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  • 特開-蛍光体粉末の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022116885
(43)【公開日】2022-08-10
(54)【発明の名称】蛍光体粉末の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/08 20060101AFI20220803BHJP
   C09K 11/64 20060101ALI20220803BHJP
【FI】
C09K11/08 B
C09K11/64
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021013296
(22)【出願日】2021-01-29
(71)【出願人】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】木附 沙也佳
(72)【発明者】
【氏名】武田 雄介
(72)【発明者】
【氏名】三谷 駿介
(72)【発明者】
【氏名】小林 慶太
【テーマコード(参考)】
4H001
【Fターム(参考)】
4H001CA02
4H001CF02
4H001XA07
4H001XA13
4H001XA14
4H001XA20
4H001XA38
4H001YA63
(57)【要約】
【課題】ボールミル粉砕に依らない方法により、適度に微細でかつ発光効率が良好な蛍光体粉末を製造するための方法を提供すること。
【解決手段】主結晶相がCaAlSiNと同一の結晶構造を有し、一般式(Ca1-x-ySrEu)AlSiNで示され、0≦x<1、0<y<1、1-x-y>0である蛍光体粒子を含む蛍光体粉末の製造方法であって、出発原料粉末を混合して原料混合粉末を得る混合工程と、原料混合粉末を焼成して焼成物を得る焼成工程と、を含み、原料混合粉末中の、Ca元素のモル数をMCa、Sr元素のモル数をMSr、Eu元素のモル数をMEu、Si元素のモル数をMSiとしたとき、(MCa+MSr+MEu)/MSiの値が1.005以上1.4以下である、蛍光体粉末の製造方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主結晶相がCaAlSiNと同一の結晶構造を有し、一般式(Ca1-x-ySrEu)AlSiNで示され、0≦x<1、0<y<1、1-x-y>0である蛍光体粒子を含む蛍光体粉末の製造方法であって、
出発原料粉末を混合して原料混合粉末を得る混合工程と、前記原料混合粉末を焼成して焼成物を得る焼成工程と、を含み、
前記原料混合粉末中の、Ca元素のモル数をMCa、Sr元素のモル数をMSr、Eu元素のモル数をMEu、Si元素のモル数をMSiとしたとき、(MCa+MSr+MEu)/MSiの値が1.005以上1.4以下である、蛍光体粉末の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の蛍光体粉末の製造方法であって、
前記焼成工程は、0.1MPa・G以上の不活性ガス雰囲気下で行われる、蛍光体粉末の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の蛍光体粉末の製造方法であって、
前記焼成工程は、1900℃以下で、3時間以上30時間以下行われる、蛍光体粉末の製造方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の蛍光体粉末の製造方法であって、
前記焼成工程は、1700℃以上で、3時間以上30時間以下行われる、蛍光体粉末の製造方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の蛍光体粉末の製造方法であって、
ボールミルを用いた粉砕工程を含まない、蛍光体粉末の製造方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の蛍光体粉末の製造方法であって、
前記蛍光体粉末のメジアン径D50は、5μm以下である、蛍光体粉末の製造方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の蛍光体粉末の製造方法であって、
x=0である、蛍光体粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光体粉末の製造方法に関する。より具体的には、しばしばCASNまたはSCASNと呼ばれる蛍光体の粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、主結晶相がCaAlSiNと同一の結晶構造を有する、一般式がMAlSiN:Eu(Mは、Sr、Mg、Ca、Baの中から選ばれる、1種以上の元素)で示される蛍光体が記載されている。この蛍光体について、レーザー回折散乱法で測定した粒度分布における、体積頻度を基準とするd10、d50、d90を用いて示されるスパン値(d90-d10)/d50の値は、1.70以下、d50は10.0μm以下である。
なお、d10、d50、d90は、測定する蛍光体0.5gを、ヘキサメタリン酸ナトリウムを0.05wt%混合したイオン交換水溶液100mL中に投入し、これを発振周波数19.5±1kHz、チップサイズ20φ、振幅が32±2μmの超音波ホモジナイザーを用いて、チップを液の中央部に配置して3分間分散処理した液を用いた測定値である。
特許文献1の例えば実施例5においては、混合工程、焼成工程および酸処理工程を経ることで蛍光体粉末を得たことが記載されている。具体的には、焼成により得られた赤色の塊状物を、直径5mmのアルミナボールを用いてボールミル粉砕を5時間行い、最終的に目開き250μmの篩を通過させた粉末を得た旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2020/054351号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者は、特許文献1の実施例5のように、ボールミル粉砕により蛍光体粒子を微細化した場合、いくつかの問題があることを見出した。問題として具体的には、(i)微細すぎる粒子(微粉)が多く発生するために製造効率が悪くなることや、(ii)粉砕の物理的刺激により粒子表面に欠陥が発生しやすく、発光効率が下がりがちであること、などがある。
【0005】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものである。本発明の目的の1つは、ボールミル粉砕に依らない方法により、適度に微細でかつ発光効率が良好な蛍光体粉末を製造するための方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、以下に提供される発明を完成させ、上記課題を解決した。
【0007】
本発明によれば、
主結晶相がCaAlSiNと同一の結晶構造を有し、一般式(Ca1-x-ySrEu)AlSiNで示され、0≦x<1、0<y<1、1-x-y>0である蛍光体粒子を含む蛍光体粉末の製造方法であって、
出発原料粉末を混合して原料混合粉末を得る混合工程と、前記原料混合粉末を焼成して焼成物を得る焼成工程と、を含み、
前記原料混合粉末中の、Ca元素のモル数をMCa、Sr元素のモル数をMSr、Eu元素のモル数をMEu、Si元素のモル数をMSiとしたとき、(MCa+MSr+MEu)/MSiの値が1.005以上1.4以下である、蛍光体粉末の製造方法
が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明の蛍光体粉末の製造方法を適用して蛍光体粉末を製造することで、ボールミル粉砕に依らずに、適度に微細でかつ発光効率が良好な蛍光体粉末を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例1-7で得られた蛍光体粉末と、比較例1-4で得られた蛍光体粉末の、体積基準の粒度分布曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。図面はあくまで説明用のものであることに留意されたい。
【0011】
本明細書中、数値範囲の説明における「X~Y」との表記は、特に断らない限り、X以上Y以下のことを表す。例えば、「1~5質量%」とは「1質量%以上5質量%以下」を意味する。
【0012】
本明細書中、圧力の単位表記において「MPa・G」などと「G」を付しているのは、ゲージ圧であることを明確化するためである。
【0013】
<蛍光体粉末の製造方法>
本実施形態の蛍光体粉末の製造方法は、主結晶相がCaAlSiNと同一の結晶構造を有し、一般式(Ca1-x-ySrEu)AlSiNで示され、0≦x<1、0<y<1、1-x-y>0である蛍光体粒子を含む蛍光体粉末の製造方法である。
本実施形態の蛍光体粉末の製造方法は、出発原料粉末を混合して原料混合粉末を得る混合工程と、その原料混合粉末を焼成して焼成物を得る焼成工程と、を含む。
本実施形態において、上記の原料混合粉末中の、Ca元素のモル数をMCa、Sr元素のモル数をMSr、Eu元素のモル数をMEu、Si元素のモル数をMSiとしたとき、(MCa+MSr+MEu)/MSiの値は1.005以上1.4以下である。
【0014】
上記「(MCa+MSr+MEu)/MSiの値は1.005以上1.4以下」ということは、原料混合粉末は、上記一般式で表される化学量論比((Ca、SrおよびEuの合計):Si=1:1)と比較して、CaSrおよびEuを「過剰量」含むことを意味する。このような原料混合粉末を用いることで、おそらくは、蛍光体粒子(結晶)の「成長」よりも「核生成」のほうが優先的になるため、ボールミル粉砕に依らずとも適度に微細な蛍光体粒子が得られると推測される。また、微細化のためにボールミル粉砕を行う必要が無いため、粒子表面に欠陥が発生しづらく、蛍光体粒子を含む蛍光体粉末の蛍光特性が高まると推測される。
ちなみに、通常は、蛍光体粒子の粒径が小さいと、蛍光特性(発光効率など)の点では不利である。この観点で、本実施形態の蛍光体粉末の製造方法で得られる蛍光体粉末は、従来の蛍光体粉末よりも優れる傾向がある。
【0015】
本実施形態の蛍光体粉末の製造方法に関する説明を続ける。
(混合工程)
混合工程においては、出発原料粉末を混合して原料混合粉末を得る。すなわち、Caを含む原料粉末、Srを含む原料粉末(x≠0の場合)、Euを含む原料粉末、Alを含む原料粉末、Siを含む原料粉末などを適切に混合して原料混合粉末を得る。前述のように、この原料混合粉末中の、Ca元素のモル数をMCa、Sr元素のモル数をMSr、Eu元素のモル数をMEu、Si元素のモル数をMSiとしたとき、(MCa+MSr+MEu)/MSiの値は、1.005以上1.4以下、好ましくは1.01以上1.3以下、より好ましくは1.05以上1.2以下である。(MCa+MSr+MEu)/MSiの値がこの範囲であると望ましいD50が得られるため好ましい。
【0016】
原料粉末のうち、Caを含む原料粉末、Srを含む原料粉末、Euを含む原料粉末、Alを含む原料粉末およびSiを含む原料粉末としては、各元素の窒化物の粉末を用いることが好ましい。特に、Siを含む原料粉末としては、α型窒化ケイ素粉末を用いることが好ましい。
原料粉末のうち、Euを含む原料粉末としては、酸化ユーロピウム粉末を用いることが好ましい。
【0017】
混合工程における混合方法は特に限定されない。各原料粉末が十分かつ均一に混じり合えばよい。原料の酸化や不純物の混入を避けるため、混合工程は、不活性ガス雰囲気下で行われることが好ましい。不活性ガスとしては、貴ガスや窒素ガスなどが挙げられ、窒素ガスが好ましい。
【0018】
(焼成工程)
焼成工程においては、原料混合工程で得られた原料混合粉末を焼成して焼成物を得る。
焼成は、通常、原料混合粉末を、耐熱性の蓋つき容器(例えばタングステン製)に充填して、その容器ごと電気炉などで加熱することにより行われる。原料混合粉末の容器への充填も、原料の酸化や不純物の混入を避けるため、不活性ガス雰囲気下で行われることが好ましい。
【0019】
焼成工程は、好ましくは0.1MPa・G以上、より好ましくは0.45MPa・G以上、さらに好ましくは0.8MPa・G以上の不活性ガス雰囲気下で行われることが好ましい。不活性ガスとしては、貴ガスや窒素ガスなどが挙げられ、窒素ガスが好ましい。
本発明者の知見などによれば、Caを含む原料(例えばCa)の一部は、焼成の際に揮発することがある。焼成工程における圧力がある程度大きいことで、この揮発を抑えることができる。本実施形態の蛍光体粉末の製造方法の特徴の1つは、Siに対してCaなどを過剰に用いることであるため、Caを含む原料の揮発が抑えられることで、Siに対してCaなどを過剰に用いることの効果を十二分に得やすい。別の言い方として、焼成圧力をある程度大きく設定することにより、より微細な/発光効率が良好な蛍光体粒子を含む蛍光体粉末が得られる傾向がある。
【0020】
上記観点で、焼成工程における圧力は、基本的には大きければ大きいほどよいが、装置の制約やコストなどの観点で、圧力の上限は例えば0.99MPa・G以下、好ましくは0.95MPa・G以下である。
【0021】
焼成工程の時間(上記温度で加熱される時間)は、好ましくは3時間以上30時間以下、より好ましくは4時間以上8時間以下である。十分に長い時間焼成を行うことで、原料が十分に蛍光体粒子(結晶)に変換される。一方、焼成時間が長すぎないことで、製造効率の向上に加え、蛍光体粒子の意図せぬ分解が抑えられたり、過度な結晶成長が抑えられたりすることがある。また、上述の原料の揮発を抑える観点からも、焼成時間は長すぎないことが好ましい。
焼成工程における焼成温度は、好ましくは1500℃以上、より好ましくは1700℃以上である。焼成温度が十分に高いことで、原料が十分に蛍光体粒子(結晶)に変換される。
焼成工程における焼成温度は、好ましくは1900℃以下、より好ましくは1850℃以下である。焼成温度が高すぎないことで、原料の一部が分解したり揮発したりして組成比が崩れることが抑えられる。また、焼成温度が高すぎないことで、蛍光体粒子の意図せぬ分解が抑えられたり、過度な結晶成長が抑えられたりすることがある。
【0022】
焼成工程により、通常、塊状の焼成物が得られる。これを、例えば乳鉢と乳棒を用いて解砕することで、粉末状の焼成物を得ることができる。解砕については、焼成物の表面を過度に傷つけて発光特性を過度に低下させない限りにおいて、適当な装置を用いて行ってもよい。
【0023】
(酸処理工程)
焼成工程を経て得られた焼成物を、酸処理することで、焼成時に生成した不純物の少なくとも一部を除去することができる。これにより、発光特性の一層の向上を図ることができる。
【0024】
酸処理で用いる酸やその濃度は適宜調整すればよい。酸としては塩酸、硫酸、硝酸、フッ酸、これらの混合酸などを挙げることができ、これらの中でも塩酸が好ましい。典型的には、酸水溶液(0.1~1M程度の濃度)に、粉末状の焼成物を投入し、10分~3時間程度攪拌することで、酸処理を行う。
酸処理は、室温で行ってもよいし、加熱しながら行ってもよい。
【0025】
酸処理後については、ろ過や遠心分離により酸水溶液と焼成物とを分離し、そして焼成物を水で洗浄することが好ましい。また、洗浄された焼成物に乾燥処理を施すことが好ましい。焼成物が十分に乾燥する限り、乾燥処理の条件は特に限定されない。典型的な乾燥処理の条件は、例えば、80~150℃程度で、1時間~1日程度である。
【0026】
(その他の工程)
本実施形態の蛍光体粉末の製造方法は、上記以外の工程を含んでもよい。例えば、粗大粒子を除去するための篩分け工程、微細すぎる粒子(微粉)を除去するためのデカンテーション工程などを含んでもよい。デカンテーション工程の具体的な方法については、例えば、特許文献1の段落0039などを参考にすることができる。
【0027】
本実施形態の蛍光体粉末の製造方法は、好ましくは、ボールミルを用いた粉砕工程を含まない。ボールミルを用いた粉砕工程を含まないことで、微細すぎる粒子(微粉)の発生を抑えやすい。また、ボールミルの物理的刺激による粒子表面の欠陥発生が抑えられ、発光効率低下が抑えられる。
もちろん、目的に応じて、本実施形態の蛍光体粉末の製造方法は、ボールミルを用いた粉砕工程を含んでいてもよい。
また、本実施形態の蛍光体粉末の製造方法は、ボールミルを用いる粉砕とは異なる粉砕工程を含んでもよいし、含まなくてもよい。このような粉砕工程としては、ジェットミル粉砕工程などがある。
【0028】
(蛍光体粒子について)
本実施形態の蛍光体粉末の製造方法で得られる蛍光体粉末に含まれる蛍光体粒子は、(Si,Al)-N正四面体が結合することにより構成され、その間隙にCa元素が位置するものである。
前述の一般式に近似する代表的な蛍光体として、Caサイト占有率が100%で、Si/Al=1であるCaAlSiNがある。CaAlSiNのCa2+の一部が、発光中心として作用するEu2+で置換された場合には赤色発光蛍光体となる。このような蛍光体は、しばしば、元素の頭文字をとって「CASN」と呼ばれる。
また別の蛍光体としては、Caサイト占有率が例えば5~60%で、Caの替わりにSrが置換され固溶している(Sr,Ca)AlSiNがある。(Sr,Ca)AlSiNのCa2+の一部が発光中心として作用するEu2+で置換された場合には赤色発光蛍光体となる。このような蛍光体は、しばしば、元素の頭文字をとって「SCASN」と呼ばれる。
【0029】
詳細は不明であるが、本実施形態においては、特に、原料混合粉末がSrを含まないか、含むとしても少量である場合に、適度に微細でかつ発光効率が良好な蛍光体粒子を含む蛍光体粉末が得られる傾向がある。具体的には、前述の一般式において、xは好ましくは0.2以下、より好ましくは0.1以下、さらに好ましくは0である。
【0030】
ちなみに、yの値は、良好な発光特性などの観点から、好ましくは0より大きく0.2以下、より好ましくは0.01以上0.1以下である。
【0031】
蛍光体粒子の主結晶相がCaAlSiN結晶と同一の結晶構造であるか否かは、粉末X線回折により確認できる。結晶構造がCaAlSiNと異なる場合、発光色が赤色でなくなったり、輝度が大きく低下したりするので好ましくない。この点で、蛍光体粒子は、主結晶相以外の結晶相(異相ともいう)がなるべく混入していない単相であることが好ましい。しかし、蛍光特性に大きな影響がない限りにおいては、異相が含まれていてもよい。
【0032】
本実施形態の蛍光体粉末の製造方法で得られる蛍光体粉末のメジアン径(体積基準の粒度分布曲線における累積50%値:D50)は、好ましくは5μm以下、より好ましくは4μm以下、さらに好ましくは3μm以下である。また、D50は、好ましくは1μm以上、より好ましくは2μm以上である。
50が大きすぎず小さすぎないことにより、例えば、蛍光体粉末をミニLEDまたはマイクロLEDに好ましく適用可能となる。
【0033】
本実施形態の蛍光体粉末の製造方法で得られる蛍光体粉末のD10(体積基準の粒度分布曲線における累積10%値)は、好ましくは3μm以下、より好ましくは2.5μm以下、さらに好ましくは2μm以下である。また、D10は、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは1μm以上である。
10が小さすぎないことは、微細すぎる粒子(微粉)が少ないことを意味する。D10が適度に大きいことにより、蛍光体粉末の発光効率をより高めることができる。
【0034】
本実施形態の蛍光体粉末の製造方法で得られる蛍光体粉末のD90(体積基準の粒度分布曲線における累積90%値)は、好ましくは8μm以下、より好ましくは7μm以下、さらに好ましくは6μm以下である。また、D90は、好ましくは3.1μm以上、より好ましくは3.5μm以上である。
90が大きすぎないことは、粗大粒子が少ないことを意味する。D90が適度に小さいことにより、例えば、蛍光体粉末をミニLEDやマイクロLEDに適用しやすくなる。
【0035】
本実施形態の蛍光体粉末の製造方法で得られる蛍光体粉末のDmax(体積基準の粒度分布曲線における最大の粒子径、すなわち、体積基準の粒度分布曲線における累積100%値)は、好ましくは20μm以下、より好ましくは17.5μm以下である。また、Dmaxは、好ましくは9μm以上、より好ましくは10μm以上である。
maxが大きすぎないことは、粗大粒子が少ないことを意味する。Dmaxが適度に小さいことにより、例えば、蛍光体粉末をミニLEDやマイクロLEDに適用しやすくなる。
【0036】
メジアン径などの粒度分布測定に際しては、蛍光体粉末を適切に前処理しておくことが好ましい。好ましい前処理の手順は以下の通りである。
蛍光体粉末0.5gを、ヘキサメタリン酸ナトリウムを0.05質量%混合したイオン交換水溶液100mL中に投入し、これを発信周波数19.5±1kHz、チップサイズ20Φ、振幅が32±2μmの超音波ホモジナイザーを用いて、チップを液の中央部に配置して3分間分散処理する。このようにしてえられた分散液を用いて、レーザー回折散乱法による粒度分布を測定する。
【0037】
<得られた蛍光体粉末の用途など>
本実施形態の蛍光体粉末の製造方法により得られた蛍光体粉末は、適度に微細でかつ発光効率が良好であることから、様々な用途に好ましく適用可能である。
【0038】
用途の一例としては、LEDパッケージが挙げられる。すなわち、青色LEDから発せられる青色光を白色光とするための波長変換材料として蛍光体粉末を用いることが考えられる。
【0039】
用途の別の例としては、ミニLEDやマイクロLEDのような自発光型ディスプレイへの適用が考えられる。本実施形態の蛍光体粉末の製造方法により得られる蛍光体粉末に含まれる蛍光体粒子の「適度に微細でかつ発光効率が良好」という特性は、自発光型ディスプレイへの適用に好ましい特性である。
ミニLEDやマイクロLEDの製造には、厚さが数十μmの比較的薄い「蛍光体シート」が必要である。適度に微細な蛍光体粒子を含む蛍光体粉末を用いることにより、蛍光体粒子が均一に分散され、色むらなどが低減された、薄い蛍光体シートを得ることができる。また、蛍光体粉末の発光効率が優れていることにより、自発光型ディスプレイの性能向上にも寄与しうる。
【0040】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良などは本発明に含まれる。
【実施例0041】
本発明の実施態様を、実施例および比較例に基づき詳細に説明する。念のため述べておくと、本発明は実施例のみに限定されない。
【0042】
<混合工程>
水分が1質量ppm以下、酸素分が1質量ppm以下である窒素雰囲気に保持したグローブボックス中で、α型窒化ケイ素粉末(Si、SN-E10グレード、宇部興産社製)、窒化カルシウム粉末(Ca、太平洋セメント社製)、窒化アルミニウム粉末(AlN、Eグレード、トクヤマ社製)および酸化ユーロピウム粉末(Eu、日本イットリウム社製)を混合し、原料混合粉末を得た(一部実施例においては、さらに、窒化ストロンチウム粉末(SrN、Materion社製)も混合した)。
各原料の混合比については、Ca量、Sr量、Si量およびEu量のモル比が後掲の表に記載の値となるようにした。
得られた原料混合粉末220gを、タングステン製の蓋付き容器に充填した。
【0043】
<焼成工程>
混合工程で原料混合粉末を充填した容器を、グローブボックスから取出し、カーボンヒーターを備えた電気炉内に速やかにセットして、炉内を0.1PaA以下まで十分に真空排気した。真空排気を継続したまま加熱を開始し、850℃到達後からは炉内に窒素ガスを導入し、炉内雰囲気圧力を後掲の表の「焼成圧力(MPa・G)」に記載の圧力で一定とした。窒素ガスについては常時導入と排出を行い、原料からの揮発成分の排出を常時行った。窒素ガスの導入開始後も1850℃まで昇温を続け、1850℃で8時間の焼成を行い、その後加熱を終了して冷却した。室温まで冷却した後、得られた赤色の塊状物を、乳鉢と乳棒を用いて解砕し、そして目開き250μmの篩を通過させた。このようにして粉末状の焼成物を得た。
【0044】
<酸処理工程>
焼成時に生成した不純物を除去するために、酸処理を実施した。具体的には、上記の篩を通過した粉末状の焼成物を、濃度が25質量%となるよう0.5Mの塩酸中に入れ、さらに攪拌しながら1時間煮沸する酸処理を実施した。その後、約25℃の室温で焼成物と塩酸液とを分離し、さらに焼成物を洗浄した。そして、100~120℃の乾燥機中で12時間乾燥した。乾燥後の粉末を目開き75μmの篩で分級した。
以上により、蛍光体粉末を得た。
【0045】
<ボールミル処理(比較例)>
一部の比較例においては、酸処理工程の後、さらに、直径5mmのアルミナボールを用いて5時間~20時間のボールミル粉砕を行った。ボールミル粉砕の有無については、後掲の表に記載している。
【0046】
<結晶構造の確認>
得られた各実施例および比較例の蛍光体粉末について、X線回折装置(株式会社リガク製UltimaIV)を用い、Cu-Kα線を用いた粉末X線回折パターンにより、結晶構造を確認した。この結果、得られた各実施例および比較例の蛍光体粉末の粉末X線回折パターンに、CaAlSiN結晶と同一の回折パターンが認められた。つまり、各実施例および比較例の蛍光体粉末に含まれる蛍光体粒子は主結晶相がCaAlSiNと同一の結晶構造を有することを確認した。
【0047】
<粒度分布の測定>
各実施例および比較例の蛍光体粉末の粒度分布を、レーザー回折・散乱法により測定した。具体的には、粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製マイクロトラックMT3000II)を用い、JIS R 1622およびR 1629に従って、蛍光体粒子の粒度分布を測定し、D10、D50、D90およびDmaxを算出した。
レーザー回折・散乱法で蛍光体粉末の粒度分布を測定する場合には、測定前に蛍光体粒子同士の凝集を解き、分散媒中に十分に分散させておくことが肝要である。分散処理(前処理)の条件は前述の通りとした。
【0048】
<455nm光吸収率、内部量子効率および外部量子効率>
各実施例および比較例の蛍光体粉末の455nm光吸収率、内部量子効率、および外部量子効率を、以下の手順で求めた。
測定対象の蛍光体粉末を、凹型セルに表面が平滑になるように充填し、積分球の開口部に取り付けた。この積分球内に、発光光源(Xeランプ)から455nmの波長に分光した単色光を、光ファイバーを用いて蛍光体の励起光として導入した。この単色光を蛍光体試料に照射し、蛍光体粉末の蛍光スペクトルを、分光光度計(大塚電子株式会社製MCPD-7000)を用いて測定した。得られたスペクトルデータから、励起反射光フォトン数(Qref)および蛍光フォトン数(Qem)を算出した。励起反射光フォトン数は、励起光フォトン数と同じ波長範囲で、蛍光フォトン数は、465~800nmの範囲で算出した。
【0049】
また、同じ装置を用い、積分球の開口部に反射率が99%の標準反射板(Labsphere社製スペクトラロン(登録商標))を取り付けて、波長455nmの励起光のスペクトルを測定した。その際、450~465nmの波長範囲のスペクトルから励起光フォトン数(Qex)を算出した。
【0050】
測定対象の蛍光体粉末の455nm光吸収率および内部量子効率を、次に示す計算式によって求めた。
455nm光吸収率=((Qex-Qref)/Qex)×100
内部量子効率=(Qem/(Qex-Qref))×100
また、外部量子効率は、以下に示す計算式により求めた。
外部量子効率=(Qem/Qex)×100
従って、上記式より外部量子効率は以下に示す関係となる。
外部量子効率=455nm光吸収率×内部量子効率
【0051】
各種情報をまとめて下表に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
上表より、原料混合粉末中の(MCa+MSr+MEu)/MSiの値を1.005以上1.4以下とすることにより、ボールミル粉砕に依らずとも、適度に微細な蛍光体粒子を含む蛍光体粉末を得ることができた。例えば、実施例1-1~1-7においては、ボールミル粉砕を行わなかったにもかかわらず、ボールミル粉砕を行った比較例1-2や1-4と同程度の粒度分布の蛍光体粉末を得ることができた。
また、実施例1-1~1-7および実施例2-1~2-4で得られた蛍光体粉末の量子効率は比較的良好であった。
【0055】
一方、原料混合粉末中の(MCa+MSr+MEu)/MSiの値が1.005未満であり、かつ、ボールミル粉砕を行わなかった場合、得られる蛍光体粉末に含まれる蛍光体粒子の粒径は比較的大きかった(比較例1-1、1-3、2-1~2-3など)。
また、ボールミル粉砕を行った場合、D50などは小さい蛍光体粉末が得られたが、得られた蛍光体粉末の内部量子効率は悪かった。
【0056】
実施例をより詳細に見ると、実施例2-1と2-2の対比、実施例2-3と2-4の対比より、焼成圧力を大きくすることで、より微細な蛍光体粒子を含む蛍光体粉末を得ることができることが理解される。
【0057】
<参考:粒度分布曲線>
参考のため、図1に、実施例1-7で得られた蛍光体粉末と、比較例1-4で得られた蛍光体粉末(ボールミル粉砕あり)の、体積基準の粒度分布曲線を示す。実線が実施例1-7で得られた蛍光体粉末の粒度分布曲線、点線が比較例1-4で得られた蛍光体粉末(ボールミル粉砕あり)の粒度分布曲線である。
これらの粒度分布曲線より、実施例1-7で得られた蛍光体粉末のほうが、明らかに、微粉が少ないことが理解される。
図1