(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022116254
(43)【公開日】2022-08-09
(54)【発明の名称】心筋梗塞の再構成された高密度リポタンパク質治療
(51)【国際特許分類】
A61K 38/17 20060101AFI20220802BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20220802BHJP
A61P 3/06 20060101ALI20220802BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20220802BHJP
A61K 47/24 20060101ALI20220802BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20220802BHJP
A61K 47/28 20060101ALI20220802BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20220802BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220802BHJP
A61K 9/19 20060101ALN20220802BHJP
【FI】
A61K38/17
A61P9/10
A61P3/06
A61K9/08
A61K47/24
A61K47/26
A61K47/28
A61K45/00
A61P43/00 121
A61K9/19
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022089334
(22)【出願日】2022-06-01
(62)【分割の表示】P 2019524144の分割
【原出願日】2017-11-10
(31)【優先権主張番号】62/420,050
(32)【優先日】2016-11-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/472,240
(32)【優先日】2017-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】500021413
【氏名又は名称】シーエスエル、リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】サミュエル・ライト
(72)【発明者】
【氏名】チャールズ・シアラー
(72)【発明者】
【氏名】デニス・ダンドレア
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス・ジル
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル・ダフィ
(57)【要約】 (修正有)
【課題】中程度の腎機能障害(Mod RI)を有するヒト患者における急性心筋梗塞(MI)イベント後のさらなるMIイベントの可能性を減少させるための製剤を提供する。
【解決手段】急性心筋梗塞(MI)イベント後の、中程度の腎機能障害(Mod RI)を有するヒト患者を治療し、さらなるMIイベントの可能性を減少させるための再構成された高密度リポタンパク質(rHDL)製剤であって、該rHDL製剤は、少なくとも6gのアポリポタンパク質AI(ApoA-I)、脂質、安定剤、及び、場合により界面活性剤を含み、該製剤中のアポリポタンパク質とリン脂質比は、約1:20~1:120(モル:モル)である、前記rHDL製剤である。前記脂質としてはホスファチジルコリンが好ましく、前記安定剤としてはスクロースが好ましく、前記界面活性剤としてはコール酸ナトリウムが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
急性心筋梗塞(MI)イベント後に、ヒトにおいてコレステロール引き抜き能(CEC)を増加させるための方法であって、
該急性MIイベントの約七(7)日以内に、アポリポタンパク質またはその断片、脂質、安定剤、場合により、界面活性剤を含む再構成された高密度リポタンパク質(rHDL)製剤を、患者に投与する工程であって、アポリポタンパク質と脂質との間の比は、約1:20から約1:120(モル:モル)である、前記工程と;
続いて、好ましくは、少なくとも約四(4)週間、ヒトにrHDL製剤を投与し、それによって、ヒトの肝および/または腎機能において実質的な変更をもたらさずに、該ヒトにおいてコレステロール引き抜き能(CEC)を増加させる工程と
を含む前記方法。
【請求項2】
ヒトにおいて急性心筋梗塞(MI)イベントを治療するための方法であって、
該急性MIイベントの約七(7)日以内に、再構成された高密度リポタンパク質(rHDL)製剤、アポリポタンパク質またはその断片、脂質、安定剤、場合により、界面活性剤を、患者に投与する工程であって、アポリポタンパク質とリン脂質との間の比は、約1:20から約1:120(モル:モル)である、前記工程と;
続いて、好ましくは、少なくとも約四(4)週間、ヒトにrHDL製剤を投与し、それによって、ヒトの肝および/または腎機能において実質的な変更をもたらさずに、該ヒトにおいて急性心筋梗塞(MI)イベントを治療する工程と
を含む前記方法。
【請求項3】
アポリポタンパク質またはその断片、脂質、安定剤、場合により、界面活性剤を含む再構成された高密度リポタンパク質(rHDL)製剤であって、
該アポリポタンパク質と該脂質との間の比が、ヒトの患者において、コレステロール引き抜き能(CEC)を増加させることにおける使用のために、約1:20から約1:120(モル:モル)であり、急性心筋梗塞(MI)イベント後に、該rHDL製剤が、急性MIイベントの約七(7)日以内に、該ヒトの患者に投与され、次いで、続いて、好ましくは、少なくとも約四(4)週間該患者に投与される、前記再構成された高密度リポタンパク質(rHDL)製剤。
【請求項4】
アポリポタンパク質またはその断片、脂質、安定剤、場合により、界面活性剤を含む再構成された高密度リポタンパク質(rHDL)製剤であって、
該アポリポタンパク質と該脂質との間の比が、ヒトの患者において急性心筋梗塞(MI)イベントを治療することにおける使用のための、約1:20から約1:120(モル:モル)であり、該rHDL製剤が、急性MIイベントの約七(7)日以内に、該ヒトの患者に投与され、次いで、続いて、好ましくは、少なくとも約四(4)週間該患者に投与される、前記再構成された高密度リポタンパク質(rHDL)製剤。
【請求項5】
rHDL製剤のその後の投与は、毎週である、請求項1もしくは請求項2に記載の方法または請求項3もしくは請求項4に記載の使用のためのrHDL製剤。
【請求項6】
ヒトの患者におけるコレステロール引き抜き能(CEC)の増加を含む、請求項2に記載の方法または請求項4に記載の使用のためのrHDL製剤。
【請求項7】
総CECの増加は、1.5倍~2.5倍の範囲となる、請求項1もしくは請求項6に記載の方法または請求項4もしくは請求項6に記載の使用のためのrHDL製剤。
【請求項8】
ABCA1-依存性コレステロール引き抜き能の増加は、約3倍~約5倍である、請求
項1、請求項6もしくは請求項7に記載の方法または請求項4、請求項6もしくは請求項7に記載の使用のためのrHDL製剤。
【請求項9】
ヒトの患者は、急性MIイベントの五(5)日以内に、rHDL製剤を最初に投与される、請求項1~8のいずれか1項に記載の使用のための方法またはrHDL製剤。
【請求項10】
ヒトの患者は、急性MIイベント後または血管造影用の造影剤の投与後12時間より後に、rHDL製剤を最初に投与される、請求項1~9のいずれか1項に記載の使用のための方法またはrHDL製剤。
【請求項11】
rHDL製剤は、静脈内に(IV)注入される、請求項1~10のいずれか1項に記載の使用のための方法またはrHDL製剤。
【請求項12】
注入の速度は、1時間当たりアポリポタンパク質約1~3gである、請求項11に記載の使用のための方法またはrHDL製剤。
【請求項13】
肝機能の有意な変更は、正常値範囲の上限(ULN)の3倍を超えるアラニンアミノトランスフェラーゼ活性(ALT)および/または少なくとも2×ULNの、総ビリルビンの増加である、請求項1~12のいずれか1項に記載の使用のための方法またはrHDL製剤。
【請求項14】
腎機能における有意な変更は、ベースライン値の少なくとも1.5倍の血清クレアチニンおよび/または腎代替療法の必要性として測定される、請求項1~13のいずれか1項に記載の使用のための方法またはrHDL製剤。
【請求項15】
腎機能における有意な変更は、60mL/分/m2未満(例えば、60mL/分/1.73m2未満)の推定糸球体ろ過率(eGFR)として測定される、請求項1~14のいずれか1項に記載の使用のための方法またはrHDL製剤。
【請求項16】
患者は、急性MIイベントの5日以内に第1の用量を投与される、請求項1~15のいずれか1項に記載の使用のための方法またはrHDL製剤。
【請求項17】
患者は、急性MIイベントの少なくとも12時間または急性MIイベント後もしくは血管造影用の造影剤の投与後12時間より後に、第1の用量を投与される、請求項16に記載の使用のための方法またはrHDL製剤。
【請求項18】
rHDL製剤におけるアポリポタンパク質の量は、少なくとも2gもしくは少なくとも6gである、請求項1~17のいずれか1項に記載の使用のための方法またはrHDL製剤。
【請求項19】
アポリポタンパク質は、アポ-AIもしくはその断片である、請求項18に記載の使用のための方法またはrHDL製剤。
【請求項20】
安定剤は、約1.0%~6.0%w/w未満;約1.0~5.9%(w/w);約3.0~5.9%(w/w);約4.0~5.5%(w/w);約4.3~5.3%(w/w);もしくは約4.6~4.8%(w/w)の濃度でrHDL製剤中に存在する、請求項1~19のいずれか1項に記載の使用のための方法またはrHDL製剤。
【請求項21】
アポリポタンパク質と安定剤との間の比は、約1:1(w:w)~約1:7(w:w);約1:1(w:w)~約1:3(w:w);約1:1(w:w)~約1:2.4(w:
w);もしくは約1:1(w:w)から1:2(w:w)未満である、請求項1~20のいずれか1項に記載の使用のための方法またはrHDL製剤。
【請求項22】
安定剤は、スクロースである、請求項1~21のいずれか1項に記載の使用のための方法またはrHDL製剤。
【請求項23】
アポリポタンパク質と脂質との間の比は、約1:20~約1:100(モル:モル);約1:20~約1:75(モル:モル);または約1:45~1:65(モル:モル)である、請求項1~22のいずれか1項に記載の使用のための方法またはrHDL製剤。
【請求項24】
rHDL製剤は、界面活性剤を含む、請求項1~23のいずれか1項に記載の使用のための方法またはrHDL製剤。
【請求項25】
界面活性剤は、約0.5~1.5g/Lである、請求項24に記載の使用のための方法またはrHDL製剤。
【請求項26】
界面活性剤のレベルは、アポリポタンパク質約0.015~0.030g/gである、請求項24もしくは請求項25に記載の使用のための方法またはrHDL製剤。
【請求項27】
界面活性剤は、胆汁酸塩もしくは胆汁酸である、請求項24~26のいずれか1項に記載の使用のための方法またはrHDL製剤。
【請求項28】
界面活性剤は、コール酸ナトリウムである、請求項27に記載の使用のための方法またはrHDL製剤。
【請求項29】
脂質は、リン脂質である、請求項1~28のいずれか1項に記載の使用のための方法またはrHDL製剤。
【請求項30】
リン脂質は、ホスファチジルコリンである、請求項29に記載の使用のための方法またはrHDL製剤。
【請求項31】
急性心筋梗塞(MI)イベント後に、ヒトの患者においてコレステロール引き抜き能(CEC)を増加させるための方法であって、
アポA-I約0.5~1.5g/Lおよび/または約0.010~0.030g/g、ならびにスクロース約1.0%~6.0%w/w未満からなる群から選択されるレベルの、アポA-I少なくとも6g、ホスファチジルコリン、安定剤およびコール酸ナトリウムを含む再構成された高密度リポタンパク質(rHDL)製剤を、該急性MIイベントの約七(7)日以内に、患者に投与する工程であって、該アポA-Iと該ホスファチジルコリンとの間の比が、約1:20から約1:120(モル:モル)である、前記工程と;続いて、少なくとも四(4)週間、rHDL製剤をヒトに投与し、それによって、該ヒトの肝および/または腎機能において実質的な変更をもたらさずに、該ヒトの患者においてコレステロール引き抜き能(CEC)を増加させる工程と
を含み、該肝機能における実質的な変更が、正常値範囲の上限(ULN)の約2もしくは3倍を超えるALT;またはULNの少なくとも1.5~2倍の、総ビリルビンの増加であり;腎機能における該実質的な変更が、ベースライン値の約1.2~1.5倍以上の血清クレアチニンおよび/またはほぼ90mL/分/m2未満(例えば、90mL/分/1.73m2未満)のeGFRである、前記方法。
【請求項32】
アポA-I約0.5~1.5g/Lおよび/または約0.010~0.030g/g、ならびにスクロース約1.0%~6.0%w/w未満からなる群から選択されるレベルの
、アポA-I少なくとも6g、ホスファチジルコリン、安定剤およびコール酸ナトリウムを含む再構成された高密度リポタンパク質(rHDL)製剤であって、
急性MIイベントの約七(7)日以内の、ヒトの患者においてコレステロール引き抜き能(CEC)を増加させることにおける使用のために、該アポA-Iと該ホスファチジルコリンとの間の比が、約1:20から約1:120(モル:モル)であり、続いて、少なくとも四(4)週間該ヒトの患者に投与され、それによって、ヒトの肝および/または腎機能において実質的な変更をもたらさずに、該ヒトの患者においてコレステロール引き抜き能(CEC)を増加させ;
該肝機能における実質的な変更が、正常値範囲の上限(ULN)の約2もしくは3倍を超えるALTが;またはULNの少なくとも1.5~2倍の、総ビリルビンの増加;腎機能における該実質的な変更が、血清クレアチニンのベースライン値の約1.2~1.5倍以上および/またはeGFRほぼ90mL/分/m2未満(例えば、90mL/分/1.73m2未満)である、前記再構成された高密度リポタンパク質(rHDL)製剤。
【請求項33】
これまでMIイベントを経験したことがない、または治療開始前の7日以内にMIイベントを経験していない、中等度の腎機能障害(Mod RI)を伴うヒトの患者において、主要有害心臓イベント(MACE)のリスクを低下させるための方法であって、
アポリポタンパク質またはその断片、脂質、安定剤、場合により、界面活性剤を含む再構成された高密度リポタンパク質(rHDL)製剤を、患者に投与する工程であって、該アポリポタンパク質と該脂質との間の比は、約1:20から約1:120(モル:モル)であり、それによって、該患者においてMACEのリスクを低下させる前記工程
を含む前記方法。
【請求項34】
これまでMIイベントを経験したことがない、または治療開始前の7日以内にMIイベントを経験していない、中等度の腎機能障害(Mod RI)を伴うヒトの患者においてコレステロール引き抜き能(CEC)を増加させるための方法であって、
アポリポタンパク質またはその断片、脂質、安定剤、場合により、界面活性剤を含む再構成された高密度リポタンパク質(rHDL)製剤を、患者に投与する工程であって、該アポリポタンパク質と該脂質との間の比は、約1:20から約1:120(モル:モル)であり、それによって、該CECを増加させる前記工程
を含む前記方法。
【請求項35】
アポリポタンパク質またはその断片、脂質、安定剤、場合により、界面活性剤を含む再構成された高密度リポタンパク質(rHDL)製剤であって、
これまでMIイベントを経験したことがない、または治療開始前の7日以内にMIイベントを経験していない、中等度の腎機能障害(Mod RI)を伴うヒトの患者においてMACEのリスクを低下させる方法における使用のために、該アポリポタンパク質と該脂質との間の比が、約1:20から約1:120(モル:モル)である、前記再構成された高密度リポタンパク質(rHDL)製剤。
【請求項36】
アポリポタンパク質またはその断片、脂質、安定剤、場合により、界面活性剤を含む再構成された高密度リポタンパク質(rHDL)製剤であって、
これまでMIイベントを経験したことがない、または治療開始の7日以内にMIイベントを経験していない中等度の腎機能障害(Mod RI)を伴うヒトの患者において、コレステロール引き抜き能(CEC)を増加させる方法における使用のために、該アポリポタンパク質と該脂質との間の比が、約1:20から約1:120(モル:モル)である、前記再構成された高密度リポタンパク質(rHDL)製剤。
【請求項37】
rHDL製剤は、毎週、好ましくは、少なくとも約四(4)週間投与される、請求項33もしくは請求項34に記載の方法または請求項35もしくは請求項36に記載の使用の
ためのrHDL製剤。
【請求項38】
ヒトの患者においてコレステロール引き抜き能(CEC)を増加させる工程を含む、請求項33に記載の方法または請求項35に記載の使用のためのrHDL製剤。
【請求項39】
総CECの増加は、1.5倍~2.5倍の範囲となる、請求項34もしくは請求項38に記載の方法または請求項36もしくは請求項38に記載の使用のためのrHDL製剤。
【請求項40】
ABCA1-依存性コレステロール引き抜き能の増加は、約3倍~約5倍である、請求項34、38もしくは39に記載の方法または請求項36、38もしくは39に記載の使用のためのrHDL製剤。
【請求項41】
ヒトの患者は、血管造影用の造影剤の投与の12時間後より後に、rHDL製剤を最初に投与される、請求項33~40のいずれか1項に記載の使用のための方法またはrHDL製剤。
【請求項42】
rHDL製剤は、静脈内に(IV)注入される、請求項33~41のいずれか1項に記載の使用のための方法またはrHDL製剤。
【請求項43】
注入の速度は、1時間当たりアポリポタンパク質約1~3gである、請求項42に記載の使用のための方法またはrHDL製剤。
【請求項44】
治療は、腎および/または肝機能において実質的な変更を引き起こさない、請求項33~43のいずれか1項に記載の使用のための方法またはrHDL製剤。
【請求項45】
rHDL製剤におけるアポリポタンパク質の量は、少なくとも2gもしくは少なくとも6gである、請求項33~44のいずれか1項に記載の使用のための方法またはrHDL製剤。
【請求項46】
アポリポタンパク質は、アポ-AIもしくはその断片である、請求項33~45のいずれか1項に記載の使用のための方法またはrHDL製剤。
【請求項47】
安定剤は、約1.0%~6.0%w/w未満;約1.0~5.9%(w/w);約3.0~5.9%(w/w);約4.0~5.5%(w/w);約4.3~5.3%(w/w);もしくは約4.6~4.8%(w/w)の濃度でrHDL製剤中に存在する、請求項33~46のいずれか1項に記載の使用のための方法またはrHDL製剤。
【請求項48】
アポリポタンパク質と安定剤との間の比は、約1:1(w:w)~約1:7(w:w);約1:1(w:w)~約1:3(w:w);約1:1(w:w)~約1:2.4(w:w);もしくは約1:1(w:w)から1:2(w:w)未満である、請求項33~47のいずれか1項に記載の使用のための方法またはrHDL製剤。
【請求項49】
安定剤は、スクロースである、請求項33~48のいずれか1項に記載の使用のための方法またはrHDL製剤。
【請求項50】
アポリポタンパク質と脂質との間の比は、約1:20~約1:100(モル:モル);約1:20~約1:75(モル:モル);もしくは約1:45~1:65(モル:モル)である、請求項33~49のいずれか1項に記載の使用のための方法またはrHDL製剤。
【請求項51】
rHDL製剤は、界面活性剤を含む、請求項33~50のいずれか1項に記載の使用のための方法またはrHDL製剤。
【請求項52】
界面活性剤は、約0.5~1.5g/Lである、請求項51に記載の使用のための方法またはrHDL製剤。
【請求項53】
界面活性剤のレベルは、アポリポタンパク質1g当たり約0.015~0.030gである、請求項51もしくは請求項52に記載の使用のための方法またはrHDL製剤。
【請求項54】
界面活性剤は、胆汁酸塩もしくは胆汁酸である、請求項51~53のいずれか1項に記載の使用のための方法またはrHDL製剤。
【請求項55】
界面活性剤は、コール酸ナトリウムである、請求項54に記載の使用のための方法またはrHDL製剤。
【請求項56】
脂質は、リン脂質である、請求項33~55のいずれか1項に記載の使用のための方法またはrHDL製剤。
【請求項57】
リン脂質は、ホスファチジルコリンである、請求項56に記載の使用のための方法またはrHDL製剤。
【請求項58】
Mod RIを有するおよびこれまでMIイベントを経験したことがない、または治療開始前の7日以内にMIイベントを経験していないヒトの患者において、MACEのリスクを低下するおよび/またはコレステロール引き抜き能(CEC)を増加させるための方法であって、
アポA-I約0.5~1.5g/Lおよび/または約0.010~0.030g/g、ならびにスクロース約1.0%~6.0%w/w未満からなる群から選択されるレベルの、アポA-I少なくとも6g、ホスファチジルコリン、安定剤およびコール酸ナトリウムを含む再構成された高密度リポタンパク質(rHDL)製剤を、患者に投与する工程であって、該アポA-Iと該ホスファチジルコリンとの間の比が、約1:20から約1:120(モル:モル)であり、それによって、該ヒトの患者において、MACEのリスクを低下させるおよび/またはコレステロール引き抜き能(CEC)を増加させる前記工程
を含む前記方法。
【請求項59】
アポA-I約0.5~1.5g/Lおよび/または約0.010~0.030g/g、ならびにスクロース約1.0%~6.0%w/w未満からなる群から選択されるレベルの、アポA-I少なくとも6g、ホスファチジルコリン、安定剤およびコール酸ナトリウムを含む再構成された高密度リポタンパク質(rHDL)製剤であって、Mod RIを有するおよびこれまでMIイベントを経験したことがない、または治療開始前の7日以内にMIイベントを経験していないヒトの患者においてMACEのリスクを低下させるおよび/またはコレステロール引き抜き能(CEC)を増加させることにおける使用のために、該アポA-Iと該ホスファチジルコリンとの間の比が、約1:20から約1:120(モル:モル)である、前記再構成された高密度リポタンパク質(rHDL)製剤。
【請求項60】
患者は、これまでMIイベントを経験したことがない、請求項33~59のいずれか1項に記載の使用のための方法またはrHDL製剤。
【請求項61】
急性心筋梗塞(MI)イベントおよび/もしくはMACEの治療、予防もしくはそのリスクの低下、および/またはヒトの患者におけるコレステロール引き抜き能(CEC)の増加を補助するまたは容易にする1種またはそれ以上の治療薬が、さらに投与される、請
求項1~60のいずれか1項に記載の使用のための方法またはrHDL製剤。
【請求項62】
1種またはそれ以上の治療薬は、1種またはそれ以上の脂質調整剤;1種またはそれ以上のコレステロール吸収阻害剤;1種またはそれ以上の抗凝固剤;1種またはそれ以上の高血圧治療薬;および1個またはそれ以上の胆汁酸結合分子を含む、請求項61に記載の使用のための方法またはrHDL製剤。
【請求項63】
1種もしくはそれ以上の脂質調整剤は、HMG-CoA還元酵素阻害剤、フィブレート、プロタンパク質転換酵素サブチリシン/ケキシンタイプ9(PCSK9)阻害剤およびナイアシンを含む、請求項62に記載の使用のための方法またはrHDL製剤。
【請求項64】
1種もしくはそれ以上のHMG-CoA還元酵素阻害剤は、スタチンを含む、請求項63に記載の使用のための方法またはrHDL製剤。
【請求項65】
1種もしくはそれ以上のスタチンは、ロバスタチン、ロスバスタチン、アトルバスタチン、ピタバスタチンおよびシンバスタチンを含む、請求項64に記載の使用のための方法またはrHDL製剤。
【請求項66】
1種もしくはそれ以上のフィブレートは、フェノフィブレートおよびゲムフィブロジルを含む、請求項63に記載の使用のための方法またはrHDL製剤。
【請求項67】
1種もしくはそれ以上の脂質調整剤は、プロタンパク質転換酵素サブチリシン/ケキシンタイプ9(PCSK9)阻害剤を含む、請求項63に記載の使用のための方法またはrHDL製剤。
【請求項68】
1種もしくはそれ以上のコレステロール吸収阻害剤は、エゼチミブを含む、請求項62に記載の使用のための方法またはrHDL製剤。
【請求項69】
1種またはそれ以上のコレステロール吸収阻害剤は、スタチンと共に投与される、請求項62もしくは68に記載の使用のための方法またはrHDL製剤。
【請求項70】
1種またはそれ以上のコレステロール吸収阻害剤は、ロバスタチン、ロスバスタチン、アトルバスタチン、ピタバスタチンおよびシンバスタチンを含めた、1種もしくはそれ以上のスタチンと共に投与される、請求項69に記載の使用のための方法またはrHDL製剤。
【請求項71】
1種またはそれ以上の抗凝固剤は、ワルファリン、ビタミンKアンタゴニスト、ヘパリンもしくはそれらの誘導体、第Xa因子インヒビターおよびトロンビン阻害剤を含む、請求項62に記載の使用のための方法またはrHDL製剤。
【請求項72】
ヒトの患者は、中等度の腎機能障害(Mod RI)である、請求項1~14、請求項16~30のいずれか1項に記載の使用のための方法またはrHDL製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、急性心筋梗塞の治療に関する。より詳細には、本発明は、急性心筋梗塞を治療するためのある特定の低毒性の再構成された高密度リポタンパク質製剤の使用に関する。これまでまたは最近急性心筋梗塞(MI)イベントを経験していない患者を治療して、かかる患者における主要有害心イベント(MACE)のリスクを低下させるためのこのような製剤の使用をも記載する。
【背景技術】
【0002】
急性心筋梗塞(MI)の治療戦略の進歩にも関わらず、患者は、再発性の虚血イベントの、特に、イベント直後の数週間から数カ月においてリスクが高いままである1。再発性のイベントは、さらなるプラーク破綻または侵食によるものが最も一般的であり、著しい罹患率および死亡率に関連する2、3。これらは、インデックスMI管の部位で起こるおそれがあり、これらは、冠動脈の枝分かれのいかなる異なる部位でも等しく起こる可能性が高い2。低レベルの高密度リポタンパク質コレステロール(HDL-C)が、主要有害心イベント(MACE)についてのリスク因子であるけれども4~12、HDL-Cを上昇させるいくつかの療法に臨床成績の改善が伴わなかったため、HDLの上昇が、MACEを減少させるかどうかは依然として明らかでない13~17。これらの試験は、修正可能な高いリスクを伴う患者を濃縮できなかったこと、オフターゲットの毒性、または機能的HDLを上昇させることができなかったことにより制限されている。HDL機能のex-vivo測度であるコレステロール引き抜き能(CEC:Cholesterol efflux capacity)は、肝臓に輸送するために、動脈硬化性プラークから過剰のコレステロールを除去するHDLの能力として評価される。CECは、HDL-Cとは無関係である、MACEと相関するものであり、CECは、HDLを単独で上昇させる療法よりもむしろ、急性MI後速やかに働いて、コレステロール引き抜きを改善し、それによって、プラーク面積率を減少させ、脆弱なプラークを安定させる薬物療法を同定することにより、臨床成績を改善する上で実用的な可能性がある18~20。重要なことに、失敗に終わったHDL-Cを上昇させる試験の大部分は、長期にわたる薬物療法を評価し、療法は、コレステロール引き抜きが、著しく障害される期間である、心筋梗塞(MI)期間直後に開始されなかった21~23。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、急性心筋梗塞(MI)イベント後に患者を治療するための、再構成されたHDL(rHDL)製剤の使用を広く対象とする。ある特定の形態において、本発明は、コレステロール引き抜き能を増強し、肝または腎機能において有意な変更をもたらさないrHDLの注入の繰り返しによるMI患者の治療を提供する。いくつかの実施形態では、MI患者は、正常な腎機能を有する。いくつかの実施形態では、MI患者は、軽度の腎機能障害を有する。いくつかの実施形態では、MI患者は、中等度の腎機能障害を有する。本発明はまた、これまでMIイベントを経験したことがない患者、または最近MIイベントを経験していない(すなわち、治療開始前の7日以内にMIイベントを経験していない)患者において、主要有害心イベント(MACE)のリスクを低下させるためのrHDL製剤の使用を広く対象とする。詳細な実施形態では、かかる患者は、中等度の腎機能障害を有する。いくつかの実施形態では、かかる患者は、軽度の腎機能障害を有する。いくつかの実施形態では、かかる患者は、正常な腎機能を有する。これまでまたは最近MIイベントがなかった患者の治療は、rHDLの注入の繰り返しによるものとなり得、コレステロール引き抜き能を増強することができ、好ましい実施形態では、肝または腎機能において実質的な変更をもたらさない。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の一態様は、急性心筋梗塞(MI)イベント後にヒトの患者においてコレステロール引き抜き能(CEC)を増加させるための方法であって、急性MIイベントの約七(7)日以内に、アポリポタンパク質またはその断片、脂質、安定剤、場合により、界面活性剤を含む再構成された高密度リポタンパク質(rHDL)製剤を、患者に投与する工程であって、アポリポタンパク質と脂質との間の比は、約1:20から約1:120(モル:モル)である、工程と;
続いて、好ましくは、少なくとも約四(4)週間、rHDL製剤を患者に投与し、それによって、ヒトの肝もしくは腎機能において実質的な変更をもたらさずに、コレステロール引き抜き能(CEC)を増加させる工程と
を含む方法を提供する。
【0005】
適切には、急性MIイベントの約七(7)日以内の用量は、再構成された高密度リポタンパク質(rHDL)製剤の初回量である。続いて、患者は、初回量からおよび初回量を含めて、好ましくは、少なくとも約四(4)週間にわたって、合計が(初回量を含めて)少なくとも4回の用量のため、rHDL製剤の少なくとも三(3)回の用量がさらに投与される。治療期間は、rHDLの初回量の投与から、最終投与用量の1週間後までの期間として定義され得る。
【0006】
本発明の関連した態様は、アポリポタンパク質またはその断片、脂質、安定剤、場合により、界面活性剤を含む再構成された高密度リポタンパク質(rHDL)製剤を提供し、アポリポタンパク質と脂質との間の比は、急性心筋梗塞(MI)イベント後に、ヒトの患者において、コレステロール引き抜き能(CEC)を増加させることにおける使用のために、約1:20から約1:120(モル:モル)であり、rHDL製剤は、急性MIイベントの約七(7)日以内に、ヒトの患者に投与され、次いで、続いて、好ましくは、少なくとも約四(4)週間患者に投与される。
【0007】
本発明の他の態様は、ヒトの患者において急性心筋梗塞(MI)イベントを治療するための方法であって、急性MIイベントの約七(7)日以内に、アポリポタンパク質またはその断片、脂質、安定剤、場合により、界面活性剤を含む再構成された高密度リポタンパク質(rHDL)製剤を患者に投与する工程であって、アポリポタンパク質と脂質との間の比は、約1:20から約1:120(モル:モル)である、工程と;
続いて、好ましくは、少なくとも約四(4)週間、rHDL製剤を患者に投与し、それによって、患者の肝もしくは腎機能において実質的な変更をもたらさずに、患者において急性心筋梗塞(MI)イベントを治療する工程と
を含む方法を提供する。
【0008】
適切には、急性MIイベントの約七(7)日以内の用量は、再構成された高密度リポタンパク質(rHDL)製剤の初回量である。続いて、患者は、初回量からおよび初回量を含めて、好ましくは、少なくとも約四(4)週間にわたって、合計が(初回量を含めて)少なくとも4回の用量のため、rHDL製剤の少なくとも三(3)回の用量がさらに投与される。治療期間は、rHDLの初回量の投与から、最終投与用量の1週間後までの期間として定義され得る。
【0009】
本発明の関連した態様は、アポリポタンパク質またはその断片、脂質、安定剤、場合により、界面活性剤を含む再構成された高密度リポタンパク質(rHDL)製剤を提供し、アポリポタンパク質と脂質との間の比は、ヒトの患者において急性心筋梗塞(MI)イベントを治療することにおける使用のための、約1:20から約1:120(モル:モル)であり、rHDL製剤は、急性MIイベントの約七(7)日以内に、ヒトの患者に投与さ
れ、次いで、続いて、好ましくは、少なくとも約四(4)週間患者に投与される。
【0010】
本発明の他の態様は、これまでMIイベントを経験したことがないヒトの患者、または治療開始前の7日以内にMIイベントを経験していないヒトの患者において、主要有害心臓イベント(MACE)のリスクを低下させるための方法であって、
アポリポタンパク質またはその断片、脂質、安定剤、場合により、界面活性剤を含む再構成された高密度リポタンパク質(rHDL)製剤を、患者に投与する工程であって、アポリポタンパク質と脂質との間の比は、約1:20から約1:120(モル:モル)であり、それによって、患者においておよびいくつかの実施形態では、患者の肝もしくは腎機能において実質的な変更をもたらさずに、MACEのリスクを低下させる工程
を含む方法を提供する。
【0011】
本発明の関連した態様は、アポリポタンパク質またはその断片、脂質、安定剤、場合により、界面活性剤を含む再構成された高密度リポタンパク質(rHDL)製剤を提供し、これまでMIイベントを経験したことがないヒトの患者、または治療開始前の7日以内にMIイベントを経験していないヒトの患者において、およびいくつかの実施形態では、患者の肝もしくは腎機能において実質的な変更をもたらさずに、MACEのリスクを低下させる方法における使用のために、アポリポタンパク質と脂質との間の比は、約1:20から約1:120(モル:モル)である。
【0012】
本発明の他の態様は、これまでMIイベントを経験したことがないヒトの患者、または治療開始前の7日以内にMIイベントを経験していないヒトの患者において、CECを増加させるための方法であって、
アポリポタンパク質またはその断片、脂質、安定剤、場合により、界面活性剤を含む再構成された高密度リポタンパク質(rHDL)製剤を、患者に投与する工程であって、アポリポタンパク質と脂質との間の比は、約1:20から約1:120(モル:モル)であり、それによって、コレステロール引き抜き能(CEC)を増加させ、いくつかの実施形態では、ヒトの肝もしくは腎機能において実質的な変更をもたらさない工程
を含む方法を提供する。
【0013】
本発明の関連した態様は、アポリポタンパク質またはその断片、脂質、安定剤、場合により、界面活性剤を含む再構成された高密度リポタンパク質(rHDL)製剤を提供し、これまでMIイベントを経験したことがないヒトの患者、または治療開始前の7日以内にMIイベントを経験していないヒトの患者において、およびいくつかの実施形態では、ヒトの肝もしくは腎機能において実質的な変更をもたらさずに、コレステロール引き抜き能(CEC)を増加させる方法における使用のために、アポリポタンパク質と脂質との間の比は、約1:20から約1:120(モル:モル)である。
【0014】
患者が、これまでMIイベントを経験したことがない、もしくは治療開始前の7日以内にMIイベントを経験していない実施形態において、患者は、正常な腎機能、中等度の腎機能障害を有し得る、または軽度の腎機能障害を有し得る。詳細な実施形態では、患者は、実施例2などの場合、中等度の腎機能を有する。
【0015】
好ましくは、本明細書に記載した方法によって、ヒトにおけるコレステロール引き抜き能(CEC)を増加させる。
【0016】
前述の態様のいくつかの実施形態では、総CECは、1.5倍から2.5倍の範囲で増加される。
【0017】
前述の態様のいくつかの実施形態では、ABCA1-依存性CECは、約3倍から約5
倍の範囲で増加される。
【0018】
適切には、前述の態様によれば、患者が、最近急性MIイベントを経験している場合、患者は、急性MIイベントの5日以内にrHDLを最初に投与される。いくつかの実施形態では、ヒトの患者は、急性MIイベント後または血管造影用の造影剤の投与後12時間より後に、rHDL製剤を最初に投与される。
【0019】
好ましくは、rHDL製剤のその後の投与は、毎週、好ましくは、少なくとも四(4)週間である。
【0020】
患者が、これまでMIイベントを経験したことがない、または治療開始前の7日以内にMIイベントを経験していない場合、rHDL製剤の初回の投与は、任意の時間となり得、その後、1、2、3もしくは4週間、またはそれ以上にわたってのような、適当な時点で、投与してもよい。好ましくは、rHDL製剤のその後の投与は、毎週、好ましくは、四(4)週間、またはそれ以上である。
【0021】
適切には、前述の態様によれば、rHDL製剤は、静脈内に(IV)注入される。
【0022】
適切には、アポリポタンパク質は、アポAIである。好ましくは、rHDL製剤中のアポAIの量は、少なくとも2gまたは少なくとも4gまたは少なくとも6gである。詳細な実施形態では、rHDL製剤中のアポAIの量は、2gから8gである。一実施形態では、rHDL製剤中のアポAIの量は、6gである。
【0023】
適切には、安定剤は、スクロースである。好ましくは、スクロースは、約1.0%から6.0%w/w未満の濃度でrHDL製剤中に存在する。
【0024】
詳細な実施形態では、急性MIイベント後に、ヒトの患者において、コレステロール引き抜き能(CEC)を増加させるための方法であって、急性心筋梗塞(MI)イベントの約七(7)日以内に、アポA-I少なくとも6g、ホスファチジルコリン、安定剤およびコール酸ナトリウムを含む再構成された高密度リポタンパク質(rHDL)製剤を、アポA-I約0.5~1.5g/Lおよび/または約0.010~0.030g/g、ならびにスクロース約1.0%~6.0%w/w未満からなる群から選択されるレベルで、患者に投与する工程であって、アポA-Iとホスファチジルコリンとの間の比は、約1:20から約1:120(モル:モル)である、工程と;続いて、少なくとも四(4)週間、rHDL製剤をヒトに投与し、それによって、ヒトの肝および/または腎機能において実質的な変更をもたらさずに、ヒトの患者においてコレステロール引き抜き能(CEC)を増加させる工程とを含み、肝機能における実質的な変更は、正常値範囲の上限(ULN)の約2もしくは3倍を超えるALT;またはULNの少なくとも1.5~2倍の、総ビリルビンの増加であり;腎機能における実質的な変更は、ベースライン値の約1.2~1.5倍を超えるもしくはそれに等しい血清クレアチニンがおよび/または実質的に、90mL/分/m2未満(例えば、実質的に90mL/分/1.73m2未満)のeGFRである、方法を提供する。例えば、腎機能における実質的な変更は、eGFRが実質的に90mL/分/1.73m2未満であることにより示され得る。さらにまたはあるいは、患者は、腎機能の実質的な変更がないことを考慮してもよく、rHDL治療後のeGFRは、以下により詳細に論じる通り、治療前のeGFRが30、20または10mL/分/1.73m2以内である。
【0025】
関連する詳細な実施形態では、アポA-I約0.5~1.5g/Lおよび/または約0.010~0.030g/g、ならびにスクロース約1.0%~6.0%w/w未満からなる群から選択されるレベルで、アポA-I少なくとも6g、ホスファチジルコリン、安
定剤およびコール酸ナトリウムを含む再構成された高密度リポタンパク質(rHDL)製剤が提供され、急性MIイベントの約七(7)日以内の、ヒトの患者において、コレステロール引き抜き能(CEC)を増加させることにおける使用のために、アポA-Iとホスファチジルコリンとの間の比は、約1:20から約1:120(モル:モル)であり、rHDL製剤は、少なくとも約四(4)週間、ヒトの患者に、続いて投与され、それによって、ヒトの肝および/または腎機能において実質的な変更をもたらさずに、ヒトの患者においてコレステロール引き抜き能(CEC)を増加させ;肝機能における実質的な変更は、正常値範囲の上限(ULN)の約2もしくは3倍を超えるALT;またはULNの少なくとも1.5~2倍の、総ビリルビンの増加であり;腎機能における実質的な変更は、ベースライン値の約1.2~1.5倍を超えるもしくはそれに等しい血清クレアチニンおよび/または実質的に90mL/分/m2未満(例えば、実質的に90mL/分/1.73m2未満)のeGFRである。例えば、腎機能における実質的な変更は、eGFRが実質的に90mL/分/1.73m2未満であることにより示され得る)。さらにまたはあるいは、患者は、腎機能の実質的な変更がないことを考慮してもよく、rHDL治療後のeGFRは、以下により詳細に論じる通り、治療前のeGFRが30、20または10mL/分/1.73m2以内である。
【0026】
さらなる実施形態では、これまでMIイベントを経験したことがないヒトの患者、または治療開始前の7日以内にMIイベントを経験していないヒトの患者において、MACEのリスクを低下させるおよび/またはCECを増加させるための方法であって、アポA-I約0.5~1.5g/Lおよび/または約0.010~0.030g/g、ならびにスクロース約1.0%~6.0%w/w未満からなる群から選択されるレベルで、アポA-I少なくとも6g、ホスファチジルコリン,安定剤およびコール酸ナトリウムを含む再構成された高密度リポタンパク質(rHDL)製剤を患者に投与する工程であって、アポA-Iとホスファチジルコリンとの間の比は、約1:20から約1:120(モル:モル)であり、それによって、MACEのリスクを低下させる、および/または患者においてCECを増加させる工程を含む方法が提供される。いくつかの実施形態では、患者におけるMACEのリスクのこうした低下および/またはCECの増加は、ヒトの肝および/または腎機能において実質的な変更をもたらさずに生じる。
【0027】
関連する詳細な実施形態では、アポA-I約0.5~1.5g/Lおよび/または約0.010~0.030g/g、ならびにスクロース約1.0%~6.0%w/w未満からなる群から選択されるレベルで、アポA-I少なくとも6g、ホスファチジルコリン、安定剤およびコール酸ナトリウムを含む再構成された高密度リポタンパク質(rHDL)製剤が提供され、これまでMIイベントを経験したことがないヒトの患者、または治療開始前の7日以内にMIイベントを経験していないヒトの患者において、MACEのリスクを低下させるおよび/またはCECを増加させる方法における使用のために、アポA-Iとホスファチジルコリンとの間の比は、約1:20から約1:120(モル:モル)である。いくつかの実施形態では、患者におけるMACEのリスクの低下および/またはCECの増加は、ヒトの肝および/または腎機能において実質的な変更をもたらさずに生じる。
【0028】
本明細書に開示される方法が、1種またはそれ以上の追加の治療薬の投与を含むことができることも理解されたい。同様に、本明細書に開示される特定の方法における使用のための、本明細書に開示される再構成された高密度リポタンパク質(rHDL)製剤は、1種またはそれ以上の追加の治療薬と共に使用することができる。適切には、1種またはそれ以上の追加の治療薬は、それだけには限らないが、急性心筋梗塞(MI)イベントおよび/もしくはMACEの治療、予防もしくはそのリスクの低下、および/またはヒトの患者におけるコレステロール引き抜き能(CEC)の増加を補助するまたは容易にすることができる。
【0029】
本明細書に開示される再構成された高密度リポタンパク質(rHDL)製剤が使用されるまたは1種もしくはそれ以上の追加の治療薬と共に本明細書において指定される、ある特定の方法における使用のためである場合、これは、1種またはそれ以上の追加の治療薬(例えば、1種またはそれ以上の脂質調整剤;1種またはそれ以上のコレステロール吸収阻害剤;1種またはそれ以上の抗凝固剤;1種またはそれ以上の高血圧治療薬;および1個またはそれ以上の胆汁酸結合分子)と組み合わせた、その方法における使用のための、本明細書で言及したrHDL製剤として記載することができる。これはまた、本明細書で言及したrHDL製剤と組み合わせた、その方法における使用のための、1種もしくはそれ以上の脂質調整剤;1種もしくはそれ以上のコレステロール吸収阻害剤;1種もしくはそれ以上の抗凝固剤;1種もしくはそれ以上の高血圧治療薬;および1個もしくはそれ以上の胆汁酸結合分子から選択される、1種またはそれ以上の治療薬として記載することができる。本明細書において指定されるある特定の方法における合わせた配合物としての使用のための、本明細書で言及したrHDL製剤および1種またはそれ以上の追加の治療薬(例えば、1種またはそれ以上の脂質調整剤;1種またはそれ以上のコレステロール吸収阻害剤;1種またはそれ以上の抗凝固剤;1種またはそれ以上の高血圧治療薬;および1個またはそれ以上の胆汁酸結合分子)がやはり提供される。合わせた配合物の薬剤は、同時のまたは逐次の使用のためとなり得る。
【0030】
1種またはそれ以上の追加の治療薬には、1種またはそれ以上の脂質調整剤;1種またはそれ以上のコレステロール吸収阻害剤;1種またはそれ以上の抗凝固剤;1種またはそれ以上の高血圧治療薬;および1個またはそれ以上の胆汁酸結合分子を含むことができる。
【0031】
本明細書にわたって、別段の指示がない限り,「comprise」、「comprises」および「comprising」は、定められた整数または整数の群が、1もしくはそれ以上の他の定められていない整数または整数の群を含むことができるように、排他的にではなく包括的に使用される。
【0032】
不定冠詞「a」および「an」は、単数としてまたは不定冠詞が参照する、1人を超えるもしくは単数を超える対象を除くその他のものとして、読み取るべきではない。例えば、「a」protein(タンパク質)には、1種のタンパク質、1種もしくはそれ以上のタンパク質または複数種のタンパク質が含まれる。
【0033】
本明細書で使用される場合、「最近MIイベントを経験していない」ヒトの患者とは、患者が、治療を開始する前の7日以内に、MIイベントを経験していないことを意味する。すなわち、本明細書に記載したrHDL製剤の第1の投与時に、患者がMIイベントを経験してから8日またはそれ以上である。いくつかの実施形態では、そのような患者は、治療開始前の8、9もしくは10日以内、または2、3、もしくは4週間、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、もしくは12カ月、またはそれ以上、1、2、3、4、5、10、15、20、30、40、50、60、70、80、もしくは90年のように、MIイベントを経験していない。さらにまたはあるいは、いくつかの実施形態では、かかる患者は、上記で参照された期間のうちに1回生じたMIイベントを診断されていない。
【0034】
上記で述べた通り、本明細書で使用される場合、「肝機能における実質的な変更」とは、正常値範囲の上限(ULN)の約2倍もしくは3倍を超えるALT;またはULNの少なくとも1.5~2倍の、総ビリルビンの増加を意味し、語句「肝機能の有意な変更」と同義的に使用される。
【0035】
上記で述べた通り、本明細書で使用される場合、「腎機能における実質的な変更」とは
、血清クレアチニンが、ベースライン値の約1.2~1.5倍以上であるかつ/またはeGFRが実質的に90mL/分/m2未満(例えば、実質的に90mL/分/1.73m2未満)であることを意味する。例えば、腎機能における実質的な変更は、eGFRが実質的に90mL/分/1.73m2未満)であることにより示すことができる。さらにまたはあるいは、患者は、腎機能の実質的な変更がないことを考慮してもよく、rHDL治療後のeGFRは、以下により詳細に論じる通り、治療前のeGFRが30、20または10mL/分/1.73m2である。本明細書で使用される場合、「腎機能における実質的な変更」は、語句「肝機能の有意な変更」と同義的に使用される。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図2】第1のMACEの時間対発生率を示す図である。CV死、非致死性MI、虚血性脳卒中、および不安定狭心症のための入院の複合である。112日目の破線は、試験来診の最終を示す。
【
図3】第1の探索的MACEの時間対発生率を示す図である。CV死、非致死性MI、および脳卒中の複合である。112日目の破線は、試験来診の最終を示す。
【
図4】ランダム化から死亡までの日数を示す図である。
【
図5】中等度の腎機能障害(Mod RI)または正常な腎機能(NRF)を伴う対象におけるCSL112による注入後のアポA-Iプロファイルを示す図である。示された値は、標準偏差に加えた、(ベースライン補正された)平均である。
【
図6A】中等度の腎機能障害(Mod RI)または正常な腎機能(NRF)を伴う対象におけるCSL112による注入後のコレステロール引き抜き能(CEC)およびpre-β1-HDL値を示す図である。示された値は、標準偏差に加えた、(ベースライン補正された)平均である。
【
図6B】中等度の腎機能障害(Mod RI)または正常な腎機能(NRF)を伴う対象におけるCSL112による注入後のコレステロール引き抜き能(CEC)およびpre-β1-HDL値を示す図である。示された値は、標準偏差に加えた、(ベースライン補正された)平均である。
【
図7A】中等度の腎機能障害(Mod RI)または正常な腎機能(NRF)を伴う対象におけるコレステロール引き抜き能(CEC)およびpre-β1-HDL値に対するCSL112の投与量の増加の効果を示す図である。回帰線と平行して個別のデータポイントが示される。
【
図7B】中等度の腎機能障害(Mod RI)または正常な腎機能(NRF)を伴う対象におけるコレステロール引き抜き能(CEC)およびpre-β1-HDL値に対するCSL112の投与量の増加の効果を示す図である。回帰線と平行して個別のデータポイントが示される。
【
図8】中等度の腎機能障害(Mod RI)および正常な腎機能(NRF)を伴う対象におけるCSL112による注入後の、非エステル化コレステロール(HDL-UC)のエステル化コレステロール(HDL-EC)への転換を示す図である。示された値は、CSL112 6gの場合の、標準偏差に加えた、(ベースライン補正された)平均である。
【
図9】対象の配列を示す図である。対象が、安全性フォローアップ期間/来診8回目までおよびそれらを含めた、予定された全試験来診を完了した場合、対象は、試験を終了したとみなされる。
【
図10】AEGIS-Iの集合箱ヒゲ図ならびに腎機能、来診および治療(安全性対象集団)によるベースライン値(中央測定施設)からの2001血清クレアチニンの変化を示す図である。eGFR=推定糸球体ろ過率である。注:各箱の末端は、上方および下方四分位数を表し、中央値は、箱の内側の横線によりしるし付けされ、円(CSL112)および四角(プラセボ)は、平均値を表す。2つの垂直のひげは、それぞれ、下方および上方四分位数から最小および最大の非外れ値に伸びている。外れ値は、各ひげの終わりを超えて個別のデータポイントとして示される。傾向をより良く同定するために、Y-軸は、切断されており、その結果、極値は示されない。CSL112-2001試験来診7回目、29日目(最後の注入の7~10日後)には、試験治療を中断したまたは試験早期から中止した対象についてのデータが含まれる。重症腎機能障害(eGFR<30mL/分/1.73m
2)を伴う対象は、集計分析から除外される。予定された試験日[X]:AEGIS-I来診/2001来診-2日目:2a/3、8日目:3/4、15日目:4/5、22日目:5/6、29日目:6/7
【
図11A】AEGIS-Iの集合箱ヒゲ図ならびに血管造影および第1の用量の間の時間、腎機能、来診および治療(安全性対象集団)によるベースライン値(中央測定施設)からの2001年血清クレアチニンの変化を示す図である。A:サブグループ:12~<24時間;B:サブグループ:24~<48時間;C:サブグループ:>=48時間。eGFR=推定糸球体ろ過率。注:各箱の末端は、上方および下方四分位数を表し、中央値は、箱の内側の横線によりしるし付けされ、円(CSL112)および四角(プラセボ)は、平均値を表す。2つの垂直のひげは、それぞれ、下方および上方四分位数から最小および最大の非外れ値に伸びている。外れ値は、各ひげの終わりを超えて個別のデータポイントとして示される。傾向をより良く同定するために、Y-軸は、切断されており、その結果、極値は示されない。CSL112-2001試験来診7回目、29日目(最後の注入の7~10日後)には、試験治療を中断したまたは試験早期から中止した対象についてのデータが含まれる。重症腎機能障害(eGFR<30mL/分/1.73m
2)を伴う対象は、集計分析から除外される。予定された試験日[X]:AEGIS-I来診/2001来診-2日目:2a/3、8日目:3/4、15日目:4/5、22日目:5/6、29日目:6/7。
【
図11B】AEGIS-Iの集合箱ヒゲ図ならびに血管造影および第1の用量の間の時間、腎機能、来診および治療(安全性対象集団)によるベースライン値(中央測定施設)からの2001年血清クレアチニンの変化を示す図である。A:サブグループ:12~<24時間;B:サブグループ:24~<48時間;C:サブグループ:>=48時間。eGFR=推定糸球体ろ過率。注:各箱の末端は、上方および下方四分位数を表し、中央値は、箱の内側の横線によりしるし付けされ、円(CSL112)および四角(プラセボ)は、平均値を表す。2つの垂直のひげは、それぞれ、下方および上方四分位数から最小および最大の非外れ値に伸びている。外れ値は、各ひげの終わりを超えて個別のデータポイントとして示される。傾向をより良く同定するために、Y-軸は、切断されており、その結果、極値は示されない。CSL112-2001試験来診7回目、29日目(最後の注入の7~10日後)には、試験治療を中断したまたは試験早期から中止した対象についてのデータが含まれる。重症腎機能障害(eGFR<30mL/分/1.73m
2)を伴う対象は、集計分析から除外される。予定された試験日[X]:AEGIS-I来診/2001来診-2日目:2a/3、8日目:3/4、15日目:4/5、22日目:5/6、29日目:6/7。
【
図11C】AEGIS-Iの集合箱ヒゲ図ならびに血管造影および第1の用量の間の時間、腎機能、来診および治療(安全性対象集団)によるベースライン値(中央測定施設)からの2001年血清クレアチニンの変化を示す図である。A:サブグループ:12~<24時間;B:サブグループ:24~<48時間;C:サブグループ:>=48時間。eGFR=推定糸球体ろ過率。注:各箱の末端は、上方および下方四分位数を表し、中央値は、箱の内側の横線によりしるし付けされ、円(CSL112)および四角(プラセボ)は、平均値を表す。2つの垂直のひげは、それぞれ、下方および上方四分位数から最小および最大の非外れ値に伸びている。外れ値は、各ひげの終わりを超えて個別のデータポイントとして示される。傾向をより良く同定するために、Y-軸は、切断されており、その結果、極値は示されない。CSL112-2001試験来診7回目、29日目(最後の注入の7~10日後)には、試験治療を中断したまたは試験早期から中止した対象についてのデータが含まれる。重症腎機能障害(eGFR<30mL/分/1.73m
2)を伴う対象は、集計分析から除外される。予定された試験日[X]:AEGIS-I来診/2001来診-2日目:2a/3、8日目:3/4、15日目:4/5、22日目:5/6、29日目:6/7。
【
図12】AEGIS-Iの集合箱ヒゲ図ならびに腎機能、来診および治療(安全性対象集団)によるベースライン値(中央測定施設)からの2001血清クレアチニンの変化を示す図である。eGFR=推定糸球体ろ過率である。注:各箱の末端は、上方および下方四分位数を表し、中央値は、箱の内側の横線によりしるし付けされ、円(CSL112)および四角(プラセボ)は、平均値を表す。2つの垂直のひげは、それぞれ、下方および上方四分位数から最小および最大の非外れ値に伸びている。外れ値は、各ひげの終わりを超えて個別のデータポイントとして示される。CSL112-2001試験来診7回目、29日目(最後の注入の7~10日後)には、試験治療を中断したまたは試験早期から中止した対象についてのデータが含まれる。重症腎機能障害(eGFR<30mL/分/1.73m
2)を伴う対象は、集計分析から除外される。予定された試験日[X]:AEGIS-I来診/2001来診-2日目:2a/3、8日目:3/4、15日目:4/5、22日目:5/6、29日目:6/7。
【
図13】ベースライン、来診2、3および6回目に、CSL112_2001(実施例3)からCSL112(6g)を投与されている患者母集団から、AEGIS-I(実施例1)からCSL112を投与されている患者における、総コレステロール引き抜き能CEC(%)を示す図である。
【
図14】ベースライン、来診2、3および6回目に、CSL112_2001(実施例3)からCSL112(6g)を投与されている患者母集団から、AEGIS-I(実施例1)からCSL112を投与されている患者における、コレステロールABCA1非依存性CEC引き抜き能(%)を示す図である。
【
図15】ベースライン、来診2、3および6回目に、CSL112_2001(実施例3)からCSL112(6g)を投与されている患者母集団から、AEGIS-I(実施例1)からCSL112を投与されている患者における、コレステロールABCA1依存性CEC引き抜き能(%)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
いくつかの態様では、本発明は、再構成されたHDL(rHDL)製剤の投与が、急性MI患者を治療する上で有用となり得るという発見を前提としている。より詳細には、CSL112のようなrHDL製剤の注入毎週四(4)回は、有効であり、耐容性があり、肝もしくは腎機能におけるいかなる有意な変更または他の安全性上の懸念をも伴わない。CSL112のような製剤は、患者への投与後にコレステロール引き抜き(CEC)を増強する。この効果は、正常な腎機能および軽度の腎機能障害を伴う急性MI患者について示されている(実施例1を参照のこと)。
【0038】
いくつかの態様では、本発明は、中等度の腎機能障害(Mod RI)を伴う患者への再構成されたHDL(rHDL)製剤の投与によって、コレステロール引き抜き(CEC)が増強されるという発見に関する。CECに対する類似の効果は、実施例1に示される結果によると、rHDL製剤の投与後に、健常者および中等度の腎機能障害患者において観察された。さらに、pre-β1-HDLの増加は、正常な腎機能を伴う患者の場合よりも中等度の腎機能障害(Mod RI)を伴う患者の場合の方が大きかった(実施例2を参照のこと)。これらの結果は、治療開始前の7日以内にMIイベントを経験しなかったMod RI対象において得られた。したがって、いくつかの態様では、本発明は、これまでMIイベントを経験したことがない患者、または最近MIイベントを経験していない患者への再構成されたHDL(rHDL)製剤の投与によって、コレステロール引き抜き(CEC)が増強され、したがって、MACEのリスクを低下させるのに有用となり得るという発見に関する。かかる対象は、中等度の腎機能障害、軽度の腎機能障害、または正常な腎機能を有し得る。さらなる実施形態では、実施例3に示されたデータは、Mod
RIを伴う対象へのrHDLの投与の安全性および効能を示し、これらの患者は、まだ
対応されない重要な医学上の必要性を有するMI患者の重要な高リスクサブセットとなっている。
【0039】
理論に縛られることを望むわけではないが、Mod RI患者において達成されたこれらの結果は、二重の意味で臨床的に有意義である。初めに、急性MI患者におけるCECに対するrHDLの効果は、Mod RI患者において反復させることができるということが確認されている。さらに、CECの増加が、急性MI患者でなかった患者において、rHDL投与後に観察されたという事実は、rHDLの使用が、CECを増加させるその能力に基づいて、MACEのリスクを低下させることを裏付けている。
【0040】
本明細書に開示される通り、いくつかの態様では、本発明は、急性MIイベント後のヒトの患者の治療を提供する。MIは、通常、冠動脈心疾患(CHD)、または冠動脈疾患、虚血性心疾患、アテローム性動脈硬化症、狭心症、心室性不整脈および/または心室細動を含めた関連疾患、障害もしくは状態の結果である。CHDは、心筋の潜在的に致命的な破壊である、心筋梗塞(MI)をもたらすおそれがある、冠動脈におけるコレステロールの徐々の蓄積によって生じる。
【0041】
急性冠症候群(ACS)とは、ST部分上昇型心筋梗塞(STEMI)の場合の臨床像から非ST部分上昇型心筋梗塞(NSTEMI)または不安定狭心症(UA)において見出される臨床像までに及ぶ臨床像のスペクトルを意味する。これは、動脈硬化性プラークの破裂または侵食および梗塞関連動脈の部分的なもしくは完全な血栓症をほぼ常に伴う。
【0042】
本明細書において一般に用いられる通り、「主要有害心臓イベント」または「MACE」には、心血管死、致死性もしくは非致死性MI、UA、致死性もしくは非致死性脳卒中、血行再建手順の必要性、心不全、心停止の蘇生、および/または虚血の新たな客観的証拠、ならびにこれらのイベント型のそれぞれに属するイベントのすべてのサブカテゴリー(例えば、STEMIおよびNSTEMI、緊急の入院を要するUAの考証)が含まれる。いくつかの実施形態では、MACEは、心血管死、致死性もしくは非致死性MI、(緊急の入院を要するUAを含めた)UA、致死性もしくは非致死性脳卒中、および/または血行再建のリスクまたは血行再建に伴う危険である。いくつかの実施形態では、MACEは、心血管死、致死性または非致死性MI、および虚血性脳卒中である。いくつかの実施形態では、MACEは、心血管死、致死性または非致死性MI、例えば、MIである。いくつかの実施形態では、rHDLのような製剤により冠動脈心疾患を治療するまたは予防する(または冠動脈心疾患のリスクを低下させる、または急性MIがあった患者もしくは急性MIがなかった患者、または治療開始前の7日以内にMIイベントを経験していない患者を含めて、MACEのリスクがある患者を治療する)ことによって、MACEの発生の可能性が低くなり、MACEの発生が遅延し、かつ/またはMACEの重症度が下がる。これらのそれぞれの場合、MACEに対する効果は、一般にMACEに対する効果(例えば、MACEのすべてのタイプの発生の可能性の低下)、MACEの1つもしくはそれ以上の特定のタイプに対する効果、例えば、死亡、非致死性MI、緊急の入院を要するUA、非致死性脳卒中、または血行再建手順についての必要性または血行再建手順に関するリスク、またはその組み合わせの可能性の低下に関することもある。
【0043】
本明細書に記載したいくつかの態様によれば、rHDL製剤は、i)最近MIを経験した(すなわち、治療開始前の7日以内にMIを経験した)患者においてさらなるMACEのリスクを低下させるまたは(ii)MIを経験していない、もしくは最近MIイベントを経験していない(すなわち、治療開始前の7日以内にMIイベントを経験していない)患者においてMACEのリスクを低下させることにおける使用のためである。これらの文脈において、MACEのリスクを低下させるとは、MACEの発生の可能性を低くする、MACEの発生を遅延させる、および/またはMACEの重症度を下げることを意味し得
る。これは、CECを増加させることにより起こり得;したがって、好ましい実施形態では、MACEのリスク(またはさらなるMACEのリスク)の低下は、CECの増加、より好ましくは、ABCA1-依存性CECの増加に伴う。
【0044】
MACEのリスクがある患者には、MIを経験した患者、および冠動脈心疾患または上記に記載した関連疾患を伴う患者が含まれる。かかる患者は、本発明において対象として特に想定される。
【0045】
用語「心筋梗塞」(「急性心筋梗塞」、「急性MI」または「AMI」とも称する)は、当技術分野で十分に理解され、より一般的に使用される用語「心臓発作」と同義である。血流が、心筋への損傷を引き起こす心臓の一部を停止する場合、急性MIは起こる。急性MIは、心不全、(重篤なタイプを含めて)不規則な心拍、心原性ショック、または心停止を引き起こすおそれがある。
【0046】
急性MIの主な原因は、冠動脈疾患であり、急性MIは、動脈硬化性プラークの破裂によって引き起こされる冠動脈の封鎖によってしばしば生じる。危険因子には、高血圧、喫煙、糖尿病、運動不足、肥満、高血中コレステロール、不十分な食事、および過剰なアルコール摂取が含まれる。
【0047】
急性MIは、心電図(ECG、これにより、急性MIがST部分上昇型心筋梗塞(STEMI)または非ST部分上昇型心筋梗塞(NSTEMI)であるか否かを決定することができる)、血液検査(例えば、トロポニンを検出するため)および冠血管造影図により一般に診断される。したがって、急性MI患者は、STEMIまたはNSTEMIを経験するおそれがある。急性MIを決定するための認識される基準は、例えば、Thygesenらにおいて記載される30。
【0048】
理論に縛られずに、(これらの例で示される通り)rHDLの投与によって生じるCECの増加は、動脈硬化性プラークからコレステロールの引き抜き、およびMACEの可能性の結果的な低下に関連すると考えられる。
【0049】
本明細書で使用される場合、「治療している」または「治療する」または「治療」とは、疾患または状態の1種もしくはそれ以上の既存のまたは前もって同定された病態もしくは症状を少なくとも部分的に(party)除去するまたは軽快させる治療介入を意味する。いくつかの実施形態では、急性MIイベント後の治療は、さらなるMIイベントの可能性を、少なくとも部分的にもしくは一時的に防止するまたは抑制する、または低下させることができる。
【0050】
疾患または状態のいくつかの症状が、現れまたは持続し、疾患、状態もしくは症状の完全なまたは絶対的な除去、軽快、予防または抑制を要さない場合でも、治療は行われることが考えられ得るということが理解されよう。
【0051】
本明細書で言及した通り、任意のパラメーターにおける「減少」または「増加」は、通常、任意の量によるものであるが、好ましくは、統計的に有意な量によるものであり、参照される治療の非存在下のパラメーターに関してである。例えば、MACEのリスクの低下(例えば、MACEの発生の可能性の低下またはMACEの重症度の低下)は、本明細書に記載した治療の非存在下のMACEのリスク(例えば、MACEの発生の可能性またはMACEの重症度)と比較した場合のMACEのリスクの低下である。この減少または低下は、任意の量(例えば、5、10、15、20、25、50%、またはそれ以上)によるものとなり得る。同様に、リスクの低下が、MACEの発生の遅延として明らかである場合、この遅延は、本明細書に記載した治療の非存在下のMACEのタイミングに関し
てであり、任意の量(例えば、1、2、3、4、5、または6カ月、もしくはそれ以上、または1、2、5,または10年、もしくはそれ以上の遅延、例えば、1カ月~10年の遅延)によるものとなり得るが、好ましくは、統計的に有意な遅延である。
【0052】
本発明のいくつかの態様では、ヒトの患者は、急性MIイベントの7日以内に治療される。他の態様において、ヒトの患者は、MIイベントがない、または最近MIイベントがない、すなわち、治療開始前の7日以内にMIイベントを経験していない(すなわち、治療開始時に、患者が、MIイベントがあってから7日よりも長期である)。上記で論じられる通り、MI診断は、ルーチン的である。いくつかの実施形態では、ヒトの患者は、治療開始前の8、9、もしくは10日またはそれ以上の期間内に、または治療開始前の2、3、もしくは4週間、またはそれ以上の期間内に、または治療開始前の1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、もしくは12カ月、またはそれ以上の期間内に、または治療開始前の1、2、5、10、15、20、30、40、50、60、70、80、90年の期間内にMIイベントを経験していない。あるいは、ヒトの患者は、上記で参照した期間中に1回起こったMIイベントと診断されてない。
【0053】
患者が、冠動脈心疾患、虚血性心疾患、アテローム性動脈硬化症、狭心症、心室性不整脈および/または心室細動に罹患しているから、または患者が、(過去7日以内に急性MIを有するものを含めて)急性MIを有するおそれがあるからのような、任意の理由により、患者は、MACEのリスクがあり得る。あるいはまたはさらに、患者は、MACEについての1つまたはそれ以上の他の危険因子を有し得、例えば、患者は:
・ 45歳またはそれ以上(例えば、少なくとも50、55、60、65、70、75、80、または85歳)となり;
・ 喫煙し;
・ 高血圧(140/90mmHgまたはそれ以上)であり;
・ 血中コレステロールまたはトリグリセリドレベルが高く、例えば、高低密度リポタンパク質(LDL)コレステロール(空腹LDL-コレステロール値が160~199mg/dLもしくは4.1~4.9mmol/L)または高トリグリセリドレベルであり;
・ 糖尿病を有し;
・ MIの家族歴があり;
・ 身体的に非活動的であり;
・ 肥満(例えば、BMIが30またはそれ以上)であり得る。
【0054】
治療しようとするヒトの患者は、患者の腎機能に関して任意の状態を有し得る。好ましい例には、正常な腎機能、軽度の腎機能障害および中等度の腎機能障害を伴う患者が含まれる。腎機能障害は、急性冠症候群において一般的に同時に起こる状態であり、対象のおよそ30%が、ステージ3の慢性腎疾患を有する。腎機能は、Chronic Kidney Disease Epidemiology Collaboration Equation(例えば、Levey、2009年Ann Intern Med 5月5日;150巻(9号):604~612頁を参照のこと)を使用してルーチン的に決定され、腎機能の状態と相関する推定糸球体ろ過率(eGFR)の値を得る(例えば、Kidney Disease:Improving Global Outcomes(KDIGO)CKD Work Group.KDIGO 2012 Clinical Practice Guideline for the Evaluation and
Management of Chronic Kidney Disease.Kidney inter、Suppl.2013年;3巻:1~150頁を参照のこと)。糸球体ろ過率(GFR)は、健常および疾患において腎機能の最良の全指数と考えられる。正常な腎機能(腎機能ステージ1)は、eGFR≧90mL/分/1.73m2として一般に定義される。軽度の腎機能障害(腎機能ステージ2)を伴う患者は、eGFRが≧60~<90mL/分/1.73m2であり、中等度の腎機能障害を伴う患者は、eGF
Rが≧30~<60mL/分/1.73m2である。中等度の腎機能障害を伴う患者は、eGFRが≧45~<60mL/分/1.73m2(腎機能ステージ3a)である患者およびeGFRが≧30~<45mL/分/1.73m2(腎機能ステージ3b)である患者にさらに分類することができる。重症腎機能障害を伴う患者は、eGFRが≧15~<30mL/分/1.73m2(腎機能ステージ4)であり、eGFRが<15mL/分/1.73m2(腎機能ステージ5)を有する患者は、腎不全となると考えられる。
【0055】
他で述べた通り、好ましい実施形態では、rHDL治療は、腎機能における実質的な変更をもたらさないが、rHDL治療が始まる前に腎機能障害、例えば、軽度もしくは中等度の腎機能障害を有する患者は、本発明に従って治療することができる。
【0056】
いくつかの実施形態では、急性心筋イベントの7日以内に治療されるヒトの患者は、正常な腎機能、軽度の腎機能障害、または中等度の腎機能障害を有する。
【0057】
いくつかの実施形態では、これまでMIイベントを経験したことがない、または最近MIイベントを経験していない(すなわち、治療開始前の7日以内にMIイベントを経験していない)ヒトの患者は、中等度の腎機能障害を有する。他の実施形態では、かかる患者は、軽度の腎機能障害を有する。他の実施形態では、かかる患者は、正常な腎機能を有する。詳細な実施形態では、治療は、実施例2および実施例3において例示される通り、中等度の腎機能障害を伴う患者のものである。
【0058】
本発明の文脈内で、用語「再構成されたHDL(rHDL)製剤」とは、通常、血漿中に存在する高密度リポタンパク質(HDL)と機能的に同様の、それと類似の、それに対応するもしくはそれを模倣する任意の人工的に製造されたリポタンパク質製剤または組成物を意味する。rHDL製剤には、これらの範囲内で、「HDL模倣体」および「合成HDL粒子」が含まれる。rHDL製剤は、適切には、アポリポタンパク質、脂質、安定剤、場合により界面活性剤を含む。rHDL製剤の詳細な実施形態は、以下に、より詳細に論じる。rHDL製剤の詳細な好ましい実施形態は、「CSL112」として本明細書で言及される。国際公開WO2012/000048、WO2013/090978およびWO2014/066943に参照がなされ、これらは、CSL112製剤の詳細な例を提供する。
【0059】
適切には、前述の態様の治療の方法(例えば、患者は、急性心筋イベントの約7日以内に治療される)には、急性MIイベントの約七(7)日以内のヒトの患者へのrHDL製剤の初回量の投与が含まれる。これは、急性MIイベントの数時間(例えば、4、6、12もしくは18時間)後、または急性MIイベントの1、2、3、4、5、6もしくは7日後(またはこれらの間の任意の時間単位の期間)の初回の投与を含んでもよい。好ましくは、治療には、急性MIイベントの約五(5)日以内のヒトの患者へのrHDL製剤の初回量の投与が含まれる。
【0060】
患者が急性MIの7日以内に治療されない場合(例えば、患者が、MIを有していない、または最近MIを有していないため)、初回量は、任意の適当な時間で投与することができる。
【0061】
詳細な実施形態では、ヒトの患者は、血管造影用の造影剤を投与される場合もある。そのような実施形態では、rHDL製剤の初回量は、造影剤の投与の12時間後よりも遅く行う。
【0062】
続いて、rHDL製剤の同じまたは異なる投与量は、約2、3、4、5、6、7、8、9もしくは10週間の場合、1週間当たり1回またはそれ以上ヒトの患者に投与してもよ
い。続いて、好ましい形態では、rHDL製剤の同じ投与量は、約4週間の場合週1回ヒトの患者に投与される。治療期間は、rHDLの初回量の投与から最終の注入後1週間までの時間として定義することができる。(例えば、患者が、MIを有していないまたは最近MIを有していないため)患者が、急性MIの7日以内に治療されない場合、これは、例えば、少なくとも1、2、3、4、5、6カ月までもしくは少なくとも1、2、3、4、5、6カ月または少なくとも1、2、3、4、5年までまたは少なくとも1、2、3、4、5年継続することができる。
【0063】
好ましくは、rHDL製剤は、注入として静脈内に(IV)投与される。IV注入は、約0.5、1、1.5、2、2.5、3、3.5または4時間の期間にわたって行うことができる。詳細な実施形態では、IV注入は、約2時間の期間にわたって行う。いくつかの実施形態では、rHDL製剤中のアポ-AIのようなアポリポタンパク質の量は、2g(「低用量」と称される)でも6g(「高用量」と称される)でもよい。したがって、これらの実施形態の注入の好ましい速度は、1時間当たりアポ-AI約1g~3gである。
【0064】
好ましい形態では、rHDL製剤は、毎週2時間の静脈内注入として連続4週間投与される。治療期間は、rHDLの初回量の投与から最終の注入後1週間までの時間として定義することができる。患者が、AMIの7日以内に治療されない場合(例えば、患者が、MIを有していないまたは最近MIを有していないため)、これは、例えば、1、2、3、4、5、6カ月までもしくは少なくとも1、2、3、4、5、6カ月、または1、2、3、4、5年までもしくは少なくとも1、2、3、4、5年継続することができる。
【0065】
本発明の特徴は、前述の態様の方法によって、例えば、急性MIイベント後、ヒトの患者においてコレステロール引き抜き能(CEC)が増加するということである。コレステロール引き抜き能は、肝臓に輸送するために動脈硬化性プラークから過剰のコレステロールを除去するHDLの能力を評価するHDL機能のex-vivo測度である。CECは、HDL-Cとは無関係であるMACEと相関するものであるが、それによって、CECを増加させるまたは改善するrHDL製剤は、プラーク面積率を減少させ、脆弱なプラークを安定させることができ、これは、HDL単独で上昇するよりも有益な効果となり得る。
【0066】
適切には、CECは、好ましくは、%/4時間として測定されるまたは表される総コレステロール引き抜き能である。一実施形態では、CECは、算術平均値が少なくとも約12で測定される。好ましくは、CECは、ABCA1-依存性コレステロール引き抜き能(好ましくは、%/4時間として測定されるまたは表される)を含み、算術平均が、少なくとも約5である。コレステロール引き抜きアッセイは、de le Llera-Moyaら、Arterioscler.Thromb.Vasc.Biol.2010年;30-796-801に記載されるような、J774マクロファージを使用して、アポB-除去血清サンプルにおいて行うことができる。
【0067】
適切には、本明細書に開示される方法は、少なくとも約1.5倍、約2.5倍まで総コレステロール引き抜き能を増加させる。ABCA1-依存性コレステロール引き抜き能の増加は、少なくとも約3倍および約5倍までとなり得る。(循環アポ-AIレベルの増加と比較してもより大きな)ABCA1-依存性コレステロール引き抜き能のこのより大きな増加は、CSL112が、循環アポA-Iの量だけでなく、アポA-I当たりでABCA1-依存性引き抜きを増加させることもできることを示唆する。ABCA1-依存性コレステロール引き抜き能のための循環アポA-Iプールの「比活性」は、注入の終了時にABCA1-依存性コレステロール引き抜き能/アポA-I比として算出することができる。例として、CSL112を注入すると、プラセボ群(0.02)と比較して、2g用量群(0.05)の比が、2.51倍増加し、6g用量群(0.035)の比が1.78
倍増加した。ABCA1-依存性引き抜き能力の上昇は、アポA-Iの上昇よりも高かった。理論に縛られることを望まないが、CSL112注入によって、物質量が上昇するだけでなく、アポA-Iプールの機能性も高まることが推測される。ABCA1-依存性コレステロール引き抜き能/アポA-I比は、プラセボと比較してCSL112の用量2gおよび6gの両方で上昇した。
【0068】
適切には、CECの増加は、ヒトの患者の肝もしくは腎機能において実質的な変更を伴わない、またはもたらさない。
【0069】
肝機能(複数可)の指示薬の非限定的な例には、アラニンアミノトランスフェラーゼ活性(ALT)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)活性および/またはビリルビンレベルが含まれる。これらの指示薬の測定は、当技術分野で周知であり(例えば、Fischbach FT、Dunning MB III編.(2009年)。Manual of Laboratory and Diagnostic Tests、第8版.Philadelphia:Lippincott Williams and Wilkinsを参照のこと)、医療検査室においてルーチン的に行われる。これらの指示薬を測定するためのキットは、市販されている。通常、肝および/または腎機能は、rHDL製剤の投与後に測定される。これによって、例えば、機能の変更が起こっているか否かを決定するために、rHDL製剤の投与前に肝および/または腎機能と比較することができる。肝および/または腎機能における実質的な変更の回避は、有利である。治療前に観察される肝および/または腎機能のレベルを維持することが好ましく、例えば、rHDL治療が、肝および/または腎機能におけるいかなる変更をももたらさないことが好ましい。いくつかの実施形態では、肝および/または腎機能のレベルは、改善し得る(すなわち、治療の非存在下においてよりも、より良い肝および/または腎機能の適応を生じる)が、任意のイベントにおいて、肝および/または腎機能の実質的な低下を回避することが好ましい。
【0070】
いくつかの実施形態では、これらの方法は、(i)rHDL製剤の投与後に、場合により、(ii)rHDL製剤の投与前にも、肝および/または腎機能を測定する工程をさらに含むことができる。rHDL製剤の投与前および投与後の腎および/または肝機能パラメーターは、肝および/または腎機能における変更が生じるか否かを決定するために、比較することができる。かかる方法は、いくつかの実施形態では、ヒトの患者から得られた適当なサンプル(例えば、血液、血清、血漿)を得る工程をさらに含むことができる。
【0071】
いくつかの実施形態では、肝機能における実質的な変更は、正常値範囲の上限(ULN)の約2もしくは3倍を超えるALT;またはULNの少なくとも1.5~2倍の、総ビリルビンの増加である。したがって、好ましくは、ヒトの患者は、ALTが、rHDL治療前もしくはrHDL治療後に、正常値範囲の上限(ULN)の約2または3倍を超えない。さらに好ましくは、ヒトの患者は、総ビリルビンが、rHDL治療前またはrHDL治療後に、ULNの少なくとも1.5~2倍でない。いくつかの好ましい実施形態では、ALTは、治療前および治療後に、依然としてほぼ一定である(例えば、治療前の値が依然として10%または20%以内のままである)。
【0072】
腎毒性は、血清クレアチニンレベルによって定義することができる。いくつかの実施形態では、腎機能における実質的な変更は、ベースライン値の約1.2~1.5倍以上の血清クレアチニンである。したがって、好ましくは、ヒトの患者は、血清クレアチニン値が、rHDL治療前またはrHDL治療後に、ベースライン値の約1.2~1.5倍以上でない。いくつかの好ましい実施形態では、血清クレアチニン値は、治療前および治療後に、依然としてほぼ一定のままである(例えば、依然として治療前の値が10%または20%以内のままである)。
【0073】
さらにまたはあるいは、腎毒性は、糸球体ろ過率(eGFR)の減少によって定義することができる。ヒトの正常な糸球体ろ過率(eGFR)は、少なくとも約90mL/分/m2(例えば、少なくとも約90mL/分/1.73m2)である。これは、CKD-EPI式を使用して算出することができる(例えば、Levey、2009年 Ann Intern Med May 5;150巻(9号):604~612頁を参照のこと)。eGFRおよび腎疾患の間の相関は、当技術分野で十分に確立され、標準化されている(例えば、Kidney Disease:Improving Global Outcomes(KDIGO)CKD Work Group.KDIGO 2012 Clinical Practice Guideline for the Evaluation and Management of Chronic Kidney Disease.Kidney inter.、Suppl.2013年;3巻:1~150頁を参照のこと)。したがって、腎機能における実質的な変更は、実質的に90mL/分/m2未満(例えば、実質的に90mL/分/1.73m2未満)のeGFRとして測定される。軽度の腎機能障害は、通常、eGFR約60mL/分/m2以上(例えば、約60mL/分/1.73m2以上)を伴う。
【0074】
上記で述べた通り、本発明は、正常な腎機能、軽度の腎機能障害および中等度の腎機能障害を伴う患者に関連する。したがって、eGFRが、rHDL治療前に90mL/分/1.73m2未満である患者(例えば、軽度もしくは中等度の腎機能障害を有する患者)は、rHDL治療後に90mL/分/1.73m2未満であるeGFRを有し得、そのeGFRレベルは、治療により引き起こされないことが理解される。したがって、このような場合には、rHDL治療は、単にeGFRが90mL/分/1.73m2未満であることに基づいて、本明細書で使用される「腎機能における変更」を引き起こすとはみなされない。したがって、治療によって、腎機能における変更がもたらされているか否かを決定するために、治療前に患者の腎機能を知ることは有用となり得る。
【0075】
したがって、例えば、ヒトの患者が、rHDL治療前に、eGFRが実質的に90mL/分/1.73m2未満でない場合、前記患者は、好ましくは、rHDL治療後にeGFRが実質的に90mL/分/1.73m2未満でない。さらに、ヒトの患者が、rHDL治療前にeGFRが実質的に60mL/分/1.73m2未満でなく、前記患者は、好ましくは、rHDL治療後にeGFRが、実質的に60mL/分/1.73m2未満でない。同様に、ヒトの患者が、rHDL治療前にeGFRが実質的に30mL/分/1.73m2未満でない場合、前記患者は、好ましくは、rHDL治療後にeGFRが実質的に30mL/分/1.73m2未満でない。言い換えるならば、好ましい実施形態では、rHDL治療は、Kidney Disease:Improving Global Outcomes(KDIGO)CKD Work Group.KDIGO 2012 Clinical Practice Guideline for the Evaluation and Management of Chronic Kidney Disease.Kidney inter.、Suppl.2013年;3巻:1~150頁において使用されるおよび本明細書の他で参照される、標準的な定義によれば、患者の腎臓の状態に変化をもたらさない。
【0076】
腎疾患モデルが、上記群の患者をいくつかの別々のカテゴリーに適用され、eGFR値が継続するならば、rHDL治療前のeGFRと比較して、rHDL治療後のeGFRの10または20または30mL/分/1.73m2、もしくはそれ以上の変化(例えば、rHDL治療後のeGFRの10または20または30mL/分/1.73m2、もしくはそれ以上の減少)に基づいて、腎機能における実質的な変更を決定するのに有用となり得る。例として、患者は、好ましくは、rHDL治療後のeGFRが、rHDL治療前のeGFRの10、20または30mL/分/1.73m2以内である。例えば、患者は、
rHDL治療後のeGFRが、治療前のeGFRの30、20または10mL/分/1.73m2以内である腎機能の実質的な変更がないと考えられる。
【0077】
あるいは、腎毒性は、腎代替療法の必要性として定義され得る。
【0078】
適切には、rHDL製剤は、アポリポタンパク質またはその断片を含む。アポリポタンパク質は、任意のアポリポタンパク質となり得、これは、天然のHDLまたは再構成された高密度リポタンパク質/rHDLの機能的な、生物学的活性構成成分である。通常、アポリポタンパク質は、アポA-I、アポA-II、アポA-V、pro-アポA-Iのような血漿-由来のもしくは組換え型アポリポタンパク質またはアポA-I Milanoのような変種である。好ましくは、アポリポタンパク質は、アポA-Iである。より好ましくは、アポA-Iは、野生型配列またはMilano配列を含む、組換え由来である、あるいは、これは、ヒト血漿から精製される。アポリポタンパク質は、アポリポタンパク質の生物学的活性断片の形態となり得る。かかる断片は、天然のものでも、化学合成されても組換え型でもよい。ただの例として、アポA-Iの生物学的活性断片は、好ましくは、アポA-Iのレシチン-コレステロールアシルトランスフェラーゼ(LCAT)刺激活性が、少なくとも50%、60%、70%、80%、90%もしくは95%から100%であり、さらには、100%を超える。
【0079】
いくつかの一般的な実施形態では、アポリポタンパク質は、約5~約50mg/mlの濃度である。これには、5、8、10、15、20、25、30、35、40、45および50mg/mlならびにこれらの量の間の任意の範囲が含まれる。アポリポタンパク質は、好ましくは、約25~45mg/mlの濃度である。詳細な実施形態では、アポリポタンパク質は、好ましくは、約25~45mg/mlの濃度のアポA-Iである。他の実施形態では、アポリポタンパク質は、約5~20mg/mlの濃度、例えば、約8~12mg/mlの濃度となり得る。いくつかの実施形態では、アポリポタンパク質は、アポA-Iであり、rHDL製剤中のその含有量は、約25~45mg/mLである。他の実施形態では、再構成されたrHDL製剤中のアポA-I含有量が、約5~50mg/mLであるように、rHDLは、凍結乾燥後再構成される。凍結乾燥されたrHDL製剤の再構成後のアポA-I含有量は、好ましくは、約25~45mg/mlの濃度である。詳細な実施形態では、凍結乾燥されたrHDL製剤の再構成後のアポA-I含有量は、約30~40mg/mLである。一実施形態では、凍結乾燥されたrHDL製剤の再構成後のアポA-I含有量は、約30mg/mLである。
【0080】
一般に、rHDL製剤の投与される投与量は、体重kg当たり約1~約120mgの範囲となり得る。好ましくは、投与量は、投与量8mg/kg、10mg/kg、12mg/kg、20mg/kg、30mg/kg、40mg/kg、50mg/kg、60mg/kg、および70mg/kgを含めて、約5~約80mg/kgの範囲となり得る。
【0081】
代替の実施形態では、rHDL製剤は、「固定された投与量」の製剤の形態であってよい。適切には、固定された投与量のアポリポタンパク質製剤は、任意の体重またはある体重の範囲における任意の体重のヒトの患者への投与後に治療的に有効である投与量である。したがって、rHDL製剤投与量は、「体重について調整される投薬」の場合に通常行うはずであるようにヒトの特定の体重に応じて算出、決定または選択されることはない。
【0082】
それに反して、固定された投与量のアポリポタンパク質製剤は、任意の体重またはある体重の範囲における任意の体重のヒトの患者に投与される場合、アポリポタンパク質製剤のアポリポタンパク質構成物への曝露に関して、患者間の変動性の相対的な減少を示すはずである、投与量として決定される。患者間の変動性の相対的な減少は、患者母集団の体重について調整される投薬によって観察されるものまたはそれに伴うものと比較される。
【0083】
曝露の変動性は、固定された投与量のアポリポタンパク質製剤の投与後の患者のアポリポタンパク質への曝露における変動に関して、表すまたは測定することができる。好ましくは、この変動性は、固定された投与量のアポリポタンパク質製剤が、ある範囲の体重にわたって、ヒトの患者に投与される場合に生じるはずの変動性を、固定された投与量の患者と同じ範囲の体重にわたって、ヒトの患者に投与される、体重について調整される投与量について生じるはずである変動性と比較したものである。いくつかの実施形態では、アポリポタンパク質への曝露は、平均曝露(例えば、平均または中央値曝露)、総曝露(例えば、曝露の時間にわたって積分された量)または最大曝露レベル(例えば、Cmax)として測定することができる。一般に、体重または体重の範囲は、20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190もしくは200kg、またはこれらの値間の任意の範囲である。好ましくは、体重または体重の範囲は、20~200kg、20~60kg、40~160kg、50~80kg、60~140kg、70~80kg、80~120kg、100~180kgまたは120~200kgである。
【0084】
適切には、変動性は、100%未満、または、好ましくは、体重について調整される投薬によって生じる変動性99%、98%、97%、96% 95%、94%、93%、92%、91%、または90%、85%もしくは80%未満である。変動性は、それだけには限らないが、変動の係数(例えば、%CV)、標準偏差、標準誤差などとして含めた、当技術分野で公知の任意の統計的表示によって算出し、表すことができる。
【0085】
著しく異なる体重の患者に固定された投与量のアポリポタンパク質製剤を投与したにも関わらず、アポリポタンパク質への患者の曝露は、驚くべきことに、均一である。したがって、固定された投与量のアポリポタンパク質製剤の治療効果が、体重について調整される投与量と比較して、実質的に損なわれないまたは減少しないことが提唱される。
【0086】
ただの例として、体重の範囲60~120kgの患者に固定された投与量のアポリポタンパク質製剤を投与した後、アポリポタンパク質への総曝露における差がないことが示されている。さらに、アポリポタンパク質についてのCmaxは、体重の範囲60~120kgに対して平均16%まで減少した。
【0087】
比較において、同じアポリポタンパク質製剤を用いた、体重について調整される投薬レジメン(regime)の場合、60kg~120kgまでの体重の倍加は、アポリポタンパク質の投与量の倍加およびアポA-I曝露の増加を要する。
【0088】
固定された投与量のアポリポタンパク質製剤は、毎日、週2回、毎週、2週間毎または毎月を含めて、任意の適当な頻度で、複数の用量で投与することができる。固定された投与量のアポリポタンパク質製剤は、静脈内投与(例えば、ボーラスとしてまたは60、90、120もしくは180分にわたるような、ある期間にわたる連続的な注入により)のような、当技術分野で公知の投与の任意の経路により、筋肉内、腹腔内、直接冠動脈を含めた動脈内、脳脊髄内、皮下、関節内、滑膜内、くも膜下腔内、経口、局所、または吸入経路により投与することができる。通常、固定された投与量のアポリポタンパク質製剤は、静脈内注入または注射によるような、非経口で投与される。
【0089】
好ましい固定された投与量には、アポリポタンパク質0.1~15g、0.5~12g、1~10g、2~9g、3~8g、4~7gまたは5~6gが含まれる。特に好ましい固定された投与量には、アポリポタンパク質1~2g、3~4g、5~6gまたは6~7gが含まれる。詳細な固定された投与量の非限定的な例には、アポリポタンパク質0.25g、0.5g、1g、1.7g、2g、3.4g、4g、5.1g、6g、6.8gお
よび8gが含まれる。したがって、固定された投与量のrHDL製剤のバイアルは、バイアル当たりのアポリポタンパク質含有量が0.25g、0.5g、1、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、8または10gである、凍結乾燥されたrHDL製剤を、好ましくは含む。より好ましくは、アポリポタンパク質含有量は、バイアル当たり2、4、6、8、または10gである。特に好ましいバイアルは、rHDL製剤6gまたはそれ以上を含む。
【0090】
固定された投与量CSL112 rHDL製剤の非限定的な例は、国際公開WO2013/090978において見出すことができる。
【0091】
rHDL製剤中の脂質は、任意の脂質となり得、これは、天然に存在するHDLまたは再構成された高密度リポタンパク質(rHDL)の機能的な、生物学的活性構成成分である。かかる脂質には、リン脂質、コレステロール、コレステロール-エステル、脂肪酸および/またはトリグリセリドが含まれる。好ましくは、脂質は、少なくとも1種の荷電もしくは非荷電リン脂質またはその混合物である。
【0092】
好ましい実施形態では、本発明によるrHDL製剤は、界面活性剤および非荷電リン脂質の組み合わせを含む。代替の好ましい実施形態では、rHDL製剤は、荷電リン脂質を含むが、界面活性剤は全く含まない。さらなる好ましい実施形態では、rHDL製剤は、荷電および非荷電脂質ならびに界面活性剤を含む。
【0093】
本明細書で使用される場合、中性リン脂質とも呼ばれる「非荷電リン脂質」は、生理的pHで実効電荷が約0であるリン脂質である。非荷電リン脂質は、中性リン脂質の他のタイプが公知であるとしても、両性イオンとなり得、使用することができる。「荷電リン脂質」は、生理的pHにおける実効電荷を有するリン脂質である。荷電リン脂質は、荷電リン脂質の単一タイプ、または2種もしくはそれ以上の異なる、通常、様-荷電リン脂質の混合物を含むことができる。いくつかの例では、荷電リン脂質は、負に荷電した糖リン脂質である。
【0094】
rHDL製剤はまた、いくつかの非電荷脂質の混合物または非電荷脂質および荷電脂質の混合物のような、異なる脂質の混合物をも含むこともできる。リン脂質の例には、ホスファチジルコリン(レシチン)、ホスファチジン酸、ホスファチジルエタノールアミン(セファリン)、ホスファチジルグリセリン(PG)、ホスファチジルセリン(PS)、ホスファチジルイノシトール(PI)およびスフィノゴミエリン(SM)またはそれらの天然もしくは合成の誘導体が含まれる。天然の誘導体には、卵ホスファチジルコリン、卵ホスファチジルグリセリン、ダイズホスファチジルコリン、水素化ダイズホスファチジルコリン、ダイズホスファチジルグリセリン、脳ホスファチジルセリン、スフィンゴ脂質、脳スフィンゴミエリン、卵スフィンゴミエリン、ガラクトセレブロシド、ガングリオシド、セレブロシド、セファリン、カルジオリピンおよびジセチルホスペート(dicetylphospate)が含まれる。合成の誘導体には、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ジデカノイルホスファチジルコリン(DDPC)、ジエルコイルホスファチジルコリン(DEPC)、ジミリストイルホスファチジルコリン(DLPC)、パルミトイルオレオイルホスファチジルコリン(PMPC)、パルミトイルステアロイルホスファチジルコリン(PSPC)、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、ジラウロイルホスファチジルグリセリン(DLPG)、ジステアロイルホスファチジルグリセリン(DSPG)、ジオレオイルホスファチジルグリセリン(DOPG)、パルミトイルオレオイルホスファチジルグリセリン(POPG)、ジミリストイルホスファチジン酸(DMPA)、ジパルミトイルホスファチジン酸(DPPA)、ジステアロイルホスファチジン酸(DSPA)、ジパルミトイルホスファチジルセリン(DPPS)、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(DSPE)、ジオレオイルホスファチジ
ルエタノールアミン(DOPE)、ジオレオイルホスファチジルセリン(DOPS)、ジパルミトイルスフィンゴミエリン(DPSM)およびジステアロイルスフィンゴミエリン(DSSM)が含まれる。
【0095】
リン脂質はまた、上記リン脂質のうちのいずれかの誘導体またはアナログとなり得る。最善の結果は、ホスファチジルコリンで得られ得る。他の実施形態では、本発明による製剤中の脂質は、スフィンゴミエリンおよびホスファチジルグリセリン(例えば、DPPG)のような、負に荷電したリン脂質である。
【0096】
rHDL製剤は、スフィンゴミエリンおよびホスファチジルグリセリン(特に、DPPG)の混合物を含むことができる。これらの実施形態では、スフィンゴミエリンおよびホスファチジルグリセリンは、任意の適当な比、例えば、90:10~99:1(w:w)、通常、95:5~98:2、最も通常には、97:3で存在し得る。他の実施形態では、rHDL製剤は、スフィンゴミエリンおよびホスファチジルグリセリン(特に、DPPG)の混合物を含まない。
【0097】
適切には、アポリポタンパク質:脂質のモル比は、通常、約1:20~約1:120、好ましくは、約1:20~約1:100、より好ましくは、約1:20~約1:75(モル:モル)、特に、1:45~1:65である。この範囲には、約1:25、1:30、1:35、1:40、1:45、1:50、1:55、1:60、1:65、1:70、1:75、1:80、1:85、1:90、1:95および1:100のような、モル比が含まれる。アポリポタンパク質:脂質の特に有利な比は、1:40~1:65(モル:モル)である。これによって、本発明によるrHDL製剤は、肝毒性を引き起こさないレベルで、脂質を含むことが保証される。
【0098】
他の実施形態では、アポリポタンパク質:脂質のモル比は、約1:80~約1:120の範囲となり得る。例えば、この比は、1:100~1:115、または1:105~1:110となり得る。これらの実施形態では、モル比は、例えば、1:80~1:90、1:90~1:100、または1:100~1:110となり得る。別の実施形態として、アポリポタンパク質:脂質のモル比は、約1:80~約1:120の範囲とならない。
【0099】
適切には、rHDL製剤は、安定剤を含む。通常、安定剤は、約1.0%~約6.0%の濃度、例えば、1.0、1.1、1.2または1.3%~5.5、5.6、5.7、5.8、5.9、または6.0%の濃度、好ましくは、約1.0%~6.0%未満の濃度、例えば、約1.0%~5.9%の濃度(rHDL製剤w/w)で存在する。好ましくは、約3.0%~6.0%未満、例えば、約3.0%~5.9%未満、好ましくは、約4.0~5.9%、好ましくは、約4.0%~5.5%、好ましくは、4.3~5.3%、好ましくは、4.3~5.0%、最も好ましくは、4.6~4.8%(w/w)であり、前記製剤中で、アポリポタンパク質と脂質との間の比は、好ましくは、約1:20~約1:75であり、より好ましくは、約1:45~約1:65(モル:モル)である。凍結乾燥安定剤は、好ましくは、糖類(例えば、スクロースのような二糖類)である。
【0100】
この比較的低量の安定剤は、腎毒性のリスクを低下することができる。これらの薬剤が、腎臓におけるクリアランスのための安定剤と競合することがあるため、これはまた、急性冠症候群療法(ACS)中に造影剤を投与されている患者に特に適している。
【0101】
好ましくは、安定剤は、「凍結乾燥安定剤」であり、これは、凍結乾燥中、タンパク質を安定させる物質である。好ましい凍結乾燥安定剤は、糖類を含む。例えば、スクロースのような二糖は、凍結乾燥安定剤として使用するための、特に適当な糖類である。使用することができる他の二糖には、果糖、トレハロース、マルトースおよび乳糖が含まれる。
二糖の他に、ラフィノースおよびマルトトリオースのような三糖を使用することができる。より大型のオリゴ糖はまた、適当となり得、例えば、マルトペンタオース、マルトヘキサオース(maltohexaose)およびマルトヘプタオース(maltoheptaose)である。あるいは、ブドウ糖、マンノースおよびガラクトースのような単糖類を、使用することができる。これらのモノ-、ジ-、トリ-およびより大型のオリゴ糖は、単独でまたは互いに組み合わせて使用することができる。
【0102】
他のいくつかの実施形態では、凍結乾燥安定剤は、糖アルコール、アミノ酸、または糖類および糖アルコールおよび/またはアミノ酸の混合物である。
【0103】
詳細な糖アルコールは、マンニトールである。使用することができる他の糖アルコールには、イノシトール、キシリトール、ガラクチトール、およびソルビトールが含まれる。グリセリンのようなポリオールはまた、適し得る。
【0104】
スクロースおよびマンニトールの混合物は、使用することができる。糖類および糖アルコールは、任意の適当な比、例えば、約1:1(w:w)~約3:1(w:w)、特に、約2:1(w:w)で混合することができる。2:1未満の比が、特に想定され、例えば、3:2未満である。通常、この比は、1:5を超え、例えば、1:2(w:w)を超える。いくつかの実施形態では、本製剤は、4%未満のスクロースおよび2%マンニトール(rHDL製剤のw/w)、例えば、3%スクロースおよび2%マンニトールを含む。いくつかの実施形態では、本製剤は、4%スクロースおよび2%未満のマンニトールを含む。いくつかの実施形態では、本製剤は、4%未満のスクロースおよび2%未満のマンニトール、例えば、約1.0%~3.9%スクロースおよび約1.0%~1.9%(w/w)マンニトールを含む。
【0105】
凍結乾燥安定剤として使用することができるアミノ酸には、プロリン、グリシン、セリン、アラニン、およびリジンが含まれる。修飾アミノ酸を、やはり使用することもでき、例えば、4-ヒドロキシプロリン、L-セリン、グルタミン酸ナトリウム、サルコシン、およびγ-アミノ酪酸である。プロリンは、凍結乾燥安定剤として使用するための、特に適当なアミノ酸である。いくつかの実施形態では、凍結乾燥安定剤は、糖類およびアミノ酸の混合物を含む。例えば、スクロースおよびプロリンの混合物を、使用することができる。糖類およびアミノ酸は、任意の適当な比、例えば、約1:1~約3:1(w:w)、特に、約2:1(w:w)で混合することができる。2:1未満の比が、特に想定され、例えば、3:2(w:w)未満である。通常、比は、1:5を超え、例えば、1:2(w:w)を超える。好ましくは、アミノ酸は、約1.0~約2.5%の濃度、例えば、1.0、1.2、または1.3~2.0、2.1、2.2、2.3、2.4、または2.5%(rHDL製剤のw/w)の濃度で存在する。いくつかの実施形態では、本製剤は、1.0%スクロースおよび2.2%プロリン、または3.0%スクロースおよび1.5%プロリン、または4%スクロースおよび1.2%プロリンを含む。アミノ酸を、糖類に加えて、等張液を維持することができる。重量モル浸透圧濃度が350mosmol/kgを超える溶液は、通常、高張であり、250mosmol/kg未満の溶液は、通常、低張である。重量モル浸透圧濃度が250mosmol/kg~350mosmol/kgである溶液は、通常、等張である。
【0106】
アポリポタンパク質および凍結乾燥安定剤の間の比は、比が、約1:1~約1:7(w:w)であるように、通常調整される。より好ましくは、比は、約1:1~約1:3であり、特に、約1:1.1~約1:2である。したがって、詳細な実施形態では、rHDL製剤は、比が、1:1.1、1:1.2、1:1.3、1:1.4、1:1.5、1:1.6、1:1.7、1:1.8、1:1.9または1:2(w:w)である。しかしながら、低量のタンパク質(例えば、<20mg/mL)がある詳細な実施形態の場合、アポ
リポタンパク質および凍結乾燥安定剤の間の比は、約1:7(w:w)と同程度、例えば、約1:4.5(w:w)に拡張することができると考えられる。
【0107】
国際公開WO2014/066943に参照がなされ、これは、CSL112 rHDL製剤に関連して、凍結乾燥安定剤の、非限定的で詳細な例および考察が提供される。
【0108】
いくつかの場合による実施形態では、rHDL製剤は、界面活性剤を含む。界面活性剤は、rHDL製剤において使用するために適した、胆汁酸およびそれらの塩を含めた、任意のイオン性(例えば、陽イオン性、陰イオン性、両性イオン性)界面活性剤または非イオン性界面活性剤となり得る。イオン性界面活性剤は、胆汁酸およびそれらの塩、ポリソルベート(例えば、PS80)、3-[(3-コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-1-プロパン-スルフォネート(CHAPS)、3-[(3-コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-2-ヒドロキシ-1-プロパンスルフォネート(CHAPSO)、セチルトリメチル-アンモニウムブロミド、ラウロイルサルコシン、tert-オクチルフェニルプロパンスルホン酸および4’-アミノ-7-ベンゾアミド-タウロコール酸を含むことができる。
【0109】
胆汁酸は、コール酸、デオキシコール酸、ケノデオキシコール酸またはウルソデオキシコール酸を含めた、通常、24個の炭素を有する、ジヒドロキシル化もしくはトリヒドロキシル化ステロイドである。好ましくは、界面活性剤は、胆汁酸塩、例えば、コール酸塩、デオキシコール酸塩、ケノデオキシコール酸塩またはウルソデオキシコール酸塩である。特に好ましい界面活性剤は、コール酸ナトリウムである。界面活性剤の濃度、特に、コール酸ナトリウムの濃度は、好ましくは、0.3~1.5mg/mLである。本発明のいくつかの実施形態では、rHDL製剤は、アポリポタンパク質約0.015~0.030g/gのコール酸塩レベルを含む。胆汁酸濃度は、比色アッセイ(例えば、Lerchら、1996年、Vox Sang.71巻:155~164頁;Sharma、2012年、Int.J.Pharm Biomed.3巻(2号)、28~34頁;& Gallsauren test kit and Gallsauren-Stoppreagens(Trinity Biotech)を参照のこと)を含めた、様々な方法を使用して決定することができる。本発明のいくつかの実施形態では、rHDL製剤は、比色アッセイによって決定された通り、コール酸塩レベル0.5~1.5mg/mLを含む。
【0110】
好ましい実施形態において、本明細書に開示されるrHDL製剤は、pHが、6~8の範囲であり、好ましくは、7~8の範囲内である。さらにより好ましくは、pHは、7.3~7.7の範囲となる。
【0111】
好ましい実施形態において、rHDL製剤は、凍結乾燥される。アポリポタンパク質:脂質比と組み合わせた、前述した凍結乾燥安定剤、好ましくは、スクロースの存在により、凍結乾燥によって、長期の有効期間を有する安定した粉末が生成される。この粉末は、貯蔵することもでき、粉末として貯蔵後直接使用することもできるまたは再構成された高密度リポタンパク質製剤を形成するために、再水和後に使用することもできる。
【0112】
本発明は、ヒト血漿由来アポA-Iを使用して、大規模な生産で製造されたrHDLで使用することができる。凍結乾燥した生成物は、バルク製剤のために製造することができ、あるいは、混合されたタンパク質/脂質溶液は、凍結乾燥前に、より小型の容器(例えば、単一の用量単位)に分配することができ、かかるより小型の単位は、滅菌した単位剤形として使用することができる。凍結乾燥した製剤は、再構成された高密度リポタンパク質であるタンパク質-脂質複合体の溶液または懸濁液を得るために、再構成することができる。凍結乾燥された粉末は、適当な容積に水溶液で再水和される。好ましい水溶液は、注射用の水(WFI)、リン酸緩衝食塩水または生理食塩水である。混合物は、振り混ぜ
て、再水和を容易にすることができる。好ましくは、再構成工程は、室温で行われる。
【0113】
WO2012/000048に記載されているような、脂質、およびアポリポタンパク質を含む溶液を得る方法は、当業者に周知である。
【0114】
本発明の凍結乾燥されたrHDL製剤は、それだけには限らないが、フリーズドライを含めた、当技術分野で公知の凍結乾燥の任意の方法を使用して形成することができる、すなわち、アポリポタンパク質/脂質-含有溶液は、減圧蒸発後、凍結される。
【0115】
提供される凍結乾燥されたrHDL製剤は、少なくとも2、4、6、8、10、12、18、24、36カ月間またはそれ以上実質的にこれらの本来の安定性特性を保持することができる。例えば、2~8℃または25℃で貯蔵された凍結乾燥されたrHDL製剤は、6カ月間もしくはそれ以上貯蔵する場合、HPLC-SECにより測定される通り、実質的に同じ分子サイズ分布を、通常、保持することができる。rHDL製剤の詳細な実施形態は、2~8℃および/または室温で貯蔵した場合、少なくとも6カ月、12カ月、18カ月、24カ月、36カ月さらにそれ以上の間、市販用の医薬品の使用を安定させることができ、それらの使用に適し得る。
【0116】
本明細書に開示される方法および/またはrHDL製剤が、1種もしくはそれ以上の追加の治療薬を含むことができるということもやはり理解されよう。同様に、本明細書に開示される詳細な方法における使用のための、本明細書に開示される再構成された高密度リポタンパク質(rHDL)製剤は、1種またはそれ以上の追加の治療薬と共に使用することができる。適切には、1種またはそれ以上の追加の治療薬は、それだけには限らないが、急性心筋梗塞(MI)イベントおよび/もしくはMACEの治療、予防もしくはそのリスクの低下、および/またはヒトの患者におけるコレステロール引き抜き能(CEC)の増加を補助するまたは容易にすることができる。
【0117】
1種またはそれ以上の追加の治療薬には、1種またはそれ以上の脂質調整剤;1種またはそれ以上のコレステロール吸収阻害剤;1種またはそれ以上の抗凝固剤;1種またはそれ以上の高血圧治療薬;および1個またはそれ以上の胆汁酸結合分子を含むことができる。
【0118】
脂質調整剤は、LDLおよび/またはトリグリセリドを減少させるまたは低下させることができる、かつ/またはHDLを増加させることができる。非限定的な例には、HMG-CoA還元酵素阻害剤、フィブレート(例えば、フェノフィブレート、ゲムフィブロジル)、プロタンパク質転換酵素サブチリシン/ケキシンタイプ9(PCSK9)阻害剤およびナイアシンが含まれる。
【0119】
HMG-CoA還元酵素阻害剤の非限定的な例には、それだけには限らないが、ロバスタチン、ロスバスタチン、アトルバスタチン、ピタバスタチンおよびシンバスタチンのような「スタチン」が含まれる。
【0120】
コレステロール吸収阻害剤の非限定的な例には、エゼチミブが含まれ、これは、単独でまたは前述したような、スタチンと一緒に、投与してもよい。
【0121】
抗凝固剤の非限定的な例には、それだけには限らないが、ワルファリン、ビタミンKアンタゴニスト、ヘパリンまたはそれらの誘導体、第Xa因子インヒビターおよびトロンビン阻害剤が含まれる。
【0122】
高血圧治療薬の非限定的な例には、それだけには限らないが、アンジオテンシン変換酵
素(ACE)阻害剤(例えば、エナラプリル、ライミプリル、カプトプリルなど)、アンジオテンシンII受容体アンタゴニスト(例えば、イルベサルタン)、レニン阻害剤、アドレナリン受容体アンタゴニスト、カルシウムチャネルブロッカー、血管拡張剤、ベンゾジアゼピンおよび利尿剤(例えば、チアジド)が含まれる。
【0123】
胆汁酸結合分子または「捕捉剤」の非限定的な例には、それだけには限らないが、コレスチラミン、コレスチポールおよびコレセベラムが含まれる。
【0124】
1種またはそれ以上の追加の治療薬の適当な投与量は、これらの薬剤についての既存の、確立された安全な投与量レジメン(regime)への参照により容易に決定することができ、これは、当技術分野の実行者により容易に変更されても修正されてもよい。
【0125】
1種またはそれ以上の追加の治療薬は、本明細書に開示されるrHDL製剤に組み込むことができるまたは本明細書に開示される治療もしくは治療的使用の方法に従って、別々に投与することができることが理解されよう。これには、本明細書に開示されるrHDL製剤の投与前または投与後、rHDL製剤の投与の少なくとも24、18、12、6、3、2もしくは1時間以内に、投与することを含むことができる。
【0126】
本発明の詳細な実施形態は、容易に理解し、実際的に実施することができるように、次の非限定的な例に言及する。
【実施例0127】
略語
ACS:急性冠症候群
AE:有害事象
AKI:急性腎傷害
AMI:急性心筋梗塞
アポA-I:アポリポタンパク質A-I
AST:アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ
AUC:曲線下面積
BARC:BARC出血基準(Bleeding Academic Research
Consortium)
CAD:冠動脈疾患
CEC:コレステロール引き抜き能
CKD-EPI:慢性腎疾患疫学コラボレーション(Chronic Kidney Disease Epidemiology Collaboration)
CL:全身クリアランス
Cmax:血漿中最大濃度
CV:心血管の
DSMB:データ安全性モニタリング委員会
eGFR:推定糸球体ろ過率
HAV:A型肝炎ウイルス
HBV:B型肝炎ウイルス
HCV:C型肝炎ウイルス
HDL:高密度リポタンパク質
HIV:ヒト免疫不全ウイルス
ITT:治療企図
LVEF:左室駆出分画
MACE:主要有害心イベント
MI:心筋梗塞
Mod RI:中等度の腎機能障害
NAT:核酸検査
NRF:正常な腎機能
NYHA:ニューヨーク心臓病学会
PC:ホスファチジルコリン
PCI:経皮的冠動脈形成術
PK/PD:薬物動態/薬力学
RI:腎機能障害
SAE:重篤な有害事象
t1/2:半減期
TEAE:治療下で発現した有害事象
Tmax:血漿中最大濃度到達時間
ULN:正常値範囲の上限
Vss:定常状態時の分布容積
CSL112は、ホスファチジルコリンを有する円板型のリポタンパク質へと再構成され、スクロースで安定化される、HDLの第1の機能的構成成分である、血漿-由来のアポA-Iである24。CSL112の初回の研究では、血漿アポA-Iの有意な用量-依存的増加、および全体における用量-依存的増加およびABCA1-依存性コレステロール引き抜き能を実証している25~27。好ましい安全性プロファイルは、急性MIを伴う患者において特徴付けられていないが、安定動脈硬化性疾患を伴う患者を含めて、現在まで臨床プログラムにおいて実証されている27。CSL112のプロトタイプ製剤は、ホスファチジルコリン添加剤含有量に関連して推定された、肝酵素の一過的な上昇の発生により、開発が中断された28、29。腎毒性のリスクは、高用量の静脈内のスクロースと共に記載されている。したがって、本発明者らは、MI患者におけるCSL112のこのより低いホスファチジルコリンおよび低スクロース-含有配合物の注入後の肝および腎機能の両方を評価した。
Apo-I Event reductinG in Ischemic Syndromes I(AEGIS-I:虚血性症候群におけるアポ-Iイベントの減少)試験は、多施設、ランダム化、プラセボ対照、用量設定2b相臨床試験であり、安全性および忍容性を評価することが第1の目的であり、第2のおよび探索的な目的は、MACEの初回発生時間、ならびに急性MIを伴う患者および正常な腎機能または軽度の腎機能障害を伴う患者間のプラセボと比較した、CSL112の2種の用量の週4回投与の薬物動態および薬力学を含んだ(ClinicalTrials.gov:NCT02108262)。
主な除外基準には、現在の肝胆道疾患、ベースライン中等度もしくは重症慢性腎疾患、造影剤によって誘発された急性腎傷害の病歴、または進行中の血行動態不安定の証拠が含まれる。血管造影を行い、造影剤を投与した対象の中でもとりわけ、造影剤投与の少なくとも12時間後の安定した腎機能(すなわち、造影剤投与前の値(pre-contrast value)から血清クレアチニン≧0.3mg/dLの増加がない)は、登録のために必要とされた。本試験は、機関審査委員会によって承認され、すべての対象は、登録前に書面のインフォームドコンセントを提出した。
患者を、スクリーニングから最終のフォローアップ来診までの予定された間隔でルーチン的に評価した。評価には、身体検査、血清クレアチニン、総ビリルビン、アルカリホスファターゼ、ALT、AST、BUN、Cr、ブドウ糖、代謝性、心血管、および脂質バイオマーカー、免疫原性のマーカー、および注入部位の評価、出血、および有害事象が含まれた。主要有害心イベント(MACE)の発生を、ランダム化の1年後までまたは最終のランダム化対象が、試験112日目の来診を終了するまで、すべての対象についてやはりモニターした。
アポA-Iの血漿濃度、およびex-vivoコレステロール引き抜きを、いくつかの時点で測定した。さらに、薬物動態/薬力学(PK/PD)サブスタディを、患者63名の間で実施した。サブスタディに含まれる対象を、腎機能により、等しく層別化し、プラセボ、低用量CSL112(用量当たりアポA-I2g)、または高用量CSL112(用量当たりアポA-I6g)に、それぞれ2:3:3の比で無作為に割り付けた。培養されたJ774細胞からコレステロール引き抜きを媒介する血漿の能力を、前述のように測定した26。これらのアッセイは、総コレステロール引き抜き能ならびにABCA1輸送体に帰せられ得る引き抜きの両方を測定する。両方の引き抜きの測度は、細胞コレステロール含有量のパーセントとして示される。AEGIS-I試験デザインの追加の詳細は、すでに公表されている31。
対象の大部分が、MI後、抗血小板薬二剤併用療法で治療されることを予測されたため、出血を、第2の安全性評価項目として評価した。測定されたおよびベースライン補正された血漿アポA-I濃度、総およびABCA1-依存性コレステロール引き抜き測度(ex-vivo)の変化を含めたCSL112の薬理学的特性の分析、ならびに脂質、代謝性、および心血管バイオマーカーを評価した。追加の予め指定された評価項目は、前もって記載されている31。
Newcombe-Wilsonスコア法を使用して、共主要安全性評価項目についての率の差(CSL112-プラセボ)の両側95%信頼区間を算出した。両側95%信頼区間の上限を、非劣性評価のための肝臓および腎臓の評価項目についての指定された閾値と比較し、共主要評価項目を試験するために、指定した。これにより、肝臓および腎臓の評価項目のそれぞれについて片側の2.5%の第一種の過誤を得、Bonferroni法の適用に基づいて5%で全般的な第一種の過誤を制御した。95%信頼区間の上限が、対治療群比較についての、肝臓の予後が≦4%であり、腎臓の予後が≦5%である場合、非劣性基準を、予め指定して、率の差を満たした。出血率を、3群間で比較した。
MACEにおける差の検出を行う検出力はなかったが、第2のおよび探索的なMACE転帰を、共変量として治療割付けおよびベースライン腎機能層と共に、Coxの比例ハザードモデルを使用して、治療群間の第1のMACE時間の差を算出することにより評価した。両側ログランク検定p値を、腎機能によって層別化される、各CSL112用量対プラセボについて算出した。MACEについての正式な仮説検定を意図しなかった。
共主要安全性評価項目の腎機能障害は、プラセボ群における患者413名のうち1名(0.2%)において生じ、2g用量群における患者415名のうち0名(0.0%)において生じ(p=0.50対プラセボ)、6g用量群における患者416名のうち3名(0.7%)において生じた(p=0.62対プラセボ)。プラセボとの両用量の比較は、有意差はなく、予め指定したマージンは、≦5%であった(表2)。追加の予め指定した探索的安全性分析および事後解析を、表8および表9に示す。
BARC出血のすべてのグレードの率は低く、3アーム間で同様であった(表4)。薬物過敏性反応および注入部位反応は、群間でバランスが取れていた。全体で、重篤なおよび生命を脅かす有害事象および薬物の中断をもたらす重篤な有害事象の率は、比較的低く、すべての群間で同様であった(表10および表11)。
プラセボと比較して、CSL112は、コレステロール引き抜き能の測度の改善をやはり伴った。HDL濃度ではなく、HDL機能の改善が、動脈硬化性プラーク病変の安定化およびCVイベントの減少のためにより重要となり得ることが仮定されている。Dallas Heart Studyでは、有効なコレステロール逆転送のマーカーである、高コレステロール引き抜き能には、低コレステロール引き抜き能と比較して67%低いMACEリスクが関連し、この関連性は、HDL濃度と無関係であった18。現在まで、HDLを上昇させる療法によって、実際にHDL濃度が上昇したが、HDLを上昇させる療法は、コレステロール引き抜きに対して適度の効果があるまたは効果がなかった。これは、
HDLを上昇させる療法が、なぜ過去においてMACE転帰を減少することに失敗したのかを少なくとも部分的に説明することができる知見である32~38。それに対して、コレステロール引き抜き能は、CSL112注入直後に著しく上昇した。特に、プラークにおいてコレステロールを含む細胞に特に関連する経路である、ABCA1-依存性引き抜きを、CSL112の注入後3倍を超えて上昇した。ABCA1-依存性引き抜き能力の上昇が、アポA-Iの上昇より高かったことは注目すべきであり、したがって、注入は、物質量だけでなく、アポA-Iプールの機能性も上昇させることが示唆されている。実際、ABCA1-依存性コレステロール引き抜き能/アポA-I比は、プラセボと比較して、CSL112の両用量で上昇した(表6)。以前のメカニズム試験39は、同様の機能的な変化を示しており、内因性のHDLをリモデリングして、ABCA1と相互作用する高い能力を有する、より小型の、より多くの機能的HDL種を形成することにより、CSL112が、ABCA1-依存性引き抜きを上昇させることが決定される。
共主要安全性評価項目は、非劣性分析について予測されたものより頻度が少なかったが、非常に低い頻度のこれらのイベントは、臨床的に関連する肝臓または腎臓の安全性シグナルがないことが示唆される。いくつかの脂質およびリポタンパク質分析が行われたが、Lp(a)およびアポEは、注入後評価されなかった。
これは、第2相安全性試験であり、効能を評価するには検出力不足であり、効能について規制当局への承認を求めるために設計されなかった。第2のMACE評価項目の場合、その検出力は、臨床的に関連する15%のリスク低下を検出するのに8.4%であり、プラセボイベント率を5.5%と仮定した(表13)。多くの第2相試験と同様に,適切な検出力がある重要な第3相試験が、効能を評価するために行われ得るように、本試験を主として行って、安全性を評価するだけでなく、MACEの頻度およびタイミングをも評価し、イベントのためのリスクで患者を同定した。
結論として、急性MIの7日以内に開始するおよび造影剤投与の近傍で低[2g]および高[6g]用量で、再構成された血漿-由来のアポA-IであるCSL112の週4回の注入は、適しており、肝もしくは腎機能または他の有意な安全性上の懸念の変更を伴わず、コレステロール引き抜き能の急性の増強を伴った。急性MI後の早期の再発性心血管イベントの減少のためのCSL112の臨床的効能のさらなる評価を、適切な検出力がある、多施設、ランダム化第3相試験において行うことが正当化される。