(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022117120
(43)【公開日】2022-08-10
(54)【発明の名称】半導体レーザ素子及びレーザモジュール
(51)【国際特許分類】
H01S 5/026 20060101AFI20220803BHJP
H01S 5/022 20210101ALI20220803BHJP
【FI】
H01S5/026 610
H01S5/022
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021013640
(22)【出願日】2021-01-29
(71)【出願人】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100177910
【弁理士】
【氏名又は名称】木津 正晴
(72)【発明者】
【氏名】鳥井 康介
(72)【発明者】
【氏名】金子 喬吾
【テーマコード(参考)】
5F173
【Fターム(参考)】
5F173AD05
5F173AD10
5F173AF52
5F173AH03
5F173AR01
5F173MC12
5F173MC13
5F173MD07
5F173MD09
5F173MD84
(57)【要約】 (修正有)
【課題】出力光遠視野パターンにおける乱れを抑制。
【解決手段】半導体レーザ素子1は、第1エミッタ31と、第2エミッタ51と、を備える。第1エミッタ31の厚さは、式(1),(2)で表される指標DB1,DB2の平均値が5%以下となるように、第2エミッタ51の厚さから異なっている。
F
1(θ)は第1エミッタのみの遠視野パターンであり、F
2(θ)は第2エミッタのみの遠視野パターンである。F
01(θ)は、第1及び第2エミッタから出射される光が有する、基底モードに対応する2つのモードの一方の遠視野パターンであり、F
02(θ)は他方の遠視野パターンである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1素子部と、
積層方向に沿って前記第1素子部上に積層された第2素子部と、を備え、
前記第1素子部は、
第1活性層、及び前記第1活性層を挟む一対の第1ガイド層を含み、光軸方向に沿って光を出射する第1エミッタと、
前記一対の第1ガイド層を挟む一対の第1クラッド層と、を有し、
前記第2素子部は、
第2活性層、及び前記第2活性層を挟む一対の第2ガイド層を含み、前記光軸方向に沿って光を出射する第2エミッタと、
前記一対の第2ガイド層を挟む一対の第2クラッド層と、を有し、
前記第1エミッタの厚さは、式(1)で表される指標DB1と式(2)で表される指標DB2の平均値が5%以下となるように、前記第2エミッタの厚さから異なっている、半導体レーザ素子。
【数1】
【数2】
前記式(1)及び前記式(2)において、θは、前記光軸方向に対する角度であり、F
1(θ)、F
2(θ)、F
01(θ)及びF
02(θ)は、規格化された前記積層方向における遠視野パターンであり、F
1(θ)は、前記第2エミッタが存在せずに前記第1エミッタのみが存在すると仮定した場合に前記第1エミッタから出射される光の前記遠視野パターンであり、F
2(θ)は、前記第1エミッタが存在せずに前記第2エミッタのみが存在すると仮定した場合に前記第2エミッタから出射される光の前記遠視野パターンであり、
前記第1エミッタ及び前記第2エミッタのみが存在する場合に前記第1エミッタ及び前記第2エミッタから出射される光が有する、基底モードに対応する2つのモードのうち、伝搬定数が小さい前記モードを第1モードとし、伝搬定数が大きい前記モードを第2モードとすると、
前記第1エミッタの厚さが前記第2エミッタの厚さよりも薄い場合、F
01(θ)は前記第1モードの前記遠視野パターンであり、F
02(θ)は前記第2モードの前記遠視野パターンであり、
前記第1エミッタの厚さが前記第2エミッタの厚さよりも厚い場合、F
01(θ)は前記第2モードの前記遠視野パターンであり、F
02(θ)は前記第1モードの前記遠視野パターンである。
【請求項2】
前記第1エミッタの厚さは、前記指標DB1と前記指標DB2の平均値が3%以下となるように、前記第2エミッタの厚さから異なっている、請求項1に記載の半導体レーザ素子。
【請求項3】
前記第1エミッタの厚さは、前記指標DB1と前記指標DB2の平均値が1%以下となるように、前記第2エミッタの厚さから異なっている、請求項1に記載の半導体レーザ素子。
【請求項4】
前記一対の第1ガイド層の総厚が前記一対の第2ガイド層の総厚から異なっていることにより、前記第1エミッタの厚さが前記第2エミッタの厚さから異なっている、請求項1~3のいずれか一項に記載の半導体レーザ素子。
【請求項5】
前記第1エミッタの厚さは、式(3)で表される指標Pが25以上となるように、前記第2エミッタの厚さから異なっている、請求項1~4のいずれか一項に記載の半導体レーザ素子。
【数3】
前記式(3)において、β
1は、前記第1エミッタの伝搬定数であり、β
2は、前記第2エミッタの伝搬定数であり、K
12は、前記第1エミッタ及び前記第2エミッタの各々の厚さが前記第1エミッタ及び前記第2エミッタの厚さの平均値に等しいと仮定した場合の前記第1エミッタと前記第2エミッタとの間の結合定数である。
【請求項6】
前記第1エミッタの厚さは、前記指標Pが40以上となるように、前記第2エミッタの厚さから異なっている、請求項5に記載の半導体レーザ素子。
【請求項7】
前記第1エミッタの厚さは、前記指標Pが125以上となるように、前記第2エミッタの厚さから異なっている、請求項5に記載の半導体レーザ素子。
【請求項8】
前記第1エミッタの厚さと前記第1エミッタ及び前記第2エミッタの厚さの平均値との間の絶対差は、前記平均値の10%以下である、請求項1~7のいずれか一項に記載の半導体レーザ素子。
【請求項9】
前記積層方向に沿って前記第2素子部上に積層された第3素子部を更に備え、
前記第3素子部は、
第3活性層、及び前記第3活性層を挟む一対の第3ガイド層を含み、前記光軸方向に沿って光を出射する第3エミッタと、
前記一対の第3ガイド層を挟む一対の第3クラッド層と、を有し、
前記第3エミッタの厚さは、式(4)で表される指標DB3と式(5)で表される指標DB4の平均値が5%以下となるように、前記第2エミッタの厚さから異なっている、請求項1~8のいずれか一項に記載の半導体レーザ素子。
【数4】
【数5】
前記式(4)及び前記式(5)において、F
3(θ)は、前記第1エミッタ及び前記第2エミッタが存在せずに前記第3エミッタのみが存在すると仮定した場合に前記第3エミッタから出射される光の前記遠視野パターンであり、F
4(θ)は、前記第1エミッタ及び前記第3エミッタが存在せずに前記第2エミッタのみが存在すると仮定した場合に前記第2エミッタから出射される光の前記遠視野パターンであり、
前記第1エミッタが存在せずに前記第2エミッタ及び前記第3エミッタのみが存在する場合に前記第2エミッタ及び前記第3エミッタから出射される光が有する、基底モードに対応する2つのモードのうち、伝搬定数が小さい前記モードを第3モードとし、伝搬定数が大きい前記モードを第4モードとすると、
前記第3エミッタの厚さが前記第2エミッタの厚さよりも薄い場合、F
03(θ)は前記第3モードの前記遠視野パターンであり、F
04(θ)は前記第4モードの前記遠視野パターンであり、
前記第3エミッタの厚さが前記第2エミッタの厚さよりも厚い場合、F
03(θ)は前記第4モードの前記遠視野パターンであり、F
04(θ)は前記第3モードの前記遠視野パターンである。
【請求項10】
基板を更に備え、
前記第1エミッタ及び前記第2エミッタは、前記第1エミッタが前記第2エミッタよりも前記基板に近い第1側に位置するように前記基板上に積層されており、
前記第1エミッタの厚さは、前記第2エミッタの厚さよりも薄い、請求項1~9のいずれか一項に記載の半導体レーザ素子。
【請求項11】
請求項10に記載の半導体レーザ素子と、
前記半導体レーザ素子が実装されるマウント部材と、を備え、
前記半導体レーザ素子は、前記第1側とは反対側の第2側において前記マウント部材に固定されており、
前記マウント部材の熱膨張係数は、前記基板の熱膨張係数よりも小さい、レーザモジュール。
【請求項12】
請求項1~9のいずれか一項に記載の半導体レーザ素子と、
前記半導体レーザ素子が実装されるマウント部材と、を備え、
前記半導体レーザ素子は、基板を更に備え、
前記第1エミッタ及び前記第2エミッタは、前記第1エミッタが前記第2エミッタよりも前記基板に近い第1側に位置するように前記基板上に積層されており、
前記半導体レーザ素子は、前記第1側とは反対側の第2側において前記マウント部材に固定されており、
前記マウント部材の熱膨張係数は、前記基板の熱膨張係数よりも大きく、
前記第1エミッタの厚さは、前記第2エミッタの厚さよりも厚い、レーザモジュール。
【請求項13】
第1素子部と、
積層方向に沿って前記第1素子部上に積層された第2素子部と、を備え、
前記第1素子部は、
第1活性層、及び前記第1活性層を挟む一対の第1ガイド層を含み、光軸方向に沿って光を出射する第1エミッタと、
前記一対の第1ガイド層を挟む一対の第1クラッド層と、を有し、
前記第2素子部は、
積層方向に沿って前記第1エミッタ上に積層され、第2活性層、及び前記第2活性層を挟む一対の第2ガイド層を含み、前記光軸方向に沿って光を出射する第2エミッタと、
前記一対の第2ガイド層を挟む一対の第2クラッド層と、を有し、
前記第1エミッタの厚さは、式(6)で表される指標Pが25以上となるように、前記第2エミッタの厚さから異なっている、半導体レーザ素子。
【数6】
前記式(6)において、β
1は、前記第1エミッタの伝搬定数であり、β
2は、前記第2エミッタの伝搬定数であり、K
12は、前記第1エミッタ及び前記第2エミッタの各々の厚さが前記第1エミッタ及び前記第2エミッタの厚さの平均値に等しいと仮定した場合の前記第1エミッタと前記第2エミッタとの間の結合定数である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体レーザ素子及びレーザモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体レーザ素子として、各々が活性層を含む複数のエミッタ(発光部)が積層方向に沿って積層されたものが知られている(例えば特許文献1参照)。このような半導体レーザ素子では、複数のエミッタからの光を出力光として利用することができ、高出力化を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したような半導体レーザ素子では、複数のエミッタからの光が干渉することで、積層方向における出力光の遠視野パターンに乱れが生じる場合がある。このような乱れは、出力光における空間的なムラ、光学設計からのずれ等の原因となり得るため、抑制することが求められる。
【0005】
本発明は、出力光の遠視野パターンにおける乱れを抑制することができる半導体レーザ素子及びレーザモジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の半導体レーザ素子は、第1素子部と、積層方向に沿って第1素子部上に積層された第2素子部と、を備え、第1素子部は、第1活性層、及び第1活性層を挟む一対の第1ガイド層を含み、光軸方向に沿って光を出射する第1エミッタと、一対の第1ガイド層を挟む一対の第1クラッド層と、を有し、第2素子部は、第2活性層、及び第2活性層を挟む一対の第2ガイド層を含み、光軸方向に沿って光を出射する第2エミッタと、一対の第2ガイド層を挟む一対の第2クラッド層と、を有し、第1エミッタの厚さは、式(1)で表される指標DB1と式(2)で表される指標DB2の平均値が5%以下となるように、第2エミッタの厚さから異なっている、半導体レーザ素子。
【数1】
【数2】
式(1)及び式(2)において、θは、光軸方向に対する角度であり、F
1(θ)、F
2(θ)、F
01(θ)及びF
02(θ)は、規格化された積層方向における遠視野パターンであり、F
1(θ)は、第2エミッタが存在せずに第1エミッタのみが存在すると仮定した場合に第1エミッタから出射される光の遠視野パターンであり、F
2(θ)は、第1エミッタが存在せずに第2エミッタのみが存在すると仮定した場合に第2エミッタから出射される光の遠視野パターンであり、第1エミッタ及び第2エミッタのみが存在する場合に第1エミッタ及び第2エミッタから出射される光が有する、基底モードに対応する2つのモードのうち、伝搬定数が小さいモードを第1モードとし、伝搬定数が大きいモードを第2モードとすると、第1エミッタの厚さが第2エミッタの厚さよりも薄い場合、F
01(θ)は第1モードの遠視野パターンであり、F
02(θ)は第2モードの遠視野パターンであり、第1エミッタの厚さが第2エミッタの厚さよりも厚い場合、F
01(θ)は第2モードの遠視野パターンであり、F
02(θ)は第1モードの遠視野パターンである。
【0007】
この半導体レーザ素子では、第1エミッタの厚さが、指標DB1と指標DB2の平均値が5%以下となるように、第2エミッタの厚さから異なっている。これにより、第1エミッタ及び第2エミッタから出射される光の干渉を抑制することができ、出力光の遠視野パターンに乱れが生じることを抑制することができる。
【0008】
第1エミッタの厚さは、指標DB1と指標DB2の平均値が3%以下となるように、第2エミッタの厚さから異なっていてもよい。この場合、第1エミッタ及び第2エミッタから出射される光の干渉を効果的に抑制することができる。
【0009】
第1エミッタの厚さは、指標DB1と指標DB2の平均値が1%以下となるように、第2エミッタの厚さから異なっていてもよい。この場合、第1エミッタ及び第2エミッタから出射される光の干渉を一層効果的に抑制することができる。
【0010】
一対の第1ガイド層の総厚が一対の第2ガイド層の総厚から異なっていることにより、第1エミッタの厚さが第2エミッタの厚さから異なっていてもよい。この場合、第1活性層及び第2活性層の厚さの設計自由度を高めることができ、例えば、第1活性層及び第2活性層の厚さを互いに等しくすることができる。
【0011】
第1エミッタの厚さは、式(3)で表される指標Pが25以上となるように、第2エミッタの厚さから異なっていてもよい。この場合、第1エミッタ及び第2エミッタから出射される光の干渉を抑制することができる。
【数3】
式(3)において、β
1は、第1エミッタの伝搬定数であり、β
2は、第2エミッタの伝搬定数であり、K
12は、第1エミッタ及び第2エミッタの各々の厚さが第1エミッタ及び第2エミッタの厚さの平均値に等しいと仮定した場合の第1エミッタと第2エミッタとの間の結合定数である。
【0012】
第1エミッタの厚さは、指標Pが40以上となるように、第2エミッタの厚さから異なっていてもよい。この場合、第1エミッタ及び第2エミッタから出射される光の干渉を効果的に抑制することができる。
【0013】
第1エミッタの厚さは、指標Pが125以上となるように、第2エミッタの厚さから異なっていてもよい。この場合、第1エミッタ及び第2エミッタから出射される光の干渉を一層効果的に抑制することができる。
【0014】
第1エミッタの厚さと第1エミッタ及び第2エミッタの厚さの平均値との間の絶対差は、当該平均値の10%以下であってもよい。この場合、第1エミッタと第2エミッタとの間の厚さの差が過大となることにより出力光の品質が低下する事態を抑制することができる。
【0015】
本発明の半導体レーザ素子は、積層方向に沿って第2素子部上に積層された第3素子部を更に備え、第3素子部は、第3活性層、及び第3活性層を挟む一対の第3ガイド層を含み、光軸方向に沿って光を出射する第3エミッタと、一対の第3ガイド層を挟む一対の第3クラッド層と、を有し、第3エミッタの厚さは、式(4)で表される指標DB3と式(5)で表される指標DB4の平均値が5%以下となるように、第2エミッタの厚さから異なっていてもよい。この場合、第2エミッタ及び第3エミッタから出射される光の干渉を抑制することができる。
【数4】
【数5】
式(4)及び式(5)において、F
3(θ)は、第1エミッタ及び第2エミッタが存在せずに第3エミッタのみが存在すると仮定した場合に第3エミッタから出射される光の遠視野パターンであり、F
4(θ)は、第1エミッタ及び第3エミッタが存在せずに第2エミッタのみが存在すると仮定した場合に第2エミッタから出射される光の遠視野パターンであり、第1エミッタが存在せずに第2エミッタ及び第3エミッタのみが存在する場合に第2エミッタ及び第3エミッタから出射される光が有する、基底モードに対応する2つのモードのうち、伝搬定数が小さいモードを第3モードとし、伝搬定数が大きいモードを第4モードとすると、第3エミッタの厚さが第2エミッタの厚さよりも薄い場合、F
03(θ)は第3モードの遠視野パターンであり、F
04(θ)は第4モードの遠視野パターンであり、第3エミッタの厚さが第2エミッタの厚さよりも厚い場合、F
03(θ)は第4モードの遠視野パターンであり、F
04(θ)は第3モードの遠視野パターンである。
【0016】
本発明の半導体レーザ素子は、基板を更に備え、第1エミッタ及び第2エミッタは、第1エミッタが第2エミッタよりも基板に近い第1側に位置するように基板上に積層されており、第1エミッタの厚さは、第2エミッタの厚さよりも薄くてもよい。この場合、基板から作用する力によって第1エミッタ及び第2エミッタに生じる歪みの影響に起因して上述した光の干渉抑制効果が損なわれる事態を回避することができる。本発明のレーザモジュールは、当該半導体レーザ素子と、半導体レーザ素子が実装されるマウント部材と、を備え、半導体レーザ素子は、第1側とは反対側の第2側においてマウント部材に固定されており、マウント部材の熱膨張係数は、基板の熱膨張係数よりも小さい。このレーザモジュールでは、基板及びマウント部材から作用する力によって第1エミッタ及び第2エミッタに生じる歪みの影響に起因して上述した光の干渉抑制効果が損なわれる事態を回避することができる。
【0017】
本発明のレーザモジュールは、上記半導体レーザ素子と、半導体レーザ素子が実装されるマウント部材と、を備え、半導体レーザ素子は、基板を更に備え、第1エミッタ及び第2エミッタは、第1エミッタが第2エミッタよりも基板に近い第1側に位置するように基板上に積層されており、半導体レーザ素子は、第1側とは反対側の第2側においてマウント部材に固定されており、マウント部材の熱膨張係数は、基板の熱膨張係数よりも大きく、第1エミッタの厚さは、第2エミッタの厚さよりも厚い。このレーザモジュールでは、基板及びマウント部材から作用する力によって第1エミッタ及び第2エミッタに生じる歪みの影響に起因して上述した光の干渉抑制効果が損なわれる事態を回避することができる。
【0018】
本発明の半導体レーザ素子は、第1素子部と、積層方向に沿って第1素子部上に積層された第2素子部と、を備え、第1素子部は、第1活性層、及び第1活性層を挟む一対の第1ガイド層を含み、光軸方向に沿って光を出射する第1エミッタと、一対の第1ガイド層を挟む一対の第1クラッド層と、を有し、第2素子部は、積層方向に沿って第1エミッタ上に積層され、第2活性層、及び第2活性層を挟む一対の第2ガイド層を含み、光軸方向に沿って光を出射する第2エミッタと、一対の第2ガイド層を挟む一対の第2クラッド層と、を有し、第1エミッタの厚さは、式(6)で表される指標Pが25以上となるように、第2エミッタの厚さから異なっている。
【数6】
式(6)において、β
1は、第1エミッタの伝搬定であり、β
2は、第2エミッタの伝搬定数であり、K
12は、第1エミッタ及び第2エミッタの各々の厚さが第1エミッタ及び第2エミッタの厚さの平均値に等しいと仮定した場合の第1エミッタと第2エミッタとの間の結合定数である。
【0019】
この半導体レーザ素子では、第1エミッタの厚さが、指標Pが25以上となるように、第2エミッタの厚さから異なっている。これにより、第1エミッタ及び第2エミッタから出射される光の干渉を抑制することができ、出力光の遠視野パターンに乱れが生じることを抑制することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、出力光の遠視野パターンにおける乱れを抑制することができる半導体レーザ素子及びレーザモジュールを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】実施形態に係る半導体レーザ素子の断面図である。
【
図2】(a)は、比較例に係る半導体レーザ素子の出力光の遠視野パターンを示すグラフであり、(b)は、実施形態に係る半導体レーザ素子の出力光の遠視野パターンを示すグラフである。
【
図3】(a)及び(b)は、指標DBaに対する遠視野パターンの変化の計算例を示すグラフである。
【
図4】指標Pと指標DBaとの関係を示すグラフである。
【
図5】簡略化された半導体レーザ素子の断面図である。
【
図6】変形例に係る半導体レーザ素子の断面図である。
【
図7】半導体レーザ素子の実装状態を示す図である。
【
図8】半導体レーザ素子の実装状態の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の説明において、同一又は相当要素には同一符号を用い、重複する説明を省略する。
【0023】
図1に示されるように、半導体レーザ素子1は、基板2と、第1素子部3と、第1トンネル接合層4と、第2素子部5と、第2トンネル接合層6と、第3素子部7と、キャップ層8と、を備えている。第1素子部3、第1トンネル接合層4、第2素子部5、第2トンネル接合層6、第3素子部7及びキャップ層8は、積層方向D2(基板2の厚さ方向)に沿って基板2上にこの順に積層されている。これらの各層は、エピタキシャル成長法により基板2上に形成され得る。
【0024】
半導体レーザ素子1は、積層方向D2に垂直な光軸方向D1(基板2の長さ方向)における一方の端面から光軸方向D1に沿って出力光L0を出射する端面出射型のレーザダイオードである。半導体レーザ素子1は、各々が活性層を含む複数のエミッタ(第1エミッタ31、第2エミッタ51及び第3エミッタ71)がトンネルジャンクション(第1トンネル接合層4及び第2トンネル接合層6)を介して積層されたマルチジャンクション型(スタック型)に構成されている。半導体レーザ素子1は、比較的高いパルス出力が求められるフラッシュLiDAR(Light Detection and Ranging)等に用いられ得る。
【0025】
基板2は、n型GaAsからなる半導体基板である。第1素子部3は、第1エミッタ31と、一対の第1クラッド層35,36と、を有している。第1エミッタ31は、第1活性層32と、一対の第1ガイド層33,34と、を含んでいる。第1ガイド層33,34は、積層方向D2において第1活性層32を挟んでいる。第1クラッド層35,36は、積層方向D2において第1活性層32及び第1ガイド層33,34を挟んでいる。第1クラッド層35、第1ガイド層33、第1活性層32、第1ガイド層34及び第1クラッド層36は、基板2上にこの順に積層されている。第1クラッド層35と基板2の間には、バッファ層が設けられている。
【0026】
第1活性層32は、障壁層と、積層方向D2において障壁層を挟む一対の量子井戸層と、を含み、二重量子井戸構造を有している。障壁層は、Al0.28GaAsからなり、5nmの厚さを有する。各量子井戸層は、In0.1Al0.049GaAsからなり、8nmの厚さを有する。
【0027】
第1ガイド層33,34の各々は、Al0.28GaAsからなり、(70-d)nmの厚さを有する。この例では、d=4であり、第1ガイド層33,34は66nmの厚さを有する。すなわち、第1ガイド層33,34の総厚は132nmであり、第1エミッタ31は153nmの厚さを有する。第1ガイド層33,34の屈折率は、第1活性層32の屈折率よりも低く、第1クラッド層35,36の屈折率よりも高い。第1クラッド層35は、n型Al0.37GaAsからなり、1600nmの厚さを有する。第1クラッド層36は、p型Al0.37GaAsからなり、2000nmの厚さを有する。第1トンネル接合層4は、GaAsからなり、225nmの厚さを有する。
【0028】
第2素子部5は、第1トンネル接合層4を介して第1素子部3上に積層されている。第2素子部5は、第2エミッタ51と、一対の第2クラッド層55,56と、を有している。第2エミッタ51は、第2活性層52と、一対の第2ガイド層53,54と、を含んでいる。第2ガイド層53,54は、積層方向D2において第2活性層52を挟んでいる。第2クラッド層55,56は、積層方向D2において第2活性層52及び第2ガイド層53,54を挟んでいる。第2クラッド層55、第2ガイド層53、第2活性層52、第2ガイド層54及び第2クラッド層56は、第1トンネル接合層4上にこの順に積層されている。すなわち、第2エミッタ51は、第1クラッド層36、第1トンネル接合層4、第2クラッド層55を介して第1エミッタ31上に積層されている。
【0029】
第2活性層52は、第1活性層32と同一の構成を有している。すなわち、第2活性層52は、障壁層と、積層方向D2において障壁層を挟む一対の量子井戸層と、を含み、二重量子井戸構造を有している。障壁層は、Al0.28GaAsからなり、5nmの厚さを有する。各量子井戸層は、In0.1Al0.049GaAsからなり、8nmの厚さを有する。第2活性層52の厚さは、第1活性層32の厚さと等しい。
【0030】
第2ガイド層53,54の各々は、Al0.28GaAsからなり、70nmの厚さを有する。すなわち、第2ガイド層53,54の総厚は140nmであり、第2エミッタ51は161nmの厚さを有する。第2ガイド層53,54の屈折率は、第2活性層52の屈折率よりも低く、第2クラッド層55,56の屈折率よりも高い。第2クラッド層55は、n型Al0.37GaAsからなり、2000nmの厚さを有する。第2クラッド層56は、p型Al0.37GaAsからなり、2000nmの厚さを有する。第2トンネル接合層6は、GaAsからなり、225nmの厚さを有する。
【0031】
第3素子部7は、第2トンネル接合層6を介して第2素子部5上に積層されている。第3素子部7は、第3エミッタ71と、一対の第3クラッド層75,76と、を有している。第3エミッタ71は、第3活性層72と、一対の第3ガイド層73,74と、を含んでいる。第3ガイド層73,74は、積層方向D2において第3活性層72を挟んでいる。第3クラッド層75,76は、積層方向D2において第3活性層72及び第3ガイド層74,74を挟んでいる。第3クラッド層75、第3ガイド層73、第3活性層72、第3ガイド層74及び第3クラッド層76は、第2トンネル接合層6上にこの順に積層されている。すなわち、第3エミッタ71は、第2クラッド層56、第2トンネル接合層6、第3クラッド層75を介して第2エミッタ51上に積層されている。
【0032】
第3活性層72は、第1活性層32及び第2活性層52と同一の構成を有している。すなわち、第3活性層72は、障壁層と、積層方向D2において障壁層を挟む一対の量子井戸層と、を含み、二重量子井戸構造を有している。障壁層は、Al0.28GaAsからなり、5nmの厚さを有する。各量子井戸層は、In0.1Al0.049GaAsからなり、8nmの厚さを有する。第3活性層72の厚さは、第1活性層32及び第2活性層52の厚さと等しい。
【0033】
第3ガイド層73,74の各々は、Al0.28GaAsからなり、(70+d)nmの厚さを有する。この例では、d=4であり、第3ガイド層73,74は74nmの厚さを有する。すなわち、第3ガイド層73,74の総厚は148nmであり、第3エミッタ71は169nmの厚さを有する。第3ガイド層73,74の屈折率は、第3活性層72の屈折率よりも低く、第3クラッド層75,76の屈折率よりも高い。第3クラッド層75は、n型Al0.37GaAsからなり、2000nmの厚さを有する。第3クラッド層76は、p型Al0.37GaAsからなり、2000nmの厚さを有する。キャップ層8は、n型GaAsからなり、200nmの厚さを有する。
【0034】
半導体レーザ素子1の動作時には、例えば、基板2における第1素子部3とは反対側の表面上、及びキャップ層8上に設けられた電極間に電圧が印加される。これにより、第1活性層32、第2活性層52及び第3活性層72において光が発生する。第1活性層32において発生した光は、第1エミッタ31(第1活性層32及び第1ガイド層33,34)内に閉じ込められ、また、光軸方向D1における第1エミッタ31の両端面で反射されて両端面間を往復しつつ増幅され、一方の端面からレーザ光L1として光軸方向D1に沿って出射される。同様に、第2エミッタ51及び第3エミッタ71からレーザ光L2,L3が光軸方向D1に沿って出力される。レーザ光L1,L2,L3により半導体レーザ素子1の出力光L0が構成される。この例では、レーザ光L1,L2,L3の発振波長は905nmである。このように、第1エミッタ31、第2エミッタ51及び第3エミッタ71は、同一の波長域の光を出力する。
【0035】
以上説明したように、半導体レーザ素子1では、第1エミッタ31、第2エミッタ51及び第3エミッタ71の厚さがそれぞれ153nm,161nm,169nmであり、第1エミッタ31の厚さが第2エミッタ51の厚さから異なっていると共に、第3エミッタ71の厚さが第2エミッタ51の厚さから異なっている。より具体的には、第1ガイド層33,34の総厚(132nm)が第2ガイド層53,54の総厚(140nm)から異なっていることにより、第1エミッタ31の厚さが第2エミッタ51の厚さから異なっている。また、第3ガイド層73,74の総厚(148nm)が第2ガイド層53,54の総厚(140nm)から異なっていることにより、第3エミッタ71の厚さが第2エミッタ51の厚さから異なっている。これにより、第1エミッタ31、第2エミッタ51及び第3エミッタ71から出射されるレーザ光L1,L2,L3の干渉を抑制することができ、出力光L0の遠視野パターンに乱れが生じることを抑制することができる。以下、この点について更に説明する。
【0036】
図2(a)は、比較例に係る半導体レーザ素子の出力光の遠視野パターン(FFP:Far Field Pattern)を示すグラフであり、
図2(b)は、実施形態に係る半導体レーザ素子1の出力光の遠視野パターンを示すグラフである。
図2(a)及び
図2(b)では、積層方向D2(結晶成長方向)における遠視野パターンの実測データが示されている。角度θは、積層方向D2における光軸方向D1に対する角度である。遠視野パターンとは、光出射面から十分に遠い位置における光強度分布である。比較例に係る半導体レーザ素子は、第1ガイド層33,34及び第3ガイド層73,74の厚さが第2ガイド層53,54の厚さと等しい点のみにおいて半導体レーザ素子1と異なる。すなわち、比較例に係る半導体レーザ素子は、半導体レーザ素子1においてパラメータdを0とした場合に相当する。
【0037】
図2(a)及び
図2(b)に示されるように、比較例では遠視野パターンに乱れ(凹凸)が生じていたのに対し、実施形態に係る半導体レーザ素子1ではそのような乱れが生じていなかった。これは、比較例では第1エミッタ31、第2エミッタ51及び第3エミッタ71からのレーザ光L1,L2,L3の干渉によりうなりが生じていたのに対し、実施形態に係る半導体レーザ素子1では、レーザ光L1,L2,L3の干渉が抑制されたためであると考えられる。このことから、第1エミッタ31、第2エミッタ51及び第3エミッタ71の厚さを互いに異ならせることで、レーザ光L1,L2,L3の干渉を抑制することができ、出力光L0の遠視野パターンに乱れが生じることを抑制できることが分かる。
【0038】
レーザ光L1,L2,L3の干渉を抑制するために第1エミッタ31、第2エミッタ51及び第3エミッタ71の厚さをどのように設定すればよいかについて説明する。以下では、第1エミッタ31及び第2エミッタ51からのレーザ光L1,L2の干渉が出力光L0の遠視野パターンに与える影響に着目する。
【0039】
式(7)で表される指標DB1と式(8)で表される指標DB2の平均値を指標DBaとする。すなわち、DBa=(DB1+DB2)/2である。指標DBaは、出力光L0の遠視野パターンにより囲まれる面積のうち、どの程度の割合が干渉により変調されているかを表す。
【数7】
【数8】
【0040】
式(7)及び式(8)において、θは、光軸方向D1に対する角度である。積分範囲は放射角(照射角)の全範囲であり、例えば-90°から+90°までである。F1(θ),F2(θ),F01(θ)及びF02(θ)は、規格化された積層方向D2における遠視野パターンであり、いずれも、積層方向D2における放射角の全範囲についての積分値が1となるように規格化されている。F1(θ)は、第2エミッタ51及び第3エミッタ71(第1エミッタ31以外のエミッタ)が存在せずに第1エミッタ31のみが単独で存在すると仮定した場合に第1エミッタ31から出射されるレーザ光L1の遠視野パターンである。F2(θ)は、第1エミッタ31及び第3エミッタ71(第2エミッタ51以外のエミッタ)が存在せずに第2エミッタ51のみが単独で存在すると仮定した場合に第2エミッタ51から出射されるレーザ光L2の遠視野パターンである。
【0041】
第3エミッタ71が存在せずに第1エミッタ31及び第2エミッタ51のみが存在する場合に第1エミッタ31及び第2エミッタ51から出射される光(出力光L0)が有する、基底モードに対応する2つのモードのうち、伝搬定数が小さいモードを第1モードとし、伝搬定数が大きいモードを第2モードとする。第1エミッタ31の厚さが第2エミッタ51の厚さよりも薄い場合、F01(θ)は第1モードの遠視野パターンであり、F02(θ)は第2モードの遠視野パターンである。第1エミッタ31の厚さが第2エミッタ51の厚さよりも厚い場合、F01(θ)は第2モードの遠視野パターンであり、F02(θ)は第1モードの遠視野パターンである。
【0042】
すなわち、第1エミッタ31及び第2エミッタ51の2つのエミッタのみが存在する場合、出力光L0は、基底モードとして2つのモードを有する。これらの2つのモードのうち、伝搬定数が小さいモードを第1モードとし、伝搬定数が大きいモードを第2モードとする。半導体レーザ素子1では、第1エミッタ31の厚さが第2エミッタ51の厚さよりも薄い。そのため、F01(θ)は第1モードの遠視野パターンであり、F02(θ)は第2モードの遠視野パターンである。後述する変形例のように第1エミッタ31の厚さが第2エミッタ51の厚さよりも厚い場合、F01(θ)は第2モードの遠視野パターンであり、F02(θ)は第1モードの遠視野パターンである。以下、遠視野パターンF1(θ),F2(θ),F01(θ),F02(θ)等における(θ)の記載を適宜省略する。
【0043】
このように第1エミッタ31及び第2エミッタ51の厚さの大小関係に応じて比較対象の遠視野パターンを変更する理由は、次のとおりである。第1エミッタ31及び第2エミッタ51の厚さが異なる場合、第1エミッタ31及び第2エミッタ51の各々が単独で存在する場合の遠視野パターンは、互いに異なる幅を有する。また、第1エミッタ31及び第2エミッタ51の各々が単独で存在する場合の遠視野パターンは、第1エミッタ31及び第2エミッタ51が同時に存在する場合に現れる2つのモードと異なるベース幅を有する。式(7)及び式(8)により算出される指標DB1,DB2には、干渉だけではなく遠視野パターンの幅の差も影響する。そのため、干渉の度合いを正確に評価するために、ベース幅が近い遠視野パターン同士を比較する。
【0044】
図3(a)及び
図3(b)は、第1エミッタ31の厚さが第2エミッタ51の厚さよりも薄い場合における、指標DBaに対する遠視野パターンの変化の計算例を示すグラフである。
図3(a)には、遠視野パターンF
1(干渉が存在しない場合の遠視野パターン)が破線で示され、遠視野パターンF
01が実線で示されている。
図3(b)には、遠視野パターンF
2(干渉が存在しない場合の遠視野パターン)が破線で示され、遠視野パターンF
02が実線で示されている。
図3(a)及び
図3(b)では、指標DBaが1%,3%,5%,10%,30%である場合における遠視野パターンF
1,F
01,F
2,F
02が下側から順に示されている。
【0045】
図3(a)及び
図3(b)に示されるように、指標DBaが10%又は30%である場合、遠視野パターンF
01,F
02には乱れが生じている。一方、指標DBaが1%,3%,5%である場合、遠視野パターンF
01,F
02には乱れが生じていないか、又は生じていたとしても乱れが抑制されている。指標DBaが小さくなるほど、遠視野パターンF
01,F
02の形が遠視野パターンF
1,F
2に近づき、乱れの発生が効果的に抑制されている。したがって、指標DBaが5%以下となるように第1エミッタ31の厚さを第2エミッタ51の厚さから異ならせることで、第1エミッタ31及び第2エミッタ51から出射されるレーザ光L1,L2の干渉を抑制することができ、出力光L0の遠視野パターンに乱れが生じることを抑制することができる。具体的には、第1エミッタ31及び第2エミッタ51の厚さの差(絶対差)が大きいほど、レーザ光L1,L2の干渉を抑制する効果が大きくなる。したがって、指標DBaが5%以下となるように第1エミッタ31及び第2エミッタ51の厚さの差を設定することで、レーザ光L1,L2の干渉を抑制することができる。
【0046】
また、
図3(a)に示されるように、指標DBaが5%である場合、遠視野パターンF
01のピーク部分が少し凹んでいるのに対し、指標DBaが3%以下である場合、遠視野パターンF
01の中央部に極値が1つのみ存在する。したがって、指標DBaは3%以下であることが好ましい。また、指標DBaが1%である場合、遠視野パターンF
01,F
02の形が遠視野パターンF
1,F
2にほぼ一致している。したがって、指標DBaは1%以下であることが更に好ましい。
【0047】
第1エミッタ31及び第2エミッタ51の厚さの差の好ましい上限値について説明する。第1エミッタ31及び第2エミッタ51の厚さの差が大きいほど干渉抑制効果は大きくなるが、上述したとおり、第1エミッタ31及び第2エミッタ51の各々が単独で存在する場合の遠視野パターンの幅の差が大きくなる。これらの遠視野パターンの幅の差が大きいと、実用上の問題が生じるおそれがある。そのため、第1エミッタ31の厚さと第1エミッタ31及び第2エミッタ51の厚さの平均値との間の絶対差は、当該平均値の10%以下に設定され得る。これは次の理由による。遠視野パターン及び近視野パターンの幅の間には、概ね反比例の関係がある。また、近視野パターンの幅は、ガイド層の厚さに依存する。この依存の程度は構造により変化し得るが、ガイド層の厚さにおける10%程度の変化に対して近視野パターンの幅に10%程度の変化が生じる領域は広い。遠視野パターンの幅の変化としては、実用上、±10%程度が許容され得る。したがって、上記の条件が設定される。
【0048】
指標DBaに関連する指標として、式(9)で表される指標Pが設定される。
【数9】
式(9)において、β
1は、第1エミッタ31の伝搬定数である。β
2は、第2エミッタ51の伝搬定数である。K
12は、第1エミッタ31及び第2エミッタ51の各々の厚さが第1エミッタ31及び第2エミッタ51の厚さの平均値に等しいと仮定した場合の第1エミッタ31と第2エミッタ51との間の結合定数である。
【0049】
図4は、指標Pと指標DBaとの関係を示すグラフである。
図4には、DBa=1.25/Pを表す直線Aが示されている。各プロットは、第1エミッタ31及び第2エミッタ51の構造を様々に変化させて得られた計算結果である。
図4に示されるように、多くのプロットが直線A上又は直線Aの近傍に位置しており、指標DBaと指標Pとの間には好な相関がある。指標DBaと指標Pとの間に良好な相関があることは、本発明者らが見出した知見である。このグラフから、指標DBaを5%以下とするためには指標Pを25以上に、指標DBaを3%以下とするためには指標Pを40以上に、指標DBaを1%以下とするためには指標Pを125以上に設定すればよいことが分かる。
【0050】
伝搬定数β
1,β
2及び結合定数K
12の算出方法を説明する。以下の計算では、第1エミッタ31及び第2エミッタ51がスラブ型導波路として解析されている。まず、
図5に示されるように単純化された半導体レーザ素子1Aについて考える。半導体レーザ素子1Aでは、クラッド層11、第1エミッタ31、クラッド層12、第2エミッタ51及びクラッド層13がこの順に積層されている。クラッド層11,12,13の屈折率をn
0とし、クラッド層12の厚さをDとする。クラッド層11,13の厚さは半無限大であると仮定する。第1ガイド層33,34及び第2ガイド層53,54の屈折率をn
1とし、第1ガイド層33,34の各々及び第2ガイド層53,54の各々の厚さをaとする。第1エミッタ31及び第2エミッタ51の発振波長をλとする。
【0051】
第1エミッタ31及び第2エミッタ51から出射されるレーザ光L1,L2がTEモードの光である場合、第1エミッタ31及び第2エミッタ51の伝搬定数βは、以下のとおり算出される。
式(10)によりvが定義される。式(10)において、kは真空中の波数であり、2π/λに等しい。
【数10】
式(11)を解くことにより、bが決定される。bは、vとbの関係を表すグラフからの読み取りにより決定されてもよい。
【数11】
式(12)により伝搬定数βが算出される。
【数12】
【0052】
第1エミッタ31及び第2エミッタ51の各々の厚さが第1エミッタ31及び第2エミッタ51の厚さの平均値に等しいと仮定した場合の第1エミッタ31と第2エミッタ51との間の結合定数K
12は、以下のとおり算出され得る。
式(13)及び式(14)によりu及びwが定義される。
【数13】
【数14】
式(15)から結合定数K
12が算出される。
【数15】
【0053】
第1エミッタ31及び第2エミッタ51から出射されるレーザ光L1,L2がTMモードを有する場合、第1エミッタ31及び第2エミッタ51の伝搬定数βは、上記算出方法において式(11)を式(16)に置き換えると共に式(15)を式(17)に置き換えた算出方法により算出される。すなわち、指標DBa及び指標Pは、レーザ光L1,L2がTMモードを有する場合の算出方法、又はレーザ光L1,L2がTEモードを有する場合の算出方法のいずれか一方を用いて算出される。
【数16】
【数17】
【0054】
実際の計算では、伝搬定数β及び結合定数K12は、半導体レーザ素子1を単純化することなく、下記の定義を用いて、上記算出方法により算出される。
n1:ガイド層及び活性層の屈折率を厚いものほど重みが大きくなるように厚さで重み付けした加重平均値
n0:クラッド層の屈折率を厚いものほど重みが大きくなるように厚さで重み付けした加重平均値
2a:対象となる2つのエミッタの厚さの平均値(活性層と一対のガイド層の厚さの合計)
D:エミッタ間に配置されたクラッド層及びトンネル接合層の厚さの合計値
【0055】
以上のように、指標DBa及び指標Pを用いて第1エミッタ31及び第2エミッタ51の厚さを設定することができる。第2エミッタ51及び第3エミッタ71からのレーザ光L2,L3の干渉、並びに第1エミッタ31及び第3エミッタ71からのレーザ光L1,L3の干渉が出力光L0の遠視野パターンに与える影響は、第1エミッタ31及び第2エミッタ51からのレーザ光L1,L2の干渉が出力光L0の遠視野パターンに与える影響と同様である。ただし、積層方向D2における第1エミッタ31と第3エミッタ71との間の距離は、第1エミッタ31と第2エミッタ51との間の距離及び第2エミッタ51と第3エミッタ71との間の距離よりも長いため、レーザ光L1,L3の干渉の影響は、レーザ光L1,L2の干渉の影響、及びレーザ光L2,L3の干渉の影響と比べて十分に小さく、無視され得る。
【0056】
式(18)で表される指標DB3と式(19)で表される指標DB4の平均値である指標DBbが5%以下となるように第3エミッタ71の厚さを第2エミッタ51の厚さから異ならせることで、第2エミッタ51及び第3エミッタ71から出射されるレーザ光L2,L3の干渉を抑制することができ、出力光L0の遠視野パターンに乱れが生じることを抑制することができる。
【数18】
【数19】
【0057】
式(18)及び式(19)において、F3,F4,F03及びF04は、規格化された積層方向D2における遠視野パターンであり、いずれも、積層方向D2における放射角の全範囲についての積分値が1となるように規格化されている。F3は、第1エミッタ31及び第2エミッタ51が存在せずに第3エミッタ71のみが単独で存在すると仮定した場合に第3エミッタ71から出射されるレーザ光L3の遠視野パターンである。F4は、第1エミッタ31及び第3エミッタ71が存在せずに第2エミッタ51のみが単独で存在すると仮定した場合に第2エミッタ51から出射されるレーザ光L2の遠視野パターンである。
【0058】
第1エミッタ31が存在せずに第2エミッタ51及び第3エミッタ71のみが存在する場合に第2エミッタ51及び第3エミッタ71から出射される光(出力光L0)が有する、基底モードに対応する2つのモードのうち、伝搬定数が小さいモードを第3モードとし、伝搬定数が大きいモードを第4モードとする。第3エミッタ71の厚さが第2エミッタ51の厚さよりも薄い場合、F03は第3モードの遠視野パターンであり、F04は第4モードの遠視野パターンである。第3エミッタ71の厚さが第2エミッタ51の厚さよりも厚い場合、F03は第4モードの遠視野パターンであり、F04は第3モードの遠視野パターンである。半導体レーザ素子1では、第3エミッタ71の厚さが第2エミッタ51の厚さよりも厚い。そのため、F03(θ)は第4モードの遠視野パターンであり、F04(θ)は第3モードの遠視野パターンである。
【0059】
第2エミッタ51及び第3エミッタ71についての指標Pは、式(20)により表される。
【数20】
式(20)において、β
3は、第3エミッタ71の伝搬定数である。β
2は、第2エミッタ51の伝搬定数である。K
23は、第2エミッタ51及び第3エミッタ71の各々の厚さが第2エミッタ51及び第3エミッタ71の厚さの平均値に等しいと仮定した場合の第2エミッタ51と第3エミッタ71との間の結合定数である。
【0060】
実施形態に係る半導体レーザ素子1では、第1エミッタ31及び第2エミッタ51についての指標P、並びに第2エミッタ51及び第3エミッタ71についての指標Pは、約190であり、125以上となっている。すなわち、指標DBaは1%以下となっている。また、第1エミッタ31と第2エミッタ51との間の厚さの差は、8nmであり、第1エミッタ31及び第2エミッタ51の厚さの平均値である157nmの10%以下となっていると共に、第1エミッタ31、第2エミッタ51及び第3エミッタ71の厚さの平均値(全てのエミッタの厚さの平均値)である161nmの10%以下となっている。第3エミッタ71と第2エミッタ51との間の厚さの差は、8nmであり、第2エミッタ51及び第3エミッタ71の厚さの平均値である165nmの10%以下となっていると共に、第1エミッタ31、第2エミッタ51及び第3エミッタ71の厚さの平均値である161nmの10%以下となっている。
[作用及び効果]
【0061】
半導体レーザ素子1では、第1エミッタ31の厚さが、指標DB1と指標DB2の平均値である指標DBaが5%以下となるように、第2エミッタ51の厚さから異なっている。このように第1エミッタ31及び第2エミッタ51の厚さを変調することで、第1エミッタ31及び第2エミッタ51の実効屈折率及び伝搬定数を異ならせることができる。その結果、第1エミッタ31及び第2エミッタ51から出射されるレーザ光L1,L2の干渉(伝搬モードの共鳴的な結合)を抑制することができ、出力光L0の遠視野パターンに乱れが生じることを抑制することができる。上述したとおり、当該乱れは、出力光L0における空間的なムラ、光学設計からのずれ等の原因となり得る。また、そのようなムラやずれは、歩留まり低下の原因となり得る。これに対し、半導体レーザ素子1では、当該乱れを抑制することで、歩留まりを向上することができる。また、第1エミッタ31と第2エミッタ51との間に配置された第1クラッド層36及び第2クラッド層55を厚くすることによっても出力光L0の遠視野パターンにおける乱れを抑制することができるが、動作電圧が上昇してしまう。これに対し、半導体レーザ素子1では、動作電圧の上昇を抑制しつつ、出力光L0の遠視野パターンにおける乱れを抑制することができる。
【0062】
第1エミッタ31の厚さが、指標DBaが3%以下、より具体的には1%以下となるように、第2エミッタ51の厚さから異なっている。これにより、レーザ光L1,L2の干渉を効果的に抑制することができる。
【0063】
第1ガイド層33,34の総厚が第2ガイド層の総厚から異なっていることにより、第1エミッタ31の厚さが第2エミッタ51の厚さから異なっている。これにより、第1活性層32及び第2活性層52の厚さの設計自由度を高めることができ、例えば、第1活性層32及び第2活性層52の厚さを互いに等しくすることができる。
【0064】
第1エミッタ31の厚さが、指標Pが25以上となるように、第2エミッタ51の厚さから異なっている。これにより、レーザ光L1,L2の干渉を抑制することができる。
【0065】
第1エミッタ31の厚さが、指標Pが40以上、より具体的には125以上となるように、第2エミッタ51の厚さから異なっている。これにより、レーザ光L1,L2の干渉を効果的に抑制することができる。
【0066】
第1エミッタ31の厚さと第1エミッタ31及び第2エミッタ51の厚さの平均値との間の絶対差が、当該平均値の10%以下である。これにより、第1エミッタ31と第2エミッタ51との間の厚さの差が過大となることにより出力光L0の品質が低下する事態を抑制することができる。
【0067】
第3エミッタ71の厚さが、指標DB3と指標DB4の平均値である指標DBbが5%以下となるように、第2エミッタ51の厚さから異なっている。これにより、第2エミッタ51及び第3エミッタ71から出射されるレーザ光L2,L3の干渉を抑制することができる。
[変形例]
【0068】
図6に示される半導体レーザ素子1Bは、基板2と、第1素子部3と、第1トンネル接合層4と、第2素子部5と、キャップ層8と、を備えており、第2トンネル接合層6と、第3素子部7と、を備えていない。第1活性層32は、In
0.1Al
0.049GaAsからなり8nmの厚さを有する1つの量子井戸層により構成されている。第1ガイド層33,34の各々は、Al
0.25GaAsからなり、(100-h)nmの厚さを有する。第1クラッド層35は、n型Al
0.35GaAsからなり、1600nmの厚さを有する。第1クラッド層36は、p型Al
0.35GaAsからなり、1600nmの厚さを有する。第1トンネル接合層4は、GaAsからなり、200nmの厚さを有する。
【0069】
第2活性層52は、In0.1Al0.049GaAsからなり8nmの厚さを有する1つの量子井戸層により構成されている。第2ガイド層53,54の各々は、Al0.25GaAsからなり、(100+h)nmの厚さを有する。第2クラッド層55は、n型Al0.35GaAsからなり、1600nmの厚さを有する。第2クラッド層56は、p型Al0.35GaAsからなり、1600nmの厚さを有する。キャップ層8は、n型GaAsからなり、100nmの厚さを有する。第1エミッタ31及び第2エミッタ51の発振波長は905nmである。
【0070】
表1には、半導体レーザ素子1Bにおいてパラメータhを変化させた場合の数値計算の結果が示されている。表1から、パラメータhが増加するほど、指標Pが増加すると共に指標DBaが減少し、出力光L0の遠視野パターンにおける乱れが抑制されることが分かる。このように、半導体レーザ素子1Bによっても、上記実施形態と同様に、出力光L0の遠視野パターンに乱れが生じることを抑制することができる。
【表1】
【0071】
他の変形例として、半導体レーザ素子1Bは、次のとおりに構成されてもよい。第1ガイド層33,34の各々が(400-h)nmの厚さを有し、第1クラッド層35,36の各々が800nmの厚さを有し、第2ガイド層53,54の各々が(400+h)nmの厚さを有し、第2クラッド層55,56の各々が800nmの厚さを有する。この半導体レーザ素子1Bの変形例は、その他の点については半導体レーザ素子1Bと同様に構成される。
【0072】
表2には、半導体レーザ素子1Bの変形例においてパラメータhを変化させた場合の数値計算の結果が示されている。表2から、パラメータhが増加するほど、指標Pが増加すると共に指標DBaが減少し、出力光L0の遠視野パターンにおける乱れが抑制されることが分かる。このように、半導体レーザ素子1Bの変形例によっても、上記実施形態と同様に、出力光L0の遠視野パターンに乱れが生じることを抑制することができる。
【表2】
【0073】
表3~6には、上述した
図5に示される半導体レーザ素子1Aにおいて、指標Pが40となる厚さ変調量(a
1-a
2)n
1/λの値を算出した結果が示されている。表3、表4、表5及び表6には、それぞれ、規格化された屈折率差(n
1-n
0)/n
1が0.02,0.03,0.04,0.05である場合が示されている。表3~6において、2a
1は第1エミッタ31の厚さであり、2a
2は第2エミッタ51の厚さであり、2a
0は第1エミッタ31及び第2エミッタ51の厚さの平均値である。n
1は第1エミッタ31及び第2エミッタ51の屈折率である。a
0n
1/λは、波長及び屈折率で規格化されたエミッタの平均厚さを表しており、(Dn
1/λ)×(a
0n
1/λ)は、波長及び屈折率で規格化されたエミッタの平均厚さと、波長及び屈折率で規格化されたクラッド層の厚さの積を表している。表3~6において数値が記載されている欄は、指標Pが40となるように第1エミッタ31及び第2エミッタ51の厚さを設定可能であることを表している。これらの点は後述する表7~10についても同様である。このような半導体レーザ素子1Aによっても、上記実施形態と同様に、出力光L0の遠視野パターンに乱れが生じることを抑制することができる。
【表3】
【表4】
【表5】
【表6】
【0074】
表7~10には、上述した
図5に示される半導体レーザ素子1Aにおいて、指標Pが125となる厚さ変調量(a
1-a
2)n
1/λの値を算出した結果が示されている。表7、表8、表9及び表10には、それぞれ、規格化された屈折率差(n
1-n
0)/n
1が0.02,0.03,0.04,0.05である場合が示されている。
【表7】
【表8】
【表9】
【表10】
【0075】
図7に示されるように、半導体レーザ素子1は、マウント部材15上に実装されてレーザモジュール100を構成し得る。すなわち、レーザモジュール100は、半導体レーザ素子1と、半導体レーザ素子1が実装されるマウント部材15と、を備えている。半導体レーザ素子1では、第1エミッタ31、第2エミッタ51及び第3エミッタ71は、第1エミッタ31が第2エミッタ51よりも基板2に近い第1側(
図7中の下側)に位置し、且つ第2エミッタ51が第3エミッタ71よりも第1側に位置するように、基板2上に積層されている。半導体レーザ素子1は、第1側においてマウント部材15上に固定されている。半導体レーザ素子1は、例えば半田によりマウント部材15に接合されている。マウント部材15は、例えば、銅からなるヒートシンクである。半導体レーザ素子1では複数のエミッタを備えることで発熱量が大きくなる傾向があるため、ヒートシンクにより放熱性を確保することが好ましい。
【0076】
第1エミッタ31、第2エミッタ51及び第3エミッタ71(光導波路)の実効屈折率は、それらに生じている歪みの影響を受ける。そのため、第1エミッタ31、第2エミッタ51及び第3エミッタ71の厚さを異ならせることにより導入した実効屈折率の差が、当該歪みの影響によってキャンセルされ得る。例えば、半導体レーザ素子1では、基板2上にエピタキシャル成長法により形成された積層体(第1素子部3、第1トンネル接合層4、第2素子部5、第2トンネル接合層6、第3素子部7及びキャップ層8からなる積層体)には、基板2から作用する力により、面内方向に圧縮歪みが生じている。面内方向の圧縮歪みが存在する場合、TEモードの実効屈折率は小さくなる方向に変化する。基板2から遠ざかるほど歪みは緩和されるため、基板2から遠い層ほど実効屈折率は相対的に大きくなる。したがって、基板2から遠いエミッタほど、単独で存在する場合の実効屈折率が大きくなるように、すなわち伝搬定数が大きくなるように、厚さを厚くすることが好ましい。この点、レーザモジュール100では、第2エミッタ51が第1エミッタ31よりも厚く、第3エミッタ71が第2エミッタ51よりも厚い。これにより、歪みにより生じる実効屈折率の差が強調される方向に第1エミッタ31、第2エミッタ51及び第3エミッタ71の厚さが変調される。その結果、基板2から作用する力によって第1エミッタ31、第2エミッタ51及び第3エミッタ71に生じる歪みの影響に起因して上述した光の干渉抑制効果が損なわれる事態を回避することができる。
【0077】
図8に示されるレーザモジュール100では、半導体レーザ素子1は、第1側とは反対側の第2側(
図8中の上側)においてマウント部材15上に固定されている。マウント部材15は、基板2を構成する材料よりも熱膨張係数が小さい材料により形成されており、マウント部材15の熱膨張係数は、基板2の熱膨張係数よりも小さい。この場合、基板2上の積層体に生じる歪みは、基板2から遠ざかるほど小さくなり得る。これは、格子定数の差により基板2から積層体に作用する力の影響が、熱膨張係数の差によりマウント部材15から積層体に作用する力の影響よりも大きい、又はそれらの力の向きが逆であるためである。レーザモジュール100では、第2エミッタ51が第1エミッタ31よりも厚く、第3エミッタ71が第2エミッタ51よりも厚いため、基板2及びマウント部材15から作用する力によって第1エミッタ31、第2エミッタ51及び第3エミッタ71に生じる歪みの影響に起因して上述した光の干渉抑制効果が損なわれる事態を回避することができる。
【0078】
他の変形例として、
図8に示されるレーザモジュール100において、マウント部材15の熱膨張係数は、基板2の熱膨張係数よりも大きくてもよい。この変形例では、第1エミッタ31が第2エミッタ51よりも厚くされ、第2エミッタ51が第3エミッタ71よりも厚くされる。マウント部材15の熱膨張係数が基板2の熱膨張係数よりも大きい場合、マウント部材15から積層体に作用する力の影響が基板2から積層体に作用する力の影響よりも大きくなり、積層体に生じる歪みが基板2から遠ざかるほど大きくなり得る。この変形例のレーザモジュール100では、第1エミッタ31、第2エミッタ51及び第3エミッタ71がこの順に厚いため、基板2及びマウント部材15から作用する力によって第1エミッタ31、第2エミッタ51及び第3エミッタ71に生じる歪みの影響に起因して上述した光の干渉抑制効果が損なわれる事態を回避することができる。
【0079】
本発明は、上記実施形態及び変形例に限られない。例えば、各構成の材料及び形状には、上述した材料及び形状に限らず、様々な材料及び形状を採用することができる。上記実施形態において、第1活性層32の厚さが第2活性層52の厚さから異なっていることにより、第1エミッタ31の厚さが第2エミッタ51の厚さから異なっていてもよい。この場合、第1ガイド層33,34の総厚は第2ガイド層の総厚と等しくてもよい。
【0080】
上記実施形態では第1エミッタ31、第2エミッタ51及び第3エミッタ71の厚さが互いに異なっていたが、少なくとも2つのエミッタの厚さが互いに異なっていればよい。干渉を抑制する観点からは、隣接する第1エミッタ31と第2エミッタ51との間、及び、隣接する第2エミッタ51と第3エミッタ71との間において厚さが異なっていることが好ましい。上記実施形態では第1エミッタ31が第2エミッタ51よりも薄く、第3エミッタ71が第2エミッタ51よりも厚いが、第1エミッタ31及び第3エミッタ71が第2エミッタ51よりも薄くてもよい。例えば、第1エミッタ31及び第3エミッタ71の厚さは互いに等しくてもよい。或いは、第1エミッタ31及び第3エミッタ71が第2エミッタ51よりも厚くてもよい。上記実施形態では第1エミッタ31、第2エミッタ51及び第3エミッタ71の3つのエミッタ(導波路)が備えられていたが、4つ以上のエミッタが備えられてもよい。第1活性層32、第2活性層52及び第3活性層72は、多重量子井戸構造を有していてもよい。この場合、障壁層の厚さは適宜変更されてもよい。
【符号の説明】
【0081】
1…半導体レーザ素子、2…基板、15…マウント部材、31…第1エミッタ、32…第1活性層、33,34…第1ガイド層、35,36…第1クラッド層、51…第2エミッタ、52…第2活性層、53,54…第2ガイド層、55,56…第2クラッド層、71…第3エミッタ、72…第3活性層、73,74…第3ガイド層、100…レーザモジュール、D1…光軸方向、D2…積層方向。