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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022116834
(43)【公開日】2022-08-10
(54)【発明の名称】コイル製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 13/00 20060101AFI20220803BHJP
   C25D 13/16 20060101ALI20220803BHJP
   C25D 13/10 20060101ALI20220803BHJP
   H02K 3/04 20060101ALI20220803BHJP
   H02K 15/12 20060101ALI20220803BHJP
   H01F 41/12 20060101ALI20220803BHJP
【FI】
C25D13/00 308A
C25D13/16 A
C25D13/00 309
C25D13/10 A
H02K3/04 E
H02K15/12 D
H01F41/12 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021013221
(22)【出願日】2021-01-29
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】弁理士法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】小薮 駿介
(72)【発明者】
【氏名】蟹江 隆久
(72)【発明者】
【氏名】本田 寛子
【テーマコード(参考)】
5E044
5H603
5H615
【Fターム(参考)】
5E044CA01
5E044CB10
5H603BB07
5H603BB12
5H603CA01
5H603CA05
5H603CB22
5H603CC07
5H603CC17
5H603CD12
5H603CD22
5H603CE02
5H603EE11
5H615AA01
5H615BB05
5H615BB14
5H615PP01
5H615PP12
5H615QQ03
5H615QQ07
5H615QQ12
5H615RR07
5H615SS36
5H615TT03
5H615TT26
(57)【要約】
【課題】コイルエンド部とスロット収容部との間で絶縁膜の有意な膜厚差を電着塗装により確保する。
【解決手段】第1絶縁層と第2絶縁層とを含む絶縁膜を有するコイルの製造方法であって、絶縁膜が付与される前かつ成形後のコイル素材を準備する準備工程と、コイル素材のコイルエンド部とスロット収容部とを電着塗装することで、第1絶縁層を形成する第1電着塗装工程と、第1電着塗装工程の後に実行され、コイル素材のコイルエンド部とスロット収容部のうちの、コイルエンド部だけを電着塗装することで、コイル素材のコイルエンド部における第1絶縁層の外側に第2絶縁層を形成する第2電着塗装工程とを含む、製造方法が開示される。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1絶縁層と第2絶縁層とを含む絶縁膜を有するコイルの製造方法であって、
前記絶縁膜が付与される前かつ成形後のコイル素材を準備する準備工程と、
前記コイル素材のコイルエンド部とスロット収容部とを電着塗装することで、前記第1絶縁層を形成する第1電着塗装工程と、
前記第1電着塗装工程の後に実行され、前記コイル素材のコイルエンド部とスロット収容部のうちの、コイルエンド部だけを電着塗装することで、前記コイル素材のコイルエンド部における前記第1絶縁層の外側に前記第2絶縁層を形成する第2電着塗装工程とを含む、製造方法。
【請求項2】
前記第1電着塗装工程及び前記第2電着塗装工程は、共通の電着槽において実行される、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記第1電着塗装工程は、第1塗料を有する第1電着槽において実行され、
前記第2電着塗装工程は、前記第1塗料とは異なる第2塗料を有する第2電着槽において実行される、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記第2塗料は、前記絶縁膜の比誘電率を低下させる機能を有する第1フィラーを含む、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記第1塗料は、前記第1フィラーを含まない、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記第1塗料又は前記第2塗料は、部分放電に対する前記絶縁膜の耐性を高める機能を有する第2フィラーを含む、請求項4又は5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記第1塗料及び前記第2塗料は、樹脂成分が同じである、請求項3~6のうちのいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記コイル素材は、U字状のセグメントコイルの形態である、請求項1~7のうちのいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記第1電着塗装工程及び前記第2電着塗装工程では、前記コイル素材は、U字状の開放側端部が保持された状態で、電着塗装され、
前記第2電着塗装工程の後に、前記コイル素材における前記開放側端部に、前記絶縁膜を形成するための被膜を付与する工程を更に含む、請求項8に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、コイル製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の電着槽を利用してコイル素材のコイルエンド部とスロット収容部との間で絶縁膜の厚みを異ならせる技術が知られている(例えば特許文献1)。この技術では、一の電着槽において、コイルエンド部とスロット収容部のうちの、コイルエンド部に絶縁膜の第1層を形成してから、他の一の電着槽において、コイルエンド部とスロット収容部の双方に、絶縁膜の第2層を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-235648号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような従来技術では、コイルエンド部のみに絶縁膜(第1層)が付与された状態で、コイルエンド部とスロット収容部の双方を、他の一の電着槽に浸漬するので、コイルエンド部における絶縁膜の第2層の膜厚を有意に確保することが難しい。これは、絶縁膜(第1層)がすでに形成されたコイルエンド部と塗料との間の電位差は、他の一の電着槽において、スロット収容部と塗料との間の電位差に比べて小さくなりやすく、更なる絶縁膜(第2層)が形成され難いためである。この結果、コイルエンド部とスロット収容部との間で絶縁膜の有意な膜厚差を確保することが難しい。なお、有意な膜厚差を確保しようとすると長時間の第2層用の電着工程が必要となり、スロット収容部の膜厚が不要に大きくなり、ステータコアのスロット内における導体の占有率(コイル占積率)が低下するおそれがある。
【0005】
そこで、1つの側面では、コイルエンド部とスロット収容部との間で絶縁膜の有意な膜厚差を電着塗装により確保することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1つの側面では、第1絶縁層と第2絶縁層とを含む絶縁膜を有するコイルの製造方法であって、
前記絶縁膜が付与される前かつ成形後のコイル素材を準備する準備工程と、
前記コイル素材のコイルエンド部とスロット収容部とを電着塗装することで、前記第1絶縁層を形成する第1電着塗装工程と、
前記第1電着塗装工程の後に実行され、前記コイル素材のコイルエンド部とスロット収容部のうちの、コイルエンド部だけを電着塗装することで、前記コイル素材のコイルエンド部における前記第1絶縁層の外側に前記第2絶縁層を形成する第2電着塗装工程とを含む、製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0007】
1つの側面では、コイルエンド部とスロット収容部との間で絶縁膜の有意な膜厚差を電着塗装により確保することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】ステータの軸方向に沿った断面図である。
図2】一のコイル片の3面図である。
図3A】実施例1によるコイル片におけるスロット収容部の概略的な断面図である。
図3B】実施例1によるコイル片における渡り部(コイルエンド部)の概略的な断面図である。
図4A】実施例1による第1電着塗装工程の概要の説明図である。
図4B】実施例1による第2電着塗装工程の概要の説明図である。
図4C】実施例1による一のワークを示す概略的な平面図である。
図5A】実施例2によるコイル片におけるスロット収容部の概略的な断面図である。
図5B】実施例2によるコイル片における渡り部(コイルエンド部)の概略的な断面図である。
図6A】実施例2による第1電着塗装工程の概要の説明図である。
図6B】実施例2による第2電着塗装工程の概要の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら各実施例について詳細に説明する。なお、図面の寸法比率はあくまでも一例であり、これに限定されるものではなく、また、図面内の形状等は、説明の都合上、部分的に誇張している場合がある。
【0010】
以下では、まず、本実施例の回転電機用のステータ10について説明してから、コイル製造方法について説明する。
【0011】
図1は、ステータコア112にコイル片52が組み付けられた状態のステータ10の軸方向に沿った断面図である。なお、図1には、図中のQ2部の拡大図が併せて示される。図2は、複数のコイル片52のうちの、一のコイル片52の3面図である。
【0012】
ステータコイル114は、U相コイル、V相コイル、及びW相コイル(以下、U、V、Wを区別しない場合は「相コイル」と称する)を含む。各相コイルの基端は、入力端子(図示せず)に接続されており、各相コイルの末端は、他の相コイルの末端に接続されて中性点を形成する。すなわち、ステータコイル114は、スター結線される。ただし、ステータコイル114の結線態様は、必要とするモータ特性等に応じて、適宜、変更してもよく、例えば、ステータコイル114は、スター結線に代えて、デルタ結線されてもよい。
【0013】
ステータコイル114の各相コイルは、複数のコイル片52を結合して構成される。コイル片52は、相コイルを、組み付けやすい単位(例えば2つのスロット23に挿入される単位)で分割したセグメントコイル(セグメント導体)の形態である。
【0014】
一のコイル片52は、軸方向の一方側のセグメント導体52Aと、軸方向の他方側のセグメント導体52Bとを結合してなる。
【0015】
セグメント導体52A及びセグメント導体52Bは、それぞれ、一対の直線状のスロット収容部50と、当該一対のスロット収容部50を連結するコイルエンド部(渡り部)54と、を有したU字状に成形されてよい。コイル片52をステータコア112に組み付ける際、一対のスロット収容部50は、それぞれ、スロット23に挿入される(図1参照)。この場合、コイル片52は、例えば軸方向に組み付けることができる。
【0016】
一のスロット23には、図1に示すコイル片52のスロット収容部50が複数、径方向に並んで挿入される。従って、ステータコア112の軸方向の両端には、周方向に延びるコイルエンド部54が複数、径方向に並ぶ。なお、一のスロット23には、同相の相コイルを形成するコイル片52のスロット収容部50だけが挿入される。ここでは、一例として、一のスロット23に6つのコイル片52が組み付けられる(すなわち6層巻構造である)。
【0017】
なお、図2に示す例では、セグメント導体52A及びセグメント導体52Bは、それぞれ、周方向両側のスロット収容部50のうちの一方が結合可能であるのに対して、他方が、径方向に1層分だけ互いに離間する方向にオフセットする。具体的には、セグメント導体52A及びセグメント導体52Bは、それぞれ、対向面42の頂部にオフセット部521A、521Bを備え、オフセット部521A、521Bは、径方向で逆方向のオフセットを実現する。
【0018】
コイル片52は、重ね巻の形態でステータコア112に巻装される。この場合、一のコイル片52を構成するセグメント導体52A及びセグメント導体52Bは、図2に示すように、それぞれ、周方向両側のスロット収容部50のうちの、一方側のスロット収容部50の結合部40同士(すなわち開放側端部同士)が結合される。この場合、他方側のスロット収容部50は、他の一のコイル片52に結合される。この際、結合部40は、互いに全体が径方向で対向して面接触する対向面42を有し、対向面42同士が重なる状態で結合部40同士が結合される。
【0019】
なお、図1及び図2では、特定の構造のステータコア112及びステータコイル114が示されるが、ステータコア112及びステータコイル114の構造は、ステータコイル114が絶縁膜130A、130Bを有する限り、任意である。また、セグメントコイルの形態のコイル片は、コイル片52のようなステータコア112のスロット23内で結合される形態に限られず、軸方向一端側で結合される形態のような、他の形態であってもよい。また、ステータコイル114の巻き方も任意であり、波巻の形態等のような、上述したような重ね巻の形態以外の巻き方であってもよい。
次に、実施例ごとに、コイル絶縁膜構成とコイル製造方法について説明を行う。
【0020】
[実施例1]
まず、図3A及び図3Bを参照して、実施例1によるコイル片52の断面構造(絶縁膜130A等)について詳説する。図3Aは、実施例1によるコイル片52におけるスロット収容部50の概略的な断面図であり、図3Bは、実施例1によるコイル片52におけるコイルエンド部54の概略的な断面図である。
【0021】
コイル片52は、図3A及び図3Bに示すように、断面略矩形の線状導体(平角線)120を、絶縁膜130Aで被覆してなる。ここでは、線状導体は、一例として、銅により形成される。ただし、変形例では、線状導体は、鉄やアルミのような他の導体材料により形成されてもよい。また、線状導体の断面形状は、矩形以外であってもよい。
【0022】
本実施例では、絶縁膜130Aは、スロット収容部50とコイルエンド部54に対してそれぞれ異なる態様で形成される。具体的には、スロット収容部50における絶縁膜130Aは、第1電着塗装層1301Aを有するのに対して、コイルエンド部54における絶縁膜130Aは、第1電着塗装層1301Aと、第2電着塗装層1302Aとを有する。なお、本実施例では、スロット収容部50における絶縁膜130Aは、第1電着塗装層1301Aからなるが、他の層(第2電着塗装層1302Aとは異なる層)を含んでもよい。同様に、本実施例では、コイルエンド部54における絶縁膜130Aは、第1電着塗装層1301Aと、第2電着塗装層1302Aとからなるが、他の層を含んでもよい。
【0023】
また、本実施例では、コイルエンド部54において、第2電着塗装層1302Aは、第1電着塗装層1301Aよりも外側に形成される。すなわち、コイルエンド部54においては、スロット収容部50と同様に、第1電着塗装層1301Aが線状導体120に接する態様で設けられる。
【0024】
第1電着塗装層1301Aは、塗料により電着塗装して形成される層である。塗料は、ポリアミドイミド樹脂やポリイミド樹脂等を含む絶縁塗料や、エポキシ樹脂等を含む絶縁塗料であってよい。
【0025】
第2電着塗装層1302Aは、塗料により電着塗装して形成される層である。塗料は、第1電着塗装層1301Aを形成するための塗料と同一である。
【0026】
塗料は、部分放電に対する絶縁膜130Aの耐性を高める機能を有するフィラーを含んでもよい。かかるフィラーは、放電耐性を持つ材料であり、例えば、鱗片状マイカ粒子や、鱗片状シリカ粒子又はその類であってよい。このようなフィラーは、沿面距離を増加させる機能も有する。
【0027】
ところで、コイル片52は、コイルエンド部54においては、異なる相間での絶縁性を高める観点(すなわち部分放電の開始電圧を高める観点)から、絶縁膜130Aの厚みが比較的大きいほうが望ましい。また、コイルエンド部54においては、部分放電に対する耐性(部分放電現象が起こっても劣化し難い特性)が比較的高いことが望ましい。
【0028】
他方、コイル片52は、スロット23に収容されるスロット収容部50においては、スロット23内における導体の占有率(コイル占積率)を高める観点から、絶縁膜130Aが比較的薄いほうが望ましい。
【0029】
この点、本実施例では、コイル片52は、コイルエンド部54において、絶縁膜130Aが第1電着塗装層1301Aに加えて、第2電着塗装層1302Aを有するので、厚みを比較的に大きくすることができる。特に、本実施例では、第2電着塗装層1302Aは、スロット収容部50には設けられないので、スロット収容部50における導体の占有率に係る制約を受けることなく、所望の厚みに形成できる。これにより、所望の厚みに形成した第2電着塗装層1302Aによって、コイルエンド部54における絶縁性を効果的に高めることができる。また、塗料が、上述したフィラーを含む場合は、コイルエンド部54における部分放電に対する耐性を効果的に高めることができる。
【0030】
また、本実施例では、第2電着塗装層1302Aがスロット収容部50には設けられないので、スロット収容部50における絶縁膜130A(第1電着塗装層1301A)は、コイルエンド部54における絶縁膜130Aの望ましい構成に係る制約を受け難い。これにより、第1電着塗装層1301Aは、スロット収容部50における望ましい絶縁膜130Aの構成に適合するように、形成できる。従って、本実施例のように、第1電着塗装層1301Aは、所望の比較的薄い厚みに形成できる。この場合、スロット23内における導体の占有率(コイル占積率)は、好ましくは、63%以上であり、更に好ましくは、65%以上である。
【0031】
なお、本実施例において、塗料が、上述したフィラーを含む場合には、塗料が同フィラーを一切含まない場合に比べて、絶縁膜130Aの比誘電率がコイルエンド部54において高くなる。しかしながら、この場合に、部分放電が起きたとしても、上述した鱗片状の形態のフィラーによるバリア効果(すなわち、電気トリーの進展を防止する機能)によって、絶縁膜130Aの耐久性(寿命)は、塗料がフィラーを一切含まない場合(すなわち樹脂成分だけである場合)に比べて有意に高い。
【0032】
次に、図4A以降を参照して、実施例1によるコイル製造方法について詳説する。
【0033】
本実施例のコイル製造方法は、まず、絶縁膜130Aが付与される前かつ成形後のコイル素材を準備する準備工程を含む。なお、成形後のコイル素材は、例えば、直線状の線状導体を曲げ成形等してなる。成形後のコイル素材は、一部の成形だけが実行済みであってもよいし、例えば図2に示したコイル片52のセグメント導体52A、52Bに対応する形態へと成形が完了されていてもよい(図4C参照)。
【0034】
本実施例のコイル製造方法は、準備工程で準備したコイル素材(以下、「ワークW」とも称する)に対して絶縁膜130Aを電着塗装により付与する電着塗装工程を含む。なお、準備工程と電着塗装工程との間には、他の工程(例えば洗浄工程等)が含まれてもよい。
【0035】
ワークWにおける絶縁膜130Aを付与する対象部分(被塗部分)は、ワークW全体であってもよいし、ワークWの一部であってもよい。本実施例では、一例として、ワークWにおける絶縁膜130Aを付与する対象部分は、ワークWの略全体(開放側端部W3を除いた部分)であり、以下、単にワークWという。
【0036】
図4Aは、第1電着塗装工程の概要の説明図であり、図4Bは、第2電着塗装工程の概要の説明図である。図4Cは、一のワークWを示す概略的な平面図である。図4A及び図4Bには、Z軸が定義されており、また、Z軸に関して、Z方向に沿ったZ1側及びZ2側が定義されている。Z方向は、上下方向に対応し、Z1側及びZ2側は、それぞれ、上側と下側に対応する。
【0037】
電着塗装工程は、図4Aに示すように、ワークWを電着槽701に深く浸漬する第1工程と、図4Bに示すように、ワークWを電着槽701に浅く浸漬する第2工程と、を含む。第1工程及び第2工程は、この順で連続的に実行される。
【0038】
電着槽701には、塗料が満たされている。なお、図4A及び図4Bには、電着槽701に満たされた塗料がハッチング領域721で模式的に示されている。なお、塗料は上述したとおりである。
【0039】
電着槽701において、第1電極74と第2電極76との間の電位差が発生すると、塗料を介して直流電流が発生し(塗膜成分が電気泳動し)、電着槽701内に浸漬されたワークWの表面には、塗料の膜(塗膜)が析出(電着)される。このようにして形成される塗料の膜が、絶縁膜130Aの第1電着塗装層1301A及び第2電着塗装層1302Aとなる。なお、第1電極74は、ワークWに直接的に導通され、第2電極76は、電着槽701内に配置され、第1電極74と第2電極76との間には、直流電源(整流器)78が電気的に接続される。また、第1工程中、電着槽701における塗料は、流れを有する。例えば、第1工程中、電着槽701には、供給側の配管(図示せず)から塗料が供給され、排出側から排出される。この場合、塗料は電着槽701を介して循環される。
【0040】
第1工程では、図4Aに示すように、電着槽701において、ワークWは、コイルエンド部54となる部位W1(図4C参照)と、スロット収容部50となる部位W2(図4C参照)とが、浸漬される。なお、電着槽701において、第2電極76は、コイルエンド部54となる部位W1と、スロット収容部50となる部位W2とに対向するように、Z方向に延在する。このようにして、ワークWは、電着槽701において、コイルエンド部54となる部位W1と、スロット収容部50となる部位W2とに、上述した第1電着塗装層1301Aが電着塗装される。
【0041】
第2工程では、図4Bに示すように、ワークWは、コイルエンド部54となる部位W1(図4C参照)と、スロット収容部50となる部位W2(図4C参照)のうちの、部位W1だけが、浸漬される。なお、電着槽701において、第2電極76は、コイルエンド部54となる部位W1に対向するように、Z方向に延在する。このようにして、ワークWは、コイルエンド部54となる部位W1だけに、上述した第2電着塗装層1302Aが電着塗装される。ただし、変形例では、塗料は、部位W2の一部(部位W1に隣接する一部)にも電着塗装されてもよいし、部位W1の一部(部位W2に隣接する一部)に、電着塗装されなくてもよい。すなわち、電着槽701に浸漬されたときの、塗料の液面は、コイルエンド部54となる部位W1と、スロット収容部50となる部位W2との間の境界位置に対して若干ずれてもよい。
【0042】
本実施例では、上述したように、第2工程は第1工程に後続して連続的に実行される。この場合、第2工程は、第1工程において電着塗装された第1電着塗装層1301Aが完全に硬化される前に、実行される。例えば、第2工程は、第1工程の実行後、すぐに実行されてもよいし、浸漬状態を維持したまま浸漬深さだけを変化させる態様で連続的に実行されてもよい。この場合、第1電着塗装層1301Aが絶縁体であるにもかからず、塗料は、ワークWにおける第1電着塗装層1301Aの表面上に析出できる(すなわち第2電着塗装層1302Aを適切に形成できる)。また、第1電着塗装層1301Aが上述したように比較的薄い膜厚で形成される場合には、第1電着塗装層1301Aの抵抗が比較的小さいため、塗料は、ワークWにおける第1電着塗装層1301Aの表面上に析出できる。
【0043】
なお、本実施例では、上述したように、第2工程は、第1工程と共通の電着槽701を利用して、第1工程に後続して連続的に実行されるので、第1電着塗装層1301A上での第2電着塗装層1302Aの析出が可能となる。しかしながら、変形例では、第2工程は、第1工程とは異なる電着槽を利用して実現されてもよい。この場合、それぞれの電着槽における塗料は同じとなされる。
【0044】
このようにして、本実施例によれば、電着塗装工程は、第1電着塗装層1301Aを形成する第1工程に後続して、第2電着塗装層1302Aを形成する第2工程を含む。これにより、スロット収容部50に第1電着塗装層1301Aを有しかつコイルエンド部54に第1電着塗装層1301A及び第2電着塗装層1302Aを有する上述したコイル片52を製造できる。
【0045】
ところで、第1工程が第2工程の後に実行される場合には、コイルエンド部54とスロット収容部50のうちの、コイルエンド部54だけに第2電着塗装層1302Aが付与されるので、続く第1工程において、コイルエンド部54に比較的厚みの大きい第1電着塗装層1301Aを付与し難くなる。これは、“発明が解決しようとする課題”の欄で上述したように、第1工程が第2工程の後に実行される場合には、第1工程における電着槽701において、第2電着塗装層1302Aがすでに形成されたコイルエンド部54と塗料との間の電位差は、第2電着塗装層1302Aのないスロット収容部50と塗料との間の電位差に比べて小さくなりやすいためである。なお、第1工程が第2工程の後に実行される場合に、有意な膜厚差(比較的厚みの大きい第1電着塗装層1301Aによる膜厚差)を確保しようとすると長時間の第1工程が必要となり、スロット収容部50の膜厚(第1電着塗装層1301Aの厚み)が不要に大きくなり、スロット23内おける導体の占積率低下のおそれがある。
【0046】
これに対して、第1工程が第2工程の前に実行される場合には、コイルエンド部54とスロット収容部50との間の膜厚差は、実質的に、第2工程によってコイルエンド部54だけに付与される第2電着塗装層1302Aの厚さ分となる。この場合、第2工程で第2電着塗装層1302Aを形成するだけで、コイルエンド部54とスロット収容部50との間で絶縁膜130Aの有意な膜厚差を容易に確保できる。なお、第2電着塗装層1302Aを比較的厚くするために(すなわち膜厚差を比較的大きくするために)第2工程の時間を比較的長くした場合でも、第2電着塗装層1302Aはスロット収容部50に付与されることはないので、スロット23内おける導体の占積率低下のおそれもない。このようにして、本実施例によれば、コイルエンド部54とスロット収容部50との間で絶縁膜130Aの有意な膜厚差を電着塗装により確保することが可能となる。
【0047】
なお、本実施例において、第1電着塗装層1301Aの厚みt1(図3B参照)と第2電着塗装層1302Aの厚みt2(図3B参照)との塗膜比率は、求められるモータ仕様に応じて適宜決定されてよい。例えば、第1電着塗装層1301Aの厚みt1と第2電着塗装層1302Aの厚みt2との塗膜比率は、0.5:9.5~9.5:0.5で品質特性とコスト特性を容易に変えることが可能である。
【0048】
ここで、本実施例の電着塗装工程では、ワークWは、図4A及び図4Bに示すように、その開放側端部W3が第1電極74側に保持された状態で、電着槽701に浸漬される。従って、ワークWにおける開放側端部W3には、第1電着塗装層1301Aや第2電着塗装層1302Aが付与されない。なお、開放側端部W3は、図2に示したセグメントコイルの形態のコイル片52の結合部40を形成する部位である。このようなコイル片52の結合部40(開放側端部W3)には、本実施例の電着塗装工程よりも後の工程で別途、絶縁膜130Aを形成するための被膜が付与されてよい。例えば、ステータコア112への組込み後に、電着塗装とは異なる任意の方法(例えばワニス塗布)で、かかる被膜が付与されてもよい。
【0049】
[実施例2]
以下の説明において、上述した実施例1と同様であってよい構成要素については、同一の参照符号を付して説明を省略する場合がある。
【0050】
まず、図5A及び図5Bを参照して、実施例2によるコイル片52の断面構造(絶縁膜130B等)について詳説する。図5Aは、実施例2によるコイル片52におけるスロット収容部50の概略的な断面図であり、図5Bは、実施例2によるコイル片52におけるコイルエンド部54の概略的な断面図である。
【0051】
コイル片52は、図5A及び図5Bに示すように、断面略矩形の線状導体(平角線)120を、絶縁膜130Bで被覆してなる。ここでは、線状導体は、一例として、銅により形成される。ただし、変形例では、線状導体は、鉄やアルミのような他の導体材料により形成されてもよい。また、線状導体の断面形状は、矩形以外であってもよい。
【0052】
本実施例では、絶縁膜130Bは、スロット収容部50とコイルエンド部54に対してそれぞれ異なる態様で形成される。具体的には、スロット収容部50における絶縁膜130Bは、第1電着塗装層1301Bを有するのに対して、コイルエンド部54における絶縁膜130Bは、第1電着塗装層1301Bと、第2電着塗装層1302Bとを有する。なお、本実施例では、スロット収容部50における絶縁膜130Bは、第1電着塗装層1301Bからなるが、他の層(第2電着塗装層1302Bとは異なる層)を含んでもよい。同様に、本実施例では、コイルエンド部54における絶縁膜130Bは、第1電着塗装層1301Bと、第2電着塗装層1302Bとからなるが、他の層を含んでもよい。
【0053】
また、本実施例では、コイルエンド部54において、第2電着塗装層1302Bは、第1電着塗装層1301Bよりも外側に形成される。すなわち、コイルエンド部54においては、スロット収容部50と同様に、第1電着塗装層1301Bが線状導体120に接する態様で設けられる。ただし、変形例では、コイルエンド部54において、第2電着塗装層1302Bは、第1電着塗装層1301Bよりも内側(すなわち線状導体120に接する態様)に形成されてもよい。
【0054】
第1電着塗装層1301Bは、第1塗料により電着塗装して形成される層である。第1塗料は、ポリアミドイミド樹脂やポリイミド樹脂等を含む絶縁塗料や、エポキシ樹脂等を含む絶縁塗料であってよい。
【0055】
第2電着塗装層1302Bは、第2塗料により電着塗装して形成される層である。第2塗料は、絶縁膜130Bの比誘電率を低下させる機能を有する第1フィラー、及び、部分放電に対する絶縁膜130Bの耐性を高める機能を有する第2フィラー、のうちの少なくともいずれか一方を含む。第2塗料は、第1塗料と樹脂成分が同じである。例えば、第2塗料は、第1塗料に、第1フィラー及び第2フィラーのうちの少なくともいずれか一方を添加したものであってよい。
【0056】
第1フィラーは、比誘電率が低い材料であり、例えば、気泡入りカプセルフィラー、フッ素系樹脂のPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)粒子又はその類であってよい。気泡入りカプセルは、例えば10μm程度のカプセル内に気体を封止する形態であってよい。なお、カプセル内に封止される気体の種類は任意である。
【0057】
第2フィラーは、放電耐性を持つ材料であり、例えば、鱗片状マイカ粒子や、鱗片状シリカ粒子又はその類であってよい。このような第2フィラーは、沿面距離を増加させる機能も有する。
【0058】
第2塗料は、好ましくは、第1フィラー及び第2フィラーの双方を含む。この場合、絶縁膜130Bの比誘電率を低下させる機能と、部分放電に対する絶縁膜130Bの耐性を高める機能の双方を実現できる。
【0059】
以下では、第2塗料の含まれるフィラーについて、第1フィラー及び第2フィラーを特に区別しないときは、単にフィラーと称する。
【0060】
ところで、コイル片52は、コイルエンド部54においては、異なる相間での絶縁性を高める観点(すなわち部分放電の開始電圧を高める観点)から、絶縁膜130Bの比誘電率が比較的低くかつ厚みが比較的大きいほうが望ましい。また、コイルエンド部54においては、部分放電に対する耐性(部分放電現象が起こっても劣化し難い特性)が比較的高いことが望ましい。
【0061】
他方、コイル片52は、スロット23に収容されるスロット収容部50においては、スロット23内における導体の占有率(コイル占積率)を高める観点から、絶縁膜130Bが比較的薄いほうが望ましい。また、スロット収容部50においては、コスト低減を図る観点から、絶縁膜130Bにはフィラー(上述した第1フィラーや第2フィラー)の含有量が低いほうが望ましい。また、スロット収容部50においては、コイルエンド部54とは異なり、部分放電に係る問題が生じ難いため、絶縁膜130Bの比誘電率をコイルエンド部54においてほど低くする必要性が乏しい。
【0062】
この点、本実施例では、コイル片52は、コイルエンド部54において、絶縁膜130Bが第1電着塗装層1301Bに加えて、第2電着塗装層1302Bを有するので、厚みを比較的に大きくすることができる。特に、本実施例では、第2電着塗装層1302Bは、スロット収容部50には設けられないので、スロット収容部50における導体の占有率に係る制約を受けることなく、所望の厚みに形成できる。これにより、所望の厚みに形成した第2電着塗装層1302Bによって、コイルエンド部54における絶縁性を効果的に高めることができる。また、第2電着塗装層1302Bが第1フィラーを含む場合は、絶縁膜130Bの比誘電率をコイルエンド部54において低くすることができ、コイルエンド部54における絶縁性を更に効果的に高めることができる。この場合、第2塗料における第1フィラーの含有量は、コイルエンド部54における絶縁膜130Bの比誘電率が、好ましくは2.0~3.2となるように、より好ましくは2.2~3.0となるように、適合されてよい。また、第2電着塗装層1302Bが第2フィラーを含む場合は、コイルエンド部54における部分放電に対する耐性を効果的に高めることができる。
【0063】
また、本実施例では、第2電着塗装層1302Bがスロット収容部50には設けられないので、スロット収容部50における絶縁膜130B(第1電着塗装層1301B)は、コイルエンド部54における絶縁膜130Bの望ましい構成に係る制約を受け難い。これにより、第1電着塗装層1301Bは、スロット収容部50における望ましい絶縁膜130Bの構成に適合するように、形成できる。従って、本実施例のように、第1電着塗装層1301Bは、フィラーを含まない第1塗料のみにより形成でき、かつ、所望の比較的薄い厚みに形成できる。この場合、スロット23内における導体の占有率(コイル占積率)は、好ましくは、63%以上であり、更に好ましくは、65%以上である。フィラーを含まない第1塗料のみによりスロット収容部50における絶縁膜130B(第1電着塗装層1301B)を形成することで、第1フィラーを含む塗料で第1電着塗装層1301Bを形成する場合に比べて、スロット収容部50における絶縁膜130Bの破壊電圧等の電気特性を高めることができるとともに、絶縁膜130Bと線状導体120との密着性を高めることができる。また、本実施例では、第1塗料が比較的高価なフィラーを含まないことにより、コスト低減を図ることができる。
【0064】
なお、本実施例において、第2塗料が第2フィラーを含みかつ第1フィラーを含まない場合には、第2塗料がフィラーを一切含まない場合に比べて、絶縁膜130Bの比誘電率がコイルエンド部54において高くなる。しかしながら、この場合に、部分放電が起きたとしても、鱗片状の形態の第2フィラーによるバリア効果(すなわち、電気トリーの進展を防止する機能)によって、絶縁膜130Bの耐久性(寿命)は、第2塗料がフィラーを一切含まない場合(すなわち樹脂成分だけである場合)に比べて有意に高い。
なお、絶縁膜に欠陥がない場合は、基本的には、絶縁破壊電圧>部分放電の開始電圧の関係がある。本実施例においては、以下の関係が成り立つ。
第2フィラー層の破壊電圧>第1フィラー層の破壊電圧>第1フィラー層の開始電圧>第2フィラー層の開始電圧
ここで、第1フィラー層とは、第2塗料が第1フィラーだけを含む場合の第2電着塗装層1302Bに対応し、第2フィラー層とは、第2塗料が第2フィラーだけを含む場合の第2電着塗装層1302Bに対応する。
【0065】
次に、図6A以降を参照して、実施例2によるコイル製造方法について詳説する。
【0066】
本実施例のコイル製造方法は、まず、絶縁膜130Bが付与される前かつ成形後のコイル素材を準備する準備工程を含む。準備工程は、上述した実施例1と同様である。
【0067】
本実施例のコイル製造方法は、準備工程で準備したコイル素材(ワークW)に対して絶縁膜130Bを電着塗装により付与する電着塗装工程を含む。なお、準備工程と電着塗装工程との間には、他の工程(例えば洗浄工程等)が含まれてもよい。
【0068】
ワークWにおける絶縁膜130Bを付与する対象部分(被塗部分)は、ワークW全体であってもよいし、ワークWの一部であってもよい。本実施例では、一例として、ワークWにおける絶縁膜130Bを付与する対象部分は、ワークWの略全体(開放側端部W3を除いた部分)であり、以下、単にワークWという。
【0069】
図6Aは、第1電着塗装工程の概要の説明図であり、図6Bは、第2電着塗装工程の概要の説明図である。
【0070】
電着塗装工程は、図6Aに示すように、ワークWを第1電着槽701Bに浸漬する第1工程と、図6Bに示すように、ワークWを第2電着槽702Bに浸漬する第2工程と、を含む。第1工程及び第2工程は、この順で連続的に実行される。
【0071】
第1電着槽701Bには、第1塗料が満たされている。なお、図6Aには、第1電着槽701Bに満たされた塗料がハッチング領域721Bで模式的に示されている。なお、第1塗料は上述したとおりである。
【0072】
第1電着槽701Bにおいて、第1電極74と第2電極76Aとの間の電位差が発生すると、第1塗料を介して直流電流が発生し(塗膜成分が電気泳動し)、第1電着槽701B内に浸漬されたワークWの表面には、第1塗料の膜(塗膜)が析出(電着)される。このようにして形成される第1塗料の膜が、絶縁膜130Bの第1電着塗装層1301Bとなる。なお、第1電極74は、ワークWに直接的に導通され、第2電極76Aは、第1電着槽701B内に配置され、第1電極74と第2電極76Aとの間には、直流電源(整流器)78が電気的に接続される。また、第1工程中、第1電着槽701Bにおける第1塗料は、流れを有する。例えば、第1工程中、第1電着槽701Bには、供給側の配管(図示せず)から第1塗料が供給され、排出側から排出される。この場合、第1塗料は第1電着槽701Bを介して循環される。
【0073】
第1電着槽701Bにおいては、ワークWは、コイルエンド部54となる部位W1(図4C参照)と、スロット収容部50となる部位W2(図4C参照)とが、浸漬される。なお、第1電着槽701Bにおいて、第2電極76Aは、コイルエンド部54となる部位W1と、スロット収容部50となる部位W2とに対向するように、Z方向に延在する。このようにして、ワークWは、第1電着槽701Bにおいて、コイルエンド部54となる部位W1と、スロット収容部50となる部位W2とに、上述した第1電着塗装層1301Bが電着塗装される。
【0074】
第2電着槽702Bには、第2塗料が満たされている。なお、図6Bには、第2電着槽702Bに満たされた塗料がハッチング領域722Bで模式的に示されている。なお、第2塗料は上述したとおりである。
【0075】
第2電着槽702Bにおいて、第1電極74と第2電極76Bとの間の電位差が発生すると、第2塗料を介して直流電流が発生し(塗膜成分が電気泳動し)、第2電着槽702B内に浸漬されたワークWの表面(第1電着塗装層1301Bの表面)には、第2塗料の膜(塗膜)が析出(電着)される。このようにして形成される第2塗料の膜が、絶縁膜130Bの第2電着塗装層1302Bとなる。なお、第1電極74は、ワークWに直接的に導通され、第2電極76Bは、第2電着槽702B内に配置され、第1電極74と第2電極76Bとの間には、直流電源(整流器)78が電気的に接続される。また、第2工程中、第2電着槽702Bにおける第2塗料は、流れを有する。例えば、第2工程中、第2電着槽702Bには、供給側の配管(図示せず)から第2塗料が供給され、排出側から排出される。この場合、第2塗料は第2電着槽702Bを介して循環される。
【0076】
第2電着槽702Bにおいては、ワークWは、コイルエンド部54となる部位W1(図4C参照)と、スロット収容部50となる部位W2(図4C参照)のうちの、部位W1だけが、浸漬される。なお、第2電着槽702Bにおいて、第2電極76Bは、コイルエンド部54となる部位W1に対向するように、Z方向に延在する。このようにして、ワークWは、コイルエンド部54となる部位W1だけに、上述した第2電着塗装層1302Bが電着塗装される。ただし、変形例では、第2塗料は、部位W2の一部(部位W1に隣接する一部)にも電着塗装されてもよいし、部位W1の一部(部位W2に隣接する一部)に、電着塗装されなくてもよい。すなわち、第2電着槽702Bに浸漬されたときの、第2塗料の液面は、コイルエンド部54となる部位W1と、スロット収容部50となる部位W2との間の境界位置に対して若干ずれてもよい。
【0077】
本実施例では、上述したように、第2工程は第1工程に後続して連続的に実行される。この場合、第2工程は、第1工程において電着塗装された第1電着塗装層1301Bが完全に硬化される前に、実行される。例えば、第2工程は、第1工程の実行後、すぐに実行される。この場合、第1電着塗装層1301Bが絶縁体であるにもかからず、第2塗料は、ワークWにおける第1電着塗装層1301Bの表面上に析出できる。また、第1電着塗装層1301Bが上述したように比較的薄い膜厚で形成される場合には、第1電着塗装層1301Bの抵抗が比較的小さいため、第2塗料は、ワークWにおける第1電着塗装層1301Bの表面上に析出できる。
【0078】
なお、本実施例では、上述したように、第2工程は第1工程に後続して連続的に実行されるので、第1電着塗装層1301B上での第2電着塗装層1302Bの析出が可能となる反面、第2塗料への第1塗料の混入の可能性がある。しかしながら、本実施例によれば、第1塗料は、第2塗料と樹脂成分を同じにすることができるので、第1塗料の混入による不都合(塗料欠陥等)は生じない。また、第1塗料と第2塗料の樹脂成分を同じにすることで、第1電着塗装層1301Bと第2電着塗装層1302Bとの間の密着性を高めることができる。
【0079】
なお、本実施例において、第2工程が第1工程にすぐに後続して連続的に実行できるように、第1電着槽701Bと第2電着槽702Bとが隣接して設けられてもよい。また、第1電極74や直流電源(整流器)78は、第1工程と第2工程とで共用されてもよい。この場合、第1電極74とワークWとの間の接続状態を解除せずに第1工程から第2工程へと移行できるので、第1工程の完了時から第2工程の開始時までの時間を効果的に短縮できる。また、第1電極74や直流電源(整流器)78の共用化により設備構成の簡略化を図ることができる。
【0080】
このようにして、本実施例によれば、電着塗装工程は、第1電着塗装層1301Bを形成する第1工程に後続して、第2電着塗装層1302Bを形成する第2工程を含む。これにより、スロット収容部50に第1電着塗装層1301Bを有しかつコイルエンド部54に第1電着塗装層1301B及び第2電着塗装層1302Bを有する上述したコイル片52を製造できる。
【0081】
また、本実施例によれば、第1工程が第2工程の前に実行されるので、線状導体120の表面上に、フィラーを含まない第1電着塗装層1301Bを形成できる。これにより、第1工程が第2工程の後に実行される場合に比べて、絶縁膜130Bと線状導体120との間の密着性を効果的に高めることができる。
【0082】
ところで、第1工程が第2工程の後に実行される場合には、コイルエンド部54とスロット収容部50のうちの、コイルエンド部54だけに第2電着塗装層1302Bが付与されるので、続く第1工程において、コイルエンド部54に比較的厚みの大きい第1電着塗装層1301Bを付与し難くなる。これは、“発明が解決しようとする課題”の欄で上述したように、第1工程が第2工程の後に実行される場合には、第1電着槽701Bにおいて、第2電着塗装層1302Bがすでに形成されたコイルエンド部54と第1塗料との間の電位差は、第2電着塗装層1302Bのないスロット収容部50と第1塗料との間の電位差に比べて小さくなりやすいためである。なお、第1工程が第2工程の後に実行される場合に、有意な膜厚差(比較的厚みの大きい第1電着塗装層1301Bによる膜厚差)を確保しようとすると長時間の第1工程が必要となり、スロット収容部50の膜厚(第1電着塗装層1301Bの厚み)が不要に大きくなり、スロット23内おける導体の占積率低下のおそれがある。
【0083】
これに対して、第1工程が第2工程の前に実行される場合には、コイルエンド部54とスロット収容部50との間の膜厚差は、実質的に、第2工程によってコイルエンド部54だけに付与される第2電着塗装層1302Bの厚さ分となる。この場合、第2工程で第2電着塗装層1302Bを形成するだけで、コイルエンド部54とスロット収容部50との間で絶縁膜130Bの有意な膜厚差を容易に確保できる。なお、第2電着塗装層1302Bを比較的厚くするために(すなわち膜厚差を比較的大きくするために)第2工程の時間を比較的長くした場合でも、第2電着塗装層1302Bはスロット収容部50に付与されることはないので、スロット23内おける導体の占積率低下のおそれもない。このようにして、本実施例によれば、コイルエンド部54とスロット収容部50との間で絶縁膜130Bの有意な膜厚差を電着塗装により確保することが可能となる。
【0084】
なお、本実施例において、第1塗料による第1電着塗装層1301Bの厚みt1(図5B参照)と第2塗料による第2電着塗装層1302Bの厚みt2(図5B参照)との塗膜比率は、求められるモータ仕様に応じて適宜決定されてよい。例えば、第1電着塗装層1301Bの厚みt1と第2電着塗装層1302Bの厚みt2との塗膜比率は、0.5:9.5~9.5:0.5で品質特性とコスト特性を容易に変えることが可能である。
【0085】
ところで、上述した実施例では、第2電着塗装層1302Bは、フィラーを含むことから、第1電着塗装層1301Bよりもコイル片52の成形性を低下させる傾向がある。しかしながら、本実施例では、上述したように、第2電着塗装層1302Bは、コイルエンド部54に係る部位が成形された状態のワークWに付与されるので、第2電着塗装層1302Bに起因したコイル片52の成形性の低下が実質的な不都合を生むことはない。
【0086】
ここで、本実施例の電着塗装工程では、ワークWは、図6A及び図6Bに示すように、その開放側端部W3が第1電極74側に保持された状態で、第1電着槽701B及び第2電着槽702Bに浸漬される。従って、ワークWにおける開放側端部W3には、第1電着塗装層1301Bや第2電着塗装層1302Bが付与されない。なお、開放側端部W3は、図2に示したセグメントコイルの形態のコイル片52の結合部40を形成する部位である。このようなコイル片52の結合部40(開放側端部W3)には、本実施例の電着塗装工程よりも後の工程で別途、絶縁膜130Bを形成するための被膜が付与されてよい。例えば、ステータコア112への組込み後に、電着塗装とは異なる任意の方法(例えばワニス塗布)で、かかる被膜が付与されてもよい。
【0087】
次に、上述した実施例に対して適用可能な好ましい変形例(以下、「本変形例」と称する)について説明する。
【0088】
上述した実施例では、第1塗料は、フィラーを一切含んでいないが、第1塗料は、第2塗料よりも有意に少ない含有量又は第2塗料と同じ若しくはそれ以上の含有量でフィラーを含んでもよい。この場合、第1塗料に含ませるフィラーは、第2塗料に含まれるフィラーと同じであってもよいし、異なってもよい。
【0089】
本変形例では、スロット収容部50においては、絶縁膜130Bの耐絶縁破壊性能を高める観点(すなわち、電気トリーの進展防止、及び沿面距離増加の観点)から、第1塗料は、第2フィラーを含む。この場合、第1塗料は、第1フィラーと第2フィラーのうちの、第2フィラーのみを含んでよく、あるいは、第2フィラーを第1フィラーよりも有意に多く含んでもよい。
【0090】
なお、本変形例の場合、第2塗料は、第1塗料の含まれるフィラーに応じて、含まれるフィラーが調整されてもよい。例えば、第1塗料に第2フィラーが含まれる場合、第2塗料は、第1フィラーと第2フィラーのうちの、第1フィラーのみを含んでよく、あるいは、第1フィラーを第2フィラーよりも有意に多く含んでもよい。
【0091】
また、本変形例では(又は上述した実施例においても)、第1塗料は、スロット収容部50の放熱性を高めるために、アルミナ等のような、伝熱性が高いフィラー(すなわち放熱フィラー)を含んでもよい。なお、アルミナの場合、電気絶縁性が高いので、絶縁膜130Bの絶縁性を損なうことはない。アルミナのフィラーとしては、高純度のアルミナ球状粒子が利用されてもよい。
【0092】
このような本変形例によっても、上述した実施例と同様の効果を得ることができる。加えて、本変形例によれば、スロット収容部50における絶縁膜130Bの耐絶縁破壊性能を高めることができる。また、第1塗料が放熱フィラーを含む場合には、更にスロット収容部50の放熱性を高めることができる。
【0093】
以上、各実施例について詳述したが、特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内において、種々の変形及び変更が可能である。また、前述した実施例の構成要素を全部又は複数を組み合わせることも可能である。また、各実施形態の効果のうちの、従属項に係る効果は、上位概念(独立項)とは区別した付加的効果である。
【符号の説明】
【0094】
10・・・ステータ(回転電機用ステータ)、23・・・スロット、130A、130B・・・絶縁膜、114・・・ステータコイル(コイル)、50・・・スロット収容部、54・・・コイルエンド部、1301A、1301B・・・第1電着塗装層(第1絶縁層)、1302A、1302B・・・第2電着塗装層(第2絶縁層)、701・・・電着槽(共通の電着槽)、701B・・・第1電着槽、702B・・・第2電着槽
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図6A
図6B