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特開2022-116957造形履歴監視装置、造形物の製造システム及び造形履歴監視方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022116957
(43)【公開日】2022-08-10
(54)【発明の名称】造形履歴監視装置、造形物の製造システム及び造形履歴監視方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/04 20060101AFI20220803BHJP
   B23K 31/00 20060101ALI20220803BHJP
【FI】
B23K9/04 G
B23K9/04 Z
B23K31/00 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021013390
(22)【出願日】2021-01-29
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】片岡 保人
(72)【発明者】
【氏名】田村 栄一
(72)【発明者】
【氏名】吉川 旭則
(72)【発明者】
【氏名】黄 碩
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 伸志
(57)【要約】
【課題】溶着ビードを繰り返し形成した造形物の欠陥を、高い信頼性で推定することが可能な造形履歴監視装置、造形物の製造システム及び造形履歴監視方法を提供する。
【解決手段】既設の溶着ビード29Aの延伸方向に沿う形状プロファイルを取得する形状センサ25を有し、制御部21は、既設の溶着ビード29Aに隣り合う位置に隣接の溶着ビード29Bを形成する際に、隣接の溶着ビード29Bの形成中における溶接情報を取得する溶接情報取得手段と、形状プロファイルに基づいて、既設の溶着ビード29Aにおける閾値以上の根元角θを有する角度特徴部Rcを割り出すとともに、溶接情報に基づいて、溶接情報の溶接特徴部Wcを割り出し、角度特徴部Rcに対応する溶接特徴部Wcを角度特徴部Rcに関連付けして欠陥候補Fとして抽出する欠陥候補抽出手段と、を有する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トーチによって溶加材を溶融及び凝固させた複数の溶着ビードを形成して造形物を造形する際の履歴情報から欠陥を推定する造形履歴監視装置であって、
既設の溶着ビードの延伸方向に沿う形状プロファイルを取得する形状プロファイル取得手段と、
前記既設の溶着ビードに隣り合う位置に隣接の溶着ビードを形成する際に、前記隣接の溶着ビードの形成中における溶接情報を取得する溶接情報取得手段と、
前記形状プロファイルに基づいて、前記既設の溶着ビードにおける閾値以上の根元角を有する角度特徴部を割り出すとともに、前記溶接情報に基づいて、前記溶接情報の溶接特徴部を割り出し、前記角度特徴部に対応する前記溶接特徴部を前記角度特徴部に関連付けして欠陥候補として抽出する欠陥候補抽出手段と、
を有する、
造形履歴監視装置。
【請求項2】
前記溶接情報取得手段は、溶接電圧、溶接電流、溶加材の送給速度、溶加材の送給抵抗、シールドガス流量、溶融池の流動状況の少なくとも一つを前記溶接情報として取得する、
請求項1に記載の造形履歴監視装置。
【請求項3】
前記欠陥候補抽出手段は、前記欠陥候補の出現頻度を算出する出現頻度算出処理を行う、
請求項1または請求項2に記載の造形履歴監視装置。
【請求項4】
前記欠陥候補抽出手段は、前記欠陥候補の出現頻度に基づいて、前記造形物における欠陥サイズを推定する、
請求項3に記載の造形履歴監視装置。
【請求項5】
トーチを移動させながら、前記トーチによって溶加材を溶融及び凝固させた溶着ビードを形成して造形物を造形する造形物の製造システムであって、
請求項1~4のいずれか一項に記載の造形履歴監視装置を備える、
造形物の製造システム。
【請求項6】
トーチによって溶加材を溶融及び凝固させた複数の溶着ビードを形成して造形物を造形する際の履歴情報から欠陥を推定する造形履歴監視方法であって、
既設の溶着ビードの延伸方向に沿う形状プロファイルを取得する形状プロファイル取得処理と、
前記既設の溶着ビードに隣り合う位置に隣接の溶着ビードを形成する際に、前記隣接の溶着ビードの形成中における溶接情報を取得する溶接情報取得処理と、
前記形状プロファイルに基づいて、前記既設の溶着ビードにおける閾値以上の根元角を有する角度特徴部を割り出すとともに、前記溶接情報に基づいて、前記溶接情報の溶接特徴部を割り出し、前記角度特徴部に対応する前記溶接特徴部を前記角度特徴部に関連付けして欠陥候補として抽出する欠陥候補抽出処理と、
を含む、
造形履歴監視方法。
【請求項7】
前記溶接情報取得処理において、溶接電圧、溶接電流、溶加材の送給速度、溶加材の送給抵抗、シールドガス流量、溶融池の流動状況の少なくとも一つを前記溶接情報として取得する、
請求項6に記載の造形履歴監視方法。
【請求項8】
前記欠陥候補抽出処理において、前記欠陥候補の出現頻度を算出する出現頻度算出処理を行う、
請求項6または請求項7に記載の造形履歴監視方法。
【請求項9】
前記欠陥候補抽出処理において、前記欠陥候補の出現頻度に基づいて、前記造形物における欠陥サイズを推定する、
請求項8に記載の造形履歴監視方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、造形履歴監視装置、造形物の製造システム及び造形履歴監視方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、溶接施工において、複数の視覚センサによって溶接ワイヤの突出し長さ、溶融プール形状及び溶接士の挙動に関する複数の情報を取得し、これらの情報に基づいて、溶接施工の良否を判定する技術が開示されている。
【0003】
また、特許文献2には、開先内に形成された溶接ビードの2次元断面形状を取得する断面読取センサで取得した断面形状に基づいて、高エネルギー密度溶接による金属板材料を突き合わせ溶接する際に発生する溶接ビードの形状から、突き合わせ溶接の良否を判定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-110388号公報
【特許文献2】特開2008-212944号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、レーザやアーク等の熱源を用いて、金属粉体や金属ワイヤを溶融させて溶着ビードを形成して造形物を造形する積層造形では、溶着ビードを繰り返し積層することで造形物が蓄熱する。また、積層造形では、開先のように両側から支える壁を有する整った下地ではなく、既設の溶着ビードを下地とし、この既設の溶着ビードに沿って次の溶着ビードを形成することとなる。したがって、開先のように両側から支える壁を有する整った下地へ溶接する際の良否判定を行う特許文献1,2の技術を積層造形に適用することは困難である。
【0006】
そこで本発明は、溶着ビードを繰り返し形成した造形物の欠陥を、高い信頼性で推定することが可能な造形履歴監視装置、造形物の製造システム及び造形履歴監視方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は下記構成からなる。
(1) トーチによって溶加材を溶融及び凝固させた複数の溶着ビードを形成して造形物を造形する際の履歴情報から欠陥を推定する造形履歴監視装置であって、
既設の溶着ビードの延伸方向に沿う形状プロファイルを取得する形状プロファイル取得手段と、
前記既設の溶着ビードに隣り合う位置に隣接の溶着ビードを形成する際に、前記隣接の溶着ビードの形成中における溶接情報を取得する溶接情報取得手段と、
前記形状プロファイルに基づいて、前記既設の溶着ビードにおける閾値以上の根元角を有する角度特徴部を割り出すとともに、前記溶接情報に基づいて、前記溶接情報の溶接特徴部を割り出し、前記角度特徴部に対応する前記溶接特徴部を前記角度特徴部に関連付けして欠陥候補として抽出する欠陥候補抽出手段と、
を有する、
造形履歴監視装置。
(2) トーチを移動させながら、前記トーチによって溶加材を溶融及び凝固させた溶着ビードを形成して造形物を造形する造形物の製造システムであって、上記(1)に記載の造形履歴監視装置を備える、造形物の製造システム。
(3) トーチによって溶加材を溶融及び凝固させた複数の溶着ビードを形成して造形物を造形する際の履歴情報から欠陥を推定する造形履歴監視方法であって、
既設の溶着ビードの延伸方向に沿う形状プロファイルを取得する形状プロファイル取得処理と、
前記既設の溶着ビードに隣り合う位置に隣接の溶着ビードを形成する際に、前記隣接の溶着ビードの形成中における溶接情報を取得する溶接情報取得処理と、
前記形状プロファイルに基づいて、前記既設の溶着ビードにおける閾値以上の根元角を有する角度特徴部を割り出すとともに、前記溶接情報に基づいて、前記溶接情報の溶接特徴部を割り出し、前記角度特徴部に対応する前記溶接特徴部を前記角度特徴部に関連付けして欠陥候補として抽出する欠陥候補抽出処理と、
を含む、
造形履歴監視方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、溶着ビードを繰り返し形成した造形物の欠陥を、高い信頼性で推定できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態に係る製造システムの模式的な概略構成図である。
図2】オーバーラップさせて形成する溶着ビードを示す図であって、(A)は既設の溶着ビードの根元角が小さい場合を示す概略断面図であり、(B)は既設の溶着ビードの根元角が大きい場合を示す概略断面図である。
図3】既設の溶着ビードに沿って隣接する溶着ビードを形成する様子を示す斜視図である。
図4】既設の溶着ビードの根元角と、隣接して形成する溶着ビードの溶接電圧のプロファイルを模式的に示す説明図である。
図5】既設の溶着ビードに沿って溶着ビードを形成する様子を示す斜視図である。
図6】溶着ビードに形成される溶融池を説明する斜視図である。
図7】溶融池の形状の変動を説明する図であって、(A)は膨出部が形成された状態の斜視図、(B)は窪み部が形成された状態の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の造形履歴監視装置を備えた造形物の製造システム100の模式的な概略構成図である。
本構成の造形物の製造システム100は、溶接ロボット11と、ロボットコントローラ13と、溶加材供給部15と、溶接電源19と、制御部21と、を備える。
【0011】
溶接ロボット11は、多関節ロボットであり、先端軸にトーチ23が支持される。トーチ23の位置及び姿勢は、ロボットアームの自由度の範囲で3次元的に任意に設定可能となっている。トーチ23は、溶加材供給部15から連続供給される溶加材(溶接ワイヤ)Mをトーチ先端から突出した状態に保持する。この溶接ロボット11の先端軸には、トーチ23とともに形状センサ25が設けられている。
【0012】
トーチ23は、不図示のシールドノズルを有し、シールドノズルからシールドガスが溶接部に供給される。アーク溶接法としては、被覆アーク溶接や炭酸ガスアーク溶接等の消耗電極式、TIG溶接やプラズマアーク溶接等の非消耗電極式のいずれであってもよく、作製する造形物に応じて適宜選定される。
【0013】
例えば、消耗電極式の場合、シールドノズルの内部にはコンタクトチップが配置され、溶融電流が給電される溶加材Mがコンタクトチップに保持される。トーチ23は、溶加材Mを保持しつつ、シールドガス雰囲気で溶加材Mの先端からアークを発生する。溶加材Mは、ロボットアーム等に取り付けた不図示の繰り出し機構によりトーチ23に送給される。そして、トーチ23を移動しつつ、連続送給される溶加材Mを溶融及び凝固させると、ベースプレート27上に溶加材Mの溶融凝固体である溶着ビード29が形成される。
【0014】
ベースプレート27は、鋼板等の金属板からなり、基本的には造形物Wの底面(最下層の面)より大きいものが使用される。このベースプレート27は、板状に限らず、ブロック体や棒状等、他の形状のベースであってもよい。
【0015】
溶加材Mを溶融させる熱源としては、上記したアークに限らない。例えば、アークとレーザとを併用した加熱方式、プラズマを用いる加熱方式、電子ビームやレーザを用いる加熱方式等、他の方式による熱源を採用してもよい。電子ビームやレーザにより加熱する場合、加熱量をさらに細かく制御でき、溶着ビードの状態をより適正に維持して、造形物の更なる品質向上に寄与できる。
【0016】
溶加材Mは、あらゆる市販の溶接ワイヤを用いることができる。例えば、軟鋼,高張力鋼及び低温用鋼用のマグ(MAG)溶接及びミグ(MIG)溶接ソリッドワイヤ(JIS Z 3312)、軟鋼,高張力鋼及び低温用鋼用アーク溶接フラックス入りワイヤ(JIS Z 3313)等で規定されるワイヤを用いることができる。
【0017】
溶加材Mとしてチタンのような活性金属を用いることもできる。その場合、溶接時に大気との反応による酸化、窒化を回避するため、溶接部をシールドガス雰囲気にすることが必要となる。
【0018】
形状センサ25は、トーチ23に並設されており、トーチ23とともに移動される。この形状センサ25は、溶着ビード29を形成する際の下地となる部分の形状を計測するセンサである。この形状センサ25としては、例えば、照射したレーザ光の反射光を高さデータとして取得するレーザセンサが用いられる。なお、形状センサ25としては、3次元形状計測用カメラを用いてもよい。
【0019】
ロボットコントローラ13は、制御部21からの指示を受けて、溶接ロボット11の各部を駆動し、必要に応じて溶接電源19の出力を制御する。
【0020】
制御部21は、CPU、メモリ、ストレージ等を備えるコンピュータ装置により構成され、予め用意された駆動プログラム、又は所望の条件で作成した駆動プログラムを実行して、溶接ロボット11等の各部を駆動する。これにより、駆動プログラムに応じてトーチ23を移動させ、作成した積層計画に基づいてベースプレート27上に複数層の溶着ビード29を積層することで、多層構造の造形物Wが造形される。また、制御部21には、データベース17が接続されている。このデータベース17には、後述する制御部21によって抽出する欠陥候補を含む履歴情報が保存されて蓄積される。
【0021】
ところで、造形物Wを造形する際に形成される溶着ビード29は、材料や溶融時の条件等に応じて流動性が大きく左右されて幅や高さが変動する。すると、造形物Wの造形において、既設の溶着ビード29に隣接させて溶着ビード29を形成する際に、隣接する溶着ビード29同士のオーバーラップ部分で欠陥が発生するおそれがある。
【0022】
図2は、オーバーラップさせて形成する溶着ビードを示す図であって、(A)は既設の溶着ビード29Aの根元角θが小さい場合を示す概略断面図であり、(B)は既設の溶着ビード29Aの根元角θが大きい場合を示す概略断面図である。
【0023】
図2の(A)に示すように、既設の溶着ビード29Aの根元角θが小さい場合では、この既設の溶着ビード29Aにオーバーラップさせて隣接する溶着ビード29Bを形成した際に、これらの溶着ビード29A,29B間での欠陥の発生率が低い。これに対して、図2の(B)に示すように、既設の溶着ビード29Aの根元角θが大きい場合では、この既設の溶着ビード29Aにオーバーラップさせて隣接する溶着ビード29Bを形成した際に、溶融金属が既設の溶着ビード29Aの根元まで十分に流動せず、これらの溶着ビード29A,29B間での欠陥の発生率が高くなる。例えば、既設の溶着ビード29Aの根元角θが40°以上であると、溶着ビード29A,29B間において融合不良による欠陥の発生率が高くなる。
【0024】
また、隣接する溶着ビード29同士のオーバーラップ部分での欠陥の発生率は、既設の溶着ビード29Aの根元角θとともに、溶着ビード29を形成する際の溶接電圧、溶接電流、溶加材Mの送給速度、溶加材Mの送給抵抗、シールドガス流量、溶融池の流動状況などの溶接状態によって変動する。
【0025】
このため、本実施形態に係る製造システム100は、上記のような隣接する溶着ビード29A,29Bにおける欠陥を推定する造形履歴監視装置を備えている。
【0026】
この造形履歴監視装置は、トーチ23に並設された形状センサ(形状プロファイル取得手段)25からの測定結果、及び溶着ビード29を形成する際の溶接電圧、溶接電流、溶加材Mの送給速度、溶融池の流動状況などの溶接状態の情報である溶接情報に基づいて欠陥候補を抽出する。制御部21は、溶接情報取得手段と、欠陥候補抽出手段と、を備えており、溶接情報取得手段が溶接情報を取得し、欠陥候補抽出手段が欠陥候補を抽出する。そして、この欠陥候補を含む履歴情報をデータベース17へ保存する。
【0027】
次に、この造形履歴監視装置による欠陥候補の抽出について説明する。ここでは、既設の溶着ビード29Aに隣接する溶着ビード29Bを形成する際の溶接電圧を溶接情報とする場合について説明する。
【0028】
(形状プロファイル取得処理)
図3は、既設の溶着ビード29Aに沿って隣接する溶着ビード29Bを形成する様子を示す斜視図である。
図3に示すように、既設の溶着ビード29Aの隣接位置でトーチ23を移動させながら溶着ビード29Bを形成する。このとき、トーチ23の前方の形状センサ25によって既設の溶着ビード29Aの形状を計測し、この溶着ビード29Aの延伸方向に沿う形状プロファイルを取得する。
【0029】
(溶接情報取得処理)
制御部21の溶接情報取得手段によって、既設の溶着ビード29Aに隣接して溶着ビード29Bを形成する際に、溶着ビード29Bの形成中における溶接電圧を溶接情報として取得する。なお、制御部21の溶接情報取得手段は、例えば、溶接電源19の出力を監視して取得する。
【0030】
(欠陥候補抽出処理)
制御部21の欠陥候補抽出手段によって、欠陥候補の抽出を行う。
具体的には、まず、形状センサ25によって取得された既設の溶着ビード29Aの形状プロファイルに基づいて、この既設の溶着ビード29Aにおける開放側の根元角θを割り出し、この根元角θが予め設定した閾値以上である部分を角度特徴部Rcとして割り出す。この根元角θの閾値としては、例えば、欠陥が生じやすい40°である。
【0031】
次に、隣接位置に形成する溶着ビード29Bの形成中に取得した溶接電圧からなる溶接情報に基づいて、溶接情報の溶接特徴部Wcを割り出す。この溶接特徴部Wcとしては、溶接電圧が大きく変動した部分である。例えば、溶接電圧の波形に異常な乱れが生じた場合は、アークの乱れや途切れが生じ、溶融金属の流動性に好ましくない影響が生じる可能性がある。そこで、過去の異常波形を基準に瞬間的な変動値や変動の傾き等に閾値を設けることで、欠陥発生の可能性が高い状態を溶接特徴部Wcとして抽出する。
【0032】
そして、割り出した角度特徴部Rcと溶接特徴部Wcとを比較し、角度特徴部Rcに対応する溶接特徴部Wcを角度特徴部Rcに関連付けして欠陥候補Fとして抽出する。
【0033】
欠陥候補Fを抽出するために取得する履歴情報としては、例えば、溶着ビード29Bを形成した際に、座標X,Y,Z、根元角θおよび溶接電圧Vを各々対応づけて、経時的(位置毎)に記録された情報を用いる。
【0034】
図4は、既設の溶着ビード29Aの根元角θと、隣接して形成する溶着ビード29Bの溶接電圧のプロファイルを模式的に示す説明図である。
図4に示すように、制御部21の欠陥候補抽出手段は、既設の溶着ビード29Aの根元角θが閾値以上のときを角度特徴部Rcとし、さらに、隣接させる溶着ビード29Bの溶接電圧が定常的な推移から変動したときを溶接特徴部Wcとする。そして、角度特徴部Rcで溶接特徴部Wcが生じている部分を、欠陥候補Fとして抽出し、この欠陥候補Fを含む履歴情報(座標X,Y,Z、根元角θ及び溶接電圧Vを各々対応付けた位置毎の情報)をデータベース17へ保存する。
【0035】
以上、説明したように、本実施形態に係る造形履歴監視装置及び造形履歴監視方法によれば、既設の溶着ビード29Aの根元角θが閾値以上の角度特徴部Rcに対応する位置における隣接の溶着ビード29Bの溶接情報に特徴がある場合を欠陥候補Fとすることにより、信頼性の高い欠陥候補Fを抽出できる。
【0036】
そして、造形履歴監視装置を備えた造形物の製造システム100によれば、造形物Wを造形する際に、造形物Wに生じているおそれがある欠陥箇所を容易に把握できる。これにより、造形物Wの造形後に、造形物Wの欠陥箇所を迅速に補修できる。
【0037】
また、制御部21の欠陥候補抽出手段は、欠陥候補抽出処理において、欠陥候補Fの出現頻度を算出する出現頻度算出処理を行うのが好ましい。このように、欠陥候補Fの出現頻度を算出することで、この欠陥候補Fの出現頻度に基づいて、造形物Wにおける精密に検査すべき箇所を推定できる。この欠陥候補Fの出現頻度の計算としては、一つの溶着ビード29の形成中に出現する回数や欠陥候補の出現が持続する時間等を指標にできる。また、軌道計画の情報を参照し、壁部を造形する場合、壁部内を充填する場合、オーバーハング部分を形成する場合などにグループ分けし、各グループで欠陥候補Fの出現頻度を算出してもよい。
【0038】
さらに、制御部21の欠陥候補抽出手段は、欠陥候補抽出処理において、欠陥候補Fの出現頻度に基づいて、欠陥候補Fの出現時間とトーチ23の移動速度とから造形物Wにおける欠陥サイズを推定するのが好ましい。このように、造形物Wにおける欠陥サイズを推定すれば、破壊検査や超音波検査などの煩雑な検査を行うことなく、造形物Wに発生した欠陥を容易に把握できる。また、欠陥候補Fの出現頻度が一定の長さ続く場合では、細長い欠陥が出現したと推定でき、ごく短い場合では、微小な欠陥であるかノイズの影響で欠陥候補が出現したと推定できる。したがって、この欠陥候補Fの出現頻度の長さが予め設定した閾値以上である場合に、その欠陥候補Fを含む履歴情報を欠陥情報として保存してもよい。
【0039】
なお、上記実施形態では、溶接特徴部Wcを割り出すために溶接電圧を溶接情報とした場合を例示したが、溶接情報としては、溶接電圧に限定されない。溶接情報としては、溶接電圧、溶接電流、溶加材Mの送給速度、溶加材Mの送給抵抗、シールドガス流量、溶融池の流動状況の少なくとも一つを用いればよく、また、これらの溶接電圧、溶接電流、溶加材Mの送給速度、溶融池の流動状況を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
ここで、溶接情報として溶融池の流動状況を用いる場合を説明する。
図5は、既設の溶着ビード29Aに沿って溶着ビード29Bを形成する様子を示す斜視図である。
【0041】
図5に示すように、溶融池の流動状況を溶接情報として用いる場合、溶融池Pの部分を撮影するカメラ26を形状センサ25とともにトーチ23に並設させる。
【0042】
そして、既設の溶着ビード29Aの隣接位置に溶着ビード29Bを形成する際に、形状センサ25によって既設の溶着ビード29Aの形状を計測するとともに、カメラ26によって溶着ビード29Bの溶融池Pを撮影し、この撮影データを溶接情報として取得する。そして、この撮影データからなる溶接情報に基づいて、例えば、溶融池Pの形状が大きく変動した部分を溶接特徴部Wcとして割り出す。なお、撮影データとしては、溶融池Pの面積をデータ化したものを用いてもよい。
【0043】
図6は、溶着ビード29Bに形成される溶融池Pを説明する斜視図である。図7は、溶融池Pの形状の変動を説明する図であって、(A)は膨出部Pbが形成された状態の斜視図、(B)は窪み部Pkが形成された状態の斜視図である。
【0044】
図6は、通常形状の溶融池Pを示している。溶融池Pは、図6に示す通常の形状に対して、大きく変動する場合がある。例えば、溶融池Pは、図7の(A)に示すように、一部が膨れて膨出部Pbが生じる場合があり、また、図7の(B)に示すように、一部が凹んで窪み部Pkが生じる場合がある。そして、制御部21の溶接情報取得手段は、溶着ビード29Bにおいて溶融池Pの形状が変動して膨出部Pbや窪み部Pkが生じた部分を溶接特徴部Wcとして割り出す。
【0045】
さらに、制御部21の欠陥候補抽出手段は、形状センサ25によって取得された既設の溶着ビード29Aの形状プロファイルに基づいて割り出した角度特徴部Rcと、カメラ26の撮影データからなる溶接情報に基づいて割り出した溶接特徴部Wcとを比較し、角度特徴部Rcに対応する溶接特徴部Wcを角度特徴部Rcに関連付けして欠陥候補Fとして抽出する。
【0046】
このように、溶接情報として溶融池Pの流動状況を用いる場合も、取得した溶融池Pの流動状況の溶接情報における溶接特徴部Wcを、角度特徴部Rcに関連付けて欠陥候補Fすることにより、信頼性の高い欠陥候補を抽出できる。
【0047】
なお、溶融池Pの流動状況としては、温度や輝度等であってもよく、この場合、溶融池Pの温度を検出する温度センサや溶融池Pの輝度を検出する輝度センサ等をトーチ23に並設させる。
【0048】
このように、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0049】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) トーチによって溶加材を溶融及び凝固させた複数の溶着ビードを形成して造形物を造形する際の履歴情報から欠陥を推定する造形履歴監視装置であって、
既設の溶着ビードの延伸方向に沿う形状プロファイルを取得する形状プロファイル取得手段と、
前記既設の溶着ビードに隣り合う位置に隣接の溶着ビードを形成する際に、前記隣接の溶着ビードの形成中における溶接情報を取得する溶接情報取得手段と、
前記形状プロファイルに基づいて、前記既設の溶着ビードにおける閾値以上の根元角を有する角度特徴部を割り出すとともに、前記溶接情報に基づいて、前記溶接情報の溶接特徴部を割り出し、前記角度特徴部に対応する前記溶接特徴部を前記角度特徴部に関連付けして欠陥候補として抽出する欠陥候補抽出手段と、
を有する、造形履歴監視装置。
この造形履歴監視装置によれば、既設の溶着ビードの根元角が閾値以上である角度特徴部に対応する溶接特徴部を関連付けして欠陥候補として抽出する。既設の溶着ビードに隣り合う隣接の溶着ビードを形成する場合、既設の溶着ビードの根元角が大きい場合に流動性が不足して欠陥が生じるおそれが大きくなる。したがって、既設の溶着ビードの根元角が閾値以上の角度特徴部に対応する位置における隣接の溶着ビードの溶接情報に特徴がある場合を欠陥候補とすることにより、信頼性の高い欠陥候補を抽出できる。
【0050】
(2) 前記溶接情報取得手段は、溶接電圧、溶接電流、溶加材の送給速度、溶加材の送給抵抗、シールドガス流量、溶融池の流動状況の少なくとも一つを前記溶接情報として取得する、(1)に記載の造形履歴監視装置。
この造形履歴監視装置によれば、取得した溶接電圧、溶接電流、溶加材の送給速度、溶融池の流動状況の少なくとも一つの溶接情報における溶接特徴部を、角度特徴部に関連付けて欠陥候補することにより、信頼性の高い欠陥候補を抽出できる。
【0051】
(3) 前記欠陥候補抽出手段は、前記欠陥候補の出現頻度を算出する出現頻度算出処理を行う、(1)または(2)に記載の造形履歴監視装置。
この造形履歴監視装置によれば、欠陥候補の出現頻度を算出することで、この出現頻度に基づいて、造形物における精密に検査すべき箇所を推定できる。
【0052】
(4) 前記欠陥候補抽出手段は、前記欠陥候補の出現頻度に基づいて、前記造形物における欠陥サイズを推定する、(3)に記載の造形履歴監視装置。
この造形履歴監視装置によれば、破壊検査や超音波検査などの煩雑な検査を行うことなく、欠陥候補の出現頻度から推定した欠陥サイズに基づいて、造形物に発生した欠陥を容易に把握できる。また、欠陥候補の出現頻度が一定の長さ続く場合では、細長い欠陥が出現したと推定でき、ごく短い場合では、微小な欠陥であるかノイズの影響で欠陥候補が出現したと推定できる。
【0053】
(5) トーチを移動させながら、前記トーチによって溶加材を溶融及び凝固させた溶着ビードを形成して造形物を造形する造形物の製造システムであって、(1)~(4)のいずれか一つに記載の造形履歴監視装置を備える、造形物の製造システム。
この造形物の製造システムによれば、造形物を造形する際に、造形物に生じているおそれがある欠陥箇所を容易に把握できる。これにより、造形物の造形後に、造形物の欠陥箇所を迅速に補修できる。
【0054】
(6) トーチによって溶加材を溶融及び凝固させた複数の溶着ビードを形成して造形物を造形する際の履歴情報から欠陥を推定する造形履歴監視方法であって、
既設の溶着ビードの延伸方向に沿う形状プロファイルを取得する形状プロファイル取得処理と、
前記既設の溶着ビードに隣り合う位置に隣接の溶着ビードを形成する際に、前記隣接の溶着ビードの形成中における溶接情報を取得する溶接情報取得処理と、
前記形状プロファイルに基づいて、前記既設の溶着ビードにおける閾値以上の根元角を有する角度特徴部を割り出すとともに、前記溶接情報に基づいて、前記溶接情報の溶接特徴部を割り出し、前記角度特徴部に対応する前記溶接特徴部を前記角度特徴部に関連付けして欠陥候補として抽出する欠陥候補抽出処理と、
を含む、造形履歴監視方法。
この造形履歴監視方法によれば、既設の溶着ビードの根元角が閾値以上である角度特徴部に対応する溶接特徴部を関連付けして欠陥候補として抽出する。既設の溶着ビードに隣り合う隣接の溶着ビードを形成する場合、既設の溶着ビードの根元角が大きい場合に流動性が不足して欠陥が生じるおそれが大きくなる。したがって、既設の溶着ビードの根元角が閾値以上の角度特徴部に対応する位置における隣接の溶着ビードの溶接情報に特徴がある場合を欠陥候補とすることにより、信頼性の高い欠陥候補を抽出できる。
【0055】
(7) 前記溶接情報取得処理において、溶接電圧、溶接電流、溶加材の送給速度、溶加材の送給抵抗、シールドガス流量、溶融池の流動状況の少なくとも一つを前記溶接情報として取得する、(6)に記載の造形履歴監視方法。
この造形履歴監視方法によれば、取得した溶接電圧、溶接電流、溶加材の送給速度、溶加材の送給抵抗、シールドガス流量、溶融池の流動状況の少なくとも一つの溶接情報における溶接特徴部を、角度特徴部に関連付けて欠陥候補することにより、信頼性の高い欠陥候補を抽出できる。
【0056】
(8) 前記欠陥候補抽出処理において、前記欠陥候補の出現頻度を算出する出現頻度算出処理を行う、(6)または(7)に記載の造形履歴監視方法。
この造形履歴監視方法によれば、欠陥候補の出現頻度を算出することで、この出現頻度に基づいて、造形物における精密に検査すべき箇所を推定できる。
【0057】
(9) 前記欠陥候補抽出処理において、前記欠陥候補の出現頻度に基づいて、前記造形物における欠陥サイズを推定する、(8)に記載の造形履歴監視方法。
この造形履歴監視方法によれば、破壊検査や超音波検査などの煩雑な検査を行うことなく、欠陥候補の出現頻度から推定した欠陥サイズに基づいて、造形物に発生した欠陥を容易に把握できる。また、欠陥候補の出現頻度が一定の長さ続く場合では、細長い欠陥が出現したと推定でき、ごく短い場合では、微小な欠陥であるかノイズの影響で欠陥候補が出現したと推定できる。
【符号の説明】
【0058】
21 制御部(溶接情報取得手段、欠陥候補抽出手段)
23 トーチ
25 形状センサ(形状プロファイル取得手段)
29,29A,29B 溶着ビード
100 製造システム(造形履歴監視装置)
M 溶加材
F 欠陥候補
P 溶融池
W 造形物
Rc 角度特徴部
Wc 溶接特徴部
θ 根元角
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7