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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022116761
(43)【公開日】2022-08-10
(54)【発明の名称】金属酸化物単結晶製造装置
(51)【国際特許分類】
   C30B 11/00 20060101AFI20220803BHJP
   C30B 29/16 20060101ALI20220803BHJP
【FI】
C30B11/00 Z
C30B29/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021013100
(22)【出願日】2021-01-29
(71)【出願人】
【識別番号】000236687
【氏名又は名称】不二越機械工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001726
【氏名又は名称】特許業務法人綿貫国際特許・商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】干川 圭吾
(72)【発明者】
【氏名】太子 敏則
(72)【発明者】
【氏名】小林 拓実
(72)【発明者】
【氏名】大塚 美雄
(72)【発明者】
【氏名】大葉 悦子
【テーマコード(参考)】
4G077
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077BB10
4G077CD02
4G077EA01
4G077EA07
4G077EG02
4G077EG18
4G077EG19
4G077EG21
4G077EG25
4G077EG26
4G077MA02
4G077MB04
4G077MB21
4G077MB22
4G077MB24
4G077MB35
(57)【要約】
【課題】酸化雰囲気の高温炉内において生成される、窒素酸化物に例示される有害物質の炉の周囲への拡散を防止可能とした金属酸化物単結晶製造装置を提供する。
【解決手段】本発明に係る金属酸化物単結晶製造装置10は、酸化雰囲気下において、炉14内が1500℃以上の温度で加熱される金属酸化物単結晶製造装置10であって、炉14内を加熱する発熱体34と、前記炉14における下部側に設けられ、前記炉14の内外を連通する吸気管24と、前記炉14における上部側に設けられ、前記炉14の内外を連通する排気管26と、前記炉14よりも上方に設けられたダクト36と、前記ダクト36の途中に設けられた排気ファン38および有害物質除去装置40と、を備えている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化雰囲気下において、炉内が1500℃以上の温度で加熱される金属酸化物単結晶製造装置であって、
炉内を加熱する発熱体と、
前記炉における下部側に設けられ、前記炉の内外を連通する吸気管と、
前記炉における上部側に設けられ、前記炉の内外を連通する排気管と、
前記炉よりも上方に設けられたダクトと、
前記ダクトの途中に設けられた排気ファンおよび有害物質除去装置と、を備えていること
を特徴とする金属酸化物単結晶製造装置。
【請求項2】
前記排気管の上端部と前記ダクトの下端部とが、離間して且つ対向して設けられていること
を特徴とする請求項1記載の金属酸化物単結晶製造装置。
【請求項3】
前記炉の上方および側方を囲む囲い部をさらに備え、
前記囲い部の上部に設けられた開口部に前記ダクトの下端部が連結されていること
を特徴とする請求項1または請求項2記載の金属酸化物単結晶製造装置。
【請求項4】
前記発熱体は、抵抗加熱発熱体または高周波誘導加熱による発熱体であること
を特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の金属酸化物単結晶製造装置。
【請求項5】
前記炉は、垂直ブリッジマン炉であること
を特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の金属酸化物単結晶製造装置。
【請求項6】
前記金属酸化物は、酸化ガリウムであること
を特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の金属酸化物単結晶製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸化物単結晶製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属酸化物単結晶製造装置として、酸化ガリウムの単結晶の製造装置が知られている(以下、「金属酸化物単結晶製造装置」および「酸化ガリウムの単結晶の製造装置」を、単に「装置」と表記する場合がある。また、「酸化ガリウムの単結晶」を、単に「酸化ガリウム結晶」と表記する場合がある)。
【0003】
特許文献1(特開2017-193466号公報)に記載されている酸化ガリウム結晶の製造装置においては、大気雰囲気の結晶育成炉(以下、単に「炉」と表記する場合がある)内に配置されたるつぼを抵抗加熱発熱体または高周波誘導加熱発熱体により加熱し、るつぼに収容された酸化ガリウムの原料(結晶原料)を溶融させ、原料融液を結晶化させる。結晶育成法としては、VB法(垂直ブリッジマン法)、VGF法(垂直温度勾配凝固法)、HB法(水平ブリッジマン法)、HGF法(水平温度勾配凝固法)、CZ法(チョクラルスキー法)、EFG法等が適用可能であるが、これらいずれの方法を用いる場合も結晶原料を加熱して溶融させる必要がある。酸化ガリウムの融点は約1800[℃]程度(例えば、β-Gaは約1795[℃])であり、酸化ガリウム結晶の製造装置における炉は、炉内が1800[℃]以上に加熱される高温炉となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-193466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1記載の酸化ガリウム結晶の製造装置に例示されるような、酸化雰囲気(ここでは、酸素等の酸化性のガスを含む雰囲気を意味し、酸素雰囲気および大気雰囲気を含む)の高温炉(ここでは、約1500[℃]以上で加熱される炉を意味する)を備えた金属酸化物単結晶製造装置を動作させて炉内を加熱した場合、加熱による高温条件下で発熱体が発する光が作用すること等により、炉内の窒素と酸素とが結合した窒素酸化物(NO)、その他の有害物質が生成されることがある。仮にこうした有害物質が炉の周囲(例えば、炉が配置された室内)に拡散した場合、窒素酸化物であれば、炉の周囲において不快な臭気を生じさせ、高濃度になると健康に悪影響を与えるおそれがあった。また、電装部の金属端子等の装置部品を腐食させ、装置が正常に動作しなくなることにより結晶品質が低下するおそれもあった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされ、酸化雰囲気の高温炉内において生成される、窒素酸化物に例示される有害物質の炉の周囲への拡散を防止可能とした金属酸化物単結晶製造装置を提供することを目的とする。
【0007】
本発明は、一実施形態として以下に記載するような解決手段により、前記課題を解決する。
【0008】
本発明に係る金属酸化物単結晶製造装置は、酸化雰囲気下において、炉内が1500℃以上の温度で加熱される金属酸化物単結晶製造装置であって、炉内を加熱する発熱体と、前記炉における下部側に設けられ、前記炉の内外を連通する吸気管と、前記炉における上部側に設けられ、前記炉の内外を連通する排気管と、前記炉よりも上方に設けられたダクトと、前記ダクトの途中に設けられた排気ファンおよび有害物質除去装置と、を備えていることを特徴とする。
【0009】
これによれば、排気ファンを動作させて炉内から流出するガスをダクト内に積極的に引き込み、有害物質除去装置によって含有する有害物質を除去したうえで、所定の場所へ排出できる。したがって、炉内で生成される有害物質の炉の周囲への拡散を防止できる。
【0010】
また、前記排気管の上端部と前記ダクトの下端部とが、離間して且つ対向して設けられていることが好ましい。これによれば、排気管から排出される炉内のガスを、排出方向と軸を一致させて開口するダクト内へと導いて引き込むことができる。したがって、炉内から流出するガスの殆どを漏らすことなくダクト内へ流入させて除去することができる。
【0011】
また、前記炉の上方および側方を囲む囲い部をさらに備え、前記囲い部の上部に設けられた開口部に前記ダクトの下端部が連結されていることが好ましい。これによれば、炉の側方を囲むことで、炉に形成された隙間等の排気管以外のところから炉外へ流出するガスの周囲への拡散を防止できる。また、炉の上方を囲むことで、排気管から排出される炉内のガスの拡散をより確実に防止できる。
【0012】
また、前記発熱体を、抵抗加熱発熱体または高周波誘導加熱による発熱体とすることができる。
前記炉を、垂直ブリッジマン炉とすることができる。
前記金属酸化物を、酸化ガリウムとすることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、酸化雰囲気の高温炉内において生成される有害物質の炉の周囲への拡散を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態に係る金属酸化物単結晶製造装置の例を示す概略図(垂直断面図)である。
図2】試験1係る酸化ガリウム結晶の製造装置の写真である。
図3】試験2の結果を示すBTB溶液の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について詳しく説明する。本実施形態に係る金属酸化物単結晶製造装置は、酸化雰囲気下において、炉内が1500[℃]以上の温度で加熱される金属酸化物単結晶製造装置である。ここでいう「炉内が1500[℃]以上の温度で加熱される」という条件は、必ずしも炉内全体が1500[℃]以上に達する必要はなく、炉内のいずれかに1500[℃]以上に達する温度領域が形成されていればよい(本文中の同様の表現についても同じ)。例えば、垂直ブリッジマン法は、炉内に垂直の温度勾配を形成し、原料融液を垂直方向に結晶化させる方法であり、結晶育成炉における炉内の温度分布は一様でないことがある。
【0016】
図1は、本実施形態に係る金属酸化物単結晶製造装置10の例を示す概略図(垂直断面図)であって、具体的には、酸化ガリウム結晶の製造装置10を示している。以下、金属酸化物単結晶製造装置10として、当該酸化ガリウム結晶の製造装置10を例に説明する。
【0017】
図1に示す酸化ガリウム結晶の製造装置10は、内部が加熱されて酸化ガリウム結晶が育成される炉14(垂直ブリッジマン法が適用される垂直ブリッジマン炉)、および炉14の動作を制御する制御部(不図示)を内蔵する電装部11を備えている。炉14は、基体12上に設けられ、耐熱材からなる複数の分割片(不図示)が接合されて所要高さを有するリング状に形成されたリング部材14aが鉛直方向に複数層に積層されて筒状をなすことによって内部に炉空間15が形成されている。炉空間15の底面には、炉14の中心軸に沿って凹んだ凹部15aが形成されている。以下、理解し易いように、「炉14内」を適宜「炉空間15」と表記するが、炉14内と炉空間15とは同じ領域を示している。
【0018】
また、炉14の中心軸に沿って基体12を貫通すると共に凹部15aを経て炉空間15の中央高さ付近まで上下方向に延設されるるつぼ受軸16が設けられている。るつぼ受軸16は、駆動機構(不図示)により上下動可能(矢印A参照)且つ軸回転可能(矢印B参照)に構成されている。
【0019】
また、るつぼ受軸16の上端には、るつぼ22を支持するアダプタ20が設けられており、アダプタ20上にるつぼ22が配置される。るつぼ受軸16およびアダプタ20の内部には熱電対18が配設され、るつぼ22の温度が計測可能となっている。酸化ガリウム(β-Ga)結晶育成用るつぼ22としては、Rh含有量が10[wt%]~30[wt%](より好適には10[wt%]~20[wt%])のPt-Rh合金や、Ir含有量が20[wt%]~30[wt%]のPt-Ir合金等のPt系合金製のるつぼ22を好適に使用できる。
【0020】
なお、凹部15aの底面から中央高さ付近までるつぼ受軸16の周囲は耐熱材からなるリング部材14aにより囲まれて、炉14の下部が断熱される構成となっている。炉14の内外にるつぼ22を出し入れする際には、凹部15aに設けられたリング部材14aを下方から取外して、凹部15aの底部からるつぼ22をるつぼ受軸16ごと出し入れすればよい。
【0021】
また、基体12を貫通して凹部15aに開口し、炉14の内外を連通する吸気管24が設けられている。また、炉14の中心軸に沿って炉14の上部を貫通して、炉14の内外を連通する排気管26が設けられている。これによって、炉14内が大気雰囲気になるように構成されているが、炉14内の加熱中に、例えば、吸気管24からの大気の流入量等を調整して炉14内の雰囲気(例えば、酸素濃度)を調整してもよい。また、吸気管24から積極的に所定の種類のガス(例えば、酸素)を導入して炉14内を所定の雰囲気(例えば、酸素雰囲気)に調整してもよい。なお、吸気管24は炉14における下部側に設けられ、排気管26は炉14における上部側に設けられていればよく、吸気管24および排気管26の位置は限定されない。
【0022】
また、炉空間15には、るつぼ22およびるつぼ受軸16を囲む炉心管28、および炉心管28を囲む炉内管30が設けられ、炉心管28と炉内管30との間に発熱体34が設けられている。
【0023】
炉心管28は、凹部15aの底面から炉空間15の最上面まで延設されると共に上部には天板28aが設けられて、るつぼ22およびるつぼ受軸16の側方および上方を囲んでいる(ただし、排気管26の下端が天板28aを貫通して、炉14内(炉心管28内)に開口している)。炉心管28によれば、るつぼ22と発熱体34とを隔離することができる。したがって、仮に高温により発熱体34の一部等が熔解した場合でも、るつぼ22の中(酸化ガリウム結晶の中)への当該熔解物の混入を防止できる。
【0024】
また、炉内管30は、炉空間15の底面から最上面まで延設されて炉心管28の中央高さ付近から上部までの側方を囲んでいる。炉空間15の底面にはリング状の支持部材32が設けられて、炉内管30を支持している。炉内管30によれば、発熱体34と炉空間15の外壁を構成するリング部材14aとの間を遮断して、高温によるリング部材14aの焼結や変形やひび割れを防止できる。また、発熱体34の熱を炉心管28側へ反射して炉空間15を加熱でき、熱を無駄なく利用できる。炉心管28および炉内管30も、リング部材14aと同様に耐熱材からなる。
【0025】
また、発熱体34は、通電されることにより発熱する抵抗加熱発熱体であって、図1に示すように、先端側の発熱部34aが炉14内で鉛直方向に延設されると共に、基部側の導電部34bが水平方向に屈曲して炉14の側部を貫通して炉14外で外部電源(不図示)に接続されている。ただし、導電部34bを屈曲させることなくそのまま鉛直方向に延設して炉14の上部を貫通させる構成としてもよい(不図示)。また、発熱体34は、炉14の中心軸上に位置するるつぼ22の周囲を、炉心管28を隔てて円形に囲むようにして複数配設されている(図1には2個を示したが、発熱体34の数は限定されない)。以上の構成によって、炉14内において、るつぼ22周辺に、上部側の温度が高く、下部側の温度が低くなるような垂直方向の温度勾配を形成することが可能になっている。酸化ガリウム(β-Ga)結晶育成用抵抗加熱発熱体としては、先端がU字状に形成されたMoSiからなる発熱体34を好適に使用できる。
【0026】
一方、発熱体34を、高周波誘導による発熱体としてもよい。この場合、炉14の外周に高周波コイルを設けると共に、炉空間15においてるつぼ22の周囲を囲むようにして上部が閉塞された円筒状の発熱体を設けるとよい。酸化ガリウム(β-Ga)結晶育成用の高周波誘導による発熱体としては、Rh含有量が10[wt%]~30[wt%]のPt-Rh合金等のPt系合金製であって、全面にジルコニアコートを施してある発熱体を好適に使用できる(高周波誘導による発熱体に係る構成はいずれも不図示)。
【0027】
以上の構成を備える酸化ガリウム結晶の製造装置10は、一例として、以下のようにして、垂直ブリッジマン法を適用して酸化ガリウム(例えば、β-Ga)結晶を製造することができる。先ず、るつぼ22の底部に種結晶を収容し、当該種結晶の上に酸化ガリウムの原料(結晶原料)を収容する。次に、当該るつぼ22をるつぼ受軸16(アダプタ20)上に載置し、発熱体34により炉14内(るつぼ22)を約1800[℃]で加熱して結晶原料を融解させる。そして、炉14内におけるるつぼ22周辺に、上側の温度が高く、下側の温度が低くなるような垂直方向の温度勾配を形成し、るつぼ22をるつぼ受軸16を介して下降させる。これによって、原料融液が冷却することによる固化現象を利用して、種結晶を起点に当該原料融液を下側から結晶成長させていくことができる。
【0028】
続いて、本実施形態に特徴的な炉14内で生成された有害物質を含むガスの拡散防止に関する機構について説明する。ここでいう「有害物質」とは、酸化雰囲気の高温炉において生成され、例えば不快な臭気や金属の腐食性を有し、環境、人体、装置10、または結晶品質のいずれかに悪影響を及ぼす物質を意味し、具体的には、窒素酸化物(NO)等に例示される。
【0029】
先ず、本実施形態に係る酸化ガリウム結晶の製造装置10は、炉14よりも上方にダクト36を備えている。これによれば、炉14内から流出するガスをダクト36内を通流させて所定の場所へ排出できる。
【0030】
また、ダクト36の途中には排気ファン38および有害物質除去装置40を備えている。これによれば、排気ファン38を動作させて炉14内から流出するガスをダクト36内に積極的に引き込み、有害物質除去装置40によって含有する有害物質を除去したうえで、所定の場所へ排出できる。したがって、炉14内で生成される有害物質の炉14の周囲への拡散を防止できる。
【0031】
図1では、ダクト36における、上流側に排気ファン38、下流側に有害物質除去装置40が配設されているが、逆に、上流側に有害物質除去装置40、下流側に排気ファン38が配設されてもよい。また、排気ファン38および有害物質除去装置40はそれぞれ複数配設されてもよい。
【0032】
また、排気ファン38としては特に限定されず、排気機能を有する公知のファンを用いればよい、一例として、シロッコファン、斜流ファン、ターボファン等が挙げられる。
【0033】
また、有害物質除去装置40としては特に限定されず、有害物質の種類に応じてそれぞれの物質を除去する機能を有する公知の装置を用いればよい。ここで、有害物質の除去方法として、一般的には、有害物質を捕捉もしくは吸収する方法、希釈して無害にする方法、化学的に分解したり、無害な物質に変化させる方法等が知られている。より具体的に、例えば、窒素酸化物(NOx)の除去方法としては、乾式法および湿式法が知られている。乾式法の例としては、窒素酸化物(NOx)にアンモニア等の還元性ガスを加え、触媒作用によって窒素(N)にまで還元する方法が知られている。湿式法の例としては、窒素酸化物(NOx)をアルカリや酸の水溶液に通して吸収する方法が知られている。有害物質除去装置40としては、こうした方法により有害物質を除去する機能を有する各種の装置を適宜用いればよい。
【0034】
また、ダクト36の下端部36aは、炉14における排気管26の上端部26aに離間して且つ対向して設けられている。これによれば、排気管26から排出される炉14内のガスを、排出方向と軸を一致させて開口するダクト36内へと導いて引き込むことができる。したがって、炉14内から流出するガスの殆どを漏らすことなくダクト36内へ流入させて除去することができる。
【0035】
一方、ダクト36と排気管26とを直接接続する構成の方が、炉14内のガスをより確実にダクト36内へ流入可能にはなる。しかしながら、当該構成では、炉14内の雰囲気の調整(例えば、ガスの種類、濃度、流量等の調整)が困難になる。また、排気ファン38の作用によって吸気管24から炉14内へ流入するガス量が増加し、炉14内の温度の調整(例えば、温度勾配の形成)も困難になる。その結果、結晶品質が低下するおそれがある。
【0036】
これに対して、本実施形態によれば、ダクト36の下端部36aと排気管26の上端部26aとを対向させることで、ダクト36と排気管26とを離間させながらも、排気管26から排出される炉14内のガスを拡散させることなくダクト36内へ流入させることができる。さらに、炉14内の雰囲気および温度分布に悪影響が及ぶこともなく、且つこれらの制御が可能であるため、結晶品質が低下することもない。
【0037】
ここで、炉空間15において、発熱体34の周辺領域は、最も高温になることから、有害物質が生成され易い領域であると考えられる。一方、図1に示すように、排気管26が開口している炉空間15と、発熱体34が配設されている炉空間15とは、炉心管28によって隔離されていることから、発熱体34の周辺領域のガスが、排気管26を介して排出され難い構成となっている。
【0038】
これに対して、本実施形態では、炉14の上方および側方を囲む囲い部42をさらに備え、囲い部42の上部に設けられた開口部42aにダクト36の下端部36aが連結されている。これによれば、炉14の側方を囲むことで、炉14に形成された隙間(例えば、発熱体34(抵抗加熱発熱体)の導電部34bが炉14を貫通して炉14外の外部電源に接続される場合の導電部34bと炉14を構成する断熱材との隙間)等の排気管26以外のところから炉14外へ流出するガスの周囲への拡散を防止できる。このようなガスは、主として、前述の排気管26を介して排出され難い、発熱体34の周辺領域のガスであり、囲い部42によれば、当該ガスに含まれる有害物質の拡散を防止することが可能になる。また、炉14の上方を囲むことで、排気管26から排出される炉14内のガスの拡散をより確実に防止できるようになる。
【0039】
なお、囲い部42を、炉14の上方および側方に加えて、炉14の下方も囲む構成としてもよい。これによれば、炉14に形成された隙間等の排気管26以外のところから炉14外へ流出するガスの周囲への拡散をより確実に防止できる。
【0040】
また、囲い部42は、金属やガスバリア性を有する合成樹脂等の、ガスバリア性材料を用いて、板体またはシート体に形成すればよい。ガスバリア性材料で全体を形成してもよく、またはそれ以外の材料にガスバリア性材料でコーティングしてガスバリア層を形成させてもよい。
【実施例0041】
(試験1)
本実施形態に係る酸化ガリウム結晶の製造装置10(垂直ブリッジマン炉)において、β-Ga結晶の育成を行い、育成中の炉14の上方および周囲のガス環境を測定した。図2に当該酸化ガリウム結晶の製造装置10の写真を示す(図2(a)は正面の写真、図2(b)は上部の写真)。
結晶育成に関し、発熱体34は抵抗加熱発熱体とし、炉14内の雰囲気は、酸化雰囲気下において、β-Ga結晶を育成するうえで適した雰囲気に適宜調整した。
炉14内のガスの排気に関し、囲い部42は、図2に示すように、スチール製の板体として、炉14の側方だけを囲む構成とした。
【0042】
測定方法は、所定の地点のガスを採取し、測定器により各種の有害物質の濃度を測定した。
ガス採取時の温度条件は、室温:26.15[℃]、発熱体温度:1816.70[℃]、1817.85[℃](複数配設される発熱体34のうち2個を測定)、炉内温度:1783.55℃[℃]、1779.55[℃](るつぼ22における2地点を測定)であった。
ガスの採取点(測定点)は、図2に丸印で示すように、「炉14の上面上における排気管26が配設されていない位置」(測定点1)、および「炉14に隣設される電装部11の上面上の位置」(測定点2)の2箇所とした。
測定器は、ガステック製の気体採取器セットGV-100S(商品名)を用いた。結果を表1に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
炉14の上方(測定点1)からは二酸化窒素(NO)が2[ppm]検出されたが、その他の有害物質はいずれも検出されなかった。このことから、酸化雰囲気下において、約1800[℃](β-Gaの融点は約1795[℃])の高温で加熱された炉14から、少なくとも有害物質である二酸化窒素(NO)が生成されたことが示された。しかしながら、検出された濃度は2[ppm]とごく微量であったことから、本実施形態に係る排気機構(特に、ダクト36および排気ファン38)によって殆どの二酸化窒素が除去されたことが示された。
【0045】
一方、炉14の周囲(測定点2)からは二酸化窒素(NO)をはじめ、各種の有害物質はいずれも検出されなかった。このことから、炉14内で生成される有害物質を含むガスの炉14の周囲への拡散が確実に防止されていることが示された。
【0046】
(試験2)
本実施形態に係る排気機構(ダクト36、排気ファン38、有害物質除去装置40、および囲い部42)を備えていない、従来の酸化ガリウム結晶の製造装置(垂直ブリッジマン炉)における、稼働炉および未稼働炉の周囲のガス環境を調査した。
【0047】
本試験では、試験1の測定点2と同位置である「炉14に隣設される電装部11の上面上の位置」にBTB(bromothymol blue)溶液を入れたスチロール容器を載置した。
「稼働炉」では載置後に試験1と同様にしてβ-Ga結晶の育成を行った。一方、「未稼働炉」では装置を稼働させずにそのまま放置した。
そして、それぞれの載置後48時間後のBTB溶液の色変化を目視により確認した。なお、載置時のBTB溶液は中性を示す緑色であった。
【0048】
結果の写真を図3に示す(ただし、試験中はスチロール容器の蓋は開いていた)。図3の(a)が「未稼働炉」、(b)が「稼働炉」である。
図3に示すように、「未稼働炉」ではBTB溶液の色変化はなく、緑色(中性)のままであったのに対して、「稼働炉」ではBTB溶液が黄色に変化し、酸性を示した。このことから、結晶育成に伴う炉の高温加熱により酸化性ガスが生成されたことが示された。そして、本実施形態に係る排気機構(ダクト36、排気ファン38、有害物質除去装置40、および囲い部42)を備えていない従来の装置では、当該酸化性ガスが炉の周囲に拡散し、BTB溶液を酸性に変化させたことが示された。なお、試験1の結果も考慮すると、本試験の「稼働炉」で生成された酸化性ガスは、二酸化窒素(NO)に例示される窒素酸化物(NOx)と推測された。
【符号の説明】
【0049】
10 金属酸化物単結晶製造装置(酸化ガリウム結晶の製造装置)、11 電装部、12 基体、14 結晶育成炉(炉)、15 炉空間、16 るつぼ受軸、20 アダプタ、22 るつぼ、24 吸気管、26 排気管、28 炉心管、30 炉内管、34 発熱体、36 ダクト、38 排気ファン、40 有害物質除去装置、42 囲い部
図1
図2
図3