(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022116771
(43)【公開日】2022-08-10
(54)【発明の名称】コイル部品及び電子機器
(51)【国際特許分類】
H01F 17/04 20060101AFI20220803BHJP
H01F 17/00 20060101ALI20220803BHJP
【FI】
H01F17/04 F
H01F17/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021013116
(22)【出願日】2021-01-29
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】大墳 隼平
【テーマコード(参考)】
5E070
【Fターム(参考)】
5E070AA01
5E070AB04
5E070BA12
5E070BB03
5E070CB11
(57)【要約】
【課題】直流重畳特性を改善しつつ、インダクタンスなどの電気特性の低下を抑制すること。
【解決手段】コイル部品100は、コイル軸Aを周回する周回部32を有するコイル導体30と、周回部32が内蔵され、周回部32の上面及び下面の間に設けられた、1または複数の絶縁部である第1絶縁部26を含む第1基体領域20と、コイル軸A方向における周回部32の上面及び下面に接して周回部32を挟んで設けられ、第1絶縁部26からなる一対の第2基体領域22と、コイル軸A方向における一対の第2基体領域22のそれぞれの外側の面に接して設けられ、第1絶縁部26と、第1絶縁部26よりも比透磁率が低い1または複数の絶縁部である第2絶縁部28を第1基体領域20より多く含みかつ一対の第2基体領域22に第2絶縁部28が接する一対の第3基体領域24と、を有する磁性基体10とを備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイル軸を周回する周回部を有する導体と、
前記周回部が内蔵され、前記周回部の上面及び下面の間に設けられた、1または複数の絶縁部である第1絶縁部を含む第1基体領域と、前記コイル軸方向における前記周回部の上面及び下面に接して前記周回部を挟んで設けられ、前記第1絶縁部からなる一対の第2基体領域と、前記コイル軸方向における前記一対の第2基体領域のそれぞれの外側の面に接して設けられ、前記第1絶縁部と、前記第1絶縁部よりも比透磁率が低い1または複数の絶縁部である第2絶縁部を第1基体領域より多く含みかつ前記一対の第2基体領域に前記第2絶縁部が接する一対の第3基体領域と、を有する磁性基体と、を備えるコイル部品。
【請求項2】
前記コイル軸を通り、前記コイル軸に平行な前記磁性基体の断面において、前記第1基体領域は、前記一対の第3基体領域に比べて、前記第2絶縁部の面積が小さい、請求項1に記載のコイル部品。
【請求項3】
前記コイル軸を通り、前記コイル軸に平行な前記磁性基体の断面において、前記第1基体領域は、前記第1絶縁部よりも前記第2絶縁部の面積が小さい、請求項1または2に記載のコイル部品。
【請求項4】
前記コイル軸を通り、前記コイル軸に平行な前記磁性基体の断面において、前記一対の第3基体領域は、前記第2絶縁部よりも前記第1絶縁部の面積が大きい、請求項1から3のいずれか一項に記載のコイル部品。
【請求項5】
前記第1絶縁部と前記第2絶縁部は、層状に設けられ、前記磁性基体の表面に露出する、請求項1から4のいずれか一項に記載のコイル部品。
【請求項6】
前記一対の第3基体領域は、前記第1絶縁部と前記第1絶縁部より厚みが小さい前記第2絶縁部とが交互に設けられる、請求項5に記載のコイル部品。
【請求項7】
前記第1基体領域は、1種類の絶縁部である前記第1絶縁部のみで構成される、請求項1から6のいずれか一項に記載のコイル部品。
【請求項8】
前記一対の第2基体領域は、1種類の絶縁部である前記第1絶縁部のみで構成される、請求項1から7のいずれか一項に記載のコイル部品。
【請求項9】
前記第1絶縁部は、フェライト材料の焼結体を含んで構成される、請求項1から8のいずれか一項に記載のコイル部品。
【請求項10】
前記第2絶縁部は、フェライト材料の焼結体を含んで構成され、
前記第1絶縁部に含まれるフェライト材料の焼結体と前記第2絶縁部に含まれるフェライト材料の焼結体は、同じ元素のフェライト材料の焼結体からなり、元素の組成が同じである、請求項9に記載のコイル部品。
【請求項11】
前記第1絶縁部は、金属磁性粒子を含んで構成される、請求項1から8のいずれか一項に記載のコイル部品。
【請求項12】
前記第1絶縁部に含まれる磁性粒子と前記第2絶縁部に含まれる磁性粒子は、同じ元素の磁性材料からなり、粒径及び組成が同じである、請求項1から11のいずれか一項に記載のコイル部品。
【請求項13】
前記第2絶縁部の比透磁率は5以上である、請求項1から12のいずれか一項に記載のコイル部品。
【請求項14】
前記第1絶縁部の比透磁率に対する前記第2絶縁部の比透磁率の割合は1/5以下である、請求項1から13のいずれか一項に記載のコイル部品。
【請求項15】
請求項1から14のいずれか一項に記載のコイル部品と、
前記コイル部品が実装されている回路基板と、を備える電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイル部品及び電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
インダクタンスの劣化を防ぎ、同時に直流重畳特性を改善するために、磁性体層と非磁性体層を用いて磁性基体を形成することが知られている(例えば、特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-261577号公報
【特許文献2】特開2016-051752号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1、2によれば、コイル軸の周りを周回する周回部の導体間に非磁性体層が設けられている。このような構成では、直流重畳特性の改善は図れるが、インダクタンスなどの電気特性の低下を抑制する点で改善の余地が残されている。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、直流重畳特性を改善しつつ、インダクタンスなどの電気特性の低下を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、コイル軸を周回する周回部を有する導体と、前記周回部が内蔵され、前記周回部の上面及び下面の間に設けられた、1または複数の絶縁部である第1絶縁部を含む第1基体領域と、前記コイル軸方向における前記周回部の上面及び下面に接して前記周回部を挟んで設けられ、前記第1絶縁部からなる一対の第2基体領域と、前記コイル軸方向における前記一対の第2基体領域のそれぞれの外側の面に接して設けられ、前記第1絶縁部と、前記第1絶縁部よりも比透磁率が低い1または複数の絶縁部である第2絶縁部を第1基体領域より多く含みかつ前記一対の第2基体領域に前記第2絶縁部が接する一対の第3基体領域と、を有する磁性基体と、を備えるコイル部品である。
【0007】
上記構成において、前記コイル軸を通り、前記コイル軸に平行な前記磁性基体の断面において、前記第1基体領域は、前記一対の第3基体領域に比べて、前記第2絶縁部の面積が小さい構成とすることができる。
【0008】
上記構成において、前記コイル軸を通り、前記コイル軸に平行な前記磁性基体の断面において、前記第1基体領域は、前記第1絶縁部よりも前記第2絶縁部の面積が小さい構成とすることができる。
【0009】
上記構成において、前記コイル軸を通り、前記コイル軸に平行な前記磁性基体の断面において、前記一対の第3基体領域は、前記第2絶縁部よりも前記第1絶縁部の面積が大きい構成とすることができる。
【0010】
上記構成において、前記第1絶縁部と前記第2絶縁部は、層状に設けられ、前記磁性基体の表面に露出する構成とすることができる。
【0011】
上記構成において、前記一対の第3基体領域は、前記第1絶縁部と前記第1絶縁部より厚みが小さい前記第2絶縁部とが交互に設けられる構成とすることができる。
【0012】
上記構成において、前記第1基体領域は、1種類の絶縁部である前記第1絶縁部のみで構成される構成とすることができる。
【0013】
上記構成において、前記一対の第2基体領域は、1種類の絶縁部である前記第1絶縁部のみで構成される構成とすることができる。
【0014】
上記構成において、前記第1絶縁部は、フェライト材料の焼結体を含んで構成される構成とすることができる。
【0015】
上記構成において、前記第2絶縁部は、フェライト材料の焼結体を含んで構成され、前記第1絶縁部に含まれるフェライト材料の焼結体と前記第2絶縁部に含まれるフェライト材料の焼結体は、同じ元素のフェライト材料の焼結体からなり、元素の組成が同じである構成とすることができる。
【0016】
上記構成において、前記第1絶縁部は、金属磁性粒子を含んで構成される構成とすることができる。
【0017】
上記構成において、前記第1絶縁部に含まれる磁性粒子と前記第2絶縁部に含まれる磁性粒子は、同じ元素の磁性材料からなり、粒径及び組成が同じである構成とすることができる。
【0018】
上記構成において、前記第2絶縁部の比透磁率は5以上である構成とすることができる。
【0019】
上記構成において、前記第1絶縁部の比透磁率に対する前記第2絶縁部の比透磁率の割合は1/5以下である構成とすることができる。
【0020】
本発明は、上記に記載のコイル部品と、前記コイル部品が実装されている回路基板と、を備える電子機器である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、直流重畳特性を改善しつつ、インダクタンスなどの電気特性の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、本願発明の一実施形態に係るコイル部品の斜視図である。
【
図5】
図5は、本願発明の一実施形態に係るコイル部品を備える電子機器の斜視図である。
【
図6】
図6(a)から
図6(e)は、実施例1から実施例4及び比較例1、2に係るコイル部品の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を適宜参照しながら、本願発明の実施形態について説明する。但し、本願発明は図示された態様に限定される訳ではない。また、複数の図面において共通する構成要素には当該複数の図面を通じて同一の参照符号が付されている。各図面は、説明の便宜上、必ずしも正確な縮尺で記載されているとは限らない点に留意されたい。
【0024】
[実施形態]
図1は、本願発明の一実施形態に係るコイル部品100の斜視図であり、
図2は、
図1に示したコイル部品100の分解斜視図である。
図2においては、図示の便宜上、外部電極を省略している。
図1及び
図2には、様々な回路で受動素子として用いられる積層インダクタが示されている。積層インダクタは、本願発明に適用可能なコイル部品の一例である。本願発明は、DC-DCコンバータに用いられるパワーインダクタ及びそれ以外の様々なコイル部品に適用することができる。
【0025】
本実施形態におけるコイル部品100は、
図1及び
図2に示すように、磁性基体10と、磁性基体10に埋設されたコイル導体30と、コイル導体30の一端と電気的に接続された外部電極50aと、コイル導体30の他端と電気的に接続された外部電極50bと、を備える。コイル部品100の「長さ」方向、「幅」方向、及び「厚さ」方向をそれぞれ、「L軸」方向、「W軸」方向、「T軸」方向とする。L軸、W軸、及びT軸は、互いに直交している。コイル軸Aは、T軸方向に沿って延びている。例えば、コイル部品100は、長さ寸法(L軸方向の寸法)が0.2mm~6.0mm、幅寸法(W軸方向の寸法)が0.1mm~4.5mm、厚さ寸法(T軸方向の寸法)が0.1mm~4.0mmである。
【0026】
磁性基体10は、直方体状に形成されている。磁性基体10は、対向する主面10a及び10b、対向する端面10c及び10d、並びに対向する側面10e及び10fを有する。磁性基体10は、これら6つの面によって外面が画定されている。なお、直方体状には、各頂点が丸みを帯びている場合、各稜(各面の境界部)が丸みを帯びている場合、又は各面が曲面を有している場合などの略直方体状が含まれる。
【0027】
本実施形態において、コイル部品100の上下方向を言及する場合には、
図1及び
図2における上下方向を基準とする。つまり、T軸方向の正方向を上方向、負方向を下方向とする。
【0028】
コイル導体30は、周回部32を有する。周回部32は、周回パターンC11~C14とビアV1~V3とを有する。周回パターンC11~C14は、コイル軸Aに直交する平面(LW平面)に沿って延びるとともに、コイル軸Aの方向(T軸方向)において互いに離れている。周回パターンC11~C14のうちT軸方向で隣接する周回パターンは、ビアV1~V3を介して電気的に接続されている。これにより、コイル軸Aを周回する周回部32が形成される。
【0029】
周回部32の一端は引出部34aにより外部電極50aに電気的に接続されている。周回部32の他端は引出部34bにより外部電極50bに電気的に接続されている。引出部34aは、周回パターンC11の一端から外部電極50aに延びる引出パターンD11により形成され、引出部34bは、周回パターンC14の一端から外部電極50bに延びる引出パターンD14により形成される。
【0030】
磁性基体10は、周回部32が設けられた磁性体層11~14と、磁性体層11~14をまとめて挟むカバー層15及び16と、を有する。周回パターンC11、引出パターンD11、及びビアV1は磁性体層11に形成され、周回パターンC12及びビアV2は磁性体層12に形成され、周回パターンC13及びビアV3は磁性体層13に形成され、周回パターンC14及び引出パターンD14は磁性体層14に形成されている。
【0031】
周回パターンC11~C14、引出パターンD11及びD14、並びにビアV1~V3は、導電性に優れた金属材料、例えば銀(Ag)、パラジウム(Pd)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、又はこれらの合金により形成される。
【0032】
なお、磁性体層11~14は、W軸方向に積層されてもよい。この場合、磁性体層11~14の表面に周回パターンC11~C14を形成することにより、コイル軸Aは磁性体層11~14の積層方向と同じW軸方向を向く。
【0033】
図3は、
図1のI-I間の断面図である。
図3は、コイル軸Aを通り、コイル軸Aの方向に平行な断面図である。
図3に示すように、磁性基体10は、周回部32が内蔵され、周回部32の上面と下面との間に設けられた第1基体領域20と、コイル軸Aの方向(T軸方向)における周回部32の上面及び下面に接して周回部32を挟んで設けられた一対の第2基体領域22と、コイル軸Aの方向(T軸方向)における一対の第2基体領域22のそれぞれの外側の面である上面及び下面に接して第2基体領域22を挟んで設けられた一対の第3基体領域24と、を備える。
【0034】
磁性基体10は、フェライト材料もしくは金属磁性材料を含んで形成されている。例えば、磁性基体10は、Ni-Zn系又はMn-Zn系のフェライト材料を樹脂で固める又は焼結することにより形成されてもよい。例えば、磁性基体10は、Fe-Si-Cr系、Fe-Si-Al系、又はFe-Si-Cr-Al系等の軟磁性合金材料、Fe又はNi等の磁性金属材料、アモルファス磁性金属材料、或いはナノ結晶磁性金属材料等の金属磁性材料を樹脂で固める又は酸化膜若しくは窒化膜などの無機絶縁膜を介して結合することにより形成されてもよい。
【0035】
磁性基体10は、第1絶縁部26と、第1絶縁部26よりも比透磁率の低い第2絶縁部28と、を有する。言い換えるならば、磁性基体10は、第2絶縁部28と、第2絶縁部28よりも比透磁率の高い第1絶縁部26と、を有する。第1絶縁部26は、例えば1種類の絶縁部で形成されているが、複数種の絶縁部で形成されてもよい。同様に、第2絶縁部28は、例えば1種類の絶縁部で形成されているが、複数種の絶縁部で形成されてもよい。第1絶縁部26が複数の絶縁部で構成されている場合、その各々の絶縁部は、第2絶縁部28より比透磁率が高い。第2絶縁部28が複数の絶縁部より構成されている場合、その各々の絶縁部は、第1絶縁部より比透磁率が低い。第1絶縁部26が複数の絶縁部で構成されていて、かつ、第2絶縁部28が複数の絶縁部より構成されている場合、第1絶縁部26の各々の絶縁部は、第2絶縁部28の各々の絶縁部より比透磁率が高く、第2絶縁部28の各々の絶縁部は、第1絶縁部26の各々の絶縁部より比透磁率が低い。
【0036】
第1絶縁部26と第2絶縁部28は、コイル軸Aの方向(T軸方向)に対して垂直に各々層状に設けられ、磁性基体10の表面に露出している。第1基体領域20は、第1絶縁部26及び第2絶縁部28のうち少なくとも第1絶縁部を含んで構成され、第1絶縁部26のみで構成されていてもよい。第1基体領域20は、1種類の絶縁部である第1絶縁部26のみで構成されてもよい。第1基体領域20が第1絶縁部26及び第2絶縁部28の両方により構成されることで、直流重畳特性高くすることができる。第1基体領域20が第1絶縁部26のみで構成されていることによってインダクタンスを高くすることができる。第2基体領域22は、第1絶縁部26及び第2絶縁部28のうち第1絶縁部26のみで構成されている。第2基体領域22は、1種類の絶縁部である第1絶縁部26のみで構成されてもよい。第3基体領域24は、第1絶縁部26と第2絶縁部28の両方を含んで構成され、第1絶縁部26と第1絶縁部26よりも薄い第2絶縁部28がT軸方向に交互に積層されている。第3基体領域24は、第2絶縁部28の層によって第2基体領域22と隣接している。第3基体領域24は、第2絶縁部28を第1基体領域20より多く含んでいる。第3基体領域24自体は、第2絶縁部28よりも第1絶縁部26の面積が大きくなっている。周回部32と第2絶縁部28との間のT軸方向の最短距離Lは、例えば周回部32のT軸方向の間隔Wの2倍程度である。
【0037】
磁性基体10がフェライト材料を含んで形成されている場合、第1絶縁部26及び第2絶縁部28はフェライト材料を樹脂で固める又は焼結することで形成されている。フェライト材料を樹脂で固めて形成されている場合は、第1絶縁部26中の樹脂の体積割合は、第2絶縁部28中の樹脂の体積割合に比べ、小さくなっている。フェライト材料を焼結することで形成されている場合は、第1絶縁部26中の空隙部の体積割合は、第2絶縁部28中の空隙部の体積割合に比べ、小さくなっている。ここで言う空隙部の体積とは、その領域でフェライト粒子が占めている体積を、その領域全体の体積から引いた値となる。空隙部には樹脂等が存在していてもよい。
【0038】
磁性基体10が金属磁性材料を含んで形成されている場合、第1絶縁部26及び第2絶縁部28は金属磁性材料(金属磁性粒子)を含んで形成されている。隣接する金属磁性粒子同士は、例えば酸化膜、窒化膜、又は樹脂膜などの絶縁膜を介して結合されている。一部の金属磁性粒子同士は、絶縁膜を介さずに直接結合されていてもよい。金属磁性粒子の間には空隙が存在していてもよく、この空隙に樹脂などが存在していてもよい。
【0039】
第1絶縁部26及び第2絶縁部28がフェライト材料を焼結することで形成されている場合、第1絶縁部26に含まれるフェライト材料の焼結体と第2絶縁部28に含まれるフェライト材料の焼結体とは、例えば同じ元素の磁性材料からなるフェライト材料の焼結体であり、例えば組成が同じフェライト材料の焼結体である。第1絶縁部26が複数の絶縁部よりなる場合、各々の絶縁部に含まれるフェライト材料の焼結体は、例えば同じ元素の磁性材料からなるフェライト材料の焼結体であり、例えば組成が同じフェライト材料の焼結体である。第2絶縁部28が複数の絶縁部よりなる場合、各々の絶縁部に含まれるフェライト材料の焼結体は、例えば同じ元素の磁性材料からなるフェライト材料の焼結体であり、例えば組成が同じフェライト材料の焼結体である。組成が同じとは、元素の組成比が一致することで検証できる。例えば、それぞれのフェライト材料の焼結体の10ヶ所から元素の組成比を測定し、その元素の組成比のそれぞれの平均値の違いが2wt%(重量パーセント)以下であることで検証できる。元素の組成比は、走査型電子顕微鏡によるEDS(エネルギー分散型X線分光)分析などで求めてもよい。 このようにすることで、部品実装時のリフロー等における熱処理、部品使用時の熱的な衝撃などが発生した場合においても、第1絶縁部26と第2絶縁部28の収縮挙動が同様になるため、界面にクラックが生じることを抑制できる。
【0040】
第1絶縁部26及び第2絶縁部28にフェライト粒子もしくは金属磁性粒子が含まれる場合は、単一の種類の粒子のみを含んでいてもよいし、複数の異なる種類の粒子を含んでいてもよい。第1絶縁部26に含まれるフェライト粒子もしくは金属磁性粒子と第2絶縁部28に含まれるフェライト粒子もしくは金属磁性粒子とは、例えば同じ元素の磁性材料からなるフェライト粒子もしくは金属磁性粒子であり、例えば粒径及び組成が同じフェライト粒子もしくは金属磁性粒子である。第1絶縁部26が複数の絶縁部よりなる場合、各々の絶縁部に含まれるフェライト粒子もしくは金属磁性粒子は、例えば同じ元素の磁性材料からなるフェライト粒子もしくは金属磁性粒子であり、例えば組成が同じフェライト粒子もしくは金属磁性粒子である。第2絶縁部28が複数の絶縁部よりなる場合、各々の絶縁部に含まれるフェライト粒子もしくは金属磁性粒子は、例えば同じ元素の磁性材料からなるフェライト粒子もしくは金属磁性粒子であり、例えば組成が同じフェライト粒子もしくは金属磁性粒子である。粒径が同じとは、第1絶縁部26及び第2絶縁部28に存在する数百個程度(例えば200個程度)のフェライト粒子もしくは金属磁性粒子を含む走査型電子顕微鏡による撮影像において面積より同面積の円形状に換算され算出される粒径に基づき求められた粒度分布の50%値(平均粒径)が一致することで検証できる。例えば、第1絶縁部26及び第2絶縁部28の平均粒径は5%以内で一致している。組成が同じとは、元素の組成比が一致することで検証できる。例えば、それぞれのフェライト粒子もしくは金属磁性粒子の10個程度から元素の組成比を測定し、その元素の組成比のそれぞれの平均値の違いが5wt%(重量パーセント)以下であることで検証できる。元素の組成比は、走査型電子顕微鏡によるEDS(エネルギー分散型X線分光)分析などで求めてもよい。このようにすることで、製造工程の熱処理や、部品実装時のリフロー等における熱処理、部品使用時の熱的な衝撃などが発生した場合においても、第1絶縁部26と第2絶縁部28の収縮挙動が同様になるため、界面にクラックが生じることを抑制できる。
【0041】
第1絶縁部26及び第2絶縁部28の比透磁率は、例えばフェライト粒子もしくは金属磁性粒子の充填率によって調整することができる。つまり、第1絶縁部26と第2絶縁部28が、同じ元素の磁性材料で粒径及び組成が同じフェライト粒子もしくは金属磁性粒子により構成されている場合でも、第2絶縁部28のフェライト粒子もしくは金属磁性粒子の充填率を第1絶縁部26に比べて低くすることで、第2絶縁部28の比透磁率を第1絶縁部26の比透磁率よりも低くすることができる。フェライト粒子もしくは金属磁性粒子の充填率の調整は、フェライト粒子もしくは金属磁性粒子の充填量によって行うことができる。
【0042】
図4は、
図3の領域Bを拡大した図である。
図4に示すように、第1絶縁部26及び第2絶縁部28に空隙64が形成されている。空隙64は、第1絶縁部26に比べて第2絶縁部28に多く形成されている。これにより、第2絶縁部28は第1絶縁部26に比べてフェライト粒子もしくは金属磁性粒子の充填率が低くなり、第1絶縁部26と第2絶縁部28が同じ元素の磁性材料で粒径及び組成が同じフェライト粒子もしくは金属磁性粒子により構成されている場合でも、第2絶縁部28の比透磁率は第1絶縁部26の比透磁率よりも低くなる。
【0043】
なお、空隙64の量によってフェライト粒子もしくは金属磁性粒子の充填率を調整する場合に限られず、その他の方法によってフェライト粒子もしくは金属磁性粒子の充填率を調整してもよい。例えば、フェライト粒子もしくは金属磁性粒子とは異なる絶縁材料を混合させ、この絶縁材料の量を調整することでフェライト粒子もしくは金属磁性粒子の充填率を調整してもよい。フェライト粒子もしくは金属磁性粒子と混合する絶縁材料は、有機材料でもよいし、無機材料でもよいし、両者を組み合わせてもよい。有機材料の例としては樹脂が挙げられ、磁性粒子を固める結合材の一部としても使用できる。無機材料の例としては、酸化シリコン粒子、酸化アルミニウム粒子、又は酸化鉄粒子などの酸化物が挙げられ、磁性粒子を固める結合材の一部としても使用できる。
【0044】
第1絶縁部26の比透磁率は例えば500以下である。第2絶縁部28の比透磁率は例えば5以上である。第1絶縁部26の比透磁率に対する第2絶縁部28の比透磁率の割合は例えば1/5以下である。このようにすることで、インダクタンスの変化を少なくでき、狭許容差のインダクタンスのコイル部品とすることができる。
【0045】
[製造方法]
本実施形態に係るコイル部品100の製造方法の一例を説明する。まず、第3基体領域24となる外側積層体を形成する。外側積層体は、第1絶縁部26となる第1磁性体シートと、第2絶縁部28となる第2磁性体シートと、を積層することにより形成される。この際、第3基体領域24となる外側積層体の第2基体領域22と接する面は、第2絶縁部28で構成されているように第1磁性体シートと第2磁性体シートは積層される。第1磁性体シートは、例えば、プラスチック製のベースフィルムの表面に第1スラリーを塗布して乾燥させ、乾燥後の第1スラリーを所定のサイズに切断することで得られる。第1スラリーは、例えばNi-Znフェライトの粒子を有機バインダ及び溶剤などと混合して作製される。有機バインダとしては、例えばポリビニルブチラール(PVB)樹脂又はエポキシ樹脂などの絶縁性に優れた樹脂材料が用いられる。溶剤としては、例えばトルエンなどが用いられる。第2磁性体シートは、例えば、プラスチック製のベースフィルムの表面に第2スラリーを塗布して乾燥させ、乾燥後の第2スラリーを所定のサイズに切断することで得られる。第2スラリーは、第1スラリーと同様に、例えばNi-Znフェライトの粒子を有機バインダ及び溶剤などと混合して作製されるが、第1スラリーの場合と比べて有機バインダの量が多くなっている。有機バインダは、使用される溶剤に可溶な有機バインダ―に加えて、使用される溶剤に難溶性の有機バインダ粒子も添加することにより有機バインダ全体の量を多くすることもできる。有機バインダとして用いられる樹脂の重合度を高くすることによって使用される溶剤に対する樹脂の溶解度を下げることができる。有機バインダ粒子の粒径は、例えばNi-Znフェライトの粒子の粒径と同じ、もしくはそれ以下とすることで、Ni-Znフェライトの粒子の分散性を大きく損なうことなく第2スラリーを得ることができる。
【0046】
次に、第1基体領域20となる内側積層体を形成する。内側積層体は、上述した第1磁性体シートと、第1磁性体シートに未焼成の導体パターンが設けられた複合シートと、を積層することにより形成される。複合シートは以下の方法により形成される。まず、第1磁性体シートのビアV1~V3に相当する位置に貫通孔を形成する。次に、第1磁性体シートに例えばスクリーン印刷法により導電ペーストを印刷することで、第1磁性体シートに未焼成の導体パターンを形成する。このとき、第1磁性体シートに形成された貫通孔に導電ペーストが埋め込まれるようにする。これにより、第1磁性体シートに、周回パターンC11~C14、ビアV1~V3、及び引出パターンD11とD14となる未焼成の導体パターンが形成される。なお、導体パターンは、スクリーン印刷以外の方法により形成されてもよい。ここでは、引出パターンD11とD14は周回パターンC11とC14と同一層に形成されているが、異なる層に形成されていても良い。例えば、引出パターンD11とD14は隣接する第2基体領域22に形成することもできる。第1基体領域20は、第2絶縁部28となる第2磁性体シートを、上記第1絶縁部26となる第1磁性体シートの一部と替えることで、両方の絶縁体シートを合わせて用いることもできる。
【0047】
次に、第2基体領域22となる中間体を形成する。中間体は、上述した第1磁性体シートの単層又は第1磁性体シートを積層することにより形成される。引出パターンD11とD14が第2基体領域22に形成される場合、第1基体領域20となる内側積層体における導体パターンと同様の手順にて形成される。
【0048】
次に、外側積層体、中間体、内側積層体、中間体、及び外側積層体をT軸方向にこの順序で、但し、外側積層体が中間体と接する面は、第2磁性体シートにて形成されるように積層し、プレス機により熱圧着することにより本体積層体を形成する。次に、ダイシング機又はレーザ加工機などの切断機を用いて本体積層体を所望のサイズに個片化することでチップ積層体を形成する。次に、チップ積層体に対して焼成のための熱処理を行う。これにより、フェライト材料が焼結し、有機バインダが分解されて空隙が形成される。第2磁性体シートの有機バインダの量が第1磁性体シートの有機バインダの量よりも多いことから、第2磁性体シートは空隙64が多い第2絶縁部28となり、第1磁性体シートは空隙64が少ない第1絶縁部26となる。空隙64には含侵法などで樹脂が導入されていてもよい。このチップ積層体の端部に対して、必要に応じて、バレル研磨などの研磨処理を行う。
【0049】
次に、チップ積層体の両端部に導体ペーストを塗布することにより、外部電極50a及び50bを形成する。外部電極50a及び50bには、必要に応じて、はんだバリア層及びはんだ濡れ層の少なくとも一方を形成してもよい。これにより、コイル部品100が得られる。
【0050】
本実施形態によれば、磁性基体10は、周回部32が内蔵され、周回部32の上面及び下面の間に設けられた第1基体領域20と、コイル軸Aの方向における周回部32の上面及び下面に接して周回部32を挟んで設けられた第2基体領域22と、コイル軸Aの方向における第2基体領域22の上面及び下面に接して第2基体領域22を挟んで設けられた第3基体領域24と、を備える。第1基体領域20は第1絶縁部26を含み、第2基体領域22は第1絶縁部26からなる。第3基体領域24は、第1絶縁部26と、第1絶縁部26よりも比透磁率が低い第2絶縁部28を第1基体領域20より多く含み、第2基体領域22との境界は第1絶縁部26よりも比透磁率が低い第2絶縁部28によって構成されている。
【0051】
第2絶縁部28は、磁束が通過する場合にのみ、磁気ギャップとして作用する。通常、磁気ギャップはコイルの周回部に接して磁性基体に設けられる。この場合、コイルに大電流を印加した場合の磁気飽和を緩和し、直流重畳特性を大きくすることができる反面、コイルに小電流を流した場合のインダクタンスを低下させてしまう。本実施形態においては、コイルに小電流が印加された場合、磁束は周回部32の近傍にのみ発生する。すなわち、第1基体領域20と第2基体領域22のみに磁束は発生し周回する。なぜならば、第1基体領域20は周回部32の上面及び下面の間に設けられた領域なので、必ず周回部32に接し、周回部32に発生した磁束が必ず通る領域となるからであり、第2基体領域22についても上面及び下面に接して周回部32を挟んで設けられている領域なので、必ず周回部32に接し、周回部32に発生した磁束が必ず通る領域となるからである。第3基体領域24と第2基体領域22との境界は第1絶縁部26よりも比透磁率が低い第2絶縁部28によって構成されているため、磁束は、この低い比透磁率で構成された第2絶縁部28には侵入しないため第3基体領域24には侵入せずに、専ら高い比透磁率で構成された第1絶縁部26を通り、第1絶縁部26のみで構成された第2基体領域22を通るからである。第1基体領域20と第2基体領域22の両方の領域が、第1絶縁部26のみからなる場合は、磁束は第1絶縁部26内部を通り、結果として第1基体領域20と第2基体領域22の内部を周回する。第1基体領域20が第1絶縁部26と第1絶縁部26より比透磁率が低い第2絶縁部28の両方からなる場合でも、磁束は第1基体領域20の内部を通り、さらに比透磁率が高い第1絶縁部26のみで構成された第2基体領域22を通ることで、結果として第1基体領域20と第2基体領域22の内部を周回する。発生した磁束は、印加された電流が小さいが故に、第3基体領域24を通過しなくても飽和することなく周回する。すなわち、小電流印加時には第3基体領域24に設けられた比透磁率が低い第2絶縁部28が磁気ギャップとならないため、インダクタンスの低下が抑制される。特に、第1基体領域20が第1絶縁部26のみで構成されている場合、磁気ギャップをコイルの周回部に接して磁性基体に設けた構造では印加される電流の大きさに関わらずに磁気ギャップを磁束が通過してインダクタンスが低下してしまうのに対し、本実施形態においては、小電流印加時のインダクタンスの低下を抑制することができる。
【0052】
また、本実施形態においては、コイルに大電流が印加された場合、磁束は周回部32の近傍にとどまらず周回部32から離れた部分にも発生する。すなわち、第1基体領域20と第2基体領域22にとどまらず、第3基体領域24も含む形で磁束は発生し周回する。第3基体領域24が第2絶縁部28を含んで構成されることで、周回部32から発生する磁束の一部が第2絶縁部28を通過し、第2絶縁部28が磁気ギャップとして機能するため、磁気飽和が高くなり直流重畳特性が改善する。このように、大電流印加時において、本実施形態は磁気ギャップを有する構造の恩恵を得ることができる。
【0053】
例えば第3基体領域24全体が第2絶縁部28により構成された場合、第2絶縁部28が磁気ギャップとして機能するため直流重畳特性は改善されるが、磁路に占める磁気ギャップの割合が高くなるため、インダクタンスが低下してしまう。これに対し、本実施形態では、第3基体領域24が第1絶縁部26を含んで構成されることで、磁路に占める磁気ギャップの割合が高くならないため、インダクタンスの低下が抑制される。なお、例えば第3基体領域24全体が第1絶縁部26と第2絶縁部28の間の比透磁率を有する絶縁部により構成される場合、磁気ギャップの効果が得られ難いので、インダクタンスの低下を抑制するには不十分である。
【0054】
さらに、本実施形態では、第3基体領域24が複数の第1絶縁部26と複数の第2絶縁部28を交互に含んで構成されるため、第2基体領域22に近い側から磁束の飽和の程度に合わせて磁気ギャップの数を増やすことができる。すなわち、最初は第3基体領域24中の最も第2基体領域22に近い第2絶縁部28が磁気ギャップとして働き、隣接する第3基体領域24中の最も第2基体領域22に近い第1絶縁部26を磁束が通るようになるが、コイルへの印加電圧が大きくなることでこの部分の磁気飽和が近くなると、次に第3基体領域24中の2番目に第2基体領域22に近い第2絶縁部28が磁気ギャップとして働き、隣接する第3基体領域24中の2番目に第2基体領域22に近い第1絶縁部26を磁束が通るようになる。このようにコイルに印加される電流が大きくなるにつれて、第3基体領域24の複数の第2絶縁部28と隣接する第1絶縁部26の組が、磁気飽和しない様に次々と登場して自動的にインダクタンスに寄与することで、インダクタンスの大幅な低下を防ぐことができる。
【0055】
第2絶縁部28を磁気ギャップとして機能させるために、第2絶縁部28の厚さは第1絶縁部26の比透磁率によって調整され、第1絶縁部26の比透磁率が低いほど第2絶縁部28の厚さは薄くなる。第2絶縁部28の厚さが薄くなると、製造誤差による第2絶縁部28の厚さのばらつきの影響が大きくなる。例えば、第1基体領域20において周回部32の導体間に第2絶縁部28が設けられた場合、第2絶縁部28は周回部32から発生する磁界が大きい箇所に設けられることになる。このため、第2絶縁部28の厚さのばらつきによるインダクタンスへの影響が大きくなる。これに対し、本実施形態のように、第3基体領域24に第2絶縁部28が設けられる場合では、第2絶縁部28は周回部32から発生する磁界が小さい箇所に設けられることになるため、第2絶縁部28の厚さのばらつきによるインダクタンスへの影響を小さく抑えられる。また、第2絶縁部28が磁界の小さい箇所に設けられる場合は、磁界の大きい箇所に設けられる場合に比べて、第2絶縁部28を厚くすることができる。これによっても、第2絶縁部28の厚さのばらつきによるインダクタンスへの影響を小さく抑えられる。
【0056】
また、本実施形態では、
図3に示すように、コイル軸Aを通り、コイル軸Aの方向に平行な磁性基体10の断面において、第1基体領域20及び第2基体領域22は比透磁率の高い第1絶縁部26から構成され、比透磁率の低い第2絶縁部28によって第3基体領域24と区切られている。これにより、周回部32から発生する磁束は主に比透磁率の高い第1絶縁部26を通過するようになるため、インダクタンスの低下を抑制することができる。
【0057】
また、本実施形態では、
図3に示すように、コイル軸Aを通り、コイル軸Aの方向に平行な磁性基体10の断面において、第1基体領域20及び第2基体領域22は、第3基体領域24に比べて、第2絶縁部28の面積が小さい。これにより、周回部32から発生する磁束は主に第1絶縁部26を通過するようになるため、インダクタンスの低下を抑制することができる。
【0058】
また、本実施形態では、
図3に示すように、コイル軸Aを通り、コイル軸Aの方向に平行な磁性基体10の断面において、第3基体領域24は、第1絶縁部26の面積が第2絶縁部28の面積よりも大きい。これにより、周回部32から発生する磁束が第3基体領域24を通過する領域において第1絶縁部26が占める割合が大きくなるため、直流重畳特性を改善しつつ、インダクタンスの低下を抑制することができる。
【0059】
また、本実施形態では、
図3に示すように、第1絶縁部26と第2絶縁部28は、層状に設けられ、磁性基体10の表面に露出している。これにより、周回部32から発生する磁束が第3基体領域24を通過する経路に第2絶縁部28を効果的に配置することができ、直流重畳特性を改善することができる。
【0060】
また、本実施形態では、
図3に示すように、第3基体領域24は、第1絶縁部26と第1絶縁部26よりも厚みが小さい第2絶縁部28とが交互に設けられている。これにより、周回部32から発生する磁束が第3基体領域24を通過する領域において第1絶縁部26が占める割合が大きくなるため、直流重畳特性を改善しつつ、インダクタンスの低下を抑制することができる。
【0061】
また、本実施形態では、第1基体領域20及び第2基体領域22は第1絶縁部26のみで構成されている。これにより、小電流印加時に周回部32から発生する磁束が通過する周回部32の近傍領域において磁気ギャップとなる第2絶縁部28を通過しなくすることができ、インダクタンスの低下を抑制することができる。
【0062】
また、本実施形態では、第1絶縁部26は金属磁性粒子を含んで構成されている。金属磁性粒子は、フェライト粒子と比べて、飽和磁束密度が高いことから、直流重畳特性が改善され易くなる。金属磁性粒子はフェライト粒子と比べて比透磁率が小さいため、インダクタンスの低下が懸念されるが、磁気ギャップとなる第2絶縁部28が第3基体領域24に設けられることで、インダクタンスの低下を抑制することができる。
【0063】
なお、上記実施形態において、第1絶縁部26はフェライト粒子を含んで構成されてもよい。例えば、第1絶縁部26は、Ni-Zn系又はMn-Zn系のフェライト粒子を樹脂で固めることにより形成されてもよい。第2絶縁部28についても同様に、フェライト粒子を含んで構成されてもよく、例えば、Ni-Zn系又はMn-Zn系のフェライト材料を樹脂で固めることにより形成されてもよい。
【0064】
また、本実施形態では、第1絶縁部26のフェライト粒子もしくは金属磁性粒子と第2絶縁部28のフェライト粒子もしくは金属磁性粒子とは、同じの元素の磁性材料からなり、粒径及び組成が同じである。これにより、第1絶縁部26と第2絶縁部28の間の線膨張係数の差が小さく抑えられ、第1絶縁部26と第2絶縁部28の界面に熱応力によるクラックが生じることを抑制できる。例えば、製造工程の熱処理、部品実装時のリフローなどにおける熱処理、部品使用時の熱的な衝撃などが発生した場合において、第1絶縁部26と第2絶縁部28の収縮挙動が同様になるため、界面にクラックが生じることを抑制できる。第1絶縁部26及び第2絶縁部28がフェライト磁性材料の焼結体を含んで構成される場合でも、第1絶縁部26のフェライト磁性材料の焼結体と第2絶縁部28のフェライト磁性材料の焼結体が同じ元素のフェライト磁性材料の焼結体からなりかつ元素の組成が同じであることで、部品実装時のリフローなどにおける熱処理、部品使用時の熱的な衝撃などが発生した場合において、第1絶縁部26と第2絶縁部28の収縮挙動が同様になるため、界面にクラックが生じることを抑制できる。
【0065】
なお、上記実施形態において、第1絶縁部26のフェライト粒子もしくは金属磁性粒子と第2絶縁部28のフェライト粒子もしくは金属磁性粒子とは、同じ元素の磁性材料からなり、粒径は異なるが組成は同じである場合でもよいし、粒径と組成の両方が異なる場合でもよい。このような場合でも、第1絶縁部26と第2絶縁部28の界面に熱応力によるクラックなどが生じることを抑制する効果は得られる。
【0066】
また、本実施形態では、第2絶縁部28の比透磁率は5以上である。これにより、エアーギャップであった場合に比べてインダクタンスの低下を抑制することができる。
【0067】
また、本実施形態では、第1絶縁部26の比透磁率に対する第2絶縁部28の比透磁率の割合(第2絶縁部28の比透磁率/第1絶縁部26の比透磁率)は1/5以下である。これにより、第2絶縁部28の磁気ギャップとしての機能を高めることができ、直流重畳特性を改善することができる。第1絶縁部26の比透磁率に対する第2絶縁部28の比透磁率の割合が小さくなり過ぎると、第2絶縁部28の厚さが薄くなりすぎて製造上のバラツキを管理する点で好ましくないため、第1絶縁部26の比透磁率に対する第2絶縁部28の比透磁率の割合は、1/20以上が好ましく、1/10以上がより好ましく、1/5以上が更に好ましい。
【0068】
なお、上記実施形態において、第1絶縁部26の比透磁率は、500以下の場合に限られず、450以下の場合でもよいし、400以下の場合でもよい。また、第1絶縁部26の比透磁率は、20以上の場合でもよいし、30以上の場合でもよいし、50以上の場合でもよい。
【0069】
なお、上記実施形態では、金属磁性粒子の充填率の違いにより、第2絶縁部28は第1絶縁部26よりも比透磁率が低い場合を例に示したが、この場合に限られない。例えば、第2絶縁部28に第1絶縁部26よりも比透磁率の低い磁性材料を用いることで、第2絶縁部28の透磁率を第1絶縁部26よりも低くしてもよい。
【0070】
なお、上記実施形態では、コイル部品100は積層プロセスによって形成される場合を例に示したが、薄膜プロセスなどのその他の方法によって形成される場合でもよい。
【0071】
図5は、本願発明の一実施形態に係るコイル部品100を備える電子機器300の斜視図である。電子機器300は、
図5に示すように、コイル部品100が回路基板200に実装されている。コイル部品100は、外部電極50a及び50bがはんだによって回路基板200のランド電極80に接合されることで、回路基板200に実装されている。これにより、直流重畳特性が改善されかつインダクタンスの低下が抑制されたコイル部品100を備える電子機器300が得られる。電子機器300としては、例えばスマートフォン、タブレット端末、及びゲームコンソールなどが挙げられる。
【実施例0072】
以下、本願発明を実施例及び比較例によって具体的に説明するが、本願発明はこれらの実施例に記載された態様に限定される訳ではない。
【0073】
[実施例1]
実施例1のコイル部品を以下の方法により作製した。まず、第1磁性体シート、第2磁性体シート、及び複合シートを作製した。第1磁性体シートは、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムの表面に、金属磁性粒子と有機バインダと溶剤とを混合した第1スラリーを塗布して乾燥させ、乾燥後の第1スラリーを所定のサイズに切断することで作製した。金属磁性粒子は、組成比がシリコン:3.5wt%、クロム:2.5wt%、鉄:94wt%であるFe-Si-Cr軟磁性合金粒子を用いた。有機バインダはポリビニルブチラール(PVB)樹脂を用いた。溶剤はトルエンを用いた。有機バインダの量は、1.5wt%とした。第2磁性体シートは、有機バインダの量を10wt%として第1磁性体シートよりも多くした点以外は、第1磁性体シートと同じ方法で作製した。複合シートは、周回パターン及びビアとなる未焼成の導体パターンを第1磁性体シートに形成することによって作製した。導体パターンは銀で形成した。第1磁性体シート、第2磁性体シート、及び複合シートの厚さは、100μmとした。
【0074】
第3基体領域となる外側積層体を、第2磁性体シート、第1磁性体シート、第1磁性体シート、第1磁性体シートの順に積層することで形成した。
【0075】
第2基体領域となる中間体は、第1磁性体シートを2層積層することで形成した。
【0076】
第1基体領域となる内側積層体を、複合シート、第1磁性体シート、複合シートの順に積層することで形成した。
【0077】
次に、外側積層体、中間体、内側積層体、中間体、外側積層体の順に積層し、熱圧着することによって本体積層体を形成した。次に、本体積層体を所望のサイズに個片化することでチップ積層体を形成し、このチップ積層体を900°で5時間焼成した。この焼成によって有機バインダが分解されて空隙が形成された。第2磁性体シートは第1磁性体シートに比べて有機バインダの量が多いことから、第2磁性体シートによって空隙が多い第2絶縁部28が形成され、第1磁性体シートによって空隙が少ない第1絶縁部26が形成された。次に、チップ積層体の表面に外部電極50a、50bを形成した。以上の製造方法によって、実施例1のコイル部品を作製した。
【0078】
[実施例2]
実施例2のコイル部品では、第3基体領域となる外側積層体を、第2磁性体シート、第1磁性体シート、第2磁性体シート、第1磁性体シートの順に積層することが形成した。その他は、実施例1と同じ方法によって作製した。
【0079】
[実施例3]
実施例3のコイル部品では、第3基体領域となる外側積層体を、第2磁性体シート、第2磁性体シート、第2磁性体シート、第1磁性体シートの順に積層することで形成した。その他は、実施例1と同じ方法によって作製した。
【0080】
[比較例1]
比較例1のコイル部品では、第3基体領域となる外側積層体を、第1磁性体シートを4層積層することで形成した。その他は、実施例1と同じ方法によって作製した。
【0081】
[比較例2]
比較例2のコイル部品では、第3基体領域となる外側積層体を、第1磁性体シートを4層積層することで形成した。第1基体領域となる内側積層体を、複合シート、第2磁性体シート、複合シートの順に積層することで形成した。その他は、実施例1と同じ方法によって作製した。
【0082】
図6(a)から
図6(e)に、実施例1から実施例3及び比較例1、2のコイル部品の断面図を示す。
図6(a)に示すように、実施例1では、第3基体領域24に1層の第2絶縁部28が設けられている。
図6(b)に示すように、実施例2では、第3基体領域24に2層の第2絶縁部28が設けられている。
図6(c)に示すように、実施例3では、第3基体領域24に3層の第2絶縁部28が設けられている。
図6(d)に示すように、比較例1では、第3基体領域24には第2絶縁部28が設けられていない。
図6(e)に示すように、比較例2では、第3基体領域24には第2絶縁部28が設けられてなく、第1基体領域20の周回部32の間に第2絶縁部28が設けられている。
【0083】
実施例1から実施例3及び比較例1、2のコイル部品のインダクタンス特性をキーサイト・テクノロジー社製のRFインピーダンス/マテリアル・アナライザE4991Aにより測定した。各コイル部品において、初期インダクタンス値と、インダクタンス値が初期値から所定割合低下したときの直流電流値と、を測定した。表1に測定結果を示す。表1において、比較例2及び実施例1から実施例3の測定結果は比較例1の測定結果を基準とした割合で示している。
【表1】
【0084】
表1に示すように、第1基体領域20に第2絶縁部28が設けられている比較例2は、比較例1に比べて、初期インダクタンス値が-40%と大きく減少した。これに対し、第3基体領域24に第2絶縁部28が設けられた実施例1から実施例3は、比較例1に比べて、初期インダクタンス値の低下が-3%~-3.3%と小さく抑えられ、かつ、直流電流値(直流重畳許容電流値)が+11%~+16%と大きくなった。この実験結果から、第3基体領域24に第2絶縁部28を設けることで、直流重畳特性を改善しつつ、インダクタンスの低下を抑制できることが確認された。
【0085】
また、実施例1から実施例3では、第1絶縁部26に含まれる金属磁性粒子と第2絶縁部28に含まれる金属磁性粒子は、同じ元素の磁性材料からなるため、ヒートサイクル試験を実施した後もクラックの発生がなく、熱衝撃に対して強い結果が得られた。
【0086】
以上、本願発明の実施形態について詳述したが、本願発明はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本願発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。