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  • 特開-開繊機構 図1
  • 特開-開繊機構 図2
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  • 特開-開繊機構 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022116765
(43)【公開日】2022-08-10
(54)【発明の名称】開繊機構
(51)【国際特許分類】
   D02J 1/18 20060101AFI20220803BHJP
【FI】
D02J1/18 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021013108
(22)【出願日】2021-01-29
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】特許業務法人SSINPAT
(72)【発明者】
【氏名】岩田 利生
(72)【発明者】
【氏名】鳥越 翼
【テーマコード(参考)】
4L036
【Fターム(参考)】
4L036AA01
4L036PA09
4L036PA45
4L036UA21
4L036UA25
(57)【要約】      (修正有)
【課題】品質を劣化させずに繊維束を開繊することができる開繊機構を提供する。
【解決手段】繊維束を開繊する開繊機構であって、繊維束32の開繊作用を行なうための複数本の開繊バー6を備え、複数本の開繊バー6には、繊維束32が当接する凸状部62が形成された凸開繊バー6aと、繊維束32が当接する凹状部64が形成された凹開繊バー6bとの二種類が含まれ、繊維束32は、凸開繊バー6aに形成された凸状部62と凹開繊バー6bに形成された凹状部64とに交互に当接しながら進行する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維束を開繊する開繊機構であって、
前記繊維束の開繊作用を行なうための複数本の開繊バーを備え、
複数本の前記開繊バーには、
前記繊維束が当接する凸状部が形成された凸開繊バーと、
前記繊維束が当接する凹状部が形成された凹開繊バーと
の二種類が含まれ、
前記繊維束は、前記凸開繊バーに形成された前記凸状部と前記凹開繊バーに形成された前記凹状部とに交互に当接しながら進行することを特徴とする開繊機構。
【請求項2】
前記凸状部の表面、および前記凹状部の表面は梨地に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の開繊機構。
【請求項3】
隣接する前記凸状部の中心同士および隣接する前記凹状部の中心同士の間隔は、20mm以上100mm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の開繊機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば、長繊維強化樹脂を製造する装置において、繊維束を開繊する際に用いられる開繊機構に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維で強化された樹脂として、長繊維強化熱可塑性樹脂が知られている。この長繊維強化熱可塑性樹脂は、繊維と熱可塑性樹脂から成る複合材料であり、熱可塑性樹脂の特性と繊維の強度や耐熱性が複合化され、さまざまな構造部材、耐熱部材に使用されている。
【0003】
従来より、かかる長繊維強化熱可塑性樹脂を製造する装置として、開繊機構(例えば、特許文献1参照)を備えた長繊維強化熱可塑性樹脂製造装置が知られている。
このような開繊機構において、一般的に開繊バーは、図3に示すように、所定の間隔をもって配置されている。そして、繊維束104は開繊バー102の上下に交互に当接しながら進行し、繊維束104と開繊バー102との間の摩擦によって開繊が促進される。その後、図4に示すように、含浸ダイ106において、溶融された熱可塑性樹脂108を繊維束104に含浸させる。
【0004】
このように、開繊バー102によって予め繊維束104を開繊させてから開繊機構に送り込むことにより、繊維束104に熱可塑性樹脂を十分に含浸させた連続繊維強化ストランド110を作成することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10-110346号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の開繊機構においては、繊維束104と開繊バー102との間の摩擦が強い場合には、繊維束104に毛羽が発生し易いという問題があった。また、従来の開繊機構においては、一旦繊維束104に割れが生じると解消されないため、その後の含浸工程において繊維束104に熱可塑性樹脂を十分に含浸させることができないという問題があった。
【0007】
本発明の目的は、品質を劣化させずに繊維束を開繊することができる開繊機構を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の開繊機構は、
繊維束を開繊する開繊機構であって、
前記繊維束の開繊作用を行なうための複数本の開繊バーを備え、
複数本の前記開繊バーには、
前記繊維束が当接する凸状部が形成された凸開繊バーと、
前記繊維束が当接する凹状部が形成された凹開繊バーと
の二種類が含まれ、
前記繊維束は、前記凸開繊バーに形成された前記凸状部と前記凹開繊バーに形成された前記凹状部とに交互に当接しながら進行することを特徴とする。
これにより、開繊工程で繊維束に割れを生じさせることなく均質にほぐすことができるため、繊維束の品質を劣化させずに繊維束を開繊することができる。
【0009】
また、本発明の開繊機構は、
前記凸状部の表面、および前記凹状部の表面は梨地に形成されていることを特徴とする。
これにより、梨地の微小な凹凸によって繊維の毛羽立ちを抑制するとともに繊維束の開繊と収束を促進することができる。
【0010】
また、本発明の開繊機構は、
隣接する前記凸状部の中心同士および隣接する前記凹状部の中心同士の間隔は、20mm以上100mm以下であることを特徴とする。
これにより、隣接する繊維束に適切な間隔を維持させることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、品質を劣化させずに繊維束を開繊することができる開繊機構を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施の形態に係る開繊機構を用いた長繊維強化熱可塑性樹脂製造装置の概略図である。
図2】実施の形態に係る開繊機構を上方から視た図である。
図3】従来の開繊機構を示す概略図である。
図4】従来の含浸ダイにおいて連続繊維強化ストランドを作成する状況を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。図1は、実施の形態に係る開繊機構を備えた装置の概略図である。本実施の形態においては、開繊機構を用いて長繊維強化熱可塑性樹脂製造装置を製造する場合を例に説明する。図1に示すように、長繊維強化熱可塑性樹脂製造装置2は、繰出機4、開繊機構5、押出機8、含浸ダイ10、賦形ダイ12、水槽14、フォーミングロール16、引取機18、カッター部20を備えている。
【0014】
ここで、繰出機4には、繊維束32が巻回された複数の炭素繊維ロービング4aが収納されている。また、繰出機4は、炭素繊維ロービング4aから繊維束32を繰り出すための繰出ロール4bを備えている。なお、繊維束32には、たとえば、ガラス繊維、炭素繊維などが用いられる。
【0015】
開繊機構5は、繰出ロール4bから繰り出された繊維束32を開繊する開繊工程を実行するためのロールバーである開繊バー6を複数備えている。開繊バーは、所定の間隔をもって配置され、繊維束32は開繊バー6の上下に交互に当接ながら進行し、繊維束32と開繊バー6との間の摩擦によって開繊が促進される。なお、開繊機構5の構造、作用については、後に詳しく説明する。
【0016】
押出機8は、溶融した熱可塑性樹脂を含浸ダイ10に供給する装置であり、含浸ダイ10は、開繊された繊維束32に溶融した熱可塑性樹脂を含浸する含浸工程を実行する装置である。かかる含浸工程において連続繊維強化ストランド34が作成される。なお、熱可塑性樹脂には、たとえば、ポリプロピレン、ポリアミドなどが用いられる。
【0017】
賦形ダイ12は、連続繊維強化ストランド34の径を絞るための装置であり、含浸ダイ10の連続繊維強化ストランド34が排出される側に取り付けられている。
水槽14は、賦形ダイ12で径が絞られた連続繊維強化ストランド34を水などの液体に浸し、冷却を行うための装置である。
【0018】
フォーミングロール16は、水槽14で冷却された連続繊維強化ストランド34の外径形状を成形するためのロールバーである。
引取機18は、連続繊維強化ストランド34を引き取る引取工程を実行するためのロールである。
【0019】
カッター部20は、引取機18で引き取った連続繊維強化ストランド34を所定の長さにカッティングするための装置である。このカッター部20で連続繊維強化ストランド34をカットすることにより、長繊維強化熱可塑性樹脂38が製造される。
【0020】
次に、本発明において長繊維強化熱可塑性樹脂製造装置2の要部を構成する開繊機構5について説明する。図2は実施の形態に係る開繊機構5を上方から視た図である。図2に示すように、開繊機構5の主要部分を構成する開繊バー6には、繊維束32が当接する凸状部62が軸方向に複数形成された凸開繊バー6aと、繊維束32が当接する凹状部64が軸方向に複数形成された凹開繊バー6bとの二種類が含まれ、凸開繊バー6aと凹開繊バー6bとは、繊維束32と直交して交互に配置されている。なお、図2においては、1本の凸開繊バー6a、1本の凹開繊バー6bに対して、それぞれ凸状部62、凹状部64が5か所設けられ、5本の繊維束32がこれらに当接する場合を例示している。また、凸状部62の表面部分と凹状部64の表面部分には、梨地になるように表面処理が施されている。なお、この表面処理は凸状部62、凹状部64に限らず、凸開繊バー6aと凹開繊バー6bの表面全体に施されていてもよい。また、表面処理は、凸状部62の表面部分と凹状部64の表面部分のいずれか一方に施されていても構わない。
【0021】
ここで、各々の開繊バー6の軸方向の長さは、200mm以上10,000mm以下、繊維束32は1,000本以上60,000本以下の繊維から成ることが望ましい。そして、凸開繊バー6aにおいて隣接する凸状部62の中心同士の間隔、および凹開繊バー6bにおいて隣接する凹状部64の中心同士の間隔は、20mm以上100mm以下であることが好ましいが、最低でも20mm以上の間隔は必要である。
【0022】
また、各々の開繊バー6の凸状部62や凹状部64が形成されていない非形成部分63の直径は、30mm以上50mm以下であることが好ましく、凸状部62の最大径は38mm以上87mm以下、凹状部64の最大径は12mm以上42mm以下であることが好ましい。
【0023】
また、軸方向における凸状部62および凹状部64の幅は、開繊前の繊維束32の2倍以上3倍以下であることが好ましい。すなわち、たとえば、開繊前の繊維束32の幅が10mmである場合には、凸状部62および凹状部64の幅は、20mm以上30mm以下であることが好ましく、開繊前の繊維束32の幅が30mmである場合には、凸状部62および凹状部64の幅は、60mm以上90mm以下であることが好ましい。
【0024】
なお、本実施の形態において、開繊前の繊維束32の幅は、0.5mm以上30mm以下、好ましくは8mm以上12mm以下であり、開繊後の繊維束32の幅は、1mm以上90mm以下、好ましくは16mm以上36mm以下であることを想定している。
【0025】
また、開繊バー6の軸方向における凸状部62および凹状部64の曲率は、それぞれ開繊前の繊維束32の幅の√2倍以上1.5×√2倍以下であるのが好ましい。そして、開繊バー6における凸状部62および凹状部64の最大高さおよび最大深さは、それぞれ開繊前の繊維束32の幅の(√2-1)倍以上1.5×(√2-1)倍以下であるのが好ましい。
【0026】
次に、開繊工程における開繊機構5の作用について説明する。まず、開繊工程において、繊維束32が開繊バー6に差し掛かると、繊維束32は、凸開繊バー6aの凸状部62および凹開繊バー6bの凹状部64に交互に当接しながら開繊され、含浸ダイ10に向かって進行する(図1参照)。
【0027】
具体的には、実施の形態のように、凸開繊バー6aが最も繰出機4側に位置する場合には、繊維束32は、まず凸開繊バー6aの凸状部62の上面に当接した後に凹開繊バー6bの凹状部64の下面に当接しながら進行することを繰り返す。このように、繊維束32を凸状部62と凹状部64に交互に当接させて進行させることにより、従来型の太さが均一の開繊バーを用いる場合に比べて開繊工程において繊維束32に生じる摩擦力を低減することができる。
【0028】
なお、繊維束32は、図1、2に例示するのとは反対に、凸状部62の下面、凹状部64の上面に当接しながら進行してもよい。
また、繊維束32が凸状部62に当接すると、繊維束32は、凸状部62が隆起していることによって幅方向に開かれ(ほぐされ)、繊維束32の開繊が凸状部62で促進される。この時、梨地の表面処理による微細な凹凸が凸状部62に施されていることにより、繊維束32と凸開繊バー6aの接触面積が少なくなり摩擦力が低減する。これにより開繊が促進されるとともに繊維切れ(毛羽の発生、より酷い場合は繊維束32破断)を抑制することが可能となる。
【0029】
一方、繊維束32が凹状部64に当接すると、繊維束32は、凹状部64が沈降していることによってその幅を狭められ、収束される。なお、凹状部64に当接した繊維束32は、凹状部64の表面部分に梨地の表面処理がなされていることにより、その微細な凹凸によって摩擦力が低減し、繊維束32の収束が促進される。
【0030】
この実施の形態に係る発明によれば、凸開繊バー6aと凹開繊バー6bとを交互に配置し、凸状部62で繊維束32を開き、凹状部64で収束させることを繰り返すことにより、開繊工程で繊維束32に割れを生じさせることなく均質にほぐすことができる。また、凸状部62で繊維束32を開き、凹状部64で収束させることを繰り返すことにより、摩擦力が強すぎることによって毛羽が生じることを抑制できる。このため、繊維束32の品質を劣化させずに繊維束32を開繊することができる。
【0031】
なお、本実施の形態においては、開繊機構5が凸開繊バー6aと凹開繊バー6bがそれぞれ3本ずつの合計6本の開繊バー6を有する場合を例示しているが、開繊バー6としては、一対の凸開繊バー6aと凹開繊バー6bが2組以上(合計4本の開繊バー6)備えられていればよい。上限としては、一対の凸開繊バー6aと凹開繊バー6bが10組(合計20本の開繊バー6)以下であることが望ましい。
【0032】
また、本実施の形態では、開繊機構5で5本の繊維束32を開繊する場合を例示しているが、開繊機構5で同時に開繊できる繊維束32は2本以上100本以下であるのが好ましい。
【0033】
また、上述の実施の形態においては、開繊機構5が長繊維強化熱可塑性樹脂を製造する場合に用いられる場合を例示して説明しているが、開繊機構5は、長繊維強化熱可塑性樹脂製造装置2以外の長繊維強化樹脂を製造する装置に用いられてもよい。たとえば、繊維束32を熱硬化樹脂との複合材とする場合に開繊機構5を用いてもよい。
【0034】
さらに、開繊機構5は、長繊維強化樹脂のみならず、開繊が必要な他の製品を製造する際にも適用することが可能である。たとえば、UDテープ、シート状成形材料(SMC)、プリプレグ、および繊維の織物などを製造する場合にも用いることができる。なお、これらの製品を製造する場合と比較して、長繊維強化熱可塑性樹脂を製造する場合には、繊維束32の進行速度が速く毛羽が発生しやすい。このため、毛羽の除去という観点からすれば、実施の形態に係る開繊機構5は、長繊維強化熱可塑性樹脂を製造するのに最適である。
【符号の説明】
【0035】
2 長繊維強化熱可塑性樹脂製造装置
4 繰出機
4a 炭素繊維ロービング
4b 繰出ロール
5 開繊機構
6 開繊バー
6a 凸開繊バー
6b 凹開繊バー
8 押出機
10 含浸ダイ
12 賦形ダイ
14 水槽
16 フォーミングロール
18 引取機
20 カッター部
32 繊維束
34 連続繊維強化ストランド
38 長繊維強化熱可塑性樹脂
62 凸状部
63 非形成部分
64 凹状部
102 開繊バー
104 繊維束
106 含浸ダイ
108 熱可塑性樹脂
110 連続繊維強化ストランド
図1
図2
図3
図4