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特開2022-117112プレキャストコンクリート部材の接合構造、及びプレキャストコンクリート部材の施工方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022117112
(43)【公開日】2022-08-10
(54)【発明の名称】プレキャストコンクリート部材の接合構造、及びプレキャストコンクリート部材の施工方法
(51)【国際特許分類】
   E01D 19/12 20060101AFI20220803BHJP
   E01D 21/00 20060101ALI20220803BHJP
   E01C 7/32 20060101ALI20220803BHJP
【FI】
E01D19/12
E01D21/00 B
E01C7/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021013628
(22)【出願日】2021-01-29
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】滝本 和志
(72)【発明者】
【氏名】田中 博一
【テーマコード(参考)】
2D051
2D059
【Fターム(参考)】
2D051AC01
2D051AF03
2D051AH02
2D051DA11
2D051DA18
2D051DB15
2D059AA14
2D059GG55
(57)【要約】      (修正有)
【課題】床板の取替工事において、簡単な作業により早期に交通の開放が可能な状態にできるプレキャストコンクリート部材の接合構造を提供する。
【解決手段】先端部に拡幅部10aを備え、合成床版1A、1Bの接合端面1aから拡幅部10a側を突出して配設される機械式定着部10Aを有する継手鉄筋10と、機械式定着部10Aを埋設するように互いに接合される合成床版1A、1Bの接合端面1a同士の間の間詰め領域20に充填された間詰めコンクリート4と、接合される合成床版1A、1Bの接合端部同士を架け渡すようにそれぞれの合成床版1A、1Bの上面1bにねじの締結により固定され、間詰め領域20の上方を覆う蓋板5と、を備え、蓋板5には、前記間詰め領域に連通し、間詰めコンクリート4を打設するための打設孔52が設けられる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋とコンクリートとを一体成形してなるプレキャストコンクリート部材同士を接合するためのプレキャストコンクリート部材の接合構造であって、
先端部に拡幅部を備え、前記プレキャストコンクリート部材の接合端面から前記拡幅部側を突出して配設される機械式定着部を有する継手鉄筋と、
前記機械式定着部を埋設するように互いに接合される前記プレキャストコンクリート部材の前記接合端面同士の間の間詰め領域に充填された間詰めコンクリートと、
接合される前記プレキャストコンクリート部材の接合端部同士を架け渡すようにそれぞれの前記プレキャストコンクリート部材の上面にねじの締結により固定され、前記間詰め領域の上方を覆う蓋板と、
を備え、
前記蓋板には、前記間詰め領域に連通し、前記間詰めコンクリートを打設するための打設孔が設けられていることを特徴とするプレキャストコンクリート部材の接合構造。
【請求項2】
前記プレキャストコンクリート部材の接合端部の上面には、前記プレキャストコンクリート部材の幅方向に沿って受け面を有する段部が形成され、
前記段部の受け面に前記蓋板の接合方向の一方の端部が載置された状態で固定され、前記プレキャストコンクリート部材の上面と前記蓋板の上面とが面一となっていることを特徴とする請求項1に記載のプレキャストコンクリート部材の接合構造。
【請求項3】
接合される前記プレキャストコンクリート部材の前記機械式定着部同士は、同軸線上に配置され、
両端に拡幅部を有し、前記間詰め領域において軸方向を前記継手鉄筋の軸方向と平行に配置された接合鉄筋を備え、
前記接合鉄筋は、前記プレキャストコンクリート部材の幅方向で前記機械式定着部同士の間に配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のプレキャストコンクリート部材の接合構造。
【請求項4】
接合される前記プレキャストコンクリート部材の前記機械式定着部は、前記プレキャストコンクリート部材の幅方向に沿って交互に配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のプレキャストコンクリート部材の接合構造。
【請求項5】
鉄筋とコンクリートとを一体成形してなるプレキャストコンクリート部材同士を接合するためのプレキャストコンクリート部材の施工方法であって、
2つの前記プレキャストコンクリート部材を所定の大きさの間詰め領域をあけた状態で配置する工程と、
前記間詰め領域内で機械式定着部を配置する工程と、
接合される前記プレキャストコンクリート部材の接合端部同士を架け渡し、前記間詰め領域の上方を覆うようにして前記プレキャストコンクリート部材の上面に蓋板をねじの締結により固定する工程と、
前記蓋板に設けられた打設孔から前記間詰めコンクリートを前記間詰め領域内に打設する工程と、
を有することを特徴とするプレキャストコンクリート部材の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレキャストコンクリート部材の接合構造、及びプレキャストコンクリート部材の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、道路橋や鉄道橋の床版として、例えば鋼板とコンクリートを一体形成してなるプレキャストコンクリート床版(鋼・コンクリート合成床版)等のプレキャストコンクリート部材が知られている。
このようなプレキャストコンクリート床版では、床版の取り替え工事が行われることがあり、例えば特許文献1、2に示されるような車両の通行の規制による影響を少なくする必要があるために、急速施工を行う施工方法が適用されている。
【0003】
特許文献1には、プレキャストコンクリート床版の接合構造として、穴あき鋼板と高強度鋼繊維補強モルタルを用いることで、接合するプレキャストコンクリート床版同士の間の間詰め部の幅を縮小し、耐久性に優れた構造について記載されている。
特許文献2には、プレキャストコンクリート床版の接合端面にボルトボックスが形成され、このボルトボックスに配置された接合板同士をボルト接合する構成であり、ボルトボックスの上部の開口を塞ぐようにしてコンクリート補強板を接着剤により固着し、コンクリート補強板の設置後に、コンクリート補強板に形成されているグラウト注入孔からボルトボックス内にグラウト材を充填する構造について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-172143号公報
【特許文献2】特開2009-41227号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のプレキャストコンクリート部材の接合構造では、以下のような問題があった。
すなわち、上述した特許文献1は、床版の取り替え工事において、間詰め部に打設する高強度鋼繊維補強モルタルが硬化して一定の強度を発現するまで車両の通行を開放することができないという問題があった。
【0006】
また、特許文献2の場合には、施工現場において、接合するプレキャストコンクリート床版を配置した後にボルトボックスの接合板同士をボルト接合するという作業と、ボルト接合の後、コンクリート補強板を接着剤により固着する作業とが必要であり、作業が完了するまでに時間がかかり、その間、車両の通行を開放することができないことから、その点で改善の余地があった。
【0007】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、簡単な作業により早期に交通の開放が可能な状態にできるプレキャストコンクリート部材の接合構造、及びプレキャストコンクリート部材の施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明に係るプレキャストコンクリート部材の接合構造は、鉄筋とコンクリートとを一体成形してなるプレキャストコンクリート部材同士を接合するためのプレキャストコンクリート部材の接合構造であって、先端部に拡幅部を備え、前記プレキャストコンクリート部材の接合端面から前記拡幅部側を突出して配設される機械式定着部を有する継手鉄筋と、前記機械式定着部を埋設するように互いに接合される前記プレキャストコンクリート部材の前記接合端面同士の間の間詰め領域に充填された間詰めコンクリートと、接合される前記プレキャストコンクリート部材の接合端部同士を架け渡すようにそれぞれの前記プレキャストコンクリート部材の上面にねじの締結により固定され、前記間詰め領域の上方を覆う蓋板と、を備え、前記蓋板には、前記間詰め領域に連通し、前記間詰めコンクリートを打設するための打設孔が設けられていることを特徴としている。
【0009】
また、本発明に係るプレキャストコンクリート部材の施工方法は、鉄筋とコンクリートとを一体成形してなるプレキャストコンクリート部材同士を接合するためのプレキャストコンクリート部材の施工方法であって、2つの前記プレキャストコンクリート部材を所定の大きさの間詰め領域をあけた状態で配置する工程と、前記間詰め領域内で機械式定着部を配置する工程と、接合される前記プレキャストコンクリート部材の接合端部同士を架け渡し、前記間詰め領域の上方を覆うようにして前記プレキャストコンクリート部材の上面に蓋板をねじの締結により固定する工程と、前記蓋板に設けられた打設孔から前記間詰めコンクリートを前記間詰め領域内に打設する工程と、を有することを特徴としている。
【0010】
本発明では、間詰め領域を確保した状態で接合するプレキャストコンクリート部材を所定位置に設置した後、それぞれのプレキャストコンクリート部材の接合端面同士をボルト等で接合する作業を行うことなく、蓋板をプレキャストコンクリート部材の接合端部同士を架け渡すように配置することができる。そして、蓋板はねじの締結によりプレキャストコンクリート部材に固定され、固定後に蓋板に設けられた打設孔から間詰めコンクリートを間詰め領域内に打設することができる。この場合には、プレキャストコンクリート部材を設置した後に蓋板を配置してねじを締結するという簡単な作業となることから、作業効率を向上させることができ、施工にかかる時間を短縮することができる。
【0011】
このように本発明では、打設時の時点から間詰め領域を覆うように蓋板が設置されているので、間詰めコンクリートの打設直後から施工したプレキャストコンクリート部材の上方を開放することができる。そのため、例えばプレキャストコンクリート部材が道路橋や鉄道橋の床版であって、その床版を取り替える工事を行う場合には、打設した間詰めコンクリートが所定強度に硬化するまでの養生期間を待たずに済み、車両規制期間を短縮することができ、早いタイミングで交通を開放して供用することができる。
【0012】
また、間詰めコンクリートの打設工程は、蓋板の設置後の適宜なタイミングで打設することが可能となるので、例えば交通量の少ない夜間に打設することができ、打設施工箇所を限定して施工することも可能である。
【0013】
また、本発明に係るプレキャストコンクリート部材の接合構造は、前記プレキャストコンクリート部材の接合端部の上面には、前記プレキャストコンクリート部材の幅方向に沿って受け面を有する段部が形成され、前記段部の受け面に前記蓋板の接合方向の一方の端部が載置された状態で固定され、前記プレキャストコンクリート部材の上面と前記蓋板の上面とが面一となっていることが好ましい。
【0014】
この場合には、蓋板を段部の受け面に載置させることで所定位置に位置決めすることができ、ねじの締結がし易くなる。しかも、蓋板は、プレキャストコンクリート部材の上面と蓋板の上面同士が面一となった状態で設置されるので、段差が形成されることなくフラットな仕上がりとなる。
【0015】
また、本発明に係るプレキャストコンクリート部材の接合構造は、接合される前記プレキャストコンクリート部材の前記機械式定着部同士は、同軸線上に配置され、両端に拡幅部を有し、前記間詰め領域において軸方向を前記継手鉄筋の軸方向と平行に配置された接合鉄筋を備え、前記接合鉄筋は、前記プレキャストコンクリート部材の幅方向で前記機械式定着部同士の間に配置されていることを特徴としてもよい。
【0016】
この場合には、隣り合うプレキャストコンクリート部材の継手鉄筋の機械式定着部同士を同軸線上に配置するとともに、プレキャストコンクリート部材の幅方向で継手鉄筋同士の間に接合鉄筋を配置する構成とすることで、機械式定着部の長さを短くすることができる。つまり、本実施形態では、従来のように鉄筋継手同士の干渉を防ぐために幅方向に位置をずらして配置する必要がないことから、接合端面同士の間の間隔、すなわち間詰め領域の間隔を小さくすることができる。そのため、蓋板の大きさを小さくすることができ、作業効率を向上することができるうえ、間詰め領域に充填される間詰めコンクリートの充填量を減らすことが可能となることから、作業時間を短縮することができる。
【0017】
また、本発明に係るプレキャストコンクリート部材の接合構造は、接合される前記プレキャストコンクリート部材の前記機械式定着部は、前記プレキャストコンクリート部材の幅方向に沿って交互に配置されていることを特徴としてもよい。
【0018】
この場合には、接合する一方のプレキャストコンクリート部材の機械式定着部と、他方のプレキャストコンクリート部材の機械式定着部と、を幅方向に交互に配置し、間詰めコンクリートに埋設させる簡単な接合構造となる。そのため、接合端面同士をボルト接合するような手間のかかる作業が不要となるので、施工にかかる時間を短縮することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明のプレキャストコンクリート部材の接合構造、及びプレキャストコンクリート部材の施工方法によれば、簡単な作業により早期に交通の開放が可能な状態にできる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施形態による合成床版の接合構造を上方から見た一部破断した平面図である。
図2図1に示すA-A線断面図であって、合成床版の接合構造を示す縦断面図である。
図3図2の合成床版の接合構造の分解図である。
図4】合成床版の施工手順を示す図であって、(a)は上方から見た平面図、(b)は縦断面図である。
図5図4に続く施工手順を示す図であって、(a)は上方から見た平面図、(b)は縦断面図である。
図6図5に続く施工手順を示す図であって、(a)は上方から見た平面図、(b)は縦断面図である。
図7図6に続く施工手順を示す図であって、(a)は上方から見た平面図、(b)は縦断面図である。
図8図7に続く施工手順を示す図であって、(a)は上方から見た平面図、(b)は縦断面図である。
図9図8に続く施工手順を示す図であって、(a)は上方から見た平面図、(b)は縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態によるプレキャストコンクリート部材の接合構造、及びプレキャストコンクリート部材の施工方法について、図面に基づいて説明する。
【0022】
図1乃至図3に示すように、本実施形態によるプレキャストコンクリート部材(以下の説明では、単に「合成床版1(1A、1B)」という)の継手部2(接合構造)は、道路橋や鉄道橋のプレキャスト合成床版に適用されている。合成床版1A、1Bは、予め工場において、底鋼板13を型枠とし、その上方(内部)にコンクリート14を打設充填し、底鋼板13とコンクリート14を一体成形して構成されている。
【0023】
継手部2は、隣り合う合成床版1A、1Bの接合端面1a、1a同士を施工現場において接合するための接合構造である。
ここで、合成床版1及び継手部2において、合成床版1A、1Bが接合される方向を接合方向X1とし、平面視で接合方向X1に直交する方向を幅方向X2という。
【0024】
本実施形態における合成床版1A、1Bは、圧縮鉄筋として、先端部に拡幅部10aを有する継手鉄筋10が用いられ、この拡幅部10aを有する継手鉄筋10の先端部側を所定の長さで接合端面1a、1aから外側に突出して配置される機械式定着部10Aを形成している。
【0025】
合成床版1A、1Bの継手部2は、隣り合う合成床版1A、1Bの接合端面1a、1a同士の間に所定の間隔をあけた間詰め領域20に配置される。
継手部2は、上述した継手鉄筋10の機械式定着部10Aと、機械式定着部10Aを埋設するように互いに接合される合成床版1A、1Bの接合端面1a、1a同士の間の間詰め領域20に充填された間詰めコンクリート4と、接合される合成床版1A、1Bの接合端部同士を架け渡すようにそれぞれの合成床版1A、1Bの上面1b側にねじの締結により固定され、間詰め領域20の上方を覆う蓋板5と、を備えている。
【0026】
合成床版1A、1Bのそれぞれに設けられる継手鉄筋10は、接合端面1a、1aから突出する機械式定着部10Aが幅方向X2に沿って交互に配置されている。すなわち、接合される一方の合成床版1Aの接合端面1aから突出する幅方向X2に隣り合う機械式定着部10A、10A同士の間には、他方の合成床版1Bの接合端面1aから突出する機械式定着部10Aが配置されることになる。
【0027】
合成床版1A、1Bのコンクリート14内には、継手鉄筋10上において、軸方向を幅方向X2に向けた状態で接合方向X1に沿って複数の配筋15、15、…が配列されている。
【0028】
合成床版1A、1Bのコンクリート14の底面には、底鋼板13を接合端面1a、1aから突出させた状態で一体的に設けられている。底鋼板13の突出部分(張出し片部13a)には、後述する高力ボルト24が下方から挿通される不図示のボルト孔が形成されている。
すなわち、継手部2は、接合される合成床版1A、1Bを間詰め領域20を確保して配置し、隣り合う合成床版1A、1Bの底鋼板13における張出し片部13a、13a同士が、添接板21、ナット22、ワッシャ23、高力ボルト24を用いて接合された構成となっている。添接板21は、底鋼板13における張出し片部13a、13a同士を架け渡すように重ねて配設されている。なお、高力ボルト24としては、例えばトルシア形高力ボルト(日鉄ボルテン株式会社製)を採用することができる。
【0029】
合成床版1A、1Bの接合端面1a側の上面1bには、幅方向X2に沿って切り欠かれ受け面16aを有する段部16が形成されている。段部16には蓋板5の接合方向X1の端部5aが載置された状態で、固定ねじ50によって蓋板5が段部16に固定される。段部16の高さ寸法(受け面16aから合成床版1A、1Bの上面1bまでの高さ寸法)は、蓋板5の厚さ寸法と一致している。すなわち、段部16に固定された蓋板5の上面5bと、合成床版1A、1Bの上面1bとが面一となるように設定されている。受け面16aには、固定ねじ50が螺合される雌ねじ17が幅方向X2に間隔をあけて複数形成されている。
【0030】
接合端面1a,1a間の間詰め部20Aには、継手鉄筋10の機械式定着部10A及び接合鉄筋3の上に複数の補強鉄筋6、6、…が設けられている。補強鉄筋6は、長さ方向を幅方向X2に向けた状態で、機械式定着部10A及び接合鉄筋3の上側に、機械式定着部10A及び接合鉄筋3に交差する接合方向X1に沿って複数(2本)が配列されている。
【0031】
ここで、本実施形態では、拡幅部10aを有する継手鉄筋10として、拡幅部10aがT型に形成されたTヘッド工法鉄筋(登録商標、清水建設社製)を用いている。なお、継手鉄筋10として、上記Tヘッド工法鉄筋の他の鉄筋を採用することも可能である。
間詰めコンクリート4としては、合成床版1A、1Bと同等以上の圧縮強度を有するコンクリート又はモルタルが使用される。
【0032】
蓋板5は、板状をなし、接合方向X1の両端部5a、5aがそれぞれ間詰め領域20を挟んで配置された合成床版1A、1Bの段部16の受け面16a上に載置可能に設けられている。蓋板5は、ねじ孔51を有し、段部16の所定位置に載置した状態でねじ孔51と段部16の雌ねじ17とが同軸に配置されている。固定ねじ50によって蓋板5の上方からねじ孔51に挿通させて雌ねじ17に螺合させることで、蓋板5は間詰め領域20の上方を覆った状態で合成床版1A、1Bに固定される。
【0033】
蓋板5には、図1に示すように、合成床版1A、1Bに固定した状態で間詰め領域20に連通し、間詰めコンクリート4を打設するための打設孔52と、打設時に間詰め領域20内の空気を抜く空気孔53と、が設けられている。
蓋板5は、例えば人力で持ち運び可能に幅方向X2に複数に分割されている。
また、蓋板5は、間詰めコンクリート4の打設前に交通開放される際に、通行する車両の重量に応じた強度となる厚さ寸法に設定される。
【0034】
このように構成される合成床版1(1A、1B)の施工手順について、図面に基づいて説明する。
先ず、図4(a)、(b)に示すように、予め工場において底鋼板13とコンクリート14とが継手鉄筋10及び補強鉄筋6を埋設した状態で一体成形された合成床版1を製造する。そして、現地において、一方の合成床版1(ここでは符号1A)をクレーン等の揚重機械を使用して吊り降ろすことで所定位置(ここでは鉄骨梁7上)に配置する。次いで、図5(a)、(b)及び図6(a)、(b)に示すように、先行して配置した一方の合成床版1Aに対して間詰め領域20を確保した所定位置に、他方の合成床版1(ここでは符号1B)を鉄骨梁7上に配置する。なお、図5(a)、(b)は、他方の合成床版1Bを吊り降ろす途中の状態を示し、図6(a)、(b)は間詰め領域20を確保して合成床版1Bをセットした状態を示している。このとき、合成床版1A、1Bのそれぞれの機械式定着部10Aは、幅方向X2に沿って交互に配置されている。
【0035】
合成床版1A、1Bをセットした後、図7(a)、(b)に示すように、間詰め領域20において、隣り合う合成床版1A、1Bの底鋼板13の張出し片部13a、13a同士を向かい合わせた状態で一対の張出し片部13a、13aの上側に添接板21を配置するとともに、ナット22、ワッシャ23、高力ボルト24を用いて接合する。このとき、高力ボルト24は、張出し片部13aの下方から張出し片部13aに形成されるボルト孔に挿通される。
そして、継手鉄筋10の機械式定着部10Aの上に接するように幅方向X2に延びる補強鉄筋6を各2本ずつ配置する。
【0036】
次に、図8(a)、(b)に示すように、合成床版1A、1Bの接合端部に形成されている段部16の受け面16a同士を架け渡すように、蓋板5の両端部5a、5aを載置する。そして、蓋板5の上方から固定ねじ50をねじ孔51(図2及び図3参照)に挿通して合成床版1の雌ねじ17に螺合させて固定する。
これにより間詰め領域20の上方が蓋板5で覆われた状態、すなわち間詰め領域20の上下左右が壁面によって囲まれた閉鎖空間となる。また、蓋板5が固定された状態において、蓋板5の上面5bは、合成床版1A、1Bの上面1bと面一となる。
【0037】
蓋板5の設置後、図9(a)、(b)に示すように、蓋板5に形成されている打設孔52から間詰めコンクリート4を間詰め領域20内に打設する。コンクリート打設に伴い、間詰め領域20内の空気は蓋板5の空気孔53から排出される。このとき、間詰め領域20に充填された間詰めコンクリート4が硬化することで、間詰めコンクリート4と合成床版1A、1Bの接合端面1a、1a、機械式定着部10A、底鋼板13の張出し片部13aとが一体化されて間詰め部20Aが形成され、継手部2の施工が完了となる。
【0038】
次に、上述した合成床版1A、1Bの接合構造、及び合成床版1A、1Bの施工方法の作用について、図面に基づいて詳細に説明する。
本実施形態では、図1及び図2に示すように、間詰め領域20を確保した状態で接合する合成床版1A、1Bを所定位置に設置した後、それぞれの合成床版1A、1Bの接合端面1a、1a同士をボルト等で接合する作業を行うことなく、蓋板5を合成床版1A、1Bの接合端部同士を架け渡すように配置することができる。そして、蓋板5は固定ねじ50の締結により合成床版1A、1Bに固定され、固定後に蓋板5に設けられた打設孔52から間詰めコンクリート4を間詰め領域20内に打設することができる。そして、合成床版1A、1Bを配置した後は蓋板5を配置して固定ねじ50を締結するという簡単な作業となることから、作業効率を向上させることができ、施工にかかる時間を短縮することができる。
【0039】
このように本実施形態では、打設時の時点から間詰め領域20を覆うように蓋板5が設置されているので、間詰めコンクリート4の打設直後から施工した合成床版1A、1Bの上方を開放することができる。
そのため、本実施形態のように合成床版1A、1Bが道路橋や鉄道橋の床版であって、その合成床版1A、1Bの取り替え工事の場合には、打設した間詰めコンクリート4が所定強度に硬化する養生期間を待たずに済み、車両規制期間を短縮することができ、早いタイミングで交通を開放して供用することができる。
【0040】
また、図9(a)、(b)に示すような間詰めコンクリート4の打設工程は、蓋板5の設置後の適宜なタイミングで打設することが可能となるので、例えば交通量の少ない夜間に打設することができ、打設施工箇所を限定して施工することも可能である。
【0041】
また、本実施形態では、図2に示すように、合成床版1A、1Bの接合端部の上面1bに受け面16aを有する段部16が形成され、段部16の受け面16aに蓋板5の接合方向の一方の端部5aが載置された状態で固定されるので、蓋板5を段部16の受け面16aに載置させることで所定位置に位置決めすることができ、ねじの締結がし易くなる。
しかも、蓋板5は、合成床版1A、1Bの上面1bと蓋板5の上面5b同士が面一となった状態で設置されるので、段差が形成されることなくフラットな仕上がりとなる。
【0042】
また、本実施形態では、接合する一方の合成床版1Aの機械式定着部10Aと、他方の合成床版1Bの機械式定着部10Aとを幅方向X2に交互に配置し、間詰めコンクリート4に埋設させる簡単な接合構造となる。そのため、合成床版1の接合端面1a同士をボルト接合するような手間のかかる作業が不要となるので、施工にかかる時間を短縮することができる。
【0043】
上述のように本実施形態によるプレキャストコンクリート部材の接合構造、及びプレキャストコンクリート部材の施工方法では、簡単な作業により早期に交通の開放が可能な状態にできる。
【0044】
以上、本発明によるプレキャストコンクリート部材の接合構造、及びプレキャストコンクリート部材の施工方法の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0045】
例えば、本実施形態では、合成床版1の接合端部の上面1bに受け面16aを有する段部16が形成され、この段部16に蓋板5の端部5aを係合させた構成としているが、このような段部16を設けることに限定されることはなく、段部16を省略することも可能である。
また、段部16の高さと蓋板5との厚さが一致していなくてもよい。つまり、固定された蓋板5の上面5bと合成床版1の上面1bとが面一にならない構成であってもよい。
【0046】
さらに、段部16の受け面16aと蓋板5の端部5aとの間に緩衝材、或いは止水材等を介在させてもよい。
さらにまた、蓋板5の材質として金属製だけでなく、コンクリート製、樹脂製、ゴム製、或いはこれらを合成した部材であってもよい。
【0047】
また、合成床版1に対する蓋板5の固定手段として固定ねじ50を採用しているが、ボルトであってもよい。或いは、プレキャストコンクリート部材側から埋込みボルトを上方に突設させ、その埋込みボルトに蓋板5を挿通させてナットを締結することによる固定手段であってもよい。要は、蓋板5が簡単な固定手段であるねじの締結によってプレキャストコンクリート部材に固定される構成であればよいのである。
【0048】
また、継手鉄筋10の機械式定着部10Aの間詰め領域20内における配置構成として、本実施形態では合成床版1A,1Bのそれぞれの機械式定着部を幅方向に沿って交互に配置した構成としているが、他の構造を採用してもよい。
【0049】
例えば、他の継手構造として、接合されるプレキャストコンクリート部材の機械式定着部同士を同軸線上に配置し、両端に拡幅部を有し、間詰め領域において軸方向を継手鉄筋の軸方向と平行に配置し、接合鉄筋を備え、接合鉄筋は幅方向で機械式定着部同士の間に配置された構造であってもよい。接合鉄筋は、幅方向で機械式定着部同士の中間に配置されている。接合鉄筋は、接合端面同士の間隔よりも短い長さ寸法であり、両端部に継手鉄筋の拡幅部と同形状の拡幅部を有している。機械式定着部と接合鉄筋は、間詰め領域に間詰めコンクリートが充填された間詰め部において、厚さ方向で同じ高さの位置に設けられている。
【0050】
この場合には、隣り合うプレキャストコンクリート部材の継手鉄筋の機械式定着部同士を同軸線上に配置するとともに、プレキャストコンクリート部材の幅方向で継手鉄筋同士の間に接合鉄筋を配置する構成とすることで、機械式定着部の長さを短くすることができる。
つまり、従来のように鉄筋継手同士の干渉を防ぐために幅方向に位置をずらして配置する必要がないことから、接合端面同士の間の間隔、すなわち間詰め領域の間隔を小さくすることができる。そのため、蓋板の大きさを小さくすることができ、作業効率を向上することができるうえ、間詰め領域に充填される間詰めコンクリートの充填量を減らすことが可能となることから、作業時間を短縮することができる。
【0051】
また、補強鉄筋6の配置本数も適宜変更することが可能である。
【0052】
また、本実施形態では、継手鉄筋10及び上記接合鉄筋の鉄筋として、拡幅部10aがT型に形成されたTヘッド工法鉄筋(登録商標、清水建設社製)を用いているが、他形状の鉄筋を採用することも可能である。
【0053】
なお、プレキャストコンクリート部材として、本実施形態のような合成床版に限定されることはなく、底鋼板13を省略した鉄筋コンクリート造の床版を使用してもよい。
【0054】
また、本実施形態では、底鋼板13の張出し片部13a同士を添接板21を介して接合する際に、張出し片部13aの下方から高力ボルト24を挿通させ、添接板21の上からナット22で締め付けて固定しているが、これに限定されず、上から高力ボルト24を挿通させるようにしてもよい。例えば、添接板21のボルト孔の直上に鉄筋が配設される状態において、底鋼板13の張出し片部13aの下方から高力ボルト24を挿通して添接板21の上からナット22で締め付けることが困難となる場合がある。このような場合には、高力ボルト24を添接板21の上から挿入して張出し片部13aの下方でナット22を締め付けるようにしてもよい。
【0055】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能である。
【符号の説明】
【0056】
1、1A、1B 合成床版(プレキャストコンクリート部材)
1a 接合端面
1b 上面
2 継手部
4 間詰めコンクリート
5 蓋板
5a 端部
5b 上面
6 補強鉄筋
10 継手鉄筋
10A 機械式定着部
10a 拡幅部
16 段部
16a 受け面
17 雌ねじ
20 間詰め領域
20A 間詰め部
50 固定ねじ
51 ねじ孔
52 打設孔
53 空気孔
X1 接合方向
X2 幅方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9