(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022011659
(43)【公開日】2022-01-17
(54)【発明の名称】溶接方法
(51)【国際特許分類】
B23K 26/073 20060101AFI20220107BHJP
B23K 26/00 20140101ALI20220107BHJP
B23K 26/21 20140101ALI20220107BHJP
H02K 15/04 20060101ALI20220107BHJP
【FI】
B23K26/073
B23K26/00 N
B23K26/21 N
H02K15/04 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020112947
(22)【出願日】2020-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】湯 飛
(72)【発明者】
【氏名】池谷 岳則
(72)【発明者】
【氏名】大野 弘行
【テーマコード(参考)】
4E168
5H615
【Fターム(参考)】
4E168BA08
4E168BA28
4E168BA74
4E168CB03
4E168DA13
4E168DA28
4E168DA33
4E168DA39
4E168EA08
4E168EA09
4E168EA17
4E168KA07
5H615AA01
5H615BB14
5H615PP01
5H615PP14
5H615QQ03
5H615QQ06
5H615QQ12
5H615SS17
(57)【要約】
【課題】第1レーザビームと当該第1レーザビームを囲む環状のビーム形状を有する第2レーザビームとを含むレーザ光を導体セグメントの合わせ面の一辺の端部に沿って走査したときに発生する熱の、当該端部の周囲に存在するものに対する悪影響を抑制した溶接方法を提供する。
【解決手段】レーザ光を合わせ面の一辺の端部に沿って走査する4-2パス目、5-1パス目での第2レーザビームL2の出力を、レーザ光を前記一辺の中央部に沿って走査する1パス目~4-1パス目での第2レーザビームL2の出力よりも低くする。レーザ光が端部に沿って走査されたときに発生する熱は、端部に近い絶縁被膜に導体線を介して伝わって、この絶縁被膜に悪影響を与える。そこで、第2レーザビームL2の出力を下げることで、レーザ光を端部に沿って走査するときに発生する熱を低下させ、絶縁被膜に対する熱の悪影響を抑制する。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平角線コイルを構成する2つの導体セグメントの合わせ面の一辺に沿ってレーザ光を走査して前記合わせ面を溶接する溶接方法であって、
前記レーザ光は、第1レーザビームと、当該第1レーザビームを囲む環状のビーム形状を有する第2レーザビームと、を含み、
前記レーザ光を前記合わせ面の前記一辺の中央部に沿って走査する中央部走査ステップと、
前記レーザ光を前記一辺の端部に沿って走査する端部走査ステップと、を備え、
前記端部走査ステップでの前記第2レーザビームの出力を、前記中央部走査ステップでの前記第2レーザビームの出力よりも低くする、
溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、平角線コイルを構成する2つの導体セグメントの合わせ面を溶接する溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
平角線コイルを構成する2つの導体セグメントの合わせ面を溶接する溶接方法として、例えば、特許文献1には、レーザ光を合わせ面に直交する方向に2回走査して、当該合わせ面を溶接する溶接方法が開示されている。また、一般的なレーザ溶接方法として、特許文献2には、第1レーザビームと、当該第1レーザビームを囲む環状のビーム形状を有する第2レーザビームと、を含むレーザ光を溶接対象の合わせ面の一辺に沿って走査して、当該合わせ面を溶接する溶接方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-208829号公報
【特許文献2】特開2020-44543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、特許文献2に記載された第1レーザビームと第2レーザビームとを含むレーザ光を、特許文献1に記載された導体セグメントの合わせ面の一辺に沿って走査して当該合わせ面を溶接する方法が考えられる。このような場合、合わせ面の溶接領域を大きくして合わせ面の接合強度を高めるため、第1レーザビームと第2レーザビームとを含むレーザ光を合わせ面の一辺の中央部及び端部に沿って走査することが望ましい。しかしながら、レーザ光を端部に沿って走査する場合、走査時つまり溶接時に発生する熱が当該端部の周囲に存在する、例えば導体セグメントの絶縁被膜に対して悪影響を及ぼす可能性がある。
【0005】
本開示は、第1レーザビームと当該第1レーザビームを囲む環状のビーム形状を有する第2レーザビームとを含むレーザ光を導体セグメントの合わせ面の一辺の端部に沿って走査したときに発生する熱の、当該端部の周囲に存在するものに対する悪影響を抑制した溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る溶接方法は、平角線コイルを構成する2つの導体セグメントの合わせ面の一辺に沿ってレーザ光を走査して前記合わせ面を溶接する溶接方法であって、前記レーザ光は、第1レーザビームと、当該第1レーザビームを囲む環状のビーム形状を有する第2レーザビームと、を含み、前記レーザ光を前記合わせ面の前記一辺の中央部に沿って走査する中央部走査ステップと、前記レーザ光を前記一辺の端部に沿って走査する端部走査ステップと、を備え、前記端部走査ステップでの前記第2レーザビームの出力を、前記中央部走査ステップでの前記第2レーザビームの出力よりも低くする。
【発明の効果】
【0007】
本開示に係る溶接方法によれば、上記レーザ光を上記合わせ面の一辺の端部に沿って走査するときの第2レーザビームの出力を、上記レーザ光を上記一辺の中央部に沿って走査するときよりも低くするため、レーザ光を端部に沿って走査したときに発生する熱を低下させ、当該熱の前記端部の周囲に存在するものに対する悪影響を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本開示の実施の形態に係る溶接方法が使用されるステータの生産方法の一工程の様子を説明するためのコア及び導体セグメントの斜視図である。
【
図2】本開示の実施の形態に係る溶接方法が使用されるステータの生産方法において、導体セグメントの脚部がコアのスロットに挿入された様子を示す図である。
【
図3】2つの導体セグメントの先端部の側面同士を突き合わせた状態を示す斜視図であって、合わせ面の一辺に沿ってレーザ光を走査する様子を示す図である。
【
図4】2つの導体セグメントの先端部の側面同士を突き合わせた状態を示す立面図であって、合わせ面の一辺に沿ってレーザ光を走査する様子を示す図である。
【
図5】レーザ光の第1レーザビーム及び第2レーザビームのビーム形状を示す図である。
【
図6】
図5のレーザ光による溶接時の合わせ面の様子を示す立面図である。
【
図7】
図5のレーザ光を出射するレーザ溶接装置の構成を示すブロック図である。
【
図8】
図7のレーザ溶接装置が実行する溶接処理のフローチャートである。
【
図9】上段は、2つの導体セグメントの先端部の側面同士を突き合わせた状態を上方から見た平面図であり、下段は、レーザ光を走査するときの走査軌跡(1パス目~5-2パス目)を示す図である。
【
図10】レーザ光を走査するときの第1レーザビーム及び第2レーザビームの各出力の時間変化を示す図である。
【
図11】異物が存在する合わせ面の一辺に比較例として第1レーザビームのみからなるレーザ光を走査したときの様子を示す図である。
【
図12】異物が存在する合わせ面の一辺に
図5のレーザ光を走査したときの様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施の形態に係る溶接方法を、図面を参照しながら説明する。当該溶接方法は、コアに平角線コイルが巻き付けられた車両用の回転電機のステータを生産するときに使用される。以下、ステータの生産方法を簡単に説明してから、本実施の形態に係る溶接方法を説明する。以下の説明における上下方向とは、
図1のコア11の中心軸方向をいう。
【0010】
ステータの生産方法では、
図1に示すように、円筒状のコア11のティース12間のスロット13内に導体セグメント14を下方から挿入する。導体セグメント14は、コア11に巻かれる断面矩形の平角線コイルを構成する部品である。導体セグメント14は、断面矩形かつU字形状を有し、その平行な一対の脚部14Aがそれぞれ異なるスロット13に挿入される。
図1では、2つの導体セグメント14が例示されているが、実際には多数の導体セグメント14が挿入される。
【0011】
図2に示すように、導体セグメント14の脚部14Aがスロット13に挿入されたとき、脚部14Aの一部がコア11から上方に突出する。コア11から突出した脚部14Aの一部は折り曲げられ、その先端部14Bが他の導体セグメント14の先端部14Bと本実施の形態に係る溶接方法により溶接される。
図2の破線丸内に示すように、導体セグメント14は、導体線14Mと、導体線14Mを被覆する絶縁被膜14Nと、を備える。導体線14Mの端部は絶縁被膜14Nから露出しており、上記で溶接される先端部14Bは、前記の露出した端部をいう。複数の導体セグメント14について先端部14B同士が順次溶接されることで、導体セグメント14が直列に電気的に接続され、コア11に巻かれた平角線コイルが形成される。
【0012】
次に、本実施の形態に係る溶接方法について
図3~
図12を参照して説明する。以下の説明(特に、
図3、4、9を参照する説明)では、溶接対象の2つの導体セグメント14を、導体セグメント15、16として説明する。
【0013】
本実施の形態に係る溶接方法では、
図3及び
図4に示すように、2つの導体セグメント15、16の先端部15B、16Bの側面15C、16C同士を突き合わせた合わせ面S(
図4)の一辺Hに沿ってレーザ光Lを上方からみて直線移動させて走査する。合わせ面Sは、側面15Cと側面16Cとが重なった合わせ面である。一辺Hは、
図4における合わせ面Sの上側に向いた上端縁であり、合わせ面Sの輪郭上の仮想点Aから仮想点Dまでの上辺である。レーザ光Lの走査により、合わせ面Sが溶接され、先端部15Bと先端部16Bとが電気的に接続される。
【0014】
レーザ光Lは、
図5に示すように、円形のビーム形状を有する第1レーザビームL1と、第1レーザビームL1と光軸が同じで、第1レーザビームL1を囲む円環形状のビーム形状を有する第2レーザビームL2と、を含む。
図6に示すように、レーザ光Lの照射軌跡上には溶融池41が形成される。また、本実施の形態では、第2レーザビームL2のエネルギー密度は、第1レーザビームL1のエネルギー密度よりも低い。キーホールは、レーザビームのエネルギー密度が高いほど深くなるので、レーザ光Lの照射によって形成されるキーホール42のうち、第2レーザビームL2で形成される部分は、第1レーザビームL1で形成される部分よりも浅く形成される。このようなことから、レーザ光Lの照射によって形成されるキーホール42は、開口部が第2レーザビームL2により広げられた下に凸の略円錐形状に形成される。なお、
図6は、上下方向を潰して描かれている。キーホール42の実際のレーザ光Lの径に対する相対的な深さは、
図6よりも深い(後述の
図11及び
図12も同様)。
【0015】
レーザ光Lは、例えば、
図7に示すレーザ溶接装置50から出射される。レーザ溶接装置50は、例えば、ファイバーレーザ溶接装置である。レーザ溶接装置50は、第1レーザビームL1を発振する第1発振部51と、第2レーザビームL2を発振する第2発振部52と、を備える。さらに、レーザ溶接装置50は、レーザ光Lの照射領域を移動させることでレーザ光Lを走査する走査機構53を備える。走査機構53は、第1レーザビームL1及び第2レーザビームL2をそれぞれ伝送する光ファイバに接続されたビーム出射端を移動させることで、レーザ光Lを走査する。走査機構53は、ガルバノスキャナ機構であってもよい。レーザ溶接装置50は、第1発振部51、第2発振部52、及び、走査機構53を制御するコントローラ54も備える。コントローラ54は、コンピュータ等からなり、レーザ光Lの走査のための制御を行う他、第1レーザビームL1の出力と第2レーザビームL2の出力とを個別に制御する。
【0016】
本実施の形態に係る溶接方法は、レーザ溶接装置50がコントローラ54により
図8に示す溶接処理を実行することにより行われる。
【0017】
図8に示す溶接処理において、レーザ溶接装置50は、まず、レーザ光Lを、合わせ面Sの一辺Hの中央部H1に沿って走査する中央部走査ステップを実行する(ステップS11)。中央部H1は、
図4及び
図9に示すように、仮想点Aから仮想点Dまでの一辺H上の仮想点Bから仮想点Cまでの部分であり、絶縁被膜15N、16Nから離れている。中央部走査ステップでは、中央部H1に十分な深さの溶融池41(
図6)を形成するため、レーザ光Lが複数パス分走査される。具体的に、レーザ溶接装置50は、
図9に示すように、レーザ光Lを、仮想点Cから仮想点B(1パス目)、仮想点Bから仮想点C(2パス目)、仮想点Cから仮想点B(3パス目)、仮想点Bから仮想点C(4-1パス目)といったように中央部H1を繰り返し複数パス分走査する。なお、中央部H1は、絶縁被膜15N、16Nから離れているので、レーザ光Lを中央部H1に沿って走査したときに発生する熱(つまり、溶接時の熱)は、絶縁被膜15N、16Nに悪影響を与えない。
【0018】
図8に戻り、レーザ溶接装置50は、中央部走査ステップ(ステップS11)のあと、レーザ光Lを、合わせ面Sの一辺Hの端部H2に沿って走査する端部走査ステップを実行する(ステップS12)。端部H2は、
図4及び
図9に示す一辺H上の仮想点Cから仮想点Dまでの部分であり、一辺Hにおいて中央部H1よりも絶縁被膜16Nに近い部分である。端部走査ステップにおいて、レーザ溶接装置50は、
図9に示すように、レーザ光Lを、仮想点Cから仮想点Dまで走査し(4-2パス目)、次に、仮想点Dから仮想点Cまで走査する(5-1パス目)。この走査により、中央部H1に形成された溶融池41(
図6)を端部H2まで広げ、溶接箇所を中央部H1及び端部H2として合わせ面Sの溶接領域を大きくし、合わせ面Sの接合強度を高める。なお、端部H2は、中央部H1とは異なり、絶縁被膜16Nに近く、レーザ光Lを、端部H2に沿って走査するときに中央部H1と同じ出力で走査してしまうと、走査による熱が絶縁被膜16Nに悪影響を与えることがある。この悪影響により、例えば、絶縁被膜16Nが溶ける又は剥がれることがある。そこで、この悪影響を抑制するため、詳細は後述するが、レーザ光Lを端部H2に沿って走査する端部走査ステップでは、レーザ光Lを中央部H1に沿って走査する中央部走査ステップよりも、第2レーザビームL2の出力を下げる(
図10の4-2パス目、5-1パス目参照)。上記の4-1パス目と4-2パス目は、まとめて4パス目として連続して走査される。
【0019】
図8に戻り、レーザ溶接装置50は、端部走査ステップ(ステップS12)のあと、レーザ光Lを、再度、合わせ面Sの一辺Hの中央部H1に沿って走査する中央部再走査ステップを実行し(ステップS13)、溶接処理を終了する。中央部再走査ステップにおいて、レーザ溶接装置50は、
図9に示すように、レーザ光Lを、仮想点Cから仮想点Bまで走査する(5-2パス目)。なお、5-1パス目と5-2パス目は、まとめて5パス目として連続して走査される。レーザ溶接装置50は、変形例として、溶融池41(
図6)をさらに広げるため、レーザ光Lを、仮想点Aから仮想点Bまでの端部H3に沿って仮想点A又はその途中まで走査してもよい。
【0020】
レーザ溶接装置50は、上記溶接処理を実行する際、レーザ光Lの第1レーザビームL1及び第2レーザビームL2の各出力を個別に制御する。この各出力の時間変化について
図10を参照して説明する。なお、各出力は、第1レーザビームL1のエネルギー密度が第2レーザビームL2のエネルギー密度よりも低くなるように設定されるが、前者のビーム形状の面積が後者のビーム形状の面積よりも小さいため、
図10に示す出力自体は、概して前者の方が小さい。また、各出力は、1パス目の走査で合わせ面Sの一辺Hの中央部H1に溶融池が形成される強さで設定される。
【0021】
図10に示すように、レーザ溶接装置50は、レーザ光Lを端部H2に沿って走査する端部走査ステップ(t3~t4の4-2パス目~5-1パス目)での第2レーザビームL2の出力を、レーザ光Lを中央部H1に沿って走査する中央部走査ステップ(t0~t3の1パス目~4-1パス目)での第2レーザビームL2の出力であるP2~P3よりも低くしてP1とする。他方、レーザ溶接装置50は、第1レーザビームL1の出力は維持する。上述のように、レーザ光Lが中央部H1に沿って走査されたときに発生する熱は、絶縁被膜15N、16Nに悪影響を与えないが、レーザ光Lが端部H2に沿って走査されたときに発生する熱は、端部H2に近い絶縁被膜16Nに導体線16Mを介して伝わって、この絶縁被膜16Nに悪影響を与える。特に、レーザ光Lが絶縁被膜16Nに最も近い仮想点Dに達したとき、レーザ光Lにおける外側の第2レーザビームL2による熱が、絶縁被膜16Nに悪影響を及ぼす。このような悪影響により、絶縁被膜16Nは溶ける又は剥がれてしまう。そこで、上記のように第2レーザビームL2の出力を下げることで、レーザ光Lを端部H2に沿って走査するときに発生する熱を低下させ、絶縁被膜16Nに対する熱の悪影響を抑制しつつ、第1レーザビームL1の出力は変化させないことで、第1レーザビームL1による溶融池41の形成を確保する。レーザ溶接装置50は、レーザ光Lを端部H2に沿って走査する5-1パス目の直後、つまり、レーザ光Lを中央部H1に沿って走査する5-2パス目の開始時(時間t4)に、第2レーザビームL2の出力を低下前の出力であるP2に戻す。
【0022】
レーザ溶接装置50は、溶融池41(
図6)を1パス目から確実に形成するように、1パス目の第2レーザビームL2の出力(t0~t1の出力)を高くしてP3とする。さらに、レーザ溶接装置50は、第2レーザビームL2の出力を、溶融池41が1度形成されたあとの2パス目の最初(t1~t2)においてP3からP2に低下させ、4-1パス目が終わるまで(t2~t3)、P2を維持する。これにより、溶融池41が1度形成されたあとの2パス目~4-1パス目(1パス目で形成されている溶融池41の深さを深くするパス目)で、第2レーザビームL2のエネルギー密度を低下させ、キーホール42における第2レーザビームL2により形成される領域を小さくし、その分、スパッタの発生量を低減させる。
【0023】
レーザ溶接装置50は、第1レーザビームL1及び第2レーザビームL2の各出力を、第5-2パス目(中央部再走査ステップ)の後半、つまり、レーザ光Lの走査終了間際(t5~t6)において、ダウンスロープ制御して徐々に低下させる。これにより、溶融池41が冷えて固まる際に空気だまりが生じてしまうことを抑制できる。なお、上述した変形例のように、レーザ光Lを、端部H3まで走査する場合には、当該端部H3において、第2レーザビームL2の出力を、4-2パス目、5-1パス目のときと同程度まで低下させて、絶縁被膜15Nに対する悪影響を抑制するとよい。
【0024】
なお、
図10では、第1レーザビームL1の出力が、走査開始からダウンスロープ制御されるまで、つまり、1パス目から5-2パス目の途中までの期間(t0~t5)で一定であるが、第1レーザビームL1の出力は、当該期間において適宜変化してもよい。
【0025】
以上説明したように、本実施の形態では、レーザ光Lを端部H2に沿って走査するとき(端部走査ステップ)の第2レーザビームL2の出力を、レーザ光Lを中央部H1に沿って走査するとき(中央部走査ステップ)よりも低くするので、レーザ光Lを端部H2に沿って走査したときに発生する熱を低下させ、当該熱による端部H2の周囲に存在する絶縁被膜15Nに対する悪影響を抑制することができる。
【0026】
本実施の形態では、レーザ光Lを絶縁被膜15N、16Nから遠い中央部H1に沿って走査し(中央部走査ステップ、1パス目~4-1パス目)、その後、レーザ光Lを絶縁被膜16Nに近い端部H2に沿って走査する(端部走査ステップ、4-2パス目~5-1パス目)。これにより、まず、絶縁被膜15N、16Nに対する熱の悪影響がない状態で中央部H1に溶融池41を形成し、その後第2レーザビームL2の出力の低下により絶縁被膜16Nに対する熱の悪影響を抑制した状態で溶融池41を端部H2にまで広げることができる。これにより、レーザ光Lを走査したときに発生する熱による絶縁被膜15N、16Nに対する悪影響を抑制しつつ、合わせ面Sにおける溶接領域を広くとるができ、十分な接合強度が得られる。また、レーザ光Lを合わせ面Sの一辺Hに沿って直線状に移動させることにより、溶接のための時間が短く、さらに、溶融断面が滑らかとなって十分な接合強度が得られる。
【0027】
本実施の形態では、合わせ面Sに異物P(
図11及び
図12)が挟まれることがある。異物Pとしては、例えば、絶縁被膜の残留片、又はスロット紙の残留片が挙げられる。異物Pは、レーザ光Lが照射されることで蒸発するが、レーザ光Lが第1レーザビームL1のみだとすると、この蒸発の際に、溶融池が爆飛してしまうことがある。本実施の形態では、レーザ光Lが第1レーザビームL1及び第2レーザビームL2を含むことにより、この爆飛を回避できる。より詳細に説明すると、
図11に示すように、レーザ光Lが第1レーザビームL1のみからなる場合、走査中のレーザ光Lにより形成されるキーホール72は第2レーザビームL2が無い分細く形成される。この場合、異物Pが第1レーザビームL1により加熱されて蒸発するとき、
図11に示すように溶融池71が異物Pの上方に存在してしまい、異物Pの蒸発時の蒸気により溶融池71が爆飛してしまう。他方、この実施の形態のように、レーザ光Lが第1レーザビームL1及び第2レーザビームL2を含む場合、キーホール42は、
図6や
図12に示すように開口部が広い円錐状に形成される。従って、本実施の形態では、
図12に示すように、蒸発する異物Pの上方にはキーホール42による空間が確保され、この空間が異物Pの蒸発時の蒸気の逃げ道となり、前記の爆飛が回避される。これにより、異物Pに対するロバスト性が向上する。
【0028】
上記爆飛の回避のため、第2レーザビームL2のエネルギー密度、特に、溶融池41を形成する1パス目~4-1パス目のt0~t3(
図10)、5-2パス目のt4~t5(
図10)の期間におけるエネルギー密度は、同タイミングにおける第1レーザビームL1のエネルギー密度の15%~30%の範囲内とするとよい。前者が後者の15%を下回ると、キーホール42が細くなり、上記爆飛の回避が難しくなる。
【0029】
上記実施の形態については、適宜変更できる。本実施の形態に係る溶接方法は、平角線コイルを構成する導体セグメントの各種溶接に適用できる。例えば、本実施の形態に係る溶接方法は、車両以外の用途に使用される回転電機のステータの平角線コイルの形成にも適用できる。
【0030】
導体セグメント14の形状等は任意である。レーザ光Lの第1レーザビームL1及び第2レーザビームL2のビーム形状も任意である。例えば、第1レーザビームL1のビーム形状を多角形状とし、第2レーザビームL2のビーム形状を多角環状としてもよい。第1レーザビームL1及び第2レーザビームL2の各エネルギー密度を同等としてもよい。仮想点A~Dの位置は任意である。レーザ光Lの走査は、レーザ光Lの照射領域を移動させるのではなく、溶接対象の導体セグメントを移動させることにより行われてもよい。
【0031】
レーザ光Lを端部H2又はH3に沿って走査するときに、仮想点D又は仮想点Aまで走査せず、端部H2又はH3の途中まで走査してもよい。端部H2又はH3の近くに絶縁被膜15N、16Nが存在しなくてもよい。このような場合でも、レーザ光Lを端部H2又はH3に沿って走査する際に、第2レーザビームL2の出力を低下させることで、端部H2又はH3の周囲に存在するものに対する熱の悪影響を抑制できる。
【0032】
端部H2又はH3において第2レーザビームL2の出力を低下させるときに、第1レーザビームL1の出力を適宜低下させてもよい。この場合、第1レーザビームL1の出力は、端部H2又はH3に溶融池が形成可能な出力とする。第2レーザビームL2の出力を低下させるとき、当該出力を0まで低下させてもよい。レーザ光Lを、端部H2又はH3に沿って走査したあとに中央部H1に沿って走査し、レーザ光Lを中央部H1に沿って走査するときに第2レーザビームL2の出力を上昇させてもよい。上記中央部走査ステップは、上記端部走査ステップのあとに行われてもよい。
【0033】
上記実施形態では、レーザ光Lを合わせ面Sの一辺Hに沿って複数回走査しているが、例えば、レーザ光Lのエネルギー密度として十分なエネルギー密度が得られる場合、レーザ光Lの走査を、1パス分の走査としてもよい。例えば、レーザ光Lを仮想点Bから仮想点Dまでの中央部H1及び端部H2に沿って1パス走査し、仮想点Cから仮想点Dまでの端部D2において第2レーザビームL2の出力を低下させる。または、レーザ光Lを仮想点Aから仮想点Dまで走査し、仮想点Aから仮想点B(端部H3)、仮想点Cから仮想点D(端部H2)において第2レーザビームL2の出力を仮想点Bから仮想点C(中央部H1)よりも低くする。
【符号の説明】
【0034】
11 コア、12 ティース、13 スロット、14~16 導体セグメント、14A 脚部、14B~16B 先端部、14M~16M 導体線、14N~16N 絶縁被膜、15C,16C 側面、16B 先端部、41,71 溶融池、42,72 キーホール、50 レーザ溶接装置、51 第1発振部、52 第2発振部、53 走査機構、54 コントローラ、A~D 仮想点、H 一辺、H1 中央部、H2,H3 端部、L レーザ光、L1 第1レーザビーム、L2 第2レーザビーム、P 異物、S 合わせ面。