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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022116624
(43)【公開日】2022-08-10
(54)【発明の名称】低級炭化水素分解装置
(51)【国際特許分類】
   C01B 3/30 20060101AFI20220803BHJP
   B01D 61/00 20060101ALI20220803BHJP
   B01J 23/755 20060101ALI20220803BHJP
【FI】
C01B3/30
B01D61/00
B01J23/755 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021012895
(22)【出願日】2021-01-29
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「水素利用等先導研究開発事業/炭化水素等を活用した二酸化炭素を排出しない水素製造技術調査/膜反応器を用いたメタン直接分解によるCO2フリー水素製造技術」委託事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】591178012
【氏名又は名称】公益財団法人地球環境産業技術研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安原 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】佐々 和明
【テーマコード(参考)】
4D006
4G140
4G169
【Fターム(参考)】
4D006GA44
4D006KA31
4D006KB30
4D006MA09
4D006MC02
4D006MC03
4D006PA01
4D006PB18
4D006PB19
4D006PB59
4D006PB66
4G140AB03
4G140DA03
4G140DB02
4G140DC02
4G169AA03
4G169BA01B
4G169BA13A
4G169BB02B
4G169BC16B
4G169BC66B
4G169BC68B
4G169CB81
4G169EA04X
4G169EA04Y
4G169EA18
4G169EB18X
4G169EC22Y
(57)【要約】
【課題】連続運転が可能で実用性の高い低級炭化水素分解装置を提供する。
【解決手段】触媒と、触媒を担持する担体と、を具備する流動粒子と、流動粒子と、低級炭化水素と、が導入される反応器と、反応器の内部から炭素と流動粒子との混合物を取り出す排出部と、混合物を、炭素と流動粒子とに分離する分離部と、混合物から分離された流動粒子に触媒を付与する流動粒子再生部と、流動粒子再生部で再生された流動粒子を反応器の内部に導入する導入部と、を具備し、排出部は、反応器の鉛直方向における下方に位置し、導入部は、反応器の鉛直方向における上方に位置し、連続的または間欠的に、排出部により反応器の内部から混合物が取り出され、かつ導入部により反応器の内部に再生された流動粒子が導入されることにより、反応器の内部で流動粒子が自重で上方から下方に流動する、低級炭化水素分解装置。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
低級炭化水素を分解して炭素および水素を生成させる反応を促進する触媒と、前記触媒を担持する担体と、を具備する流動粒子と、
前記流動粒子と、前記低級炭化水素と、が導入される反応器と、
前記反応器の内部から炭素と前記流動粒子との混合物を取り出す排出部と、
前記混合物を、前記炭素と前記流動粒子とに分離する分離部と、
前記混合物から分離された前記流動粒子に前記触媒を付与する流動粒子再生部と、
前記流動粒子再生部で再生された流動粒子を前記反応器の内部に導入する導入部と、を具備し、
前記排出部は、前記反応器の鉛直方向における下方に位置し、
前記導入部は、前記反応器の鉛直方向における上方に位置し、
連続的または間欠的に、前記排出部により前記反応器の内部から前記混合物が取り出され、かつ前記導入部により前記反応器の内部に再生された前記流動粒子が導入されることにより、前記反応器の内部で前記流動粒子が自重で上方から下方に流動する、低級炭化水素分解装置。
【請求項2】
更に、前記反応器の内部に配されるとともに水素を選択的に透過させる分離膜と、
前記分離膜を透過した水素を回収する水素回収部と、を有する、請求項1に記載の低級炭化水素分解装置。
【請求項3】
前記排出部は、第1減圧室と、前記第1減圧室の内部と前記反応器の内部とを連通させる開閉可能な第1入口と、前記第1減圧室の内部と外部とを連通させる開閉可能な第1出口と、前記第1減圧室の内部圧力を減圧させる第1排気弁と、を有し、
前記第1出口が閉じられ、かつ第1排気弁が閉じられた状態で、前記第1入口が開いて、前記第1減圧室の内部に前記混合物が導入され、
前記第1入口が閉じられた状態で、前記第1出口が開いて、前記第1減圧室の内部から前記混合物が取り出される、請求項1または2に記載の低級炭化水素分解装置。
【請求項4】
前記導入部は、第2減圧室と、前記第2減圧室の内部と外部とを連通させる開閉可能な第2入口と、前記第2減圧室の内部と前記反応器の内部とを連通させる開閉可能な第2出口と、前記第2減圧室の内部圧力を減圧させる第2排気弁と、を有し、
前記第2出口が閉じられた状態で、前記第2入口が開いて、前記第2減圧室の内部に前記流動粒子が導入され、
前記第2入口が閉じられ、かつ第2排気弁が閉じられた状態で、前記第2出口が開いて、前記反応器の内部に前記流動粒子が導入される、請求項1~3のいずれか1項に記載の低級炭化水素分解装置。
【請求項5】
前記導入部は、更に、前記第2入口が閉じられ、かつ第2排気弁が閉じられた状態で、前記第2減圧室の内部にガスを導入して前記第2減圧室の内部を加圧する加圧部を有する、請求項4に記載の低級炭化水素分解装置。
【請求項6】
前記排出部および前記導入部の少なくとも一方が、ロータリーバルブを具備する、請求項1または2に記載の低級炭化水素分解装置。
【請求項7】
前記担体が、セラミックス製の球体である、請求項1~6のいずれか1項に記載の低級炭化水素分解装置。
【請求項8】
前記担体の直径が、1mm以上、10mm以下である、請求項7に記載の低級炭化水素分解装置。
【請求項9】
前記流動粒子再生部で前記流動粒子に付与される前記触媒の量が、前記担体40g当たり、0.03g以下である、請求項1~8のいずれか1項に記載の低級炭化水素分解装置。
【請求項10】
前記反応器の内部で生成する前記炭素の量が、前記担体40g当たり、1g以下となるように、前記流動粒子の前記反応器の内部での流動速度が設定されている、請求項1~9のいずれか1項に記載の低級炭化水素分解装置。
【請求項11】
前記流動粒子の前記反応器の内部での滞留時間が40~60分に設定されている、請求項1~10のいずれか1項に記載の低級炭化水素分解装置。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低級炭化水素分解装置に関する。
【背景技術】
【0002】
低級炭化水素の直接分解反応では、300~900℃の温度範囲で、担体に担持させた触媒と低級炭化水素(例えばメタン)とを接触させ、低級炭化水素を熱分解して水素と炭素とが製造される。触媒は、例えばハニカム状のモノリス担体に担持されて用いられている。
【0003】
生成した水素と未反応メタンは反応管から回収されるが、炭素は、触媒と一体化して反応管内部に留まる。炭素は、反応の進行とともに触媒周辺に蓄積される。その結果、圧力損失が増して反応管が閉塞することがある。
【0004】
そこで、特許文献1は、多孔性の担体に触媒材料が担持されており、低級炭化水素の直接分解により高純度水素及びナノサイズ機能性炭素を製造する反応に用いられる触媒であって、前記担体は、前記直接分解反応によって生成される前記炭素の蓄積によって変形して通気性を確保する機能を有することを特徴とする低級炭化水素直接分解反応用触媒を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005-58908号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、触媒をモノリス担体に担持させて用いる限り、圧力損失の増大は避けられない。また、通気性を確保したとしても、触媒周辺に蓄積された炭素によって低級炭化水素と触媒との接触効率が早々に低下するため、直接分解反応の連続運転が困難である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面は、低級炭化水素を分解して炭素および水素を生成させる反応を促進する触媒と、前記触媒を担持する担体と、を具備する流動粒子と、前記流動粒子と、前記低級炭化水素と、が導入される反応器と、前記反応器の内部から炭素と前記流動粒子との混合物を取り出す排出部と、前記混合物を、前記炭素と前記流動粒子とに分離する分離部と、前記混合物から分離された前記流動粒子に前記触媒を付与する流動粒子再生部と、前記流動粒子再生部で再生された流動粒子を前記反応器の内部に導入する導入部と、を具備し、前記排出部は、前記反応器の鉛直方向における下方に位置し、前記導入部は、前記反応器の鉛直方向における上方に位置し、連続的または間欠的に、前記排出部により前記反応器の内部から前記混合物が取り出され、かつ前記導入部により前記反応器の内部に再生された前記流動粒子が導入されることにより、前記反応器の内部で前記流動粒子が自重で上方から下方に流動する、低級炭化水素分解装置に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、連続運転が可能で実用性の高い低級炭化水素分解装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態に係る低級炭化水素分解装置の構成を示すブロック図である。
図2】低級炭化水素分解装置の排出部の構成を示す概念図である。
図3】低級炭化水素分解装置の導入部の構成を示す概念図である。
図4】担体の触媒担持量と生成する炭素量との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態に係る低級炭化水素分解装置(以下、「分解装置A」とも称する。)について説明するが、本発明に係る装置は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0011】
[流動粒子]
流動粒子は、触媒と、触媒を担持する担体とを具備する。触媒は、低級炭化水素を分解して炭素および水素を生成させる反応を促進する。触媒としては、Ni、Fe、Coなどを用い得るが、特に限定されない。Ni-Fe-Al系触媒を用いてもよい。これらの触媒にCeOを添加してもよい。
【0012】
担体としては、耐熱性および流動性を確保する観点から、セラミックス製の球体が望ましい。セラミックスとしては、例えば、シリカ、アルミナなどを用い得る。中でもα-アルミナ製の担体は汎用性が高く、安価である。担体は、厳密な真球である必要はなく、球形度が例えば0.9以上であればよい。
【0013】
担体の直径は、流動性と表面積を確保する観点から、例えば、1mm以上、10mm以下であり、1mm以上、7mm以下でもよく、1mm以上、5mm以下でもよく、2mm以上、4mm以下が望ましい。担体の直径とは、担体の最大径であり、例えば10個の担体の最大径の平均値である。
【0014】
担体に付与される触媒の量は、例えば、担体40g当たり、0.03g以下であってもよい。この範囲では、流動粒子の付近に蓄積された炭素による流動粒子同士の固着が発生しにくく、より良好な流動性を確保しやすくなる。
【0015】
炭素と流動粒子との固着を抑制し、十分な流動性を確保する観点から、反応器の内部で生成する炭素の量は、担体40g当たり、1g以下もしくは0.8g以下となるように、流動粒子の反応器の内部での流動速度を設定することが望ましい。すなわち、反応器内に充填される流動粒子の体積をV(cm3)とするとき、体積Vの流動粒子が入れ替わるまでに生成する炭素の全量は、担体の密度をd(g/cm3)とするとき、(1(g)×V・d/40)g以下であることが望ましい。ただし、実用性を考慮すると、流動粒子が入れ替わるまでの間に反応器の内部で生成する炭素の量は、担体40g当たり、0.2g以上もしくは0.5g以上が望ましい。なお、体積Vの流動粒子が入れ替わるまでの時間は、反応器の内部での流動粒子の滞留時間に相当する。流動性を長期的に持続させる観点から、反応器の内部での流動粒子の滞留時間は、例えば40~60分間に設定される。
【0016】
[反応器]
反応器には、原料入口から炭素および水素の原料となる低級炭化水素が導入され、導入部から流動粒子が導入される。低級炭化水素は、例えばC1~C4炭化水素であり、メタン、エタン、プロパン、ブタンなどが用いられる。反応器は、例えば、鉛直方向の軸を有する筒型である。反応器内では、低級炭化水素の直接分解反応が進行する。例えば原料がメタンの場合、直接分解反応は式(1)で表される。下記反応は、高温かつ高圧下で進行する。そのため、反応器には、耐熱性と耐圧性が要求される。
【0017】
式(1):CH4→C(固体)+2H+75kJ/mol
【0018】
分解装置Aは、反応器の内部に、水素を選択的に透過させる分離膜を具備してもよい。この場合、分解装置Aは、分離膜を透過した水素を回収する水素回収部を具備する。水素回収部の構成は特に限定されない。分離膜としては、例えば、ゼオライト膜、シリカ膜、パラジウム(Pd)膜などを用い得る。分離膜は、筒状のセラミックス製の多孔質基材の表面に担持されていてもよい。この場合、分離膜を透過した水素は、多孔質基材の中空部を通過して、高濃度水素として回収される。
【0019】
[排出部]
排出部は、反応器の内部から炭素と流動粒子との混合物を取り出す機能を有する。排出部は、反応器の鉛直方向における下方(望ましくは最も下方の下端部)に位置する。すなわち、混合物は、上方から流動により下方に移動した後に、排出部を介して反応器から排出される。
【0020】
排出部は、例えば、第1減圧室と、第1減圧室の内部と反応器の内部とを連通させる開閉可能な第1入口と、第1減圧室の内部と外部とを連通させる開閉可能な第1出口と、第1減圧室の内部圧力を減圧させる第1排気弁とを有する。この場合、第1出口が閉じられ、かつ第1排気弁が閉じられた状態で、第1入口が開いて、第1減圧室の内部に混合物が導入される。このような操作を経ることで、高められた反応室内の圧力の過度な開放を回避することができる。一方、反応器内の混合物は、反応器内の圧力により押し出されるように第1減圧室にスムーズに導入される。
【0021】
次に、第1入口が閉じられた状態で、第1出口が開いて、第1減圧室の内部から混合物が取り出される。第1出口を開く前に、第1排気弁を開き、第1減圧室の内部を減圧してもよい。これにより、第1出口から混合物が飛び出す勢いを低減することができる。また、可燃性ガスである低級炭化水素が大量に分離部に流入することが抑制され、より安全に混合物を排出することができる。引き続き、第1排気弁を閉じてから、第1出口を開いてもよく、第1出口を開いてから第1排気弁を閉じてもよい。
【0022】
[分離部]
排出部から取り出された混合物は、分離部で、炭素と流動粒子とに分離される。分離部の構成は、特に限定されないが、混合物に適度なせん断力を付与し得る撹拌機、分離ミルなどを用いることができる。分離部では、流動粒子に付着もしくは固着する炭素が剥がれ落ちる。流動粒子が有していた触媒は、分離部で炭素とともに剥がれ落ちるか、触媒活性がほぼ失われた状態で流動粒子に残存する。回収された流動粒子(以下、「回収粒子」とも称する。)は、流動粒子再生部に移送され、再利用に供される。
【0023】
[流動粒子再生部]
流動粒子再生部では、上記のように回収された回収粒子に新たな触媒が付与される。流動粒子再生部の構成は、特に限定されないが、粉末状の触媒を回収粒子に投与する触媒付与部と、投与された触媒と回収粒子とを混合する撹拌機(例えば、混合ミル)などを具備する。新たな触媒を担持して再生された流動粒子は、導入部に移送される。
【0024】
[導入部]
導入部は、流動粒子再生部で再生された流動粒子を反応器の内部に導入する機能を有する。導入部は、反応器の鉛直方向における上方(例えば、反応器内に滞留する流動粒子の最上部よりも上方)に位置する。導入部から反応器の上方に導入された流動粒子は、徐々に下方に移動する。その間(例えば40~60分間)に、反応器に導入される原料の低級炭化水素と触媒とが接触し、低級炭化水素の直接分解反応が進行する。流動粒子が有する触媒量を、流動粒子が下方の排出部の近くまで移動したときに触媒活性がほぼ失われた状態となるように制御することで、触媒の利用率を高めることができる。
【0025】
導入部は、例えば、第2減圧室と、第2減圧室の内部と外部とを連通させる開閉可能な第2入口と、第2減圧室の内部と反応器の内部とを連通させる開閉可能な第2出口と、第2減圧室の内部圧力を減圧させる第2排気弁とを有する。この場合、第2出口が閉じられた状態で、第2入口が開いて、第2減圧室の内部に、流動粒子が導入される。このような操作を経ることで、反応室内の圧力の第2入口からの過度な開放を回避することができる。第2出口が閉じられた状態で、第2入口を開く前に、第2排気弁を開き、第2減圧室の内圧を開放してから流動粒子を第2減圧室に導入してもよい。
【0026】
次に、第2入口が閉じられ、かつ第2排気弁が閉じられた状態で、第2出口が開いて、第2減圧室内の流動粒子が反応器の内部に導入される。導入部は、更に、第2入口が閉じられ、かつ第2排気弁が閉じられた状態で、第2減圧室の内部にガスを導入して第2減圧室の内部を加圧する加圧部を有してもよい。これにより、第2減圧室の内圧と反応器の内圧との差を低減もしくは無くすか、逆に第2減圧室の内圧をより高くすることができる。これにより、反応器が高圧で動作する場合でも、低級炭化水素もしくは反応ガスの逆流が抑制され、流動粒子の第2減圧室から反応器内への移動が促進される。
【0027】
なお、排出部および導入部の少なくとも一方は、ロータリーバルブを具備してもよい。ロータリーバルブは、複数の放射状に延びる羽根部を有する回転体と、回転体を収容するバルブケースとを具備する。バルブケース内の空間は、複数の羽根部によって、概ね密閉された複数の室に分割されている。この場合、第1減圧室、第2減圧室などの減圧機構は、必ずしも必要ではない。ロータリーバルブを反応器に組み込むことで、反応器の内圧の開放を回避しつつ、外部から反応器への流動粒子の導入、もしくは反応器から外部への流動粒子(回収粒子)の排出を行うことが可能である。
【0028】
排出部からは連続的または間欠的に反応器の内部から混合物が取り出される。また、導入部からは連続的または間欠的に反応器の内部に再生された流動粒子が導入される。これにより、概ね一定の時間間隔で、流動粒子が自重で導入部付近の上方から排出部付近の下方まで反応器内を流動する。
【0029】
次に、図面を参照しながら、本発明の一実施形態に係る低級炭化水素分解装置(分解装置A)について説明する。図1は、分解装置Aの構成を示すブロック図である。図2は、分解装置Aの排出部の構成を示す概念図である。図3は、分解装置Aの導入部の構成を示す概念図である。
【0030】
分解装置A100は、縦長の筒状の反応器10と、反応器10の鉛直方向における下端部に位置する排出部20と、反応器10の鉛直方向における上端部に位置する導入部50とを具備する。反応器10の内部には、筒状のセラミックス製の多孔質基材の外表面に水素を選択的に透過させる分離膜11を形成した構造体が収容されている。反応器10の内部の残空間には、球体の担体と担体に担持された触媒からなる流動粒子Pが充填されている。
【0031】
反応器10の鉛直方向における下方には、原料入口13が設けられている。原料入口からは任意のタイミングと流量で、例えばメタンが反応器10の内部へ導入可能である。反応器10の内部では、触媒の活性作用により、メタンの直接分解反応が進行し、炭素(固体)と水素が発生する。生成した水素は分離膜11を通過した後、多孔質基材の中空部と所定の経路を経て、反応器10の外部の水素回収部12に回収される。これにより、効率的に高濃度水素を回収できる。一方、未反応の低級炭化水素は、別の所定の経路(図示せず)を経て、反応器10の外部に放出されるか、もしくは、回収されて、再度、反応器10へと循環される。
【0032】
排出部20からは、連続的または間欠的に、反応器10の内部から流動粒子Pと炭素との混合物が取り出される。同様に、導入部50からは、連続的または間欠的に、反応器10の内部に再生された流動粒子Pが導入される。このような操作を継続的に行うことで、反応器10の内部では流動粒子Pの自重による上方から下方への流動が継続される。反応器10の内部での流動粒子Pの滞留時間は、例えば、平均的に40~60分間となるように設定される。
【0033】
図2に示されるように、排出部20は、一定量の流動粒子Pとともに炭素を収容できる内空間を有する第1減圧室21と、第1減圧室21の内部と反応器10の内部とを連通させる開閉可能な第1入口22と、第1減圧室21の内部と外部(分離部30)とを連通させる開閉可能な第1出口23と、第1減圧室21の内部圧力を減圧させる第1排気弁24とを有する。第1出口23が閉じられ、かつ第1排気弁24が閉じられた状態で、第1入口22が開くと、第1減圧室21の内部に流動粒子Pと炭素の混合物が導入される。このとき第1出口23は閉じられているので、高圧の反応室の内圧は維持される。反応器10内の混合物は、反応器内の圧力で押し出されるように第1減圧室に21に導入される。次に、第1入口が閉じられた状態で、第1出口23を開くと、第1減圧室21から混合物が外部(分離部30)に移動する。
【0034】
一方、図3に示されるように、導入部50は、第2減圧室51と、第2減圧室51の内部と外部(流動粒子再生部40側)とを連通させる開閉可能な第2入口52と、第2減圧室51の内部と反応器10の内部とを連通させる開閉可能な第2出口53と、第2減圧室51の内部圧力を減圧させる第2排気弁54と、第2減圧室51の内部にガスを導入して第2減圧室51の内部を加圧する加圧部55を有する。第2出口53が閉じられ、第2減圧室51の内圧が開放された状態で、第2入口52が開いて、第2減圧室51の内部に、流動粒子Pが導入される。次に、第2入口52が閉じられ、かつ第2排気弁54が閉じられた状態で、第2出口53が開くと、第2減圧室51から流動粒子Pが反応器10の内部に導入される。このとき、加圧部55から第2減圧室51にガスを送ることで、反応器10の内部の高圧領域への流動粒子Pの移動が促進される。
【0035】
排出部20から分離部30に移動した流動粒子Pと炭素の混合物は、分離部30で炭素と流動粒子P(回収粒子)とに分離される。分離された炭素は、炭素回収部31に回収され、流動粒子P(回収粒子)は回収粒子移送ライン32によって流動粒子再生部40に移送される。流動粒子再生部40では、触媒投与部41によって活性を有する新たな触媒が回収粒子に付与され、混合ミル42で触媒と回収粒子とが混合され、流動粒子Pが再生される。再生された流動粒子Pは、反応器10の上端部に配置された導入部50から反応器10の内部に導入される。
【0036】
[実験例]
次に、実験例に基づいて、より詳細な条件の一例について説明する。
直径3mmのα-アルミナの球体を担体に用いた。触媒として、Ni-Fe-Al系触媒を所定量担持させた。ダミーの分離膜として直径10mmの筒状の多孔質基材(アルミナ製)を内部に収容した実験用の反応器(内径28mm、内容積48mL)に流量60cm3/分でメタンを流通させ、触媒が失活して炭素生成量が飽和するまで600℃で反応を行った。担体40g当たりの触媒の担持量と、触媒が失活するまでに生成した炭素量との関係を図4に示す。図4において、炭素と流動粒子とが固着し、流動性が失われた場合は●プロットを、流動性が損なわれなかった場合は〇プロットを示している。図4より、担体に付与される触媒の量は、担体40g当たり、0.03g以下が望ましいことが理解できる。
【0037】
また、触媒の担持量が担体40g当たり0.03g以下の場合、触媒が失活するまでの時間は概ね40~60分間であった、よって、流動粒子の反応器の内部での滞留時間は、40~60分間に設定することが望ましいといえる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明に係る装置は、例えば、低級炭化水素(特にメタン)の直接分解反応により、水素を生成させるシステムにおいて有用である。
【符号の説明】
【0039】
100:低級炭化水素分解装置
10:反応器
11:分離膜
12:水素回収部
13:原料入口
20:排出部
21:第1減圧室
22:第1入口
23:第1出口
24:第1排気弁
30:分離部
31:炭素回収部
32:回収粒子移送ライン
40:流動粒子再生部
41:触媒投与部
42:混合ミル
50:導入部
51:第2減圧室
52:第2入口
53:第2出口
54:第2排気弁
55:加圧部
P:流動粒子


図1
図2
図3
図4