(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022116900
(43)【公開日】2022-08-10
(54)【発明の名称】スチレン系樹脂組成物及び成形体
(51)【国際特許分類】
C08L 33/06 20060101AFI20220803BHJP
C08L 25/00 20060101ALI20220803BHJP
【FI】
C08L33/06
C08L25/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021013318
(22)【出願日】2021-01-29
(71)【出願人】
【識別番号】399051593
【氏名又は名称】東洋スチレン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】岸本 眞一郎
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BC022
4J002BC072
4J002BG032
4J002GP00
(57)【要約】
【課題】溶融樹脂の流動性に優れ、かつ、該樹脂組成物の成形体が高い透明性を有するできるスチレン系樹脂を提供する。
【解決手段】本発明によれば、ビニル芳香族化合物と(メタ)アクリル酸エステルの共重合体(A)と、水素添加ポリスチレン樹脂(B)を含むスチレン系樹脂組成物であって、前記スチレン系樹脂組成物の、200℃、49Nで測定したMFRが、2.5g/10min以上である、スチレン系樹脂組成物が提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビニル芳香族化合物と(メタ)アクリル酸エステルの共重合体(A)と、
水素添加ポリスチレン樹脂(B)を含むスチレン系樹脂組成物であって、
前記スチレン系樹脂組成物の、200℃、49Nで測定したMFRが、2.5g/10min以上である、スチレン系樹脂組成物。
【請求項2】
前記スチレン系樹脂組成物からなる厚み2mmの成形体のヘイズが14.0%以下である、請求項1に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項3】
前記スチレン系樹脂組成物の重量平均分子量が130,000~190,000である、請求項1又は2に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項4】
前記スチレン系樹脂組成物からなる成形体の曲げ弾性率が3.0GPa以上であり、曲げ強度が0.05GPa以上である、請求項1~3のいずれかに記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項5】
前記水素添加ポリスチレン樹脂(B)の数平均分子量が500~4000、重量平均分子量が1000~5000である、請求項1~4のいずれかに記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項6】
前記水素添加ポリスチレン樹脂(B)の屈折率が1.530~1.570である、請求項1~5のいずれかに記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項7】
ビニル芳香族化合物と(メタ)アクリル酸エステルの共重合体(A)と、
水素添加ポリスチレン樹脂(B)を含むスチレン系樹脂組成物であって、
前記スチレン系樹脂組成物からなる厚み2mmの成形体のヘイズが14.0%以下である、スチレン系樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載のスチレン系樹脂組成物からなる成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スチレン系樹脂組成物及び成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
スチレン系樹脂は、透明性、剛性、低吸水性、寸法安定性などの特性に優れ、成形加工性に優れることから、射出成形、押出成形、ブロー成形などの各種成形方法により、電気製品や各種工業材料、食品包装容器、雑貨等として広く用いられている。
また、導光板としては、PMMA(ポリメチルメタクリレート)に代表されるアクリル樹脂が使用されているが、PMMAは吸水性が高いため、成形品に反りが発生する問題や寸法の変化が発生する場合がある。
そのため、耐熱性、透明性、低吸水性のバランスに優れた、芳香族ビニル化合物と(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体、例えば、スチレンと(メタ)アクリル酸メチルとの共重合体であるMS樹脂(メチルメタクリレート・スチレン樹脂)を用いることが提案されている。
【0003】
一例として、特許文献1には、スチレン系単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体、及びこれらの単量体と共重合可能なビニル系単量体からなるスチレン-(メタ)アクリル酸エステル系共重合樹脂であって、スチレン系単量体80~20質量%、(メタ)アクリル酸エステル系単量体20~80質量%、及びこれらの単量体と共重合可能なビニル系単量体0~10質量%であり、該スチレン-(メタ)アクリル酸エステル系共重合樹脂の重量平均分子量(Mw)が60,000~170,000であり、該スチレン-(メタ)アクリル酸エステル系共重合樹脂の残存モノマー量が3000ppm以下であり、更にオリゴマー量が2%以下であるスチレン-(メタ)アクリル酸エステル系共重合樹脂からなる導光板に係る発明が開示されている。
【0004】
一方、スチレン-(メタ)アクリル酸系共重合体のMFRは、例えば、2g/10min前後と低く、エネルギーコストや樹脂劣化に関係する印加熱量の低減の観点から改良の余地があった。
特許文献2には、例えば、MFRが10以上の熱可塑性樹脂組成物に対して効果を示す流動性向上剤が開示されているが、MS樹脂を含む、芳香族ビニル化合物と(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体のような、低MFRのスチレン系樹脂組成物を対象とするものはではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003-075648号公報
【特許文献2】特開2008-37955号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
流動性改善のために、従来よく知られている流動性向上剤を適用した場合、これらの流動性向上剤と、スチレン系樹脂組成物に対する相溶性や両者の屈折率の不合致から、スチレン系樹脂に求められる透明性を損なってしまうという問題があった。そこで、溶融樹脂の流動性と樹脂成形体の透明性を両立することができる、スチレン系樹脂組成物が求められていた。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、従来のスチレン系樹脂組成物では困難であった、溶融樹脂の流動性に優れ、かつ、該樹脂組成物の成形体が高い透明性を有するできるスチレン系樹脂を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、ビニル芳香族化合物と(メタ)アクリル酸エステルの共重合体(A)と、
水素添加ポリスチレン樹脂(B)を含むスチレン系樹脂組成物であって、前記スチレン系樹脂組成物の、200℃、49Nで測定したMFRが、2.5g/10min以上である、スチレン系樹脂組成物が提供される。
【0009】
上記課題を解決すべく本発明者が鋭意研究を行った結果、ビニル芳香族化合物と(メタ)アクリル酸エステルの共重合体(A)と、水素添加ポリスチレン樹脂(B)との新規な配合の組み合わせを含むスチレン系樹脂組成物によって、該スチレン系樹脂組成物の樹脂成形体の透明性を保持しつつ、当該スチレン系樹脂組成物の流動性を向上させ得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
以下、本発明の種々の実施形態を例示する。以下に示す実施形態は互いに組み合わせ可
能である。
好ましくは、前記スチレン系樹脂組成物からなる厚み2mmの成形体のヘイズが14.0%以下である。
好ましくは、前記スチレン系樹脂組成物の重量平均分子量が130000~190000である。
好ましくは、前記スチレン系樹脂組成物からなる成形体の曲げ弾性率が3.0GPa以上であり、曲げ強度が0.05GPa以上である。
好ましくは、前記水素添加ポリスチレン樹脂(B)の数平均分子量が500~4000、重量平均分子量が1000~5000である。
好ましくは、前記水素添加ポリスチレン樹脂(B)の屈折率が1.530~1.570である。
【0011】
本発明の別の観点によれば、ビニル芳香族化合物と(メタ)アクリル酸エステルの共重合体(A)と、水素添加ポリスチレン樹脂(B)を含むスチレン系樹脂組成物であって、前記スチレン系樹脂組成物からなる厚み2mmの成形体のヘイズが14.0%以下である、スチレン系樹脂組成物が提供される。
また、本発明のさらに別の観点によれば、上記のいずれかのスチレン系樹脂組成物からなる成形体が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ビニル芳香族化合物と(メタ)アクリル酸エステルの共重合体(A)の流動性を、水素添加ポリスチレン樹脂(B)で調整することにより、優れた流動性を有し、かつその成形体が高い透明性を有するスチレン系樹脂組成物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を例示して本発明について詳細な説明をする。本発明は、これらの記載によりなんら限定されるものではない。以下に示す本発明の実施形態の各種特徴事項は、互いに組み合わせ可能である。
本明細書において、「XX~YY」の記載は、「XX以上YY以下」を意味する。
【0014】
本発明に係るスチレン系樹脂組成物は、ビニル芳香族化合物と(メタ)アクリル酸エステルの共重合体(A)と、水素添加ポリスチレン樹脂(B)を含む。以下、各成分について詳述する。
【0015】
1.ビニル芳香族化合物と(メタ)アクリル酸エステルの共重合体(A)
本発明に係るビニル芳香族化合物と(メタ)アクリル酸エステルの共重合体(A)は、ビニル芳香族化合物と(メタ)アクリル酸エステルを含む単量体混合物を共重合させて得られる。したがって、本発明に係るビニル芳香族化合物と(メタ)アクリル酸エステルの共重合体(A)は、ビニル芳香族化合物に由来する単量体単位と、(メタ)アクリル酸エステルに由来する単量体単位を少なくとも含む。
【0016】
本発明に係るビニル芳香族化合物は、単環又は多環の芳香族ビニル系モノマーであり、例えば、スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、2,5-ジメチルスチレン、3,4-ジメチルスチレン、3,5-ジメチルスチレン、p-エチルスチレン、m-エチルスチレン、о-エチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、1-ビニルナフタレン、2-ビニルナフタレン、1,1-ジフェニルエチレン、イソプロペニルベンセン(α-メチルスチレン)、イソプロペニルトルエン、イソプロペニルエチルベンゼン、イソプロペニルプロピルベンゼン、イソプロペニルブチルベンゼン、イソプロペニルペンチルベンゼン、イソプロペニルヘキシルベンゼン、イソプロペニルオクチルベンゼン等を挙げることができ、好ましくは、スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、2,5-ジメチルスチレン、3,4-ジメチルスチレン、3,5-ジメチルスチレン、p-エチルスチレン、m-エチルスチレン、о-エチルスチレン、p-tert-ブチルスチレンであり、より好ましくは、スチレンである。これらのビニル芳香族化合物は単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0017】
本発明に係る(メタ)アクリル酸エステルとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートのメタクリル酸エステル、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n-ブチルアクリレート、2-メチルヘキシルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、デシルアクリレート等のアクリル酸エステルを挙げることができ、好ましくはメチル(メタ)アクリレート、n-ブチルアクリレートであり、特に好ましくはメチル(メタ)アクリレートである。これらの(メタ)アクリル酸エステルは単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0018】
本発明の一実施形態に係るビニル芳香族化合物と(メタ)アクリル酸エステルの共重合体(A)は、必要に応じてこれらの単量体と共重合可能な他の単量体に由来する単量体単位を含むこともできる。これらの単量体と共重合可能な他の単量体としては、ビニル系単量体を挙げることができ、アクリル酸、メタクリル酸、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル、N-フェニルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド等が挙げられる。
【0019】
本発明の一実施形態に係るビニル芳香族化合物と(メタ)アクリル酸エステルの共重合体(A)は、(メタ)アクリル酸エステルに由来する単量体単位を10~80質量%含むことが好ましく、20~70質量%含むことがより好ましく、25~65質量%含むことがさらにより好ましい。ビニル芳香族化合物と(メタ)アクリル酸エステルの共重合体(A)における(メタ)アクリル酸エステルに由来する単量体単位の含有率は、例えば、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80質量%とすることができ、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。(メタ)アクリル酸エステルに由来する単量体単位の含有率を上記下限以上とすることで、材料のヘイズを保持しつつ、流動性の指標であるMFRを向上させることができる。このほか、曲げ弾性率や曲げ強度といった力学特性についても、この含有率の範囲において保持することが可能である。
【0020】
本発明の一実施形態に係るビニル芳香族化合物と(メタ)アクリル酸エステルの共重合体(A)は、ビニル芳香族化合物に由来する単量体単位を、20~90質量%含むことが好ましく、30~80質量%含むことがより好ましく、35~75質量%含むことがさらにより好ましい。
本発明の一実施形態に係るビニル芳香族化合物と(メタ)アクリル酸エステルの共重合体(A)は、ビニル芳香族化合物及び(メタ)アクリル酸エステルと共重合可能な他の単量体に由来する単量体単位を、0~10質量%含むことができ、また、他の単量体に由来する単量体単位を、含まないものとすることもできる。
【0021】
本発明の一実施形態に係るビニル芳香族化合物と(メタ)アクリル酸エステルの共重合体(A)の数平均分子量(Mn)は、50,000~100,000であることが好ましく、60,000~90,000であることがより好ましい。本発明の一実施形態に係るビニル芳香族化合物と(メタ)アクリル酸エステルの共重合体(A)の重量平均分子量(Mw)は、130,000~200,000であることが好ましく、140,000~190,000であることがより好ましい。
【0022】
本発明の一実施形態に係るビニル芳香族化合物と(メタ)アクリル酸エステルの共重合体(A)は、その屈折率が、1.530~1.570であることが好ましい。
屈折率は、例えば、1.530、1.535、1.540、1.545、1.550、1.555、1.560、1.565、1.570とすることができ、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。なお、ビニル芳香族化合物と(メタ)アクリル酸エステルの共重合体(A)の屈折率は、ビニル芳香族化合物と(メタ)アクリル酸エステルの共重合体(A)からなる成形体を用いて、たとえば、アッベ屈折計による測定(JIS K 7142)により測定することができる。
なお、ビニル芳香族化合物と(メタ)アクリル酸エステルの共重合体(A)の屈折率は、例えば、ビニル芳香族化合物と(メタ)アクリル酸エステルの共重合体(A)中の、ビニル芳香族化合物に由来する単量体単位の量((メタ)アクリル酸エステルに由来する単量体単位の量)を調整することにより、制御することができ、具体的には、ビニル芳香族化合物に由来する単量体単位の含有量を増加させると((メタ)アクリル酸エステルに由来する単量体単位の量を減少させると)、屈折率が増大する傾向にある。
【0023】
本発明の一実施形態に係るビニル芳香族化合物と(メタ)アクリル酸エステルの共重合体(A)は、200℃、49Nで測定したMFR(メルトマスフローレイト)が1.0~3.0g/10minであることが好ましい。ビニル芳香族化合物と(メタ)アクリル酸エステルの共重合体(A)のMFRはJIS K 7210に基づき測定することができる。
また、ビニル芳香族化合物と(メタ)アクリル酸エステルの共重合体(A)のMFRは、例えば、ビニル芳香族化合物と(メタ)アクリル酸エステルの共重合体(A)の分子量を調整することにより、制御することができる。
【0024】
本発明の一実施形態に係るビニル芳香族化合物と(メタ)アクリル酸エステルの共重合体(A)の製造方法については特に制限はなく、例えば乳化重合法、懸濁重合法、塊状重合法、溶液重合法等の重合方法が採用できる。
【0025】
2.水素添加ポリスチレン樹脂(B)
本発明の一実施形態に係る水素添加ポリスチレン樹脂(B)は、スチレン樹脂を水素化して、芳香環の少なくとも一部を脂環に変化させたものである。ここで、水素添加ポリスチレン樹脂(B)の出発原料となるスチレン樹脂は、スチレン系単量体の1種または2種以上を付加重合することによって得られるものであることが好ましい。該スチレン系単量体としては、スチレン、α-メチルスチレン、β-メチルスチレン、2-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、4-フェニルスチレンなどが挙げられる。付加重合反応は公知の方法に従って行うことができる。付加重合は、例えば、リビングアニオン重合触媒を用いて溶液重合する方法、カチオン重合触媒を用いる方法、ラジカル重合開始剤を用いる方法などで行うことができる。
【0026】
本発明の一実施形態に係る水素添加ポリスチレン樹脂(B)は、上記スチレン樹脂中のスチレン系単量体由来の芳香環の少なくとも一部を水素添加して得ることができる。水素添加の方法は従来公知のもので特に限定されない。例えば、公知の水素化触媒の存在下でスチレン樹脂を溶剤に溶解した溶液に、水素を吹き込むなどの方法で接触させて行うことができる。
【0027】
本発明の一実施形態に係る水素添加ポリスチレン樹脂(B)は、数平均分子量が500~4000であることが好ましく、1000~3000であることがより好ましく、1500~2500であることが更により好ましい。本発明の一実施形態に係る水素添加ポリスチレン樹脂(B)は、重量平均分子量が1000~5000であることが好ましく、2000~4000であることがより好ましく、2000~3000であることが更により好ましい。
上記下限以上とすることで、充分な強度の成形体が得ることができ、上記上限以下とすることで、流動性向上効果に優れた水素添加ポリスチレン樹脂(B)とできる。
【0028】
本発明の一実施形態に係る水素添加ポリスチレン樹脂(B)は、その屈折率が、1.530~1.570であることが好ましい。
屈折率は、例えば、1.530、1.535、1.540、1.545、1.550、1.555、1.560、1.565、1.570とすることができ、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。なお、水素添加ポリスチレン樹脂(B)の屈折率は、一例として、アッベ屈折計による測定(JIS K 7142)により測定することができる。
なお、水素添加ポリスチレン樹脂(B)の屈折率は、例えば、水素添加率を制御することで調整することができる。
【0029】
3.ビニル芳香族化合物と(メタ)アクリル酸エステルの共重合体(A)
本発明に係るスチレン系樹脂組成物は、上記のビニル芳香族化合物と(メタ)アクリル酸エステルの共重合体(A)と、上記の水素添加ポリスチレン樹脂(B)を含む。なお、本発明に係るスチレン系樹脂組成物は、ビニル芳香族化合物と(メタ)アクリル酸エステルの共重合体(A)及び水素添加ポリスチレン樹脂(B)を、それぞれ1種単独で使用してもよいし、それぞれ2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0030】
本発明に係るスチレン系樹脂組成物は、ビニル芳香族化合物と(メタ)アクリル酸エステルの共重合体(A)と、水素添加ポリスチレン樹脂(B)との新規な組み合わせを有することにより、優れた流動性及び該樹脂組成物の成形体における高い透明性を併せ持つ。従来、MS樹脂(メチルメタクリレート・スチレン樹脂)等のビニル芳香族化合物と(メタ)アクリル酸エステルの共重合体を含むスチレン系樹脂は流動性が極めて低く、低流動性のスチレン系樹脂に適した流動性向上剤はなかった。また、ビニル芳香族化合物と(メタ)アクリル酸エステルの共重合体を含むスチレン系樹脂組成物と、公知の流動性向上剤は、屈折率が適合せず、また相溶性が低く、両者を組み合わせた場合に結果として得られるスチレン系樹脂組成物の透明性が低下した。本発明によれば、ビニル芳香族化合物と(メタ)アクリル酸エステルの共重合体(A)に対する、屈折率適合性、相溶性に優れ、かつ、低流動性のスチレン系樹脂に適した流動性向上効果を有する水素添加ポリスチレン樹脂(B)を添加することで、溶融樹脂の流動性と樹脂成形体の透明性を両立することができる、スチレン系樹脂組成物が提供される。
【0031】
本発明の一実施形態に係るスチレン系樹脂組成物は、200℃、49Nで測定したMFR(メルトマスフローレイト)が、2.5g/10min以上であり、3.0g/10min以上であることが好ましい。MFRの上限は特に制限されないが、例えば、20.0g/10min以下とでき、場合によっては6g/10min未満とできる。MFR(メルトマスフローレイト)は、例えば、2.5,3.0,3.5,4.0,4.5,5.0,6.0,7.0,8.0,9.0,10.0,11.0,12.0,13.0,14.0,14.5,16.0,17.0,18.0,19.0,20.0g/10minとでき、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
スチレン系樹脂組成物のMFRはJIS K 7210に基づき測定することができる。
また、スチレン系樹脂組成物のMFRは、スチレン系樹脂組成物中の水素添加ポリスチレン樹脂(B)の配合量、ビニル芳香族化合物と(メタ)アクリル酸エステルの共重合体(A)の分子量、ビニル芳香族化合物と(メタ)アクリル酸エステルの共重合体(A)中の(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の含有率、水素添加ポリスチレン樹脂(B)の分子量等を調整することにより、制御することができる。
【0032】
本発明の一実施形態に係るスチレン系樹脂組成物は、該スチレン系樹脂組成物からなる厚み2mmの成形体のヘイズが14.0%以下であることが好ましく、より好ましくは10.0%以下であり、さらにより好ましくは、5.0%以下であり、特により好ましくは2.0%以下である。ヘイズは、例えば、0.1、0.3、0.5、1.0、2.0、3.0、4.0、5.0、6.0、7.0、8.0、9.0、10.0、11.0、12.0、13.0、14.0%であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
なお、ヘイズは、スチレン系樹脂組成物のペレットを、射出成形機を用いて、例えば、シリンダー温度175~215℃、金型温度45℃にて射出成形し、試験片(厚さ2mm、寸法40mm×40mm)を作製し、該試験片について、JIS K 7105に基づき、ヘイズメーターを用いて測定することができる。
【0033】
本発明によれば、ビニル芳香族化合物と(メタ)アクリル酸エステルの共重合体(A)の流動性を、水素添加ポリスチレン樹脂(B)で調整することにより、透明性に優れた、スチレン系樹脂組成物を得ることができる。
スチレン系樹脂組成物の成形体のヘイズは、スチレン系樹脂組成物中の水素添加ポリスチレン樹脂(B)の配合量、ビニル芳香族化合物と(メタ)アクリル酸エステルの共重合体(A)の分子量、ビニル芳香族化合物と(メタ)アクリル酸エステルの共重合体(A)中の(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の含有率、水素添加ポリスチレン樹脂(B)の分子量等を調整することにより、制御することができ、特には、ビニル芳香族化合物と(メタ)アクリル酸エステルの共重合体(A)と、水素添加ポリスチレン樹脂(B)の屈折率を近づけることにより、よりヘイズの値をより低くすることができる。
【0034】
本発明の一実施形態に係るスチレン系樹脂組成物は、ビニル芳香族化合物と(メタ)アクリル酸エステルの共重合体(A)の屈折率と、水素添加ポリスチレン樹脂(B)の屈折率との差が、0.030以内であることが好ましく、0.020以内であることがより好ましく、0.010以内であることがさらにより好ましい。スチレン系樹脂組成物に含まれるビニル芳香族化合物と(メタ)アクリル酸エステルの共重合体(A)の屈折率と、水素添加ポリスチレン樹脂(B)の屈折率を近づけることにより、得られるスチレン系樹脂組成物の透明性をより向上させることができる。
【0035】
本発明に係るスチレン系樹脂組成物は、スチレン系樹脂組成物全体を100質量%としたとき、水素添加ポリスチレン樹脂(B)を0.1~40質量%含むことが好ましく、0.5~30質量%含むことがより好ましく、1~25質量%含むことがさらにより好ましい。水素添加ポリスチレン樹脂(B)の含有率は、例えば、0.1、0.5、1.0、2.0、3.0、4.0、5.0、6.0、7.0、8.0、9.0、10.0、11.0、12.0、13.0、14.0、15.0、16.0、17.0、18.0、19.0、20.0質量%とすることができ、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
上記数値範囲内とすることにより、より溶融樹脂の流動性と樹脂成形体の透明性のバランスに優れたスチレン系樹脂組成物とできる。
【0036】
本発明に係るスチレン系樹脂組成物は、上記のビニル芳香族化合物と(メタ)アクリル酸エステルの共重合体(A)と、上記の水素添加ポリスチレン樹脂(B)を含み、本発明の効果を阻害しない範囲で、他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、フィラー、光安定剤、酸化防止剤、熱安定剤、難燃剤、紫外線吸収剤、染顔料、蛍光増白剤、滴下防止剤、帯電防止剤、防曇剤、滑剤、アンチブロッキング剤、流動性向上剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤などが挙げられる。これらの成分は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの成分を配合する場合、スチレン系樹脂組成物全体を100質量%とし、その他の成分をそれぞれ、0~10質量%の間で調整することが好ましい。本発明に係るスチレン系樹脂組成物は、ビニル芳香族化合物と(メタ)アクリル酸エステルの共重合体(A)と、水素添加ポリスチレン樹脂(B)のみから成るものとすることもできる。
【0037】
本発明に係るスチレン系樹脂組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲で、公知の流動性向上剤を含んでも良い。公知の流動性向上剤としては、ステアリン酸、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム等の高級脂肪酸及びその塩やエチレンビスステアリルアミド、ポリエチレンワックス等を挙げることができる。本発明に係るスチレン系樹脂組成物は、上記したような、水素添加ポリスチレン樹脂(B)以外の流動性向上剤を含む場合、その含有率は1質量%未満であることが好ましく、0.5質量%未満であることが好ましい。本発明に係るスチレン系樹脂組成物は、水素添加ポリスチレン樹脂(B)以外の流動性向上剤を含まないものとすることができる。
【0038】
本発明の一実施形態に係るスチレン系樹脂組成物は、数平均分子量が60,000~110,000であることが好ましく、70,000~100,000であることがより好ましい。本発明の一実施形態に係る水素添加ポリスチレン樹脂(B)は、重量平均分子量が130,000~190,000であることが好ましく、140,000~180,000であることがより好ましい。
上記数値範囲内とすることで、より流動性、強度のバランスに優れたスチレン系樹脂組成物とすることができる。
スチレン系樹脂組成物の分子量は、スチレン系樹脂組成物に含まれる水素添加ポリスチレン樹脂(B)の配合量や、ビニル芳香族化合物と(メタ)アクリル酸エステルの共重合体(A)及び水素添加ポリスチレン樹脂(B)の分子量を調整することにより制御できる。
【0039】
本発明の一実施形態に係るスチレン系樹脂組成物は、スチレン系樹脂組成物からなる成形体の曲げ弾性率が3.0GPa以上であることが好ましく、3.1GPa以上であることがより好ましく、3.2GPa以上であることがさらにより好ましい。曲げ弾性率は、JIS K 7171に基づき評価することができる。
また、本発明の一実施形態に係るスチレン系樹脂組成物は、スチレン系樹脂組成物からなる成形体の曲げ強度が0.05GPa以上であることが好ましい。曲げ強度は、JIS K 7171に基づき評価することができる。
スチレン系樹脂組成物の曲げ弾性率及び曲げ強度は、スチレン系樹脂組成物の分子量、ビニル芳香族化合物と(メタ)アクリル酸エステルの共重合体(A)の配合量、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の含有率、水素添加ポリスチレン樹脂(B)の分子量を調整することにより制御することができる。
【0040】
3.スチレン系樹脂組成物の製造方法
本発明のスチレン系樹脂組成物は、ビニル芳香族化合物と(メタ)アクリル酸エステルの共重合体(A)に、水素添加ポリスチレン樹脂(B)を添加することによって製造可能である。添加方法としては、ビニル芳香族化合物と(メタ)アクリル酸エステルの共重合体(A)の重合工程、脱揮工程、造粒工程で添加混合する方法や、成形加工時の押出機や射出成形機などで添加混合する方法などが挙げられ、特に限定されるものではない。
【0041】
4.スチレン系樹脂組成物を含む成形体
本発明の一実施形態に係る成形体は、上記のスチレン系樹脂組成物を含む。
本発明のスチレン系樹脂組成物は、射出成形、押出成形、圧縮成形、ブロー成形等、目的に応じた成形方法で成形品にすることができ、その形状は制限されるものではない。例えば板状成形品であれば、導光板等に加工することができる。
【実施例0042】
本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら制限されるものではない。
【0043】
<実施例>
ビニル芳香族化合物と(メタ)アクリル酸エステルの共重合体(A)として、以下のメチルメタクリレート・スチレン樹脂を準備した。
メタクリレート・スチレン樹脂(A-1):東洋スチレン(株)製、MFR2.8g/10min、屈折率1.565、
メタクリレート・スチレン樹脂(A-2):東洋スチレン(株)製、MFR1.8g/10min、屈折率1.551、
メタクリレート・スチレン樹脂(A-3):東洋スチレン(株)製、MFR1.0g/10min、屈折率1.535
【0044】
また、水素添加ポリスチレン樹脂(B)として、以下を準備した。
水素添加ポリスチレン樹脂(B-1):数平均分子量1.8×103、重量平均分子量2.7×103、屈折率1.565
水素添加ポリスチレン樹脂(B-2):数平均分子量1.8×103、重量平均分子量2.7×103、屈折率1.551
水素添加ポリスチレン樹脂(B-3):数平均分子量1.8×103、重量平均分子量2.7×103、屈折率1.543
【0045】
また、その他の市販の添加剤として、以下を準備した。
・ステアリン酸亜鉛
・ポリエチレンワックス
【0046】
表1及び表2に示す配合で、メタクリレート・スチレン樹脂(A-1)~(A-3)、水素添加ポリスチレン樹脂(B-1)~(B-3)、その他の添加剤をスクリュー径26mmの二軸混錬押出機を用いて、シリンダー温度230℃、スクリュー回転数300rpm、吐出量毎時25~30kgで溶融混錬してペレットを得た。
【0047】
得られたスチレン系樹脂組成物について以下の評価を行った。結果を表1及び表2に示す。
【0048】
<重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)>
重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、次の条件で測定した。
GPC機種:昭和電工株式会社製ShodexGPC-101
カラム:ポリマーラボラトリーズ社製PLgel10μmMIXED-B
移動相:テトラヒドロフラン
試料濃度:0.2質量%
温度:オーブン40℃、注入口35℃、検出器35℃
検出器:示差屈折計
分子量は単分散ポリスチレンの溶出曲線より各溶出時間における分子量を算出し、ポリスチレン換算の分子量として算出した。
【0049】
<HAZEの測定>
スチレン系樹脂組成物のペレットを、東芝機械社製射出成形機(IS130FII-3A)を用いて、シリンダー温度175~215℃、金型温度45℃にて射出成形した。得られた試験片(厚さ2mm、寸法40mm×40mm)を用い、JIS K 7105に基づき、ヘイズメーター(日本電色工業社製NDH5000)を用いてHAZE(単位:%)測定を行った。
【0050】
<MFRの測定>
スチレン系樹脂組成物のMFR(メルトマスフローレイト)は、200℃、49N荷重の条件で、JIS K 7210に基づき測定した。
【0051】
<曲げ強度>
スチレン系樹脂組成物のペレットを、東芝機械社製射出成形機(IS130FII-3A)を用いて、シリンダー温度175~215℃、金型温度45℃にて射出成形した。得られた試験片を用い、JIS K 7171に基づき、(株)東洋精機製ベントグラフを用いて曲げ強度(MPa)を評価した。
【0052】
<曲げ弾性率>
スチレン系樹脂組成物のペレットを、東芝機械社製射出成形機(IS130FII-3A)を用いて、シリンダー温度175~215℃、金型温度45℃にて射出成形した。得られた試験片を用い、JIS K 7171に基づき、(株)東洋精機製ベントグラフを用いて、曲げ弾性率(MPa)を評価した。
【0053】
【0054】