(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022117240
(43)【公開日】2022-08-10
(54)【発明の名称】かご形誘導回転電機用ロータの製造方法およびかご形誘導回転電機用ロータ
(51)【国際特許分類】
H02K 15/02 20060101AFI20220803BHJP
H02K 17/16 20060101ALI20220803BHJP
【FI】
H02K15/02 J
H02K17/16 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021013828
(22)【出願日】2021-01-29
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】100104433
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 博一
(74)【代理人】
【識別番号】100202728
【弁理士】
【氏名又は名称】三森 智裕
(72)【発明者】
【氏名】岩井 宏起
(72)【発明者】
【氏名】松浦 成哉
(72)【発明者】
【氏名】津田 哲平
【テーマコード(参考)】
5H013
5H615
【Fターム(参考)】
5H013LL01
5H013MM02
5H615AA01
5H615BB06
5H615BB14
5H615PP03
5H615SS12
5H615TT14
5H615TT15
(57)【要約】
【課題】ロータコアにおける磁束の漏れを防止しながら、鋳造時に液状の導体がスロットから漏れるのを防止することが可能なかご形誘導回転電機用ロータの製造方法およびかご形誘導回転電機用ロータを提供する。
【解決手段】このロータ100(かご形誘導回転電機用ロータ)の製造方法は、先端開口部13aが設けられるようにロータスロット13(スロット)を形成するスロット形成工程と、複数のロータスロット13の各々の先端開口部13aに蓋部16を配置する配置工程とを備える。また、ロータ100の製造方法は、先端開口部13aに蓋部16が配置された状態で、鋳造によりロータスロット13に導体14を形成する鋳造工程を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に沿って延びる複数のスロットが設けられているとともに複数のコア用電磁鋼板が前記軸方向に積層されることにより形成され、前記スロットの径方向一方端に先端開口部が設けられるオープンスロット型のロータコアを備えるかご形誘導回転電機用ロータの製造方法であって、
前記先端開口部が設けられるように前記スロットを形成するスロット形成工程と、
前記複数のスロットの各々の前記先端開口部に蓋部を配置する配置工程と、
前記配置工程の後、前記先端開口部に前記蓋部が配置された状態で、誘導電流が流れる導体を鋳造により前記スロットに形成する鋳造工程と、を備える、かご形誘導回転電機用ロータの製造方法。
【請求項2】
前記スロット形成工程は、前記導体が配置される前記スロット内の領域と前記先端開口部との間に設けられるスロット先端部の、前記ロータコアの周方向における幅が、前記先端開口部に向かって狭くなるように前記スロットを形成する工程である、請求項1に記載のかご形誘導回転電機用ロータの製造方法。
【請求項3】
前記鋳造工程の後に前記蓋部を除去する工程を備えず、
前記配置工程は、非磁性体で、かつ、前記導体よりも高抵抗の部材により構成される前記蓋部を、前記ロータコアの外周表面よりも径方向外側に突出しないように前記先端開口部に配置する工程である、請求項1または2に記載のかご形誘導回転電機用ロータの製造方法。
【請求項4】
前記スロット形成工程と前記配置工程とは、同時に行われる工程であるとともに、前記ロータコアを構成する前記コア用電磁鋼板から少なくとも部分的に切断された前記蓋部を構成する蓋部用電磁鋼板の切断面を、前記コア用電磁鋼板の切断面に当接させることによって接続電磁鋼板を形成した後に、複数の前記接続電磁鋼板を積層することにより、前記先端開口部に前記蓋部が配置された前記スロットを形成する工程であり、
前記スロット形成工程および前記配置工程の後に、前記蓋部を前記軸方向に押圧することにより、前記ロータコアから前記蓋部を切り離すとともに、前記先端開口部から前記蓋部を抜き出す蓋部除去工程をさらに備える、請求項1または2に記載のかご形誘導回転電機用ロータの製造方法。
【請求項5】
軸方向に沿って延びる複数のスロットが設けられているとともに複数のコア用電磁鋼板が前記軸方向に積層されることにより形成され、前記スロットの径方向一方端に先端開口部が設けられるオープンスロット型のロータコアと、
前記複数のスロットの各々に設けられ、鋳造により形成された誘導電流が流れる複数の導体と、
前記複数のスロットの各々において、前記先端開口部に配置される蓋部と、を備える、かご形誘導回転電機用ロータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、かご形誘導回転電機用ロータの製造方法およびかご形誘導回転電機用ロータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スロットに配置される導体が鋳造により形成されるかご形誘導回転電機用ロータの製造方法およびかご形誘導回転電機用ロータが知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
上記特許文献1には、複数のスロットを有するロータコアを備えるかご型の誘導回転電機用ロータが開示されている。複数のスロットの各々は、径方向端部に開口部が設けられていないクローズドスロットである。複数のスロットの各々には、導体が充填(配置)されている。導体は、複数のスロットの各々に液状の導体(溶湯)を鋳込むこと(鋳造)により形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載のかご型の誘導回転電機用ロータのスロットは、径方向端部に開口部が設けられていないクローズドスロットであるため、ロータコアの外周縁が、ロータコアの全周に亘って繋がっている。このため、ロータコアに流れる磁束が上記外周縁を通って周方向に漏れる場合がある。この場合、誘導回転電機のトルクが減少する。また、上記特許文献1に記載のような従来の誘導回転電機用ロータにおいて、スロットを径方向に開口部が設けられているオープンスロットにした場合は、ロータコアの外周縁はスロットの開口部によって分断されるため、磁束の漏れを防止することができる一方、鋳造時にスロットに充填される液状の導体(溶湯)がスロットの開口部から漏れる場合がある。したがって、ロータコアにおける磁束の漏れを防止しながら、鋳造時に液状の導体がスロットから漏れるのを防止することが可能なかご形誘導回転電機用ロータの製造方法およびかご形誘導回転電機用ロータが望まれている。
【0006】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、ロータコアにおける磁束の漏れを防止しながら、鋳造時に液状の導体がスロットから漏れるのを防止することが可能なかご形誘導回転電機用ロータの製造方法およびかご形誘導回転電機用ロータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、この発明の第1の局面におけるかご形誘導回転電機用ロータの製造方法は、軸方向に沿って延びる複数のスロットが設けられているとともに複数のコア用電磁鋼板が軸方向に積層されることにより形成され、スロットの径方向一方端に先端開口部が設けられるオープンスロット型のロータコアを備えるかご形誘導回転電機用ロータの製造方法であって、先端開口部が設けられるようにスロットを形成するスロット形成工程と、複数のスロットの各々の先端開口部に蓋部を配置する配置工程と、配置工程の後、先端開口部に蓋部が配置された状態で、誘導電流が流れる導体を鋳造によりスロットに形成する鋳造工程と、を備える。なお、オープンスロット型とは、先端開口部によってコア用電磁鋼板(ロータコア)の外周縁(または内周縁)が繋がっておらず分断されている状態を意味する。
【0008】
この発明の第1の局面によるステータの製造方法では、上記のように、ロータコアがスロットの径方向一方端に先端開口部が設けられるオープンスロット型であるとともに、先端開口部に蓋部が配置された状態で鋳造によりスロットに導体が形成される。これにより、蓋部が先端開口部に設けられた状態で鋳造が行われることにより、鋳造時に用いられる液状の導体(溶湯)が先端開口部を介してスロットから漏れるのを防止することができる。また、ロータコアがスロットの径方向一方端に先端開口部が設けられるオープンスロット型であることにより、ロータコアの外周縁がスロットの先端開口部によって分断されるため、スロットの径方向一方端を介してロータコアの磁束が漏れるのを防止することができる。これにより、ロータの高トルク化を実現することができる。したがって、ロータコアにおける磁束の漏れを防止しながら、鋳造時に液状の導体がスロットから漏れるのを防止することができる。
【0009】
この発明の第2の局面におけるかご形誘導回転電機用ロータは、軸方向に沿って延びる複数のスロットが設けられているとともに複数のコア用電磁鋼板が軸方向に積層されることにより形成され、スロットの径方向一方端に先端開口部が設けられるオープンスロット型のロータコアと、複数のスロットの各々に設けられ、鋳造により形成された誘導電流が流れる複数の導体と、複数のスロットの各々において、先端開口部に配置される蓋部と、を備える。
【0010】
この発明の第2の局面によるかご形誘導回転電機用ロータでは、上記のように、ロータコアがスロットの径方向一方端に先端開口部が設けられるオープンスロット型であるとともに、先端開口部に蓋部が配置されている。これにより、先端開口部に設けられた蓋部により鋳造時に液状の導体(溶湯)が先端開口部を介してスロットから漏れるのを防止することができる。また、ロータコアがスロットの径方向一方端に先端開口部が設けられるオープンスロット型であることにより、ロータコアの外周縁がスロットの先端開口部によって分断されるため、スロットの径方向一方端を介してロータコアの磁束が漏れるのを防止することができる。これにより、ロータの高トルク化を実現することができる。したがって、ロータコアにおける磁束の漏れを防止しながら、鋳造時に液状の導体がスロットから漏れるのを防止することが可能なかご形誘導回転電機用ロータを提供することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ロータコアにおける磁束の漏れを防止しながら、鋳造時に液状の導体がスロットから漏れるのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】第1実施形態による回転電機の構成を示す平面図である。
【
図2】第1実施形態によるロータの分解斜視図である。
【
図4】第1実施形態によるロータの製造方法を示すフロー図である。
【
図5】第1実施形態によるロータの電磁鋼板の形成工程を説明するための平面図である。
【
図6】第2実施形態によるロータスロットの拡大平面図である。
【
図7】第2実施形態によるロータの製造方法を示すフロー図である。
【
図8】第2実施形態によるロータの電磁鋼板の形成工程を説明するための平面図である。(
図8(a)は、導体が配置される領域に対応する孔部が形成された状態を示す図である。
図8(b)は、蓋部を構成する電磁鋼板を示す拡大平面図である。
図8(c)は、ロータコアを構成する電磁鋼板の打ち抜きを説明するための図である。)
【
図9】第2実施形態による電磁鋼板を切断した後に摩擦力で再び接続させる様子を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0014】
[第1実施形態]
図1~
図5を参照して、第1実施形態によるロータ100の製造方法およびロータ100について説明する。なお、ロータ100は、特許請求の範囲の「かご形誘導回転電機用ロータ」の一例である。
【0015】
以下の説明では、「軸方向」とは、ロータコア10の回転軸線(符号O)(Z方向)に沿った方向(
図1参照)を意味する。また、「周方向」とは、ロータコア10の周方向(E方向)を意味する。また、「径方向」とは、ロータコア10の径方向(R方向)を意味する。
【0016】
図1に示すように、ロータ100は、ステータ110と共に、回転電機120に設けられている。ロータ100は、ステータ110の径方向内側(R1側)に配置されている。ロータ100の外周面とステータ110の内周面とは、径方向に対向するように配置されている。すなわち、ロータ100は、インナーロータ型の回転電機120の一部として構成されている。なお、回転電機120は、特許請求の範囲の「かご形誘導回転電機」の一例である。
【0017】
ステータ110は、ステータコア111を含む。ステータコア111は、Z方向に沿った中心軸線Oを中心軸とした円筒形状(環形状)を有する。ステータコア111は、複数の図示しない電磁鋼板(珪素鋼板)がZ方向に積層されることにより形成されており、磁束を通過可能に構成されている。
【0018】
ステータコア111には、複数のステータスロット112が設けられている。ステータスロット112は、環状のステータコア111の周方向において中心軸線Oを中心に等角度間隔で配列されている。また、ステータ110は、複数のステータスロット112に配置された巻線113を含む。巻線113は、外部の電源部に接続されており、電力(たとえば、3相交流の電力)が供給されるように構成されている。そして、巻線113は、電力が供給されることにより、磁界を発生させるように構成されている。ロータコア10は、巻線113に電力が供給されることにより回転する。
【0019】
[ロータの構成]
ロータ100は、ロータコア10を備える。ロータコア10は、Z方向に沿った中心軸線Oを中心軸とした円筒形状(環形状)を有する。ロータコア10は、複数の電磁鋼板11(
図5参照)がZ方向に積層されることにより形成されている。なお、電磁鋼板11は、特許請求の範囲の「コア用電磁鋼板」の一例である。
【0020】
また、ロータコア10には、図示しないシャフトが挿入されるシャフト挿入孔12が設けられている。上記シャフトは、ギア等の回転力伝達部材を介して、エンジンや車軸等に接続されている。たとえば、回転電機120は、モータ、ジェネレータ、または、モータ兼ジェネレータとして構成されており、車両に搭載されるように構成されている。
【0021】
ロータコア10には、軸方向(Z方向)に沿って延びる複数のロータスロット13が設けられている。ロータスロット13は、環状のロータコア10の周方向において中心軸線Oを中心に等角度間隔で配列されている。なお、ロータスロット13は、特許請求の範囲の「スロット」の一例である。
【0022】
ロータ100は、複数のロータスロット13の各々に設けられる複数の導体14を備える。導体14は、複数のロータスロット13の各々において鋳造により形成されている。また、導体14は、ステータコア111の巻線113に電力が供給されることにより、誘導電流が流れるように構成されている。
【0023】
図2に示すように、ロータ100は、複数の導体14の各々のZ1側の端部と接続される環状のエンドリング141を含む。また、ロータ100は、複数の導体14の各々のZ2側の端部と接続される環状のエンドリング142を含む。すなわち、エンドリング141とエンドリング142とは、複数の導体14を介して短絡されている。
【0024】
図3に示すように、ロータスロット13の径方向一方端(R2側の端部)には、先端開口部13aが設けられている。すなわち、ロータコア10は、オープンスロット型のロータコアである。オープンスロット型とは、先端開口部13aによって電磁鋼板11(ロータコア10)の外周縁が繋がっておらず分断されている状態を意味する。
【0025】
ロータ100は、複数のロータスロット13の各々において、先端開口部13aに配置される蓋部16を備える。また、蓋部16は、導体14が配置される領域13bと先端開口部13aとの間に設けられるスロット先端部13cに配置される。蓋部16は、先端開口部13aを塞ぐように設けられている。
【0026】
これにより、先端開口部13aに設けられた蓋部16により鋳造時に液状の導体14(溶湯)が先端開口部13aを介してロータスロット13から漏れるのを防止することができる。また、ロータコア10がロータスロット13の径方向一方端に先端開口部13aが設けられるオープンスロット型であることにより、ロータコア10の外周縁がロータスロット13の先端開口部13aによって分断されるため、ロータスロット13の径方向一方端を介してロータコア10の磁束が漏れるのを防止することができる。これにより、ロータ100の高トルク化を実現することができる。したがって、ロータコア10における磁束の漏れを防止しながら、鋳造時に液状の導体14がロータスロット13から漏れるのを防止することが可能なロータ100を提供することができる。
【0027】
また、蓋部16は、非磁性体により構成されている。また、蓋部16は、導体14よりも高抵抗の部材により構成されている。具体的には、蓋部16は、ステンレス(たとえばSUS304)や銅合金、アルミ合金等により構成されている。
【0028】
なお、軸方向から見て、蓋部16は、スロット先端部13cと略同一の形状を有している。
【0029】
また、スロット先端部13cには、テーパ部13dが設けられている。テーパ部13dは、周方向におけるスロット先端部13cの幅W1が先端開口部13aに向かって(R2側に向かって)徐々に狭くなるように形成されている。言い換えると、テーパ部13dにより周方向に挟まれる領域は、先端開口部13aに向かって先細るように形成されている。詳細には、テーパ部13dは、軸方向から見て、径方向に対して傾斜するように設けられている。
【0030】
また、スロット先端部13cには、テーパ部13dの先端開口部13a側(R2側)の端部13eに接続されるとともに周方向に沿って延びるように設けられる周方向延伸部13fが設けられている。
【0031】
また、スロット先端部13cには、周方向延伸部13fから先端開口部13aに向かって径方向に沿って延びる溝部13gが設けられている。溝部13gにおけるスロット先端部13cの幅W1は、テーパ部13dにおけるスロット先端部13cの幅W1の最小値よりも小さい。なお、テーパ部13dにおけるスロット先端部13cの幅W1の最小値とは、テーパ部13dの端部13eにおけるスロット先端部13cの幅W1である。また、溝部13gにおけるスロット先端部13cの幅W1は、径方向における位置によらず一定である。また、溝部13gの径方向における長さLは、溝部13gの幅W1よりも大きい。
【0032】
また、導体14が配置される領域13bは、軸方向から見て、径方向内側(R1側)に向かって先細るような形状を有している。具体的には、領域13bは、軸方向から見て、台形形状を有している。
【0033】
[ロータの製造方法]
図4および
図5を参照して、ロータ100の製造方法について説明する。
【0034】
まず、ステップS1において、先端開口部13aが設けられるようにロータスロット13を形成するスロット形成工程が行われる。
【0035】
スロット形成工程(S1)は、周方向におけるスロット先端部13cの幅W1が先端開口部13aに向かって狭くなるようにロータスロット13を形成する工程である。具体的には、スロット形成工程(S1)は、周方向におけるスロット先端部13cの幅W1(
図3参照)が先端開口部13aに向かって狭くなるように形成されるテーパ部13dがスロット先端部13cに設けられるようにロータスロット13を形成する工程である。
【0036】
これにより、後の鋳造工程(S3)においてロータスロット13に液状の導体14(溶湯)を充填する際に、幅W1が先端開口部13aに向かって狭くなるスロット先端部13cの部分(テーパ部13d、
図3参照)により、液状の導体14(溶湯)からの圧力を受けることができる。その結果、液状の導体14からの圧力によりロータコア10が膨張することに起因して、導体14がロータスロット13から漏れるのを防止することができる。また、液状の導体14からの圧力により蓋部16がロータスロット13から抜けるのを防止することができる。
【0037】
詳細には、スロット形成工程(S1)は、テーパ部13d(
図3参照)と、周方向延伸部13f(
図3参照)とが、スロット先端部13cに設けられるように、ロータスロット13を形成する工程である。これにより、テーパ部13dに加えて周方向延伸部13fによっても液状の導体14(溶湯)からの圧力を受けることが可能である。
【0038】
具体的には、スロット形成工程(S1)は、電磁鋼板11を形成する工程(ステップS11)を含む。
図5に示すように、電磁鋼板11を形成する工程(S11)は、原材料である鋼板130から複数の電磁鋼板11を打ち抜く工程である。複数の電磁鋼板11の各々には、軸方向視においてロータスロット13と同一の形状を有する複数の孔部11aが設けられている。また、複数の電磁鋼板11の各々には、シャフト挿入孔12を構成する孔部12aが形成されている。
【0039】
また、スロット形成工程(S1)は、ステップS11において形成された複数の電磁鋼板11を積層する工程(ステップS12)を含む。複数の電磁鋼板11が積層されることにより、複数の孔部11aが軸方向に重ねて配置される。これにより、ロータスロット13が形成される。
【0040】
次に、ステップS2において、複数のロータスロット13の各々の先端開口部13a(スロット先端部13c)に蓋部16を配置する配置工程が行われる。これにより、先端開口部13aが蓋部16によって塞がれる。
【0041】
配置工程(S2)は、非磁性体で、かつ、導体14よりも高抵抗の部材により構成される蓋部16を、ロータコア10の外周表面10a(
図3参照)よりも径方向外側に突出しないように先端開口部13a(スロット先端部13c)に配置する工程である。言い換えると、配置工程(S2)は、蓋部16を、外周表面10aよりも径方向内側に配置する工程である。すなわち、中心軸線O(
図1参照)から蓋部16の最外径位置までの距離(符号付さず)は、中心軸線Oから外周表面10aまでの距離(符号付さず)よりも小さい(または等しい)。
【0042】
これにより、蓋部16が非磁性体により構成されていることによって、磁束が蓋部16を介して漏れるのを防止することができる。また、渦電流損は抵抗の大きさに反比例するので、蓋部16が高抵抗材により構成されていることによって、ロータ100における渦電流損を小さくすることができる。その結果、回転電機120の動作効率を向上させることができる。
【0043】
また、第1実施形態におけるロータ100の製造方法では、蓋部16を除去する工程が備えられていない。すなわち、蓋部16を除去する工程を行わずに、後述する鋳造工程(S3)の後の工程(たとえばステータコア111とロータコア10との組み付け工程)が行われる。
【0044】
これにより、蓋部16が抜き出されずに先端開口部13a(スロット先端部13c)に残されることによって、ロータコア10の回転による遠心力によって、導体14が先端開口部13aを介してロータスロット13から抜けるのを防止することができる。また、蓋部16が先端開口部13a(スロット先端部13c)に残された状態で後の鋳造工程を行うことができる。
【0045】
具体的には、配置工程(S2)は、ステンレス(たとえばSUS304)や銅合金、またはアルミ合金により構成される蓋部16を先端開口部13a(スロット先端部13c)に配置する工程である。また、配置工程(S2)は、蓋部16をロータスロット13に軸方向に挿入する工程である。なお、蓋部16は、ロータスロット13に圧入されるように挿入されてもよい。
【0046】
そして、ステップS3において、配置工程(S2)の後、先端開口部13a(スロット先端部13c)に蓋部16が配置された状態で、鋳造によりロータスロット13に導体14を形成する鋳造工程が行われる。
【0047】
これにより、蓋部16が先端開口部13aに設けられた状態で鋳造が行われることにより、鋳造時に用いられる液状の導体14(溶湯)が先端開口部13aを介してロータスロット13から漏れるのを防止することができる。また、ロータコア10がロータスロット13の径方向一方端に先端開口部13aが設けられるオープンスロット型であることにより、ロータコア10の外周縁がロータスロット13の先端開口部13aによって分断されるため、ロータスロット13の径方向一方端を介してロータコア10の磁束が漏れるのを防止することができる。これにより、ロータ100の高トルク化を実現することができる。したがって、ロータコア10における磁束の漏れを防止しながら、鋳造時に液状の導体14がロータスロット13から漏れるのを防止することができる。
【0048】
また、鋳造時ではクローズドスロット型の状態で、鋳造後に切削加工によりオープンスロット型にする場合と異なり、切削加工を行う必要がないので、切削時に生じる異物がロータ100に付着するのを防止することができる。また、オープンスロット型のロータコア10において蓋部16を設けずに鋳造により導体14を形成する場合と異なり、導体14がロータスロット13から漏れることがないので、ロータスロット13から漏れてロータコア10の外表面に付着した導体14を切削により除去する工程が不要となる。その結果、切削時に生じる異物がロータ100に付着するのを防止することができる。
【0049】
また、鋳造工程(S3)は、複数の導体14と、エンドリング141(
図2参照)およびエンドリング142(
図2参照)とを、鋳造により一体的に形成する工程である。
【0050】
[第2実施形態]
次に、
図6~
図9を参照して、第2実施形態によるロータ200の製造方法およびロータ200について説明する。第2実施形態のロータ200の製造方法では、先端開口部13a(スロット先端部13c)に配置された蓋部16が抜き出されずに残される上記第1実施形態とは異なり、蓋部26は抜き出されて先端開口部23a(スロット先端部23c)に残されない。なお、上記第1実施形態と同様の構成は、第1実施形態と同じ符号を付して図示するとともに説明を省略する。なお、ロータ200は、特許請求の範囲の「かご形誘導回転電機用ロータ」の一例である。
【0051】
[ロータの構成]
図6に示すように、ロータ200は、ロータコア20を備える。ロータコア20は、複数の電磁鋼板21(
図8(c)参照)がZ方向に積層されることにより形成されている。すなわち、電磁鋼板21は、ロータコア20を構成する。なお、電磁鋼板21は、特許請求の範囲の「コア用電磁鋼板」の一例である。
【0052】
ロータコア20には、軸方向(Z方向)に沿って延びる複数のロータスロット23が設けられている。なお、ロータスロット23は、特許請求の範囲の「スロット」の一例である。
【0053】
ロータ200は、複数のロータスロット23の各々に設けられる複数の導体24を備える。導体24は、複数のロータスロット23の各々において鋳造により形成されている。
【0054】
ロータスロット23の径方向一方端(R2側の端部)には、先端開口部23aが設けられている。すなわち、ロータコア20は、オープンスロット型のロータコアである。
【0055】
複数のロータスロット23の各々には、導体24が配置される領域23b、および、領域23bと先端開口部23aとの間に設けられるスロット先端部23cが設けられている。蓋部26(
図6の破線参照)が先端開口部23aから抜き出されることにより、スロット先端部23cには空隙が形成されている。
【0056】
また、スロット先端部23cには、テーパ部23dが設けられている。テーパ部23dは、周方向におけるスロット先端部23cの幅W2が先端開口部23aに向かって(R2側に向かって)狭くなるように形成されている。言い換えると、テーパ部23dは、先端開口部23aに向かって先細るように形成されている。詳細には、テーパ部23dは、軸方向から見て、径方向に対して傾斜するように設けられている。
【0057】
テーパ部23dは、導体24の先端開口部23a側(R2側)の端部23eよりも先端開口部23aとは反対側(R1側)の部分23fから先端開口部23aまで延びるように設けられている。これにより、導体24のうちテーパ部23dと接触している部分24aは、R2側に先細るテーパ形状を有する。また、導体24のうち部分24aよりもR1側の部分24bは、R1側に先細るテーパ形状を有する。軸方向から見て、部分24aおよび部分24bの各々は、台形形状を有する。
【0058】
[ロータの製造方法]
図7~
図9を参照して、ロータ200の製造方法について説明する。
【0059】
まず、ステップS21において、先端開口部23aが設けられるようにロータスロット23を形成するスロット形成工程が行われる。
【0060】
具体的には、スロット形成工程(S21)は、電磁鋼板21から少なくとも部分的に切断された後述する電磁鋼板130bの切断面130d(
図9参照)を、電磁鋼板21の切断面21aに当接させることによって後述する電磁鋼板131を形成した後に、複数の電磁鋼板131を積層することにより、先端開口部23aに蓋部26(
図6参照)が配置されたロータスロット23を形成する工程である。電磁鋼板130bと電磁鋼板21とは、摩擦力により互いに接続(締結)される。
【0061】
これにより、電磁鋼板131を積層させるという動作を行うだけで蓋部26が自動的に先端開口部23a(スロット先端部23c)に形成されるので、蓋部26の配置工程を電磁鋼板131の積層の後に別個に行う場合に比べて、ロータ200の製造における工程数を低減することができる。その結果、ロータ200の製造プロセスを簡略化することができる。
【0062】
具体的には、まず、
図8(a)に示すように、原材料である鋼板130に打ち抜き加工を施すことによって、導体24が配置される領域23b(
図6参照)に対応する複数の孔部130aが鋼板130に形成される。この際、シャフト挿入孔12を構成する孔部12aも打ち抜き加工により鋼板130に形成される。
【0063】
次に、
図8(b)に示すように、鋼板130においてスロット先端部23c(
図6参照)に対応する部分に設けられる電磁鋼板130bに対して、半抜き加工が施される。電磁鋼板130bは、蓋部26を構成する電磁鋼板である。なお、電磁鋼板130bは、特許請求の範囲の「蓋部用電磁鋼板」の一例である。
【0064】
具体的には、
図9(a)に示すように、電磁鋼板130bは、図示しない打ち抜き装置により電磁鋼板21(鋼板130)から少なくとも部分的に切断される。
図9(a)では、電磁鋼板130bが電磁鋼板21から完全に切り離されている状態が図示されているが、これに限られない。その後、
図9(b)に示すように、電磁鋼板130bは、元の位置に戻される。これにより、電磁鋼板21の切断面21aと電磁鋼板130bの切断面130dとの摩擦力により、電磁鋼板130bが電磁鋼板21に支持される。その結果、電磁鋼板21と電磁鋼板130bとが接続された電磁鋼板131が形成される。なお、この時点では、電磁鋼板131(電磁鋼板21)は、鋼板130から切り離されておらず鋼板130と一体的に設けられている。また、電磁鋼板131は、特許請求の範囲の「接続電磁鋼板」の一例である。
【0065】
次に、
図8(c)に示すように、複数の電磁鋼板130bの各々の外周縁130c(
図8(b)参照)に沿うように円形状の切断部132が鋼板130に形成されることにより、円環状の電磁鋼板131が鋼板130から切り離される。
【0066】
次に、
図7に示すように、ステップ32では、ステップS31において形成された(鋼板130から切り離された)複数の電磁鋼板131が積層される。これにより、孔部130aが積み重ねられることによって、導体24が配置される領域23bが形成される。これと同時に、複数の電磁鋼板130bが積層されることにより、先端開口部23a(スロット先端部23c)に配置される蓋部26が形成される。すなわち、電磁鋼板131を積層する工程と同時に、蓋部26の配置工程が行われる。言い換えると、スロット形成工程と配置工程とは、同時に行われる工程である。
【0067】
次に、ステップS22において、スロット先端部23cに蓋部26が配置された状態で、鋳造によりロータスロット23に導体24を形成する鋳造工程が行われる。
【0068】
その後、ステップS23では、スロット形成工程(S21)(蓋部26の配置工程)の後に、スロット先端部23cから蓋部26を除去する蓋部除去工程が行われる。具体的には、蓋部除去工程(S23)では、蓋部26を軸方向に押圧することにより、ロータコア20から蓋部26が切り離されるとともに、先端開口部23a(スロット先端部23c)から蓋部26が抜き出される。
【0069】
これにより、電磁鋼板21の切断面21aと電磁鋼板130bの切断面130dとの摩擦力により電磁鋼板130b(蓋部26)がスロット先端部23cに支持されているので、切削加工を行わずに蓋部26を先端開口部23a(スロット先端部23c)から除去することができる。その結果、ロータ200に切削により生じる異物等が付着するのを防止しながら、蓋部26の除去を行うことができる。
【0070】
また、第2実施形態のその他の構成は、上記第1実施形態と同様である。
【0071】
[変形例]
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更(変形例)が含まれる。
【0072】
たとえば、上記第1および第2実施形態では、軸方向から見て、径方向に対して傾斜するテーパ部13d(23d)がスロット先端部13c(23c)に設けられる例を示したが、本発明はこれに限られない。径方向内側からの圧力を受けることが可能な形状であれば、スロット先端部は上記実施形態の形状に限られない。たとえば、スロット先端部に周方向に窪む凹部が設けられていてもよい。
【0073】
また、上記第1実施形態では蓋部16が取り除かれずに残され、上記第2実施形態では蓋部26が取り除かれる例を示したが、本発明はこれに限られない。上記第1実施形態のロータスロット13(スロット)の形状において蓋部が取り除かれ、上記第2実施形態のロータスロット23(スロット)の形状で蓋部が取り除かれずに残されてもよい。
【0074】
また、上記第2実施形態では、蓋部26を構成する電磁鋼板130b(蓋部用電磁鋼板)の半抜きを行った後に、電磁鋼板131(接続電磁鋼板)の打ち抜き(切り離し)を行う例を示したが、本発明はこれに限られない。電磁鋼板131の打ち抜きを行った後に、蓋部26を構成する電磁鋼板130bの半抜きを行ってもよい。
【0075】
また、上記第2実施形態では、複数の電磁鋼板130b(蓋部用電磁鋼板)が互いに分離されている例を示したが、本発明はこれに限られない。蓋部用電磁鋼板が、単一の円環状の電磁鋼板であってもよい。すなわち、複数のロータスロット23の各々に配置される電磁鋼板の部分が、ロータコア20の外周側の円環状の電磁鋼板により接続されていてもよい。
【0076】
また、上記第1および第2実施形態では、ロータ100(200)がインナーロータ型の回転電機120の一部である例を示したが、本発明はこれに限られない。ロータがアウターロータ型の回転電機の一部であってもよい。
【0077】
また、上記第1実施形態では、蓋部16が非磁性体でかつ高抵抗の部材により構成される例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、蓋部が非磁性体である一方で、導体14以下の抵抗を有する部材であってもよい。
【0078】
また、上記第2実施形態では、蓋部26を構成する電磁鋼板130b(蓋部用電磁鋼板)を、一旦完全に電磁鋼板21(コア用電磁鋼板)から切り離した後に摩擦力により電磁鋼板21に再び接続させる例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、電磁鋼板130bを、電磁鋼板21から完全には切り離さずに部分的に切り離した後に(すなわち部分的に接続を保った状態で)摩擦力により電磁鋼板21に接続させてもよい。
【0079】
上記した例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0080】
スロット形成工程(S1、S21)は、周方向におけるスロット先端部(13c、23c)の幅(W1、W2)が先端開口部(13a、23a)に向かって狭くなるように形成されるテーパ部(13d、23d)がスロット先端部(13c、23c)に設けられるようにスロット(13、23)を形成する工程である。
【0081】
スロット形成工程(S1)は、テーパ部(13d)と、テーパ部(13d)の先端開口部(13a)側の端部(13e)に接続されるとともに周方向に沿って延びるように設けられる周方向延伸部(13f)とが、スロット先端部(13c)に設けられるように、スロット(13)を形成する工程である。
【0082】
蓋部(16)は、ステンレスや銅合金、アルミ合金等により構成されている。
【符号の説明】
【0083】
10、20…ロータコア、10a…外周表面、11、21…電磁鋼板(コア用電磁鋼板)、13、23…ロータスロット(スロット)、13a、23a…先端開口部、13b、23b…領域(導体が配置される領域)、13c、23c…スロット先端部、14、24…導体、16、26…蓋部、21a…切断面(コア用電磁鋼板の切断面)、100、200…ロータ(かご形誘導回転電機用ロータ)120…回転電機(かご形誘導回転電機)、130b…電磁鋼板(蓋部用電磁鋼板)、130d…切断面(蓋部用電磁鋼板の切断面)、131…電磁鋼板(接続電磁鋼板)、W1、W2…幅