IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ JFEエンジニアリング株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-スラグの色相制御装置と方法 図1
  • 特開-スラグの色相制御装置と方法 図2
  • 特開-スラグの色相制御装置と方法 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022116475
(43)【公開日】2022-08-10
(54)【発明の名称】スラグの色相制御装置と方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 5/00 20060101AFI20220803BHJP
   F27D 15/00 20060101ALI20220803BHJP
【FI】
C04B5/00 B
F27D15/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021012652
(22)【出願日】2021-01-29
(71)【出願人】
【識別番号】000004123
【氏名又は名称】JFEエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085109
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 政浩
(72)【発明者】
【氏名】多田 光宏
(72)【発明者】
【氏名】明石 哲夫
【テーマコード(参考)】
4G112
4K063
【Fターム(参考)】
4G112JB03
4G112JC06
4K063AA04
4K063BA13
4K063CA03
4K063HA15
4K063HA65
(57)【要約】
【課題】 廃棄物や焼却灰を溶融して得られる黒色スラグを緑色や茶色にして種々の用途に使用範囲を広げる。
【解決手段】 上記課題は、廃棄物または焼却灰を溶融し、スラグを生成する溶融炉と、前記溶融炉で生成された前記スラグの成分を分析する分析手段と、前記分析手段で分析された分析結果をもとに、前記スラグを所望の色相にするための添加剤を選定する添加剤選定手段と、前記溶融炉で生成され排出された前記スラグと、前記添加剤選定手段により選定された添加剤を溶融混合し改質スラグを生成する混合炉と、前記混合炉で生成された前記改質スラグを受け入れ、冷却する冷却手段とを備えたスラグの色相制御装置と、色相制御方法によって解決される。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃棄物または焼却灰を溶融し、スラグを生成する溶融炉と、
前記溶融炉で生成された前記スラグの成分を分析する分析手段と、
前記分析手段で分析された分析結果をもとに、前記スラグを所望の色相にするための添加剤を選定する添加剤選定手段と、
前記溶融炉で生成され排出された前記スラグと、前記添加剤選定手段により選定された添加剤を溶融混合し改質スラグを生成する混合炉と、
前記混合炉で生成された前記改質スラグを受け入れ、冷却する冷却手段と、
を備えたスラグの色相制御装置。
【請求項2】
前記冷却手段によって冷却された前記改質スラグの色相を測定する色相測定手段を備えた請求項1に記載のスラグの色相制御装置。
【請求項3】
前記改質スラグが所望の色相になっていない場合、前記改質スラグの色相を再調整する色相再調整手段を備えた請求項1又は2に記載のスラグの色相制御装置。
【請求項4】
廃棄物または焼却灰を溶融してスラグを生成し、前記スラグの成分を分析して、その分析結果をもとに、前記スラグを所望の色相にするための添加剤を選定し、選定された添加剤を前記スラグに混合して酸化性または還元性雰囲気で溶融してその色相を改質することを特徴とするスラグの色相制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般廃棄物や焼却灰を溶融した後に生成されるスラグの色相を制御する装置と方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から一般廃棄物や焼却灰を溶融炉で溶融した後に生成されるスラグの有効活用がなされている。このスラグは、一般的に黒色を呈しており、用途別に一定の処理がなされた後、土木用資材や建設用資材、道路用路盤材として用いられている。
【0003】
従来例としては、例えば特許文献1には、廃棄物を溶融固化処理して得たスラグを土木建設資材として供給するスラグの改質方法に関する発明が開示されている。この発明によれば、スラグを塩化カルシウムの溶融物中に浸漬させることによってスラグの表面が侵食され、その粒子形状、表面性状、および黒色度を同時に改善することができるので、土木建設資材として使用可能なスラグが得られる。
【0004】
また、特許文献2には、溶融スラグの再利用を図ることができる溶融スラグの着色方法に関する発明が開示されている。この発明によれば、金属炭化物または黒鉛の存在下において、灰溶融スラグに、酸化チタンを1~10重量%添加して溶融させることにより、溶融スラグを黄金色に着色させ、溶融スラグを再利用することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10-101383号公報
【特許文献2】特開平8-259281号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】山口晃: “ガラスの着色について” 色材, 52,11 p.642-649, 1979
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示された発明では、スラグの黒色度を改善するための工程が複雑になるという課題があった。また、特許文献2に開示された発明では、溶融スラグを黄金色にしか着色できないという課題があった。本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、容易に他の色相に制御することが可能なスラグの色相制御装置及びスラグの色相制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、廃棄物を焼却処理した残渣をスラグ化して有効利用することを研究していて、たまたま緑色のスラグに遭遇し、これが上品な色合いで商品価値が高いと考えた。そこで、緑色にする添加剤として酸化鉄を考え、2価の鉄にすれば緑色に、3価の鉄にすれば茶色になるだろうと着色ガラスの性状から考えた。その性状の記載例としては、たとえば、非特許文献1では、鉄イオン着色として、Fe2+はガラスに青色を帯びさせ、Fe3+は黄褐色を与えるとの記載がある。そして、スラグ中の2価の鉄と3価の鉄の平衡は雰囲気と塩基度が関係しているので、酸素分圧が減少して還元性が増し、塩基度が増加すると、鉄イオンが3価から2価に変化するだろうと考えた。そこで、スラグに酸化鉄を加え、塩基度を調整して雰囲気を酸化性あるいは還元性にして溶融したところ、塩基度を高めて還元性雰囲気で溶融すれば緑色になり、一方、雰囲気を酸化性にすれば塩基度に係わりなく茶色になることを見出した。
【0009】
本発明は、係る知見に基いてなされたものであり、廃棄物または焼却灰を溶融し、スラグを生成する溶融炉と、前記溶融炉で生成された前記スラグの成分を分析する分析手段と、前記分析手段で分析された分析結果をもとに、前記スラグを所望の色相にするための添加剤を選定する添加剤選定手段と、前記溶融炉で生成され排出された前記スラグと、前記添加剤選定手段により選定された添加剤を溶融混合し改質スラグを生成する混合炉と、前記混合炉で生成された前記改質スラグを受け入れ、冷却する冷却手段とを備えたスラグの色相制御装置と、廃棄物または焼却灰を溶融してスラグを生成し、前記スラグの成分を分析して、その分析結果をもとに、前記スラグを所望の色相にするための添加剤を選定し、選定された添加剤を前記スラグに混合して酸化性または還元性雰囲気で溶融してその色相を改質することを特徴とするスラグの色相制御方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、廃棄物を焼却し、残渣を溶融して得られた従来黒色であったスラグを簡単な手段で緑色又は茶色に変えて商品価値を高め、用途範囲を広げて廃棄物の焼却残渣を有効利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の色相制御の一例を示すブロック図である。
図2】本発明の色相制御で得られたスラグの写真である。
図3】本発明の色相制御で得られたスラグの写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明で色相を制御されるスラグは、廃棄物または焼却灰を溶融されることによって生成されるものである。廃棄物の種類は問わず、例えば、刈り取った草木類、家屋等の廃材、廃プラスチック等の工場廃棄物や食品加工廃棄物、生ごみや廃プラスチック、草木類等が混在する都市ごみなどが含まれる。
【0013】
廃棄物または焼却灰を溶融してスラグを生成する溶融炉は、一般にスラグの溶融に用いられる炉であればよいが、未焼却の廃棄物の場合は、まず、燃焼させて焼却残渣としてから溶融する炉、例えばガス化溶融炉、ガス化改質炉などが用いられる。他の炉で焼却処理されて残った主灰や飛灰などの焼却残渣である焼却灰や燃焼性のない廃棄物の場合には、灰溶融炉があり、さらに、この灰溶融炉は、燃料式(バーナー式灰溶融炉、コークスベッド式灰溶融炉)と電気式(電気抵抗式灰溶融炉、プラズマ式灰溶融炉)などに分類される炉形式を用いる。
【0014】
本発明のスラグの色相制御は、酸化鉄を用いて緑色または茶色にすることによって行われる。そこで、スラグの酸化鉄の含量が不足する場合には、酸化鉄を加える。ただし、硫黄分やりん分を多く含む酸化鉄は好ましくない。酸化鉄は2価でも3価でもよく、酸化鉄には、圧延工場で生成するスケール(2価)でもよい。酸化鉄の含量はFe換算で0.1質量%以上でおおむね10質量%程度まで添加する。添加量によって色に特段の違いはないが、0.1質量%を下回ると色が不明瞭になる。酸化鉄の添加量が多すぎると溶融するためのエネルギーを無駄に使用することになるので、おおよそ1質量%程度でよい。
酸化鉄を加えた溶融状態では、
【0015】
【化1】
の反応が成立していると考えられる。
【0016】
そして、色を緑色にする場合は、塩基度(CaO/SiOの重量比)を1以上で雰囲気を還元性雰囲気にする。塩基度を大きくすると、式1の酸素イオンの化学エネルギーが大きくなるため、式1の反応は左向きに進行し、鉄2価イオンが多くなると考えられる。また、還元性雰囲気にすると、酸素分圧が低下するので、式1の反応は左向きに進行し、やはり鉄2価イオンが多くなると考えられる。塩基度を大きくするもしくは還元性雰囲気にするとスラグの緑色は濃くなる傾向がある。式1の反応は、高温での反応なので、十分はやく平衡に到達すると考えらえる。
【0017】
一方、色を茶色にする場合は、雰囲気を酸化性雰囲気にすれば、塩基度にかかわらず茶色になる。酸化性雰囲気にすると、酸素分圧が増加するので、式1の反応は右向きに進行し、やはり鉄3価イオンが多くなると考えられる。酸化性雰囲気にするとスラグの茶色は濃くなる傾向がある。
【0018】
また、塩基度を小さくすると、式1の酸素イオンの化学エネルギーが小さくなるため、式1の反応は右向きに進行し、鉄3価イオンが多くなると考えられたが、明確な差異は認められなかった。
【0019】
塩基度の調整は、塩基度調整剤の添加によって行うが、塩基度を高める場合には、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、酸化マグネシウムや炭酸マグネシウムの複合塩などのカルシウムやマグネシウムの化合物を加える。カルシウム化合物のなかでも、例えば、塩化カルシウムなどはスラグを潮解させるので好ましくない。一方、塩基度を低下させる場合には、二酸化珪素を加える。二酸化珪素は、珪石や土壌などの形で加えることができる。
【0020】
雰囲気を酸化性または還元性にする手段は、通常は、空気をもとにした雰囲気に酸化性ガスや還元性ガスを存在させて、雰囲気全体を酸化性あるいは還元性にすることであるが、実用的には酸化性ガスとしては酸素ガスが、還元性ガスとしては一酸化炭素ガスが用いられる。そして、還元性雰囲気の場合は、酸素ガス分圧が0.1気圧以下、好ましくは10-3気圧以下にされ、酸化性雰囲気の場合は酸素ガスを分圧が0.1気圧以上、通常大気がそのまま使用される。
【0021】
溶融炉で生成したスラグは色相制御を行うために、まず成分分析を行う。本発明においては、色相の制御をスラグに含まれる酸化鉄と塩基度(CaO/SiOの重量比)で行うので、成分分析はこれらについて行う。分析手段としては、蛍光X線分析などを利用できる。
【0022】
次に、この成分分析の結果をもとに、スラグを所望の色相にするため添加剤の選定を行う。色相を制御したスラグを市場に出すためには同一品質のものを供給できるようにしなければならないので、単にスラグを緑色または茶色にするだけではなく、色合いや色の濃度もなるべく同一になるようにする。そこで、スラグの酸化鉄(たとえば、Fe、FeOなど)の含有量が設定値の範囲内になるように酸化鉄の添加量を定める。そして、塩基度が設定値の範囲内になるように石灰または二酸化珪素の添加量を定める。
【0023】
添加剤選定手段は、これらを行う手段であるので、酸化鉄の投入量決定手段、計量手段と供給手段、スラグの塩基度に応じた石灰または珪石の選択手段と投入量決定手段、計量手段と供給手段などからなる。
【0024】
添加剤の選定と投入量が決まったら、これを溶融炉で生成されたスラグに投入する。酸化鉄は、通常は粉末であるが溶液やスラリーで加えることも可能である。このとき、スラグは溶融炉から出されているので、これを混合炉に入れて溶融して前記で定められた添加剤を投入して色相の改質をおこなう。
【0025】
混合炉は、スラグを溶融できる炉であればよく、やはり、電気炉、誘導加熱炉、プラズマ溶融炉などが用いられる。これらの炉は、雰囲気を酸化性と還元性のいずれにも変えられるものであるので、原則として密閉構造のものが用いられる。ただし、スラグを生成した溶融炉からスラグを取り出さないで、添加剤を投入することもでき、その場合は、スラグを生成した溶融炉が混合炉と兼用になる。
【0026】
添加物の添加時期は、スラグの溶融前後いずれでもよく、また、一度に投入しても連続的あるいは間欠的に投入してもよい。
【0027】
混合炉内の加熱温度はスラグを溶融できればよく通常1100~1500℃程度で、加熱時間は色相変化がほぼ完了する程度、現実的には3分~30時間程度でよい。
【0028】
混合炉内で色相の改質が行われた改質スラグは、取り出されて冷却される。
【0029】
冷却手段としては、スラグをどのような形状にするかによって種々選択でき、水冷、空冷等いずれでもよいが、通常は破砕物にすることと操業効率から水冷で行われる。装置としては、水砕装置、徐冷装置(パン冷却)、双ロール装置などを使用することができる。
【0030】
冷却手段で冷却された改質スラグは、必要により、その色相を測定する色相測定手段を設ける。この色相測定手段は、得られた改質スラグが所定の色相を有しているかどうか確認するものであり、スラグの可視光域での吸収スペクトルについて可視分光測定器を用いて測定することや、簡易には目視判定などが用いられる。
【0031】
色相測定手段で改質スラグが所定の色相になっていなかった場合、この改質スラグの色相を再調整する。この色相再調整手段としては、少量ならば混合炉に再度投入して、色相を変えることが望ましいが、量が多い場合、もとの溶融炉に再度投入して溶融する。
【0032】
本発明によるスラグの色相制御の一例を図1に示す。同図に示すように廃棄物または焼却灰を灰溶融炉で溶融してスラグを生成し、そのスラグの成分を分析して、所望の色相になるように添加剤である酸化鉄や塩基度調整剤の添加量を計算して、これを混合炉に加えてスラグとともに混合溶融し、スラグを混合炉から取り出して冷却装置で冷却して、色相を測定し、所定の色相になっていれば保管ヤードで保管する。
【実施例0033】
草木類を主とする焼却灰を電気炉で1300℃に加熱して溶融し、これを水に投入して急冷し、緑黒色、黒色、緑色の3種のサンプルを得た。
この3種のサンプルを蛍光X線分析装置で分析した結果を表1に示す。
【0034】
【表1】
【0035】
3種のサンプルはいずれも淡い草色と黒褐色の粒子の混合であり、緑黒色のサンプルはいずれの粒子も相当量含まれており、黒色のサンプルは黒褐色の粒子が多く、緑色のサンプルはほとんどの粒子が淡い草色であった。
【0036】
各粒子をいずれも5gずつアルミナるつぼと炭素るつぼに入れ、大気雰囲気で1300℃の状態で30分保持した後、るつぼごと水中に入れて急冷した。
【0037】
得られた各スラグを×50のマイクロスコープで撮影した写真を図2に示す。アルミナるつぼの酸化性雰囲気で溶融したスラグはいずれも茶色になったが、炭素るつぼの還元性雰囲気で溶融したスラグはいずれも緑色になった。
【実施例0038】
都市ごみ焼却施設から排出された焼却灰を電気炉で1300℃に加熱して溶融し、これを水に投入して急冷し、黒色のスラグを得た。このスラグを蛍光X線分析装置で分析したところ、CaO22.02重量%、SiO43.26重量%、Al15.79重量%、Fe0重量%で塩基度0.50であった。
【0039】
この黒色スラグに消石灰を加えて塩基度を1、1.2とし、Feを1.5重量%(外数で、スラグと消石灰の合計に対する値)添加した。
【0040】
こうして、塩基度が0.5、1、1.2の3種類のスラグを調整し、各5gを酸化性雰囲気はアルミナるつぼに、還元性雰囲気は炭素るつぼに入れて、いずれも大気中に1300℃で30分間保持した後、るつぼごと水中に入れて急冷した。
【0041】
得られた各スラグを×50のマイクロスコープで撮影した写真を図3に示す。アルミナるつぼの酸化性雰囲気で溶融したスラグは塩基度にかかわらず茶色に変化した。また、炭素るつぼの還元性雰囲気で溶融したスラグは、塩基度が0.5のものは元の無色のままであったが、塩基度1以上で緑色に変化した。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明で色相を制御したスラグは、緑色、茶色とも上品な色で、好感度が高いので、土木用資材や建築用資材、道路用路盤材に使用できる外、意匠性が高いため新たな用途にも使用できる。
図1
図2
図3