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特開2022-117064観察装置、観察方法、及び、観察対象物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022117064
(43)【公開日】2022-08-10
(54)【発明の名称】観察装置、観察方法、及び、観察対象物
(51)【国際特許分類】
   G01B 11/00 20060101AFI20220803BHJP
   G02B 21/36 20060101ALI20220803BHJP
   G02B 21/26 20060101ALI20220803BHJP
【FI】
G01B11/00 H
G02B21/36
G02B21/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021013546
(22)【出願日】2021-01-29
(71)【出願人】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(72)【発明者】
【氏名】坂本 剛志
(72)【発明者】
【氏名】佐野 いく
【テーマコード(参考)】
2F065
2H052
【Fターム(参考)】
2F065AA06
2F065AA25
2F065CC19
2F065DD03
2F065EE08
2F065FF01
2F065FF04
2F065FF10
2F065JJ03
2F065JJ09
2F065JJ26
2F065LL04
2F065MM03
2F065MM04
2F065MM24
2F065PP12
2F065QQ28
2F065QQ31
2F065SS13
2H052AD06
2H052AD09
2H052AD18
2H052AF02
2H052AF14
2H052AF25
(57)【要約】
【課題】改質領域の位置に関する情報をより正確に取得可能とする観察装置、観察方法、及び、観察対象物を提供する。
【解決手段】観察装置1Aは、対象物60に透過性を有する光I1によって対象物60を撮像するための撮像ユニット4と、光I1の集光点を対象物60に対して相対的に移動させるための駆動ユニット7と、少なくとも撮像ユニット4及び駆動ユニット7を制御するための制御部8と、を備える。制御部8は、光I1により対象物60を撮像することによって、対象物60の内部画像であってマーカの像を含むマーカ画像を取得する撮像処理と、マーカ画像を撮像したときの対物レンズ43の移動量Fzに補正係数を乗じた値である測定値が実測値になるように補正係数を導出する導出処理と、を実行する。
【選択図】図18

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物に透過性を有する透過光を前記対象物に向けて集光するための集光レンズを有し、前記透過光によって前記対象物を撮像するための撮像部と、
前記集光レンズを前記対象物に対して相対的に移動させるための移動部と、
少なくとも前記撮像部及び前記移動部を制御するための制御部と、
を備え、
前記対象物は、第1面及び前記第1面の反対側の第2面を含み、
前記対象物には、前記第1面及び前記第2面に交差するZ方向における位置の実測値が既知のマーカが設けられており、
前記制御部は、
前記撮像部及び前記移動部の制御により、前記透過光を前記第1面から前記対象物の内部に入射させ、前記集光レンズを前記Z方向に沿って移動させつつ前記透過光により前記対象物を撮像することによって、前記対象物の内部画像であって前記マーカの像を含むマーカ画像を取得する撮像処理と、
前記撮像処理の後に、前記マーカ画像を撮像したときの前記集光レンズの移動量に補正係数を乗じた値である測定値が前記実測値になるように前記補正係数を導出する導出処理と、
を実行する、
観察装置。
【請求項2】
前記対象物には、前記Z方向についての位置が互いに異なり、且つ、当該位置の前記実測値が既知である複数の前記マーカが形成されており、
前記撮像処理では、前記制御部は、前記Z方向に沿って前記集光レンズを相対移動させることにより、前記Z方向について前記対象物の内部の複数の位置に前記透過光の集光点を位置させて前記対象物を撮像することによって、複数の前記マーカのそれぞれの像を含む複数の前記マーカ画像を取得し、
前記導出処理では、前記制御部は、複数の前記マーカ画像のそれぞれを撮像したときの前記集光レンズの前記移動量のそれぞれに前記補正係数を乗じた値である測定値のそれぞれが、複数の前記マーカの前記実測値のそれぞれになるように、複数の前記補正係数を導出する、
請求項1に記載の観察装置。
【請求項3】
前記対象物には、前記マーカとして、前記第1面及び前記第2面に沿ったX方向に配列された改質領域と、前記改質領域から延びる亀裂と、が形成されており、
前記撮像処理では、前記Z方向に沿って集光レンズを移動させることにより、前記透過光の集光点を移動させつつ前記透過光により前記対象物を撮像することによって、前記亀裂のうちの前記X方向及び前記Z方向に交差する方向に沿って延びる亀裂の像を含む前記内部画像を前記マーカ画像として取得する、
請求項1又は2に記載の観察装置。
【請求項4】
前記撮像部は、前記集光レンズと、前記集光レンズに設けられ、前記対象物で生じた収差を補正するための補正環と、を含む補正環レンズを有する、
請求項1~3のいずれか一項に記載の観察装置。
【請求項5】
前記対象物が設置される設置部と、
前記設置部に設置された前記対象物と、
を備える請求項1~4のいずれか一項に記載の観察装置。
【請求項6】
第1面及び前記第1面の反対側の第2面を含み、前記第1面及び前記第2面に交差するZ方向における位置の実測値が既知のマーカが形成された対象物を用意する用意工程と、
前記対象物に透過性を有する透過光を前記第1面から前記対象物の内部に入射させ、前記透過光を集光するための集光レンズを前記Z方向に沿って移動させつつ、前記透過光により前記対象物を撮像することによって、前記マーカの像を含む前記対象物の内部画像であるマーカ画像を取得する撮像工程と、
前記撮像工程の後に、前記マーカ画像を撮像したときの前記集光レンズの移動量に補正係数を乗じた値である測定値が前記実測値になるように前記補正係数を導出する導出工程と、
を備える観察方法。
【請求項7】
対象物に透過性を有する透過光を前記対象物に向けて集光するための集光レンズを有し、前記透過光によって前記対象物を撮像するための撮像部と、
前記集光レンズを前記対象物に対して相対的に移動させるための移動部と、
少なくとも前記撮像部及び前記移動部を制御するための制御部と、
を備え、
前記対象物は、第1面及び前記第1面の反対側の第2面を含み、
前記対象物には、改質領域と前記改質領域から延びる亀裂とが設けられており、
前記制御部は、
前記撮像部及び前記移動部の制御により、前記第1面から前記透過光を前記対象物に入射させ、前記第1面及び前記第2面に交差するZ方向に沿って前記集光レンズを移動させつつ前記透過光により前記対象物を撮像することによって、前記改質領域及び/又は前記亀裂の像を含む内部画像である検出画像を取得する撮像処理と、
前記撮像処理の後に、前記検出画像を撮像したときの前記集光レンズの移動量に補正係数を乗じることによって、前記改質領域及び/又は前記亀裂の前記Z方向についての位置の測定値を算出する算出処理と、
を実行し、
前記制御部は、前記移動量に応じた複数の補正係数を保持している、
観察装置。
【請求項8】
第1面及び前記第1面の反対側の第2面を含み、マーカが設けられた観察対象物であって、
前記第1面及び前記第2面に交差するZ方向における前記マーカの位置の測定値を、前記マーカの位置の実測値から算出するための補正係数を導出するために用いられる、
観察対象物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、観察装置、観察方法、及び、観察対象物に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体基板と、半導体基板の表面に形成された機能素子層と、を備えるウェハを複数のラインのそれぞれに沿って切断するために、半導体基板の裏面側からウェハにレーザ光を照射することにより、複数のラインのそれぞれに沿って半導体基板の内部に複数列の改質領域を形成するレーザ加工装置が知られている。特許文献1に記載のレーザ加工装置は、赤外線カメラを備えており、半導体基板の内部に形成された改質領域、機能素子層に形成された加工ダメージ等を半導体基板の裏面側から観察することが可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-64746号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、対象物を透過する透過光を用いて対象物を観察する際には、例えば、透過光の光源や検出器を含む撮像ユニットをZ方向(例えば透過光の光軸方向)に移動させることにより、透過光の集光点をZ方向に移動させながら複数の位置で対象物を撮像する場合がある。この場合、改質領域が検出されたときの撮像ユニットの移動量に対して、対物レンズのNAや対象物の屈折率に応じた補正係数を乗じることにより、対象物内部での改質領域の位置の測定値を算出することが考えられる。
【0005】
しかし、本発明者の知見によれば、装置状態や観察深さ(透過光の入射面から集光点までのZ方向の距離)の変化に伴って、改質領域が検出されたときの撮像ユニットの移動量にばらつきが生じる場合がある。この原因として、まず、対物レンズの集光ボケによる観察位置ずれが考えれる。すなわち、撮像ユニットの対物レンズにおける球面収差補正量を一定にした場合、当該一定の球面収差補正が理想的な状態に対して弱補正となることがある。この場合、対象物内における透過光の集光位置が相対的に浅くなり、結果的に、ある改質領域が検出されたときの撮像ユニットの移動量が相対的に大きくなる(観察位置がより深くなる)。
【0006】
同様に、撮像ユニットの対物レンズにおける球面収差補正量を一定にした場合、当該一定の球面収差補正が理想的な状態に対して過補正となる場合には、対象物内における透過光の集光位置が相対的に深くなり、結果的に、ある改質領域が検出されたときの撮像ユニットの移動量が相対的に小さくなる(観察位置がより浅くなる)。
【0007】
また、移動量にばらつきが生じる原因としては、補正環レンズの操作前後のずれが考えられる。すなわち、撮像ユニットの対物レンズが補正環レンズである場合、補正環による収差補正量を調整すべく補正環を操作しても、収差補正量の変化量に対する補正環の操作量が一定でない場合があり、この結果、補正環の操作前後で観察位置がずれる場合があるのである。さらに、撮像ユニットの対物レンズの機差や対物レンズの脱着等も、移動量のばらつきの一因となる。
【0008】
このように、種々の原因によって、改質領域が検出されたときの撮像ユニットの移動量にばらつきが生じている状態において、当該移動量に一定の補正係数を乗じて改質領域の位置の測定値を算出すると、この測定値もばらつくこととなる。この結果、改質領域の正確な位置を取得することが困難となる。
【0009】
そこで、本発明は、改質領域の位置に関する情報をより正確に取得可能とする観察装置、観察方法、及び、観察対象物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る観察装置は、対象物に透過性を有する透過光を対象物に向けて集光するための集光レンズを有し、透過光によって対象物を撮像するための撮像部と、集光レンズを対象物に対して相対的に移動させるための移動部と、少なくとも撮像部及び移動部を制御するための制御部と、を備え、対象物は、第1面及び第1面の反対側の第2面を含み、対象物には、第1面及び第2面に交差するZ方向における位置の実測値が既知のマーカが設けられており、制御部は、撮像部及び移動部の制御により、透過光を第1面から対象物の内部に入射させ、集光レンズをZ方向に沿って移動させつつ透過光により対象物を撮像することによって、対象物の内部画像であってマーカの像を含むマーカ画像を取得する撮像処理と、撮像処理の後に、マーカ画像を撮像したときの集光レンズの移動量に補正係数を乗じた値である測定値が実測値になるように補正係数を導出する導出処理と、を実行する。
【0011】
本発明に係る観察方法は、第1面及び第1面の反対側の第2面を含み、第1面及び第2面に交差するZ方向における位置の実測値が既知のマーカが形成された対象物を用意する用意工程と、対象物に透過性を有する透過光を第1面から対象物の内部に入射させ、透過光を集光するための集光レンズをZ方向に沿って移動させつつ、透過光により対象物を撮像することによって、マーカの像を含む対象物の内部画像であるマーカ画像を取得する撮像工程と、撮像工程の後に、マーカ画像を撮像したときの集光レンズの移動量に補正係数を乗じた値である測定値が実測値になるように補正係数を導出する導出工程と、を備える。
【0012】
これらの観察装置及び観察方法の対象物には、その第1面及び第2面に交差するZ方向における位置の実測値が既知のマーカが設けられている。これらの観察装置及び観察方法では、このような対象物を、集光レンズを移動させつつ撮像することによって、対象物の内部画像であってマーカの像を含むマーカ画像が取得される。そして、このマーカ画像が撮像されたときの集光レンズの移動量に補正係数を乗じた値(測定値)が、既知であるマーカの位置の実測値となるように、補正係数が導出される。すなわち、この観察装置及び観察方法によれば、マーカ画像が撮像されたときの装置状態、及び、マーカ画像が撮像されたときの集光レンズの移動量(すなわち観察深さ)に応じた補正係数が導出されることとなる。よって、透過光を利用して改質領域を観察して改質領域の位置の測定値を算出する際に、この補正係数を使用すれば、改質領域の位置に関する情報をより正確に取得可能となる。
【0013】
本発明に係る観察装置では、対象物には、Z方向についての位置が互いに異なり、且つ、当該位置の実測値が既知である複数のマーカが形成されており、撮像処理では、制御部は、Z方向に沿って集光レンズを相対移動させることにより、Z方向について対象物の内部の複数の位置に透過光の集光点を位置させて対象物を撮像することによって、複数のマーカのそれぞれの像を含む複数のマーカ画像を取得し、導出処理では、制御部は、複数のマーカ画像のそれぞれを撮像したときの集光レンズの移動量のそれぞれに補正係数を乗じた値である測定値のそれぞれが、複数のマーカの実測値のそれぞれになるように、複数の補正係数を導出してもよい。この場合、複数の移動量に応じた補正係数が導出されることとなる。よって、透過光を利用して改質領域を観察して改質領域の位置の測定値を算出する際に、Z方向についてより広い範囲で、改質領域の位置に関する情報をより正確に取得可能となる。
【0014】
本発明に係る観察装置では、対象物には、マーカとして、第1面及び第2面に沿ったX方向に配列された改質領域と、改質領域から延びる亀裂と、が形成されており、撮像処理では、集光レンズをZ方向に沿って移動させることにより、透過光の集光点を移動させつつ透過光により対象物を撮像することによって、亀裂のうちのX方向及びZ方向に交差する方向に沿って延びる亀裂の像を含む内部画像をマーカ画像として取得してもよい。
【0015】
本発明者の知見によれば、対象物の内部に、例えばレーザ加工によって改質領域を形成すると、当該改質領域から様々な方向に延びる亀裂も形成される場合がある。そして、その亀裂のうち、対象物のレーザ光入射面に交差するZ方向とレーザ加工の進行方向であるX方向とに交差する方向に沿って延びる亀裂は、改質領域と比較して、対象物を透過する透過光によってピンポイントで検出される。したがって、この亀裂の像を含む内部画像を上記のようにマーカ画像とすれば、このマーカ画像が撮像されたときの集光レンズの移動量のばらつきが低減される。この結果、より正確な補正係数を導出できる。
【0016】
本発明に係る観察装置では、撮像部は、集光レンズと、集光レンズに設けられ、対象物で生じする収差を補正するための補正環と、を含む補正環レンズを有してもよい。このように、集光レンズに補正環が設けられている場合、補正環の操作前後で装置状態の変化が発生するおそれがある。したがって、上記のように装置状態に応じた補正係数を導出することがより有効となる。
【0017】
本発明に係る観察装置は、対象物が設置される設置部と、設置部に設置された対象物と、を備えてもよい。このように、マーカが設けられた対象物が常設されることにより、任意のタイミングで補正係数の導出を行うことが可能となる。
【0018】
本発明に係る観察装置は、対象物に透過性を有する透過光を対象物に向けて集光するための集光レンズを有し、透過光によって対象物を撮像するための撮像部と、集光レンズを対象物に対して相対的に移動させるための移動部と、少なくとも撮像部及び移動部を制御するための制御部と、を備え、対象物は、第1面及び第1面の反対側の第2面を含み、対象物には、改質領域と改質領域から延びる亀裂とが設けられており、制御部は、撮像部及び移動部の制御により、第1面から透過光を対象物に入射させ、第1面及び第2面に交差するZ方向に沿って集光レンズを移動させつつ透過光により対象物を撮像することによって、改質領域及び/又は亀裂の像を含む内部画像である検出画像を取得する撮像処理と、撮像処理の後に、検出画像を撮像したときの集光レンズの移動量に補正係数を乗じることによって、改質領域及び/又は亀裂のZ方向についての位置の測定値を算出する算出処理と、を実行し、制御部は、移動量に応じた複数の補正係数を保持している。
【0019】
この観察装置は、上記のように、集光レンズの移動量に応じた補正係数を保持している。したがって、この補正係数を使用して改質領域の位置の測定値を算出することにより、より正確な改質領域の位置に関する情報を取得できる。
【0020】
本発明に係る観察対象物は、第1面及び第1面の反対側の第2面を含み、マーカが設けられた観察対象物であって、第1面及び第2面に交差するZ方向におけるマーカの位置の測定値を、マーカの位置の実測値から算出するための補正係数を導出するために用いられる。この観察対象物を使用すれば、上記のように補正係数を導出することが可能となる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、改質領域の位置に関する情報をより正確に取得可能とする観察装置、観察方法、及び、観察対象物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】一実行形態のレーザ加工装置の構成図である。
図2】一実行形態のウェハの平面図である。
図3図2に示されるウェハの一部分の断面図である。
図4図1に示されるレーザ照射ユニットの構成図である。
図5図1に示される検査用撮像ユニットの構成図である。
図6図1に示されるアライメント補正用撮像ユニットの構成図である。
図7図5に示される検査用撮像ユニットによる撮像原理を説明するためのウェハの断面図、及び当該検査用撮像ユニットによる各箇所での画像である。
図8図5に示される検査用撮像ユニットによる撮像原理を説明するためのウェハの断面図、及び当該検査用撮像ユニットによる各箇所での画像である。
図9】半導体基板の内部に形成された改質領域及び亀裂のSEM画像である。
図10】半導体基板の内部に形成された改質領域及び亀裂のSEM画像である。
図11図5に示される検査用撮像ユニットによる撮像原理を説明するための模式図である。
図12図5に示される検査用撮像ユニットによる撮像原理を説明するための模式図である。
図13】改質領域が形成された対象物を示す図である。
図14】Z方向における改質領域及び亀裂の位置に関するグラフである。
図15】対象物の断面写真に検出結果をプロットしたものである。
図16】補正係数を説明するための模式図である。
図17】検出対象のZ方向の位置と検出対象が検出されたときの移動量との関係を示すグラフである。
図18】本実施形態に係る観察方法のうちの補正係数を導出するための工程を示すフローチャートである。
図19】補正係数の導出用の対象物を示す側面図である。
図20図18に示された観察方法の一工程を示す図である。
図21】Z方向について互いに異なる位置で撮像された複数の内部画像である。
図22】改質領域の位置の実測値と移動量と補正係数との関係を示す表である。
図23】本実施形態に係る観察方法のうち、改質領域のZ方向の位置に関する情報を取得するための工程を示すフローチャートである。
図24図23に示された観察方法の一工程を示す図である。
図25図23に示された観察方法の一工程を示す図である。
図26】改質領域の位置の実測値と移動量と補正係数との関係を示す表である。
図27】改質領域の位置の測定値と実測値との誤差を示すグラフである。
図28】変形例に係る対象物を示す模式的な断面図である。
図29】亀裂検出について説明する図である。
図30】亀裂検出について説明する図である。
図31】だ痕検出について説明する図である。
図32】だ痕検出について説明する図である。
図33】だ痕検出について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、一実施形態について、図面を参照して詳細を説明する。なお、各図の説明において、同一又は相当する部分には同一の符号を付し、重複する説明を省略する場合がある。また、各図には、X軸、Y軸、及び、Z軸によって規定される直交座標系を示す場合がある。一例として、X方向及びY方向は、互いに交差(直交)する第1水平方向及び第2水平方向であり、Z方向は、X方向及びY方向に交差(直交)する鉛直方向である。
【0024】
図1に示されるように、レーザ加工装置1は、ステージ2と、レーザ照射ユニット3(照射部)と、複数の撮像ユニット4,5,6と、駆動ユニット7と、制御部8と、ディスプレイ150(表示部)とを備えている。レーザ加工装置1は、対象物11にレーザ光Lを照射することにより、対象物11に改質領域12を形成する装置である。
【0025】
ステージ2は、例えば対象物11に貼り付けられたフィルムを吸着することにより、対象物11を支持する。ステージ2は、X方向及びY方向のそれぞれに沿って移動可能であり、Z方向に平行な軸線を中心線として回転可能である。
【0026】
レーザ照射ユニット3は、対象物11に対して透過性を有するレーザ光Lを集光して対象物11に照射する。ステージ2に支持された対象物11の内部にレーザ光Lが集光されると、レーザ光Lの集光点Cに対応する部分においてレーザ光Lが特に吸収され、対象物11の内部に改質領域12が形成される。
【0027】
改質領域12は、密度、屈折率、機械的強度、その他の物理的特性が周囲の非改質領域とは異なる領域である。改質領域12としては、例えば、溶融処理領域、クラック領域、絶縁破壊領域、屈折率変化領域等がある。改質領域12は、改質領域12からレーザ光Lの入射側及びその反対側に亀裂が延び易いという特性を有している。このような改質領域12の特性は、対象物11の切断に利用される。
【0028】
一例として、ステージ2をX方向に沿って移動させ、対象物11に対して集光点CをX方向に沿って相対的に移動させると、複数の改質スポット12sがX方向に沿って1列に並ぶように形成される。1つの改質スポット12sは、1パルスのレーザ光Lの照射によって形成される。1列の改質領域12は、1列に並んだ複数の改質スポット12sの集合である。隣り合う改質スポット12sは、対象物11に対する集光点Cの相対的な移動速度及びレーザ光Lの繰り返し周波数によって、互いに繋がる場合も、互いに離れる場合もある。
【0029】
撮像ユニット4は、対象物11に形成された改質領域12、及び改質領域12から延びた亀裂の先端を撮像する。
【0030】
撮像ユニット5及び撮像ユニット6は、制御部8の制御のもとで、ステージ2に支持された対象物11を、対象物11を透過する光により撮像する。撮像ユニット5,6が撮像することにより得られた画像は、一例として、レーザ光Lの照射位置のアライメントに供される。
【0031】
駆動ユニット7は、レーザ照射ユニット3及び複数の撮像ユニット4,5,6を支持している。駆動ユニット7は、レーザ照射ユニット3及び複数の撮像ユニット4,5,6をZ方向に沿って移動させる。
【0032】
制御部8は、ステージ2、レーザ照射ユニット3、複数の撮像ユニット4,5,6、及び駆動ユニット7の動作を制御する。制御部8は、プロセッサ、メモリ、ストレージ及び通信デバイス等を含むコンピュータ装置として構成されている。制御部8では、プロセッサが、メモリ等に読み込まれたソフトウェア(プログラム)を実行し、メモリ及びストレージにおけるデータの読み出し及び書き込み、並びに、通信デバイスによる通信を制御する。
【0033】
ディスプレイ150は、ユーザから情報の入力を受付ける入力部としての機能と、ユーザに対して情報を表示する表示部としての機能とを有している。
[対象物の構成]
本実行形態の対象物11は、図2及び図3に示されるように、ウェハ20である。ウェハ20は、半導体基板21と、機能素子層22と、を備えている。なお、本実行形態では、ウェハ20は機能素子層22を有するとして説明するが、ウェハ20は機能素子層22を有していても有していなくてもよく、ベアウェハであってもよい。半導体基板21は、表面21a(第2面)及び裏面21b(第1面)を有している。半導体基板21は、例えば、シリコン基板である。機能素子層22は、半導体基板21の表面21aに形成されている。機能素子層22は、表面21aに沿って2次元に配列された複数の機能素子22aを含んでいる。機能素子22aは、例えば、フォトダイオード等の受光素子、レーザダイオード等の発光素子、メモリ等の回路素子等である。機能素子22aは、複数の層がスタックされて3次元的に構成される場合もある。なお、半導体基板21には、結晶方位を示すノッチ21cが設けられているが、ノッチ21cの替わりにオリエンテーションフラットが設けられていてもよい。
【0034】
ウェハ20は、複数のライン15のそれぞれに沿って機能素子22aごとに切断される。複数のライン15は、ウェハ20の厚さ方向から見た場合に複数の機能素子22aのそれぞれの間を通っている。より具体的には、ライン15は、ウェハ20の厚さ方向から見た場合にストリート領域23の中心(幅方向における中心)を通っている。ストリート領域23は、機能素子層22において、隣り合う機能素子22aの間を通るように延在している。本実行形態では、複数の機能素子22aは、表面21aに沿ってマトリックス状に配列されており、複数のライン15は、格子状に設定されている。なお、ライン15は、仮想的なラインであるが、実際に引かれたラインであってもよい。
【0035】
[レーザ照射ユニットの構成]
図4に示されるように、レーザ照射ユニット3は、光源31と、空間光変調器32と、集光レンズ33と、を有している。光源31は、例えばパルス発振方式によって、レーザ光Lを出力する。空間光変調器32は、光源31から出力されたレーザ光Lを変調する。空間光変調器32は、例えば反射型液晶(LCOS:Liquid Crystal on Silicon)の空間光変調器(SLM:Spatial Light Modulator)である。集光レンズ33は、空間光変調器32によって変調されたレーザ光Lを集光する。なお、集光レンズ33は、補正環レンズであってもよい。
【0036】
本実行形態では、レーザ照射ユニット3は、複数のライン15のそれぞれに沿って半導体基板21の裏面21b側からウェハ20にレーザ光Lを照射することにより、複数のライン15のそれぞれに沿って半導体基板21の内部に2列の改質領域12a,12bを形成する。改質領域12aは、2列の改質領域12a,12bのうち表面21aに最も近い改質領域である。改質領域12bは、2列の改質領域12a,12bのうち、改質領域12aに最も近い改質領域であって、裏面21bに最も近い改質領域である。
【0037】
2列の改質領域12a,12bは、ウェハ20の厚さ方向(Z方向)において隣り合っている。2列の改質領域12a,12bは、半導体基板21に対して2つの集光点C1,C2がライン15に沿って相対的に移動させられることにより形成される。レーザ光Lは、例えば集光点C1に対して集光点C2が進行方向の後側且つレーザ光Lの入射側に位置するように、空間光変調器32によって変調される。なお、改質領域の形成に関しては、単焦点であっても多焦点であってもよいし、1パスであっても複数パスであってもよい。
【0038】
レーザ照射ユニット3は、複数のライン15のそれぞれに沿って半導体基板21の裏面21b側からウェハ20にレーザ光Lを照射する。一例として、厚さ400μmの単結晶シリコン<100>基板である半導体基板21に対し、表面21aから54μmの位置及び128μmの位置に2つの集光点C1,C2をそれぞれ合わせて、複数のライン15のそれぞれに沿って半導体基板21の裏面21b側からウェハ20にレーザ光Lを照射する。このとき、例えば2列の改質領域12a,12bに渡る亀裂14が半導体基板21の表面21aに至る条件とする場合、レーザ光Lの波長は1099nm、パルス幅は700n秒、繰り返し周波数は120kHzとされる。また、集光点C1におけるレーザ光Lの出力は2.7W、集光点C2におけるレーザ光Lの出力は2.7Wとされ、半導体基板21に対する2つの集光点C1,C2の相対的な移動速度は800mm/秒とされる。なお、例えば加工パス数が5とされる場合、上述したウェハ20に対して、例えば、ZH80(表面21aから328μmの位置)、ZH69(表面21aから283μmの位置)、ZH57(表面21aから234μmの位置)、ZH26(表面21aから107μmの位置)、ZH12(表面21aから49.2μmの位置)が加工位置とされてもよい。この場合、例えば、レーザ光Lの波長は1080nmであり、パルス幅は400nsecであり、繰り返し周波数は100kHzであり、移動速度は490mm/秒であってもよい。
【0039】
このような2列の改質領域12a,12b及び亀裂14の形成は、次のような場合に実行される。すなわち、後の工程において、例えば、半導体基板21の裏面21bを研削することにより半導体基板21を薄化すると共に亀裂14を裏面21bに露出させ、複数のライン15のそれぞれに沿ってウェハ20を複数の半導体デバイスに切断する場合である。
【0040】
[検査用撮像ユニットの構成]
図5に示されるように、撮像ユニット4(撮像部)は、光源41と、ミラー42と、対物レンズ(集光レンズ)43と、光検出部44と、を有している。撮像ユニット4はウェハ20を撮像する。光源41は、半導体基板21に対して透過性を有する光I1を出力する。光源41は、例えば、ハロゲンランプ及びフィルタによって構成されており、近赤外領域の光I1を出力する。光源41から出力された光I1は、ミラー42によって反射されて対物レンズ43を通過し、半導体基板21の裏面21b側からウェハ20に照射される。このとき、ステージ2は、上述したように2列の改質領域12a,12bが形成されたウェハ20を支持している。
【0041】
対物レンズ43は、半導体基板21に対して透過性を有する光(透過光)I1を半導体基板21に向けて集光するためのものである。対物レンズ43は、半導体基板21の表面21aで反射された光I1を通過させる。つまり、対物レンズ43は、半導体基板21を伝搬した光I1を通過させる。対物レンズ43の開口数(NA)は、例えば0.45以上である。対物レンズ43は、補正環43aを有している。補正環43aは、例えば対物レンズ43を構成する複数のレンズにおける相互間の距離を調整することにより、半導体基板21内において光I1に生じる収差を補正する。なお、収差を補正する手段は、補正環43aに限られず、空間光変調器等のその他の補正手段であってもよい。光検出部44は、対物レンズ43及びミラー42を透過した光I1を検出する。光検出部44は、例えば、InGaAsカメラによって構成されており、近赤外領域の光I1を検出する。なお、近赤外領域の光I1を検出(撮像)する手段はInGaAsカメラに限られず、透過型コンフォーカル顕微鏡等、透過型の撮像を行うものであればその他の撮像手段であってもよい。
【0042】
撮像ユニット4は、2列の改質領域12a,12bのそれぞれ、及び、複数の亀裂14a,14b,14c,14dのそれぞれの先端を撮像することができる(詳細については、後述する)。亀裂14aは、改質領域12aから表面21a側に延びる亀裂である。亀裂14bは、改質領域12aから裏面21b側に延びる亀裂である。亀裂14cは、改質領域12bから表面21a側に延びる亀裂である。亀裂14dは、改質領域12bから裏面21b側に延びる亀裂である。
【0043】
[アライメント補正用撮像ユニットの構成]
図6に示されるように、撮像ユニット5は、光源51と、ミラー52と、レンズ53と、光検出部54と、を有している。光源51は、半導体基板21に対して透過性を有する光I2を出力する。光源51は、例えば、ハロゲンランプ及びフィルタによって構成されており、近赤外領域の光I2を出力する。光源51は、撮像ユニット4の光源41と共通化されていてもよい。光源51から出力された光I2は、ミラー52によって反射されてレンズ53を通過し、半導体基板21の裏面21b側からウェハ20に照射される。
【0044】
レンズ53は、半導体基板21の表面21aで反射された光I2を通過させる。つまり、レンズ53は、半導体基板21を伝搬した光I2を通過させる。レンズ53の開口数は、0.3以下である。すなわち、撮像ユニット4の対物レンズ43の開口数は、レンズ53の開口数よりも大きい。光検出部54は、レンズ53及びミラー52を通過した光I2を検出する。光検出部54は、例えば、InGaAsカメラによって構成されており、近赤外領域の光I2を検出する。
【0045】
撮像ユニット5は、制御部8の制御のもとで、裏面21b側から光I2をウェハ20に照射すると共に、表面21a(機能素子層22)から戻る光I2を検出することにより、機能素子層22を撮像する。また、撮像ユニット5は、同様に、制御部8の制御のもとで、裏面21b側から光I2をウェハ20に照射すると共に、半導体基板21における改質領域12a,12bの形成位置から戻る光I2を検出することにより、改質領域12a,12bを含む領域の画像を取得する。これらの画像は、レーザ光Lの照射位置のアライメントに用いられる。撮像ユニット6は、レンズ53がより低倍率(例えば、撮像ユニット5においては6倍であり、撮像ユニット6においては1.5倍)である点を除いて、撮像ユニット5と同様の構成を備え、撮像ユニット5と同様にアライメントに用いられる。
【0046】
[検査用撮像ユニットによる撮像原理]
図5に示される撮像ユニット4を用い、図7に示されるように、2列の改質領域12a,12bに渡る亀裂14が表面21aに至っている半導体基板21に対して、裏面21b側から表面21a側に向かって焦点F(対物レンズ43の焦点)を移動させる。この場合、改質領域12bから裏面21b側に延びる亀裂14の先端14eに裏面21b側から焦点Fを合わせると、当該先端14eを確認することができる(図7における右側の画像)。しかし、亀裂14そのもの、及び表面21aに至っている亀裂14の先端14eに裏面21b側から焦点Fを合わせても、それらを確認することができない(図7における左側の画像)。なお、半導体基板21の表面21aに裏面21b側から焦点Fを合わせると、機能素子層22を確認することができる。
【0047】
また、図5に示される撮像ユニット4を用い、図8に示されるように、2列の改質領域12a,12bに渡る亀裂14が表面21aに至っていない半導体基板21に対して、裏面21b側から表面21a側に向かって焦点Fを移動させる。この場合、改質領域12aから表面21a側に延びる亀裂14の先端14eに裏面21b側から焦点Fを合わせても、当該先端14eを確認することができない(図8における左側の画像)。しかし、表面21aに対して裏面21bとは反対側の領域(すなわち、表面21aに対して機能素子層22側の領域)に裏面21b側から焦点Fを合わせて、表面21aに関して焦点Fと対称な仮想焦点Fvを当該先端14eに位置させると、当該先端14eを確認することができる(図8における右側の画像)。なお、仮想焦点Fvは、半導体基板21の屈折率を考慮した焦点Fと表面21aに関して対称な点である。
【0048】
以上のように亀裂14そのものを確認することができないのは、照明光である光I1の波長よりも亀裂14の幅が小さいためと想定される。図9及び図10は、シリコン基板である半導体基板21の内部に形成された改質領域12及び亀裂14のSEM(Scanning Electron Microscope)画像である。図9の(b)は、図9の(a)に示される領域A1の拡大像、図10の(a)は、図9の(b)に示される領域A2の拡大像、図10の(b)は、図10の(a)に示される領域A3の拡大像である。このように、亀裂14の幅は、120nm程度であり、近赤外領域の光I1の波長(例えば、1.1~1.2μm)よりも小さい。
【0049】
以上を踏まえて想定される撮像原理は、次のとおりである。図11の(a)に示されるように、空気中に焦点Fを位置させると、光I1が戻ってこないため、黒っぽい画像が得られる(図11の(a)における右側の画像)。図11の(b)に示されるように、半導体基板21の内部に焦点Fを位置させると、表面21aで反射された光I1が戻ってくるため、白っぽい画像が得られる(図11の(b)における右側の画像)。図11の(c)に示されるように、改質領域12に裏面21b側から焦点Fを合わせると、改質領域12によって、表面21aで反射されて戻ってきた光I1の一部について吸収、散乱等が生じるため、白っぽい背景の中に改質領域12が黒っぽく映った画像が得られる(図11の(c)における右側の画像)。
【0050】
図12の(a)及び(b)に示されるように、亀裂14の先端14eに裏面21b側から焦点Fを合わせると、例えば、先端14e近傍に生じた光学的特異性(応力集中、歪、原子密度の不連続性等)、先端14e近傍で生じる光の閉じ込め等によって、表面21aで反射されて戻ってきた光I1の一部について散乱、反射、干渉、吸収等が生じるため、白っぽい背景の中に先端14eが黒っぽく映った画像が得られる(図12の(a)及び(b)における右側の画像)。図12の(c)に示されるように、亀裂14の先端14e近傍以外の部分に裏面21b側から焦点Fを合わせると、表面21aで反射された光I1の少なくとも一部が戻ってくるため、白っぽい画像が得られる(図12の(c)における右側の画像)。
【0051】
[内部観察に係る実施形態]
図13は、改質領域が形成された対象物を示す図である。図13の(a)は、改質領域が露出するように切断された対象物の断面写真である。図13の(b)は、対象物を透過する光により撮像された対象物の画像の一例である。図13の(c)は、対象物を透過する光により撮像された対象物の画像の別の例である。図13の(a)に示されるように、レーザ光Lの集光により対象物(ここでは半導体基板21)に形成された改質領域12は、半導体基板21におけるレーザ光Lの入射面と反対側の面である表面21a側に位置するボイド領域12mと、ボイド領域12mよりもレーザ光Lの入射面である裏面21b側に位置するボイド上方領域12nと、を含む。
【0052】
このような改質領域12が形成された半導体基板21を、半導体基板21に透過性を有する光I1により撮像すると、図13の(b),(c)に示されるように、Z方向及びX方向に交差する方向に沿って延びる(X方向に対して角度を有する)亀裂14kの像が確認される場合がある。Z方向からみたとき、亀裂14kは、図13の(b)の例ではY方向と概ね平行であり、図13の(c)の例ではY方向に対してやや傾いている。これらの亀裂14kの像は、Z方向に沿って光I1の集光点を移動させながら複数の位置で半導体基板21を撮像したときに、改質領域12と比較して、Z方向の限られた範囲で鮮明に検出される。
【0053】
図14は、Z方向における改質領域及び亀裂の位置に関するグラフである。図14では、ボイド下端、ボイド上端、ボイド上方領域下端、及び、ボイド上方領域上端のプロットは、断面観察により実際に測定された実測値である。下端とは表面21a側の端部を意味し、上端とは裏面21b側の端部を意味している。したがって、例えばボイド上方領域下端とは、ボイド上方領域12nの表面21a側の端部である。
【0054】
また、図14のグラフにおける直接観察及び裏面反射観察のプロットは、光I1によって撮像された画像のうち、亀裂14kの鮮明な像を含む内部画像が撮像されたときのZ方向における対物レンズ43の移動量(以下、単に「移動量」と称する場合がある)に基づいて算出された測定値であり、一例としてAIによる画像判定により得られた値である。直接観察は、光I1を裏面21bから入射させつつ、表面21aでの反射を経ることなく直接的に光I1の集光点を亀裂14kに合わせた場合(上記の例では、裏面21b側から亀裂14kに焦点Fを合わせた場合)であり、裏面反射観察は、光I1を裏面21bから入射させつつ、表面21aで反射された光I1の集光点を亀裂14kに合わせた場合(上記の例では、表面21aに対して裏面21bとは反対側の領域に裏面21b側から焦点Fを合わせて、表面21aに関して焦点Fと対称な仮想焦点Fvを亀裂14kに合わせた場合)である。
【0055】
図14に示されるように、直接観察では、改質領域12の形成位置をZ方向に違えた4つの場合C1~C4において、いずれも、ボイド上方領域下端とボイド上方領域上端との間に亀裂14kが検出されており、裏面反射観察では、場合C1において概ねボイド上方領域下端と同位置に亀裂14kが検出され、場合C2~C4においてボイド上方領域下端とボイド上端との間に亀裂14kが検出される。Z方向における改質領域12の幅は、ボイド下端とボイド上方領域上端との間の距離である。このように、亀裂14kは、改質領域12そのものと比較して、Z方向についてよりピンポイントで検出される。
【0056】
したがって、Z方向について亀裂14kが出されたときの内部画像の移動量を取得することにより、より正確に、改質領域12の位置に関する情報を取得することが可能となる。なお、図14の縦軸は、裏面からの距離を示しているが、ここでの裏面は光I1の入射面に対する裏面であって、半導体基板21については表面21aである。また、図15は、断面写真に場合C1の検出結果をプロットしたものである。
【0057】
本実施形態では、以上のような知見に基づいて、内部観察により亀裂14kを検出し、改質領域12の位置に関する情報を取得する。引き続いて、本実施形態に係る観察方法について説明する。この観察方法では、亀裂14kが検出対象の対象亀裂である。
【0058】
本実施形態では、改質領域12の位置に関する情報の取得に際して、まず、Z方向についての亀裂14kの位置を算出する。その際、亀裂14kが検出された内部画像が撮像されたときの対物レンズ43のZ方向における移動量に対して、所定の補正係数を乗じる。なお、図14,15に示されるように、亀裂14kは、Z方向について改質領域12の範囲内に検出される。したがって、算出された亀裂14kの位置は、改質領域12のZ方向についての位置の測定値でもある。
【0059】
まず、補正係数に関する知見について説明する。図16に示されるように、半導体基板21内において光I1の集光点の位置を調整すべく、駆動ユニット7を用いて撮像ユニット4をZ方向に沿って移動量Fzだけ移動させたとする。このとき、半導体基板21がなければ、光I1の集光点の移動量も移動量Fzとなる。しかし、光I1の集光点が半導体基板21の内部に形成されている場合、光I1の集光点の移動量は、移動量Fzと異なる移動量Hzとなる(図示の例では拡大されている)。移動量Hzは、半導体基板21内における実際の撮像位置、すなわち、検出対象(例えば改質領域12や亀裂14k)の位置を規定する。
【0060】
一方で、制御部8が直接的に取得可能な情報は、駆動ユニット7の制御の際の入力値である撮像ユニット4の移動量Fz(すなわち、半導体基板21がない場合の集光点の移動量Fz)である。したがって、制御部8が、半導体基板21内の実際の検出対象の位置を取得するためには、移動量Fzに対して何らかの係数を乗じる必要がある。このときに適用される係数が補正係数である。この補正係数は、対物レンズ43のNAや半導体基板21の屈折率を考慮して一定の値(例えば半導体基板21がシリコンである場合には4程度)として設定することもできる。しかし、補正係数を一定の値とした場合、次のような問題が生じるおそれがある。
【0061】
図17は、検出対象のZ方向の位置と検出対象が検出されたときの移動量との関係を示すグラフである。図17のグラフの横軸の「深さ位置」は、検出対象が設けられたZ方向の位置(光I1の集光点を合わせる位置)であり、図17のグラフの縦軸の「Z軸移動量」は、それぞれのZ方向の位置で検出対象が検出されたときの移動量Fzである。検出対象は、移動量Fzを10μmとしたときに検出されるように、半導体基板21内において40μm程度の間隔で設けられている。
【0062】
図17では、装置状態が異なる複数の場合のグラフが重ねて表記されているが、1つの装置状態(1つのグラフ)に着目した場合には、検出対象のZ方向の位置が異なると、本来であれば10μmで一定となるべき移動量Fzにばらつきが生じている。複数の装置状態(複数のグラフ)の間で比較した場合にも同様である。このように移動量Fzにばらつきが生じる原因として、まず、対物レンズ43の集光ボケによる観察位置ずれが考えれる。すなわち、撮像ユニット4の対物レンズ43における球面収差補正量を一定にした場合、当該一定の球面収差補正が理想的な状態に対して弱補正となることがある。この場合、半導体基板21内における光I1の集光位置が相対的に浅くなり、結果的に、ある改質領域12が検出されたときの撮像ユニット4の移動量Fzが相対的に大きくなる(観察位置がより深くなる)。
【0063】
同様に、撮像ユニット4の対物レンズ43における球面収差補正量を一定にした場合、当該一定の球面収差補正が理想的な状態に対して過補正となる場合には、半導体基板21内における光I1の集光位置が相対的に深くなり、結果的に、ある改質領域12が検出されたときの撮像ユニット4の移動量Fzが相対的に小さくなる(観察位置がより浅くなる)。
【0064】
また、移動量Fzにばらつきが生じる原因としては、補正環レンズの操作前後のずれが考えられる。すなわち、撮像ユニット4の対物レンズ43が補正環レンズである場合、補正環43aによる収差補正量を調整すべく補正環43aを操作しても、収差補正量の変化量に対する補正環43aの操作量が一定でない場合があり、この結果、補正環43aの操作前後で観察位置がずれる場合があるのである。さらに、撮像ユニット4の対物レンズ43の機差や対物レンズ43の脱着等も、移動量Fzのばらつきの一因となる。
【0065】
このようにばらついた移動量Fzに対して一定の補正係数を乗じて測定値を算出すると、算出結果もばらつくこととなる。このことから、検出対象の正確な位置に関する情報を取得するために、装置状態やZ方向の位置に応じて適切な補正係数を使用する必要がある。そこで、本実施形態に係る観察方法では、以下のように補正係数の導出を行う。補正係数の導出を行うタイミングは、任意であるが、一例として対物レンズ43の脱着時のように装置状態に変化が生じたタイミングである。
【0066】
図18は、本実施形態に係る観察方法のうちの補正係数を導出するための工程を示すフローチャートである。図18に示されるように、補正係数の導出用の対象物(観察対象物)60を撮像ユニット4の対物レンズ43の下部に移動させる(工程S1)。図1に示されるように、レーザ加工装置1は、ステージ2とは異なるステージ(設置部)2Aをさらに備えており、対象物60はこのステージ2Aに載置されている。ステージ2Aは、例えば駆動ユニット7によってX方向及びY方向に沿って移動可能とされている。
【0067】
図19は、補正係数の導出用の対象物を示す側面図である。図19に示されるように、対象物60は、裏面60bと、裏面(第1面)60bの反対側の表面(第2面)60aと、を含む。対象物60には、レーザ加工によって、裏面60b及び表面60aに沿ったX方向に配列された改質領域12及び改質領域12から延びる亀裂(亀裂14,14k)が形成されている。特に、対象物60は、改質領域12から、Z方向及びX方向に交差する方向に沿って延びる亀裂14kが形成されている。また、対象物60では、Z方向に並ぶように複数列の改質領域12が形成されている。Z方向における改質領域12の間隔は、移動量Fzに換算して10μm以下である。
【0068】
対象物60には、改質領域12が露出するように切断面が形成されており、改質領域12のそれぞれのZ方向の位置は、例えば亀裂14kの位置として、当該切断面の観察により実測されて既知である。この既知の実測値は、制御部8が保持していてもよいし、制御部8がアクセス可能な任意の記憶装置に保持されていてもよい。このように、ここでは、裏面60b及び裏面60bの反対側の表面60aを含み、裏面60b及び表面60aに交差するZ方向における位置の実測値が既知のマーカとして、改質領域12及び亀裂14kが形成された対象物60を用意する用意工程が実施されることとなる。
【0069】
続く工程では、図20に示されるように、対象物60に対して透過性を有する光(透過光)I1によって、対象物60の撮像を行う(工程S2:撮像工程)。この工程S2では、撮像ユニット4(撮像部)の制御により、改質領域12から延びる亀裂のうちのZ方向及びX方向に交差する方向に沿って延びる亀裂14kを光I1により撮像する撮像処理を実行する。なお、Y方向は、対象物60に改質領域12を形成するためのレーザ加工の加工進行方向(すなわち、改質領域12の配列方向)であるX方向と、裏面60b及び表面60aに交差するZ方向と、に交差する方向の一例である。
【0070】
この工程S2では、制御部8が、撮像ユニット4及び駆動ユニット7を制御することにより、光I1を対象物60の裏面60bから対象物60に入射させると共に、Z方向に沿って撮像ユニット4を移動させて光I1の集光点(焦点F、仮想焦点Fv)をZ方向に沿って移動させ、対象物60の内部の複数の位置に光I1の集光点を位置させて複数回にわたって対象物60を撮像する。これにより、複数の内部画像GDを取得する。本実施形態では、対物レンズ43は撮像ユニット4と一体に移動される。したがって、撮像ユニット4を移動させることは対物レンズ43を移動させることでもあり、撮像ユニット4の移動量は対物レンズ43の移動量と同等である。
【0071】
光I1の集光点を移動させる範囲は、対象物60の厚さの全範囲としてもよいが、ここでは、改質領域12(ここでは一例として改質領域12a,12b)の形成のためにレーザ光の集光点を合わせたZ方向の位置を含む一部の範囲RAとすることができる。なお、複数回の撮像を行う際のZ方向についての撮像ユニット4の移動の間隔、すなわち、対象物60の撮像間隔は、任意ではあるが、亀裂14kをより正確に検出する観点からは、より細かく設定されることが望ましい。撮像間隔は、一例として1μm以内であり、ここでは0.2μmである。
【0072】
さらに、ここでは、制御部8は、対象物60の直接観察と裏面反射観察とが実行されるように、撮像ユニット4及び駆動ユニット7を制御する。より具体的には、制御部8は、まず、光I1を裏面60bから対象物60に入射させつつ、Z方向に沿って撮像ユニット4を移動させることにより、表面60aでの反射を経ていない光I1の集光点(焦点F)を裏面60b側から表面60a側に移動させながら、Z方向の複数の位置で対象物60を撮像することにより、内部画像GDとして複数の第1内部画像GD1を取得する第1撮像処理を実行する。この第1撮像処理が、直接観察である。
【0073】
これと共に、制御部8は、光I1を裏面60bから対象物に入射させつつ、Z方向に沿って撮像ユニット4を移動させることにより、表面60aで反射した光I1の集光点(仮想焦点Fv)を表面60a側から裏面60b側に向けて移動させながら複数の位置で対象物60を撮像することにより、内部画像GDとして複数の第2内部画像GD2を取得する第2撮像処理を実行する。この第2撮像処理が、光I1の入射面に対して裏面(ここでは、半導体基板21の表裏面との関係から表面60aと称している)側からの観察であることから、裏面反射観察である。
【0074】
続く工程では、工程S2での撮像により取得された内部画像GDに関する撮像データが保存される(工程S3)。上述したように、工程S2では、制御部8が、駆動ユニット7の制御によって撮像ユニット4(すなわち、光I1の集光点)をZ方向に沿って移動させながら撮像を行う。したがって、制御部8は、それぞれの内部画像を撮像したときの移動量Fzを取得することができる。ここでは、内部画像GDのそれぞれに対して、その移動量Fzに関する情報が関連付けられ、撮像データとして保存され得る。なお、撮像データは、制御部8及びレーザ加工装置1の内外を問わずに、制御部8がアクセス可能な任意の記憶装置に保存され得る。
【0075】
なお、撮像ユニット4(対物レンズ43)の移動量Fzは、一例として、光I1の集光点を半導体基板21の裏面21bに合わせた状態の位置から、半導体基板21の内部の所望の位置に光I1の集光点を合わせるように撮像ユニット4をZ方向に沿って移動させた場合の撮像ユニット4の移動量とすることができる。
【0076】
続いて、制御部8が所定の記憶装置から撮像データを入力する(工程S4)。そして、制御部8が、亀裂14kの形成状態を判定する(工程S5)。ここでは、一例として、制御部8が、画像認識によって、複数の内部画像GDのうち、亀裂14kの像が相対的に鮮明な内部画像GD(マーカ画像)を自動的に判定する(AI判定を行う)。ここで、AI判定により亀裂や改質領域を検出するアルゴリズムの一例について説明する。
【0077】
図29及び図30は、亀裂検出について説明する図である。図29においては、内部観察結果(半導体基板21の内部画像)が示されている。制御部8は、図29の(a)に示されるような半導体基板21の内部画像について、まず、直線群140を検出する。直線群140の検出には、例えばHough変換又はLSD(Line Segment Detector)等のアルゴリズムが用いられる。Hough変換とは、画像上の点に対してその点を通る全ての直線を検出し特徴点をより多く通る直線に重み付けしながら直線を検出する手法である。LSDとは、画像内の輝度値の勾配と角度を計算することにより線分となる領域を推定し、該領域を矩形に近似することにより直線を検出する手法である。
【0078】
続いて、制御部8は、図30に示されるように直線群140について亀裂線との類似度を算出することにより、直線群140から亀裂14を検出する。亀裂線は、図30の上図に示されるように、線上の輝度値に対しY方向に前後が非常に明るいという特徴を持つ。このため、制御部8は、例えば、検出した直線群140の全ての画素の輝度値を、Y方向の前後と比較し、その差分が前後とも閾値以上である画素数を類似度のスコアとする。そして、検出した複数の直線群140の中で最も亀裂線との類似度のスコアが高いものをその画像における代表値とする。代表値が高いほど、亀裂14の存在する可能性が高いという指標になる。制御部8は、複数の画像における代表値を比較することにより、相対的にスコアが高いものを亀裂画像候補とする。
【0079】
図31図33は、だ痕検出について説明する図である。図31においては、内部観察結果(半導体基板21の内部画像)が示されている。制御部8は、図31の(a)に示されるような半導体基板21の内部の画像について、画像内のコーナー(エッジの集中)をキーポイントとして検出し、その位置、大きさ、方向を検出して特徴点250を検出する。このようにして特徴点を検出する手法としては、Eigen、Harris、Fast、SIFT、SURF、STAR、MSER、ORB、AKAZE等が知られている。
【0080】
ここで、図32に示されるように、だ痕280は、円形や矩形等の形が一定間隔で並ぶため、コーナーとしての特徴が強い。このため、画像内の特徴点250の特徴量を集計することにより、だ痕280を高精度に検出することが可能になる。図33に示されるように、深さ方向にシフトして撮像した画像毎の特徴量合計を比較すると、改質層毎の亀裂列量を示すような山の変化が確認できる。制御部8は、当該変化のピークをだ痕280の位置として推定する。このように特徴量を集計することによって、だ痕位置だけでなくパルスピッチを推定することも可能になる。
【0081】
以上のAI判定についての説明は、X方向に沿って延びる亀裂14及びだ痕280に関するものであるが、Z方向及びX方向に交差する方向に沿って延びる亀裂14kについても、同様のアルゴリズムにより、複数の内部画像IDにおける代表値を比較することによって、相対的にスコアが高いものを、当該亀裂14kの像が相対的に鮮明な内部画像IDとして判定することができる。
【0082】
一例として、図21は、Z方向について互いに異なる位置で撮像された複数の内部画像GDである。図21では、(d)に示される内部画像GDdの撮像位置を中心に、(c)が1μmだけ裏面60b側の撮像位置での内部画像GDc、(b)が3μmだけ裏面60b側の撮像位置での内部画像GDb、(a)が5μmだけ裏面60b側の撮像位置での内部画像GDa、(e)が1μmだけ表面60a側の撮像位置での内部画像GDe、(f)が3μmだけ表面60a側の撮像位置での内部画像GDf、(g)が5μmだけ表面60a側の撮像位置での内部画像GDgとされている。なお、ここでの撮像位置とは、対象物60の内部での値である。
【0083】
図21に示される例では、内部画像GDdにおいて亀裂14kの像が最も鮮明であることから、制御部8は、内部画像GDdが、相対的にスコアが高く当該亀裂14kの像が相対的に鮮明な内部画像であると判定される。すなわち、ここでは、内部画像GDdにおいて亀裂14kが検出されたものと判定される(内部画像GDdをマーカ画像とする)。制御部8は、内部画像GDdを撮像したときの移動量Fzを取得可能である。制御部8は、Z方向の位置が異なる複数列の改質領域12、及び、それぞれの改質領域12から延びる亀裂14kに対して、同様の工程・処理を行うことにより、複数列の改質領域12のそれぞれから延びる亀裂14kが検出されたときの移動量Fzを取得することができる。
【0084】
すなわち、本実施形態では、対象物60には、Z方向についての位置が互いに異なり、且つ、マーカとして、当該位置の実測値が既知である複数の改質領域12及び亀裂14kが形成されており、撮像処理では、制御部8は、Z方向に沿って撮像ユニット4を移動させることにより、Z方向について対象物60の内部の複数の位置に光I1の集光点を位置させて対象物60を撮像することによって、複数の改質領域12のそれぞれから延びる亀裂14kのそれぞれの鮮明な像を含む複数の内部画像GD(上記の内部画像GDdに相当する画像であってマーカ画像)を取得する。そして、制御部8は、図22の第2欄Q2に示されるように、マーカ画像のそれぞれを撮像したときの移動量Fzを取得する。
【0085】
なお、図22の第1欄Q1に示されるように、制御部8は、複数列の改質領域12(亀裂14k)のZ方向における位置の実測値を、対象物60の裏面(光I1の入射面に対する裏面であって、ここでは表面60a)からの距離として取得できる。
【0086】
続いて、制御部8が、補正係数を導出する(工程S6:導出工程)。図22に示されるように、制御部8は、Z方向に並ぶ複数の改質領域12のそれぞれの位置の測定値を算出するための情報として、改質領域12のそれぞれから延びる亀裂14kが検出されたときの移動量Fzを取得している(第2欄Q2)。一方で、制御部8は、Z方向に並ぶ複数の改質領域12のそれぞれの位置の実測値を取得できる(第1欄Q1)。したがって、制御部8は、Z方向に並ぶ複数の改質領域12のそれぞれについて、移動量Fzに補正係数を乗じた値である改質領域12の位置の測定値が対応する実測値となるように、補正係数を導出することができる。換言すれば、制御部8は、補正係数=実測値/移動量Fzとして、補正係数を導出する。
【0087】
すなわち、制御部8は、亀裂14kの鮮明な像を含む内部画像GDであるマーカ画像を撮像したときの移動量Fzに補正係数を乗じた値である測定値が、改質領域12のZ方向の位置の実測値になるように補正係数を導出する導出処理を実行する。図22の第3欄Q3は、このようにして導出された補正係数が示されている。その後、制御部8は、導出した補正係数を示すデータを保存し(工程S7)、処理を終了する。
【0088】
以上により導出された補正係数は、撮像ユニット4からの光I1によって撮像された内部画像GDに基づいている。したがって、補正係数は、内部画像GDの撮像を行ったときの撮像ユニット4の装置状態を反映したものとなっている。また、補正係数は、Z方向について、対象物60の複数の位置で撮像された内部画像GDに基づいて導出されている。したがって、補正係数は、対象物60における光I1の集光点を合わせるZ方向の位置、及び当該位置に応じた収差補正量を加味したものとなっている。
【0089】
引き続いて、本実施形態に係る観察方法では、Z方向の位置が実測されていない改質領域12を含む対象物を観察することにより、当該改質領域12のZ方向の位置に関する情報を取得するための一連の工程が実施される。図23は、本実施形態に係る観察方法のうち、改質領域のZ方向の位置に関する情報を取得するための工程を示すフローチャートである。
【0090】
図23に示されるように、ここでは、改質領域が形成された対象物が用意される。ここでは、レーザ加工が行われる(工程S11:用意工程)。ただし、観察方法の一工程としては、レーザ加工の工程は必須ではなく、例えば別のレーザ加工装置を用いて(或いは、レーザ加工装置1により別途のタイミングで)改質領域12が形成された対象物を用意してもよい。
【0091】
この工程S11では、図24に示されるように、半導体基板21を含む対象物を用意する。半導体基板21は、裏面(第1面)21bと裏面21bの反対側の表面(第2面)21aとを含む。半導体基板21には、裏面21b及び表面21aに沿ったX方向に延びるライン15が設定されている。半導体基板21は、裏面21bをレーザ光Lの入射面とするため、裏面21bがレーザ照射ユニット3に臨むようにステージ2に支持されている。その状態において、制御部8が、レーザ照射ユニット3を制御しつつ、半導体基板21をX方向に沿って相対移動させるように駆動ユニット7及び/又はステージ2の移動機構を制御し、レーザ光Lの集光点Cをライン15に沿って半導体基板21に対して相対移動させる。
【0092】
このとき、制御部8は、空間光変調器32にレーザ光Lを複数(ここでは2つ)のレーザ光L1,L2に分岐するためのパターンを表示させる。これにより、半導体基板21の内部に、Z方向について距離Dzだけ離間し、且つ、X方向について距離Dxだけ離間するように、レーザ光L1,L2のそれぞれの集光点C1,C2が形成される。この結果、半導体基板21には、ライン15に沿って複数(ここでは2列)の改質領域12a,12bが形成される。したがって、ここでは、X方向が集光点C1,C2が進行する加工進行方向となる。
【0093】
このように、ここでは、制御部8は、レーザ照射ユニット3(照射部)の制御により、ライン15の延在方向であるX方向に沿って半導体基板21にレーザ光Lを照射することによって、X方向に沿って配列された複数の改質領域12と改質領域12から延びる亀裂(亀裂14,14k)とを半導体基板21に形成するレーザ加工処理を実行することとなる。なお、図24及び以降の図では、半導体基板21の表面21aに形成された機能素子層22が省略されている。
【0094】
続いて、内部観察が行われる。すなわち、続く工程では、半導体基板21を観察位置に移動させる(工程S12)。より具体的には、制御部8が、駆動ユニット7及び/又はステージ2の移動機構を制御することにより、半導体基板21を、撮像ユニット4の対物レンズ43の直下に位置するように相対移動させる。なお、改質領域12が形成された半導体基板21を別途に用意した場合には、例えばユーザによって、当該半導体基板21が観察位置に載置されてもよい。
【0095】
続いて、図25に示されるように、半導体基板21に対して透過性を有する光(透過光)I1によって、半導体基板21の撮像を行う(工程S13:撮像工程)。この工程S13では、撮像ユニット4(撮像部)の制御により、光I1を半導体基板21の裏面21bから半導体基板21の内部に入射させつつ、改質領域12から延びる亀裂のうちのZ方向及びX方向に交差する方向に沿って延びる亀裂14kである対象亀裂を光I1により撮像する撮像処理を実行する。なお、Y方向は、加工進行方向であるX方向と、裏面21b及び表面21aに交差するZ方向と、に交差する方向の一例である。
【0096】
より具体的には、工程S13では、制御部8が、駆動ユニット7(移動部)及び撮像ユニット4を制御することにより、Z方向に沿って撮像ユニット4を移動させることにより、半導体基板21の内部の複数の位置に光I1の集光点を位置させて半導体基板21を撮像することによって、複数の内部画像IDを取得する。上述したように、本実施形態では、対物レンズ43は撮像ユニット4と一体に移動される。したがって、撮像ユニット4を移動させることは対物レンズ43を移動させることでもあり、撮像ユニット4の移動量は対物レンズ43の移動量と同等である。
【0097】
このとき、制御部8は、駆動ユニット7の制御により、Z方向について撮像ユニット4を移動させ、光I1の集光点(焦点F、仮想焦点Fv)をZ方向に移動させながら、複数回の半導体基板21の撮像を行う。光I1の集光点を移動させる範囲は、半導体基板21の厚さの全範囲としてもよいが、ここでは、工程S11のレーザ加工時に、改質領域12a,12bの形成のためにレーザ光L1,L2の集光点C1,C2を合わせたZ方向の位置を含む一部の範囲RAとすることができる。なお、複数回の撮像を行う際のZ方向についての撮像ユニット4の移動の間隔、すなわち、半導体基板21の撮像間隔は、任意ではあるが、亀裂14kをより正確に検出する観点からは、より細かく設定されることが望ましい。撮像間隔は、一例として1μm以内であり、ここでは0.2μmである。
【0098】
さらに、ここでは、制御部8は、半導体基板21の直接観察と裏面反射観察とが実行されるように、撮像ユニット4及び駆動ユニット7を制御する。より具体的には、制御部8は、まず、光I1を裏面21bから半導体基板21に入射させつつ、Z方向に沿って撮像ユニット4を移動させることにより、表面21aでの反射を経ていない光I1の集光点(焦点F)を裏面21b側から表面21a側に移動させながら、Z方向の複数の位置で半導体基板21を撮像することにより、内部画像IDとして複数の第1内部画像ID1を取得する第1撮像処理を実行する。この第1撮像処理が、直接観察である。
【0099】
これと共に、制御部8は、光I1を裏面21bから対象物に入射させつつ、Z方向に沿って撮像ユニット4を移動させることにより、表面21aで反射した光I1の集光点(仮想焦点Fv)を表面21a側から裏面21b側に向けて移動させながら複数の位置で半導体基板21を撮像することにより、内部画像IDとして複数の第2内部画像ID2を取得する第2撮像処理を実行する。この第2撮像処理が、光I1の入射面に対して裏面(ここでは、半導体基板21の構成上、表面21aと称している)側からの観察であることから、裏面反射観察である。
【0100】
続く工程では、工程S13での撮像により取得された内部画像IDに関する撮像データが保存される(工程S14)。上述したように、工程S13では、制御部8が、駆動ユニット7の制御によって撮像ユニット4(すなわち、光I1の集光点)をZ方向に沿って移動させながら撮像を行う。したがって、制御部8は、それぞれの内部画像を撮像したときの撮像ユニット4の移動量Fzを取得することができる。ここでは、内部画像IDのそれぞれに対して、その移動量Fzに関する情報が関連付けられ、撮像データとして保存され得る。なお、撮像データは、制御部8及びレーザ加工装置1の内外を問わずに、制御部8がアクセス可能な任意の記憶装置に保存され得る。
【0101】
なお、撮像ユニット4(対物レンズ43)の移動量は、一例として、光I1の集光点を半導体基板21の裏面21bに合わせた状態の位置から、半導体基板21の内部の所望の位置に光I1の集光点を合わせるように撮像ユニット4をZ方向に沿って移動させた場合の撮像ユニット4の移動量とすることができる。
【0102】
続いて、制御部8が所定の記憶装置から撮像データを入力する(工程S15)。そして、制御部8が、亀裂14kの形成状態を判定する(工程S16)。ここでは、一例として、制御部8が、画像認識によって、複数の内部画像IDのうち、亀裂14kの像が相対的に鮮明な内部画像IDを自動的に判定する(AI判定を行う)。AI判定の一例については上記のとおりである。図26は、Z方向について互いに異なる位置で撮像された複数の内部画像IDである。
【0103】
図26では、(d)に示される内部画像IDdの撮像位置を中心に、(c)が1μmだけ裏面21b側の撮像位置での内部画像IDc、(b)が3μmだけ裏面21b側の撮像位置での内部画像IDb、(a)が5μmだけ裏面21b側の撮像位置での内部画像IDa、(e)が1μmだけ表面21a側の撮像位置での内部画像IDe、(f)が3μmだけ表面21a側の撮像位置での内部画像IDf、(g)が5μmだけ表面21a側の撮像位置での内部画像IDgとされている。なお、ここでの撮像位置とは、半導体基板21の内部での値である。
【0104】
図26に示される例では、内部画像IDdにおいて亀裂14kの像が最も鮮明であることから、制御部8によって、内部画像IDdが、相対的にスコアが高く当該亀裂14kの像が相対的に鮮明な内部画像であると判定される(すなわち、内部画像IDdにおいて亀裂14kが検出されたものと判定される)。制御部8は、内部画像IDdを撮像したときの移動量を取得可能である。したがって、制御部8は、内部画像IDdを撮像したときの移動量に基づいて、亀裂14kの亀裂位置を算出することができる。
【0105】
このように、制御部8は、撮像ユニット4及び駆動ユニット7の制御により、裏面21bから光I1を半導体基板21に入射させ、Z方向に沿って撮像ユニット4(対物レンズ43)を移動させつつ光I1により半導体基板21を撮像することによって、亀裂14kの鮮明な像を含む内部画像IDである検出画像を取得する撮像処理を実行することとなる。
【0106】
また、制御部8は、複数の内部画像IDと内部画像IDのそれぞれを撮像したときの撮像ユニット4の移動量Fzとに基づいて、Z方向及びX方向に交差する方向に沿って延びる亀裂14kである対象亀裂のZ方向についての位置である亀裂位置を算出する算出処理を実行することとなる。より具体的には、制御部8は、算出処理では、複数の内部画像IDのうち亀裂14kの像が鮮明な内部画像IDを判定し、判定された当該内部画像IDを撮像したときの移動量Fzに基づいて亀裂位置を算出する。亀裂位置は、例えば、移動量Fzに対して所定の補正係数を乗じることにより算出できる。補正係数は、上記の工程S1~7によって既に導出されている。
【0107】
すなわち、制御部8は、移動量Fzに応じた複数の補正係数を保持しており、算出処理では、検出画像を撮像したときの移動量Fzに対応する補正係数を使用して、亀裂14kの亀裂位置に対応する改質領域12の位置の測定値を算出する。
【0108】
制御部8は、以上の亀裂14kの亀裂位置の算出を、直接観察で取得された第1内部画像ID1と、裏面反射観察で取得された第2内部画像ID2と、の両方に対して行うことができる。これにより、制御部8は、第1内部画像ID1に応じた相対的に裏面21b側に位置する亀裂14kの亀裂位置と、第2内部画像ID2に応じた相対的に表面21a側に位置する亀裂14kの亀裂位置と、を算出することができる。
【0109】
すなわち、この場合には、制御部8は、複数の第1内部画像ID1のうち亀裂14kが鮮明な第1内部画像を判定し、判定された当該第1内部画像お撮像したときの撮像ユニット4の移動量に基づいて、亀裂位置としての第1亀裂位置Z1を算出する第1算出処理と、複数の第2内部画像ID2のうち亀裂14kが鮮明な第2内部画像を判定し、判定された当該第2内部画像を撮像したときの撮像ユニット4の移動量に基づいて、亀裂位置としての第2亀裂位置Z2を算出する第2算出処理と、を実行することとなる(第1亀裂位置Z1及び第2亀裂位置Z2の一例については図15参照)。相対的に裏面21b側の第1亀裂位置Z1と相対的に表面21a側の第2亀裂位置Z2との間の距離は、改質領域12のうちの亀裂14kが形成された部分(亀裂起始部)の幅を規定する。
【0110】
引き続いて、工程S16では、制御部8が、取得された亀裂位置等に基づいて、改質領域12の位置等を推定する。すなわち、ここでは、制御部8が、改質領域12の形成条件(ここではレーザ加工における加工条件)と亀裂位置とに基づいて、改質領域12の裏面21b側の端部(ボイド上方領域上端)のZ方向についての位置、改質領域12の表面21a側の端部(ボイド下端)のZ方向についての位置、及び、改質領域12のZ方向についての幅(ボイド上方領域上端とボイド下端との間隔)の少なくとも1つを推定する推定処理を実行する。
【0111】
ここでは、制御部8は、直接観察に基づいて裏面21b側の亀裂14k(上方亀裂)の第1亀裂位置Z1を算出し、裏面反射観察に基づいて表面21a側の亀裂14k(下方亀裂)の第2亀裂位置Z2を算出している。したがって、制御部8は、上方亀裂の第1亀裂位置Z1及び下方亀裂の第2亀裂位置Z2の間隔として、半導体基板21内部における亀裂起始部の幅を算出することができる。
【0112】
そして、制御部8は、例えば、算出された亀裂起始部の幅に対して、レーザ加工の加工条件に関する係数を乗じることにより、半導体基板21の内部における改質領域12のZ方向についての幅を算出することができる。ここでの係数は、例えば、レーザ加工時のレーザ光Lの波長、収差補正量、パルス幅、及び、パルスエネルギー等の改質領域12の形成に影響する各種条件に基づいて決定される。ここでの係数は、一例として3.0前後である。
【0113】
このように、制御部8は、推定処理において、改質領域12の形成条件(レーザ加工の加工条件)及び第1亀裂位置Z1と第2亀裂位置Z2との間隔に基づいて、改質領域12のZ方向についての幅を推定することができる。
【0114】
一方、制御部8は、上方亀裂の第1亀裂位置Z1から、想定される改質領域12の全体の幅である想定改質領域幅を減算することにより、改質領域12の表面21a側の下端の位置を算出することができる。想定改質領域幅は、例えば、レーザ加工時のレーザ光Lの波長、収差補正量、パルス幅、及び、パルスエネルギー等の改質領域12の形成に影響する各種条件に基づいて決定される。想定改質領域幅は、一例として20μm程度である。
【0115】
また、制御部8は、下方亀裂の第2亀裂位置Z2から、想定されるボイド領域12mの幅である想定ボイド領域幅を減算することにより、改質領域12の表面21aの下端の位置を算出することができる。想定ボイド領域幅は、例えば、レーザ加工時のレーザ光Lの波長、収差補正量、パルス幅、及び、パルスエネルギー等の改質領域12の形成に影響する各種条件に基づいて決定される。想定ボイド領域幅は、一例として10μm程度である。
【0116】
さらに、制御部8は、下方亀裂の第2亀裂位置Z2に対して、想定されるボイド上方領域12nの幅である想定ボイド上方領域幅を加算することにより、改質領域12の裏面21b側の上端の位置を算出することができる。想定ボイド上方領域幅は、例えば、レーザ加工時のレーザ光Lの波長、収差補正量、パルス幅、及び、パルスエネルギー等の改質領域12の形成に影響する各種条件に基づいて決定される。想定ボイド上方領域幅は、一例として10μm程度である。
【0117】
以上のように、制御部8は、工程S16において、改質領域12の位置に関する各種の情報を推定して取得する。続く工程では、制御部8は、工程S16の判定結果に係る情報を任意の記憶装置に出力しつつ(工程S17)、当該記憶装置に保存する(工程S18)。その後、必要に応じて、ユーザからの入力を受け付け可能な状態で各種の情報をディスプレイ150に表示させ(工程S19)、処理を終了する。ディスプレイ150に表示させる情報は、例えば、第1亀裂位置Z1、第2亀裂位置Z2、起始部幅、改質領域12の端部の位置、及び、改質領域12のZ方向についての幅等である。このように、制御部8は、工程S19では、ディスプレイ150の制御により、亀裂位置に係る情報をディスプレイ150に表示させる表示処理を実行する。
【0118】
以上により、レーザ加工装置1による観察方法が終了する。本実施形態では、観察方法が、レーザ加工装置1のうちの撮像ユニット4、駆動ユニット7、及び制御部8によって行われる。換言すれば、レーザ加工装置1では、対象物60及び半導体基板21に透過性を有する光I1によって対象物60及び半導体基板21を撮像するための撮像ユニット4と、撮像ユニット4を対象物60及び半導体基板21に対して相対的に移動させるための駆動ユニット7と、少なくとも撮像ユニット4及び駆動ユニット7を制御するための制御部8とによって、観察装置1Aが構成されている(図1参照)。
【0119】
図27は、改質領域の位置の測定値と実測値との誤差を示すグラフである。図27に示されるように、本実施形態に係る観察方法では、工程S1~S7において装置状態やZ方向の位置(図27の深さ位置)・収差補正量を加味して導出された補正係数を使用して、工程S11~S19で改質領域12の測定値を算出した。これにより、本実施形態における測定値と実測値との誤差は、概ね6μm以内に収められた。これに対して、一定の補正係数を使用した比較例での誤差では、本実施形態の場合よりも大きく19μm程度であった。
【0120】
以上説明したように、本実施形態に係る観察装置1A及び観察方法の対象物60には、その裏面60b及び表面60aに交差するZ方向における位置の実測値が既知のマーカ(ここでは改質領域12及び亀裂14k)が設けられている。本実施形態に係る観察装置1A及び観察方法では、このような対象物60を、撮像ユニット4を移動させつつ撮像することによって、対象物60の内部画像GDであって亀裂14kの像を含むマーカ画像が取得される。そして、このマーカ画像が撮像されたときの移動量Fzに補正係数を乗じた値(測定値)が、既知である改質領域12の位置の実測値となるように、補正係数が導出される。すなわち、この観察装置1A及び観察方法によれば、マーカ画像が撮像されたときの装置状態、及び、マーカ画像が撮像されたときの撮像ユニット4の移動量(すなわち観察深さ)に応じた補正係数が導出されることとなる。よって、光I1を利用して改質領域12を観察して改質領域12の位置の測定値を算出する際に、この補正係数を使用すれば、改質領域12の位置に関する情報をより正確に取得可能となる。
【0121】
また、本実施形態に係る観察装置1Aでは、対象物60には、Z方向についての位置が互いに異なり、且つ、当該位置の実測値が既知である複数の改質領域12及び亀裂14kが形成されており、撮像処理では、制御部8は、Z方向について対象物60の内部の複数の位置に集光点を位置させて対象物60を撮像することによって、複数の改質領域12のそれぞれから延びる亀裂14kのそれぞれの像を含む複数のマーカ画像を取得する。そして、導出処理では、制御部8は、複数の亀裂14kのそれぞれを撮像したときの撮像ユニット4の移動量Fzのそれぞれに補正係数を乗じた値である測定値のそれぞれが、複数の改質領域12の位置の実測値のそれぞれになるように、複数の補正係数を導出する。よって、光I1を利用して改質領域12を観察して改質領域12の位置の測定値を算出する際に、Z方向についてより広い範囲で、改質領域12の位置に関する情報をより正確に取得可能となる。
【0122】
また、観察装置1Aでは、対象物60には、Z方向に配列された改質領域12と、改質領域12から延びる亀裂14,14kと、が形成されており、撮像処理では、撮像ユニット4をZ方向に沿って移動させることにより、光I1の集光点を移動させつつ光I1により対象物60を撮像することによって、亀裂14,14kのうちのX方向及びZ方向に交差する方向に沿って延びる亀裂14kの像を含む内部画像GDをマーカ画像として取得する。
【0123】
本発明者の知見によれば、対象物60の内部に、例えばレーザ加工によって改質領域12を形成すると、当該改質領域12から様々な方向に延びる亀裂も形成される場合がある。そして、その亀裂のうち、対象物60のレーザ光入射面である裏面60bに交差するZ方向とレーザ加工の進行方向であるX方向とに交差する方向に沿って延びる亀裂14kは、改質領域12と比較して、対象物60を透過する光I1によってピンポイントで検出される。したがって、この亀裂14kの像を含む内部画像GDを上記のようにマーカ画像とすれば、このマーカ画像が撮像されたときの撮像ユニット4の移動量Fzのばらつきが低減される。この結果、より正確な補正係数を導出できる。
【0124】
本実施形態に係る観察装置1Aでは、撮像ユニット4は、対物レンズ43と、対物レンズ43に設けられ、対象物60で生じする収差を補正するための補正環43aと、を含む補正環レンズを有している。このように、光I1を対象物60に向けて集光するための対物レンズ43に補正環43aが設けられている場合、補正環43aの操作前後で装置状態の変化が発生するおそれがある。したがって、上記のように装置状態に応じた補正係数を導出することがより有効となる。
【0125】
ここで、本実施形態に係る観察装置1Aは、半導体基板21に透過性を有する光I1を半導体基板21に向けて集光するための対物レンズ43を有し、光I1によって半導体基板21を撮像するための撮像ユニット4と、対物レンズ43を半導体基板21に対して相対的に移動させるための駆動ユニット7と、少なくとも撮像ユニット4及び駆動ユニット7を制御するための制御部8と、を備えている。半導体基板21は、裏面21b及び裏面21bの反対側の表面21aを含み、半導体基板21には、改質領域12と改質領域12から延びる亀裂14,14kとが設けられている。制御部8は、撮像ユニット4及び駆動ユニット7の制御により、裏面21bから光I1を半導体基板21に入射させ、Z方向に沿って撮像ユニット4を移動させつつ光I1により半導体基板21を撮像することによって、亀裂14kの像を含む内部画像IDである検出画像を取得する撮像処理と、撮像処理の後に、検出画像を撮像したときの撮像ユニット4の移動量Fzに補正係数を乗じることによって、亀裂14kのZ方向についての位置である亀裂位置を算出する算出処理と、を実行する。制御部8は、移動量Fzに応じた複数の補正係数を保持している。
【0126】
この観察装置1Aは、上記のように、撮像ユニット4の移動量Fzに応じた補正係数を保持している。したがって、この補正係数を使用して亀裂14kの位置の測定値を算出することにより、より正確な改質領域12の位置に関する情報を取得できる。
【0127】
本実施形態に係る対象物60は、裏面60b及び裏面60bの反対側の表面60aを含み、マーカとして改質領域12及び改質領域12から延びる亀裂14kが設けられた対象物であって、裏面60b及び表面60aに交差するZ方向における改質領域12及び亀裂14kの位置の測定値を、改質領域12の位置の実測値から算出するための補正係数を導出するために用いられる。この対象物60を使用すれば、上記のように補正係数を導出することが可能となる。
【0128】
以上の実施形態は、本発明の一態様を説明したものである。したがって、本発明は、上記実施形態に限定されることなく、任意に変形される。
【0129】
例えば、上記実施形態では、対物レンズ43を半導体基板21に対してZ方向に沿って相対移動させるための手段として、対物レンズ43ごと撮像ユニット4を移動させる駆動ユニット7を例示している。しかし、例えば、アクチュエータによって対物レンズ43のみをZ方向に沿って移動させさせてもよい。
【0130】
また、上記実施形態では、工程S5,S16において、制御部8が自動的に画像の判定を行う例について説明したが、制御部8は、ユーザの判定結果に基づいて亀裂14kの亀裂位置を取得してもよい。この場合、制御部8は、例えば、複数の内部画像GD,IDをディスプレイ150に表示させると共に、複数の内部画像GD,IDから亀裂14kの像が鮮明な1つの内部画像GD,IDの判定(選択)を促す情報をディスプレイ150に表示させる。そして、制御部8は、ディスプレイ150を介して、当該判定結果の入力を受け付け、判定結果に対応した内部画像GD,IDの移動量Fzに基づいて亀裂14kの亀裂位置を算出することができる。この場合、ディスプレイ150は、情報を表示するための表示部であると共に、入力を受け付ける入力受付部でもある。この場合、制御部8の画像認識等のための処理負荷が低減される。
【0131】
また、上記実施形態では、工程S2,S13において、1つの改質領域12の観察に対して、直接観察と裏面反射観察との両方を行い、内部画像GD,IDとしての第1内部画像GD1,ID1及び第2内部画像GD2,ID2を取得した。しかし、工程S2,S13では、直接観察及び裏面反射観察のうちの一方のみを行ってもよい。この場合、第1内部画像GD1,ID1及び第2内部画像GD2,ID2のうちの一方が得られることとなるので、その一方に基づいて、補正係数の導出や、改質領域12の端部の位置や幅の推定を行ってもよい。
【0132】
ここで、観察装置1Aには、補正係数の導出用の対象物60が常設されていてもよい。すなわち、観察装置1Aは、対象物60が設置される設置部(例えば図1のステージ2A)と、設置部に設置された対象物60と、を備えてもよい。このように、マーカとして改質領域12及び亀裂14kが設けられた対象物60が常設されることにより、任意のタイミングで補正係数の導出を行うことが可能となる。
【0133】
さらに、上記実施形態では、補正係数の導出に際して、亀裂14kを含む内部画像をマーカ画像として、当該マーカ画像が撮像されたときの移動量Fzを利用した。すなわち、亀裂14kを検出することにより、当該亀裂14kが検出された位置に基づいて補正係数の導出を行った。しかし、観察装置1A及び観察方法では、補正係数の導出に際して、改質領域12そのものを検出するようにしてもよい。この場合、制御部8の処理は以下のとおりとなる。
【0134】
すなわち、制御部8は、撮像ユニット4及び駆動ユニット7の制御により、光I1を裏面60bから対象物60の内部に入射させ、Z方向に沿って撮像ユニット4を移動させて光I1の集光点をZ方向に沿って移動させつつ光I1により対象物60を撮像することによって、対象物60の内部画像GDであって改質領域12の像を含むマーカ画像を取得する撮像処理と、撮像処理の後に、マーカ画像を撮像したときの撮像ユニット4の移動量Fzに補正係数を乗じた値である測定値が改質領域12の位置の実測値になるように補正係数を導出する導出処理と、を実行することとなる。
【0135】
このように改質領域12そのものを検出対象とする場合、Z方向のより多くの位置で補正係数を導出すべく、Z方向についてより狭い間隔(例えば移動量Fzで5μm、対象物60内部で20μm程度)で内部画像を撮像しようとすると、1つの改質領域12の像が複数の内部画像にわたって撮像されるおそれがある。この場合、Z方向のある位置の改質領域12の像と、Z方向の別の位置の改質領域12の像とが、1つの内部画像で重複することとなる。
【0136】
このような問題の解決のため、改質領域12を検出対象とする場合には、図28に示されるように、Z方向に沿って並ぶ複数列の改質領域12のそれぞれを、Y方向に沿って互いにシフトさせることが考えられる。このようにすれば、Z方向のある位置の改質領域12の像と、Z方向の別の位置の改質領域12の像とが、1つの内部画像で重複することが避けられるため、より狭い間隔で内部画像を撮像し、より多くの位置での補正係数を導出することが可能となる。
【0137】
なお、補正係数の導出のための検出対象を改質領域12とした場合には、その後の半導体基板21の改質領域12の位置に関する情報を取得するための工程でも、亀裂14kの検出に代えて改質領域12そのものを検出するようにしてもよい。
【0138】
ここで、上記実施形態では、補正係数の導出に際して、実測値が既知の改質領域12及び亀裂14kがマーカとして設けられた対象物60を使用する例を挙げた。しかし、補正係数の導出用の対象物はこれに限定されない。例えば、厚さが既知であるウェハの1つの面に、マーカとしてテストチャートを貼り合わせたものを対象物としてもよいし、厚さが既知であるウェハの1つの面に、マーカとして所定のパターニングを施したものを対象物としてもよい。これらの場合、厚さが異なる複数の対象物を用意することで、Z方向の複数の位置での補正係数を導出することが可能となる。
【符号の説明】
【0139】
1A…観察装置、2A…ステージ(設置部)、4…撮像ユニット(撮像部)、7…駆動ユニット(移動部)、8…制御部、12…改質領域、14…亀裂、14k…亀裂(対象亀裂)、21…半導体基板(対象物)、21a…表面(第2面)、21b…裏面(第1面)、60…対象物、60a…表面(第2面)、60b…裏面(第1面)、I1…光(透過光)、GD,ID…内部画像、GD1,ID1…第1内部画像、GD2,ID2…第2内部画像、Z1…第1亀裂位置、Z2…第2亀裂位置。
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