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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022116781
(43)【公開日】2022-08-10
(54)【発明の名称】熱源システム
(51)【国際特許分類】
   F24F 11/47 20180101AFI20220803BHJP
   F24F 5/00 20060101ALI20220803BHJP
   F24F 11/64 20180101ALI20220803BHJP
   F24F 11/65 20180101ALI20220803BHJP
   F25B 1/00 20060101ALI20220803BHJP
【FI】
F24F11/47
F24F5/00 101
F24F11/64
F24F11/65
F25B1/00 381H
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021013134
(22)【出願日】2021-01-29
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-06-18
(71)【出願人】
【識別番号】000220262
【氏名又は名称】東京瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】特許業務法人青海特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雄仁
(72)【発明者】
【氏名】石塚 大策
【テーマコード(参考)】
3L260
【Fターム(参考)】
3L260AB06
3L260BA41
3L260CB37
3L260CB38
3L260CB40
3L260EA19
3L260FB21
(57)【要約】
【課題】熱源システムを省エネルギー化する。
【解決手段】熱源システム(冷凍機システム1)の予測実行部66は、熱源機(冷凍機10)および熱源機補機を含む全体の消費電力に対する熱負荷を示すシステムCOPを条件セットの入力に応じて予測する機械学習モデルに、熱負荷の現在値を条件データベース72に当てはめて得られる条件セットをそれぞれ入力して、入力した条件セットごとにシステムCOPの予測値を導出する。最適値決定部68は、予測実行部66で導出された複数のシステムCOPの予測値のうち最も高いシステムCOPの予測値に対応する条件セットの各値を最適値に決定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱負荷設備から送られる熱媒体を冷却または加熱して前記熱負荷設備に供給する熱源機と、
前記熱源機による前記熱媒体の供給に関与する1または複数の熱源機補機と、
前記熱媒体の温度差、前記熱媒体の流量、前記熱源機の運転条件を示す熱源機運転条件データおよび前記熱源機補機の運転条件を示す補機運転条件データを含むセットを条件セットとし、1の熱負荷に対して複数パターンの前記条件セットが関連付けられたデータ群が、複数の前記熱負荷についてそれぞれ設定された条件データベースが記憶された記憶部と、
前記熱源機および前記熱源機補機を含む全体の消費電力に対する前記熱負荷を示すシステムCOPを前記条件セットの入力に応じて予測する機械学習モデルに、前記熱負荷の現在値を前記条件データベースに当てはめて得られる前記条件セットをそれぞれ入力して、入力した前記条件セットごとに前記システムCOPの予測値を導出する予測実行部と、
前記予測実行部で導出された複数の前記システムCOPの予測値のうち最も高い前記システムCOPの予測値に対応する前記条件セットの各値を最適値に決定する最適値決定部と、
を備える熱源システム。
【請求項2】
前記予測実行部は、前記熱負荷の現在値を前記条件データベースに当てはめて得られる前記条件セットのうち、所定の抽出条件を満たす前記条件セットを抽出し、抽出した前記条件セットを前記機械学習モデルにそれぞれ入力して、入力した前記条件セットごとに前記システムCOPの予測値を導出する請求項1に記載の熱源システム。
【請求項3】
前記最適値決定部は、最も高い前記システムCOPの予測値に対応する前記条件セットを示す対応条件セットが複数ある場合、前記熱源機運転条件データおよび前記補機運転条件データのいずれか一方または双方について現在値から前記対応条件セットの値に変化させる際の変化量が最も小さい前記対応条件セットの各値を最適値に決定する請求項1または2に記載の熱源システム。
【請求項4】
前記機械学習モデルの種類は、勾配ブースティング決定木である請求項1から3のいずれか1項に記載の熱源システム。
【請求項5】
前記条件セットおよび前記システムCOPを教師データとして機械学習を行い、前記機械学習モデルを生成するモデル生成部をさらに備える請求項1から4のいずれか1項に記載の熱源システム。
【請求項6】
前記モデル生成部は、前記機械学習モデルを定期的に更新する請求項5に記載の熱源システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱源機を含む熱源システムに関する。
【背景技術】
【0002】
熱源機を含む熱源システムとして、例えば、冷凍機を含む冷凍機システムがある。特許文献1には、冷凍機で冷却された冷水が空調機などの負荷設備に供給される冷凍機システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8-35708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
熱源システムの一例である冷凍機システムは、例えば、冷凍機の他、冷水1次ポンプ、冷水2次ポンプ、冷却塔、冷却水ポンプを含んで構成される。これら各機器は、予め人為的に決められた運転条件に従って運転される。しかし、この運転条件は、人為的に決められるため、必ずしも熱源システム全体として省エネルギー化されたものであるとは限らない。
【0005】
本発明は、このような課題に鑑み、省エネルギー化が可能な熱源システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の熱源システムは、熱負荷設備から送られる熱媒体を冷却または加熱して熱負荷設備に供給する熱源機と、熱源機による熱媒体の供給に関与する1または複数の熱源機補機と、熱媒体の温度差、熱媒体の流量、熱源機の運転条件を示す熱源機運転条件データおよび熱源機補機の運転条件を示す補機運転条件データを含むセットを条件セットとし、1の熱負荷に対して複数パターンの条件セットが関連付けられたデータ群が、複数の熱負荷についてそれぞれ設定された条件データベースが記憶された記憶部と、熱源機および熱源機補機を含む全体の消費電力に対する熱負荷を示すシステムCOPを条件セットの入力に応じて予測する機械学習モデルに、熱負荷の現在値を条件データベースに当てはめて得られる条件セットをそれぞれ入力して、入力した条件セットごとにシステムCOPの予測値を導出する予測実行部と、予測実行部で導出された複数のシステムCOPの予測値のうち最も高いシステムCOPの予測値に対応する条件セットの各値を最適値に決定する最適値決定部と、を備える。
【0007】
また、予測実行部は、熱負荷の現在値を条件データベースに当てはめて得られる条件セットのうち、所定の抽出条件を満たす条件セットを抽出し、抽出した条件セットを機械学習モデルにそれぞれ入力して、入力した条件セットごとにシステムCOPの予測値を導出するとしてもよい。
【0008】
また、最適値決定部は、最も高いシステムCOPの予測値に対応する条件セットを示す対応条件セットが複数ある場合、熱源機運転条件データおよび補機運転条件データのいずれか一方または双方について現在値から対応条件セットの値に変化させる際の変化量が最も小さい対応条件セットの各値を最適値に決定するとしてもよい。
【0009】
また、機械学習モデルの種類は、勾配ブースティング決定木であるとしてもよい。
【0010】
また、熱源システムは、条件セットおよびシステムCOPを教師データとして機械学習を行い、機械学習モデルを生成するモデル生成部をさらに備えるとしてもよい。
【0011】
また、モデル生成部は、機械学習モデルを定期的に更新するとしてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、熱源システムの省エネルギー化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本実施形態にかかる熱源システムの一例である冷凍機システムの構成を示す概略図である。
図2図2は、モデル生成部および予測実行部の概要を示すブロック図である。
図3図3は、蓄積データの使い分けについて説明する概念図である。
図4図4は、機械学習モデルの詳細について説明する概念図である。
図5図5は、条件データベースの一例を示す図である。
図6図6は、予測実行部および最適値決定部を説明する概念図である。
図7図7は、予測実行部および最適値決定部の処理の流れを説明するフローチャートである。
図8図8は、冷凍機システムの効果を説明する図である。図8(A)は、熱負荷の時間推移の一例を示している。図8(B)は、システムCOPの時間推移の一例を示している。
図9図9は、サンプルセットの取得例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の実施形態の態様について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0015】
図1は、本実施形態にかかる熱源システムの一例である冷凍機システム1の構成を示す概略図である。冷凍機システム1は、冷凍機10、冷水負荷設備12、バッファ部14、冷水1次ポンプ16、冷水2次ポンプ18、冷却塔20、冷却水ポンプ22および制御装置24を含む。
【0016】
熱源機の一例である冷凍機10は、熱媒体である冷水が流通する冷水流路30を通じて冷水負荷設備12に接続される。冷水は、冷水流路30を通じて冷凍機10と冷水負荷設備12との間で循環する。冷凍機10は、冷水負荷設備12から送られる冷水を冷却し、冷却後の冷水を冷水負荷設備12に供給する。
【0017】
熱負荷設備の一例である冷水負荷設備12は、冷凍機10から供給される冷水と冷却対象との間で熱交換を行って冷却対象を冷却する。冷水負荷設備12で熱交換後の冷水は、冷凍機10に送られる。冷水負荷設備12は、例えば、空調設備などであるが、熱交換が行われる任意の設備であってもよい。熱負荷の一例である冷水負荷は、冷却対象との熱交換によって消費される冷熱を示す。
【0018】
バッファ部14、冷水1次ポンプ16および冷水2次ポンプ18は、冷水流路30の途中に設けられる。バッファ部14は、例えば、膨張タンクである。バッファ部14は、冷水負荷設備12で使用後の冷水、および、冷凍機10で冷却された冷水の各々を一時的に蓄えるバッファとして機能する。
【0019】
冷水1次ポンプ16は、冷水負荷設備12で使用後の冷水をバッファ部14から冷凍機10に引き込み、冷凍機10で冷却後の冷水をバッファ部14に送る。冷水1次ポンプ16には、冷水1次ポンプインバータ32が電気的に接続される。冷水1次ポンプインバータ32は、冷水1次ポンプ16に供給する電力の周波数に対応する回転数で冷水1次ポンプ16を駆動させる。以後、冷水1次ポンプ16を駆動させる冷水1次ポンプインバータ32の周波数を、冷水1次ポンプINV周波数と呼ぶ場合がある。
【0020】
冷水2次ポンプ18は、冷凍機10で冷却後の冷水をバッファ部14から冷水負荷設備12に引き込み、冷水負荷設備12で使用後の冷水をバッファ部14に送る。冷水2次ポンプ18には、冷水2次ポンプインバータ34が電気的に接続される。冷水2次ポンプインバータ34は、冷水2次ポンプ18に供給する電力の周波数に対応する回転数で冷水2次ポンプ18を駆動させる。以後、冷水2次ポンプ18を駆動させる冷水2次ポンプインバータ34の周波数を、冷水2次ポンプINV周波数とよぶ場合がある。
【0021】
冷却塔20は、冷却水が流通する冷却水流路36を通じて冷凍機10に接続される。冷却水は、冷却水流路36を通じて冷却塔20と冷凍機10との間で循環する。冷却塔20は、冷却塔ファン38を有する。冷却塔20は、冷却塔ファン38の回転に従った冷却水の気化熱によって冷却水を冷却する。冷却塔20は、冷却後の冷却水を冷凍機10に供給する。冷凍機10は、冷却塔20から供給される冷却水を利用して冷水を冷却する。冷却塔ファン38には、冷却塔ファンインバータ40が電気的に接続される。冷却塔ファンインバータ40は、冷却塔ファン38に供給する電力の周波数に対応する回転数で冷却塔ファン38を駆動させる。以後、冷却塔ファン38を駆動させる冷却塔ファンインバータ40の周波数を、冷却塔ファンINV周波数と呼ぶ場合がある。
【0022】
冷却水ポンプ22は、冷却水流路36の途中に設けられる。冷却水ポンプ22は、冷却塔20で冷却された冷却水を冷凍機10に引き込み、冷凍機10で使用された冷却水を冷却塔20に送る。冷却水ポンプ22には、冷却水ポンプインバータ42が電気的に接続される。冷却水ポンプインバータ42は、冷却水ポンプ22に供給する電力の周波数に対応する回転数で冷却水ポンプ22を駆動させる。以後、冷却水ポンプ22を駆動させる冷却水ポンプインバータ42の周波数を、冷却水ポンプINV周波数と呼ぶ場合がある。
【0023】
冷水1次ポンプ16、冷水2次ポンプ18、冷却塔20および冷却水ポンプ22の各々は、冷凍機10による冷水の供給に関与する熱源機補機であり、冷凍機10に付帯して設けられる。
【0024】
冷凍機10には、冷水入口44および冷水出口46が形成されている。冷水は、冷水入口44を通じて冷凍機10に送入され、冷水出口46を通じて冷凍機10から送出される。
【0025】
以後、冷水入口44における冷水の温度を、冷水入口温度と呼ぶ場合がある。また、冷水出口46における冷水の温度を、冷水出口温度と呼ぶ場合がある。また、冷水入口温度と冷水出口温度との温度差を、熱媒体温度差と呼ぶ場合がある。また、熱媒体である冷水の流量を、熱媒体流量と呼ぶ場合がある。冷水負荷設備12における熱負荷は、熱媒体温度差と熱媒体流量とを乗算した値に相当する。また、熱負荷は、冷凍機10の冷凍能力と等しい。
【0026】
また、冷凍機10などの熱源機の運転条件を示すデータを熱源機運転条件データと呼ぶ場合がある。熱源機運転条件データは、例えば、冷凍機10の設定温度である。冷凍機10の設定温度は、具体的には、冷水出口温度の目標値である。
【0027】
また、熱源機補機の運転条件を示すデータを補機運転条件データと呼ぶ場合がある。補機運転条件データは、例えば、冷水1次ポンプINV周波数、冷水2次ポンプINV周波数、冷却塔ファンINV周波数、および、冷却水ポンプINV周波数である。
【0028】
制御装置24は、記憶部50およびシステム制御部52を含む。記憶部50は、不揮発性の記憶素子で構成される。記憶部50に記憶されるデータについては、後に詳述する。
【0029】
システム制御部52は、中央処理装置、プログラム等が格納されたROM、ワークエリアとしてのRAM等を含む半導体集積回路から構成されるコンピュータである。システム制御部52は、プログラムを実行することで、指令部60、データ取得部62、モデル生成部64、予測実行部66および最適値決定部68として機能する。
【0030】
指令部60は、熱源機運転条件データの指令値を冷凍機10に送信して冷凍機10を制御する。また、指令部60は、熱源機補機ごとに、熱源機補機ごとの補機運転条件データの指令値を送信して、各々の熱源機補機を制御する。
【0031】
本実施形態のシステム制御部52は、機械学習を利用して、熱源機運転条件データの指令値および補機運転条件データの指令値を決定する。
【0032】
データ取得部62は、不図示の温度センサによって、冷水入口温度および冷水出口温度を取得することができる。また、データ取得部62は、不図示の流量センサによって、熱媒体流量を取得することができる。
【0033】
データ取得部62は、任意のタイミングにおいて、冷水入口温度、冷水出口温度、熱媒体流量、冷凍機10の設定温度、冷水1次ポンプINV周波数、冷水2次ポンプINV周波数、冷却塔ファンINV周波数、冷却水ポンプINV周波数の各々の実測値を取得する。データ取得部62は、取得した冷水入口温度および冷水出口温度から熱媒体温度差の実測値を導出する。なお、冷凍機10の設定温度の実測値は、熱源運転条件データの実測値である。また、冷水1次ポンプINV周波数、冷水2次ポンプINV周波数、冷却塔ファンINV周波数、および、冷却水ポンプINV周波数の各々の実測値は、補機運転条件データの実測値である。
【0034】
データ取得部62は、取得した熱媒体温度差、熱媒体流量、熱源機運転条件データおよび補機運転条件データの各々の実測値を記憶部50に蓄積データ70として格納する。
【0035】
また、データ取得部62は、熱源機運転条件データ等の実測値の取得と併せて、冷凍機10の消費電力、冷水1次ポンプ16の消費電力、冷水2次ポンプ18の消費電力、冷却塔20の消費電力、冷却水ポンプ22の消費電力の各々の実測値を取得する。データ取得部62は、取得した各機器の消費電力からシステムCOPの実測値を導出する。システムCOPは、熱源機および熱源機補機を含む熱源システム全体の消費電力に対する熱負荷を示す。なお、COP(Coefficient Of Performance)は、成績係数を示す。
【0036】
より具体的には、データ取得部62は、冷凍機10の消費電力、冷水1次ポンプ16の消費電力、冷水2次ポンプ18の消費電力、冷却塔20の消費電力および冷却水ポンプ22の消費電力の各実測値を加算して、合計消費電力の実測値を導出する。データ取得部62は、熱媒体温度差の実測値と熱媒体流量の実測値とを乗算して熱負荷の実測値を導出する。データ取得部62は、熱負荷の実測値を合計消費電力の実測値で除算してシステムCOPの実測値を導出する。
【0037】
データ取得部62は、システムCOPの実測値を、熱源機運転条件データの実測値等と関連付けて記憶部50に蓄積データ70として格納する。以後、任意の取得タイミングにおける、熱媒体温度差、熱媒体流量、熱源機運転条件データ、補機運転条件データおよびシステムCOPの各実測値の組み合わせを、サンプルセットと呼ぶ場合がある。
【0038】
データ取得部62は、実測値の取得タイミングをずらして、これら実測値の取得を繰り返し行い、取得した実測値を蓄積データ70として記憶部50に蓄積していく。このようにして、記憶部50には、熱媒体温度差、熱媒体流量、熱源機運転条件データ、補機運転条件データおよびシステムCOPの各実測値を含む既知の組み合わせが、実測値の取得回数分だけ蓄積される。換言すると、記憶部50には、実測値の取得回数分のセット数だけサンプルセットが蓄積される。
【0039】
実測値の取得回数は、例えば、1万回などである。実測値の取得期間は、例えば、1年、または、冬季の3か月などである。なお、実測値の取得期間は、1年のうち、夏季の一部、冬季の一部および中間季の一部としてもよい。
【0040】
また、記憶部50には、条件データベース72が予め記憶されている。条件データベース72については、後に詳述する。
【0041】
図2は、モデル生成部64および予測実行部66の概要を示すブロック図である。モデル生成部64は、図2の破線で囲まれた範囲の処理を行う。予測実行部66は、図2の一点鎖線で囲まれた範囲の処理を行う。
【0042】
モデル生成部64は、記憶部50に蓄積データ70として蓄積された既知の、熱媒体温度差、熱媒体流量、熱源機運転条件データ、補機運転条件データおよびシステムCOPを教師データ80として機械学習を行い、機械学習モデル82を生成する。つまり、モデル生成部64によって学習済の機械学習モデル82が生成される。
【0043】
モデル生成部64で生成される機械学習モデル82は、予測の元データとなる入力データ84の入力に応じて、その入力データ84に対応する出力データ86の予測値を導出するものである。入力データ84は、熱媒体温度差、熱媒体流量、熱源機運転条件データおよび補機運転条件データとする。出力データ86は、システムCOPとする。すなわち、機械学習モデル82は、熱媒体温度差、熱媒体流量、熱源機運転条件データおよび補機運転条件データの入力に応じて、それらに対応する未知のシステムCOPを予測するものとする。機械学習については、後に詳述する。
【0044】
上述のように、システムCOPは、熱源機の消費電力および熱源機補機の消費電力を含む合計消費電力と、熱負荷とに基づいて導出される。また、熱負荷は、熱媒体温度差と熱媒体流量とから導出される。このため、出力データであるシステムCOPは、入力データである、熱媒体温度差、熱媒体流量、熱源機運転条件データおよび補機運転条件データと相関関係がある。したがって、機械学習モデル82を用いれば、熱媒体温度差、熱媒体流量、熱源機運転条件データおよび補機運転条件データからシステムCOPの予測値を導出可能である。
【0045】
予測実行部66は、予測の元データとなる入力データ84を機械学習モデル82に入力して、その入力データ84に対応する出力データ86の予測値を導出する。具体的には、予測実行部66は、任意の組み合わせとなっている、熱媒体温度差、熱媒体流量、熱源機運転条件データおよび補機運転条件データを入力データ84として機械学習モデル82に入力して、その組み合わせのときのシステムCOPの予測値を導出する。予測実行部66については、後に詳述する。
【0046】
図3は、蓄積データ70の使い分けについて説明する概念図である。上述のように、蓄積データ70は、熱媒体温度差、熱媒体流量、熱源機運転条件データ、補機運転条件データおよびシステムCOPのサンプルセットが、取得回数分だけ蓄積されている。本実施形態では、この蓄積データ70全体のうち、図3のハッチングで示すように、所定割合分のサンプルセットが実際の機械学習に用いる訓練データとされる。所定割合は、例えば、80%とされる。図3のクロスハッチングで示すように、残りのサンプルセットは、機械学習モデル82の精度の検証に用いるテストデータとされる。80%分のサンプルセットが訓練データとされる例では、残りの20%分のサンプルセットがテストデータとされる。
【0047】
具体的には、モデル生成部64は、訓練データとして区分けされたサンプルセットの各データを教師データ80として機械学習を行って機械学習モデル82を生成する。モデル生成部64は、訓練データを用いて作成された機械学習モデル82に、テストデータとして区分けされたサンプルセットのうち、熱媒体温度差、熱媒体流量、熱源機運転条件データおよび補機運転条件データを入力して、システムCOPの予測値を導出する。モデル生成部64は、導出したシステムCOPの予測値と、テストデータとして区分けされたサンプルセットの既知のシステムCOPとに基づいて、システムCOPの予測精度を導出する。このようにして、機械学習モデル82の精度を検証することができる。なお、予測精度が十分ではない場合には、機械学習におけるパラメータを変更して、モデル生成部64に、再度、機械学習モデル82の生成を行わせてもよい。
【0048】
図4は、機械学習モデル82の詳細について説明する概念図である。機械学習モデル82の種類は、例えば、勾配ブースティング決定木(Gradient Boosting Decision Trees:GBDT)である。なお、勾配ブースティング決定木は、勾配ブースティング木、または、勾配ブースティングとも呼ばれることがある。勾配ブースティング決定木を生成するための実際の実装では、xgboostのXGBRegressorなどのライブラリが使用できる。
【0049】
図4に示すように、勾配ブースティング決定木では、訓練データ(換言すると、教師データ)に基づいて決定木が複数生成される。例えば、図4では、第1決定木、第2決定木、第3決定木、第4決定木の合計4個の決定木が作成されている。なお、決定木の数は、4個に限らず、複数であればよい。また、決定木の数は、機械学習のパラメータで任意の数に変更されてもよい。
【0050】
勾配ブースティング決定木において、入力データ84は、第1決定木に入力される。そうすると、第1決定木に従って第1出力値が出力される。次に、所定のターゲットから第1出力値を減算して第1残差を導出する第1残差導出処理が行われる。所定のターゲットは、例えば、機械学習のパラメータで設定される。例えば、ターゲットが11であるとし、第1出力値が7であるとする。この場合、11-7=4が第1残差として出力される。
【0051】
次に、第1残差が第2決定木に入力される。そうすると、第2決定木に従って第2出力値が出力される。次に、第1残差から第2出力値を減算して第2残差を導出する第2残差導出処理が行われる。例えば、第2出力値が1.5であるとする。この場合、4-1.5=2.5が第2残差として出力される。
【0052】
次に、第2残差が第3決定木に入力される。そうすると、第3決定木に従って第3出力値が出力される。次に、第2残差から第3出力値を減算して第3残差を導出する第3残差導出処理が行われる。例えば、第3出力値が3であるとする。この場合、2.5-3=-0.5が第3残差として出力される。
【0053】
次に、第3残差が第4決定木に入力される。そうすると、第4決定木に従って第4出力値が出力される。その後、第1出力値、第2出力値、第3出力値および第4出力値を加算する加算処理が行われる。加算処理の出力値は、勾配ブースティング決定木から出力される出力データ86、すなわち、システムCOPの予測値である。例えば、第4出力値が-0.5であるとする。この場合、7+1.5+3+(-0.5)=11が出力データ86として出力される。
【0054】
このように、勾配ブースティング決定木では、1つ前の決定木の出力値についての残差を次の決定木に入力することが繰り返され、各々の決定木の出力値の合計値が最終的な予測値とされる。勾配ブースティング決定木では、入力データ84に対応する出力データ86の予測値を高精度に導出することができる。
【0055】
ここでは、機械学習モデル82の種類が勾配ブースティング決定木である例を説明した。しかし、勾配ブースティング決定木に限らず、既存の機械学習モデル82を適用してもよい。
【0056】
図5は、条件データベース72の一例を示す図である。図5で示すように、熱媒体温度差、熱媒体流量、熱源機運転条件データおよび補機運転条件データの項目を含むデータのセットを条件セットとする。なお、条件セットは、例示した項目に加え、熱源システムに関するその他の項目が追加されてもよい。
【0057】
条件データベース72は、1の熱負荷に対して複数パターンの条件セットが関連付けられたデータ群が、複数の熱負荷についてそれぞれ設定されたものである。
【0058】
例えば、熱負荷「A」に対して、条件セット「A1」、条件セット「A2」、条件セット「A3」などが関連付けられている。また、1の条件セット(例えば、条件セット「A1」)は、少なくともいずれかの項目において、他の条件セット(例えば、条件セット「A2」など)とは異なる値となっている。なお、補機運転条件データの項目の値を異ならせる場合、冷水1次ポンプINV周波数、冷水2次ポンプINV周波数、冷却塔ファンINV周波数および冷却水ポンプINV周波数の少なくともいずれかの項目の値を異ならせるようにする。
【0059】
また、熱負荷「A」だけでなく、他の熱負荷である熱負荷「B」および熱負荷「C」などについても、それぞれ複数パターンの条件セットが関連付けられている。
【0060】
なお、上述のように、熱負荷は、熱媒体温度差と熱媒体流量との積に相当する。このため、例えば、条件セット「A1」における熱媒体温度差と熱媒体流量との積、条件セット「A2」における熱媒体温度差と熱媒体流量との積、条件セット「A3」における熱媒体の温度差と熱媒体流量との積などは、共に、熱負荷「A」に相当する。
【0061】
図6は、予測実行部66および最適値決定部68を説明する概念図である。図6では、学習済みの機械学習モデル82が既に準備されているものとする。
【0062】
予測実行部66は、冷水入口温度、冷水出口温度および熱媒体流量の現在値をそれぞれ取得し、熱媒体温度差の現在値および熱負荷の現在値を導出する。次に、予測実行部66は、熱負荷の現在値を条件データベース72に当てはめて、熱負荷の現在値に対応する複数パターンの条件セットを取得する。例えば、熱負荷の現在値が熱負荷「A」であれば、予測実行部66は、熱負荷「A」に対応するすべてのパターンの条件セットを取得する。
【0063】
予測実行部66は、取得した複数パターンの条件セットのうち、所定の抽出条件を満たす条件セットを抽出する。具体的には、条件セットの少なくともいずれかの項目を、抽出条件の対象となる対象項目とする。そして、予測実行部66は、条件セットにおける対象項目の値が、対象項目の現在値を含む所定範囲内にある条件セットを抽出する。所定範囲は、対象項目ごとに設定される。例えば、冷凍機10の設定温度を対象項目とした場合、対象項目の現在値を含む所定範囲は、冷凍機10の設定温度の現在値±1℃などに設定される。この場合、予測実行部66は、条件セットにおける冷凍機10の設定温度が、現在値±1℃の範囲内となっている条件セットを抽出する。図6の例では、条件セット「A2」および条件セット「A3」は抽出条件を満たして抽出されているが、条件セット「A1」は抽出条件を満たさなかったため抽出されていない。なお、図示を省略するが、条件セット「A1」~「A3」以外の他の条件セットについても、所定の抽出条件を満たす条件セットが抽出される。また、対象項目および所定範囲は、任意に設定可能である。
【0064】
なお、対象項目は、1項目に限らず、複数項目とされてもよい。この場合、予測実行部66は、対象項目とされた複数の項目すべてにおいて抽出条件を満たす条件セットを抽出する。
【0065】
予測実行部66は、抽出された条件セットを入力データ84として機械学習モデル82に入力して、入力した条件セットごとに(換言すると、抽出された条件セットごとに)システムCOPの予測値を導出する。
【0066】
例えば、予測実行部66は、条件セット「A2」を機械学習モデル82に入力して条件セット「A2」に対応するシステムCOPの予測値を導出する。予測実行部66は、条件セット「A3」を機械学習モデル82に入力して条件セット「A3」に対応するシステムCOPの予測値を導出する。同様にして、予測実行部66は、抽出された条件セットについて、それぞれのシステムCOPの予測値を導出する。
【0067】
なお、ここでは、熱負荷の現在値に対応する複数パターンの条件セットのうち所定の抽出条件を満たした条件セットについてシステムCOPの予測値を導出する例を説明していた。しかし、予測実行部66は、所定の抽出条件による抽出を省略して、熱負荷の現在値に対応するすべての条件セットについてシステムCOPの予測値を導出してもよい。
【0068】
最適値決定部68は、予測実行部66で導出された複数のシステムCOPの予測値を各々比較し、そのうち最も高いシステムCOPの予測値を選択する。最適値決定部68は、選択した最も高いシステムCOPの予測値に対応する条件セットの各値を最適値に決定する。例えば、導出された複数のシステムCOPの予測値のうち、条件セット「A2」に対応するシステムCOPの予測値が、最も高いシステムCOPの予測値であるとする。その場合、最適値決定部68は、条件セット「A2」の各値を各項目の最適値に決定する。
【0069】
また、例えば、条件セット「A2」に対応するシステムCOPの予測値と、条件セット「A3」に対応するシステムCOPの予測値とが、共に最も高い値であるというように、最も高いシステムCOPの予測値に対応する条件セットが複数存在する場合がある。以後、最も高いシステムCOPの予測値に対応する条件セットを、対応条件セットと呼ぶ場合がある。
【0070】
最適値決定部68は、対応条件セットが複数ある場合、熱源機運転条件データおよび補機運転条件データのいずれか一方または双方について現在値から対応条件セットの値に変化させる際の変化量が最も小さい対応条件セットの各値を最適値に決定する。これにより、最適値決定部68は、より確実に最適値を決定することができる。
【0071】
例えば、最適値決定部68は、冷水1次ポンプINV周波数の現在値から対応条件セットにおける冷水1次ポンプINV周波数の値を減算して冷水1次ポンプINV周波数の変化量を導出する。最適値決定部68は、冷水2次ポンプINV周波数の現在値から対応条件セットにおける冷水2次ポンプINV周波数の値を減算して冷水2次ポンプINV周波数の変化量を導出する。最適値決定部68は、冷却塔ファンINV周波数の現在値から対応条件セットにおける冷却塔ファンINV周波数の値を減算して冷却塔ファンINV周波数の変化量を導出する。最適値決定部68は、冷却水ポンプINV周波数の現在値から対応条件セットにおける冷却水ポンプINV周波数の値を減算して冷却水ポンプINV周波数の変化量を導出する。
【0072】
最適値決定部68は、冷水1次ポンプINV周波数の変化量と、冷水2次ポンプINV周波数の変化量と、冷却塔ファンINV周波数の変化量と、冷却水ポンプINV周波数の変化量とを加算して、補機運転条件データの変化量を導出する。最適値決定部68は、この補機運転条件データの変化量を対応条件セットごとに導出して比較する。最適値決定部68は、補機運転条件データの変化量が最も小さい対応条件セットを選択し、選択した対応条件セットの各値を最適値に決定する。
【0073】
なお、ここでは、冷水1次ポンプINV周波数の変化量と、冷水2次ポンプINV周波数の変化量と、冷却塔ファンINV周波数の変化量と、冷却水ポンプINV周波数の変化量とを加算して、補機運転条件データの変化量を導出していた。しかし、補機運転条件データの変化量は、この態様に限らない。例えば、冷水1次ポンプINV周波数の変化量、冷水2次ポンプINV周波数の変化量、冷却塔ファンINV周波数の変化量、および、冷却水ポンプINV周波数の変化量のうち、いずれか一部を加算して補機運転条件データの変化量としてもよいし、いずれかのみを補機運転条件データの変化量としてもよい。
【0074】
また、最適値決定部68は、冷凍機10の設定温度の現在値から対応条件セットにおける冷凍機10の設定温度の値を減算して熱源機運転条件データの変化量を導出してもよい。そして、最適値決定部68は、熱源機運転条件データの変化量を対応条件セットごとに導出して比較し、熱源機運転条件データの変化量が最も小さい対応条件セットの各値を最適値に決定してもよい。
【0075】
また、最適値決定部68は、熱源機運転条件データの変化量と、補機運転条件データの変化量とを加算して、全体の変化量を導出してもよい。そして、最適値決定部68は、全体の変化量を対応条件セットごとに導出して比較し、全体の変化量が最も小さい対応条件セットの各値を最適値に決定してもよい。
【0076】
図7は、予測実行部66および最適値決定部68の処理の流れを説明するフローチャートである。予測実行部66は、予め設定された制御周期ごとに訪れる割込みタイミングとなると、図7の一連の処理を開始する。
【0077】
割込みタイミングとなると、予測実行部66は、熱負荷の現在値を取得する(S10)。具体的には、予測実行部66は、冷水入口温度の現在値、冷水出口温度の現在値および熱媒体流量の現在値を取得し、それらから熱負荷の現在値を導出する。
【0078】
次に、予測実行部66は、熱負荷の現在値を条件データベース72に当てはめて、熱負荷の現在値に対応する条件セットを取得する(S11)。次に、予測実行部66は、取得した条件セットのうち所定の抽出条件を満たす条件セットを抽出する(S12)。次に、予測実行部66は、抽出された条件セットを機械学習モデル82に入力して、入力した条件セットごとにシステムCOPの予測値を導出する(S13)。
【0079】
次に、最適値決定部68は、導出されたシステムCOPの予測値の中から最も高いシステムCOPの予測値を選択する(S14)。次に、最適値決定部68は、最も高いシステムCOPの予測値に対応する対応条件セットが複数あるか否かを判断する(S15)。
【0080】
対応条件セットが複数ある場合(S15におけるYES)、最適値決定部68は、熱源機運転条件データおよび補機運転条件データのいずれか一方または双方について現在値から対応条件セットの値に変化させる際の変化量を導出する(S16)。そして、最適値決定部68は、変化量が最も小さい対応条件セットの各値を最適値に決定し(S17)、一連の処理を終了する。
【0081】
対応条件セットが1セットである場合(S15におけるNO)、最適値決定部68は、対応条件セットの各値を最適値に決定し(S17)、一連の処理を終了する。
【0082】
このようにして各項目の最適値が決定されると、指令部60は、決定された最適値を指令値として各部に送信する。例えば、条件セット「A2」の各値が最適値に決定されたとする。この場合、指令部60は、条件セット「A2」の冷凍機10の設定温度の値を冷凍機10に指示する。指令部60は、条件セット「A2」の冷水1次ポンプINV周波数の値を冷水1次ポンプインバータ32に指示する。指令部60は、条件セット「A2」の冷水2次ポンプINV周波数の値を冷水2次ポンプインバータ34に指示する。指令部60は、条件セット「A2」の冷却塔ファンINV周波数の値を冷却塔ファンインバータ40に指示する。指令部60は、条件セット「A2」の冷却水ポンプINV周波数の値を冷却水ポンプインバータ42に指示する。
【0083】
図8は、冷凍機システム1の効果を説明する図である。図8(A)は、熱負荷の時間推移の一例を示している。図8(B)は、システムCOPの時間推移の一例を示している。図8(A)および図8(B)は、時間軸が共通となっている。図8(A)および図8(B)の破線は、最適値決定部68によって最適値が決定されて各部に指示されたタイミングT1を示している。つまり、タイミングT1より前は、最適制御前であり、タイミングT1より後は、最適制御後となっている。
【0084】
図8(A)で示すように、タイミングT1後の熱負荷は、タイミングT1より前の熱負荷と大凡同程度となっている。これに対し、図8(B)で示すように、タイミングT1後のシステムCOPは、タイミングT1より前のシステムCOPに対して大幅に上昇している。
【0085】
このように、本実施形態の熱源システムの一例である冷凍機システム1によれば、熱負荷、すなわち、熱源の能力を維持しつつ、システム全体の消費電力を抑制することができる。したがって、本実施形態によれば、熱源システムの省エネルギー化が可能となる。
【0086】
また、本実施形態の熱源システムでは、機械学習を利用して熱源システムの各部の指令値が決定されるため、各部の指令値を人為的に決定する態様と比べ、より省エネルギー化が可能となる。
【0087】
また、本実施形態の熱源システムでは、熱負荷の現在値を条件データベースに当てはめて得られる条件セットのうち所定の抽出条件を満たす条件セットが抽出された後、抽出された条件セットが機械学習モデル82に入力される。このため、本実施形態の熱源システムでは、システムCOPの予測値を導出する処理負荷を減少させることができる。
【0088】
図9は、サンプルセットの取得例を示す図である。図9では、熱源システムの導入の1年目から4年目の時系列を示している。図9のハッチング部分は、サンプルセットの取得時期を示している。図9の白抜き部分は、最適値決定部68による最適値の決定制御が行われている時期を示している。
【0089】
データ取得部62は、まず、熱源システムの導入1年目の春季の初旬にサンプルセットを記憶部50に蓄積していく。サンプルセットの取得時期では、最適値決定部68による最適値の決定制御は中断される。データ取得部62は、サンプルセットの取得時期において、熱源システムの各機器の指令値を意図的に変化させてサンプルセットを蓄積していく。モデル生成部64は、導入1年目の春季の初旬に取得されたサンプルセットを用いて、導入1年目の春季の初旬の最後に、機械学習モデル82を生成する。
【0090】
導入1年目の春季の中旬および下旬では、最適値決定部68による最適値の決定制御が行われる。
【0091】
導入1年目の夏季の初旬となると、最適値の決定制御が中断され、データ取得部62は、サンプルセットを記憶部50に蓄積していく。モデル生成部64は、導入1年目の春季および夏季に取得されたサンプルセットを用いて、導入1年目の夏季の初旬の最後に、機械学習モデル82を生成して更新する。
【0092】
導入1年目の夏季の中旬、下旬、導入1年目の秋季では、最適値決定部68による最適値の決定制御が行われる。
【0093】
導入1年目の冬季の初旬となると、最適値の決定制御が中断され、データ取得部62は、サンプルセットを記憶部50に蓄積していく。モデル生成部64は、導入1年目の春季、夏季および冬季に取得されたサンプルセットを用いて、導入1年目の冬季の初旬の最後に、機械学習モデル82を生成して更新する。
【0094】
導入1年目の冬季の中旬、下旬、導入2年目、導入3年目では、最適値決定部68による最適値の決定制御が行われる。
【0095】
そして、導入4年目では、導入1年目と同様の時期に、サンプルセットの取得が行われ、蓄積データ70の更新が行われる。そして、導入4年目では、蓄積データ70の更新に合わせて、機械学習モデル82が更新される。
【0096】
このように、データ取得部62は、熱源システムの導入後、定期的にサンプルセットの蓄積を繰り返し、蓄積データ70を定期的に更新する。モデル生成部64は、定期的に更新された蓄積データ70を用いて、機械学習モデル82を定期的に更新する。そして、最適値決定部68は、定期的に更新された機械学習モデル82を用いて最適値の決定制御を行う。これにより、最適値決定部68は、熱源システムにおける熱源機または熱源補機などの各機器の経年劣化を反映した最適値を決定することができる。
【0097】
以上、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0098】
例えば、上記実施形態では、冷凍機システム1を例示して説明していた。しかし、熱源システムは、冷凍機10を含む冷凍機システム1に限らない。例えば、熱源システムは、熱源機としてチラーまたはヒートポンプなどを含むシステムであってもよい。また、熱源機は、電気式に限らずガス式であってもよい。また、熱源機は、熱媒体の冷却方式が水冷式であってもよいし、空冷式であってもよい。また、熱源機は、冷凍機10のように熱媒体を冷却して熱負荷設備に供給する構成に限らず、ヒータのような熱媒体を加熱して供給する構成であってもよい。
【0099】
また、上記実施形態では、モデル生成部64、予測実行部66、最適値決定部68の各機能が、指令部60として機能する制御装置24で実現されていた。しかし、モデル生成部64、予測実行部66、最適値決定部68は、指令部60として機能する制御装置24とは別のコンピュータで実現されてもよい。また、モデル生成部64、予測実行部66、最適値決定部68の各機能が複数のコンピュータに分散されて実現されてもよい。この場合、モデル生成部64、予測実行部66、最適値決定部68の各機能を有するコンピュータは、制御装置24の記憶部50から必要なデータを取得して各処理を行ってもよい。
【0100】
また、モデル生成部64の機能を備える事業者と、予測実行部66および最適値決定部68の機能を備える事業者とが異なっていてもよい。つまり、予め生成された機械学習モデル82が提供され、提供された機械学習モデル82を用いて、最適な指令値を決定する処理を行う態様としてもよい。
【符号の説明】
【0101】
1 冷凍機システム
10 冷凍機
12 冷水負荷設備
16 冷水1次ポンプ
18 冷水2次ポンプ
20 冷却塔
22 冷却水ポンプ
50 記憶部
64 モデル生成部
66 予測実行部
68 最適値決定部
72 条件データベース
82 機械学習モデル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【手続補正書】
【提出日】2021-04-27
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱負荷設備から送られる熱媒体を冷却または加熱して前記熱負荷設備に供給する熱源機と、
前記熱源機による前記熱媒体の供給に関与する1または複数の熱源機補機と、
前記熱媒体が前記熱源機に送入される入口における前記熱媒体の温度と、前記熱媒体が前記熱源機から送出される出口における前記熱媒体の温度との温度差、前記熱媒体の流量、前記熱源機の運転条件を示す熱源機運転条件データおよび前記熱源機補機の運転条件を示す補機運転条件データを含むセットを条件セットとし、1の熱負荷に対して複数パターンの前記条件セットが関連付けられたデータ群が、複数の前記熱負荷についてそれぞれ設定された条件データベースが記憶された記憶部と、
前記熱源機および前記熱源機補機を含む全体の消費電力に対する前記熱負荷を示すシステムCOPを前記条件セットの入力に応じて予測する機械学習モデルに、前記熱負荷の現在値を前記条件データベースに当てはめて得られる前記条件セットをそれぞれ入力して、入力した前記条件セットごとに前記システムCOPの予測値を導出する予測実行部と、
前記熱負荷ごとに、前記予測実行部で導出された複数の前記システムCOPの予測値のうち最も高い前記システムCOPの予測値に対応する前記条件セットの各値を最適値に決定する最適値決定部と、
を備える熱源システム。
【請求項2】
前記予測実行部は、前記熱負荷の現在値を前記条件データベースに当てはめて得られる前記条件セットのうち、所定の抽出条件を満たす前記条件セットを抽出し、抽出した前記条件セットを前記機械学習モデルにそれぞれ入力して、入力した前記条件セットごとに前記システムCOPの予測値を導出する請求項1に記載の熱源システム。
【請求項3】
前記最適値決定部は、最も高い前記システムCOPの予測値に対応する前記条件セットを示す対応条件セットが複数ある場合、前記熱負荷ごとに、前記熱源機運転条件データおよび前記補機運転条件データのいずれか一方または双方について現在値から前記対応条件セットの値に変化させる際の変化量が最も小さい前記対応条件セットの各値を最適値に決定する請求項1または2に記載の熱源システム。
【請求項4】
前記機械学習モデルの種類は、勾配ブースティング決定木である請求項1から3のいずれか1項に記載の熱源システム。
【請求項5】
前記条件セットおよび前記システムCOPを教師データとして機械学習を行い、前記機械学習モデルを生成するモデル生成部をさらに備える請求項1から4のいずれか1項に記載の熱源システム。
【請求項6】
前記モデル生成部は、前記機械学習モデルを定期的に更新する請求項5に記載の熱源システム。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0006
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の熱源システムは、熱負荷設備から送られる熱媒体を冷却または加熱して熱負荷設備に供給する熱源機と、熱源機による熱媒体の供給に関与する1または複数の熱源機補機と、熱媒体が熱源機に送入される入口における熱媒体の温度と、熱媒体が熱源機から送出される出口における熱媒体の温度との温度差、熱媒体の流量、熱源機の運転条件を示す熱源機運転条件データおよび熱源機補機の運転条件を示す補機運転条件データを含むセットを条件セットとし、1の熱負荷に対して複数パターンの条件セットが関連付けられたデータ群が、複数の熱負荷についてそれぞれ設定された条件データベースが記憶された記憶部と、熱源機および熱源機補機を含む全体の消費電力に対する熱負荷を示すシステムCOPを条件セットの入力に応じて予測する機械学習モデルに、熱負荷の現在値を条件データベースに当てはめて得られる条件セットをそれぞれ入力して、入力した条件セットごとにシステムCOPの予測値を導出する予測実行部と、熱負荷ごとに、予測実行部で導出された複数のシステムCOPの予測値のうち最も高いシステムCOPの予測値に対応する条件セットの各値を最適値に決定する最適値決定部と、を備える。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0008
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0008】
また、最適値決定部は、最も高いシステムCOPの予測値に対応する条件セットを示す対応条件セットが複数ある場合、熱負荷ごとに、熱源機運転条件データおよび補機運転条件データのいずれか一方または双方について現在値から対応条件セットの値に変化させる際の変化量が最も小さい対応条件セットの各値を最適値に決定するとしてもよい。