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特開2022-116529高温環境対応型高強度水中不分離性モルタル組成物及びそれを用いたモルタル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022116529
(43)【公開日】2022-08-10
(54)【発明の名称】高温環境対応型高強度水中不分離性モルタル組成物及びそれを用いたモルタル
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/02 20060101AFI20220803BHJP
   C04B 22/08 20060101ALI20220803BHJP
   C04B 22/14 20060101ALI20220803BHJP
   C04B 24/26 20060101ALI20220803BHJP
   C04B 24/38 20060101ALI20220803BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B22/08 Z
C04B22/14 B
C04B24/26 E
C04B24/38 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021012731
(22)【出願日】2021-01-29
(71)【出願人】
【識別番号】501173461
【氏名又は名称】太平洋マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100122437
【弁理士】
【氏名又は名称】大宅 一宏
(74)【代理人】
【識別番号】100209495
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 さおり
(72)【発明者】
【氏名】柴垣 昌範
(72)【発明者】
【氏名】金堀 雄伍
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112MB00
4G112MB23
4G112MD01
4G112PA02
4G112PB05
4G112PB11
4G112PB31
4G112PB40
4G112PC03
4G112PC08
4G112PC09
(57)【要約】
【課題】水中不分離性を有し、且つ高温環境下における作業性も確保し、高い強度発現性を有する高温環境対応型高強度水中不分離性モルタル組成物を提供すること。
【解決手段】セメント、非晶質アルミノシリケート、及び石膏を含む結合材と、増粘剤と、細骨材とを含み、非晶質アルミノシリケートと石膏との合計含有量が、結合材100質量部に対し、6~40質量部であり、結合材において、化学成分としてSO及びAlのモル比([SOのモル数]/[Alのモル数])が0.25~0.8である、高温環境対応型高強度水中不分離性モルタル組成物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント、非晶質アルミノシリケート、及び石膏を含む結合材と、増粘剤と、細骨材とを含み、
前記非晶質アルミノシリケートと前記石膏との合計含有量が、前記結合材100質量部に対し、6~40質量部であり、
前記結合材において、化学成分としてSO及びAlのモル比([SOのモル数]/[Alのモル数])が0.25~0.8である、高温環境対応型高強度水中不分離性モルタル組成物。
【請求項2】
前記増粘剤が、2質量%の水溶液としたときに20℃において30000~60000mPa・sの粘度を有するセルロース系増粘剤である、請求項1に記載の高温環境対応型高強度水中不分離性モルタル組成物。
【請求項3】
前記セルロース系増粘剤の下限臨界共溶温度が45℃以上である、請求項2に記載の高温環境対応型高強度水中不分離性モルタル組成物。
【請求項4】
前記結合材が膨張材を更に含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の高温環境対応型高強度水中不分離性モルタル組成物。
【請求項5】
ポリカルボン酸系減水剤を更に含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の高温環境対応型水中不分離性モルタル組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の高温環境対応型高強度水中不分離性モルタル組成物と、水とを含み、
前記水の含有量が、前記結合材100質量部に対し、15~40質量部である、高温環境対応型高強度水中不分離性モルタル。
【請求項7】
前記増粘剤及び前記水の質量比([増粘剤の質量]/[水の質量])が、0.0005~0.02である、請求項6に記載の高温環境対応型高強度水中不分離性モルタル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温環境対応型高強度水中不分離性モルタル組成物及びそれを用いたモルタルに関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、温室効果ガスの増加等を要因とする気候変動により夏場の気温上昇が著しくなり、暑中セメントコンクリートの施工環境は過酷さを増している。コンクリート標準示方書では、「打込み温度が35℃を超える場合は、コンクリートが所定の品質を確保できることを確かめなければならない」とされているが、各種グラウト等のモルタルにもコンクリートと同様のことがいえる。
【0003】
水中不分離性モルタルは、一般的にセメント、水、骨材、減水剤、不分離剤(増粘剤)等の材料から構成される。ところが、増粘剤は高温になるほど性能が低下する傾向がある。そのため、気温の高くなる夏場での施工時に、水中不分離性モルタルの水中不分離性が低下することがある。土木工事又は建築工事において、海中を含む水中にモルタルを施工する場合、圧送ポンプにて水中充填するため、水中不分離性が低下すると材料分離により硬化不良や強度不足が生じ、施工不良となる。高温環境下においても優れた水中不分離性を備え、短時間で練り上げることができる高温環境用水中不分離性モルタル組成物が知られている(例えば特許文献1)。
【0004】
また、施工現場によっては、高強度なモルタルが求められている。高強度モルタルの一例として、特許文献2には、セメントと、シリカフュームと、水と、減水剤と、消泡剤と、細骨材と、高張力繊維とを含むモルタル組成物であって、セメントは、CSを40.0~75.0質量%及びCAを2.7質量%未満含有し、かつ、45μmふるい残分が8.0質量%未満であり、細骨材は、フェロニッケルスラグを含有する、高強度モルタル組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-161387号公報
【特許文献2】特開2012-144403号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、強度発現性を向上させるためには単位セメント量や結合材量の増加、単位水量の低減が必要となるが、その結果、夏場の高温環境下ではセメントの水和反応が促進され、作業性時間(可使時間)が確保しにくいという課題があった。また、上述したとおり、高温環境下では増粘剤の性能が低下しやすいという課題もある。そのため、水中不分離性モルタルにおいて、昨今の夏場の水中施工において水中不分離性を保持しつつ、高強度を発現させることが困難であった。
【0007】
したがって、本発明は、混練したモルタルが流動性に優れグラウトポンプで容易に圧送可能であり、水中不分離性を有し、且つ高温環境下における作業性も確保し、高い強度発現性を有する高温環境対応型高強度水中不分離性モルタル組成物及びそれを用いたモルタルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、結合材に配合する非晶質アルミノシリケートと石膏との合計量を特定の範囲内に調整し、且つ結合材に含まれるSOとAlとのモル比を特定の範囲内に調整することで、高温環境下でも作業性に優れ、且つ高い強度発現性を発揮できることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[7]で示される。
[1]
セメント、非晶質アルミノシリケート、及び石膏を含む結合材と、増粘剤と、細骨材とを含み、非晶質アルミノシリケートと石膏との合計含有量が、結合材100質量部に対し、6~40質量部であり、結合材において、化学成分としてSO及びAlのモル比([SOのモル数]/[Alのモル数])が0.25~0.8である、高温環境対応型高強度水中不分離性モルタル組成物。
[2]
増粘剤が、2質量%の水溶液としたときに20℃において30000~60000mPa・sの粘度を有するセルロース系増粘剤である、[1]に記載の高温環境対応型高強度水中不分離性モルタル組成物。
[3]
セルロース系増粘剤の下限臨界共溶温度が45℃以上である、[2]に記載の高温環境対応型高強度水中不分離性モルタル組成物。
[4]
結合材が膨張材を更に含む、[1]~[3]のいずれかに記載の高温環境対応型高強度水中不分離性モルタル組成物。
[5]
ポリカルボン酸系減水剤を更に含む、[1]~[4]のいずれかに記載の高温環境対応型水中不分離性モルタル組成物。
[6]
[1]~[5]のいずれかに記載の高温環境対応型高強度水中不分離性モルタル組成物と、水とを含み、水の含有量が、結合材100質量部に対し、15~40質量部である、高温環境対応型高強度水中不分離性モルタル。
[7]
増粘剤及び水の質量比([増粘剤の質量]/[水の質量])が、0.0005~0.02である、[6]に記載の高温環境対応型高強度水中不分離性モルタル。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、混練したモルタルが流動性に優れグラウトポンプで容易に圧送可能であり、水中不分離性を有し、且つ高温環境下における作業性も確保し、高い強度発現性を有する高温環境対応型高強度水中不分離性モルタル組成物及びそれを用いたモルタルを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の好適な一実施形態について説明する。本明細書において、「高温環境対応型」とは、30℃又はそれ以上の高温環境下において、混練したモルタルが良好なフレッシュ性状で流動性に優れ、十分な作業性時間を確保することである。詳しくは、練り混ぜから120分経過した際、JIS R 5201:1997「セメントの物理試験方法」のセメントペースト容器(フローコーン)にモルタルを充填し、容器引き上げ後のテーブルフロー値(フローコーン引き抜き後3分経過後)が200mm以上であることを指す。
【0012】
本実施形態の高温環境対応型高強度水中不分離性モルタル組成物は、セメント、非晶質アルミノシリケート、及び石膏を含む結合材と、増粘剤と、細骨材とを含み、非晶質アルミノシリケートと石膏との合計含有量が、結合材100質量部に対し、6~40質量部であり、結合材において、化学成分としてSO及びAlのモル比([SOのモル数]/[Alのモル数])が0.25~0.8である。
【0013】
本実施形態に係る結合材は、セメント、非晶質アルミノシリケート、及び石膏を含む。結合材は、上記成分以外に、膨張材、高炉スラグ微粉末、シリカフューム、フライアッシュ等を含んでもよい。
【0014】
セメントは、種々のものを使用することができ、例えば、普通、早強、超早強、低熱及び中庸熱等の各種ポルトランドセメント、エコセメント、速硬性セメント等が挙げられる。セメントとしては、高温環境下であっても流動性や可使時間を確保しやすいという観点から、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメントが好ましい。セメントは、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。
【0015】
セメントの含有量は、結合材100質量部に対し、60~85質量部であることが好ましく、65~82質量部であることがより好ましく、68~80質量部であることが更に好ましい。
【0016】
非晶質アルミノシリケートは、粘土鉱物に由来し、非晶質部分を含むアルミノシリケートであれば特に限定されず、いずれも使用可能である。原料である粘土鉱物の例としては、カオリン鉱物、雲母粘土鉱物、スメクタイト型鉱物、及びこれらが混合生成した混合層鉱物が挙げられる。非晶質アルミノシリケートは、これらの結晶性アルミノシリケートを、例えば焼成・脱水して非晶質化することにより得られる。非晶質アルミノシリケートとしては、反応性に更に優れるという観点から、カオリナイト、ハロサイト、ディッカイト等のカオリン鉱物由来のものが好ましく、カオリナイトを焼成して得られるメタカオリンより好ましい。非晶質アルミノシリケートは、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。
【0017】
本明細書において「非晶質」とは、粉末X線回折装置による測定で、原料である粘土鉱物に由来するピークがほぼ見られなくなることをいう。本実施形態に係る非晶質アルミノシリケートは非晶質の割合が70質量%以上であればよく、好ましくは90質量%以上、より好ましくは100質量%、即ち粉末X線回折装置による測定でピークが全く見られないものが最も好ましい。非晶質の割合は標準添加法により求めた値である。非晶質の割合が高いアルミノシリケート、即ち結晶質の割合が低いアルミノシリケートは、非晶質の割合が低いアルミノシリケートに比べて、同じ混和量における強度発現性が更によい傾向にある。アルミノシリケートの非晶質化のための加熱としては、外熱キルン、内熱キルン、電気炉等による焼成、及び溶融炉を用いた溶融等が挙げられる。
【0018】
非晶質アルミノシリケートの含有量は、結合材100質量部に対し、5~25質量部であることが好ましく、10~22質量部であることがより好ましく、12~20質量部であることが更に好ましい。非晶質アルミノシリケートの含有量が上記範囲内であれば、良好な施工性を維持しつつ、より高い強度発現性を確保しやすい。
【0019】
石膏としては、例えば、無水石膏、半水石膏、二水石膏が挙げられる。石膏としては、強度発現性を更に向上させるという観点から、無水石膏が好ましい。石膏は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。石膏の粉末度は、反応活性による短期強度発現性が更に向上するという観点から、ブレーン比表面積で2500cm/g以上であることが好ましい。また、石膏の粉末度は、ブレーン比表面積で12000cm/g以下であることが好ましい。
【0020】
石膏類の含有量は、結合材100質量部に対し、1~15質量部であることが好ましく、2~12質量部であることがより好ましく、3~10質量部であることが更に好ましい。石膏類の含有量が上記範囲内であれば、より高い強度発現性を確保しやすい。
【0021】
また、本実施形態のモルタル組成物の結合材において、非晶質アルミノシリケートと石膏との合計含有量は、結合材100質量部に対し、6~40質量部である。非晶質アルミノシリケートと石膏との合計含有量が上記範囲外であると、強度発現性の低下や、流動性が得られ難くなり、高温下での可使時間の低下が生じる恐れがある。非晶質アルミノシリケートと石膏との合計含有量は、高温下での作業性及び強度発現性がより一層向上するという観点から、結合材100質量部に対し、10~30質量部であることが好ましく、15~28質量部であることがより好ましい。
【0022】
膨張材は、コンクリート用膨張材として一般に使用されているJIS適合の膨張材(JIS A 6202:2008)であれば、何れの膨張材でもかまわない。膨張材としては、例えば、遊離生石灰を主成分とする膨張材(生石灰系膨張材)、アウインを主成分とする膨張材(エトリンガイト系膨張材)、遊離生石灰とエトリンガイト生成物質の複合系膨張材が挙げられる。膨張材は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。膨張材はブレーン比表面積が2000~6000cm/gのものを使用することが好ましい。
【0023】
膨張材の含有量は、結合材100質量部に対し、0.1~5質量部であることが好ましく、0.5~4質量部であることがより好ましく、1~3質量部であることが更に好ましい。膨張材の含有量が上記範囲内であれば、圧縮強度、寸法変化率等がより一層優れたものとなる。
【0024】
本実施形態のモルタル組成物の結合材において、化学成分としてSO及びAlのモル比([SOのモル数]/[Alのモル数])は0.25~0.8である。SO及びAlのモル比が上記範囲外であると、良好な流動性が得られず、水中での強度発現性も低下する。SO及びAlのモル比は、良好な流動性を維持しつつ、より高い強度発現性が得られるという観点から、0.28~0.76であることが好ましく、0.3~0.65であることがより好ましい。
【0025】
結合材における、化学成分としてSO及びAlのモル比の調整方法としては、SOを主成分とする石膏及びAlを主成分とする非晶質アルミノシリケートの含有量を増減させればよい。
【0026】
結合材における、化学成分としてSO及びAlのモル比の決定方法としては、結合材中の各種原材料を蛍光X線分析装置により分析し、酸化物として示したSO及びAlの各々における成分合計値をモル比換算する方法が挙げられる。
【0027】
増粘剤は特に限定されるものではなく、例えば、セルロース系増粘剤、アクリル系増粘剤、グアーガム系増粘剤等が挙げられる。これらの増粘剤の中でも、セルロース系増粘剤が好ましい。セルロース系増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられる。セルロース系増粘剤としては、下限臨界共溶温度(LCST)が高く、高温環境下でも優れた機能を発揮しやすいという観点から、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースが好ましく、ヒドロキシプロピルメチルセルロースがより好ましい。
【0028】
セルロース系増粘剤の下限臨界共溶温度は45℃以上であることが好ましく、50℃以上であることがより好ましく、55℃以上であることが更に好ましい。セルロース系増粘剤の下限臨界共溶温度が45℃以上であれば、増粘剤が相転移しにくく、高温環境下でも優れた機能を発揮しやすい。下限臨界共溶温度は、例えば、吸光度計や動的光散乱測定装置を用いて、温度による水溶液の変化を見ることで測定することができる。
【0029】
増粘剤の粘度は、30000~60000mPa・sであることが好ましく、30000~55000mPa・sであることがより好ましく、35000~50000mPa・sであることが更に好ましい。増粘剤の粘度が上記範囲内であれば、モルタルの水中不分離性を向上させ、且つ良好な流動性を保持することができる。本明細書において、増粘剤の粘度は、濃度が2質量%となるように調製した増粘剤の水溶液を、20℃の環境下において回転粘度計を用いて測定した値である。回転粘度計は通常用いられているものを使用することができ、例えば、内筒回転型粘度計、外筒回転型粘度計を用いることができる。
【0030】
増粘剤の含有量は、結合材100質量部に対し、0.005~0.5質量部であることが好ましく、0.01~0.4質量部であることがより好ましく、0.02~0.3質量部であることが更に好ましい。増粘剤の含有量が上記範囲内であれば、良好な流動性を確保しやすく、一層優れた水中不分離性を確保することができる。
【0031】
細骨材としては、例えば、川砂、珪砂、砕砂、寒水石、石灰石砂、スラグ骨材等が挙げられる。細骨材は、これらの中から、微細な粉や粗い骨材を含まない粒度に調整した珪砂、石灰石砂等を用いることが好ましい。細骨材は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。細骨材は、通常用いられる粒径5mm以下のもの(5mmふるい通過分)を使用するのが好ましい。
【0032】
細骨材の粒度は特に限定されるものではなく、必要とする細骨材の粒度の範囲内で調整することができる。細骨材は、JIS A 1102:2014「骨材のふるい分け試験方法」により規定される粗粒率からその粒度を考慮することができる。モルタルとしたときにより良好な流動性が得られやすく、ブリーディングを抑制しやすいという観点から、細骨材の粗粒率は、1~4であることが好ましく、1.5~3.8であることがより好ましく、1.8~3.7であることが最も好ましい。
【0033】
細骨材の含有量は、結合材100質量部に対し、40~75質量部であることが好ましく、45~70質量部であることがより好ましく、50~68質量部であることが更に好ましい。細骨材の含有量が上記範囲内であれば、良好な流動性が得られやすく、強度発現性も一層優れたものとなる。
【0034】
減水剤は、高性能減水剤、高性能AE減水剤、AE減水剤及び流動化剤を含む。このような減水剤としては、JIS A 6204:2011「コンクリート用化学混和剤」に規定される減水剤が挙げられる。減水剤としては、例えば、ポリカルボン酸系減水剤、ナフタレンスルホン酸系減水剤、リグニンスルホン酸系減水剤、メラミン系減水剤が挙げられる。これらの減水剤の中でも、少量の添加量であっても流動性保持時間を確保しやすいという観点から、ポリカルボン酸系減水剤が好ましい。減水剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。
【0035】
減水剤の含有量は、結合材100質量部に対し、0.3~5質量部であることが好ましく、0.5~4質量部であることがより好ましく、0.8~3質量部であることが更に好ましい。減水剤の含有量が上記範囲内であれば、可使時間を確保しやすく、流動性がより一層向上する。
【0036】
本実施形態のモルタル組成物には、本発明の効果が損なわれない範囲で各種混和材料を配合してもよい。混和材料としては、例えば、発泡剤、消泡剤、セメント用ポリマー、防水材、防錆剤、収縮低減剤、保水剤、顔料、繊維、撥水剤、白華防止剤、急結剤(材)、急硬剤(材)、凝結遅延剤、高炉スラグ微粉末、石粉、シリカフューム、火山灰、空気連行剤、表面硬化剤が挙げられる。
【0037】
本実施形態のモルタル組成物を製造する方法は、特に限定されず、例えば、V型混合機や可傾式コンクリートミキサー等の重力式ミキサー、ヘンシェル式ミキサー、噴射型ミキサー、リボンミキサー、パドルミキサー等のミキサーにより混合することで製造することができる。
【0038】
本実施形態のモルタル組成物は、水と混合してモルタルとして調製することができ、その水の含有量は用途に応じて適宜調整すればよい。水の含有量は、結合材100質量部に対して15~40質量部であることが好ましく、18~35質量部であることがより好ましく、20~30質量部であることが更に好ましい。水の含有量が上記範囲内であれば、良好な水中不分離性を確保しつつ、強度発現性がより一層優れたものとなる。
【0039】
本実施形態のモルタルにおいて、増粘剤と水との質量比([増粘剤の質量]/[水の質量])は、0.0005~0.02であることが好ましく、0.0008~0.018であることがより好ましく、0.001~0.015であることが更に好ましい。増粘剤と水との質量比が上記範囲内であれば、水中不分離性が一層優れたものとなる。
【0040】
本実施形態のモルタルの調製は、通常のモルタル組成物と同様の混練器具を使用することができ、特に限定されるものではない。混練器具としては、例えば、モルタルミキサー、グラウトミキサー、ハンドミキサー、傾胴ミキサー、二軸ミキサー等が挙げられる。
【0041】
本実施形態のモルタル組成物及びモルタルは、30℃以上の高温環境下であっても流動性及び可使時間に優れ、水中不分離性も良好であり、硬化時の圧縮強度も優れたものである。したがって、夏場等の厳しい環境条件下であっても、通常の水中構造物の打設への使用が可能であり、強固な強度特性を求められる洋上設備の施工にも好適に使用することができる。その施工方法は特に限定されず、型枠を作り充填する方法等が選択できる。
【実施例0042】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0043】
実施例で用いる材料は以下のとおりである。
早強ポルトランドセメント(HC)
普通ポルトランドセメント(NC)
非晶質アルミノシリケート(AS):非晶質アルミノ珪酸化合物(市販品、粉末X線回折装置による測定で原料である粘土鉱物に由来するピークが全く認められない(非晶質))
石膏(G):無水石膏(粉末度:7100cm/g)
膨張材(EX):石灰系膨張材(ブレーン比表面積:3105cm/g)
増粘剤1(MC1):水溶性セルロースエーテル(ヒドロキシプロピルメチルセルロース、2質量%の水溶液としたときの20℃における粘度:45500mPa・s、下限臨界共溶温度:55℃以上)
増粘剤2(MC2):水溶性セルロースエーテル(ヒドロキシプロピルメチルセルロース、2質量%の水溶液としたときの20℃における粘度:30800mPa・s、下限臨界共溶温度:55℃以上)
減水剤(AD):ポリカルボン酸塩系高性能減水剤
細骨材(S):珪砂調整品(粗粒率を2.6~3.6に粒度調整したもの)
練混ぜ水(W):上水
【0044】
[実験例1]
<モルタル組成物の製造>
表1に示す配合割合で使用材料を配合しヘンシェルミキサーに投入し、混合してモルタル組成物(本発明品1~6、参考品1~4)を製造した。
【0045】
<モルタルの製造>
作製したモルタル組成物6kgと水を、高速ハンドミキサーで6分間練り混ぜ、モルタルを作製した。水の割合は表1に示すとおりである。
【0046】
【表1】
【0047】
<モルタルのフレッシュ性状の評価>
作製したモルタル(本発明品1~6、参考品2~4)の30℃高温環境下(試験室温及び材温、水温30℃±1℃)におけるフレッシュ性状(流動性及び作業性保持時間)を測定し評価した。各評価試験方法を以下に示す。
〔流動性〕
JIS R 5201:1997「セメントの物理試験方法」のセメントペースト容器(フローコーン)にモルタルを充填し、容器引き上げ後のテーブルフロー値(フローコーン引き抜き後3分経過後)を測定した。
〔作業性保持時間〕
作業性保持時間は、上記試験のテーブルフロー値に基づき、練り混ぜから120分後の流動性から判断した。テーブルフロー値が200mm以上のものを良好、テーブルフロー値が200mm未満のものを不可と判定した。経時変化後のテーブルフロー値を測定する前にハンドミキサーにて30秒間再攪拌を行った。
【0048】
表2に30℃環境下におけるフレッシュ性状の評価結果を示す。本発明品は、何れも、練り上り温度は40℃前後(37.1~40.4℃)で、練り混ぜ直後のフロー値が250mm以上の高流動性であり、練り混ぜから120分後のフロー値も200mm以上を保持していることが確認された。本発明品は、モルタルのシマリ、骨材分離、ブリーディングの発生も目視上認められなかった。
【0049】
【表2】
【0050】
[実験例2]
<モルタルの硬化性状の評価>
作製したモルタル(本発明品1~6、参考品1)の硬化性状における圧縮強度及び水中不分離性を測定し評価した。各評価試験方法を以下に示す。
〔圧縮強度〕
JIS A 1108:2006「コンクリートの圧縮強度試験方法」に準じて、材齢28日における圧縮強度を測定した。供試体の寸法は、直径50mm、高さ100mmとした。試験体の水中成型はJSCE-504に準じて成型し、気中成型は気中で成型する以外は水中成型試験体と全く同様に成型した。
〔水中不分離性〕
JSCE-D-104-2007「コンクリート用水中不分離性混和剤品質規格」に準じ、上記試験で実施した圧縮強度の水中気中圧縮強度比を算出し、材齢28日の水中気中圧縮強度比80%以上を良好、80%未満を不良とした。
【0051】
表3に30℃環境下におけるモルタル硬化性状の評価結果を示す。本発明品は、何れも、材齢28日の圧縮強度が100N/mm以上の超高強度を示した。本発明品は、水中気中圧縮強度比が何れも80%以上であり、良好な水中不分離性を確認した。
【0052】
【表3】
【0053】
[実験例3]
本発明品1及び4について、40℃の高温環境下(試験室温及び材温、水温40℃±1℃)におけるフレッシュ性状(流動性及び作業性性保持時間)を実験例1と同様に測定し、評価した。モルタルの製造は、以下のとおりマス効果の蓄熱性を考慮し、モルタル組成物の練混ぜ量は100kgとした。
<モルタルの製造>
作製したモルタル組成物100kgと水を、高速グラウトミキサーで2分間練り混ぜ、モルタルを作製した。水の割合は表1に示すとおりである。
【0054】
表4に40℃の高温環境下におけるフレッシュ性状の評価結果を示す。本発明品は、何れも、練り上り温度は45℃を超えたものの、練り混ぜ直後のフロー値が250mm以上の高流動性であり、練り混ぜから120分後のフロー値も200mm以上を保持していることが確認された。本発明品は、モルタルのシマリ、骨材分離、ブリーディングの発生も目視上認められなかった。
【0055】
【表4】
【0056】
[実験例4]
本発明品1及び4について、40℃の高温環境下における硬化性状(圧縮強度及び水中不分離性)を実験例2と同様に測定し評価した。モルタルの製造は、実験例3と同様に行った。
【0057】
表5に40℃の高温環境下におけるモルタル硬化性状の評価結果を示す。本発明品は、何れも、材齢28日の圧縮強度が100N/mm以上の超高強度を示した。本発明品は、水中気中圧縮強度比も何れも90%以上であり、良好な水中不分離性を確認した。
【0058】
【表5】