(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022117218
(43)【公開日】2022-08-10
(54)【発明の名称】電動補助自転車及びモータ制御装置
(51)【国際特許分類】
B62M 6/50 20100101AFI20220803BHJP
B62M 6/55 20100101ALI20220803BHJP
B62J 45/415 20200101ALI20220803BHJP
B62J 45/414 20200101ALI20220803BHJP
B62J 45/413 20200101ALI20220803BHJP
B62J 45/412 20200101ALI20220803BHJP
【FI】
B62M6/50
B62M6/55
B62J45/415
B62J45/414
B62J45/413
B62J45/412
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021013800
(22)【出願日】2021-01-29
(71)【出願人】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104444
【弁理士】
【氏名又は名称】上羽 秀敏
(74)【代理人】
【識別番号】100132506
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 哲文
(72)【発明者】
【氏名】金原 悠貴
(57)【要約】
【課題】電動補助自転車において、カーブ走行時におけるアシストフィーリングを改善する。
【解決手段】電動補助自転車10は、車体の路面に対する姿勢の変化を検出する車体運動センサ63と、ペダルの踏力を検出するトルクセンサ62と、踏力を補助する補助力を発生させるモータ3と、踏力に応じてモータ3の補助力を制御するモータ制御部5と、車体運動センサ63から得られる情報により、電動補助自転車10が、車体を直立状態から左右方向に所定角度以上傾けた状態で急カーブを走行していることを検出する急カーブ走行検出部6と、を備える。モータ制御部5は、急カーブ走行検出部6の検出結果に応じて補助力を制御する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動補助自転車の車体の路面に対する姿勢の変化を検出する車体運動センサと、
前記電動補助自転車のクランク軸に接続されたペダルの踏力を検出するトルクセンサと、
前記踏力を補助する補助力を発生させるモータと、
前記踏力に応じて前記モータの前記補助力を制御するモータ制御部と、
前記車体運動センサから得られる情報により、前記電動補助自転車が、車体を直立状態から左右方向に所定角度以上傾けた傾斜状態で急カーブを走行していることを検出する急カーブ走行検出部と、を備え、
前記モータ制御部は、前記急カーブ走行検出部の検出結果に応じて前記補助力を制御する、電動補助自転車。
【請求項2】
請求項1に記載の電動補助自転車であって、
前記急カーブ走行検出部は、前記電動補助自転車が、前記車体の前部が上方に後部が下方に向かう方向のピッチ角速度が増加するよう前記車体を直立状態から左右方向に所定角度以上傾けた傾斜状態で急カーブを走行していることを検出する、電動補助自転車。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電動補助自転車であって、
前記急カーブ走行検出部は、前記車体運動センサから得られる、前記電動補助自転車の(ヨー角又はヨー角速度)、(ロール角又はロール角速度)、及び、(ピッチ角又はピッチ角速度)のうち少なくとも2つを基に、前記電動補助自転車が前記傾斜状態で急カーブを走行していることを検出する、電動補助自転車。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の電動補助自転車であって、
前記急カーブ走行検出部は、前記電動補助自転車のヨー角又はヨー角速度が第1閾値以上であり、前記電動補助自転車のピッチ角又はピッチ角速度が第2閾値以上である場合に、前記電動補助自転車が前記傾斜状態で急カーブを走行していることを検出する、電動補助自転車。
【請求項5】
請求項4に記載の電動補助自転車であって、
前記第1閾値及び前記第2閾値の少なくとも1つは、前記電動補助自転車の車速によって変化する、電動補助自転車。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の電動補助自転車であって、
前記モータ制御部は、前記電動補助自転車が前記傾斜状態で急カーブを走行していることが検出された場合と、検出されていない場合とで、前記踏力に応じた前記補助力の制御を異ならせる、電動補助自転車。
【請求項7】
請求項6に記載の電動補助自転車であって、
前記モータ制御部は、前記電動補助自転車が前記傾斜状態で急カーブを走行していることが検出された時は、検出されていない時に比べて、前記踏力に応じた前記補助力が小さくなるよう前記モータを制御する、電動補助自転車。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の電動補助自転車であって、
前記急カーブ走行検出部は、前記電動補助自転車の前記傾斜状態での急カーブの走行の開始と終了を検出し、
前記モータ制御部は、前記電動補助自転車の前記傾斜状態での急カーブの走行の開始及び終了の少なくとも1つに基づく期間において、前記踏力に応じた前記補助力の制御を異ならせる、電動補助自転車。
【請求項9】
請求項8に記載の電動補助自転車であって、
前記モータ制御部は、前記電動補助自転車の前記傾斜状態での急カーブの走行の終了の後の所定期間において、前記踏力に応じた前記補助力の制御を異ならせる、電動補助自転車。
【請求項10】
電動補助自転車のペダルの踏力を補助する補助力を発生させるモータを制御するモータ制御装置であって、
前記ペダルの踏力を検出するトルクセンサで検出された前記踏力に応じて前記モータの前記補助力を制御するモータ制御部と、
前記電動補助自転車の車体の路面に対する姿勢の変化を検出する車体運動センサから得られる情報により、前記電動補助自転車が、車体を直立状態から左右方向に所定角度以上傾けた傾斜状態で急カーブを走行していることを検出する急カーブ走行検出部と、を備え、
前記モータ制御部は、前記急カーブ走行検出部の検出結果に応じて前記補助力を制御する、モータ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動補助自転車及び電動補助自転車のモータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電動補助自転車は、モータにより、乗員のペダルの踏力を補助する補助力を発生させる。モータの補助力は、踏力に応じて制御される。踏力に加えて、電動補助自転車が備えるセンサからの情報を基に、モータの補助力が制御される場合もある。
【0003】
特開2019-116241号公報には、電動アシスト機能の駆動源となるモータと、直交3軸の各軸方向の加速度及び3軸の軸回りの角速度を測定する6軸センサと、6軸センサの測定結果に基づいてモータの出力制御をする制御部とを備える自転車が開示されている。
【0004】
特開2019-137231号公報には、車両の推進をアシストするモータを制御し、車両の走行速度が所定速度未満の場合に、人力駆動力に応じてモータを駆動する制御部を備えた人力駆動車両用制御装置が開示されている。この制御部は、車両の状態および走行路の状態の少なくとも一方に応じて所定速度を変化させ、車両の走行速度が所定速度以上になると車両の推進をアシストしない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-116241号公報
【特許文献2】特開2019-137231号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
自転車の走行状態としては、様々な走行状態が想定される。発明者は、個々の走行状態について、モータによる踏力の補助によるアシストフィーリングの改善を検討した。検討において、自転車が、カーブを走行中において、補助力が加わり、走行ラインが旋回外側へ振れる感覚を乗員が感じる場合があることがわかった。また、自転車の旋回中は、乗員は、ペダルを踏まないことが多い。そのため、旋回中又は旋回後にアシスト不足を乗員が感じる場合があることもわかった。
【0007】
そこで、本願は、カーブ走行時におけるアシストフィーリングを改善できる電動補助自転車を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施形態における電動補助自転車は、電動補助自転車の車体の路面に対する姿勢の変化を検出する車体運動センサと、前記電動補助自転車のクランク軸に接続されたペダルの踏力を検出するトルクセンサと、前記踏力を補助する補助力を発生させるモータと、前記踏力に応じて前記モータの前記補助力を制御するモータ制御部と、前記車体運動センサから得られる情報により、前記電動補助自転車が、車体を直立状態から所定角度以上傾けた状態で急カーブを走行していることを検出する急カーブ走行検出部と、を備える。前記モータ制御部は、前記急カーブ走行検出部の検出結果に応じて前記補助力を制御する。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、電動補助自転車において、カーブ走行時におけるアシストフィーリングを改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本実施形態における電動補助自転車を示す左側面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す電動補助自転車の構成例を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、本実施形態におけるモータ制御装置4の構成例を示す図である。
【
図4】
図4は、
図3に示すモータ制御装置4の動作例を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、
図4のS12及びS13の処理の例を示すフローチャートである。
【
図6】
図6は、電動補助自転車のヨー角速度、ロール角速度、及びピッチ角速度の時間変化の一例を示す図である。
【
図7】
図7は、ヨー角速度、ピッチ角速度、及び、急カーブ検出結果の時間変化の一例を示すグラフである。
【
図8】
図8は、電動補助自転車が走行したルートの軌跡をプロットした図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
発明者は、カーブ走行時におけるアシストフィーリングを改善するための構成について検討した。様々なカーブ走行の状態について、乗員のアシストフィーリングを検討した。検討の結果、車体を直立状態から傾けた状態で急カーブを走行する場合に、特に、モータ制御の調整が必要になる場合が多いことがわかった。すなわち、電動補助自転車が、車体を直立状態から傾ける程度に急なカーブを走行する場合に、モータによる補助力の制御を調整することで、アシストフィーリングを改善できることを見出した。この知見を基に、下記の実施形態に想到した。
【0012】
本発明の実施形態における電動補助自転車は、電動補助自転車の車体の路面に対する姿勢の変化を検出する車体運動センサと、前記電動補助自転車のクランク軸に接続されたペダルの踏力を検出するトルクセンサと、前記踏力を補助する補助力を発生させるモータと、前記踏力に応じて前記モータの前記補助力を制御するモータ制御部と、前記車体運動センサから得られる情報により、前記電動補助自転車が、車体を直立状態から所定角度以上傾けた状態で急カーブを走行していることを検出する急カーブ走行検出部と、を備える。前記モータ制御部は、前記急カーブ走行検出部の検出結果に応じて前記補助力を制御する。
【0013】
上記構成によれば、急カーブ走行検出部は、電動補助自転車が、車体を直立状態から左右方向に所定角度以上傾ける程度に急なカーブを走行することを検出することができる。モータ制御部は、このような急カーブ走行の検出結果に応じて、踏力に応じたモータの補助力を制御する。これにより、補助力の調整が活かせる程度に急なカーブ走行において、カーブ走行に適したモータ制御ができる。その結果、カーブ走行におけるアシストフィーリングを改善することができる。
【0014】
急カーブ走行検出部は、電動補助自転車が、車体を直立状態から左方向又は右方向のうち旋回する方向へ所定角度以上傾けた状態で急カーブを走行していることを検出する。所定角度は、カーブに特化したモータ制御が活かされやすい急カーブを走行する際の傾斜角度の下限である。すなわち、補助力制御の観点から、電動補助自転車が急カーブを走行していると判断するために基準となる傾斜角度である。所定角度は、特に限定されないが、例えば、少なくとも、10度とすることができる。この所定角度は、電動補助自転車の車速によって変化してもよい。なお、この車体を左右方向に所定角度以上傾けて急カーブを走行していることを検出するために用いられる車体運動センサの情報は、例えば、車体のヨー角、ロール角、又はピッチ角のいずれかに関する物理量とすることができる。例えば、急カーブ走行検出部は、角速度センサから得られるロール角又はロール角速度を用いて、車体を直立状態から所定角度以上傾けた状態で急カーブを走行していることを検出することができるが、検出の形態はこれに限られない。この検出には、必ずしも、ロール角に関する物理量を用いなくてもよい。
【0015】
直立状態とは、電動補助自転車の車体(車体フレーム)の上下方向が、重力方向に対して一致する状態である。車体を直立状態から左右方向に傾けた状態は、車体の上下方向の軸が、重量方向に対して左又は右に傾いている状態である。
【0016】
モータ制御部は、急カーブ検出部が急カーブ走行を検出した場合に、急カーブに特化した補助力の制御、すなわち急カーブ用の補助力の制御をすることができる。例えば、急カーブ検出部が急カーブ走行を検出した場合、モータ制御部は、急カーブ検出部が急カーブ走行を検出していない場合とは、異なるモータの制御を行ってもよい。モータの制御を異ならせる形態として、例えば、踏力に応じた補助力の決定の仕方を異ならせる形態が挙げられる。この場合、踏力に応じた補助力の制御の仕方が、急カーブ走行検出時と、非検出時とで、異なる。なお、踏力に応じた補助力の制御の仕方が、急カーブ走行検出時と、非検出時とで同じになる場合があってもよい。
【0017】
なお、踏力に応じた補助力の制御の変更は、例えば、踏力に応じた補助力の波形の変更、踏力に対する補助力の大きさ(アシスト比)の変更、踏力の変化に対する補助力の変化の応答性の変更、アシストモードの変更、補助力の上限の変更、その他のアシストの条件の変更を含む。
【0018】
車体運動センサは、電動補助自転車の車体のヨー角速度、ピッチ角速度、及びロール角速度のうち少なくとも2つ、及び/又は、車体の前後方向の加速度、左右方向の加速度、及び上下方向の加速度のうち少なくとも2つを検出するセンサであってもよい。車体運動センサは、車体のヨー角速度、ピッチ角速度、及びロール角速度のうち少なくとも2つを検出する角速度センサ、又は、車体の前後方向の加速度、左右方向の加速度、及び上下方向の加速度のうち少なくとも2つを検出する加速度センサを含んでもよい。或いは、車体運動センサは、角速度センサ及び加速度センサの両方を含んでもよい。
【0019】
前記急カーブ走行検出部は、前記電動補助自転車が、前記車体の前部が上方に後部が下方に向かう方向のピッチ角速度が増加するよう前記車体を直立状態から左右方向に所定角度以上傾けた傾斜状態で急カーブを走行していることを検出するよう構成されてもよい。
【0020】
発明者は、電動補助自転車が、車体前部が上方へ向かう方向のピッチ角速度が増加する程度に車体を傾けて急カーブを走行する場合に、急カーブに特化したモータ制御が有効であることを見出した。そのため、ピッチ角速度が増加するよう車体を傾けて急カーブを走行していることを検出した場合に、その検出結果に応じて補助力を制御することで、簡単な構成で、カーブ走行時におけるアシストフィーリングを効率良く改善することができる。
【0021】
前記急カーブ走行検出部は、前記車体運動センサから得られる、前記電動補助自転車の(ヨー角又はヨー角速度)、(ロール角又はロール角速度)、及び、(ピッチ角又はピッチ角速度)のうち少なくとも2つを基に、前記電動補助自転車が前記傾斜状態で急カーブを走行していることを検出してもよい。これにより、車体運動センサの情報を用いて、効率よく傾斜状態での急カーブ走行を検出することができる。
【0022】
前記急カーブ走行検出部は、前記電動補助自転車のヨー角又はヨー角速度が第1閾値以上であり、前記電動補助自転車のピッチ角又はピッチ角速度が第2閾値以上である場合に、前記電動補助自転車が前記傾斜状態で急カーブを走行していることを検出してもよい。この場合、ヨー角又はヨー角速度の大きさにより、電動補助自転車がカーブを走行しているか否かを判断できる。さらに、ピッチ角又はピッチ角速度により、車体を立てた状態(直立状態)でカーブを走行しているのか、車体を傾けた状態でカーブを走行しているのか(すなわち急カーブを走行しているのか)を、切り分けることができる。これにより、車体運動センサの情報を用いて、より効率よく傾斜状態での急カーブ走行を検出することができる。
【0023】
前記第1閾値及び前記第2閾値の少なくとも1つは、前記電動補助自転車の車速によって変化するものであってもよい。これにより、電動補助自転車の車速を考慮して、傾斜状態での急カーブの走行を検出することができる。この場合、電動補助自転車は、電動補助自転車の進行方向(車体の前後方向)の速度を検出する車速センサを備えてもよい。
【0024】
前記モータ制御部は、前記電動補助自転車が前記傾斜状態で急カーブを走行していることが検出された場合と、検出されていない場合とで、前記踏力に応じた前記補助力の制御を異ならせてもよい。これにより、電動補助自転車が、車体を傾けて急カーブを走行している場合に、踏力に応じた補助力を変化させることで、カーブ時のアシストフィーリングを改善することができる。
【0025】
前記モータ制御部は、前記電動補助自転車が前記傾斜状態で急カーブを走行していることが検出された時は、検出されていない時に比べて、前記踏力に応じた前記補助力が小さくなるよう前記モータを制御してもよい。これにより、傾斜状態での急カーブ走行中におけるアシストを抑えることができる。例えば、傾斜状態での急カーブ走行中の強めに感じるアシストにより、走行ラインが旋回の外側に振れるように乗員が感じることを避けることができる。
【0026】
前記急カーブ走行検出部は、前記電動補助自転車の前記傾斜状態での急カーブの走行の開始と終了を検出してもよい。この場合、前記モータ制御部は、前記電動補助自転車の前記傾斜状態での急カーブの走行の開始及び終了の少なくとも1つに基づく期間において、前記踏力に応じた前記補助力の制御を異ならせることができる。これにより、適切なタイミングで、急カーブに適した補助力の制御が可能になる。そのため、効率よくカーブ走行時のアシストフィーリングを改善できる。
【0027】
前記モータ制御部は、前記電動補助自転車の前記傾斜状態での急カーブの走行の終了の後の所定期間において、前記踏力に応じた前記補助力の制御を異ならせてもよい。これにより、傾斜状態での急カーブ走行の終了後、一定期間において、急カーブ走行に特化した補助力の制御ができる。そのため、急カーブ直後のアシストフィーリングを改善することができる。
【0028】
電動補助自転車のペダルの踏力を補助する補助力を発生させるモータを制御するモータ制御装置も、本発明の実施形態に含まれる。前記モータ制御装置は、前記ペダルの踏力を検出するトルクセンサで検出された前記踏力に応じて前記モータの前記補助力を制御するモータ制御部と、前記電動補助自転車のヨー角速度、ピッチ角速度、及びロール角速度のうち少なくとも2つを検出する角速度センサから得られる情報により、前記電動補助自転車が、車体を直立状態から左右方向に所定角度以上傾けた傾斜状態で急カーブを走行していることを検出する急カーブ走行検出部と、を備える。前記モータ制御部は、前記急カーブ走行検出部の検出結果に応じて前記補助力を制御する。
【0029】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態による電動補助自転車について説明する。図中、同一又は相当部分には、同一符号を付して、その部材についての説明は繰り返さない。また、各図中の構成部材の寸法は、実際の構成部材の寸法及び各構成部材の寸法比率等を忠実に表したものではない。なお、以下の説明において、電動補助自転車の前後、左右、上下は、乗員が、サドル(シート24)に着座し且つハンドル23を握った状態を基準とした前後、左右、及び上下を意味する。電動補助自転車の前後、左右、及び上下の各方向は、電動補助自転車の車体すなわち車体フレームの前後、左右及び上下の各方向と同じである。また、電動補助自転車の進行方向は、電動補助自転車の前後方向と同じである。以下の実施形態は例示であり、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0030】
<電動補助自転車の全体構成例>
図1は、本実施形態における電動補助自転車10を示す左側面図である。
図1における符号F、B、U、Dは、それぞれ前、後、上、下を表す。
【0031】
図1に示すように、電動補助自転車10は、車体フレーム11を有する。車体フレーム11は、前後方向に延びている。車体フレーム11は、ヘッドパイプ12、アッパフレーム13u、ダウンフレーム13d、シートフレーム14、一対のチェーンステイ16、及び一対のシートステイ17を有している。ヘッドパイプ12は、電動補助自転車10の前部に配置されている。ヘッドパイプ12には、ダウンフレーム13d及びアッパフレーム13uの前端が接続されている。ダウンフレーム13d及びアッパフレーム13uは、前後方向に延びている。ダウンフレーム13d及びアッパフレーム13uは、斜め下方に向かって延びている。アッパフレーム13uは、ダウンフレーム13dより上に位置する。アッパフレーム13uの後端は、シートフレーム14に接続される。ダウンフレーム13dの後端は、ブラケット15に接続される。シートフレーム14の下端はブラケット15に接続される。シートフレーム14は、ブラケット15から上方且つ斜め後方に向かって延びている。なお、車体フレーム11は、アッパフレーム13uがない構成であってもよい。
【0032】
ヘッドパイプ12には、ハンドルステム(ステアリングカラム)25が回転自在に挿入されている。ハンドルステム25の上端には、ハンドル23が固定されている。ハンドルステム25の下端には、フロントフォーク26が固定されている。フロントフォーク26の下端には、前輪21が車軸27によって回転可能に支持されている。
【0033】
ハンドル23の左右端には、それぞれグリップが取り付けられている。ハンドル23の左部には、左のブレーキレバー74が取り付けられ、ハンドル23の右部には、右のブレーキレバー74が取り付けられている。左のブレーキレバー74は、後輪22のブレーキ76を操作するためのレバーである。右のブレーキレバー74は、前輪21のブレーキ75を操作するためのレバーである。
【0034】
円筒状のシートフレーム14には、シートパイプ28が挿入されている。シートパイプ28の上端には、シート24が設けられている。このように、車体フレーム11は、前部で、ハンドルステム25を回転可能に支持し、後部で、後輪22を回転可能に支持する。また、車体フレーム11には、シート24及び駆動ユニット40が取り付けられる。
【0035】
ブラケット15の後端には、一対のチェーンステイ16が接続されている。一対のチェーンステイ16は、後輪22を左右から挟むように配置されている。各チェーンステイ16の後端には、それぞれシートステイ17の一方の端部が接続されている。一対のシートステイ17は、後輪22を左右から挟むように配置されている。各シートステイ17の他方の端部は、それぞれ、シートフレーム14の上部に接続されている。一対のチェーンステイ16の後端には、後輪22が車軸29によって回転可能に支持されている。
【0036】
フロントフォーク26には、前輪21の回転を検出する車速センサ(スピードセンサ)61が設けられている。車速センサ61は、例えば、前輪21とともに回転する被検出素子と、車体フレーム11に対して固定され、被検出素子の回転を検出する検出素子を有する。検出素子は、機械的、磁気的又は光学的に被検出素子を検出する。なお、車速センサ61は、前輪21に限らず、例えば、後輪22、モータ3、クランク軸41、伝達ギヤ、チェーン等、電動補助自転車10の進行に伴って回転する回転体の回転を検出するものであってもよい。
【0037】
車体フレーム11には、車体運動センサ63が取り付けられる。車体運動センサ63は、例えば、車体フレーム11(車体)の角速度を検出する角速度センサ(ジャイロセンサ)であってもよい。又は、車体運動センサ63は、車体フレーム11(車体)の加速度を検出する加速度センサであってもよい。又は、車体運動センサ63は、角速度センサ及び加速度センサを含む6軸センサであってもよい。車体運動センサ63は、車体フレーム11に対して固定される。車体運動センサ63の取り付け位置は、ダウンフレーム13dに限られない。例えば、アッパフレーム13u等の他のフレーム、ブラケット15、又は、駆動ユニット40に、車体運動センサ63が取り付けられてもよい。
【0038】
ブラケット15の下に、駆動ユニット40が、締結金具(図示略)により取り付けられる。駆動ユニット40は、駆動ユニット40の外形を形成するハウジング51を有する。ハウジング51内に、モータ3が格納される。ハウジング51には、クランク軸41が左右方向に貫通している。クランク軸41は、ハウジング51に対して複数の軸受を介して回転可能に支持されている。
【0039】
クランク軸41の周りには、乗員の踏力を検出するトルクセンサ62が設けられる。トルクセンサ62は、クランク軸41を軸周りに回転させるトルクを検出する。トルクセンサ62は、例えば、磁歪式のような非接触式、又は、弾性体変量検出式のような接触式のトルクセンサを用いることができる。磁歪式トルクセンサは、磁歪効果を有し、クランク軸の回転力を受ける磁歪材と、磁歪材の力による透磁率の変化を検出する検出コイルを有する。
【0040】
クランク軸41の両端には、クランクアーム31が取り付けられている。クランクアーム31の先端には、それぞれ、ペダル33が取り付けられている。乗員がペダル33を踏み込むことにより、クランク軸41が回転する。図示しないが、電動補助自転車10には、クランク軸41とともに回転する駆動スプロケットと、後輪22とともに回転する従動スプロケットが設けられる。駆動スプロケットと、従動スプロケットの間にチェーン46が巻き掛けられている。なお、チェーン46の代わりに、ベルト又はシャフト等が用いられてもよい。従動スプロケットから後輪22への回転の伝達経路上には、ワンウェイクラッチ49(
図2参照)が設けられる。ワンウェイクラッチ49は、前転方向の回転(順回転)を伝達し、後転方向の回転(逆回転)を伝達しない。
【0041】
駆動ユニット40内には、モータ3の回転を、駆動スプロケット(又はチェーン46)へ伝達する伝達機構(図示略)が設けられる。伝達機構は、例えば、減速機(減速ギヤ)42(
図2参照)を含む。減速機42により、モータの回転が減速されて駆動スプロケットへ伝達される。また、伝達機構は、クランク軸41の回転とモータ3の回転を合成して駆動スプロケットへ伝達する合成機構を含む。合成機構は、例えば、筒状部材を有する。筒状部材の内部にクランク軸41が配置される。合成機構には、駆動スプロケットが取り付けられる。合成機構は、クランク軸41及び駆動スプロケットと同じ回転軸を中心にして回転する。クランク軸41から合成機構への回転の伝達経路上、及び、モータ3から合成機構への回転の伝達経路上には、ワンウェイクラッチ43、44(
図2参照)が設けられてもよい。モータ3から伝達機構を経て駆動スプロケットへ伝達される回転力が、モータ3の補助力となる。
【0042】
ダウンフレーム13dには、バッテリユニット35が配置されている。バッテリユニット35は、駆動ユニット40のモータ3に電力を供給する。バッテリユニット35は、図示しないバッテリ及び電池制御部を有する。バッテリは、充放電可能な充電池である。電池制御部は、バッテリの充放電を制御するとともに、バッテリの出力電流及び残容量等を監視する。なお、バッテリユニット35は、シートフレーム14又はアッパフレーム13uに配置されてもよい。
【0043】
ハンドル23には、表示装置37が設けられている。表示装置37は、例えば、ディスプレイ及びユーザ操作を受け付けるボタン、又はタッチパネル等の入力部を有する。表示装置37は、電動補助自転車10に関する各種情報を表示する。なお、表示装置37は、省略されてもよい。
【0044】
図2は、
図1に示す電動補助自転車10の構成要素の機械的及び電気的な接続構成の例を示すブロック図である。
図2に示す例では、ペダルクランク(ペダル33、クランクアーム31及びクランク軸41を含む)の回転は、ワンウェイクラッチ43を介して合力動力伝達経路45に伝達される。モータ3の回転は、減速機42及びワンウェイクラッチ43を介して合力動力伝達経路45に伝達される。合力動力伝達経路45は、上記の合成機構、駆動スプロケット、チェーン46、及び従動スプロケットを含む。合力動力伝達経路45では、合成機構、駆動スプロケット、チェーン46、及び従動スプロケットの順に動力が伝達される。従動スプロケットの回転は、駆動軸47、変速機構48、ワンウェイクラッチ49を介して後輪22へ伝達される。
【0045】
変速機構48は、乗員による変速操作器38の操作に応じて変速比を変更する機構である。変速操作器38は例えばハンドル23(
図1)に取り付けられる。この例では、変速機構48は、駆動軸47と後輪22の間に設けられる内装変速機であるが、変速機構48は外装変速機であってもよい。変速機構48が外装変速機である場合は、従動スプロケットとして多段スプロケットが用いられ得る。この場合、変速操作器38の操作に応じてチェーン46が巻き掛けられる多段スプロケットが切り替わる。ワンウェイクラッチ49は、変速機構48の出力軸の回転速度が後輪22の回転速度よりも速い場合にのみ、変速機構48の回転を後輪22に伝達する。変速機構48の出力軸の回転速度が後輪22の回転速度よりも遅い場合には、ワンウェイクラッチ49は変速機構48の回転を後輪22に伝達しない。なお、変速機構48及び変速操作器38は、省略してもよい。
【0046】
乗員がペダル33を踏み込むことにより発生する踏力は、駆動スプロケットを前転方向に回転させ、チェーン46を介して後輪22を前転方向に回転させる駆動力として伝達される。また、モータ3が作動することにより発生する回転力は、クランク軸41を前転方向に回転させる。これにより、乗員がペダル33を踏み込んで発生させる踏力を、モータ3から出力される回転力がアシスト(補助)する。
【0047】
電動補助自転車10は、モータ3を制御するモータ制御装置4を有する。例えば、駆動ユニット40のハウジング51内の基板に実装された電子機器により、モータ制御装置4が構成される。電子機器は、例えば、プロセッサ又は電子回路を有する。モータ制御装置4は、少なくとも、トルクセンサ62、車体運動センサ63及びモータ3と電気的に接続される。
図2に示す例では、モータ制御装置4は、クランク回転センサ64、モータ回転センサ65及び車速センサ61に接続される。これらの接続は、有線であっても無線であってもよい。
【0048】
クランク回転センサ64は、クランク軸41の回転を検出する。クランク回転センサ64は、例えば、クランク軸41とともに回転する被検出素子と、車体フレーム11に対して固定され、被検出素子の回転を検出する検出素子を有してもよい。検出素子は、機械的、光学的又は磁気的に、被検出素子を検出することができる。
【0049】
モータ回転センサ65は、モータ3の回転を検出する。モータ回転センサ65は、モータ3の回転子(ロータ)の回転を検出する構成であってもよいし、モータ3の電流、電圧その他電気信号に基づいて回転を検出する構成であってもよい。
【0050】
なお、モータ3による補助力の伝達機構は、上記例に限られない。例えば、駆動ユニット40は、ハウジング51の中から外へ左右方向に伸びる出力軸を有してもよい。この場合、モータ3の回転は、伝達機構により出力軸に伝達される。ハウジング51の外において、出力軸に、補助スプロケットが取り付けられる。補助スプロケットはチェーン46に巻き掛けられる。モータ3が作動することにより発生する回転力は、補助スプロケットを回転させ、チェーン46を介して後輪22を前転方向に回転させる。
【0051】
<モータ制御装置の構成例>
図3は、モータ制御装置4の構成例を示す図である。
図3に示す例では、モータ制御装置4は、モータ制御部(モータコントローラ)5、急カーブ走行検出部6を備える。モータ制御部5は、少なくとも、トルクセンサ62で検出された踏力Tに応じてモータ3の補助力を制御する。急カーブ走行検出部6は、車体運動センサ63から得られる情報により、電動補助自転車10が、車体を直立状態から所定角度以上傾けた状態で急カーブを走行していることを検出する。
【0052】
モータ制御装置4は、一例として、MCU(Motor Control Unit)である。モータ制御装置4は、例えば、プロセッサ、メモリ、モータ駆動回路、及び、モータ監視部を備える。プロセッサは、メモリのプログラムを実行することにより、モータ制御部5、及び、急カーブ走行検出部6の機能を実現することができる。なお、モータ制御部5、及び、急カーブ走行検出部6の少なくとも一部の機能は、プロセッサ以外の回路により実現されてもよい。
【0053】
モータ制御部5の機能を実現するために、プロセッサは、踏力Tを入力し、モータ3に対する制御信号を出力する。モータ駆動回路が、制御信号に従って動作することで、モータ3が駆動される。モータ駆動回路は、例えばインバータである。プロセッサからの制御信号に応じた電力をバッテリユニット35からモータ3に供給する。電力が供給されたモータ3は回転し、モータ制御部5により制御された駆動補助出力を発生させる。
【0054】
モータ監視部は、モータ3の電流、電圧、回転数、回転速度、等のモータ3の駆動に関する値を検出する。プロセッサ又はモータ駆動回路は、モータ監視部で検出された値を用いて、処理を実行又は動作してもよい。モータ監視部は、モータ回転センサ65からモータの回転数又は回転速度等のモータの回転を示す値を取得することができる。
【0055】
車速センサ61は、前輪21(又は他の回転体)の回転角を検出し、回転角に応じた信号をモータ制御装置4へ出力する。例えば、車速センサ61は、前輪21の回転を所定の角度毎に検出し、矩形波信号又は正弦波信号を出力する。プロセッサは、車速センサ61の出力信号から前輪21の回転速度を算出する。なお、回転速度の算出を車速センサ61が実行するよう構成されてもよい。
【0056】
トルクセンサ62は、検出したトルクの大きさに応じた振幅の電圧信号を出力する。トルクセンサ62は、電圧信号をトルク値に換算するトルク演算回路を有していてもよい。トルク演算回路は、例えば、出力されたアナログ電圧信号をAD変換によってデジタル値に変換する。検出されたトルクの大きさは、デジタル信号として外部に出力される。なお、モータ制御装置4が、トルクセンサ62からアナログ信号を受け取ってデジタル値に変換するよう構成されてもよい。
【0057】
車体運動センサ63は、車体(すなわち車体フレーム)の姿勢の変化を示す値又は信号を出力する。車体運動センサ63は、例えば、車体のヨー角、ロール角及びピッチ角の少なくとも2つの角度又は角速度を出力する。車体運動センサ63が6軸センサの場合、車体運動センサ63は、車体のヨー角速度、ロール角速度及びピッチ角速度、並びに、車体の前後方向の加速度、左右方向の加速度、及び、上下方向の加速度を出力する。車体運動センサ63は、検出された電気信号から、ヨー角速度、ロール角速度及びピッチ角速度又はこれらの角度を算出する回路を有してもよい。或いは、モータ制御装置4が、車体運動センサ63からの値又は信号を受け取って、ヨー角速度、ロール角速度及びピッチ角速度又はこれらの角度に変換するよう構成されてもよい。
【0058】
<動作例>
図4は、
図3に示すモータ制御装置4の動作例を示すフローチャートである。モータ制御装置4は、
図4に示す処理を、周期的に繰り返し実行することができる。
図4において、モータ制御装置4は、トルクセンサ62で検出された踏力Tを取得する(S11)。モータ制御装置4は、車体運動センサ63で検出された車体の傾斜角又はその角速度を取得する(S12)。
【0059】
急カーブ走行検出部6は、S12で取得した車体の傾斜角又はその角速度を用いて、電動補助自転車10が、車体を直立状態から左右方向に所定角度傾斜させた傾斜状態で急カーブを走行しているか否かを判断する(S13)。言い換えれば、急カーブ走行検出部6は、電動補助自転車10が、急なカーブを旋回しており、且つ、旋回中に車体が直立状態から左右方向に所定角度傾斜していることを検出する。S13の判断には、車体運動センサ63から得られる(ヨー角又はヨー角速度)、(ロール角又はロール角速度)、及び、(ピッチ角又はピッチ角速度)のうち少なくとも2つが用いられる。
【0060】
急カーブ走行検出部6は、例えば、ヨー、ロール、及びピッチのうちの2つの角度又は角速度を用いて、S13の判断を実行することができる。すなわち、ヨーとロール、ロールとピッチ、又は、ヨーとピッチのいずれかの組み合わせについて角度又は角速度をS13の判断に用いることができる。各組み合わせにおける2つの値は、角度と角度、角速度と角速度、又は、角度と角速度のいずれが用いられてもよい。
【0061】
S13の判断の結果、車体を左右方向に所定角度以上傾斜して急カーブを走行していると判断された場合(S14でyes)、モータ制御部5は、踏力Tに応じた補助力であって、急カーブ走行用に調整された補助力を発生させるよう、モータ3を制御する。車体を左右方向に所定角度以上傾斜して急カーブを走行してないと判断された場合(S14でno)、モータ制御部5は、踏力Tに応じた補助力であって、急カーブ走行用に調整されていない通常の補助力を発生させるよう、モータ3を制御する。
【0062】
S13では、急カーブ走行検出部6は、アシストフィーリング向上のための補助力の調整が活かせる程度に急なカーブを走行しているか否かを判断することができる。モータ制御部5は、急カーブ走行検出部6が急カーブ走行を検出した場合に、モータ3の補助力を、急カーブ用に調整することができる。そのため、補助力を急カーブ用に調整することよって、カーブにおける乗員のアシストフィーリングを向上することができる。
【0063】
<急カーブ走行検出処理の例>
図5は、
図4に示すS12及びS13の処理の一例を示すフローチャートである。
図5に示す例では、S12において、モータ制御装置4は、車体運動センサ63から、ヨー角速度及びピッチ角速度を取得する。急カーブ走行検出部6は、ヨー角速度の絶対値が閾値Th1(第1閾値)以上であり(S131でyes)、且つ、ピッチ角速度が閾値Th2(第2閾値)以上(S132でyes)である場合に、電動補助自転車10が、車体を左右方向に所定角度以上傾斜して急カーブを走行していると判断する(S133)。ヨー角速度の絶対値が閾値Th1より小さい場合(S131でno)又は、ピッチ角速度が閾値Th2より小さい場合(S132でno)は、電動補助自転車10が、車体を左右方向に所定角度以上傾斜して急カーブを走行していないと判断される(S134、S135)。
【0064】
図5の例では、S13の判断に、ヨー角速度と、ピッチ角速度が用いられる。このように、ヨーとピッチの組み合わせを用いる場合、ヨー角速度(又は角度)によって、カーブを走行しているか否かを判断でき、ピッチ角速度(又は角度)によって、車体を傾斜させているかが判断できる。発明者は、電動補助自転車が、車体を直立状態からロール方向にある程度傾けてカーブを走行する際には、ピッチ角が特徴的に変化することを見出した。そのため、ピッチ角速度又はピッチ角度を用いることで、電動補助自転車が車体を左右方向に所定角度以上傾けながら急カーブを走行していることを効率よく且つ正確に検出することができる。
【0065】
ヨーとピッチを判断に用いる場合は、カーブ走行をヨー角又はヨー角速度で判断し、車体を左右方向に所定角度以上傾けた状態で急カーブを走行していることの判断はピッチ角又はピッチ角速度で判断することができる。また、ヨーとロールを判断に用いる場合は、カーブ走行をヨー角又はヨー角速度で判断し、車体を左右方向に所定角度以上傾けた状態で急カーブを走行していることの判断はロール角又はロール角速度で判断することができる。ピッチとロールを判断に用いる場合は、ロール角又はロール角速度の変化に基づいてカーブ走行を判断し、ピッチ角又はピッチ角速度で、車体を傾けた状態で急カーブを走行していることを判断することができる。
【0066】
図6は、電動補助自転車が直進する期間と、車体を左右方向に所定角度以上傾けて急カーブを走行する期間とを含む期間におけるヨー角速度、ロール角速度、及びピッチ角速度の時間変化の一例を示す図である。
図6のグラフにおいて、急カーブ走行の期間では、ヨー角速度の旋回する方向における絶対値が大きくなる。ロール角速度は、旋回する方向に振れてから0に戻り、逆方向に振れる動きをしている。ピッチ角速度は、車体の前部が上方に向く方向に大きくなっている。
【0067】
ピッチ角速度は、右旋回及び左旋回のいずれも場合も、急カーブ走行中には、車体の前部が上方に向く方向に大きくなる傾向がある。この傾向に基づいて、例えば、ヨー角速度(又はヨー角)が第1閾値以上であり、ピッチ角速度(又はピッチ角)が第2閾値以上である場合に、電動補助自転車が、車体を左右方向に所定角度以上傾けて急カーブを走行していると判断することができる。このように、ヨー及びピッチの組み合わせを用いて判断することで、モータ3の補助力の調整が活きやすい状態でのカーブ走行を検出することができる。
【0068】
ロール角速度は、急カーブ走行中に、旋回する方向に振れてから逆方向に振れる動きをしている。この傾向に基づいて、例えば、ロール角速度がこの動きをする期間において、ピッチ角速度が閾値以上となる場合に、車体を左右方向に所定角度以上傾けての急カーブ走行を検出することができる。また、ヨー角速度(又はヨー角)が第1閾値であり、且つ、ロール角速度(又はロール角)が第3閾値以上である場合に、車体を左右方向に所定角度以上傾けての急カーブ走行を検出することができる。
【0069】
図7は、ヨー角速度、ピッチ角速度、及び、急カーブ走行検出部6による急カーブの検出結果の時間変化の一例を示すグラフである。急カーブ検出のグラフでは、信号がハイレベルの時に車体を左右方向に所定角度以上傾けた傾斜状態での急カーブ走行が検出されていることを示している。
図7に示す例では、ヨー角速度の絶対値が閾値Th1以上であり、且つ、ピッチ角速度が閾値Th2以上である場合に、傾斜状態での急カーブ走行が検出されている。
【0070】
図8は、電動補助自転車10が走行したルートの軌跡をプロットした図である。
図8において、急カーブ走行検出部6により、車体を左右方向に所定角度以上傾けた傾斜状態での急カーブ走行が検出された位置を黒丸、検出されなかった位置を白丸でプロットしている。このように、急カーブ走行検出部6により、電動補助自転車10が傾斜状態での急カーブを走行していることが検出される。
図8に示すように、走行軌跡の曲率半径が比較的小さい箇所で、急カーブ走行検出部6により、急カーブ走行が検出される。このように、傾斜状態での急カーブが検出された場合に、例えば、次に示すような急カーブ用のモータ3の補助力の制御が実行される。
【0071】
<急カーブ用の補助力制御処理の例>
モータ制御部5は、急カーブ走行検出部6の検出結果に応じてモータ3の補助力を制御する。モータ制御部5は、急カーブ走行検出部6で、電動補助自転車10が車体を左右方向に所定角度以上傾けた傾斜状態で急カーブを走行していることが検出された場合に、踏力に応じたモータ3の補助力を急カーブ用に調整することができる。例えば、モータ制御部5は、急カーブ走行検出部6で傾斜状態での急カーブ走行が検出された場合に、急カーブ走行が検出されていない場合とは、異なる補助力の制御をすることができる。
【0072】
一例として、モータ制御部5は、傾斜状態での急カーブ走行が検出された場合に、モータ3の補助力を決めるためのアシスト比、アシスト応答性、アシストの大きさ、アシスト出力波形、走行モード(アシストモード)の少なくとも1つを、急カーブ用に変更することができる。
【0073】
アシスト比は、踏力に対するモータ3の補助力の比率である。アシスト応答性は、踏力の変化に対するモータ3の補助力の変化の応答性(追随性)である。モータ制御部5は、例えば、補助力を変化させる速さを変更することで、アシスト応答性を変更することができる。
【0074】
アシストの大きさは、例えば、モータ3が出力する最大補助力としてもよい。アシスト出力波形は、モータ3の出力する補助力の波形である。例えば、アシスト比及びアシスト応答性を変更することで、アシスト出力波形を変更することができる。
【0075】
走行モードは、予め決められた、踏力に応じた補助力の決定方法を設定して補助力を制御するアシスト制御のモードである。各走行モードでは、例えば、踏力の他、車速等の条件に応じた補助力の決め方が定義されている。走行モードを切り替えることで、踏力その他の条件に応じた補助力の決め方を変更できる。モータ制御部5は、例えば、急カーブ走行検出部6により急カーブ走行が検出された場合に、走行モードを、急カーブ走行用のモードに切り替えてもよい。
【0076】
このように、モータ制御部5は、急カーブ走行が検出された場合に、踏力に対するモータ3の補助力の決定方法を、急カーブ用に変更することができる。この場合、踏力に加えて、車速、又は、クランク回転等その他の要素を含む条件に応じた補助力の決定方法が、急カーブ用に変更されてもよい。
【0077】
一例として、モータ制御部5は、急カーブ走行検出部6により、傾斜状態での急カーブ走行が検出された時は、検出されていない時に比べて、踏力に応じたモータ3の補助力が小さくなるように、モータ3を制御することができる。例えば、電動補助自転車10が車体を左右方向に所定角度以上傾けて急なカーブを走行している場合、乗員がアシストを強く感じる場合があることが発明者によって見出されている。乗員は、カーブでアシストを強く感じると、カーブの走行ラインが乗員の狙いから若干ずれるように感じることがある。このような場合に、傾斜状態での急カーブ走行時に、直進時よりも踏力に応じた補助力を小さくするようモータ3を制御することで、乗員のアシストフィーリングを向上させることができる。
【0078】
他の例として、モータ制御部5は、急カーブ走行検出部6により、車体を左右方向に所定角度以上傾けた急カーブ走行が検出された場合に、検出されていない時に比べて、踏力に応じたモータ3の補助力が大きくなるように、モータ3を制御してもよい。例えば、踏力に応じて走行モードが自動で切り替わる機能を使用中に、乗員が踏力を発生させずに電動補助自転車が惰性でカーブ走行すると、踏力に応じた補助力が低い走行モードに切り替わり、補助力が弱くなってしまう場合がある。電動補助自転車が、車体を左右方向に所定角度以上傾けて急カーブを走行する場合は、踏力が発生しにくい傾向がある。このような場合に、車体を傾けた急カーブ走行が検出された後に、直進時よりも、踏力に応じた補助力を大きくするようモータ3を制御することで、カーブ中又はカーブを抜けた後の、踏力に応じた補助力を確保できる。その結果、乗員のアシストフィーリングを向上させることができる。
【0079】
<車速を考慮した急カーブ検出処理の例>
急カーブ走行検出部6は、車速センサ61で検出される電動補助自転車10の進行方向の車速を用いて、急カーブ走行の判断を行ってもよい。例えば、急カーブ走行検出部6は、ヨー、ロール及びピッチの角度又は角速度を用いて、車体を左右方向に所定角度以上傾けての急カーブ走行を判断する際に用いる閾値を、車速に応じて変えてもよい。例えば、急カーブ走行検出部6は、ヨー角又はヨー角速度が第1閾値以上であり、且つピッチ角又はピッチ角速度が第2閾値以上である場合に、車体を左右方向に所定角度以上傾斜させた急カーブの走行を検出する。この場合、第1閾値及び前記第2閾値の少なくとも1つは、電動補助自転車の車速によって変化する値であってもよい。また、ロール角又はロール角速度と第3閾値との比較に基づいて、急カーブ走行を判断する場合に、第3閾値を、車速によって変化する値としてもよい。カーブ半径が同じでも車速が異なると、カーブ走行時の車体の左右方向の傾斜角は変化する。そのため、車速に応じて閾値を変えることで、車速による傾斜度合いの違いを考慮して、急カーブ走行を検出することができる。
【0080】
例えば、急カーブ走行検出部6が、ヨー、ロール及びピッチのうち少なくとも1つの角度又は加速度との比較に用いる閾値の値は、車速が大きいほど、大きくなるものであってもよい。すなわち、車速が大きい程、車体を左右方向に所定角度以上傾けた急カーブ走行と判断するための車体の傾斜度合いを大きくすることができる。
【0081】
<急カーブ走行の開始及び終了を検出する場合の例>
急カーブ走行検出部6は、電動補助自転車10の車体を左右方向に所定角度以上傾けた傾斜状態での急カーブ走行の開始と終了を検出してもよい。モータ制御部5は、検出された急カーブ走行の開始及び終了のすくなくとも一方に基づいて、急カーブ走行が検出された場合の急カーブ用のモータ3の補助力の制御を行う期間を決定してもよい。これにより、モータ制御部5は、電動補助自転車10の車体を左右方向に所定角度以上傾けた急カーブの走行の開始及び終了の少なくとも1つに基づく期間において、踏力に応じた補助力の制御を、隣接する他の期間の制御と異ならせることができる。
【0082】
モータ制御部5は、例えば、傾斜状態での急カーブの走行の検出の開始から終了までの期間に、急カーブ用の補助力の制御を行ってもよい。この場合、検出の開始から終了までの期間の踏力に応じた補助力の制御を、隣接する他の期間の制御と異ならせることができる。
【0083】
モータ制御部5は、検出の終了後も、急カーブ用の補助力の制御を所定期間継続してもよい。この場合、急カーブの終了が検出された後の所定期間において、踏力に応じた補助力の制御を異ならせることができる。モータ制御部5は、例えば、急カーブの終了が検出された時点から所定時間が経過するまでの期間において、踏力に応じた補助力の制御を、隣接する他の期間と異ならせることができる。この場合、所定時間は、予め決められた一定の時間であってもよいし、車速等の走行状態を示す値によって決められてもよい。
【0084】
一例として、モータ制御部5は、急カーブ走行検出部6が急カーブの終了を検出してから一定時間が経過するまでの期間において、踏力に応じた補助力が、その前の期間より大きくなるように、モータ3を制御してもよい。これにより、急カーブを抜けた後の、踏力に応じた補助力を高めることができる。例えば、カーブにおいて、乗員が踏力を発生させないために踏力に応じた補助力が低い走行モードに切り替わる場合がある。この場合に、急カーブ走行終了が検出後の一定期間に踏力に応じた補助力が大きくなるようモータ3を制御することで、カーブを抜けた後の、踏力に応じた補助力を確保できる。その結果、乗員のアシストフィーリングを向上させることができる。
【0085】
<その他の変形例>
図1に示す例では、クランク軸41が駆動ユニット40を貫通しているが、クランク軸41が駆動ユニット40を貫通しない構成であってもよい。例えば、駆動ユニット40は、後輪22の車軸29の周り、又は前輪21の車軸27の周りに配置されてもよい。
【0086】
上記例では、車速センサ61は、電動補助自転車の走行に伴って回転する回転体の回転を検出する形態である。車速センサ61の形態がこれに限られない。例えば、電動補助自転車10の進行方向(車体フレーム11の前後方向)の加速度を検出する加速度センサを車速センサ61として用いてもよい。
【0087】
以上、本発明の実施形態を説明したが、上述した実施形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、本発明は上述した実施形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施形態を適宜変形して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0088】
3:モータ、4:モータ制御装置、5:モータ制御部、6:急カーブ走行検出部、61:車速センサ、62:トルクセンサ、63:車体運動センサ