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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022116248
(43)【公開日】2022-08-09
(54)【発明の名称】化合物
(51)【国際特許分類】
   C07F 9/535 20060101AFI20220802BHJP
【FI】
C07F9/535 CSP
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022088805
(22)【出願日】2022-05-31
(62)【分割の表示】P 2018164331の分割
【原出願日】2012-06-22
(31)【優先権主張番号】11170945.7
(32)【優先日】2011-06-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】503180100
【氏名又は名称】ノヴァレッド ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】ドロク,サシャ
(72)【発明者】
【氏名】ヘグマン,ウルリッヒ
(72)【発明者】
【氏名】ファルティン,イナ
(72)【発明者】
【氏名】クローゼ,マヌエラ
(72)【発明者】
【氏名】レスマン,ルドルフ
(57)【要約】      (修正有)
【課題】電子装置におけるドープ層の導電性と熱安定性とを向上させる、新規な化合物を提供する。
【解決手段】式:A-Bで示される化合物であって、式中、

であり、Ar、ArはC6-C18アリーレン、Rは、アルキルとアルコキシとから選択され、R、R、Rはそれぞれ独立してアルキル、アリールアルキル、シクロアルキル、アリール、およびジアルキルアミノから選択され、Bは独立してBと同じ基から選択される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式:A-Bで示される化合物であって、
式中、
【化1】

であり、
Arは、電子供与基Rで置換されてもよいC6-C18アレーン骨格であり、
Arは、少なくとも1つのC-C10アルキル基またはC-C10シクロアルキル基によって置換されていてもよい、単環式または多環式のC6-C18アリーレンであり、
は、アルキルとアルコキシとから選択され、
、R、Rは、それぞれ独立して、アルキル、アリールアルキル、シクロアルキル、アリール、およびジアルキルアミノから選択され、
は、独立してBと同じ基から選択され、
xは0、1、2または3であり、x>1の場合、Arは互いに異なっていてもよく、
yは、上記アレーン骨格上の原子価位置の総数以下の整数(0を除く)であり、
zは、0以上の整数であり、上記アレーン骨格上の原子価位置の総数からyを引いた数以下の整数であり、
A=水素、x=0である場合、y=2であり、
A=水素、Ar=ベンゼンかつx=0である場合、y=2であり、z=1であり、
A=Bかつx=0である場合、全てのyの合計が少なくとも3である、化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子装置および化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
有機光起電(OPV:Organic photovoltaic)装置としても知られている有機太陽電池(OSC:Organic solar cells)には、非常に様々な構造のものがある。一般的に、有機太陽電池は、2つの電極間に設けられた少なくとも1つの有機半導体層を備える。上記有機半導体層は、ドナーとアクセプターとの混合物でできていてもよく、例えば、ポリ(3-へキシルチオフェン)(P3HT)とフェニル-C61-酪酸メチルエステル(PCBM)との混合物でできていてもよい。そのような単純な構造では、界面注入層が電荷担体の注入・抽出を容易にするために用いられる場合、それなりの効果しか達成できない(Liao et al.,Appl.Phys.Lett.,2008.92:p.173303)。有機太陽電池の中には、多層構造の有機太陽電池があり、さらには高分子構造と低分子構造とのハイブリッドの有機太陽電池もある。さらに、タンデム多層構造や複合多層構造の有機太陽電池も知られている(米国特許出願公開第2007/090371、または、Ameri et al.,Energy&Env.Science,2009.2:p.347参照)。多層構造の有機太陽電池は、各層がそれぞれ異なる化合物(あるいは、単純化合物)と、様々な機能に適した化合物の混合物とを有するため、最適化しやすい。一般的な機能層としては、輸送層、感光層、注入層などが挙げられる。
【0003】
光学活性化合物とは、太陽光スペクトルの少なくともある特定の波長範囲の光に対して高い吸収係数を有する化合物であり、吸収した光子を、光電流に順に寄与する励起子に変換する化合物である。上記光学活性化合物は、ドナーとアクセプターの少なくとも一方が光吸収化合物であるドナー-アクセプターヘテロ接合に一般的に用いられる。該ドナー-アクセプターヘテロ接合の界面は、吸収された光子の変換によって生じた上記励起子を電荷担体に分離することに関与する。該ドナー-アクセプターヘテロ接合は、バルクヘテロ接合(混合物)またはフラット(平面)ヘテロ接合であってもよく、さらに層が追加で設けられていてもよい(Hong et al.,Appl.Phys.,2009.106:p.064511)。
【0004】
高効率の有機光起電装置を得るためには、再結合による損失を最小限に抑えなければならない。そのため、上記ヘテロ接合における光学活性化合物は、高い電荷担体移動度と長い励起子拡散長とを有さなければならない。上記励起子は、上記ヘテロ接合の界面にて電荷担体に分離されなければならず、上記電荷担体は、再結合が起こる前に光学活性領域を離れなければならない。このような理由で、現在では、有機光起電装置においては、フラーレン(C60、C70、PCBM等)がアクセプター材料として好適に用いられている。
【0005】
光電子装置の輸送化合物は、少なくとも該光電子装置がアクティブになる波長においては透明でなければならず、また良好な半導体特性を有さなければならない。半導体特性は、エネルギーレベルや移動度などの内因的な特性、あるいは、電荷担体密度などの外因的な特性である。輸送化合物に電気的ドーパントを加えることによっても、電荷担体密度に対して外部から影響を及ぼすことができる。
【0006】
有機太陽電池においては、非常に多くの場合、nドープ電子輸送層が少なくとも1つのnドーパントを有するか、または、導電層から半導体への電子注入、あるいは、ある半導体から別の半導体への電子注入を促す純中間層として、少なくとも1つのnドーパントを用いることが必要である。
【0007】
欧州特許第1768200号明細書に記載のテトラキス(1,3,4,6,7,8-ヘキサヒドロ-2H-ピリミド[1,2-a]ピリミジナト)ジタングステン(II)や、ビス(2,2’-テルピリジン)ルテニウムなどが、nドーパントとして知られている。nドーパントの主な問題点の1つとして挙げられるのは、nドーパントは強力なドーパントであるため、大気中の酸素と反応して容易に分解してしまう、ということである。化合物自身が大気中で安定なnドーパントとして機能する化合物はそう多く知られていない。大気中で安定でありかつnドーパントして働く有機化合物を提供するために、前駆体化合物が開発されている。該前駆体化合物の例としては、国際公開第2007/107306号に開示されているものが挙げられる。
【0008】
また、有機太陽電池に用いられる低LUMO(lowest unoccupied molecular orbital:最低空軌道)化合物(例えば、フラーレン(C60等)、フラーレン誘導体(PCBM等))に効率的にドープすることができる有機化合物として知られているものは数少ない。該有機化合物として、例えば米国特許出願公開第2007/145355号明細書に開示された化合物が挙げられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、電子装置の技術を向上させることである。本発明の別の目的は、電子装置におけるドープ層の導電性と熱安定性とを向上させることであり、また処理しやすい化合物を提供することである。
【0010】
本発明の上記目的は、独立請求項1に係る電子装置と独立請求項15に係る化合物とで達成される。有利な実施形態は、従属項の主題である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様における電子装置は、下記式(1)で示される化合物を有することを特徴とする。
【0012】
A-B …(1)
式中、
【0013】
【化1】
【0014】
であり、
Arは、少なくとも1つのC-C10アルキル基またはC-C10シクロアルキル基によって置換されていてもよい、単環式または多環式のC6-C18アリーレンであり、
Arは、電子供与基Rで置換されていてもよいC6-C18アレーン骨格であり、
およびBは、それぞれ独立して、BとArとから選択され、
は、独立してBと同じ基から選択され、
、R、Rは、それぞれ独立して、アルキルと、アリールアルキルと、シクロアルキルと、アリールと、ジアルキルアミノとから選択され、
xは0、1、2または3であり、x>1の場合、Arは互いに異なっていてもよく、
yは、上記アレーン骨格上の原子価位置の総数以下の整数(0を除く)であり、
zは、0以上の整数であり、上記アレーン骨格上の原子価位置の総数からyを引いた数以下の整数である。
【0015】
好ましくは、
Arは、ベンゼンまたはナフタレン骨格であり、
は、アルキルとアルコキシとから選択され、
、R、Rは、それぞれ独立して、アルキルと、アリールアルキルと、シクロアルキルと、アリールと、ジアルキルアミノとから選択され、
x=0あるいはArはフェニレンであり、
Arがベンゼンである場合、yは1、2、3または4であり、
Arがナフタレンである場合、yは1、2、3、4、5または6であり、
Arがベンゼンである場合、zは0または1であり、
Arがナフタレンである場合、zは0、1または2である。
【0016】
本発明の別の好適な態様によれば、上記式(1)で示される化合物において、
Arは、ベンゼン骨格であり、
は、アルキルとアルコキシとから選択され、
、R、Rは、それぞれ独立して、アルキルと、アリールアルキルと、シクロアルキルと、アリールと、ジアルキルアミノとから選択され、
x=0あるいはArは1,4-フェニレンであり、
yは1、2、3または4である。
【0017】
本発明のさらに別の好適な実施形態によれば、上記式(1)で示される化合物において、
は、アルキルとアルコキシとから選択され、
、R、Rは、それぞれ独立して、アルキルと、アリールアルキルと、シクロアルキルと、アリールと、ジアルキルアミノとから選択され、
xは0であり、
Aは水素、y=1または2、z=1であるか、あるいは、
AはBであり、かつ全てのyの合計が少なくとも3である。
【0018】
上記式(1)で示される化合物の構成要素R-R4と下付き文字x、y、zとは、各Bにおいてそれぞれ独立して選択可能である。AがBであり、上記式(1)で示される化合物がB-Bとなる場合、BとBとは異なりうる。上記式(1)で示される化合物の構成要素Aは、いずれかのフェニル環のパラ位、オルト位、またはメタ位に位置しうる。
【0019】
上述した発明の実施形態において、好ましくは、R、R、Rは、それぞれ独立して、(i)直鎖または分岐鎖、飽和または不飽和のC1-C24アルキル、(ii)少なくとも1つの環構造を有する、飽和または不飽和のC3-C24シクロアルキルまたはアルキル、(iii)C6-C24アリール、(iv)C7-C25アリールアルキル、または、(v)C2-C24ジアルキルアミノである。上記(ii)の飽和または不飽和のC3-C24シクロアルキルまたはアルキルは、いずれの場合も酸素原子が少なくとも2つの炭素原子を隔てている限り、4つ以下のエーテル結合を上記シクロアルキルまたはアルキル構造が有していてもよい。上記(iii)のC6-C24アリールは、飽和または不飽和、直鎖または分岐鎖のアルキル基またはシクロアルキル基、アリール基、アリールアルキル基、またはアルキルアリール基から選択された単一の置換基または複数の置換基によって置換されていてもよく、上記置換にて、3つ以下のアルキル基がエーテル結合を介して上記アレーン骨格の中心に結合していてもよく、あるいは、上記置換にて、6つ以下のアルキル基が、二置換の窒素原子を介して結合していてもよく、C6-C24アリールの炭素原子の総数は上記置換による炭素原子も含む。上記(iv)のC7-C25アリールアルキルは、アレーン環が置換されていてもよく、上記置換にて、3つ以下のアルキル基がエーテル結合を介して上記アレーン環に結合していてもよく、あるいは、上記置換にて、6つ以下のアルキル基が二置換の窒素原子を介して結合していてもよく、C7-C25アリールアルキルの炭素原子の総数は、上記置換による炭素原子も含む。上記(v)のC2-C24ジアルキルアミノのアルキル基は、互いに同じであっても異なっていてもよく、直鎖であっても分岐鎖であってもよく、脂環式構造または芳香族構造を有していてもよく、あるいは、二重結合または三重結合を有する炭素原子が窒素に隣接していない限り不飽和であってもよい。上記ジアルキルアミノ基の2つのアルキル基が結合して、窒素原子を有する環を形成していてもよい。窒素原子および/または酸素原子が少なくとも2つの炭素原子を隔てている限り、4つ以下のエーテル結合を上記ジアルキルアミノ基のメチレン基間に含まれていてもよい。R-Rから選択された2つの基は、互いに結合されて、リン原子を有する環構造を形成する構成であってもよい。より好ましくは、R、R、Rは、それぞれ独立して、C1-C4アルキル、C3-C10シクロアルキル、C7-C10アリールアルキル、C6-C14アリール、または、C2-C12ジアルキルアミノである。特に好ましくは、R-Rは、それぞれ独立して、メチル、イソプロピル、t-ブチル、シクロへキシル、フェニル、トリル、キシリル、メシチル、ナフチル、アンスリル、フェナントリル、1,1’-ビフェニル-イル、1,3-ジイソプロピルフェニル、ベンジル、4-メトキシベンジル、およびジメチルアミノから選択されたものである。最も好ましくは、R-Rは、1,3-ジメチルフェニルである。
【0020】
がアルキルまたはアルコキシである場合、上記アルキル基は、直鎖または分岐鎖であり、飽和または不飽和であってもよく、さらに飽和または不飽和の環構造を有していてもよい。複数のRが同じアレーン骨格に存在する場合、該複数のRは共に環構造を形成していてもよい。好ましくは、Rがアルキルまたはアルコキシである場合、炭素原子の総数はC1-C22である。より好ましくは、Rは、メチル、メトキシ、エチル、エトキシ、プロピル、プロポキシ、イソプロピル、イソプロポキシ、ブチル、ブトキシ、t-ブチル、t-ブトキシ、シクロへキシル、ベンジル、およびベンジルオキシから選択される。
【0021】
好適な実施形態において、上記電子装置は、有機電子装置である。
【0022】
本発明の好適な実施形態において、上記式(1)で示される化合物をnドーパントとして使用する。
【0023】
好適な実施形態において、上記電子装置は、複数の層を含む積層構造を有し、その複数の層の少なくとも1つの層は、上記式(1)で示される化合物を含有する。上記電子装置は、さらに電子輸送層を有していてもよく、代替または追加の構成として、第1の電極および/または第2の電極を備えていてもよい。
【0024】
好適な実施形態において、上記式(1)で示される化合物を有する上記電子装置の上記層は、電子輸送層である。さらに好ましくは、上記電子装置は、電子輸送化合物と上記式(1)で示される化合物とを均一混合物の状態で含む電子輸送層を有する。本発明の別の好適な様態において、上記式(1)で示される化合物を有する上記電子装置の上記層は、電子輸送層と直接接している。本発明の好適な様態において、上記電子輸送層は、フラーレンまたはフラーレン誘導体を主成分として含む。
【0025】
上記式(1)で示される化合物を有する上記電子装置の上記層を電子抽出層として使用する場合、上記式(1)で示される化合物を有する上記電子装置の上記層の厚さは、5nm未満であることが好ましい。
【0026】
上記式(1)で示される化合物を有する上記電子装置の上記層は、好ましくは電極と直接接し、さらに好ましくはカソードと直接接する。追加または代替の構成として、上記式(1)で示される化合物を有する上記層は、上記電子輸送層と上記カソードとの間に設けられている。
【0027】
本発明の一態様において、上記電子装置は接続部を有する。好適な実施形態において、上記式(1)で示される化合物を有する上記電子装置の上記層は、上記接続部の一部である。
【0028】
本発明の好適な様態において、上記電子装置は、太陽電池であり、好ましくは有機太陽電池(OSC)である。上記太陽電池は、アノード、カソード、光吸収層等を備えている。好適な実施形態において、上記有機太陽電池は、上記光吸収層と上記カソードとの間に、上記式(1)で示される化合物を有する。本発明の好適な態様において、上記有機太陽電池は、pi構造、ni構造またはpin構造を有しており、これらの構造はそれぞれ、第1p層、第1i層、または第1n層を有する。なお、p層はpドープ正孔輸送層を意味し、n層はnドープ電子輸送層を意味し、i層は固有の光活性層を意味する(詳細は、米国特許出願公開第2007/090371を参照)。これらの輸送層は、上記光活性層より、HOMO(highest occupied molecular orbital:最高被占軌道)-LUMO(最低空軌道)ギャップが大きい。
【0029】
上記太陽電池は、上記光吸収層を有する光吸収部と、別の光吸収層を有する別の光吸収部とを含むことが好ましい。上記接続部は、上記光吸収部を上記別の光吸収部に接続するpn接合であってもよい。好ましくは、上記接続部は、タンデム型装置または多層構造の装置において、上記光吸収部を上記別の光吸収部に接続するpn接合である。多層構造の装置とは、3つ以上の光吸収部を有する装置であり、マルチタンデム型装置と呼ばれることもある。多層pin装置、多層pi装置、または多層ni装置であることが好ましい。追加または代替の構成として、上記接続部は、上記カソードまたは上記アノードと上記光吸収部とを接続するpn接合であってもよい。
【0030】
本発明は、有機太陽電池に用いられる一般的な電子輸送材料(ETM:electron transport materials)をドープすることによって高い導電率を得ることができる、という効果を奏する。上記式(1)で示される化合物を用いることによって、有機系では高い導電率である、約1S/cmの導電率をドーピング濃度10mol%で得ることができる。また、上記式(1)で示される化合物は、例えば真空内にて、真空熱蒸着(VTE:vacuum thermal evaporation)や有機気相蒸着(OVPD:organic vapor phase deposition)等によって処理可能な高い安定性を有する。あるいは、上記式(1)で示される化合物は、不活性雰囲気下あるいは大気中での溶液処理にて処理することも可能である。
【0031】
好適な実施形態において、上記式(1)で示される化合物は、ドープ層を形成するマトリクス材料に加えられる。これにより、特に、上記式(1)で示される化合物から周囲のマトリクス材料への少なくとも1つの電子の移動によって、上記式(1)で示される化合物分子のカチオンが発生する。上記工程中に、上記マトリクス材料のアニオンも発生する。このようにして、上記マトリクス材料は、ドープされていないマトリクス材料の導電率より高い導電率を有する。
【0032】
ドープされていないマトリクス材料の導電率は、一般的に約10-8S/cmであり、特に10-10S/cmであることが多い。上記マトリクス材料は、十分に高い純度であるべきである。そのような十分に高い純度は、勾配精製等の従来の方法で達成することができる。ドーピングによって、上記マトリクス材料の導電率を、10-6S/cmより高くすることができる。これは、特に、-0.3V vs. Fc/Fcの還元電位、好ましくは-0.8V vs. Fc/Fcの還元電位を有するマトリクス材料に当てはまる。“Fc/Fc”は、例えばサイクリックボルタンメトリー(CV)による電気化学的電位判定において基準として用いられるフェロセン/フェロセニウム酸化還元対に関する表記である。サイクロボルタンメトリーの詳細や、還元電位の判定、および、標準フェロセン/フェロセニウム酸化還元対と様々な基準電極との関係を判定する他の方法の詳細については、A.J.Bard et al.,“Electrochemical Methods:Fundamentals and Applications”,Wiley,2.Edition,2000を参照。有機太陽電池の一般的な電子輸送材料においては、酸化還元電位は約-0.3V vs. Fc/Fcである。
【0033】
本願において、ドーパントは、マトリクス材料に加えられる物質である(上記マトリクス材料を上記ドーパントでドープする)と理解される。“電気ドーパント”や単に“nドーパント”は、電子輸送材料のドーパントを示すタームとして、従来技術においても一般に用いられている。
【0034】
電子輸送層に隣接して設けられる層であって、上記式(1)で示される化合物を含む上記電子装置の層は、有機太陽電池において電子抽出層として用いることができる。上記式(1)で示される化合物は、電子部品内で、好ましくは電極とドープされうる半導体層との間にて、電子注入層として用いることができる。代替または追加の構成として、上記式(1)に示された化合物は、電子部品内にて、好ましくは吸収層と輸送層との間にて、ブロック層として、あるいは、半導体層として用いることができる。
【0035】
本発明のある好適な態様において、上記電子装置の全ての有機層は、低分子で構成される。好ましくは、上記低分子は、真空熱蒸着(VTE)で蒸着することができる。
【0036】
本発明の別の態様においては、少なくとも1つの有機半導体層はポリマーを含み、ポリマー層および/または少なくとも1つの別の有機半導体層は、上記式(1)で示される化合物を含む。
【0037】
上記式(1)で示される化合物には、比較的高い導電率を有する非常に安定したnドープ層を形成するという特有の効果を奏する。
【0038】
上記式(1)で示される化合物の合成については文献により公知である。例えば、Horner and Oediger,“Phosphororganische Verbindungen, XVIII: Phosphinimino-Verbindungen aus Phosphindihalogeniden und Primaren Aminen”,Liebigs Annalen der Chemie 1959,v.627,pp.132-162を参照。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】太陽電池を構成する積層構造を示した概略図である。
図2】電子輸送層(ETL:electron transport layer)を含む太陽電池の積層構造を示した概略図である。
図3】明所と暗所にて測定した太陽電池のI-V曲線(電流と電圧との関係)である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、例示的実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0041】
図1に示すように、有機太陽電池は、少なくとも、基板10と、アノード11と、光吸収部12と、カソード13とを含む。各層の積層順は逆であってもよく、アノード11がカソードになり、カソード13がアノードになっていてもよい。上記有機太陽電池には、さらに別の光吸収部が設けられていてもよい。
【0042】
ある実施形態において、上記基板10は、ガラス基板、高分子プレートや高分子ウェブなどの透明基板であってもよい。上記アノード11は、ITO(Indium Tin Oxide)、FTO(Fluorine-doped Tin Oxide)、AlZO(Aluminuim-doped Zinc Oxide)などの透明導電酸化物であってもよい。上記カソード13は、アルミニウムまたはアルミニウム合金を含んでいてもよい。上記光吸収部12の少なくとも1つは、ポリマーを含むチオフェンと式(1)で示される化合物との混合物を含んでいてもよい。あるいは、上記光吸収部12は、ドナーポリマー(好ましくは、ポリマーを含むチオフェン)とアクセプター(好ましくは、フラーレンまたは可溶性フラーレン誘導体)との混合物を含んでいてもよい。本実施形態において、上記式(1)で示される化合物を有する層(例えば、ドープ済み電子輸送層)または上記式(1)で示される化合物からなる層(電子抽出層)が、上記光吸収部12と上記カソード13との間に形成されていてもよい。なお、この層構造の各層の積層順を逆にすることもできる。
【0043】
別の実施形態においては、上記アノード11は、透明ではなく、主にアルミニウムまたはアルミニウム合金を含んでいる。上記基板10は、必ずしも透明でなくてもよい。上記カソード13は、厚さ30nm未満の透明導電性酸化物層または透明金属層を含む。
【0044】
図1に関するさらに別の実施形態においては、上記基板10と、上記アノード11と、上記カソード13とは透明である。本実施形態において、可視領域の波長の入射光を100%吸収しないので、装置全体としては半透明である。
【0045】
本発明は、多層装置(例えば、タンデム型装置)であってもよい。このような多層装置においては、少なくとも1つの光吸収部が、光吸収部12とカソード13との間にさらに追加で形成されている。電子接続を好適に行い、層の位置を光学上最適化するために、有機層または無機層をさらに形成してもよい。好ましくは、上述した機能の少なくとも一部は、式(1)で示される化合物を有する層によって果たされる。
【0046】
図2は、基板20と、アノード21と、吸収層を有する光吸収部22と、有機電子輸送層(ETL)23と、カソード24とを備えた有機太陽電池の積層構造を示す。各層の積層順は逆であってもよい。上記有機電子輸送層23は、上記カソード24と上記吸収層22との間に形成されていてもよい。さらに別の光吸収部が、上記有機太陽電池に設けられていてもよい。
【0047】
一実施形態によれば、上記有機電子輸送層23は、主成分として、マトリクス材料である電子輸送材料(ETM)と、ドーパントである上記式(1)で示される化合物とを含む。上記有機電子輸送層23の厚さは特に限定されないが、上記光吸収層22と上記カソード24との間に別の光吸収層が存在しない場合には、40nm未満であることが好ましい。
【0048】
図1を参照して説明した全ての実施形態は、図2の上記有機太陽電池にも適用できる。
【0049】
図面は全て、太陽電池の積層構造を概略的に示したものであり、電気的接続や、カプセル封止や、電極(上記アノード21と上記カソード24)外部の光学構造などの装置の構成は示していない。また、各層の厚さも縮尺通りには示されていない。上記電極の少なくとも一方は、上記有機太陽電池がアクティブになる波長範囲において透明である。
【0050】
別の実施形態においては、上記光吸収部22は、ドナー材料とアクセプター材料の混合物等のドナー-アクセプターバルクヘテロ接合である。上記ドナー材料は、好ましくは、ピロール基またはチオフェン基を有する光吸収性に優れた化合物で形成されている。上記アクセプター材料は、好ましくは、C58フラーレン、C60フラーレン、C70フラーレン、または可溶性フラーレン誘導体である。上記有機電子輸送層23は、ドーパントとして、式(1)で示される化合物を有していてもよい。
【0051】
さらに別の実施形態においては、上記光吸収部22は、ドナー材料とアクセプター材料の混合物等のドナー-アクセプターバルクヘテロ接合である。上記ドナー材料は、好ましくは、ピロール基またはチオフェン基を有する光吸収性に優れた化合物で形成されている。上記アクセプター材料は、式(1)で示される化合物であってもよい。
【0052】
以下の表は、上記式(1)で示される化合物の好適な例を示している。
【0053】
【表1】





【0054】
以下、式(1)で示される上記例示化合物のいくつかを詳細に説明する。
【0055】
化合物1:1,4-ビス(トリフェニルホスフィンイミン)-ベンゼン
12.3g(37.0mmol)のトリフェニルホスフィンジクロリドを80mlのベンゼンに溶解した。10mlのトリエチルアミンと2.0g(18.5mmol)の1,4-フェニレンジアミンとを加え、その混合物を2日間還流させながら加熱した。冷却後、その懸濁液をろ過し、得られた残渣を希水酸化ナトリウム溶液で洗浄した後、エタノール/水で洗浄した。真空乾燥後、9.20g(14.6mmol;79%)の黄色固体を得た。その生成物の特性を分析するために、その生成物を勾配昇華(gradient sublimation)によって精製した。
【0056】
融点(DSC:示差走査熱量測定):272℃
CV(DCM:ジクロロメタン):-0.4V vs. Fc(rev)。
【0057】
化合物2:1,2-ビス(トリフェニルホスフィンイミン)-ベンゼン
10.0g(30.0mmol)のトリフェニルホスフィンジクロリドを100mlのトルエンに溶解した。8.5mlのトリエチルアミンと1.62g(15.0mmol)の1,2-フェニレンジアミンとを加え、その混合物を95℃で2日間加熱した。冷却後、その懸濁液をろ過し、残渣をトルエンで洗浄した。さらに、その残渣を2M水酸化ナトリウム溶液に懸濁し、45℃で5分間攪拌した。ろ過および真空乾燥後、4.73g(7.5mmol;50%)の鮮黄色の固体を得た。その生成物の特性を分析するために、その生成物を勾配昇華によって精製した。
【0058】
融点(DSC):257℃
CV(DCM):-0.29V vs. Fc。
【0059】
化合物3:1,4-ビス(トリフェニルホスフィンイミン)-2-メトキシ-ベンゼン
ステップ1:2-メトキシ-4-ニトロアニリンの還元
3.0g(17.8mmol)の2-メトキシ-4-ニトロアニリンと0.8gのパラジウム炭素(10%)とを100mlのテトラヒドロフランに加えた。8.7ml(114.0mmol)のヒドラジン一水和物を含有した40mlのテトラヒドロフランを慎重に加え、その反応混合物を90℃で3時間攪拌した。冷却後、その懸濁液をろ過し、テトラヒドロフランで洗浄した。その母液を減圧下で蒸発させ、灰色の残渣を得た。2.44g(17.7mmol;99%)の生成物をアルゴン下で保存し、精製せずに使用した。
【0060】
ステップ2:1,4-ビス(トリフェニルホスフィンイミン)-2-メトキシ-ベンゼン
3.71g(11.2mmol)のトリフェニルホスフィンジクロリドを50mlのトルエンに溶解した。3.1ml(22.3mmol)のトリエチルアミンと0.77g(5.6mmol)の2-メトキシ-1,4-フェニレンジアミンとを含有した50mlのトルエン懸濁液を加え、その混合物を95℃で2日間加熱した。冷却後、その懸濁液をろ過し、残渣をトルエンで洗浄した。さらに、その残渣を2M水酸化ナトリウム溶液に懸濁し、45℃で5分間攪拌し、ろ過し、水で洗浄した。ろ過および真空乾燥後、1.96g(3.0mmol;53%)の褐色固体を得た。
【0061】
融点(DSC):206℃
CV(DCM):-0.45V vs. Fc(rev)。
【0062】
化合物4:1,4-ビス(トリトリルホスフィンイミン)-ベンゼン
ステップ1:トリス(4-メチルフェニル)ホスフィンジクロリドの作製
11.70g(49.3mmol)のヘキサクロロエタンを、15.0g(49.3mmol)のトリス(4-メチルフェニル)ホスフィンを含有した80mlのアセトニトリル懸濁液に、アルゴン雰囲気下で加えた。その混合物を95℃で17時間攪拌した。冷却後、溶媒を減圧下で除去し、残渣をトルエンとヘキサンとで洗浄した。高真空乾燥後、9.83g(26.2mmol;53%)の白色固体を得た。得られた化合物は、精製せずに次の変換工程に用いた。
【0063】
ステップ2:1,4-ビス(トリトルイルホスフィンイミン)-ベンゼン
5.8ml(41.6mmol)のトリエチルアミンを含有した10mlの乾燥トルエンの溶液を、7.81g(20.8mmol)のトリス(4-メチルフェニル)ホスフィンジクロリドを含有した80mlの乾燥トルエンの混合物に、アルゴン雰囲気下、5℃で加えた。さらに、1.12g(10.4mmol)の1,4-フェニレンジアミンを加えた。その混合物を110℃で1時間攪拌した。黄色の沈殿物をろ過し、トルエンとヘキサンとで洗浄した。乾燥済みの粗精製物を2M水酸化ナトリウム溶液に懸濁し、45℃で5分間攪拌した。さらに、ろ過、水で洗浄、真空乾燥後、5.43g(7.6mmol;73%)の鮮黄色の固体を得た。その生成物の特性を分析するために、その生成物を勾配昇華によって精製した。
【0064】
融点(DSC):267℃
CV(DCM):-0.46V vs. Fc(rev)。
【0065】
化合物5:1,4-ビス(トリトルイルホスフィンイミン)-2-メトキシ-ベンゼン
ステップ1:トリトルイルホスフィンジクロリドの作製
上記参照。
【0066】
ステップ2:2-メトキシ-4-ニトロアニリンの還元
上記参照。
【0067】
ステップ3:1,4-ビス(トリトルイルホスフィンイミン)‐2-メトキシ-ベンゼン
2.0g(5.3mmol)のトリトルイルホスフィンジクロリドを、アルゴン下、10mlのトルエンに溶解した。1.5ml(10.7mmol)のトリエチルアミンと0.37g(2.7mmol)の2-メトキシ-1,4-フェニレンジアミンとを含む15mlのトルエン懸濁液を加え、その混合物を90℃で18時間加熱した。冷却後、その懸濁液をろ過し、残渣をトルエンで洗浄した。さらに、その残渣を2M水酸化ナトリウム溶液で懸濁し、45℃で5分間攪拌し、ろ過し、水で洗浄した。ろ過し、真空乾燥後、0.43g(0.6mmol;22%)の黄色固体を得た。
【0068】
融点(DSC):239℃
CV(DCM):-0.51V vs. Fc。
【0069】
化合物7:1,2,4,5-テトラ(トリフェニルホスフィンイミン)-ベンゼン
4.9ml(35.2mmol)のトリエチルアミンと0.50g(1.8mmol)のテトラアミノベンゼンテトラヒドロクロリドとを、20mlのアセトニトリルに懸濁した。2.93g(8.8mmol)のトリフェニルホスフィンジクロリドを15mlのアセトニトリルに溶解し、それを上記懸濁液に0℃で加えた。そして、その混合物を室温にて18時間攪拌した。沈殿物をろ過し、2M水酸化ナトリウム溶液に懸濁し、45℃で5分間攪拌した。さらに、ろ過および真空乾燥後、0.74g(0.6mmol;35%)の赤褐色の固体を得た。
【0070】
融点(DSC):283℃
CV(DCM):-1.02V vs. Fc(rev)。
【0071】
化合物8:トリス(4-トリフェニルホスフィンイミンフェニル)アミン
1.72g(5.4mmol)のトリフェニルホスフィンジクロリドを、アルゴン雰囲気下、8mlのジクロロメタンに溶解した。1.8ml(12.9mmol)のトリエチルアミンを含有した2mlのジクロロメタンをその溶液にゆっくりと加えた。さらに、0.50g(1.7mmol)のトリス(4-アミノフェニル)アミンを加え、その混合物を室温で4日間攪拌した。その反応液をジクロロメタンで希釈し、水を用いて抽出した。有機相を乾燥し、減圧下にて溶媒を除去した。残渣を2M水酸化ナトリウム溶液に懸濁し、45℃で5分間攪拌した。ろ過および真空乾燥後、1.50g(1.4mmol;82%)の固体を得た。
【0072】
融点(DSC):277℃
CV(DMF:ジメチルホルムアミド):-0.39V vs. Fc。
【0073】
化合物9:トリス(4-トリトルイルホスフィンイミンフェニル)アミン
ステップ1:トリトルイルホスフィンジクロリドの作製
上記参照。
【0074】
ステップ2:トリス(4-トリトルイルホスフィンイミンフェニル)アミン
3.8ml(27.4mmol)のトリエチルアミンを含有した10mlの乾燥トルエンの溶液を、アルゴン雰囲気下、5℃で、3.82g(10.2mmol)のトリス(4-メチルフェニル)ホスフィンジクロリドを溶解した40mlのトルエンに加えた。さらに、1.0g(3.4mmol)のトリス(4-アミノフェニル)アミンを加えた。その混合物を110℃で1時間攪拌した。沈殿物をろ過し、トルエンとヘキサンとで洗浄した。そして、乾燥済みの粗精製物を2M水酸化ナトリウム溶液に懸濁し、45℃で5分間攪拌した。さらに、ろ過、水で洗浄、真空乾燥後、3.06g(2.6mmol;75%)の淡黄色の固体を得た。
【0075】
化合物11:4,4’-ビス(トリフェニルホスフィンイミン)-1,1’-ビフェニル
4.15g(12.5mmol)のトリフェニルホスフィンジクロリドを30mlのベンゼンにて溶解し、3.4mlのトリエチルアミンと1.15g(6.3mmol)のベンジジンとを加えた。その混合物を還流させながら3時間攪拌した。冷却後、その懸濁液をろ過し、得られた黄色の残渣を希水酸化ナトリウム溶液で洗浄した後、エタノール/水で洗浄した。そして、真空乾燥後、3.20g(4.7mmol;73%)の黄色固体を得た。その生成物の特性を分析するために、その生成物を勾配昇華によって精製した。
【0076】
融点(DSC):283℃
CV(DCM):0.0V vs. Fc(rev)。
【0077】
化合物18:4,4”-ビス(トリフェニルホスフィンイミン)-p-テルフェニル
2.50g(7.5mmol)のトリフェニルホスフィンジクロリドを50mlのトルエンにて溶解し、2.9mlのトリエチルアミンと0.88g(3.4mmol)の4,4”-ジアミノ-p-テルフェニルとを加えた。その混合物を95℃で2日間加熱した。冷却後、その懸濁液をろ過し、得られた残渣を希水酸化ナトリウム溶液で洗浄した後、水とアセトニトリルとで洗浄した。真空乾燥後、2.06g(2.6mmol;78%)の淡黄色の固体を得た。その生成物の特性を分析するために、その生成物を勾配昇華によって精製した。
【0078】
融点(DSC):322℃
CV(DCM):0.22V vs. Fc(rev)。
【0079】
化合物19:N4,N4”-ビス(トリ-p-トリルホスホラニリデン)-[1,1’:4’,1”-テルフェニル]-4,4”-ジアミン
ステップ1:トリトリルホスフィンジクロリドの作製
11.7g(49.3mmol)のヘキサクロロエタンを、15.0g(49.3mmol)のトリス(4-メチルフェニル)ホスフィンを含有した80mlのアセトニトリルの懸濁液に、アルゴン雰囲気下にて加えた。その混合物を95℃で17時間攪拌した。冷却後、200mlの乾燥トルエンを加え、50mlのアセトニトリルを減圧下にて除去した。残渣をろ過し、50mlの乾燥トルエンと50mlの乾燥ヘキサンとで洗浄した。高真空乾燥後、9.83g(53%)の白色固体を得た。
【0080】
ステップ2:N4,N4”-ビス(トリ-p-トリルホスホラニリデン)-[1,1’:4’,1”-テルフェニル]-4,4”-ジアミンの作製
1.69g(4.5mmol)のを含有した3.3mlのジクロロメタンを、0.52g(2mmol)のトリトリルホスフィンジクロリドを含有した5mlのトルエンの溶液に加えた。さらに、1g(10mmol)のトリエチルアミンを加えた後、その混合物を還流させながら3時間攪拌した。沈殿物をろ過、乾燥し、2M水酸化ナトリウム溶液に懸濁し、45℃で5分間攪拌した。さらに、ろ過、水で洗浄、真空乾燥後、0.93g(1.1mmol;55%)の褐色固体を得た。その生成物の特性を分析するために、その生成物を勾配昇華によって精製した。
【0081】
融点:314℃
CV(DCM):0.18V vs. Fc。
【0082】
化合物20:N4,N4”-ビス(トリス(4-メトキシフェニル)ホスホラニリデン)-[1,1’:4’,1”-テルフェニル]-4,4”-ジアミン
ステップ1:4,4”-ジアジド-1,1’:4’,1”-テルフェニルの作製
0.63g(9.3mmol)の亜硝酸ナトリウムを含有した5mlの水と、0.56g(9.3mmol)の尿素を含有した5mlの水とを、1.2g(4.5mmol)の[1,1’:4’,1”-テルフェニル]-4,4”-ジアミンと、7.5mlの酢酸と、3.3mlの硫酸との混合物に、0℃で加えた。1時間撹拌後、0.64g(9.8mmol)のアジ化ナトリウムを含有した5mlの水をゆっくりと加えた。その混合物を室温にて3時間攪拌し、氷の上に注いだ。得られた沈殿物をろ過し、水で洗浄し、真空乾燥した。得られた1.3g(4.2mmol;93%)の褐色固体は、精製せずに使用した。
【0083】
ステップ2:N4,N4”-ビス(トリス(4-メトキシフェニル)ホスホラニリデン)-[1,1’:4’,1”-テルフェニル]-4,4”-ジアミン
0.66g(2.1mmol)の4,4”-ジアジド-1,1’:4’,1”-テルフェニルを含有した15mlのトルエン溶液に、1.48g(4.2mmol)のトリス(4-メトキシフェニル)ホスフィンを含有した5mlのトルエンを、アルゴン雰囲気下にて加えた。室温にて18時間撹拌後、蒸留して溶媒を除去し、残渣をトルエンで洗浄した。真空乾燥後、1.70g(1.8mmol)の黄色の粉末を得た。
【0084】
融点:328℃。
【0085】
化合物28:N1,N4-ビス(トリシクロへキシルホスホラニリデン)ベンゼン-1,4-ジアミン
8.1g(34.2mmol)のヘキサクロロエタンを、9.6g(34.2mmol)のトリシクロへキシルホスフィンを含有した60mlのアセトニトリル懸濁液に、アルゴン雰囲気下で加えた。その混合物を95℃で16時間攪拌した。室温まで冷却後、1.7g(15.5mmol)のパラフェニレンジアミンと11.5ml(77.5mmol)の2,3,4,6,7,8,9,10-オクタヒドロピリミド[1,2-a]アゼピンとを含有した25mlのアセトニトリル溶液を加えた。その混合物を95℃で16時間攪拌した後、室温にまで温度を下げた。沈殿物をろ過、乾燥し、2M水酸化ナトリウム溶液に懸濁し、45℃で5分間攪拌した。ろ過、水で洗浄、真空乾燥後、5g(7.5mmol;49%)の褐色固体を得た。その生成物の特性を分析するために、その生成物を勾配昇華によって精製した。
【0086】
融点:277℃
CV(THF):-0.07V vs. Fc。
【0087】
化合物29:N1,N4-ビス[トリス(ジメチルアミノ)ホスホラニリデン]ベンゼン-1,4-ジアミン
14.5g(61.0mmol)のヘキサクロロエタンを、10.0g(61.0mmol)のトリス(ジメチルアミノ)ホスフィンを含有した75mlのアセトニトリル懸濁液に、アルゴン雰囲気下にて加えた。その混合物を100℃で16時間攪拌した。室温にまで冷却後、3g(27.7mmol)のパラフェニレンジアミンと20.6ml(138.5mmol)の2,3,4,6,7,8,9,10-オクタヒドロピリミド[1,2-a]アゼピン(1,8-ジアゾビシクロ[5,4,0]ウンデカ-7-エン)とを含有した15mlのアセトニトリル溶液を加えた。その混合物を100℃で16時間攪拌し、その後室温にまで温度を下げた。溶媒が20mlになるまで蒸留し、沈殿物をろ過、乾燥し、2M水酸化ナトリウム溶液に懸濁し、45℃で5分間攪拌した。さらに、トルエンを用いて抽出し、酢酸エチルで洗浄し、真空乾燥によって、1.2g(2.8mmol;10%)の褐色固体を得た。その生成物の特性を分析するために、その生成物を勾配昇華によって精製した。
【0088】
融点:127℃
CV(DCM):-0.61V vs. Fc。
【0089】
化合物30:N1,N5-ビス(トリフェニルホスホラニリデン)ナフタレン-1,5-ジアミン
4.17g(12.5mmol)のトリフェニルホスフィンジクロリドを30mlのベンゼンにて溶解し、3.4mlのトリエチルアミンと1.0g(6.25mmol)のナフタレン-1,5-ジアミンとを加えた。その混合物を80℃で3日間加熱した。冷却後、その懸濁液をろ過し、残渣を2M水酸化ナトリウム溶液に懸濁し、45℃で5分間攪拌した。ろ過および真空乾燥後、2.18g(3.21mmol;51%)の黄色固体を得た。その生成物の特性を分析するために、その生成物を勾配昇華によって精製した。
【0090】
融点:257℃
CV(DCM):0.26V vs. Fc。
【0091】
化合物31:N1,N4-ビス(メチルジフェニルホスホラニリデン)ベンゼン-1,4-ジアミン
4.7g(20mmol)のヘキサクロロエタンを、4g(20mmol)のメチルジフェニルホスフィンを含有した25mlのアセトニトリル懸濁液に、アルゴン雰囲気下にて加えた。その混合物を95℃で2.5時間攪拌した。室温にまで冷却後、0.98g(9.1mmol)のパラフェニレンジアミンと6.3ml(45.5mmol)の2,3,4,6,7,8,9,10-オクタヒドロピリミド[1,2-a]アゼピンとを含有した10mlのアセトニトリル溶液を加えた。その混合物を95℃で16時間攪拌し、その後室温にまで温度を下げた。沈殿物をろ過、乾燥し、2M水酸化ナトリウム溶液に懸濁し、45℃で5分間攪拌した。さらに、ろ過、水で洗浄、真空乾燥後、1.2g(2.4mmol;26%)の褐色固体を得た。その生成物の特性を分析するために、その生成物を勾配昇華によって精製した。
【0092】
融点:225℃
CV(DCM):-0.23V vs. Fc。
【0093】
上記化合物は、有機光起電装置の一般的な電子輸送材料を効果的にnドープできることが実証された。例えば、10mol%の化合物1をドープしたC60は、導電率1.3S/cmを有し、10mol%の化合物4をドープしたC60は、導電率4.6S/cmを有し、10mol%の化合物2をドープしたC60は、導電率2.1E-2 S/cmを有し、10mol%の化合物28をドープしたC60は、導電率2.1E-2 S/cmを有し、10mol%の化合物29をドープしたC60は、導電率0.35S/cmを有していることがわかった。C60は、基準として用いられたものであり、類似の電子輸送特性を有する他の電子輸送材料もドープすることができることは明らかである。例えば、10mol%の化合物28と10mol%の化合物29とをそれぞれドープした2,2’,2”-(5H-ジインデノ[1,2-a:1’,2’-c]フルオレン-5,10,15-トリイリデン)トリマロノニトリル(ET1)は、有機光起電装置等への適用に十分である1E-4 S/cmより大きな導電率を示した。
【0094】
装置1:強力ドナーであるテトラキス(1,3,4,6,7,8-ヘキサヒドロ-2H-ピリミド[1,2-a]ピリミジナト)ジタングステン(II)(W(hpp)4)を有する、式(1)で示される新たなドーパントを評価するために、pn接合装置を使用した。上記pn接合装置は、ガラス基板上に、アノードとしてのITOと、厚さ50nmのpドープ正孔輸送層(HTL)と、電子輸送層(ETL)としての、式(1)で示される新たなドーパントの1つでドープされた厚さ50nmのC60層と、Alカソードとを備えた構成とした。電流密度5mA/cmとするのに必要な電圧は、化合物1では0.09Vであり、化合物2では0.12Vであり、化合物4では0.03Vであった。同じ電流密度とするのに0.01Vの電圧を要した比較例(W(hpp)4(HOMO<<-0.1V vs. Fc))よりはるかに低い貢献度を考慮すると、これらの電圧値は驚くほど高い値である。
【0095】
装置2(比較例):従来の有機太陽電池を以下の手順で組み立てた。ITOで被覆されたパターンガラス基板を標準的な手順で洗浄した。上記パターンガラス基板を窒素が充填されたグローブボックスを使用して真空中に設置した。真空内にて、有機層を従来の真空熱蒸着(VTE)で蒸着した。具体的には、まず始めに、厚さ40nmの15%(モル)pドープN4,N4,N4”,N4”-テトラ([1,1’-ビフェニル]-4-イル)-[1,1’:4’,1”-テルフェニル]-4,4”-ジアミン(HT1)層を、シャドーマスクを介して上記ITO上に蒸着した。さらに、HT1層上に、厚さ10nmの非ドープホウ素サブフタロシアニン塩化物(SubPc)層を蒸着した。さらにSubPc層上に、厚さ25nmの非ドープC60層を蒸着した。またさらに非ドープC60層上に、強力nドーパントW(hpp)4で(10wt%)ドープされた厚さ15nmのC60層を蒸着した。またさらにそのC60層の上に、Alカソードを蒸着した。擬似太陽光スペクトル照射下で、当該装置は、以下のパラメータを示した。Voc=1.06V、Jsc=4.83mA/cm、FF=52.5%、効率=2.7%。
【0096】
装置3:W(hpp)4の代わりに化合物4を用いたことを除いて、装置2と同じ層構造を有する有機太陽電池を形成した。同じ条件下にて、該装置3は、総電力効率2.91%で、短絡電流4.93mA/cm、FF54.9%、開路電圧1.08Vと概ね高い性能を示した。図3に、明所および暗所にて測定した該装置3のI-V曲線を示す。
【0097】
上記式(1)で示される新たな化合物をドーパントして含むタンデム型有機太陽電池は、nドーパント(W(hpp)4)を除いて、同じ構成である比較例の装置より、高い電力変換効率を有している。比較例のタンデム型太陽電池の電力変換効率が、3.7%であったのに対して、上記タンデム型有機太陽電池の電力変換効率は、3.9%にも達した。上記pn接合装置の厚さ5nmの電子輸送層のC60を、ET1に置き換えることによって、電力変換効率を4.2%にまで上げることができる。つまり、互いに接続し合うまたはpn接合装置の構成要素である電子輸送層に、ドーパントして上記式(1)で示される化合物を用いることによって、有機電子装置、特に有機太陽電池の性能をさらに向上させることができる。
【0098】
明細書、請求項、図面にて開示された本発明の特徴は、個々においてもまた組み合わせにおいても、本発明を様々な実施形態にて実行するのに重要である。
図1
図2
図3
【手続補正書】
【提出日】2022-06-30
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式:A-Bで示される化合物であって、
式中、
【化1】

であり、
Arは、電子供与基Rで置換されてもよい -C 18 アレーン骨格であり、
Arは、少なくとも1つのC-C10アルキル基またはC-C10シクロアルキル基によって置換されていてもよい、単環式または多環式であり得るC -C 18 アリーレンであり、
は、アルキルとアルコキシとから選択され、
、R、Rは、それぞれ独立して、アルキル、アリールアルキル、シクロアルキル、アリール、およびジアルキルアミノから選択され、
は、独立してBと同じ基から選択され、
xは0、1、2または3であり、x>1の場合、Arは互いに異なっていてもよく、
yは、上記アレーン骨格上の原子価位置の総数以下の整数(0を除く)であり、
zは、0以上の整数であり、上記アレーン骨格上の原子価位置の総数からyを引いた数以下の整数であり、
(1)A=水素、x=0である場合、y=1又は2であり、
(2)A=Bかつx=0である場合、全てのyの合計が少なくとも3であり、
(3)Ar =ベンゼンから水素原子を2つ又は3つ除した2価又は3価の基であり、x=0、A=水素かつy=2である場合、
(3.1)z=0かつR 、R 、R が、それぞれ独立して、アルキル、シクロアルキルおよびジアルキルアミノから選択され、
(3.2)z=1かつR 、R 、R が、それぞれ独立して、アルキル、アリールアルキル、シクロアルキル、アリール、およびジアルキルアミノから選択され、
(3.3)前記化合物が
【化2】

であり、又は
(3.4)前記化合物が
【化3】

である、化合物。
【請求項2】
以下の化学式のうちの1つである、請求項1に記載の化合物。
【化4】