(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022116520
(43)【公開日】2022-08-10
(54)【発明の名称】金属板の防眩性評価方法
(51)【国際特許分類】
G02B 5/00 20060101AFI20220803BHJP
G01N 21/47 20060101ALI20220803BHJP
【FI】
G02B5/00 A
G02B5/00 Z
G01N21/47 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021012720
(22)【出願日】2021-01-29
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【弁理士】
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(74)【代理人】
【識別番号】100123386
【弁理士】
【氏名又は名称】熊坂 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100196667
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】田 彩子
(72)【発明者】
【氏名】植野 雅康
(72)【発明者】
【氏名】田中 宏和
(72)【発明者】
【氏名】西田 修司
【テーマコード(参考)】
2G059
2H042
【Fターム(参考)】
2G059AA05
2G059BB08
2G059BB15
2G059EE02
2G059KK01
2G059MM01
2G059MM05
2H042AA02
2H042AA08
2H042AA21
(57)【要約】
【課題】金属板の防眩性について、客観的かつ定量的に評価することができる、金属板の防眩性評価方法を提供することを目的とする。
【解決手段】2種以上の異なるスリット幅を有する光学くしを用いて、JIS K7374に準拠して、金属板の像鮮明度を測定し、得られた像鮮明度の値に基づいて金属板の防眩性を評価する、金属板の防眩性評価方法。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2種以上の異なるスリット幅を有する光学くしを用いて、JIS K7374に準拠して、金属板の像鮮明度を測定し、得られた像鮮明度の値に基づいて金属板の防眩性を評価する、金属板の防眩性評価方法。
【請求項2】
前記2種以上の異なるスリット幅は、
0.25mm、0.5mmおよび1.0mmのいずれか1つ以上である第1のスリット幅と、
2.0mmである第2のスリット幅である、
請求項1に記載の金属板の防眩性評価方法。
【請求項3】
前記第1のスリット幅を有する光学くしを用いて得られた像鮮明度の測定値Cw1が0%以上0.50%以下、および、前記第2のスリット幅を有する光学くしを用いて得られた像鮮明度の測定値Cw2が0%以上10%以下を満たす場合は防眩性に優れる金属板であると判定する、
請求項2に記載の金属板の防眩性評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属板の防眩性評価方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
屋根材や外壁材などの用途に用いられる金属板(鋼板)は、空港やドームの屋根などの大型建造物に用いられる場合が多い。このような用途においては、耐食性などの耐環境性に優れ、比較的安価で、メンナンスが容易な金属板が多く用いられている。例えば、フェライト系ステンレス鋼板などの金属板は、特有の黒色系の金属感や質感を有することで外観の美麗性に優れることから、屋外の大型建造物への適用が進められている。
【0003】
大型建造物による光の反射は、周囲を歩行する歩行者や走行する車両等の運転者の視界を妨げる。このため、大型建造物の屋根材や外壁材などに金属板を使用する場合には、安全性の観点で「防眩性」が要求される。「防眩性」とは、光の反射によって人が主観的に感じる眩しさを軽減させる度合いのことを指す。この防眩性という概念は、主観的な概念ではあるものの、屋外の建造物や厨房製品などを設計する上で重要な要素とされる。金属素材である鋼板を建築物等に使用する場合には、コンクリートや石材、樹脂などの素材とは異なり、金属特有の質感が備える美麗性を前提として、優れた防眩性が要求される。大型建造物による反射光は、近くからでも、遠くからでも歩行者や車両の運転者の視界に入ることがある。このため、大型建造物のように屋外で使用される金属板の場合、数m以内の近距離から観察した場合の防眩性と、10m以上の遠距離から眺めた場合の防眩性の両方を向上させる必要がある。
【0004】
これに対して、特許文献1は、冷間圧延前の鋼板の鏡面反射指数、冷間圧延における圧下率、圧延ロールの鏡面反射指数を所定の条件とすることで、防眩性を向上させた鋼板の製造方法が記載されている。鏡面反射指数とは、光が鋼板表面に照射された際の、鏡面反射光の三次元的な広がり(拡散)を考慮した指標とされる。これは、反射光の広がり具合を数値化した指標であり、鏡面反射指数が小さいほど、鏡面反射は鈍く反射光線に鋭さがなくなり、防眩性が向上することを示している。
【0005】
特許文献2では、光の反射光の広がりを表す反射光分布によって防眩性が決まることを前提に、反射光の広がりが大きくなるような鋼板表面の凹凸形態を規定している。具体的には、2次元粗さ測定から得られる中心線平均粗さRaが0.5~5μmであって、凹凸の平均傾斜角が4~11°である防眩性に優れたフェライト系ステンレス鋼板が開示されている。特許文献2では、表面凸部の先端部である稜角が小さいほど、入射光を乱反射させやすいため、凹凸の傾斜角を大きくすることによって防眩性が向上するとされている。また、特許文献2では、このような鋼板の製造方法として、表面にCrめっき層を有するダルロールを用いた冷間圧延による製造方法が開示されている。
【0006】
特許文献3には、表面の凹凸として、2次元粗さ測定から得られる最大粗さRmaxが10μm以下であって、1μm以上の差を持つ凹凸の個数が10個/mm以上であるフェライト系ステンレス鋼板が開示されている。また、所定の凹凸を有するダルロールを用いた軽圧下圧延によって、トータル伸び率0.2~0.8%を付与するフェライト系ステンレス鋼板の製造方法が開示されている。ここで、伸び率とは、圧延前後の材料長さの差から算出される指標であるが、伸び率が1%以下の場合には、圧延前後の板厚差から算出される圧下率の値とほぼ同じである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3688763号公報
【特許文献2】特許第3287302号公報
【特許文献3】特許第3338538号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1では、変角式分光色彩計を用いて、受光側の検出器を正反射位置近傍で走査することにより、反射光の三次元的な広がりを求めている。このとき、測定対象物である反射面と受光側の検出器の距離は概ね固定されているため、反射光強度の角度分布を検出していることに相当する。しかし、測定対象物に反射した光を見て人が感じる眩しさは、鋼板からどの程度離れて観察するかによって異なる。特許文献1では、反射光強度の角度分布を測定しているだけである。したがって、鋼板からの距離によって人が感じる眩しさの違いを評価していない。
【0009】
特許文献2に記載された防眩性に優れたフェライト系ステンレス鋼板は、反射光の広がり(反射光強度の角度分布)によって防眩性が決まることを前提に、表面の凹凸形状を規定したものである。この場合も、鋼板からの距離によって人が感じる眩しさの違いまでは考慮していない。
【0010】
特許文献3に記載の鋼板は、表面の最大粗さと、凹凸の個数密度を高めることにより、防眩性を向上させようとするものである。しかし、上記と同様に、反射光を観察する距離に応じて人が感じる防眩性の違いを考慮していない。
【0011】
従来の防眩性の評価は、反射光の広がりの測定に基づくものが主である。
図1は、反射光の散乱特性(拡散度)をゴニオフォトメーター(拡散反射法)により測定する方法を模式的に示したものであり、従来技術による防眩性の評価方法の一例である。受光器が測定対象物(鋼板)を中心とする円周上または球面上を、つねに受光面を中心方向(試料の方向)に向けながら360°円周を描くように回転し、光の強度、すなわち反射光の広がりを測定する。この場合、反射光の広がりが大きいほど、反射像がぼやけて見え、防眩性に優れていると言える。しかし、この方法は、受光器(受光部)と測定対象物(鋼板)の距離が一定である。そのため、受光部と鋼板の距離が変化した際、受光部が受光できる反射光の範囲が変化する点が考慮されていない。例えば、受光部と鋼板の距離が遠くなった場合、受光部が受光できるのは、全反射近傍の角度で拡散した反射光の範囲にとどまる。このため、受光部を鋼板から等距離で移動させないと、拡散光を含めた全反射光を捉えて分析することが難しい。この点において、人が感じる眩しさと、従来技術の防眩性評価方法には不一致が生じる可能性があった。
【0012】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたものであり、金属板の防眩性について、客観的かつ定量的に評価することができる、金属板の防眩性評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の要旨は、以下のとおりである。
[1]2種以上の異なるスリット幅を有する光学くしを用いて、JIS K7374に準拠して、金属板の像鮮明度を測定し、得られた像鮮明度の値に基づいて金属板の防眩性を評価する、金属板の防眩性評価方法。
[2]前記2種以上の異なるスリット幅は、
0.25mm、0.5mmおよび1.0mmのいずれか1つ以上である第1のスリット幅と、
2.0mmである第2のスリット幅である、
[1]に記載の金属板の防眩性評価方法。
[3]前記第1のスリット幅を有する光学くしを用いて得られた像鮮明度の測定値Cw1が0%以上0.50%以下、および、前記第2のスリット幅を有する光学くしを用いて得られた像鮮明度の測定値Cw2が0%以上10%以下を満たす場合は防眩性に優れる金属板であると判定する、
[2]に記載の金属板の防眩性評価方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、金属板の防眩性を評価することができる。このため、建造物の周囲の歩行者等が眩しさを感じることがない鋼板を選定でき、建造物のデザイン上の選択肢が拡大する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】従来技術による防眩性の評価方法の一例であり、反射光の散乱特性(拡散度)をゴニオフォトメーター(拡散反射法)により測定する方法を模式的に示した図である。
【
図2】写像性の指標である像鮮明度の評価装置の概略図である。
【
図3】
図3は光学くしおよび測定原理を示す図であり、(a)光学くしのスリットの一例を示す図および光学くしのスリットを通過して検知された受光量の変動波形を示す図、
図3(b)は各スリット幅における受光量の最大値と最小値を示す模式図である。
【
図4】
図4は、写像性の評価と防眩性の評価の関係を説明する図であり、
図4(a)は、測定対象物から人との距離による反射光の受光範囲の差を説明する模式図、
図4(b)はスリット幅の狭い光学くしを適用した場合における、反射光の受光範囲を示す模式図、
図4(c)はスリット幅の広い光学くしを適用した場合における、反射光の受光範囲を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明者らは、鋼板の防眩性について検討した。その結果、同じ鋼板であっても、近距離で観察した場合と遠距離で観察した場合とでは、鋼板の防眩性がそれぞれ異なるということがわかった。すなわち、反射光を近距離で観察しても眩しさを感じない鋼板を、遠距離で観察すると眩しく感じるものや、逆に、近距離から反射光を観察すると眩しく感じるが、遠距離で観察すると眩しく感じない鋼板があることを発見した。
【0017】
前者の例としては、乳白色の表面を呈するオーステナイト系ステンレス鋼板が挙げられる。これは、手元で観察すると乳白色の外観であり、表面の凹凸感を感じさせないガラス面のような平滑さを備えている。オーステナイト系ステンレス鋼板は近くから見ると眩しさを感じないが、遠くから見ると眩しさが感じられる。後者の例としては、表面をダルロールで調質圧延するなどして粗面化したフェライト系ステンレス鋼が挙げられる。これは、離れた位置で観察すると白濁化しており、眩しさを感じさせない。一方で、近づいて観察すると、鋼板一面に高密度で存在する点状の反射光が、観察する角度によって変化し、「ギラツキ感」といった、やや不快な印象を与える眩しさを感じさせる外観を呈する。
【0018】
さらに、本発明者らは、鋼板からの距離によって人が眩しさを感じる感覚が異なる理由について検討を進めた。その結果、人が感じる眩しさには、鋼板表面での光の反射強度に応じて感じる眩しさと、鋼板表面に映し出される写像物の鮮明度により感じる眩しさの両者が影響しているという知見を得た。
【0019】
鋼板表面での光の反射強度に応じて感じる眩しさについて、鋼板表面で反射した光は、正反射および乱反射に分けられる。鋼板から離れた位置にいる人は主として正反射光の強度により眩しさを感じる。一方で、鋼板から近い距離にいる人は正反射光だけではなく、乱反射光によっても眩しさを感じるという違いがある。一方、鋼板表面に映し出される写像物の鮮明度は、写像物が鮮明に見えると眩しさを感じやすく、ぼやけて見えると眩しさを感じにくい、というものである。写像物が鮮明に見えるかぼやけて見えるかについては、人の視力、写像物の大きさ、観察する距離によって変化すると考えられる。そこでさらに検討した結果、鋼板から近い距離で観察すると、物が鮮明に映ることによって眩しく感じる傾向があることが分かった。上記の粗面化したフェライト系ステンレス鋼が呈する「ギラツキ感」というのは、このような乱反射光と写像物の鮮明度に起因するものと考えられる。
【0020】
本発明者らは、これらの知見に基づき、金属板の防眩性の評価方法について鋭意検討を重ねた。その結果、特許文献1や特許文献2のように、反射光強度の角度分布に基づく評価とは異なり、写像性の指標である像鮮明度として金属板の防眩性を評価する方法を考案した。
【0021】
本発明は、2種以上の異なるスリット幅を有する光学くしを用いて、JIS K7374に準拠して、金属板の像鮮明度を測定し、得られた像鮮明度の値に基づいて金属板の防眩性を評価することを特徴とする。
【0022】
写像性の指標である像鮮明度は、対象物に反射した光の広がり方に応じた写像の鮮明度である。本発明においては、金属板に対して反射測定を行い、その測定結果を写像性の指標である像鮮明度と呼ぶ。
【0023】
図2に、写像性の指標である像鮮明度の評価装置の概要を示す。
【0024】
図2に示すように、光源から照射される光を、幅0.03mmの光源スリットを透過させ、レンズにより平行光とした後に、測定対象である金属板に入射角60°となるように、光源を配置する。金属板からの反射光は、レンズにより光学くしに結像させ、光学くしを通過する反射光を受光器により受光して、その受光量を測定する。
【0025】
【0026】
図3(a)に示すように、光学くしは、遮光部(
図3中の黒色)と通過部(
図3中の白抜きであり、スリット幅に該当)の幅が1:1の比で並んでいるくし歯状のフィルターを有する、反射光および反射像を透過させる部品である。反射像とは光学レンズを通して光学くしに結像させた反射光の形のことを指す。光学くしとしては、スリット幅が0.125mm、0.25mm、0.5mm、2.0mmといったように、一つの光学くしにおいて、異なるスリット幅のフィルターを複数有する場合(
図3)や、1つの光学くしが1つのスリット幅のフィルターを有し、異なるスリット幅ごとにフィルターを適宜入れ替えて使う場合などがある。
【0027】
本発明では、
図3(a)に示すような異なるスリット幅のフィルターを複数有する1つの光学くしを用いた場合について説明する。測定対象の反射光が各々のスリット幅のフィルターを通過するように、光学くしを移動させることにより、各スリット幅における最大および最小の受光量を、受光器により連続的に測定する。
図3(b)に示すように、移動する光学くしを通して検知された受光量の変動波形から写像性の評価指標である像鮮明度の値を計算することができる。
【0028】
具体的には、各スリット幅における受光量の最大値と最小値を用いて(
図3(c)参照)、以下の式により写像性の評価指標である像鮮明度を算出する。
C
w[%]=(Q
w-R
w)/(Q
w+R
w)×100
ただし、C
wは光学くしのスリット幅wにおける像鮮明度、Q
wはスリット幅wにおける受光量の最大値、R
wはスリット幅wにおける受光量の最小値を表す。
このとき、像鮮明度C
wは反射像のひずみがなく鏡に写したように明瞭であるほど100%に近い値となり、反射像が崩れるほど低い値を示す。
【0029】
この像鮮明度は、防眩性との間に次のような関係があると考えられる。
【0030】
図4に写像性の評価における光学くしのスリット幅と、防眩性の関係を模式的に示す。
図4(a)に示すように、測定対象物の反射光を人間が視認する場合、測定対象物との距離によって認識できる拡散光の角度が異なる。
【0031】
図4(b)に示すように、スリット幅が狭い場合(wが小さい場合)、測定対象物の反射光のうち、拡散する角度が狭い範囲の反射光、つまり、主として正反射光がスリット部を通過しやすい。このときの結像の鮮明度、すなわち、受光量の最大値Q
wと最小値R
wにより得られた像鮮明度は、測定対象物から離れた位置にいる人が感じる眩しさを評価することに相当する。測定対象物から離れた位置にいる人は、広い角度で拡散した光を認識することができないからである。
【0032】
一方、
図4(c)に示すように、スリット幅が広い場合(wが大きい場合)、測定対象物からの反射光として、正反射光だけでなく、広い角度で散乱する乱反射光を含む光が、光学くしのスリット部を通過する。これにより得られた結像の鮮明度、すなわち、このときの受光量の最大値Q
wと最小値R
wにより得られた像鮮明度は、測定対象物の近くにいる人が感じる眩しさを評価することに相当する。測定対象物の近くにいる人は、正反射光だけでなく、広い角度で散乱する光も認識できるからである。
【0033】
以上より、スリット幅wが小さい条件で得られた像鮮明度の評価は、測定対象物から離れた位置にいる人が感じる眩しさを評価することに対応する。一方で、スリット幅wが大きい条件で得られた像鮮明度の評価は、測定対象物の近くにいる人が感じる眩しさを評価することに対応する。
【0034】
したがって、本発明では、2種以上の異なるスリット幅を有する光学くしを用いて、JIS K7374に準拠して、金属板の像鮮明度を測定することより、金属板の防眩性を評価することができる。
【0035】
本発明では、2種以上の異なるスリット幅は、0.25mm、0.5mmおよび1.0mmのいずれか1つ以上である第1のスリット幅と、2.0mmである第2のスリット幅であることが好ましい。第1のスリット幅(スリット幅が小さい)を有する光学くしを用いて測定した像鮮明度は、測定対象物である金属板を遠距離で観察した際の防眩性の評価指標に該当する。また、第2のスリット幅(スリット幅が大きい)を有する光学くしを用いて測定した像鮮明度は、測定対象物である金属板を近距離で観察した際の防眩性の評価指標に該当する。
【0036】
第一のスリット幅については、いずれか1つのスリット幅を用いて評価しても良いが、本発明においては、第一のスリット幅は0.25mm、0.5mmおよび1.0mmのすべてを用いて評価することがより好ましい。
【0037】
なお、本発明において、近距離とは、対象とする金属板から1m以内の距離であり、遠距離とは金属板から10m以上離れた距離とする。
【0038】
本発明において、防眩性に優れた金属板とは、スリット幅wが小さい条件における像鮮明度Cwの値が小さく、かつ、スリット幅wが大きいにおける像鮮明度Cwの値も小さいことが好ましい。具体的には、本発明では、第1のスリット幅(w1)を有する光学くしを用いて得られた像鮮明度の測定値Cw1が0%以上0.50%以下、および、第2のスリット幅(w2)を有する光学くしを用いて得られた像鮮明度の測定値Cw2が0%以上10%以下であることが好ましい。この範囲を満たす場合は防眩性に優れる金属板であると判定することができる。
【0039】
第1のスリット幅(w1)を有する光学くしを用いて得られた像鮮明度の測定値Cw1が0.50%以下であれば、遠距離における防眩性を満足する。第2のスリット幅(w2)を有する光学くしを用いて得られた像鮮明度の測定値Cw2が10%以下であれば、遠距離における防眩性を満足する。像鮮明度の測定値Cw2は、好ましくは5%以下である。なお、Cw1およびCw2は、いずれも、受光量の最大と最小の関係から必ず0以上の数値を示し、負の値になることはない。そのため、Cw1、Cw2のいずれも0%以上とすることが好ましい。
【0040】
より好ましくは、スリット幅が1.0mmの場合の像鮮明度C1.0が0.50%以下、かつ、スリット幅が2.0mmの場合の像鮮明度C2.0が5%以下である。さらに好ましくは、0.25mm、0.5mmおよび1.0mmのスリット幅の場合における像鮮明度C0.25、C0.5およびC1.0が、いずれも0.50%以下であり、かつ、C2.0が5%以下である。
【0041】
本発明を用いることにより、鋼板の防眩性について、定量的に評価し、合否判定を行うことが可能である。
【実施例0042】
SUS430、SUS443J1、SUS445J1成分の薄鋼板のうち、板厚の異なるSUS430、SUS443J1、SUS445J1の鋼板を用意し、防眩性の評価を行った。
【0043】
各鋼板を、300×300mmのサイズに切断し、JIS K7374に規定される像鮮明度の測定方法により、像鮮明度の測定を行った。像鮮明度は表面アナライザー(Canon製;表面アナライザーRA-532H)を用いて測定した。圧延方向に対して入射光を平行にした場合と、垂直にした場合と各々2回ずつ測定し、それらの平均値を像鮮明度の値として用いた。スリット幅wが0.25mm、0.5mm、1.0mmのいずれかを用いた場合の像鮮明度の値Cw1と、スリット幅wが2.0mmの像鮮明度の値Cw2をそれぞれ求めた。
【0044】
像鮮明度について、遠距離の防眩性の指標であるCw1がいずれも0%以上0.50%以下の範囲であり、かつ、近距離の防眩性の指標であるCw2がいずれも0%以上10%以下である場合、像鮮明度の判定を合格(〇)とした。Cw1、Cw2が所定の範囲を満たさない場合、不合格(×)と判定した。
【0045】
さらに、各鋼板の外観について、人間の目視評価を行った。人間の目視による評価1として、晴天の日中に、太陽を背面とした立ち位置で鋼板を見た際に眩しさを感じるか否かで評価を行った。鋼板から10m離れた場所から見た際の評価を遠距離での評価とした。鋼板を手で持ち、鋼板から30~50cmの距離から見た際の評価を近距離での評価とした。5人の評価者が、近距離および遠距離のそれぞれにおいて、5秒以上連続して鋼板を観察した。評価者の一人でも眩しいと感じたら防眩性なし(×)、全員が5秒以上連続して目視しても違和感がないと判断すれば防眩性あり(〇)とした。
【0046】
表1に評価結果を示す。
【0047】
【0048】
No.1、3~5、10~12、15~16は防眩性に優れると判定された例である。すなわち、Cw1がいずれも0%以上0.50%以下の範囲であり遠距離の防眩性に優れる。かつ、Cw2がいずれも0%以上10%以下であり、近距離の防眩性にも優れる。したがって、本発明の評価方法は、人が捉える眩しさの指標と相対関係が取れており、防眩性が良好であることを評価できた。特に、No.3~5はCw2の値が5%以下であり、角度を変えても眩しさの変化を感じにくく、特に優れた防眩性を示していた。
【0049】
No.2はCw1の値が0.5%を超えており、さらにCw2も10%を超えているため、遠距離・近距離とも防眩性に劣り不合格である。特に遠距離から見た際に、眩しさを感じた者が複数おり、また、近距離の防眩性についても、眩しいと感じる者がいた。
【0050】
No.6および13はCw2の値のみ10%を超えていた。この鋼板は、近距離で見た際に、砂状、いわゆる点状に光を反射する「ギラツキ」感により眩しさを感じる者が複数名おり、防眩性は不合格である。
【0051】
No.7はCw1のうちC1.0の値が0.5%を超えており、Cw2の値も10%を超えていた。遠距離でも眩しいと感じた者がおり、また、近距離においても眩しいと訴える者がおり不合格であった。
【0052】
No.8および9、14では、Cw1がいずれも0.5%以上、Cw2が10%を超える大きな値を示していた。特にNo.8の鋼板は遠距離での光沢感が強く、評価者全員が遠距離、近距離とも眩しいと感じ不合格であった。No.9はNo.8よりも眩しく感じNo.8同様に全員が遠距離、近距離とも眩しいと感じ不合格であった。
【0053】
これらの評価結果より、像鮮明度の測定値が人の主観による防眩性の評価結果と一致している。本発明の評価方法は、防眩性を評価する上で有用であることを確認できた。