(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022116646
(43)【公開日】2022-08-10
(54)【発明の名称】蓄電デバイス用組成物、蓄電デバイス電極用スラリー、蓄電デバイス電極、及び蓄電デバイス
(51)【国際特許分類】
H01M 4/139 20100101AFI20220803BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20220803BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20220803BHJP
H01G 11/06 20130101ALI20220803BHJP
H01G 11/30 20130101ALI20220803BHJP
【FI】
H01M4/139
H01M4/62 Z
H01M4/13
H01G11/06
H01G11/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021012933
(22)【出願日】2021-01-29
(71)【出願人】
【識別番号】322004083
【氏名又は名称】株式会社ENEOSマテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100168860
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 充史
(72)【発明者】
【氏名】樫下 幸志
(72)【発明者】
【氏名】綾部 真嗣
(72)【発明者】
【氏名】鵜川 晋作
【テーマコード(参考)】
5E078
5H050
【Fターム(参考)】
5E078AA14
5E078AB02
5E078AB06
5E078BA60
5E078BB33
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA02
5H050CA07
5H050CA20
5H050CB02
5H050CB07
5H050CB11
5H050CB20
5H050DA10
5H050DA11
5H050EA08
5H050EA23
5H050GA02
5H050GA22
5H050HA02
(57)【要約】
【課題】CNT等の導電助剤の分散性に優れた蓄電デバイス用組成物を提供する。保存安定性に優れた蓄電デバイス電極用スラリーを提供する。充電時間の短縮化及び保存容量のバラつきの低減を実現できる蓄電デバイスを提供する。
【解決手段】本発明に係る蓄電デバイス用組成物は、導電助剤(A)と、液状媒体(B)と、リオトロピック液晶性を示す化合物(C1)又は重合体(C2)と、を含有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電助剤(A)と、
液状媒体(B)と、
リオトロピック液晶性を示す化合物(C1)又は重合体(C2)と、を含有し、
前記重合体(C2)は、ステロイド構造及び下記一般式(4)で表される部分構造よりなる群から選択される少なくとも1種である特定構造を有することを特徴とする蓄電デバイス用組成物。
*-L1-R1-R2-R3-R4 …(4)
(式(4)中、L1は、単結合、-O-、-CO-、-COO-*1、-OCO-*1、-NR5-、-NR5-CO-*1、-CO-NR5-*1、炭素数1~6のアルカンジイル基、-O-R6-*1、又は-R6-O-*1(ただし、R5は水素原子又は炭素数1~10の1価の炭化水素基であり、R6は炭素数1~3のアルカンジイル基である。「*1」は、R1との結合手であることを示す。)である。R1及びR3は、それぞれ独立して、単結合、置換若しくは無置換のフェニレン基、又は置換若しくは無置換のシクロアルキレン基である。R2は、単結合、置換若しくは無置換のフェニレン基、置換若しくは無置換のシクロアルキレン基、又は-R7-B1-R8-(ただし、R7及びR8は、それぞれ独立に、置換又は無置換のフェニレン基又はシクロアルキレン基であり、B1は単結合、-O-、-COO-*2、-OCO-*2、-OCH2-*2、-CH2O-*2、又は炭素数1~3のアルカンジイル基である。「*2」は、R8との結合手であることを示す。)である。R4は、水素原子、フッ素原子、シアノ基、*3-OCO-CH3(「*3」は、R3との結合手であることを示す。)、炭素数1~18のアルキル基、炭素数1~18のフルオロアルキル基、炭素数1~18のアルコキシ基、炭素数1~18のフルオロアルコキシ基、又は、炭素数1~18のアルキル基が有する少なくとも1個の水素原子がシアノ基で置換された1価の基である。ただし、R1、R2及びR3の全部が単結合であるか、又はR1、R2及びR3が有するベンゼン環とシクロヘキシレン環との合計数が1個である場合、R4は、炭素数3~18のアルキル基、炭素数3~18のフルオロアルキル基、炭素数3~18のアルコキシ基、又は炭素数3~18のフルオロアルコキシ基である。「*」は結合手であることを示す。)
【請求項2】
前記リオトロピック液晶性を示す化合物(C1)が、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドよりなる群から選択される少なくとも1種の重合体である、請求項1に記載の蓄電デバイス用組成物。
【請求項3】
前記リオトロピック液晶性を示す化合物(C1)が、下記一般式(1)で表されるジアミン化合物[D1]に由来する構造単位U1を有する、請求項1または2に記載の蓄電デバイス用組成物。
【化1】
(式(1)中、nは0又は1である。nが0の場合、R
1~R
4のうち少なくとも一つは、イオン性官能基を有する1価の基であり、残りは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子又は1価の有機基である。nが1の場合、R
1~R
8のうち少なくとも一つは、イオン性官能基を有する1価の基であり、残りは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子又は1価の有機基である。)
【請求項4】
前記重合体(C2)が、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドよりなる群から選択される少なくとも1種の重合体である、請求項1記載の蓄電デバイス用組成物。
【請求項5】
前記重合体(C2)は、前記特定構造を有するジアミンに由来する構造単位UDを含み、
前記特定構造を有する重合体(C2)を構成するジアミンに由来する構造単位の全量に対する前記構造単位UDの含有割合が、1モル%以上95モル%以下である、請求項1または4に記載の蓄電デバイス用組成物。
【請求項6】
前記重合体(C2)のイミド化率が、2%以上95%以下である、請求項1、4または5に記載の蓄電デバイス用組成物。
【請求項7】
前記重合体(C2)は、脂環式テトラカルボン酸二無水物に由来する構造単位UAを有する、請求項1または請求項4ないし6のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用組成物。
【請求項8】
前記重合体(C2)を構成するテトラカルボン酸二無水物に由来する構造単位の全量に対する前記構造単位UAの含有割合が、5モル%以上である、請求項7に記載の蓄電デバイス用組成物。
【請求項9】
前記導電助剤(A)が、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー及びアセチレンブラックよりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1ないし8のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用組成物。
【請求項10】
前記液状媒体(B)が水又は非プロトン性極性溶媒である、請求項1ないし9のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用組成物。
【請求項11】
さらに、スチレン-ブタジエン共重合体、アクリル系重合体及びフッ素系重合体よりなる群から選択される少なくとも1種の重合体(D)を含有する、請求項1ないし10のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用組成物。
【請求項12】
さらに、増粘剤を含有する、請求項1ないし11のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用組成物。
【請求項13】
請求項1ないし12のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用組成物と、活物質と、を含有する蓄電デバイス電極用スラリー。
【請求項14】
前記活物質としてケイ素材料を含有する、請求項13に記載の蓄電デバイス電極用スラリー。
【請求項15】
集電体と、前記集電体の表面に請求項13又は14に記載の蓄電デバイス電極用スラリーが塗布及び乾燥されて形成された活物質層と、を備える蓄電デバイス電極。
【請求項16】
請求項15に記載の蓄電デバイス電極を備える蓄電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電デバイス用組成物、該組成物と活物質とを含有する蓄電デバイス電極用スラリー、該スラリーを集電体上に塗布及び乾燥させて作製された蓄電デバイス電極、及び該蓄電デバイス電極を備えた蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の駆動用電源として、高電圧かつ高エネルギー密度を有する蓄電デバイスが要求されている。このような蓄電デバイスとしては、リチウムイオン電池やリチウムイオンキャパシタなどが期待されている。
【0003】
このような蓄電デバイスに使用される電極は、活物質と、バインダーとして機能する重合体とを含有する組成物(蓄電デバイス電極用スラリー)を集電体の表面に塗布及び乾燥させることにより製造される。バインダーとして使用される重合体に要求される特性としては、活物質同士の結合能力及び活物質と集電体との密着能力、電極を巻き取る工程における耐擦性、その後の裁断などによっても、塗布・乾燥された組成物塗膜(以下、「活物質層」ともいう。)から活物質の微粉などが脱落しない粉落ち耐性などを挙げることができる。なお、上記の活物質同士の結合能力及び活物質と集電体との密着能力、並びに粉落ち耐性については、性能の良否がほぼ比例関係にあることが経験上明らかになっている。したがって、本明細書では、以下これらを包括して「密着性」という用語を用いて表す場合がある。
【0004】
さらに近年、環境負荷低減を目的として、蓄電デバイスを搭載する電気自動車の研究開発が盛んに行われている。蓄電デバイスを電気自動車用駆動電源として搭載する場合、蓄電デバイスには大容量の急速充電や繰り返し充放電耐性等の電池特性が要求される。
【0005】
こうした背景の下、蓄電デバイスの導電パスを向上すべく、導電助剤としてカーボンナノチューブ(以下、「CNT」ともいう。)を使用するという提案がなされている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、CNT等の導電助剤は分散性が悪いため、これに起因して電極形成用スラリーの保存安定性も悪化しやすい。また、CNT等の導電助剤が凝集することにより効率的な導電パスが形成され難く、充電時間の遅延を招いていた。さらに、CNT等の導電助剤を用いると、蓄電デバイスの保存容量にバラつきが生じるという新たな課題が生じることも明らかとなった。
【0008】
そこで、本発明に係る幾つかの態様は、CNT等の導電助剤の分散性に優れた蓄電デバイス用組成物を提供する。また、本発明に係る幾つかの態様は、保存安定性に優れた蓄電デバイス電極用スラリーを提供する。さらに、本発明に係る幾つかの態様は、充電時間の短縮化及び保存容量のバラつきの低減を実現できる蓄電デバイスを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下のいずれかの態様として実現することができる。
【0010】
本発明に係る蓄電デバイス用組成物の一態様は、
導電助剤(A)と、
液状媒体(B)と、
リオトロピック液晶性を示す化合物(C1)又は重合体(C2)と、を含有し、
前記重合体(C2)は、ステロイド構造及び下記一般式(4)で表される部分構造よりなる群から選択される少なくとも1種である特定構造を有することを特徴とする。
*-L1-R1-R2-R3-R4 …(4)
(式(4)中、L1は、単結合、-O-、-CO-、-COO-*1、-OCO-*1、-NR5-、-NR5-CO-*1、-CO-NR5-*1、炭素数1~6のアルカンジイル基、-O-R6-*1、又は-R6-O-*1(ただし、R5は水素原子又は炭素数1~10の1価の炭化水素基であり、R6は炭素数1~3のアルカンジイル基である。「*1」は、R1との結合手であることを示す。)である。R1及びR3は、それぞれ独立して、単結合、置換若しくは無置換のフェニレン基、又は置換若しくは無置換のシクロアルキレン基である。R2は、単結合、置換若しくは無置換のフェニレン基、置換若しくは無置換のシクロアルキレン基、又は-R7-B1-R8-(ただし、R7及びR8は、それぞれ独立に、置換又は無置換のフェニレン基又はシクロアルキレン基であり、B1は単結合、-O-、-COO-*2、-OCO-*2、-OCH2-*2、-CH2O-*2、又は炭素数1~3のアルカンジイル基である。「*2」は、R8との結合手であることを示す。)である。R4は、水素原子、フッ素原子、シアノ基、*3-OCO-CH3(「*3」は、R3との結合手であることを示す。)、炭素数1~18のアルキル基、炭素数1~18のフルオロアルキル基、炭素数1~18のアルコキシ基、炭素数1~18のフルオロアルコキシ基、又は、炭素数1~18のアルキル基が有する少なくとも1個の水素原子がシアノ基で置換された1価の基である。ただし、R1、R2及びR3の全部が単結合であるか、又はR1、R2及びR3が有するベンゼン環とシクロヘキシレン環との合計数が1個である場合、R4は、炭素数3~18のアルキル基、炭素数3~18のフルオロアルキル基、炭素数3~18のアルコキシ基、又は炭素数3~18のフルオロアルコキシ基である。「*」は結合手であることを示す。)
【0011】
前記蓄電デバイス用組成物の一態様において、
前記リオトロピック液晶性を示す化合物(C1)が、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドよりなる群から選択される少なくとも1種の重合体であってもよい。
【0012】
前記蓄電デバイス用組成物のいずれかの態様において、
前記リオトロピック液晶性を示す化合物(C1)が、下記一般式(1)で表されるジアミン化合物[D1]に由来する構造単位U1を有してもよい。
【化1】
(式(1)中、nは0又は1である。nが0の場合、R
1~R
4のうち少なくとも一つは、イオン性官能基を有する1価の基であり、残りは、それぞれ独立して、水素原子、ハロ
ゲン原子又は1価の有機基である。nが1の場合、R
1~R
8のうち少なくとも一つは、イオン性官能基を有する1価の基であり、残りは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子又は1価の有機基である。)
【0013】
前記蓄電デバイス用組成物の一態様において、
前記重合体(C2)が、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドよりなる群から選択される少なくとも1種の重合体であってもよい。
【0014】
前記蓄電デバイス用組成物のいずれかの態様において、
前記重合体(C2)は、前記特定構造を有するジアミンに由来する構造単位UDを含み、
前記特定構造を有する重合体(C2)を構成するジアミンに由来する構造単位の全量に対する前記構造単位UDの含有割合が、1モル%以上95モル%以下であってもよい。
【0015】
前記蓄電デバイス用組成物のいずれかの態様において、
前記重合体(C2)のイミド化率が、2%以上95%以下であってもよい。
【0016】
前記蓄電デバイス用組成物のいずれかの態様において、
前記重合体(C2)は、脂環式テトラカルボン酸二無水物に由来する構造単位UAを有してもよい。
【0017】
前記蓄電デバイス用組成物のいずれかの態様において、
前記重合体(C2)を構成するテトラカルボン酸二無水物に由来する構造単位の全量に対する前記構造単位UAの含有割合が、5モル%以上であってもよい。
【0018】
前記蓄電デバイス用組成物のいずれかの態様において、
前記導電助剤(A)が、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー及びアセチレンブラックよりなる群から選択される少なくとも1種であってもよい。
【0019】
前記蓄電デバイス用組成物のいずれかの態様において、
前記液状媒体(B)が水又は非プロトン性極性溶媒であってもよい。
【0020】
前記蓄電デバイス用組成物のいずれかの態様において、
さらに、スチレン-ブタジエン共重合体、アクリル系重合体及びフッ素系重合体よりなる群から選択される少なくとも1種の重合体(D)を含有してもよい。
【0021】
前記蓄電デバイス用組成物のいずれかの態様において、
さらに、増粘剤を含有してもよい。
【0022】
本発明に係る蓄電デバイス電極用スラリーの一態様は、
前記いずれかの態様の蓄電デバイス用組成物と、活物質と、を含有する。
【0023】
前記蓄電デバイス電極用スラリーの一態様において、
前記活物質としてケイ素材料を含有してもよい。
【0024】
本発明に係る蓄電デバイス電極の一態様は、
集電体と、前記集電体の表面に前記いずれかの態様の蓄電デバイス電極用スラリーが塗布及び乾燥されて形成された活物質層と、を備えるものである。
【0025】
本発明に係る蓄電デバイスの一態様は、
前記態様の蓄電デバイス電極を備えるものである。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係る蓄電デバイス用組成物によれば、CNT等の導電助剤の分散性を向上させることができ、ひいては蓄電デバイス電極用スラリーの保存安定性を向上させることができる。また、本発明に係る蓄電デバイス用組成物によれば、CNT等の導電助剤の分散性が良好であるため、活物質層中で効率的な導電パスが形成されやすくなる。これにより、充電時間が短縮され、かつ、保存容量のバラつきが低減された蓄電デバイスを製造することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明に係る好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、下記に記載された実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形例も含むものとして理解されるべきである。
【0028】
本明細書において、「ポリ(メタ)アクリル酸」とは、「ポリアクリル酸」又は「ポリメタクリル酸」を表す。
【0029】
本明細書において、「X~Y」のように記載された数値範囲は、数値Xを下限値として含み、かつ、数値Yを上限値として含むものとして解釈される。
【0030】
1.蓄電デバイス用組成物
本発明の一実施形態に係る蓄電デバイス用組成物は、導電助剤(A)と、液状媒体(B)と、リオトロピック液晶性を示す化合物(C1)又は重合体(C2)と、を含有する。本実施形態に係る蓄電デバイス用組成物は、活物質同士の結合能力及び活物質と集電体との密着能力並びに粉落ち耐性を向上させた蓄電デバイス電極(活物質層)を作製するための材料として使用することができる。以下、本実施形態に係る蓄電デバイス用組成物に含まれる各成分について詳細に説明する。
【0031】
1.1.導電助剤(A)
本実施形態に係る蓄電デバイス用組成物は、導電助剤(A)を含有する。導電助剤(A)の具体例としては、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、グラファイト、フラーレン、カーボンナノホーン、活性炭、黒鉛、炭素繊維、等のカーボンが挙げられる。これらの中でも、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー及びアセチレンブラックよりなる群から選択される少なくとも1種を好ましく使用することができる。
【0032】
カーボンナノチューブとしては、シングルウォールカーボンナノチューブ(SWCNT)、ダブルウォールカーボンナノチューブ(DWCNT)、及びマルチウォールカーボンナノチューブ(MWCNT)等が挙げられる。また、カーボンナノチューブは、炭素のみからなるものであってもよく、構造の一部が他の元素で置換又は化学修飾されたものであってもよく、金属(例えば、金、銀、銅、アルミニウム、ニッケル、コバルト、チタン、白金等)との複合体であってもよい。
【0033】
導電助剤(A)の含有割合は、蓄電デバイス用組成物の全固形分量100質量部に対して、好ましくは0.5~30質量部であり、より好ましく0.8~25質量部であり、特に好ましくは1~20質量部である。
【0034】
1.2.液状媒体(B)
本実施形態に係る蓄電デバイス用組成物は、液状媒体(B)を含有する。リオトロピッ
ク液晶性を示す化合物(C1)を用いる場合は、液状媒体(B)としては、アミド系溶媒、水を含有する水系媒体であることが好ましく、水であることがより好ましい。水は蒸留水、超純水であることがさらに好ましい。上記水系媒体には、水以外の非水系媒体を含有させることができる。非水系媒体としては、例えば、アミド系化合物、炭化水素、アルコール、ケトン、エステル、アミン化合物、ラクトン、スルホキシド、スルホン化合物などを挙げることができ、これらの中から選択される1種以上を使用することができる。本実施形態に係る蓄電デバイス用組成物は、液状媒体(B)として水系媒体を使用することにより、環境に対して悪影響を及ぼす程度が低くなり、取扱作業者に対する安全性も高くなる。
【0035】
一方、重合体(C2)を用いる場合は、液状媒体(B)としては、有機溶媒であることが好ましい。当該有機溶媒は特に限定されず、例えば非プロトン性極性溶媒、フェノール系溶剤、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、アルコール系溶剤、ハロゲン化炭化水素系溶剤、炭化水素系溶剤等が挙げられる。
【0036】
これらの具体例としては、非プロトン性極性溶媒として、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-1-イミダゾリジノン、γ-ブチロラクトン、γ-ブチロラクタム、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、N,N,2-トリメチルプロパンアミド、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、テトラメチル尿素、ヘキサメチルホスホルトリアミド等を;
フェノール系溶剤として、m-クレゾール、キシレノール、ハロゲン化フェノール等を;ケトン系溶剤として、シクロブタノン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、シクロヘプタノン、アセトン、メチルエチルケトン、メチル-n-プロピルケトン、メチル-n-ブチルケトン、ジエチルケトン、ジ-n-ブチルケトン、メチル-iso-ブチルケトン、メチル-n-ペンチルケトン、エチル-n-ブチルケトン、メチル-n-ヘキシルケトン、ジイソブチルケトン、トリメチルノナノン等を;
エーテル系溶剤として、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)、ジエチレングリコールジエチルエーテル(DEDG)、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、3-メトキシ-1-ブタノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコール-n-プロピルエーテル、エチレングリコール-i-プロピルエーテル、エチレングリコール-n-ブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、1-ブトキシ-2-プロパノール、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等の多価アルコールの部分エーテル;ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等の多価アルコールの部分エステル;テトラヒドロフラン等の環状エーテル等を;
エステル系溶剤として、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸n-ブチル、酢酸iso-ブチル、酢酸sec-ブチル、酢酸tert-ブチル、酢酸3-メトキシブチル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等を;
アルコール系溶剤として、メタノール、エタノール、n-プロパノール、i-プロパノール、n-ブタノール、i-ブタノール、t-ブタノール、1-ペンタノール、3-メチル-1-ブタノール、1-ヘキサノール、2-ヘキサノール、ヘプタノール、シクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノール、ジアセトンアルコール、プロパン-1,2-ジオール、エチレングリコール等を;
ハロゲン化炭化水素系溶剤として、ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、1,4-
ジクロロブタン、トリクロロエタン等を;
炭化水素系溶剤として、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン等を、それぞれ挙げることができる。なお、これらの液状媒体(B)は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0037】
液状媒体(B)は、重合体(C2)の溶解性が高く、また導電助剤(A)の分散性及び分散安定性を優れたものとすることができる点で、上記のうち、非プロトン性極性溶媒が好ましく、特に、N-メチルピロリドン、N-エチルピロリドン、γ-ブチロラクトン、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド及びN,N-ジメチルアセトアミドよりなる群から選択される少なくとも1種の化合物(以下「特定溶媒」ともいう。)であることが好ましい。液状媒体(B)のうち、非プロトン性極性溶媒の割合は、蓄電デバイス用組成物に含まれる液状媒体(B)の全量に対して、50質量%を超える量が好ましく、70質量%以上がより好ましく、85質量%以上が更に好ましく、95質量%以上が特に好ましい。
【0038】
特定溶媒の含有割合(2種以上含有する場合には合計量)は、蓄電デバイス用組成物に含まれる液状媒体(B)の全量に対して、50質量%以上が好ましく、65質量%以上がより好ましく、80質量%以上が更に好ましく、90質量%以上が特に好ましい。
【0039】
1.3.リオトロピック液晶性を示す化合物(C1)又は重合体(C2)
1.3.1.リオトロピック液晶性を示す化合物(C1)
本実施形態に係る蓄電デバイス用組成物は、リオトロピック液晶性を示す化合物(C1)を含有することができる。本実施形態に係る蓄電デバイス用組成物がリオトロピック液晶性を示す化合物(C1)を含有することで、導電助剤(A)の分散性を向上させることができる。
【0040】
CNTなどの導電助剤(A)は、一般に凝集性が高く、水系媒体及び非水系媒体のいずれの液状媒体に対しても均一に分散されにくい。また、導電助剤(A)の分散状態が良好でないと、その分散組成物を用いて得られた活物質層において、効率的な導電パスが形成されず、導電助剤(A)のもつ各種特性が十分に発現されないことが懸念される。この点、本実施形態に係る蓄電デバイス用組成物は、リオトロピック液晶性を示す化合物(C1)を含有することにより、導電助剤(A)の分散性が水系媒体及び非水系媒体のいずれにおいても高く優れたものとなる。また、導電助剤(A)とリオトロピック液晶性を示す化合物(C1)とを含有する蓄電デバイス用組成物を用いることにより、導電助剤(A)のストラクチャーが適度に分散された状態となるため、効率的な導電パスを形成できるようになる。
【0041】
本実施形態に係る蓄電デバイス用組成物は、液状媒体(B)とリオトロピック液晶性を示す化合物(C1)との混合物である場合、好ましくは0℃以上100℃未満の範囲の少なくとも一部の温度でリオトロピック液晶性を示す。リオトロピック液晶性を示す温度範囲は、0℃以上100℃未満の範囲のうち、好ましくは20~40℃を含む温度範囲であり、より好ましくは20~60℃を含む温度範囲であり、さらに好ましくは10~80℃を含む温度範囲である。
【0042】
リオトロピック液晶性を示す化合物(C1)は、液状媒体(B)中の濃度変化により等方相から液晶相へ(またはその逆の)相変化を起こすことができる液晶を指す。リオトロピック液晶性を示す化合物(C1)は、公知の材料(例えば両親媒性分子や重合体)を用いることができるが、重合体であることが好ましく、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドよりなる群から選択される少なくとも1種の重合体であることがより好ましい。
【0043】
これらの中でも、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドよりなる群から選択される少なくとも1種であって、かつ、下記一般式(1)で表されるジアミン化合物[D1]に由来する構造単位U1を含有する重合体[P]であることが最も好ましい。
【0044】
【化2】
(式(1)中、nは0又は1である。nが0の場合、R
1~R
4のうち少なくとも一つは、イオン性官能基を有する1価の基であり、残りは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子又は1価の有機基である。nが1の場合、R
1~R
8のうち少なくとも一つは、イオン性官能基を有する1価の基であり、残りは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子又は1価の有機基である。)
【0045】
上記構造単位U1は、ジアミン化合物[D1]が有する2個の1級アミノ基のそれぞれから1個の水素原子を取り除いた構造単位である。上記一般式(1)中のR1~R8について、イオン性官能基を有する1価の基は、「*-L1-X1」(ただし、L1は単結合又は2価の連結基であり、X1はイオン性官能基である。「*」はベンゼン環に結合する結合手であることを表す。)で表すことができる。ここで、L1が2価の連結基である場合、L1の具体例としては、炭素数1~5のアルカンジイル基、当該アルカンジイル基の炭素-炭素結合間に-O-を含む基、-O-R9-**(ただし、R9は2価の炭化水素基であり、「**」はX1に結合する結合手であることを表す。)等が挙げられる。R9は、炭素数1~5のアルカンジイル基であることが好ましい。また、重合体[P]の剛直性が高くなることでリオトロピック液晶性を発現しやすくなるため、n=0が好ましい。
【0046】
上記イオン性官能基は、水中で陽イオン又は陰イオンを形成する官能基である。イオン性官能基は、特に限定されないが、水系媒体に対する重合体[P]の溶解性をより高くできる点で、スルホン酸基、ホスホン酸基、カルボン酸基、アンモニウム基、ピリジニウム基、イミダゾリウム基若しくはグアニジニウム基、又はそれらの塩であることが好ましい。また、イオン性官能基は、酸性官能基又は塩基性官能基のいずれでもよいが、酸性官能基であることが好ましい。イオン性官能基としては、これらの中でも、スルホン酸基、ホスホン酸基若しくはカルボン酸基、又はそれらの塩であることが好ましく、スルホン酸基又はその塩であることが特に好ましい。
【0047】
イオン性官能基が、酸性官能基又は塩基性官能基の塩である場合、酸性官能基(スルホン酸基、ホスホン酸基、カルボン酸基等)の対イオンとしては、例えばLi+、Na+、K+、Cs+、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+、Zn2+、Pb2+、Al3+、La3+、Ce3+、Y3+、Yb3+、Gd3+、NH4-tQt
+(ただし、Qは炭素数1~20の炭化水素基を表し、tは0~4の整数を表す。tが2~4の場合、複数のQは同一の基又は異なる基である。以下同じ。)等が挙げられる。また、塩基性官能基(アンモニウム基、ピリジニウム基、イミダゾリウム基、グアニジニウム基等)の対イオンとしては、例えばCl-、Br-、I-、R10COO-(ただし、R10は炭素数1~20の炭化水素基を表す。)等が挙げられる。イオン性官能基がカルボン酸基である場合は、カルボン酸の酸解離定数が低く、酸性条件でプロトンが解離しにくくイオン性が
低下するため、強塩基と塩を形成していることが好ましい。
【0048】
イオン性官能基を有する1価の基において、L1は、イオン性官能基の種類に応じて適宜選択することができる。例えば、イオン性官能基がスルホン酸基、ホスホン酸基若しくはカルボン酸基、又はそれらの塩である場合、L1は、好ましくは単結合である。また、イオン官能性基がアンモニウム基、ピリジニウム基、イミダゾリウム基、グアニジニウム基、又はそれらの塩である場合、L1は、好ましくは2価の連結基であり、より好ましくは炭素数1~3のアルカンジイル基である。
【0049】
上記一般式(1)中のイオン性官能基の個数は特に限定されない。上記一般式(1)中のイオン性官能基の個数(すなわち、n=0の場合にはR1~R4のうちイオン性官能基を有する1価の基の数、n=1の場合にはR1~R8のうちイオン性官能基を有する1価の基の数)は、好ましくは1~4個であり、1個又は2個であることがより好ましい。R1~R8における1価の有機基は、炭化水素基が好ましく、炭素数1~5のアルキル基がより好ましい。R1~R8におけるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
【0050】
ジアミン化合物[D1]の具体例としては、下記式(d-1)~(d-16)のそれぞれで表される化合物等が挙げられる。
【0051】
【0052】
【0053】
重合体[P]における構造単位U1の含有割合は、導電助剤(A)の分散性(特に、水系媒体への分散性)を十分に確保することができる点で、重合体[P]が有するジアミン化合物に由来する構造単位の全量に対し、5モル%以上であることが好ましく、10モル%以上であることがより好ましく、20モル%以上であることが更に好ましく、50モル%以上であることが特に好ましい。また、構造単位U1の含有割合は、導電助剤(A)の分散性をより良好にできる点、及び導電助剤(A)としてCNTを用いた場合に蓄電デバイス電極用スラリーの塗工端部を平滑にするできる点で、重合体[P]が有するジアミン化合物に由来する構造単位の全量に対し、99.5モル%以下であることが好ましく、99モル%以下であることがより好ましく、98モル%以下であることが更に好ましく、85モル%以下であることが特に好ましい。なお、重合体[P]の合成に際し、ジアミン化合物[D1]としては、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0054】
重合体[P]は、ジアミン化合物[D1]とは異なるジアミン化合物[D2]に由来する構造単位U2を含有してもよい。ジアミン化合物[D2]としては、例えば脂肪族ジアミン、脂環式ジアミン、芳香族ジアミン、ジアミノオルガノシロキサン等が挙げられる。これらのうち、重合体[P]の分子鎖を剛直かつ一軸直線性の高い構造とするとともに、分子間のスタッキング相互作用により重合体[P]を面内配向しやすくし、これにより導電助剤(A)の分散性をより高くする観点から、ジアミン化合物[D2]は芳香族ジアミンであることが好ましい。
【0055】
脂肪族ジアミンとしては、メタキシリレンジアミン、1,3-プロパンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン等が挙げられる。脂環式ジアミンとしては、1,4-ジアミノシクロヘキサン、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)等が挙げられる。芳香族ジアミンとしては、パラフェニレンジアミン、メタフェニレンジアミン、4,
4’-ジアミノジフェニルメタン、4-アミノフェニル-4’-アミノベンゾエート、4,4’-ジアミノアゾベンゼン、1,5-ビス(4-アミノフェノキシ)ペンタン、1,7-ビス(4-アミノフェノキシ)ヘプタン、ビス[2-(4-アミノフェニル)エチル]ヘキサン二酸、N,N-ビス(4-アミノフェニル)メチルアミン、1,5-ジアミノナフタレン、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル、2,7-ジアミノフルオレン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’-(p-フェニレンジイソプロピリデン)ビスアニリン、4,4’-(m-フェニレンジイソプロピリデン)ビスアニリン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル等の主鎖型ジアミン;ジアミノフェニル構造に炭素数6以上の側鎖構造が結合した側鎖型ジアミン等が挙げられる。ジアミノオルガノシロキサンとしては、1,3-ビス(3-アミノプロピル)-テトラメチルジシロキサン等が挙げられる。また、特開2010-97188号公報に記載のジアミンを用いることができる。
【0056】
ジアミン化合物[D2]は、側鎖型ジアミンであることが好ましい。具体的には、ジアミン化合物[D2]は、下記一般式(2)で表される部分構造を有することが好ましく、下記一般式(2)で表される部分構造を有する芳香族ジアミンであることがより好ましい。
*-L2-R11-R12-R13-R14 …(2)
(式(2)中、L2は、単結合、-O-、-CO-、-COO-*1、-OCO-*1、-NR15-、-NR15-CO-*1、-CO-NR15-*1、炭素数1~6のアルカンジイル基、-O-R16-*1、又は-R16-O-*1(ただし、R15は水素原子又は炭素数1~10の1価の炭化水素基であり、R16は炭素数1~3のアルカンジイル基である。「*1」は、R11との結合手であることを示す。)である。R11及びR13は、それぞれ独立して、単結合、置換若しくは無置換のフェニレン基、又は置換若しくは無置換のシクロアルキレン基であり、R12は、単結合、置換若しくは無置換のフェニレン基、置換若しくは無置換のシクロアルキレン基、又は-R17-B1-R18-(ただし、R17及びR18は、それぞれ独立に、置換又は無置換のフェニレン基又はシクロアルキレン基であり、B1は単結合、-O-、-COO-*2、-OCO-*2、-OCH2-*2、-CH2O-*2、又は炭素数1~3のアルカンジイル基である。「*2」は、R18との結合手であることを示す。)である。R14は、水素原子、フッ素原子、シアノ基、CH3COO-*3(「*3」は、R13との結合手であることを示す。)、炭素数1~18のアルキル基、炭素数1~18のフルオロアルキル基、炭素数1~18のアルコキシ基、炭素数1~18のフルオロアルコキシ基、ステロイド骨格を有する炭素数17~51の炭化水素基、又は、炭素数1~18のアルキル基が有する少なくとも1個の水素原子がシアノ基で置換された1価の基である。ただし、R11、R12及びR13の全部が単結合である場合、R14は、炭素数6~18のアルキル基、炭素数6~18のフルオロアルキル基、炭素数6~18のアルコキシ基、炭素数6~18のフルオロアルコキシ基、ステロイド骨格を有する炭素数17~51の炭化水素基、又は、炭素数6~18のアルキル基が有する少なくとも1個の水素原子がシアノ基で置換された1価の基である。R11、R12及びR13が有する置換又は無置換のフェニレン基と置換又は無置換のシクロアルキレン基との合計数が1個である場合、R14は、炭素数4~18のアルキル基、炭素数4~18のフルオロアルキル基、炭素数4~18のアルコキシ基、炭素数4~18のフルオロアルコキシ基、又は、炭素数4~18のアルキル基が有する少なくとも1個の水素原子がシアノ基で置換された1価の基である。「*」は結合手であることを示す。)
【0057】
上記一般式(2)において、置換フェニレン基及び置換シクロアルキレン基の環に結合する置換基は、炭素数1~3のアルキル基、炭素数1~3のアルコキシ基、フッ素原子又はシアノ基が好ましい。置換フェニレン基及び置換シクロアルキレン基のそれぞれが有する置換基の数は、好ましくは1個又は2個であり、より好ましくは1個である。R14が炭素数1~18のアルキル基、炭素数1~18のフルオロアルキル基、炭素数1~18のアルコキシ基又は炭素数1~18のフルオロアルコキシ基である場合、R14は直鎖状であることが好ましく、炭素数は、好ましくは2以上、より好ましくは3以上、更に好ましくは5以上である。重合体[P]の配合量がより少ない量でも優れた分散性を発現する点で、上記一般式(2)で表される基は、R11、R12及びR13のうち少なくとも1個が環構造を有しているか、又はR14がステロイド骨格を有していることが好ましく、R11、R12及びR13の合計の環構造が2個以上であるか、又はR14がステロイド骨格を有していることがより好ましく、ステロイド骨格を有していることが更に好ましい。
【0058】
重合体[P]の面内配向をより高くでき、導電助剤(A)の分散性をより高くできる点で、ジアミン化合物[D2]は、上記のうち、上記一般式(2)で表される基がジアミノフェニル基に結合した芳香族ジアミン(すなわち、下記一般式(3)で表される化合物)であることが特に好ましい。この場合、2つの1級アミノ基の結合位置は特に限定されず、上記一般式(2)で表される基に対して、例えば2,4-位、2,5-位、3,5-位である。
【0059】
【化5】
(式(3)中、L
2、R
11、R
12、R
13及びR
14は、上記式(2)と同義である。)
【0060】
ジアミン化合物[D2]の具体例としては、例えばヘキサノキシ-3,5-ジアミノベンゼン、ヘプタノキシ-2,4-ジアミノベンゼン、ドデカノキシ-2,4-ジアミノベンゼン、ペンタデカノキシ-2,4-ジアミノベンゼン、ヘキサデカノキシ-2,4-ジアミノベンゼン、オクタデカノキシ-2,4-ジアミノベンゼン、ペンタデカノキシ-2,5-ジアミノベンゼン、オクタデカノキシ-2,5-ジアミノベンゼン、コレスタニルオキシ-3,5-ジアミノベンゼン、コレステニルオキシ-3,5-ジアミノベンゼン、コレスタニルオキシ-2,4-ジアミノベンゼン、コレステニルオキシ-2,4-ジアミノベンゼン、3,5-ジアミノ安息香酸コレスタニル、3,5-ジアミノ安息香酸コレステニル、3,5-ジアミノ安息香酸ラノスタニル、3,6-ビス(4-アミノベンゾイルオキシ)コレスタン、3,6-ビス(4-アミノフェノキシ)コレスタン、2,4-ジアミノ-N,N-ジアリルアニリン、4-(4’-トリフルオロメトキシベンゾイロキシ)シクロヘキシル-3,5-ジアミノベンゾエート、1,1-ビス(4-((アミノフェニル)メチル)フェニル)-4-ブチルシクロヘキサン、3,5-ジアミノ安息香酸=5ξ-コレスタン-3-イル、下記式(E-1)
【化6】
(式(E-1)中、X
I及びX
IIは、それぞれ独立に、単結合、-O-、*-COO-又は*-OCO-(ただし、「*」はX
Iとの結合手を示す。)であり、R
Iは炭素数1~3のアルカンジイル基であり、R
IIは単結合又は炭素数1~3のアルカンジイル基であり、R
15は水素原子、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のフルオロアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基又は炭素数1~20のフルオロアルコキシ基であり、aは0~2の整数であり、bは0~2の整数であり、dは0又は1である。但し、a及びbが同時に0になることはない。)で表される化合物等を挙げることができる。
【0061】
上記式(E-1)で表される化合物の具体例としては、例えば下記式(E-1-1)~式(E-1-11)のそれぞれで表される化合物等が挙げられる。
【0062】
【0063】
【化8】
(式(E-1-1)~式(E-1-11)中、X
2は、-O-、-OCH
2-、-CH
2O-、-COO-CH
2-又は-CH
2-OCO-であり、R
15は上記式(E-1)と同義である。)
【0064】
重合体[P]における構造単位U2の含有割合は、導電助剤(A)の分散性を十分に確保することができる点で、重合体[P]が有するジアミン化合物に由来する構造単位の全量(すなわち、構造単位U1と構造単位U2との合計量)に対し、0.5モル%以上であることが好ましく、1モル%以上であることがより好ましく、2モル%以上であることが更に好ましく、15モル%以上であることが特に好ましい。また、構造単位U2の含有割合は、導電助剤(A)の分散性(特に、水系の分散媒への分散性)をより良好にできる点で、重合体[P]が有するジアミン化合物に由来する構造単位の全量に対し、95モル%以下であることが好ましく、90モル%以下であることがより好ましく、80モル%以下であることが更に好ましく、50モル%以下であることが特に好ましい。なお、重合体[P]の合成に際し、ジアミン化合物[D2]としては、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0065】
重合体[P]は、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドよりなる群から選択される少なくとも1種である。重合体[P]は、例えば、テトラカルボン酸二無水物、テトラカルボン酸ジエステル及びテトラカルボン酸ジエステルジハロゲン化物よりなる群から選ばれる少なくとも1種のテトラカルボン酸誘導体と、ジアミン化合物とを原料組成に用いた重合により得ることができる。
【0066】
<ポリアミック酸>
重合体[P]がポリアミック酸である場合、当該ポリアミック酸(以下「ポリアミック酸[P]」ともいう。)は、例えばテトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを反応させることにより得ることができる。
【0067】
(テトラカルボン酸二無水物)
重合体[P]の合成に使用するテトラカルボン酸二無水物は、特に限定されないが、例えば脂肪族テトラカルボン酸二無水物、脂環式テトラカルボン酸二無水物、芳香族テトラカルボン酸二無水物などを挙げることができる。これらの具体例としては、脂肪族テトラカルボン酸二無水物として、例えばブタンテトラカルボン酸二無水物などを;脂環式テトラカルボン酸二無水物として、例えば1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)-3a,4,5,9b-テトラヒドロナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)-8-メチル-3a,4,5,9b-テトラヒドロナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン、3-オキサビシクロ[3.2.1]オクタン-2,4-ジオン-6-スピ
ロ-3’-(テトラヒドロフラン-2’,5’-ジオン)、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロ-3-フラニル)-3-メチル-3-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸無水物、3,5,6-トリカルボキシ-2-カルボキシメチルノルボルナン-2:3,5:6-二無水物、ビシクロ[3.3.0]オクタン-2,4,6,8-テトラカルボン酸2:4,6:8-二無水物、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,3,5,6-テトラカルボン酸2:3,5:6-二無水物、4,9-ジオキサトリシクロ[5.3.1.02,6]ウンデカン-3,5,8,10-テトラオン、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、エチレンジアミン四酢酸二無水物、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、エチレングリコールビス(アンヒドロトリメリテート)、1,3-プロピレングリコールビス(アンヒドロトリメリテート)などを;芳香族テトラカルボン酸二無水物として、例えばピロメリット酸二無水物、4,4’-ビフタル酸二無水物、4,4’-カルボニルジフタル酸二無水物、4,4’-オキシジフタル酸二無水物、ナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン-1,4,5,6-テトラカルボン酸二無水物などを;それぞれ挙げることができる。また、特開2010-97188号公報に記載のテトラカルボン酸二無水物を用いることができる。
【0068】
重合体[P]の合成に使用するテトラカルボン酸二無水物は、重合体[P]の分子鎖を剛直かつ一軸直線性の高い構造とし、重合体[P]を面内配向しやすくする観点から、上記のうち、下記式(t-1)~式(t-21)のそれぞれで表される部分構造を有する化合物(以下「特定テトラカルボン酸二無水物」ともいう。)であることが好ましい。
【0069】
【化9】
(式(t-1)~(t-21)中、「*」は、酸無水物基(-CO-O-CO-)が有するカルボニル基に結合する結合手であることを表す。)
【0070】
重合体[P]において、特定テトラカルボン酸二無水物に由来する構造単位の含有割合は、導電助剤(A)の分散性をより高くする観点から、重合体[P]が有するテトラカルボン酸二無水物に由来する構造単位の全量に対して、20モル%以上とすることが好ましく、30モル%以上とすることがより好ましく、50モル%以上とすることが更に好ましい。また、特定テトラカルボン酸二無水物に由来する構造単位の含有割合は、重合体[P]が有するテトラカルボン酸二無水物に由来する構造単位の全量に対して、100モル%以下とすることができる。なお、テトラカルボン酸二無水物としては、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0071】
重合体[P]の合成に使用するテトラカルボン酸誘導体は、重合体[P]の分子鎖を剛直かつ一軸直線性の高い構造とし、重合体[P]を面内配向しやすくする(リオトロピック液晶性を示す)とともに、導電助剤(A)の分散性をより高めることができる点で、芳香族テトラカルボン酸誘導体を含むことが好ましく、上記式(t-1)~式(t-6)のそれぞれで表される部分構造を有する芳香族テトラカルボン酸誘導体を含むことが特に好ましい。重合体[P]における、芳香族テトラカルボン酸誘導体に由来する構造単位の含有割合は、重合体[P]が有するテトラカルボン酸誘導体に由来する構造単位の全量に対して、20モル%以上であることが好ましく、30モル%以上であることがより好ましく、50モル%以上であることが更に好ましい。なお、重合体[P]の合成に際し、芳香族テトラカルボン酸誘導体は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0072】
(ポリアミック酸[P]の合成)
ポリアミック酸[P]は、上記のようなテトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを、必要に応じて分子量調整剤とともに反応させることによって得ることができる。ポリアミック酸[P]の合成反応に供されるテトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物との使用割合は、ジアミン化合物のアミノ基1当量に対して、テトラカルボン酸二無水物の酸無水物基が、0.2~2当量となる割合が好ましく、0.3~1.2当量となる割合がより好ましい。
【0073】
ジアミン化合物が酸性官能基を有する場合、塩基を加えて中和させた後に上記反応を行ってもよい。塩基としては、第三級アミンが好ましく、トリエチルアミンが特に好ましい。塩基の使用割合は、酸性官能基に対して0.5~5当量となる割合が好ましく、1~2当量となる割合がさらに好ましい。同様に、ジアミン化合物が塩基性官能基を有する場合、酸を加えて中和させた後に上記反応を行ってもよい。酸としては、カルボン酸が好ましい。酸の使用割合は、塩基性官能基に対して0.5~5当量となる割合が好ましく、1~2当量となる割合がさらに好ましい。
【0074】
分子量調整剤としては、例えば無水マレイン酸、無水フタル酸、無水イタコン酸などの酸一無水物;アニリン、シクロヘキシルアミン、n-ブチルアミンなどのモノアミン化合物;フェニルイソシアネート、ナフチルイソシアネートなどのモノイソシアネート化合物等を挙げることができる。分子量調整剤の使用割合は、使用するテトラカルボン酸二無水物及びジアミンの合計100質量部に対して、20質量部以下とすることが好ましく、10質量部以下とすることがより好ましい。
【0075】
ポリアミック酸[P]の合成反応は、好ましくは有機溶媒中において行われる。このときの反応温度は、-20℃~150℃が好ましく、0~100℃がより好ましい。また、反応時間は、0.1~24時間が好ましく、0.5~12時間がより好ましい。
【0076】
反応に使用する有機溶媒としては、例えば非プロトン性極性溶媒、フェノール系溶媒、
アルコール、ケトン、エステル、エーテル、ハロゲン化炭化水素、炭化水素などを挙げることができる。これらの有機溶媒のうち、非プロトン性極性溶媒及びフェノール系溶媒よりなる群(第1群の有機溶媒)から選択される1種以上、又は、第1群の有機溶媒から選択される1種以上と、アルコール、ケトン、エステル、エーテル、ハロゲン化炭化水素及び炭化水素よりなる群(第2群の有機溶媒)から選択される1種以上との混合物を使用することが好ましい。後者の場合、第2群の有機溶媒の使用割合は、第1群の有機溶媒及び第2群の有機溶媒の合計量に対して、好ましくは50質量%以下であり、より好ましくは40質量%以下であり、更に好ましくは30質量%以下である。
【0077】
特に好ましい有機溶媒は、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、γ-ブチロラクトン、テトラメチル尿素、ヘキサメチルホスホルトリアミド、m-クレゾール、キシレノール及びハロゲン化フェノールよりなる群から選択される1種以上を溶媒として使用するか、あるいはこれらの1種以上と他の有機溶媒との混合物を、上記割合の範囲で使用することが好ましい。有機溶媒の使用量(a)は、テトラカルボン酸二無水物及びジアミンの合計量(b)が、反応溶液の全量(a+b)に対して、0.1~50質量%になる量とすることが好ましい。
【0078】
<ポリアミック酸エステル>
重合体[P]がポリアミック酸エステルである場合、当該ポリアミック酸エステル(以下、「ポリアミック酸エステル[P]」ともいう。)は、例えば、[I]上記重合反応により得られたポリアミック酸[P]とエステル化剤とを反応させる方法、[II]テトラカルボン酸ジエステルとジアミンとを反応させる方法、[III]テトラカルボン酸ジエステルジハロゲン化物とジアミンとを反応させる方法、などによって得ることができる。ポリアミック酸エステル[P]は、アミック酸エステル構造のみを有していてもよく、アミック酸構造とアミック酸エステル構造とが併存していてもよい。
【0079】
<ポリイミド>
重合体[P]がポリイミドである場合、当該ポリイミド(以下、「ポリイミド[P]」ともいう。)は、上記の如くして合成されたポリアミック酸[P]又はポリアミック酸エステル[P]を脱水閉環してイミド化することにより得ることができる。ポリイミド[P]は、その前駆体であるポリアミック酸[P]又はポリアミック酸エステル[P]が有していたアミック酸構造又はアミック酸エステル構造のすべてを脱水閉環した完全イミド化物であってもよく、アミック酸構造及びアミック酸エステル構造の一部のみを脱水閉環し、アミック酸構造又はアミック酸エステル構造とイミド環構造とが併存する部分イミド化物であってもよい。ポリイミド[P]は、導電助剤(A)の分散性を十分に高くするために、そのイミド化率が50%以上であることが好ましく、75%以上であることがより好ましく、85%以上であることが更に好ましく、90%以上であることが特に好ましい。このイミド化率は、ポリイミドのアミック酸構造及びアミック酸エステル構造の数とイミド環構造の数との合計に対するイミド環構造の数の占める割合を百分率で表したものである。
【0080】
ポリイミド[P]を得るための脱水閉環は、好ましくはポリアミック酸を加熱する方法により、又はポリアミック酸を有機溶媒に溶解し、この溶液中に脱水剤及び脱水閉環触媒の少なくともいずれかを添加し必要に応じて加熱する方法により行われる。
【0081】
ポリアミック酸の溶液中に脱水剤及び脱水閉環触媒を添加する方法において、脱水剤としては、例えば無水酢酸、無水プロピオン酸、無水トリフルオロ酢酸等の酸無水物を用いることができる。脱水剤の使用量は、ポリアミック酸のアミック酸構造の1モルに対して0.01~20モルとすることが好ましい。脱水閉環触媒としては、例えばピリジン、ト
リエチルアミン、1-メチルピペリジン等の塩基触媒、メタンスルホン酸、安息香酸等の酸触媒を用いることができる。脱水閉環触媒の使用量は、使用する脱水剤1モルに対して0.01~10モルとすることが好ましい。脱水閉環反応に用いられる有機溶媒としては、ポリアミック酸[P]の合成に用いられるものとして例示した有機溶媒を挙げることができる。脱水閉環反応の反応温度は、好ましくは0~200℃であり、より好ましくは10~150℃である。反応時間は、好ましくは1.0~120時間であり、より好ましくは2.0~30時間である。
【0082】
なお、重合体[P]を含有する反応溶液は、そのまま蓄電デバイス用組成物の調製に供してもよく、反応溶液中に含まれる重合体[P]を単離したうえで蓄電デバイス用組成物の調製に供してもよく、又は単離した重合体[P]を精製したうえで蓄電デバイス用組成物の調製に供してもよい。重合体[P]の単離及び精製は公知の方法に従って行うことができる。
【0083】
以上のようにして得られる重合体[P]は、これを濃度10質量%の溶液としたときに、10~2000mPa・sの溶液粘度を持つものであることが好ましく、20~1000mPa・sの溶液粘度を持つものであることがより好ましい。なお、上記重合体の溶液粘度(mPa・s)は、当該重合体の良溶媒(例えば水など)を用いて調製した濃度10質量%の重合体溶液につき、E型回転粘度計を用いて25℃において測定した値である。
【0084】
重合体[P]のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定したポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは1,000~500,000であり、より好ましくは2,000~300,000である。また、Mwと、GPCにより測定したポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)との比で表される分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは15以下であり、より好ましくは10以下である。
【0085】
本実施形態に係る蓄電デバイス用組成物における重合体[P]の含有割合は、導電助剤(A)の分散性を十分に確保する観点から、導電助剤(A)と重合体[P]との合計質量に対し、2質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることが更に好ましい。また、重合体[P]の含有割合は、導電助剤(A)の機能を十分に得る観点から、導電助剤(A)と重合体[P]との合計質量に対し、99.5質量%以下であることが好ましく、99質量%以下であることがより好ましい。
【0086】
本実施形態に係る蓄電デバイス用組成物における重合体[P]の含有割合は、液状媒体(B)と重合体[P]との合計量に対して0.05~30質量%であることが好ましい。重合体[P]によれば、比較的低い重合体濃度において導電助剤(A)の高い分散性を示す点で好ましい。また、蓄電デバイス用組成物の粘度を低くできることから、集電体の表面に活物質層を形成する際の塗布性が良好であり、0.1μm程度の薄膜を作製でき、工業的生産性に優れている。重合体[P]の含有割合は、液状媒体(B)と重合体[P]との合計質量に対して、より好ましくは0.1~25質量%であり、さらに好ましくは0.2~20質量%である。
【0087】
本実施形態に係る蓄電デバイス用組成物の固形分濃度(すなわち、組成物中の液状媒体(B)以外の成分の合計質量が組成物の全質量に占める割合)は、粘性や液状媒体(B)の揮発性等を考慮して適宜に選択されるが、好ましくは1~70質量%の範囲であり、より好ましくは3~50質量%の範囲であり、更に好ましくは5~40質量%の範囲である。本実施形態に係る蓄電デバイス用組成物は、集電体の表面に塗布され、好ましくは液状媒体(B)が除去されることにより活物質層を形成するための材料として用いられる。このとき、固形分濃度が1質量%以上であると、活物質層の膜厚が薄くなりすぎず、導電助
剤(A)を含む塗膜を形成しやすくなる。一方、固形分濃度が70質量%以下であると、塗膜の膜厚が過大となりすぎず、良質な塗膜を形成しやすくなる。また、蓄電デバイス用組成物の粘性が高くなりすぎず、塗布性の低下を抑制することができる。
【0088】
1.3.2.重合体(C2)
本実施形態に係る蓄電デバイス用組成物は、下記重合体(C2)を含有することができる。重合体(C2)は、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドよりなる群から選択される少なくとも1種の重合体[PP]である。重合体[PP]は、ステロイド構造及び下記一般式(4)で表される部分構造よりなる群から選択される少なくとも1種(以下「特定構造」ともいう。)を有する。
*-L1-R1-R2-R3-R4 …(4)
(式(4)中、L1は、単結合、-O-、-CO-、-COO-*1、-OCO-*1、-NR5-、-NR5-CO-*1、-CO-NR5-*1、炭素数1~6のアルカンジイル基、-O-R6-*1、又は-R6-O-*1(ただし、R5は水素原子又は炭素数1~10の1価の炭化水素基であり、R6は炭素数1~3のアルカンジイル基である。「*1」は、R1との結合手であることを示す。)である。R1及びR3は、それぞれ独立して、単結合、置換若しくは無置換のフェニレン基、又は置換若しくは無置換のシクロアルキレン基である。R2は、単結合、置換若しくは無置換のフェニレン基、置換若しくは無置換のシクロアルキレン基、又は-R7-B1-R8-(ただし、R7及びR8は、それぞれ独立に、置換又は無置換のフェニレン基又はシクロアルキレン基であり、B1は単結合、-O-、-COO-*2、-OCO-*2、-OCH2-*2、-CH2O-*2、又は炭素数1~3のアルカンジイル基である。「*2」は、R8との結合手であることを示す。)である。R4は、水素原子、フッ素原子、シアノ基、*3-OCO-CH3(「*3」は、R3との結合手であることを示す。)、炭素数1~18のアルキル基、炭素数1~18のフルオロアルキル基、炭素数1~18のアルコキシ基、炭素数1~18のフルオロアルコキシ基、又は、炭素数1~18のアルキル基が有する少なくとも1個の水素原子がシアノ基で置換された1価の基である。ただし、R1、R2及びR3の全部が単結合であるか、又はR1、R2及びR3が有するベンゼン環とシクロヘキシレン環との合計数が1個である場合、R4は、炭素数3~18のアルキル基、炭素数3~18のフルオロアルキル基、炭素数3~18のアルコキシ基、又は炭素数3~18のフルオロアルコキシ基である。「*」は結合手であることを示す。)
【0089】
特定構造がステロイド構造である場合、その好ましい具体例としては、コレスタン骨格、コレステン骨格及びラノスタン骨格を有する構造が挙げられる。
【0090】
特定構造が上記式(4)で表される部分構造である場合、上記式(4)中の置換フェニレン基及び置換シクロアルキレン基において、環に結合する置換基は、炭素数1~3のアルキル基、炭素数1~3のアルコキシ基、フッ素原子又はシアノ基が好ましい。置換フェニレン基及び置換シクロアルキレン基のそれぞれが有する置換基の数は、好ましくは1個又は2個であり、より好ましくは1個である。
【0091】
R4が、炭素数1~18のアルキル基、炭素数1~18のフルオロアルキル基、炭素数1~18のアルコキシ基、炭素数1~18のフルオロアルコキシ基、又は、炭素数1~18のアルキル基が有する少なくとも1個の水素原子がシアノ基で置換された1価の基である場合、R4は直鎖状であることが好ましい。また、炭素数は、好ましくは2以上、より好ましくは3以上、更に好ましくは5以上である。R1、R2及びR3の全部が単結合であるか、又はR1、R2及びR3が有するベンゼン環とシクロヘキシレン環との合計数が1個である場合、導電助剤(A)の分散性及び分散安定性をより良好にできる点で、R4は炭素数4以上であることが好ましく、炭素数7以上であることがより好ましく、炭素数10以上であることが更に好ましい。
【0092】
上記一般式(4)で表される構造は、導電助剤(A)の分散性及び分散安定性をより高くする観点から、環構造を有していることが好ましい。具体的には、R1、R2及びR3が有するベンゼン環とシクロヘキシレン環との合計数は、1個以上であることが好ましく、1~4個であることがより好ましく、2~4個であることが更に好ましい。導電助剤(A)の分散性及び分散安定性をより高くする観点から、重合体[PP]は、上記特定構造として、上記一般式(4)においてR1、R2及びR3が有するベンゼン環とシクロヘキシレン環との合計数が2個以上である構造及びステロイド構造よりなる群から選択される少なくとも1種を有することが好ましく、ステロイド構造を少なくとも有していることが特に好ましい。
【0093】
重合体[PP]は、ポリアミック酸の部分イミド化物であってもよく、1分子内にアミック酸構造とイミド化構造とを有してもよい。重合体[PP]の合成方法は特に限定されない。重合体[PP]は、例えば、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを反応させることでポリアミック酸(以下「ポリアミック酸[PP]」ともいう。)を合成することで得られる。また、重合体[PP]は、ポリアミック酸[PP]を合成した後、次いで、ポリアミック酸[PP]を脱水閉環して、ポリアミック酸[PP]が有するアミック酸構造の一部をイミド化することにより部分的又は全部がイミド化されたポリイミド(以下、「ポリイミド[PP]ともいう。)を合成することで得られる。
【0094】
<ポリアミック酸[PP]の合成>
(テトラカルボン酸二無水物)
ポリアミック酸[PP]の合成に使用するテトラカルボン酸二無水物は、特に限定されないが、例えば脂肪族テトラカルボン酸二無水物、脂環式テトラカルボン酸二無水物、芳香族テトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。
【0095】
上記テトラカルボン酸二無水物の具体例としては、脂肪族テトラカルボン酸二無水物として、ブタンテトラカルボン酸二無水物、エチレンジアミン四酢酸二無水物等を;
脂環式テトラカルボン酸二無水物として、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,3-ジメチル-1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)-3a,4,5,9b-テトラヒドロナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)-8-メチル-3a,4,5,9b-テトラヒドロナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン、3-オキサビシクロ[3.2.1]オクタン-2,4-ジオン-6-スピロ-3’-(テトラヒドロフラン-2’,5’-ジオン)、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロ-3-フラニル)-3-メチル-3-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸無水物、3,5,6-トリカルボキシ-2-カルボキシメチルノルボルナン-2:3,5:6-二無水物、ビシクロ[3.3.0]オクタン-2,4,6,8-テトラカルボン酸2:4,6:8-二無水物、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,3,5,6-テトラカルボン酸2:3,5:6-二無水物、4,9-ジオキサトリシクロ[5.3.1.02,6]ウンデカン-3,5,8,10-テトラオン、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物等を;
芳香族テトラカルボン酸二無水物として、ピロメリット酸二無水物、4,4’-ビフタル酸二無水物、4,4’-カルボニルジフタル酸二無水物、4,4’-オキシジフタル酸二無水物、ナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン-1,4,5,6-テトラカルボン酸二無水物、エチレングリコールビス(アンヒドロトリメリテート)、1,3-プロピレングリコールビス(アンヒドロトリメリテート)等を;
それぞれ挙げることができるほか、特開2010-97188号公報に記載のテトラカルボン酸二無水物を用いることができる。
【0096】
ポリアミック酸[PP]の合成に使用するテトラカルボン酸二無水物は、重合体[PP]の液状媒体(B)に対する溶解性を良好にし、導電助剤(A)の分散性及び分散安定性をより高くできる点で、脂環式テトラカルボン酸二無水物を含むことが好ましい。ポリアミック酸[PP]の合成に際し、脂環式テトラカルボン酸二無水物の使用割合(すなわち、重合体[PP]中の脂環式テトラカルボン酸二無水物に由来する構造単位(「構造単位UA」ともいう。)の割合)は、ポリアミック酸[PP]の合成に使用するテトラカルボン酸二無水物の全量に対し、5モル%以上であることが好ましく、15モル%以上であることがより好ましく、25モル%以上であることが更に好ましく、50モル%以上であることが特に好ましい。
【0097】
ポリアミック酸[PP]の合成に使用する脂環式テトラカルボン酸二無水物は、上記の中でも、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,3-ジメチル-1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、ビシクロ[3.3.0]オクタン-2,4,6,8-テトラカルボン酸2:4,6:8-二無水物、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、及び1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物よりなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。なお、テトラカルボン酸二無水物としては、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0098】
(ジアミン化合物)
ポリアミック酸[PP]の合成に使用するジアミン化合物は、上記特定構造を有するジアミン(以下「特定ジアミン」ともいう。)を含むことが好ましい。特定ジアミンを用いて重合する方法によれば、上記特定構造を有する重合体を合成しやすく、また重合体1分子内の上記特定構造の含有割合を調整しやすい点で好ましい。特定ジアミンを含む単量体を重合することにより、重合体[PP]として、特定ジアミンに由来する構造単位(以下「構造単位UD」ともいう。)を有する部分イミド化物が得られる。
【0099】
特定ジアミンは、上記特定構造を有していればよく、脂肪族ジアミン、脂環式ジアミン及び芳香族ジアミンのいずれであってもよい。導電助剤(A)の分散性及び分散安定性をより高くする観点から、特定ジアミンは、芳香族ジアミンであることが好ましく、下記一般式(5)で表される化合物及び下記一般式(3)で表される化合物よりなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましい。
【0100】
【化10】
(式(5)中、L
2は、単結合、-O-、-CO-、-COO-*
4、-OCO-*
4、-NR
10-、-NR
10-CO-*
4、又は-CO-NR
10-*
4(ただし、R
10は水素原子又は炭素数1~10の1価の炭化水素基である。「*
4」は、R
9との結合手であることを示す。)である。R
9はステロイド骨格を有する1価の基である。)
【0101】
【化11】
(式(3)中、L
2、R
11、R
12、R
13及びR
14は、上記式(2)と同義である。)
【0102】
特定ジアミンの具体例としては、上記一般式(5)で表される化合物として、コレスタニルオキシ-3,5-ジアミノベンゼン、コレステリルオキシ-3,5-ジアミノベンゼン、コレスタニルオキシ-2,4-ジアミノベンゼン、コレステリルオキシ-2,4-ジアミノベンゼン、3,5-ジアミノ安息香酸コレスタニル、3,5-ジアミノ安息香酸コレステリル、3,5-ジアミノ安息香酸ラノスタニル、3,6-ビス(4-アミノベンゾイルオキシ)コレスタン、3,6-ビス(4-アミノフェノキシ)コレスタン等を;
上記一般式(3)で表される化合物として、ブタノキシ-2,4-ジアミノベンゼン、ブタノキシ-3,5-ジアミノベンゼン、ペンタノキシ-2,4-ジアミノベンゼン、ペンタノキシ-3,5-ジアミノベンゼン、ヘキサノキシ-3,5-ジアミノベンゼン、ヘプタノキシ-2,4-ジアミノベンゼン、ドデカノキシ-2,4-ジアミノベンゼン、ペンタデカノキシ-2,4-ジアミノベンゼン、ヘキサデカノキシ-2,4-ジアミノベンゼン、オクタデカノキシ-2,4-ジアミノベンゼン、ペンタデカノキシ-2,5-ジアミノベンゼン、オクタデカノキシ-2,5-ジアミノベンゼン、4-(4’-トリフルオロメトキシベンゾイロキシ)シクロヘキシル-3,5-ジアミノベンゾエート、下記式(E-1)
【化12】
(式(E-1)中、X
I及びX
IIは、それぞれ独立に、単結合、-O-、*-COO-又は*-OCO-(ただし、「*」はX
Iとの結合手を示す。)であり、R
Iは炭素数1~3のアルカンジイル基であり、R
IIは単結合又は炭素数1~3のアルカンジイル基であり、R
15は水素原子、フッ素原子、シアノ基、炭素数1~18のアルキル基、炭素数1~18のフルオロアルキル基、炭素数1~18のアルコキシ基又は炭素数1~18のフルオロアルコキシ基であり、aは0~2の整数であり、bは0~2の整数であり、dは0又は1である。ただし、a及びbが同時に0になることはない。)
で表される化合物等をそれぞれ挙げることができる。
【0103】
上記式(E-1)で表される化合物の具体例としては、例えば下記式(E-1-1)~式(E-1-13)のそれぞれで表される化合物等が挙げられる。
【化13】
【化14】
(式(E-1-1)~式(E-1-13)中、X
2は、-O-、-OCH
2-、-CH
2O-、-COO-CH
2-又は-CH
2-OCO-であり、R
15は上記式(E-1)と同義である。R
16は、炭素数3~18のアルキル基、炭素数3~18のフルオロアルキル基、炭素数3~18のアルコキシ基又は炭素数3~18のフルオロアルコキシ基である。)
【0104】
重合体[PP]において、特定ジアミンに由来する構造単位UDの含有割合は、重合体を構成するジアミンに由来する構造単位の全量に対して、1モル%以上であることが好ましい。構造単位UDの含有割合が1モル%以上であると、特定構造の導入による導電助剤(A)の分散性及び分散安定性の改善効果を十分に得ることができる点で好適である。こうした観点から、構造単位UDの含有割合は、重合体を構成するジアミンに由来する構造単位の全量に対して、2モル%以上であることがより好ましく、5モル%以上であることが更に好ましい。また、構造単位UDの含有割合は、重合体の液状媒体(B)に対する溶
解性の低下を抑制する観点から、重合体を構成するジアミンに由来する構造単位の全量に対して、95モル%以下であることが好ましく、90モル%以下であることがより好ましく、80モル%以下であることが更に好ましい。なお、重合体の合成に際し、特定ジアミンは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0105】
ポリアミック酸[PP]の合成に際し、ジアミン化合物としては特定ジアミンのみを用いてもよいが、特定ジアミンと共に、上記特定構造を有さないジアミン(以下「その他のジアミン」ともいう)を用いてもよい。その他のジアミンとしては、導電助剤(A)の分散性及び分散安定性をより高くする観点から、芳香族ジアミンが好ましい。
【0106】
その他のジアミンの具体例としては、脂肪族ジアミンとして、例えばメタキシリレンジアミン、1,3-プロパンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン等を;
脂環式ジアミンとして、例えば1,4-ジアミノシクロヘキサン、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)等を;
芳香族ジアミンとして、例えばパラフェニレンジアミン、メタフェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4-アミノフェニル-4’-アミノベンゾエート、4,4’-ジアミノベンズアニリド、4,4’-ジアミノジフェニルアミン、4,4’-ジアミノアゾベンゼン、1,5-ビス(4-アミノフェノキシ)ペンタン、1,7-ビス(4-アミノフェノキシ)ヘプタン、ビス[2-(4-アミノフェニル)エチル]ヘキサン二酸、N,N-ビス(4-アミノフェニル)メチルアミン、1,5-ジアミノナフタレン、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル、2,7-ジアミノフルオレン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’-(p-フェニレンジイソプロピリデン)ビスアニリン、4,4’-(m-フェニレンジイソプロピリデン)ビスアニリン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’-[4,4’-プロパン-1,3-ジイルビス(ピペリジン-1,4-ジイル)]ジアニリン、1,4-ビス(4-アミノフェニル)ピペラジン、1,4-ビス(4-アミノ(3-ピリジニル))ピペラジン等の主鎖型ジアミンを;
ジアミノオルガノシロキサンとして、1,3-ビス(3-アミノプロピル)-テトラメチルジシロキサン等を;それぞれ挙げることができるほか、特開2010-97188号公報に記載のジアミンのうち上記一般式(1)で表される部分構造を有しないジアミンを用いることができる。
【0107】
重合体[PP]において、その他のジアミンに由来する構造単位(以下「構造単位UE」ともいう。)の含有割合は、重合体を構成するジアミンに由来する構造単位の全量に対して、好ましくは99モル%以下であり、より好ましくは98モル%以下であり、更に好ましくは95モル%以下である。また、構造単位UEの含有割合は、重合体を構成するジアミンに由来する構造単位の全量に対して、好ましくは5モル%以上であり、より好ましくは10モル%以上であり、更に好ましくは20モル%以上である。重合体の合成に際し、その他のジアミンは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0108】
ポリアミック酸[PP]は、上記のようなテトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを、必要に応じて分子量調整剤とともに反応させることによって得ることができる。ポリアミック酸[PP]の合成反応に供されるテトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物との使用割合は、ジアミン化合物のアミノ基1当量に対して、テトラカルボン酸二無水物
の酸無水物基が、0.2~2当量となる割合が好ましく、0.3~1.2当量となる割合がより好ましい。
【0109】
分子量調整剤としては、例えば無水マレイン酸、無水フタル酸、無水イタコン酸などの酸一無水物、アニリン、シクロヘキシルアミン、n-ブチルアミンなどのモノアミン化合物、フェニルイソシアネート、ナフチルイソシアネートなどのモノイソシアネート化合物等を挙げることができる。分子量調整剤の使用割合は、使用するテトラカルボン酸二無水物及びジアミン化合物の合計100質量部に対して、20質量部以下とすることが好ましく、10質量部以下とすることがより好ましい。
【0110】
ポリアミック酸[PP]の合成反応は、好ましくは有機溶媒中において行われる。このときの反応温度は、-20℃~150℃が好ましく、0~100℃がより好ましい。また、反応時間は、0.1~24時間が好ましく、0.5~12時間がより好ましい。
【0111】
反応に使用する有機溶媒としては、例えば非プロトン性極性溶媒、フェノール系溶媒、アルコール、ケトン、エステル、エーテル、ハロゲン化炭化水素、炭化水素などを挙げることができる。これらの有機溶媒のうち、非プロトン性極性溶媒及びフェノール系溶媒よりなる群(第1群の有機溶媒)から選択される1種以上、又は、第1群の有機溶媒から選択される1種以上と、アルコール、ケトン、エステル、エーテル、ハロゲン化炭化水素及び炭化水素よりなる群(第2群の有機溶媒)から選択される1種以上との混合物を使用することが好ましい。後者の場合、第2群の有機溶媒の使用割合は、第1群の有機溶媒及び第2群の有機溶媒の合計量に対して、好ましくは50質量%以下であり、より好ましくは40質量%以下であり、更に好ましくは30質量%以下である。
【0112】
特に好ましい有機溶媒は、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、γ-ブチロラクトン、テトラメチル尿素、ヘキサメチルホスホルトリアミド、m-クレゾール、キシレノール及びハロゲン化フェノールよりなる群から選択される1種以上を溶媒として使用するか、あるいはこれらの1種以上と他の有機溶媒との混合物を、上記割合の範囲で使用することが好ましい。有機溶媒の使用量(a)は、テトラカルボン酸二無水物及びジアミンの合計量(b)が、反応溶液の全量(a+b)に対して、0.1~50質量%になる量とすることが好ましい。
【0113】
<ポリアミック酸[PP]のイミド化>
ポリイミド[PP]を得るには、次いで、上記の如くして合成されたポリアミック酸[PP]を脱水閉環してイミド化する。重合体[PP]は、その前駆体であるポリアミック酸[PP]が有していたアミック酸構造の一部が脱水閉環された部分イミド化物であり、アミック酸構造とイミド環構造とが併存する。
【0114】
ポリイミド[PP]は、導電助剤(A)の分散性及び分散安定性を高くできる点で、イミド化率が1%以上であることが好ましく、2%以上であることがより好ましく、5%以上であることが更に好ましく、10%以上であることがより更に好ましく、20%以上であることが特に好ましい。また、重合体[PP]のイミド化率は、98%以下であることが好ましく、95%以下であることがより好ましく、90%以下であることが更に好ましく、85モル%以下であることがより更に好ましく、80モル%以下であることが特に好ましい。なお、ポリイミド[PP]のイミド化率は、ポリイミド[PP]のアミック酸構造の数とイミド環構造の数との合計に対するイミド環構造の数の占める割合を百分率で表したものである。イミド化率の測定方法の詳細は、以下の実施例の方法に従う。
【0115】
ポリイミド[PP]を得るための脱水閉環は、好ましくはポリアミック酸[PP]を加
熱する方法により、又はポリアミック酸[PP]を有機溶媒に溶解し、この溶液中に脱水剤及び脱水閉環触媒の少なくともいずれかを添加し必要に応じて加熱する方法により行われる。
【0116】
ポリアミック酸[PP]の溶液中に脱水剤及び脱水閉環触媒を添加する方法において、脱水剤としては、例えば無水酢酸、無水プロピオン酸、無水トリフルオロ酢酸等の酸無水物を用いることができる。脱水剤の使用量は、ポリアミック酸[PP]のアミック酸構造の1モルに対して0.01~20モルとすることが好ましい。脱水閉環触媒としては、例えばピリジン、トリエチルアミン、1-メチルピペリジン等の塩基触媒、メタンスルホン酸、安息香酸等の酸触媒を用いることができる。脱水閉環触媒の使用量は、使用する脱水剤1モルに対して0.01~10モルとすることが好ましい。脱水閉環反応に用いられる有機溶媒としては、ポリアミック酸[PP]の合成に用いられるものとして例示した有機溶媒を挙げることができる。脱水閉環反応の反応温度は、好ましくは0~200℃であり、より好ましくは10~150℃である。反応時間は、好ましくは1.0~120時間であり、より好ましくは2.0~30時間である。
【0117】
なお、ポリイミド[PP]を含有する反応溶液は、そのまま蓄電デバイス用組成物の調製に供してもよく、反応溶液中に含まれるポリイミド[PP]を単離したうえで蓄電デバイス用組成物の調製に供してもよく、又は単離したポリイミド[PP]を精製したうえで蓄電デバイス用組成物の調製に供してもよい。ポリイミド[PP]の単離及び精製は公知の方法に従って行うことができる。重合体[PP]の重合溶液として液状媒体(B)を用いることにより、蓄電デバイス用組成物を調製する際に工程を簡略できる点で好ましい。
【0118】
以上のようにして得られる重合体[PP]は、これを濃度10質量%の溶液としたときに、10~2000mPa・sの溶液粘度を持つものであることが好ましく、20~1000mPa・sの溶液粘度を持つものであることがより好ましい。なお、上記重合体の溶液粘度(mPa・s)は、当該重合体の良溶媒(例えば、N-メチル-2-ピロリドンやγ-ブチロラクトン等)を用いて調製した濃度10質量%の重合体溶液につき、E型回転粘度計を用いて25℃において測定した値である。
【0119】
重合体[PP]のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定したポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは1,000~500,000であり、より好ましくは2,000~300,000である。また、Mwと、GPCにより測定したポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)との比で表される分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは15以下であり、より好ましくは10以下である。
【0120】
ここで、導電助剤(A)の1つであるカーボンナノチューブは、導電性や耐熱性、強靭性、軽量化等において優れた性質をもつ。しかしながら、カーボンナノチューブは凝集性が高く、液状媒体(B)中に均一に分散されにくい。また、カーボンナノチューブの分散状態が良好でないと、その蓄電デバイス用組成物を用いて得られた活物質層等において、カーボンナノチューブのもつ各種特性(例えば導電性、外力耐性)が十分に発現されないことが懸念される。この点、本実施形態に係る蓄電デバイス用組成物は重合体[PP]を含むことにより、カーボンナノチューブの液状媒体(特に有機溶媒)に対する分散性に優れている。また、カーボンナノチューブと重合体[PP]とを含有する蓄電デバイス用組成物を用いることにより、導電性に優れた活物質層等を形成することができる。
【0121】
蓄電デバイス用組成物における重合体[PP]の含有割合は、導電助剤(A)の種類を考慮して適宜に選択されるが、導電助剤(A)100質量部に対し、1質量部以上であることが好ましく、3質量部以上であることがより好ましい。また、重合体[PP]の含有割合は、導電助剤(A)100質量部に対し、2000質量部以下であることが好ましく
、1500質量部以下であることがより好ましく、1000質量部以下であることが更に好ましい。
【0122】
より具体的には、例えば、導電助剤(A)が棒状ナノ構造体等である場合、棒状ナノ構造体等の分散性を十分に高くする観点から、重合体[PP]の含有割合は、棒状ナノ構造体等100質量部に対して、100質量部以上であることが好ましく、150質量部以上であることがより好ましく、200質量部以上であることが更に好ましい。また、重合体[PP]の含有割合は、棒状ナノ構造体等100質量部に対し、2000質量部以下であることが好ましく、1500質量部以下であることがより好ましく、1000質量部以下であることが更に好ましい。
【0123】
導電助剤(A)が金属粒子等である場合、重合体[PP]の含有割合は、金属粒子等100質量部に対して、1質量部以上であることが好ましく、3質量部以上であることがより好ましく、5質量部以上であることが更に好ましい。また、重合体[PP]の含有割合は、金属粒子等100質量部に対し、1000質量部以下であることが好ましく、500質量部以下であることがより好ましく、300質量部以下であることが更に好ましい。
【0124】
なお、重合体[PP]を蓄電デバイス用組成物に配合することにより、導電助剤(A)の分散性及び分散安定性を良好にすることができた理由は定かではないが、1つの仮説として、重合体[PP]が有する上記特定構造による排除体積効果により導電助剤(A)の凝集が抑制されたこと、及びポリアミック酸の部分イミド化物による静電相互作用と共役構造とを併せ持つことにより導電助剤(A)の分散安定性が向上したことが考えられる。
【0125】
1.3.3.その他の分散剤
本実施形態に係る蓄電デバイス用組成物は、本開示の目的及び効果を妨げない範囲内において、分散剤としてリオトロピック液晶性を示す化合物(C1)及び重合体(C2)とは異なる分散剤(以下、「その他の分散剤」ともいう。)を含有していてもよい。その他の分散剤の含有割合は、本実施形態に係る蓄電デバイス用組成物に含有される分散剤の全量に対して、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることが特に好ましい。
【0126】
1.4.その他の添加剤
本実施形態に係る蓄電デバイス用組成物は、必要に応じて上述した成分以外の添加剤を含有することができる。このような添加剤としては、例えばリオトロピック液晶性を示す化合物(C1)及び重合体(C2)に相当する重合体以外の重合体(以下、「その他の重合体」ともいう。)、防腐剤、増粘剤等が挙げられる。
【0127】
1.4.1.その他の重合体
本実施形態に係る蓄電デバイス用組成物は、その他の重合体を含有してもよい。その他の重合体としては、特に限定されないが、SBR(スチレンブタジエンゴム)等の共役ジエン系重合体、不飽和カルボン酸エステル又はこれらの誘導体を構成単位として含むアクリル系重合体、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)等のフッ素系重合体等が挙げられる。これらの重合体は、1種単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。これらの重合体を含有することにより、柔軟性や密着性がより向上する場合がある。また、その他の重合体は、液状媒体に溶解した状態でも分散されたラテックス状であってもよい。
【0128】
本実施形態に係る蓄電デバイス用組成物がその他の重合体を含有する場合、その他の重合体の含有割合は、蓄電デバイス用組成物の全固形分量100質量部に対して、5質量部以下であることが好ましく、0.1~4質量部であることがより好ましく、0.5~3質量部であることが特に好ましい。
【0129】
1.4.2.防腐剤
本実施形態に係る蓄電デバイス用組成物は、防腐剤を含有してもよい。防腐剤を含有することにより、蓄電デバイス用組成物を貯蔵した際に、細菌や黴などが増殖して異物が発生することを抑制できる場合がある。防腐剤の具体例としては、特許第5477610号公報等に記載された化合物等が挙げられる。
【0130】
1.4.3.増粘剤
本実施形態に係る蓄電デバイス用組成物は、増粘剤を含有してもよい。増粘剤を含有することにより、スラリーの塗布性や得られる蓄電デバイスの充放電特性等をさらに向上できる場合がある。
【0131】
増粘剤の具体例としては、例えばカルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース化合物;ポリ(メタ)アクリル酸;前記セルロース化合物又は前記ポリ(メタ)アクリル酸のアンモニウム塩もしくはアルカリ金属塩;ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体等のポリビニルアルコール系(共)重合体;(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸等の不飽和カルボン酸とビニルエステルとの共重合体の鹸化物等の水溶性ポリマーを挙げることができる。これらの中でも、カルボキシメチルセルロースのアルカリ金属塩、ポリ(メタ)アクリル酸のアルカリ金属塩等が好ましい。
【0132】
これら増粘剤の市販品としては、例えばCMC1120、CMC1150、CMC2200、CMC2280、CMC2450(以上、株式会社ダイセル製)等のカルボキシメチルセルロースのアルカリ金属塩を挙げることができる。
【0133】
本実施形態に係る蓄電デバイス用組成物が増粘剤を含有する場合、増粘剤の含有割合は、蓄電デバイス用組成物の全固形分量100質量部に対して、5質量部以下であることが好ましく、0.1~3質量部であることがより好ましい。
【0134】
1.5.蓄電デバイス用組成物のpH
本実施形態に係る蓄電デバイス用組成物のpHは、好ましくは5~10であり、より好ましくは6~9.5であり、特に好ましくは6.5~9である。pHが前記範囲内にあると、レベリング性不足や液ダレ等の問題の発生を抑制することができ、良好な電気的特性及び密着性を両立させた蓄電デバイス電極を製造することが容易となる。
【0135】
2.蓄電デバイス電極用スラリー
「蓄電デバイス電極用スラリー」とは、これを集電体の表面に塗布した後、乾燥させて、集電体の表面に活物質層を作製するために用いられる分散液のことをいう。本発明の一実施形態に係る蓄電デバイス電極用スラリーは、上述の蓄電デバイス用組成物と、活物質と、を含有するものである。本実施形態に係る蓄電デバイス電極用スラリーによれば、蓄電デバイス用組成物に含有されるCNT等の導電助剤の分散性が良好となるため、保存安定性が良好となる。また、本実施形態に係る蓄電デバイス電極用スラリーは、活物質や導電助剤の分散性に優れており塗布性が良好となるため、塗膜の表面平滑性(特に塗工端部における直線性や平坦性)が高くなる。以下、本実施形態に係る蓄電デバイス電極用スラリーに含まれる各成分について説明する。なお、蓄電デバイス用組成物については、上述した通りなので説明を省略する。
【0136】
2.1.活物質
本実施形態に係る蓄電デバイス電極用スラリーに使用される活物質としては、例えば炭素材料、ケイ素材料、リチウム原子を含む酸化物、鉛化合物、錫化合物、砒素化合物、ア
ンチモン化合物、アルミニウム化合物、ポリアセン等の導電性高分子、AXBYOZ(但し、Aはアルカリ金属又は遷移金属、Bはコバルト、ニッケル、アルミニウム、スズ、マンガン等の遷移金属から選択される少なくとも1種、Oは酸素原子を表し、X、Y及びZはそれぞれ1.10>X>0.05、4.00>Y>0.85、5.00>Z>1.5の範囲の数である。)で表される複合金属酸化物や、その他の金属酸化物等が挙げられる。これらの具体例としては、特許第5999399号公報等に記載された化合物が挙げられる。
【0137】
本実施形態に係る蓄電デバイス電極用スラリーは、正極及び負極のいずれの蓄電デバイス電極を作製する際にも使用することができ、正極及び負極の両方に使用することが好ましい。
【0138】
負極を作製する場合には、上記例示した活物質の中でもケイ素材料を含有するものであることが好ましい。ケイ素材料は単位重量当たりのリチウムの吸蔵量がその他の活物質と比較して大きいことから、負極活物質としてのケイ素材料を含有することにより、得られる蓄電デバイスの蓄電容量を高めることができ、その結果、蓄電デバイスの出力及びエネルギー密度を高くすることができる。
【0139】
また、負極活物質としては、ケイ素材料と炭素材料の混合物であることがより好ましい。炭素材料は充放電に伴う体積変化がケイ素材料よりも小さいので、負極活物質としてケイ素材料と炭素材料の混合物を使用することにより、ケイ素材料の体積変化の影響を緩和することができ、活物質層と集電体との密着性をより向上させることができる。
【0140】
活物質100質量%中に占めるケイ素材料の含有割合は、1質量%以上とすることが好ましく、2~50質量%とすることがより好ましく、3~45質量%とすることがさらに好ましく、10~40質量%とすることが特に好ましい。活物質100質量%中に占めるケイ素材料の含有割合が前記範囲であると、蓄電デバイスの出力及びエネルギー密度の向上と充放電耐久特性とのバランスに優れた蓄電デバイスが得られる。
【0141】
活物質の形状としては、粒子状であることが好ましい。活物質の平均粒子径としては、0.1~100μmであることが好ましく、1~20μmであることがより好ましい。ここで、活物質の平均粒子径とは、レーザー回折法を測定原理とする粒度分布測定装置を用いて粒度分布を測定し、その粒度分布から算出される体積平均粒子径のことをいう。このようなレーザー回折式粒度分布測定装置としては、例えばHORIBA LA-300シリーズ、HORIBA LA-920シリーズ(以上、株式会社堀場製作所製)等が挙げられる。
【0142】
2.2.その他の成分
本実施形態に係る蓄電デバイス電極用スラリーには、上述した成分以外に、必要に応じてその他の成分を添加してもよい。このような成分としては、例えばリオトロピック液晶性を示す化合物(C1)及び重合体(C2)に相当する重合体以外の重合体、増粘剤、液状媒体、pH調整剤、腐食防止剤、セルロースファイバー等が挙げられる。リオトロピック液晶性を示す化合物(C1)及び重合体(C2)に相当する重合体以外の重合体及び増粘剤としては、上記「1.4.その他の添加剤」で例示した化合物の中から適宜選択して、同様の目的及び含有割合で用いることができる。
【0143】
<液状媒体>
本実施形態に係る蓄電デバイス電極用スラリーには、蓄電デバイス用組成物からの持ち込み分に加えて、液状媒体をさらに添加してもよい。添加される液状媒体は、蓄電デバイス用組成物に含まれていた液状媒体(B)と同種であってもよく、異なっていてもよいが
、上記「1.2.液状媒体(B)」で例示した液状媒体の中から選択して使用されることが好ましい。
【0144】
本実施形態に係る蓄電デバイス電極用スラリーにおける液状媒体(蓄電デバイス用組成物からの持ち込み分を含む。)の含有割合は、スラリー中の固形分濃度(スラリー中の液状媒体以外の成分の合計質量がスラリーの全質量に占める割合をいう。以下同じ。)が、30~70質量%となる割合とすることが好ましく、40~60質量%となる割合とすることがより好ましい。
【0145】
<pH調整剤・腐食防止剤>
本実施形態に係る蓄電デバイス電極用スラリーには、活物質の種類に応じて集電体の腐食を抑制することを目的として、pH調整剤及び/又は腐食防止剤をさらに添加してもよい。
【0146】
pH調整剤としては、例えば、塩酸、リン酸、硫酸、酢酸、ギ酸、リン酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、ギ酸アンモニウム、塩化アンモニウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等を挙げることができ、これらの中でも、硫酸、硫酸アンモニウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが好ましい。
【0147】
腐食防止剤としては、メタバナジン酸アンモニウム、メタバナジン酸ナトリウム、メタバナジン酸カリウム、メタタングステン酸アンモニウム、メタタングステン酸ナトリウム、メタタングステン酸カリウム、パラタングステン酸アンモニウム、パラタングステン酸ナトリウム、パラタングステン酸カリウム、モリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウム等を挙げることができ、これらの中でもパラタングステン酸アンモニウム、メタバナジン酸アンモニウム、メタバナジン酸ナトリウム、メタバナジン酸カリウム、モリブデン酸アンモニウムが好ましい。
【0148】
<セルロースファイバー>
本実施形態に係る蓄電デバイス電極用スラリーには、セルロースファイバーをさらに添加してもよい。セルロースファイバーを添加することにより、活物質の集電体に対する密着性を向上できる場合がある。繊維状のセルロースファイバーが線接着又は線接触によって隣接する活物質同士を繊維状結着させることにより、活物質の脱落を防止できるとともに、集電体に対する密着性を向上できると考えられる。
【0149】
2.3.蓄電デバイス電極用スラリーの調製方法
本実施形態に係る蓄電デバイス電極用スラリーは、上述の蓄電デバイス用組成物及び活物質を含有するものである限り、どのような方法によって製造されたものであってもよい。より良好な分散性及び安定性を有するスラリーを、より効率的かつ安価に製造する観点から、蓄電デバイス用組成物に、活物質及び必要に応じて用いられる任意添加成分を加え、これらを混合することにより製造することが好ましい。具体的な製造方法としては、例えば、特許第5999399号公報等に記載された方法が挙げられる。
【0150】
3.蓄電デバイス電極
本発明の一実施形態に係る蓄電デバイス電極は、集電体と、前記集電体の表面に上述の蓄電デバイス電極用スラリーが塗布及び乾燥されて形成された活物質層と、を備えるものである。かかる蓄電デバイス電極は、金属箔などの集電体の表面に、上述の蓄電デバイス電極用スラリーを塗布して塗膜を形成し、次いで該塗膜を乾燥して活物質層を形成することにより製造することができる。このようにして製造された蓄電デバイス電極は、集電体の表面に、上述の蓄電デバイス用組成物、活物質、及び必要に応じて添加された任意成分を含有する活物質層が結着されてなるものであるため、活物質層中で効率的な導電パスが
形成されやすくなる。これにより、充電時間が短縮され、かつ、保存容量のバラつきが低減された蓄電デバイスを製造することが可能となる。
【0151】
集電体としては、導電性材料からなるものであれば特に制限されないが、例えば特許第5999399号公報等に記載された集電体が挙げられる。
【0152】
本実施形態に係る蓄電デバイス電極において、活物質としてケイ素材料を用いる場合、活物質層100質量部中のシリコン元素の含有割合は、2~30質量部であることが好ましく、2~20質量部であることがより好ましく、3~10質量部であることが特に好ましい。活物質層中のシリコン元素の含有量が前記範囲内であると、それを用いて作製される蓄電デバイスの蓄電容量が向上することに加え、シリコン元素の分布が均一な活物質層が得られる。活物質層中のシリコン元素の含有量は、例えば特許第5999399号公報等に記載された方法により測定することができる。
【0153】
4.蓄電デバイス
本発明の一実施形態に係る蓄電デバイスは、上述の蓄電デバイス電極を備え、さらに電解液を含有し、セパレータなどの部品を用いて、常法に従って製造することができる。具体的な製造方法としては、例えば、負極と正極とをセパレータを介して重ね合わせ、これを電池形状に応じて巻く、折るなどして電池容器に収納し、該電池容器に電解液を注入して封口する方法などを挙げることができる。電池の形状は、コイン型、円筒型、角型、ラミネート型など、適宜の形状であることができる。
【0154】
電解液は、液状でもゲル状でもよく、活物質の種類に応じて、蓄電デバイスに用いられる公知の電解液の中から電池としての機能を効果的に発現するものを選択すればよい。電解液は、電解質を適当な溶媒に溶解した溶液であることができる。これら電解質や溶媒については、例えば特許第5999399号公報等に記載された化合物が挙げられる。
【0155】
上述の蓄電デバイスは、大電流密度での放電が必要なリチウムイオン二次電池、電気二重層キャパシタやリチウムイオンキャパシタ等に適用可能である。これらの中でもリチウムイオン二次電池が特に好ましい。本実施形態に係る蓄電デバイス電極及び蓄電デバイスにおいて、蓄電デバイス用組成物以外の部材は、公知のリチウムイオン二次電池用、電気二重層キャパシタ用やリチウムイオンキャパシタ用の部材を用いることが可能である。
【0156】
5.実施例
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0157】
5.1.重合体の合成
以下の例において、重合体のイミド化率は、以下の方法により測定した。以下の例で用いた原料化合物及び重合体の必要量は、下記の合成例に示す合成スケールでの合成を必要に応じて繰り返すことにより確保した。
【0158】
[重合体のイミド化率]
重合体を含有する溶液を純水に投入し、得られた沈殿を室温で十分に減圧乾燥した後、重水素化ジメチルスルホキシドに溶解し、テトラメチルシランを基準物質として室温で1H-NMRを測定した。得られた1H-NMRスペクトルから、下記式(6)を用いてイミド化率を求めた。
イミド化率(%)=(((1-E1)/E2)×α)×100 …(6)
(式(6)中、E1は化学シフト10ppm付近に現れるNH基のプロトン由来のピーク
面積であり、E2はその他のプロトン由来のピーク面積であり、αは重合体の前駆体(ポリアミック酸)におけるNH基のプロトン1個に対するその他のプロトンの個数割合である。)
【0159】
[合成例1:ポリイミドの合成]
還流管、温度計及び窒素導入管を備えた3つ口フラスコに、2,5-ジアミノベンゼンスルホン酸(379g,1.1mol)、m-クレゾール(5L)、及びトリエチルアミン(243g,2.4mol)を入れ、窒素下で撹拌した。ジアミン溶解後、ピロメリット酸二無水物(218g,1mol)、及び安息香酸(171g,1.4mol)を加えて80℃で3時間撹拌した後、180℃で12時間撹拌した。反応終了後、反応溶液をm-クレゾールで希釈し、アセトン中に滴下して凝固させた。得られた凝固物をろ過し、アセトン中で洗浄し、120℃で真空乾燥させることにより、褐色粉末のポリイミド(PI-1)(664g,収率88%)を得た。得られたポリイミド(PI-1)のイミド化率は99%以上であった。
【0160】
[合成例2:ポリアミド酸エステルの合成]
Polymer. Journal, 1992, 24, p.1197-1127に従って、ピロメリット酸二無水物にn-ヘキサノールを反応させることで、パラ位にエステル結合を有するハーフエステル化合物を得た。得られたパラ体ハーフエステルを塩化チオニル中で還流することで、酸二塩化物を得た。次いで、得られた酸二塩化物に4,4’-ジアミノ-2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ビフェニルを1:1の比率でN-メチル-2-ピロリドンに溶解・混合し、低温溶液重合法により重合した。重合反応が終了した溶液をイオン交換水に滴下し、アセトンで洗浄後、120℃で真空乾燥することで目的とするポリアミド酸エステル(PAE-1)を得た。
【0161】
[合成例3:ポリアミック酸の合成]
2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物33.4g(95モル部)、3,5-ジアミノ安息香酸コレスタニル16.4g(20モル部)、及び4,4’-ジアミノジフェニルエーテル25.1g(80モル部)をN-メチル-2-ピロリドン(NMP)425gに溶解させ、室温で6時間反応を行った。反応混合物を大過剰のメタノール中に注ぎ、反応生成物を沈澱させた。この沈殿物をメタノールで洗浄し、減圧下40℃で15時間乾燥することにより、ポリアミック酸(以下「重合体(PAA-1)」とする)を67g得た。
【0162】
[合成例4:ポリイミドの合成]
上記合成例3と同様に2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物95モル部、3,5-ジアミノ安息香酸コレスタニル20モル部、及び4,4’-ジアミノジフェニルエーテル80モル部をN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に溶解させ、重合体濃度が15質量%のポリアミック酸溶液を得た。得られたポリアミック酸溶液にNMPを加え、重合体濃度が10質量%となるように希釈した後、所定量のピリジン及び無水酢酸を加え、110℃で4時間反応させた。次いで、得られた反応混合物を大過剰のメタノール中に注ぎ、反応生成物を沈澱させた。回収した沈殿物をメタノールで洗浄した後、減圧下100℃で乾燥することにより、ポリイミド(以下「重合体(PI-2)」とする)を得た。得られた重合体(PI-2)のイミド化率は50%であった。
【0163】
[合成例5~16]
反応に使用するテトラカルボン酸二無水物及びジアミン化合物の種類及び量を下表1の通り変更した以外は上記合成例と同様にしてポリイミド(重合体(PI-3)~(PI-11)、(pi-1)、(pi-2)及び(paa-1))を得た。各ポリイミドのイミド化率を下表1に併せて示した。
【0164】
【0165】
上表1中の数値は、テトラカルボン酸二無水物については、反応に使用したテトラカルボン酸二無水物の合計量に対する使用割合(モル%)を示し、ジアミン化合物については、反応に使用したジアミン化合物の合計量に対する使用割合(モル%)を示す。上表1中のテトラカルボン酸二無水物及びジアミン化合物の略称は以下の通りである。
(テトラカルボン酸二無水物)
AN-1; ビシクロ[3.3.0]オクタン-2,4,6,8-テトラカルボン酸2:4,6:8-二無水物
AN-2; 2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物
AN-3; ピロメリット酸二無水物
(ジアミン化合物)
DA-1; 3,5-ジアミノ安息香酸コレスタニル
DA-2; コレスタニルオキシ-2,4-ジアミノベンゼン
DA-3; 下記式(DA-3)で表される化合物
DA-4; 下記式(DA-4)で表される化合物
DA-5; パラフェニレンジアミン
DA-6; 4,4’-ジアミノジフェニルエーテル
DA-7; 下記式(DA-7)で表される化合物
DA-8; 下記式(DA-8)で表される化合物
【0166】
【0167】
5.2.バインダー組成物の調製
(1)バインダー組成物Aの調製
以下に示すような一段重合により、重合体Aを含有する蓄電デバイス用バインダー組成物Aを得た。反応器に、水400質量部と、1,3-ブタジエン15質量部、スチレン70質量部、メタクリル酸メチル5質量部、アクリロニトリル5質量部、イタコン酸3質量部、アクリル酸2質量部からなる単量体混合物と、連鎖移動剤としてtert-ドデシルメルカプタン0.1質量部と、乳化剤としてアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム2質量部と、重合開始剤として過硫酸カリウム0.2質量部とを仕込み、攪拌しながら70℃で12時間重合した後、75℃で12時間重合させ、重合転化率98%で反応を終了した。このようにして得られた重合体Aの粒子分散液から未反応単量体を除去し、濃縮後10%水酸化ナトリウム水溶液及び水を添加して、固形分濃度20質量%、pH8.0の、重合体Aの粒子を含有するバインダー組成物Aを得た。
【0168】
(2)バインダー組成物Bの調製
以下に示すような一段重合により、重合体Bを含有する蓄電デバイス用バインダー組成物Bを得た。容量7Lのセパラブルフラスコの内部を十分に窒素置換した後、乳化剤「アデカリアソープSR1025」(商品名、株式会社ADEKA製)0.4質量部、メタクリル酸イソボニル40質量部、アクリル酸2-エチルヘキシル34質量部、アクリル酸4質量部及びエチレングリコールジメタクリレート2質量部、並びに水104質量部を順次仕込み、70℃で3時間攪拌した。次いで、油溶性重合開始剤であるアゾビスイソブチロニトリル0.5質量部を含有するテトラヒドロフラン溶液20mLを添加し、75℃に昇温して3時間反応を行い、さらに85℃で2時間反応を行った。その後、冷却した後に反応を停止し、2.5N水酸化ナトリウム水溶液でpH7に調節することにより、重合体Bの粒子を含有するバインダー組成物Bを得た。
【0169】
5.3.実施例1
5.3.1.蓄電デバイス用組成物の調製及び評価
(1)蓄電デバイス用組成物の調製
シングルウォールカーボンナノチューブ(SWCNT)50質量部、及び合成例1で得た重合体(PI-1)250質量部が入った容器に、溶媒として超純水10000質量部を加えた。次いで、60分間、超音波分散を行い、蓄電デバイス用組成物(S-1)を調製した。
【0170】
(2)CNT分散性の評価
上記(1)で得た蓄電デバイス用組成物(S-1)を25℃の環境下において、平坦な場所に静置させた。評価は、1週間後にCNTが沈降することなく初期の分散状態を保っていれば「優良(A)」、3日後まではCNTが沈降することなく初期の分散状態を保っていれば「可(B)」、3日後にCNTの沈降や凝集が見られた場合には「不良(C)」とした。その結果、この蓄電デバイス用組成物(S-1)のCNT分散性は「優良(A)」であった。
【0171】
5.3.2.蓄電デバイス電極用スラリーの調製及び評価
(1)ケイ素材料(活物質)の合成
粉砕した二酸化ケイ素粉末(平均粒子径10μm)と炭素粉末(平均粒子径35μm)の混合物を、温度を1100℃~1600℃の範囲に調整した電気炉中で、窒素気流下(0.5NL/分)、10時間の加熱処理を行い、組成式SiOx(x=0.5~1.1)で表される酸化ケイ素の粉末(平均粒子径8μm)を得た。この酸化ケイ素の粉末300gをバッチ式加熱炉内に仕込み、真空ポンプにより絶対圧100Paの減圧を維持しながら、300℃/hの昇温速度にて室温(25℃)から1100℃まで昇温した。次いで、加熱炉内の圧力を2000Paに維持しつつ、メタンガスを0.5NL/分の流速にて導入しながら、1100℃、5時間の加熱処理(黒鉛被膜処理)を行った。黒鉛被膜処理終了後、50℃/hの降温速度で室温まで冷却することにより、黒鉛被膜酸化ケイ素の粉末
約330gを得た。この黒鉛被膜酸化ケイ素は、酸化ケイ素の表面が黒鉛で被覆された導電性の粉末(活物質)であり、その平均粒子径は10.5μmであり、得られた黒鉛被膜酸化ケイ素の全体を100質量%とした場合の黒鉛被膜の割合は2質量%であった。
【0172】
(2)アノード用スラリーの調製
二軸型プラネタリーミキサー(プライミクス株式会社製、商品名「TKハイビスミックス 2P-03」)に、増粘剤(商品名「CMC2200」、株式会社ダイセル製)を1質量部(固形分換算値、濃度2質量%の水溶液として添加)、重合体Aを2質量部(固形分換算値、上記で得られたバインダー組成物Aとして添加)、負極活物質として結晶性の高いグラファイトである人造黒鉛(日立化成工業株式会社製、商品名「MAG」)85質量部(固形分換算値)、上記で得られた黒鉛被覆膜酸化ケイ素の粉末を11質量部(固形分換算値)、蓄電デバイス用組成物(S-1)100質量部を投入し、60rpmで1時間攪拌を行い、ペーストを得た。得られたペーストに水を10質量部投入し、固形分濃度を48質量%に調整した後、攪拌脱泡機(株式会社シンキー製、商品名「泡とり練太郎」)を使用して、200rpmで2分間、1800rpmで5分間、さらに減圧下(約2.5×104Pa)において1800rpmで1.5分間攪拌混合することにより、負極活物質中にSiを11質量%含有するアノード用スラリー(An-1)を調製した。
【0173】
(3)カソード用スラリーの調製
二軸型プラネタリーミキサー(プライミクス株式会社製、商品名「TKハイビスミックス 2P-03」)に、増粘剤(商品名「CMC2200」、株式会社ダイセル製)を1質量部(固形分換算値、濃度2質量%の水溶液として添加)、重合体Bを2質量部(固形分換算値、上記で得られたバインダー組成物Bとして添加)、正極活物質として平均粒子径5μmのLiCoO2(ハヤシ化成株式会社製)95質量部(固形分換算値)及び水1質量部を投入し、固形分濃度を65質量%に調整した後、60rpmで2時間攪拌を行った。得られたペーストを攪拌脱泡機(株式会社シンキー製、商品名「泡とり練太郎」)を使用して、200rpmで2分間、1800rpmで5分間、さらに減圧下(約2.5×104Pa)において1800rpmで1.5分間攪拌混合することにより、カソード用スラリー(Ca-1)を調製した。
【0174】
(4)スラリーの保存安定性評価
スラリーを作製した直後と2日後にスラリー中に凝集物があるどうかを目視で確認した。上記で得られたアノード用スラリー、カソード用スラリーの調製直後に、スラリー中に凝集物があるか否かを目視で判断し、また2日後にも同様にスラリー中に凝集物があるか否かを目視で判断した。凝集物が無い場合は「良好(A)」、凝集物が確認された場合は「不良(B)」とした。
【0175】
(5)塗工端部直線性の評価
厚み20μmの銅箔基板に、上記で得られたアノード用スラリー(An-1)又はカソード用スラリー(Ca-1)を、ギャップ膜厚が500μmのドクターブレードを用いて塗工し、60℃で10分間乾燥し、次いで120℃で10分間乾燥処理した。得られた塗膜の塗工端部(形成された塗膜の外縁部分)での塗布性の評価を実施した。評価は、塗工端部の形状を観察し、直線性が高く、液戻りが観察されない場合は「良好(A)」、塗工端部の直線性が低く、波うっており、液戻りが観察される場合は「不良(B)」とした。
【0176】
(6)塗工端部平坦性の評価
上記と同様に、厚み20μmの銅箔基板に、アノード用スラリー(An-1)又はカソード用スラリー(Ca-1)を、塗工し、乾燥することで、塗膜を得た。また更に、触針式膜厚計を用いて、塗膜中心部と塗工端部のそれぞれの膜厚を測定し、塗工端部の平坦性を評価した。評価は、中心部と塗工端部の膜厚差が、1μm未満である場合に「良好(A
)」、1μm以上3μm未満である場合に「可(B)」、3μm以上である場合に「不良(C)」とした。
【0177】
5.3.3.蓄電デバイスの作製及び評価
(1)蓄電デバイス負極(アノード)の製造
厚み20μmの銅箔よりなる集電体の表面に、上記で得られたアノード用スラリー(An-1)を、乾燥後の膜厚が80μmとなるようにドクターブレード法によって均一に塗布し、60℃で10分間乾燥し、次いで120℃で10分間乾燥処理した。その後、活物質層の密度が1.5g/cm3となるようにロールプレス機によりプレス加工することにより、蓄電デバイス負極(アノード)を得た。
【0178】
(2)蓄電デバイス正極(カソード)の製造
厚み20μmのアルミニウム箔よりなる集電体の表面に、上記で得られたカソード用スラリー(Ca-1)を、溶媒除去後の膜厚が80μmとなるようにドクターブレード法によって均一に塗布し、120℃で20分間加熱して溶媒を除去した。その後、活物質層の密度が3.0g/cm3となるようにロールプレス機によりプレス加工することにより、蓄電デバイス正極(カソード)を得た。
【0179】
(3)リチウムイオン電池セルの組立て
露点が-80℃以下となるようAr置換されたグローブボックス内で、上記で製造した負極を直径15.95mmに打ち抜き成形したものを、2極式コインセル(宝泉株式会社製、商品名「HSフラットセル」)上に載置した。次いで、直径24mmに打ち抜いたポリプロピレン製多孔膜からなるセパレータ(セルガード株式会社製、商品名「セルガード#2400」)を載置し、さらに、空気が入らないように電解液を500μL注入した後、上記で製造した正極を直径16.16mmに打ち抜き成形したものを載置し、前記2極式コインセルの外装ボディーをネジで閉めて封止することにより、リチウムイオン電池セル(蓄電デバイス)を組み立てた。ここで使用した電解液は、エチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート=1/1(質量比)の溶媒に、LiPF6を1モル/Lの濃度で溶解した溶液である。
【0180】
(4)充電時間の評価
上記で製造した蓄電デバイスにつき、25℃に調温された恒温槽にて、定電流(2.0C)にて充電を開始し、電圧が4.2Vになった時点で引き続き定電圧(4.2V)にて充電を続行し、電流値が0.01Cとなった時点を充電完了(カットオフ)とし、そこまでの時間を充電時間とした。評価は、充電時間が50分未満である場合に「優良(A)」、充電時間が50分以上80分未満である場合に「可(B)」、充電時間が80分以上である場合に「不良(C)」とした。
【0181】
(5)保存後の電池電圧の安定性評価
上記で製造した蓄電デバイスにつき、25℃に調温された恒温槽にて、定電流(1.0C)にて充電を開始し、電圧が4.2Vになった時点で引き続き定電圧(4.2V)にて充電を続行し、電流値が0.01Cとなった時点を充電完了(カットオフ)とした。バッテリテスタBT3554(日置電機(株)製)にて、充電直後の電池電圧を測定し、その後、60℃に調温された恒温槽にて、3日間保管した。恒温槽から取り出した電池電圧を測定し、以下の式から電池電圧降下度を算出した。
電池電圧降下度(V)=(充電直後の電池電圧)-(60℃保存後の電池電圧)
評価は、電池電圧降下度が10mV未満である場合に「優良(A)」、電池電圧降下度が10mV以上40mV未満である場合に「可(B)」、電池電圧降下度が40mV以上である場合に「不良(C)」とした。
【0182】
5.4.実施例2~16、比較例1~4
蓄電デバイス用組成物の組成を下表2に記載の通りに変更した以外は、実施例1の蓄電デバイス用組成物(S-1)と同様にして、蓄電デバイス用組成物(S-2)~(S-14及び(sr-1)~(sr-4)を調製し、評価を行った。また、蓄電デバイス電極用スラリーの組成を下表3~5に記載の通りに変更した以外は、実施例1のアノード用スラリー(An-1)、カソード用スラリー(Ca-1)と同様にして、アノード用スラリー(An-2)~(An-5)、カソード用スラリー(Ca-2)~(Ca-17)を調製し、評価を行った。さらに、使用した蓄電デバイス電極用スラリーを下表6に記載の通りに変更した以外は、実施例1の蓄電デバイス(CELL-1)と同様にして、蓄電デバイス(CELL-2)~(CELL-20)を作製し、評価を行った。
【0183】
5.5.評価結果
下表2に、各蓄電デバイス用組成物の組成及び評価結果を示す。下表3に、各アノード用スラリーの組成及び各評価結果を示す。下表4~5に、各カソード用スラリーの組成及び各評価結果を示す。下表6に、各蓄電デバイスの作製で使用した蓄電デバイス電極用スラリーの種類及び各評価結果を示す。
【0184】
【0185】
上表2における原材料の略称等は、それぞれ下記に示すものを表す。
<導電助剤>
・SWCNT:シングルウォールカーボンナノチューブ
・MWCNT:マルチウォールカーボンナノチューブ
・AB:アセチレンブラック
<液状媒体>
・NMP:N-メチルピロリドン
<分散剤>
・PI-1~PI-11:上記合成例1、4~13で得られたポリイミド、リオトロピック液晶性あり
・PFOBS:パーフルオロオクチルベンゼンスルホン酸ナトリウム、リオトロピック液晶性あり
・PAE-1:上記合成例2で得られたポリアミド酸エステル(PAE-1)、リオトロピック液晶性あり
・PAA-1:上記合成例3で得られたポリアミック酸(PAA-1)、リオトロピック液晶性あり
・CMC:商品名「CMC2200」、株式会社ダイセル製、カルボキシメチルセルロースナトリウム、リオトロピック液晶性なし
・paa-1:上記合成例16で得られたポリアミック酸(paa-1)、リオトロピック液晶性なし
・pi-1~pi-2:上記合成例14、15で得られたポリイミド、リオトロピック液晶性なし
【0186】
【0187】
【0188】
【0189】
上表3~5における原材料の略称等は、それぞれ下記に示すものを表す。
<活物質>
・人造黒鉛:商品名「MAG」、昭和電工マテリアルズ株式会社製、負極活物質
・SiOx:上記で合成された黒鉛被膜酸化ケイ素、負極活物質
・LiCoO2:商品名、ハヤシ化成株式会社製、正極活物質
<増粘剤>
・CMC:商品名「CMC2200」、株式会社ダイセル製、カルボキシメチルセルロースナトリウム
<バインダー>
・重合体A:上記で調製したバインダー組成物A、固形分換算
・重合体B:上記で調製したバインダー組成物B、固形分換算
・PVdF:商品名「KFポリマー#1120」、株式会社クレハ製、ポリフッ化ビニリデン
<液状媒体>
・NMP:N-メチルピロリドン
【0190】
【0191】
上表2から明らかなように、分散剤としてリオトロピック液晶性を示す化合物を用いることにより、導電助剤の分散性に優れた組成物が得られることがわかる。また、上表3~5から明らかなように、導電助剤及びリオトロピック液晶性を示す化合物を含有する組成物を用いて調製されたスラリーは、活物質や導電助剤の分散性に優れているため、保存安定性が良好となり、また塗布性が良好となるために塗膜の表面平滑性(特に塗工端部における直線性や平坦性)が高くなることがわかる。
【0192】
上表6の結果から明らかなように、実施例1~16の蓄電デバイスが備える正極及び負極の少なくとも何れかは、集電体の表面に、本発明に係る蓄電デバイス用組成物、活物質、及び必要に応じて添加された任意成分を含有する活物質層が結着されてなるものであるため、活物質層中で効率的な導電パスが形成されやすくなる。これにより、充電時間が短縮され、かつ、保存容量のバラつきが低減された蓄電デバイスを製造することができたと推測される。
【0193】
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的および効果が同一の構成)を包含する。また本発明は、上記の実施形態で説明した構成の本質的でない部分を他の構成に置き換えた構成を包含する。さらに本発明は、上記の実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成または同一の目的を達成することができる構成をも包含する。さらに本発明は、上記の実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成をも包含する。