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  • 特開-圧粉磁芯及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022116435
(43)【公開日】2022-08-10
(54)【発明の名称】圧粉磁芯及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/22 20060101AFI20220803BHJP
   H01F 1/153 20060101ALI20220803BHJP
   H01F 27/255 20060101ALI20220803BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20220803BHJP
   B22F 3/00 20210101ALI20220803BHJP
   C22C 33/02 20060101ALI20220803BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20220803BHJP
   C22C 45/02 20060101ALN20220803BHJP
【FI】
H01F1/22
H01F1/153 133
H01F1/153 108
H01F27/255
H01F41/02 D
B22F3/00 B
C22C33/02 E
B22F1/00 Y
C22C33/02 M
C22C45/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021012599
(22)【出願日】2021-01-29
(71)【出願人】
【識別番号】000134257
【氏名又は名称】株式会社トーキン
(74)【代理人】
【識別番号】100117341
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 拓哉
(74)【代理人】
【識別番号】100148840
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 健志
(74)【代理人】
【識別番号】100191673
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 久典
(72)【発明者】
【氏名】大西 直人
(72)【発明者】
【氏名】八巻 真
(72)【発明者】
【氏名】浦田 顕理
【テーマコード(参考)】
4K018
5E041
【Fターム(参考)】
4K018BA14
4K018BB04
4K018BB07
4K018BD01
4K018CA11
4K018KA44
4K018KA61
5E041AA11
5E041BB03
5E041BD03
5E041CA03
(57)【要約】
【課題】コアロスの低い圧粉磁芯及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】圧粉磁芯10は、軟磁性体粉末30を含むものであり、上面12や下面14などの表面よりも中央部において軟磁性体粉末30の密度が高い。このように圧粉磁芯10の内部の密度を高めることによりヒステリシス損を抑えると共に、表面抵抗を高めることにより渦電流損を低くすることができる。この圧粉磁芯10は、例えば、軟磁性体の材料粉末とバインダ樹脂を含む原料粉末を250℃以上の所定温度に予め加熱された金型で加圧成形することで製造できる。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟磁性体粉末を含む圧粉磁芯であって、表面よりも中央部において軟磁性体粉末の密度が高い圧粉磁芯。
【請求項2】
請求項1記載の圧粉磁芯であって、
上面と下面の少なくとも一方のプレス面の中央付近の第1所定領域内における前記軟磁性体粉末の面積密度である表面面積密度と、前記圧粉磁芯の上下方向の中心を通り且つ前記プレス面と平行な面内において前記第1所定領域に対応する第2所定領域における前記軟磁性体粉末の面積密度である内部面積密度とが
(内部面積密度/表面面積密度)>1
を満たす圧粉磁心。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載の圧粉磁芯であって、
表面抵抗が50Ω以上である
圧粉磁芯。
【請求項4】
請求項3記載の圧粉磁芯であって、
表面抵抗が1000Ω以上である
圧粉磁芯。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれかに記載の圧粉磁芯であって、
軟磁性体粉末は、アモルファス合金又はナノ結晶合金からなる
圧粉磁芯。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれかに記載の圧粉磁芯であって、
密度が5.84×10-3kg/m以上である
圧粉磁芯。
【請求項7】
軟磁性体の材料粉末とバインダ樹脂を含む原料粉末を250℃以上の所定温度に予め加熱された金型で加圧成形する圧粉磁芯の製造方法。
【請求項8】
請求項7記載の圧粉磁芯の製造方法であって、前記圧粉磁芯がナノ結晶合金からなる粉末を含む場合、前記所定温度は前記材料粉末の第二結晶化開始温度以下である、圧粉磁芯の製造方法。
【請求項9】
請求項7記載の圧粉磁芯の製造方法であって、前記圧粉磁芯がアモルファス合金からなる粉末を含む場合、前記所定温度は前記材料粉末の結晶化開始温度以下である、圧粉磁芯の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟磁性粉末を加圧成形してなる圧粉磁心及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の圧粉磁心としては、例えば、特許文献1に開示されたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2017/022227号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、コアロスの低い圧粉磁芯及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、第1の圧粉磁芯として、軟磁性体粉末を含む圧粉磁芯であって、表面よりも中央部において軟磁性体粉末の密度が高い圧粉磁芯を提供する。
【0006】
また、本発明は、第2の圧粉磁芯として、第1の圧粉磁芯であって、
上面と下面の少なくとも一方のプレス面の中央付近の第1所定領域内における前記軟磁性体粉末の面積密度である表面面積密度と、前記圧粉磁芯の上下方向の中心を通り且つ前記プレス面と平行な面内において前記第1所定領域に対応する第2所定領域における前記軟磁性体粉末の面積密度である内部面積密度とが
(内部面積密度/表面面積密度)>1
を満たす圧粉磁心を提供する。
【0007】
また、本発明は、第3の圧粉磁芯として、第1又は第2の圧粉磁芯であって、
表面抵抗が50Ω以上である
圧粉磁芯を提供する。
【0008】
また、本発明は、第4の圧粉磁芯として、第3の圧粉磁芯であって、
表面抵抗が1000Ω以上である
圧粉磁芯を提供する。
【0009】
また、本発明は、第5の圧粉磁芯として、第1から第4までのいずれかの圧粉磁芯であって、
軟磁性体粉末は、アモルファス合金又はナノ結晶合金からなる
圧粉磁芯を提供する。
【0010】
更に、本発明は、第6の圧粉磁芯として、第1から第5までのいずれかの圧粉磁芯であって、
密度が5.84×10-3kg/m以上である
圧粉磁芯を提供する。
【0011】
また、本発明は、第1の圧粉磁芯の製造方法として、
軟磁性体の材料粉末とバインダ樹脂を含む原料粉末を250℃以上の所定温度に予め加熱された金型で加圧成形する圧粉磁芯の製造方法を提供する。
【0012】
また、本発明は、第2の圧粉磁芯の製造方法として、第1の圧粉磁芯の製造方法であって、前記圧粉磁芯がナノ結晶合金からなる粉末を含む場合、前記所定温度は前記材料粉末の第二結晶化開始温度以下である、圧粉磁芯の製造方法を提供する。
【0013】
更に、本発明は、第3の圧粉磁芯の製造方法として、第1の圧粉磁芯の製造方法であって、前記圧粉磁芯がアモルファス合金からなる粉末を含む場合、前記所定温度は前記材料粉末の結晶化開始温度以下である、圧粉磁芯の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
コアロスは、大別して、ヒステリシス損と渦電流損とに分けられる。前者を低くするには、軟磁性体粉末の密度を高めることが有効である。一方、後者を低くする手法としては、例えば軟磁性体粉末に酸化被膜を形成することなどが知られているが、本発明においては、コア内部の密度よりもコア表面の密度を意図的に低くすることにより、コア表面の抵抗自体を高くすることとしている。このようにして、本発明によれば、コア内部の高密度化と、コア表面の高抵抗化を両立させ、それによって、コアロスの低い圧粉磁芯を得ることができる。
【0015】
本発明によれば、軟磁性体の材料粉末とバインダ樹脂を含む原料粉末を250℃以上の所定温度に予め加熱された金型で加圧成形することにより、コア表面のバインダ樹脂を早期に硬化させ、コア表面の軟磁性体粉末の密度を疎にすることができる。その状態で、金型により更に加圧してコア内部の軟磁性体粉末の密度を高めることで、上述したコアロスの低い圧粉磁芯を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施の形態による圧粉磁芯を示す斜視図である。第1所定領域と第2所定領域の様子が示されている。
図2図1の圧粉磁芯をII--II線に沿って示す断面図である。上面付近の一部が拡大して示されている。
図3】本発明の実施の形態による圧粉磁芯の製造方法を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1に示されるように、本発明の実施の形態による圧粉磁芯10は、軟磁性体粉末30を含んでおり、金型(後述)によってプレスされた上面12及び下面14を有している。即ち、本実施の形態において、上面12及び下面14はいずれもプレス面である。図1及び図2に示されるように、プレス面である上面12は粗く、軟磁性体粉末30が疎らに存在しており、隙間が目立っている。これに対して、図1に示されるように、上面12と下面14の間の中央部においては軟磁性体粉末30が密に配されている。
【0018】
特に、本実施の形態の圧粉磁芯10は、表面のみが粗く、内部は高密度である。ここで、「表面のみ」とは、図2に示されるように、断面において粉末1層以上の厚みを有している。但し、断面において粉末5層を越える厚みに亘って粗い状態(低密度)であると、圧粉磁芯10全体として高密度化が図れないため、低密度層は断面において粉末5層以下である必要がある。
【0019】
より具体的には、図1の圧粉磁芯10は、軟磁性体粉末30の表面面積密度と軟磁性体粉末30の内部面積密度とが
(内部面積密度/表面面積密度)>1
を満たしている。ここで、表面面積密度は、第1所定領域20内における軟磁性体粉末30の面積密度であり、内部面積密度は、第2所定領域24内における軟磁性体粉末30の面積密度である。また、第1所定領域20は、プレス面である上面12の中央付近の領域であり、上面12と下面14の間の中央部における第2所定領域24は、圧粉磁芯10の上下方向の中心を通り且つプレス面である上面12と平行な面内において第1所定領域20に対応する領域である。
【0020】
本実施の形態において、表面面積密度及び内部面積密度は、次のようにして得られる。表面面積密度は、例えば、圧粉磁芯10の上面12(プレス面)をバフ研磨して汚れを除去し、第1所定領域20を観察して、第1所定領域20内において軟磁性体粉末30の占める面積を特定し、特定した面積の第1所定領域20の面積に対する割合から算出する。内部面積密度は、例えば、切断面に第2所定領域24を含むように圧粉磁芯10を切断し、第2所定領域24を観察して、第2所定領域24内において軟磁性体粉末30の占める面積を特定し、特定した面積の第2所定領域24の面積に対する割合から算出する。
【0021】
このように、圧粉磁芯10の内部において軟磁性体粉末30が密に存在していると、良好な磁気特性を得ることができ、ヒステリシス損を低く抑えることができる。具体的には、本実施の形態の圧粉磁芯10の密度は、5.84×10-3kg/m以上である。このように、圧粉磁芯10は、高密度であり、高い透磁率を有している。
【0022】
一方、圧粉磁芯10の表面を粗くすると、表面を内部と同密度で形成した場合と比較して、表面抵抗を相対的に高くすることができ、渦電流損を抑制することができる。具体的には、本実施の形態の圧粉磁芯10の表面抵抗は、表面抵抗が50Ω以上である。渦電流層の効果的な抑制の観点から、圧粉磁芯10の表面抵抗は1000Ω以上であることが望ましい。
【0023】
本実施の形態の圧粉磁芯10を構成する軟磁性体粉末30は、アモルファス合金又はナノ結晶合金からなる。ナノ結晶合金からなる軟磁性体粉末30の場合、αFe又はαFe-Siからなる平均粒径50nm以下、好ましくは40nm以下の結晶粒を含んでいる。但し、本発明はこれに限定されない。軟磁性体粉末30は、アモルファス合金又はナノ結晶合金以外の磁性粉末を含んでいてもよい。圧粉磁芯10は、軟磁性体粉末30に加えてセラミック粉末等を含んでいてもよい。
【0024】
図1に加えて図3を参照すると、本実施の形態の圧粉磁芯10は、軟磁性体粉末30の原料となる軟磁性体粉末(即ち、軟磁性体の材料粉末)とバインダ樹脂を含む原料粉末40を金型50で加圧成形することで製造される。金型50は、上パンチ52と、下パンチ54と、ダイス56とを備えている。下パンチ54とダイス56とで形成されたスペースに原料粉末40を入れ、上パンチ52で下パンチ54に向けてプレスすることで圧粉磁芯10が製造される。
【0025】
特に、本実施の形態の圧粉磁芯10の製造方法において、金型50は、250℃以上の所定温度に予め加熱されている。これにより、金型50と接触する面(即ち、プレス面)上では、バインダ樹脂が早期に硬化するため、粗い状態(軟磁性体粉末30の密度が低い状態)が生じる。その状態で、加圧すると内部の高密度化が図れる。
【0026】
軟磁性体の材料粉末は、例えば、アモルファス合金粉末に対して、Fe粉、Fe-Si粉、Fe-Si-Cr粉末、Fe-Si-Al、Fe-Ni等の他の磁性粉末を混合したものであってもよい。軟磁性体の材料粉末は、単一粒径のものだけでなく、複数の粒径のものを混合することとしてもよい。圧粉磁芯10の抵抗を高めるため、軟磁性体の材料粉末に対して酸化被膜を形成することとしてもよい。また、本実施の形態の軟磁性体の材料粉末の形状は、球状であるが、糸状のものを混ぜることで圧粉磁芯10の強度を上げることとしてもよい。
【0027】
軟磁性体粉末30がナノ結晶合金からなるものである場合、即ち、圧粉磁芯10がナノ結晶合金からなる粉末を含む場合、前述の所定温度、即ち、金型50の加熱温度は、軟磁性体の材料粉末の第二結晶化開始温度(Tx)以下であることが望ましい。第二結晶化開始温度(Tx)を超えると、化合物相が析出し特性が悪化してしまうためである。
【0028】
軟磁性体粉末30がアモルファス合金からなるものである場合、即ち、圧粉磁芯がアモルファス合金からなる粉末を含む場合、前述の所定温度は、軟磁性体の材料粉末の結晶化開始温度(Tx)以下であることが望ましい。結晶化開始温度(Tx)を超えると、結晶が粗大化して特性が悪化してしまうためである。
【0029】
原料粉末40は、上述した軟磁性体の材料粉末に加えて、セラミック粉末等を更に含んでいてもよい。
【0030】
本実施の形態の圧粉磁芯10を製造する際には、一般的な圧粉磁芯10の製造方法と同様に、予備成形を行ってもよい。
【0031】
更に、圧粉磁芯10の表面を保護するために、成型後の圧粉磁芯10を樹脂に含侵して、圧粉磁芯10の表面における軟磁性体粉末30同士の隙間を樹脂で埋めることとしてもよい。
【0032】
なお、金型50の加熱は部分的に行うこととしてもよい。但し、加熱した部分に対応する圧粉磁芯10の表面が粗くなり渦電流損の抑制に寄与することを考慮すると、金型50全体を加熱しておくことが望ましい。
【0033】
以下、成形前の軟磁性体粉末30、即ち、軟磁性体の材料粉末について更に詳細に説明する。
【0034】
圧粉磁芯10の中心部における密度を向上させやすいという観点から、軟磁性体の材料粉末は結晶化前後で軟化をするアモルファス合金粉末であることが好ましい。特に、アモルファス合金粉末の中でも、結晶化前に過冷却液体領域を持つ金属ガラス粉末が好ましい。また、アモルファス合金粉末を原料として成形時の加熱でナノ結晶化させて磁気特性を更に向上させることとしてもよい。その際、アモルファス合金粉末の結晶化度はその軟磁気特性と成形性を考慮して10%未満が好ましく、更に2%未満が好ましい。
【0035】
軟磁性体の材料粉末の平均粒径は1μm以上100μm以下が好ましい。特に、材料粉末の平均粒径を40μm以下にすると、圧粉磁芯10の重畳特性を向上させることができる。また、材料粉末の平均粒径を15μm以下にすると、圧粉磁芯10の高周波特性を向上させることができる。
【0036】
成形性を考えると材料粉末であるアモルファス合金粉末の結晶化温度は550℃以下が好ましい。特に、金属ガラス粉末の場合、材料粉末のガラス遷移温度が520℃以下であることが好ましい。また、軟磁性体粉末30がナノ結晶合金からなるものである場合、材料粉末であるアモルファス合金粉末の結晶化温度が500℃以下であることが好ましい。
【0037】
材料粉末であるアモルファス合金粉末は結晶化温度やガラス遷移温度が低く軟化しやすいP元素を含む粉末であることが好ましく、更に原子%単位でP元素をSi元素より多くすることでその効果は高まる。
【0038】
組成系はFeBPであることが好ましい。これに対して、アモルファス形成能を上げるNb元素や、耐食性を上げるCr元素、ナノ結晶化を促進するCu元素をそれぞれ3原子%以下の範囲で添加してもよい。更に、非晶質性、結晶化温度、磁気特性を調整するためにメタロイド元素としてSiとCを5原子%以下の範囲で上記組成系に添加してもよい。
【0039】
金属ガラス粉末としては、下記式を満たすことが好ましい。
式:(Fe1-αTMα)100-w-x-y-zPwBxLySiz
但し、不可避不純物が含まれ、TMはCo、Niから選ばれる1種以上、LはCa、V、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、W、Cr、Al、Mn、Ag、Zn、Sn、As、Sb、Bi、Y、Cu、C、S、N、O及び希土類元素のうち、1種類以上であって、0≦α≦0.98、2≦w≦18原子%、2≦x≦16原子%、0<y≦10原子%、0≦z≦8原子%で表される組成を有し、結晶化開始温度(Tx)が550℃以下、ガラス遷移温度(Tg)が520℃以下であり、ΔTx=Tx-Tgで表される過冷却液体領域が20℃以上。
【0040】
上記金属ガラス粉末において、P元素、B元素はアモルファス相形成を担う必須元素である。特に、2≦w≦18原子%、2≦x≦18原子%の範囲で過冷却液体領域が発現し、アモルファス形成能が高くなる。3≦w≦16原子%、3≦x≦16原子%にすると、アモルファス形成能が更に高くなり汎用アトマイズ装置でも十分にアモルファス粉末化が可能になる。
【0041】
上記金属ガラス粉末において、Si元素はアモルファス相形成を担う必須元素である。Si量が8at%を超えると非晶質性が低下するため8at%以下が好ましい。またSiを加えると結晶化温度が上昇するためSi量は4at%以下が好ましい
【0042】
上記金属ガラス粉末において、L元素はアモルファス形成能、耐食性、ナノ結晶化、熱安定性を向上させるために必須元素である。L元素が10at%を超えると飽和磁束密度の低下が著しいため10at%以下が好ましく、更に4at%以下が好ましい。
【0043】
軟磁性体粉末30がナノ結晶合金からなるものである場合、軟磁性体の材料粉末は、下記式を満たすことが好ましい。
式:Fe100-a-b-c-d-eBaSibPcCdCue
但し、不可避不純物が含まれ、4≦a≦13at%、0≦b≦8at%、1≦c≦12at%、0≦d≦5at%、0.4≦e≦1.4at%、及び0.05≦e/c≦0.8。
【0044】
上記式において、Feの3at%以下を、Ca、V、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、W、Cr、Co、Ni、Al、Mn、Ag、Zn、Sn、As、Sb、Bi、Y、S、N、O及び希土類元素のうち、1種類以上の元素で置換してもよい。
【0045】
上述したナノ結晶合金用の材料粉末において、B元素はアモルファス相形成を担う必須元素である。Bの割合が4at%より少ないと、アモルファスの形成が困難になる。Bの割合が13at%より多いと、ΔTが減少し、均質なナノ結晶組織を得ることができず、合金組成物は劣化した軟磁気特性を有することとなる。従って、Bの割合は、4at%以上、13at%以下であることが望ましい。特に量産化のため合金組成物が低い融点を有する必要がある場合、Bの割合が11at%以下であることが好ましい。
【0046】
上述したナノ結晶合金用の材料粉末において、P元素はアモルファス形成や微細ナノ結晶の形成を担う必須元素である。Pの割合が1at%より少ないと融点が上昇しアモルファス形成が困難になり、またナノ結晶の形成には3at%以上が好ましく更に5at%以上が好ましい。またPの割合が12at%より多いとΔTが減少し、ナノ結晶の形成が困難になる。また高Bs化には9at%以下が好ましい。
【0047】
上述したナノ結晶合金用の材料粉末において、Si元素はアモルファス形成を担う元素であり、ナノ結晶化にあたってはΔTが増加しナノ結晶の安定化に寄与する。Siの割合が8at%より多いと、アモルファス相形成が低下し更に均質なナノ結晶組織が得られず、その結果、軟磁気特性が劣化する。またFe量が80at%を超えるとSi量が多いとアモルファス形成能が低下するためSi量は3at%以下が好ましい。
【0048】
上述したナノ結晶合金用の材料粉末において、C元素はアモルファス形成を担う元素であり、B、P、Si元素と組み合わせることでアモルファス形成能や磁気特性を向上させることができる。ただしCの割合が5at%を超えるとアモルファス形成能が低下するので5at%以下が好ましい。またナノ結晶粒も粗大化を抑制するためにはC量は3at%以下が好ましい。
【0049】
上述したナノ結晶合金用の材料粉末において、Cu元素は結晶核を作りナノ結晶化を担う必須元素である。特にP元素との組み合わせにより結晶粒の微細化が可能になる。なお、Cuの割合が0.4at%より少ないと、ナノ結晶化が困難になり、Cuの割合が1.4at%より多いと結晶核が不均質になり、そのためFe基ナノ結晶合金の形成の際に均質なナノ結晶組織が得られず、軟磁気特性が劣化する。アモルファス相の形成が困難になることからCuの割合は0.4at%以上、1.4at%以下が好ましい。アモルファス相形成のためには更に1.0at%未満が好ましい。
【0050】
上述したナノ結晶合金用の材料粉末において、アモルファス形成能、耐食性、ナノ結晶化、熱安定性を向上させるためにFeの3at%以下を、Ca、V、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、W、Cr、Co、Ni、Al、Mn、Ag、Zn、Sn、As、Sb、Bi、Y、S、N、O及び希土類元素のうち、1種類以上の元素で置換してもよい。
【0051】
以下、本発明の実施の形態について、実施例を参照しながら更に具体的に説明する。
【0052】
(実施例1~9及び比較例1~7)
下記表1記載の条件にて、Fe80.9Si8.5CrCu0.6(ナノ結晶合金)、Fe84.3Cu0.7(ナノ結晶合金)、Fe80.4SiCrCu0.6(ナノ結晶合金)、Fe77.114.45.5CrNb(金属ガラス(アモルファス合金))、Fe80.9Si8.5CrCu0.6(ナノ結晶合金)を有する実施例1~9及び比較例1~7のリング状の圧粉磁芯10を作製した。即ち、実施例1~3及び比較例1,2は、Fe80.9Si8.5CrCu0.6(ナノ結晶合金)の粉末を軟磁性体粉末30として有するリングコアである。実施例4,5及び比較例3は、Fe84.3Cu0.7(ナノ結晶合金)の粉末を軟磁性体粉末30として有するリングコアである。実施例6,7及び比較例4は、Fe80.4SiCrCu0.6(ナノ結晶合金)の粉末を軟磁性体粉末30として有するリングコアである。実施例8,9及び比較例5,6は、Fe7715Nb1.5Cr1.5(金属ガラス(アモルファス合金))の粉末を軟磁性体粉末30として有するリングコアである。比較例7は、Fe80.9Si8.5CrCu0.6(ナノ結晶合金)の粉末を軟磁性体粉末30として有するリングコアである。なお、表中において、Txは、ナノ結晶化させるための軟磁性体粉末における第1結晶化開始温度である。これに関連して、Fe7715Nb1.5Cr1.5(金属ガラス(アモルファス合金))における結晶化開始温度Txを表現の都合上Txと表記してある。また、表中において、比較例7は、成型時に金型の温度を25℃から開始して500℃まで熱したものである。実施例1~9及び比較例1~7のいずれにおいても、熱加圧時間は5分程度であり、長くても10分未満である。コアロスは、B-Hアナライザを用いて、磁束密度100mT及び周波数50kHzの下で測定した。表面抵抗は、テスターの針を1cm程度の距離で接触させて測定した。
【0053】
【表1】
【0054】
実施例1~3と比較例1,2とを参照すると、成型時の金型の表面温度が250℃未満の場合、(内部面積密度/表面面積密度)が1以下となり、コアロスが大きくなっているのに対して、成型時の金型の表面温度が250℃以上であると、(内部面積密度/表面面積密度)が1より大きく、コアロスを抑制できている。
【0055】
同様に、実施例4,5と比較例3とを参照すると、成型時の金型の表面温度が250℃未満の場合、(内部面積密度/表面面積密度)が1以下となり、コアロスが大きくなっているのに対して、成型時の金型の表面温度が250℃以上であると、(内部面積密度/表面面積密度)が1より大きく、コアロスを抑制できている。
【0056】
また、実施例6,7と比較例4を参照すると、いずれも成型時の金型の表面温度が250℃以上であり、(内部面積密度/表面面積密度)が1より大きく、コアロスを比較的抑制できているが、比較例4だけは表面抵抗が10Ωと小さく、そのため渦電流損に起因してコアロスが少し大きくなっている。これを踏まえ、表面抵抗は50Ω以上であることが望ましく、1000Ω以上であることが更に好ましい。
【0057】
実施例8,9及び比較例5,6を参照すると、成型時の金型の表面温度が250℃未満の場合、(内部面積密度/表面面積密度)が1以下となり、コアロスが大きくなっているのに対して、成型時の金型の表面温度が250℃以上であると、(内部面積密度/表面面積密度)が1より大きく、コアロスを抑制できている。
【0058】
比較例12を参照すると、成型時の金型の表面温度を25℃から500度まで徐々に上げつつ加圧した場合、(内部面積密度/表面面積密度)は1であり、表面抵抗を上げることができず、コアロスが大きくなっている。
【0059】
以上、本発明について実施の形態を掲げて具体的に説明してきたが、本発明はこれに限定されるものではなく、種々の変形、変更が可能である。
【符号の説明】
【0060】
10 圧粉磁芯
12 上面
14 下面
20 第1所定領域
24 第2所定領域
30 軟磁性体粉末
40 原料粉末
50 金型
52 上パンチ
54 下パンチ
56 ダイス
図1
図2
図3