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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022116500
(43)【公開日】2022-08-10
(54)【発明の名称】駆動装置及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H02K 15/16 20060101AFI20220803BHJP
   H02K 9/19 20060101ALI20220803BHJP
【FI】
H02K15/16 Z
H02K9/19 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021012685
(22)【出願日】2021-01-29
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】井上 亮平
(72)【発明者】
【氏名】近藤 真治
【テーマコード(参考)】
5H609
5H615
【Fターム(参考)】
5H609BB03
5H609PP02
5H609PP07
5H609PP10
5H609QQ05
5H609RR31
5H609RR42
5H615AA01
5H615BB07
5H615PP01
5H615PP02
5H615SS09
5H615SS10
(57)【要約】
【課題】部品点数を少なく抑えつつ、ロータをケースに容易に組み付けることができる技術を提供する。
【解決手段】回転電機1とケース2とを備えた駆動装置の製造方法は、ロータ軸受B11を軸受支持部221に取り付ける軸受取付工程と、ステータ11をケース本体2Aに固定するステータ固定工程と、ロータ軸13をロータコア121に連結するロータ軸連結工程と、組付治具9の被係合部9bを治具支持部222の係合部222aに係合させる治具配置工程と、それらの工程の後に、組付治具9の案内外周面9aによって被案内部14の径方向Rの移動を規制しつつ、ロータ12を組付治具9に対して軸方向第1側L1へ相対移動させ、ロータ軸13をロータ軸受B11に嵌合させるロータ組付工程と、当該ロータ組付工程の後に、組付治具9を治具支持部222に対して軸方向第2側L2へ相対移動させて、組付治具9を撤去する治具撤去工程と、を備えている。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステータ及びロータを備えた回転電機と、当該回転電機を収容するケースと、を備えた駆動装置の製造方法であって、
前記ロータの回転軸心に沿う方向を軸方向とし、前記軸方向の一方側を軸方向第1側とし、前記軸方向の他方側を軸方向第2側として、
前記ケースは、前記回転電機の径方向の外側を覆う周壁部と、当該周壁部と一体的に成形され、前記回転電機の前記軸方向第1側を覆う側壁部と、を備えたケース本体を備え、
前記ロータは、ロータコアと、筒状に形成されたロータ軸と、を備え、
前記側壁部は、前記ロータ軸を回転可能に支持するためのロータ軸受を支持する軸受支持部と、前記ロータを前記ケース本体に組み付ける際に用いられる組付治具を支持する治具支持部と、を備え、
前記組付治具は、筒状に形成された案内外周面と、前記軸方向第1側の端部に設けられた被係合部と、を備え、
前記治具支持部は、前記軸受支持部よりも前記径方向の内側に配置され、前記被係合部が係合する係合部を備え、
前記ロータ軸は、当該ロータ軸の内周面から前記径方向の内側に突出し、前記組付治具の前記案内外周面により前記軸方向に案内される被案内部を備え、
前記ロータ軸受を前記軸受支持部に取り付ける軸受取付工程と、
前記ステータを前記ケース本体に固定するステータ固定工程と、
前記被案内部が前記ロータコアよりも前記軸方向第1側に位置すると共に前記ロータ軸と前記ロータコアとが一体的に回転するように、前記ロータ軸を前記ロータコアに連結するロータ軸連結工程と、
前記案内外周面の軸心が前記軸方向に沿うように、前記組付治具の前記被係合部を前記治具支持部の前記係合部に係合させる治具配置工程と、
前記軸受取付工程、前記ステータ固定工程、前記ロータ軸連結工程、及び前記治具配置工程の後に実行される工程であって、前記ロータ軸が前記組付治具に対して前記径方向の外側に位置する状態で、前記組付治具の前記案内外周面によって前記被案内部の前記径方向の移動を規制しつつ、前記ロータを前記組付治具に対して前記軸方向第1側へ相対移動させ、前記ロータ軸を前記ロータ軸受に嵌合させることにより、前記ロータを前記ケース本体に組み付けるロータ組付工程と、
前記ロータ組付工程の後に実行される工程であって、前記組付治具を前記治具支持部に対して前記軸方向第2側へ相対移動させて、前記組付治具を撤去する治具撤去工程と、を備えた、駆動装置の製造方法。
【請求項2】
前記ロータ組付工程において、前記被案内部が前記組付治具の前記案内外周面によって前記径方向の移動が規制されている状態で、前記ロータ軸の前記ロータ軸受に対する嵌合が開始されるように、前記被案内部と前記案内外周面と前記ロータ軸受との前記軸方向の位置関係が設定されている、請求項1に記載の駆動装置の製造方法。
【請求項3】
前記被案内部は、前記ロータ軸の周方向に連続する円環状に形成され、前記回転電機の動作中、前記ロータ軸の前記内周面に供給された油が前記軸方向第1側へ流れ出ることを規制する堰として機能する、請求項1又は2に記載の駆動装置の製造方法。
【請求項4】
ステータ及びロータを備えた回転電機と、当該回転電機を収容するケースと、を備えた駆動装置であって、
前記ロータの回転軸心に沿う方向を軸方向とし、前記軸方向の一方側を軸方向第1側とし、前記軸方向の他方側を軸方向第2側として、
前記ケースは、前記回転電機の径方向の外側を覆う周壁部と、当該周壁部と一体的に成形され、前記回転電機の前記軸方向第1側を覆う側壁部と、を備えたケース本体を備え、
前記ステータは、前記ケース本体に固定され、
前記ロータは、ロータコアと、ロータ軸受を介して前記ケース本体に対して回転可能に支持され、前記ロータコアと一体的に回転するように連結されたロータ軸と、を備え、
前記側壁部は、前記ロータ軸受を支持する軸受支持部と、前記ロータを前記ケース本体に組み付ける際に用いられる組付治具を支持する治具支持部と、を備え、
前記治具支持部は、前記軸受支持部よりも前記径方向の内側に配置され、前記組付治具の前記軸方向第1側の端部が係合する係合部を備え、
前記ロータ軸は、前記治具支持部よりも前記径方向の外側に配置された内周面を有する筒状に形成されており、前記ロータを前記ケース本体に組み付ける際に、前記ロータ軸よりも前記径方向の内側に配置される前記組付治具により前記軸方向に案内される被案内部を備え、
前記被案内部は、前記ロータコアよりも前記軸方向第1側において、前記ロータ軸の前記内周面から前記径方向の内側に突出するように形成され、
前記被案内部における前記径方向の内側の端面が、前記治具支持部の前記係合部よりも前記径方向の外側に配置されている、駆動装置。
【請求項5】
前記ロータ軸の前記内周面に油を供給する油供給部を更に備え、
前記被案内部は、前記ロータ軸の周方向に連続する円環状に形成され、前記ロータ軸の前記内周面に供給された油が前記軸方向第1側へ流れ出ることを規制する堰として機能する、請求項4に記載の駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステータ及びロータを備えた回転電機と、当該回転電機を収容するケースと、を備えた駆動装置、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
このような技術の一例が、下記の特許文献1に開示されている。以下、「背景技術」及び「発明が解決しようとする課題」の説明では、特許文献1における符号を括弧内に引用する。
【0003】
特許文献1の駆動装置(100)では、ロータ(12)は、ロータコア(121)と、ロータ軸受(92)を介してケース(5)に対して回転可能に支持され、ロータコア(121)と一体的に回転するように連結されたロータ軸(13)と、を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2019/098237号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
また、特許文献1の駆動装置(100)では、ケース(5)は、回転電機(1)の径方向(R)の外側を覆う周壁部(512)と、当該周壁部と一体的に成形され、回転電機(1)の軸方向の一方側(L2)を覆う側壁部(53)と、を備えている。そして、側壁部(53)は、ロータ軸受(92)を支持する軸受支持部を備えている。
【0006】
このような構成の駆動装置(100)の製造工程では、ロータ軸(13)をロータ軸受(92)に嵌合させて、ロータ(12)をケース(5)に組み付けるロータ組付工程が行われる。そして、ロータ(12)又はステータ(11)に永久磁石が配置されている場合には、ロータ組付工程においてステータ(11)とロータ(12)とが磁力により互いに吸引されるため、ステータ(11)に対するロータ(12)の径方向(R)の位置決めが難しく、ロータ軸(13)をロータ軸受(92)に嵌合させる作業の難易度が高いという問題があった。
【0007】
このような問題を解決する手段として、ロータ組付工程中、ロータ軸(13)を軸方向(L)の両側から支持することが考えられる。しかし、上述したように、ケース(5)の周壁部(512)と側壁部(53)とが一体的に成形されているため、ロータ軸(13)を軸方向の一方側(L2)から支持することは難しい。側壁部(53)に貫通孔を形成し、当該貫通孔を通してロータ軸(13)を支持することも可能であるが、ロータ組付工程の後に貫通孔を塞ぐカバーを別途設ける必要があり、部品点数が増える点で不利である。
【0008】
そこで、部品点数を少なく抑えつつ、ロータをケースに容易に組み付けることができる技術の実現が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記に鑑みた、駆動装置の製造方法の特徴構成は、
ステータ及びロータを備えた回転電機と、当該回転電機を収容するケースと、を備えた駆動装置の製造方法であって、
前記ロータの回転軸心に沿う方向を軸方向とし、前記軸方向の一方側を軸方向第1側とし、前記軸方向の他方側を軸方向第2側として、
前記ケースは、前記回転電機の径方向の外側を覆う周壁部と、当該周壁部と一体的に成形され、前記回転電機の前記軸方向第1側を覆う側壁部と、を備えたケース本体を備え、
前記ロータは、ロータコアと、筒状に形成されたロータ軸と、を備え、
前記側壁部は、前記ロータ軸を回転可能に支持するためのロータ軸受を支持する軸受支持部と、前記ロータを前記ケース本体に組み付ける際に用いられる組付治具を支持する治具支持部と、を備え、
前記組付治具は、筒状に形成された案内外周面と、前記軸方向第1側の端部に設けられた被係合部と、を備え、
前記治具支持部は、前記軸受支持部よりも前記径方向の内側に配置され、前記被係合部が係合する係合部を備え、
前記ロータ軸は、当該ロータ軸の内周面から前記径方向の内側に突出し、前記組付治具の前記案内外周面により前記軸方向に案内される被案内部を備え、
前記ロータ軸受を前記軸受支持部に取り付ける軸受取付工程と、
前記ステータを前記ケース本体に固定するステータ固定工程と、
前記被案内部が前記ロータコアよりも前記軸方向第1側に位置すると共に前記ロータ軸と前記ロータコアとが一体的に回転するように、前記ロータ軸を前記ロータコアに連結するロータ軸連結工程と、
前記案内外周面の軸心が前記軸方向に沿うように、前記組付治具の前記被係合部を前記治具支持部の前記係合部に係合させる治具配置工程と、
前記軸受取付工程、前記ステータ固定工程、前記ロータ軸連結工程、及び前記治具配置工程の後に実行される工程であって、前記ロータ軸が前記組付治具に対して前記径方向の外側に位置する状態で、前記組付治具の前記案内外周面によって前記被案内部の前記径方向の移動を規制しつつ、前記ロータを前記組付治具に対して前記軸方向第1側へ相対移動させ、前記ロータ軸を前記ロータ軸受に嵌合させることにより、前記ロータを前記ケース本体に組み付けるロータ組付工程と、
前記ロータ組付工程の後に実行される工程であって、前記組付治具を前記治具支持部に対して前記軸方向第2側へ相対移動させて、前記組付治具を撤去する治具撤去工程と、を備えている点にある。
【0010】
この特徴構成によれば、治具配置工程にて、組付治具の案内外周面の軸心が軸方向に沿うように、組付治具の被係合部を治具支持部の係合部に係合させる。その後、ロータ組付工程にて、ロータ軸が組付治具に対して径方向の外側に位置する状態で、組付治具の案内外周面によって被案内部の径方向の移動を規制しつつ、ロータを組付治具に対して軸方向第1側へ相対移動させ、ロータ軸をロータ軸受に嵌合させることができる。これにより、ケース本体の側壁部に、ロータ軸を支持するための貫通孔を設ける等、部品点数の増加を招く工程を行うことなく、ロータ組付工程にて、ステータに対するロータの径方向の位置決めを容易に行うことができる。したがって、ケース本体の周壁部と側壁部とが一体的に成形された構成であっても、部品点数を少なく抑えつつ、ロータをケースに容易に組み付けることができる。
また、本特徴構成によれば、ロータ組付工程の後に、組付治具を治具支持部に対して軸方向第2側へ相対移動させて、組付治具を撤去する治具撤去工程が行われる。これにより、駆動装置の使用時には不要となる組付治具を、製造工程の段階で適切に撤去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態に係る駆動装置の軸方向に沿う断面図
図2】実施形態に係る駆動装置のスケルトン図
図3】実施形態に係る駆動装置の回転電機周辺の構成を示す拡大図
図4】実施形態に係る車両用駆動装置の製造方法を示すフローチャート
図5】実施形態に係る治具配置工程を示す図
図6】実施形態に係るロータ組付工程を示す図
図7】実施形態に係るロータ組付工程を示す図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下では、実施形態に係る駆動装置100について、図面を参照して説明する。図1及び図2に示すように、駆動装置100は、ステータ11及びロータ12を備えた回転電機1と、当該回転電機1を収容するケース2と、を備えている。本実施形態では、駆動装置100は、入力部材3と、カウンタギヤ機構4と、差動歯車機構5と、一対の出力部材6と、制御ユニット7と、を更に備えた車両用駆動装置である。
【0013】
以下の説明では、回転電機1のロータ12の回転軸心である第1軸X1に沿う方向を「軸方向L」とする。そして、軸方向Lの一方側を「軸方向第1側L1」とし、軸方向Lの他方側を「軸方向第2側L2」とする。また、ロータ12等の回転部材の回転軸心に直交する方向を、各回転軸心を基準とした「径方向R」とする。なお、どの回転軸心を基準とするかを区別する必要がない場合やどの回転軸心を基準とするかが明らかである場合には、単に「径方向R」と記す場合がある。
【0014】
ケース2は、ケース本体2Aを備えている。ケース本体2Aは、回転電機1の径方向Rの外側を覆う第1周壁部21と、回転電機1の軸方向第1側L1を覆う側壁部22と、を備えている。第1周壁部21と側壁部22とは、一体的に成形されている。本実施形態では、第1周壁部21は、軸方向Lの両側が開口する筒状に形成されている。そして、側壁部22は、第1周壁部21の軸方向第1側L1の開口を塞ぐように形成されている。
【0015】
本実施形態では、ケース本体2Aは、第2周壁部23と、区画部24と、を更に備えている。第2周壁部23は、回転電機1、入力部材3、カウンタギヤ機構4、差動歯車機構5、及び一対の出力部材6の径方向Rの外側を覆うように形成されている。区画部24は、第1室A1と第2室A2とを区画するように形成されている。本実施形態では、区画部24は、軸方向Lに沿って延在するように形成されている。そのため、本実施形態では、第1室A1と第2室A2とが径方向Rに並んで配置されている。第1室A1及び第2室A2は、ケース2の内部に形成された空間である。第1室A1は、回転電機1、入力部材3、カウンタギヤ機構4、差動歯車機構5、及び一対の出力部材6を収容している。第2室A2は、制御ユニット7を収容している。
【0016】
本実施形態では、ケース2は、支持壁体2Bと、カバー2Cと、を更に備えている。支持壁体2Bは、回転電機1の軸方向第2側L2を覆うように形成されている。本実施形態では、支持壁体2Bは、第1周壁部21の軸方向第2側L2の開口を塞ぐように、第1周壁部21に接合されている。カバー2Cは、入力部材3、カウンタギヤ機構4、差動歯車機構5、及び一対の出力部材6の軸方向第2側L2を覆うように形成されている。本実施形態では、カバー2Cは、径方向Rに沿って延在するように形成されている。そして、カバー2Cは、ケース本体2Aの第2周壁部23及び区画部24に対して、軸方向第2側L2から接合されている。
【0017】
また、本実施形態では、支持壁体2Bは、第1室A1を回転電機室A11とギヤ機構室A12とに区画するように形成されている。回転電機室A11は、回転電機1を収容する空間である。ギヤ機構室A12は、入力部材3、カウンタギヤ機構4、差動歯車機構5、及び一対の出力部材6を収容する空間である。本実施形態では、ギヤ機構室A12は、回転電機室A11に対して軸方向第2側L2に配置されている。
【0018】
本実施形態では、ケース2の内部における第1周壁部21と側壁部22と支持壁体2Bとによって囲まれた空間が、回転電機室A11として形成されている。また、ケース2の内部における第2周壁部23と支持壁体2Bとカバー2Cとによって囲まれた空間が、ギヤ機構室A12として形成されている。
【0019】
また、本実施形態では、第2室A2は、収容壁部25と、蓋部26と、によって形成されている。つまり、本実施形態では、ケース2の内部における収容壁部25と蓋部26とによって囲まれた空間が、第2室A2として形成されている。
【0020】
収容壁部25は、制御ユニット7の側方を囲む筒状に形成されている。収容壁部25は、制御ユニット7を第2室A2に対して出し入れするための開口が形成されるように、区画部24から径方向Rに延在している。本実施形態では、収容壁部25は、特定の径方向R(図1における上下方向)に沿う軸心を有する四角筒状に形成されている。そして、径方向Rの外側(図1における上側)に向かって開口が形成されている。図1に示す例では、収容壁部25は、区画部24と一体的に成形されている。蓋部26は、収容壁部25の上記開口を塞ぐように形成されている。本実施形態では、蓋部26は、収容壁部25に対して着脱可能に構成されている。
【0021】
回転電機1は、車輪W(図2参照)の駆動力源として機能する。回転電機1は、電力の供給を受けて動力を発生するモータ(電動機)としての機能と、動力の供給を受けて電力を発生するジェネレータ(発電機)としての機能とを有している。具体的には、回転電機1は、バッテリやキャパシタ等の蓄電装置(図示を省略)と電気的に接続されている。そして、回転電機1は、蓄電装置に蓄えられた電力により力行して駆動力を発生する。また、回転電機1は、車輪Wの側から伝達される駆動力により発電を行って蓄電装置を充電する。
【0022】
回転電機1のステータ11は、非回転部材に固定されたステータコア111を有している。本実施形態では、ステータコア111は、非回転部材としてのケース本体2Aに固定されている。回転電機1のロータ12は、ステータ11に対して回転可能に支持されたロータコア121と、当該ロータコア121と一体的に回転するように連結されたロータ軸13と、を有している。
【0023】
本実施形態では、回転電機1は回転界磁型の回転電機である。そのため、ステータコア111には、ステータコイルが巻装されている。本実施形態では、ステータコイルは、ステータコア111に対して軸方向Lの両側に突出したコイルエンド部112が形成されるように、ステータコア111に巻装されている。そして、ロータコア121には、永久磁石122が設けられている。
【0024】
また、本実施形態では、回転電機1はインナロータ型の回転電機である。そのため、ロータコア121が、ステータコア111よりも径方向Rの内側に配置されている。そして、ロータコア121は、ロータ軸13を径方向Rの外側から支持している。
【0025】
ロータ軸13は、筒状に形成されている。ロータ軸13は、その軸心が軸方向Lに沿うように配置されている。ロータ軸13は、第1ロータ軸受B11を介してケース本体2Aに対して回転可能に支持されている。本実施形態では、ロータ軸13は、第1ロータ軸受B11を介してケース本体2Aの側壁部22に対して回転可能に支持されている。更に、ロータ軸13は、第2ロータ軸受B12を介して支持壁体2Bに対して回転可能に支持されている。なお、本例では、第1ロータ軸受B11及び第2ロータ軸受B12のそれぞれは、玉軸受である。
【0026】
入力部材3は、回転電機1のロータ12に駆動連結されている。本実施形態では、入力部材3は、第1軸X1上に配置されている。また、本実施形態では、入力部材3は、入力ギヤ31と、入力軸32と、を備えている。
【0027】
ここで、本願において「駆動連結」とは、2つの回転要素が駆動力を伝達可能に連結された状態を指し、当該2つの回転要素が一体的に回転するように連結された状態、或いは当該2つの回転要素が1つ又は2つ以上の伝動部材を介して駆動力を伝達可能に連結された状態を含む。このような伝動部材としては、回転を同速で又は変速して伝達する各種の部材、例えば、軸、歯車機構、ベルト、チェーン等が含まれる。なお、伝動部材として、回転及び駆動力を選択的に伝達する係合装置、例えば、摩擦係合装置、噛み合い式係合装置等が含まれていても良い。
【0028】
入力ギヤ31は、入力軸32と一体的に回転するように連結されている。図1に示す例では、入力ギヤ31は、入力軸32と一体的に成形されている。
【0029】
入力軸32は、軸方向Lに沿って延在するように形成されている。本実施形態では、入力軸32は、ケース2の支持壁体2Bを軸方向Lに貫通し、回転電機室A11とギヤ機構室A12とに亘って配置されている。そして、入力軸32は、ロータ軸13と同軸に配置され、回転電機室A11にてロータ軸13と一体的に回転するように連結されている。図1に示す例では、入力軸32における支持壁体2Bよりも軸方向第1側L1の部分が、ロータ軸13におけるロータコア121よりも軸方向第2側L2に突出した部分に対して径方向Rの内側に配置されている。そして、それらの部分が、スプライン係合によって一体的に回転するように互いに連結されている。
【0030】
本実施形態では、入力軸32は、第1入力軸受B21を介して支持壁体2Bに対して回転可能に支持されている。更に、入力軸32は、第2入力軸受B22を介してカバー2Cに対して回転可能に支持されている。なお、本例では、第1入力軸受B21及び第2入力軸受B22のそれぞれは、玉軸受である。
【0031】
カウンタギヤ機構4は、第1軸X1とは異なる第2軸X2上に配置されている。第2軸X2は、カウンタギヤ機構4の回転軸心である。本実施形態では、第2軸X2は、第1軸X1と平行に配置されている。つまり、本実施形態では、第2軸X2は、軸方向Lに沿って配置されている。
【0032】
カウンタギヤ機構4は、入力ギヤ31に噛み合うカウンタ入力ギヤ41と、当該カウンタ入力ギヤ41と一体的に回転するカウンタ出力ギヤ42と、それらのギヤ41,42同士を連結するカウンタ軸43と、を備えている。
【0033】
カウンタ入力ギヤ41及びカウンタ出力ギヤ42のそれぞれは、カウンタ軸43を介して一体的に回転するように連結されている。図1に示す例では、カウンタ入力ギヤ41は、スプライン係合によってカウンタ軸43に連結されている。そして、カウンタ出力ギヤ42は、カウンタ軸43と一体的に成形されている。また、カウンタ出力ギヤ42は、カウンタ入力ギヤ41よりも小径に形成されている。
【0034】
カウンタ軸43は、第2軸X2に沿って延在するように形成されている。本実施形態では、カウンタ軸43は、第1カウンタ軸受B31を介して支持壁体2Bに対して回転可能に支持されている。更に、カウンタ軸43は、第2カウンタ軸受B32を介してカバー2Cに対して回転可能に支持されている。なお、本例では、第1カウンタ軸受B31及び第2カウンタ軸受B32のそれぞれは、円錐ころ軸受である。
【0035】
差動歯車機構5は、カウンタギヤ機構4から伝達される回転を、一対の出力部材6に分配するように構成されている。本実施形態では、差動歯車機構5は、カウンタギヤ機構4のカウンタ出力ギヤ42に噛み合う差動入力ギヤ51を備えている。そのため、本実施形態では、差動歯車機構5は、差動入力ギヤ51の回転を一対の出力部材6に分配する。
【0036】
差動入力ギヤ51は、第1軸X1及び第2軸X2とは異なる第3軸X3上に配置されている。第3軸X3は、差動入力ギヤ51の回転軸心である。本実施形態では、第3軸X3は、第1軸X1及び第2軸X2の双方と平行に配置されている。つまり、本実施形態では、第3軸X3は、軸方向Lに沿って配置されている。
【0037】
本実施形態では、差動歯車機構5は、差動ケース52と、一対のピニオンギヤ53と、一対のサイドギヤ54と、を更に備えている。ここでは、一対のピニオンギヤ53及び一対のサイドギヤ54は、いずれも傘歯車である。
【0038】
差動ケース52は、一対のピニオンギヤ53及び一対のサイドギヤ54を収容する中空の部材である。差動ケース52は、差動入力ギヤ51と一体的に回転するように連結されている。図1に示す例では、差動入力ギヤ51が、ボルト締結によって差動ケース52に連結されている。
【0039】
本実施形態では、差動ケース52は、第1差動軸受B41を介してケース本体2Aに対して回転可能に支持されている。更に、差動ケース52は、第2差動軸受B42を介してカバー2Cに対して回転可能に支持されている。なお、本例では、第1差動軸受B41及び第2差動軸受B42のそれぞれは、円錐ころ軸受である。
【0040】
一対のピニオンギヤ53は、第3軸X3を基準とした径方向Rに間隔を空けて、互いに対向するように配置されている。そして、一対のピニオンギヤ53は、差動ケース52と一体的に回転するように支持されたピニオンシャフト53aに取り付けられている。一対のピニオンギヤ53のそれぞれは、ピニオンシャフト53aを中心として回転(自転)可能、かつ、第3軸X3を中心として回転(公転)可能に構成されている。
【0041】
一対のサイドギヤ54は、一対のピニオンギヤ53に噛み合っている。一対のサイドギヤ54は、第3軸X3を回転軸心として回転するように配置されている。一対のサイドギヤ54は、互いに軸方向Lに間隔を空けて、ピニオンシャフト53aを挟んで対向するように配置されている。
【0042】
一対の出力部材6のそれぞれは、車輪W(図2参照)に駆動連結されている。本実施形態では、一対の出力部材6は、第3軸X3上に配置されている。また、本実施形態では、一対の出力部材6のそれぞれは、サイドギヤ54と一体的に回転するように連結されている。図1に示す例では、一対の出力部材6のそれぞれは、サイドギヤ54と一体的に成形されている。また、本実施形態では、一対の出力部材6のそれぞれは、ドライブシャフトDSと一体的に回転するように連結されている。図1に示す例では、一対の出力部材6のそれぞれは、第3軸X3に沿う軸心を有する筒状に形成され、サイドギヤ54に対して径方向Rの内側に配置されている。そして、一対の出力部材6のそれぞれに対して径方向Rの内側にドライブシャフトDSが配置された状態で、それらがスプライン係合によって互いに連結されている。
【0043】
制御ユニット7は、回転電機1を制御するように構成されている。本実施形態では、制御ユニット7は、インバータ装置を備えている。このインバータ装置は、上記の蓄電装置及び回転電機1と電気的に接続され、当該蓄電装置の直流と回転電機1の複数相(ここでは3相)の交流との間で電力を変換する装置である。本例では、制御ユニット7は、上記インバータ装置の直流電源側の電圧の平滑化を行う平滑コンデンサ、及び上記インバータ装置におけるインバータ回路の制御を行う制御基板を更に備えている。
【0044】
本実施形態では、制御ユニット7は、導電性を有する導電部材81を介して、回転電機1における軸方向第1側L1のコイルエンド部112と電気的に接続されている。導電部材81は、ケース本体2Aの区画部24を貫通して、第2室A2と第1室A1(ここでは、回転電機室A11)とに亘って配置されている。また、導電部材81は、電気的絶縁性を有する絶縁部材82を介して、区画部24に支持されている。絶縁部材82は、第2室A2と第1室A1(ここでは、回転電機室A11)とを連通するように区画部24に形成された貫通孔に挿入されている。そして、当該貫通孔と絶縁部材82との間を油密状に封止するように、Oリング等の封止材83が設けられている。
【0045】
図3に示すように、側壁部22は、軸受支持部221と、治具支持部222と、を備えている。
【0046】
軸受支持部221は、ロータ軸13を回転可能に支持するための第1ロータ軸受B11を支持するように形成されている。本実施形態では、軸受支持部221は、側壁部22から軸方向第2側L2に突出するように形成されている。また、本実施形態では、軸受支持部221は、軸方向Lに沿う軸心を有する筒状に形成されている。そして、軸受支持部221は、第1ロータ軸受B11を径方向Rの外側から支持している。
【0047】
治具支持部222は、ロータ12をケース本体2Aに組み付ける際に用いられる組付治具9を支持するように形成されている。本実施形態では、治具支持部222は、側壁部22から軸方向第2側L2に突出するように形成されている。そして、治具支持部222は、軸方向第2側L2へ向かうに従って径方向Rに小さくなる錐状に形成されている。なお、組付治具9の詳細な構成については後述する。
【0048】
治具支持部222は、組付治具9の軸方向第1側L1の端部が係合する係合部222aを備えている。本実施形態では、係合部222aは、治具支持部222の軸方向第2側L2の端面から軸方向第1側L1に窪むように形成された凹部を有している。図3に示す例では、係合部222aの凹部における径方向Rの内側を向く内周面は、軸方向Lと平行に形成されている。
【0049】
治具支持部222は、軸受支持部221よりも径方向Rの内側に配置されている。本実施形態では、治具支持部222は、第1軸X1を基準とした径方向Rに沿う径方向視で、軸受支持部221によって支持された第1ロータ軸受B11と重複するように配置されている。ここで、2つの要素の配置に関して、「特定方向視で重複する」とは、その視線方向に平行な仮想直線を当該仮想直線と直交する各方向に移動させた場合に、当該仮想直線が2つの要素の双方に交わる領域が少なくとも一部に存在することを指す。
【0050】
側壁部22における軸受支持部221よりも径方向Rの内側の部分には、側壁部22を軸方向Lに貫通する貫通孔が形成されていない。そのため、駆動装置100は、ロータ12をケース本体2Aに組み付ける際に、側壁部22よりも軸方向第1側L1からロータ軸13を支持できない構成となっている。
【0051】
ロータ軸13は、治具支持部222よりも径方向Rの外側に配置された内周面13aを有する筒状に形成されている。ロータ軸13は、ロータ12をケース本体2Aに組み付ける際に、ロータ軸13よりも径方向Rの内側に配置される組付治具9により軸方向Lに案内される被案内部14を備えている。
【0052】
被案内部14は、ロータコア121よりも軸方向第1側L1において、ロータ軸13の内周面13aから径方向Rの内側に突出するように形成されている。被案内部14における径方向Rの内側の端面は、治具支持部222の係合部222aよりも径方向Rの外側に配置されている。本実施形態では、被案内部14は、ロータ軸13の周方向に連続する円環状に形成されている。本例では、被案内部14は、ロータ軸13の内周面13aに固定されたスナップリングである。
【0053】
本実施形態では、駆動装置100は、ロータ軸13の内周面13aに油を供給する油供給部10を更に備えている。本実施形態では、油供給部10は、ケース本体2Aの第1周壁部21及び側壁部22に形成された油路を流動する油を、ロータ軸13の内周面13aに供給するように構成されている。本例では、油供給部10は、上記の油路に連通する供給口10aがロータ軸13の径方向Rの内側の空間において開口するように、治具支持部222に形成されている。
【0054】
供給口10aは、ロータ軸13の内周面13aにおける、被案内部14よりも軸方向第2側L2の部分に油を供給するように配置されている。そして、被案内部14は、油供給部10によりロータ軸13の内周面13aに供給された油が軸方向第1側L1へ流れ出ることを規制する堰として機能する。図3に示す例では、係合部222aの凹部が、第1軸X1を基準とした径方向Rに沿う径方向視で、被案内部14と重複するように形成されている。そして、供給口10aが、係合部222aの凹部における軸方向第2側L2を向く面に開口している。
【0055】
このように、本実施形態では、駆動装置100は、ロータ軸13の内周面13aに油を供給する油供給部10を更に備え、
被案内部14は、ロータ軸13の周方向に連続する円環状に形成され、ロータ軸13の内周面13aに供給された油が軸方向第1側L1へ流れ出ることを規制する堰として機能する。
【0056】
この構成によれば、ロータ12をケース本体2Aに組み付ける工程においてロータ軸13の径方向Rの位置決めに利用される被案内部14を、油供給部10によりロータ軸13の内周面13aに供給された油が軸方向第1側L1へ流れ出ることを規制する堰としても利用することができる。これにより、ロータ軸13の内周面13aに堰を別途設ける構成と比べて、駆動装置100の構成を簡略化することができる。
【0057】
以上のように、駆動装置100は、ステータ11及びロータ12を備えた回転電機1と、当該回転電機1を収容するケース2と、を備えた駆動装置100であって、
ロータ12の回転軸心に沿う方向を軸方向Lとし、当該軸方向Lの一方側を軸方向第1側L1とし、軸方向Lの他方側を軸方向第2側L2として、
ケース2は、回転電機1の径方向Rの外側を覆う第1周壁部21と、当該第1周壁部21と一体的に成形され、回転電機1の軸方向第1側L1を覆う側壁部22と、を備えたケース本体2Aを備え、
ステータ11は、ケース本体2Aに固定され、
ロータ12は、ロータコア121と、第1ロータ軸受B11を介してケース本体2Aに対して回転可能に支持され、ロータコア121と一体的に回転するように連結されたロータ軸13と、を備え、
側壁部22は、第1ロータ軸受B11を支持する軸受支持部221と、ロータ12をケース本体2Aに組み付ける際に用いられる組付治具9を支持する治具支持部222と、を備え、
治具支持部222は、軸受支持部221よりも径方向Rの内側に配置され、組付治具9の軸方向第1側L1の端部が係合する係合部222aを備え、
ロータ軸13は、治具支持部222よりも径方向Rの外側に配置された内周面13aを有する筒状に形成されており、ロータ12をケース本体2Aに組み付ける際に、ロータ軸13よりも径方向Rの内側に配置される組付治具9により軸方向Lに案内される被案内部14を備え、
被案内部14は、ロータコア121よりも軸方向第1側L1において、ロータ軸13の内周面13aから径方向Rの内側に突出するように形成され、
被案内部14における径方向Rの内側の端面が、治具支持部222の係合部222aよりも径方向Rの外側に配置されている。
【0058】
この構成によれば、ケース本体2Aにおける側壁部22の治具支持部222は、ケース本体2Aにおける側壁部22の軸受支持部221よりも径方向Rの内側に配置され、組付治具9の軸方向第1側L1の端部が係合する係合部222aを備えている。また、回転電機1におけるロータ12のロータ軸13は、治具支持部222よりも径方向Rの外側に配置された内周面13aを有する筒状に形成されている。そして、ロータ軸13は、ロータ12をケース本体2Aに組み付ける際に、ロータ軸13よりも径方向Rの内側に配置される組付治具9により軸方向Lに案内される被案内部14を備えている。これにより、駆動装置100の製造工程において、ロータ軸13が組付治具9に対して径方向Rの外側に位置する状態で、組付治具9によって被案内部14の径方向Rの移動を規制しつつ、ロータ12を組付治具9に対して軸方向第1側L1へ相対移動させ、ロータ軸13を第1ロータ軸受B11に嵌合させることができる。そのため、ケース本体2Aの側壁部22に、ロータ軸13を支持するための貫通孔を設ける等、部品点数の増加を招く構成とすることなく、ステータ11に対するロータ12の径方向Rの位置決めが容易な構成とすることができる。したがって、ケース本体2Aの第1周壁部21と側壁部22とが一体的に成形された構成であっても、部品点数を少なく抑えつつ、ロータ12をケース2に容易に組み付け可能な構成とすることができる。
【0059】
また、本構成によれば、被案内部14は、ロータコア121よりも軸方向第1側L1において、ロータ軸13の内周面13aから径方向Rの内側に突出するように形成されている。そして、被案内部14における径方向Rの内側の端面が、治具支持部222の係合部222aよりも径方向Rの外側に配置されている。これにより、組付治具9の外形を被案内部14及びロータ軸13の内周面13aと干渉しない形状とし易い。その結果、ロータ12をケース本体2Aに組み付ける工程の後、組付治具9を治具支持部222に対して軸方向第2側L2へ相対移動させることで、組付治具9を撤去可能な構成とすることができる。したがって、駆動装置100の使用時には不要となる組付治具9を、製造工程の段階で適切に撤去可能な構成となっている。
【0060】
以下では、実施形態に係る駆動装置100の製造工程S100について図面を参照して説明する。図4に示すように、製造工程S100は、軸受取付工程S1と、ステータ固定工程S2と、ロータ軸連結工程S3と、治具配置工程S4と、ロータ組付工程S5と、治具撤去工程S6と、を備えている。
【0061】
軸受取付工程S1は、第1ロータ軸受B11を軸受支持部221に取り付ける工程である。本実施形態の軸受取付工程S1では、第1ロータ軸受B11が軸受支持部221に径方向Rの外側から支持されるように、第1ロータ軸受B11を軸方向第2側L2から軸受支持部221に圧入する。
【0062】
ステータ固定工程S2は、ステータ11をケース本体2Aに固定する工程である。本実施形態のステータ固定工程S2では、ステータコア111をケース本体2Aに設けられた取付部に対して軸方向第2側から当接させた状態で、ボルト締結によってステータコア111をケース本体2Aに固定する。
【0063】
ロータ軸連結工程S3は、ロータ軸13をロータコア121と一体的に回転するように連結する工程である。ロータ軸連結工程S3では、被案内部14がロータコア121よりも軸方向第1側L1に位置するように、ロータ軸13をロータコア121に連結する。
【0064】
図5に示すように、治具配置工程S4は、組付治具9が治具支持部222に支持されるように組付治具9を配置する工程である。組付治具9は、案内外周面9aと、被係合部9bと、を備えている。案内外周面9aは、筒状に形成されている。案内外周面9aの径方向Rの寸法は、被案内部14における径方向Rの内側の端面の径方向Rの寸法と同じ、又はそれよりも僅かに小さい。本実施形態では、案内外周面9aは、軸方向Lの全域に亘って径方向Rの寸法が一定の円筒状に形成されている。被係合部9bは、組付治具9の軸方向第1側L1の端部に設けられている。被係合部9bは、治具支持部222の係合部222aに係合可能に構成されている。本実施形態では、被係合部9bは、係合部222aの凹部に対応するように、軸方向第1側L1に突出する凸部を有している。また、被係合部9bの凸部の外周面の径方向Rの寸法は、係合部222aの凹部の内周面の径方向Rの寸法と同じ、又はそれよりも僅かに小さい。
【0065】
治具配置工程S4では、案内外周面9aの軸心が軸方向Lに沿うように、組付治具9の被係合部9bを治具支持部222の係合部222aに係合させる。本実施形態の治具配置工程S4では、図示は省略するが、組付治具9の軸方向第2側L2の端部が支持装置によって支持され、当該支持装置によって組付治具9を治具支持部222に向けて軸方向第1側L1に移動させる。なお、治具撤去工程S6が完了するまで、組付治具9の軸方向第2側L2の端部が支持装置によって支持された状態が維持される。
【0066】
図6に示すように、ロータ組付工程S5は、ロータ12をケース本体2Aに組み付ける工程である。ロータ組付工程S5は、軸受取付工程S1、ステータ固定工程S2、ロータ軸連結工程S3、及び治具配置工程S4の後に実行される。なお、軸受取付工程S1、ステータ固定工程S2、ロータ軸連結工程S3、及び治具配置工程S4の実行順序は限定されない。
【0067】
ロータ組付工程S5では、まず、ロータ軸13が組付治具9に対して径方向Rの外側に位置するようにロータ12を配置する。本実施形態では、ロータ軸13が組付治具9と同軸になるようにロータ12を配置する。次に、ロータ12を組付治具9に対して軸方向第1側L1へ相対移動させる。このとき、図6に示すように、組付治具9の案内外周面9aによって被案内部14の径方向Rの移動が規制され、被案内部14が案内外周面9aにより軸方向Lに案内される。本実施形態では、被案内部14に加えて、ロータ軸13における入力軸32と連結される部分(ここでは、ロータ軸13の内周面13aに形成されたスプライン歯)も、組付治具9の案内外周面9aによって径方向Rの移動が規制される。最後に、図7に示すように、ロータ12を組付治具9に対して軸方向第1側L1へ更に相対移動させ、ロータ軸13を第1ロータ軸受B11に嵌合させる。
【0068】
本実施形態では、ロータ組付工程S5において、被案内部14が組付治具9の案内外周面9aによって径方向Rの移動が規制されている状態で、ロータ軸13の第1ロータ軸受B11に対する嵌合が開始されるように、被案内部14と案内外周面9aと第1ロータ軸受B11との軸方向Lの位置関係が設定されている。本例では、ロータ軸13における被案内部14よりも軸方向第1側L1の部分の軸方向Lの寸法が、軸受支持部221に支持された第1ロータ軸受B11の軸方向第2側L2の端部と、治具支持部222に支持された組付治具9の案内外周面9aの軸方向第1側L1の端部との軸方向Lの距離以上に設定されている。
【0069】
この構成によれば、少なくともロータ軸13が第1ロータ軸受B11に部分的に嵌合されるまで、組付治具9の案内外周面9aによってロータ軸13の被案内部14が径方向Rに移動することが規制される。したがって、ロータ12をケース2に容易に組み付けることができる。なお、ロータ軸13が第1ロータ軸受B11に部分的に嵌合された後は、第1ロータ軸受B11によってロータ軸13の径方向Rの移動が規制されるため、ロータ軸13が第1ロータ軸受B11に完全に嵌合される前であっても、組付治具9の案内外周面9aによるロータ軸13の被案内部14の案内は不要となる。このように、本構成によれば、ロータ組付工程S5において、ステータ11に対するロータ12の径方向Rの位置決めを容易に行うことができる。
【0070】
治具撤去工程S6は、組付治具9を撤去する工程である。治具撤去工程S6は、ロータ組付工程S5の後に実行される。治具撤去工程S6では、組付治具9を治具支持部222に対して軸方向第2側L2へ相対移動させて、組付治具9を撤去する。本実施形態の治具撤去工程S6では、組付治具9の軸方向第2側L2の端部を支持した状態の上記支持装置により、組付治具9が治具支持部222から離れるように、組付治具9を軸方向第2側L2に移動させる。
【0071】
本実施形態では、ロータ組付工程S5と治具撤去工程S6との間、又は、治具撤去工程S6の後に、第2ロータ軸受B12を支持した状態の支持壁体2Bをケース本体2Aに接合し、第2ロータ軸受B12によってロータ軸13を回転可能に支持する工程を実行する。
【0072】
以上のように、製造工程S100は、ステータ11及びロータ12を備えた回転電機1と、当該回転電機1を収容するケース2と、を備えた駆動装置100の製造工程S100であって、
ロータ12の回転軸心に沿う方向を軸方向Lとし、当該軸方向Lの一方側を軸方向第1側L1とし、軸方向Lの他方側を軸方向第2側L2として、
ケース2は、回転電機1の径方向Rの外側を覆う第1周壁部21と、当該第1周壁部21と一体的に成形され、回転電機1の軸方向第1側L1を覆う側壁部22と、を備えたケース本体2Aを備え、
ロータ12は、ロータコア121と、筒状に形成されたロータ軸13と、を備え、
側壁部22は、ロータ軸13を回転可能に支持するための第1ロータ軸受B11を支持する軸受支持部221と、ロータ12をケース本体2Aに組み付ける際に用いられる組付治具9を支持する治具支持部222と、を備え、
組付治具9は、筒状に形成された案内外周面9aと、軸方向第1側L1の端部に設けられた被係合部9bと、を備え、
治具支持部222は、軸受支持部221よりも径方向Rの内側に配置され、被係合部9bが係合する係合部222aを備え、
ロータ軸13は、当該ロータ軸13の内周面13aから径方向Rの内側に突出し、組付治具9の案内外周面9aにより軸方向Lに案内される被案内部14を備え、
第1ロータ軸受B11を軸受支持部221に取り付ける軸受取付工程S1と、
ステータ11をケース本体2Aに固定するステータ固定工程S2と、
被案内部14がロータコア121よりも軸方向第1側L1に位置すると共にロータ軸13とロータコア121とが一体的に回転するように、ロータ軸13をロータコア121に連結するロータ軸連結工程S3と、
案内外周面9aの軸心が軸方向Lに沿うように、組付治具9の被係合部9bを治具支持部222の係合部222aに係合させる治具配置工程S4と、
軸受取付工程S1、ステータ固定工程S2、ロータ軸連結工程S3、及び治具配置工程S4の後に実行される工程であって、ロータ軸13が組付治具9に対して径方向Rの外側に位置する状態で、組付治具9の案内外周面9aによって被案内部14の径方向Rの移動を規制しつつ、ロータ12を組付治具9に対して軸方向第1側L1へ相対移動させ、ロータ軸13を第1ロータ軸受B11に嵌合させることにより、ロータ12をケース本体2Aに組み付けるロータ組付工程S5と、
ロータ組付工程S5の後に実行される工程であって、組付治具9を治具支持部222に対して軸方向第2側L2へ相対移動させて、組付治具9を撤去する治具撤去工程S6と、を備えている。
【0073】
この構成によれば、治具配置工程S4にて、組付治具9の案内外周面9aの軸心が軸方向Lに沿うように、組付治具9の被係合部9bを治具支持部222の係合部222aに係合させる。その後、ロータ組付工程S5にて、ロータ軸13が組付治具9に対して径方向Rの外側に位置する状態で、組付治具9の案内外周面9aによって被案内部14の径方向Rの移動を規制しつつ、ロータ12を組付治具9に対して軸方向第1側L1へ相対移動させ、ロータ軸13を第1ロータ軸受B11に嵌合させることができる。これにより、ケース本体2Aの側壁部22に、ロータ軸13を支持するための貫通孔を設ける等、部品点数の増加を招く工程を行うことなく、ロータ組付工程S5にて、ステータ11に対するロータ12の径方向Rの位置決めを容易に行うことができる。したがって、ケース本体2Aの第1周壁部21と側壁部22とが一体的に成形された構成であっても、部品点数を少なく抑えつつ、ロータ12をケース2に容易に組み付けることができる。
また、本構成によれば、ロータ組付工程S5の後に、組付治具9を治具支持部222に対して軸方向第2側L2へ相対移動させて、組付治具9を撤去する治具撤去工程S6が行われる。これにより、駆動装置100の使用時には不要となる組付治具9を、製造工程の段階で適切に撤去することができる。
【0074】
本実施形態では、被案内部14は、ロータ軸13の周方向に連続する円環状に形成され、回転電機1の動作中、ロータ軸13の内周面13aに供給された油が軸方向第1側L1へ流れ出ることを規制する堰として機能する。
【0075】
この構成によれば、ロータ組付工程S5においてロータ軸13の径方向Rの位置決めに利用される被案内部14を、回転電機1の動作中、ロータ軸13の内周面13aに供給された油が軸方向第1側L1へ流れ出ることを規制する堰としても利用することができる。これにより、ロータ軸13の内周面13aに堰を別途設ける構成と比べて、駆動装置100の製造コストを低く抑えることができる。
【0076】
〔その他の実施形態〕
(1)上記の実施形態では、駆動装置100がカウンタギヤ機構4及び差動歯車機構5を備えた車両用駆動装置である構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、カウンタギヤ機構4及び差動歯車機構5の少なくとも一方を備えていない構成としても良い。また、カウンタギヤ機構4及び差動歯車機構5とは異なるギヤ機構や変速機等を備えた構成としても良い。或いは、駆動装置100が車両用ではなく、回転電機1を駆動力源とする他の製品用の駆動装置であっても良い。
【0077】
(2)上記の実施形態では、治具支持部222の係合部222aが凹部を有し、組付治具9の被係合部9bがその凹部に対応する凸部を有する構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、例えば、係合部222aが凸部を有し、被係合部9bが凹部を有する構成としても良い。また、係合部222a及び被係合部9bのそれぞれが、凹部及び凸部の双方を有する構成としても良い。
【0078】
(3)上記の実施形態では、治具支持部222の係合部222aの凹部における径方向Rの内側を向く内周面が、軸方向Lと平行に形成された構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、例えば、係合部222aの凹部における径方向Rの内側を向く内周面が、軸方向第2側L2へ向かうに従って径方向Rに大きくなる錐状に形成されていても良い。また、係合部222aが凸部を有する場合には、当該凸部における径方向Rの外側を向く外周面が、軸方向第2側L2へ向かうに従って径方向Rに小さくなる錐状に形成されていても良い。これらの場合、組付治具9の被係合部9bの形状も、係合部222aの形状に対応した錐状に形成されると好適である。
【0079】
(4)上記の実施形態では、被案内部14が、ロータ軸13の周方向に連続する円環状に形成された構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、例えば、被案内部14がロータ軸13の周方向に分散して複数設けられた構成としても良い。
【0080】
(5)上記の実施形態では、ロータ軸13における被案内部14よりも軸方向第1側L1の部分の軸方向Lの寸法が、軸受支持部221に支持された第1ロータ軸受B11の軸方向第2側L2の端部と、治具支持部222に支持された組付治具9の案内外周面9aの軸方向第1側L1の端部との軸方向Lの距離以上に設定された構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、ロータ軸13における被案内部14よりも軸方向第1側L1の部分の軸方向Lの寸法が、軸受支持部221に支持された第1ロータ軸受B11の軸方向第2側L2の端部と、治具支持部222に支持された組付治具9の案内外周面9aの軸方向第1側L1の端部との軸方向Lの距離未満に設定されていても良い。
【0081】
(6)なお、上述した各実施形態で開示された構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示された構成と組み合わせて適用することも可能である。その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で単なる例示に過ぎない。したがって、本開示の趣旨を逸脱しない範囲内で、適宜、種々の改変を行うことが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本開示に係る技術は、ステータ及びロータを備えた回転電機と、当該回転電機を収容するケースと、を備えた駆動装置、及びその製造方法に利用することができる。
【符号の説明】
【0083】
100:駆動装置、1:回転電機、11:ステータ、12:ロータ、121:ロータコア、13:ロータ軸、13a:内周面、14:被案内部、2:ケース、2A:ケース本体、21:第1周壁部(周壁部)、22:側壁部、221:軸受支持部、222:治具支持部、222a:係合部、9:組付治具、9a:案内外周面、9b:被係合部、B11:第1ロータ軸受(ロータ軸受)、L:軸方向、L1:軸方向第1側、L2:軸方向第2側、R:径方向
図1
図2
図3
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図5
図6
図7