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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022116542
(43)【公開日】2022-08-10
(54)【発明の名称】分析システム
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/2251 20180101AFI20220803BHJP
【FI】
G01N23/2251
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021012758
(22)【出願日】2021-01-29
(71)【出願人】
【識別番号】000004271
【氏名又は名称】日本電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲塚▼本 一徳
【テーマコード(参考)】
2G001
【Fターム(参考)】
2G001AA03
2G001BA07
2G001BA14
2G001BA15
2G001CA03
2G001EA01
2G001EA03
2G001GA01
2G001GA06
2G001JA12
2G001PA14
2G001QA01
(57)【要約】
【課題】分析システムにおいて、ステージ高さを手動で調整する場合にステージの応答性を良好にする。
【解決手段】試料の光学像を参照しながら、オペレータによりマウス34のホイール36が操作される。これにより時系列順で並ぶ複数の高さ変更信号が生じる。グラフィカルユーザーインターフェイス(GUI)26は、複数の高さ変更信号を所定周期で順次集約することにより複数の高さ変更データを生成し、それらをステージファームウエア28に向けて間欠的に出力する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステージに搭載された試料に対して電子プローブを照射する照射手段と、
前記電子プローブの照射により前記試料から放出された信号を分析する分析手段と、
前記試料の分析に先立ってオペレータが前記ステージの高さを手動調整する際に、前記オペレータに提供される試料光学像を生成する生成手段と、
前記ステージの高さを手動調整する際に、前記オペレータによって操作される入力デバイスと、
前記入力デバイスが接続され、グラフィカルユーザーインターフェイス及びステージファームウエアを含むプログラム群を備える情報処理装置と、
を含み、
前記グラフィカルユーザーインターフェイスは、前記入力デバイスから時系列順で出力される複数の高さ変更信号を受け取り、前記複数の高さ変更信号を所定周期で順次集約することにより複数の高さ変更データを生成し、前記複数の高さ変更データを前記ステージファームウエアに向けて間欠的に出力し、
前記間欠的に出力された前記複数の高さ変更データが、前記プログラム群に含まれる1又は複数のプログラムを経由して、前記ステージファームウエアへ送られ、
前記ステージファームウエアは、前記複数の高さ変更データに従って前記ステージの高さを変更する、
ことを特徴とする分析システム。
【請求項2】
請求項1記載の分析システムにおいて、
前記所定周期は、前記複数の高さ変更信号における最小周期よりも長い、
ことを特徴とする分析システム。
【請求項3】
請求項1記載の分析システムにおいて、
前記入力デバイスはホイールを有するマウスであり、
前記グラフィカルユーザーインターフェイスは、前記試料光学像を含むウインドウがアクティブになっている状況下で、前記ホイールの回転操作が行われた場合に、前記ホイールから順次出力された複数の信号を前記複数の高さ変更信号とみなす、
ことを特徴とする分析システム。
【請求項4】
請求項3記載の分析システムにおいて、
複数の換算係数の中から特定の換算係数が選択され、
前記各換算係数は、前記ホイールの単位回転角度当たりの高さ変更量を定める係数であり、
前記グラフィカルユーザーインターフェイスは、前記特定の換算係数に従って前記複数の高さ変更信号に基づいて前記複数の高さ変更データを生成する、
ことを特徴とする分析システム。
【請求項5】
請求項1記載の分析システムにおいて、
前記情報処理装置は、
前記入力デバイスが接続されたリモート装置と、
前記リモート装置に対してネットワークを介して接続され、前記プログラム群を含むローカル装置と、
を含み、
前記入力デバイスから前記リモート装置及び前記ネットワークを介して前記グラフィカルユーザーインターフェイスへ前記複数の高さ変更信号が送られる、
ことを特徴とする分析システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は分析システムに関し、特に、基準高さに対して試料高さを手動で合わせるための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
電子プローブを用いて試料を分析する分析システムが活用されている。分析システムの一例として、電子プローブマイクロアナライザ(EPMA:Electron Probe Micro Analyzer)が挙げられる。
【0003】
分析システムは、一般に、試料上の分析点から得られた特性X線等の信号に基づいて試料を分析する機能、及び、電子プローブの走査により試料の二次元画像を形成する機能、を備えている。試料分析のために、分析システムには、波長分散型X線検出器であるWDS(Wavelength-Dispersive X-ray Spectrometer)、エネルギー分散型X線検出器であるEDS(Energy Dispersive X-ray Spectrometer)、等が設けられている。WDSを用いて試料の分析を行う場合、試料表面上の分析点の高さを、分析用の基準高さに正確に合わせる必要があり、つまり、試料を搭載しているステージの高さを厳密に調整する必要がある。
【0004】
例えば、特許文献1に記載されているように、分析システムにおいては、一般に、試料高さの調整のために、試料表面を表す光学像(試料光学像)が取得される。このため、分析システムには、光学像取得装置が組み込まれている。光学像の合焦状態(合焦度)が最も良くなるようにステージの高さが調整され、最終的にステージの高さつまり試料表面の高さが最適化される。分析システムにおいては、一般に、光学系の焦点位置と電子プローブの焦点位置が一致しており、光学系の焦点が試料表面に合っている状態では、電子プローブの焦点が試料表面に合う。
【0005】
ステージの高さを調整する方法として自動調整法及び手動調整法が挙げられる。自動調整法は、光学像の解析によりステージ高さを自動的に最適化するものである。手動調整法は、光学像を目視で観察しながら、ステージ高さを可変し、これによりステージ高さを最適化するものである。例えば、自動調整法では高さ調整が困難な場合、手動調整法が選択される。
【0006】
手動調整法の実施に関し、専用の操作パネルに代えて、又は、それと共に、汎用の入力デバイス(典型的にはマウス)を用いることが考えられる。専用の操作パネルを用いる場合、操作パネルからの高さ変更信号を直接的にステージ制御部へ与えることも可能であるが、汎用の入力デバイスを用いる場合、通常、その入力デバイスからの高さ変更信号がOSを経由してアプリケーションソフトウエアにおいて認識された上で、アプリケーションソフトウエアからの高さ変更データが1又は複数の他のソフトウエアを経由してステージを制御するソフトウエア(ステージファームウエア)へ与えられる。
【0007】
なお、特許文献2には、マウスを備えた放射線検査装置が記載されている。マウスに設けられたホイールの操作により、画像の拡大率が変更されている。特許文献2には、ホイールの出力信号の具体的な処理については記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007-285797号公報
【特許文献2】特許第4405773号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
分析システムは通常、大規模のシステムである。そのような分析システムにおいて、マウス等の入力デバイスを操作してステージの高さを手動調整する場合、入力デバイスからの情報が様々なソフトウエアを経由してステージファームウエアに送られることになる。入力デバイスの操作時から実際にステージが動くまでに不可避的に遅延が生じる。光学像を観察しながら入力デバイスを操作している場合、応答性が悪いと、ステージ高さの調整が困難となる。それを要因として、ユーザーにストレスが生じ、また、分析開始が遅れてしまう。
【0010】
本発明の目的は、分析システムにおいて、入力デバイスを用いてステージの高さを手動調整する場合におけるステージの応答性を改善することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る分析システムは、ステージに搭載された試料に対して電子プローブを照射する照射手段と、前記電子プローブの照射により前記試料から放出された信号を分析する分析手段と、前記試料の分析に先立ってオペレータが前記ステージの高さを手動調整する際に、前記オペレータに提供される試料光学像を生成する生成手段と、前記ステージの高さを手動調整する際に、前記オペレータによって操作される入力デバイスと、前記入力デバイスが接続され、グラフィカルユーザーインターフェイス及びステージファームウエアを含むプログラム群を備える情報処理装置と、を含み、前記グラフィカルユーザーインターフェイスは、前記入力デバイスから時系列順で出力される複数の高さ変更信号を受け取り、前記複数の高さ変更信号を所定周期で順次集約することにより複数の高さ変更データを生成し、前記複数の高さ変更データを前記ステージファームウエアに向けて間欠的に出力し、前記間欠的に出力された前記複数の高さ変更データが、前記プログラム群に含まれる1又は複数のプログラムを経由して、前記ステージファームウエアへ送られ、前記ステージファームウエアは、前記複数の高さ変更データに従って前記ステージの高さを変更する、ことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、分析システムにおいて、入力デバイスを用いてステージの高さを手動調整する場合におけるステージの応答性を改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態に係る分析システムの構成例を示す図である。
図2】測定部の一部を示す模式図である。
図3】表示例を示す図である。
図4】グラフィカルユーザーインターフェイスの構成例を示す図である。
図5】グラフィカルユーザーインターフェイスでの信号処理例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、実施形態を図面に基づいて説明する。
【0015】
(1)実施形態の概要
実施形態に係る分析システムは、照射手段、分析手段、生成手段、入力デバイス、及び、情報処理装置を有する。照射手段は、ステージに搭載された試料に対して電子プローブを照射する。分析手段は、電子プローブの照射により試料から放出された信号を分析する。生成手段は、試料の分析に先立ってオペレータがステージの高さを手動調整する際に、オペレータに提供される試料光学像を生成する。入力デバイスは、ステージの高さを手動調整する際に、オペレータによって操作されるデバイスである。情報処理装置は、入力デバイスが接続され、グラフィカルユーザーインターフェイス及びステージファームウエアを含むプログラム群を備える。グラフィカルユーザーインターフェイスは、入力デバイスから時系列順で出力される複数の高さ変更信号を受け取り、複数の高さ変更信号を所定周期で順次集約することにより複数の高さ変更データを生成し、複数の高さ変更データをステージファームウエアに向けて間欠的に出力する。間欠的に出力された複数の高さ変更データが、プログラム群に含まれる1又は複数のプログラムを経由して、ステージファームウエアへ送られる。ステージファームウエアは、複数の高さ変更データに従ってステージの高さを変更する。
【0016】
上記構成において、試料光学像を参照しながら、オペレータにより入力デバイスが操作されると、時系列順で並ぶ複数の高さ変更信号が生じる。グラフィカルユーザーインターフェイスは、複数の高さ変更信号を所定周期で順次集約することにより、複数の高さ変更信号を生成し、それらを間欠的に出力する。単位時間ごとに、単位時間内の複数の高さ変更信号がまとめられて、集約された単一の高さ変更信号が生成される。
【0017】
分析システムにおいては、多数のソフトウエアが同時に動作しており、また、個々のデータが複雑なパスを通じて転送される。グラフィカルユーザーインターフェイスが、信号集約を行うことなく、個々の高さ変更信号を高さ変更データとして逐次的に出力した場合、それらのデータを中継する個々のソフトウエアの負担が増大してしまう。その結果、オペレータから見て、ステージの応答性が悪くなる。これに対して、上記構成によれば、グラフィカルユーザーインターフェイスが信号集約を行うので、伝送される高さ変更データの個数を少なくでき、それらを中継する個々のソフトウエアの負担を軽減できる。これにより、ステージの応答性を良好にできる。
【0018】
上記構成において、グラフィカルユーザーインターフェイスは、オペレータに画像を提供し及びオペレータからの入力信号を処理するソフトウエアである。集約は複数の信号をまとめる処理を意味し、その概念には、積算等が含まれる。個々の高さ変更信号は、回転角度を示す信号であってもよし、単位回転角度を示すパルスであってもよい。ステージの水平位置を変更する複数の水平位置変更信号が上記同様に順次集約され、これにより生じた複数の水平位置変更データが間欠的に出力されてもよい。
【0019】
実施形態において、所定周期は、複数の高さ変更信号における最小周期よりも長い。所定周期が手動で又は自動的に可変されてもよい。
【0020】
実施形態において、入力デバイスはホイールを有するマウスである。グラフィカルユーザーインターフェイスは、試料光学像を含むウインドウがアクティブになっている状況下で、ホイールの回転操作が行われた場合に、ホイールから順次出力された複数の信号を複数の高さ変更信号とみなす。この構成は、所定のウインドウがアクティブになっている状況で、つまりステージ手動調整モードが実際に実行されている状態で、マウスのホイールからの複数の信号を複数の高さ変更信号とみなすものである。入力デバイスとして、他のポインティングデバイスが利用されてもよい。
【0021】
実施形態においては、複数の換算係数の中から特定の換算係数が選択される。各換算係数は、ホイールの単位回転角度当たりの高さ変更量を定める係数である。グラフィカルユーザーインターフェイスは、特定の換算係数に従って複数の高さ変更信号に基づいて複数の高さ変更データを生成する。
【0022】
上記構成によれば、ホイールの単位回転角度当たりの高さ変更量を可変できる。ステージの高さを大きく又は早く変更したい場合には、大きな値を有する換算係数が選択され、一方、ステージの高さを小さく又はゆっくり変更したい場合には、小さな値を有する換算係数が選択される。実施形態においては、オペレータにより換算係数が選択されるが、その選択が自動化されてもよい。
【0023】
複数の高さ変更信号から複数の高さ変更データを生成する過程では、集約、及び、換算の2つの処理が実行される。集約後に換算が実行されてもよいし、換算後に集約が実行されてもよい。集約後に換算を行えば、換算回数を低減できる。
【0024】
実施形態において、情報処理装置は、入力デバイスが接続されたリモート装置と、リモート装置に対してネットワークを介して接続され、プログラム群を含むローカル装置と、を含む。入力デバイスからリモート装置及びネットワークを介してグラフィカルユーザーインターフェイスへ複数の高さ変更信号が送られる。
【0025】
(2)実施形態の詳細
図1には、実施形態に係る分析システムが示されている。この分析システムは、試料に対して様々な分析を行うシステムであり、それは例えばEPMAである。分析システムは、図示の構成例において、測定部10及び情報処理部12を有する。
【0026】
測定部10は、ステージ14、照射設備15、検出器群16、光学像取得部18、等を有する。ステージ14は、試料室内に設置されている。分析対象となる試料はステージ14上に搭載されており、具体的には、試料ホルダを介してステージ14上に搭載されている。照射設備15は、照射手段として機能するものであり、それは、電子ビームとしての電子プローブを生成し、電子プローブを試料に対して照射する。
【0027】
光学像取得部18は、ステージ14上の試料の高さを所定の基準高さに合わせる際に用いられる光学像を取得する設備である。光学像は試料表面を表す光学像であり、焦点が試料表面に合致する場合には光学像が最も鮮明となる。焦点が試料表面の手前側又は奥側にシフトしている場合には光学像はボケ像となる。試料表面に視認可能な模様が存在しない場合、合焦度を評価困難となるので、試料表面上にマークが投影される。マークの鮮明度(又はボケ度)に基づいて合焦状態を評価し得る。光学像取得部18は、具体的には、光源20、カメラ21等を有している。光学像取得部18及び後述する光学像生成部24は、それら全体として、生成手段として機能する。
【0028】
検出器群16は、試料から放出される様々な信号を検出する複数の検出器により構成される。検出器群16には、二次電子検出器、反射電子検出器、EDS、WDS等が含まれる。なお、電子プローブの二次元走査により試料表面のSEM(Scanning Electron Microscope)画像を形成し得る。検出器群16及び後述する分析用ソフトウエア群22は、それら全体として、分析手段として機能する。
【0029】
ステージ駆動回路44は、ステージ14が有する複数のモータに対して複数の駆動信号を供給する電気回路である。高さ変更に際しては、ステージ14の高さを変更するモータの動作が制御される。
【0030】
情報処理部12は、情報処理装置に相当し、又は、情報処理装置の一部に相当する。情報処理部12は、具体的には、コンピュータにより構成される。情報処理部12は、複数のプログラム及びそれらを実行するプロセッサを有している。プロセッサは例えばCPUである。複数のコンピュータにより情報処理部12が構成されてもよい。例えば、情報処理部12が、ローカル装置としてのローカルコンピュータ及びリモート装置としてのリモートコンピュータにより構成されてもよい。測定部10と情報処理部12は、専用ネットワーク又は信号線群を介して相互に接続される。
【0031】
情報処理部12は、分析用ソフトウエア群22、光学像生成部24、GUI(グラフィカルユーザーインターフェイス)26、ステージファームウエア28、通信部30等を有している。情報処理部12は、図1に示されていないが、SEMコントローラ、SEM用GUI等も有している。以上挙げた各ソフトウエアは、基本ソフトウエアであるOS上において動作し、OSを介してデータを授受する。
【0032】
分析用ソフトウエア群22は、分析用の複数の検出器からの信号を処理する複数の分析用ソフトウエアで構成される。図示の構成例では、分析時において、複数の検出器及びステージ14の動作は分析用ソフトウエア群22により制御される。
【0033】
光学像生成部24は、カメラ21からの出力信号に基づいて光学像を生成するものである。光学像はカラー画像である。光学像のデータはGUI26に送られている。分析用ソフトウエア群22が生成した画像及び数値情報もGUI26に送られている。
【0034】
GUI26は、ユーザーであるオペレータに対して画像を提供し、オペレータの入力を受け付けて処理する入出力ソフトウエアである。それはオペレータから見て初段のソフトウエアとも言い得る。実施形態においては、GUI26は、時系列順で並ぶ複数の高さ変更信号から複数の高さ変更データを順次生成する機能、及び、複数の高さ変更データをステージファームウエア28に向けて間欠的に出力する機能を有している。また、ステージの水平位置を変更する信号を受け付けてそれを転送する機能も有している。
【0035】
情報処理部12には、表示器32及びマウス34が接続されている。表示器32にはGUIにおいて生成された表示画像が表示される。表示器32は例えばLCDで構成される。ステージの高さ変更時には、表示画像の一部として、光学像を含むステージ調整用ウインドウが表示される。
【0036】
マウス34は、回転する操作子としてのホイール36を有する。ステージの高さを変更する場合、光学像がオペレータにより参照され、その状態で、ホイール36が操作される。ホイール36の回転に伴って、マウス34から時系列順で並ぶ複数の高さ変更信号が出力される。複数の高さ変更信号はGUI26において受け付けられ、また処理される。個々の高さ変更信号は、ホイール36の回転量又は回転速度を示すものである。個々の高さ変更信号が、単位回転量を示すパルスであってもよいし、単位時間当たりの回転量を示すものであってもよい。マウス34に代えて又はマウス34と共に他のポインティングデバイスが設けられてもよい。
【0037】
ステージ調整用ウインドウがアクティブになっている場合において、GUI26に対して、ホイール操作により生じた複数の信号が入力された場合、GUI26は当該複数の信号を複数の高さ変更信号として取り扱う。具体的には、複数の高さ変更信号に対して集約及び換算の2つの処理を適用し、これにより複数の高さ変更データを生成する。
【0038】
集約及び換算は、所定周期(第1周期)に従って実行される。換言すれば、個々の高さ変更信号が逐次的に高さ変更データに変換されるのではなく、1周期内の複数の高さ変更信号が積算され、それにより生成された積算値に対して換算係数が乗算され、これにより1つの高さ変更データが生成されている。GUI26は、複数の高さ変更データを間欠的に出力する。具体的には、それらを上記第1周期で順次出力する。
【0039】
第1周期は、GUI26に受け付けられる複数の高さ変更信号における最小周期よりも長い期間である。例えば、第1周期は、50msから200msの範囲内において定められ、その一例として、100msが挙げられる。集約周期及びデータ出力周期は実施形態において一致しているが、それらを異ならせてもよい。
【0040】
複数の換算係数が用意されており、その中から特定の換算係数がオペレータにより選択される。個々の換算係数は、積算値を高さ変更量に変換するための係数であり、選択された換算係数が積算値に乗算される。高さ調整用ウインドウ内には換算係数を選択するための仮想的なボタンが含まれる。積算前に換算を行ってもよい。積算後に換算を行えば、換算回数を低減できる。ステージ14の高さを早く又は大きく変更したい場合には大きな値を有する換算係数が選択され、ステージ14の高さをゆっくり又小さく変更したい場合には小さな値を有する換算係数が選択される。
【0041】
GUI26は、マウス34の二次元移動量を受け付けて処理する機能も有している。すなわち、ステージ14の水平位置がマウス34の操作により変更される。GUI26において、入力された複数の移動量信号に対して第2周期で集約及び換算が適用され、これにより生成された複数の移動量データが第2周期で間欠的に出力されてもよい。その場合、第1周期と第2周期とを一致させてもよいし、それらを異ならせてもよい。ステージ14の高さ調整と水平位置調整とが同時進行で又は交互に実施されてもよい。
【0042】
ステージファームウエア28は、ステージ14の動作を制御するソフトウエアである。実際には、ステージファームウエア28は、ステージ駆動回路44に対して制御データを送っている。ステージファームウエア28は、間欠的に受信する複数の高さ変更データに従ってステージ駆動回路44に対して複数の高さ制御データを順次出力する。また、ステージファームウエア28は、ステージ水平移動量を示すデータを受信した場合にステージ駆動回路44に対して水平移動制御データを出力する。
【0043】
実施形態においては、操作パネル38が情報処理部12に接続されている。操作パネル38は、ステージ14の水平位置及び高さを調整するための専用の入力デバイスである。具体的には、操作パネル38は、ステージ14の水平位置を調整するためのトラックボール40及びステージ14の高さを調整するためのつまみ42を備えている。操作パネル38からの信号は、実施形態において、分析用ソフトウエア群22を介さずに、ステージファームウエア28に直接的に与えられている。
【0044】
操作パネル38が設けられていない場合、マウス34を用いてステージ14の水平位置及び高さが変更される。操作パネル38が設けられている場合においても、マウス34を用いてステージ14の水平位置及び高さを変更し得る。
【0045】
実施形態に係る分析システムは、情報処理部12内に通信部30が設けられている。通信部30は、ネットワークを介して外部の情報処理装置(リモート装置)との間でデータの授受を行うものである。リモート装置にはマウスが接続されており、マウスを用いてステージ14の高さを変更し得る。
【0046】
具体的には、マウスから時系列順で出力された複数の高さ変更信号がリモート装置31及びネットワークを介して通信部30で受信され、それらの高さ変更信号がGUI26に渡される。GUI26は、それらの高さ変更信号を所定周期で集約し及び換算し、これにより複数の高さ変更データを生成する。GUI26は、複数の高さ変更データを所定周期で間欠的にステージファームウエア28に向けて出力する。なお、リモート装置31には、通信部30及びネットワークを介して、光学像データが送られる。リモート装置31の表示器には光学像が表示される。
【0047】
以上のように、実施形態においては、GUI26が、ローカル装置に設けられたマウス34からの信号列、及び、リモート装置31に設けられたマウスからの信号列、に対して同じ信号処理を適用する。リモート装置31には、通常、操作パネル38を接続できず、ステージ14の動作を操作する際には、マウス等の汎用の入力デバイスを用いることになる。そのような場合に、GUI26における信号集約等の処理が効果的に機能する。
【0048】
図2には、測定部の構成例が示されている。測定部は、下部筐体50及び鏡筒52を有する。下部筐体50の内部は試料室54である。試料室54内にステージ14が配置されている。ステージ14は、図示されていない試料ホルダを介して、試料Sを保持する。ステージ14は、試料Sの位置及び姿勢を変更する機能を有する。すなわち、ステージ14の作用により、試料Sの水平位置及び高さが定められる。
【0049】
試料室54内には、又は、試料室54に隣接して、複数の検出器が設けられている。図示の構成例では、二次電子検出器58、反射電子検出器59、EDS60、WDS62等が配置されている。WDS62は、回折格子64、検出器66、及び、それらの位置を変更する機構を有する。
【0050】
試料Sの分析を行う場合、特に、WDS62を用いて試料Sの分析を行う場合、試料Sの表面高さを所定の基準高さz1に合わせる必要がある。このため、符号68で示されているように、試料Sの高さが調整される。それを手動で行う場合、上記のようにマウス等が用いられる。
【0051】
鏡筒52内には、電子銃、対物レンズ56等の照射設備15が設けられている。対物レンズ56の下端部が試料室54の内部に進入している。対物レンズ56は、電子プローブ形成用の対物レンズである。
【0052】
光学像取得部は、光源20、ハーフミラーユニット70、ミラー72、対物レンズ74、カメラ21、等を有する。光源20とハーフミラーユニット70との間に、マークを有する透明板71が設けられている。マークは例えばクロスマークであり、マークが試料Sの表面上に投影される。ミラー72は、電子線を通過させる貫通孔を備えている。
【0053】
対物レンズ74は、二重反射型レンズにより構成され、それは凹レンズ76及び凸レンズ78により構成される。対物レンズ74の焦点に電子プローブの焦点が合致するように、対物レンズ56の作用が電気的に調整される。カメラ21は例えばCCDカメラにより構成される。カメラ21の出力信号に基づいて、試料Sの表面を表す光学像が生成される。その光学像にはクロスマーク像が含まれる。
【0054】
図3には、表示画像の一例が示されている。図示された表示画像80には、複数のウインドウ82,84,86,88が含まれる。例えば、ウインドウ82は、分析条件や分析結果を表示するウインドウである。ウインドウ88は、ステージ高さ調整用ウインドウである。ウインドウ88内には、光学像90が含まれる。光学像90にはクロスマーク像92が含まれる。ウインドウ88には、更に、複数の仮想的なボタン94が含まれる。その中には、換算係数を選択又は変更するための仮想的なボタンも含まれる。カーソル(ポインタ)91により、いずれかの仮想的なボタンを選択した上で、クリック操作を行うことにより、当該ボタンに関連付けられた機能が有効となる。
【0055】
ウインドウ88の外枠88Aは、ハイライト表示されており、それにより当該ウインドウ88がアクティブ状態にあることが表明されている。ウインドウ88を登場させる操作が行われた場合に、ウインドウ88がアクティブとなる。あるいは、所定の他の操作が行われた場合にウインドウ88がアクティブになる。その状態において、マウスにおけるホイールを操作すると、ホイールの回転操作を示す個々の信号がステージ高さ変更信号であるとみなされる。また、その状態において、マウスを水平移動させると、マウスから出力された水平移動量を示す信号がステージ水平移動量信号であるとみなされる。ウインドウ88には、光源の光量を設定する欄96が含まれる。
【0056】
手動でステージの高さを調整する場合、オペレータにより試料像又はクロスマーク像が観察され、それが最も鮮明になるように、オペレータにより、ホイールが正回転され又は逆回転される。
【0057】
図4には、GUIが有する複数の機能が複数のブロックにより表現されている。判定部104は、ステージ高さ調整モードが実行中であるか否か、つまり、高さ調整用ウインドウがアクティブか否かを判定する。入力部102には、信号列100が入力されている。入力部102は、高さ調整用ウインドウがアクティブである場合、信号列を高さ変更信号列とみなす。
【0058】
積算部及び換算部110は、高さ変更信号列に対して所定期間ごとに集約及び換算を適用する。所定期間はタイマー114によって定められる。換算に際しては、オペレータにより選択された換算係数112が用いられる。すなわち、個々の積算値に対して、選択された換算係数112が乗算される。これにより個々の高さ変更データが生成される。積算後に換算が行われているので、それらを逆順序で行う場合に比べて、換算回数を低減できる。また、所定期間内の途中で換算係数が変更された場合でも、ステージの高さ制御が不安定になることを回避できる。
【0059】
間欠出力部116は、時系列順で生成された複数の高さ変更データをステージファームウエアに向けて間欠的に出力する(符号118を参照)。その際の周期は、タイマー114によって定められる期間と同一である。
【0060】
図5には、GUIにおける信号処理が模式的に示されている。図5に含まれる各横軸はいずれも時間軸である。(A)は、マウスにおけるホイールの操作により出力された信号列を示している。信号列は、時系列順で並ぶ複数の信号からなる。信号列における信号間の最小の期間がΔtで示されている。(B)は、GUIにおける信号処理により、つまり集約及び換算により、生成された高さ変更データ列を示している。GUIは、既に詳述したように、所定周期に従う期間t1ごとに複数の高さ変更信号を集約し、高さ変更データ120を生成する。GUIは、その処理を繰り返し実行する。(C)は、ステージファームウエアにより受領された高さ変更データ列を示している。図5に示した処理と同様の処理により、ステージ水平位置を変更する信号列が処理されてもよい。
【0061】
上記実施形態によれば、GUIが信号集約を行うので、伝送される高さ変更データの個数を少なくでき、それらを中継する個々のソフトウエアの負担を軽減できる。これにより、ステージの応答性を良好にできる。
【0062】
上記実施形態において、所定期間が適応的に設定されてもよい。例えば、選択された換算係数に応じて所定期間の大きさが可変設定されてもよいし、CPUの負荷に応じて所定期間の大きさが可変設定されてもよい。
【0063】
上記実施形態において、ローカル装置に対してネットワークを介してリモート装置が接続される場合、リモート装置の表示器には図3に示した表示画像が表示される。リモート装置が有するマウスを利用して、ステージの水平位置及びステージの高さが変更される。そのような場合に、マスス操作タイミングから光学像更新タイミングまでの期間が長くなると、オペレータにおいてストレスが生じ、また、試料位置の調整が困難となる。分析システムの構成や通信状況等にもよるが、一般に、GUIにおける上記所定期間を上記の50ms~200msの範囲内に定めれば、快適な応答性を得られる。その場合、リモート装置において第1段階の信号集約が行われ、ローカル装置において第2段階の信号集約が行われてもよい。その場合、第1段階の信号集約の実行周期T1として、第2段階の信号集約の実行周期T2よりも短い期間が設定される。そのような構成によれば、転送するデータ量を削減しつつ、ステージの応答性を良好にでき、ひいては光学像の表示更新の遅れ
を少なくできる。
【符号の説明】
【0064】
10 測定部、12 情報処理部、14 ステージ、18 光学像取得部、22 分析用ソフトウエア群、24 光学像生成部、26 グラフィカルユーザーインターフェイス(GUI)、32 表示器、34 マウス、36 ホイール、38 操作パネル。
図1
図2
図3
図4
図5