(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022116249
(43)【公開日】2022-08-09
(54)【発明の名称】ヒドロゲル系生体送達ビヒクル
(51)【国際特許分類】
A61K 47/36 20060101AFI20220802BHJP
A61K 9/127 20060101ALI20220802BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20220802BHJP
A61K 31/445 20060101ALI20220802BHJP
A61P 25/04 20060101ALI20220802BHJP
A61P 23/02 20060101ALI20220802BHJP
A61L 27/52 20060101ALI20220802BHJP
A61L 27/54 20060101ALI20220802BHJP
A61L 27/58 20060101ALI20220802BHJP
A61L 27/44 20060101ALI20220802BHJP
A61L 27/20 20060101ALI20220802BHJP
【FI】
A61K47/36
A61K9/127
A61K9/06
A61K31/445
A61P25/04
A61P23/02
A61L27/52
A61L27/54
A61L27/58
A61L27/44
A61L27/20
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022088894
(22)【出願日】2022-05-31
(62)【分割の表示】P 2019511837の分割
【原出願日】2017-05-12
(31)【優先権主張番号】62/335,457
(32)【優先日】2016-05-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】518401546
【氏名又は名称】インシツ バイオロジクス、インク.
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】テーラー、ウィリアム
(72)【発明者】
【氏名】シップル、ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】セガーマーク、ジェームス
(57)【要約】 (修正有)
【課題】薬物および生体材料を組織または臓器部位に効果的に送達するために使用される、ヒドロゲル系生体送達ビヒクルを提供する。
【解決手段】ヒドロゲル系生体送達ビヒクルは、カルボキシル基を含有するバイオポリマー骨格を含むヒドロゲル結合マトリックスを含むものでよい。チラミンがカルボキシル基の少なくとも一部を置換してもよく、その結果、過酸化水素が添加されると、チラミン分子との間で共有結合が生成し、ヒドロゲル結合マトリックスを架橋させ、ヒドロゲル結合マトリックスが、液体状態からゲル状態へと移行できる。ヒドロゲル結合マトリックスは、その液体形態では、薬物容器を封入し、薬物または標的分子を含む粒子が均一に分散した均一な液体を生成する。ヒドロゲル結合マトリックスがゲル状態へと固化するにつれて、新しく生成した架橋は、薬物容器内に含まれる薬物または標的分子を破壊しないか、またはこれらと反応しない。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生命体に薬物を送達するためのヒドロゲル系生体送達ビヒクルであって、
複数の薬物容器および結合マトリックスを含み、ここで、
前記複数の薬物容器の少なくとも一つは、前記薬物を含み、
前記結合マトリックスは、チラミン分子間の共有結合を有する架橋されたヒドロゲルマトリックスであり、
前記架橋されたヒドロゲルマトリックスは、液体ヒドロゲルマトリックスの架橋が行われ、前記液体ヒドロゲルマトリックスが固化することにより、形成され、
前記複数の薬物容器は、前記液体ヒドロゲルマトリックスの架橋が行われる前に、前記液体ヒドロゲルマトリックスに分散されることにより、前記結合マトリックス中に均一に存在し、
前記液体ヒドロゲルマトリックスは、水、セイヨウワサビペルオキシダーゼ、過酸化水素およびチラミン置換されたヒアルロン酸ナトリウムを含み、
前記チラミン置換されたヒアルロン酸ナトリウムは、ヒアルロン酸ナトリウムのカルボキシル基の1.5%がチラミン分子で置換されることにより形成され、ここで、前記チラミン分子は、前記液体ヒドロゲルマトリックスの架橋が行われることにより、前記架橋されたヒドロゲルマトリックスの前記チラミン分子間の共有結合を形成し、
前記液体ヒドロゲルマトリックスの架橋は、セイヨウワサビペルオキシダーゼと過酸化水素とともに行われ、前記複数の薬物容器または前記薬物を破壊したり、前記複数の薬物容器または前記薬物と反応したりしない、
ことを特徴とする、ヒドロゲル系生体送達ビヒクル。
【請求項2】
請求項1に記載のヒドロゲル系生体送達ビヒクルであって、
前記複数の薬物容器がさらに、高密度ヒドロゲル粒子用液体ヒドロゲルマトリックスの架橋が行われることによって形成される高密度ヒドロゲル粒子を含み、ここで、
前記高密度ヒドロゲル粒子用液体ヒドロゲルマトリックスは、高密度ヒドロゲル粒子用チラミン置換されたヒアルロン酸ナトリウムを含み、
前記高密度ヒドロゲル粒子用チラミン置換されたヒアルロン酸ナトリウムは、ヒアルロン酸ナトリウムのカルボキシル基の5.0から20%がチラミン分子で置換されることにより形成される、
ことを特徴とする、ヒドロゲル系生体送達ビヒクル。
【請求項3】
請求項2に記載のヒドロゲル系生体送達ビヒクルであって、前記複数の薬物容器はリポソームであることを特徴とする、ヒドロゲル系生体送達ビヒクル。
【請求項4】
請求項3に記載のヒドロゲル系生体送達ビヒクルであって、前記薬物が鎮痛薬であることを特徴とする、ヒドロゲル系生体送達ビヒクル。
【請求項5】
請求項4に記載のヒドロゲル系生体送達ビヒクルであって、前記鎮痛薬がブピバカインであることを特徴とする、ヒドロゲル系生体送達ビヒクル。
【請求項6】
請求項1に記載のヒドロゲル系生体送達ビヒクルであって、前記ヒドロゲル系生体送達ビヒクルは前記生命体の生体組織表面、中または近くに配置されることにより前記薬物を送達し、前記結合マトリックスは前記生体組織より高い浸透圧を有することを特徴とする、ヒドロゲル系生体送達ビヒクル。
【請求項7】
請求項6に記載のヒドロゲル系生体送達ビヒクルであって、前記結合マトリックスは前記生体組織から液体を吸収することを特徴とする、ヒドロゲル系生体送達ビヒクル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願に関する相互参照)
本出願は、2016年5月12日に出願された、ヒドロゲル系生体送達ビヒクル(HYDROGEL-BASED BIOLOGICAL DELIVERY VEHICLE)という名称の米国仮出願第62/335,457号に対する利益を主張する。
【0002】
本開示は、薬物および生体材料の製剤を効果的に送達するために使用される送達システムヒドロゲル結合マトリックスに関する。より特定的には、本開示は、液体状態からゲル状態へと移行すると架橋を生成するヒドロゲルマトリックスに関する。ヒドロゲルマトリックスは、その液体形態では、薬物容器を封入し、1種類以上の薬物または標的分子を含む薬物容器が均一に分散した均一な液体を生成することができる。結合マトリックス(すなわち、薬物容器が均一に分散したヒドロゲル)がゲル状態へと固化するにつれて、架橋を生成し、この架橋は、薬物容器内に含まれる1種類以上の標的薬物または分子を破壊しないか、またはこれらと反応しない。このヒドロゲル系生体送達ビヒクルを種々の医薬用途に使用することができる。
【背景技術】
【0003】
ヒドロゲルは、いくつかの理由のため、医薬用途で人気となっている。ヒドロゲルを生成するために、多くは、遊離ラジカルを生成する化合物または他の放射線を用いてヒドロゲルを架橋することが必要である。しかし、これにより、受け入れる被験体にとって潜在的に危険な影響に起因して除去することが必要な残留物質が生じる。さらに、薬物または医薬は、通常、受動的な拡散によって、または熱処理または照射を用いることによって、ヒドロゲルに加えられる。これらは、ヒドロゲルに添加する理想的な様式ではないが、受動的な拡散によって、低濃度の薬物または医薬が得られるため、熱処理または照射によって、多くは、薬剤が、ヒドロゲルまたは損傷と反応するか、または生物学的薬剤を不活性化させる。
【0004】
リポソーム製剤は、多くは希釈物であり、粘度は比較的水に近い。薬物送達ビヒクルとして使用される場合、リポソーム製剤は、注射部位から容易に外に押し出されるか、または間質腔を介し、標的組織から排出され、薬物または標的分子が標的部位から離れたところに運ばれる場合がある。リポソームの中には、予測することができない安定性を有するものがある。例えば、リポソームが合着してすばやく破壊される場合に、リポソームは、標的分子を非常に速く放出しすぎてしまう場合があり、またはリポソームが十分に希釈された場合に、リポソームが安定なまま保持され、標的分子が時間通りの様式で標的組織に送達されるのを妨げてしまう場合がある。代替的な薬物送達ビヒクルまたは薬物容器の他の形態、例えば、高密度ヒドロゲル粒子または多孔性粒子も存在する。しかし、粒子は、注射または配置の後にも移動し、一箇所で凝集する傾向がある。
【0005】
従って、残留物質を生成することなく、ヒドロゲルを架橋することができ、高レベルの薬物/医薬濃度の充填を促進し、ヒドロゲルに添加される薬物/医薬と反応せず、またはこれらを不活性化せず、薬物送達ビヒクル(薬物容器とも呼ばれる)を可能にし、より安定にし、所望の位置で予測可能な速度で放出するための解決策が必要である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
開示されるヒドロゲル系生体送達ビヒクルは、薬物または標的分子を封入する薬物容器と、ヒドロゲルマトリックスとで構成され、所定の場所で薬物容器を保持するように使用される場合、結合マトリックスと呼ばれる送達システムである。本明細書に開示される結合マトリックスは、被験体の体内または表面に移植される場合、薬物容器を送達システム全体で均一に分散した状態に保持するための支持剤として作用する。結合マトリックスは、薬物容器からの活性標的分子の拡散および溶出を顕著に妨害しない。一実施形態によれば、所望のヒドロゲル製剤は、標的分子を拡散し、溶出速度を上げるか、または下げるように調節することができる。
【0007】
より特定的には、本明細書に開示される送達システムは、架橋が起こる前に、リポソーム製剤を封入して結合マトリックスの液体製剤にすることによって、リポソーム製剤の安定性および放出を伴う問題に対処する。これにより、リポソームが全体に十分に混合した均一な液体が生成する。混合すると、ヒドロゲルマトリックス内で架橋を生成する比較的穏やかな反応条件は、リポソームを破壊せず、またはリポソームの構成要素、またはリポソームに含まれる薬物または標的分子と反応しない。
【0008】
本明細書に開示される送達システムも、結合マトリックス全体に粒子を懸濁させ、均一に分布させ、互いに対して所定の位置に保持することによって、取り込まれた粒子製剤の放出に伴う問題に対処する。これにより、送達システムを特定の送達部位に注射または配置した後に、粒子から均一で予測可能な薬物の溶出が可能になる。一方、リポソームの溶出は、標的分子を、脂質二重層を有するその周囲から物理的に分離することに依存し、粒子は、粒子からの拡散に依存して、標的分子を溶出させる。拡散は、粒子材料に対する標的分子の親和性、経路の蛇行性、粒子の境界内および境界での等張性の変化、化学電位および得られる化学物質勾配に依存して変わる。標的分子が、最初に周囲の流体に溶解する場合には、相変化が律速段階となる場合がある。
【0009】
複数種類のヒドロゲル稠度の混合物を使用し、種々の薬物送達速度、従って、種々の標的分子の送達時間を作り出すことができる。ヒドロゲルマトリックスは、濃い液体稠度から、硬い固体のゼラチン粒子までの範囲で配合することができる。ヒドロゲルマトリックスの稠度は、ヒドロゲルマトリックスの分解度に影響を与え、従って、送達システムからの放出速度および標的組織への薬物または標的分子の送達に影響を与える。粒子製剤の場合、ヒドロゲルの分解によって、粒子が組織と直接的に接触し、薬物が分配された後に、粒子を体内に吸着させることができる。粒子は、治癒および再成長を促進するタンパク質足場から構成されていてもよい。
【0010】
いくつかの実施形態では、ヒドロゲルマトリックス組成物の濃い性質によって、標的部位が、得られた薬物送達の位置に確実になるように、送達ビヒクル(すなわち、薬物容器)が組織をコーティングし、それらの組織内の所定の位置に留まることができる。ヒドロゲルマトリックス製剤が十分に濃縮され、高度に架橋した場合には、溶出および吸収速度に影響を与えるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、開示される送達システムの一実施形態の中の薬物容器から溶出する分子を示す。
【
図2】
図2は、種々の密度のヒドロゲルマトリックスを含む、ヒドロゲル容器の種類を示す。
【
図3A】
図3は、異なる速度で分子を溶出する複数の薬物容器を備える送達システムの個々の溶出速度および全体的な溶出速度を示す。
【
図3B】
図3は、異なる速度で分子を溶出する複数の薬物容器を備える送達システムの個々の溶出速度および全体的な溶出速度を示す。
【
図3C】
図3は、異なる速度で分子を溶出する複数の薬物容器を備える送達システムの個々の溶出速度および全体的な溶出速度を示す。
【
図4】
図4は、外傷創傷表面に適用され、その後架橋する薬物容器を含む、凍結乾燥された結合マトリックスを示す。
【
図5】
図5は、深く貫入する創傷を治癒するために使用される、開示される送達システムの2つの変形例を示す。
【
図6】
図6は、開示される送達システムの2つの変形例を含む組織またはヘルニアパッチの一例を示す。
【
図7】
図7は、開示される送達システムの2つの変形例を含む人工皮膚を示す。
【
図8】
図8は、開示される送達システムの2つの変形例の使用によって作られるテンセグリティを示す。
【
図9】
図9は、開示される送達システムの2つの変形例の使用によって作られるネスト幾何形状を示す。
【
図10】
図10は、開示される送達システムの一実施形態でコーティングされたカテーテル壁を示す。
【
図11】
図11は、開示される送達システムの一実施形態でコーティングされたセンサ面を示す。
【
図12】
図12は、開示される送達システムの一実施形態でコーティングされた腸の一部を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示は、薬物および標的分子を、特定の組織部位に効果的に送達するために使用される生体送達ビヒクルに関する。図面を参照しつつ、生体送達ビヒクルの種々の実施形態が、詳細に記載され、同様の参照番号は、いくつかの図面全体にわたって、同様の部品および集合体を表す。種々の実施形態の参照は、本明細書に開示される生体送達ビヒクルの範囲を限定するものではない。さらに、本明細書に示される任意の例は、限定することを意図しておらず、生体送達ビヒクルについて可能な多くの実施形態のいくつかを単に記載するものである。状況が好都合であることを示唆しているか、または好都合になるように、均等物の種々の省略および置換が想定されるが、これらは、本開示の精神または範囲から逸脱することなく、応用または実施形態を包含することを意図していることを理解されたい。また、本明細書で使用される句および用語は、説明のためのものであり、限定するものと考えるべきではないことも理解すべきである。
【0013】
開示されるヒドロゲル系生体送達ビヒクルは、薬物または標的分子106を封入する薬物容器104と、ヒドロゲルマトリックスとで構成され、所定の場所で薬物容器104を保持するように使用される場合、結合マトリックス102と呼ばれる送達システム100である。
【0014】
一般的に、本出願に開示される生体送達ビヒクルは、送達システム100であり、送達システム100は、薬物または標的分子106を包み込み、ヒドロゲルマトリックス中に懸濁した薬物容器104から構成され、所定の位置に薬物容器を保持するために使用される場合、結合マトリックス102と呼ばれる。薬物容器104は、例えば、送達システム100から溶出したときに溶解する結晶相または固相の高密度ヒドロゲル粒子、多孔性粒子、リポソーム、セルロース粒子、薬物自体であってもよく、またはタンパク質フラグメントであってもよく、チロシンとの会合のため、チラミン置換された高密度ヒドロゲル粒子の代わりに、セルロースまたはリポソーム薬物容器104であってもよい。送達システム100を作成するプロセスは、一般的に、薬物容器104と薬物または標的分子106とを会合させ、この組み合わせを、架橋前の液体ヒドロゲルマトリックス(例えば、チラミン置換ヒアルロン酸ナトリウム、ここで、ヒアルロン酸ナトリウム中の所定の割合のカルボキシル基が、チラミンで置換されている)に混合し、次いで架橋し(例えば、過酸化水素を添加し、チラミン分子との間に共有結合を作成することによって)、最終的な結合マトリックス102を生成することを含む。この架橋は、薬物または標的分子106の存在下で起こり、有利には、厳しい反応条件をもたらさないか、または薬物または標的分子106との反応を起こさない。次いで、送達システム100を、所望の送達部位108aの表面またはその部位に注射するか、または配置してもよく、薬物は、結合マトリックス102の密度および使用する具体的な薬物容器104に依存して、所定の速度で溶出する。
【0015】
リポソームは、薬物容器104の一例である。リポソームは、球状の小胞であり、少なくとも1つの脂質二重層が、内部の水溶液を包み込んでいる。リポソームは、主に、薬物または他の標的分子106を、生体系における標的部位108aに送達するためのビヒクルとして使用される。さまざまな異なる種類のリポソームが存在し、リポソームは、大きさにおいて、小さいものから大きいものまで、層において、単一の二重層から複数のラメラ小胞(すなわち、複数の脂質二重層を含むリポソーム)までさまざまである。リポソームは、通常、脂肪族両親媒性分子と、極性溶媒および標的分子とを混合し、次いで、混合物を超音波処理、押出成形または剪断条件におくことによって調製される。
【0016】
本開示は、薬物送達速度を安定化させ、制御するために、有用な薬物容器104を結合マトリックス102に組み込むことによって作られる生体送達ビヒクル(すなわち、送達システム100)に関する。いくつかの実施形態では、リポソームは、きわめて反応性が高い薬物または標的分子106(例えば、毒素、抗体、巨大分子など)がヒドロゲルマトリックスと反応しないように保護することができるため、好ましい送達ビヒクル104である。しかし、これらの薬物または標的分子106は、リポソーム内で凝集する場合がある。従って、その他の薬物容器104が考慮され、開示される。
【0017】
一般的に、薬物、タンパク質、生体分子および/または標的物質/分子106を含有する薬物容器104は、ヒドロゲルマトリックス内で封入され、これが架橋し、薬物容器104を含有する結合マトリックス102を生成する。結合マトリックス102によって、架橋前に薬物容器104を液体製剤内に封入することができ、架橋が行った後に精製工程は必要とされない。穏やかな架橋反応は、薬物容器104またはその中に含まれる標的分子106を損なわず、またはこれらと反応しない。
【0018】
送達システム100を標的生体組織108aに配置している間、
図1に示されるように、結合マトリックス102中の薬物容器104は、安定化され、周囲の架橋したヒドロゲル材料によって互いに所定の位置に保持される。あらかじめ決めておいた時間が経過した後、
図1に示すように、結合マトリックス102が破壊され、周囲の組織によって吸収され、薬物容器104と、薬物容器104中の標的分子106は、受動的な拡散によって、周囲の組織108aに放出される。これにより、より予測可能であり、再現性のある薬物容器104およびそれに積まれた分子106の標的生体組織108aへの送達を可能にする。
【0019】
受動的な拡散に加えて、薬物および標的分子106は、薬物容器104から結合マトリックス102を通って、周囲の組織108aの中に溶出し、二次元または三次元の拡散が起こってもよい。より特定的には、送達システム100が、組織部位108aの表面、中または近くに配置された後、結合マトリックス102は、周囲の組織108aより高い浸透圧を有しており、周囲の組織108aから水を吸収し(溶出速度を遅らせ)、小さな粒子に破壊され、表面積が増加するだろう。次いで、表面積が増加すると、体積に対する表面積の比率が大きくなるため、溶出速度が増大する。従って、時間経過に伴って、溶出速度は大きくなるだろう。
【0020】
いくつかの実施形態では、異なるヒドロゲル密度の複数層を使用し、
図2に示されるように、結合マトリックス102を作成してもよい。密度がそれほど高くないヒドロゲルは、速い溶出速度が可能なため、異なるヒドロゲル密度の複数層を使用することによって、溶出速度をさらに制御することができる。一例では、結合マトリックス102は、中央に最も高密度の物質を有していてもよく、それぞれの連続した層は、その前の層よりも密度が高くない。別の例では、結合マトリックス102は、中央に最も密度が低い物質を有していてもよく、それぞれの連続した層は、その前の層よりも密度が高い。
【0021】
一実施形態では、結合マトリックス102と組み合わせて使用される薬物容器104のうち少なくとも一部は、高密度ヒドロゲル粒子であり、高密度ヒドロゲル粒子は、まず、架橋前の液体ヒドロゲルマトリックスに薬物または標的分子106を溶解することによって調製される。いくつかの実施形態では、架橋前の液体ヒドロゲルマトリックスは、酵素(例えば、セイヨウワサビペルオキシダーゼ)と組み合わせて、所定の割合のチラミン置換されたヒアルロン酸ナトリウム(以下「THA」)を含んでいてもよい。薬物または標的分子106を、THAと酵素の混合物に添加した後、架橋剤(例えば、過酸化水素)をヒドロゲルマトリックスに加え、製剤の架橋および固化を促してもよく、それによって、所定の位置で構成される、高密度ヒドロゲル粒子を含み、薬物または標的分子106の結合を促してもよい。この手順の結果は、高密度ヒドロゲル粒子の生成であり、均一な粒子直径になるように、これを粉砕し、大きさを整えてもよい。
【0022】
高密度ヒドロゲル粒子の大きさを整える利点は、体積に対して所望な表面積の比率を有する粒子を作成することであり、これを使用し、一定の溶出速度を制御することができる。例えば、上述の手順を完成させることによって、種々の密度および種々の体積に対する表面積の比を有する高密度ヒドロゲル粒子の混合物が複数回作られ、最終的な製剤では、
図3Aに示されるように、さまざまな粒子を一緒に混合してもよく、
図3Bに示されるように、個々の溶出速度はさまざまであってもよいが、全体的な溶出速度は、所望な期間、制御された溶出速度で一定にすることができ、それによって、
図3Cに示されるように、平坦な溶出曲線が得られる。
【0023】
従って、
図1および
図3Aに示されるように、1つ以上の直径を有する高密度ヒドロゲル粒子を作成した後、これらの粒子をヒドロゲル系結合マトリックス102内で混合する。ヒドロゲルマトリックスは、製剤において、高密度ヒドロゲル粒子製剤と同様であってもよいが、もっと密度が小さく、従って、標的組織108aの中、表面または付近に置かれると迅速に溶解させることができる。全溶出および用量をさらに制御するために、粒子体積に対する望ましいマトリックス体積比で、高密度ヒドロゲル粒子を結合マトリックス102に混合することができる。所望な場合、全送達容積からの溶出速度に影響を与えるために、結合マトリックス102の密度を変えてもよい。
【0024】
薬物容器104として多孔性粒子を使用し、所望な薬物または標的分子106を標的生体組織108aに配置するために、多孔性粒子は、ポリマーであってもよく、多孔性の性質を有しているが、まず、所望な薬物または標的分子106が添加され、その後に、ヒドロゲルマトリックスにそのまま直接的に添加されるか、または種々の多孔度、表面積の多孔性材料と混合し、添加される。好ましい実施形態では、所望な薬物または標的分子106は、多孔性粒子の孔の中にあり、周囲の標的組織108aが、多孔性粒子を吸収することができる。リポソームに加え、高密度ヒドロゲル粒子および多孔性粒子、他のヒドロゲルまたは水溶性ポリマー、例えば、セルロース粒子を使用し、ヒドロゲルマトリックス中で結合する前に、薬物容器104を作成することができる。または、薬物または標的分子106の結晶形態または固相形態が、結合マトリックス102に直接的に加えられてもよく、薬物容器104が使用されなくてもよい。
【0025】
結合マトリックス102を、用途のためにさらに濃く、またはさらに薄くなるように、また、標的生体組織108aで所定の位置に留まるように改変してもよい。より特定的には、架橋度および組成物は、結合マトリックス102が所望の速度で離れるように設計することができ、薬物容器106から生体組織108aへの標的分子の送達を最適化する。例えば、高い架橋度を有する結合マトリックス102は、分解するのに長い時間がかかり、送達システム100(注射される場合)、従って、薬物容器104中の薬物または医薬106は、標的組織領域108aに入り、留まるのに多くの時間がかかるだろう。
【0026】
いくつかの実施形態では、開示される送達システム100は、所望な組織部位108aへの高濃度の標的薬物および分子106の配置を可能にし、これを所望の速度で、配置された塊から溶出させることができる。例えば、上述の方法を用いて送達システム100に加えられる鎮痛物質は、手術部位に比較的高濃度で配置し、所望の速度で、手術後の痛みを治療するために溶出させることができる。送達システム100は、鎮痛薬を数日間にわたって溶出するように設計することができ、このことは、疼痛症候群が発生するのを防いでもよく、患者をさらに早く回復させ、家にすぐに帰してあげることができる。
【0027】
別の例は、所望の治療時間にわたって組織108a内に放出され得る全身毒性のある化合物(すなわち、ブピバカイン(心臓毒性))の使用である。高濃度の全身毒性のある化合物は、他の送達方法を用い、状態を治療するに十分な効果的な濃度で、同じ期間全身投与すると、全身的な影響を引き起こす場合がある。
【0028】
同様に、化学毒性剤は、局所的に相対的に高濃度の塊から供給することができ、付近の迅速に成長する細胞(すなわち腫瘍)に影響を与えるが、同じ様式で生体系全体には影響を与えないだろう。これにより、患者にとって化学療法の症状が少なくなり、それでも、局所的に高濃度の化学毒性薬が生じ、より効果的なものとなる。
【0029】
別の例では、薬物容器104に内毒素/発熱物質またはサイトカインを添加すると、局所的に大きな免疫応答を誘発することができ、患者の免疫系を活性化させ、配置された送達システム100の付近にある癌を外来細胞として認識し、腫瘍細胞を攻撃するだろう。インターロイキン-2またはその他、同様の免疫系活性化剤を、同様の応答を誘発するために使用することができる。
【0030】
ヒドロゲル組成物および使用症例の概要
ヒドロゲル組成物:概要
いくつかの実施形態では、ヒドロゲルマトリックスは、カルボキシル化学官能基を有するバイオポリマー骨格から構成される。バイオポリマー骨格の例としては、ヒアルロン酸ナトリウムおよびタンパク質が挙げられる。カルボキシル基をチラミンと反応させ、0.5%~5.0%のカルボキシル基のチラミン分子での置換が作られてもよいが、理論的には、さらに少ない(例えば、0.1%)置換およびさらに多い(例えば、7.0%)置換が作られてもよく、置換の割合は、置換に利用可能なカルボキシル基の数に関連してなされるチラミン置換の割合を示す。所望の置換率に加え、ヒドロゲルマトリックスの好ましい実施形態は、所望のTHA濃度を有する。より特定的には、結合マトリックス102の好ましい実施形態は、1.0~5.0%のTHA濃度(すなわち、水中の1.0~5.0%のTHA)と、1.5%以下のチラミン置換から構成される。高密度ヒドロゲル粒子の好ましい実施形態は、濃度(すなわち、水中のTHAの割合)が5%より高い(すなわち、15~20%)。
【0031】
より特定的には、いくつかの実施形態では、THAは、溶媒相に薬物容器混合物104を含む溶液中に配置される。本開示で使用される例では、20%までのTHAを含有する溶液が、好ましい濃度である。リポソームが、高密度ヒドロゲル粒子またはさまざまな稠度を有する粒子の混合物で置換されている場合には、または混合物が、標的分子の送達速度を制御するためにリポソームと高密度粒子の両方を含む場合には、高密度粒子は、約5.5%のチラミン置換であってもよいが、通常は、20%までのバイオポリマー(例えばヒアルロン酸ナトリウム)骨格を有し、いくつかの実施形態では、20%より多くのバイオポリマー骨格を有する。
【0032】
以下の簡単な例および記載は、種々のさらなる医療用途において、以下に記載するように、薬物および標的分子106を効果的に送達するために、開示される送達システム100をどのように用いることができるかの基本的な概念をさらに説明する。
【0033】
使用症例:血漿タンパク質バインダー補体の概要
付近の組織に対する薬理学的応答を高めるために、アセトアミノフェン、イブプロフェンおよび他の低分子を、強力な鎮痛薬と組み合わせて、薬物容器104に組み込んでもよい。アセトアミノフェンは、優先的に血漿タンパク質に結合し、低濃度で侵害刺激反応を付与する強力な鎮痛薬となる。結合マトリックス102における高密度ヒドロゲル粒子または多孔性粒子の使用は、リポソームとは対照的に、主要薬物を長持ちさせ、低濃度で効果があるようにする。
【0034】
使用症例:癌治療における免疫刺激の概要
本明細書に開示される薬物容器104は、例えば、限定されないが、インターロイキン-2、他のサイトカインなどの免疫系刺激剤と共に添加されてもよい。局在化した強い免疫応答は、移植された送達システム100付近に位置する腫瘍組織に対する応答を作り出すことができ、腫瘍または他の標的組織108aに対して有効な治療として機能する。
【0035】
使用症例:化学毒性による癌/異常組織成長治療の概要
化学毒性薬は、薬物容器104内に封入され、次いで、これを使用して送達システム100を作成してもよく、これを標的組織に送達し、望ましくない良性または非癌性の成長を止めるか、または癌組織を標的とするために使用してもよい。化学毒性薬の局所的な配置は、全身の影響を顕著に減らし、化学毒性薬の暴露からの症状を減らすだけではなく、標的組織または腫瘍108aに近い化学毒性薬の医学的な有効用量を維持する。この適用は、固形腫瘍の治療、線維腫、前立腺、ケラチン成長などに使用することができる。標的組織部位108a付近で溶出する化学毒性物質に対する連続的な暴露は、細胞自体が修復し、生存する処置をすることが確実にできなくなる。これが有益である1つの理由は、治療中に化学毒性物質を何度も使用するため、その全身への影響は、困難な腫瘍を治療する際の制限因子となるからである。全身暴露を最小限にしつつ、標的組織への暴露を最大限にすることは、開示される送達システム100によって示される新しい概念である。
【0036】
使用症例:標的組織および腫瘍の放射線、ラジオ波、マイクロ波治療の概要
いくつかの実施形態では、放射線、ラジオ波、プロトンまたは抗体治療のフォローアップのために、標的細胞または腫瘍108aに標的分子を局所的に送達することができる。金属粒子またはイオンは、薬物容器104中で濃縮されていてもよく、次いで、これをヒドロゲルマトリックスに加え、送達システム100を作成してもよい。次いで、金属粒子またはイオンを含む送達システム100を、標的腫瘍108aの中または付近に注射することができる。照射されたら、二次的な放射線散乱によって、治療を促進することができる。人工ガンマ放射線は、銀河宇宙線よりもエネルギーが低いが、標的組織108aに配置され得るタンタルなどの金属に起因して、二次的な散乱を作り出すことによって、エネルギーを高めることができる。しかし、標的腫瘍108aは、この治療によって影響を受けるが、腫瘍の裏側にある送達システム100中に存在する金属は、陽子線治療の間、送達システム100の背後に組織を遮蔽し得る。最後に、送達システム100中に存在する金属材料を、ラジオ波の照射によって励起させることができ、標的組織または腫瘍108aを熱的に殺すことが可能な局所的なホットスポットを作り出すことができる。
【0037】
上述の送達システム100および使用症例は、開示される技術の簡単な例である。ヒドロゲル結合マトリックス102、薬物容器104、使用可能な薬物および標的分子106および最終的な送達システム100の種々の有益な使用に関し、以下にさらに詳細に記載する。
【0038】
チラミン架橋したバイオポリマー:化学
上述のように、ヒドロゲルマトリックス製剤の一部が、チラミン架橋したバイオポリマーを含んでいてもよい。これらのバイオポリマーは、グリコサミノグリカン、チラミン架橋したポリアミノ酸、通常はカルボキシル官能基を有するチラミン置換した架橋分子、カルボキシル基について特定の割合のチラミン置換、特定の架橋機構、水中の特定の濃度の架橋バイオポリマーを含む特定の化学構成を有していてもよく、および/またはコポリマーを含んでいてもよい。チラミン置換ヒアルロン酸ナトリウム(HA)系結合マトリックス102aおよびタンパク質系結合マトリックス102bの2種類の主要な形態のバイオポリマーが想定され、両方の形態は、チラミン系の架橋機構を有する結合マトリックス102に基づく。
【0039】
より特定的には、ヒドロゲルマトリックスの組成物は、グリコサミノグリカン、例えば、限定されないが、ヒアルロン酸ナトリウム(すなわち、チラミン架橋したヒアルロン酸ナトリウム)、ヘパリン/硫酸ヘパリン、硫酸コンドロイチン/硫酸デルマタンまたは硫酸ケラタンを含んでいてもよい。組成物は、チラミン架橋したポリアミノ酸も含んでいてもよく、これは、タンパク質を模倣し、薬物送達にとって理想的であろう。ポリアミノ酸をヒドロゲルマトリックス中で使用し、例えば、限定されないが、コラーゲン、エラスチンまたは合成ポリペプチドなどの分子を作成することができる。いくつかの実施形態では、組成物は、カルボキシル官能基を有するチラミン架橋した分子を含んでいてもよく、この分子は、バイオポリマーまたは生体適合性ポリマーである。ヒドロゲルを作成するために使用されるバイオポリマーは、チラミン置換率が0.1%~7.0%であってもよいが、ある種の製剤は、もっと低い置換率またはもっと高い置換率を使用してもよい。好ましくは、1.0~5.0%の置換率が、この使用では典型的である。
【0040】
結合マトリックス102を作成するために行われ得る架橋には、種々の機構が存在する。しかし、好ましい実施形態では、酵素、例えば、セイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)を架橋剤と組み合わせて使用し、液体ヒドロゲルマトリックスを架橋する。例えば、一実施形態では、過酸化水素(H2O2)をHRPと組み合わせたものを使用し、架橋を誘発してもよい。別の例では、種々の化学物質または光の波を使用し、ヒドロゲルマトリックス中に遊離ラジカルを作成し、次いで、HRPを使用してチラミン分子を架橋してもよい。例えば、紫外線(UV)自体を使用するか、またはHRPと組み合わせて使用し、架橋を誘発してもよい。さらなる実施形態では、二酸化チタン(TiO2)をUVおよびHRPに加え、これを触媒として使用し、架橋を誘発してもよい。さらに別の実施形態では、ガンマ放射線をTiO2およびHRPと共に使用し、架橋を誘発して結合マトリックス102を作成してもよい。さらに別の実施形態では、HRPを使用する電離放射線が、架橋を誘発するだろう。
【0041】
結合マトリックス102の組成物は、ある濃度範囲の特定の分子を含んでいてもよい。例えば、水中のTHAの濃度は、0.0%~20.0%の範囲であってもよく、H2O2を希釈してもよく、その濃度は、HRPおよびTHAの濃度に依存する。いくつかの実施形態では、水は、結合マトリックス102中で高い等張性を作り出すため、好ましいバッファーである(が、生理食塩水またはフォスフェートなどの他のバッファーも考慮され)、次いで、結合マトリックス102は、周囲の組織から流体を吸収する。さらなる流体(すなわち水)を周囲の組織から吸収することによって、結合マトリックス102からの薬物溶出プロセスが遅くなる。
【0042】
チラミン架橋したバイオポリマー:殺菌/消毒
いくつかの実施形態では、特定の殺菌および消毒の測定は、患者に注射されるか、または使用されるときに、送達システム100がさらなる問題を引き起こさないことを確実にするためになされてもよい。例えば、送達システム100は、滅菌濾過などの無菌調製を使用してもよい。殺菌する別の方法は、エチレンオキシド殺菌(ETO)を含んでいてもよく、送達システム100を化学的に殺菌することができる。使用可能なさらなる方法は、ガンマ放射線および/または過酸化水素によるプラズマ殺菌である。殺菌状態を維持するために、種々の防腐剤を使用してもよい。
【0043】
チラミン架橋したバイオポリマー:物理的形態
チラミン架橋したバイオポリマーから構成される結合マトリックス102は、種々の物理的形態になってもよい。このような形態の1つは、ヒドロゲルであってもよく、ヒドロゲルは、薬物容器104が、無傷なままで結合マトリックス102中でどれくらい長く保持される必要があるかに依存して、稠度のスペクトルを生じてもよい。例えば、低濃度のチラミン架橋したバイオポリマーを含み、密度が低い、より液状の結合マトリックス102は、すばやく溶解し、薬物または標的分子の送達速度が速くなり、一方、密度が高く、硬く、チラミン架橋したバイオポリマー粒子は、ゆっくりと溶解し、薬物または標的分子の送達速度が遅くなる。
【0044】
いくつかの実施形態では、送達システム100の物理的形態は、二方向の引張強度を有していてもよく、および/または複数構成要素の反応を使用するために利用可能であってもよい。いくつかの実施形態では、物理的形態は、
図10~12に示されるように、コーティングであってもよく、および/または
図8~9に示されるように、テンセグリティ(例えば、ネスト幾何形状)を有していてもよい。シグナル伝達または成長促進分子が送達される必要がある状況では、テンセグリティが有用である。送達システム100が取り得る他の物理的形態としては、限定されないが、シート、コード、織られたメッシュまたは不織メッシュ(例えば、織られたチューブ)、乾燥粉末(例えば、混合粉末)または粒子の形態を取っていてもよい。粒子は、種々の大きさ(例えば、ミクロン未満から大きな粒子まで)であってもよく、再現性のある粒度分布を有していてもよい。粒子は、異なる密度であってもよい。例えば、高密度粒子は、薬物容器104として働いてもよく、密度が粗い粒子は、ナノ粒子のためのバインダーとして働いてもよい。
【0045】
コーティング
コーティングは、多くの医療機器用途にとって重要である。例えば、送達システム100を使用し、限定されないが、ポリマー表面への共有結合などの技術を用いることによって、または機器表面に対する機械的な接着に単に依存することによって、コーティングを作成することができる。さらに、医療機器表面に接着したら、コーティングは、物質を添加し、次いで、医療機器と接触するベース層に対して新しい層を架橋することによって増強することができる。コーティングは、非医療機器(例えば、ガーゼ)に対して行ってもよく、新しい組織108bがガーゼに結合するのを防ぐこともできる。
【0046】
異なる組成を有する層、所望な場合、限定されないが、コラーゲンまたはタンパク質系の結合マトリックス102bの層によって覆われたTHA系結合マトリックス102aの基礎の層を作成することもできる。同様に、THA系結合マトリックス102aを、抗凝固物質(例えば、ワルファリンまたは変性ワルファリン)でコーティングしてもよく、これをTHA系結合マトリックス102aに対して架橋してもよい。
【0047】
特定の使用症例の一例は、生体センサに対するTHA系結合マトリックス102aのコーティングである。例えば、THA系結合マトリックス102aは、
図11に示されるように、共有結合を介し、血糖センサ上にコーティングされていてもよい。このコーティングは、測定されるものの拡散速度を変えてしまい、従って、間違った読み取りがされてしまうような、血糖センサの表面の汚れを防ぐことができる。生体センサの表面での結合組織(すなわち、瘢痕組織)の生成を防ぐことによって、THA系結合マトリックス102aは、測定が確実に変化しないように、周囲の組織と同様の物質移動特性を与えることができる。
【0048】
テンセグリティ
いくつかの実施形態では、開示される送達システム100は、天然に作られるコラーゲン構造に対する合成等価物として作用し、従って、生物学的テンセグリティを構築することができ、周囲の組織108aは、基礎材料の中を移動し、組織細胞の形状、周囲の組織108aの大きさおよび空間に基づき、新しい組織108bを生成し始めてもよい。従って、結果として、基礎材料(すなわち、送達システム100)は、以前そうであったように、組織が再成長するのを助けるだろう。例えば、開示される技術は、天然の臓器または組織を模倣し、幹細胞と移動する内皮細胞が、新しい臓器または組織108bを再び作成することが可能な、人工コラーゲンまたはタンパク質に由来する構造を作成することができる。
【0049】
より特定的には、新しい臓器または組織を再び作成する1つの方法は、
図8に示すように、混合組成物の粒子を作成することによって空隙を作成することである。1セットの粒子は、タンパク質またはコラーゲン系結合マトリックス102bであってもよく、一方、空隙、または第2のセットの粒子は、THA系結合マトリックス102aから作成することができる。安定な架橋タンパク質構造を作成した後にヒアルロニダーゼを用いると、好ましい形状および大きさの空隙を、タンパク質-ヒドロゲルの新しい組織構造108bの中に形成することができる。次いで、構造108b内に配置される細胞(例えば、一般的な幹細胞または周囲の組織由来の細胞)は、タンパク質構造108bの中の空隙の大きさおよび形状によって指令される(すなわち、細胞は、適切な組織型へと分化する)ように、新しい組織108cを形成するように促進されてもよい。このプロセスは、かさぶたが足場として作用する場合、天然に起こる。しかし、瘢痕組織が生成するため、理想的な解決法ではない。THA系結合マトリックス102aの使用は、結合(すなわち瘢痕)組織の生成を防ぐ。
【0050】
新しい臓器または組織を再び作成する別の選択肢は、複数の形状(例えば、卵形、球、立方体など)を印刷し、好きな細胞足場を作成することである。または、生きている組織に由来するコラーゲン足場を使用してもよく、細胞分化、従って、組織成長108bを促進するために、タンパク質系結合マトリックス102bでコーティングしてもよい。
【0051】
図9に示されるように、ネスト幾何形状をテンセグリティに加えてもよく、第2のもっと高レベルの構造を作成し、血管、腱、結合組織などを模倣してもよい。THA系結合マトリックス102aによって作成されるか、またはこれによりコーティングされた構造要素を加え、新しい組織108bの成長中に、一緒に構造を保持することができる。これにより、顕微鏡/細胞レベルの幾何形状および大きな幾何形状または組織層の間の大きな空隙または分離部を作成することができる(例えば、THA系結合マトリックス102aがそれぞれの層にコーティングされる場合)。より特定的には、血管は、周囲の生成した血管に自然に接続してもよく、成長する組織108bに栄養素および酸素を与えてもよい。作成される新しい臓器または組織108bの複雑さに応じて、さらなる高レベルの組織化を起こさせてもよい。
【0052】
シート
一般的に、ヒドロゲルマトリックスは、低い引張強度を有していてもよい。しかし、いくつかの実施形態では、結合マトリックス102は、有用な引張強度を有する高濃度のタンパク質系結合マトリックス102bであってもよい。この種の結合マトリックス102は、
図5~7に示されるように、組織表面108aに適用することが可能なシートの形態であってもよい。このヒドロゲルシート送達システム100は、いくつかの実施形態では、組織表面108aを乾燥または損傷から保護する。他の実施形態では、手術の後に、組織表面108aが瘢痕組織または結合組織を生成するのを防ぐことができる。
【0053】
いくつかの既に知られている成因は、ヒドロゲルのシートを含んでいてもよいが、粘性の性質および使用の困難さが、使用の広がりを阻んでいる。この開示される場合では、再吸収可能な材料を基礎材料として使用し、体内で容易に展開することができる。開示される送達システム100の一実施形態を使用する別の利点は、ヒアルロナン系結合マトリックス102aの利点を保持することができることである。より特定的には、その吸湿性に起因して、結合組織の生成および乾燥を防ぐことができる。
【0054】
新しい組織108bの成長のためのベースとして使用するために、ヒドロゲルシート送達システム100を作成することもできる。例えば、
図7は、皮膚交換の場合を示し、再吸収可能ではないポリマーシート112(織られたシートまたは不織シートであってもよい)をTHA系結合マトリックス102aおよびタンパク質系結合マトリックス102bでコーティングし、これを皮膚の基底組織に含浸させ、外傷損傷表面108aに適用することができる。結合マトリックス102a、102bは、疼痛緩和に役立ち、治癒を促進するか、または成長促進バイオファクターである薬物または医薬106も含んでいてもよい。タンパク質系結合マトリックス102bは、細胞が創傷部位108aに移動し、新しい皮膚108bを作成するのを促進することができ、一方、THA系結合マトリックス102aは、ポリマーシート112とタンパク質系結合マトリックス102bとの間に挟まれ、新しく作られた組織108bが、ポリマーシート112に直接結合するのを防ぐことができる。ポリマーシート112は、創傷を保護し、密封し、結合マトリックス102a、102bから水を失われるのを防ぎ、機械的な支持を与えることができる。または、必要な場合、多孔性または膜材料を使用し、治癒中の創傷表面108aへの酸素の流入を可能にする。別の実施形態では、結合マトリックス102a、102bは、ポリマー層112を含まず、表面に適用されてもよい。
【0055】
コード
上に開示したように、開示される送達システム100が取り得る別の物理的形態は、コードの形態であり、コードは、単一の繊維またはコードのいずれかとして作られてもよく、またはいくつかの基本となる繊維から織られてもよい。材料の織られたロープは、中空のコアまたは中味が詰まった核を有していてもよい。コードの形態の送達システム100の好ましい実施形態では、コードは、互いに安定な表面を保持するのに必要な引張強度を与えることができる。より特定的には、送達システム100を使用し、バイオポリマーのコードまたはロープの中にコーティングし、ギャップを埋めることができる。
【0056】
コードまたはロープのベースが体内に長時間留まることを必要とする用途がおそらく存在するが(例えば、骨修復、関節形成術、腱の修復などにおけるステンレスまたはチタンメッシュ)、ほぼ全ての用途で、再吸収可能な材料を用いてコード支持体を構築することが望ましい。再吸収可能な材料としては、限定されないが、ポリグリコール酸、ポリジオキサノンおよびポリカプロラクトンが挙げられる。使用するのに好ましいポリマーは、グリコリド、カプロラクトン、トリメチレンカーボネート、l-ラクチドおよびp-ジオキサノンを含んでいてもよい。しかし、シルク、タンパク質および他の天然バイオポリマーも同様にうまく機能し得る。異種移植組織および自家移植組織は、これらの用途のいくつかで使用するのに許容されるものであってもよい。
【0057】
メッシュ
メッシュは、開示される送達システム100が取り得るさらなる物理的形態である。ヒドロゲルの引張強度が、組織の縁部を互いに安定に保持するために必要な場合(すなわち、組織中のギャップ、穴または空隙を閉じるとき)には、メッシュベースを使用し、比較的脆い結合マトリックス102を支持することができる。メッシュベースは、配置した後に所定の位置に留めるために大容積のヒドロゲルが必要な場合には、機械的な支持材としても機能し得る。
【0058】
いくつかの実施形態では、メッシュベースは、シートの形態であってもよく、メッシュまたは布シートは、織られた形態および不織形態であってもよい。メッシュのベースが体内に長時間留まることを必要とする用途がおそらく存在するが(例えば、骨修復、関節形成術などにおけるステンレスまたはチタンメッシュ)、ほぼ全ての用途で、再吸収可能な材料を用いてメッシュまたは布地の支持体を構築することが望ましく、上述の材料から構成されていてもよい。
【0059】
メッシュ:織られたもの
メッシュシートの一形態は、織られたシートである。いくつかの実施形態では、織布およびシートのベース材料から、長い糸、繊維および/または紐が作られてもよく、これを織り、使用可能な大きさのシートにしてもよい。織られた材料は、構築材料および相対的な繊維の方向に依存して、さまざまな引張強度を有していてもよい。経糸は、組み合わされた糸であり、緯糸を所定の位置に保持する。布地の特性は、経糸および緯糸の材料特性、および充填密度および糸の大きさに依存して変わるだろう。
【0060】
ヒドロゲルの織られたシートの一例は、織られたチューブである。織られたチューブを、チューブ構造の壁に組み込み、材料に機械的な強度を与えることができる。ある場合には、織られた支持材を層状にし、シートの中に材料または組織が含まれるようにしてもよい。
【0061】
メッシュ:不織物
メッシュシートの第2の形態は、不織シートである。いくつかの実施形態では、さまざまな長さの糸の混合物を用い、不織布を作成し、このさまざまな長さの糸を、熱、機械的な絡まりまたは化学結合を用い、一緒に結合させる。いくつかの実施形態では、材料にさらなる引張強度が必要な場合には、不織布を織布に貼り合わせてもよい。
【0062】
例えば、
図6は、ヘルニアパッチの使用を示し、高張力のバイオポリマー110を、タンパク質系結合マトリックス102bによってその両側を覆い、これが、新しい組織108bの成長のためのマクロファージおよび内皮細胞を引き寄せ、それ自体が、THA系結合マトリックス102aによって囲まれている。マクロファージは、タンパク質系結合マトリックス102bの材料を破壊し、周囲の細胞が創傷治癒に関与し、創傷治癒を行うことができる。別の実施形態では、強力に再吸収可能な織布ベースは、不織布によって両面が覆われていてもよく、不織布は、ヒドロゲル102が機械的に結合し得る大きな接触面積を有する。この種の構成の利点は、ベース材料が、穴を閉じたままに保持するのに十分な引張強度を与えることができることである。さらに、THA系結合マトリックス102aは、パッチと周囲の元々の組織108aとの間に身体の瘢痕組織が生成するのを防ぐことができ、身体が再吸収され、基礎となる布地の周囲に新しい組織108bを作成することができ、それによって、方向的に選択性を有しつつ、空隙内に新しい組織108bを作成することができる。
【0063】
チラミン架橋したバイオポリマー:送達方法
シリンジ
送達システム100を、種々の方法を用いて送達してもよい。一実施形態では、シリンジを使用してもよい。例えば、シリンジを、針、コーター、ノズル、カテーテルまたは経口投薬と組み合わせて使用してもよい。
【0064】
コーターを使用する実施形態では、コーターは、プラスチックまたは金属のアプリケータ中、シリンジを通して送達システム100を放出させ、送達システム100をダイ面を通してシート形態に放出することによって、送達システム100の1~2インチ幅の薄いシートを作成することができる。このことは、標的組織108aを保護するため、または薬物、生物製剤または標的分子106を組織108aに溶出するために高い表面積を作成するために、送達システム100を大きな組織表面108aに適用しようとするときに、有用である。種々の形状および幾何形状を有するノズルを使用し、大容積の送達システム100を、空隙または標的組織108aに、またはこれらの中に放出することもできる。
【0065】
カテーテルの場合には、送達システム100を調整することができることによって、液体構造で、小さな診断用カテーテルから押し出させてもよい。または、個々の構成要素(結合マトリックス102、薬物または標的分子106を含む薬物容器104、酵素および架橋剤)を、架橋反応が体内で起こるように、カテーテルを入れる直前に混合してもよい。このことは、大容積の物質をカテーテルから放出する必要がある場合には、送達が容易になるため望ましいだろう。重要なことに、送達および短期間の操作設定時間の後、送達システム100を所望の形態で作ることができるように、反応速度は、多くの様式で変えることができる(すなわち、酵素濃度)。塞栓、噴門形成、僧帽弁および皮膚充填剤に関連する状況は、設定時間の遅れから利益を受けるだろう。カテーテル系の用途は、具体的には、塞栓用ワイヤのための塞栓物またはフィラーを含んでいてもよい。
【0066】
補助デバイス
いくつかの実施形態では、送達システム100の濃い溶液を、標的組織108aの表面に、またはこれに適用することが必要な場合がある。これらの状況では、ラチェットネジ、ネジまたはトリガ装置などの弁補助デバイスを使用してもよい。
【0067】
ラチェットネジは、好ましい実施形態では、プランジャにネジ山が付けられ、一連の設定容積を送達する高圧シリンジおよびプランジャ構成であり、送達される量は、プランジャ上のタブをシリンジ本体の第2のタブと衝突させたときに作られるクリックノイズに起因して既知である。ネジ様の構成によって、標準的なシリンジでは得ることができない高圧下で材料を送達することができる。1つの変化は、架橋前の結合マトリックス102を第1のバレルに入れることができ、ラチェットネジ付き補助デバイスによる送達のために、カテーテルまたは小腔を通じて第2のバレルに架橋剤(例えば、過酸化水素)を入れることができるデバイスであってもよい。
【0068】
ネジ付き補助デバイスは、ラチェットネジ付き補助デバイスと同様である。しかし、ネジ付き補助デバイスは、送達される容積の音による通知を有していない。従って、高圧下で必要とされる大容積が正確な精度であることを必要としない場合には、最良に用いられる。
【0069】
トリガ装置は、送達システム100の濃い溶液の適用を補助してもよい。トリガ装置は、コーキングガンとよく似ており、トリガを引っ張る直線運動に応答して、プランジャを動かし、濃い物質をシリンジから放出することができる。これは、流量のさらに正確な制御には便利であろう。
【0070】
可視化
種々の送達方法に加え、送達システム100のいくつかの実施形態は、患者に投与された後、送達システム100を可視化するための能力を含む。これらの方法には、限定されないが、コントラスト剤および固体顔料、例えば、放射線不透過性の着色系顔料が含まれる。化合物およびインプラントの可視化および位置と、これも重要だが、適切な機能のための活性および医療機器の使用、薬理学的に活性な成分の送達は、異なっていてもよい。本明細書で開示される送達システム100は、蛍光透視法、直接的な可視化、超音波、蛍光、上述の全ての組み合わせまたは変形による、医療機器の位置を可視化する機会を与える。
【0071】
結合マトリックス102およびその内容物が、シリンジ、カテーテルまたは他のリモートデバイスによって、直接的に観察することはできないが、ヨウ素系コントラスト剤を送達システム100に組み込むことによって蛍光透視法で可視化することができる用途において、コントラスト剤を使用してもよい。コントラスト剤は、結合マトリックス102に直接溶解させてもよく、結合マトリックス102内に運ばれる高密度ヒドロゲル粒子内に含まれていてもよく、または手技の継続のためにコントラストを保持する他の薬物容器104内に含まれていてもよい。コントラストは、結合マトリックス102および粒子または他の容器104から最終的に溶出するため、理想的には、この方法を、コントラストが短期間の可視化のためにのみ必要な用途に使用する。短時間が経過した後、コントラスト剤は、もはや蛍光透視法によって見ることができない。
【0072】
固体の顔料または粒子、例えば、放射線不透過性のもの(顔料およびX線に不透明な固体物質)および着色したものを、特定のラベル化目的のために結合マトリックス102に加えてもよい。固体顔料は、コントラスト剤とは対照的に、送達システム100から溶出せず、本体が、結合マトリックス102、薬物容器104および薬物または標的分子106を吸収しない限り、本質的に、送達システム100を永久的に可視化する。いくつかの実施形態では、結合マトリックス102は、生きている有機体、例えば、異種移植片または操作された単細胞有機体のための固定部位であってもよい。これらの生きている有機体は、代謝化合物を追加または処理するか、または周囲の組織108aに所望な効果を誘発する化合物を生成するように設計することができる。
【0073】
放射線不透過性材料の例としては、限定されないが、過酸化タンタル(TaOx)、二酸化チタン(TiO2)、Pt/Ir、鉄系材料、ジルコニウム、Iベース、ハロゲン化ポリマーおよび結晶化ポリマーが挙げられる。これらのいくつかに関するさらなる説明が以下に含まれる。
【0074】
過酸化タンタルを、塞栓のためのラベルおよび医療機器のためのコーティングとして放射線不透過性ラベルとして使用してもよい。医療機器を蛍光透視法によって可視化することができる。その物質は、放射線不透過性だからである。この材料は、生体適合性であり、水に無視できるほどしか溶解しない。タンタル粒子を、結合マトリックス102の前駆体に加え、製剤に懸濁したら、所定の位置で架橋してもよい。放射線不透過性粒子の保持によって、結合マトリックス102が存在する限り、送達システム100を可視化することができる。
【0075】
二酸化チタン粒子を、液体、ヒドロゲル製剤に懸濁させ、所定の位置で架橋することによって、同様の様式で使用することもできる。TiO2に固有の特性は、水および紫外線の存在下でオゾンを生成する能力である。結合マトリックス102を生成する固有の様式は、TiO2を含有する結合マトリックス102にUV放射線を照射することである。ペルオキシド酵素は、オゾンを利用し、チラミン-チラミン架橋を生成する。TiO2の明るい白色は、送達システム100を直接的に可視化するための方法でもある。
【0076】
Pt-Irは、進んでいく表面を可視化するために、カテーテルおよび医療機器のマーカーバンドとして一般的に使用される。Pt-Irは、生体適合性であり、水に不溶性である。既に記載した方法と同様に、Pt-Irの粒子を液体の結合マトリックス102に懸濁させ、次いで、所定の位置で架橋させてもよい。次いで、送達システム100を蛍光透視法で可視化する。
【0077】
鉄系材料を送達システム100に加え、放射線不透過性にして、蛍光透視法で可視化することができる。低濃度のFE/磁気粒子を結合マトリックス102に懸濁させ、これを使用して薬物容器104を移動させ、これを所望の組織位置に達するまで、体内全体に動かしてもよい。これは、眼などの組織で特に関心が高いだろう。ここで、送達システム100の操作は、眼の裏側に対し、剥離した網膜組織表面を平らにし、再配置するのに役立つだろう。修復が行われたら、送達システム100を同様の運動方法によって除去してもよい。
【0078】
ジルコニアは、歯科インプラントに通常使用される放射線不透過性の材料である。ジルコニアは、歯のエナメルとよく似た色を有しており、生体適合性であり、水に無視できる程度しか溶解しない。ジルコニア粒子を上述のように懸濁させ、これを使用し、送達システム100の位置を蛍光透視法で示すことができる。
【0079】
放射線不透過性の顔料および固体材料の代わりに、送達システム100のいくつかの実施形態は、送達を可視化するために、固体着色顔料または材料を使用してもよい。送達システム100を直接的に可視化するのに役立つように、種々の色を有する染料を結合マトリックス102に添加してもよい。染料が、ヒドロゲル結合マトリックス102から溶出し、短い可視化時間を有する用途で使用されるだろう。染料の例としては、UV-蛍光、可視光および反応性の色が変化する染料が挙げられる。
【0080】
ジチラミン架橋は、紫外線の下で蛍光を発する。送達システム100を配置する間、または手術により閉じる前に、UV源をその部位に照射し、送達システム100が正しく配置されているかどうかを判定することができる。このことは、送達システム100が、組織108aを完全にコーティングするか、または空隙または間質腔を完全に満たしているかどうかを判定するのに特に有用であろう。
【0081】
チラミン架橋したバイオポリマー:薬物送達
本明細書に開示されるように、薬物容器104中の薬物、標的分子またはその他の生物学的薬剤106を、送達ビヒクル100から標的とする組織または臓器部位108aに送達することができる複数の様式が存在する。いくつかの例としては、限定されないが、溶出および結合マトリックス/保持が挙げられる。送達される薬物、標的分子またはその他の生物学的薬剤106としては、限定されないが、巨大分子または低分子が挙げられ得る。
【0082】
巨大分子
巨大分子の例としては、限定されないが、モノクローナル抗体が挙げられ、モノクローナル抗体は、一般的に、自己免疫疾患の治療、眼科および他の特定の用途のために、単独で、または組み合わせると、非常に有用である。しかし、モノクローナル抗体は、通常、製剤中に低濃度で存在する。溶液の場合には、モノクローナル抗体が互いに結合し、結晶化するか、または沈殿し、溶液から沈降するからである。従って、製剤(結合マトリックス102)中に存在するモノクローナル抗体の濃度を上げるために、モノクローナル抗体が損傷することなく、所定の位置で架橋させることができ、その固体の性質に起因して、液体溶液と比較して、液体の量が少なく、従って、モノクローナル抗体の移動を減らすことができる。モノクローナル抗体を、互いに発見させるために高密度薬物容器104によって拡散させることによって、送達システム100は、モノクローナル抗体が互いに接触する可能性を減らし、その凝集を効果的に防ぎ、これにより、製剤中により高濃度で存在することが可能になる。
【0083】
特に、抗体が、シグナル伝達分子またはカスケード中間体を標的とする場合に、例えば、黄斑変性などの状態および疾患の長期間の治療を補助する、送達システム100からのモノクローナル抗体の溶出を含む多くの用途が存在する。
【0084】
低分子
低分子の例としては、限定されないが、非ステロイド系抗炎症薬物(NSAID)、ステロイド、抗発作薬、抗生物質、抗真菌剤、生物製剤、抗精神病薬、多血小板血漿(PRP)、アルブミン、痛風薬、テリパラチド(例えば、FORTEO(登録商標))、デノスマブ(例えばProlia(登録商標))、アルブミン、エリスロポエチンおよび腫瘍治療薬などの実施形態が挙げられる。
【0085】
低分子:NSAID
使用可能なNSAIDは、ナプロキセン、イブプロフェン、セレコキシブ、アセトアミノフェン、アスピリン、デクスイブプロフェン、ジフルニサル、サルサラート、フェノプロフェン、ケトプロフェン、デクスケトプロフェン、フルルビプロフェン、オキサプロジン、ロキサプロフェン、インドメタシン、トルメチン、スリンダク、エトドラク、ケトロラク、ジクロフェナク、アセクロフェナク、ピロキシカム、メロキシカム、テノキシカム、ドロキシカム、ロルノキシカム、フェニルブタゾン、メフェナム酸、メクロフェナム酸、フルフェナム酸、トルフェナム酸、クロニキシンおよびリコフェロンである。
【0086】
一般的に、NSAIDは、低分子薬物溶出で送達される。薬物容器104は、THAの濃度がもっと高くてもよい。例えば、薬物容器濃度の要求に応じて、薬物容器104は、少なくとも10%より大きな濃度を有していてもよく、好ましくは10~20%である。NSAIDを担体分子と組み合わせてもよい。さもなければ、NSAIDは、水の流入および周囲の組織108aからの血清の流入によって妨げられるだろう。一実施形態では、イブプロフェンをアセトアミノフェンと混合し、組織108a内に直接的に配置するため、局所ゲルとして適用するため、または適用フィルム(例えば、パッチ)に機械的に接着するために、結合マトリックス102内に含まれていてもよい。この例では、アセトアミノフェンが血漿タンパク質と結合してもよく、これにより、イブプロフェンをより効果的にすることができる。
【0087】
本明細書に開示される多くのNSAIDを使用し、偏頭痛、変形性関節症、腎臓結石、関節リウマチ、乾癬性関節炎、痛風、強直性脊椎炎、月経痛、腱炎、黄斑浮腫および滑液包炎を治療することができる。これらは、治療組織または臓器部位108a付近に直接適用してもよく(すなわち、手術中に注射またはゲル適用によって)、または組織もしくは臓器部位108a付近に局所パッチとして適用してもよい。これらを、抗生物質、抗真菌薬、選択的なステロイド(局在化する場合)、抗凝固剤(例えば、血栓症を予防するため)、モノクローナル抗体、オピオイドおよび他の化合物と組み合わせて使用してもよい。いくつかの実施形態では、アセトアミノフェンは、NSAIDに対する補体であってもよく、血漿タンパク質に結合することによって、NSAIDをより効果的にすることができる。しかし、薬物を溶出する送達システム100では、投薬量は、送達システム100からの医薬のゆっくりとした溶出に起因して、NSAIDの典型的な投薬量の8~10倍にまで達してもよい。このことは、医療専門家から頻繁に直接的に医薬を受け取らなければならない個人にとって簡便である。薬物容器104を、7%までのチラミン置換で、20%までのTHA濃度で使用してもよい。好ましい濃度は、15~20%濃度で1.5%の置換である。結合マトリックス102は、薬物容器104を所定の場所に保持し、1.5%までの置換を使用してもよく、濃度は、所望な用途の稠度に合うように調整される(すなわち、液体様の形態は、低い濃度を有し、一方、ゼリー様の形態は、高い濃度を有する)。
【0088】
ナプロキセンは、NSAIDの一例である。ナプロキセンの典型的な投薬量は、単回投与では125mg~750mgの範囲であってもよい。しかし、開示される送達システム100では、投薬量は、そのゆっくりとした溶出に起因して、この量の8倍までに達していてもよい。
【0089】
イブプロフェンは、NSAIDの別の一例である。イブプロフェンの典型的な投薬量は、単回投与では200mg~800mgの範囲であってもよい。しかし、開示される送達システム100では、投薬量は、そのゆっくりとした溶出に起因して、この量の8倍~10倍に達していてもよい。
【0090】
セレコキシブは、NSAIDのさらに別の例である。セレコキシブの典型的な投薬量は、単回投与では100mg~400mgの範囲であってもよい。しかし、開示される送達システム100では、投薬量は、そのゆっくりとした溶出に起因して、この量の8倍~10倍に達していてもよい。
【0091】
アセトアミノフェンは、NSAIDの別の例である。アセトアミノフェンの典型的な投薬量は、単回投与では500mg~1000mgの範囲であってもよい。しかし、開示される送達システム100では、投薬量は、そのゆっくりとした溶出に起因して、この量の8倍~10倍に達していてもよい。
【0092】
アスピリンは、NSAIDのさらなる例である。アスピリンの典型的な投薬量は、単回投与では81mg~1gの範囲であってもよい。しかし、開示される送達システム100では、投薬量は、そのゆっくりとした溶出に起因して、この量の8倍~10倍に達していてもよい。
【0093】
デクスイブプロフェンは、NSAIDのさらなる例である。デクスイブプロフェンの典型的な投薬量は、単回投与では500mg~1000mgの範囲であってもよい。しかし、開示される送達システム100では、投薬量は、そのゆっくりとした溶出に起因して、この量の8倍~10倍に達していてもよい。
【0094】
典型的な投与と比較して、開示される送達システム100では投薬量を8~10倍大きくすることができるNSAIDの他の例としては、ジフルニサル、サルサラート、フェノプロフェン、ケトプロフェン、デクスケトプロフェン、フルルビプロフェン、オキサプロジン、ロキサプロフェン、インドメタシン、トルメチン、スリンダク、エトドラク、ケトロラク、ジクロフェナク、アセクロフェナク、ピロキシカム、メロキシカム、テノキシカム、ドロキシカム、ロルノキシカム、フェニルブタゾン、メフェナム酸、メクロフェナム酸、フルフェナム酸、トルフェナム酸、クロニキシンおよびリコフェロンが挙げられる。
【0095】
低分子:ステロイド
使用可能なステロイドは、プロゲストゲン(例えば、プロゲステロン)、コルチコステロイド、アンドロゲン(例えば、テストステロン)、エストロゲン、デキサメタゾン、モキシフロキサシン、インターフェロンβ-1bおよび酢酸グラチラマーである。
【0096】
プロゲステロンは、ステロイドの一例であり、単回ボーラス注射として投与してもよく、またはゲルとして、またはパッチ形態で局所適用してもよい。プロゲステロンは、無月経、子宮出血、過形成、プロゲステロン欠乏、早産、発作および閉経前の症状に使用することができる。
【0097】
使用可能な種々のコルチコステロイドとしては、ジプロピオン酸アルクロメタゾン、アムシノニド、ジプロピオン酸ベクロメタゾン、ブデソニド、ベタメタゾン、ジプロピオン酸ベタメタゾン、吉草酸ベタメタゾン、プロピオン酸クロベタゾール、酪酸クロベタゾン、デソニド、デスオキシメタゾン、デキサメタゾン、ジ酢酸ジフロラゾン、フルニソリド、フルオシノニド、フルオシノロンアセトニド、フルオコルトロン、フランカルボン酸フルチカゾン、プロピオン酸フルチカゾン、フランカルボン酸モメタゾン、シクレソニド、酢酸コルチゾン、ハルシノニド、プロピオン酸ハロベタソール、ハロメタゾン、アセポン酸ヒドロコルチゾン、酢酸ヒドロコルチゾン、ヒドロコルチゾンブテプレート、酪酸ヒドロコルチゾン、吉草酸ヒドロコルチゾン、ヒドロコルチゾン、メチルプレドニゾロン、プレドニゾン、プレドニカルベート、ピバル酸チキソコルトール、トリアムシノロンおよびトリアムシノロンアセトニドが挙げられる。
【0098】
ジプロピオン酸アルクロメタゾンは、局所ゲルとして、パッチとして、または別の送達形態で適用可能なコルチコステロイドである。しかし、好ましい実施形態では、ゲル形態または液体形態での局所適用が望ましい。濃度は、ステロイド強度に応じて、さまざまであってもよい。例えば、送達システム100の投与が、パッチまたは単回送達を介するものである場合、ジプロピオン酸アルクロメタゾンは、適用部位、送達システム100の物理的形態および容器薬物濃度に応じて、典型的な投薬量の10倍までで投与されてもよい。ジプロピオン酸アルクロメタゾンを含有する典型的な結合マトリックス102は、20%までのTHA濃度では、7%までのチラミン置換で構成されているだろう。結合マトリックス102は、好ましい実施形態では、1.5%未満のチラミン置換と、5%未満のTHA濃度を有していてもよい。
【0099】
いくつかの他のコルチコステロイド、例えば、限定されないが、アムシノニド、ジプロピオン酸ベクロメタゾン、ジプロピオン酸ベタメタゾン、プロピオン酸クロベタゾール、酪酸クロベタゾン、デソニド、デスオキシメタゾン、ジ酢酸ジフロラゾン、フルニソリド、フルオシノニド、フルオシノロンアセトニド、フランカルボン酸モメタゾン、ハルシノニド、プロピオン酸ハロベタソール、ハロメタゾン、アセポン酸ヒドロコルチゾン、酢酸ヒドロコルチゾン、ヒドロコルチゾンブテプレート、酪酸ヒドロコルチゾン、吉草酸ヒドロコルチゾン、ヒドロコルチゾン、プレドニカルベート、ピバル酸チキソコルトールおよびトリアムシノロンも、局所ゲルとして、パッチとして、または別の送達形態で適用することができる。しかし、好ましい実施形態では、これらの薬物について、ゲル形態または液体形態での局所適用が望ましい。濃度は、ステロイド強度に応じて、さまざまであってもよい。例えば、送達システム100の投与が、パッチまたは単回送達を介するものである場合、上に列挙した薬物は、適用部位、送達システム100の物理的形態および容器薬物濃度に応じて、典型的な投薬量の10倍までで投与されてもよい。上に列挙した薬物を含有する典型的な結合マトリックス102は、20%までのTHA濃度では、7%までのチラミン置換で構成されているだろう。結合マトリックス102は、好ましい実施形態では、1.5%未満のチラミン置換と、5%未満のTHA濃度を有していてもよい。
【0100】
ブデソニドは、吸入剤として使用可能なコルチコステロイドである。持続放出では、開示される技術の吸入形態は、吸入剤の用量として必要なものより頻度が低いため、優れているだろう。薬物容器粒子104は、肺組織108aと接触し、ステロイドを放出するのに適切な大きさと能力を有するほど非常に小さいと思われる(1ミクロン未満)。身体によって確実に完全に吸収されるためには、チラミン置換は1%未満であってもよく、薬物容器104は、おそらく固体形態であると思われるため、噴射剤によって運ぶことができる。ブデソニドを鼻炎および鼻ポリープを治療するために用いることもできる。これらを治療するために、物理的形態は、薄い液体であってもよい。例えば、THA系結合マトリックス102aであってもよく、結合マトリックス102aは、1%未満のチラミン置換と、1%未満のTHA濃度を有している。薬物容器104は、1.5%以下のチラミン置換と、20%までのTHA濃度であってもよい。炎症性腸疾患、クローン病および潰瘍性結腸炎を、ブデソニドを用いて治療するために、送達システム100を坐薬として適用してもよい。薬物容器104は、5.5%~7%のチラミン置換と、20%までのTHA濃度からなっていてもよく、一方、結合マトリックス102は、1.5%のチラミン置換と、10%までのTHA濃度であってもよい。坐薬は、高密度ゲルであってもよく、または固体のゼラチン状の稠度を有していてもよい。
【0101】
ベタメタゾンは、注射されてもよく、またはクリームとして適用されてもよいコルチコステロイドであり、皮膚障害、喘息などのアレルギー状態、新生児肺発達について早期陣痛、クローン病、炎症性腸疾患(「IBD」)およびアドレナリン欠乏を治療するために使用することができる。送達システム100でのベタメタゾン使用の1つの制限は、注射形態では、合理的な大きさの針を用いて注射することができる必要があるということである。いくつかの実施形態では、薬物容器104は、1.5%までのチラミン置換と、20%までのTHA濃度からなっていてもよい高密度ヒドロゲル粒子であり、一方、結合マトリックス102は、1.5%までのチラミン置換と、1%までのTHA濃度であってもよい。結合マトリックス102は、7%までのチラミン置換と、20%までのTHA濃度からなっていてもよいが、ベタメタゾンについて好ましい実施形態は、1.5%までのチラミン置換と、5%未満のTHA濃度であってもよい。
【0102】
ベタメタゾン吉草酸エステルは、局所ゲルとして、パッチとして、または別の送達形態で適用してもよいコルチコステロイドであり、限定されないが、関節リウマチ、全身性ループス、皮膚炎、乾癬、喘息、早期陣痛の肺発達、クローン病、IBDおよびいくつかの種類の血液癌などの多数の疾患および状態を治療するために使用することができる。濃度は、ステロイド強度に応じて、さまざまであってもよい。例えば、送達システム100の投与が、パッチまたは単一送達を介するものである場合、ベタメタゾン吉草酸エステルは、適用部位、送達システム100の物理的形態および容器薬物濃度に応じて、典型的な投薬量の10倍までで投与されてもよい。ベタメタゾン吉草酸エステルを含有する典型的な結合マトリックス102は、20%までのTHA濃度では、7%までのチラミン置換で構成されているだろう。結合マトリックス102は、好ましい実施形態では、1.5%未満のチラミン置換と、5%未満のTHA濃度を有していてもよい。
【0103】
デキサメタゾンは、注射してもよく、またはクリームとして適用してもよい、抗炎症特性および免疫抑制特性を有するコルチコステロイドであり、限定されないが、関節リウマチ、全身性ループス、皮膚炎、乾癬、喘息、早期陣痛の肺発達、クローン病、IBDおよびいくつかの種類の血液癌などの多数の疾患および状態を治療するために使用することができる。デキサメタゾンは、粘性補充用途における鎮痛剤に対する補体としても使用することができる。送達システム100でのデキサメタゾン使用の1つの制限は、注射形態では、合理的な大きさの針を用いて注射することができる必要があるということである。いくつかの実施形態では、薬物容器104は、1.5%までのチラミン置換と、20%までのTHA濃度からなっていてもよい高密度ヒドロゲル粒子であり、一方、結合マトリックス102は、1.5%までのチラミン置換と、1%までのTHA濃度であってもよい。結合マトリックス102は、7%までのチラミン置換と、20%までのTHA濃度からなっていてもよいが、ベタメタゾンについて好ましい実施形態は、1.5%までのチラミン置換と、5%未満のTHA濃度であってもよい。
【0104】
フルオコルトロンは、ゲルまたは坐薬として適用することができ、痔を治療するために使用可能なコルチコステロイドである。いくつかの実施形態では、薬物容器104は、5.5%~7%のチラミン置換と、20%までのTHA濃度からなっていてもよく、一方、結合マトリックス102は、1.5%のチラミン置換と、10%までのTHA濃度であってもよい。坐薬は、高密度ゲルであってもよく、または固体のゼラチン状の稠度を有していてもよい。
【0105】
フランカルボン酸フルチカゾン、プロピオン酸フルチカゾン、シクレソニドおよびトリアムシノロンアセトニドは、鼻用ゲルとして適用可能なチコステロイドであるが、好ましい実施形態では、鼻炎、鼻ポリープおよび喘息を治療するために粘膜にミストとして適用される。理想的には、薬物容器104は、非常に微細であり、液体担体溶液に懸濁していると思われるため、噴射剤が、この固体粒子形態を運ぶことができる。いくつかの実施形態では、吸入剤を使用してもよいが、薬物容器粒子104は、肺組織108aと接触し、ステロイドを放出するのに適切な大きさと能力を有するほど非常に小さいと思われる(1ミクロン未満)。いくつかの実施形態では、薬物容器104は、身体に確実に完全に吸収されるには、1.5%までのチラミン置換(シクレソニドおよびトリアムシノロンアセトニドの場合には1%)であり、10~20%のTHA濃度であろう。薬物容器104の浸透圧は、正常であることが好ましいが、フランカルボン酸フルチカゾンおよび/またはプロピオン酸フルチカゾンの溶出速度を制御するために、変動させてもよい。
【0106】
酢酸コルチゾンは、炎症および関節、腱または嚢の外傷に起因する痛みと腫れを治療するために使用することができるコルチコステロイドである。さらに、酢酸コルチゾンは、NSAID、コルチゾンおよび粘性補充構成要素と合わせるのに理想的な候補物質である。例えば、アセトアミノフェンおよび酢酸コルチゾンを、粘性補充ヒドロゲル中のイブプロフェンと合わせてもよい。いくつかの実施形態では、薬物容器104は、1.5%までのチラミン置換と、20%までのTHA濃度からなっていてもよい高密度ヒドロゲル粒子であり、一方、結合マトリックス102は、1.5%~7%のチラミン置換と、1%までのTHA濃度であってもよい。結合マトリックス102は、7%までのチラミン置換と、20%までのTHA濃度からなっていてもよいが、酢酸コルチゾンについて好ましい実施形態は、1.5%までのチラミン置換と、5%未満のTHA濃度であってもよい。
【0107】
メチルプレドニゾロンは、注射されてもよく、またはクリームとして適用されてもよいコルチコステロイドであり、プレドニゾンは、経口投与または注射されてもよい免疫抑制特性を有するコルチコステロイドであり、これらを使用し、皮膚障害、アレルギー状態、クローン病、IBDおよびアドレナリン欠乏を治療することができる。送達システム100でのメチルプレドニゾロンおよびプレドニゾンの使用の1つの制限は、注射形態では、合理的な大きさの針を用いて注射することができる必要があるということである。いくつかの実施形態では、薬物容器104は、1.5%までのチラミン置換と、20%までのTHA濃度からなっていてもよい高密度ヒドロゲル粒子であり、一方、結合マトリックス102は、1.5%までのチラミン置換と、1%までのTHA濃度であってもよい。メチルプレドニゾロンおよびプレドニゾンについて好ましい実施形態は、1.5%までのチラミン置換と、5%未満のTHA濃度であろう。
【0108】
テストステロンは、テストステロン欠乏に使用可能であり、局所ゲルとして、パッチとして、または別の送達形態で適用可能なアンドロゲンステロイドである(例えば、パッチまたはゲルを介する皮膚を通過する溶出よりも優れている、長期間溶出のための注射による)。しかし、好ましい実施形態では、これらの薬物について、ゲル形態または液体形態での送達システム100の局所適用が望ましい。濃度は、ステロイド強度に応じて、さまざまであってもよい。例えば、送達システム100の投与が、パッチまたは単一送達を介するものである場合、テストステロンは、適用部位、送達システム100の物理的形態および容器薬物濃度に応じて、典型的な投薬量の10倍までで投与されてもよい。テストステロンを含有する典型的な結合マトリックス102は、20%までのTHA濃度では、7%までのチラミン置換で構成されているだろう。結合マトリックス102は、好ましい実施形態では、1.5%未満のチラミン置換と、5%未満のTHA濃度を有していてもよい。
【0109】
テストステロンは、トランスジェンダー患者に投与され、前立腺癌を治療するために腫瘍学で使用することもできる。高用量のテストステロンは、前立腺癌を死に至らしめるようであり、癌付近にボーラス注射すると、長期間にわたって局所的に高用量を送達することができ(全身的に与えられる状況と比較して)、癌細胞が確実に高用量のテストステロンにさらされる。潜在的な危険の1つは、低レベルから中レベルのテストステロンが、前立腺癌の成長を促進する場合があることである。従って、テストステロン用量が十分に高くない場合には、有用なものではなく、有害なものとなる場合がある。コルチコステロイドを用いる場合、送達システム100でのテストステロン使用の1つの制限は、注射形態では、合理的な大きさの針を用いて注射することができる必要があるということである。いくつかの実施形態では、薬物容器104は、1.5%までのチラミン置換と、20%までのTHA濃度からなっていてもよい高密度ヒドロゲル粒子であり、一方、結合マトリックス102は、1.5%までのチラミン置換と、1%までのTHA濃度であってもよい。テストステロンを含有する典型的な結合マトリックス102は、20%までのTHA濃度では、7%までのチラミン置換で構成されているだろう。結合マトリックス102は、好ましい実施形態では、1.5%未満のチラミン置換と、5%未満のTHA濃度を有していてもよい。
【0110】
エストロゲンは、ステロイドであり、局所ゲルとして、パッチとして、または別の送達形態で注射または適用してもよく、これを使用し、閉経期の女性またはトランスジェンダー患者のためのエストロゲン欠乏を治療することができる。送達システム100でのエストロゲン使用の1つの制限は、注射形態では、合理的な大きさの針を用いて注射することができる必要があるということである。いくつかの実施形態では、薬物容器104は、1.5%までのチラミン置換と、20%までのTHA濃度からなっていてもよい高密度ヒドロゲル粒子であり、一方、結合マトリックス102は、1.5%までのチラミン置換と、1%までのTHA濃度であってもよい。テストステロンを含有する典型的な結合マトリックス102は、20%までのTHA濃度では、7%までのチラミン置換で構成されているだろう。結合マトリックス102は、好ましい実施形態では、1.5%未満のチラミン置換と、5%未満のTHA濃度を有していてもよい。
【0111】
送達システム100の局所形態またはパッチ形態では、濃度は、ステロイド強度に依存して、さまざまであってもよい。例えば、送達システム100の投与が、パッチまたは単回送達を介するものである場合、エストロゲンは、適用部位、送達システム100の物理的形態および容器薬物濃度に応じて、典型的な投薬量の10倍までで投与されてもよい。エストロゲンを含有する典型的な結合マトリックス102は、20%までのTHA濃度では、7%までのチラミン置換で構成されているだろう。結合マトリックス102は、好ましい実施形態では、1.5%未満のチラミン置換と、5%未満のTHA濃度を有していてもよい。
【0112】
低分子:抗生物質
開示される送達システム100で使用可能な種々の抗生物質は、アバロックス(例えば、モキシフロキサシン)、β-ラクタム(例えば、ペニシリン誘導体およびセファロスポリン)、マクロライド、フルオロキノロン、テトラサイクリン、クロロテトラサイクリン、オキシテトラサイクリン、デメクロサイクリン、リメサイクリン、メクロサイクリン、メタサイクリン、ミノサイクリン、ロリテトラサイクリン、ドキシサイクリン、チゲサイクリンおよびアミノグリコシドである。
【0113】
低分子:生物製剤
いくつかの実施形態では、生物製剤、例えば、限定されないが、コパキソン(免疫調整剤)およびベータセロン(免疫抑制剤)を、注射によって(例えば皮下)投与してもよく、これを使用して多発性硬化症を治療することができる。開示される送達システム100を用いて生物製剤を送達することによって、より高い濃度を使用することができ、注射の頻度が少なくなる。送達システム100での生物製剤使用の1つの制限は、注射形態では、合理的な大きさの針を用いて注射することができる必要があるということである。いくつかの実施形態では、薬物容器104は、1.5%までのチラミン置換と、20%までのTHA濃度からなっていてもよい高密度ヒドロゲル粒子であり、一方、結合マトリックス102は、1.5%までのチラミン置換と、1%までのTHA濃度であってもよい。
【0114】
低分子:その他
開示される送達システム100に含まれ得る他の低分子は、発作、精神病、関節リウマチおよび多発性硬化症などの自己免疫疾患、痛風、肝不全、貧血および癌などの状態および疾患を治療することができる。関節リウマチに役立たせるために、NSAIDおよび金を使用することができる。テリパラチド、デノスマブおよびアルブミンは、肝不全に使用することができる。エリスロポエチン(EPO)は、貧血および癌に使用することができる。
【0115】
注射以外に、簡単に上に述べたように、送達システム100を、例えば、限定されないが、接着防止、凝固、組織パッチ、組織増強、薬物送達、整形外科、コーティング、栓および組織工学などの種々の他の用途のために送達し、使用することができる。
【0116】
チラミン架橋したバイオポリマー:接着防止
多くの侵襲性医療手技および手術は、手技の間に起こり得る操作、切断、縫合および乾燥などの活動中に内部組織108aを損傷する。手術後に、送達システム100をシートで適用してもよく、または罹患した組織表面108aをコーティングし、貼り付く塊として注射してもよく、それによって、接着を防ぐ。ヒアルロナンは、体内での天然の障壁であり、組織108aを瘢痕化から保護する。開示される送達システム100の利点の1つは、損傷した組織部位108aを、周辺の組織表面108aとの間の結合組織の瘢痕部分を生成することなく、意図しない外傷を治癒するのに十分長く、ヒアルロナン中でコーティングされたまま保持することが可能なことである。
【0117】
いくつかの実施形態では、THA系結合マトリックス102aを含む送達システム100は、組織表面108aをコーティングし、貼り付くほど十分に濃いが、シリンジ、適用チューブまたはボトル、または特殊なシートアプリケータによって適用するのに十分なほど薄い。他の医療用途と同様に、その他の薬物または分子106は、補助的な治癒に加えられ、影響を受けた組織108aを保護することができる。種々の例としては、限定されないが、以下のものが挙げられる。(a)NSAIDSを加え、腫れを減らし、痛みを治療することができ、(b)抗生物質および抗真菌薬を加え、創傷部位108aを感染から保護することができ、(c)強い鎮痛薬を加え、ヒドロゲル結合マトリックス102から時間をかけて溶出し、局所的な痛みを治療することができ、(d)成長因子およびプロモーターを加え、1週間以上かけて溶出させ、迅速な治癒を促進することができる。
【0118】
チラミン架橋したバイオポリマー:凝固
抗凝固剤を摂取した患者の外傷創傷、びまん性の擦過傷または切り傷および挫傷からの出血は、止まらなければ、ただちに生命を脅かすものとなり得る。開示される送達システム100は、いくつかの実施形態では、例えば、限定されないが、脱水、フィブリンの使用、特定の浸透圧の使用、血管収縮薬の使用、または上述の任意の組み合わせなど、創傷部位108aで凝固を促進するいくつかの選択肢を提供する。
【0119】
凝固:脱水
血液の血漿構成要素を吸着し、脱水すると、創傷または外傷部位108aでの凝固が促進される。従って、一実施形態では、ユーザは、薬物容器104を含む粗い粉末状のTHA系結合マトリックス102aを含む送達システム100を、出血しているか、および/または液が垂れている罹患組織108aに適用し、血漿を吸収させることができる。別の実施形態では、ユーザは、
図4に示すように、噴射剤を含む乾燥粉末エアロゾル送達システムから、粉末を凍結乾燥したゲル粉末として適用することができ、凍結乾燥したゲル粉末のキャニスターを押出し、創傷表面に乾燥粉末として適用する。
図4は、外傷に起因して露出し、従って、開示される送達システム100から利益を受ける種々の組織(例えば、表皮、皮膚基底層、脂肪組織、筋肉層)を示す。粉末は、出血または液垂れしている血液または組織表面108aに迅速に貼り付き、迅速に吸収し、凝固させる。いくつかの実施形態では、粉末形態の結合マトリックス102は、適用されるときには架橋前であってもよい。別の実施形態では、漏出物が吸収されると、H
2O
2の溶液またはミストをTHA系結合マトリックス102aに適用し、THA系結合マトリックス102aを架橋させてもよい。送達システム100は、物理的な障壁として、また、タンポナーデとして作用してもよい。
【0120】
凝固:フィブリン
いくつかの実施形態では、凝固促進剤(例えばフィブリン)を結合マトリックス102に加え、フィブリンが活性なままであるように所定の位置で架橋してもよい。次いで、フィブリンで架橋した結合マトリックス100を含む送達システム100を、創傷表面108aにシートまたは一連のシートとして分配してもよい。いくつかの実施形態では、挫傷の中央に注射し、出血している組織における凝固を促進することができる。
【0121】
凝固:浸透圧
送達システム100が凝固を促進し得る別の様式は、低置換THAを高濃度で用いることによって、高浸透圧の結合マトリックス102を作成することである。結合マトリックス102自体は、周囲の組織から水を吸収し、出血している毛細血管および小さな直径の血管を崩壊させるのに十分に高い浸透圧を有する。しかし、多量の塩を添加すると、浸透圧をさらに上げることができる。この適用を使用し、化粧品用途において、クモ状静脈(動脈)を崩壊させることもできる。
【0122】
凝固:血管収縮薬
いくつかの実施形態では、エピネフリンなどの血管収縮薬および強い刺激剤を結合マトリックス102に加え、所定の位置で架橋してもよく、最終的な生成物を、創傷部位108aに適用するか、または挫傷に注射してもよい。結合マトリックス102と組み合わせて使用される場合、血管収縮薬は、血管の流れを遅らせるのを促進し、血管系から逃げることができ、一方、結合マトリックス102は、脱水および血液の凝固を促進することができる。
【0123】
凝固:併用機器
凝固を促進する全ての上述の方法を任意の組み合わせで使用してもよい。出血部位の付近の毛細管および小さな血管で血管収縮を起こさせることができ、一方、結合マトリックス102および凝固促進剤によって、血液を凝固させ、創傷表面108aを密封することができる。限定されないが、抗生物質、抗真菌薬、鎮痛薬などの種々の補助構成要素106を加え、さらなる医療処置を行うことができるようになるまで、部位を保護してもよい。いくつかの実施形態では、送達システム100は、創傷表面108aを覆ったら、物理的な保護障壁を形成することができ、天然のかさぶたのように機能することができる。
【0124】
チラミン架橋したバイオポリマー:組織パッチ
接着防止および凝固を刺激することに加え、
図6に示され、上に記載したように、種々の疾患状態を治療するために、開示される送達システム100を組織パッチとして使用してもよい。テフロン(登録商標)、ポリプロピレンおよびポリエチレンからなるポリマー組織パッチ、ネットおよびハンモックは、インプラントの周囲の身体に瘢痕組織を形成する場合があり、これが痛みを引き起こす場合があり、周囲の組織を腐食させる場合があり、それによって、組織のギャップまたは穴が混じり合うか、または悪化する。開示される送達システム100の一実施形態では、送達システム100は、周囲の組織108aを支持する組織パッチとして機能してもよく、穴およびギャップを閉じてもよく、および/または組織を治癒するのに十分に長く、閉鎖部を維持してもよい。次いで、体内に吸収され、それによって、除去の必要性がなくなる。結合マトリックス102は、直接的または間接的に(すなわち、薬物容器を用いて)成長促進剤、鎮痛薬、コラーゲン粒子を添加することもでき、または支持結合組織がギャップまたは穴の上に生成することができるように、コラーゲン骨格から部分的に配合することができる。
【0125】
送達システム100は、その組織パッチ形態で使用され、創傷を治癒し、機械的な支持を与えるか、またはパッキングに使用されてもよい。送達システム100は、コラーゲン粒子を含むように配合されてもよく、または低分子量コラーゲンを用いて直接的に作成されてもよい。送達システム100を、他の張力の強い材料または他のヒドロゲルと合わせ、保護シートを作成してもよい。他の用途と同様に、損傷または外傷による創傷の症状を治療するために、抗生物質、抗真菌薬、鎮痛薬、ステロイド、NSAIDなどの薬物または標的分子106を結合マトリックス102に加えてもよい。
【0126】
いくつかの実施形態では、配置し、架橋する前に、結合マトリックス102に赤血球細胞または白血球細胞を播種してもよい。他の実施形態では、架橋の後、送達システム100を配置した後に、結合マトリックス102に赤血球細胞または白血球細胞を直接注射することによって、結合マトリックス102に、赤血球細胞または白血球細胞を播種してもよい。赤血球細胞または白血球細胞に加え、結合マトリックス102に、配置または架橋の前または後に、血漿の構成要素(例えば、PRP)を播種してもよい。所定の位置に置いたら、マクロファージは、線維芽細胞、幹細胞および移動する組織細胞を送達システム100に引き寄せることができる。創傷の種類および位置に依存して、送達システム100は、規則的な間隔で薄層の状態で適用すると、最良の効果が得られるだろう。重篤な深く貫入する創傷は、
図5に示すように、結合マトリックス102(例えば、タンパク質系結合マトリックス102a)を単一の大きなボーラスとして適用する場合に最良に応答し得る。
【0127】
より特定的には、深く貫入する創傷は、同様に、新しい組織の成長108bを必要とし、開示される結合マトリックス102は、これに対処するために固有に配合される。例えば、
図5に示されるように、タンパク質系結合マトリックス102bは、損傷した組織102aの上またはこの組織に対する創傷部位適用されてもよく、THA系結合マトリックス102aは、保護コートとして、組織108aの上部に適用されてもよい。時間経過に伴い、タンパク質系結合マトリックス102bは、新しい組織108bの成長のためのマクロファージおよび内皮組織を引き寄せる。マクロファージは、タンパク質系結合マトリックス102b材料を破壊し、内皮細胞または他の周囲の細胞を結合マトリックス102に引き寄せ、新しい組織108bを生成することができる。THA系結合マトリックス102aは、創傷部位を保護し、瘢痕組織の形成を防ぐように働く。
【0128】
創傷治癒に加え、開示される送達システム100は、機械的な支持を供給してもよく、ヘルニアパッチの形態をしていてもよく、これを使用し、皮膚および筋肉を修復するのに役立ってもよく、修復または新しい血管を作成するのに役立ってもよく、パッキングのために使用されてもよい。
【0129】
チラミン架橋したバイオポリマー:組織の増強
開示される送達システム100の別の使用は、組織の増強のための使用である。例えば、泌尿器目的のため(例えば、尿および糞便の失禁)、硝子体の置き換えとして、心筋組織のため(例えば、僧帽弁または大動脈弁)、食道組織のため、胃腸目的のため(例えば、胃バイパス)、声帯ヒダの医療のため、筋膜のため、空隙充填剤として(例えば、臓器の置き換えとして)、または治癒パッドとして(例えば、糖尿病のため)、送達システム100を皮膚充填剤として使用してもよい。
【0130】
皮膚充填剤としての使用に関し、送達システム100は、皮膚充填剤として作用するのに十分な耐久性を有するほど十分に高密度に作成することができる。ヒアルロン酸ナトリウム形態は、表面を伸ばし、ひだおよび深い皺を取り除くように、皮膚組織を膨らませ、膨張させるための充填剤として作用することができる。さらなる構成要素をヒドロゲル製剤に加え、皮膚組織における充填剤(例えば、限定されないが、コラーゲン粉末および/繊維)の耐用時間を長くすることができる。これらのさらなる構成要素は、マクロファージの結合マトリックス102への移動を促進し、内皮細胞を結合マトリックス102に引き寄せ、新しい皮膚組織108bを作成することによって、新しい組織108bの生成を促進することができる。
【0131】
チラミン架橋したバイオポリマー:薬物送達
いくつかの実施形態では、上述のように、送達システムを薬物送達ビヒクルとして使用してもよい。例えば、薬物または標的分子106を含んでいてもよく、従って、創傷治癒、痛み、腫瘍学および眼科学において補助してもよい。低分子薬物を含んでいてもよく、代謝容器、ステロイド容器または皮膚パッチとして作用してもよい。結合マトリックス102は、光学的に透明であり、種々の作業に最適な密度を有していてもよく、吸収されてもよく、送達システム100を処理後に取り除く必要はないだろう。
【0132】
チラミン架橋したバイオポリマー:整形外科
いくつかの実施形態では、送達システム100を整形外科的ツールとして使用してもよい。例えば、粘性補充、人工軟骨、骨用ペーストまたはセメント、成長板修復、腱の修復および筋膜炎を補助することができる。粘性補充での使用という観点で、結合マトリックス102を使用し、滑液の補充に役立てることができ、滑液は、天然では、3~4mg/mLのヒアルロナンを含んでおり、嚢および腱鞘の中に見出される天然の潤滑剤である。古い関節および組織は、十分な滑液を産生することができないため、軟骨と、酷く損傷を受けた関節では、骨が隣接する表面と接触し、痛みを生じる。従って、結合マトリックス102は、滑液を補充し、痛みを最小限にするのに十分なほど、関節を治癒することができる。ヒアルロナンは、通常、骨の中でかなり迅速にリサイクルされるため、開示される発明のいくつかの実施形態は、酵素分解に耐性がある架橋したヒアルロナンを含む人工ヒアルロナン溶液を使用してもよい。送達システム100の他の実施形態では、高度に置換された、架橋したヒドロゲル製剤を使用することができ、架橋後に精製の必要がないため、既存の配合物よりも優れている。上述のように、例えば、限定されないが、ステロイド、NSAID、鎮痛薬、成長因子および補助潤滑材料などの補助構成要素106を結合マトリックス102に加えてもよい。
【0133】
チラミン架橋したバイオポリマー:コーティング
上述の送達システム100のさらなる用途は、コーティングとしてのものであり、
図10に示されるように、送達システム100をカテーテルに使用する前に、
図12に示されるように、手術デバイスと、保存が必要な臓器に、
図11に示されるように、移植可能なセンサに、人工心臓および人工血管に使用する前に、ヒアルロナンが、結合マトリックス102に組み込まれる。表面での所定の位置の架橋は、製造中の微粒子の生成を減らす場合があるため、デバイス表面に配置する前にヒアルロナンを組み込むことが重要である。ヒアルロナンは、細胞外マトリックス、滑液および眼の硝子体に存在する。ヒアルロナンは、きわめて吸湿性であり、そのため、水を引き寄せ、組織に膨らんだ感触を与える。ヒアルロナンは、きわめて潤滑性であり、組織表面(例えば、関節、腱と腱鞘および眼)を潤滑化するのに重要な役割をはたす。ヒアルロナンは、光学的に透明であるため、眼の硝子体の主な構成要素の1つである。最後に、ヒアルロナンは、組織細胞による障壁として機能し、それによって、ある場合には、瘢痕組織の生成を防ぐ。例えば、ヒアルロナンは、組織細胞が、ヒアルロナンの高濃度の塊によって占められる空間に入るのを防ぎ、組織細胞が空間に入ることを防ぐことによって、瘢痕組織の形成を防ぐ。ある種の微生物(例えば、連鎖状球菌)は、厚いヒアルロナンコート内で自身に覆われ、免疫系が細胞壁に達することができず、感染において、初期に、感染性微生物の攻撃が始まる。同様に、ヒアルロナンコーティングを使用し、コーティングする表面を保護し、潤滑化し、耐汚れ性を付与することができる。
【0134】
カテーテルおよびワイヤを既にコーティングしている親水性および潤滑性のコーティングの種々の製剤に加え、これらは、
図10に示されるように、ヒアルロナンを含む開示される結合マトリックス102の一実施形態によってコーティングすることもできる。このTHA系結合マトリックス102aのコーティングを、医薬および生体活性材料(例えば、幹細胞、痙攣を防ぐための生体材料)106を架橋およびコーティングの前に添加することができる。コーティングされると(例えば、カテーテル表面に対する共有結合を用いて)、THA系結合マトリックス102aを架橋してもよく、血流の中に溶出空間を与えることができる。THA系結合マトリックス102aのさらなる層は、初期のTHA系結合マトリックス102a層の上部に加えられてもよい。薬物および生体活性材料106を、種々の利点のために、手技の間に溶出させることができる(例えば、血管応答を作り出すために)。いくつかの実施形態では、カテーテル全体がコーティングされてもよく、動脈が応答して損傷するのを防ぐのに役立つ。他の実施形態では、コーティングは、操作長さなどのように、カテーテルの特定の部位に限定されてもよい。カテーテルは、取り外し可能な部位を含むように設計されてもよく、これらの部位は、脈管構造および周囲の組織に意図的に残される。従って、カテーテルの一部の上のTHA系結合マトリックス102aの保護コーティングは、脈管構造または組織に残り、これは患者にとって有益であろう。
【0135】
組織を操作するために使用される手術デバイスは、殺菌後に、THA系結合マトリックス102aでコーティングされ、保護性および潤滑性の表面を生成することができ、これにより、組織が、使用中のデバイスによって擦過傷が生じ、固着するのを防ぐことができる。クランプ、リトラクタ、ポートなどは、手術中に組織を保護するためにTHA系結合マトリックス102aでコーティング可能なデバイスの例である。
【0136】
いくつかの実施形態では、開示されるTHA系結合マトリックス102aを、臓器で使用するために送達システム100で使用してもよい。より特定的には、移植のために取り出した臓器は、多くは、移植および移植の前の試験に利用可能な時間に制限がある。取り出した組織は、外側表面で乾燥し始め、その後、良好なO2交換がされなくなる場合があるからである。これらの問題と戦うために、臓器を、外側表面を乾燥から保護し、組織内へのO2移動を向上させるため、THA系結合マトリックス102aを含む送達システム100でコーティングしてもよい。既に開示したように、結合マトリックス102に、組織の健康および生存能力を高める構成要素106を添加してもよい。架橋した結合マトリックス102を含む送達システム100の濃い性質によって、組織表面の所定の位置にこれを保持することができる。
【0137】
THA系結合マトリックス102aは、結合組織生成を防ぐために、
図12に示されるように、手技中に臓器に対して使用するために送達システム100で使用することもできる。より特定的には、特定の手技または手術の間に、外科医は、体内の必要な領域にアクセスするために、周囲の組織または臓器を掴み、移動してもよい。この移動は、これらの対応する組織または臓器108aの表面で瘢痕組織の生成を促進する場合があり、腸の場合には、痛みまたは腸閉塞を引き起こす場合がある。
【0138】
開示される送達システム100は、移植されたセンサによって補助されてもよく、
図11に示すように、多くは移植後にすばやく汚れ、それにより、測定される変数についての拡散速度が変化し、モニタリングのためにセンサが移植された変数の正確な読み取りが妨げられる。THA系結合マトリックス102aを含む送達システム100は、センサ表面を汚れから保護するだけではなく、センサ周囲の瘢痕組織の生成も防ぎ、組織の物質移行および拡散特性は同じである。従って、センサによってモニタリングされるタンパク質、ホルモンまたは低分子は、THA系結合マトリックス102aコーティングを横切って移動し、隠されず、センサは、正確な測定を行うことができる。
【0139】
人工心臓は、流量特徴によって、血管細胞が破壊され、血餅が生じる可能性があるため、困難なデバイスである。壁表面付近の剪断力を下げるために、THA系結合マトリックス102aを含む送達システム100を、人工心臓のコーティングとして使用することができる。さらに、結合マトリックス102は、コラーゲンを含浸していてもよく、送達システム100への内皮細胞の移動を促進し、血管の壁のようなコーティングを生成する。THA系結合マトリックス102aを含む送達システム100は、表面の汚れと血栓症の発生も防ぐことができる。
【0140】
上述のように、開示される送達システム100を、いくつかの実施形態では、人工血管に;内皮組織または幹細胞組織に含浸したヒアルロン酸ナトリウムコードを含む、コラーゲン/タンパク質系の外側環に由来する二成分の繊維またはコードに;皮膚に;結合マトリックス102に加えて、またはこれに含浸させた、抗生物質、抗真菌薬、成長因子、栄養素および生きている組織と組み合わせて;例えば、血管または瘻などの環状の空間を満たすための栓として(例えば、動静脈瘻、痔瘻および産科フィスチュラ)、または憩室を満たすための栓として使用してもよい。動静脈奇形、動脈瘤、大脳の空間に、大動脈の裏側の充填剤として、左側心耳として、固形腫瘍に、または子宮筋腫に使用してもよい。
【0141】
固形腫瘍の場合、送達システム100が、腫瘍を閉塞させるために、主な栄養動脈に挿入されてもよい。いくつかの実施形態では、送達システム100は、血餅促進剤を含んでいてもよい。化学毒性化合物、モノクローナル抗体標的腫瘍特異的、アポトーシスシグナル(例えば、fas受容体、カスパーゼおよびBcl-2阻害剤)、浸透圧破壊剤、無線周波数吸収粒子、遊離ラジカル発生剤(例えば、電離放射線を伴うTiO2)および免疫原性化合物/プロモーターも組み込むことができる。
【0142】
送達システム100のさらなる使用は、血餅を促進する構成要素を含む塞栓用ゲルである。例えば、高浸透圧の構成要素を含む結合マトリックス102によって、周囲の血管を痙攣させ、きつく収縮させることができる。収縮した状態を長期間にわたって(例えば数分間)維持すると、固形腫瘍への血液の流れを遮断することができ、下流の組織を死に至らしめることができる。化学毒性薬を結合マトリックス102および/または薬物容器104に加えてもよく、これを周囲の組織108aに溶出させ、局所的に高濃度の化学毒性化合物を与えることができる。これにより、同様に、全身性の高用量の化学毒性薬または化合物からの全身への影響を防ぎつつ、付近の癌組織を死に至らしめる可能性を高めることができる。
【0143】
血餅を促進する構成要素の別の例は、凝血促進剤構成要素である。凝血促進剤構成要素を送達システム100に(例えば、高浸透圧の結合マトリックス102に、または標準的な結合マトリックス102に)加えてもよく、塞栓用送達システム100から溶出させ、血餅を生成させることができる。
【0144】
送達システム100を、子宮筋腫を閉塞させるために、塞栓用の塊として使用することもできる。固形腫瘍のために使用する場合、結合マトリックス102または薬物容器104は、直接的な閉塞が、繊維破壊には不十分な場合には、難治性またはびまん性の線維腫のための血餅促進剤および/または化学毒性薬を含んでいてもよい。
【0145】
閉塞物質としての送達システム100のための別の使用は、瘻および憩室を用いる。ペプチド系結合マトリックス102は、マクロファージの移動と硬化性組織形成を促進することができる。いくつかの実施形態では、結合マトリックス102または薬物容器104は、組織形成および閉塞のために、幹細胞を含むか、または含まずに、内皮細胞を含んでいてもよい。
【0146】
チラミン架橋したバイオポリマー:組織工学
上述の使用に加え、開示される送達システム100を、in-vivoまたはin-vitroでの組織工学に使用してもよい。in-vitroでの組織工学の例としては、3D自家移植片、3D異種移植片、3D幹細胞、自家移植片と異種移植片の組織の3D組み合わせ(例えば、異種移植細胞の周囲の血管形成を促進するためのコラーゲンおよび自家移植片幹細胞と組み合わせた異種移植島細胞)、2D膀胱、2D皮膚、2Dカニューレ、神経管、コラーゲンのネスト幾何形状、凍結乾燥し、粉砕した胃および膀胱の内壁が挙げられる。
【0147】
開示される送達システム100を含む3D自家移植片の例としては、集められた島細胞が挙げられる。より特定的には、脂肪組織から宿主膵臓組織または膵臓と間充織幹細胞を集めた後、集めた細胞を、死体またはブタの膵臓のコラーゲンシェルまたは3D印刷した足場に添加した。幹細胞を宿主組織と共に操作し、膵臓細胞足場の空間、空隙の大きさおよび密度を模倣したネスト幾何形状を含む足場内に新しい島細胞を作成した。足場および新しい島細胞を保護するために、送達システム100の結合マトリックス102をTHAコーティングとして使用してもよい。
【0148】
いくつかの実施形態では、機械的な保護のためにシリンダー中、送達システム100をセルロースシェルとして使用することもでき、または直径が1.5mm未満の顆粒または粒子フラグメントとして注射することができる。より特定的には、異種移植片を保護するための1つの様式は、宿主組織が攻撃を受けるのを防ぐように、異種移植片を、薄い壁、セルロース、ストロー状の管から構成されるセルロースシェルに埋め込むことであり、ここで、シェルは、高い機械強度を有する。セルロースシェルの1つの制限は、移植片への栄養素および酸素の拡散が制限されることと、移植片から出る廃棄物の拡散が制限されることである。この拡散の制限を解決するために、開示される技術のいくつかの実施形態は、セルロースシェルに送達システム100を組み込む。ヒドロゲルと対にしたヒドロゲル粒子は、小さくすることができ、高強度のシェルを必要としないだろう。さらに、移植片の内外への物質拡散は、送達システム100を用いると、かなり容易である。送達システム100の1つの欠点は、その構成要素が体内に吸収される場合があり、従って、吸収される場合には、長期間にわたって所望の位置に異種移植細胞を保持することができないことである。従って、セルロースシェルと送達システム100の組み合わせを使用し、宿主組織による攻撃から保護し、所望な場所での耐久力を実現することができる。
【0149】
3D自家移植片と同様に、開示される送達システム100は、3D異種移植片で補助されてもよい。THA系の結合マトリックス102aは、ブタ、ヒトドナーまたはヒト死体から、宿主の免疫系から細胞(例えば、島細胞)を保護することができる。いくつかの実施形態では、結合マトリックス102を肝星細胞と組み合わせ、長期間にわたる生存能力を得ることができる。次いで、細胞を濃縮し、最大直径が1.5mmの中実ロッド(例えば、セルロースシェル)は、THA系結合マトリックス102a内に封入された細胞に囲まれていてもよい。セルロースシェルは、送達システム100のための送達方法および機械的な保護を与えることができる。組成物は、分解するシェル(すなわち、ネコの腸)を用いることによって改変されてもよく、THA系結合マトリックス102aは、異種移植片を宿主免疫系から保護することができる。中程度に血管新生した組織において、最大1.5mmの拡散距離が可能であろう(例えば、O2、栄養素、廃棄物の除去など)。いくつかの実施形態は、注射に用いると、セルロースシェル(すなわち、密度が高いゲル粒子)を含まない状態で存在するように組成物を改変することができる。一実施形態では、最低でも少なくとも30日間の生存能力がある。好ましい実施形態では、最低でも少なくとも12ヶ月の生存能力がある。一実施形態では、代替例は、細胞を取り囲むように、高密度のTHA系結合マトリックス102aを含む送達システム100の一実施形態を使用することであろう。高密度のTHA系結合マトリックス102aを含む送達システム100は、物質を部位に流し、間質腔に入るようにしつつ、小さな直径の針を介して注射することができる。
【0150】
島細胞に加え、集め、宿主組織においてソートした後に、死体ドナーからの甲状腺細胞を、異種移植片に使用することができる。甲状腺癌、過剰な結節または外傷性頸部損傷の場合には、生きている甲状腺細胞を死体またはドナーから集めることができ、異種移植片は、上に島細胞について記載したように封入することができる。生きている組織は、ホルモンを産生することができ、組織中で見出されるホルモンレベルをモニタリングすることができる。生体系は、人工系と比べて、投薬量と投薬タイミングを制御する際にかなり良好であるため、このことが有益である。
【0151】
島細胞および甲状腺細胞について開示した方法と類似して、生きている組織に由来する下垂体細胞を集め、または贈与されてもよく、損傷、遺伝的欠損または他の原因に起因して、不十分な成長ホルモンまたは黄体形成ホルモンが存在する場合には、移植することができる。利点は、症候群、成長速度の異常を防ぎ、十分に制御された様式で移植を完成させることであろう。小人症の場合には、成長ホルモンを組織から直接的に供給してもよい。巨人症の場合には、放射線または手術手段によって脳下垂体を不活性化し、次いで、生きている組織を、送達システム100を用いて送達し、許容される速度で成長ホルモンを与えることができる。
【0152】
3D幹細胞を作成するために、次の上部に対して、送達システム100の薄い層を下向きに層状化することによって、三次元組織足場を作成することができ、それぞれの層は、微視的および巨視的な幾何形状において、標的組織の種類を模倣する特定の幾何形状を含む。周囲の組織からの所望な応答を誘発するために、層の異なる領域に、異なる物質を使用することもできる。所望な応答の一例は、核形成部位への幹細胞の移動またはマクロファージの移動を促進することであり、新しい幹細胞が入り込み、創傷治癒プロセスを開始することができ、最終的な結果は、機能性であり、完全に分化した所望の組織型である。別の実施形態では、本方法は、容易に溶解する物質、例えば、パラフィンまたは低分子量ポリマーを用い、空隙および巨視的な幾何形状を作成することと、結合マトリックス102によって間質腔を満たし、所定の位置で架橋させることとを含む。ポリマーまたは充填材料が、溶解によって除去されると、ヒドロゲル足場は、元々の所望な幾何形状をしたネガティブ空間として残る。これにより、
図9に示すように、ネスト幾何形状(環状の血管、高密度およびそれほど密度が高くない領域など)が可能になる。両方法を使用して、大きな構造を作成することができたが、異なる手法も、他の方法と比べて最適であろう。
【0153】
いくつかの実施形態では、これらの送達システム100を使用し、結合マトリックス102を基底層として作用させ、膀胱内皮細胞を用いて構築することによって、単純な膀胱組織を作成することができる。組織成長を促進するために表面幾何形状を設定することができ、結合マトリックス102に栄養素および成長プロモーターを供給し、組織を、実験室で現在成長しているものよりもすばやく成長させることができる。3D細胞について上に記載したプロセスと同様に、微視的および巨視的な幾何形状を作成し、複雑な成熟した膀胱壁の成長を促進することができる。
【0154】
いくつかの実施形態では、送達システム100を使用し、神経管、例えば、限定されないが、嗅神経鞘細胞またはナノチューブを作成することができる。例えば、種々の濃度の嗅神経鞘細胞を結合マトリックス102に懸濁させ、脊柱または神経束部分に注射してもよい。
【0155】
送達システム100を用いるin-vitroでの組織工学の別の形態は、コラーゲン-ネスト幾何形状のためのものである。いくつかの実施形態では、結合マトリックス102のコラーゲンを、3Dプリンターに連続的な層になるように適用し、標的臓器にみられる細胞外マトリックスに似たコラーゲン網目構造を作成することができる。この結合マトリックス102に幹細胞を播種すると、未分化細胞は、コラーゲンマトリックスの形状をとり、その機械的な形態に起因して、この標的臓器の分化細胞へと変換し始める。
【0156】
凍結乾燥または自由に乾燥させた胃、膀胱または皮下の組織内壁は、開示される送達システム100を用いて完成させることができる、in-vitroでの組織工学のさらなる形態である。歴史的に、膀胱の凍結乾燥させた粉末は、ある状況では、治癒細胞前部を進めるために、開放した創傷の表面に適用される。理論的には、胃の内壁、膀胱の内壁、皮膚基底層にみられる組織は、高速度の組織成長を促進する成長因子を含む。これらが、すばやく失われ、失われた/擦り傷のある表面と置き換わるように成長し続けなければならない組織だからである。これらの成長因子は、同様に、再水和した粉末によって作られるコラーゲン足場と組み合わせると、周囲の組織が創傷から足場へと移動し、成長し始め、創傷を満たすように外側で成長が始まる。周囲の組織108aは、同様に、新しい細胞を分化させ、正しい位置で適切な組織型を作成する制御因子を有する。これにより、トカゲがどのように尾を再成長させることができるか、また、両生類が足をどのように再成長させることができるかなどと同じ状況を生じさせることができる。この用途では、粉末状の組織を結合マトリックス102に高密度で密な製剤の状態で組み込み、創傷を感染から保護することができる。この製剤は、縁部を密封し、丈夫なマトリックスを作成することができ、その中で、新しい細胞が移動し、新しい組織成長108bが始まる。一実施形態では、送達システム100を、小さなシートで適用し、細胞を組織基底層108aから構築し、正しい位置で新しい組織108bを作成することができる。周囲の組織からのテンセグリティおよび/または細胞シグナルデンタグがないと、大きな肢の成長または交換が、肢が完全に再成長するまで、毎日適用される小さな薄いシート内で成長しなければならない。同様に、この方法を使用し、組織の塊が失われ、身体に大きなギャップまたは開口部が開いているか、または大きなトンネル状の創傷ができているような、大きな創傷を治癒することができる。
【0157】
上述の種々の実施形態は、単なる例示によって与えられ、これに添付する特許請求の範囲を限定すると解釈すべきではない。当業者は、以下の特許請求の範囲の真の精神および範囲から逸脱することなく、本明細書に示され、記載される例となる実施形態および用途に従うことなくなされてもよい種々の改変および変更を容易に認識するだろう。