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特開2022-116748低級炭化水素分解方法および低級炭化水素分解装置
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  • 特開-低級炭化水素分解方法および低級炭化水素分解装置 図1
  • 特開-低級炭化水素分解方法および低級炭化水素分解装置 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022116748
(43)【公開日】2022-08-10
(54)【発明の名称】低級炭化水素分解方法および低級炭化水素分解装置
(51)【国際特許分類】
   C01B 3/30 20060101AFI20220803BHJP
   B01J 23/755 20060101ALI20220803BHJP
   B01D 53/22 20060101ALI20220803BHJP
   B01D 69/02 20060101ALI20220803BHJP
   H01M 8/0612 20160101ALI20220803BHJP
   H01M 8/0662 20160101ALI20220803BHJP
【FI】
C01B3/30
B01J23/755 M
B01D53/22
B01D69/02
H01M8/0612
H01M8/0662
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021013082
(22)【出願日】2021-01-29
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「水素利用等先導研究開発事業/炭化水素等を活用した二酸化炭素を排出しない水素製造技術調査/膜反応器を用いたメタン直接分解によるCO2フリー水素製造技術」委託事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】591178012
【氏名又は名称】公益財団法人地球環境産業技術研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】瀬下 雅博
(72)【発明者】
【氏名】佐々 和明
(72)【発明者】
【氏名】安原 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】山口 祐一郎
【テーマコード(参考)】
4D006
4G140
4G169
5H127
【Fターム(参考)】
4D006GA41
4D006HA21
4D006JA14Z
4D006JA18Z
4D006JA26A
4D006JA30A
4D006JA30B
4D006JA30C
4D006KA01
4D006KB30
4D006KE07Q
4D006KE16R
4D006MA02
4D006MA09
4D006MB04
4D006MB15
4D006MB16
4D006MC02
4D006MC03
4D006MC05
4D006PA04
4D006PB66
4D006PC80
4G140DA03
4G140DB02
4G140DB05
4G140DC02
4G140DC07
4G169AA03
4G169BA01B
4G169BB02B
4G169BC66B
4G169BC68B
4G169CC31
4G169DA06
4G169EA04Y
4G169EB18Y
4G169FA02
5H127BA05
5H127BA12
5H127BA17
5H127EE12
(57)【要約】
【課題】低級炭化水素の直接分解反応において反応に必要な温度を低温側にシフトさせるとともに純度の高い水素を提供する。
【解決手段】非透過側の第1空間と、水素分離膜と、透過側の第2空間と、を具備する分離膜反応器の前記第1空間に低級炭化水素と触媒とを供給し、前記触媒の作用により前記低級炭化水素を分解して炭素および水素を生成させる分解反応を進行させる工程と、前記水素分離膜を透過させた前記水素を前記第2空間から引き抜く工程と、を具備する、低級炭化水素分解方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非透過側の第1空間と、水素分離膜と、透過側の第2空間と、を具備する分離膜反応器の前記第1空間に低級炭化水素と触媒とを供給し、前記触媒の作用により前記低級炭化水素を分解して炭素および水素を生成させる分解反応を進行させる工程と、
前記水素分離膜を透過させた前記水素を前記第2空間から引き抜く工程と、
を具備する、低級炭化水素分解方法。
【請求項2】
前記分解反応を550℃以上の温度で進行させる、請求項1に記載の低級炭化水素分解方法。
【請求項3】
前記水素分離膜が、シリカ膜またはパラジウム膜である、請求項1または2に記載の低級炭化水素分解方法。
【請求項4】
前記水素分離膜の水素透過率が、5×10-7mol/(m・s・Pa)以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の低級炭化水素分解方法。
【請求項5】
更に、前記触媒を前記第1空間内で流動させることにより、前記炭素を移動させて回収する工程、を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の低級炭化水素分解方法。
【請求項6】
前記分解反応を進行させる工程が、前記触媒としてナノ粒子を前記第1空間に供給することを含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の低級炭化水素分解方法。
【請求項7】
前記第1空間の鉛直方向における上方から前記ナノ粒子を前記第1空間に供給し、前記第1空間の鉛直方向における下方で前記炭素とともに前記ナノ粒子を回収する、請求項6に記載の低級炭化水素分解方法。
【請求項8】
低級炭化水素と触媒とが導入される非透過側の第1空間と、水素分離膜と、透過側の第2空間と、を具備し、前記触媒の作用により前記低級炭化水素を分解して炭素および水素を生成させる分解反応を進行させる分離膜反応器と、
前記第1空間に前記低級炭化水素を供給する原料ガス供給部と、
前記第2空間から水素を引き抜く水素回収ラインと、
前記第1空間から炭素を回収する炭素回収部と、を具備する、低級炭化水素分解装置。
【請求項9】
前記第1空間に前記触媒としてナノ粒子を供給する触媒供給部を具備する、請求項8に記載の低級炭化水素分解装置。
【請求項10】
前記第1空間の鉛直方向における上方から前記ナノ粒子が前記第1空間に供給され、
前記第1空間の鉛直方向における下方で前記炭素とともに前記ナノ粒子が回収される、請求項9に記載の低級炭化水素分解装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低級炭化水素を分解する方法と装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水素社会構築のためには、安価な水素の製造が必要である。水素は、例えば、燃料電池自動車(FCV)の燃料として利用することができる。水素は燃焼により水を生成するため、二酸化炭素(CO)の排出を抑制する効果がある。
【0003】
現在、FCVなどで利用されている水素は、基本的に化石燃料(例えば、メタン)の水蒸気改質(CH+2HO→4H+CO)によって製造されており、製造過程で大量のCOが排出されている。そこで、CO排出のない水素製造方法として、触媒反応器を用いてメタンのような低級炭化水素を直接熱分解し、水素を製造する方法(CH→C(固体)+2H+75kJ/mol)が検討されている(特許文献1参照)。本反応の場合、メタンに含まれる炭素が固体で生成するのでCOを発生しない。また、原料として都市ガスを利用できるため、長期にわたる安定供給と低コスト化が可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-58908号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、触媒反応器を用いてメタンの直接分解で水素を製造する場合、触媒の種類にもよるが、反応温度が非常に高い上、メタンの水素への転化率も低いのが現状である。そのため、反応により生成するCO排出量はゼロであるが、反応に関与するエネルギー利用により多量のCOが発生する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面は、非透過側の第1空間と、水素分離膜と、透過側の第2空間と、を具備する分離膜反応器の前記第1空間に、低級炭化水素と触媒とを供給し、前記触媒の作用により前記低級炭化水素を分解して炭素および水素を生成させる分解反応を進行させる工程と、前記水素分離膜を透過させた前記水素を前記第2空間から引き抜く工程と、を具備する、低級炭化水素分解方法に関する。
【0007】
本発明の別の側面は、低級炭化水素と触媒とが導入される非透過側の第1空間と、水素分離膜と、透過側の第2空間と、を具備し、前記触媒の作用により前記低級炭化水素を分解して炭素および水素を生成させる分解反応を進行させる分離膜反応器と、前記第1空間に前記低級炭化水素を供給する原料ガス供給部と、前記第2空間から水素を引き抜く水素回収ラインと、前記第1空間から炭素を回収する炭素回収部と、を具備する、低級炭化水素分解装置に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、低級炭化水素の分解反応に必要な温度を低温側にシフトさせるとともに、純度の高い水素を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態に係る低級炭化水素分解装置の構成を示すブロック図である。
図2】本発明の別の実施形態に係る低級炭化水素分解装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態に係る低級炭化水素分解方法(以下、「分解方法A」とも称する。)について説明するが、本発明に係る方法は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0011】
分解方法Aは、非透過側の第1空間と、水素分離膜と、透過側の第2空間とを具備する分離膜反応器の第1空間に低級炭化水素と触媒とを供給し、触媒の作用により低級炭化水素を分解して炭素および水素を生成させる分解反応を進行させる工程を有する。
【0012】
分解方法Aは、更に、水素分離膜を透過させた水素を第2空間から引き抜く工程を有する。水素を第2空間から引き抜くことで、純度の高い水素を得ることができるとともに、例えば、CH→C(固体)+2H+75kJ/mol(以下、式(1))の平衡が右側(水素生成側)に移動するため、低級炭化水素の水素と炭素への転化率が向上する。よって、低級炭化水素の分解反応に必要な温度を低温側にシフトさせることができる。
【0013】
ここで、式(1)の反応は、メタン1分子から水素2分子を生成する反応である。このような反応では、通常、第1空間内の圧力が向上するほど、平衡が左側(原料側)に移動する。これに対し、水素分離膜を用いて第1空間から第2空間に水素を移動させ、さらに第2空間から水素を引き抜く場合、第1空間の圧力を高めるほど転化率が向上する傾向がある。
【0014】
低級炭化水素の分解反応を効率的に進行させるには、第1空間内の温度を、例えば500℃以上とすることが望ましく、550℃以上がより望ましく、600℃以上でもよい。一方、分解反応に関与するエネルギー利用量の低減や装置材料の観点からは、第1空間内の温度は900℃未満が望ましい。
【0015】
低級炭化水素の分解反応を効率的に進行させるには、第1空間内の圧力を、例えば200kPa以上とすることが望ましく、300kPa以上がより望ましく、400kPa以上でもよい。一方、分離膜反応器の維持コストや高圧ガス保安法上の手続きなどを考慮すると、1000kPa未満が望ましい。
【0016】
水素分離膜としては、水素に対する透過性が高く、かつ、水素以外のガスに対する一定以上の選択性を有する分離膜を用いればよい。水素分離膜は、例えば、セラミック製の多孔質支持体の表面およびその中心側近傍に担持される。多孔質支持体の形状は、例えば、中空を有する円筒型である。水素分離膜は、円筒型の多孔質支持体の外表面に形成してもよい。多孔質支持体材の材質は、特に限定されないが、α-アルミナ、γ-アルミナ、シリカ、ジルコニア、窒化ケイ素、炭化ケイ素、チタニア、ゼオライトなどのセラミックス材料を用い得る。中でも安価で熱的に安定なα-アルミナが好ましい。
【0017】
水素分離膜の種類は、特に限定されないが、シリカ膜、パラジウム膜、ゼオライト膜、炭素膜などを用い得る。中でも、シリカ膜およびパラジウム膜の少なくとも一方を用いることが望ましく、水素選択性の観点からは、パラジウム膜が最も望ましい。
【0018】
水素選択性の高い分離膜を用いることで、例えば99%以上の高純度の水素を分離膜反応器からダイレクトに回収することも可能である。一方、低級炭化水素の直接分解では、二酸化炭素を生じないため、二酸化炭素の回収貯留(Carbon capture andstorage(CCS))を必要としない。また、水素分離膜で水素を分離するため、未反応の低級炭化水素と水素との分離工程が不要である。
【0019】
水素分離膜の水素透過率は、例えば、5×10-7mol/(m・s・Pa)以上であってもよく、1×10-6mol/(m・s・Pa)以上であってもよい。
【0020】
分解方法Aは、触媒を第1空間内で流動させることにより、炭素を移動させて回収する工程を有してもよい。触媒は、反応開始前に少なくとも第1空間に予め配置しておいてもよく、低級炭化水素を供給しながら第1空間に供給してもよい。また、第1空間で分解して触媒を生成する触媒原料を第1空間に供給してもよい。
【0021】
触媒を担体粒子に担持させて用いる場合、触媒を担持させた粒子(以下、「流動粒子」とも称する。)を第1空間内で流動させてもよい。流動粒子は、第1空間の上方から下方に向けて流動させてもよい。この場合、下方で活性が低下した触媒を有する流動粒子を第1空間の外部に回収し、新たな触媒を担持させて流動粒子を再生してもよい。再生された流動粒子を第1空間の上方から第1空間に戻して循環させてもよい。
【0022】
担体としては、耐熱性および流動性を確保する観点から、セラミックス製の球体が望ましい。セラミックスとしては、例えば、シリカ、アルミナなどを用い得る。中でもα-アルミナ製の担体は汎用性が高く、安価である。担体は、厳密な真球である必要はなく、球形度が例えば0.9以上であればよい。
【0023】
担体の直径は、流動性と表面積を確保する観点から、例えば、1mm以上、10mm以下であり、1mm以上、7mm以下でもよく、1mm以上、5mm以下でもよく、2mm以上、4mm以下が望ましい。担体の直径とは、担体の最大径であり、例えば10個の担体の最大径の平均値である。
【0024】
触媒としてナノ粒子を第1空間に供給し、第1空間内でナノ粒子を浮遊させてもよい。例えば、第1空間の鉛直方向における上方からナノ粒子を第1空間に供給し、第1空間の鉛直方向における下方で炭素とともにナノ粒子を回収してもよい。ナノ粒子は、低級炭化水素とともに第1空間に供給してもよい。
【0025】
低級炭化水素を分解して炭素および水素を生成させる反応を促進する触媒としては、Ni、Fe、Coなどを用い得るが、特に限定されない。Ni-Fe-Al系触媒を用いてもよい。これらにCeOを添加した触媒を用いてもよい。
【0026】
触媒をナノ粒子として利用する場合、例えば、気化(もしくは昇華)させることができる有機金属化合物を第1空間に供給すればよい。有機金属化合物は、第1空間内で分解し、金属ナノ粒子を生成する。例えば、気化させたフェロセン(C1010Fe)やニッケロセン(C1010Ni)を第1空間内に供給すると、これら有機金属化合物が分解し、鉄ナノ粒子やニッケルナノ粒子が生成する。これらのナノ粒子は、メタンなどの低級炭化水素からカーボンナノチューブなどの炭素と水素を生成する反応を促進する触媒として有用である。
【0027】
次、本発明の実施形態に係る低級炭化水素分解装置(以下、「分解装置A」とも称する。)について説明するが、本発明に係る方法は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0028】
分解装置Aは、分離膜反応器と、原料ガス供給部と、水素回収ラインと、炭素回収部と、を具備する。分離膜反応器は、第1空間を加熱するための加熱装置を具備してもよい。分離膜反応器の外壁は、例えばステンレス鋼(SUS)のような耐食性を有する金属で形成されている。
【0029】
分離膜反応器は、その内部に、非透過側の第1空間と、水素分離膜と、透過側の第2空間とを具備する。第1空間には、低級炭化水素と触媒とが導入され、触媒の作用により低級炭化水素が分解されて炭素および水素が生成する。原料ガス供給部は、第1空間に低級炭化水素を供給する。水素回収ラインは、第1空間から水素分離膜を透過して第2空間に移動した水素を第2空間から引き抜く。炭素回収部は、第1空間で生成した炭素を回収する。
【0030】
分解装置Aは、第1空間に触媒としてナノ粒子を供給する触媒供給部を具備してもよい。ナノ粒子は、第1空間の鉛直方向における上方から第1空間に供給することが望ましい。ナノ粒子が上方から下方へ移動する間に、ナノ粒子の触媒作用により、低級炭化水素が分解されて炭素および水素が生成する。炭素とナノ粒子は、第1空間の鉛直方向における下方に沈降する。沈降した炭素とナノ粒子は容易に回収できる。なお、触媒供給部は、ナノ粒子自体を供給してもよく、分離膜反応器の内部でナノ粒子を生成する触媒原料を供給してもよい。
【0031】
次に、図面を参照しながら、分解装置Aについて説明する。図1は、分解装置Aの構成を示すブロック図である。図2は、分解装置Aの変形例の構成を示すブロック図である。
【0032】
図1に示す分解装置A100は、縦長の筒状の分離膜反応器10と、分離膜反応器10の鉛直方向における下端部に位置する排出部30と、分離膜反応器10の鉛直方向における上方もしくは上端部に位置する導入部50とを具備する。分離膜反応器10は、その内部に、水素分離膜11を具備する。水素分離膜11は、中空を有する筒状のセラミックス製の多孔質支持体の外表面に形成されている。分離膜反応器10の外壁と水素分離膜11とで区画される空間が非透過側の第1空間S1である。多孔質支持体の中空の空間が透過側の第2空間S2である。図1では、第1空間に、球体の担体と担体に担持された触媒からなる流動粒子Pが予め充填されている。
【0033】
反応器10の鉛直方向における下方には、原料ガス供給部13が設けられている。原料ガス供給部からは任意のタイミングと流量で、メタンなどの低級炭化水素反が分離膜反応器10の内部へ導入される。分離膜反応器10の内部では、触媒の活性作用により、メタン等の直接分解反応が進行し、炭素(固体)と水素が発生する。第1空間S1で生成した水素は分離膜11を通過して第2空間S2に移動した後、分離膜反応器10の外部の水素回収ライン12を通過して回収される。これにより、効率的に高濃度水素を回収できる。一方、未反応の低級炭化水素は、別の所定の経路(図示せず)を経て、分離膜反応器10の外部に放出されるか、もしくは、回収されて、再度、原料ガス供給部13から分離膜反応器10へと循環される。
【0034】
排出部30からは、連続的または間欠的に、反応器10の内部から流動粒子Pと炭素との混合物が取り出される。同様に、導入部50からは、連続的または間欠的に、反応器10の内部に再生された流動粒子Pが導入される。このような操作を継続的に行うことで、分離膜反応器10の内部では流動粒子Pが自重により上方から下方へ流動する。排出部30から回収された流動粒子Pと炭素の混合物は、分離部40で炭素と流動粒子Pとに分離される。分離された炭素は、炭素回収部20に回収される。流動粒子Pは再利用に供される。
【0035】
図2に示す分解装置B200は、縦長の筒状の分離膜反応器10と、分離膜反応器10の鉛直方向における下端部に位置する排出部30と、分離膜反応器10の鉛直方向における上方もしくは上端部に位置する原料ガス供給部13とを具備する。原料ガス供給部13には触媒供給部14が併設されている。分離膜反応器10は、その内部に、図1に示す分解装置A100と同様に、非透過側の第1空間S1、筒状のセラミックス製の多孔質支持体の外表面に形成された水素分離膜11、多孔質支持体の中空の空間である透過側の第2空間S2を具備する。図2では、第1空間に流動粒子Pは充填されていない。
【0036】
触媒供給部14から、任意のタイミングと流量で、原料ガス供給部13に気化させた触媒原料(例えば、気化させたフェロセン)が供給される。原料ガス供給部13からは、任意のタイミングと流量で、メタンなどの低級炭化水素と触媒原料との混合ガスが分離膜反応器10の内部へ導入される。
【0037】
触媒原料がフェロセンの場合、分離膜反応器10の内部でフェロセンが分解して鉄ナノ粒子Fが触媒として生成する。すなわち、触媒供給部14は、第1空間に鉄ナノ粒子を供給する。鉄ナノ粒子の活性作用により、メタン等の直接分解反応が進行し、炭素Cと水素が発生する。
【0038】
反応は、触媒(もしくは触媒と炭素の結合体)が自重により下方へ移動しながら進行する。第1空間S1で生成した水素は分離膜11を通過して第2空間S2に移動した後、分離膜反応器10の外部の水素回収ライン12を通過して回収される。排出部30からは、分離膜反応器10の下方に沈降した炭素Cと鉄ナノ粒子Fとの混合物が取り出され、炭素回収部20に回収される。
【0039】
次に、実施例に基づいて、本発明の低級炭化水素分解方法について、更に具体的に説明する。
【0040】
≪実施例1≫
図1に類似の分離膜反応器を組み立てた。分離膜反応器の外壁は、ステンレス鋼製で、内径28mmの筒状であり、内容積187.7mLである。分離膜反応器の内部には、筒状の多孔質基材(株式会社ニッカトー製、内径6.80mm)の外表面に形成された水素分離膜を配置した。第1空間S1の容積は概ね164~173mLである。
【0041】
反応温度を500℃、550℃または600℃に設定して、第1空間S1にメタンを60cm3/分の流量で供給し、メタンの分解による水素生成の転化率および水素純度を測定した。実験条件は下記の通りである。反応で生成した水素の流量は、石鹸膜流量計で測定し、第2空間S2から引き抜かれたガス組成は、ガスクロマトグラフィで測定した。結果を表1、2に示す。
【0042】
水素分離膜:パラジウム膜
水素分離膜の水素透過率:3.6×10-6mol/(m・s・Pa)
膜面積:約9.42cm
第1空間S1の圧力:200kPa、300kPaまたは400kPa
触媒の種類:Ni-Fe-Al系
触媒量:直径3.0mmのα-アルミナの球体(58.199g)の表面に触媒約0.2887gを担持
分離膜反応器内の触媒の充填高さ:約6cm
触媒の還元条件:600℃、H=200cm3/分で2.5時間
第1空間S1の温度:500℃、550℃または600℃
【0043】
【表1】
【0044】
【表2】
【0045】
表1、2より、パラジウム膜反応器を用い、透過側の水素を引き抜くことで、転化率が最大で約81%となり、圧力100kPaでの平衡転化率49%(理論値)を大きく超える値となることが理解できる。また、温度が低い500℃や550℃でも平衡転化率を大きく超えている。更に、圧力が高くなるにしたがって転化率が向上している。これは、非透過側の圧力の向上により、水素の引き抜き効果が顕著に向上するためと考えられる。水素の純度は、転化率が大きかった600℃、400kPaでの反応で約95%であった。
【0046】
≪実施例2≫
実験条件を下記のように設定したこと以外、実施例1と同様の実験を行い、メタンの分解による水素生成の転化率および水素純度を測定した。結果を表3、4に示す。
【0047】
水素分離膜:シリカ膜
水素分離膜の水素透過率:5.1×10-7mol/(m・s・Pa)
膜面積:約14.13cm
第1空間S1内の圧力:200kPa、300kPaまたは400kPa
触媒の種類:Ni-Fe-Al系
触媒量:直径3.0mmのα-アルミナの球体(87.6061g)の表面に触媒約0.4233gを担持
分離膜反応器内の触媒の充填高さ:約9cm
触媒の還元:600℃、H=200cm3/分で2.5時間
第1空間S1の温度:500℃、550℃または600℃
【0048】
【表3】
【0049】
【表4】
【0050】
表3、4より、シリカ膜反応器を用い、透過側の水素を引き抜くことで、転化率が最大で約66%となり、パラジウム膜反応器に比べて低いものの、高い転化率が得られることが理解できる。また、圧力が高くなるにしたがって転化率が向上している。水素の純度は、転化率が大きかった600℃、400kPaでの反応で約90%であった。
【0051】
≪比較例1≫
反応器の内部に水素分離膜を配置せず、反応器内で生成したガスを分析した。また、実験条件を下記のように設定したこと以外、実施例1と同様の実験を行い、メタンの分解による水素生成の転化率および水素純度を測定した。結果を表5、6に示す。
【0052】
反応器内の圧力:200kPa、300kPaまたは400kPa
触媒の種類:Ni-Fe-Al系
触媒量:直径3.0mmのα-アルミナの球体(57.8410g)の表面に触媒約0.2883gを担持
反応器内の触媒の充填高さ:約6cm
触媒の還元:600℃、H=200cm3/分で2.5時間
反応器内の温度:500℃、550℃または600℃
【0053】
【表5】
【0054】
【表6】
【0055】
表5、6は、水素分離膜のない触媒反応器では、転化率が最大で約30%であり、100kPaでの平衡転化率49%(理論値)よりも小さい値となっている。また、圧力が高くなるにしたがって、転化率が低下している。これは、メタンの直接分解により水素を生成する反応式はガスのモル数が増加する反応であり、ル・シャトリエの法則にしたがうためである。すなわち、圧力が高くなると反応式の平衡が左にシフトして反応が進行しにくくなるためと考えられる。水素の純度は、転化率が大きかった600℃、200kPaでの反応で約45%であった。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明に係る方法および装置は、例えば、低級炭化水素(特にメタン)の直接分解反応により、水素を生成させるシステムにおいて有用である。本発明は、食品工場、下水処理場などで排出されるメタンガス(バイオガス)を原料ガスとして水素を製造することができる。また、生成する炭素は、カーボンブラック、カーボンナノチューブ(CNT)などの有用物質である。
【符号の説明】
【0057】
100,200:低級炭化水素分解装置
10:反応器
11:水素分離膜
12:水素回収ライン
13:原料ガス供給部
14:触媒供給部
20:炭素回収部
30:排出部
40:分離部
50:導入部
P:流動粒子
C:炭素
F:鉄ナノ粒子
S1:非透過側空間
S2:透過側空間


図1
図2