(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022116454
(43)【公開日】2022-08-10
(54)【発明の名称】コンクリートの性状確認方法およびコンクリート性状特定装置
(51)【国際特許分類】
B28C 7/16 20060101AFI20220803BHJP
B28C 5/42 20060101ALI20220803BHJP
G01N 11/00 20060101ALI20220803BHJP
【FI】
B28C7/16
B28C5/42
G01N11/00 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021012622
(22)【出願日】2021-01-29
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】大友 健
(72)【発明者】
【氏名】畠山 峻一
(72)【発明者】
【氏名】橋本 貴之
(72)【発明者】
【氏名】三桶 達夫
【テーマコード(参考)】
4G056
【Fターム(参考)】
4G056AA06
4G056CD64
4G056CE01
4G056DA05
4G056DA09
(57)【要約】
【課題】プラントから搬入されて、施工状況に応じて打込み量が変化するフレッシュコンクリートに対しても全数検査を効率的に行うことができるコンクリートの性状確認方法およびコンクリート性状特定装置を提案する。
【解決手段】シュートを流下するコンクリートの性状を評価するための評価判定基準を作成する判定基準作成工程S1と、シュートを流下する打設用コンクリートを撮影する撮影工程S2と、打設用コンクリートの撮影動画から当該打設用コンクリートの流量および速度比を算出する算出工程S3と、流量および速度比と、評価判定基準とを比較して、打設用コンクリートのスランプまたはスランプフローを特定する性状特定工程S4とを備えるコンクリートの性状確認方法。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シュートを流下するコンクリートの性状を評価するための評価判定基準を作成する判定基準作成工程と、
シュートを流下する打設用コンクリートを撮影する撮影工程と、
前記打設用コンクリートの撮影動画から当該打設用コンクリートの流量および速度比を算出する算出工程と、
前記流量および前記速度比と、前記評価判定基準とを比較して、前記打設用コンクリートのスランプまたはスランプフローを特定する性状特定工程と、を備えるコンクリートの性状確認方法であって、
前記判定基準作成工程では、スランプまたはスランプフローが既知の試験用コンクリートを所定の角度で傾斜した試験用シュートを流下させた際の当該試験用コンクリートの流動幅および平均流動速度から判定用流量を算出する作業と、
前記試験用シュートを流下する前記試験用コンクリートの幅方向中央部の流動速度と幅方向側部の流動速度とを利用して判定用速度比を算出する作業と、
前記試験用コンクリートのスランプまたはスランプフロー、前記判定用流量および前記判定用速度比の相関関係を規定した相関データを作成する作業と、を行い、
前記算出工程では、シュートを流下する前記打設用コンクリートの流動幅および平均流動速度から前記打設用コンクリートの前記流量を算出するとともに、前記打設用コンクリートのシュートの幅方向中央部の流動速度と側部の流動速度との前記速度比を算出し、
前記性状特定工程では、前記流量および前記速度比を前記相関データに当てはめて前記打設用コンクリートのスランプまたはスランプフローを特定することを特徴とする、コンクリートの性状確認方法。
【請求項2】
前記判定基準作成工程では、アジテータトラックのシュートの傾斜角度を一定として、前記アジテータトラックのドラムゲートの開度毎の前記相関データを作成し、
前記性状特定工程では、前記打設用コンクリートを流下させた際のアジテータトラックのドラムゲートの開度に対応する前記相関データを利用して、前記打設用コンクリートのスランプまたはスランプフローを特定することを特徴とする、請求項1に記載のコンクリートの性状確認方法。
【請求項3】
前記判定基準作成工程では、アジテータトラックのドラムゲートの開度を一定として、前記アジテータトラックのシュートの傾斜角度毎の前記相関データを作成し、
前記性状特定工程では、前記打設用コンクリートを流下させた際のアジデータトラックのシュートの傾斜角度に対応する前記相関データを利用して、前記打設用コンクリートのスランプまたはスランプフローを特定することを特徴とする、請求項1に記載のコンクリートの性状確認方法。
【請求項4】
シュートを流下する打設用コンクリートを撮影する撮影手段と、
前記撮影手段の撮影画像から前記打設用コンクリートの流量および流動速度を算出する算出手段と、
スランプまたはスランプフローが既知のコンクリートがシュートを流下する際の流量および流動速度と、前記スランプまたは前記スランプフローとの相関関係が記憶された記憶手段と、
前記算出手段により算出された前記流量および前記流動速度と、前記記憶手段に記憶された前記相関関係とを比較して前記打設用コンクリートのスランプまたはスランプフローを特定する性状特定手段と、を備えていることを特徴とするコンクリートの性状特定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリートの性状確認方法およびコンクリート性状特定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートプラントから搬入されたフレッシュコンクリートは、現場において受入検査として抜き取り検査を行うことで性状を確認する。コンクリートの抜き取り検査は、全数量に対して行うのは手間と時間がかかるため、50~150m3毎に行うのが一般的である。ところが、コンクリートの受入検査により所定の性状を有していると確認された場合であっても、経時変化によって要求性能を満たさなくなる場合がある。また、受入検査を行わなかったコンクリートの中に要求性能を満たしていないコンクリートが紛れ込むことが懸念されていた。
そのため、フレッシュコンクリートを受け入れる際に、アジテータトラックのシュートを流下するフレッシュコンクリートを担当者が観察することで、フレッシュコンクリートが要求性能を満たしていることを確認する場合がある。ところが、目視による観察は、観察者の経験や技量等によって差が生じるおそれがある。
そこで、特許文献1には、搬入されたフレッシュコンクリート全数量に対して、定量的に性状を判断することを可能とした試験方法として、シュートを流下するフレッシュコンクリートを撮影し、撮影された動画からフレッシュコンクリートの表面形状の傾きを算出し、この傾きからフレッシュコンクリートの品質を判定する方法が開示されている。この方法は、スランプが低くて硬いフレッシュコンクリートはシュートの流れはじめは高さを有しているため傾きが大きくなる傾向があり、スランプが高くて柔らかいフレッシュコンクリートは傾きが小さい傾向があることに基づいて、コンクリートのスランプを予測するものである。
アジテータトラックからコンクリートを受け入れる際には、コンクリートの打込みペースに応じてアジテータトラックのドラムゲートの開度を変更するのが一般的である。一方、特許文献1のコンクリートのスランプの予測方法は、アジテータトラックのドラムゲートの開度を一定にした場合の評価方法であるため、コンクリートの打込みペースに応じてドラムゲートの開度を変更する工事においては適切に評価することができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、プラントから搬入されて、施工状況に応じて打込み量が変化するフレッシュコンクリートに対しても全数検査を効率的に行うことができるコンクリートの性状確認方法およびコンクリート性状特定装置を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するための本発明のコンクリートの性状確認方法は、シュートを流下するコンクリートの性状を評価するための評価判定基準を作成する判定基準作成工程と、シュートを流下する打設用コンクリートを撮影する撮影工程と、前記打設用コンクリートの撮影動画から当該打設用コンクリートの流量および速度比を算出する算出工程と、前記流量および前記速度比と前記評価判定基準とを比較して前記打設用コンクリートのスランプまたはスランプフローを特定する性状特定工程とを備えている。前記判定基準作成工程では、スランプまたはスランプフローが既知の試験用コンクリートを所定の角度で傾斜した試験用シュートを流下させた際の当該試験用コンクリートの流動幅および平均流動速度から判定用流量を算出する作業と、前記試験用シュートを流下する前記試験用コンクリートの幅方向中央部の流動速度と幅方向側部の流動速度とを利用して判定用速度比を算出する作業と、前記試験用コンクリートのスランプまたはスランプフロー、前記判定用流量および前記判定用速度比の相関データを作成する作業とを行う。前記算出工程では、シュートを流下する前記打設用コンクリートの流動幅および平均流動速度から前記打設用コンクリートの前記流量を算出するとともに、前記打設用コンクリートのシュートの幅方向中央部の流動速度と側部の流動速度との前記速度比を算出する。さらに、前記性状特定工程では、前記流量および前記速度比を前記相関データに当てはめて前記打設用コンクリートのスランプまたはスランプフローを特定する。
【0006】
かかるコンクリートの性状確認方法によれば、シュートを流れるコンクリートの撮影動画(所定の時間間隔をあけて撮影された少なくとも二つの静止画を含む)に基づいて、コンクリートの性状(スランプまたはスランプフロー)を確認するため、全数検査の実施を可能とし、その結果、要求性能を満たさないコンクリートが含まれるリスクを低減できる。また、シュートを流れるコンクリートに対して、コンクリートの幅や、複数個所において測定した流動速度を利用して性状を確認するため、コンクリートの流量の変化に応じた判定を可能とし、施工状況に応じて打込み量が変化する場合であっても、全数検査を効率的に行うことができる。また、予め作成された相関データに測定データを当てはめてコンクリートの性状を確認するため、定量的な性状確認が可能である。
【0007】
また、前記コンクリートの性状確認方法を実施するための本発明のコンクリートの性状特定装置は、シュートを流下する打設用コンクリートを撮影する撮影手段と、前記撮影手段の撮影画像から前記打設用コンクリートの流量および流動速度を算出する算出手段と、スランプまたはスランプフローが既知のコンクリートがシュートを流下する際の流量および流動速度と前記スランプまたは前記スランプフローとの相関関係(相関データ)が記憶された記憶手段と、前記算出手段により算出された前記流量および前記流動速度と前記記憶手段に記憶された前記相関関係とを比較して前記打設用コンクリートのスランプまたはスランプフローを特定する性状特定手段とを備えている。
【0008】
なお、前記判定基準作成工程においてアジテータトラックのシュートの傾斜角度を一定として前記アジテータトラックのドラムゲートの開度毎の前記相関データを作成し、前記性状特定工程において前記打設用コンクリートを流下させた際のアジテータトラックのドラムゲートの開度に対応する前記相関データを利用して前記打設用コンクリートのスランプまたはスランプフローを特定してもよい。
また、前記判定基準作成工程おいてアジテータトラックのドラムゲートの開度を一定として前記アジテータトラックのシュートの傾斜角度毎の前記相関データを作成し、前記性状特定工程において前記打設用コンクリートを流下させた際のアジデータトラックのシュートの傾斜角度に対応する前記相関データを利用して前記打設用コンクリートのスランプまたはスランプフローを特定してもよい。
このようにすれば、ドラムゲートの開度やシュートの傾斜角度をコンクリートの性状の判断基準に加えることで、より正確な判定が可能となる。
【発明の効果】
【0009】
本発明のコンクリートの性状確認方法およびコンクリート性状特定装置によれば、施工状況に応じて打込み量が変化するフレッシュコンクリートに対して全数検査を効率的に行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態のコンクリート性状特定装置の概要を示すブロック図である。
【
図2】シュートを流下するコンクリートを示す図であって、(a)は平面図、(b)は断面図である。
【
図3】本実施形態のコンクリートの性状確認方法を示すフローチャートである。
【
図4】判定基準作成工程の各作業を示すフローチャートである。
【
図5】シュートを流下するコンクリートの流動速度とスランプまたはスランプフローの関係の例を示すグラフである。
【
図6】(a)はスランプで評価するコンクリートのシュート流下状況を示す写真、(b)はスランプフローで評価するコンクリートのシュート流下状況を示す写真である。
【
図7】Buckingham-Reiner式の説明図であって、(a)は試料が流れる管の横断面図、(b)は試料が流れる管の平断面図、(c)は流動速度と位置の関係を示すグラフである。
【
図8】シュートにおけるすべりを伴う管内流動のシュート幅方向の位置と流動速度の関係を示す説明図であって、(a)はスランプで評価されるコンクリート、(b)はスランプフローで評価されるコンクリート、(c)は流量が大きいコンクリート、(d)は流量が小さいコンクリートである。
【
図9】スランプまたはスランプフローと流動速度の関係を示すグラフであって、(a)は流量が30m
3/h、(b)は流量が60m
3/hである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本実施形態では、コンクリートプラントから搬入されたフレッシュコンクリート(打設用コンクリート)に対して全数検査を行い、要求性能を満たしていることを確認するコンクリートの性状確認方法について説明する。コンクリート打設は、ポンプ圧送、ホッパー打設等、工事によってさまざまな手法により行われるが、アジテータトラックを利用してコンクリートプラントから輸送されたフレッシュコンクリート(打設用コンクリート)は、アジテータトラックのドラムからシュートを介して排出される。そのため、アジテータトラックのシュートを流れる際にフレッシュコンクリートの性状(スランプ、スランプフロー等)を確認することで、施工方法に関わらず、フレッシュコンクリートに対して全数検査を行うことができる。より詳しくは、本実施形態のコンクリートの性状確認方法は、コンクリート搬入時に、アジテータトラックのシュートを流下するフレッシュコンクリートを撮影し、この撮影動画(画像)からフレッシュコンクリートのスランプ、スランプフロー又は500mmフロー到達時間を特定することで、搬入されたフレッシュコンクリートが要求性能を満たしていることを確認するものである。
【0012】
ここで、アジテータトラックは、エンジンにより走行する車両と、車両に回転可能に搭載されたコンクリートを貯留可能なドラムとを備えており、ドラムを回転させることでドラム内のコンクリートを攪拌し、コンクリートの劣化の進行を抑制するように構成されている。ドラムのコンクリート排出口には排出口を開閉するドラムゲートが設けられている。また、ドラムの後方には、排出口から排出されたコンクリートを誘導する断面視U字状のシュートが設けられている。ドラムからコンクリートを排出する際には、ドラムゲートの開度によりコンクリートの排出量を調節しながら、シュートを流下させる。
【0013】
本実施形態のコンクリートの性状確認方法では、コンクリート性状特定装置1を利用する。
図1にコンクリート性状特定装置1を示す。
図1に示すように、本実施形態のコンクリート性状特定装置1は、撮影手段2と、通信手段3と、記憶手段4と、算出手段5と、性状特定手段6と、判定手段7と、出力手段8とを備えている。
撮影手段2は、アジテータトラックのシュートを流下するコンクリートを撮影するカメラである。本実施形態では、動画を撮影する。撮影手段2によって撮影された動画は、通信手段3を介して記憶手段4および出力手段8に送信される。撮影手段2は、アジテータトラックに固定してもよいし、アジテータトラックの近傍(例えば、シュートと対向する位置)に設けられた支持部材等に固定してもよい。
【0014】
通信手段3は、有線又は無線により、コンクリート性状特定装置1の手段間でのデータや信号の送受信を行う。
記憶手段4、算出手段5、性状特定手段6および判定手段7は、いわゆるパーソナルコンピューター10に組み込まれており、通信手段3を介して撮影手段2および出力手段8
と接続されている。
【0015】
記憶手段4は、撮影手段2の撮影データ、算出手段5の算出結果、性状特定手段6の特定結果、判定手段7の判定結果等を記憶する。また、記憶手段4には、性状(スランプ、スランプフローまたは500mmフロー到達時間)が既知のコンクリートがシュートを流下する際の流量および流動速度と、性状との相関データ(相関関係)が格納されている。相関データは、シュートの角度や、アジデータトラックのドラムゲートの開度に応じて多数格納されている。さらに、記憶手段4には、アジテータトラックの車種毎のシュートの形状(断面寸法等)も記憶されている。
【0016】
算出手段5は、撮影手段2の撮影動画から打設用コンクリートの流量および流動速度を算出する。算出手段5が起動すると、記憶手段4に格納された撮影動画を読み込み、撮影動画からコンクリートCの流量および流動速度を算出する。
図2にシュートSを流下するコンクリートCを示す。コンクリートCの流量は、シュートSを流下する際のコンクリートCの流動幅Wと、平均の流動速度(平均流動速度)を画像から推定し、流動幅WとシュートSの形状から求まるコンクリートCの断面積に平均流動速度を乗じることにより算出する。流動速度Vは、シュートSを流下するコンクリートCの中に含まれる特定の骨材が所定の距離Lを流下するのに要する時間tまたは、骨材が所定の時間tの間に流下する距離Lを計測し、距離Lを時間tで除することにより算出する(V=L/t)。流動速度Vは、少なくともシュートSを流下するコンクリートCの幅方向中央部と両側部との3箇所においてそれぞれ算出する。平均流動速度は、幅方向において異なる位置で測定した流動速度Vの平均値である。また、算出手段5は、中央部の流動速度と、側部の流動速度との速度比も算出する。算出手段5による算出結果(流量、流動速度、速度比)は、記憶手段4に保存される。
【0017】
性状特定手段6は、算出手段5により算出された流量および流動速度と、記憶手段4に記憶された相関データとを比較して打設用コンクリートのスランプ、スランプフローまたは500mmフロー到達時間を特定する。すなわち、算出手段5により算出されたコンクリートCの流量および流動速度(速度比)を、記憶手段4から読みだした相関データに当てはめて、当該コンクリートに対応するスランプ、スランプフローまたは500mmフロー到達時間を抽出する。
性状特定手段6による特定結果は、記憶手段4に保存されるとともに、出力手段8に表示される。
【0018】
判定手段7は、コンクリートCの性状(スランプ、スランプフローまたは500mmフロー到達時間)が予め設定された管理基準値の範囲内であることを確認する。管理基準値は、打込み時に不具合が生じることがないように工事条件等に応じて予め設定された値として、記憶手段4に保存されている。コンクリートCの性状が管理基準値の範囲外の場合は、出力手段8に警報が発信される。警報が発信されると、出力手段8のモニターに警報が表示されるとともに、警報音が鳴る。
【0019】
出力手段8は、いわゆるモニターやプリンター等を備えている。出力手段8は、通信手段3を介してコンピュータに接続されている。また、本実施形態の出力手段8は、警報音等を発するスピーカーも備えている。撮影手段2より撮影された撮影画像(動画)が送信されると、出力手段8のモニターに表示する。また、出力手段8は、算出手段5によって算出された算出結果、性状特定手段6による特定結果、判定手段7による判定結果等をモニターやプリンターにより出力する(表示、印刷等)。
【0020】
次に、コンクリート性状特定装置1を利用したコンクリートCの性状確認方法について説明する。
図3にコンクリートCの性状確認方法のフローチャートを示す。
図3に示すように、コンクリートCの性状確認方法は、判定基準作成工程S1と、撮影工程S2と、算出工程S3と、性状特定工程S4とを備えている。判定基準作成工程S1は、プラントなどにおいて実施し、撮影工程S2,算出工程S3および性状特定工程S4は施工現場において搬入されたコンクリートCに対して実施する。
【0021】
判定基準作成工程S1は、シュートSを流下するコンクリートCの性状を評価するための評価判定基準(相関データ)を作成する工程である。判定基準作成工程S1では、コンクリートCを製造するプラントなどにおいて、打設用コンクリートの輸送に使用するものと同種のアジテータトラックを使用して、打設用コンクリートの評価判定基準を作成するために必要なデータを採取する。
図4に判定基準作成工程S1の各作業を示す。
図4に示すように、判定基準作成工程S1では、判定用流量作成作業S11と、判定用速度比作成作業S12と、相関データ作成作業S13とを行う。
【0022】
判定用流量作成作業S11では、スランプ、スランプフローまたは500mmフロー到達時間が既知の試験用コンクリートを所定の角度で傾斜したシュート(試験用シュート)Sを流下させた際の当該試験用コンクリートの流動幅Wおよび流動速度Vを測定し、この流動幅Wおよび流動速度Vを利用して判定用流量Fを算出する。流動幅Wおよび流動速度Vは、シュートSを流下する試験用コンクリートの撮影動画から測定する。流動幅Wは、シュートSを流下するコンクリートCを平面視した際の流下方向に対して直交する方向の長さである(
図2参照)。流動速度は、コンクリートCの中から選択した骨材が所定の距離を流下する時間あるいは所定の時間に流下する距離を計測し、距離を時間で除することにより算出する。流動速度は、コンクリートCの幅方向の複数個所において測定する。複数個所で測定された流動速度の平均値(平均流動速度)を算出する。平均流動速度を算出したら、コンクリートCの流動幅WとシュートSの形状から算出されるコンクリートCの断面積に平均流動速度を乗ずることにより判定用流量を算出する。
【0023】
判定用速度比作成作業S12では、シュートSを流下する試験用コンクリートの幅方向中央部の流動速度と幅方向側部の流動速度とを利用して判定用速度比を算出する。判定用速度比は、幅方向中央部の流動速度と幅方向側部の流動速度の比である。本実施形態では、幅方向側部の流動速度を測定する位置として、コンクリート表面におけるコンクリートCとシュートSとの境界から50~60mm内側の範囲内とした。これは、コンクリートCに含まれる骨材の最大径の2.5倍から3倍以内となるように設定したものである。算出した判定用速度比は、スランプ、スランプフローまたは500mmフロー到達時間の値とともに記憶手段に保存する。
【0024】
相関データ作成作業S13では、試験用コンクリートのスランプ、スランプフローまたは500mmフロー到達時間(例えば、スランプ10.5cm~23cm、スランプフロー400mm~700mm)、判定用流量および判定用速度比の相関関係を規定した相関データを作成する。相関データは、判定用流量作成作業S11において算出した判定用流量および判定用速度比作成作業S12において算出した判定用速度比を、試験用コンクリートのスランプまたはスランプフローの値に関連付けてまとめたデータである。相関データは、必要に応じてグラフとして出力手段8に表示する。
本実施形態では、アジテータトラックのドラムゲートの開度(例えば、大中小の3段階)やシュートSの傾斜角度を変化させた場合の相関データを作成する。すなわち、アジテータトラックのシュートSの傾斜角度を一定としてアジテータトラックのドラムゲートの開度毎の相関データと、アジテータトラックのドラムゲートの開度を一定としてアジテータトラックのシュートSの傾斜角度毎の相関データを作成する。また、相関データは、使用することが予想されるアジテータトラックのシュートSの断面形状毎に作成しておく。
【0025】
撮影工程S2は、施工現場に搬入された打設用コンクリートがシュートSを流下する状況を撮影する工程である。このとき、シュートSの角度およびドラムゲートの開度を記録しておく。本実施形態では、動画を撮影する。撮影された動画は、出力手段8に表示されるとともに、シュートSの角度およびドラムゲートの開度とともに記憶手段4に保存される。シュートSの角度は、シュートSに取り付けられた傾斜計により測定する。傾斜計の測定結果は、通信手段3を介して記憶手段4に送信してもよいし、測定者が入力してもよい。また、ドラムゲートの開度は、予めドラムゲートにセンサを設置しておくことで、自動的に測定して通信手段3を介して記憶手段4に送信するようにしてもよいし、測定者がドラムゲートの開度を確認して入力してもよい。
【0026】
算出工程S3は、打設用コンクリートの撮影動画から当該打設用コンクリートの流量および速度比を算出する工程である。打設用コンクリートの流量は、シュートSを流下する打設用コンクリートの流動幅Wおよび平均流動速度から算出する。また、打設用コンクリートの速度比は、打設用コンクリートのシュートSの幅方向中央部の流動速度と側部の流動速度とから算出する。
撮影手段2によりシュートSを流下する打設用コンクリートの撮影が開始されると、算出手段5が起動する。算出手段5は、記憶手段4に格納された動画から、流量および速度比を算出する。流量は、打設用コンクリートの流量幅の測定値と、シュートSの断面形状から打設用コンクリートの断面積を算出し、これにシュートSを流下する打設用コンクリートの平均流動速度を乗ずることにより算出する。平均流動速度は、幅方向における複数個所(中央部と側部)において算出した流動速度の平均値である。本実施形態では、打設用コンクリートの幅方向中央部と側部において流動速度を算出し、これらの平均値により平均流動速度を算出する。幅方向側部は、コンクリート表面におけるコンクリートCとシュートSとの境界から50~60mm内側の範囲内とする。流動速度は、シュートSを流下する打設用コンクリート中の骨材が所定の距離を流下する時間あるいは所定の時間に流下する距離を計測し、この距離を時間で除することにより算出する。
なお、算出手段5の起動は、コンピュータを操作することより行ってもよい。算出手段5の算出結果は、記憶手段4に保存される。流量および速度比は、シュートSの角度やドラムゲートの開度とともに保存される。
【0027】
性状特定工程S4は、打設用コンクリートの性状(スランプ、スランプフローまたは500mmフロー到達時間)を特定する工程である。打設用コンクリートの性状の特定は、流量および速度比を、記憶手段4に保存された相関データに当てはめることにより行う。このとき、打設用コンクリートを流下させた際のアジテータトラックのドラムゲートの開度およびシュートSの傾斜角度に対応する相関データを使用する。
算出手段5により流量および速度比の算出が完了すると、性状特定手段6が起動する。性状特定手段6は、記憶手段4に格納されたデータの中から、シュートSの角度およびドラムゲートの開度が一致する相関データを読み出し、算出工程S3において算出された流量および速度比を相関データの判定用流量および判定用速度比に当てはめる(補間した値に当てはめる場合も含む)ことで、打設用コンクリートの流量および速度比に対応するコンクリートCの性状(スランプ、スランプフローまたは500mmフロー到達時間)を特定する。性状特定手段6により特定された打設用コンクリートの性状は、出力手段8に表示される。また、特定された打設用コンクリートの性状は、アジテータトラックから排出し始めたとき(あるいはプラントから搬出された時間)からの経過時間とともに記憶手段に保存される。
打設用コンクリートの性状が特定されると、判定手段7が起動し、打設用コンクリートの性状と、予め設定された管理基準値とを比較する。特定された打設用コンクリートの性状が、所定の管理基準値の範囲外となる場合には、出力手段8が警報を発する。
【0028】
以上、本実施形態のコンクリートCの性状確認方法によれば、シュートSを流れるコンクリートCの撮影動画に基づいて、コンクリートCの性状(スランプ、スランプフローまたは500mmフロー到達時間)を確認するため、全数検査の実施が可能となる。その結果、要求性能を満たさないコンクリートCを使用するリスクを低減できる。
また、シュートSを流れるコンクリートCの幅や、複数個所において測定した流動速度を利用してコンクリートCの性状を確認するため、コンクリートCの流量の変化に応じた判定が可能となる。そのため、施工状況に応じて打込み量が変化する場合であっても、全数検査を効率的に行うことができる。
また、予め作成された相関データに測定データに基づく算出結果を当てはめてコンクリートCの性状を特定するため、定量的な性状確認が可能である。
また、相関データは、ドラムゲートの開度やシュートSの傾斜角度に関連付けられているため、施工時のドラムゲートの開度やシュートSの角度に応じた性状の特定が可能となり、より正確な判定が可能となる。
コンクリートの性状の特定は、コンクリート性状特定装置1により自動的に行われるため、定量的な評価が可能である。
【0029】
ここで、シュートSを流下するコンクリートCの流動速度の傾向は、コンクリートCの配合によって変化する。
図5は流動速度とスランプ又はスランプフローとの関係の一例を示すグラフである。また、
図6は、シュートSを流れるコンクリートCを示す写真である。スランプで評価するコンクリートCは、同じ調配合でも水量によって多少の変動はあるものの、
図5に示すように、スランプが大きくなるに従って流動速度も大きくなる傾向を示す。また、
図6(a)に示すように、スランプで評価するコンクリートCは、シュートSを流下する際に全体的に同じ速度(側部と中央部の速度比が概ね1)で流れる傾向にある(
図6(a)の縦方向の矢印は、コンクリートCの流動速度を示す)。一方、スランプフローで評価するコンクリートCは、
図5に示すように、粘性の増加に伴って流動速度が低下する傾向がある。
図6(b)に示すように、粘性が高いスランプフローで評価するコンクリートCは、シュートSの側部においてシュートSに接しているコンクリートCと、シュートSの中央部のシュートSに接していないコンクリートCとの間に流動速度が変化する(
図6(b)の縦方向の矢印は、コンクリートcの流動速度を示す)。このように、シュートSを流下するコンクリートCは、配合によって、シュートSの中央部と側部とにおいて、流動速度が変化する場合がある。これは、すべりを伴う管内流動(Buckingham-Reiner式)と同等の現象が、シュート流下するコンクリートCにも生じているものと推測される。
【0030】
Buckingham-Reiner式(式1)は、管P内を流れる試料C0と管壁との間に生じる付着力(試料C0の粘性)および試料C0と管壁の界面に働くせん断力により、管P中央部の栓流部分C2の試料C0の流動速度とそれ以外の部分(管壁側)C1の試料C0の流動速度との間に差が生じること現象に基づいて、管P内における試料C0の流量とすべり速度の関係を求めるものである(
図7参照)。
図7はBuckingham-Reiner式の参考図である。
図7に示すように、栓流部分C2(x
2~x
3の区間)では、流動速度V
2が一定であるのに対しそれ以外の部分(x
1~x
2およびx
3~x
4)では、管壁に近付くにしたがって、流動速度V
1が低下する。これは、試料C0と管壁との間に生じる付着力(試料の粘性)および試料C0と管壁の界面に働くせん断力が影響するものである。せん断力が付着力よりも大きい場合にすべりが発生する。付着力が大きくなるほど栓流部分C2とその他の部分C1との流動速度V
1,V
2の差が大きくなり、付着力が小さくなるほど栓流部分C2とその他の部分C1との流動速度V
1,V
2の差が小さくなる。
【0031】
【0032】
そして、断面弧状(半円状)のシュートSにおいても、コンクリートCの配合により、管と同様の現象が生じるものと推測される。ここで、
図8は、シュートSにおけるすべりを伴う管内流動の概要を示す説明図であって、(a)はスランプで評価されるコンクリートC、(b)はスランプフローで評価されるコンクリートC、(c)は流量が大きいコンクリートC、(d)は流量が小さいコンクリートCの流動速度vと位置xの関係を示している。なお、シュートSを流下するコンクリートCは、コンクリートCの配合やコンクリートCの流量によって流動速度vに異なる現象が生じる。スランプで評価されるコンクリートCは、
図8(a)に示すように、栓流部分C2が生じることで、中央部では流動速度が一定で、側部ではシュートSに近付くにしたがって(外側に行くにしたがって)流動速度vが低下している。一方、スランプフローで評価させるコンクリートCは、
図8(b)に示すように、栓流部分がコンクリートC内に生じないため、中央部からシュートSに近付くにしたがって流動速度が低下する現象が生じる。また、コンクリートCの流量が大きい場合には、
図8(c)に示すように、栓流部分C2が生じることで、中央部では流動速度が一定で、側部ではシュートSに近付くにしたがって流動速度が低下する。一方、流量が小さい場合は、
図8(d)に示すように、コンクリートC内に栓流部分が生じないため、中央部からシュートSに近付くにしたがって流動速度が低下する傾向を示す。
【0033】
次に、シュートSを流下するコンクリートCについて、シュート中央部と側部における流動速度の違いを確認した実験結果を示す。
図9(a)および(b)にスランプまたはスランプフローと流動速度との関係を示す。
図9(a)は、コンクリートCの流量を30m
3/hにして流下させた場合、(b)は流量を60m
3/hにした場合である。
図9(a)および(b)に示すように、スランプで評価するコンクリートCは、スランプが小さいときは、中央部と側部における流動速度に差は生じないが、スランプが大きくなると(20cm以上)中央部の流動速度と側部の流動速度に差が生じる。また、スランプフローで評価するコンクリートC(中流動コンクリートまたは高流動コンクリート)は、スランプフローが大きくなると幅方向中央部の流動速度と側部の流動速度との差が大きくなる傾向を示す。したがって、コンクリートCの性状(スランプまたはスランプフロー)によってシュートSを流下するコンクリートCの幅方向中央と側部との流動速度に差が生じることが確認できた。
【0034】
このように、シュートSを流下するコンクリートC(特にスランプフローでコンシステンシーを評価する中流動コンクリートあるいはスランプフローと500mmフロー到達時間の2つのパラメータでコンシステンシーを評価する高流動コンクリート)は、シュートSの中央部とシュートSの側部との間で速度に違いが生じる場合がある。一方、本実施形態のコンクリートCの性状確認方法によれば、シュートSの中央部の流動速度と側部の流動速度の速度比を用いるため、コンクリートCの配合や流量に関わらず、より正確な評価を行うことができる。
【0035】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、前述の実施形態に限られず、前記の各構成要素については本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
例えば、前記実施形態では、現場において、打設用コンクリートの性状を特定する場合について説明したが、プラントにおいても撮影工程S2~性状特定工程S4を実施して、コンクリート製造後の経過時間と関連付けることで、コンクリート性状の経時変化を測定してもよい。コンクリート性状の経時変化を把握すれば、プラントからの輸送時間に応じてコンクリートCの配合を再設定することができる。例えば、交通事情等により輸送時間が長くなることが想定される場合には、コンクリート性状の経時変化と照らし合わせて打設用コンクリートが所定の管理基準値に収まるように配合を設定し直すことができる。
また、前記実施形態では、撮影手段により撮影された動画を利用してコンクリートCの流量や流動速度を算出するものとしたが、流量や流動速度の算出に使用する動画には、所定の時間間隔をあけて撮影された少なくとも二つの静止画を含むものとする。
【符号の説明】
【0036】
1 コンクリート性状特定装置
2 撮影手段
3 通信手段
4 記憶手段
5 算出手段
6 性状特定手段
7 判定手段
8 出力手段
10 パーソナルコンピューター
S シュート
C コンクリート
S1 判定基準作成工程
S2 撮影工程
S3 算出工程
S4 性状特定工程
S11 判定用流量作成作業
S12 判定用速度比作成作業
S13 相関データ作成作業