(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022116729
(43)【公開日】2022-08-10
(54)【発明の名称】電子部品
(51)【国際特許分類】
H01G 4/30 20060101AFI20220803BHJP
【FI】
H01G4/30 201L
H01G4/30 515
H01G4/30 516
H01G4/30 201D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021013048
(22)【出願日】2021-01-29
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼野 弘介
(72)【発明者】
【氏名】兼子 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】森ケ▲崎▼ 信人
(72)【発明者】
【氏名】川島 康
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 桃世
【テーマコード(参考)】
5E001
5E082
【Fターム(参考)】
5E001AB03
5E001AC09
5E001AE04
5E082AB03
5E082BC36
5E082EE04
5E082EE23
5E082EE35
5E082FF05
5E082FG04
5E082FG26
5E082FG46
5E082PP03
5E082PP09
(57)【要約】
【課題】ショート率が低く、信頼性が高く、高温負荷寿命が長い電子部品を提供すること。
【解決手段】機能層と内部電極層とを含む素体と、素体の表面に形成され、内部電極層と電気的に接続される外部電極と、を有する電子部品であって、素体中の塩素濃度が10ppm以下である電子部品である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
機能層と内部電極層とを含む素体と、
前記素体の表面に形成され、前記内部電極層と電気的に接続される外部電極と、を有する電子部品であって、
前記素体中の塩素濃度が10ppm以下である電子部品。
【請求項2】
前記素体が、
前記機能層と前記内部電極層とが交互に積層された内層領域と、
前記機能層と前記内部電極層との積層方向において、前記内層領域の少なくとも一方の端面に配置された外層領域と、を有し、
前記内層領域に属する機能層中の塩素濃度が10ppm以下である請求項1に記載の電子部品。
【請求項3】
前記内部電極層が、ニッケルおよび銅からなる群から選ばれる少なくとも1つを含む導電材を有する請求項1または2に記載の電子部品。
【請求項4】
前記素体が、塩素濃度が50ppm以下である共材を含む原料を用いて得られる請求項1から3のいずれかに記載の電子部品。
【請求項5】
前記共材の平均粒子径が100nm以下である請求項4に記載の電子部品。
【請求項6】
前記共材の組成が、前記機能層の主成分の組成と同じである請求項4または5に記載の電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器には、情報処理用回路、信号変換用回路、電源回路等を構成するために、多数かつ種々の電子部品が搭載されている。このような電子部品として、当該電子部品の性能を発揮する機能層と、端子に電気的に接続される電極層とが積層された構成を有する積層電子部品が知られている。
【0003】
近年、電子機器の高性能化の要求が強く、それに伴い、電子機器に搭載される電子部品の機能層を構成する材料にも高性能化が求められている。
【0004】
特許文献1は、電子部品の一例としての積層コンデンサの誘電体層に用いられるチタン酸バリウム原料に含まれる不純物を低減して、電子部品の特性劣化を抑制することを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、不純物の混入経路は様々であり、誘電体層等の機能層に用いられる原料に含まれる不純物を低減するだけでは、電子部品の特性劣化を抑制できない場合がある。
【0007】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、ショート率が低く、信頼性が高く、高温負荷寿命が長い電子部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、電子部品の機能層に塩素が含まれていると、電子部品の特性が劣化することを見出した。さらに、本発明者らは、電子部品の機能層に含まれる塩素が、電極層を形成するための原料に含まれる共材由来の塩素である場合には、機能層を構成する材料の原料由来の塩素よりも電子部品の特性が大きく劣化することを見出した。
【0009】
このような知見に基づき、本発明の電子部品は、以下の通りである。
[1]機能層と内部電極層とを含む素体と、
素体の表面に形成され、内部電極層と電気的に接続される外部電極と、を有する電子部品であって、
素体中の塩素濃度が10ppm以下である電子部品である。
【0010】
[2]素体が、
機能層と内部電極層とが交互に積層された内層領域と、
機能層と内部電極層との積層方向において、内層領域の少なくとも一方の端面に配置された外層領域と、を有し、
内層領域に属する機能層中の塩素濃度が10ppm以下である[1]に記載の電子部品である。
【0011】
[3]内部電極層が、ニッケルおよび銅からなる群から選ばれる少なくとも1つを含む導電材を有する[1]または[2]に記載の電子部品である。
【0012】
[4]素体が、塩素濃度が50ppm以下である共材を含む原料を用いて得られる[1]から[3]のいずれかに記載の電子部品である。
【0013】
[5]共材の平均粒子径が100nm以下である[4]に記載の電子部品である。
【0014】
[6]共材の組成が、機能層の主成分の組成と同じである[4]または[5]に記載の電子部品である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ショート率が低く、信頼性が高く、高温負荷寿命が長い電子部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る電子部品の一例としての積層コンデンサの模式的な斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1のII-II線に沿う積層コンデンサの断面を示す模式図である。
【
図3】
図3は、
図1のIII-III線に沿う積層コンデンサの断面を示す模式図である。
【
図4】
図4は、本発明の実施例および比較例の試料について、EPMAによるマッピング分析結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を、具体的な実施形態に基づき詳細に説明する。
【0018】
本実施形態に係る電子部品は、電子部品の機能を発揮する機能層が電極層を介して積層されている積層電子部品である。機能層が発揮する特性に応じて、積層電子部品としては、積層コンデンサ、積層バリスタ、積層サーミスタ、積層圧電素子、積層インダクタ等が例示される。以下では、積層電子部品の一例として、積層コンデンサについて説明する。
【0019】
図1は、積層コンデンサの斜視図を示す。
図1において、X軸、Y軸およびZ軸は相互に垂直である。積層コンデンサ1は、素体10と、素体10の表面のうちX軸に垂直な両端面に形成された外部電極4a、4bと、を備える。
【0020】
図2は、
図1におけるII-II線に沿う積層コンデンサ1の断面を示し、
図3は、
図1におけるIII-III線に沿う積層コンデンサ1の断面を示す。
【0021】
図2および3に示すように、素体10は、誘電特性を発揮する誘電体を含む誘電体層21と、導電材を含む内部電極層30と、を有する。また、素体10は、内層領域11と外層領域12とを有している。
【0022】
図2および3に示すように、内層領域11は、内層領域に属する誘電体層(内層誘電体層)21および内部電極層30が交互に積層された領域である。また、外層領域12は、内層領域11の表面のうちZ軸に垂直な両端面に配置された領域である。
【0023】
内層誘電体層21の厚さは、用途等に応じて適宜決定すればよく、通常、一層あたり0.5~20μm程度である。なお、内層誘電体層2の積層数は、通常2~1000程度である。
【0024】
本実施形態では、外層領域12は外層誘電体層から構成されており、内部電極層30が形成されていない領域である。外層誘電体層は、通常、内層領域11を構成する内層誘電体層21よりも厚い。なお、以下では、「内層誘電体層」および「外層誘電体層」をまとめて、「誘電体層」と記載する場合がある。
【0025】
内部電極層に着目すると、内部電極層30は、各端面が素体10の対向する2つの端面に交互に露出するように積層されている。すなわち、外部電極4aに電気的に接続できるように、素体10のX軸正方向側の端面に引き出された内部電極層30と、外部電極4bに電気的に接続できるように、素体10のX軸負方向側の端面に引き出された内部電極層30と、が交互に積層されている。内部電極層30の厚さは用途等に応じて適宜決定すればよい。
【0026】
本実施形態では、内部電極層30に含まれる導電材は、ニッケル(Ni)および銅(Cu)からなる群から選ばれる少なくとも1つを含む導電材であることが好ましい。具体的には、導電材は、ニッケル、ニッケル合金、銅および銅合金からなる群から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。
【0027】
ニッケル合金は、ニッケルを主成分として含む合金である。合金元素としては、マンガン(Mn)、クロム(Cr)、コバルト(Co)、アルミニウム(Al)等が例示される。ニッケル合金中のニッケルの含有割合は95質量%以上であることが好ましい。
【0028】
銅合金は、銅を主成分として含む合金である。銅合金としては公知の銅合金であればよい。
【0029】
本実施形態では、素体100質量%中の塩素濃度が10ppm以下である。素体に含まれる塩素量を制限することにより、電子部品の特性(ショート率、信頼性および高温負荷寿命)が向上する。塩素濃度が電子部品の特性に影響する理由としては、たとえば、以下のようなメカニズムが考えられる。
【0030】
本実施形態に係る電子部品を構成する素体は、機能層としての誘電体層の原料とバインダとを含むペースト(誘電体層用ペースト)と、内部電極層の原料とバインダとを含むペースト(内部電極層用ペースト)と、を用いてグリーンチップを作製し、グリーンチップを熱処理(たとえば、脱バインダ処理および焼成)することにより製造される。
【0031】
通常、内部電極層用ペーストには、内部電極層の原料とバインダとに加えて、内部電極層の原料の焼結挙動を誘電体層の原料の焼結挙動に近づけるため、および/または、誘電体層と内部電極層との密着性を向上させるために、共材と呼ばれる微細な粒子が添加される。
【0032】
本発明者らは、共材に含まれる塩素が内部電極層用ペーストおよびグリーンチップを経て、グリーンチップ焼成後に得られる焼結体(素体)に残留することにより、電子部品の特性(ショート率、信頼性および高温負荷寿命)に悪影響を与えることを見出した。
【0033】
グリーンチップにおいて、共材は内部電極層の原料(たとえば、導電材粉末)と共にバインダで固定されている。しかしながら、グリーンチップの脱バインダ処理後にはバインダが存在しないので、共材と導電材とが接触しやすくなる。共材と導電材とが接触すると、共材に含まれる塩素が導電材(金属)と反応して、脱バインダ処理時または焼成時に塩化化合物を形成しやすい傾向にあると考えられる。さらに、当該塩化化合物は、グリーンチップの焼成時に、内部電極層から誘電体層に拡散しやすいと考えられる。その結果、当該塩化化合物が誘電体粒子に固溶した粒子が焼成後に得られる素体中に形成される、または、焼成時の還元性雰囲気に起因して当該塩化化合物が還元されて金属化した第2相が焼成後に得られる素体中に形成されると考えられる。
【0034】
したがって、このような粒子および第2相に起因して、誘電体層が導通しやすくなり、電子部品のショート率の増加、信頼性の低下および寿命の低下を招いてしまう。特に、塩素化合物が、塩化ニッケルまたは塩化銅である場合に電子部品の特性への悪影響が大きくなる。
【0035】
なお、誘電体層の原料(誘電体粉末)に含まれる塩素は、共材に含まれる塩素に比べて内部電極層から離れているので、グリーンチップの脱バインダ処理時および焼成時において導電材(金属)と反応して塩化化合物を形成しにくい傾向にあると考えられる。あるいは、塩化化合物を形成する前に揮発している可能性もある。その結果、誘電体粉末に含まれる塩素が電子部品の特性に与える悪影響は、共材に含まれる塩素が与える悪影響よりも少ないと考えられる。
【0036】
また、共材も焼成時に移動しやすく、素体において、共材は内部電極層近傍の誘電体層中に存在しているものの、塩素は共材から離れて誘電体粒子に拡散している。したがって、誘電体粒子中の塩素が共材由来であるのか、誘電体の原料由来であるのかを区別することは困難である。
【0037】
さらに、塩素は軽元素であるため、通常の元素分析法(EPMA、EDS等)を用いて、誘電体層における塩素の濃度およびその分布を精度よく測定することは難しい。したがって、素体中の塩素濃度が上述した上限値の近傍である場合、通常の元素分析法による分析結果に基づき、素体中の塩素濃度が上述した範囲内であるのか、範囲外であるのかを判断することは難しい。そこで、本実施形態では、素体中の塩素濃度は以下に示す方法により測定される。
【0038】
まず、焼成後の素体に外部電極が形成されている場合には、外部電極を除去して、素体のみを粉砕する。粉砕物を容器に入れて、水蒸気を導入した炉において、粉砕物を1000℃に保持して、粉砕物に含まれる塩素を気化させて水蒸気と共に回収し冷却して、塩化物イオン水溶液として回収する。回収した塩化物イオン水溶液をイオンクロマトグラフィー(IC)またはICPにより定量分析し、素体100質量%中の塩素濃度を算出する。塩化物イオンが低濃度の場合はICにて分析、塩化物イオンが高濃度の場合はICPにて分析することが好ましい。
【0039】
また、上述したように、焼成後の素体において、塩素は、内部電極層に挟まれた誘電体粒子中に存在している。したがって、本実施形態では、素体から、内部電極層に挟まれていない誘電体層(外層領域)と内部電極層とを除いた領域、すなわち、内層誘電体層100質量%中の塩素濃度が10ppm以下であることが好ましい。
【0040】
内層誘電体層中の塩素濃度を測定する方法は、素体中の塩素濃度を測定する方法と同様である。具体的には、素体から外層領域を研磨により除去して、さらに、内部電極層を酸で溶解して除去することにより、内層誘電体層のみを得る。次に、上述した方法により、内層誘電体層に含まれる塩素を気化させて水蒸気と共に回収し、回収した塩化物イオン水溶液をイオンクロマトグラフィー(IC)、またはICPにより定量分析し、内層誘電体層100質量%中の塩素濃度を算出する。塩化物イオンが低濃度の場合はICにて分析、塩化物イオンが高濃度の場合はICPにて分析することが好ましい。
【0041】
共材としては、内部電極層の原料の焼結挙動を誘電体層の原料の焼結挙動に近づけられるもの、および/または、誘電体層と内部電極層との密着性を向上できるものであればよい。本実施形態では、セラミック粒子が共材として好適に用いられる。特に、誘電体層を構成する誘電体の組成と同じまたは組成に近いセラミック粒子を共材として用いることが好ましい。具体的には、誘電体層に主成分として含まれる誘電体と同じ組成を有するセラミック粒子を共材として用いることが好ましい。
【0042】
また、共材の平均粒子径は、誘電体粉末の平均粒子径よりも小さいことが好ましい。また、本実施形態では、共材の平均粒子径は100nm以下であることが好ましく、50nm以下であることがより好ましい。
【0043】
上述したように、素体に含まれる塩素は、主として、共材に由来する。したがって、素体中の塩素濃度を上述した値以下に制限するには、共材に含まれる塩素を低減すればよい。
【0044】
共材に含まれる塩素を低減する方法としては、共材を水洗浄する方法が挙げられる。塩素は水に溶解するので、共材を水で洗浄することにより、共材に含まれる塩素が水に溶解し、洗浄前に比べて共材中の塩素濃度が低くなる。
【0045】
また、共材がセラミック粒子である場合、通常、共材は複数の金属元素を有する複合酸化物から構成されている。このような複合酸化物は、金属化合物を複数混合して熱処理することにより合成される。したがって、複合酸化物の原料である金属化合物として、塩素濃度が低い金属化合物を用いることにより、塩素濃度の低い共材が得られる。
【0046】
また、塩素濃度が高い金属化合物を水洗浄して塩素濃度が低い金属化合物を得て、これを複合酸化物の原料として用いることにより、塩素濃度の低い共材が得られる。
【0047】
本実施形態では、共材に含まれる塩素濃度は50ppm以下であることが好ましい。共材に含まれる塩素濃度は、本実施形態では、IC分析により測定する。塩素が低濃度の場合はICにて分析、塩素が高濃度の場合はICPにて分析することが好ましい。
【0048】
誘電体層は、ペロブスカイト構造、タングステンブロンズ構造等を有する誘電体を主成分として含んでいる。ペロブスカイト構造を有する誘電体としては、たとえば、化学式ABO3で表される化合物が例示される。ABO3において、Aは、ペロブスカイト構造のAサイトを占める元素であり、たとえば、バリウム(Ba)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)等から選ばれる少なくとも1つである。ABO3において、Bは、ペロブスカイト構造のBサイトを占める元素であり、たとえば、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)等から選ばれる少なくとも1つである。Bに対するAのモル比(A/B)は、たとえば、0.980~1.020である。
【0049】
上述したように、共材は、誘電体層の主成分と同じ組成を有していることが好ましい。
【0050】
上記の主成分に加えて、誘電体層はさらに副成分を含んでもよい。副成分の種類および含有量は、所望の特性に応じて、選択すればよい。このような副成分としては、たとえば、マンガン(Mn)、クロム(Cr)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)および鉄(Fe)から選択される少なくとも1つの元素の酸化物;バナジウム(V)、モリブデン(Mo)およびタングステン(W)から選択される少なくとも1つの元素の酸化物;希土類元素の酸化物;マグネシウム(Mg)の酸化物;シリコン(Si)、リチウム(Li)、アルミニウム(Al)、ゲルマニウム(Ge)、バリウム(Ba)、カルシウム(Ca)およびホウ素(B)から選択される少なくとも1つの元素の酸化物が例示される。
【0051】
誘電体層が、主成分および副成分を含んでいる場合にも、共材は、誘電体層の主成分と同じ組成を有していることが好ましい。すなわち、誘電体層が、主成分および副成分を含んでいる場合には、誘電体層に含まれる誘電体の組成に近いセラミック粒子を共材として用いることが好ましい。共材の量はNi粒子100重量部に対して10重量部から20重量部が好ましい。
【0052】
内層誘電体層と外層誘電体層とは同じ材質であってもよいし、異なっていてもよい。
【0053】
続いて、本実施形態に係る電子部品の製造方法として、積層コンデンサ1の製造方法を説明する。本実施形態では、積層コンデンサ1は、従来の積層コンデンサと同様に、ペーストを用いた通常の印刷法やシート法によりグリーンチップを作製し、これを焼成した後、外部電極を印刷または転写して焼成することにより製造される。以下、製造方法について具体的に説明する。
【0054】
まず、誘電体層を形成するための誘電体層用ペーストを準備する。内層誘電体層の材質と外層誘電体層の材質とが異なる場合には、内層誘電体層を形成するための内層誘電体層用ペーストおよび外層誘電体層を形成するための外層誘電体層用ペーストを準備する。誘電体層用ペーストは、通常、誘電体の原料粉末と有機ビヒクルとを混練して得られた有機溶剤系ペーストまたは水系ペーストで構成される。
【0055】
誘電体の原料粉末としては、複合酸化物や酸化物となる各種化合物、たとえば炭酸塩、硝酸塩、水酸化物、有機金属化合物などから適宜選択され、混合して用いることができる。本実施形態では、誘電体の原料粉末の平均粒子径は200nm以下であることが好ましく、100~200nm程度であることがより好ましい。
【0056】
有機ビヒクルとは、バインダを有機溶剤中に溶解したものである。有機ビヒクルに用いるバインダは特に限定されず、エチルセルロース、ポリビニルブチラール等の通常の各種バインダから適宜選択すればよい。用いる有機溶剤も特に限定されず、アセトン、トルエン等の各種有機溶剤から適宜選択すればよい。
【0057】
次に、内部電極層を形成するための内部電極層用ペーストを準備する。内部電極層用ペーストは、上述した導電材または焼成後に上述した導電材となる酸化物、有機金属化合物、レジネート等の化合物と、上述した有機ビヒクルと、上述した方法により塩素濃度が低減された共材と、を混練して調製する。
【0058】
外部電極用ペーストは、共材を含まないこと以外は、上述した内部電極層用ペーストと同様にして調製すればよい。
【0059】
各ペースト中の有機ビヒクルの含有量に特に制限はなく、通常の含有量、たとえば、バインダは1~5質量%程度、溶剤は10~50質量%程度とすればよい。また、各ペースト中には、必要に応じて各種分散剤、可塑剤、誘電体、絶縁体等から選択される添加物が添加されていてもよい。これらの総含有量は、10質量%以下とすることが好ましい。
【0060】
印刷法を用いる場合、誘電体層用ペースト(内層誘電体層用ペーストおよび外層誘電体層用ペースト)および内部電極層用ペーストを、PET等の基板上に印刷、積層し、所定形状に切断した後、基板から剥離することにより、グリーンチップが得られる。また、シート法を用いる場合、誘電体層用ペースト(内層誘電体層用ペーストおよび外層誘電体層用ペースト)を用いてグリーンシートを形成し、この上に内部電極層用ペーストを印刷し内部電極パターンを形成した後、これらを積層することにより、グリーンチップが得られる。
【0061】
焼成前に、グリーンチップに脱バインダ処理を施す。脱バインダ条件としては、昇温速度を好ましくは5~300℃/時間、保持温度を好ましくは180~400℃、温度保持時間を好ましくは0.5~24時間とする。また、脱バインダ雰囲気は、空気もしくは還元性雰囲気とする。
【0062】
脱バインダ後、グリーンチップの焼成を行う。焼成時の昇温速度は、好ましくは100~500℃/時間である。焼成時の保持温度は、好ましくは1300℃以下、より好ましくは1150~1280℃である。また、保持時間は、好ましくは0.5~8時間、より好ましくは2~3時間である。保持温度が上記範囲未満であると焼結体の緻密化が不十分となり、この範囲を超えると、内部電極層の異常焼結による電極の途切れや、内部電極層に含まれる導電材の拡散による容量温度特性の悪化、誘電体の還元が生じやすくなる。
【0063】
焼成雰囲気は、還元性雰囲気とすることが好ましく、雰囲気ガスとしてはたとえば、N2とH2との混合ガスを加湿して用いることができる。
【0064】
また、焼成時の酸素分圧は、内部電極層用ペースト中の導電材の種類に応じて適宜決定されればよいが、導電材としてNiやNi合金等の卑金属を用いる場合、焼成雰囲気中の酸素分圧は、10-14~10-10MPaとすることが好ましい。酸素分圧が上記範囲未満であると、内部電極層に含まれる導電材が異常焼結を起こし、途切れてしまうことがある。また、酸素分圧が上記範囲を超えると、内部電極層が酸化する傾向にある。降温速度は、好ましくは50~500℃/時間である。
【0065】
還元性雰囲気中で焼成した後、素体にはアニールを施すことが好ましい。アニールは、誘電体層を再酸化するための処理であり、これによりIR寿命(絶縁抵抗の寿命)を著しく長くすることができる。
【0066】
アニール雰囲気中の酸素分圧は、10-9~10-5MPaとすることが好ましい。酸素分圧が上記範囲未満であると誘電体層の再酸化が困難であり、上記範囲を超えると内部電極層の酸化が進行する傾向にある。
【0067】
アニールの際の保持温度は、1100℃以下、特に1000~1100℃とすることが好ましい。保持温度が上記範囲未満であると誘電体層の酸化が不十分となるので、IRが低く、また、IR寿命が短くなりやすい。一方、保持温度が上記範囲を超えると、内部電極層が酸化して容量が低下しやすくなる。なお、アニールは昇温過程および降温過程だけから構成してもよい。すなわち、温度保持時間を零としてもよい。この場合、保持温度は最高温度と同義である。
【0068】
これ以外のアニール条件としては、温度保持時間は好ましくは0~20時間、より好ましくは2~4時間、降温速度を好ましくは50~500℃/時間、より好ましくは100~300℃/時間である。また、アニールの雰囲気ガスとしては、たとえば、加湿したN2ガス等を用いることが好ましい。
【0069】
上記した脱バインダ処理、焼成およびアニールにおいて、N2ガスや混合ガス等を加湿するには、たとえばウェッター等を使用すればよい。この場合、水温は5~75℃程度が好ましい。
【0070】
脱バインダ処理、焼成およびアニールは、連続して行なっても、独立に行なってもよい。
【0071】
上記のようにして得られた素体に、たとえばバレル研磨やサンドブラストなどにより端面研磨を施し、外部電極用ペーストを塗布して焼成し、外部電極を形成する。また、必要に応じて、外部電極の表面に、めっき等により被覆層を形成してもよい。
【0072】
このようにして製造された本実施形態に係る電子部品の一例としての積層コンデンサは、ハンダ付等によりプリント基板上などに実装され、各種電子機器等に使用される。
【0073】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は上記の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の範囲内において種々の態様で改変してもよい。
【実施例0074】
以下、実施例及び比較例を用いて、本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0075】
(実験1)
まず、誘電体層の主成分の原料粉末として、平均粒径が200nmであるチタン酸バリウム粉末を準備した。このチタン酸バリウム粉末100質量%中の塩素濃度は50ppmであった。
【0076】
上記のチタン酸バリウム粉末中のTiO2 100モル部に対して、副成分の原料粉末として、Y2O3:0.40モル部、SiO2:0.60モル部、MnO:0.20モル部、MgO:1.70モル部、V2O5:0.05モル部となるように秤量された各粉末を準備した。チタン酸バリウム粉末と副成分の原料粉末とをボールミルで10時間湿式混合・粉砕し、乾燥して、誘電体原料を得た。
【0077】
得られた誘電体原料:100重量部と、ポリビニルブチラール樹脂:10重量部と、可塑剤としてのジオクチルフタレート(DOP):5重量部と、溶媒としてのアルコール:100重量部とをボールミルで混合してペースト化し、誘電体層用ペーストを得た。
【0078】
次に、Ni粒子:42.9重量部と、共材:6.4重量部と、テルピネオール:47.6重量部と、エチルセルロース:2.7重量部と、ベンゾトリアゾール:0.4重量部とを、3本ロールにより混練し、ペースト化して内部電極層用ペーストを作製した。
【0079】
実施例1では、共材として、平均粒径が50nmであるチタン酸バリウム粉末を純水により洗浄した粉末を用いた。このチタン酸バリウム粉末100質量%中の塩素濃度は、純水洗浄前が1800ppmであり、純水洗浄後が1ppmであった。
【0080】
上記にて作製した誘電体層用ペーストを用いて、PETフィルム上に、乾燥後の厚みが5.0μmとなるようにグリーンシートを形成した。次いで、この上に内部電極層用ペーストを用いて、内部電極層を所定パターンで印刷した後、PETフィルムからシートを剥離し、内部電極層を有するグリーンシートを作製した。
【0081】
次いで、内部電極層を有するグリーンシートを複数枚積層し、加圧接着することによりグリーン積層体とし、このグリーン積層体を所定サイズに切断することにより、グリーンチップを得た。
【0082】
次いで、得られたグリーンチップについて、脱バインダ処理、焼成およびアニールを下記条件にて行って、素体を得た。
【0083】
脱バインダ処理条件は、昇温速度:25℃/時間、保持温度:260℃、温度保持時間:8時間、雰囲気:空気中とした。
【0084】
焼成条件は、昇温速度:200℃/時間、保持温度:1200℃とし、保持時間を2時間とした。降温速度は200℃/時間とした。なお、雰囲気ガスは、加湿したN2+H2混合ガスとし、酸素分圧が10-12MPaとなるようにした。
【0085】
アニール条件は、昇温速度:200℃/時間、保持温度:1000℃、温度保持時間:2時間、降温速度:200℃/時間、雰囲気ガス:加湿したN2ガス(酸素分圧:10-7MPa)とした。
【0086】
なお、焼成およびアニールの際の雰囲気ガスの加湿には、ウェッターを用いた。
【0087】
得られた素体中の塩素濃度を以下のようにして測定した。得られた素体をメノウ乳鉢に入れて粉砕し、粉砕粉を磁器ボートに入れてチューブ炉内に載置して、水蒸気を導入しながら1000℃まで加熱した。水蒸気を回収し、冷却して得られる塩化物イオン水溶液をイオンクロマトグラフィーとICPとにより分析し、塩素量を測定し、素体中の塩素濃度を算出した。結果を表1に示す。実施例の塩化物イオンが低濃度の場合はICにて分析、比較例の塩化物イオンが高濃度の場合はICPにて分析を行った。
【0088】
また、得られた素体から外層領域を研磨により除去した。外層領域を除去した素体を硝酸に浸漬して、内部電極層を溶解し、内層領域に属する誘電体層(内側誘電体層)のみを得た。得られた内側誘電体層を粉砕して、上記と同じ方法により、内側誘電体層中の塩素濃度を算出した。結果を表1に示す。
【0089】
次いで、得られた素体の端面をサンドブラストにて研磨した後、外部電極としてCuを塗布し、
図1に示す積層コンデンサの試料を得た。得られたコンデンサ試料のサイズは、3.2mm×1.6mm×0.6mmであり、内層誘電体層の厚み1μm、内部電極層の厚み4.0μm、内部電極層に挟まれた内層誘電体層の数は300とした。
【0090】
得られたコンデンサ試料について、ショート率、信頼性および高温負荷寿命(HALT)の測定を、それぞれ下記に示す方法により行った。
【0091】
(ショート率)
各コンデンサ試料の抵抗値をテスターCDM-2000Dで測定して、抵抗値が100Ω以下になる試料を不良品と判定することにより、3000個のコンデンサ試料のうち、ショートした個数を求めた。本実施例では、ショートした試料の個数が0個である場合に良好であると判断した。結果を表1に示す。
【0092】
(信頼性)
各コンデンサ試料に対して、125℃にて、20.0V/μmの電圧印加試験を3000時間行った後に、電圧印加開始時の絶縁抵抗から絶縁抵抗が一桁落ちた試料を不良品と判定することにより、3000個のコンデンサ試料のうち、信頼性が低い試料の個数を求めた。本実施例では、信頼性が低い試料の個数が0個である場合に良好であると判断した。結果を表1に示す。
【0093】
(高温負荷寿命)
各コンデンサ試料に対し、180℃にて、20.0V/μmの電界下で直流電圧の印加状態に保持し、寿命時間を測定することにより、高温負荷寿命を評価した。本実施例においては、電圧印加開始時の絶縁抵抗から絶縁抵抗が一桁落ちるまでの時間を寿命と定義した。また、本実施例では、上記の評価を20個のコンデンサ試料について行い、その平均値を高温負荷寿命とした。本実施例では、高温負荷寿命が10時間以上である試料を良好であると判断した。結果を表1に示す。
【0094】
(実施例2~4)
共材を純水洗浄する時間を変更して、純水洗浄後の塩素濃度が表1に示す濃度である共材を用いた以外は実施例1と同じ方法により、素体および積層セラミックコンデンサの試料を作製し、実施例1と同じ評価を行った。結果を表1に示す。
【0095】
(実施例5)
共材を以下のようにして作製した以外は実施例1と同じ方法により、素体および積層セラミックコンデンサの試料を作製し、実施例1と同じ評価を行った。結果を表1に示す。
【0096】
まず、塩素濃度が50ppm以下であるバリウム原料と、塩素濃度が50ppm以下であるチタン原料と、を混合し、混合物を1000℃で焼成してチタン酸バリウムを合成した。合成したチタン酸バリウムを粉砕して、共材としてのチタン酸バリウム粉末を得た。得られたチタン酸バリウム粉末の平均粒径は50nmであった。また、得られたチタン酸バリウム粉末中の塩素濃度は10ppmであった。
【0097】
(実施例6)
共材を以下のようにして作製した以外は実施例1と同じ方法により、素体および積層セラミックコンデンサの試料を作製し、実施例1と同じ評価を行った。結果を表1に示す。
【0098】
まず、塩素濃度が50ppm超であるバリウム原料と、塩素濃度が50ppm超であるチタン原料と、を純水で洗浄し、塩素濃度が50ppm以下であるバリウム原料と、塩素濃度が50ppm以下であるチタン原料と、を得た。得られたバリウム原料とチタン原料とを混合し、混合物を1000℃で焼成してチタン酸バリウムを合成した。合成したチタン酸バリウムを粉砕して、共材としてのチタン酸バリウム粉末を得た。得られたチタン酸バリウム粉末の平均粒径は50nmであった。また、得られたチタン酸バリウム粉末中の塩素濃度は10ppmであった。
【0099】
(実施例7~10)
平均粒径が100nmであるチタン酸バリウム粉末を純水で所定時間洗浄して、表1に示す塩素濃度である共材を用いた以外は実施例1と同じ方法により、素体および積層セラミックコンデンサの試料を作製し、実施例1と同じ評価を行った。結果を表1に示す。
【0100】
(比較例1)
純水で洗浄しなかったチタン酸バリウム粉末を共材として用いた以外は実施例1と同じ方法により、素体および積層セラミックコンデンサの試料を作製し、実施例1と同じ評価を行った。結果を表1に示す。すなわち、比較例1で用いた共材は、実施例1における純水洗浄前のチタン酸バリウム粉末であった。
【0101】
(比較例2および3)
平均粒径が表1に示す径であり、塩素濃度が表1に示す濃度であるチタン酸バリウム粉末を純水洗浄せずに共材として用いた以外は実施例1と同じ方法により、素体および積層セラミックコンデンサの試料を作製し、実施例1と同じ評価を行った。結果を表1に示す。
【0102】
(比較例4~6)
共材を純水洗浄する時間を変更して、純水洗浄後の塩素濃度が表1に示す濃度である共材を用いた以外は実施例1と同じ方法により、素体および積層セラミックコンデンサの試料を作製し、実施例1と同じ評価を行った。結果を表1に示す。
【0103】
【0104】
表1より、素体中の塩素濃度が上述した範囲内である試料は、ショート率、信頼性および高温負荷寿命の全てが良好であることが確認できた。一方、素体中の塩素濃度が上述した範囲外である試料は、少なくとも高温負荷寿命が悪化していることが確認できた。
【0105】
また、実施例1および比較例1の試料を切断して研磨し、研磨断面を得た。得られた研磨断面において、電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)を用いて、マッピング分析を行った。
図4に、塩素およびニッケルについてのマッピング分析結果を示す。
【0106】
図4より、実施例1の試料では、内部電極層に挟まれた誘電体層中に塩素がほとんど存在しないことが確認できた。一方、比較例1の試料では、共材の塩素濃度が非常に高いため、内部電極層に挟まれた誘電体層中に塩化ニッケルが存在すること、すなわち、内部電極層に挟まれた誘電体層中に塩素が高い濃度で存在することが確認できた。