(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022116851
(43)【公開日】2022-08-10
(54)【発明の名称】車両用空調装置
(51)【国際特許分類】
B60H 1/00 20060101AFI20220803BHJP
【FI】
B60H1/00 103L
B60H1/00 102H
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021013243
(22)【出願日】2021-01-29
(71)【出願人】
【識別番号】512025676
【氏名又は名称】マーレベーアサーマルシステムズジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077665
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 剛宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116676
【弁理士】
【氏名又は名称】宮寺 利幸
(74)【代理人】
【識別番号】100191134
【弁理士】
【氏名又は名称】千馬 隆之
(74)【代理人】
【識別番号】100136548
【弁理士】
【氏名又は名称】仲宗根 康晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136641
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 志郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180448
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 亨祐
(72)【発明者】
【氏名】高木 文哉
(72)【発明者】
【氏名】日下 巨樹
【テーマコード(参考)】
3L211
【Fターム(参考)】
3L211BA21
3L211DA11
(57)【要約】
【課題】車両用空調装置において、空調ケース内でのスライドドアが移動する際の傾きを抑制する。
【解決手段】車両用空調装置10を構成するエアミックスドア52は、その移動方向と直交する幅方向一端52a側にアクチュエータ74からの駆動力が伝達され、幅方向他端52bには、延在方向と直交方向に突出したピン部材64を備え、該ピン部材64が空調ケース14における第2ガイドレール36の第2ガイド溝44に対して摺動自在に挿通される。そして、エアミックスドア52は、第2ガイドレール36に対する幅方向他端52bの接触面積が、第1ガイドレール34に対する幅方向一端52aの接触面積に対して小さくなるように形成される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気の流通する通路を内部に有する空調ケースと、該空調ケースの内壁に設けられた一組の第1及び第2ガイド溝に沿って前記通路を遮断する方向にスライド自在に設けられたスライドドアとを有し、駆動手段からの駆動力によって前記スライドドアが移動することで前記通路の開口部の開度を調整する車両用空調装置において、
前記スライドドアは、その移動方向と直交する幅方向一端及び幅方向他端がそれぞれ前記第1及び第2ガイド溝にそれぞれ摺動自在に挿通され、
前記幅方向一端側には、前記駆動手段からの駆動力が伝達される駆動力伝達部が形成され、
前記幅方向他端側には、前記第2ガイド溝と接触する突部が設けられ、
前記第2ガイド溝に対する前記スライドドアの幅方向他端の接触面積が、前記第1ガイド溝に対する前記スライドドアの幅方向一端の接触面積に対して小さくなる、車両用空調装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載され、空調ケース内の熱交換器によって温度調整のなされた空気を車室内へと送風して車室内の温度調整を行う車両用空調装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、空調ケース内をスライドすることで車室内へ送風を行うための吹出口を開閉可能なスライドドアを有した車両用空調装置が知られており、例えば、特許文献1に開示される車両用空調装置では、幅方向に所定長さを有したスライドドアを有し、前記スライドドアは、空調ケースの幅方向内壁に設けられたレールに沿ってスライド自在に設けられると共に、その移動方向と直交する幅方向の一端側にスライドギアがスライド方向に沿って設けられている。また、空調ケースには、図示しない駆動手段からの駆動力によって回転するシャフトを有し、前記シャフトの端部に設けられた駆動ギアがスライドギアに噛合されている。
【0003】
そして、操作者が温度調整操作を行うことで、この操作に基づいて出力される制御信号によって駆動手段が駆動し、シャフト及び駆動ギアが所定方向に回転することで、スライドギアを介して該駆動ギアに噛合したスライドドアがレールに沿って幅方向と直交方向にスライドして吹出口を開閉する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したようなスライドドアでは、幅方向一端側のみに駆動ギアからの駆動力が伝達されるため、前記駆動ギアからスライドギアへと駆動力が伝達されてスライドする際、駆動力の伝達されないスライドドアの幅方向他端側が幅方向一端側に対して移動に遅れが生じてしまい、それに伴って、スライドドアが空調ケース内で傾いてしまうという問題がある。このようにスライドドアに傾きが生じてしまうと、前記スライドドアを移動させても吹出口を完全に閉じることができず、さらには、スライドドアの幅方向一端側及び幅方向他端側において移動方向端部と吹出口内端とのシール面の距離が変化してしまうため、前記吹出口を開放する際に所望の開度を得られないという問題が生じる。
【0006】
本発明は、前記の課題を考慮してなされたものであり、空調ケース内で移動する際のスライドドアの傾きを抑制することが可能な車両用空調装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成するために、本発明の態様は、空気の流通する通路を内部に有する空調ケースと、空調ケースの内壁に設けられた一組の第1及び第2ガイド溝に沿って通路を遮断する方向にスライド自在に設けられたスライドドアとを有し、駆動手段からの駆動力によってスライドドアが移動することで通路の開口部の開度を調整する車両用空調装置において、
スライドドアは、その移動方向と直交する幅方向一端及び幅方向他端がそれぞれ第1及び第2ガイド溝にそれぞれ摺動自在に挿通され、
幅方向一端側には、駆動手段からの駆動力が伝達される駆動力伝達部が形成され、
幅方向他端側には、第2ガイド溝と接触する突部が設けられ、
第2ガイド溝に対するスライドドアの幅方向他端の接触面積が、第1ガイド溝に対するスライドドアの幅方向一端の接触面積に対して小さくなる。
【0008】
本発明によれば、車両用空調装置を構成する空調ケースの内部には、第1及び第2ガイド溝に沿ってスライド自在にスライドドアが設けられ、スライドドアの幅方向一端側には、駆動手段からの駆動力が伝達される駆動力伝達部が形成されている。また、スライドドアの幅方向他端側には、第2ガイド溝と接触する突部が設けられ、スライドドアにおける幅方向他端の第2ガイド溝に対する接触面積が、突部によって第1ガイド溝に対するスライドドアにおける幅方向一端の接触面積よりも小さく形成される。
【0009】
その結果、スライドドアが空調ケース内で第1及び第2ガイド溝に沿って移動する際、幅方向他端側の摺動抵抗を幅方向一端側に対して抑制することができるため、幅方向一端側の駆動力伝達部に対して駆動力が付与され幅方向一端側を中心としたモーメントが働く場合であっても、モーメントに起因したエアミックスドアの傾きを好適に抑制することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、以下の効果が得られる。
【0011】
すなわち、空調ケース内において、スライドドアが第1及び第2ガイド溝に沿ってスライド自在に設けられ、その幅方向一端側には、駆動手段からの駆動力が伝達される駆動力伝達部が形成され、一方、幅方向他端側には、第2ガイド溝と接触する突部が設けられているため、第2ガイド溝に対するスライドドアの幅方向他端の接触面積を、突部によって第1ガイド溝に対するスライドドアの幅方向一端の接触面積よりも小さく形成することができる。
【0012】
その結果、スライドドアが空調ケース内で第1及び第2ガイド溝に沿って移動する際、幅方向他端側の摺動抵抗を幅方向一端側に対して抑制することができるため、スライドドアの幅方向一端側のみに駆動力が付与され幅方向一端側を中心としたモーメントが働く場合であっても、モーメントに起因したエアミックスドアの傾きを好適に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施の形態に係る車両用空調装置の全体断面図である。
【
図3】
図3Aは、
図2のIIIA-IIIA線に沿った断面図であり、
図3Bは、
図3Aにおけるエアミックスドアの幅方向他端近傍を示す拡大断面図である。
【
図4】
図3BのIV-IV線に沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係る車両用空調装置について好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照しながら以下詳細に説明する。
【0015】
この車両用空調装置10は、
図1に示されるように、空気の各通路12を構成する空調ケース14と、該空調ケース14の内部に配設され、空気を冷却するエバポレータ16と、前記空気を加熱するヒータコア18と、前記エバポレータ16及びヒータコア18によって調温された冷風及び温風を所定の混合比率で混合するスライドドア機構20とを含む。
【0016】
この空調ケース14は、幅方向(
図2中、矢印A1、A2方向)に分割可能な第1及び第2分割ケース部22、24からなり、その上方には、例えば、乗員の顔近傍に送風を行うベント送風口26と、該ベント送風口26と隣接し車両のフロントウィンドウ近傍に送風を行うデフロスタ送風口28とが開口している。また、空調ケース14の車両後方側(
図1中、矢印B1方向)には、乗員の足元近傍に送風を行うフット送風口30が開口している。
【0017】
そして、ベント送風口26及びデフロスタ送風口28とフット送風口30とには、それぞれ送風状態を切り換えるための切替ドア32a、32bが開閉自在に設けられている。
【0018】
また、
図1~
図3Aに示されるように、第1及び第2分割ケース部22、24における幅方向(矢印A方向)に沿った内壁面には、後述するエアミックスドア(スライドドア)52を案内する第1及び第2ガイドレール34、36がそれぞれ形成される。この第1及び第2ガイドレール34、36は、それぞれ第1及び第2分割ケース部22、24の内壁面に対してそれぞれ幅方向内側(矢印A1方向)へ所定高さだけ突出し、前記エアミックスドア52の軌跡に対応した円弧状に形成される。
【0019】
第1ガイドレール(第1ガイド溝)34は、例えば、断面略矩形状に形成され第1分割ケース部22の内壁面に対して幅方向他方側(矢印A2方向)へ突出した第1レール本体38と、該第1レール本体38の幅方向内端に開口して幅方向外側(幅方向一端側)へ窪んだ第1ガイド溝40を有し、この第1ガイド溝40は、エアミックスドア52の幅方向と直交する方向に一定幅となるように形成され、且つ、板状に形成されるエアミックスドア52の厚さよりも大きく形成される。
【0020】
そして、第1ガイド溝40には、
図2及び
図3Aに示されるように、エアミックスドア52の幅方向一端52aが挿通され、前記幅方向一端52aと前記第1ガイド溝40とが面接触した状態で上下方向に沿って摺動自在に保持される。
【0021】
第2ガイドレール(第2ガイド溝)36は、
図1~
図4に示されるように、例えば、断面略矩形状に形成され第2分割ケース部24の内壁面に対して幅方向一方側(矢印A1方向)へ突出した第2レール本体42と、該第2レール本体42の幅方向内端に開口して幅方向外側(幅方向他方側)へ窪んだ第2ガイド溝44を有している。
【0022】
この第2ガイド溝44は、エアミックスドア52の幅方向と直交する方向に一定幅で幅方向に延在する第1溝部46と、該第1溝部46の幅方向略中央に形成され該第1溝部46に対して直交する第2溝部48とを有している。
【0023】
第1溝部46は、
図3A及び
図3Bに示されるように、第1ガイドレール34の第1ガイド溝40に対し、エアミックスドア52の幅方向と直交する方向に幅広状となるように形成され、エアミックスドア52の幅方向他端52bが第1溝部46と略平行となるように挿通された際、前記第1溝部46の底面46a及び天井面46bがそれぞれ前記幅方向他端52bから離間する位置に形成されている。
【0024】
第2溝部48は、第1溝部46の天井面46bに対して該第1溝部46から離間する方向(矢印D1方向)へ断面矩形状に窪んで形成され、前記第1溝部46と同様に、エアミックスドア52のスライド方向に沿って同一断面形状で延在している。すなわち、第2ガイド溝44は、第1及び第2溝部46、48から断面略T字状に形成される。
【0025】
そして、第2ガイド溝44には、エアミックスドア52の幅方向他端52bが挿通され上下方向(
図2及び
図4中、矢印C1、C2方向)に沿って摺動自在に保持される。
【0026】
さらに、空調ケース14の内部には、
図1に示されるように、車両前方側(矢印B2方向)となる位置にエバポレータ16が設けられ、該エバポレータ16に対して車両後方側(矢印B1方向)となる位置に所定間隔離間してヒータコア18が設けられる。このエバポレータ16が空気の流通方向における上流側、ヒータコア18が下流側となるように設けられると共に、前記エバポレータ16の上流側には図示しない送風機からの空気が供給される供給口50が開口している。
【0027】
このエバポレータ16とヒータコア18との間には、該エバポレータ16によって冷却された空気を、空調ケース14内において下流へと流通させる際、その流通量及び流通状態を調整するスライドドア機構20が設けられる。
【0028】
スライドドア機構20は、
図1~
図4に示されるように、例えば、空調ケース14の内部において上方及び下方(矢印C1、C2方向)へとスライド自在に設けられたエアミックスドア52と、該エアミックスドア52に対して駆動力を伝達することで移動させるピニオンギア54を有したシャフト56とを含む。
【0029】
エアミックスドア52は、大きな半径で湾曲した断面円弧状のドア本体58と、該ドア本体58の移動方向に沿った上端部及び下端部にそれぞれ設けられる一対の第1及び第2シール部材60、62と、前記ドア本体58の幅方向他端52bに設けられる一対のピン部材64とを備え、エバポレータ16から離間する方向、すなわち、ヒータコア18側(
図1中、矢印B1方向)に向かって緩やかな凸状となるように形成されると共に、幅方向(
図2中、矢印A1、A2方向)に沿って所定幅で形成される。
【0030】
ドア本体58は、その幅方向一端52a及び幅方向他端52bがそれぞれ第1及び第2ガイドレール34、36の第1及び第2ガイド溝40、44にそれぞれ挿入されることで、前記第1及び第2ガイドレール34、36に沿って移動自在に設けられると共に、その幅方向一端52a側には、エバポレータ16に臨む内周面に沿ってラックギア(駆動力伝達部)66が設けられる。このラックギア66は、ドア本体58の内周面に対して径方向内側へ突出した複数のギア歯を有し、複数のギア歯が、ドア本体58の幅方向一端52aから所定距離だけ内側となる位置で、エアミックスドア52のスライド方向に沿って一直線状に設けられている。
【0031】
第1及び第2シール部材60、62は、
図1、
図2及び
図4に示されるように、例えば、ウレタン等の圧縮性の弾性材料から断面矩形状に形成され幅方向(矢印A方向)に沿って所定長さで延在し、ドア本体58の上端部及び下端部からヒータコア18側(
図1中、矢印B1方向)へと突出した突出片68にそれぞれ一対ずつ設けられ、幅方向に沿って延在している。
【0032】
ピン部材64は、
図1~
図4に示されるように、例えば、断面円形状の軸体からなり、ドア本体58の幅方向他端52bに対して該ドア本体58の延在方向と直交するように設けられると共に、前記ドア本体58の移動方向に沿った一端及び他端にそれぞれ設けられる(
図4参照)。すなわち、ピン部材64は、ドア本体58の内周面及び外周面に対して略直交するように突出して設けられる。
【0033】
また、ピン部材64は、ドア本体58の外周面に対して突出した第1突部(突部)70と、該ドア本体58の内周面から突出した第2突部(突部)72とから構成され、前記第1突部70と前記第2突部72とがドア本体58を挟んで一直線状となるように形成されると共に、
図3Bに示されるように、前記第2突部72の軸方向に沿った突出長さL2が、前記第1突部70の軸方向に沿った突出長さL1に対して長くなるように形成される(L2>L1)。
【0034】
そして、ピン部材64は、
図3Bに示されるように、ドア本体58の幅方向他端52bと共に第2ガイドレール36の第2ガイド溝44へと挿通され、その第1突部70の先端が矢印D2方向へ突出して第1溝部46の底面46aに摺接し、第2突部72が矢印D1方向へと突出して第2溝部48内へと挿通され上面48aに摺接する。これにより、ドア本体58の幅方向他端52bは、第2ガイド溝44の第1溝部46へと挿通されると共に、一対のピン部材64が第1及び第2溝部46、48へと挿通された状態で、第2ガイドレール36に沿って移動自在に支持される。
【0035】
この際、エアミックスドア52の幅方向他端52bは、ドア本体58が第2ガイド溝44へと接触することがなく、一対のピン部材64が第1溝部46の底面46a、第2溝部48の上面48aに接触して支持されているため、第1ガイド溝40に対して面接触しているエアミックスドア52の幅方向一端52aと比較して接触面積が小さくなる。例えば、ピン部材64を構成する第1及び第2突部70、72は、その先端が第2ガイド溝44に対してそれぞれ点接触している。
【0036】
シャフト56は、第1分割ケース部22の側壁に対して回転自在に支持され、その先端にはピニオンギア54が一体的に設けられる。ピニオンギア54は、その外周面にギア歯が刻設され、エアミックスドア52のラックギア66に噛合される。
【0037】
そして、
図2に示される空調ケース14(第1分割ケース部22)の外側に設けられたアクチュエータ(駆動手段)74の駆動作用下にシャフト56が所定方向へ所定量だけ回転することで、ピニオンギア54とラックギア66との噛合作用下にエアミックスドア52が第1及び第2ガイドレール34、36に沿って上下方向(矢印C1、C2方向)にスライドする。
【0038】
例えば、エアミックスドア52が上方(矢印C1方向)へと移動した際、第1シール部材60が空調ケース14の第1シール壁76へと当接し、第2シール部材62がヒータコア18を保持するホルダ77へと当接することでそれぞれシールされ、前記ホルダ77と前記第1シール壁76との間の第1開口部78が閉塞される。
【0039】
一方、エアミックスドア52が下方(矢印C2方向)へと移動した際、第1シール部材60が前記ホルダ77に当接し、第2シール部材62が空調ケース14の第2シール壁80へと当接することでそれぞれシールされ、前記ホルダ77と前記第2シール壁80との間の第2開口部82が閉塞される。
【0040】
本発明の実施の形態に係る車両用空調装置10は、基本的には以上のように構成されるものであり、次にその動作並びに作用効果について説明する。
【0041】
先ず、車室内へ温風を送風する暖房運転を行う場合について説明する。図示しない乗員の操作作用下にアクチュエータ74が駆動し、それに伴って、シャフト56及びピニオンギア54が反時計回り(
図1参照)に回転し、エアミックスドア52が第1及び第2ガイドレール34、36に沿って上方(矢印C1方向)へと所定距離だけスライドする。
【0042】
この際、シャフト56及びピニオンギア54からの駆動力は、噛合されたラックギア66を介してエアミックスドア52の幅方向一端52a側(矢印A1方向)のみに付与されるため、ピニオンギア54とラックギア66とが噛合される基点P(
図2参照)を中心とし、エアミックスドア52に対して時計回り方向のモーメント力M1が働くこととなる。
【0043】
このようなモーメント力M1がエアミックスドア52に働いた場合であっても、該エアミックスドア52の幅方向他端52bに設けられた一対のピン部材64が第2ガイドレール36の第2ガイド溝44へと挿通され、ピン部材64が第1溝部46の底面46a及び第2溝部48の上面48aへと接触することで、この第2ガイド溝44に対する幅方向他端52b(ピン部材64)の接触面積が、第1ガイド溝40に対する幅方向一端52aの接触面積よりも小さくなる。
【0044】
そのため、エアミックスドア52がスライドする際、その幅方向他端52b側の摺動抵抗を、幅方向一端52a側の摺動抵抗に対して抑制することが可能となり、モーメント力M1による基点Pを中心としたエアミックスドア52の回動(傾き)が抑制される。
【0045】
このように空調ケース14内での傾きが抑制されたエアミックスドア52は、第1及び第2ガイドレール34、36の案内作用下に上昇して第1シール部材60が第1シール壁76へと当接して圧縮されることで、前記第1シール部材60と前記第1シール壁76との間に隙間が生じることがなく確実にシールがなされる。また、エアミックスドア52の第2シール部材62はホルダ77に対して当接することでシールされる。これにより、空調ケース14内でエアミックスドア52が上方へと位置した状態となり、エバポレータ16の下流側が第2開口部82を通じてヒータコア18のみと連通した状態となる。
【0046】
そして、図示しない送風機から供給口50を通じて空調ケース14における上流側へと供給された空気は、エバポレータ16を通過することで冷却された後、開放された第2開口部82からヒータコア18を通過して加熱され温風として、例えば、フット送風口30から乗員の足元近傍へと送風される。
【0047】
次に、車室内へ冷風を送風する冷房運転を行う場合について説明する。図示しない乗員の操作作用下に図示しないアクチュエータ74が駆動し、それに伴って、シャフト56及びピニオンギア54が時計回り(
図1参照)に回転し、エアミックスドア52が第1及び第2ガイドレール34、36に沿って下方(矢印C2方向)へと所定距離だけスライドする。
【0048】
この際、シャフト56及びピニオンギア54からの駆動力は、噛合されたラックギア66を介してエアミックスドア52の幅方向一端52a側(矢印A1方向)のみに付与されるため、ピニオンギア54とラックギア66とが噛合される基点P(
図2参照)を中心とし、前記エアミックスドア52に対して反時計回り方向のモーメント力M2が発生することとなる。
【0049】
このようなモーメント力M2がエアミックスドア52に働いた場合であっても、該エアミックスドア52の幅方向他端52bに設けられた一対のピン部材64が第2ガイドレール36の第2ガイド溝44へと挿通され、ピン部材64が第1溝部46の底面46a及び第2溝部48の上面48aへと接触することで第2ガイド溝44に対する幅方向他端52b(ピン部材64)の接触面積が、第1ガイド溝40に対する幅方向一端52aの接触面積よりも小さくなる。
【0050】
そのため、エアミックスドア52がスライドする際、その幅方向他端52b側の摺動抵抗を、幅方向一端52a側の摺動抵抗に対して抑制することが可能となり、それにより、モーメント力M2による基点Pを中心としたエアミックスドア52の回動(傾き)が抑制される。
【0051】
このように空調ケース14内での傾きが抑制されたエアミックスドア52は、第1及び第2ガイドレール34、36の案内作用下に下降して第2シール部材62が第2シール壁80へと当接して圧縮されることで、前記第2シール部材62と前記第2シール壁80との間に隙間が生じることがなく確実にシールがなされる。また、エアミックスドア52の第1シール部材60はホルダ77に対して当接することでシールされる。
【0052】
これにより、空調ケース14内でエアミックスドア52が下方(矢印C2方向)へと位置した状態となり、エバポレータ16の下流側における第2開口部82を介したヒータコア18側との連通が遮断され、図示しない送風機から供給口50を通じて空調ケース14における上流側へと供給された空気は、エバポレータ16を通過することで冷却された後、通路12における第1開口部78を通じてヒータコア18を迂回するように流通し、冷風としてベント送風口26から乗員の顔近傍へと送風される。
【0053】
以上のように、本実施の形態では、車両用空調装置10において、通路12を有した空調ケース14の内部には、内壁に設けられた第1及び第2ガイドレール34、36に沿ってスライド自在にエアミックスドア52が設けられ、前記エアミックスドア52の幅方向一端52a側に設けられるラックギア66に対し、アクチュエータ74の駆動作用下に回転駆動するシャフト56のピニオンギア54が噛合される。そして、エアミックスドア52の幅方向他端52bには、ドア本体58の延在方向に直交する一対のピン部材64が設けられ、前記ピン部材64は、幅方向他端52bが挿通される第2ガイド溝44に対して摺動自在に挿入されることで、エアミックスドア52における第1ガイドレール34に対する幅方向一端52a側に対し、第2ガイドレール36に対する幅方向他端52b側の接触面積を小さくすることができる。
【0054】
従って、エアミックスドア52が空調ケース14内で第1及び第2ガイドレール34、36に沿ってスライドする際、その幅方向一端52a側からのみ駆動力が付与されて該幅方向一端52a側(基点P)を中心としたモーメント力M1、M2が働く場合であっても、幅方向他端52b側の摺動抵抗を幅方向一端52a側の摺動抵抗に対して抑制することで、前記モーメント力M1、M2に起因したエアミックスドア52の回動(傾き)を好適に抑制することができる。
【0055】
その結果、車両用空調装置10において、エアミックスドア52をスライドさせて第1及び第2シール壁76、80に対して確実に当接させて第1及び第2開口部78、82を閉塞すると共に、開放側では、前記第1及び第2開口部78、82を所望の開度で開放させることができる。
【0056】
なお、本発明に係る車両用空調装置は、上述の実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得ることはもちろんである。
【符号の説明】
【0057】
10…車両用空調装置 14…空調ケース
20…スライドドア機構 34…第1ガイドレール
36…第2ガイドレール 40…第1ガイド溝
44…第2ガイド溝 46…第1溝部
48…第2溝部 52…エアミックスドア
64…ピン部材 70…第1突部
72…第2突部