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特開2022-117192重ね摩擦攪拌接合方法、裏当て治具及び接合継手
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022117192
(43)【公開日】2022-08-10
(54)【発明の名称】重ね摩擦攪拌接合方法、裏当て治具及び接合継手
(51)【国際特許分類】
   B23K 20/12 20060101AFI20220803BHJP
【FI】
B23K20/12 364
B23K20/12 360
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021013757
(22)【出願日】2021-01-29
(71)【出願人】
【識別番号】504226733
【氏名又は名称】コベルコ溶接テクノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】江口 法孝
【テーマコード(参考)】
4E167
【Fターム(参考)】
4E167AA02
4E167AA06
4E167AA29
4E167BG05
4E167BG06
4E167BG13
4E167BG15
4E167BG25
4E167BG32
(57)【要約】
【課題】摩擦攪拌接合による接合施工時において、高融点側の材料に設けた貫通孔の位置と裏当て治具との位置調整を不要とし、かつ、接合強度が高い接合継手を得る。
【解決手段】金属材料により構成される低融点部材20と、低融点部材20の金属材料よりも高融点の金属材料により構成され、少なくとも接合予定箇所に複数の貫通孔11が設けられた高融点部材10と、の重ね摩擦攪拌接合方法は、複数の凹部31と複数の凸部32とからなる凹凸表面33を有する裏当て治具30の上に、凹凸表面33と接合予定箇所が対応するように高融点部材10及び低融点部材20を順に重ねる、重ね合わせ工程と、重ね合わせ工程において重ね合わされた、低融点部材20と高融点部材10における接合予定箇所を摩擦攪拌接合により接合する、接合工程と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料により構成される低融点部材と、前記低融点部材の金属材料よりも高融点の金属材料により構成され、少なくとも接合予定箇所に複数の貫通孔が設けられた高融点部材と、の重ね摩擦攪拌接合方法であって、
複数の凹部と複数の凸部とからなる凹凸表面を有する裏当て治具の上に、前記凹凸表面と前記接合予定箇所が対応するように前記高融点部材及び前記低融点部材を順に重ねる、重ね合わせ工程と、
前記重ね合わせ工程において重ね合わされた、前記低融点部材と前記高融点部材における前記接合予定箇所を摩擦攪拌接合により接合する、接合工程と、
を備えることを特徴とする、重ね摩擦攪拌接合方法。
【請求項2】
前記複数の凸部は先鋭形状である、請求項1に記載の重ね摩擦攪拌接合方法。
【請求項3】
前記凹凸表面の形状は、単目、複目、鬼目及び波目のうち少なくとも一つである、請求項1又は2に記載の重ね摩擦攪拌接合方法。
【請求項4】
前記裏当て治具の硬度は、前記低融点部材及び前記高融点部材のそれぞれの硬度よりも高い、請求項1~3のいずれか1項に記載の重ね摩擦攪拌接合方法。
【請求項5】
前記複数の貫通孔は、前記摩擦攪拌接合における接合方向に略直交する方向に複数列形成されている、請求項1~4のいずれか1項に記載の重ね摩擦攪拌接合方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の重ね摩擦攪拌接合方法に用いられ、複数の凹部と複数の凸部とからなる凹凸表面を有することを特徴とする、裏当て治具。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか1項に記載の重ね摩擦攪拌接合方法によって製造される接合継手であって、
前記摩擦攪拌接合により流動化された前記低融点部材の金属材料は、前記高融点部材における前記複数の貫通孔を通じて、前記裏当て治具における前記凹部の少なくとも一部に押し出されていることを特徴とする、接合継手。
【請求項8】
前記裏当て治具における前記凸部によって、前記流動化された前記低融点部材の金属材料が加締められている、請求項7に記載の接合継手。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重ね摩擦攪拌接合方法、裏当て治具及び接合継手に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車業界においては、燃費向上等を目的として車両の軽量化が求められることから、アルミニウム合金等の軽量素材が積極的に採用されており、アルミニウム合金と鋼との異種材料同士の接合技術に関する重要性が高まってきている。しかし、鋼板同士の接合が一部アルミニウムに置換された場合に、従来の抵抗溶接による接合では、金属間化合物の生成などにより脆弱な接合となりやすいため、摩擦攪拌現象を利用した摩擦攪拌接合(Friction Stir Welding;FSW)が注目されている。例えば、下穴を形成した鋼からなる被接合材に、アルミニウム合金からなる接合材を重ね合わせ、回転工具を回転させながら接合材に接触させて摩擦攪拌によって塑性流動した接合材を下穴に流入させ、被接合材と接合材を機械的に接合する摩擦攪拌接合方法として、特許文献1~3に記載の技術が知られている。
【0003】
特許文献1には、摩擦攪拌により塑性流動させる金属材料(アルミニウム合金)と、凹みが設けられた他の金属材料(鋼)を重ね合わせておき、塑性流動させたアルミニウム合金を凹みに充填して金属材料同士を結合する結合方法が記載されている。
特許文献2には、融点の低い金属材料(アルミニウム合金など)と、融点の高い金属材料(めっき鋼板など)を重ねて摩擦攪拌接合する際、融点の高い金属材料に、接合面側の穴径より反対側の穴径が大きい穴を設け、塑性流動させたアルミニウム合金を穴に充填させて金属材料同士を結合する接合方法が開示されている。
特許文献3には、摩擦攪拌により塑性流動させた金属材料(アルミニウム合金)を、他方の金属材料(鋼)に設けた貫通孔に充填させて接合面の反対側、又は接合面側に張り出させ、裏当て部材の凹部に充填成形させて金属材料を接合する接合方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-106037号公報
【特許文献2】特許第6221774号公報
【特許文献3】特許第4886277号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的に、塑性流動させた低融点側の材料を高融点側の材料に設けた孔に充填させて金属材料同士を結合する際に、裏当て治具に上記孔よりも大きな径を有する凹部を設けておく方が、金属材料同士が外れにくくなるため、継手の接合強度が高くなるといえる。しかしながら、特許文献1及び2に記載の接合方法では、このような裏当て治具を使用していないため、金属材料同士の接合強度が必ずしも十分であるとはいえない。また、特許文献3に記載の接合方法では、このような裏当て治具を用いているものの、接合施工時において、高融点側の材料に設けた貫通孔の位置と裏当て治具に設けられた凹部を高精度に位置合わせする必要があり、作業能率性が低下するため、継手の接合強度と施工時の作業能率性の両立について改善の余地があった。
【0006】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、摩擦攪拌接合による接合施工時において、高融点側の材料に設けた貫通孔の位置と裏当て治具との位置調整を不要とし、かつ、接合強度が高い接合継手を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
したがって、本発明の上記目的は、重ね摩擦攪拌接合方法に係る下記[1]の構成により達成される。
[1] 金属材料により構成される低融点部材と、前記低融点部材の金属材料よりも高融点の金属材料により構成され、少なくとも接合予定箇所に複数の貫通孔が設けられた高融点部材と、の重ね摩擦攪拌接合方法であって、
複数の凹部と複数の凸部とからなる凹凸表面を有する裏当て治具の上に、前記凹凸表面と前記接合予定箇所が対応するように前記高融点部材及び前記低融点部材を順に重ねる、重ね合わせ工程と、
前記重ね合わせ工程において重ね合わされた、前記低融点部材と前記高融点部材における前記接合予定箇所を摩擦攪拌接合により接合する、接合工程と、
を備えることを特徴とする、重ね摩擦攪拌接合方法。
【0008】
また、本発明の上記目的は、裏当て治具に係る下記[2]の構成により達成される。
[2] [1]に記載の重ね摩擦攪拌接合方法に用いられ、複数の凹部と複数の凸部とからなる凹凸表面を有することを特徴とする、裏当て治具。
【0009】
さらに、本発明の上記目的は、接合継手に係る下記[3]の構成により達成される。
[3] [1]に記載の重ね摩擦攪拌接合方法によって製造される接合継手であって、
前記摩擦攪拌接合により流動化された前記低融点部材の金属材料は、前記高融点部材における前記複数の貫通孔を通じて、前記裏当て治具における前記凹部の少なくとも一部に押し出されていることを特徴とする、接合継手。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、摩擦攪拌接合による接合施工時において、高融点側の材料に設けた貫通孔の位置と裏当て治具との位置調整を不要とし、かつ、接合強度が高い接合継手を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1(a)は、凹凸表面を有する裏当て治具の上に、高融点部材及び低融点部材を順に重ね合わせた、摩擦攪拌接合する前の状態を示す断面図であり、図1(b)は、接合中の状態を示す断面図である。
図2図2は、接合ツールの先端部の形状を示す側面図である。
図3図3は、表面平板状の裏当て治具を用い、パンチングパターン(A)~(I)の孔が設けられた高融点部材に低融点部材を摩擦攪拌接合する断面図である。
図4図4は、重ね摩擦攪拌接合方法により接合された引張せん断試験用継手の平面図である。
図5図5は、引張せん断試験片の平面図及び側面図である。
図6図6は、高融点部材に設けられた複数の貫通孔の中心位置を示す平面図及び側面図である。
図7図7は、直径1.0mmの孔がピッチ2.2mmで1列配置されたパンチングパターン(A)における、高融点部材に設けられた貫通孔の配置図である。
図8図8は、直径1.0mmの孔が横ピッチ2.2mm、縦ピッチ4.4mmで2列配置されたパンチングパターン(B)における、高融点部材に設けられた貫通孔の配置図である。
図9図9は、直径1.0mmの孔が横ピッチ4.4mm、縦ピッチ2.2mmで3列千鳥配置されたパンチングパターン(C)における、高融点部材に設けられた貫通孔の配置図である。
図10図10は、直径1.5mmの孔がピッチ2.2mmで1列配置されたパンチングパターン(D)における、高融点部材に設けられた貫通孔の配置図である。
図11図11は、直径1.5mmの孔が横ピッチ2.2mm、縦ピッチ4.4mmで2列配置されたパンチングパターン(E)における、高融点部材に設けられた貫通孔の配置図である。
図12図12は、直径1.5mmの孔が横ピッチ4.4mm、縦ピッチ2.2mmで3列千鳥状に配置されたパンチングパターン(F)における、高融点部材に設けられた貫通孔の配置図である。
図13図13は、直径1.0mmの孔が横ピッチ2.0mm、縦ピッチ1.0mmで5列千鳥状に配置されたパンチングパターン(G)における、高融点部材に設けられた貫通孔の配置図である。
図14図14は、直径1.0mmの孔が横ピッチ2.5mm、縦ピッチ1.25mmで5列千鳥状に配置されたパンチングパターン(H)における、高融点部材に設けられた貫通孔の配置図である。
図15図15は、直径1.0mmの孔が横ピッチ3.0mm、縦ピッチ1.5mmで5列千鳥状に配置されたパンチングパターン(I)における、高融点部材に設けられた貫通孔の配置図である。
図16図16は、重ね摩擦攪拌接合方法により接合された、はく離試験用継手の平面図である。
図17図17は、はく離試験片の平面図及び側面図である。
図18図18は、裏当て治具における凹凸表面の形状の一例を示す平面図(図面代用写真)である。
図19図19は、裏当て治具における凹凸表面の形状の他の一例を示す平面図(図面代用写真)である。
図20図20は、裏当て治具における凹凸表面の形状の更に他の一例を示す平面図(図面代用写真)である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明者は、重ね摩擦攪拌接合による接合施工時において、高融点部材10に設けた貫通孔11の位置と、裏当て治具30との位置調整を不要とし、かつ、接合強度が高い接合継手を得るため、特に、高融点部材10の貫通孔11と裏当て治具30の形状との関係について鋭意検討を行った。その結果、裏当て治具30に凹凸形状の面を設けることで、上記課題を解決できることを見出した。また、裏当て治具30の凹凸形状における凸部が先鋭形状であれば、より好ましい効果を有することができることも見出した。
【0013】
以下、本発明に係る重ね摩擦攪拌接合方法、裏当て治具及び接合継手の各実施形態につき、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0014】
本実施形態に係る重ね摩擦攪拌接合方法は、以下のとおり実施される。図1(a)及び(b)に示すように、まず、接合予定箇所に複数の貫通孔11が設けられたSPCC鋼板(Steel Plate Cold Commercial鋼板又は冷間圧延鋼板ともいう。)などの高融点部材10と、アルミニウム合金板などの低融点部材20を、低融点部材20を上側にして重ね合わせる。次いで、高融点部材10の裏面に裏当て治具30を当接配置させた後、接合ツール40を回転させながら、接合予定箇所である高融点部材10の貫通孔11に対応する位置の低融点部材20に対し、接合ツール40をその表面側から挿入する。さらに、接合ツール40を低融点部材20に押し付けながら貫通孔11の配列方向に沿って相対移動させて、摩擦熱により低融点部材20を溶融させることなく塑性流動させ、高融点部材10の貫通孔11内に入り込ませて、重ね摩擦攪拌接合を行う。
【0015】
接合ツール40は、例えば、Co系合金で形成されており、図2に示すように、直径15.0mmの円柱基部41の先端に、先端直径が3.5mm、根元部直径が6.0mmの円錐台形の押圧部42を有する。また、接合ツール40の上部は、回転駆動機構及び加圧機構を備える不図示の駆動装置に連結されており、該駆動装置によって接合ツール40が回転及び加圧される。
【0016】
図1に戻って説明すると、裏当て治具30は、高融点部材10の裏面に当接する当接面が、複数の凹部31と複数の凸部32からなる凹凸表面33となっている。これにより、裏当て治具30を高融点部材10の裏面に無作為に当接させたとしても、高融点部材10における複数の貫通孔11に対応して、裏当て治具30における凹部31及び凸部32が配置される。このため、重ね摩擦攪拌接合に先立って、高融点部材10の裏面に裏当て治具30を配置する際、接合予定箇所である高融点部材10の貫通孔11と、裏当て治具30の凹凸との位置調整が不要となり、作業性が大幅に向上する。また、裏当て治具30が凹凸表面33を有することで、接合ツール40により摩擦攪拌された低融点部材20は、接合時の加圧及び塑性流動化により、高融点部材10の複数の貫通孔11を通じて、裏当て治具30の凹部31へ押し出される。その結果、いわゆるアンカー効果によって接合強度が高い接合継手を得ることができる。
【0017】
本実施形態では、裏当て治具30を高融点部材10の裏面に無作為に当接させても、高融点部材10における複数の貫通孔11のうち少なくとも1つに対応して、凹部31又は凸部32のいずれか、或いは両方が配置される箇所が存在する。
【0018】
そして、径HとピッチPの距離の最適化により、以下に示す更なる効果も期待できる。すなわち、径HとピッチPの距離を最適化した重ね摩擦攪拌接合方法によれば、接合ツール40により摩擦攪拌された低融点部材20は、接合時の加圧及び塑性流動化により、高融点部材10の複数の貫通孔11を通じて、裏当て治具30の凹部31へ押し出される。さらに、押し出された低融点部材20が裏当て治具30に接触することで、押出方向が変化する。
例えば、図1(b)に示すように、貫通孔11に対応して凸部32が位置する場合、貫通孔11から押し出された低融点部材20は、先鋭形状である凸部32の先端で分けられ、凸部32の傾斜面に沿って横方向に流動し、その一部は、高融点部材10の裏面側に回り込んで貫通孔11の径Hより大きく広がって高融点部材10の裏面と係合する箇所が多くなる。その結果、いわゆるアンカー効果によって接合強度が更に向上する。
【0019】
なお、本実施形態において裏当て治具30の硬度は、低融点部材20及び高融点部材10の硬度より高く、また、凸部32の先端形状は先鋭形状となっている。このため、接合ツール40の加圧により、裏当て治具30の凸部32が高融点部材10の裏面を塑性変形させて、貫通孔11の径を狭めるように圧痕12を生じさせる。これにより、貫通孔11から押し出された低融点部材20が加締められて、低融点部材20の加締め効果によっても、接合強度が更に向上する。
【0020】
このように、高融点部材10と低融点部材20を重ね摩擦攪拌接合する際、高融点部材10の裏側に、所定の条件を満足する複数の凹部31と複数の凸部32からなる凹凸表面33を有する裏当て治具30を配置することで、低融点部材20の高融点部材10の裏側への押出作用による「アンカー効果」と、高融点部材10に圧痕12を生じさせ、貫通孔11の周辺部を変形させて低融点部材20を加締める「加締め効果」との相乗効果により、接合部のはく離試験における破断強度を、従来の重ね摩擦攪拌接合方法と比較して大幅に向上させることができる。
【実施例0021】
以下、高融点部材10における貫通孔11の有効性、及び裏当て治具30における凹凸表面33の有効性を確認するための各試験例について説明する。
なお、本発明において継手における接合強度としては、「引張強度」(引張試験における破断荷重)と「はく離強度」(はく離試験における破断荷重)の2種類から判定した。そして、以下に示す<評価試験1:高融点部材における貫通孔の有効性試験>は、継手の引張強度に関する、高融点部材10の貫通孔11の効果の検討であり、<評価試験2:裏当て治具における凹凸表面の有効性試験>は、継手のはく離強度に関する、裏当て治具30における凹凸表面33の効果の検討である。
【0022】
<評価試験1:高融点部材における貫通孔の有効性試験>
まず、裏当て治具30における凹凸表面33の有効性を確認する前に、高融点部材10における貫通孔11の有効性について確認を行った。
ここでは、図4に示すように、長さ300mm、幅100mm、厚さ0.8mmのSPCC鋼板を用い、後述するパンチングパターン(A)~(I)で示す複数の貫通孔11が形成された9種類の高融点部材10をそれぞれ準備した。
なお、パンチングパターン(A)~(I)における複数の貫通孔11は、パンチングパターン(A)及び(D)については、摩擦攪拌接合における接合方向に略直交する方向に1列のみ形成されており、その他のパンチングパターンについては、摩擦攪拌接合における接合方向に略直交する方向に複数列形成されている。
【0023】
また、低融点部材20として、長さ300mm、幅100mm、厚さ1.5mmのアルミニウム合金板を準備し、低融点部材20を高融点部材10の貫通孔11に合わせて重ね幅40mmで重ね合わせ、高融点部材10との当接面が、図3で示すような平面である裏当て治具30上に配置した。なお、高融点部材10との当接面が平面である裏当て治具30を用いた理由は、裏当て治具30の表面形状の影響を排除して、高融点部材10の貫通孔11の効果を明確にするためである。
【0024】
表1に、高融点部材10及び低融点部材20の材料種及び各形状寸法を示す。
【0025】
【表1】
【0026】
本検討については、貫通孔11のパンチングパターン(A)~(I)のそれぞれについて試験を2回ずつ行い、引張試験における破断荷重を測定した。なお、パンチングパターン(A)~(F)については接合ツール40の回転数及び接合速度を変えて2回ずつ行い、パンチングパターン(G)~(I)については同一条件のものを2回ずつ実施した。
具体的には、図3に示すように、Co系合金製の接合ツール40(図2参照)を毎分1500回転及び1200回転で回転させながら、ツール前進角3°で低融点部材20に押し当て、接合予定箇所である複数の貫通孔11の配列方向に沿って毎分1000mm及び500mmの接合速度で移動させ、摩擦熱により低融点部材20を塑性流動化させ、低融点部材20の金属材料21を高融点部材10の貫通孔11内に入り込ませて、図4に示す重ね摩擦攪拌接合による重ね継手50を作製した。
【0027】
そして、この重ね継手50から接合線WLを横断する方向に幅30mmの短冊状の試験片を採取して、図5に示す引張試験片51を作製し、引張試験に供した。
【0028】
次に、高融点部材10に形成された貫通孔11のパンチングパターン(A)~(I)について説明する。
【0029】
図6は、重ね継手50で使用した高融点部材10における貫通孔11の各パンチングパターンにおいて、接合線WLと直交する方向の貫通孔11の幅方向中心を示す。すなわち、図6に示す中心線CLの両側に、各パンチングパターンの複数の貫通孔11が線対称に配置されている。図7図15は、高融点部材10における貫通孔11の各パンチングパターン(A)~(I)において、貫通孔11の配列、貫通孔11の径H及び貫通孔11の横ピッチP,縦ピッチPを示している。
【0030】
パンチングパターン(A)では、図7に示すように、径H=1.0mmの貫通孔11を横ピッチP=2.2mmで1列配置した。
パンチングパターン(B)では、図8に示すように、径H=1.0mmの貫通孔11を横ピッチP=2.2mm、縦ピッチP=4.4mmで2列配置した。
パンチングパターン(C)では、図9に示すように、径H=1.0mmの貫通孔11を横ピッチP=4.4mm、縦ピッチP=2.2mmで3列千鳥状に配置した。
【0031】
パンチングパターン(D)では、図10に示すように、径H=1.5mmの貫通孔11を横ピッチP=2.2mmで1列配置した。
パンチングパターン(E)では、図11に示すように、径H=1.5mmの貫通孔11を横ピッチP=2.2mm、縦ピッチP=4.4mmで2列配置した。
パンチングパターン(F)では、図12に示すように、径H=1.5mmの貫通孔11を横ピッチP=4.4mm、縦ピッチP=2.2mmで3列千鳥状に配置した。
【0032】
パンチングパターン(G)では、図13に示すように、径H=1.0mmの貫通孔11を横ピッチP=2.0mm、縦ピッチP=1.0mmで5列千鳥状に配置した。
パンチングパターン(H)では、図14に示すように、径H=1.0mmの貫通孔11を横ピッチP=2.5mm、縦ピッチP=1.25mmで5列千鳥状に配置した。
パンチングパターン(I)では、図15に示すように、径H=1.0mmの貫通孔11を横ピッチP=3.0mm、縦ピッチP=1.5mmで5列千鳥状に配置した。
【0033】
そして、各パンチングパターン(A)~(I)における貫通孔11が形成された高融点部材10を用いて作製した図4に示す重ね継手50から、図5に示す引張試験片51を作製し、引張試験を行った。
試験結果を、試験条件と共に表2に示す。
【0034】
【表2】
【0035】
表2に示すように、引張試験における破断荷重については、1列配置の重ね継手、2列配置の重ね継手、千鳥状配置の重ね継手の順に高くなる傾向にあることが分かる。また、これらの結果より、径H=1.0mmの貫通孔11を横ピッチP=2.5mm、縦ピッチP=1.25mmで5列千鳥状に配置したパンチングパターン(H)の重ね継手が、引張試験における破断荷重が最も高くなることが分かった。なお、このことは、配列、径、径の数及びピッチのバランスが、引張試験における破断荷重に対して最も適していたことによると思われる。
以上より、いずれのパンチングパターンも十分な引張強度が確保できたが、以下の裏当て治具30における凹凸表面33の有効性に関する各試験においては、もっとも高い引張強度を確保できるパンチングパターン(H)の重ね継手50(引張試験片51)を用いて行うこととした。
【0036】
<評価試験2:裏当て治具における凹凸表面の有効性試験>
本試験では、図16に示すように、長さ300mm、幅160mm、厚さ0.8mmのSPCC鋼板の幅方向中央に、直径1.0mmの貫通孔11が横ピッチP=2.5mm、縦ピッチP=1.25mmで5列千鳥状に配置された形状、すなわちパンチングパターン(H)の形状を有する高融点部材10と、長さ300mm、幅160mm、厚さ1.5mmの低融点部材20を準備し、低融点部材20を高融点部材10に重ね合わせた。
【0037】
表3に、高融点部材10及び低融点部材20の材料種及び各形状寸法を示す。
【0038】
【表3】
【0039】
重ね合わせた高融点部材10及び低融点部材20を、図1に示すように、高融点部材10との当接面が、複数の凹部31と複数の凸部32を備える凹凸表面33となっている裏当て治具30上に配置し、図2に示すCo系合金製の接合ツール40を毎分1500回転で回転させながらツール前進角3°で低融点部材20に押し当て、複数の貫通孔11の配列方向に沿って毎分250mmの速度で移動させ、摩擦熱により低融点部材20を塑性流動して高融点部材10の貫通孔11内に入り込ませ、重ね摩擦攪拌接合して図16に示す、接合長さ170mmの重ね継手60を作製した。
【0040】
重ね摩擦攪拌接合時に使用した裏当て治具30は、硬度が高融点部材10より高く、複数の凹部31と複数の凸部32からなる凹凸表面33を有し、かつ、凸部32が先鋭形状であるヤスリを用いた。
【0041】
凹凸表面33の形状による接合強度(はく離試験における破断荷重)への影響を調べるため、凹凸表面33の形状は、図18に示すような、複数の凹部31と複数の凸部32とが連続形成された荒目、図19に示すような、複数の凸部32が離散して直線状に形成された鬼目、図20に示すような、複数の凹部31と複数の凸部32とが交互に円弧状に形成された波目の3種類とした。
【0042】
次いで、この重ね継手60から接合線WLを横断する方向の幅20mmの短冊状の試験片を採取し、図17に示すように、その両端を互いに逆方向に間隔20mmのU字状に折り曲げてはく離試験片61を作製し、はく離試験に供した。
【0043】
はく離試験での各試験結果を、裏当て治具30の表面が平面である比較例と比較し、表4に示す。
【0044】
【表4】
【0045】
表4に示すように、裏当て治具30の表面が平面である比較例1~3のはく離試験片61と比較して、高融点部材10との当接面が複数の凹部31と複数の凸部32からなる凹凸表面33である裏当て治具30を用いた各実施例のはく離試験片61の、はく離試験における破断荷重は、比較例の破断荷重の2倍程度の高い値を示した。
特に、波目ヤスリの裏当て治具30を用いた実施例7~9のはく離試験片61が最も高い値を示し、重ね摩擦攪拌接合により貫通孔11に充填された低融点部材20の抜けに対する耐性が特に高いことが実証された。
【0046】
これは、高融点部材10の貫通孔11を通り抜け、裏当て治具30側へ押し出された低融点部材20が、裏当て治具30の凹凸表面33で押出方向が変化することで生じる、いわゆるアンカー効果、及び裏当て治具30の凸部32が高融点部材10に圧痕を生じさせて、貫通孔11の径を狭めるように塑性変形させることで、貫通孔11から押し出された低融点部材20を加締める加締め効果の相乗効果によると考えられ、裏当て治具30の凹凸表面33の接合強度に対する効果が確認された。
なお、低融点部材と高融点部材は、低融点部材20が高融点部材10の貫通孔11を通り裏当て治具30側へ押し出さることで接合されるので、脆弱な金属間化合物が生成されるおそれもない。
【0047】
ここまで本発明に係る重ね摩擦攪拌接合方法、裏当て治具及び接合継手の各実施形態及び実施例について説明したが、本発明は、前述した実施形態及び実施例に限定されるものではなく、適宜、変形、改良等が可能である。
【0048】
以上のとおり、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 金属材料により構成される低融点部材と、前記低融点部材の金属材料よりも高融点の金属材料により構成され、少なくとも接合予定箇所に複数の貫通孔が設けられた高融点部材と、の重ね摩擦攪拌接合方法であって、
複数の凹部と複数の凸部とからなる凹凸表面を有する裏当て治具の上に、前記凹凸表面と前記接合予定箇所が対応するように前記高融点部材及び前記低融点部材を順に重ねる、重ね合わせ工程と、
前記重ね合わせ工程において重ね合わされた、前記低融点部材と前記高融点部材における前記接合予定箇所を摩擦攪拌接合により接合する、接合工程と、
を備えることを特徴とする、重ね摩擦攪拌接合方法。
【0049】
この構成によれば、裏当て治具を高融点部材の裏面に無作為に当接させたとしても、高融点部材における複数の貫通孔に対応して、裏当て治具における凹部及び凸部が配置される。このため、重ね摩擦攪拌接合に先立って、高融点部材の裏面に裏当て治具を配置する際、接合予定箇所である高融点部材の貫通孔と、裏当て治具の凹凸との位置調整が不要となり、作業性が大幅に向上する。また、裏当て治具が凹凸表面を有することで、接合ツールにより摩擦攪拌された低融点部材は、接合時の加圧及び塑性流動化により、高融点部材の複数の貫通孔を通じて、裏当て治具の凹部へ押し出される。その結果、いわゆるアンカー効果によって接合強度が高い接合継手を得ることができる。
【0050】
(2) 前記複数の凸部は先鋭形状である、(1)に記載の重ね摩擦攪拌接合方法。
【0051】
この構成によれば、先鋭形状の凸部により、高融点部材の孔の周辺を塑性変形させて、高融点部材の裏側に押し出された低融点部材を加締める加締め効果が得られ、接合強度が更に向上する。
【0052】
(3) 前記凹凸表面の形状は、単目、複目、鬼目及び波目のうち少なくとも一つである、(1)又は(2)に記載の重ね摩擦攪拌接合方法。
【0053】
この構成によれば、凹凸形状の形状が一般的なヤスリに用いられる単目、複目、鬼目及び波目の形状であるため、裏当て治具として市販のヤスリを用いることができ、簡易な手法により接合強度を向上させることができる。
【0054】
(4) 前記裏当て治具の硬度は、前記低融点部材及び前記高融点部材のそれぞれの硬度よりも高い、(1)~(3)のいずれか1つに記載の重ね摩擦攪拌接合方法。
【0055】
この構成によれば、裏当て治具の凸部により高融点部材を塑性変形させて、低融点部材の加締め効果が効果的に得られる。
【0056】
(5) 前記複数の貫通孔は、前記摩擦攪拌接合における接合方向に略直交する方向に複数列形成されている、(1)~(4)のいずれか1つに記載の重ね摩擦攪拌接合方法。
【0057】
この構成によれば、低融点部材と高融点部材が複数個所で接合されて接合強度が更に向上する。
【0058】
(6) (1)~(5)のいずれか1つに記載の重ね摩擦攪拌接合方法に用いられ、複数の凹部と複数の凸部とからなる凹凸表面を有することを特徴とする、裏当て治具。
【0059】
この構成によれば、凹凸表面を有する裏当て治具を用いることで低融点部材と高融点部材を複数個所で接合することができ、接合強度が向上する。
【0060】
(7) (1)~(5)のいずれか1つに記載の重ね摩擦攪拌接合方法によって製造される接合継手であって、
前記摩擦攪拌接合により流動化された前記低融点部材の金属材料は、前記高融点部材における前記複数の貫通孔を通じて、前記裏当て治具における前記凹部の少なくとも一部に押し出されていることを特徴とする、接合継手。
【0061】
この構成によれば、流動化された低融点部材の金属材料が、複数の孔を通じて裏当て治具の凹部に押し出されることで、接合強度が向上する。
【0062】
(8) 前記裏当て治具における前記凸部によって、前記流動化された前記低融点部材の金属材料が加締められている、(7)に記載の接合継手。
【0063】
この構成によれば、塑性変形した高融点部材により、孔から押し出された低融点部材の金属材料を加締めることができ、加締め効果により接合強度が向上する。
【符号の説明】
【0064】
10 高融点部材
11 貫通孔
12 圧痕
20 低融点部材
30 裏当て治具
31 凹部
32 凸部
33 凹凸表面
40 接合ツール
50、60 重ね継手(接合継手)
CL 中心線
H 高融点部材における孔の径
P 裏当て治具における凹凸のピッチ
高融点部材における孔の横ピッチ
高融点部材における孔の縦ピッチ
WL 接合線(接合方向)
図1
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