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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022117198
(43)【公開日】2022-08-10
(54)【発明の名称】心房細動除細動システム
(51)【国際特許分類】
   A61N 1/39 20060101AFI20220803BHJP
【FI】
A61N1/39
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021013772
(22)【出願日】2021-01-29
(71)【出願人】
【識別番号】514283054
【氏名又は名称】株式会社ニューロシューティカルズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】三池 信也
(72)【発明者】
【氏名】金澤 修
(72)【発明者】
【氏名】坂本 晶史
【テーマコード(参考)】
4C053
【Fターム(参考)】
4C053JJ23
4C053KK07
(57)【要約】      (修正有)
【課題】除細動を実行するタイミングを正確に取ることのできるシステムを提供する。
【解決手段】心電図信号を受信する受信部と、制御部と、を備え、制御部は、受信部から心電図信号を一定周波数でサンプリングしてサンプリング値を取得する処理(S1)と、サンプリング値を用いて心電図信号におけるR波の傾きを計算する計算処理(S3)と、傾きの正負が反転した場合に、サンプリング値に基づきR波のピークを検出するピーク検出処理(S7)と、R波の周期を計算(S9)し、その周期が乱れていることを検出した場合に除細動処理を実行する(S15)心房細動除細動システム。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
心電図信号を受信する受信部と、
制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記受信部から前記心電図信号を一定周波数でサンプリングしてサンプリング値を取得する処理と、
前記サンプリング値を用いて前記心電図信号におけるR波の傾きを計算する計算処理と、
前記傾きの正負が反転した場合に、前記サンプリング値に基づき前記R波のピークを検出するピーク検出処理と、
前記R波の周期を検出する周期検出処理と、
前記周期が乱れていることを検出した場合に心房細動と判断し、心房の除細動をおこなう除細動処理と、を実行する心房細動除細動システム。
【請求項2】
前記制御部は、
前記計算処理において、
前記傾きを所定範囲と比較する処理をさらに実行し、
前記傾きが前記所定範囲内である場合に、R波であると認識し、前記ピーク検出処理を実行する、請求項1に記載の心房細動除細動システム。
【請求項3】
前記制御部は、
前記計算処理において、
前記サンプリング値に基づき、前記R波の立ち上がり時間または立ち下がり時間を検出する処理と、
前記立ち上がり時間または前記立ち下がり時間を正常範囲と比較する処理と、をさらに実行し、
前記立ち上がり時間または前記立ち下がり時間が前記正常範囲内である場合に、前記ピーク検出処理を実行する、請求項1または2に記載の心房細動除細動システム。
【請求項4】
前記一定周波数は細胞膜のNaチャネルの応答時間を配慮して決定される、請求項1から3のいずれか1項に記載の心電図解析システム。
【請求項5】
心腔内に挿入されて心房細動の除細動を行う除細動カテーテルをさらに備え、
前記制御部は、
前記周期検出処理は、前記R波のピークが発生する周期を算出する処理を含み、
前記除細動処理は、前記ピーク周期が一定の場合には除細動を行わず、前記R波のピーク周期が変動する場合に前記除細動カテーテルを用いて前記除細動を行う処理を含む、
請求項1から4のいずれか1項に記載の心房細動除細動システム。
【請求項6】
前記制御部は、前記除細動処理において、
絶対不応期内に前記除細動を行う、
請求項5に記載の心電図システム心房細動除細動システム。
【請求項7】
前記制御部は、前記除細動処理において、
絶対不応期が短くなり、かつ、前記R波の変化が立ち上がりから立ち下がりに変化する波形を取得したタイミングで前記除細動を行う、
請求項5または6に記載の心房細動除細動システム。
【請求項8】
前記除細動カテーテルは、ペーシングパルス印加用の電極を備え、
前記制御部は、前記除細動処理の後に、
正常周期の心拍数に相当するペーシングパルスを、前記電極を介して前記心腔内に印加する処理をさらに実行する、
請求項5から7のいずれか1項に記載の心房細動除細動システム。
【請求項9】
前記除細動カテーテルは、絶縁性のチューブ部材と、前記チューブ部材に装着された複数のリング状電極から構成される電極群とを有し、
前記電極群は、心臓の冠状静脈洞に配置される第1電極群と、心臓の右房、右心耳、または上大静脈基部に配置される第2電極群と、ペーシング専用電極と、を有することを特徴とする、
請求項5から8のいずれか1項に記載の心房細動除細動システム。
【請求項10】
除細動用電圧をチャージするためのチャージ回路と、
前記チャージ回路と電気的に絶縁され、前記除細動用電圧を充放電するコンデンサと、
前記制御部と電気的に絶縁され、前記電極群へパルスを出力するパルス発生回路と、を有する電源装置をさらに備えることにより、パルス発生回路から発生するノイズを前記制御部及び前記チャージ回路へ伝達しないように電気的に絶縁することを特徴とする、
請求項9に記載の心房細動除細動システム。
【請求項11】
心電図信号を一定周波数でサンプリングしてサンプリング値を取得する処理と、
前記サンプリング値を用いて前記心電図信号におけるR波の傾きを計算する計算処理と、
前記傾きが連続して得られ、かつ、前記傾きの極性が反転したときのサンプリング位置の一つ前のサンプリング位置に基づき、前記R波のピークを検出するピーク検出処理と、
を制御部に実行させる、プログラム。
【請求項12】
体外から得られる心電図信号を使わずに、除細動カテーテルの先端部に用意された第1チップ若しくは第2チップを利用して、心内心電波形を直接検出することで、体表面からの心電図信号を使わず、前記、心内心電波形から前記R波を検出することを特徴とする請求項1から10のいずれか1項に記載の心房細動除細動システム。
【請求項13】
請求項12の心房細動除細動システムにおいて、IEGM装置のペーシング出力を使わずに、ペーシングパルスを前記制御部から出力することにより、ペーシングを行うタイミングなど本システムの制御回路で最適化することが可能となるように構成することを特徴とする心房細動除細動システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心房細動除細動システムの構成及びそれを制御するためのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトもしくは動物における心房細動は、心臓カテーテル術中において起こりやすく、長時間放置すると血栓等が生じ、脳梗塞、肺梗塞、下肢動脈血栓など重篤な病態を生じる。従って、心房細動は前記、術中においても速やかな除細動の実施が望まれる。しかし、心房細動は術中において発生したり、物理的な衝撃で治まったり、また自然に治まったりもする不安定な状態も起こす。心房細動が発生しても心臓における心室の動きは正常であることが一般的であり、心房細動が生じても意識を失うことはない。そのため、除細動による心室細動の誘発を避けるため、心房細動以外の状態で、例えば、心房粗動の状態では除細動を実施しないことが重要である。
【0003】
このような観点から、心電図信号を観察して心房細動が生じているか否かを判断し、心房細動の除細動を行う技術が用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5900974号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の技術では、R波のピークを計測し、除細動を実行するタイミングを取っている。しかし、ピークを正確に計測できず、心房細動の発生の有無に関する判断を誤る虞や、除細動を実行するタイミングが正確に取れない虞があった。
【0006】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、除細動を実行するタイミングを正確に取ることのできるシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施態様は、心電図信号を受信する受信部と、制御部と、を備え、前記制御部は、前記受信部から前記心電図信号を一定周波数でサンプリングしてサンプリング値を取得する処理と、前記サンプリング値を用いて前記心電図信号におけるR波の傾きを計算する計算処理と、前記傾きの正負が反転した場合に、前記サンプリング値に基づき前記R波のピークを検出するピーク検出処理と、前記R波の周期を検出する周期検出処理と、前記周期が乱れていることを検出した場合に心房細動と判断し、心房の除細動をおこなう除細動処理と、を実行する心房細動除細動システムである。
【発明の効果】
【0008】
上記構成によれば、除細動を実行するタイミングを正確に取ることのできるシステムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態に係る心房細動除細動システムのブロック図である。
図2】実施形態に係るカテーテルの拡大図である。
図3】実施形態に係る制御の処理フローである。
図4】心電図の波形を示す図である。
図5】R波の判定に用いる式を示す図である。
図6】(a)心房細動と(b)心房粗動における心電図波形を示す図である。
図7】変形例1に係るカテーテルの拡大図である。
図8】変形例2に係る心房細動除細動システムのブロック図である。
図9】変形例3に係る心房細動除細動システムのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<実施形態>
以下、本発明の実施形態による心房細動除細動システム1を図1から図6を用いて説明する。
【0011】
心房細動除細動システム1は、図1及び図2に示すように、電源装置10、心電図取得回路23、制御回路24、インピーダンス検出回路25、スイッチング素子31~35、カテーテル40、及びスタートボタンSt1、St2を備える。また、心房細動除細動システム1は、端子(図中、白丸で示す)を介して外部の心電計装置101及びIEGM装置102と接続する。
【0012】
電源装置10は、カテーテル40に対する電力を供給する装置であり、チャージ回路11、充放電コンデンサ12、及びパルス発生回路13を備える。充放電コンデンサ12及びパルス発生回路13は、それぞれ制御回路24から電気的に絶縁されている。チャージ回路11と充放電コンデンサ12との間、及び、制御回路24とパルス発生回路13との間は、昇圧トランス(絶縁トランス)によって絶縁されており、パルス発生回路から発生するノイズがチャージ回路11及び制御回路24に流れてしまうことが防止されている。
【0013】
チャージ回路11は、充放電コンデンサ12と接続し、除細動に用いられる電圧を供給する回路である。
【0014】
充放電コンデンサ12は、除細動用電圧を充放電するコンデンサであり、パルス発生回路13に対して除細動用電圧を供給する。パルス発生回路13は、パルス電圧を、スイッチング素子31~35を介してカテーテル40へ印加する機能を有する。
【0015】
心電図取得回路23は、端子を介して心電計装置101と接続し、受信した心電図信号を制御回路24へ送信する。
【0016】
インピーダンス検出回路25は、第1電極群41と第2電極群42(後述)の間の心臓組織のインピーダンスを計測し、計測したインピーダンスを制御回路24へ送信する機能を有する。
【0017】
制御回路24は心電図取得回路23及びインピーダンス検出回路25を介して心電図信号及びインピーダンスを受信し、解析する機能を備える。
【0018】
また制御回路24は、図1に破線で示すように、スイッチング素子31~35、及びチャージ回路11と接続し、それぞれを制御する機能を有する。例えば除細動の制御については、ユーザによるスタートボタンSt1、St2の操作に基づいて開始される。制御回路24は演算装置を備えており、不図示の記憶部からプログラムを起動することによって動作し、心房細動除細動システム1の制御を行う。具体的な制御の詳細については後述する。
【0019】
スイッチング素子31~35は、それぞれ、端子a、bを介して制御回路24と接続しており、制御回路24の制御に基づき、カテーテル40に対する電圧の印加の入切を切り替える機能を有する。スイッチング素子34は、8個のスイッチング素子によって構成される。同様に、スイッチング素子35も、8個のスイッチング素子によって構成される。
【0020】
心電計装置101は、心臓の活動にともなって発生した微小な起電力を不図示の体表面に設置された電極から取得し、増幅して心電図信号として収集、計測、解析し、さらに心電図信号を制御回路24に送信する。心電計装置101は、不図示の表示装置を用いて心電図波形の表示を行う構成とすることもできる。
【0021】
IEGM装置102は、電極に感知された組織内の電気的活動を表す各心内電位図(intracardiac electrogram:IEGM)を収集、計測、解析する装置であり、ペーシング機能を有している。
【0022】
カテーテル40は、図2に示すように、第1電極群41、第2電極群42、第1チップ43、及び第2チップ44、及び絶縁体で形成される管状のチューブ45、46を備える。
【0023】
第1電極群41は、チューブ45の外周部に装着された8個の環状電極によって構成され、この8つの環状電極は、8個のスイッチング素子35にそれぞれ接続される。第1電極群41は、不図示のリード線を介してスイッチング素子35と電気的に接続される。
【0024】
第2電極群42は、チューブ46の外周部に装着された8個の環状電極によって構成され、この8つの環状電極は、8個のスイッチング素子34にそれぞれ接続される。第2電極群42は、不図示のリード線を介してスイッチング素子34と電気的に接続される。
【0025】
第1チップ43及び第2チップ44は、チューブ45、46それぞれの先端部に装着された環状電極であり、ペーシング用の電圧を心腔内に印加する機能を有する。第1チップ43及び第2チップ44は、チューブ45、46の先端部において、互いに離れた状態で配置される。第1チップ43及び第2チップ44は、不図示のリードを介して、それぞれスイッチング素子33、32に接続される。
【0026】
〔制御〕
上記のように構成された心房細動除細動システム1において、制御回路24が行う制御の詳細を、図3のフローを用いて以下に説明する。
【0027】
制御は、カテーテル40が患者の心臓の所定位置に配置された状態で実行される。医療従事者であるユーザは、第1電極群41が心臓の冠状静脈洞に配置され、第2電極群42が心臓の右房、右心耳、または上大静脈基部に配置されるよう、カテーテル40を体内に挿入する。
【0028】
制御回路24は、ユーザによるスイッチSt1及びSt2の操作を感知すると、以下のような制御を実行する。
【0029】
ステップS1において、制御回路24は、心電計装置101から受け取った心電図信号を、一定の周波数でサンプリングし、心電図信号の電圧または電位(以下、「サンプリング値」とする)と時刻を計測する。
【0030】
サンプリングの周波数は、例えば200Hzと設定される。次のステップ以降で、心筋のNaチャネル(ナトリウムチャネル)応答による応答時間を把握し、心室信号(R波)を正確に検出するためである。具体的に述べると、NaチャネルによるR波の立ち上がりからピークまでの時間は、細胞電位が約-70mV(ミリボルト)から約+30mVに変化し、約0.5~2.0ms(ミリ秒)であり、細胞電位の変化としては、最も速い変化である。体表面の心電図信号を解析する場合、心電計装置101は100Hz程度の帯域制限などが入っているため、実際の心腔内の心筋のNaチャネルの応答時間、及び電圧レベルとは異なり、R波の立ち上がり時間は大きくなるが、その場合でも2msより大きくなる程度の時間であるが、心電波形における変化時間はR波が最も早い変化を示す。このような観点より、サンプリングの周波数は、Naチャネル応答による応答時間に基づいて設定され、例えば、帯域制限が100Hzであれば、200Hz以上のサンプリング周波数が設定される。
【0031】
次に制御回路24は、取得したサンプリング値を用いて、心電図の波形の微分値を求める(S3)。具体的には図4に示すように、制御回路24は、サンプリングした値を直前のサンプリング値との間で線形補完し、波形の傾きを計算する。図4には、n-2番目からn+1番目までのサンプリング値を順次Rn-2~Rn+1として示しているが、これらの傾きは、図4及び図5の式(1)に示すように、サンプリング値(すなわち電位)の差分を、サンプリングの時間間隔dtで除することにより得ることができる。
【0032】
ステップS5において制御回路24は、R波に相当する波形が取得されたかどうかを判断する。具体的には、図5の式(2)、(3)に示すように、ステップS3で取得された波形の傾きを、閾値によって予め設定された正常な傾きの範囲と比較する。あるいは制御回路24は、図5の式(4)、(5)に示すように、傾きが正(立ち上がり)となる時間、または傾きが負(立ち下がり)となる時間を、閾値によって予め設定された正常範囲と比較する。なお、ステップS5では、式(2)~(5)の全部を満たすことを判定条件としてもよいし、一部の式を満たすことを判定条件としてもよい。
【0033】
R波の立ち上がり及び立ち下がりの時間または傾きは、Naチャネルの応答時間に従ってほぼ一定の範囲に収まる。そのため制御回路24は、立ち上がり若しくは立ち下がりの時間を正常範囲とされる時間と比較することにより、又は、立ち上がり若しくは立ち下がりの傾きが所定範囲に収まるか判断することにより、計測された波形がR波であるかどうかの判断を、正確に行うことができる。
【0034】
なお上述の、比較対象とする時間の正常範囲または傾きの所定範囲は、心電図信号を計測する個体から事前に計測されたR波の形状に基づいて、設定しておくことが可能である。あるいは、心電図波形の一般的な形状から、時間の正常範囲または傾きの所定範囲が予め設定されていてもよい。
【0035】
R波に相当する波形が取得されたとの判断がなされた場合(S5:YES)、制御回路24は、取得した波形のピークを計算する(S7)。波形のピークは、図4のサンプリング点Rのように、傾きの正負が反転したときのサンプリング値と時刻とすることができる。あるいは、立ち下がりの波形と、立ち上がりの波形の交点を計算し、ピーク位置(すなわちピークの電位と時刻)とすることができる。
【0036】
R波ではないという判断がなされた場合(S5:NO)、制御回路24は、ステップS1に処理を戻し、心電図信号のサンプリングを継続する。
【0037】
ステップS9において、制御回路24はR波の周期を計算する。R波の周期は、図4に示すように、取得された複数のR波のピークの時間間隔を順次計測することによって計算される。
【0038】
次のステップS11において、制御回路24はR波の周期が変動しているかどうかを判断する。
【0039】
R波の周期が一定の範囲に収まっている場合(S11:NO)、制御回路24は、ステップS1に処理を戻し、心電図波形のサンプリングを継続する。心臓が正常に動いている場合や、図6(b)のように心房粗動が発生している場合、R波の周期は一定である。このような場合には除細動を行う必要が無く、制御回路24は除細動を行わず、サンプリングを継続する。
【0040】
一方、R波の周期が一定の範囲に収まっていない場合(S11:YES)、図6(a)に示すように心房細動が発生していると考えられるため、制御回路24は、ステップS13において除細動を行う。
【0041】
除細動処理(S13)では、制御回路24は、電源装置10及びスイッチング素子31~35を制御し、第1電極群41及び第2電極群42から互いに逆極性のパルス電圧を心腔内に印加することによって、除細動を行う。
【0042】
除細動は、絶対不応期において実行されることが望ましい。特に、絶対不応期から相対不応期に移る期間において心室に強い電気刺激を与えること(ショックonT、ともいう)は、心室細動が誘発されてしまうため避ける必要がある。
【0043】
しかし心電計装置101の帯域フィルターなどにより信号遅延が発生し、制御回路24によるR波の検出は、実際に発生している体内の心室内電位変化より遅くなる。この信号遅延を考慮し、制御回路24は、取得した心電図波形における絶対不応期が短くなり、R波が立ち上がりから立ち下がりに変化する波形を取得したタイミングにおいて除細動を行う。これによりショックonTを避けた適切な除細動が行われる。
【0044】
除細動が実行された後、制御回路24は、正常周期の心拍数に相当する周期でペーシングパルス電圧の印加を実行し、心室の動きを正常なまま維持する(S15)。制御回路24は、第1チップ43及び第2チップ44を用いて、心腔内にパルス電圧をIEGM装置102から出力されるペーシングパルスで、正常周期の心拍数に相当する周期、例えば60回/分から90回/分の一定周波数、一定周期で印加する。詳細を述べると、電源装置10から供給されたペーシングパルス電圧は、スイッチング素子33、32を介して第1チップ43及び第2チップ44に供給される。第1チップ43及び第2チップ44からは、互いに逆極性の電圧が一定周期で心腔内に印加される。
【0045】
<効果>
実施形態による心房細動除細動システム1は、心電図信号を受信する心電図取得回路23(本発明の受信部に相当)と、制御回路24(制御部に相当)と、を備える。制御回路24は、心電図取得回路23から心電図信号を一定周期でサンプリングしてサンプリング値を取得する処理(S1)と、サンプリング値を用いて心電図信号におけるR波の傾きを計算する計算処理(S3、S5)とを実行し、傾きの正負が反転した場合に、サンプリング値に基づきR波のピークを検出する(S7)。
【0046】
上記構成ではR波のピークを正確に把握することが可能となる。そのため、心電図の波形の把握と、心房細動が発生しているかの判断を正確に実行することができる。特に、波形の傾きからR波を検出するため、R波のピーク時の電位が変動しても、R波を確実に検出することが可能である。
【0047】
例えば、波形の電位を閾値と比較することによってR波を把握する従来の方法があるが、このような方法では、R波のピークでの電位が呼吸の影響などにより変動して、前記閾値を下回った場合、R波を検出できない。また、前記、閾値を小さくしすぎると、R波以外の信号をR波と誤認したりする。さらに、外的なノイズが発生した場合や外的刺激が心臓に加わった場合に発生する、突発的に閾値を超えるような波を、R波であると誤認してしまう虞がある。
【0048】
一方、実施形態では、R波の検出を正確に実施でき、心房細動が発生していないのに除細動を行ってしまう可能性や、T波上での除細動など、誤ったタイミングでの除細動を実施してしまう可能性を低減させることできる。また、従来の方法においては、電位の閾値を設定するため個体ごとに長時間のサンプリングを行う必要があったが、上記構成ではそのような長時間のサンプリングを行う必要が無い。また、外的なノイズであれば、Naチャネルに相当するR波変化より、傾きが大きいため、R波とは区別することができる。また、心室性期外収縮のような場合にはR波の向きは逆方向であるため、最初に-方向の傾きが生じ、+方向へ傾きが生じるため、前記、心室性期外収縮のような変化は無視することが可能である。
【0049】
制御回路24は、傾きを所定範囲と比較する処理を実行し(S5)、傾きが前記所定範囲内である場合にピーク検出処理を実行する。あるいは、制御回路24は、サンプリング値に基づき、R波の立ち上がり時間または立ち下がり時間を検出し(S3)、立ち上がり時間または立ち下がり時間を正常範囲と比較する(S5)。立ち上がり時間または立ち下がり時間が正常範囲内である場合に、制御回路24は、ピーク検出処理を実行する。
【0050】
上記構成は、心筋細胞のNaチャネル応答が不変であることに着目したものである。Naチャネル応答が不変であるため、R波の立ち上がりの傾きまたは立ち下りの傾きは、必ず一定の範囲に収まる。そのため、立ち上がりの傾きまたは立ち下りの傾きが所定の範囲に収まっているかを確認することにより、R波とR波以外の波との区別を正確に実行することが可能である。例えば、心臓の不要な期外収縮が発生した場合、R波は立下り後、立ち上がりが発生する。このような場合、傾きを所定の範囲と比較することにより、正常なR波ではないと判断することができる。
【0051】
同様の理由で、R波の立ち上がり時間または立ち下り時間は、必ず一定の範囲に収まるため、立ち上がり時間または立ち下り時間が正常範囲に収まっているかを確認することによっても、R波とR波以外の波との区別を正確に実行することが可能である。
【0052】
実施形態では、サンプリングの周波数は200Hz以上とすることが望ましい、としている。
【0053】
NaチャネルによるR波の立ち上がりからピークまでの時間は、細胞電位が約-70mV(ミリボルト)から約+30mVに変化し、約0.5~2.0ms(ミリ秒)であり、細胞電位の変化としては、最も速い変化である。体表面の心電図信号を解析する場合、心電計装置101は100Hz程度の帯域制限などが入っているため、実際の心腔内の心筋のNaチャネルの応答時間、及び電圧レベルとは異なり、R波の立ち上がり時間は大きくなる、従って、体外心電波形を解析するには200Hz以上のサンプリング周波数とすることにより、正確にR波の形状を把握し、ピークを捉えることが可能となる。
【0054】
実施形態では、心腔内に挿入されて心房細動の除細動を行うカテーテル40をさらに備え、制御回路24は、R波のピークが発生する周期として算出する処理(S9)を実行する。また制御回路24は、R波の周期が一定の場合には除細動を行わず、R波の周期が変動する場合にカテーテル40を用いて除細動を行う(S11、S13)。
【0055】
上記構成では、R波の周期の変動を見て、除細動を実行する。心房細動が発生しているかどうかを正確に判断し、除細動を実行することができる。
【0056】
制御回路24は、除細動処理において、絶対不応期内に上記除細動を行う。また、制御回路24は、除細動処理において、心電図信号の遅延を考慮し、絶対不応期が短くなり、かつ、R波が立ち下がる波形を取得したタイミングで除細動を行う。
【0057】
除細動は、絶対不応期において実行されることが望ましい。特に絶対不応期から相対不応期に移る期間において心室に強い電気刺激を与えること、すなわちショックonTは、心室細動が誘発されてしまうため避ける必要がある。実施形態では、上記のような構成とすることによってショックonTを避け、適切なタイミングで除細動を行うことが可能となる。
【0058】
制御回路24は、除細動処理の後、IEGM装置102から出力されるペーシングパルス、例えば60回/分から90回/分のペーシングパルスを、カテーテル40の第1チップ43及び第2チップ44から心腔内に印加する処理を実行する(S13)ことが可能である。
【0059】
カテーテル40がペーシングパルス専用の電極である第1チップ43及び第2チップ44を有しているため、心腔内の適切な位置においてペーシングパルス電圧を印加することが可能である。
【0060】
上記実施形態において、カテーテル40は、絶縁性のチューブ45と、チューブ45に装着された複数のリング状電極から構成される第1、第2電極群41、42とを有する。第1、第2電極群41、42は、心臓の冠状静脈洞に配置される第1電極群41と、心臓の右房、右心耳、または上大静脈基部に配置される第2電極群42とを有する。
【0061】
また心房細動除細動システム1は、除細動用電圧をチャージするためのチャージ回路11と、制御回路24と電気的に絶縁され、除細動用電圧を充放電するコンデンサ12と、制御回路24と電気的に絶縁され、第1、第2電極群41、42へパルスを出力するパルス発生回路13と、を有する電源装置10をさらに備える。
【0062】
上記構成では、制御回路24が除細動用電圧を流す回路から絶縁されるため、制御回路24にノイズが発生することが防止される。そのため、正確な作業、解析、制御の実施が可能となる。
【0063】
<変形例1>
上記実施形態では、カテーテル40は、第1電極群41が装着されたチューブ45と、第2電極群42が装着されたチューブ46との2つのカテーテル部材を備えていた。本発明は、カテーテルの形状を限定するものではなく、図7に示すように、絶縁体からなる1本のチューブ47に、第1電極群41及び第2電極群42、並びに第1チップ43及び第2チップ44を配置する構成とすることもできる。このような構成としても、第1電極群41を冠状静脈に、第2電極群42を右心房近傍に配置することにより、上記実施形態において説明した技術的効果と同様の効果を得ることが可能である。
【0064】
<変形例2>
上記実施形態では、心電計装置101を、心房細動除細動システムの内部に取り込んだ構成にすることも可能である。この場合には、図8に変形例2として示すように、体表面に留置された電極から心電計装置101を介して、心電波形を得るのではなく、心電図取得回路23に、心内の心電信号取得のための帯域制限、および増幅回路を追加することにより、実現可能である。
【0065】
<変形例3>
上記、実施形態では、心電計装置101もしくはIEGM装置102のペーシング機能を使わずに、心内心電波形を検出して、心房細動除細動システムの内部に取り込んだ構成にすることも可能である。この場合には、図9に変形例3として示すように、第1チップ43若しくは第2チップ44から、心内心電信号を検出するため、スイッチング素子32、33を端子a側の接続に切替え、心電図取得回路23へ入力することにより、実現可能である。また、除細動実施後、ペーシングを行う場合は、スイッチング素子32,33を端子b側の接続に切替え、制御回路24からペーシングパルスを出力することにより、実現する。
【0066】
上記の実施形態もしくは変形例は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。また、本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更や改良され得るとともに、本発明にはその等価物が含まれるのはいうまでもない。
【符号の説明】
【0067】
心電計装置21、IEGM装置22、心電図取得回路23、制御回路24、チャージ回路11、充放電コンデンサ12、パルス発生回路13、インピーダンス検出回路25、スイッチング素子31~35、第1チップ43、第2チップ44、第1電極群41、第2電極群42
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9