mlの血漿をバフィーコートへと戻す。SAGM溶液を、赤血球へと添加する。続いて、赤血球及び血漿を含有するバッグを取り出す。赤血球を低温室内に4℃で配置し、乏血小板血漿を-40℃の超低温冷凍庫内へと配置して新鮮凍結血漿(FFP)とする。バフィーコートを血漿と穏やかに混合して、空のサテライトバッグ1つと共に、加速曲線5及び減速曲線4を用いて21℃で6分間、1100rpmで再び「ライトスピン」遠心分離にかける。上清の多血小板血漿を空の血小板保存バッグに導入した後、チューブを封止した。残存するWBC及び赤血球を含むバッグは、廃棄した。
【0132】
1.2.単一ドナー血小板(SDP)-アフェレーシス-PC
自動細胞分離装置は、単静脈又は二重静脈アクセスを用いる間欠フローセル技術又は連続フローセル技術のものであってもよい。連続フロー二重静脈アクセス自動細胞分離装置-CS3000(登録商標)plus(バクスター社フェンオール部門、米国、ディアフィールド、14 60015)が使用され得る。
1.ドナーの同意書は、手順を詳細に説明し、所要時間及び起こり得る危険及び利益について説明した後に取得する。
2.静脈アクセスはアフェレーシスのドナーに重要な考慮事項であり、静脈は、以下の理由に基づく選択の際に検査される。
・長時間の処置
・長期にわたる流量
・連続フロー装置による2箇所の静脈穿刺が頻繁に必要であること。
3.ドナーの年齢は、文書化される。
4.アフェレーシス処置の前に、血小板アフェレーシスのドナーのABO/Rh型分類及び感染性疾患マーカー(HIV、HBV、HCV、VDRL、マラリア)検査を行う。
5.血小板機能に影響を及ぼす可能性があるアスピリン又は他のNSAIDを服用したドナーについては、延期する。
6.血小板アフェレーシスのため、それらのドナーのうち血小板数が1.5×105/μlを超える者より採血を行った。
【0133】
1.3.処置
この処置は、閉鎖系にて行う。使い捨てキットを連続フローセパレーターに取り付けた後、装置をプライミングする。ドナーは、両腕の前肘部領域における2つの静脈穿刺部位をベタジン及びアルコール(spirit)により清掃することによって準備し、静脈切開をドナーに対して最小限の外傷で行う。処置の間には、採血時に制御された方法で血液を抗凝固処理し、全血及びと抗凝固剤との比(ACD)を9:1~11:1に維持しておく。抗凝固処理された血液は、回転式分離容器内へと注入される。赤血球は、遠心力によって容器の外縁側に詰め込まれ、その後、該赤血球は、分離容器から排出される。血漿、血小板又はWBCなどの低密度成分は、血漿ポンプによって取り出されて回転式収集容器内に導入され、この回転式収集容器内において、血小板は遠心力により該容器の外縁側に詰め込まれる。分離された血小板が容器内に詰め込まれたままにされる一方で、他の血液成分はドナーへと戻される。収集処置の終わりに、血小板収集バッグを激しく振盪して血小板をバッグの壁から剥がし、室温で1時間維持することにより、均一な懸濁液とする。この処置全体には、1.5~2.5時間かかる。アフェレーシス-PCの最終容量は、200~300mlの範囲であった。
【0134】
実施例2:ヒト血小板(thrombocyte)溶解物(hPL)の産生
ヒト血小板(thrombocyte)溶解物(=ヒト血小板(platelet)溶解物(hPL))の産生は、期限切れのヒト血小板(thrombocyte)濃厚液(=ヒト血小板(platelet)濃厚液(=hPC/hTC)のさらなる処理に基づく。hTCを得るには、通常2つの異なる進行方法が使用される。一方は、複数名のドナーの全血献血から得られるプールされたバフィーコート製品の使用によって定義され、他方では、アフェレーシス濃厚液が使用される。この技術では、ドナーは体外細胞分離装置に接続されて、血小板は濾過され、赤血球、白血球及び血漿のような他の血液成分はドナーに戻される。両方の場合において、得られる血液製剤は、白血球除去TCである。これらの製品は、少なくとも4~5日間生きている血小板を含み、例えば、血小板減少症患者の不足している血小板を置き換えるために使用され得る。
【0135】
期限が切れた後に、過剰な製品はhPLの製造に使用される可能性がある。凍結解凍サイクル(-20℃及びRT)によって血小板が崩壊/解砕されて、それらの内容物は、周囲の液体(血漿)へと放出される。3200~10000gで約1時間遠心分離するステップを含む種々異なるプロトコルが存在している。溶解した細胞、細胞断片及び他の破片は、遠心分離によって除去される。その結果、透明かつ悪性(vicious)の黄色液体が得られ、該液体は血小板溶解物と血漿からなる。処理後に製品を滅菌するため、場合により200nmのフィルターがさらに使用され得る。平行して、細胞外小胞を含む200nmよりも大きい粒子が除去される。これらの粒子は、エクソソームの大きさではない。
【0136】
実施例3:フィコール密度勾配遠心分離を使用した末梢血単核細胞(PBMC)の単離、及び、生体外での細胞培養
末梢血単核細胞は、全血献血由来のバフィーコート製品から得られる。PBMCの単離は、以下の説明に従ってフィコール密度勾配遠心分離を使用することにより行った。
1.約100mlのバフィーコート製品を、3本の50mlポリプロピレンチューブに等量ずつ分配する。必要であれば、失われた容量を、PBS(リン酸緩衝食塩水)に置き換えた。
2.追加の3本の50mlPPチューブに、10mlのフィコールを満たす。
3.35mlの血液を10mlのフィコールへと慎重に注ぐことによって、2つの分離した層を形成する。
4.密度勾配遠心分離を、10℃の温度で20分間、900gで実施する(中断設定(break set)0又は1)。
5.勾配を形成した後、PBMC含有中間相を、新たな50mlPPチューブへと移す。
6.収集されたPBMCを備える画分を、PBSを用いて50ml容量まで満たす。
7.血小板を除去させるため、650gで5分間の遠心分離を行う。
8.血小板を含有する上清を廃棄する。
9.赤血球を溶解するため、細胞を20~25mlの溶解緩衝液中に再懸濁し、続いて4℃で7分間インキュベートする。
10.PBSを50ml容量まで満たすことによって、溶解反応をPBSにより停止する。
11.900gで5分間遠心分離することによって、溶解画分を除去する。
12.上清を廃棄し、細胞を50mlのPBSに再懸濁する。
13.細胞は、ノイバウエルチャンバーを使用して手作業で、あるいは、例えばSysmex血球計を使用して自動的に数える。
14.PBMCを培地(RPMI、10%の熱不活性化hAB血清、1%のPSG(ペニシリン/ストレプトマイシン/L-グルタミン))中に再懸濁させ、以下の生体外アッセイに従って適切な濃度に設定する。
【0137】
実施例4:細胞外小胞製剤の分子レベルでの解析及び特性解析
1.BCAアッセイ(又は、Bradfordアッセイのような代替の標準方法)を使用した、総タンパク質濃度の決定
EV富化画分の総タンパク質濃度は、標準方法を使用して決定され得る。様々な市販のキット及び薬剤が、この目的のために利用可能である。例として、Thermo Scientific社製のBCAプロテインアッセイキットを使用した。ビシンコニン酸(BCA)2分子は、銅イオン(1+)1つと共に、キレート錯体を形成する。銅の減少は、アルカリ性環境内にタンパク質が存在することによって引き起こされる。キレート錯体の形成は、解析された液体の緑色から紫色への色変化に対応する。色変化の強度は、562nmの吸収で測光的に測定され得る。種々異なるBSA濃度の較正値についての既知の値と比較して、EV画分のタンパク質濃度が決定され得る。
【0138】
2.(Nanosight又はZetaview等のNTAプラットフォームを使用した)平均粒子サイズ[nm]及びサイズ分布[curve]及び粒子数の決定
細胞外ナノ小胞の特性解析のために、ナノ粒子トラッキング解析(NTA)を使用した。この物理的技術は、光の波長よりも小さいサイズからの粒子を追跡するのに適している。該方法は、電界の誘導に基づいており、このとき、粒子が動き始める。この動きのために、粒子が解析キュベットを通して拡散する間に、粒子のブラウン運動がトラッキングされ得る。画分中における粒子のサイズ及びサイズ分布が規定され得ると共に、粒子濃度の値もまた与えられる。ブラウン運動のトラッキング解析は、ビデオ顕微鏡に接続されたスクリーン上で追跡され得る。データは、ソフトウェアによってデータへとデジタル変換される。サイズの決定は、粒子の拡散定数によって計算され、そして流体力学的粒子サイズへと変換される。粒子濃度は、ビデオ部の分析から推定され、測定された散乱光の量に関連する。
【0139】
単離方法
単離方法は、超遠心分離(分画遠心分離)、サイズ排除クロマトグラフィー(Izonカラム及びExospinカラム)、ポリマー沈殿法(PEG 1000、PEG 6000、PEG 8000 EV、Exoquick(Qiagen社製))、膜アフィニティー(Exoeasy(Qiagen社製))及び流動濾過に基づくことができる。EVを分離するための標準化された技術水準は、治療用途又は基礎研究のいずれにも存在していない。精製方法を選択する基準は、処理が必要な血小板溶解物の初期容量、及び、PL-EV富化画分の高い純度及び回収率である。
【0140】
精製方法の選択は、再現可能性、純度、不純物及びhPLEVの機能特性の維持に関して標準化する必要がある。適用された方法は、それらの拡張可能性及び再現可能性の面において評価されるべきである。最高のhPLEV純度が得られる方法は、hPLEV表面に付着した成分又は共に単離された非hPLEV関連補因子が精製中に失われる可能性があるため、治療において最も有効なEV画分を回収するには必ずしも最適ではない。
【0141】
EV保管
EVの保管について、現在標準化されたプロトコルはない。保管条件はEVの安定性に影響を及ぼす可能性があるため、検証する必要がある。一般的に使用されるいくつかの溶媒及び緩衝液は、塩化ナトリウムから、PBS、TRIS-HCl、HEPES及びグリセロールにまで及ぶ。
【0142】
実施例5:遠心分離の原理
遠心分離は、成分、細胞を分離するため、及び、細胞小器官を単離するために使用される。遠心分離は、遠心力によって引き起こされる液体中の粒子の動きに基づいている。この技術の主要な構成部品は、ローターである。固定角度ローター、垂直ローター、又はスイングローターのような種々異なるタイプが存在する。超遠心分離機は、高速遠心分離機のグループに属する。空力抵抗による摩擦熱の発生を避けるため、真空が設けられる。物理的原理によれば、サイズ及び密度に起因して、部品同士の間隔が生じる。粒子は、遠心力によって外方向に加速される。この加速度は、粒子の角速度、及び、回転軸までの距離に依存する。加速度は、重力gを参照する。
【0143】
スベドベリの式により、悪性(vicious)の流体中における球状粒子の沈降速度が記述されている。生物学的物質からのS値(スベドベリ単位):沈降係数sは、遠心力場における特別な幾何学的条件下で達成される沈降速度として定義される。沈降係数sの単位は、S値として定義する。遠心分離について、様々な技術が存在する:分画遠心分離、ゾーン遠心分離、等密度遠心分離、密度勾配遠心分離。
【0144】
分画遠心分離:
分画遠心分離は、粒子の沈降速度の違いに基づいている。分画遠心分離は、粒子の富化のため、及び、低減された容積中でより高い粒子濃度を得るために使用される。固定角度ローターが使用される。
【0145】
したがって、遠心分離された粒子の沈降速度は、互いに十分に異なっていることが必要である。
【0146】
細胞及びそれらの成分に関連して、分離を可能にする以下の違いがある:
最初に、完全な細胞が沈降し(1000g、2分)、続いて、核のような高重量の大サイズの細胞成分が沈降する(1000g、5~10分)。その後、核膜及び原形質膜が沈降し(1500g、15分)、続いて、ゴルジ装置(2000g、20分)、ミトコンドリア、リソソーム及びペルオキシソーム(10000g、25分)が沈降する。ミクロソームは、100000g、60分以上にて沈殿する。ミクロソームには、エクソソームを含むEVも属する。それらは最終ペレットに含まれている。
【0147】
分画遠心分離によって得られた画分の純度:
記載された成分は、100%まで分離精製することはできない。急速に沈降する粒子により構成される沈降物には、遠心チューブの底部近くに配されたゆっくりと沈降する粒子が常に含まれることになる。この汚染のため、完全な純度は達成できない。
【0148】
EV/エクソソームの富化に使用される分画遠心分離:
第1の遠心分離工程では、(細胞培養上清、希釈血漿含有液又は希釈hPLのような)EV含有液を、2000gで15分間遠心分離する。細胞、死細胞、細胞残屑(核、核膜、原形質膜、ゴルジ装置)は、底に沈殿して、取り除かれ得る。第2の遠心分離工程は、10000gにて4℃で45分間行われ、該工程では、第1の工程の上清が、ミトコンドリア、リソソーム及びペルオキシソームから取り除かれ得る。エクソソームを含むEVのようなミクロソームは該上清中に留まっており、最後に、超遠心分離(110000g、1~2時間)によって沈澱させられ得る。
【0149】
PEG沈殿
ポリエチレングリコール沈殿には、PEG 6000が使用され得る。該物質は、エチレングリコール由来のポリマーであり、水溶性かつ不活性で、毒性はない。PEGは、タンパク質のような(また、ウイルス粒子及びEVのような)高分子物質を沈殿させるために使用され得る。PEG存在下では、タンパク質が沈澱する一方で、低分子量物質は可溶性のまま留まる。選択された沈殿条件に応じて、高分子物質及び低分子物質を定義する境界は、ある程度(PEGの分子量、PEG濃度及び沈殿温度)まで変動し得る。親水性かつ荷電のないPEG及びタンパク質が水溶液中にて共に混合される場合には、タンパク質の水和水について合同作用が生じる。規定のPEG濃度に達すると、タンパク質は可逆的に沈殿する。この沈澱は、非常に穏やかな沈澱様式を表している(最初の記載:Poison et al., 1964)。
【0150】
EVのPEG沈殿:
EV含有液、例えば0.9%NaCl中に希釈されたものを、10%v/vのPEG6000存在下において、一晩(16時間、4℃)インキュベートし、それによりEVを沈殿させる。インキュベートした後、沈殿粒子を、1500gで30分間(4℃)かけてペレット化する。上清を廃棄する。ペレットを、例えば0.9%NaCl中に再懸濁して、超遠心分離(110,000g、約2時間)を行った。あるいは、該ステップは、追加の洗浄ステップとして繰り返され得る。
【0151】
好ましい実施形態では、再生疾患、炎症性疾患、神経変性疾患、免疫/自己免疫疾患、心血管疾患、皮膚疾患、感染性疾患、移植拒絶反応、脳卒中、虚血症又は移植片対宿主病からなる群より選択される疾患の予防及び/又は治療のための方法であって。請求項1~13のいずれか1項に記載の医薬製剤の有効量を前記患者に投与することを含む方法が提供される。
【0152】
好ましくは、この方法は、前記投与が静脈内投与若しくは点滴、腹腔内注射、皮下注射、骨内注射、脳室内注射、筋肉内注射、眼内注射又は局所投与に適した方法である。
【0153】
好ましくは、ヒト血小板溶解物又はヒト血小板溶解物由来細胞外小胞の富化画分を医薬製剤又は診断製剤又は美容製剤に添加するステップを含んでいる、医薬製剤又は診断製剤又は美容製剤の製造方法が提供される。
【0154】
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【手続補正書】
【提出日】2022-06-08
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト血小板溶解物に由来する細胞外小胞の富化された画分であって、
前記細胞外小胞が、50~200nmのサイズを有しており、
前記細胞外小胞が、少なくとも1つの熱ショックタンパク質及び少なくとも1つのテトラスパニンマーカーについて陽性であると共に、Grp94、カルネキシン、GM130、プロヒビチン、シトクロムCのマーカーについて陰性である、画分。
【請求項2】
生体外での免疫調節効果を示す、請求項1に記載の画分。
【請求項3】
ヒト免疫系由来の細胞を使用した少なくとも1つの機能的生体外アッセイによって試験された際に生体外での免疫調節効果を示す、請求項2に記載の画分。
【請求項4】
前記免疫調節効果は、抗炎症効果及び免疫抑制効果のうち一方又は両方である、請求項2又は3に記載の画分。
【請求項5】
前記生体外での前記免疫調節効果は、前記画分を前記機能的生体外アッセイに添加した後における、IL-1β、TNF-α及び/又はIFN-γサイトカイン応答の減少である、請求項2又は3に記載の画分。
【請求項6】
請求項1の画分を調製する方法であって、
ヒト血小板溶解物を起源とする細胞外小胞の濃度を高めることによって富化するステップであって、該ステップは、200nmよりも大きい粒子を除去することによって、少なくとも1つの熱ショックタンパク質及び少なくとも1つのテトラスパニンマーカーについて陽性であると共に、Grp94、カルネキシン、GM130、プロヒビチン、シトクロムCのマーカーについて陰性である、ヒト血小板由来細胞外小胞の富化画分を取得する、ステップを含む、方法。
【請求項7】
前記ヒト血小板溶解物は、バフィーコート抽出血小板濃厚液又は血小板アフェレーシスを起源とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
血小板濃厚液を20~24℃において4~6日間貯蔵するステップであって、前記貯蔵は、200nmよりも大きい粒子を除去する前に行う、ステップを含む、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
医薬製剤を調製する方法であって、
請求項6に記載の画分を調製する方法と、
前記画分を、静脈内投与若しくは注射に適している医薬製剤、腹腔内注射に適している医薬製剤、皮下注射に適している医薬製剤、骨内注射に適している医薬製剤、脳室内注射に適している医薬製剤、筋肉内注射に適している医薬製剤、又は、眼内注射に適している医薬製剤に組み込むステップと
を含む、方法。
【請求項10】
請求項6~8のいずれか1項に記載の方法によって得られた、請求項1~5のいずれか1項に記載の画分。
【外国語明細書】